(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20231004BHJP
【FI】
C01B32/16
(21)【出願番号】P 2020533505
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029533
(87)【国際公開番号】W WO2020027000
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2018143537
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 成人
(72)【発明者】
【氏名】平山 大悟
(72)【発明者】
【氏名】小田 実生
(72)【発明者】
【氏名】三木 康史
(72)【発明者】
【氏名】香川 尚人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】高野 慶
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/105167(WO,A1)
【文献】特開2011-037677(JP,A)
【文献】特表2003-520176(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145950(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016147(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 21/12
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相流動CVD法によるカーボンナノチューブの製造方法であって、
Al
2O
3とSiO
2の合計質量が全質量の90%以上を占めており、かつ、Al
2O
3/SiO
2の質量比が1.0~2.3の範囲にある物質(A)を、1200℃以上に加熱する工程と、
前記物質(A)を1200℃以上に加熱している環境に存在しているガスを、カーボンナノチューブの原料ガスと接触させて、カーボンナノチューブを生成させる工程と、
を備える、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
1200℃以上に加熱されている前記物質(A)と、前記カーボンナノチューブの原料ガスとを共存させる、請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記物質(A)を1200℃以上に加熱している環境に存在しているガスと、カーボンナノチューブの原料ガスとを混合する工程を備える、請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記物質(A)のかさ密度が、2.2~3.0g/cm
3の範囲にある、請求項1~3のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記物質(A)のAl
2O
3/SiO
2の質量比が、1.3~1.9の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
前記原料ガスは、炭素源と触媒とを含んでいる、請求項1~5のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
得られるカーボンナノチューブの直径が2.5nm以下となる、請求項1~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
得られるカーボンナノチューブの60%以上が単層カーボンナノチューブである、請求項1~7のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、炭素原子のみで構成される直径がナノメートルサイズの筒状の物質であり、その構造的な特徴に由来する、導電性、熱伝導性、機械的強度、化学的性質などの特性から注目を集めている物質であり、エレクトロニクス分野やエネルギー分野をはじめ、様々な用途で実用化が検討されている。
【0003】
カーボンナノチューブの合成法は大きく3つに分類される。アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD)法である。中でもCVD法は、アーク放電法やレーザー蒸発法と異なり、固体の炭素源を用いずにガスの炭素源を用いるため、反応炉内に連続的に炭素源を注入し続けることができ、大量合成に適した方法である。また、得られるカーボンナノチューブの純度が高く、生産コストが低い点でも優れた合成法である。
【0004】
CVD法の中でも気相流動CVD法は、多層カーボンナノチューブに比べて電気や熱の伝導性が極めて高いなどの多くの優れた特性を有する単層カーボンナノチューブの合成に特に適した方法である。
【0005】
より具体的な気相流動CVD法によるカーボンナノチューブの製造方法として、たとえば、アモルファスカーボンの副生を抑制した単層カーボンナノチューブの製造方法(特許5046078号)、高純度の単層カーボンナノチューブの製造方法(特許4968643号)、単層カーボンナノチューブを高収率で製造する方法(特開2007-246309)等が挙げられる。
【0006】
これらのカーボンナノチューブの製法によって高純度の単層カーボンナノチューブを製造することができる。しかしながら、カーボンナノチューブの収率はわずか数パーセントにとどまっており、単層カーボンナノチューブを大量生産できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5046078号
【文献】特許4968643号
【文献】特開2007-246309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高純度の単層カーボンナノチューブを高効率で製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、気相流動CVD法によるカーボンナノチューブの製造方法において、Al2O3とSiO2を特定の組成で含む物質(A)を1200℃以上に加熱し、当該物質(A)を1200℃以上に加熱している環境に存在しているガスを、カーボンナノチューブの原料ガスと接触させることにより、高純度の単層カーボンナノチューブを高効率で製造できることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成した発明である。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に関する。
項1. 気相流動CVD法によるカーボンナノチューブの製造方法であって、
Al2O3とSiO2の合計質量が全質量の90%以上を占めており、かつ、Al2O3/SiO2の質量比が1.0~2.3の範囲にある物質(A)を、1200℃以上に加熱する工程と、
前記物質(A)を1200℃以上に加熱している環境に存在しているガスを、カーボンナノチューブの原料ガスと接触させて、カーボンナノチューブを生成させる工程と、
を備える、カーボンナノチューブの製造方法。
項2. 1200℃以上に加熱されている前記物質(A)と、前記カーボンナノチューブの原料ガスとを共存させる、項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項3. 前記物質(A)を1200℃以上に加熱している環境に存在しているガスと、カーボンナノチューブの原料ガスとを混合する工程を備える、項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項4. 前記物質(A)のかさ密度が、2.2~3.0g/cm3の範囲にある、項1~3のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項5. 前記物質(A)のAl2O3/SiO2の質量比が、1.3~1.9の範囲である、項1~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項6. 前記原料ガスは、炭素源と触媒とを含んでいる、項1~5のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項7. 得られるカーボンナノチューブの直径が2.5nm以下となる、項1~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項8. 得られるカーボンナノチューブの60%以上が単層カーボンナノチューブである、項1~7のいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
項9. ケイ素を0.1質量%以上含んでいる、カーボンナノチューブ組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法によれば、高純度の単層カーボンナノチューブを高効率で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】気相流動CVD法でカーボンナノチューブを製造するための装置を示す模式図である。
【
図2】気相流動CVD法でカーボンナノチューブを製造するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法は、気相流動CVD法によりカーボンナノチューブを製造する方法である。
【0016】
気相流動CVD法とは、CVD法の1つであり、触媒の担体となる基板を用いずに、触媒を加熱した反応管に導入し、キャリアガスが流れる気相中で浮遊・流動した状態で炭素源と化学反応をさせ、CNTを浮遊させた状態で成長させる方法である。
【0017】
本発明のカーボンナノチューブ(CNT)の製造方法は、物質(A)を1200℃以上に加熱する工程と、当該物質(A)を1200℃以上に加熱している環境に存在しているガス(以下、「物質(A)の加熱環境ガス」ということがある。)を、カーボンナノチューブの原料ガスと接触させて、カーボンナノチューブを生成させる工程とを備えている。ここで、物質(A)は、Al2O3とSiO2の合計質量が全質量の90%以上を占めており、かつ、Al2O3/SiO2の質量比が1.0~2.3の範囲にあることを特徴としている。
【0018】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法においては、物質(A)の加熱環境ガスを、カーボンナノチューブの原料ガスと接触させることにより、高純度の単層カーボンナノチューブを高効率で製造することができる。物質(A)の加熱環境ガスは、当該ガス雰囲気において、物質(A)を1200℃以上に加熱することで得られるガスである。
【0019】
物質(A)の加熱環境ガスとカーボンナノチューブの原料ガスとを接触させる方法としては、特に制限されない。例えば、1200℃以上に加熱されている物質(A)と、カーボンナノチューブの原料ガスとを共存させる方法を採用することができる。この方法においては、例えば、気相流動CVD法に使用される反応管内に、物質(A)を設置し、物質(A)を1200℃以上に加熱した状態で、原料ガスを反応管内に導入することによって、物質(A)の加熱環境ガスと原料ガスとを接触させて、カーボンナノチューブを生成させることができる。また、気相流動CVD法に使用される反応管の少なくとも内表面を物質(A)により構成し、反応管を1200℃以上に加熱した状態で、原料ガスを反応管内に導入することによって、物質(A)の加熱環境ガスと原料ガスとを接触させて、カーボンナノチューブを生成させることができる。
【0020】
また、物質(A)の加熱環境ガスとカーボンナノチューブの原料ガスとを接触させる方法としては、物質(A)の加熱環境ガスと、カーボンナノチューブの原料ガスとを混合する方法を採用することもできる。具体的には、例えば、物質(A)の加熱環境ガスと、カーボンナノチューブの原料ガスとをそれぞれ用意し、これらのガスを気相流動CVD法に使用される反応管に導入する方法を採用することができる。
【0021】
物質(A)のAl2O3とSiO2の合計質量は、物質(A)の全質量(100%)の90%以上である。Al2O3とSiO2の当該合計質量は、95%以上であることがより好ましい。物質(A)を構成するその他の主な成分として、Fe2O3、K2O、Na2O等を例示することができ、Fe2O3が0.5%程度、K2Oが1%程度、Na2Oが0.2%程度を含まれていてもよい。
【0022】
物質(A)としては、Al2O3/SiO2(質量比)が1.0~2.3の範囲にあるものを用いる。Al2O3/SiO2(質量比)の下限は1.2以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましい。Al2O3/SiO2(質量比)の上限は2.1以下であることが好ましく、1.9以下であることがより好ましい。
【0023】
物質(A)のかさ密度の下限は2.2g/cm3以上であることが好ましく、2.4g/cm3以上であることがより好ましく、上限は3.0g/cm3以下であることが好ましく、2.8g/cm3以下であることがより好ましい。
【0024】
気相流動CVD法に用いる炭素源については、液状またはガス状の炭素化合物を用いることができる。具体例として、ガス状の炭素化合物として、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、アセチレン等が好適に用いられる。液状の炭素化合物として、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が好ましく用いられる。特に好ましくは、エチレン、ベンゼン、トルエン、デカリンが用いられる。いずれの炭素化合物についても、混合、併用してもよい。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブの製造方法においては、触媒を用いることが好ましい。触媒については、遷移金属化合物、遷移金属微粒子であることが好ましい。遷移金属化合物は、熱分解等により、遷移金属微粒子を生成できるものである。遷移金属(遷移元素)としては、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウムであることが好ましく、鉄、コバルト、ニッケルであることが好ましい。遷移金属化合物としてはフェロセン、コバルトセン、ニッケロセン等のメタロセン化合物、塩化鉄、塩化コバルト等の塩化物、アセチルアセトナト鉄等の金属アセチルアセトナート、鉄カルボニル等の金属カルボニルであることが好ましく、フェロセン、コバルトセン、ニッケロセン等のメタロセン化合物であることがより好ましく、フェロセンであることが特に好ましい。
【0026】
遷移金属微粒子の粒径は、0.1~50nmであることが好ましく、0.3~15nmであることがより好ましい。微粒子の粒径は透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0027】
触媒の供給方法(カーボンナノチューブの原料ガスや、物質(A)の加熱環境ガスに、触媒を含ませて、触媒の存在下にカーボンナノチューブを生成させる方法)としては、遷移金属化合物、遷移金属微粒子等の触媒を反応管に供給することができる方法であれば、特に限定されることはなく、遷移金属化合物を溶媒に溶解させた状態で供給する方法や遷移金属化合物を気化させた状態で反応管に導入する方法を例示することができる。本発明においては、カーボンナノチューブの原料ガスが、炭素源と触媒とを含んでいることが好ましい。
【0028】
遷移金属化合物を溶媒に溶解させた状態で供給する方法において、溶媒は特に限定されないが、炭素源として用いられる液状の炭素化合物であることが好ましい。具体的には、炭素化合物と触媒を含む溶液を反応管内に導入し、気化させて原料ガスとする方法や、炭素化合物と触媒を含む溶液を気化させて原料ガスとし、これを反応管内に導入する方法などが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法においては、カーボンナノチューブの生成反応を促進するため、硫黄化合物の存在下にカーボンナノチューブを生成させることが好ましい。硫黄化合物の例としては、有機硫黄化合物、及び無機硫黄化合物を挙げることができる。有機硫黄化合物としては、例えば、チオフェン、チアナフテン、ベンゾチオフェンを挙げることができ、無機硫黄化合物としては、単体硫黄、二硫化炭素、硫化水素を挙げることができる。
【0030】
硫黄化合物の供給方法(カーボンナノチューブの原料ガスや、物質(A)の加熱環境ガスに、硫黄化合物を含ませる方法)としては、特に限定されないが、硫黄化合物を原料ガスに含ませる場合であれば、炭素源と触媒を含む溶液にさらに硫黄化合物を混合する方法を例示することができる。
【0031】
炭素源、触媒、硫黄化合物の質量比率は、炭素源100質量部に対して、触媒1~20質量部、硫黄化合物0.1~10質量部であることが好ましい。
【0032】
キャリアガスについては、水素、アルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。物質(A)を1200℃以上に加熱する環境は、キャリアガス雰囲気であってもよいし、キャリアガスと前記の原料ガスの混合ガス雰囲気であってよい。具体的には、物質(A)の加熱環境ガスとカーボンナノチューブの原料ガスとを接触させる方法において、例えば、1200℃以上に加熱されている物質(A)と、カーボンナノチューブの原料ガスとを共存させる方法を採用する場合には、物質(A)を1200℃以上に加熱する環境は、キャリアガスと原料ガスの混合ガス雰囲気となる。また、物質(A)の加熱環境ガスと、カーボンナノチューブの原料ガスとを混合する方法を採用する場合には、キャリアガス雰囲気において、物質(A)を1200℃以上に加熱し、得られたガスを、原料ガスと混合することができる。
【0033】
キャリアガスの線速度は、反応領域の温度や反応炉の有効加熱長にもよるが、400~2500cm/分の範囲で好ましくCNTを生成させることができる。更に好ましくは、600~1600cm/分の範囲とすることが好ましい。
【0034】
標準状態(0℃、1気圧)でのキャリアガスに対して、炭素源の炭素原子モル濃度が、0.30mmol/L~1.1mmol/Lの範囲で好ましくCNTを生成させることができる。更に好ましくは、0.45mmol/L~0.80mmol/Lとすることが好ましい。
【0035】
本発明において反応器は特に限定しないが、縦型反応器を用いて反応させることが好ましい。反応器は、例えば管形状を有する反応器を好ましく用いることができる。
【0036】
本発明において、反応管は1200℃以上の耐熱性し、安全に使用できるものであれば、特に限定されることなく使用することができる。前記のとおり、反応管の少なくとも内表面を物質(A)で構成してもよいし、反応管の全体を物質(A)により構成してもよい。
【0037】
物質(A)の加熱温度は、1200℃以上であればよいが、好ましくは1200~1800℃程度、より好ましくは1300℃~1500℃程度が挙げられる。また、反応管の少なくとも内表面を物質(A)で構成する場合であれば、反応管はその一部乃至は全体を加熱することにより、反応領域の温度を1200~1800℃に維持することで、触媒と炭素源を好ましく反応させることができる。更に好ましくは、反応領域の温度を1300℃~1500℃の範囲に維持することが好ましい。
【0038】
なお、物質(A)の加熱環境ガスとカーボンナノチューブの原料ガスと接触させてカーボンナノチューブを生成させる際の温度は、特に制限されないが、好ましくは800℃以上、より好ましくは1200℃以上、さらに好ましくは1200~1800℃程度、さらに好ましくは1300℃~1500℃程度が挙げられる。物質(A)の加熱環境ガスとカーボンナノチューブの原料ガスとを接触させる方法において、例えば、1200℃以上に加熱されている物質(A)と、カーボンナノチューブの原料ガスとを共存させる方法を採用する場合には、物質(A)の加熱温度と、カーボンナノチューブを生成させる際の温度とは実質的に同じになる。
【0039】
本発明において、カーボンナノチューブの収率を更に向上させるために前記物質(A)で形成された反応管を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法により製造されるカーボンナノチューブの炭素純度は80%以上であることが好ましく、84%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の製造方法により製造されるカーボンナノチューブのGバンドとDバンドの強度比G/Dは60以上であることが好ましく、65以上であることが好ましく、70以上であることが特に好ましい。G/Dはラマン分光装置により測定され、共鳴ラマン散乱法(励起波長532nm)で測定したラマンスペクトルにおいて、Gバンド(1590cm-1付近)とDバンド(1300cm-1付近)のピーク強度比で算出される。G/D比の高いほど、カーボンナノチューブの構造における欠陥量が少ないことが示される。
【0042】
本発明の製造方法により製造されるカーボンナノチューブの直径は3.0nm以下であることが好ましく、2.5nm以下であることがより好ましく、2.2nm以下であることが特に好ましい。
【0043】
本発明のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを高純度で含んでいればよく、単層カーボンナノチューブに加えて、多層カーボンナノチューブが含まれていてもよい。例えば、本発明の製造方法により得られるカーボンナノチューブの60質量%以上が単層カーボンナノチューブである。
【0044】
また、本発明のカーボンナノチューブはケイ素を0.1質量%以上含有するカーボンナノチューブ組成物であることが好ましい。上限は特に限定されないが、ケイ素を5質量%以下含有するカーボンナノチューブ組成物であることが好ましく、2.5質量%以下を含有するカーボンナノチューブ組成物であることがより好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
図1または
図2に示す装置を用いてカーボンナノチューブを製造した。
図1において、1は原料噴霧ノズル、2は反応管、3はヒーター、4はカーボンナノチューブ回収器である。
図2において、1~4は
図1に同じで、5は挿入物質である。
【0047】
以下の試薬等を用いてカーボンナノチューブの合成を行った。
トルエン:関東化学
フェロセン:和光純薬工業(株)
チオフェン:東京化成工業
エチレン:住友精化
水素:イワタニガス
【0048】
以下の分析装置を用いてカーボンナノチューブの評価を行った。
【0049】
(熱重量分析)
示差熱熱重量同時測定装置((株)日立ハイテクサイエンス STA7200RV)を用いて、空気流量200cc/分で試料約7mgを室温から900℃まで昇温速度10℃/分で加熱し、室温から900℃の温度範囲での重量減少割合を評価した。
【0050】
(ラマン分光装置)
レーザーラマン顕微鏡(ナノフォトン(株) RAMANtouch VIS-NIR-DIS)を用いて、レーザー波長532nmで測定を行った。カーボンナノチューブの直径(D)は、RBM(Radial Breathing Mode)ピーク(100~350cm-1)ωより以下の式(1)を用いて算出した。
D(nm)=248/ω・・・(1)
また、カーボンナノチューブの結晶性を表すGバンドとDバンドの強度比G/Dは、Gバンド(1590cm-1付近)とDバンド(1300cm-1付近)のピーク強度比より算出した。
【0051】
(元素分析)
ICP発光分析装置(ICP-AES)を用いて、アルカリ溶融‐ICP発光分析法で分析を行った。具体的には、CNTを空気中で800℃まで加熱し得られた灰分に、アルカリとしてNa2CO3を加え900℃まで昇温し融解させ冷却後、それに純水を加えたものを検液としてICP分析を行い、CNTに含まれるSi含有量(質量%)を評価した。
【0052】
(透過型電子顕微鏡写真)
CNTをエタノールに超音波バスを用いて分散させ、分散液をグリッド上に滴下し乾燥させたものを、日本電子株式会社製JEM-2010を用いて評価した。単層CNT(SWNT)の存在比率は、視野角20nm×20nmでCNTを100本観察して評価した。
【0053】
(カーボンナノチューブの合成)
<実施例1>
図2に示すカーボンナノチューブ製造装置を用いて、カーボンナノチューブの合成を行った。挿入物質5にAl
2O
3+SiO
2質量=96%、Al
2O
3/SiO
2=1.4、かさ密度=2.7、外径10mm、長さ1000mmを用い、反応管2にAl
2O
3+SiO
2質量=99%、Al
2O
3/SiO
2=2.7、かさ密度=3.1、内径50mm、外径60mm、長さ1400mmを用い、管内にアルゴンガスを流し、アルゴン気流中で反応管をヒーター3(有効加熱長900)により、1400℃まで昇温した。その後、アルゴンの供給に替えて、キャリアガスとして水素ガスを15NL/分で流した。続いて、原料噴霧ノズル1より原料液(トルエンにフェロセンとチオフェンをモル比100:4:1で溶解させた溶液)を200μL/分で反応管内に供給した。
【0054】
反応の結果、反応管下部に設置したカーボンナノチューブ回収器4に黒色のカーボンナノチューブの堆積物が生成した。キャリアガスを水素からアルゴンに変更し、室温まで降温した後、回収器より堆積物を回収し、使用したトルエン中の炭素質量で割り付けて収率を求めた。その後、熱重量分析装置を用いて炭素純度を、ラマン分光計を用いて直径とG/Dを、ICP発光分析装置を用いてSi含有量を、透過型電子顕微鏡を用いてSWNTの存在比率を評価した。
【0055】
<実施例2>
加熱温度を1300℃とした点を除いては、実施例1と同様の操作を行った。
【0056】
<実施例3>
加熱温度を1200℃とした点を除いては、実施例1と同様の操作を行った。
【0057】
<実施例4>
図1に示すカーボンナノチューブ製造装置を用いて、カーボンナノチューブの合成を行った。反応管2にAl
2O
3+SiO
2質量=98%、Al
2O
3/SiO
2=1.8、かさ密度=2.7、内径52mm、外径60mm、長さ1400mmを用い、管内にアルゴンガスを流し、アルゴン気流中で反応管をヒーター3(有効加熱長900)により、1400℃まで昇温した。その後、アルゴンの供給に替えて、キャリアガスとして水素ガスを15NL/分で流した。続いて、原料噴霧ノズル1より原料液(トルエンにフェロセンとチオフェンをモル比100:4:1で溶解させた溶液)を200μL/分で反応管内に供給した。
【0058】
得られたカーボンナノチューブの評価については、実施例1と同様に評価した。
【0059】
<実施例5>
加熱温度を1300℃とした点を除いては、実施例4と同様の操作を行った。
【0060】
<実施例6>
加熱温度を1200℃とした点を除いては、実施例4と同様の操作を行った。
【0061】
<実施例7>
反応管にAl2O3+SiO2質量=97%、Al2O3/SiO2=1.4、かさ密度=2.6、内径52mm、外径60mm、長さ1400mmを用いて、1200℃まで昇温した点を除いては、実施例4と同様の操作を行った。
【0062】
<実施例8>
加熱温度を1350℃とした点を除いては、実施例7と同様の操作を行った。
【0063】
<実施例9>
原料噴霧ノズル1より原料液(トルエンにフェロセンとチオフェンをモル比100:4:1で溶解させた溶液)とともに、エチレンガス40NmL/分を反応管に供給した点を除いては、実施例7と同様の操作を行った。なお、収率は使用したトルエンとエチレンの炭素質量の和で割り付けて算出した。
【0064】
<比較例1>
挿入物質5にAl2O3+SiO2質量=99%、Al2O3/SiO2=830、かさ密度=3.9、外径10mm、長さ1000mmを用いた点を除いては、実施例1と同様の操作を行った。
【0065】
<比較例2>
加熱温度を1100℃とした点を除いては、比較例1と同様の操作を行った。
【0066】
<比較例3>
反応管にAl2O3+SiO2質量=99%、Al2O3/SiO2=2.7、かさ密度=3.1、内径50mm、外径60mm、長さ1400mmを用いた点を除いては、実施例4と同様の操作を行った。
【0067】
<比較例4>
加熱温度を1200℃とした点を除いては、比較例3と同様の操作を行った。
【0068】
<比較例5>
反応管にAl2O3+SiO2質量=99%、Al2O3/SiO2=830、かさ密度=3.9、内径50mm、外径60mm、長さ1400mmを用いた点を除いては、実施例4と同様の操作を行った。
【0069】
<比較例6>
反応管にAl2O3+SiO2質量=99%、Al2O3/SiO2=2.7、かさ密度=3.1、内径50mm、外径60mm、長さ1400mmを用いた点を除いては、実施例9と同様の操作を行った。
【0070】
<比較例7>
加熱温度を1100℃とした点を除いては、実施例4と同様の操作を行った。
【0071】
実施例、比較例の条件をまとめて表1に、評価結果をまとめての表2に示す。
【0072】
【0073】
【符号の説明】
【0074】
1・・・原料噴霧ノズル
2・・・反応管
3・・・ヒーター
4・・・カーボンナノチューブ回収器
5・・・挿入物質