IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パー アンドレンの特許一覧 ▶ ルケ オデルの特許一覧 ▶ アンナ ニルソンの特許一覧 ▶ ノハッマドレザ シャリアトゴルジの特許一覧 ▶ ジョナス サブマーカーの特許一覧

特許7360135質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
<>
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図1a
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図1b
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図1c
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図2a
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図2b
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図3
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図4
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図5
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図6
  • 特許-質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用、および、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231004BHJP
   C07D 213/61 20060101ALI20231004BHJP
   C07D 213/68 20060101ALI20231004BHJP
   C07D 213/77 20060101ALI20231004BHJP
   C07D 215/18 20060101ALI20231004BHJP
   C07D 219/04 20060101ALI20231004BHJP
   C07D 409/04 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G01N27/62 G
C07D213/61 CSP
C07D213/68
C07D213/77
C07D215/18
C07D219/04
C07D409/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020570388
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 SE2019050197
(87)【国際公開番号】W WO2019172830
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】1850249-2
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】520341337
【氏名又は名称】パー アンドレン
(73)【特許権者】
【識別番号】520341348
【氏名又は名称】ルケ オデル
(73)【特許権者】
【識別番号】520341359
【氏名又は名称】アンナ ニルソン
(73)【特許権者】
【識別番号】520341360
【氏名又は名称】ノハッマドレザ シャリアトゴルジ
(73)【特許権者】
【識別番号】520341371
【氏名又は名称】ジョナス サブマーカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(74)【代理人】
【識別番号】100081053
【弁理士】
【氏名又は名称】三俣 弘文
(72)【発明者】
【氏名】パー アンドレン
(72)【発明者】
【氏名】ルケ オデル
(72)【発明者】
【氏名】アンナ ニルソン
(72)【発明者】
【氏名】ノハッマドレザ シャリアトゴルジ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナス サブマーカー
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-002689(JP,A)
【文献】国際公開第03/031983(WO,A2)
【文献】特開2003-161726(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008723(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147096(WO,A1)
【文献】特開2010-160086(JP,A)
【文献】WEBER H,DIE DECKER-OXIDATION 2-SUBSTITUIERTER N-ALKYLPYRIDINIUMVERBINDUNGEN, 3. MITT. ZUR KENNTNIS DER ISOMEREN 1-METHYL-2-PHENYL-PYRIDONE1,ARCHIV DER PHARMAZIE,1975年,VOL:308, NO:8,PAGE(S):637 - 643,http://dx.doi.org/10.1002/ardp.19753080810
【文献】LEANNE BEER; ET AL,THE EFFECT OF SELENIUM INCORPORATION ON THE BANDWIDTH AND CONDUCTIVITY OF NEUTRAL RADICAL CONDUCTORS,CHEMICAL COMMUNICATIONS,2005年,NO:46,PAGE(S):5745 - 5747,http://dx.doi.org/10.1039/b511648a
【文献】SHARIATGORJI MOHAMMADREZA; ET AL,PYRYLIUM SALTS AS REACTIVE MATRICES FOR MALDI-MS IMAGING OF BIOLOGICALLY ACTIVE PRIMARY AMINES,JOURNAL OF THE AMERICAN SOCIETY FOR MASS SPECTROMETRY,米国,2015年03月28日,VOL:26, NO:6,PAGE(S):934 - 939,http://dx.doi.org/10.1007/s13361-015-1119-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-G01N 27/70
C07D 213/00-C07D 213/90
C07D 215/00-C07D 215/60
C07D 219/00-C07D 219/16
C07D 409/00-C07D 409/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式 (I-i)の化合物、(I-ii)の化合物、(I-iii)の化合物、(I-iv)の化合物又は(I-i)~(I- iv)の化合物のいずれかの塩の、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックスとしての使用

ここで、
は、以下の群から選択され、
-Ar1は、ビフェニルターフェニルC10-C30多環芳香族炭化水素、C6-C30多環ヘテロアリール、並びに、-D、-T、-F、-Cl、-Br、-I、-NO 2 、-CN、-R´´´、-OR´´´、-OC(O)R´´´、-SR´´´、-S(O)R´´´、-S(O)(O)R´´´、-NR´´´R´´´´の群から選択された置換基で置換されたビフェニル,ターフェニル,C 10 -C 30 多環芳香族炭化水素及びC 6 -C 30 多環ヘテロアリールからなる群から選択され、-R´´´と-R´´´´は、フェニル、トリル、C 1 -C 15 アルキルから独立して選択される
-L-は、直接結合、-(CH2)m、-O-、-S-、-NH-、

および
からなる群から選択され、mは1以上15以下の整数であり、
-G1は、-H-Me及び-Ar2 からなる群から選択され、
-Rは、C 1 -C 15 アルキル基、又は、DT 13C原子の内の1つ或いは複数の同位体でエンリッチされたC1-C15アルキル基であり、
-G2は、-F-Cl-Br-I-(CH2)n-Z-NH-NH2からなる群から選択され
nは0以上16以下の整数であり、
-Z-は、直接結合、及び-C(O)-からなる群から選択され
-Ar2は、フェニルビフェニルターフェニルC10-C30多環芳香族炭化水素、C4-C30単環、多環-ヘテロアリール、並びに、-D、-T、-F、-Cl、-Br、-I、-NO 2 、-CN、-R´´´、-OR´´´、-OC(O)R´´´、-SR´´´、-S(O)R´´´、-S(O)(O)R´´´、-NR´´´R´´´´の群から選択された置換基で置換されたフェニル、ビフェニル、ターフェニル、C 10 -C 30 多環芳香族炭化水素、C 4 -C 30 単環及び多環-ヘテロアリールからなる群から選択され、-R´´´と-R´´´´は、フェニル、トリル、C 1 -C 15 アルキルから独立して選択される
【請求項2】
前記化学式(I-i)の化合物は、以下の化学式(Ia上の式)又は(Ib下の式)によって示される化合物あり
ここで、
は、以下の群から選択される
ことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記Ar1は、-Ph-Cl-Bの内の1つ又は複数の基で置換され、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレンからなる群から選択される
ことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項4】
-L-は、直接結合である
ことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項5】
-G1は、-Hである
ことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項6】
化学式(I-i)の化合物、(I-ii)の化合物及び(I-iv)の化合物は、それぞれ、以下の化学式であり
ここで、
-Rは、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、及び、ドウテリウムトリチュウム炭素13原子の内の1個或いは複数個の同位体でエンリッチされたメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルからなる群から選択され、
-G2は、-F-Cl-Br-Iからなる群から選択され
ことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項7】
は、
であり
ZはC=Oであり
nは1から3の間の数である
ことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項8】
下記の化学式(II-i)の化合物、(II-ii)の化合物、(II-iii)の化合物、(II-iv)の化合物又は(II-i)~(II-iv)の化合物のいずれかの塩を含む、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
ここで
は、以下の群から選択され、
-Ar1は、フェニルターフェニルC10-C30多環芳香族炭化水素、C6-C30多環-ヘテロアリール、並びに-D、-T、-F、-Cl、-Br、-I、-NO 2 、-CN、-R´´´、-OR´´´、-OC(O)R´´´、-SR´´´、-S(O)R´´´、-S(O)(O)R´´´および-NR´´´R´´´´からなる群から選択される置換基で、独立して、置換された、ビフェニル、ターフェニル、C 10 -C 30 多環芳香族炭化水素及びC 6 -C 30 多環-ヘテロアリールからなる群から選択され、-R´´´と-R´´´´は、フェニル、トリル、C 1 -C 15 アルキルから独立して選択され、
-L-は、直接結合、O--S--NH-
からなる群から選択される結合、及び-(CH2)mらなる群から選択され、mは1以上15以下の整数であり、
-G1は、-H-Me-Ar2 からなる群から選択され、
-Rは、C 1 -C 15 アルキル基、又は、DT 13C原子の内の1つ又は複数の同位体でエンリッチされたC1-C15アルキル基であり、
-G2は、-F-Cl-Br-I-(CH2)n-Z-NH-NH2からなる群から選択され、
nは0以上16以下の整数であり、
-Z-は、直接結合、及び-C(O)-からなる群から選択され
-Ar2は、フェニルビフェニルターフェニルC10-C30多環芳香族炭化水素、C4-C30単環又は多環-ヘテロアリール、並びに-D、-T、-F、-Cl、-Br、-I、-NO 2 、-CN、-R´´´、-OR´´´、-OC(O)R´´´、-SR´´´、-S(O)R´´´、-S(O)(O)R´´´及び-NR´´´R´´´´からなる群から選択される置換基で、独立して、置換された、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、C 10 -C 30 多環芳香族炭化水素及びC 4 -C 30 単環及び多環-ヘテロアリールからなる群から独立して選択され、-R´´´と-R´´´´は、フェニル、トリル、C 1 -C 15 アルキルから独立して選択され
【請求項9】
前記化学式(II-i)の化合物は、以下の化学式(IIa)又は(IIb)であり
ここで、
は、以下の群から選択される
ことを特徴とする請求項記載の化合物又はその塩を含む、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
【請求項10】
Ar1は、1つ又は複数の-Ph,-Cl又は-Brの基で置換され、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びピレンからなる群から選択される
ことを特徴とする請求項記載の化合物又はその塩を含む、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
【請求項11】
-G1は、-Hである
ことを特徴とする請求項記載の化合物又はその塩を含む、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
【請求項12】
化学式(II-i)の化合物、(II-ii)の化合物及び(II-iv)の化合物は、それぞれ、以下の化学式であり
-Rは、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、並びに、ドウテリウムトリチュウム炭素13原子の内1個或いは複数の同位体でエンリッチされたメチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルからなる群から選択され、
-G2は、-F-Cl-Br及び-Iからなる群から選択され
とを特徴とする請求項記載の化合物又はその塩を含む、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
【請求項13】
は、
であり
ZはC=Oであり
nは1から3の間の数である
ことを特徴とする請求項記載の化合物又はその塩を含む、質量分析において試料のイオン化に用いられるマトリックス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化学化合物と、この有機化学化合物を、脱離(desorption)又はレーザー・アブレーション・イオン化分光(laser ablation ionization spectrometry )する為に反応性マトリックスとして、使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
高度な質量分析(Mass Spectrometry)技術は生体分子の分析に革命をもたらした。田中耕一氏は、2002年に質量分析(MS)におけるソフト・レーザー・脱離技術を開発した功績で、ノーベル賞を受賞した。これらの開発は、今日の多くの力強い質量分析(MS)技術の基礎を築いた。この技術は、レーザー脱離又はレーザー・アブレーション・イオン化技術を利用している。これらには、高分子の質量分析に広範囲に利用されている技術の1つであるマトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization (MALDI-MS))を含む。
【0003】
MALDIは、過剰量の支援マトリックス(assisting matrix)と分析物(analyte)との共結晶化(co-crystallization)に主に依存する。得られた結晶の浅い層は、ショート・レーザー・パルスからの照射によりアブレーションされる。その結果、サンプル(「試料」とも称する)の部分的なイオン化と検出ができるようになる。効率的な支援マトリックスは、パルス・レーザーの波長(典型的には、窒素レーザーでは337nm、Nd:YAGレーザーでは355nm)で、強い光学的吸収性を示さなければならないことが十分に確立されている。更に、溶媒の蒸発後に分析物分子と効率的に共結晶化し、気相で分析物のカチオン化(プロトン化)を促進する必要がある。この為に、最も一般的に使用されている陽(正)イオンモードMALDI-MSマトリックス、例えば、アルファ-シアノ-4-ヒドロキシンアミノ酸(alpha-cyano-4-hydroxycinnamic acid)(CHCA)と2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-dihydorxybenzonic acid)(DHB)は、プロトン移送を促進する酸性化合物であり、290-370nmの範囲で高い光学吸収性があり、その結果、レーザー・エネルギーを分析物に伝達することができる。
【0004】
MALDI及びそれに類似の技術では、レーザー・エネルギー吸収性マトリックスを用いて、サンプル分子を揮発させイオン化して、その後質量分析計で検出している。分析物は、過剰量の適宜のマトリックス材料と混合される。このマトリックス材料は、通常は、桂皮酸(cinnamic acid)、安息香酸(benzonic acid)、ピコリン酸誘導体(picolinic acid derivative)である。その後レーザーを用いて、マトリックスと分析物の混合物を照射する。通常マトリックスは、レーザー波長で強い光学吸収性を有する。かくして、マトリックスと分析物の結晶表面で脱離とアブレーションを支援する。分析物分子は、気相状態にあり、その後、酸性気相マトリックスによりプロトン化される。得られた荷電分析物分子(charged analyte molecule)は、その後、陽(正)イオンモードで動作する質量分析器に加速される。多種類の化合物がMALDI-MSにより分析される。この化合物の一例は、タンパク質(protein)、ペプチド(peptide)、ヌクレオチド(nucleotido)、オリゴヌクレオチド(oligonucleotido)、脂質(lipid)、多糖類(polysaccharide)、オリゴ糖(oligosaccharide)、代謝物(metabolite)、神経伝達物質(neurotransmitter)のような小分子である。しかしこれには限定されない。
【0005】
MALDIとそれに類似する技術は、画像化技術(質量分析画像化MSI(mass spectroscopy imaging))としても用いられ、細胞に近い空間分解能(near-cellular spatial resolution)で、組織断片/区画(tissue section)内の分子の分布の同定又は識別(以下「同定」と称する)とマッピングをする。
【文献】Shariatgorji et al. Neuron 2014, 84, 697-707, and Shariatgorji et al. J. Am. Soc. Mass Spectrom. 2015, 26(6), 934-939
【文献】NIST Special Publication 922 (revised June 2011) “Polycyclic Aromatic Hydrocarbon Structure Index”
【文献】Kallback, P., Nilsson, A., Shariatgorji, M. & Andren, P.E. msIQuant--Quantitation Software for Mass Spectrometry Imaging Enabling Fast Access, Visualization, and Analysis of Large Data Sets. Anal Chem 88, 4346-4353 (2016)
【文献】European Communities Council Directive of November 24, 1986 (86/609/EEC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、MALDI-MSとMSIにはいくつかの欠点(相対的なものを含む)がある。その一例として、ある化合物クラスに対する相対的非感受性と、低分子量領域(100-600Da)のMALDIマトリックスによる信号干渉がある。これらの問題に対処するために、2,4-ジフェニル-ピラニリウム-テトラフルオロボレート(2,4-diphenyl-pyranylium-tetrafluoroborate)(DPP-TFB)のようなピリリウム塩(pyrylium salt)の使用が、神経伝達物質のような一級アミンのin-situでの化学的誘導体化(chemical derivatization)の為に、研究されてきた。このことは非特許文献1に記載されている。DPP-TFBは、一級アミンと選択的に反応し、穏やかな条件下で、N-アルキル又はN-アリール ピリジニウム誘導体(N-alkyl又はN-aryl pyridinium derivative)を生成する。これらの荷電誘導体(charged derivative)は、レーザー脱離とイオン化に際し十分な効率を有する。かくして、様々な神経伝達物質のような内因性の小分子一級アミン(endogenous small-molecule primary amine)の検出を可能にする。更にDPP-TFBは、自己支援レーザー脱離イオン化(self-assisted laser desorption ionization)作用がある。即ち別のマトリックス分子は必要としない。その理由は、DPP-TFB塩そのものが「反応性マトリックス」として機能するからである。しかし、質量分析での検出のために、分子をイオン化する方法を改善する必要が依然としてある。
【0007】
本発明者は、質量分析を脱離又はレーザー・アブレーションで行う従来方法には複数の欠点があることを見いだした。従来方法では、ピリリウムのジフェニル誘導体(diphenyl derivative of pyrylium)(DPP)を反応性マトリックスとして使用して、一級アミン含有基の分析(MALDIとMALDI-MSI)を行っていた。しかし、多くの小分子(例、医薬品とそれらの代謝物、内因性代謝物、神経伝達物質とその代謝物、バイオマーカー、毒物、天然化合物)は、一級アミンを含まず、従来技術は適用できない。更にDPPの使用は、50%メタノールで飽和したチェンバー内での集中的なインキュベーション(incubation)を必要とする。これは、MALDI-MSにおける試料(サンプル)の拡散リスクと、MALDI-MSIにおける標的化合物の非局在化のリスクを増加させてしまう。後者の問題は、MALDI-MSIで得られる空間解像度を非常に制限してしまう。更に、ピリリウム系(pyrylium-based)反応マトリックス(例、DPP)には、発生したイオンを同定する有効手段がない。
【0008】
本発明の目的は、上記した欠点を解決するために、新たな脱離又はレーザー・アブレーション用の手段又は方法を提供することである。
【0009】
この目的は、脱離又はレーザー・アブレーションのイオン化分光の為の反応性マトリックスとして、特許請求の範囲に記載された化学式の化合物を使用することにより達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
化学式の化合物は以下の構造を有する。
上記化学式Iの化合物は、下記の化学式 (I-i)の化合物、(I-ii)の化合物、(I-iii)の化合物、(I-iv)の化合物又は(I-i)~(I- iv)の化合物のいずれかである。
ここで、
は、以下の群から選択され、
-Ar1は、フェニル、ビフェニル,ターフェニル,C10-C30多環芳香族炭化水素、C6-C30多環ヘテロアリール、C4-C30単環又は多環ヘテロアリールからなる群から選択され適宜置換され、
-L-は、結合,-(CH2)m-,π-共役リンカー部分からなる群から選択され、
-G1は、-H,-Me,-Ar2 からなる群から選択され、
-Rは、D,T,13C原子の内の1つ又は複数で適宜標識されたC1-C15アルキル基であり、
-G2 は、-F, -Cl, -Br, -I, NO 2 , -CN, OR', -OC(O)R', -R', S(O)R', -S(O)(O)R', -NR'R'', -(CH2)n-Z-NH-NH2からなる群から選択され;
-R'と-R''は、それぞれ、フェニル、トリル、C1-C15アルキル基からなる群から
独立して選択され、
mとnは、それぞれ0から15の間の数であり;
-Z-は、結合,-CH2-,-C(O)-からなる群から選択され;
-G3は、-H,-Me,-Ar3からなる群から選択され;
-Ar2と-Ar3は、フェニル,ビフェニル,ターフェニル,C10-C30多環芳香族炭化水素、C4-C30単環又は多環-ヘテロアリールから独立して選択され適宜独立して置換され、
が、以下である場合には、
-Ar1,-Ar2,-Ar3の内の少なくとも1つは、塩素、臭素、重水素、トリチウムのいずれかにより置換される。
【0011】
上記の化学式Iの化合物を、脱離又はレーザー・アブレーション・イオン化の質量分析用の反応性マトリックスとして使用することは、いくつかの利点を有する。本発明の反応性マトリックスは、従来公知の反応性マトリックスではアクセスできなかった多くの物質を標的にすることができる。一例として、本発明の反応性マトリックスは、一級アミン(primary amine)、二級アミン(secondary amine)、フェノール性水酸化物(phenolic hydroxide)、アルデヒド(aldehyde)、ケトン(ketone)と反応することができる。本発明の反応性マトリックスは、反応性マトリックスを試料上に添加/スポッティング/噴霧する(adding/spotting/spraying)と発生する反応に際し、インキュベーションを必要としない。加熱も冷却も必要としない。本発明の全ての反応性マトリックスは、標的分子(target molecule)と反応すると荷電誘導体(charged derivative)を形成する。かくして標的分子に対する質量分析感度(mass spectrometric sensitivity)を上げることができる。更に、他の同定手段(例えば特定の同位体標識)を反応性マトリックスに導入してもよい。
【0012】
前記化学式Iの化合物は、以下の化学式Ia(上の式)又はIb(下の式)である
ここで、
は、以下の群から選択される
【0013】
本発明の他の態様によれば、本発明の目的は、化学式IIの化合物でも達成できる。
化学式IIは、以下の構造を有する。
化学式IIの化合物は、下記の化学式(II-i)の化合物、(II-ii)の化合物、(II-iii)の化合物、(II-iv)の化合物又は(II-i)~(II-iv)の化合物のいずれかである。


ここで
は、以下からなる群から選択される。
-Ar1 は、適宜置換され、ビフェニル, ターフェニル, C10 - C30 多環芳香族炭化水素、C6 - C30 多環-ヘテロアリールからなる群から選択され、
-L- は、結合, -(CH2)m-, π-共役リンカー部分からなる群から選択され、
-G1 は、-H, -Me, -Ar2 からなる群から選択され、
-R は、D, T, 13C 原子の内1つ又は複数で適宜ラベルが付されたC1 - C15 アルキル基であり、
-G2 は、-F, -Cl, -Br, -I, -(CH2)n-Z-NH-NH2からなる群から選択され;
-R'と-R''は、フェニル、トリル、C1 - C15 アルキル基から独立して選択され、
m とn は、それぞれ0 から15の間の数であり;
-Z- は、結合, -CH2-, -C(O)-からなる群から選択され;
-G3 は、-H, -Me, -Ar3からなる群から選択され;
-Ar2と-Ar3は、フェニル, ビフェニル, ターフェニル, C10 - C30 多環芳香族炭化水素、C4 - C30 単環又は多環-ヘテロアリールから独立して選択され適宜置換され、

である場合には、
-L-Ar1は、ピリリウム環の4位に位置しており、
-Ar1と-Ar2 -Ar3の内の少なくとも1つは、塩素、臭素、重水素、トリチウムのいずれかで置換される。
【0014】
ピリリウム環の4位に位置するということは、ピリリウム環の酸素の位置と正反対の環位置に位置することを意味する。これは、ピリリウム環が、単環式ピリリウム(monocyclic pyrylium)環、ベンゾピリリウム(benzopylium)環、ジベンゾピリリウム(dibenzopyrylium)環系であるかを問わない。化学式IIの化合物の利点は、脱離又はレーザー・アブレーションのイオン化分光法の反応性マトリックスとしての使用において、化学式Iの化合物のそれに類似する。更に、化学式I又は化学式IIの化合物は、分光法(spectroscopic method)、分光測定法(psectrometric method)において使用される。これらの方法は、分子を発色団(chromophore)でタグ付けする際又は分子を荷電タグ付け(charge-tagging)する際に有用である。これらの方法は、UV分光法、UV画像化、電子スプレー・イオン化のような他の質量分光法を含む。
【0015】
化学式IIの化合物は、化学式IIa又はIIbである
ここでは、
は、
上記の群から選択される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、本発明の目的は、脱離又はレーザー・アブレーションのイオン化分光法用の反応性マトリックスとして、化学式IIIの化合物の使用で達成できる。
【0017】
化学式IIIの化合物は、以下の構造を有する。
(III)
ここで、
-G1 は、-H, -Me, -Ar2 からなる群から選択され、
-R は、D, T, 13C 原子の内の1つ又は複数のいずれかで適宜標識されたC1 - C15 アルキル基であり、
-G2 は、-F, -Cl, -Br, -I, -NO2, -CN, -OR’, -OC(O)R’,-SR’, -S(O)R’, -S(O)(O)R’,-NR’R’’,-(CH2)n-Z-NH-NH2 からなる群から選択され;
-R’と-R’’は、フェニル、トリル、C1 - C15 アルキル基からなる群から独立して選択され、
m とn は、それぞれ0 から15の間の数であり;
-Z- は、結合, -CH2-, -C(O)-からなる群から選択され;
-G3 は、-H, -Me, -Ar3 からなる群から選択され;
-Ar2と-Ar3は、フェニル, ビフェニル, ターフェニル, C10 - C30 多環芳香族炭化水素、C4 - C30 単環又は多環-ヘテロアリールから独立して選択され適宜置換される。
【0018】
化学式IIIの化合物の利点は、脱離又はレーザー・アブレーションのイオン化分光法の反応性マトリックスとして使用する際に、化学式I、IIの化合物のそれに類似する。しかし、化学式IIIの化合物は、改善された原子経済性(atom economy)又は製造の容易さという更なる利点を有する。
化学式IIIの化合物は、化学式IIIa(上の式)又はIIIb(下の式)の構造も有する。
(IIIa) (IIIb)
【0019】
以下の考察と詳細検討は、化学式IIa、IbIIIIIIaの化合物の使用にも、また化学式IIIIa、IIbの化合物の使用にも、適用可能である。ただし特にそれと異なると明記しない限り又化学式IIa、IbIIIIa、IIb、IIIIIIa、IIIbの化合物の定義に反しない限り、適用可能である。
【0020】
Ar1, Ar2 ,Ar3 の各々は、-D, -T, -F, -Cl, -Br, -I, -NO2, -CN, -R´´´, -OR´´´, -OC(O)R´´´, -SR´´´, -S(O)R´´´, -S(O)(O)R´´´ , -NR´´´R´´´´からなる群から選択された置換基で独立して置換できる。
-R´´´と -R´´´´ は、フェニル(phenyl)、トリル(toryl)、C1 - C15 アルキル(alkyl)からなる群から独立して選択される。このような置換基は、問題のAr基の共役(conjugation)の程度、電子供与性(electron donating)、電子吸引性(electron withdrawing)に影響を与えることがある。かくして、化合物の反応性と脱離/レーザー・アブレーションの特性を調整できる。Ar1 は、 -Ph, -Cl, -Br 基のいずれかで選択的に置換できる。
【0021】
Ar1 は、ビフェニル(biphenyl)、ターフェニル(terphenyl)、ナフタレン(naphthalene)、アントラセン(anthracene)、フェナントレン(phenanthrene)、ピレン(pyrene)からなる群から選択される。これらの芳香族基は、化合物に、脱離/レーザー・アブレーションのイオン化分光法のための反応性マトリックスとしての使用に十分な脱離/アブレーション特性を与えることが示されている。
-L- が、π-共役リンカー部分の場合は、それは、
-O-, -S-, -NH-,
,
,

からなる群から選択される。これらの全てのリンカーは、Ar1 基と化合物の荷電芳香族環との間に、十分又は適切な共役経路(conjugation pass)を与える。
-L- は、好ましくは結合である。即ち、Ar1 基と化合物の荷電芳香族環(charged aromatic ring)との間の直接結合である。これにより、Ar1 基と化合物の荷電芳香族環との間の共役が可能となるが、これは化合物の分子量を増加させずに行える。
-G1 は -Hである。 -G1 は、1つ或いは複数の-Br置換基で置換したフェニル基である。これにより、化合物により誘導体化された分子を容易に同定できる。それは、特性的な同位体パターンと臭化物置換基の質量欠損に起因する。
【0022】
他の実施例においては、化学式IIa、Ib、II,IIa、IIbは、以下の構造式でもよい。
-Rは、重水素、トリチュウム又は炭素-13原子のいずれか適宜標識を付され、メチル(methyl)、エチル(ethyl)、n-プロピル(n-propyl)、n-ブチル(n-butyl)からなる群から選択される。
-G2は、-F,-Cl,-B,-Iからなる群から選択される。この化合物は、求核標的分子(nucleophilictargetmolecule)の誘導体化を可能とする。これは、アルキルピリジン部分(alkylpyridinemoiety)での求核置換(nucleophilicsubstitution)により行われる。
【0023】
一実施例においては、
は、
でもよい。
Z はC=O, n は1 から3までの数である。
この化合物は、カルボニル含有標的分子(carbonyl-containing target molecule)の誘導体化を可能とする。これは、標的分子のカルボニル(carbonyl)と化合物のヒドラジン部分(hydrazine moeiety)の間にヒドラゾン(hydrazone)を形成することにより、可能となる。カルボニル含有標的分子の一例は、ケトン(ketone)又はアルデヒド(aldehyde)などである。
【0024】
一実施例においては、

, でもよい。
-G3 は、1つ又は複数の-Br 置換基で選択的に置換されたフェニル基(phenyl group)である。この化合物は、一級アミン含有標的分子(primary amine -containing target molecule)の誘導体化を可能とし、ピリジニウム誘導体(pyridinium derivative)を提供する。これは、ピリリウム環(pyrylium ring)での求核攻撃(nucleophilic attack)と、その後に環閉鎖又は閉環(ring-closure)により行われる。
本発明の目的と利点は、以下の発明の詳細な説明から容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1a】2-置換N-アルキルピリジニウム系(2-substituted N-alkylpyridinium-based)反応性マトリックスを用いた求核試薬(nucleophile)の誘導体化の概略を示す図。
図1b】ヒドラジン系(hydrazine-based)反応性マトリックスを用いたカルボニル含有化合物(carbonyl-containing compound)の誘導体化の概略を示す図。
図1c】ピリリウム系(pyrylium-based)反応性マトリックスを用いた一級アミンの誘導体化の概略を示す図。
図2a】2-置換N-アルキルピリジニウム系の反応性マトリックスを生成する一般的合成方法の概略を示す図。
図2b図2aに示す一般的合成方法により生成された一連の2-置換N-アルキルピリジニウム化合物の概略を示す図。
図3】ヒドラジン反応部分を有するN-置換-ピリジン反応性マトリックスを生成する一般的合成方法の概略を示す図。
図4】支援マトリックスを添加していない11-デオキシコルチコステレオン(11-deoxycorticostereone)のヒドラゾン誘導体の検出を示すMALDI質量分析を表す図。
図5】マウス脳組織断片のフルボキサミン(fluvoxamine)のMALDI-MS分析を示す画像(a)-(f)を示す図。
図6】表1を示す図。
図7】表2を示す図。
【発明の詳細な説明】
【0026】
本発明の反応性マトリックスは広範囲の化合物の質量分析を容易にする。質量分析の一例は、MALDI-MS(I)とDESI-MS(I)がある。この化合物の一例は、医薬品とその代謝物、内因性神経伝達物質、アミノ酸、代謝物、ステロイド、毒素、環境汚染物質、食品添加物、食品成分、他の小分子(一級アミン、二級アミンを含む)、フェノール性水酸化物、カルボニル官能基を含む。本発明の反応性マトリックスは、ある分野において、上記の化合物の迅速な監視/分子画像化にとって重要なツールである。適用される分野の一例は、一般生物学、一般薬学、神経科学、癌研究、薬剤開発、毒性学、環境科学、食品化学の分野である。
【0027】
本発明の反応性マトリックスは、広範囲の質量分析(MS)技術と質量分析画像化(MSI)技術に適用可能である。これらの技術は、脱離又はレーザー・アブレーションを利用する。その一例として以下を含む。しかしこれらに限定されない。
*マトリックス支援レーザー・アブレーション/イオン化 (MALDI-MS, MALDI-MSI);
*脱離電子スプレー・イオン化 (DESI-MS, DESI-MSI);
*マトリックス支援レーザー脱離電子スプレーイオン化(MALDESI-MS, MALDESI-MSI);
*ナノスプレー脱離電子スプレーイオン化(nano-DESI-MS, nano-DESI-MSI);
*二次イオン質量分析(SIMS, SIMS-MSI);
*マトリックス強化二次イオン質量分析(ME-SIMS, ME-SIMS-MSI);
*レーザー・アブレーション電子スプレーイオン化(LAESI-MS, LAESI-MSI).
【0028】
本発明の反応性マトリックスは、他の形態の分光法、質量分析法にも用いられる。例えば、それらを用いて、UV分光化又はUV画像化の前に、発色団で分子を標識することができる。またそれらを用いて、電子スプレーイオン化(ESI)を用いた質量分析の前に、永久荷電(permanent charge)(電荷タグ付け(charge―tagging))を提供できる。かくして、本発明の反応性マトリックスは、ESI又はMALDIのいずれかを含む液体抽出表面分析(liquid extraction surface analysis)(LESA)でも用いられる。
【0029】
反応性マトリックスとは、標的分析物分子(target analyte molecule)と反応し、この標的分子の質量分析を容易にする化合物を意味する。ある場合には、反応性マトリックスの使用は、イオン化を支援するために、更なるマトリックスの使用の必要性を回避できる。しかしある場合には、反応性マトリックスを従来の非反応性マトリックスと合わせて用いて、標的分子の検出を改善できる。
【0030】
本明細書に開示されたマトリックスは、少なくとも2つの機能ドメインを含む。即ち、反応性の高いドメイン(highly reactive domain)と共役発色団ドメイン(conjugate chromophore domain)である。前者のドメインは、共有結合分析物(covalent analyte)に誘導体化による電荷タグ付けをすることを容易にする。後者のドメインは、レーザー支援の脱離又はレーザー・アブレーションを促進する。しかし、反応性ドメインが、多環式環系(polycyclic ring system)の一部である場合は、反応性ドメインと共役発色団ドメインとは、同じ1つの環系に統合できる。反応性マトリックスは、同定ドメインを組み込むこともできる。即ち、適宜の同位体又は特有の同位体パターンと質量欠損を有する元素を組み込むこともできる。これにより、反応性マトリックスにより誘導体化される化合物の質量分析同定を容易にできる。
【0031】
反応性ドメイン
反応性マトリックスの反応性ドメインは、適宜の脱離基(leaving group)を有するN―アルキルピリジニウム部分(N-alkylpyridinium moiety)、ヒドラジン部分を有するN―置換ピリジン(N-substituted pyridine)、ピリリウム部分(pyrylium moiety)のいずれかである。これら反応性マトリックス全ては、誘導体化後に永久的正(陽)電荷(permanent positive charge)を分析物(analyte)に与える利点がある。これは、反応性マトリックスが、N―置換ピリジン部分の誘導体化後にも、存在するからである。この利点は、陽イオン質量分析特に従来プロトン化が困難な分析物に対し、分析物に対する感度を大幅に向上させる。
【0032】
適切な脱離基を有する反応性N―アルキルピリジニウム部分は、種々の共通の求核性官能基(nucleophilic functional group)の任意の1つを含む分子と選択的に反応する。この求核性官能基は、フェノール性ヒドロキシル基、一級アミン、二級アミンを含む。このような誘導体化反応を示す反応スキームを図1aに示す。この反応は、インキュベーション時間を延長せずに起きる。N―アルキルピリジンの脱離基(G2基)は、求核性芳香族置換に適した任意の適切な脱離基である。この脱離基は、-F, -Cl, -Br, -I, -NO2, -CN, -OR´, -OC(O)R´, -SR´, -S(O)R´, -S(O)(O)R´ , -NR´R´´のいずれかを含む。R´ と R´´ は、それぞれ独立してフェニル基又はC1 - C15 アルキル基である。脱離基は、ピリジン環の2位又は4位の位置に適宜配置される。この位置は、求核性芳香族置換(SNAr)の最も反応性の高い位置であると予測される。しかし脱離基を3位に配置しても、少なくともある環境下では、十分な反応性を示す。N-アルキル基を以下に説明する。
【0033】
反応性ヒドラジン部分を有するN-置換ピリジンは、カルボニル官能基を有する任意の分析物と選択的に反応する。これを図1bに示す。反応は急速に進む。ヒドラジン部分は、リンカーにより、ピリジン環のN位又は任意の位のいずれか(例、2位、4位)に結合される。このリンカーは、適宜のアルキル鎖である。選択的事項として、ヒドラジン部分に最も近いカルボニル基を含むアルキル鎖である。別法として、リンカーは、N-置換ピリジンとヒドラジン部分の窒素との間の直接結合である。ヒドラジン部分が(リンカーを介して)ピリジン環に結合している場合は、ピリジン環のN位は、アルキル化され、永久的に荷電されたN-アルキルピリジンを提供する。
【0034】
ピリジン反応性ドメインのN-アルキル基は、任意の適宜の基である。一例はC1 - C15 アルキル基である。N-アルキル基は同位体富化(isotope-enriched)でもよい。これは、例えば、特定の位に2H, 3H, 13C , 14Cを多く有することにより、実現される。これにより、誘導体化された分析物の質量分析による同定が容易になる。N-アルキル基はキラル基(chiral group)でもよい。これは、複数の分析物間の立体異方性識別(stereoisometric identification)を可能にする。反応性ドメインが2―置換N-アルキルピリジウムである場合は、N-アルキル基は、かさばらないのが好ましい。これは、ピリジン環の2位での求核置換反応(nucleophilic substitution reaction)を可能にするためである。例えば、N-アルキル基はメチル基(methyl group)でもよい。
【0035】
ピリジウム反応性部分は、一級アミン基を有する分析物と選択的に反応する。その結果、N-アルキルピリジン誘導体(N-alkyl pyridine derivative)が生成され、これを図1cに示す。この反応は、長いインキュベーション時間を必要とすることがあるが、これはピリジウム部分と分析物の正確な性質に依存する。
【0036】
共役発色団ドメイン(conjugated chromophore domain)
反応性マトリックスの共役発色団ドメインは、Ar1基を含む。このAr1基は、フェニル(phenyl)、ビフェニル(biphenyl), ターフェニル(terphenyl), C10 - C30 多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon)、C4- C30 単環又は多環ヘテロアリール(mono- or polycyclic heteroaryl)からなる群から選択される。多環芳香族炭化水素とは、複数の融合環(fused ring)を含む炭素環式芳香族環系(carbocyclic aromatic ring system)を意味する。適宜の多環芳香族炭化水素は、非特許文献2の構造番号4-521として表に示されている。多環芳香族炭化水素は、ナフタレン(naphthalene)、フッ素(fluorine)、アントラセン(anthracene)、フェナントレン(phenanthrene)、ピレン(pyrene)、テトラセン(tetracene)、クリセン(chrysene)、ペリレン(peryrene)、コランニュレン(corannulene)、コロネン(coronene)、ピランテレン(pyranthrene)からなる群から選択される。C4- C30 単環又は多環ヘテロアリールとは、5員環以上(5-numbered ring and upwards)のヘテロアリール環系を意味する。この環系の一例は、フラン(furan)、チオフェン(thiophene)、ピロール(pyrrole)を含む。これは、上記で定義した多環芳香族炭化水素のヘテロアリール類似体を含む。ヘテロアリール環は、炭素とヘテロ原子(heteroatom)(例、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、これには限定されない)の任意の組み合わせを含む。共役発色団ドメインは、パルスレーザーの波長(窒素レーザーでは337nm、Nd:YAGレーザーでは355nm)で強い光吸収性を示す。アントラセン又は置換アントラセン部分を含む共役発色団ドメインを有することにより、過剰なモル質量を有さずに、適宜の吸収性を有する反応性マトリックスを提供することができる。
【0037】
Ar1基は、置換基を有する。これにより反応性マトリックスの特性を調整する。置換基の一例は、-D, -T, -F, -Cl, -Br, -I, -NO2, -CN, -R´´´, -OR´´´, -OC(O)R´´´, -SR´´´, -S(O)R´´´, -S(O)(O)R´´´ , -NR´´´R´´´´がある。ただし、-R´´´と -R´´´´ は、独立して、フェニル、トリル、C1 - C15アルキルからなる群から選択される。
【0038】
「共役発色団ドメイン」とは発色団が共役π系を含むことを意味するが、発色団は反応性ドメインと共役していることを必ずしも意味しない。適宜の吸収性を与える為に、共役系(conjugated system)は、誘導体化された分析物のピリジン/ピリリウム環(pyridine/pyrylium ring)内に延在することがある。このことが好ましい場合は、上記した波長で吸収するために、Ar1基自体が十分に延在したπ系を有しない場合である。これは、π共役リンカー部分(π-conjugating linker)を用いて、Ar1基をピリジン/ピリリウム部分に結合することにより達成される。「π共役リンカー部分」とは、Ar1基とピリジン/ピリリウム部分との間の無中断のπ共役経路を提供する部分を意味する。即ち、Ar1基とピリジン/ピリリウム部分との間の直接結合を意味する。或いはAr1基をピリジン/ピリリウム部分に直接結合する経路内に、sp又はsp2混成原子(sp and/or sp2hybridized atom)のみを含む部分を意味する。上記した「π共役リンカー部分」は、Ar1基とピリジン/ピリリウム部分との間の直接結合であるか、又は、
-O-, -S-, -NH-,
,
,


からなる群から選択された部分である。「π共役リンカー部分」は、sp3混成原子を含むペンダント基(pendant group)を含む。「ペンダント基」とは、Ar1基とピリジン/ピリリウム部分との間の共役経路に直接は組み込まれていない基を意味する。例えば、「π共役リンカー部分」は、キラルペンダント基(chiral pendant group)を含み、分析物間の立体異方性識別を容易にする。「π共役リンカー部分」により、軸不斉(axial chirality)(アトロプ異性(atropisometrism))が可能になる、これは、Ar1基が、ピリジン/ピリリウム部分に対し回転が制限されているためである。これは、特に「共役リンカー部分」が直接結合している場合に当てはまる。しかし、Ar1基そのものが適宜の吸収性を有する場合は、共役系をピリジン/ピリリウム環内に延在させることは、必ずしも利点ではない。そしてこのような場合、非共役リンカー(non-conjugating linker)を用いて、ピリジン/ピリリウム環をAr1基に結合させることができる。非共役リンカーの一例は、アルキル鎖又はsp3混成炭素原子を含む他の鎖である。
【0039】
適宜のG1基を選択して発色団と反応性マトリックスの反応性を調整できる。G1基は、-H, -Me、-Ar2からなる群から選択される。-Ar2 は、フェニル、ビフェニル, ターフェニル, C10 - C30 多環芳香族炭化水素、C4- C30 単環又は多環ヘテロアリールからなる群から選択され選択的に置換される。G1基がアリール (Ar2) 基である場合は, これは、π共役をG1基内に延在させ、反応性マトリックスの吸収性を変化させることができる。反応性マトリックスの反応性と発色性とは更に調整可能であるが、これは、G1基がAr2基である時は、Ar2基に置換基を具備させることにより行われる。適宜の置換基としては、-D, -T, -F, -Cl, -Br, -I, -NO2, -CN, -R´´´, -OR´´´, -OC(O)R´´´, -SR´´´, -S(O)R´´´, -S(O)(O)R´´´ , -NR´´´R´´´´のいずれかを含む。-R´´´と-R´´´´は、フェニル、トリル、C1 - C15アルキルから独立して選択される。
反応性ドメインがピリリウム部分である場合は、適宜のG3基を選択して反応性マトリックスの反応性特性と発色性特性とを調整することができる。G3基は、上記したG1と同じ置換基から独立して選択される。
【0040】
統合された反応性ドメインと共役発色団ドメイン
反応性ドメインが多環式環系の一部である場合には、別個の共役発色団ドメインは、必要とされない。その理由は、反応性ドメインそれ自身が十分に良好な発色団特徴を有するからである。即ち反応性ドメインと共役発色団ドメインが、1つの同じ環系に統合されるからである。これは、反応性ドメインが、融合N―アルキルピリジウム部分(fused N-alkylpyridium moiety)(例、N―アルキルアクリジン部分(N-alkylacridine moiety)又はN―アルキルキノリン部分(N-alkylquinoline moiety))である場合である。このような統合された系は改善された原子経済性を提供する。
【0041】
同定ドメイン(identification domain)
反応性マトリックスは、同定ドメインを有する。これにより、反応性マトリックスで荷電タグ付けされた分析物の質量分析の同定が容易になる。これは、例えば、反応性マトリックスに塩素又は臭素の置換基を具備させることにより達成される。その理由は、これらの原子は、明確に識別可能な質量分析同位体パターン(mass spectroscopic isotope pattern)と質量欠損(mass defect)を提供するからである。別の構成として、反応性マトリックスは、重水素、トリチウムの置換によりエンリッチした同位体、又は、13C 又は 14Cのような炭素同位体(carbon isotope)でエンリッチしたアルキル基である。「同位体でエンリッチされた即ち特定の同位体で置換された」とは、分子内のある位置(位)での特定の同位体(例、2H, 3H, 13C , 14C)の存在量が、その位置において自然発生する存在量を大幅超えていることを意味する。例えば、「同定」同位体(例、2H, 3H, 13C , 14C)の存在量の、関連する位置で自然発生する同位体(例、1H, 12C)の最大存在量に対する比率は、少なくとも1:10、例えば、少なくとも1:1又は少なくとも10:1である。
【0042】
反応性マトリックスは永久的正電荷(permanent positive charge)を有するので、1つ或いは複数のアニオン性対イオンを有する(anionic counterion)塩として準備される。このような塩は、以下の群から選択された1つ又は複数のアニオンを含む。その群は、塩化物(chloride)、臭化物(bromide)、ヨージド(iodide)、トスリレート(toslylate)、メシレート(mesylate)、テトラフルオロボレート(tetrafluoroborate)、ペルフルオロブタンスルホネート(perfluorobutanesulfonate)、ベンゼンスルホン酸塩(benzenesulfonate)、ヘキサフルオロフォスフェート(hexafluorophosphate)、トリフレート(triflate)を含む。ただしこれらには限定されない。
【0043】
脱離又はレーザー・アブレーションのイオン化質量分析における反応性マトリックスの使用
質量分析用又は画像化用の試料を調整する際に、反応性マトリックス物質は、多くの場合、試料とのインキュベーションを必要としない。この反応は、試薬が試料上に添加/スポット/スプレーされる(added/spotted/sprayed)と起きる。この際冷却も加熱も必要としない。反応性ドメインの性質により、反応性マトリックスは次の物質を標的にする。即ち、一級アミン(primary amine), 二級アミン(secondary amine), フェノール性水酸化物(phenolic hydroxide), アルデヒド(aldehyde)又はケトン(ketone)官能基を有する物質を標的にする。全ての反応性マトリックスは、分析物の官能基と反応した後、永久的正電荷(permanent positive charge)を担持する。これにより、誘導体化された分析物の高い感度の検出と分析が可能になる。
【0044】
実施例
実施例1:2―置換N―アルキルピリジウム(2-substitued N-alkylypyridinium)反応性マトリックスの合成
2―置換N―アルキルピリジウム反応性マトリックスは、図2aの合成経路によって合成される。2つのドメイン(反応性ドメインと共役発色団ドメイン)は、鈴木-ミヤマのクロス-カップリング反応(cross-coupling reaction)を用いて、融合される(ステップA)。かくして、適切な2-置換ブロモピリジン誘導体(2-substituted bromopyridine derivative)を、多種類のアリールボロン酸(aryl boronic acids)で、パラジウム触媒下で処理することにより、中程度で優れた収率で前駆体化合物を生成できる。この前駆体化合物は、選択的事項として、位置選択的にN-ブロモスクシニミド(N-bromosuccinimide)で臭素化され、同定ドメインを導入する(ステップB)。この前駆体化合物は、その後、所望の反応性マトリックスを提供できる温度条件で、アルキル化される(alkylated)(ステップC)。この方法により生成された反応性マトリックスの例を図2bに示す。明らかなことに、最終化合物は簡単なフィルタ処理により容易に単離される。これにより問題発生の可能性のある精製ステップの必要が無くなる。この最終化合物は、数ヶ月間は真空状態下の貯蔵でも安定状態にあるが、溶液中に保存すると徐々に劣化する。
【0045】
2-フルオロ-4-フェニルピリジン(2-fluoro-4-phenylpyridine)で例示される2-フルオロピリジン(2-fluoro pyridines)を合成する一般的手順A
全ての試薬は、最高の市販品質で購入し更に精製すること無くそのまま使用した。特に断らないかぎり、生成物は、単離され均質で分光学的に純粋な材料(homogenous, spectroscopically pure material)を意味する。粗反応混合物を、シリカゲル・クロマトグラフィー(silica gel chromatography)(E. Merck シリカゲル、粒子サイズは0.043-0.063 mm)で精製した。薄層クロマトグラフィーは、E. Merck シリカプレート(60F-254)を使用して、可視化材としてUV 光 (254 nm)を用いて実行した。
【0046】
1H NMRスペクトルは400 MHzで記録され、13C{1H} NMRスペクトルは100 MHzで記録された。 1H NMR と 13C{1H} NMR のスペクトルの化学シフトは、残留溶媒信号(1H, 7.26 ppmのCDCl3 , 2.05 ppmのアセトン(Acetone)-d6 , 1.95 ppm のCD3CN; 13C, 77.16 ppm のCDCl3 , 29.9 ppmのアセトン(Acetone)-d6 , 1.39 ppmの CD3C)を介してテトラミチルシラン(tetramethylsilane)を基準にした。LC/MS 分析は、以下を具備する装置で実行した。この装置は、C18コラム(50 × 3.0 mm, 粒子サイズ2.6 μm, 孔サイズ100 A)と、電子スプレーイオン化源と、単一の四重極検出器を具備する。正確な質量値は、電子スプレー又はMALDIイオン化源とTOF又はFTICR分析器とを具備する質量分析器で決定した。
【0047】
4-ブロモ-2フルオロ-ピリジン(4-bromo-2-fluoropyridine) (528 mg, 3mmol)と、フェニルボロン酸(phenylboronic acid) (399 mg, 3.3mmol)と、Pd(PPh3)4 (69 mg, 0.06mmol)を入れたトルエン/エタノール(4:1, 25 ml) の攪拌溶液に、水(10 ml)に入れたNa2CO3 (1.27 g, 12mmol(ミリモル) の溶液を加えた。 得られた黄色の溶液を80 °C で2時間攪拌した。この間に溶液は黒色に変色した。大気温度に冷却後、反応混合物をEtOAc (3 x 50 ml)で抽出した。混合された有機層を、ブライン(brine) (50 ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、真空中で濃縮した。粗製生成物をMeOHから熱ろ過で精製し、その後、シリカゲル・クロマトグラフィー(5% EtOAc in n-ペンタン)で 上記の化合物を、淡黄色の個体(490 mg, 2.8mmol, 94%)として得た。
【0048】
4-(10-ブロモアントラセン-9-イル)-2-フルオロ-ピリジン(4-(10-Bromoanthracen-9-yl)-2-fluoropyridine)で例示される2-フルオロ-ピリジンの臭素化(bromination of 2-fluoropyridine)の為の一般的手順B
4-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-ピリジン(715 mg, 2.75 mmol)を入れたCHCl3 (35 ml)の攪拌溶液に、N-ブロモスクシンイミド(N-bromosuccinimide (1.08 g, 6.07 mmol) を加えた。得られた溶液を48時間還流した。室温に冷却後、この混合物を水(25 ml) で希釈し、CH2Cl2 (3x 25ml)で抽出した。合わせた有機層(combined organic layers)をMgSO4で乾燥させ、ろ過し、真空中で濃縮した。フラシュ・コラム・クロマトグラフィー(SiO2, EtOAc: トルエン: ペンタン5:15:80 (v/v/v))による精製により、上記の化合物を、黄色個体物(784 mg, 85%)として得た。
【0049】
2-フルオロ-1-メチルー4-フェニルピリジンー1-イウム ヨージド(2-fluoro-1-methyl-4-phenylpyridin-1-ium iodide)で例示されたN-アルキルアリールフルオロ-ピリジン塩(N-alkyl arylfluoropyridium)を調整するための一般的手順C
2-フルオロ-1-4-フェニルピリジン(2-fluoro-4-phenylpyridine (200 mg, 1.15 mmol))をメル(MeI) (2 mL)に溶解し、得られた溶液を、密閉したガラス瓶中で60 °C で 72時間加熱した。得られた沈殿物をろ過により回収し、ジエチルエーテル(3 x 5 ml)とアセトン(2 ml)で洗浄し、真空下で乾燥し、上記の化合物を黄色個体物(273 mg, 0.87 mmol, 75%)として得た。これらの化合物は、求核性溶媒(nucleophilic solvent)と容易に反応するので、それ相応に扱う必要がある。
【0050】
下記の化合物は、上記した一般的手順で調整・準備される反応性マトリックスを例示する。
2-フルオロ-1-メチルー4-フェニルピリジン-1-イウム ヨージド(2)(2-fluoro-1-methyl-4-phenylpyridin-1-ium iodide(2))
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-brompyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 9.25 - 9.11 (m, 1H), 8.42 - 8.33 (m, 2H), 8.11 - 8.00 (m, 2H), 7.72 - 7.57 (m, 3H), 4.48 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 161.7 (d, J = 11.4 Hz), 144.6 (d, J = 7.2 Hz), 132.8, 129.7, 128.1, 121.1 (d, J = 3.0 Hz), 110.2 (d, J = 21.5 Hz), 41.2 (d, J = 5.2 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z)): C12H11FN ([M +])の計算値: 188.0870、実測値m/z:188.0877。
【0051】
2-フルオロ-1-メチルー4-(ナフタレンー2-イル)ピリジンー1-イウムヨージド(3)(2-Fluoro-1-methyl-4-(naphthalen-2-yl)pyridin-1-iumiodide (3) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.90 (dd, J = 6.7, 4.9 Hz, 1H), 8.62 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 8.36 (dd, J = 6.7, 2.1 Hz, 1H), 8.24 (dd, J = 5.7, 2.1 Hz, 1H), 8-18 - 8.14 (m, 2H), 8.10 - 8.02 (m, 1H), 8.00 (dt, J = 8.7, 2.2 Hz, 1H), 7.82 - 7.66 (m, 2H), 4.36 (d, J = 3.5 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 161.6 (d, J = 11.7 Hz), 143.6 (d, J = 6.8 Hz), 135.2, 133.0, 130.0, 129.9, 129.4, 128.7, 127.9, 127.7, 123.6, 121.4 (d, J = 2.8), 111.3 (d, J = 21.9 Hz), 41.5 (d, J = 5.0 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C16H13FN ([M +])の計算値: 238.1027, 実測値m/z:238.1028。
【0052】
5-(アントラセン?9-イル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウムヨージド(4)(5-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (4))
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.77 (s, 1H), 8.64 (ddd, J = 8.5, 5.6, 2.3 Hz, 1H), 8.59 (dd, J = 4.2, 2.2 Hz, 1H), 8.18 (dt, J = 8.2, 1.3 Hz, 2H), 8.05 (dd, J = 8.7, 4.0 Hz, 1H), 7.61 - 7.52 (m, 6H), 4.29 (d, J = 3.8 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 154.4 (d, J = 11.4 Hz), 145.8 (d, J = 6.8 Hz), 136.0 (d, J = 3.8 Hz), 137.6, 130.8, 130.4, 129.5, 127.9, 126.6, 126.4, 125.4, 115.5 (d, J = 20.3 Hz), 42.9 (d, J = 5.1 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C20H15FN ([M +])の計算値: 288.1183, 実測値m/z:288.1179.
【0053】
2-フルオロ-1-メチル-4-(フェナントレンー9-イル)ピリジンー1-イウム ヨージド(5)(2-Fluoro-1-methyl-4-(phenanthren-9-yl)pyridin-1-ium iodide (5) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.85 - 8.79 (m, 1H), 8.78 - 8.69 (m, 2H), 8.05 - 8.02 (m, 2H), 8.00 (dd, J = 5.0, 1.9 Hz, 1H), 7.96 (s, 1H), 7.88 (dd, J = 8.2, 1.2 Hz, 1H), 7.84 - 7.77 (m, 2H), 7.74 - 7.66 (m, 2H), 4.30 (d, J = 3.6 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 163.4 (d, J = 11.5 Hz), 143.9 (d, J = 6.7 Hz), 132.3 (d, J = 1.9 Hz), 131.7, 131.2, 130.9, 130.8, 130.1, 129.7, 128.6, 128.5, 128.4, 128.3, 125.8 (d, J = 3.2 Hz), 125.6, 124.3, 123.5, 115.5 (d, J = 20.5 Hz), 42.3 (d, J = 5.0 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C20H16FN ([M +])の計算値: 288.1183、実測値m/z 288.1177.
【0054】
4-([1,1’:3’,1’’-テルフェニル]-5’-イル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウムヨージド(6)(4-([1,1':3',1''-Terphenyl]-5'-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (6) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.71 - 8.68 (m, 1H), 8.31 (dd, J = 6.7, 2.0 Hz, 1H), 8.26 (dd, J = 5.7, 2.0 Hz, 1H), 8.13 - 8.10 (m, 1H), 8.10 (d, J = 1.7 Hz, 2H), 7.80 - 7.76 (m, 4H), 7.55 - 7.49 (m, 4H), 7.49 - 7.41 (m, 2H), 4.23 (d, J = 3.6 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 162.0 (d, J = 11.5 Hz), 144.1 (d, J = 7.0 Hz), 143.8, 139.9, 134.7 (d, J = 2.2 Hz), 130.7, 129.6, 128.9, 127.9, 126.1, 122.2 (d, J = 3.1 Hz), 111.4 (d, J = 20.3 Hz), 41.9 (d, J = 5.1 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C24H20FN ([M +])の計算値: 340.1496, 実測値m/z 340.1496
【0055】

2-フルオロ-1-メチル-4-(10-フェニルアントラセン-9-イル)ピリジン-1-イウムヨージド(7)(2-Fluoro-1-methyl-4-(10-phenylanthracen-9-yl)pyridin-1-ium iodide (7) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.87 - 8.84 (m, 1H), 7.98 - 7.94 (m, 2H), 7.70 (dd, J = 8.7, 1.4, 0.8 Hz, 2H), 7.68 - 7.56 (m, 5H), 7.55 - 7.51 (m, 2H), 7.48 - 7.39 (m, 4H), 4.38 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 164.1 (d, J = 11.5 Hz), 144.8 (d, J = 6.8 Hz), 141.3, 138.3, 131.3, 130.0, 129.3, 129.2, 128.9, 128.7, 128.0 (d, J = 3.5 Hz), 127.9, 127.8, 126.4, 125.2, 117.0 (d, J = 20.9 Hz), 42.4 (d, J = 5.1 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C26H19FN ([M +])の計算値: 364.1496, 実測値m/z:364.1486
【0056】
4-(10-ブロムアントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウム(8)(4-(10-Bromoanthracen-9-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium (8) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順A,B,Cに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 9.01 (t, J = 5.6 Hz, 1H), 8.53 (dd, J = 8.9, 1.0 Hz, 2H), 7.78 (dd, J = 6.4, 1.7 Hz, 1H), 7.69 (dd, J = 4.3, 1.7 Hz, 1H), 7.56 (ddd, J = 9.0, 6.4, 1.2 Hz, 2H), 7.50 (dd, J = 8.7, 1.1 Hz, 2H), 7.42 (ddd, J = 8.8, 6.4, 1.1 Hz, 2H), 4.36 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 161.0 (d, J = 11.5 Hz), 143.7 (d, J = 6.5 Hz), 129.2, 128.7 (d, J = 1.6 Hz), 128.6, 127.5, 127.2, 127.1, 126.5 (d, J = 3.4 Hz), 125.4, 124.6, 124.5, 116.6 (d, J = 16.9 Hz), 41.40 (d, J = 5.0 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C20H14BrFN ([M +])の計算値: 366.0288, 実測値m/z:366.0284.
【0057】
4-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-エチルピリジン-1-イウム(9)(4-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-ethylpyridin-1-ium (9) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して、ヨウ化エチル(ethyl iodide)をアルキル化剤(alkylating agent)として使用して、一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): 9.32 (dd, J = 6.4, 4.8 Hz, 1H), 8.67 (s, 1H), 8.12 - 8.07 (m, 2H), 7.96 (dd, J = 6.4, 1.7 Hz, 1H), 7.79 (dd, J = 4.8, 1.7 Hz, 1H), 7.64 - 7.61 (m, 2H), 7.55 - 7.45 (m, 4H), 4.92 (qd, J = 7.4, 2.4 Hz, 2H), 1.81 (t, J = 7.3 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 163.3 (d, J = 11.3 Hz), 143.5 (d, J = 6.5 Hz), 130.9, 130.5, 129.0, 128.7, 128.1 (d, J = 1.7 Hz), 127.9 (d, J = 3.0 Hz), 127.8, 125.9, 124.4, 117.3 (d, J = 19.5 Hz), 51.8 (d, J = 4.3 Hz), 14.8 (d, J = 1.0 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C21H17FN ([M +])の計算値: 302.1340, 実測値m/z:302.1334.
【0058】
4-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-エチルピリジン-1-イウムヨージド(10)(4-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (10) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.89 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 8.72 (s, 1H), 8.15 - 8.13 (m, 2H), 7.92 - 7.90 (m, 1H), 7.87 - 7.85 (m, 1H), 7.61 - 7.46 (m, 6H), 4.39 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 163.7 (d, J = 11.4 Hz), 144.6 (d, J = 6.8 Hz), 131.2, 130.7, 129.4, 129.1, 128.0, 127.7 (d, J = 3.2 Hz), 126.2, 124.8, 117.6 (d, J = 20.9 Hz), 42.4 (d, J = 5.1 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C20H15FN ([M +])の計算値: 288.1183, 実測値m/z:288.1184.
【0059】
4-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-エチルピリジン-1-イウムトリフルオロメチルスルフォネート(11)(4-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium trifluoromethylsulfonate (11) )
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して、メチルトリフレート(methyl triflate)をメチル化剤(methylating agent)として使用して、一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 8.81 - 8.73 (m, 1H), 8.72 (s, 1H), 8.15 - 8.02 (m, 2H), 7.84 (dd, J = 6.4, 1.7 Hz, 1H), 7.78 (dd, J = 4.6, 1.7 Hz, 1H), 7.62 - 7.43 (m, 6H), 4.38 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
13C NMR (100 MHz, CDCl3/CD6CO): δ 163.7 (d, J = 11.4 Hz), 144.6 (d, J = 6.8 Hz), 131.0, 130.6, 129.1, 128.9, 128.4, (d, J = 3.2 Hz), 126.1, 124.4, 117.2, 42.1 (d, J = 5.1 Hz).
正確な質量(Accurate mass (MALDI, m/z): C20H15FN ([M +])の計算値: 288.1183, 実測値m/z:288.1176.
【0060】
実施例2:誘導体化されたモデル化合物のMALDI-MS感度の決定
高感度のMALDI-MSI分析のために、反応性マトリックスとしての合成物質の効率を評価し比較するために、様々な(異なる)官能基を有する小分子を、ラット対照脳組織切片の皮質領域上にスポットした。同じ組織切片上おいて、矩形の関心領域が、各脳の線条体領域で選択された。MALDI-MSI分析が、様々な合成された反応性マトリックスを使用して、選択された線条体領域と全てのモデル物質に対し、実行された。全ての誘導体化された化合物(以下“誘導体化合物”と総称する)に対する信号対雑音比(S/N比)が、社内で開発したソフトウェア(非特許文献3を参照)を用いて、計算された。その結果を図6の表1に示す。
表1の最初の行の訳語:No.: エントリ番号、Name: 誘導体化合物名、Molecular weight: 分子量、added mass to target molecule: 標的分子への添加質量、signal to noise values for detection of derivative compounds: 誘導体化合物の検出用の信号対雑音比、D4-Dopamine single/double: D4-ドーパミン シングル/ダブル、Endogenous dopamine: 内因性ドーパミン、Phenetylamine: フェネチルアミン Epinephrine: エピネフリン Hordenine: ホルデニン、ND = 検出されず(S/N 比< 3)、 * =使用された分析物(分析対象物)の濃度より10倍以上大きい。
このS/N比から次のことが結論づけられる。エチル化された4-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-アルキルピリジンー1-イウムのヨージド塩(iodide salts of the ethylated 4-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-alkylpyridin-1-ium)(エントリ番号9)と、メチル化された同ヨージド塩(iodide salts of the methylated 4-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-alkylpyridin-1-ium)(エントリ番号10)が、試験されたモデル化合物の中で最高のS/N比を出す。従来の非反応性マトリックスCHCAとDHB(エントリ番号がそれぞれ13,12)が、この新たに合成された反応性マトリックス(エントリ番号がそれぞれ9,10)と比較された。従来のCHCAとDHBは、小分子用に広範囲に使用されている陽イオンモードの非反応性/非選択的MALDI-MS支援マトリックスである。表1に示されたデータは、合成された反応性マトリックスを使用した場合、従来の非反応性マトリックスを使用した場合と比較した結果、約10倍以上(フェネチルアミンの検出に対し)から約500倍(ドーパミンの分析に対し)までの大幅な感度向上を示した。
【0061】
実施例3:4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-ヒドラジニル-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウム(4-(anthracen-9-yl)-1-(2-hydrazinyl-2-oxoethyl)pyridin-1-ium)の合成
N-ピリジン位置(N-pyridine position)に結合した反応性ヒドラジン部分(reactive hydrazine moiety)を有する反応性マトリックスの合成の一般的方法を図3に示す。この手順は、4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-ヒドラジニル-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウムで例示される。以下に示す。注意すべき点として、Boc-ヒドラジン(Boc-hydrazine)は、クロロアセチル クロライド(chloroacetyl chloride)以外のハロゲン化アシル(acyl halide)又はハロゲン化アルキル(alkyl halide)と反応する。かくして、ヒドラジン部分(hydrazine moiety)をピリジン環(pyridine ring)の窒素に結合させる様々なアルキル鎖(alkyl chain)又はオクソ-アルキル鎖(oxo-alkyl chain)を有する反応性マトリックスを提供することができる。
テルト-ブチル2-(2-クロロアセチル)ヒドラジン-1-カルボキシレート(tert-butyl 2-(2-chloroacetyl)hydrazine-1-carboxylate)
DCM (20 ml)中のテルト-ブチルヒドラジンカルボン酸(tert-butyl hydrazinecarboxylate)( 1.98 g, 15mmol, 2等量(以下“equiv”と称する))とピリジン(0.79 g, 10 mmol, 1.5 equiv)からなる溶液を攪拌し冷却(0 °C)し、その溶液にDCM (5 ml)中のクロロアセチルクロライド(chloro acetyl chloride) (1.12 g, 10 mmol, 1.5 equiv)を添加した。この反応混合物を、6時間以上攪拌し、希釈したHCl(50 ml)で3回洗浄した。有機層をNa2SO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、上記の化合物を透明なオイル(1.16 g, 55%)として得た。
4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-(2-(テルト-ブトキシルカルボニル)ヒドラジニル)-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウム塩化物(4-(anthracen-9-yl)-1-(2-(2-(tert-butoxycarbonyl)hydrazinyl)-2-oxoethyl)pyridine-1-ium chloride)
上記の手順Aで生成した4―(アントラセン-9-イル)ピリジン(4-(anthracen-9-yl)pyridine)(0.33 g, 1.29 mmol, 1 equiv)とテルト-ブチル2-(2-クロロアセチル)ヒドラキシン-1-カルボキシレート(tert-butyl2-(2chloroacetyl)hydraxine-1-carboxylate)(0.54 g, 2.58 mmol, 2 equiv)のクロロホルム(2 ml)の溶液を、120°C で 30分間加熱した。反応混合物が結晶化し、この個体生成物をろ過し、エチルアセテート(ethyl acetate)で洗浄した。これを、蒸気拡散結晶化(vapor diffusion crystallization)(EtOHとジエチルエーテル(diethyl ether))で精製した。黄色生成物の収量は(0.44 g, 81%)であった。
4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-ヒドラジニル-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウム((4-(anthracen-9-yl)-1-(2-hydrazinyl-2-oxoethyl)pyridin-1-ium )
DCM中の10 % MeOHの1 ml中の4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-(2-(テルト-ブトキシルカルボニル)ヒドラジニル)-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウム塩化物(4-(anthracen-9-yl)-1-(2-(2-(tert-butoxycarbonyl)hydrazinyl)-2-oxoethyl)pyridine-1-ium chloride)(50 mg, 0.12 mmol)の攪拌溶液に、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)溶液中で1mlの4M HClを、窒素下で点滴状で添加した。この反応混合物を室温で窒素下で一晩攪拌した。沈殿した形体物をろ過し、EtOAcで洗浄し、乾燥した。黄色い粉末(36 mg, 94 %)が得られた。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.35 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 8.90 (s, 1H), 8.42 (d, J = 6.3 Hz, 2H), 8.25 (dd, J = 8.3, 1.3 Hz, 2H), 7.60 (m, 2H) 7.55, 7.41 (d, 2H), 5.88 (s, 2H).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d6) δ 164.5, 157.2, 147.0, 131.0, 130.8, 130.3, 129.8, 129.4, 128.7, 127.9, 126.3, 124.9, 60.1.
【0062】
実施例4:4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-ヒドラジニル-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウム(4-(anthracen-9-yl)-1-(2-hydrazinyl-2-oxoethyl)pyridin-1-ium)を、11-デオキシコルティコステロン(11-deoxycorticosterone)のMALDI-MS分析用の反応性マトリックスとして使用すること。
合成された4―(アントラセン-9-イル)-1-(2-ヒドラジニル-2-オクソエチル)ピリジン-1-イウム反応性マトリックスが、金属製プレート上の11-デオキシコルティコステロンの試料に添加された。得られた誘導体が、陽イオンモードで動作するMALDI-MSにより直接分析された。その結果得られたMALDIスペクトルを図4に示す。ヒドラゾン(hydrazone)として11-デオキシコルティコステロンに結合された反応性マトリックスに対応するピークが、m/z = 640.6の点ではっきりと観測できる。更なる支援MALDIマトリックス物質は、MALDIスペクトルを得るためには、必要としなかった。
本発明の反応性マトリックスを使用せず、従来の支援マトリックス物質DHBを使用する対照実験では、11-デオキシコルティコステロンの信号は、関連試料濃度では、観測されなかった。
【0063】
実施例5:更なるピリジニウム反応性マトリックスの合成とMALDI-MSの利用
【0064】
下記の化合物が、一般的手順AとC下記の手順に従って調整された更なる反応性マトリックスを例示する。
4-(ジベンゾ[b,d]チオフェンー4-イル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウム ヨージド(14)(4-(Dibenzo[b,d]thiophen-4-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (14))
2-フルオロ-4-ブロモピリジン(2-fluoro-4-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CD3CN/CD3Cl) δ 8.70 (dd, J = 6.6, 5.0 Hz, 1H), 8.50 (dd, J = 7.7, 1.3 Hz, 1H), 8.38-8.30 (m, 1H), 8.28 (dd, J = 6.6, 2.0 Hz, 1H), 8.19 (dd, J = 5.4, 2.0 Hz, 1H), 8.02-7.93 (m, 1H), 7.80 (dd, J = 7.5, 1.4 Hz, 1H), 7.75 (dd, J = 7.7, 7.6 Hz, 1H), 7.62 - 7.56 (m, 2H), 4.25 (d, J = 3.6 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CD3CN/CD3Cl) δ 161.0 (d, J = 11.2 Hz), 143.7 (d, J = 7.1 Hz), 137.4, 137.1, 136.7, 134.0, 128.6 (d, J = 2.0 Hz), 127.8, 127.3, 125.2, 124.7, 124.5, 122.1 (d, J = 3.6 Hz), 122.0, 121.6, 111.8 (d, J = 21.4 Hz), 40.8 (d, J = 5.8 Hz).
C18H13FNS+ ([M+])の計算値MS (m/z): 294.1 実測値m/z:294.1.
【0065】






2-フルオロ-1-メチル-4-(ナフタレン-1-イロキシ)ピリジン-1-イウムヨージド(15)(2-Fluoro-1-methyl-4-(naphthalen-1-yloxy)pyridin-1-ium iodide (15))
DMF (4 mL)中の2,4-ジフルオロ-ピリジン(3.5 mmol)の溶液に、1-ナフトル(1-naphthol)(1.5 equiv)とK2CO3 (3 equiv)が添加された。得られた溶液を室温で18時間攪拌した。その後、EtOAc とブリン又はブライン(brine)で抽出した。中間体である2-フルオロ-4-(ナフタレン-1-イロキシ)ピリジンを、n-ヘキサン(n-Hexane)中の5% EtOAcで溶離するシリカゲルクロマトグラフィー(silica gel chromatography)で単離した。上記の化合物が、中間体である2-フルオロ-4-(ナフタレン-1-イロキシ)ピリジンから出発して、一般的手順Cに従って、調整された。
1H NMR (400 MHz, CD3CN/CD3Cl) δ 8.45 (ddd, J = 7.2, 5.6, 1.3 Hz, 1H), 8.11 (d, J = 8.9 Hz, 1H), 8.05-7.99 (m, 1H), 7.99-7.90 (m, 1H), 7.76 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 7.66-7.55 (m, 2H), 7.38-7.32 (m, 2H), 7.20 (dd, J = 6.3, 2.6 Hz, 1H), 4.06 (d, J = 3.5, 1.3 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CD3CN/CD3Cl) δ 175.1 (d, J = 12.5 Hz), 161.7 (d, J = 273.1 Hz), 150.8, 146.4 (d, J = 5.4 Hz), 135.1, 133.3, 132.7, 129.1, 129.0, 128.6, 128.0, 120.3, 119.3, 113.6 (d, J = 2.5 Hz), 101.5 (d, J = 25.4 Hz), 41.7 (d, J = 5.0 Hz).
C16H13FNO+ ([M+])の計算値MS (m/z): 254.1 実測値m/z:254.2.
【0066】





2-(アントラセン-9-イル)-4-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウム ヨージド(16)(2-(Anthracen-9-yl)-4-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (16) )
4-フルオロ-2-ブロモピリジン(4-fluoro-2-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CD3CN) δ 9.26 (dd, J = 7.1, 5.5 Hz, 1H), 8.96 (s, 1H), 8.30 - 8.22 (m, 2H), 8.09 (td, J = 6.9, 3.0 Hz, 1H), 7.95 (dd, J = 7.0, 3.0 Hz, 1H), 7.68 - 7.55 (m, 4H), 7.44 (dq, J = 8.0, 1.0 Hz, 2H), 3.78 (d, J = 1.0 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CD3CN) δ 173.3 (d, J = 280.8 Hz), 159.0 (d, J = 14.1 Hz), 153.3 (d, J = 13.3 Hz), 132.9, 131.9, 130.3, 130.2, 129.7, 127.2, 124.7, 123.5, 121.5 (d, J = 22.1 Hz), 117.2 (d, J = 22.3 Hz), 46.8.
C20H15FN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 288.1 実測値m/z:288.1.
【0067】





4-(アントラセン-9-イル)-2-イオド-1-メチルピリジン-1-イウム クロライド(17)(4-(Anthracen-9-yl)-2-iodo-1-methylpyridin-1-ium chloride (17))
4-フルオロ-2-クロロピリジン(4-fluoro-2-chloropyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.46 (d, J = 6.3 Hz, 1H), 8.91 - 8.82 (m, 2H), 8.29 - 8.18 (m, 3H), 7.65 - 7.59 (m, 2H), 7.59 - 7.52 (m, 4H), 4.54 (s, 3H).
C20H15IN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 396.0 実測値m/z:396.0.
【0068】






4-(アントラセン-9-イルメチル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウム ヨージド(18)(4-(Anthracen-9-ylmethyl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (18))
2-フルオロピリジン-4-イルブロン酸(2-fluoropyridin-4-ylboronic acid)と9-(ブロモメチル)アントラセン(9-(bromomethyl)anthracene)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CD3CN) δ 8.67 (s, 1H), 8.33 (dd, J = 6.6, 4.8 Hz, 1H), 8.21-8.11 (m, 4H), 7.64-7.51 (m, 5H), 7.47-7.42 (m, 1H), 5.35 (s, 2H), 4.04 (d, J = 3.6 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CD3CN) δ 169.2 (d, J = 11.2 Hz), 158.5 (d, J = 280.5 Hz), 144.4 (d, J = 6.6 Hz), 132.7, 131.3, 130.4, 129.3, 128.1, 128.0, 126.4, 124.8, 124.7 (d, J = 3.2 Hz), 114.2 (d, J = 20.5 Hz), 42.1 (d, J = 5.4 Hz), 34.4 (d, J = 1.8 Hz).
C21H17FN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 302.1 実測値m/z:302.2.
【0069】




2-ロド-1-メチルクイノリニウム塩化物(19)(2-Iodo-1-methylquinolinium chloride (19))
2-クロロクイノリン(2-chloroquinoline)から出発して一般的手順Cに従って調整された。
1H NMR (400 MHz DMSO-d6) δ 7.90 (d, J = 9.4 Hz, 1H), 7.72 (dd, J = 7.7, 1.6 Hz, 1H), 7.63 (ddd, J = 8.7, 7.1, 1.6 Hz, 1H), 7.53 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.27 (ddd, J = 7.7, 7.1, 1.1 Hz, 1H), 6.61 (d, J = 9.5 Hz, 1H), 3.61 (s, 3H);
13C NMR (101 MHz, DMSO-d6)δ 161.1, 139.7, 139.2, 130.8, 128.7, 121.9, 121.1, 120.1, 114.6, 29.0.
MS (m/z) C10H9IN+ ([M+])の計算値: 270.0 実測値m/z: 270.0.
【0070】




2-クロロ-1-メチルクイノリン-1-イウム トリフルオロ-メタンスルフォネート(20)(2-Chloro-1-methylquinolin-1-ium trifluoromethanesulfonate (20))
2-クロロクイノリン(2-chloroquinoline)とメチルトリフルオロメタンスルフォネート(methyl trifluoromethanesulfonate)から出発して一般的手順Cに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.89 (d, J = 9.5 Hz, 1H), 7.71 (dd, J = 7.7, 1.6 Hz, 1H), 7.62 (ddd, J = 8.6, 7.1, 1.6 Hz, 1H), 7.52 (dd, J = 8.5, 0.9 Hz, 1H), 7.26 (ddd, J = 7.9, 7.2, 1.1 Hz, 1H), 6.60 (d, J = 9.4 Hz, 1H), 3.61 (s, 3H).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d6) δ 161.2, 139.8, 139.3, 130.9, 128.8, 122.0, 121.1, 120.2, 114.7, 29.1.
C10H9ClN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 178.0 実測値m/z:178.0.
【0071】





9-クロロ-10-メシラクリヂン-10-イウムトリフルオロ-メタンスルフォネート(21)(9-Chloro-10-methylacridin-10-ium trifluoromethanesulfonate (21))
9-クロロアクリヂン(9-chloroacridine)とメチルトリフルオロメタンスルフォネート(methyl trifluoromethanesulfonate)から出発して一般的手順Cに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, (CD3)2CO) δ 9.01 (ddd, J = 8.7, 1.5, 0.6 Hz, 2H), 8.97 (dt, J = 9.3, 0.8 Hz, 2H), 8.60 (ddd, J = 9.3, 6.8, 1.5 Hz, 2H), 8.23 (ddd, J = 8.7, 6.8, 0.9 Hz, 2H), 5.12 (s, 3H).; 13C NMR (101 MHz, DMSO-d6/(CD3)2CO) δ 177.3, 143.2, 134.4, 127.3, 122.6, 121.6, 116.5, 34.0.
C14H11ClN+ ([M+])の計算値MS (m/z) : 228.1 実測値m/z:228.1.
【0072】







4-(アントラセン-9-イレチニル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウム ヨージド(22)(4-(Anthracen-9-ylethynyl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (22))
9-(プロップ-1-イン-1-イル)アントラセン(9-(Prop-1-yn-1-yl)anthracene)(1 equiv)と、クル(CuI) (0.11 equiv)と、Pd(PPh3)2Cl2 (0.1 equiv)と、4-ブロモ-2フルオロ-ピリジン(4-Bromo-2-fluoropyridine)(2.7 equiv) が、乾燥 TEA (15 mL) に溶解され、この反応混合物を110 °Cで一晩中攪拌した。室温に冷却後、100 mL の飽和。NH4Cl 溶液が添加され、水相が、100 mL のジエチルエーテル(diethyl ether)で3回抽出された。この組み合わされた有機相をNa2SO4 上で乾燥させ、真空下で濃縮した。この粗混合物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ペンタン+5%トルエンと2-5% EtOAc)(silica gel, pentane+ 5% toluene and 2-5% EtOAc)で精製し、中間体である4-(アントラセン-9-イレチニル)-2-フルオロ-ピリジン(4-(anthracen-9-ylethynyl)-2-fluoropyridine)を生成した。上記の化合物が、中間体である4-(アントラセン-9-イレチニル)-2-フルオロ-ピリジンから出発して一般的手順Cに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.01 (dd, J = 6.6, 5.1 Hz, 1H), 8.97 (s, 1H), 8.76 (dd, J = 5.6, 1.8 Hz, 1H), 8.72 (dd, J = 8.7, 1.0 Hz, 2H), 8.48 (dd, J = 6.5, 1.8 Hz, 1H), 8.27 (dd, J = 8.4, 1.1 Hz, 2H), 7.82 (ddd, J = 8.7, 6.6, 1.3 Hz, 2H), 7.71 (ddd, J = 8.0, 6.6, 1.2 Hz, 2H), 4.21 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
C22H15FN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 312.1 実測値m/z:312.1.
【0073】





3-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウムヨージド(23)(3-(Anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (23))
2-フルオロ-3-ブロモピリジン(2-fluoro-3-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.25 - 9.17 (m, 1H), 8.94 (s, 1H), 8.93 - 8.85 (m, 1H), 8.30 - 8.22 (m, 3H), 7.71 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 7.64 (ddd, J = 8.3, 6.6, 1.6 Hz, 2H), 7.58 (ddd, J = 8.3, 6.6, 1.6 Hz, 2H).
C20H15FN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 288.1 実測値m/z:288.2.
【0074】






3-(アントラセン-9-イル)-5-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウムヨージド(24)(3-(Anthracen-9-yl)-5-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (24))
5-フルオロ-3-ブロモピリジン(5-fluoro-3-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.66 (ddd, J = 3.9, 2.4, 1.1 Hz, 1H), 9.22 (dd, J = 1.30, 1.26 Hz, 1H), 8.95 (ddd, J = 8.2, 2.5, 1.4 Hz, 1H), 8.91 (s, 1H), 8.26 (ddd, J = 8.4, 1.4, 0.7 Hz, 2H), 7.70 - 7.60 (m, 4H), 7.56 (ddd, J = 8.7, 6.6, 1.4 Hz, 2H), 4.45 (s, 3H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3/CD3CN) δ 161.1 (d, J = 257.2 Hz), 144.6, 141.6 (d, J = 7.6 Hz), 136.2 (d, J = 17.6 Hz), 135.7 (d, J = 36.8 Hz), 131.7, 130.7, 130.6, 129.5, 128.1, 126.6, 126.5, 125.7, 50.0.
C20H15FN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 288.1 実測値m/z:288.2.
【0075】




2-(アントラセン-9-イル)-6-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウムトリフルオロ-メタンスルフォネート(25)(2-(Anthracen-9-yl)-6-fluoro-1-methylpyridin-1-ium trifluoromethanesulfonate (25))
2-フルオロ-6-ブロモピリジン(2-fluoro-6-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, CD3CN) δ 8.95 (s, 1H), 8.82 (dd, J = 7.5, 7.0 Hz, 1H), 8.27 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 8.07 (dd, J = 8.9, 4.5 Hz, 1H), 8.02 - 7.94 (m, 1H), 7.70 - 7.56 (m, 4H), 7.47 (d, J = 8.1 Hz, 2H), 3.67 (d, J = 3.9 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CD3CN) δ 161.8 (d, J = 281.4 Hz), 153.8 (d, J = 8.4 Hz), 151.5 (d, J = 12.8 Hz), 133.0, 132.0, 131.0, 130.3, 129.6, 129.4, 129.3, 127.3, 124.8, 115.5 (d, J = 21.6 Hz), 39.0 (d, J = 6.6 Hz).
C20H15FN+ ([M+])の計算値MS (m/z) : 288.1 実測値m/z:288.2.
【0076】


(E)-4-(2-(アントラセン-9-イル)ビニル)-2-フルオロ-1-メチルピリジン-1-イウムイオヂード(26)( (E)-4-(2-(Anthracen-9-yl)vinyl)-2-fluoro-1-methylpyridin-1-ium iodide (26))
オーブンで乾燥させたガラス容器に、Pd2(dba)3 (0.01eq), Cy3P (0.04eq) と4-(アントラセン-9-イルエチニル)-2-フルオロ-ピリジン( 4-(anthracen-9-ylethynyl)-2-fluoropyridine)(1eq)を添加した。この容器を密封し、N2で3回フラッシュした(flushed)後、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)を0.2mL加えた。この混合物を室温で15分間攪拌後、25%ギ酸(aqueous formic acid)を3等量を添加し、反応物を80°Cまで加熱した。2時間後、溶媒を真空下で除去し、残留物を、カラムクロマトグラフィー(ペンタン(pentane), 5% トルエン(toluene)と2-5% EtOAc))で精製し、中間体である(E)-4-(2-(アントラセン-9-イル)ビニル-2-フルオロ-ピリジン((E)-4-(2-(anthracen-9-yl)vinyl)-2-fluoro-pyridine.)を得た。
上記の化合物が、中間体である(E)-4-(2-(アントラセン-9-イル)ビニル-2-フルオロ-ピリジン((E)-4-(2-(anthracen-9-yl)vinyl)-2-fluoro-pyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.03 (d, J = 16.4 Hz, 1H), 8.91 (dd, J = 6.6, 5.1 Hz, 1H), 8.74 (s, 1H), 8.56 (dd, J = 6.2, 1.8 Hz, 1H), 8.41 - 8.35 (m, 3H), 8.23 - 8.15 (m, 2H), 7.67 - 7.56 (m, 4H), 7.36 (d, J = 16.5 Hz, 1H), 4.19 (d, J = 3.6 Hz, 3H).
C22H17FN+ ([M+])の計算値MS (m/z): 314.1 実測値m/z:314.2.
【0077】

2-フルオロ-1-メチル-4-(ピレン-1-イル)ピリジン-1-イウムイヂード(27)(2-Fluoro-1-methyl-4-(pyren-1-yl)pyridin-1-ium iodide (27))
4-フルオロ-2-ブロモピリジン(4-fluoro-2-bromopyridine)から出発して一般的手順AとCに従って調整された。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.09 (dd, J = 6.5, 5.0 Hz, 1H), 8.58 (dd, J = 5.5, 1.9 Hz, 1H), 8.52 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 8.48 - 8.42 (m, 2H), 8.41 - 8.30 (m, 4H), 8.23 - 8.17 (m, 3H), 4.32 (d, J = 3.7 Hz, 3H).
C22H15FN+ ([M+])の計算値MS (m/z:): 312.1 実測値(m/z:):312.2.
【0078】





4-(アントラセン-9-イル)-2-ヒドラチネイル-1-メチルピリジン-1-イウム(28)(4-(Anthracen-9-yl)-2-hydrazineyl-1-methylpyridin-1-ium (28))
アセトニトリル(acetonitrile)中の4-(アントラセン-9-イル)-2-フルオロ-1-メチル-ピリディニウム ヨージド(4-(anthracen-9-yl)-2-fluoro-1-methyl-pyridinium iodide) (10 mg, 0.036 mmol))の溶液に、テルト-ブチルカルバザト(tert-butyl carbazate)(5 mg, 0.036 mmol)を添加した。得られた混合物を1時間攪拌しその後水と酢酸エチル(ethylacetate)で洗浄した。この組み合わされた有機層を真空下で蒸発させ、粗保護中間生成物を得た。この残留物をディオキサン(dioxane)中の0.2 mL の 4M HCl内に取り込み、室温で48時間攪拌した。この混合物をその後酢酸エチル(ethylacetate)と水とで抽出した。この組み合わせた水層を減圧真空下で蒸発させ、黄色い固形物((3 mg, 40%))を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 8.69 (s, 1H), 8.23 - 8.06 (m, 2H), 7.91 (d, J = 6.8 Hz, 1H), 7.74 (dq, J = 8.4, 1.0 Hz, 2H), 7.63 - 7.39 (m, 4H), 6.41 (dd, J = 1.9, 0.6 Hz, 1H), 6.26 (dd, J = 6.8, 1.9 Hz, 1H), 3.59 (s, 3H), 3.56 (s, 4H).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d6) δ 162.1, 150.7, 140.4, 133.6, 131.2, 129. 1, 128.6, 127.7, 126.8, 125.9, 121.1, 108.9, 37.28.
C20H18N3+ ([M]+) の計算値m/z: 300.2, 実測値m/z:300.2
【0079】
高感度のMALDI-MSI分析のために反応性マトリックスとしての合成物質の効率を評価するために、一級アミン又はフェノール基(phenolic group)を有する小分子を試験物質として使用した。
2種類の濃度の溶液(0.1 mg/ml と0.01 mg/ml)を、MALDI金属ターゲット上に堆積させた(0.5 μl)。この2種類の濃度の溶液は、セロトニン(serotonin) (5-HT), ドーパミン(dopamine (DA)), 3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(3,4-dihydroxyphenylacetic acid (DOPAC)), 3-O-メチルドーパ(3-O-Methyldopa (3-OMD) )とy-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid (GABA))を含む。
反応性マトリックス溶液は、70% アセトニトリル(acetonitrile)(4.4 mM)中に、この合成化合物を溶解させることにより、調整した。自動空気噴霧器(TM-Sprayer, HTX技術社製)を用いて、加熱された試薬5mlをスポットされた標準の上に噴霧した。ノズル温度を80度Cに設定し、試薬は30パスで80 μl/分の流速で噴霧した。MSIデータは、陽イオン化モードで、MALDI-FT-ICR (Solarix XR 7T-2?, Bruker Daltonics社製) 装置で取得された。これは、250 μmの空間解像度でスポットをラスタリングする(rastering)ことにより、行った。全ての誘導体化合物に対するS/N比は、自社開発のソフト(msIQuant)を用いて、各スポットの平均スペクトルから得られた。その結果を図7に記載された表2に示す。
表2の最初の行の訳文:Test reactive matrix name: テスト対象の反応性マトリックス名、Analyte of interest: 対象分析物、5HT: セロトニン, 3-OMD: 3-O-メチルドーパ, DA: ドーパミン、DOPAC: 3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸, GABA: y-アミノ酪酸, Y = S/Nが3以上, N = S/Nが3未満.
表2からわかるように、全ての合成反応性マトリックスは、様々な分析物のイオン化と脱離を促進するのに有効であった。
【0080】
実施例6:脳組織の切片内の薬剤のMALDI-MS検出用のブロモ-ピリリウム(bromo-pyrylium)反応性マトリックスの使用
ピリジウム誘導体化(pyrylium derivatization)による電荷タグ化(charge-tagging)は、小分子を含む一級アミンにたいするMALDIとDESI-MSI分析の感度を高めることが証明された。このような誘導体化は、炭素と水素を標的化合物に単に付加するだけなので、生成物の結果として生じる同位体パターンは、以下記載の種即ち誘導体化はされていないが、イオン化され、脱離され、非選択的に検出される種とは区別できない。置換されたピリリウム・イオン(substituted pyrylium ion)に臭素(bromine)を添加することにより、誘導体化された物質(化合物)に明確な同位体パターンと質量欠損が生じる。これにより、誘導体化合物を未誘導体化化合物から区別できるようになる。
【0081】
材料と試薬
2,4,6-トリフェニルピリリム(2,4,6-triphenylpyrylium (TPP))、2-(4-ブロモ-フェニル)-4(2-(4-bromo-phenyl)-4)、6-ジフェニル-ピラニリウム(6-diphenyl-pyranylium (Br-TPP))、トリエチルアミン(triethylamine (TEA))からなるテトラフルオロ-ホウ酸塩(Tetrafluoroborate salts)と他の全ての化学物質は、特に明記しない限り、Sigma-Aldrich (Stockholm, Sweden)社から購入し精製せずそのまま使用した。水、メタノール、トリフルオ酢酸(trifluoroacetic acid (TFA))は、Merck (Hohenbrunn, Germany)社から購入した。
【0082】
動物実験
全ての動物は、エアコンの効いた室温20 °C 湿度53% の部屋(12時間毎に明暗を繰り返した)に、餌と水(リビツム(libitum)を入れた)にアクセス可能な状態で収納した。実験は、動物の倫理的使用に関する非特許文献4に従って行われ、Karolinska Institute (N350/08 and N40/13)での地域倫理委員会で承認された。
成体雄マウスC57BL/6(3か月齢、Charles River Laboratories(Koln, Germany)社から入手)を、フルボキサミン(fluvoxamine)の実験に用いた。フルボキサミンは、0.25% トイーン80/生理食塩水に溶解し、40 mg/kgの投与量で腹腔内注射した。このマウスは、フルボキサミン投与後30分で頸椎脱臼により犠牲にした。ビークル対照は、実験処置中に投与した量と等量の生理食塩水をマウスに注射して得た。全ての脳を直ちに取り出し、急速凍結し、更なる分析まで-80°Cで保存した。
【0083】
組織調整と誘導体化
凍結した脳組織を、クリオスタット-ミクロトーム(cryostat-microtome )(Leica CM3050S; Leica Microsystems, Welzlar社製, Germany)を用いて、厚さ14μm で切断し、導電性インジウムスズ酸化物(ITO)ガラス・スライド(Bruker Daltonics社製)の上で解凍し?80°Cで保存した。切片を、窒素流下でゆっくりと乾燥させ、室温で15分間完全に乾燥させた。その後、切片を、光スキャナー(Epson社製perfection V500)を用いて光学的に画像化した。
その後脳試料をTPPとBr-TPPで被覆した。誘導体化溶液を、8 mgのTPP又はBr-TPPを3.5μLのトリエチルアミン(TEA)を含む6mlの80% MeOHに溶解することにより、調整した。自動空気圧噴霧器(TM-Sprayer; HTX Technologies社, Carrboro, NC)を用いて、温かい試薬を組織断片上に噴霧した。ノズル温度を80℃に設定し、試薬は、30回のパスで、脳切片上に、110cm/分の直線速度で、80 μL/分の流速で噴霧した。試料は、50%メタノール溶液からの蒸気で飽和させた室内で15分間(5分毎に窒素流で乾燥させて)インキュベートした。その後分析した。
【0084】
質量分析
全てのMALDI-MSI実験は、陽イオンモードのSmartbeam II 2 kHzレーザーを具備するMALDI-TOF/TOF (Ultraflextreme, Bruker Daltonics社, Bremen, Germany) 質量計を用いて、行われた。レーザー出力は各実験の開始時に最適化され、MALDI-MSI実験中は、一定に維持された。フレックス画像化(Fleximaging)対4.0ビルド32(Bruker Daltonics社製, Billerica, MA)を用いて、MALDI-MSIデータの正規化と可視化が行われた。
【0085】
実験結果
TPPとその臭素化誘導体であるBr-TPPを用いて、マウスの脳組織切片内のフルボキサミンの局在をマップ化した(図5参照)。図5は、支援マトリックスを投与していない脳組織切片の対照群(a、d)と支援マトリックスの投与群(b,e)におけるTPP(a, b)とBr-TPP (d, e)の誘導体化されたフルボキサミン(m/z: 609.3 と 687.2) のMALDI-MSI相対存在量と空間分布を示す。図5は、TPP (c)とBr-TPP (f)で処理されたフルボキサミンが投与された組織切片の平均スペクトルも示す。データは、総イオン数に対し正規化されたレインボー・スケールを用いて示されている。スケール・バー、5mmで、空間解像度は100 μmである。
フルボキサミン(fluvoxamine)は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI))であり、これは当初は抗うつ剤として開発されたが不安障害の治療に広く使用されている。フルボキサミンの一級アミン官能基は、TPPとBr-TPPの両方と選択的に反応する。対照ネズミとフルボキサミンを投与したネズミからとった脳組織切片を、非臭化TPP (a, b) と臭化Br-TPP (d, e)によって誘導体化した。干渉信号は、TPP (a) とBr-TPP (d)を用いた対照ネズミの脳組織切片では検出されなかったが、誘導体化されたフルボキサミンは、TPP (b) を用いたものはm/z 609.3で検出され、Br-TPP (e)を用いたものはm/z 687.2 で検出された。これらは、支援マトリックスを使用せずに行われた。フルボキサミンの同様な分布は、その大部分が皮質と小脳に局在するが、両方の誘導体化剤を用いて見いだされた。TPP誘導体化されたフルボキサミンの同位体パターンは、典型的な無標識の化合物(c)を表し、臭素含有Br-TPP誘導体化されたフルボキサミン(bromine containing Br-TPP derivatized fluvoxamine)は、誘導体化されていない物質に対応する信号から容易に区別できる特定の同位体パターンを示す。
【0086】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。また、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。「少なくとも1つ或いは複数」、「又は」は、それらの内の1つに限定されない。例えば「A,B,Cの内の少なくとも1つ」は「A」、「B」、「C」単独のみならず「A,B或いはB,C更には又A,B,C」のように複数のものを含んでもよい。「A,B,Cの内の少なくとも1つ」は、A,B,C単独のみならずA,Bの組合せA,B,Cの組合せでもよい。「A,B又はC」は、A,B,C単独のみならず、A,Bの2つ、或いはA,B,Cの全部を含んでもよい。本明細書において「Aを含む」「Aを有する」は、A以外のものを含んでもよい。特に記載のない限り、装置又は手段の数は、単数か複数かを問わない。「’」と「´」とは、同じ意味である。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7