(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、燃料電池用触媒の製造方法、および、電極触媒層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20231004BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20231004BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20231004BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231004BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20231004BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20231004BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231004BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/86 M
H01M4/88 K
B01J37/08
B01J37/04
B01J27/24 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020084346
(22)【出願日】2020-05-13
(62)【分割の表示】P 2019200163の分割
【原出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-09-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月26日 第59回電池討論会のウェブサイトで公開された要旨集(http://www.knt-ec.net/2018/denchi59/youshi/The_59th_Battery_Symposium.pdf)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月29日 Catalysis Science & Technology, 2019,9, 611-619のウェブサイト(https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2019/cy/c9cy90014d)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月13日 電気化学会第86回大会のウェブサイトで公開された要旨集(https://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2019s/recommend/publication?eventCode=ecsj2019s)にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年5月14日 25th Topical Meeting of the International Society of Electrochemistryにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月2日 16th International Conference on Nanoscience & Nanotechnologiesにて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年8月23日 2019年電気化学秋季大会のウェブページで公開された要旨集(16th International Conference on Nanoscience & Nanotechnologieshttps://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2019f/recommend/publication?eventCode=ecsj2019f)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
(72)【発明者】
【氏名】千坂 光陽
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/117254(WO,A1)
【文献】特開2017-202463(JP,A)
【文献】特開2007-054705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子、窒素原子、5価のリン原子、および、遷移金属原子を含み、前記遷移金属原子をMで表す場合に、化学式M
w
O
xN
yP
zによって表され
るルチル型酸化物であり、
前記化学式におけるw、および、xは、以下を満たし、
w=1-(z+i)(i≧0)
x=2-(y+j)(j≧0)
前記遷移金属原子は、チタン原
子であ
り、
前記チタン原子の数(N
Ti
)に対する前記リン原子の数(N
P
)の比(N
P
/N
Ti
)は、0.1以上0.2以下であり、
前記チタン原子の数(N
Ti
)に対する前記窒素原子の数(N
N
)の比(N
N
/N
Ti
)は、0.8以上1.5以下である
燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記燃料電池用触媒は、コア部と、前記コア部を覆う表層部とから形成され、
前記コア部は、TiN格子を含み、
前記表層部は、TiO
2格子を含み、
前記コア部と前記表層部との両方が、前記5価のリン原子を含む
請求項
1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
固体高分子形燃料電池において固体高分子電解質層に接合する電極触媒層であって、
請求項1
または2に記載の燃料電池用触媒と、
高分子電解質と、
導電材と、を含む
電極触媒層。
【請求項4】
固体高分子電解質膜と、
請求項
3に記載の電極触媒層と、を備え、
前記電極触媒層が、前記固体高分子電解質膜に接合されている
膜電極接合体。
【請求項5】
請求項
4に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
オキシ硫酸チタンの粉末と、リン酸とを混合して、分散液を生成することと、
前記分散液を加熱することと、
加熱した前記分散液を乾燥して、粉末を生成することと、
生成した前記粉末を熱分解して
ルチル型Ti
w
O
xN
yP
z触媒を得ることと、を含
み、
化学式Ti
w
O
x
N
y
P
z
におけるw、および、xは、以下を満たし、
w=1-(z+i)(i≧0)
x=2-(y+j)(j≧0)
前記Ti
w
O
x
N
y
P
z
におけるチタン原子の数(N
Ti
)に対するリン原子の数(N
P
)の比(N
P
/N
Ti
)は、0.1以上0.2以下であり、
前記Ti
w
O
x
N
y
P
z
における前記チタン原子の数(N
Ti
)に対する窒素原子の数(N
N
)の比(N
N
/N
Ti
)は、0.8以上1.5以下である
燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記オキシ硫酸チタンに由来するチタン原子の数に対する、前記リン酸に由来するリン原子の比が、リン/チタン比であり、
前記リン/チタン比は、0.2以上0.5以下である
請求項
6に記載の燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項
6または
7に記載の燃料電池用触媒の製造方法によって製造した燃料電池用触媒を用いた電極触媒層の製造方法であって、
前記燃料電池用触媒、第1高分子電解質、および、第1溶媒を含む第1触媒インクを調製することと、
前記第1触媒インクを乾燥させ、前記第1高分子電解質によって包埋された前記燃料電池用触媒である触媒包埋体を生成することと、
前記触媒包埋体、導電材、第2高分子電解質、および、第2溶媒を含む第2触媒インクを調製することと、
前記第2触媒インクを基材に塗布することと、を含む
電極触媒層の製造方法。
【請求項9】
前記触媒包埋体において、前記燃料電池用触媒の質量と、前記第1高分子電解質の質量との比が1:0.01から1:30の範囲に含まれる
請求項
8に記載の電極触媒層の製造方法。
【請求項10】
前記触媒包埋体を生成することにおいて、30℃以上140℃以下の範囲に含まれる温度で前記第1触媒インクを乾燥させる
請求項
8または
9に記載の電極触媒層の製造方法。
【請求項11】
前記第2触媒インクを調製することは、前記触媒包埋体と前記導電材とを無溶媒で混合した後に、前記触媒包埋体と前記導電材との混合物を前記第2溶媒と混合することを含む
請求項
8から
10のいずれか一項に記載の電極触媒層の製造方法。
【請求項12】
前記第2触媒インクを調製することは、前記混合物を前記第2溶媒と混合する前に、前記混合物を加熱することを含む
請求項
11に記載の電極触媒層の製造方法。
【請求項13】
前記第2触媒インクを調製することは、50℃以上180℃以下の範囲に含まれる温度で前記混合物を加熱することを含む
請求項
12に記載の電極触媒層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられる燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、燃料電池用触媒の製造方法、および、電極触媒層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜と、一対の電極触媒層から形成される膜電極接合体を備えている。各電極触媒層は、高分子電解質、触媒、触媒担体、および、繊維状物質を含んでいる。触媒は、触媒が含まれる電極触媒層での酸化還元反応を促す。触媒は、酸化還元反応に対する高い触媒活性を有した白金を含む(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、白金は希少な金属であり、高価な金属でもある。そのため、燃料電池用の触媒には、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有した触媒が求められている。
【0005】
本発明は、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することを可能とした燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、燃料電池用触媒の製造方法、および、電極触媒層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための燃料電池用触媒は、酸素原子、窒素原子、5価のリン原子、および、遷移金属原子を含み、前記遷移金属原子をMで表す場合に、化学式MOxNyPzによって表され、前記遷移金属原子は、チタン原子、タンタル原子、ニオブ原子、および、ジルコニウム原子から構成される群から選択される少なくとも1つである。
【0007】
上記課題を解決するための電極触媒層は、固体高分子形燃料電池において固体高分子電解質層に接合する電極触媒層である。電極触媒層は、上述した燃料電池用触媒と、高分子電解質とを含む。
【0008】
上記課題を解決するための膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、上述した電極触媒層とを備える。電極触媒層が、前記固体高分子電解質膜に接合されている。
上記課題を解決するための固体高分子形燃料電池は、上述した膜電極接合体を備える。
【0009】
上記各構成によれば、遷移金属の酸化物に対して窒素原子と5価のリン原子とがドープされることによって、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【0010】
上記燃料電池用触媒において、前記遷移金属原子は、前記チタン原子であり、前記チタン原子の数(NTi)に対する前記リン原子の数(NP)の比(NP/NTi)は、0.1以上0.2以下であってもよい。
【0011】
上記構成によれば、遷移金属原子としてチタン原子を含む場合に、チタン原子の数に対するリン原子の数の比が0.1以上0.2以下であることによって、酸化還元反応に対する触媒活性を高めることが可能である。
【0012】
上記燃料電池用触媒において、前記遷移金属原子は、前記チタン原子であり、前記チタン原子の数(NTi)に対する前記窒素原子の数(NN)の比(NN/NTi)は、0.8以上1.5以下であってもよい。
【0013】
上記構成によれば、遷移金属としてチタン原子を含む場合に、チタン原子の数に対する窒素原子の数の比が0.8以上1.5以下であることによって、酸化還元反応に対する触媒活性を高めることができる。
【0014】
上記燃料電池用触媒において、前記燃料電池用触媒は、コア部と、前記コア部を覆う表層部とから形成され、前記コア部は、TiN格子を含み、前記表層部は、TiO2格子を含み、前記コア部と前記表層部との両方が、前記5価のリン原子を含んでもよい。この構成によれば、酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【0015】
上記課題を解決するための燃料電池用触媒の製造方法は、オキシ硫酸チタンの粉末と、リン酸とを混合して、分散液を生成することと、前記分散液を加熱することと、加熱した前記分散液を乾燥して、粉末を生成することと、生成した前記粉末を熱分解してTiOxNyPz触媒を得ることと、を含む。
【0016】
上記構成によれば、チタンの酸化物に対して窒素原子と5価のリン原子とがドープされることによって、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能なTiOxNyPz触媒を得ることができる。
【0017】
上記燃料電池用触媒の製造方法において、前記オキシ硫酸チタンに由来するチタン原子の数に対する、前記リン酸に由来するリン原子の比が、リン/チタン比であり、前記リン/チタン比は、0.2以上0.5以下であってもよい。
【0018】
上記構成によれば、燃料電池用触媒の製造において、リン/チタン比が0.2以上0.5以下であることによって、酸化還元反応に対する活性が高められたTiOxNyPz触媒を得ることができる。
【0019】
上記課題を解決するための電極触媒層の製造方法は、上述した燃料電池用触媒の製造方法によって製造した燃料電池用触媒を用いた電極触媒層の製造方法である。前記燃料電池用触媒、第1高分子電解質、および、第1溶媒を含む第1触媒インクを調製すること、前記第1触媒インクを乾燥させ、前記第1高分子電解質によって包埋された前記燃料電池用触媒である触媒包埋体を生成すること、前記触媒包埋体、導電材、第2高分子電解質、および、第2溶媒を含む第2触媒インクを調製すること、および、前記第2触媒インクを基材に塗布すること、を含む。この構成によれば、燃料電池用触媒を第1高分子電解質によって包埋し、触媒の表面におけるプロトン伝導性を高めることによって、反応活性点を増加させることができる。
【0020】
上記電極触媒層の製造方法では、前記触媒包埋体において、前記燃料電池用触媒の質量と、前記第1高分子電解質の質量との比が1:0.01から1:30の範囲に含まれてもよい。この構成によれば、酸素などの拡散を阻害せず、かつ、触媒の表面におけるプロトン伝導性が高くなり、反応活性点を増加させることができる。
【0021】
上記電極触媒層の製造方法では、前記触媒包埋体を生成することにおいて、30℃以上140℃以下の範囲に含まれる温度で前記第1触媒インクを乾燥させてもよい。この構成によれば、第2触媒インクを調製する工程において、触媒包埋体における第1高分子電解質が溶媒に溶解しないため、触媒の表面におけるプロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0022】
上記電極触媒層の製造方法において、前記第2触媒インクを調製することは、前記触媒包埋体と前記導電材とを無溶媒で混合した後に、前記触媒包埋体と前記導電材との混合物を前記第2溶媒と混合することを含んでもよい。この構成によれば、触媒包埋体と導電材とが接触しやすくなるため、反応活性点を増加させることができる。
【0023】
上記電極触媒層の製造方法において、前記第2触媒インクを調製することは、前記混合物を前記第2溶媒と混合する前に、前記混合物を加熱することを含んでもよい。この構成によれば、触媒包埋体と導電材との混合物を第2溶媒と混合しても、反応活性点を保持することができる。
【0024】
上記電極触媒層の製造方法において、前記第2触媒インクを調製することは、50℃以上180℃以下の範囲に含まれる温度で前記混合物を加熱することを含んでよい。この構成によれば、混合物が含む第1高分子電解質が溶媒に溶解せず、また、触媒が有するプロトン伝導性を阻害せずに、第2触媒インクを調製することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態における固体高分子形燃料電池の構造を示す分解斜視図。
【
図2】実施例1から実施例4および比較例1の燃料電池用触媒に対するX線回折によって得られたX線回折スペクトル。
【
図3】実施例1から実施例4および比較例1の燃料電池用触媒に対するラマン分光によって得られたラマンスペクトル。
【
図4】(a)から(d)は比較例1の燃料電池用触媒に対するX線光電子分光によって得られた光電子分光スペクトル。
【
図5】(a)から(d)は実施例1の燃料電池用触媒に対するX線光電子分光によって得られた光電子分光スペクトル。
【
図6】(a)から(d)は実施例2の燃料電池用触媒に対するX線光電子分光によって得られた光電子分光スペクトル。
【
図7】(a)から(d)は実施例3の燃料電池用触媒に対するX線光電子分光によって得られた光電子分光スペクトル。
【
図8】(a)から(d)は実施例4の燃料電池用触媒に対するX線光電子分光によって得られた光電子分光スペクトル。
【
図9】(a)から(d)は実施例5の燃料電池用触媒に対するX線光電子分光によって得られた光電子分光スペクトル。
【
図10】Ti2pスペクトルにおける各ピークの面積比と、リン/チタン比との関係を示すグラフ。
【
図11】O1sスペクトルにおける各ピークの面積比と、リン/チタン比との関係を示すグラフ。
【
図12】N1sスペクトルにおける各ピークの面積比と、リン/チタン比との関係を示すグラフ。
【
図13】実施例1から実施例5および比較例1から比較例2の燃料電池用触媒を用いた電極触媒層に対する対流ボルタンメトリーによって得られた対流ボルタモグラム。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1から
図13を参照して、燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、燃料電池用触媒の製造方法、および、電極触媒層の製造方法の一実施形態を説明する。以下では、燃料電池用触媒、燃料電池用触媒の製造方法、固体高分子形燃料電池、および、固体高分子形燃料電池の製造方法を順に説明する。
【0028】
[燃料電池用触媒]
燃料電池用触媒は、固体高分子形燃料電池に用いられる触媒である。固体高分子形燃料電池は、固体電解質膜と、一対の電極触媒層とから形成される膜電極接合体を備える。一対の電極触媒層は、固体電解質膜の厚さ方向において、固体電解質膜を挟む。燃料電池用触媒は、各電極触媒層に含まれる。
【0029】
燃料電池用触媒は、各電極触媒層での酸化還元反応を促すための触媒である。一対の電極触媒層は、カソード(空気極)側触媒層およびアノード(燃料極)側触媒層である。燃料電池用触媒は、カソード側触媒層において、以下の式(1)によって示される酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction:ORR)を促し、アノード側触媒層において、以下の式(2)によって示される水素酸化反応(Hydrogen Oxidation Reaction:HOR)を促す。
4H++O2+4e- → 2H2O … 式(1)
H2 → 2H++2e- … 式(2)
【0030】
燃料電池用触媒は、酸素(O)原子、窒素(N)原子、5価のリン原子(P5+)、および、遷移金属原子(M)を含む。燃料電池用触媒は、化学式MOxNyPzによって表される。遷移金属原子は、チタン(Ti)原子、タンタル(Ta)原子、ニオブ(Ni)原子、および、ジルコニウム(Zr)原子から構成される群から選択される少なくとも1つである。こうした触媒によれば、遷移金属の酸化物に対してNとP5+がドープされることによって、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することができる。
【0031】
遷移金属元素は、Ti原子であることが好ましい。燃料電池用触媒は、以下の条件1を満たすことが好ましい。
(条件1)Ti原子の数(NTi)に対するリン原子の数(NP)の比(NP/NTi)は、0.1以上2.0以下である。
【0032】
すなわち、TiOxNyPzにおいて、以下の式が満たされることが好ましい。
0.1≦z≦2.0
これにより、酸化還元反応に対する触媒活性を高めることが可能である。
【0033】
また、燃料電池用触媒は、以下の条件2を満たすことが好ましい。
(条件2)Ti原子の数(NTi)に対する窒素原子の数(NN)の比(NN/NTi)は、1.0以上1.5以下である。
【0034】
すなわち、TiOxNyPzにおいて、以下の式が満たされることが好ましい。
1.0≦y≦1.5
これにより、酸化還元反応に対する触媒活性を高めることが可能である。
【0035】
燃料電池用触媒は、コア部と、コア部を覆う表層部とから形成される。コア部は、窒化チタン(TiN)格子を含む。表層部は、二酸化チタン(TiO2)格子を含む。コア部と表層部との両方が、P5+を含む。これにより、酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【0036】
[燃料電池用触媒の製造方法]
燃料電池用触媒の製造方法は、分散液を生成すること、分散液を加熱すること、分散液を乾燥して粉末を生成すること、および、生成した粉末を熱分解してTiOxNyPz触媒を得ることを含む。分散液を生成することにおいて、オキシ硫酸チタン(TiOSO4)の粉末と、リン酸(H3PO4)とを混合して分散液を生成する。
【0037】
燃料電池用触媒の製造において、当該触媒の製造に用いられるチタン原子の数に対するリン原子の比が、リン/チタン比Rpである。すなわち、オキシ硫酸チタンに由来するチタン原子の数に対する、リン酸に由来するリン原子の数の比が、リン/チタン比Rpである。リン/チタン比Rpは、以下の条件3を満たすことが好ましい。
【0038】
(条件3)リン/チタン比Rpは、0.2以上0.5以下である。
燃料電池用触媒の製造において、リン/チタン比Rpが条件3を満たすことによって、ORR活性が高められたTiOxNyPz触媒を得ることが可能である。
【0039】
分散液を生成する分散液生成工程では、数時間にわたってオキシ硫酸チタン(IV)の粉末と、リン酸とを混合してもよい。分散液を加熱する加熱工程では、分散液を掻き混ぜながら分散液を加熱してもよい。粉末生成工程において生成された粉末を熱分解する熱分解工程では、窒素ガスが供給されている環境において粉末を熱分解することが可能である。熱分解工程では、粉末を熱分解する温度を973K(700℃)よりも高い温度に設定することが好ましく、例えば1123K(850℃)に設定することが可能である。熱分解工程では、粉末を熱分解する期間を、例えば数時間に設定することが可能である。
【0040】
熱分解工程の後に、ポストアニール工程を行ってもよい。ポストアニール工程では、熱分解工程にて得られたTiOxNyPz触媒をアンモニア(NH3)ガスが供給されている環境において加熱する。ポストアニール工程において、TiOxNyPz触媒を加熱する温度を例えば923K(650℃)に設定することが可能である。
【0041】
[固体高分子形燃料電池]
図1を参照して、固体高分子形燃料電池の構造を説明する。以下に説明する構造は、固体高分子形燃料電池の構造における一例である。また、
図1は、固体高分子形燃料電池が備える単セルの構造を示している。固体高分子形燃料電池は、複数の単セルを備え、かつ、複数の単セルが互いに積層された構造でもよい。
【0042】
図1が示すように、固体高分子形燃料電池20は、膜電極接合体10、一対のガス拡散層、および、一対のセパレーターを備えている。膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、カソード側電極触媒層12Cと、アノード側電極触媒層12Aとを備えている。高分子電解質膜11は、固体状の高分子電解質膜である。高分子電解質膜11において対向する一対の面において、一方の面にカソード側電極触媒層12Cが接合し、他方の面にアノード側電極触媒層12Aが接合している。カソード側電極触媒層12Cはカソード(空気極)を構成する電極触媒層であり、アノード側電極触媒層12Aはアノード(燃料極)を構成する電極触媒層である。各電極触媒層12C,12Aは、上述した燃料電池用触媒と高分子電解質とを含んでいる。
【0043】
高分子電解質膜11において、カソード側電極触媒層12Cが接合された面がカソード面であり、アノード側電極触媒層12Aが接合された面がアノード面である。カソード面のなかで、カソード側電極触媒層12Cによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、カソード側ガスケット13Cが位置している。アノード面のなかで、アノード側電極触媒層12Aによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、アノード側ガスケット13Aが位置している。カソード側ガスケット13Cおよびアノード側ガスケット13Aによって、各面の外周部からガスが漏れることが抑えられる。
【0044】
一対のガス拡散層は、カソード側ガス拡散層21Cおよびアノード側ガス拡散層21Aである。一対のセパレーターは、カソード側セパレーター22Cおよびアノード側セパレーター22Aである。
【0045】
カソード側ガス拡散層21Cは、カソード側電極触媒層12Cに接している。カソード側電極触媒層12Cとカソード側ガス拡散層21Cとが、カソード(空気極)20Cを形成している。アノード側ガス拡散層21Aは、アノード側電極触媒層12Aに接している。アノード側電極触媒層12Aとアノード側ガス拡散層21Aとが、アノード(燃料極)20Aを形成している。
【0046】
カソード側セパレーター22Cとアノード側セパレーター22Aとは、固体高分子形燃料電池20の厚さ方向において、膜電極接合体10、および、2つのガス拡散層21C,21Aから構成される多層体を挟んでいる。カソード側セパレーター22Cは、カソード側ガス拡散層21Cに対向している。アノード側セパレーター22Aは、アノード側ガス拡散層21Aに対向している。
【0047】
カソード側セパレーター22Cにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、カソード側ガス拡散層21Cと対向する対向面が有する溝は、ガス流路22Cgである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路22Cwである。アノード側セパレーター22Aにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、アノード側ガス拡散層21Aと対向する対向面が有する溝は、ガス流路22Agである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路22Awである。各セパレーター22C,22Aは、導電性を有し、かつ、ガスに対する透過性が低い材料によって形成されている。
【0048】
固体高分子形燃料電池20では、カソード側セパレーター22Cのガス流路22Cgを通じてカソード20Cに酸化剤ガスが供給される。アノード側セパレーター22Aのガス流路22Agを通じてアノード20Aに燃料ガスが供給される。これにより、固体高分子形燃料電池20が発電する。なお、酸化剤ガスには、例えば空気および酸素ガスなどを用いることができる。燃料ガスには、例えば水素ガスを用いることができる。
【0049】
[膜電極接合体の製造方法]
以下、膜電極接合体の製造方法を説明する。
膜電極接合体10を製造する際には、転写用基材に電極触媒層12A,12Cを形成し、熱圧着によって高分子電解質膜11に電極触媒層12A,12Cを接合する、あるいは、ガス拡散層21A,21Cに電極触媒層12A,12Cを形成し、熱圧着によって高分子電解質膜11に電極触媒層12A,12Cを接合する。またあるいは、高分子電解質膜11に対して直に電極触媒層12A,12Cを形成する。
【0050】
電極触媒層12A,12Cを形成する際には、まず、電極触媒層12A,12Cを形成するための触媒インクを準備する。次いで、触媒インクを基材などに塗布し、触媒インクを乾燥することによって、電極触媒層12A,12Cを形成することができる。触媒インクを準備する際には、まず第1触媒インクを調製し、次いで第2触媒インクを調製する。第1触媒インクは、触媒、第1高分子電解質、および、第1溶媒を含む。第2触媒インクは、第1触媒インクによって形成された触媒包埋体、導電材、第2高分子電解質、および、第2溶媒を含む。
【0051】
第1触媒インクを調製した後に、第1触媒インクを乾燥させることによって、第1高分子電解質によって触媒を包埋した触媒包埋体を生成する。次いで、生成した触媒包埋体を用いて第2触媒インクを調製する。
【0052】
第2触媒インクを調製する際には、触媒包埋体と導電材とを混合した後に、触媒包埋体と導電材との混合物を無溶媒で混合することができる。これにより、触媒表面のプロトン伝導性を高められ、反応活性点を増加させることができる。また、第2触媒インクを調製する際には、上述の混合物を第2溶媒と混合する前に、当該混合物を加熱することができる。これにより、触媒包埋体と導電材の接触性が高められ、反応活性点を増加させることができる。混合物を加熱する際には、50℃以上180℃以下の範囲に含まれる温度で混合物を加熱することが好ましい。これにより、混合物における第1高分子電解質が溶媒に溶解せず、また、プロトン伝導性を阻害せずに、第2触媒インクを調製することができる。
【0053】
第1高分子電解質および第2高分子電解質には、プロトン伝導性を有する高分子の電解質を用いることができる。電極触媒層12A,12Cと高分子電解質膜11との密着性を高める上では、第1高分子電解質および第2高分子電解質は、高分子電解質膜11と同じ電解質、あるいは、類似の電解質であることが好ましい。第1高分子電解質および第2高分子電解質には、例えば、フッ素系樹脂および炭化水素系樹脂を用いることができる。フッ素樹脂には、例えば、Nafion(登録商標)(デュポン社製)などを用いることができる。炭化水素系樹脂には、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることができる。
【0054】
導電材には、例えば炭素粒子を用いることができる。導電材は、微粒子状を有し、かつ、導電性を有するものであって、触媒におかされないものであればよい。導電材には、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、および、フラーレンなどを用いることができる。導電材の比表面積は、触媒の比表面積よりも大きいことがある。
【0055】
第1溶媒および第2溶媒には、例えば、高分子電解質を分散することが可能な液体、または、高分子電解質を溶解することが可能な液体を用いることが好ましい。溶媒には、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、スルホキシド類、および、アミド類などを用いることができる。アルコール類は、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、3‐ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、ジアセトンアルコール、および、1‐メトキシ‐2‐プロパノールなどであってよい。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、および、ジイソブチルケトンなどであってよい。エーテル類は、ジオキサン、および、テトラヒドロフランなどであってよい。スルホキシド類は、ジメチルスルホキシドなどであってよい。アミド類は、ジメチルホルムアミド、および、ジメチルアセトアミドなどであってよい。第1溶媒および第2溶媒には、上述した溶媒を単独で用いてもよいし、複数の溶媒を組み合わせて用いてもよい。第1溶媒および第2溶媒は、加熱によって除去しやすい溶媒であることが好ましい。
【0056】
第1触媒インクを調製する際、および、第2触媒インクを調製する際には、触媒などを含む溶媒に分散処理を施してよい。分散処理には、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、剪断ミル、湿式ミル、超音波分散機、および、ホモジナイザーなどを用いることができる。
【0057】
第2触媒インクの塗布には、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター、スプレー、および、スピナーなどを用いることができる。
【0058】
第1触媒インクを乾燥する方法、および、第2触媒インクを乾燥する方法は、温風乾燥、および、IR乾燥などであってよい。第1触媒インクおよび第2触媒インクを乾燥する際には、温風乾燥およびIR乾燥のいずれか一方のみを用いてもよいし、両方を用いてもよい。第1触媒インクを乾燥して触媒包埋体を生成するときには、30℃以上140℃以下の範囲に含まれる温度で第1触媒インクを乾燥させることが好ましい。これにより、第2触媒インクを調整する工程において、触媒包埋体が含む第1高分子電解質が溶媒に溶解せず、触媒の表面におけるプロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0059】
触媒包埋体において、触媒の質量(C)と第1高分子電解質の質量(P)との比(C:P)が、1:0.01から1:30の範囲に含まれることが好ましい。これにより、酸素などの拡散性を阻害せず、触媒表面のプロトン伝導性が高くなり、反応活性点を増加させることができる。
【0060】
転写用基材を用いる場合には、転写用基材の上に第2触媒インクを塗布した後に乾燥することによって、電極触媒層付き基材を作成する。その後、例えば、電極触媒層付き基材における電極触媒層12A,12Cの表面と、高分子電解質膜11とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、電極触媒層12A,12Cと高分子電解質膜11とを接合させる。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層12A,12Cを接合することによって、膜電極接合体10を製造することができる。
【0061】
転写用基材は、少なくとも片面に第2触媒インクを塗布すること、加熱によって第2触媒インクを乾燥させることが可能であること、および、電極触媒層12A,12Cを高分子電解質膜11に転写することが可能であることを満たす基材であればよい。転写用基材は、例えば、高分子フィルム、および、耐熱性を有したフッ素樹脂フィルムを含んでよい。高分子フィルムを形成する高分子は、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、および、ポリパルバン酸アラミドなどであってよい。フッ素樹脂フィルムを形成する樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、および、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などであってよい。
【0062】
転写用基材は、上述した高分子フィルムまたはフッ素樹脂フィルムの表面に離型処理を施した基材、あるいは、上述したフィルムと離型層とが、共押出などによって一体に成形された基材であってよい。
【0063】
転写用基材は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。転写用基材が多層構造を有する場合には、最表面に位置する層が開口部を有していてもよい。開口部は、断裁や打ち抜きなどによって層の一部を取り除いた箇所である。また、第2触媒インクが乾燥した電極触媒層12A,12Cが、開口部に応じた形状を有してもよい。
【0064】
高分子電解質膜11に対して直に電極触媒層12A,12Cを形成する場合には、例えば、高分子電解質膜11の表面に第2触媒インクを塗布した後、触媒用スラリーから溶媒を除去することによって電極触媒層12A,12Cを形成する。高分子電解質膜11に対して直に電極触媒層12A,12Cを形成する方法は、高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの密着性が高く、かつ、電極触媒層12A,12Cが熱圧着に起因して潰れるおそれがない点で好ましい。
【0065】
固体高分子形燃料電池20がガスケット13A,13Cを備える場合には、高分子電解質膜11のなかで、電極触媒層12A,12Cによって覆われていない部分にガスケット13A,13Cを配置する。ガスケット13A,13Cは、少なくとも片面に粘着材を塗布することもしくは貼り合わせること、および、高分子電解質膜11に対する貼り合わせが可能であることを満たせばよい。ガスケット13A,13Cの形成材料には、上述した転写用基材の形成材料を用いることが可能である。1つのガスケット13A,13Cにおける厚さの平均値は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、3μm以上200μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0066】
1つの高分子電解質膜11における厚さの平均値は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、3μm以上200μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0067】
上述した製造方法によれば、燃料電池用触媒を第1高分子電解質によって包埋するため、触媒の表面におけるプロトン伝導性を高めることが可能である。特に、燃料電池用触媒の比表面積が導電材の比表面積よりも小さい場合には、導電材の比表面積よりも小さい比表面積を有した燃料電池用触媒を第1高分子電解質によって包埋するため、触媒の表面におけるプロトン伝導性を高める効果がより顕著である。結果として、電極触媒層において、反応活性点を増加させることができる。これに対して、第1高分子電解質の包埋を行わない場合には、電極触媒層の形成時に、比表面積の大きい導電材が第1高分子電解質によって優先的に包埋されるため、触媒の表面におけるプロトン伝導性が高まりにくく、結果として、反応活性点が増加しにくい。また、こうした方法によっても、第1高分子電解質の濃度を高めることによって、触媒の表面におけるプロトン伝導性を高めることが可能ではある。しかしながら、導電材に対して過剰な第1高分子電解質を供給するため、出力性能を向上させることが困難である。
【0068】
[実施例]
図2から
図13を参照して、実施例および比較例を説明する。
[実施例1]
オキシ硫酸チタン(IV)の粉末と、リン酸(H
3PO
4)とを蒸留水中において2時間にわたって掻き混ぜることによって分散液を生成した。この際に、オキシ硫酸チタン(IV)に由来するチタン原子に対する、リン酸に由来するリン原子の比(リン/チタン比R
p)を0.2に設定した。室温において、尿素粉末と塩酸(HCl)とを分散液に加えた。この際に、オキシ硫酸チタン由来の酸化チタンの質量に対する尿素の質量の比を100に設定した。また、塩酸の濃度を1.0mol/dm
3に設定した。分散液を掻き混ぜながら加熱した後、分散液を乾燥させることによって粉末を得た。乾燥によって得られた粉末を、窒素ガスが供給されている環境において、1123K(850℃)で2時間にわたって加熱した。これにより、実施例1のTiO
xN
yP
z触媒を得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、リン/チタン比Rpを0.35に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2の燃料電池用触媒を得た。
【0070】
[実施例3]
実施例1において、リン/チタン比Rpを0.5に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例3の燃料電池用触媒を得た。
【0071】
[実施例4]
実施例1において、リン/チタン比Rpを1.0に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例4の燃料電池用触媒を得た。
【0072】
[実施例5]
実施例2において得られたTiOxNyPz触媒をアンモニア(NH3)ガスが供給されている環境において、923K(650℃)で3時間にわたって加熱した以外は、実施例2と同様の方法によって、実施例5の燃料電池用触媒を得た。
【0073】
[比較例1]
実施例1において、リン酸を用いない以外は実施例1と同様の方法によって、比較例1の燃料電池用触媒を得た。
【0074】
[比較例2]
二酸化チタン(TiO2)の粉末を、アンモニアガスが供給されている環境において、1123K(850℃)で3時間加熱することによって、比較例2の燃料電池用触媒を得た。
【0075】
[X線回折スペクトルおよびラマンスペクトル]
図2および
図3を参照して、実施例1から実施例4、および、比較例1の燃料電池用触媒に対するX線回折によって得られたX線回折スペクトル、および、ラマン分光によって得られたラマンスペクトルを説明する。
【0076】
X線回折装置(MiniFlex600、(株)リガク製)を用いて、実施例1から実施例4、および、比較例1の燃料電池用触媒のコア部を解析した。各燃料電池用触媒のコア部に対するX線回折の結果、
図2が示すX線回折スペクトルが得られた。
【0077】
図2が示すように、全ての燃料電池用触媒において、コア部は、TiNのみから形成されることが認められた。一方で、各燃料電池用触媒のコア部のX線回折スペクトルにおいて、リン化合物に由来するピークは認められなかった。なお、リン化合物は、例えばTiP、TiP
2O
7、および、P
3N
5である。
【0078】
X線回折スペクトルにおいて上述したリン化合物に由来するピークが認められないことから、粉末の熱分解工程において、前駆体であるリン酸からリン成分が分離してリン化合物を生成しなかったと言える。
【0079】
また、実施例1から実施例4のX線回折スペクトルから、リン/チタン比Rpが大きくなっても、ピークの幅が大きくならないことが認められた。こうした結果から、TiNの結晶サイズは、リン/チタン比Rpの増大に伴って小さくならない、言い換えれば、TiNの結晶サイズは、リン/チタン比Rpに依存しないと言える。
【0080】
上述したように、実施例1から実施例4の燃料電池用触媒を製造する際に、熱分解工程での加熱温度を1123Kに設定した。これにより、TiNを生成するための熱分解工程中に、主にNH4Clから大量の反応性ガスが放出されたことによって、生成されたTiOxNyPzにおけるTiN結晶のサイズが、リン/チタン比Rpには依存しなかったと考えられる。なお、実施例5の燃料電池用触媒についても、実施例1から実施例4と同等の傾向を有したX線回折スペクトルが認められた。
【0081】
ラマン分光装置(NRS-5100、日本分光(株)製)を用いて、実施例1から実施例4、および、比較例1の燃料電池溶触媒の表層部を解析した。各燃料電池用触媒の表層部に対するラマン分光の結果、
図3に示すラマンスペクトルが得られた。
【0082】
図3における破線は、購入したルチル型TiO
2粉末に対するラマン分光によって得られたラマンスペクトルである。当該ラマンスペクトルは、443cm
-1と、606cm
-1とにピークを有することが認められた。これらピークのうち、443cm
-1のピークは、化学量論比のルチル型TiO
2におけるE
g振動モードに由来するピークであり、606cm
-1のピークは、化学量論比のルチル型TiO
2におけるA
1g振動モードに由来するピークである。
【0083】
比較例1のラマンスペクトルにおいて、TiO2粉末に対するラマンスペクトルに比べて、443cm-1のピーク、すなわちEg振動モードに由来するピークが、より低い波数にシフトしていることが認められた。こうした結果は、表層部におけるルチル型TiO2に、窒素のドープによって酸素欠損が生じたことを示している。また、比較例1の燃料電池用触媒であるTiOxNy触媒に対するラマンスペクトルは、TiO2粉末に対するラマンスペクトルに比べて、幅の広いピークを有することが認められた。こうした結果も、上述した結果と同様に、表層部におけるTiO2に、窒素のドープによる酸素欠損を示している。
【0084】
実施例1から実施例4の各々に対応するラマンスペクトルから明らかなように、リン/チタン比Rpが増大しても、ラマンスペクトルには、新たなピークやさらなるピークのシフトが認められなかった。こうした結果から、リン/チタン比Rpが増大しても、表層部を形成するルチル型TiO2における酸素欠損の量は維持されていると言える。
【0085】
[X線光電子分光スペクトル]
光電子分光装置(PHI5000 VersaProbe、アルバック・ファイ(株)製)を用いて、実施例1から実施例5、および、比較例1の燃料電池用触媒が備える表層部の化学結合状態を解析した。各燃料電池用触媒に対するX線光電子分光の結果、
図4から
図9が示すX線光電子分光スペクトルが得られた。なお、各燃料電池用触媒について、Ti2pスペクトル、O1sスペクトル、N1sスペクトル、および、P2pスペクトルを得た。また、各図において、(a)がTi2pスペクトルであり、(b)がO1sスペクトルであり、(c)がN1sスペクトルであり、(d)がP2pスペクトルである。
【0086】
なお、各図において、実線はX線光分子分光スペクトルであり、太破線線はシャーリー法によるバックグラウンドである。また、各図の(a)において、破線はTiNのピークであり、一点鎖線はNがドープされたTiO2のピークであり、二点鎖線はTiO2のピークである。各図の(b)において、破線はTiO2におけるO‐Ti‐Oのピークであり、一点鎖線はTiO2における酸素欠損、すなわちO‐Ti‐Nのピークであり、二点鎖線はP置換されたTiO2におけるO‐P‐Oのピークである。各図の(c)において、破線はTiNにおけるN‐Ti/P‐Nのピークであり、一点鎖線はTiO2におけるN‐Ti/P‐N(置換)のピークであり、二点鎖線はTiO2におけるO‐Ti/P‐N(置換)のピークであり、細線はTiO2におけるTi/P‐O‐N(格子間)のピークである。なお、各図の(d)において、破線はP5+のピークである。
【0087】
図4(a)から
図4(d)は、比較例1の燃料電池用触媒におけるX線光電子分光スペクトルを示している。
図4(a)が示すように、Ti2pスペクトルは、スピン軌道結合を通じてTi2p
3/2とTi2p
1/2に分裂し、二峰性を示した。リンがドープされていない比較例1において、Ti2p
3/2領域におけるメインピークが458.3eVに位置することが認められた。こうした結果は、表面に位置するTiの価数が主に4+価であることを示しており、表面に位置するTiNが酸化されていることを示している。こうした結果は、X線回折およびラマン分光によって得られた結果と合致している。また、Ti2pスペクトルにおける456eVから457eVに位置するショルダーピークは、TiO
xN
yが形成されたことを示している。
【0088】
図4(c)が示すように、N1sスペクトルが397eVに位置するピーク、および、399eVに位置するピークを有することから、多くの窒素原子がTiO
2において格子中の酸素原子と置換されていることが認められた。
【0089】
なお、TiO
2中の酸素原子と置換した窒素原子が、TiO
2にドープされていることは、
図4(b)が示すO1sスペクトルにおいても認められた。すなわち、
図4(b)が示すように、O1sスペクトルにおいて530eVに位置するメインピークは、TiO
2格子中の酸素に対応する。また、O1sスペクトルにおいて532eVに位置するショルダーピークは、酸素原子と置換された窒素原子のドープによって形成されたTiO
2格子中の酸素欠損に対応する。
【0090】
図5(a)から
図5(d)は、実施例1の燃料電池用触媒におけるX線光電子分光スペクトルを示している。
図5(a)が示すTi2pスペクトル、および、
図5(c)が示すN1sスペクトルから明らかなように、リン/チタン比R
pが0.2に設定されることによって、TiO
xN
yに対してリンがドープされても、Ti2pスペクトルおよびN1sスペクトルは、顕著には変化しないことが認められた。
【0091】
一方で、
図5(b)が示すO1sスペクトル中には、531eVに位置するピークが現れることが認められた。当該ピークは、リンがドープされたTiO
2におけるO‐P‐O結合に対応する。
【0092】
また、
図5(d)が示すように、P2pスペクトル中に現れた133eVに位置するピークは、リンがドープされたTiO
2、および、リンと窒素とがドープされたTiO
2において、チタン原子と置換されたカチオン性P
5+に対応する。
図5(b)のスペクトル、および、
図5(d)のスペクトルは、表層部のTiO
2格子において、リン原子が、チタン原子と置換されたことを示している。なお、
図5(d)が示すスペクトルにおいて、129eVに位置するアニオン性のP
3-に対応するピークが認められなかったことから、燃料電池用触媒の表層部には、Ti‐P結合が存在しないと言える。
【0093】
図4および
図5が示すスペクトルから、表層部が含むチタン原子の価数は主に4+であることが認められた。また、燃料電池用触媒に対するリン原子のドープによって、チタン原子および窒素原子の両方において化学結合状態が変化しないことが認められた。
【0094】
なお、燃料電池用触媒の表面よりも深い部分におけるリン原子の価数を、燃料電池用触媒に対するAr+ビームを用いたスパッタによって解析した。この際に、加速電圧を500Vに設定したスパッタと、加速電圧を1kVに設定したスパッタとを行った。加速電圧を500Vに設定した状態で、5分間にわたって触媒の表面をスパッタしたところ、P2pスペクトルには、P3-のピークが現れなかった。一方で、Ti2pスペクトルにおいて、455eVに位置するTiNのピークが、スパッタ時間が長くなるにつれて増大することが認められた。こうした傾向は、加速電圧を1kVに増大させることによって、触媒のコア部におけるより深い位置をスパッタした場合にも認められた。これらの結果は、多くのP5+が、コア部のTiN、および、表層部のルチル型TiO2の両方と固溶体を形成したことを示している。
【0095】
図6(a)から
図6(d)は実施例2の燃料電池用触媒におけるX線光電子分光スペクトルであり、
図7(a)から
図7(d)は実施例3の燃料電池用触媒におけるX線光電子分光スペクトルである。
図8(a)から
図8(d)は実施例4の燃料電池用触媒におけるX線光電子分光スペクトルであり、
図9(a)から
図9(d)は実施例5の燃料電池用触媒におけるX線光電子分光スペクトルである。
図6から
図9が示すスペクトルの各々は、
図5が示すスペクトルと同一の傾向を有する。そのため、
図4と
図5との対比から明らかな事項は、
図4と
図6との対比、
図4と
図7との対比、
図4と
図8との対比、および、
図4と
図9との対比の各々からも明らかである。
【0096】
[X線光電子分光スペクトルにおけるピークの面積比]
図10から
図12は、
図4から
図9に示されるX線光分子分光スペクトルに基づくグラフである。
図10は、Ti2pスペクトルにおける各ピークの面積比と、リン/チタン比R
pとの関係を示している。
図11は、O1sスペクトルにおける各ピークの面積比と、リン/チタン比R
pとの関係を示している。
図12は、N1sスペクトルにおける各ピークの面積比と、リン/チタン比R
pとの関係を示している。
【0097】
図11が示すように、O1sスペクトルでは、リン/チタン比R
pが変化しても、532eVに位置するピークであって、酸素欠損に由来するピークの面積比(S
O3)は変化しないことが認められた。こうした結果は、
図2を参照して説明したラマンスペクトルから得られる傾向に合致している。これらの結果から、ドープされたP
5+による電荷の不均衡は、チタン原子の欠損によって埋め合わせられたと言える。
【0098】
図10から
図12が示すように、リン/チタン比R
pが0.5まで増大しても、各ピークの面積比がほぼ変化しないことが認められた。こうした結果は、
図5から
図7に示してX線光電子分光スペクトルが、リン/チタン比R
pが0.5まで増大してもほぼ同じ形状に維持されることにより明らかである。
【0099】
これに対して、リン/チタン比Rpが1.0まで増加すると、
図10が示すように、Ti2pスペクトルにおいて、TiNに由来するピークの面積比(S
T3)が増大し、TiO
2に由来するピークの面積比(S
T1)が減少することが認められた。こうした傾向は、
図12が示すスペクトルにおける以下の結果に合致している。すなわち、リン/チタン比R
pが0.5から1.0まで増大することによって、TiNの面積比(S
N4)が増大することが認められた。一方で、リン/チタン比R
pが0.5から1.0まで増大することによって、TiO
2内の格子間に位置する窒素原子の面積比(S
N1)が減少することが認められた。
【0100】
なお、リン/チタン比Rpが1.0である場合には、リン/チタン比Rpが0.5以下である場合に比べて、熱分解後において、石英管の内壁により多くの副産物が付着していた。
【0101】
これらの結果は、リン/チタン比Rpが1.0である場合に、混合および熱分解工程において、過剰なリン酸が他の前駆体と反応して、TiOxNyPzの化学結合状態を変えたことを示している。すなわち、TiO2格子間に位置する窒素原子は、置換された窒素原子に比べて不安定であり、TiO2格子間に位置する窒素原子の含有量は減少したことを示している。結果として、リン/チタン比Rpが1.0である場合において、面積比SN1がより大きく減少したと言える。
【0102】
[燃料電池用触媒の組成]
以下の方法によって、チタン原子の数(NTi)に対するリン原子の数(NP)の比(NP/NTi)と、チタン原子の数に対する窒素原子の数(NN)の比(NN/NTi)をX線光電子分光スペクトルから算出した。X線光電子分光装置(PHI5000 VersaProbe、アルバック・ファイ(株)製)を用いて測定したX線光電子分光スペクトルから、分析ソフト(MultiPak Version9.2.0.5)を用いて原子数を算出した。
【0103】
チタン原子の数に対するリン原子の数の比は、実施例1において0.17であり、実施例2において0.13であり、実施例3において0.10であることが認められた。また、チタン原子の数に対するリン原子の数の比は、実施例4において0.04であり、実施例5において0.17であることが認められた。チタン原子の数に対する窒素原子の比は、実施例1において1.10であり、実施例2において1.11であり、実施例3において0.97であることが認められた。また、チタン原子の数に対する窒素原子の数の比は、実施例4において0.80であり、実施例5において1.54であり、比較例1において1.08であることが認められた。
【0104】
[対流ボルタモグラム]
図13は、対流ボルタンメトリーの1つである回転ディスク法によって得られた対流ボルタモグラムである。
図13には、実施例1から実施例5、比較例1、および、比較例2の燃料電池用触媒の各々に対応する対流ボルタモグラムが示されている。
【0105】
対流ボルタモグラムを得る際に、電極触媒層におけるナフィオン(ナフィオンは登録商標)の質量分率を0.05に設定し、触媒充填量mは比較例1を除き0.86mgcm-2で一定とした。比較例1では、触媒充填量mを1.00mgcm-2とした。0.1mol/dm3の硫酸中での室温における電気化学測定に3電極セルを用いた。酸素ガスおよび窒素ガスを1800秒にわたって連続的にバブリングした後に、対流ボルタモグラムを記録した。この際に、可逆水素電極(RHE)に対するディスク電位(E)を0.05Vから1.2Vに設定し、掃引速度を5mVs-1に設定し、回転ディスク電極の回転速度を1500rpmに設定した。
【0106】
図13が示すように、結晶構造、および、化学結合状態の類似性とは対照的に、各燃料電池用触媒における酸素還元反応(ORR)の活性は、リン/チタン比R
pに顕著に依存していることが認められた。リン/チタン比R
pが0.0から0.2に増加した場合に、ORR活性は劇的に増大することが認められた。こうした結果は、TiO
xN
y触媒に対するリンのドープによって、新しい活性部位が形成されたことを示している。
【0107】
上述したように、
図2および
図3における比較例1および実施例1の結果は、2つの燃料電池用触媒は、いずれもTiNから形成されるコア部と、ルチル型のTiO
2から形成される表層部を有することを示している。また、当該結果は、表層部のルチル構造における酸素欠損の数、すなわち、リン原子を含まないTiO
xN
yにおいてORR活性部位の形成に必須である欠損の数は、同一であることを示している。
【0108】
また、
図3における比較例1および実施例1の結果において、リン/チタン比R
pが0.0以上0.2以下の範囲では、チタン原子および窒素原子の化学結合状態も同じであり、比較例1と実施例1との間では、P
5+の存在が唯一の相違点である。
【0109】
これらの事項は、以下を示唆している。すなわち、ドープされたP5+そのもの、および、電荷の不均衡を埋め合わせるためにP5+のドープによって形成されたチタン欠損の少なくとも一方が、酸素還元反応のための新しい活性部位を形成したことを示唆している。
【0110】
ここで、ルチル構造における(110)面でのチタン欠損は、1つの酸素分子に対する解離吸着部位であることが知られている。また、酸素分子に対する解離吸着は、酸素還元反応の最初のステップであると考えられる。加えて、1つのチタン欠損は、MnO2におけるマンガン欠陥に類似のいわゆるRuetschi欠陥を形成するために、4つのプロトンを捕捉することが可能である。それゆえに、燃料電池用触媒にチタン欠損が挿入されることによって、燃料電池用触媒の表面におけるプロトン伝導率が高められると考えられる。
【0111】
また、TiO2における酸素欠損とチタン欠損との共存は、表面における電子伝導率を増幅させ、リチウム/ナトリウムイオン電池の出力の改善に繋がることが報告されている。
【0112】
これらに基づけば、TiO2格子内への代替となるP5+のドープは、少なくとも、酸素分子に対する解離吸着部位の形成、および、プロトン伝導率および電子伝導率の増幅を引き起こすと考えられる。結果として、TiOxNyPz触媒における酸素還元反応に対する触媒活性が高められると考えられる。
【0113】
実施例1から実施例3に対する対流ボルタモグラムによって、リン/チタン比R
pが0.5まで増大しても、ORR活性がほぼ一定に維持されることが認められた。こうした結果は、
図2に示される結晶構造の類似性、および、
図3に示される化学結合状態の類似性に合致している。これに対して、実施例4に対する対流ボルタモグラムによれば、リン/チタン比R
pがさらに1.0まで増大すると、ORR活性は顕著に低下することが認められた。
【0114】
実施例5に対する対流ボルタモグラムは、実施例3に対する対流ボルタモグラムに比べて、0.08Vだけ正にシフトすることが認められた。このように、実施例5の燃料電池用触媒では、実施例3の燃料電池用触媒に比べて、ORR活性が増幅されることが認められた。一方で、比較例2の燃料電池用触媒は、実施例1から実施例5、および、比較例1の燃料電池用触媒よりも極端に低いORR活性しか有しないことが認められた。
【0115】
[製造例]
以下、上述した燃料電池用触媒(TiOxNyPz触媒)を用いた電極触媒層の製造例を説明する。
【0116】
[製造例1]
実施例1の燃料電池用触媒と、20質量%の高分子電解質溶液(商品名:Nafion(登録商標)、デュポン社製)を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルを用いて燃料電池用触媒と高分子電解質とを含む溶媒に対して分散処理を行った。これにより、第1触媒インクを得た。第1触媒インクにおいて、燃料電池用触媒の質量と高分子電解質の質量との比を1:0.25に設定した。溶媒には超純水と1‐プロパノ-ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。第1触媒インクにおいて、固形分含有量を15質量%に設定した。
【0117】
第1触媒インクを乾燥させるための基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いた。ドクターブレードを用いて、第1触媒インクをPTFEシート上に塗布し、そして、第1触媒インクを大気雰囲気において80℃で5分間乾燥させた。その後、高分子電解質で包埋された燃料電池用触媒である触媒包埋体を基材から回収した。
【0118】
導電材としてカーボン粒子を準備した。そして、触媒包埋体とカーボン粒子とを遊星型ボールミルを用いて溶媒が存在しない状態で混合した。その後、触媒包埋体およびカーボン粒子の混合物に対して、70℃にて熱処理を行った。なお、触媒包埋体の質量とカーボン粒子の質量との比を1:1に設定した。
【0119】
加熱した触媒包埋体およびカーボン粒子と、20質量%の高分子電解質溶液(商品名:Nafion(登録商標)、デュポン社製)を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルを用いて、触媒包埋体とカーボン粒子とを含む溶媒に対して分散処理を行った。これにより、第2触媒インクを得た。第2触媒インクにおいて、燃料電池用触媒の質量、カーボン粒子の質量、および、高分子電解質の質量における比を1:1:0.8に設定した。溶媒には、超純水と1‐プロパノ-ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。また、第2触媒インクにおいて、固形分含有量を15質量%に設定した。
【0120】
転写用基材としてPTFEシートを用いた。ドクターブレードを用いて、第2触媒インクをPTFEシート上に塗布し、そして、第2触媒インクを大気雰囲気において80℃で5分間乾燥させた。この際に、電極触媒層の厚さを、触媒の担持量が5.0mg/cm2になるように調節した。これにより、製造例1のカソード側電極触媒層を得た。
【0121】
[製造例2]
製造例1と同じ燃料電池用触媒、カーボン粒子、および、20質量%の高分子電解質溶液を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルを用いて燃料電池用触媒、カーボン粒子、および、高分子電解質を含む溶媒に対して分散処理を行った。これにより、触媒インクを得た。触媒インクにおいて、燃料電池用触媒の質量、カーボン粒子の質量、および、高分子電解質の質量の比を1:1:0.8に設定した。溶媒には、超純水と1‐プロパノ-ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。また、触媒インキにおいて、固形分含有量を15質量%に設定した。
【0122】
転写用基材として、製造例1と同様にPTFEシートを準備した。製造例1と同様の方法によって、PTFEシートに触媒インクを塗布し、触媒インクを乾燥させた。この際に、電極触媒層の厚さを、触媒の担持量が5.0mg/cm2になるように調節した。これにより、製造例2のカソード側電極触媒層を得た。
【0123】
[アノード側電極触媒層]
白金の担持量が50質量%である白金担持カーボン触媒と、20質量%の高分子電解質溶液とを溶媒中で混合し、白金担持カーボ触媒と高分子電解質とを含む溶媒に対して遊星型ボールミルを用いて分散処理を行った。この際に、分散時間を60分間に設定した。これにより、アノード側電極触媒層用の触媒インクとした。なお、触媒インクにおいて、白金担持カーボン中のカーボンの質量と、高分子電解質の質量との比を1:1に設定した。溶媒には、超純水と1‐プロパノ-ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。また、触媒インクにおいて、固形分含有量を10質量%に設定した。製造例1と同様の方法によって、転写用基材に触媒インクを塗布し、触媒インクを乾燥させた。この際に、電極触媒層の厚さを、触媒の担持量が0.1mg/cm2になるように調節した。これにより、アノード側電極触媒層を得た。
【0124】
[固体高分子形燃料電池]
製造例1および製造例2のカソード側電極触媒層、および、アノード側電極触媒層を、各電極触媒層が形成されたPTFEシートとともに5cm2の正方形状に打ち抜いた。そして、高分子電解質膜を準備し、高分子電解質膜の一方の面に製造例1のカソード側電極触媒層が対向し、かつ、他方の面にアノード側電極触媒層が対向するように、高分子電極触媒層に対して転写シートを配置した。そして、130℃、かつ、10分間の条件で、高分子電解質膜と、一対の電極触媒層との積層体にホットプレスを行い、これによって、膜電極接合体を得た。また、製造例2のカソード側電極触媒層についても、製造例1のカソード側電極触媒層を用いた場合と同様の方法によって、製造例2のカソード側電極触媒層を含む膜電極接合体を得た。各膜電極接合体をガス拡散層である一対のカーボンペーパーによって挟み、更に、一対のセパレーターによって挟持することによって、単セルから構成される固体高分子形燃料電池を得た。
【0125】
[発電性能]
[評価条件]
各固体高分子形燃料電池について、燃料電池測定装置を用いて発電性能を評価した。この際に、固体高分子形燃料電池の温度を80℃に設定し、アノードおよびカソードにおける相対湿度を100%に設定した。燃料ガスとして純水素を用い、かつ、酸化剤ガスとして純酸素を用いた。発電性能の評価期間中は、燃料ガスおよび酸化剤ガスの流量を一定にした。
【0126】
[測定結果]
製造例1のカソード側電極触媒層を備える固体高分子形燃料電池は、製造例2のカソード側電極触媒層を備える固体高分子形燃料電池に比べて、優れた発電性能を有することが認められた。製造例1のカソード側電極触媒層を含む固体高分子形燃料電池は、特に0.7V付近の発電性能が向上することが認められた。また、製造例1のカソード側電極触媒層を備える固体高分子形燃料電池は、製造例2のカソード側電極触媒層を備える固体高分子形燃料電池と比べて、0.7V付近では約1.8倍の発電性能を有することが認められた。
【0127】
製造例1のカソード側電極触媒層では、燃料電池用触媒が高分子電解質に包埋されることによって、燃料電池用触媒の表面におけるプロトン伝導性が高められ、これによって、カソード側電極触媒層において反応活性点が増加したために、発電性能が向上したと考えられる。
【0128】
以上説明したように、燃料電池用触媒、および、燃料電池用触媒の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)遷移金属の酸化物に対して窒素原子と5価のリン原子とがドープされることによって、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【0129】
(2)遷移金属原子としてチタン原子を含む場合に、チタン原子の数に対するリン原子の数の比が0.1以上0.2以下であることによって、酸化還元反応に対する触媒活性を高めることが可能である。
【0130】
(3)遷移金属としてチタン原子を含む場合に、チタン原子の数に対する窒素原子の数の比が1.0以上1.5以下であることによって、酸化還元反応に対する触媒活性を高めることができる。
【0131】
(4)コア部と表層部との両方が5価のリン原子を含むことによって、酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
(5)燃料電池用触媒の製造において、リン/チタン比Rpが0.2以上0.5以下であることによって、酸化還元反応に対する活性が高められたTiOxNyPz触媒を得ることができる。
【0132】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[リン/チタン比Rp]
・燃料電池用触媒の製造時において、リン/チタン比Rpは、0.2よりも小さくてもよいし、0.5よりも大きくてもよい。リン/チタン比Rpが0.2よりも小さい場合、および、リン/チタン比Rpが0.5よりも大きい場合であっても、酸化還元反応に対する触媒活性を有したTiOxNyPz触媒を得ることは可能である。
【0133】
[燃料電池用触媒の組成]
・燃料電池用触媒は、上述した条件1および条件2のうちの少なくとも一方を満たさなくてもよい。この場合であっても、燃料電池用触媒が化学式TiOxNyPzによって表され、かつ、5価のリン原子を含んでいれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0134】
10…膜電極接合体
11…高分子電解質膜
12A…アノード側電極触媒層
12C…カソード側電極触媒層
13A…アノード側ガスケット
13C…カソード側ガスケット
20…固体高分子形燃料電池
20A…アノード
20C…カソード
21A…アノード側ガス拡散層
21C…カソード側ガス拡散層
22A…アノード側セパレーター
22C…カソード側セパレーター
22Ag,22Cg…ガス流路
22Aw,22Cw…冷却水流路