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特許7360131有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/84 20230101AFI20231004BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20231004BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20231004BHJP
   H10K 50/844 20230101ALI20231004BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231004BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20231004BHJP
【FI】
H10K50/84
C08F20/10
G09F9/30 309
G09F9/30 365
H10K50/844
H10K59/10
H10K71/12
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020514095
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2019015509
(87)【国際公開番号】W WO2019203071
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2018078530
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中島 剛介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 麻希子
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
(72)【発明者】
【氏名】仲田 仁
(72)【発明者】
【氏名】結城 敏尚
(72)【発明者】
【氏名】川村 憲史
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523549(JP,A)
【文献】特開2017-061606(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156593(WO,A1)
【文献】特表2017-536429(JP,A)
【文献】特開2016-040365(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051732(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/070488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/84
C08F 20/10
G09F 9/30
H10K 50/844
H10K 59/10
H10K 71/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートと、(B)光重合開始剤を含有し、(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が5.00~7.60mmol/gの範囲にあり、
含水量が90ppm以下である、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項2】
(C)(A)成分以外の(メタ)アクリレートを更に含有し、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、(A)成分を30質量部以上100質量部未満、(B)成分を0.05~6質量部、(C)成分を0質量部超70質量部以下含有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項3】
(C)成分中の(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が3.00~15.00mmol/gである請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項4】
25℃においてE型粘度計により測定される粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項5】
含水量が50ppm以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項6】
溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項7】
2官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマー及び多官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマーを含有しない請求項1~6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項8】
(A)成分が、炭素数12以上16以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートである請求項1~7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項9】
(A)成分が、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートである請求項1~8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項10】
(C)成分が、炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、及び芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートからなる群の1種以上である請求項2~9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項11】
(C)成分が、ラウリル(メタ)アクリレートを含有する請求項2~10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項12】
(C)成分が、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレートからなる群の1種以上を含有する請求項2~11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項13】
(C)成分が、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートを含有する請求項2~12のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項14】
(B)成分が、アシルホスフィンオキサイド誘導体である請求項1~13のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を硬化した硬化体。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤で接合した接合体。
【請求項17】
380nm以上500nm以下の波長を用いて硬化することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の硬化方法。
【請求項18】
発光波長395nmのLEDランプを用いて硬化することを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の硬化方法。
【請求項19】
インクジェット法を用いて塗布する請求項1~14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の塗布方法。
【請求項20】
請求項1~14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を含んだ有機EL装置。
【請求項21】
請求項1~14のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を含んだディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子(OLED素子とも言う)は高い輝度の発光が可能な素子体として注目を集めている。しかしながらOLED素子には、酸素や水分により劣化し、発光特性が低下してしまうという課題があった。
【0003】
このような課題を解決するために、有機EL素子を封止し、水分による劣化を防止する技術が検討されている。例えば、フリットガラスからなるシール材で封止する方法が挙げられる(特許文献1参照)。
【0004】
封止層が少なくともバリア層、樹脂層、バリア層を順次形成した積層体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子(特許文献2参照)、有機EL素子を封止する無機物膜と有機物膜とを交互に積層した封止層と、前記封止層の最上位有機物膜上に密着して、前記最上位有機物膜の上面の全てを覆うように配置される封止ガラス基板と、を備えることを特徴とする有機EL装置(特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
有機EL素子封止用の樹脂組成物として、環状エーテル化合物と、カチオン重合開始剤と、多官能ビニルエーテル化合物とを含有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤(特許文献4参照)、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤又は熱カチオン重合開始剤とを含有するカチオン重合性樹脂組成物が提案されている(特許文献5参照)。有機EL素子封止用の樹脂組成物として、(メタ)アクリル系樹脂組成物が提案されている(特許文献6~14)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-74583号公報
【文献】特開2001-307873号公報
【文献】特開2009-37812号公報
【文献】特開2014-225380号公報
【文献】特開2012-190612号公報
【文献】特開2014-229496号公報
【文献】特開2014-196387号公報
【文献】特開2014-193970号公報
【文献】特開2014-193971号公報
【文献】WO2014/157642号公報
【文献】US2017/0062762号公報
【文献】特表2017-536429号公報
【文献】特表2018-504735号公報
【文献】WO2016/068415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0008】
特許文献1では、量産化を行う際には、有機EL素子を、水分の透過性が低い基材、例えば、ガラス等で挟み込み、外周部を封止する方法を採用する。この場合、この構造は中空封止構造となっているため、中空封止構造内部へ水分が浸入することを防げず、有機EL素子の劣化につながる課題があった。
【0009】
特許文献2~3では、有機物膜を蒸着によって成膜するため有機物膜の厚さが3μm以下となってしまうという課題があった。有機物膜の厚みが3μm以下であると素子形成時に発生するパーティクルを完全に被覆できないだけでなく、無機物膜上に平坦性を保ちながら塗布することも難しい課題があった。
【0010】
特許文献4では、エポキシ系材料を用いた封止剤が提案されているが、このような材料は硬化するのに加熱を要するため、有機EL素子にダメージを与え、歩留まりの点で課題があった。特許文献5では、エポキシ系材料を用いた光硬化型の封止剤が提案されているが、このような材料は、UV光により硬化するため、UV光により有機EL素子にダメージを与え、歩留まりの点で課題があった。
【0011】
特許文献6~10、12~14では、このような封止材料に必要な特性として、水蒸気透過率を低減させることについての記載はあるが、パッシベーション膜のピンホールから封止材料そのものが浸透し、有機EL素子の信頼性を低下させる問題とその対策については記載がない。
【0012】
特許文献11は、環状単官能(メタ)アクリレートの使用は記載しているものの、その未反応物がアウトガスとなってしまい有機EL素子の発光不良につながる問題を解決できていない。
【0013】
このように上述した従来技術では、インクジェットを用いる際の吐出性と、有機EL素子の信頼性との両立ができないことが、従前から課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば、有機EL素子封止用に用いた場合に塗布性や低透湿性に優れる組成物を提供することを目的とする。
【0015】
即ち本発明の実施形態では以下を提供可能である。
【0016】
[1]
(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートと、(B)光重合開始剤を含有し、(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が4.80~7.60mmol/gの範囲にある有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0017】
[2]
(C)(A)成分以外の(メタ)アクリレートを更に含有し、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、(A)成分を30質量部以上100質量部未満、(B)成分を0.05~6質量部、(C)成分を0質量部超70質量部以下含有する[1]記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0018】
[3]
(C)成分中の(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が3.00~15.00mmol/gである[2]記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0019】
[4]
25℃においてE型粘度計により測定される粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0020】
[5]
含水量が90ppm以下である[1]~[4]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0021】
[6]
溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下である[1]~[5]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0022】
[7]
2官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマー及び多官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマーを含有しない[1]~[6]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0023】
[8]
(A)成分が、炭素数12以上16以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートである[1]~[7]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0024】
[9]
(A)成分が、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートである[1]~[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0025】
[10]
(C)成分が、炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、及び芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートからなる群の1種以上である[2]~[9]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0026】
[11]
(C)成分が、ラウリル(メタ)アクリレートを含有する[2]~[10]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0027】
[12]
(C)成分が、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレートからなる群の1種以上を含有する[2]~[11]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0028】
[13]
(C)成分が、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートを含有する[2]~[12]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0029】
[14]
(B)成分が、アシルホスフィンオキサイド誘導体である[1]~[13]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤。
【0030】
[15]
[1]~[14]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を硬化した硬化体。
【0031】
[16]
[1]~[14]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤で接合した接合体。
【0032】
[17]
380nm以上500nm以下の波長を用いて硬化することを特徴とする、[1]~[14]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の硬化方法。
【0033】
[18]
発光波長395nmのLEDランプを用いて硬化することを特徴とする、[1]~[14]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の硬化方法。
【0034】
[19]
インクジェット法を用いて塗布する[1]~[14]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤の塗布方法。
【0035】
[20]
[1]~[14]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を含んだ有機EL装置。
【0036】
[21]
[1]~[14]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を含んだディスプレイ。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る封止剤は、インクジェットを用いる際の吐出性に優れ、かつ得られる有機EL素子の信頼性と塗布性・低透湿性にも優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本実施形態を説明する。
本実施形態は、有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤に関する。本実施形態は、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示素子用封止剤に使用できる、(メタ)アクリル系樹脂組成物に関する。
【0039】
本明細書に記載される数値範囲は、別段の断わりが無い限りは、上限値と下限値を含むものとする。本明細書においては、別段の断わりの無い限りは、以下定義する。(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートを表し、「(メタ)アクリロイルオキシ」や「(メタ)アクリルアミド」等の表記も同様の意味を有する。「単官能(メタ)アクリレート」とは(メタ)アクリル基を1個有する(メタ)アクリレートを指し、「2官能(メタ)アクリレート」とは(メタ)アクリル基を2個有する(メタ)アクリレートを指す。「多官能(メタ)アクリレート」とは(メタ)アクリル基を3個以上有する(メタ)アクリレートを指し、2官能(メタ)アクリレートを含まないものとする。
【0040】
以下、基板上に形成された有機EL素子の基板と反対側から光を出射するトップエミッション型の有機EL装置を例に説明する。トップエミッション型の有機EL装置は、基板上に、陽極と、発光層を含む有機EL層と、陰極が順に積層された有機EL素子と、この有機EL素子全体を覆う無機物膜と有機物膜の積層膜からなる封止層と、封止層上に設けられる封止基板が順に形成された構造を有する。
【0041】
基板としては、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等種々のものを用いることができる。これらの中では、ガラス基板、プラスチック基板からなる群のうちの1種以上が好ましく、ガラス基板がより好ましい。
【0042】
プラスチック基板に用いられるプラスチックとしては、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオキサジアゾール、芳香族ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリアクリル等が挙げられる。これらの中では、低水分透過性、低酸素透過性、耐熱性に優れる点で、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオキサジアゾール、芳香族ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンからなる群のうちの1種以上が好ましく、紫外線又は可視光線等のエネルギー線の透過性が高い点で、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなる群のうちの1種以上がより好ましい。
【0043】
陽極としては、比較的仕事関数の大きな(4.0eVより大きな仕事関数を持つものが好適である)、導電性の金属酸化物膜や半透明の金属薄膜等が一般的に用いられる。陽極の材料としては例えば、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide、以下、ITOという)、酸化スズ等の金属酸化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属又はこれらのうちの少なくとも1個を含有する合金、ポリアニリン又はその誘導体、ポリチオフェン又はその誘導体等の有機の透明導電膜等が挙げられる。陽極は、必要があれば2層以上の層構成により形成できる。陽極の膜厚は、電気伝導度を(ボトムエミッション型の場合には、光の透過性も)考慮して、適宜選択できる。陽極の膜厚は、10nm~10μmが好ましく、20nm~1μmがより好ましく、50nm~500nmが最も好ましい。陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。トップエミッション型の場合には、基板側に出射される光を反射させるための反射膜を陽極の下に設けてもよい。
【0044】
有機EL層は、少なくとも有機物からなる発光層を含んでいる。この発光層は、発光性材料を含有する。発光性材料としては、蛍光又は燐光を発光する有機物(低分子化合物又は高分子化合物)等が挙げられる。発光層は、更に、ドーパント材料を含有してもよい。有機物としては、色素系材料、金属錯体系材料、高分子材料等が挙げられる。ドーパント材料は、有機物の発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的で、有機物中にドープされるものである。これらの有機物と必要に応じてドープされるドーパントからなる発光層の厚さは通常2~200nmである。
【0045】
(色素系材料)
色素系材料としては、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等が挙げられる。
【0046】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等といった、金属錯体等が挙げられる。金属錯体としては、中心金属に、テルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)等の希土類金属、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)等を有し、配位子に、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体等が挙げられる。これらの中では、中心金属にアルミニウム(Al)を有し、配位子にキノリン構造等を有する金属錯体が好ましい。中心金属にアルミニウム(Al)を有し、配位子にキノリン構造等を有する金属錯体の中では、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウムが好ましい。
【0047】
(高分子材料)
高分子材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化した物質等が挙げられる。
【0048】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、これらの重合体等が挙げられる。これらの中では、高分子材料が好ましい。高分子材料の中では、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体からなる群のうちの1種以上が好ましい。
【0049】
緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、これらの重合体等が挙げられる。これらの中では、高分子材料が好ましい。高分子材料の中では、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体からなる群のうちの1種以上が好ましい。
【0050】
赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体、これらの重合体等が挙げられる。これらの中では、高分子材料が好ましい。高分子材料の中では、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体からなる群のうちの1種以上が好ましい。
【0051】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン等が挙げられる。
【0052】
有機EL層は、発光層以外に、発光層と陽極との間に設けられる層と、発光層と陰極との間に設けられる層と、を適宜設けることができる。まず、発光層と陽極との間に設けられる層としては、陽極からの正孔注入効率を改善する正孔注入層や、陽極又は正孔注入層から注入された正孔を発光層へ輸送する正孔輸送層等が挙げられる。発光層と陰極との間に設けられる層としては、陰極からの電子注入効率を改善する電子注入層や、陰極又は電子注入層から注入された電子を発光層へ輸送する電子輸送層等が挙げられる。
【0053】
(正孔注入層)
正孔注入層を形成する材料としては、4,4’,4”-トリス{2-ナフチル(フェニル)アミノ}トリフェニルアミン等のフェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0054】
(正孔輸送層)
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ベンジジン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、ポリ(2,5-チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等が挙げられる。ベンジジン誘導体としては、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジナフチルベンジジン等が挙げられる。
【0055】
これらの正孔注入層又は正孔輸送層が、電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの正孔輸送層や正孔注入層を電子ブロック層ということもある。
【0056】
(電子輸送層)
電子輸送層を構成する材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8-ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が挙げられる。誘導体としては、金属錯体等が挙げられる。これらの中では、8-ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体が好ましい。8-ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の中では、発光層中に含有する、蛍光又は燐光を発光する有機物としても使用できる点で、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウムが好ましい。
【0057】
(電子注入層)
電子注入層としては、発光層の種類に応じて、カルシウム(Ca)層の単層構造からなる電子注入層、又は、周期律表IA族とIIA族の金属であり、且つ、仕事関数が1.5~3.0eVの金属及びその金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物からなる群のうちの1種以上で形成された層とCa層との積層構造からなる電子注入層等が挙げられる。仕事関数が1.5~3.0eVの、周期律表IA族の金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物としては、リチウム(Li)、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。仕事関数が1.5~3.0eVの、周期律表IIA族の金属又はその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物としては、ストロンチウム(Sr)、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0058】
これらの電子輸送層又は電子注入層が、正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの電子輸送層や電子注入層を正孔ブロック層ということもある。
【0059】
陰極としては、仕事関数が比較的小さく(4.0eVより小さな仕事関数を持つものが好適である)、発光層への電子注入が容易な透明又は半透明の材料が好ましい。陰極の材料としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、イッテルビウム(Yb)等の金属、又は上記金属のうち2種以上からなる合金、若しくはそれらのうち1種以上と、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、スズ(Sn)のうち1種以上とからなる合金、又は、グラファイト若しくはグラファイト層間化合物、又は、ITO、酸化スズ等の金属酸化物等が挙げられる。
【0060】
陰極を2層以上の積層構造としてもよい。2層以上の積層構造としては、上記の金属、金属酸化物、フッ化物、これらの合金と、Al、Ag、Cr等の金属との積層構造等が挙げられる。陰極の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができる。陰極の膜厚は、10nm~10μmが好ましく、15nm~1μmがより好ましく、20nm~500nmが最も好ましい。陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、金属薄膜を熱圧着するラミネート法等が挙げられる。
【0061】
これらの発光層と陽極との間と、発光層と陰極との間に設けられる層は、製造する有機EL装置に求められる性能に応じて、適宜選択可能である。例えば、本実施形態で使用される有機EL素子の構造としては、下記の(i)~(xv)の層構成のいずれかを有することができる。
(i)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(ii)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(v)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(vii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
(viii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(ix)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
(x)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
(xi)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(xii)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(xiii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(xiv)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(xv)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
【0062】
封止層は、水蒸気や酸素等の気体が有機EL素子に接触することを防ぐために、上記気体に対して高いバリア性を有する層で有機EL素子を封止するために、設けられる。この封止層は、無機物膜と有機物膜とが下から交互に形成される。無機/有機積層体は2回以上繰り返して形成されてもよい。
【0063】
無機/有機積層体の無機物膜は、有機EL装置が置かれる環境に存在する水蒸気や酸素等の気体に有機EL素子が曝されることを防止するために設けられる膜である。無機/有機積層体の無機物膜は、ピンホール等の欠陥が少ない連続的な緻密な膜であることが好ましい。無機物膜としては、SiN膜、SiO膜、SiON膜、Al23膜、AlN膜等の単体膜やこれらの積層膜等が挙げられる。
【0064】
無機/有機積層体の有機物膜は、無機物膜上に形成されたピンホール等の欠陥を被覆するために、表面に平坦性を付与するために、設けられる。有機物膜は、無機物膜が形成される領域よりも狭い領域に形成される。これは、有機物膜を無機物膜の形成領域と同じか又はそれよりも広く形成すると、有機物膜が露出する領域で劣化してしまうからである。但し、封止層全体の最上層に形成される最上位有機物膜は、無機物膜の形成領域とほぼ同じ領域に形成される。そして、封止層の上面が平坦化されるように形成される。有機物膜としては、上記した無機物膜との密着性が良好な組成物が用いられる。
【0065】
本実施形態は、例えば、短時間で膜厚3μm以上の平坦性に優れる塗布が可能なインクジェット塗布に好適であり、インクジェットによる吐出性とインクジェット塗布後の平坦性に優れ、水蒸気等に対するバリア性(以下、低透湿性とも言う)だけでなく無機物膜上のピンホールから封止剤そのものが浸透し、有機EL素子の信頼性が低下することが無い、上記有機物膜を形成する有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤を提供することを目的とする。インクジェット法による塗布方法を用いれば、高速かつ均一に有機物膜を形成できる。
【0066】
本実施形態の組成物の粘度は、E型粘度計を用いて、25℃、100rpmの条件で測定した粘度が2mPa・s以上50mPa・s以下であることが好ましい。インクジェットによる吐出がしにくい場合は、適宜インクジェットヘッドを加温する。粘度が2mPa・s以上だと、塗工した有機EL表示素子用封止剤が、硬化前に有機EL表示素子から流出せず、無機物膜上のピンホールに流入せず、OLED素子の信頼性が向上する。粘度が50mPa・s以下だと、インクジェットによる塗布が容易になる。組成物の粘度は5mPa・s~30mPa・sがより好ましい。
【0067】
本実施形態の組成物は、(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートと、(B)光重合開始剤を含有する(メタ)アクリル系樹脂組成物である。尚、本明細書においては、炭素数を主鎖(アルカンジオール等)について表記するときは、(メタ)アクリレート部分の炭素数は含まないものとする。
【0068】
(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートのアルカンとしては、鎖式化合物や環式化合物が挙げられる。アルカンとしては、鎖式化合物が好ましい。鎖式化合物としては、直鎖化合物であってもよいし、分鎖化合物であってもよい。アルカンとしては、飽和炭化水素が好ましい。
【0069】
(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート(アルカンが鎖式化合物かつ飽和炭化水素)としては、1,2-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,11-ウンデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,13-トリデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14-テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,15-ペンタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,17-ヘプタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,18-オクタデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,19-ノナデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,20-イコサンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(A)炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート(アルカンが環式化合物)としては、1,2-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートの中では、OLED素子への信頼性の点から主鎖である炭素数は多い方が良いが、組成物が貯蔵中に結晶化したり、結晶化物が生成したりするという貯蔵安定性の課題が生じる。OLED素子への信頼性、透湿性、貯蔵安定性の観点から、炭素数は6以上18以下が好ましく、9以上16以下がより好ましく、12以上16以下が尚更一層好ましく、12が最も好ましい。(A)成分の中では、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。(A)成分の例としては例えば、共栄社化学社製の商品名「1.9ND-A」やサートマー社製の商品名「SR262」等が挙げられる。
【0070】
(B)光重合開始剤は、可視光線や紫外線の活性光線により増感させて樹脂組成物の光硬化を促進するために使用する。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジル及びその誘導体、エントラキノン及びその誘導体、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン誘導体、ジエトキシアセトフェノン、4-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体、2-ジメチルアミノエチルベンゾエート、p-ジメチルアミノエチルベンゾエート、ジフェニルジスルフィド、チオキサントン及びその誘導体、カンファーキノン、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-ブロモエチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボキシ-2-メチルエステル、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロライド等のカンファーキノン誘導体、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1等のα-アミノアルキルフェノン誘導体、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジエトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、フェニル-グリオキシリックアシッド-メチルエステル、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル及びオキシ-フェニル-アセチックアシッド2-[2-ヒドロキシ-エトキシ]-エチルエステル等が挙げられる。光重合開始剤は1種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、硬化させる時に390nm以上の可視光線のみを用いて硬化させることができ、有機エレクトロルミネッセンス表示素子にダメージを与えないで硬化させることができる点で、アシルホスフィンオキサイド誘導体が好ましい。アシルホスフィンオキサイド誘導体の中では、ディスプレイとした時に可視光線での透過性が低下せずに、395nm以上の光のみを用いて硬化させることができる点で、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドが最も好ましい。2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイドとしては、BASFジャパン社製「Irgacure TPO」等が挙げられる。
【0071】
(B)光重合開始剤の含有量は、(A)成分と必要に応じて使用する(C)成分の合計100質量部に対して、0.05~6質量部が好ましく、0.5~4質量部がより好ましく、2~3.9質量部が最も好ましく、2.2~3.5質量部が尚更好ましい。(C)成分の含有量が0.05質量部以上であれば、硬化促進の効果が確実に得られるし、6質量部以下であれば、ディスプレイに用いた時に可視光線での透過性が低下することも無い。
【0072】
本実施形態の(メタ)アクリル系樹脂組成物では、含まれる(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が4.80~7.60mmol/gであることが必須である。(メタ)アクリル系樹脂組成物の親水性官能基量は(A)成分及び存在する場合は(C)成分の各(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量を下式によりそれぞれ算出し、その後各材料の親水性官能基量を(メタ)アクリル系樹脂組成物中に配合されている下式に示すそれぞれの材料の質量分率で掛け合わせた積を算出し、その総和を(メタ)アクリル系樹脂組成物の親水性官能基量とした。材料中の質量分率の算出に当たり、(メタ)アクリレートの総和を100質量部とした。

(前記式において、材料とは各(メタ)アクリレート成分のことをいう)
(前記式において、材料とは各(メタ)アクリレート成分のことをいう)

上記親水性官能基量が4.80mmol/g以上だと、反応性基である(メタ)アクリロイル基が多いため、反応性が高くなり、有機EL素子の封止性能を満足に発現し、低透湿性になるため有機EL素子の信頼性が向上し、平坦性が良くなる。7.60mmol/g以下だと、信頼性試験中に有機エレクトロルミネッセンス表示素子用封止剤内部から水分が放出されにくく、有機発光材料層に水分が到達せず、ダークスポットが発生しにくい。反応性と信頼性の観点から、4.80~7.60mmol/gが好ましく、5.00~7.10mmol/gがより好ましい。
【0073】
本実施形態は、(C)成分として(A)成分以外の(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。(C)成分としては、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートからなる群のうちの1種以上を使用することができる。(C)成分の使用により、組成物の親水性官能基量を調整することが可能となり、又、粘度やインクジェット塗布性、透湿性の調整も可能になる。
【0074】
ここで、親水性官能基とは、官能基を構成する原子の中で電気陰性度の差の最大値が、0.6以上のものをいう。そのような親水性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、エステル基、アルデヒド基、ニトロ基、水酸基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エーテル基、アミド基、環状アミド基、スルホキシド基、カルボニル基、カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基、スルフィン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、スルホベタイン基、カルボベタイン基、ホスホベタイン基からなる群の1種以上が好ましい。
【0075】
(C)成分の単官能(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等といったアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、4-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5-テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4-クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート(2-HPA)、2-(メタ)アクリロイロキシヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタル酸、EO(エチレンオキサイド)変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性クレゾール(メタ)アクリレート、EO変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、PO(プロピレンオキサイド)変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド2モル変性)(メタ)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド4モル変性)(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド4モル変性)(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド8モル変性)(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(プロピレンオキサイド2.5モル変性)(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性フタル酸(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の分子内に1個以上の芳香族炭化水素系の環状構造(以下、芳香族炭化水素基ということもある。)を有する単官能(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート等の脂肪族炭化水素系の環状構造(以下、脂環式炭化水素基ということもある。)を有する単官能(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性コハク酸(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、β-(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、n-(メタ)アクリロイルオキシアルキルヘキサヒドロフタルイミド、2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(C)成分の 単官能(メタ)アクリレートとしては、環状アミド基、テトラヒドロフルフリル基、ピペリジニル基等の含ヘテロ環状構造といった環状構造を有する(メタ)アクリレートを使用できる。
【0076】
(C)成分の2官能(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2-エチル-2-ブチル-プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(C)成分の2官能(メタ)アクリレートとしては、下記構造式で表されるエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート化合物、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
下記式中のRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基である。式中のm、nに関して、m+n=2~10が好ましい。
【化1】
【0077】
(C)成分の多官能(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイロキシエチル]イソシアヌレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
(C)成分の親水性官能基量は3.00~15.00mmol/gが好ましい。親水性官能基量が3.00~15.00mmol/gであれば、十分な反応性とOLED素子の信頼性を確保できる。反応性とOLED素子の信頼性の観点から(C)成分の親水性官能基量は4.00~15.00mmol/gが好ましく、4.10~8.20mmol/gが更に好ましく、4.20~7.60mmol/gが尚更一層好ましい。
【0079】
反応性とOLED素子の信頼性、インクジェット塗布性の点で、(C)成分は、炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートからなる群の1種以上であることが好ましい。炭素数8以上のアルキル(メタ)アクリレートとしては、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましく、ラウリル(メタ)アクリレートが最も好ましい。脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートからなる群の1種以上が好ましく、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレートからなる群の1種以上がより好ましい。芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレートが好ましい。
【0080】
(A)成分の含有量は、(A)成分と(C)成分との合計100質量部に対して、30~100質量部が好ましく、30質量部以上100質量部未満がより好ましい。(A)の含有量が30質量部以上だとインクジェット塗布性や低透湿性、有機EL素子の信頼性が優れる。インクジェット塗布性や低透湿性、有機EL素子の信頼性の点で55~99質量部が好ましく、60~95質量部がより好ましく、65~95質量部が更に好ましい。
【0081】
存在する場合の(C)成分の含有量は、(A)成分と(C)成分との合計100質量部に対して、0質量部超70質量部以下が好ましい。(C)成分の含有量が70質量部以下だとインクジェット塗布性や低透湿性、有機EL素子の信頼性が優れる。(C)成分の含有量は、インクジェット塗布性や低透湿性、有機EL素子の信頼性の点で1~45質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、5~35質量部が更に好ましい。
【0082】
前述した通りOLED素子は水分により容易に劣化してしまうため、本実施形態の組成物においては、含水量は少ない方が好ましい。OLED素子の信頼性の点から含水量は90ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、30ppm以下が尚更一層好ましい。
【0083】
このような含水量は市販の水分量測定計を用いて測定できるが、カールフィッシャー水分計を用いるのが一般的である。
【0084】
含水量の低減方法としては、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
【0085】
(1)乾燥剤により水分を除去する。水分を除去した後、乾燥剤をデカンテーション又はろ過により分離する。乾燥剤としては、樹脂組成物に影響がなければ特に限定されないが、高分子吸着剤(モレキュラーシーブ、合成ゼオライト、アルミナ、シリカゲル等)、無機塩(塩化カルシウム、無水硫酸マグネシウム、生石灰、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸カルシウム等)、固体アルカリ類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等が挙げられる。(2)減圧条件下で加熱し、水分を除去する。(3)減圧条件下で蒸留精製する。(4)乾燥窒素や乾燥アルゴンガス等の不活性ガスを各成分に吹き込み水分を除去する。(5)凍結乾燥により水分を除去する。
【0086】
含水量の低減は、混合前の成分毎に水分を低減してもよく、各成分の混合後に水分を低減してもよい。水分量の低減工程は1種以上を使用してもよい。水分量の低減工程後は水分の再混入を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で取り扱うことが好ましい。
【0087】
又、前述した通りOLED素子は酸素によっても容易に劣化してしまうため、本実施形態の組成物においては、溶存酸素量は少ない方が好ましい。OLED素子の信頼性の点から溶存酸素量は20ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましい。一方、溶存酸素は組成物から発生する活性ラジカルと反応し、不活性なパーオキサイドラジカルを生成することにより、組成物の高分子化に伴う増粘を抑制する効果を有するため、貯蔵安定性の点から1ppm以上が好ましく、2ppm以上がより好ましい。
【0088】
このような溶存酸素量は、試薬を用いた滴定法、隔膜を用いた隔膜電極法、蛍光物質を用いた蛍光法等により測定できる。測定方法は特に限定されないが、隔膜電極法が簡便であり、好ましい。
【0089】
溶存酸素量の低減方法としては、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
【0090】
(1)減圧条件下に暴露し、酸素を除去する。(2)乾燥窒素や乾燥アルゴンガス等の不活性ガスを各成分に吹き込み酸素を除去する。(3)低酸素濃度下に暴露して酸素を除去する。
【0091】
溶存酸素量の低減は、混合前の成分毎に酸素を低減してもよく、各成分の混合後に酸素を低減してもよい。溶存酸素量の低減工程は1種以上を使用してもよい。溶存酸素量の低減工程後は酸素の再混入を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で取り扱うことが好ましい。
【0092】
本実施形態の組成物においては、インクジェット吐出性の点で、(メタ)アクリレートはモノマーが好ましい。(A)成分や(C)成分は、モノマーが好ましい。モノマーの分子量は、1000以下が好ましい。インクジェット吐出性の点で、2官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマー及び多官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマーは、(A)成分や(C)成分を含有する(メタ)アクリレート100質量部中、3質量部以下含有することが好ましく、1質量部以下含有することがより好ましく、含有しないことが最も好ましい。オリゴマー/ポリマーとは、オリゴマーとポリマーからなる群の1種以上をいう。オリゴマー/ポリマーの分子量は、1000を超えることが好ましい。
【0093】
本実施形態の組成物は、貯蔵安定性向上のために、(D)酸化防止剤を使用できる。酸化防止剤としては、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシル、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、カテコール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノtert-ブチルハイドロキノン、2,5-ジtert-ブチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、2,5-ジtert-ブチル-p-ベンゾキノン、ピクリン酸、クエン酸、フェノチアジン、tert-ブチルカテコール、2-ブチル-4-ヒドロキシアニソール及び2,6-ジtert-ブチル-p-クレゾール等が挙げられる。酸化防止剤は、2種以上を組み合わせることが好ましい。これらの中では、透明性や貯蔵安定性等の効果が大きい点で、フェノール系酸化防止剤が好ましい。フェノール系酸化防止剤の中では、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシル、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)からなる群のうちの1種以上が好ましく、3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシルと2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を含有することがより好ましい。3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシルとしては、BASFジャパン社製「Irganox 1076」等が挙げられる。2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)としては、住友化学工業社製「SUMILIZER MDP-S」等が挙げられる。3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシルと2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を含有する場合、3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシルと2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)の含有比率は、3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシルと2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)の合計100質量部中、質量比で、3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオン酸オクタデシル:2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)=10~90:90~10が好ましく、25~75:75~25がより好ましい。
【0094】
酸化防止剤の含有量は、(A)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.001~3質量部が好ましく、0.01~2質量部がより好ましい。0.001質量部以上であれば貯蔵安定性が確保されるし、3質量部以下であれば良好な接着性が得られ、未硬化になることもない。
【0095】
本実施形態の組成物は、樹脂組成物として使用できる。本実施形態の組成物は、光硬化性樹脂組成物として使用できる。本実施形態の組成物は、有機EL表示素子用封止剤として使用できる。
【0096】
可視光線又は紫外線を照射して、組成物を硬化させる方法としては、組成物に可視光線又は紫外線の少なくとも一方を照射して硬化する方法等が挙げられる。このような可視光線又は紫外線を照射するためのエネルギー照射源としては、重水素ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、キセノン-水銀混成ランプ、ハロゲンランプ、エキシマランプ、インジウムランプ、タリウムランプ、LEDランプ、無電極放電ランプ等のエネルギー照射源が挙げられる。本実施形態の組成物は、有機EL素子にダメージを与えづらい点で、380nm以上の波長で硬化させることが好ましく、395nm以上の波長で硬化させることがより好ましく、395nmの波長で硬化させることが最も好ましい。エネルギー照射源の波長としては、赤外光を発光することにより照射部の温度が上がり、有機EL素子にダメージを与える可能性が生じるため、500nm以下であることが好ましい。エネルギー照射源としては、発光波長が単波長であるLEDランプが好ましい。
【0097】
可視光線又は紫外線を照射して、組成物を硬化させる際は、波長395nmにおいて100~8000mJ/cm2のエネルギー線を組成物に照射し硬化させることが好ましい。100~8000mJ/cm2であれば組成物が硬化し、十分な接着強度が得られる。100mJ/cm2以上であれば組成物が十分に硬化し、8000mJ/cm2以下であれば有機EL素子にダメージを与えない。組成物を硬化させる際のエネルギー量は、300~2000mJ/cm2がより好ましい。
【0098】
本実施形態の組成物の透明性は、以下の通りである。有機物膜の厚さが1μm以上10μm以下の時、360nm以上800nm以下の紫外-可視光線領域の分光透過率は、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上が最も好ましい。95%以上であれば、輝度、コントラストに優れた有機EL装置を提供することができる。
【0099】
本実施形態の組成物からなる封止層は、無機/有機積層体を1セットとして数えると、1~5セットであることが好ましい。無機/有機積層体が6セット以上の場合には、有機EL素子に対する封止効果が5セットの場合とほぼ同じとなるからである。無機/有機積層体の無機物膜の厚さは、50nm~1μmが好ましい。無機/有機積層体の有機物膜の厚さは1~15μmが好ましく、3~10μmがより好ましい。有機物膜の厚みが1μm以上だと、素子形成時に発生するパーティクルを完全に被覆し、無機物膜上に平坦性を確保しながら塗布できる。有機物膜の厚みが15μm以下だと、有機物膜の側面より水分が侵入せず、有機EL素子の信頼性が向上する。
【0100】
封止基板は、封止層の最上位有機物膜の上面全体を覆うように密着して形成される。この封止基板としては、前述の基板が挙げられる。これらの中では、可視光線に対して透明な基板が好ましい。可視光線に対して透明な基板(透明封止基板)の中では、ガラス基板、プラスチック基板からなる群のうちの1種以上が好ましく、ガラス基板がより好ましい。
【0101】
透明封止基板の厚さは、1μm以上1mm以下が好ましく、10μm以上800μm以下がより好ましく、50μm以上300μm以下が最も好ましい。透明封止基板を封止層の更に上層に設けることによって、最上位有機物膜の表面が気体に触れると進行する劣化を抑えることができ、有機EL装置のバリア性を高めることができる。
【0102】
次に、このような構成を有する有機EL装置の製造方法について説明する。まず、第1の基板上に、従来公知の方法によって、所定の形状にパターニングした陽極、発光層を含む有機EL層、及び陰極を順に形成して、有機EL素子を形成する。例えば、有機EL装置をドットマトリックス表示装置として使用する場合、発光領域をマトリックス状に区切るためにバンクが形成され、このバンクで囲まれる領域に発光層を含む有機EL層が形成される。
【0103】
次いで、有機EL素子が形成された基板上に、スパッタ法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等のCVD法等の成膜方法によって、所定の厚さを有する第1の無機物膜を形成する。その後、溶液塗布法やスプレー塗布法等の塗膜形成方法やフラッシュ蒸着法、インクジェット法等を用いて、第1の無機物膜上に本実施形態の組成物を付着させる。これらの中では、生産性の点でインクジェット法が好ましい。その後、紫外線や電子線、プラズマ等のエネルギー線の照射によって、組成物が硬化し、第1の有機物膜が形成される。以上の工程によって、1セットの無機/有機積層体が形成される。組成物の硬化率は、本実施形態の効果が奏される限りにおいては特に限定されないが、例えば、後述する測定方法に従って得られる値で90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
【0104】
以上に示される無機/有機積層体の形成工程が、所定の回数だけ繰り返される。但し、最後のセット、即ち、最上層の無機/有機積層体に関しては、上面が平坦化するように組成物を、塗布法やフラッシュ蒸着法、インクジェット法等によって、無機物膜の上面に付着させても良い。
【0105】
次いで、基板上の組成物を付着させた面に、透明封止基板を貼り合わせる。貼り合わせの際、位置合わせを行う。その後、透明封止基板側から、エネルギー線を照射することによって、最上層の無機物膜と透明封止基板との間に存在する、本実施形態の組成物を硬化させる。これによって、組成物が硬化し、最上位有機物膜を形成すると共に、最上位有機物膜と透明封止基板とが接着される。以上によって、有機EL装置の製造方法が終了する。
【0106】
無機物膜上に組成物を付着させた後、部分的にエネルギー線を照射して重合させてもよい。このようにすることで、透明封止基板を載置した時に、最上位有機物膜となる組成物の形状の崩れを防止できる。無機物膜と有機物膜の厚さは、各無機/有機積層体で同じにしてもよいし、各無機/有機積層体で異なっていてもよい。
【0107】
上述した説明では、トップエミッション型の有機EL装置を例に挙げて説明した。有機EL層で生じる光を基板側から出射するボトムエミッション型の有機EL装置にも、本実施形態を適用することができる。
【0108】
本実施形態の有機EL素子は、面状光源、セグメント表示装置、ドットマトリックス表示装置として用いることができる。
【0109】
本実施形態によれば、第1の基板上に形成された有機EL素子を外気と遮断するための封止層を形成し、更にその封止層上に透明封止基板を配置するので、有機EL素子に対する十分な水蒸気と酸素に対するバリア性を有する封止構造を得ることができる。本実施形態によれば、透明封止基板と封止層との間で十分な接着強度を有する封止構造を得ることができる。
【0110】
本実施形態によれば、封止層の最上位有機物膜を構成する本実施形態の組成物を付着させた後に、組成物を硬化させることなく透明封止基板を載置して、その後に組成物を硬化させるようにするので、封止層を構成する最上位有機物膜の形成と同時に、封止層と透明封止基板との間の接着を行うことができる。その結果、本実施形態は、封止層と透明封止基板とを接着剤で接着する場合に比して、工程を簡略化できるという効果を有する。
【0111】
本実施形態の組成物は、JIS Z 0208:1976に準拠して、硬化体を85℃、85%RHの環境下に24時間暴露して測定した100μm厚での透湿度の値が、350g/m2以下であることが好ましい。透湿度が350g/m2以下だと、有機発光材料層に水分が到達せず、ダークスポットが発生しにくい。
【0112】
本実施形態によれば、インクジェット法により容易に塗布することができ、OLED素子の信頼性、硬化体の透明性及びバリア性に優れる有機EL表示素子用封止剤を提供できる。本実施形態によれば、有機EL表示素子用封止剤を用いた有機EL表示素子の製造方法を提供できる。インクジェット法とは、ノズルから微細な液滴を吐出し、対象物に非接触で塗布を行う方法をいう。
【実施例
【0113】
(実験例1~17)
以下の方法により組成物を作製し、評価した。
【0114】
(組成物の作製)
表1の使用材料を用いた。表2の組成で各使用材料を混合した後にモレキュラーシーブ(ユニオン昭和社製 5Aペレット状)を用いて脱水した後に酸素濃度を5ppm以下としたグローブボックス内に72時間以上暴露することで組成物を調製した。得られた組成物を使用して、以下に示す評価方法にてE型粘度、含水量、溶存酸素量、透湿度、塗布面積の拡大率、硬化率、透明性、有機EL評価の測定を行った。結果を表2に示す。表2の組成物名には、表1に示す略号を用いた。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
〔E型粘度〕
組成物の粘度はE型粘度計(コーンプレート型:コーン角度1°34′、コーンロータの半径24mm)を用い、温度25℃、回転数100rpmの条件下で測定した。
【0118】
[含水量]
組成物の含水量は、カールフィッシャー溶液としてアクアミクロンAX(三菱化学(株)製)を用い、微量水分測定装置CA-06(三菱化学(株)製)により測定した。
【0119】
[溶存酸素量]
組成物の溶存酸素量は溶存酸素計(飯島電子工業社製、商品名「DOメーター B-506(隔膜型ガルバニ電池式)」)を用いて測定した。
【0120】
〔光硬化条件〕
組成物の硬化物性の評価に際し、下記光照射条件により、組成物を硬化させた。395nmの波長を発光するLEDランプ(HOYA社製UV-LED LIGHT SOURCE H-4MLH200-V1)により、395nmの波長の積算光量1,500mJ/cm2の条件にて、組成物を光硬化させ、硬化体を得た。
【0121】
〔透湿度〕
厚さ0.1mmのシート状の硬化体を前記光硬化条件にて作製し、JIS Z0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準じ、吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を用い、雰囲気温度85℃、相対湿度85%の条件で測定した。
【0122】
硬化後の上記組成物及び硬化前の上記組成物に、赤外分光装置(サーモサイエンティフィック社製、Nicolet is5、DTGS検出器、分解能4cm-1)を用い、該測定試料に赤外光を入射して赤外分光スペクトルを測定した。得られた赤外分光スペクトルにて、硬化前後でピーク変化を生じない、2950cm-1付近に観測されるメチレン基の炭素-水素結合の伸縮振動ピークを内部標準とし、この内部標準の硬化前後のピーク面積と、(メタ)アクリレートの炭素-炭素二重結合に結合する炭素-水素結合の面外変角振動のピークに帰属される、810cm-1付近のピークの硬化前後の面積から、次式を用い硬化率を算出した。
硬化率(%)=[1-(Ax/Bx)/(Ao/Bo)]×100
ここで、
Ao:810cm-1付近の硬化前のピーク面積を表す。
Ax:810cm-1付近の硬化後のピーク面積を表す。
Bo:2950cm-1付近の硬化前のピーク面積を表す。
Bx:2950cm-1付近の硬化後のピーク面積を表す。
【0123】
〔透明性〕
各実験例で得られた組成物をそれぞれ25mm×25mm×1mmt(mm厚)のガラス板(無アルカリガラス、Corning社製 Eagle XG)2枚の間に10μmの厚みに形成し、LEDランプを用いて波長395nmの紫外線を照射量が1500mJ/cm2となるように照射することにより硬化させて硬化体を得た。得られた硬化体について、紫外-可視分光光度計(島津製作所社製「UV-2550」)にて380nm、412nm、800nmの分光透過率を測定し、透明性とした。
【0124】
〔塗布面積の拡大率〕
各実験例で得られた組成物を70mm×70mm×0.7mmtの基材(無アルカリガラス(Corning社製 Eagle XG))上にインクジェット吐出装置(武蔵エンジニアリング社製MID500B、溶剤系ヘッド「MIDヘッド」)を用いて4mm×4mm×10μmtとなるようにパターン塗布した。無アルカリガラスは使用前に、アセトン、イソプロパノールそれぞれを用いて洗浄し、その後にテクノビジョン社製UVオゾン洗浄装置UV-208を用いて5分間洗浄した。パターン塗布直後に雰囲気温度23℃、相対湿度50%の条件で5分間放置し、塗布面積の拡大率(下記式参照)によりインクジェット塗布後の平坦性を評価した。塗布面積の拡大率が小さい程、塗布後の形状が維持され、位置制御性に優れ、好ましいと評価した。
(塗布面積の拡大率)=((パターン塗布してから5分後に、基材表面に接触した組成物の接触面積)/(パターン塗布直後の、基材表面に接触した組成物の接触面積))×100(%)
【0125】
〔有機EL評価〕
【0126】
〔有機EL素子基板の作製〕
30mm角のITO電極付きガラス基板(厚さ700μm)を、アセトン、イソプロパノールそれぞれを用いて洗浄した。その後、真空蒸着法にて以下の化合物を薄膜となるように順次蒸着し、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極からなる2mm角の有機EL素子を有する基板を得た。各層の構成は以下の通りである。
・陽極 ITO、陽極の膜厚150nm
・正孔注入層 4,4’,4”-トリス{2-ナフチル(フェニル)アミノ}トリフェニルアミン(2-TNATA)
・正孔輸送層 N,N’-ジフェニル-N,N’-ジナフチルベンジジン(α-NPD)
・発光層 トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(金属錯体系材料)、発光層の膜厚1000Å、発光層は電子輸送層としても機能する。
・電子注入層 フッ化リチウム
・陰極 アルミニウム 膜厚150nm
【0127】
〔有機EL素子の作製〕
その後、2mm×2mmの有機EL素子を覆うように、10mm×10mmの開口部を有するマスク(覆い)を設置し、プラズマCVD法にてSiN膜を形成した。次に、各実験例で得られた組成物(有機物膜)を、窒素雰囲気下にて上記インクジェット装置を用いて2mm×2mmの有機EL素子を覆うように厚み10μmで塗布し、前記光硬化条件にて、この組成物を硬化させた後、該硬化体の全体を覆うように、10mm×10mmの開口部を有するマスク(覆い)を設置し、プラズマCVD法にてSiN膜を形成して有機EL表示素子を得た。
【0128】
形成されたSiN(無機物膜)の厚さは、約1μmであった。その後、30mm×30mm×25μmtの透明な基材レス両面テープを用いて30mm×30mm×0.7mmtの無アルカリガラス(Corning社製 Eagle XG)と貼り合わせ、有機EL素子を作製した(有機EL評価)。
【0129】
〔初期〕
作製した直後の有機EL素子に6Vの電圧を印加し、有機EL素子の発光状態を目視と顕微鏡で観察し、ダークスポットの直径を測定した。
【0130】
〔耐久性〕
作製した直後の有機EL素子を、85℃、相対湿度85質量%の条件下にて500時間暴露した後、6Vの電圧を印加し、有機EL素子の発光状態を目視と顕微鏡で観察し、ダークスポットの直径を測定した。
【0131】
ダークスポットの直径は、パッシベーション膜のピンホールへの封止剤の浸透の程度及び封止剤中の水分がアウトガスとして排出される程度を評価する指標として捉えることができる。ダークスポットの直径は、300μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、ダークスポットが存在しないことが最も好ましいとして評価した。
【0132】
上記実験例から以下のことが判った。
【0133】
本実施形態に係る組成物は、有機EL素子の信頼性や高精度なインクジェットによる吐出性、インクジェット塗布後の形状維持性に優れ、低透湿性に優れた組成物を提供できる。
【0134】
(A)成分として炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートと、(B)成分として光重合開始剤を含有し、(メタ)アクリレートあたりの親水性官能基量が4.80~7.60mmol/gの範囲にあることを満たした場合、信頼性、インクジェット吐出性、塗布後の平坦性、低透湿性が優れていた。又、初期に発生するダークスポットの直径も小さかった(実験例1~12)。
【0135】
一方、親水性官能基量が4.80~7.60mmol/gの範囲にあることを満たさない場合、初期に発生するダークスポットの直径が大きいだけで無く、透湿性が高く信頼性に問題があった(実験例13~17)。
【0136】
又、炭素数4以上20以下のアルカンジオールジ(メタ)アクリレートを用いない場合、塗布面積の拡大率が小さく、インクジェット吐出性、塗布後の平坦性に問題があるだけで無く、透湿性も高く信頼性に問題があった(実験例15)。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本実施形態の組成物は、高精度なインクジェットによる吐出性とインクジェット塗布後の平坦性に優れ、低透湿性、透明性を有し、有機EL素子を劣化させない。本実施形態は、短時間でインクジェット塗布ができる。本実施形態の組成物は、エレクトロニクス製品、特に、有機EL等のディスプレイ部品や、CCD、CMOSといったイメージセンサー等の電子部品、更には半導体部品等で用いられる素子パッケージ等の接着において、好適に適用できる。特に、有機EL封止用の接着において最適であり、有機EL素子等の素子パッケージ用接着剤に要求される特性を満足する。
【0138】
上記組成物は本実施形態の一態様であり、本実施形態に係る組成物を使用した有機EL素子用封止剤、硬化体、被覆体、接合体、有機EL装置、ディスプレイ、並びにそれらの製造方法等も、同様の構成及び効果を有する。