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特許7360155無電解ニッケルめっき皮膜及び該無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】無電解ニッケルめっき皮膜及び該無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/50 20060101AFI20231004BHJP
   C23C 18/34 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C23C18/50
C23C18/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019207665
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021080513
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 啓
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】吉川 純二
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-206866(JP,A)
【文献】特表2004-513229(JP,A)
【文献】特開平06-256961(JP,A)
【文献】特開2003-041375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素、リン、及び銀を0.1~10質量%含む無電解ニッケルめっき皮膜であって、
0.01~1.5質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含む、皮膜。
【請求項2】
0.01~1質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含む、請求項1に記載の皮膜。
【請求項3】
無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法であって、
触媒含有組成物に樹脂材料の被処理面を接触させる工程を有し、
前記無電解ニッケルめっき皮膜は、0.01~1.5質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含み、
前記触媒含有組成物に含まれる触媒は銀触媒又は銅触媒である、方法。
【請求項4】
前記触媒含有組成物は、下記(1)、(2)、(3)又は(4)である、請求項3に記載の方法。
(1)Ag-Snコロイド溶液
(2)Agナノ粒子分散液
(3)Agイオンを含む酸性マンガン水溶液
(4)Cuナノ粒子分散液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき皮膜及び該無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂表面に金属めっきを形成する技術開発が、盛んに進められている。例えば、軽量化及び意匠性等を考慮し、自動車の内装用部品として金属めっきを施した樹脂成形体が使用されるようになってきている。この際、具体的には、ABS樹脂、PC/ABS樹脂、PPE樹脂又はポリアミド樹脂等に対して、銅及び/又はニッケルなどのめっきが施される。
【0003】
その他にも、樹脂基板に導体回路を形成するために、かかる技術が採用される。具体的には、樹脂基板表面に、銅などのめっき皮膜が形成される。
【0004】
樹脂基板及び樹脂成形体等の樹脂材料にめっき皮膜を形成するための一般的な方法として、クロム酸によるエッチング処理によって樹脂材料の表面を粗化した後、必要に応じて、中和及びプレディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含むコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、かかる方法では、触媒付与工程で使用する触媒としてのパラジウム化合物が高価であることから、コスト面で課題がある。コストを下げるべく、パラジウム化合物に替えて銀触媒又は銅触媒を使用することも考えられる。
【0006】
しかしながら、従来より汎用されている次亜リン酸ナトリウムを還元剤として使用する無電解めっき形成方法において、銀触媒又は銅触媒は、次亜リン酸ナトリウム存在下、触媒としての機能を果たさないという問題がある。
【0007】
銀又は銅が触媒として機能するような還元剤としては、ジメチルアミンボランを始めとするホウ素化合物及びホルムアルデヒドが公知である。
【0008】
しかし、還元剤としてジメチルアミンボランを使用する場合、形成されるめっき皮膜中にホウ素が残存し、その結果、めっき皮膜に割れや樹脂材料への密着不良といった問題が生じやすくなる。つまり、ジメチルアミンボランを銀触媒に対応する還元剤として使用した場合、良好な機械的特性を有するめっき皮膜を得ることができない。
【0009】
一方、ホルムアルデヒドを使用することには発がん性の問題が指摘されており、作業環境の面での課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-002217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、高価なパラジウム系触媒を使用せずとも形成可能であり、且つ、樹脂材料に対する良好な皮膜物性を有する無電解ニッケルめっき皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、銀触媒又は銅触媒を使用し、且つ、還元剤として所定量のホウ素化合物及び次亜リン酸ナトリウムを併用することにより、パラジウム系触媒を使用することなく、樹脂材料に対する良好な皮膜物性を有する無電解ニッケルめっきを提供できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の無電解ニッケルめっき皮膜及び該無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法を提供する。
項1.
ホウ素、リン、並びに銀若しくは銅を含む無電解ニッケルめっき皮膜であって、
0.01~1.5質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含む、皮膜。
項2.
0.01~1質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含む、項1に記載の皮膜。
項3.
無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法であって、
触媒含有組成物に樹脂材料の被処理面を接触させる工程を有し、
前記無電解ニッケルめっき皮膜は、0.01~1.5質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含み、
前記触媒含有組成物に含まれる触媒は銀触媒又は銅触媒である、方法。
項4.
前記触媒含有組成物は、下記(1)、(2)、(3)又は(4)である、項3に記載の方法。
(1)Ag-Snコロイド溶液
(2)Agナノ粒子分散液
(3)Agイオンを含む酸性マンガン水溶液
(4)Cuナノ粒子分散液
【発明の効果】
【0014】
本発明の無電解ニッケルめっきは、高価なパラジウム系触媒を使用せずとも形成可能であり、且つ、樹脂材料に対する良好な皮膜物性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(無電解ニッケルめっき皮膜)
本発明の無電解ニッケル皮膜は、少なくともホウ素、リン、並びに銀若しくは銅を含んで構成され、前記皮膜100質量%中に、0.01~1.5質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンが含まれる。
【0016】
無電解ニッケルめっき中に含まれるニッケルの含有量は、当該皮膜100質量%中に50~99質量%であることが好ましく、80~98質量%であることがより好ましく、90~95質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
無電解ニッケルめっき皮膜中のホウ素の含有量は、当該皮膜100質量%中に0.01質量%以上であり、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。無電解ニッケルめっき皮膜中のホウ素の含有量が0.1質量%未満の場合、皮膜を充分に形成することができなくなる。
【0018】
一方、無電解ニッケルめっき皮膜中のホウ素の含有量は1.5質量%以下であり、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。無電解ニッケルめっき皮膜中におけるホウ素の含有量が1.5質量%を超えると、皮膜物性が悪化し、無電解ニッケルめっき皮膜の樹脂材料に対する密着性が低下する。
【0019】
また、無電解ニッケルめっき皮膜中におけるリンの含有量は、当該皮膜100質量%中に0.01質量%以上であり、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。無電解ニッケルめっき皮膜中のリンの含有量が0.01質量%未満であると、皮膜を充分に形成することができなくなってしまう。
【0020】
一方、無電解ニッケルめっき皮膜中のリンの含有量は、当該皮膜100質量%中に10質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。無電解ニッケルめっき皮膜中のリンの含有量が10質量%を超えると、導電性が悪化し、以降の電気めっき工程で付き回り不良が発生してしまう。
【0021】
無電解ニッケルめっき皮膜は、銀又は銅も含む。当該銀又は銅は、後述する前処理の工程において使用される銀触媒又は銅触媒に由来するものである。銀及び/又は銅の含有量は、当該皮膜100質量%中に、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0022】
無電解ニッケルめっき皮膜中における銀及び/又は銅の含有量は、当該皮膜100質量%中に0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。一方、無電解ニッケルめっき皮膜中の銀及び/又は銅の含有量は、当該皮膜100質量%中に10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、充分な密着性が確保できる。
【0023】
無電解ニッケルめっき皮膜には、その他にも適宜、錫、マンガン、ビスマス、鉛、ヒ素アンチモンからなる群より選択される少なくとも1種が含まれてもよい。
【0024】
無電解ニッケルめっき皮膜に錫が含まれる場合、錫の含有量は、当該皮膜100質量%中に、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましい。
【0025】
無電解ニッケルめっき皮膜にマンガンが含まれる場合、マンガンの含有量は、当該皮膜100質量%中に0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、パラジウムを含まないことが好ましい。本発明の無電解ニッケルめっき皮膜は、高価なパラジウム系触媒を使用せずとも形成可能であり、パラジウム非含有無電解ニッケルめっき皮膜とすることが可能である。
【0027】
(無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法)
本発明は、無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法に関する発明を包含する。本発明の無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法において、前記無電解ニッケルめっき皮膜は、0.01~1.5質量%のホウ素及び0.01~10質量%のリンを含む。また、当該前処理に際しては、銀触媒又は銅触媒を使用する。
【0028】
本明細書において、無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理とは、樹脂材料への金属めっき形成における、いわゆる触媒付与処理を意味する。また、本発明の前処理方法を通じて形成される無電解ニッケルめっき皮膜は、前記したものと同様である。
【0029】
本明細書において触媒含有組成物とは、樹脂材料表面に触媒を付着させる際に使用する液体組成物のことを意味し、前記触媒含有組成物に含まれる触媒は、銀触媒又は銅触媒である。かかる触媒含有組成物として、銀コロイド及び錫コロイドが分散された溶液(単に、「Ag-Snコロイド溶液」ともいう。)、銀ナノ粒子が分散された溶液(単に、「Agナノ粒子分散液」ともいう。)、銀イオンを含む酸性マンガン水溶液(単に、「Agイオンを含む酸性マンガン水溶液」ともいう。)、及び銅ナノ粒子が分散された溶液(単に、「Cuナノ粒子分散液」ともいう。)の何れでも好適に使用することが可能である。
【0030】
触媒含有組成物中に含まれるAg、Agイオン又はCuの濃度は、10mg/L~20g/Lが好ましく、20mg/L~15g/Lがより好ましく、50mg/L~10g/Lがさらに好ましい。Ag、Agイオン又はCuの濃度を10mg/L以上とすることにより、触媒付与がより一層充分となる。また、Ag、Agイオン又はCuの濃度を20g/L以下とすることにより、より一層装飾性に優れる皮膜外観を得ることができる。
【0031】
Ag-Snコロイド溶液、Agナノ粒子分散液、及びCuナノ粒子分散液については、例えば市販品を使用するとよい。Agイオンを含む酸性マンガン水溶液とは、国際公開第2018/216714号明細書に開示される水溶液であり、10mg/L以上のマンガンイオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する。ここでのマンガンイオンは3価以上、より好ましくは4価以上、さらに好ましくは7価の価数を有するマンガンイオンである。
【0032】
上記した中でも、Agイオンを含む酸性マンガン水溶液を使用することにより、より良好にめっきを析出させることが可能になる。加えて、エッチングと触媒付与とを同時に行うことができるため、触媒付与工程が省力可能となる。さらに、従来の触媒付与工程のようにパラジウム-錫コロイド溶液を使用する必要が無く、錫を表面から除去するための、いわゆるアクセレーター処理工程を省略することによる作業工程の簡便化を図ることも可能となる。
【0033】
無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理は、上記触媒含有組成物を、めっきを被覆させる対象とする樹脂材料表面に接触させることにより、実施する。
【0034】
触媒含有組成物に樹脂材料の被処理面を接触させるためのより具体的な方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。かかる方法としては、樹脂材料を触媒含有組成物に浸漬する方法、触媒含有組成物を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法などが挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を触媒含有組成物に浸漬する方法が好ましい。
【0035】
かかる前処理工程に使用する際の触媒含有組成物の温度は、Ag-Snコロイド溶液、Agナノ粒子分散液、又はCuナノ粒子分散液を使用する場合には、20~80℃とすることが好ましく、25~70℃とすることが好ましく、30~60℃とすることがさらに好ましい。当該工程におけるAg-Snコロイド溶液、Agナノ粒子分散液、又はCuナノ粒子分散液の温度を20℃以上とすることにより、樹脂材料表面の触媒付与がより一層充分となる。またAg-Snコロイド溶液、Agナノ粒子分散液、又はCuナノ粒子分散液の温度を80℃以下とすることにより、より一層装飾性に優れる皮膜外観を得ることができる。
【0036】
また、Agイオンを含む酸性マンガン水溶液を使用する場合、触媒含有組成物の温度は、30~100℃とすることが好ましく、40~90℃とすることがより好ましく、50~80℃とすることがさらに好ましい。当該工程における触媒含有組成物の温度を30℃以上とすることにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層充分となる。また、触媒含有組成物の温度を100℃以下とすることにより、より一層装飾性に優れる皮膜外観を得ることができる。
【0037】
触媒含有組成物と樹脂材料の被処理面との接触時間は、Ag-Snコロイド溶液、Agナノ粒子分散液、又はCuナノ粒子分散液を使用する場合には、1~60分とすることが好ましく、3~50分とすることがより好ましく、5~40分とすることがさらに好ましい。1分以上の接触時間を確保することにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層充分となる。一方、接触時間を60分以内に収めることにより、より一層装飾性に優れる皮膜外観を得ることができる。
【0038】
また、Agイオンを含む酸性マンガン水溶液を使用する場合には、触媒含有組成物と樹脂材料の被処理面との接触時間は、1~60分とすることが好ましく、5~50分とすることがより好ましく、10~40分とすることがさらに好ましい。3分以上の接触時間を確保することにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層充分となる。一方、接触時間を60分以内に収めることにより、より一層装飾性に優れる皮膜外観を得ることができる。
【0039】
被処理物となる樹脂材料を形成する樹脂については特に限定されず、従来からクロム酸-硫酸の混酸によってエッチング処理が行われている各種の樹脂材料を用いることができ、当該樹脂材料に対して良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。樹脂材料を形成する樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン-プロピレンゴム成分等に置き換わった樹脂(AES樹脂)等のスチレン系樹脂が挙げられる。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(例えば、PC樹脂の混合比率が30~70質量%程度のアロイ化樹脂)等も好適に使用できる。更に、耐熱性、物性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等も用いることができる。
【0040】
樹脂材料の形状、大きさ等は特に限定されず、本発明の前処理方法によれば、表面積の広い大型の樹脂材料に対しても、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成することができる。このような大型の樹脂材料としては、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドル等の自動車関連部品;電気・電子分野での外装品;水廻り等で使用されている水栓金具;パチンコ部品等の遊技機関係品等が挙げられる。
【0041】
以上の前処理方法を実施することにより、樹脂材料の被処理面が触媒含有組成物に接触し、被処理面が処理される。
【0042】
本発明の前処理方法を実施する前に、樹脂材料の被処理面の汚れの除去を目的として、脱脂処理を実施することも好ましい。脱脂処理の方法としては、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。
【0043】
また、触媒含有組成物としてAgイオンを含む酸性マンガン水溶液を使用する場合には、樹脂材料表面に付着するマンガンの除去を目的として、本発明の前処理の後に、無機酸を含有する後処理液を用いた後処理を実施することも好ましい。
【0044】
かかる無機酸としては特に限定はなく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸及びホウ酸等を例示することができる。これらは一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、上記の中でも、マンガンの除去能に優れるという点で、塩酸を使用することが好ましい。
【0045】
後処理液中における無機酸の含有量については特に限定はなく、1~1000g/Lとすることが好ましい。
【0046】
後処理の方法としても特に限定はなく、例えば、液温15~50℃程度の後処理液中に、上記前処理方法により前処理された樹脂材料を1~10分程度浸漬すればよい。上記後処理により、形成されるめっき皮膜の析出性および外観をより一層向上させることができる。
【0047】
以上説明した無電解ニッケルめっき皮膜形成のための前処理方法を実施することにより、樹脂材料の被処理面をエッチング処理すると共に、当該被処理面に銀触媒を付与することが可能となり、後述する無電解ニッケルめっき形成工程において、充分量のめっきの析出を得ることができる。
【0048】
(無電解ニッケルめっき形成方法)
無電解ニッケルめっきを形成させる方法としては、上記した前処理工程及び後述するめっき析出工程を、この順に含む方法が好適である。尚、前記した後処理を実施する際には、該後処理工程の後に、めっき析出工程を設ける。
【0049】
めっき析出工程においては、前処理工程を実施した樹脂材料を、無電解ニッケルめっき液(以下、「無電解ニッケルめっき浴」ともいう。)に接触させることにより、無電解ニッケルめっきを析出させることができる。樹脂材料表面を無電解ニッケルめっき液に接触させる方法としては特に限定はなく、公知の方法を広く採用することが可能である。中でも、良好な接触効率が得られることを考慮し、樹脂材料の被処理面を無電解ニッケルめっき液に浸漬する方法が好ましい。
【0050】
無電解ニッケルめっき液としては公知のものを広く採用することが可能であり、特に限定はない。
【0051】
無電解ニッケルめっき液に含まれるニッケルイオンは水溶性のニッケル塩に由来するものであり、かかるニッケル塩としては、ニッケルめっき液に使用される公知のニッケル塩を、広く採用することが可能である。具体的には、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル等の無機の水溶性ニッケル塩、酢酸ニッケル及びリンゴ酸ニッケル等を挙げることができる。これらは一種のみを単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0052】
無電解ニッケルめっき液中のニッケルイオンの濃度は、例えば、金属ニッケルとして1~20g/Lとすることが好ましく、3~10g/Lとすることがより好ましい。ニッケル濃度を1g/L以上とすることにより、効率的にめっきの析出を得ることができる。また、ニッケル濃度を20g/L以下とすることにより、めっき析出の際の均一性を確保することができ、形成されるめっき皮膜の機械的特性の向上に寄与する。
【0053】
無電解ニッケルめっき液は、還元剤として、銀又は銅に対して触媒活性を有する還元剤を含むことが好ましく、具体的には、少なくとも次亜リン酸ナトリウム及びジメチルアミンボランを含むことが好ましい。これら両物質を含むことにより、触媒作用が充分に進行することによりめっき皮膜の充分な形成が可能となると共に、形成されるめっき皮膜中に含まれるホウ素量が適性に抑えられ、めっき皮膜の好ましい機械的特性を得ることができる。
【0054】
その他の還元剤として、次亜リン酸ナトリウム及びジメチルアミンボランに加えて、グリオキシル酸、ホルマリン、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン等を併用してもよい。
【0055】
無電解ニッケルめっき液中における還元剤の含有量は、0.01~100g/Lとすることが好ましく、0.1~10g/Lとすることがより好ましい。還元剤の量を0.01g/L以上とすることにより、充分にめっきを析出させることができる。一方、還元剤の量を100g/L以下とすることにより、無電解ニッケルめっき液の充分な安定性を確保することができる。
【0056】
また、無電解ニッケルめっき液中における次亜リン酸ナトリウムの含有量は、0.04~100g/Lとすることが好ましく、0.4~50g/Lとすることがより好ましい。無電解ニッケルめっき液中の次亜リン酸ナトリウムの含有量を0.04g/L以上とすることにより、充分にめっきを析出させることができ、めっき皮膜中のホウ素含有量を抑制できるという効果を得ることができる。一方、無電解ニッケルめっき液中の次亜リン酸ナトリウムの含有量を40g/L以下とすることにより、無電解ニッケルめっき液の充分な安定性を確保することができるという効果を得ることができる。
【0057】
無電解ニッケルめっき液中におけるジメチルアミンボランの含有量は、0.01~25g/Lとすることが好ましく、0.1~10g/Lとすることがより好ましい。無電解ニッケルめっき液中のジメチルアミンボランの含有量を0.01g/L以上とすることにより、充分にめっきを析出させることができる。一方、無電解ニッケルめっき液中のジメチルアミンボランの含有量を10g/L以下とすることにより、無電解ニッケルめっき液の充分な安定性を確保でき、めっき皮膜中のホウ素含有量を抑制できる。
【0058】
無電解ニッケルめっき液中におけるジメチルアミンボランに対する次亜リン酸ナトリウムの質量比率は4倍以上とすることが好ましい。ジメチルアミンボランに対する次亜リン酸ナトリウムの質量比率を4倍以上とすることにより、めっき皮膜中のホウ素含有量を適度に抑制できる。
【0059】
樹脂材料の被処理面を無電解ニッケルめっき液に接触させる条件としては特に限定されず、例えば、樹脂材料を無電解ニッケルめっき液に浸漬する場合には、無電解ニッケルめっき液の液温を20~70℃程度とし、浸漬時間を3~30分程度とすることが好ましい。
【0060】
めっき析出工程は、必要に応じ、複数回反復して実施することにより、多層構造の無電解ニッケルめっき皮膜を形成することも好ましい。
【0061】
無電解ニッケルめっきの析出性向上を目的として、めっき析出工程の前に、還元剤及び/又は有機酸を含有する活性化処理液による活性化処理工程を設けることも好ましい。つまり、前処理工程、活性化処理工程、及びめっき析出工程をこの順に設けることも好ましい。尚、上記した後処理工程を設ける際には、前処理工程、後処理工程、活性化処理工程、及びめっき析出工程をこの順に設ければよい。
【0062】
活性化処理工程に用いる還元剤としては特に限定されず、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン、次亜リン酸塩、エリソルビン酸、アスコルビン酸、硫酸ヒドロキシルアミン、過酸化水素、グルコース等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジンが好ましい。これらの還元剤は、一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0063】
活性化処理工程に使用する活性化処理液中の還元剤濃度については、0.1~500g/Lとすることが好ましく、1~50g/Lとすることがより好ましく、2~25g/Lとすることがさらに好ましい。
【0064】
活性化処理に用いる有機酸としては特に限定されず、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸が好ましい。これら有機酸は、一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0065】
活性化処理液中の有機酸の濃度としては特に限定されず、0.1~500g/Lとすることが好ましく、1~50g/Lとすることがより好ましく、2~25g/Lとすることが更に好ましい。
【0066】
活性化処理方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の活性化処理液中に、前処理工程を実施した樹脂材料を数秒~10分程度浸漬すればよい。
【0067】
めっき析出工程の後に、更に電気めっき工程を設けることも好ましい。
【0068】
電気めっき工程は、上記めっき析出工程の後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、電気めっき液に浸漬して、電気めっきを行えばよい。
【0069】
電気めっき液は特に限定されず、従来公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【0070】
電気めっき方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の活性化処理液中に、上記めっき析出工程により無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を電流密度0.1~10A/dm程度の条件で数秒~10分程度浸漬すればよい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例
【0072】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0073】
無電解ニッケルめっき皮膜の作製
被めっき物である樹脂材料として、ABS樹脂(テクノUMG株式会社製、品番:テクノABS25)の平板(10×5×0.3cm、表面積約1dm2)を用意し、下記の方法により無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0074】
被めっき物である樹脂材料として、ABS樹脂(テクノUMG(株)製、商標名:テクノABS25)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm2)を用意し、以下の方法で無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0075】
触媒含有組成物として、Ag-Snコロイド溶液を使用
(1)脱脂処理
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂材料を40℃で5分間浸漬し、水洗した。
(2)エッチング処理
次いで、無水クロム酸400g/L及び硫酸400g/Lを含有する水溶液からなるエッチング溶液中に67℃で10分間浸漬して、樹脂表面を粗化した。
(3)コンディショナー処理
その後、樹脂材料を水洗し、樹脂の表面調整剤であるCRPコンディショナー551M 15ml/Lを水酸化ナトリウムでpHを7に調整した水溶液に室温で60秒間浸漬した。
(4)触媒化処理
樹脂材料を水洗した後、Ag-Snコロイド溶液(奥野製薬工業(株)製、MOON-504キャタリスト浴)中に、被処理物を40℃で10分間浸漬して、樹脂材料に触媒を均一に付与させた。
(5)アクセレータ処理
次に樹脂材料を水洗した後、98%硫酸100ml/L溶液に被処理物を40℃で3分間浸漬して、次工程である無電解ニッケルめっきの触媒毒となるSnを除去した。
(6)無電解ニッケルめっき処理
その後、水洗を充分に行い、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。無電解ニッケルめっき浴としては、硫酸ニッケル・6水和物 40g/L、酢酸ナトリウム 10g/L、クエン酸ナトリウム 10g/Lを含有する水溶液を基本浴として、これに下記表1に記載したジメチルアミンボラン(DMAB)および次亜リン酸ナトリウムを添加した水溶液を用い、樹脂材料を該無電解ニッケルめっき浴に40℃、10分間浸漬して、皮膜を形成した。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例1~4より、DMABを0.5~1g/Lで使用しかつ次亜リン酸Naと併用することにより、無電解ニッケル皮膜中の含ホウ素率が1質量%以下となり、含リン率に依存することなく10N/cmをこえる良好なピール強度が得られた。析出性に関しても上記実施例では、全面析出が得られた。
【0078】
実施例5より、DMAB濃度が高く皮膜中の含ホウ素率が1質量%を超える条件であっても、次亜リン酸Naを併用し含リン率を5質量%以上とすることで10N/cmをこえるピール強度を記録した。析出性に関しても、全面析出が得られた。
【0079】
比較例1より、DMAB、次亜リン酸Naを上記濃度で使用することにより含ホウ素率が1質量%をこえ、含リン率が4質量%を下回ることにより、ピール強度は3.0N/cnと低い値となった。
【0080】
比較例2~4より、DMABを単独で低濃度使用することにより含ホウ素率が下がり、ピール強度が増加したが、析出性も同時に低下した。析出性とピール強度を両立する条件は得られなかった。
【0081】
銀触媒含有組成物として、Agナノ粒子を使用
(1)脱脂処理
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂材料を40℃で5分間浸漬し、水洗した。
(2)エッチング処理
次いで、無水クロム酸400g/L及び硫酸400g/Lを含有する水溶液からなるエッチング溶液中に67℃で10分間浸漬して、樹脂表面を粗化した。
(3)コンディショナー処理
その後、樹脂材料を水洗し、樹脂の表面調整剤であるCRPコンディショナー551M 15ml/Lを水酸化ナトリウムでpHを7に調整した水溶液に室温で60秒間浸漬した。
(4)触媒化処理
樹脂材料を水洗した後、Agナノ粒子(Sigma-Aldrich社製NCXSEPE25)を純水に分散させた溶液中に、樹脂材料を40℃で10分間浸漬して、被処理物に触媒を均一に付与させた。
(5)無電解ニッケルめっき処理
その後、水洗を充分に行い、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。無電解ニッケルめっき浴としては、硫酸ニッケル・6水和物 40g/L、酢酸ナトリウム 10g/L、クエン酸ナトリウム 10g/Lを含有する水溶液を基本浴として、これに下記表2に記載したジメチルアミンボラン(DMAB)および次亜リン酸ナトリウムを添加した水溶液を用い、被処理物を該無電解ニッケルめっき浴に40℃、10分間浸漬して、皮膜を形成した。
【0082】
【表2】
【0083】
触媒にAgナノ粒子を使用した場合もAg-Snコロイド使用時と同様の結果となった。
【0084】
実施例6~9より、DMABを0.5~1g/Lで使用しかつ次亜リン酸Naと併用することにより、無電解ニッケル皮膜中の含ホウ素率が1質量%以下となり、含リン率に依存することなく10N/cmをこえる良好なピール強度が得られた。析出性に関しても上記実施例では、全面析出が得られた。
【0085】
実施例10より、DMAB濃度が高く皮膜中の含ホウ素率が1質量%を超える条件であっても、次亜リン酸Naを併用し含リン率を5質量%以上とすることで10N/cmをこえるピール強度を記録した。析出性に関しても、全面析出が得られた。
【0086】
比較例5より、DMAB、次亜リン酸Naを上記濃度で使用することにより含ホウ素率が1質量%をこえ、含リン率が4質量%を下回ることにより、ピール強度は2.9N/cnと低い値となった。
【0087】
比較例6~8より、DMABを単独で低濃度使用することにより含ホウ素率が下がり、ピール強度が増加したが、析出性も同時に低下した。析出性とピール強度を両立する条件は得られなかった。
【0088】
銀触媒含有組成物として、Agイオンを含む酸性マンガン水溶液を使用
(1)脱脂処理
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂材料を40℃で5分間浸漬し、水洗した。
(2)エッチング+触媒化
次いで、溶媒としての水に、下記表3に示す配合で添加剤を添加して、エッチングと触媒化を同時に行う前処理用組成物を調製した。水洗後の樹脂材料を、調製した前処理用組成物に、浸漬温度68℃、浸漬時間30分の条件で浸漬した。
(3)無電解ニッケルめっき処理
その後、水洗を充分に行い、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。無電解ニッケルめっき浴としては、硫酸ニッケル・6水和物 40g/L、酢酸ナトリウム 10g/L、クエン酸ナトリウム 10g/Lを含有する水溶液を基本浴として、これに下記表4に記載したジメチルアミンボラン(DMAB)および次亜リン酸ナトリウムを添加した水溶液を用い、被処理物を該無電解ニッケルめっき浴に40℃、10分間浸漬して、皮膜を形成した。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
Agイオンを含有する酸性マンガン水溶液を使用した場合も同様の結果となった。
【0092】
実施例11~14より、DMABを0.5~1g/Lで使用しかつ次亜リン酸Naと併用することにより、無電解ニッケル皮膜中の含ホウ素率が1質量%以下となり、含リン率に依存することなく10N/cmをこえる良好なピール強度が得られた。析出性に関しても上記実施例では、全面析出が得られた。
【0093】
実施例15より、DMAB濃度が高く皮膜中の含ホウ素率が1質量%を超える条件であっても、次亜リン酸Naを併用し含リン率を5質量%以上とすることで10N/cmをこえるピール強度を記録した。析出性に関しても、全面析出が得られた。
【0094】
比較例9より、DMAB、次亜リン酸Naを上記濃度で使用することにより含ホウ素率が1質量%をこえ、含リン率が4質量%を下回ることにより、ピール強度は3.1N/cnと低い値となった。
【0095】
比較例10~12より、DMABを単独で低濃度使用することにより含ホウ素率が下がり、ピール強度が増加したが、析出性も同時に低下した。析出性とピール強度を両立する条件は得られなかった。
【0096】
銅触媒含有組成物として、Cuナノ粒子を使用
(1)脱脂処理
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂材料を40℃で5分間浸漬し、水洗した。
(2)エッチング処理
次いで、無水クロム酸400g/L及び硫酸400g/Lを含有する水溶液からなるエッチング溶液中に67℃で10分間浸漬して、樹脂表面を粗化した。
(3)コンディショナー処理
その後、樹脂材料を水洗し、樹脂の表面調整剤であるCRPコンディショナー551M 15ml/Lを水酸化ナトリウムでpHを7に調整した水溶液に室温で60秒間浸漬した。
(4)触媒化処理
樹脂材料を水洗した後、Cuナノ粒子を純水に分散させた溶液中に、樹脂材料を40℃で10分間浸漬して、被処理物に触媒を均一に付与させた。使用するCuナノ粒子は特に限定されず、例えば福田金属箔粉工業社製SFCP-10AXなどを用いても良い。
(5)無電解ニッケルめっき処理
その後、水洗を充分に行い、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。無電解ニッケルめっき浴としては、硫酸ニッケル・6水和物 40g/L、酢酸ナトリウム 10g/L、クエン酸ナトリウム 10g/Lを含有する水溶液を基本浴として、これに下記表5に記載したジメチルアミンボラン(DMAB)および次亜リン酸ナトリウムを添加した水溶液を用い、被処理物を該無電解ニッケルめっき浴に40℃、10分間浸漬して、皮膜を形成した。
【0097】
【表5】
【0098】
触媒にCuナノ粒子を使用した場合も同様の結果となった。
【0099】
実施例16~19より、DMABを0.5~1g/Lで使用しかつ次亜リン酸Naと併用することにより、無電解ニッケル皮膜中の含ホウ素率が1質量%以下となり、含リン率に依存することなく10N/cmをこえる良好なピール強度が得られた。析出性に関しても上記実施例では、全面析出が得られた。
【0100】
実施例24より、DMAB濃度が高く皮膜中の含ホウ素率が1質量%を超える条件であっても、次亜リン酸Naを併用し含リン率を5質量%以上とすることで10N/cmをこえるピール強度を記録した。析出性に関しても、全面析出が得られた。
【0101】
比較例13より、DMAB、次亜リン酸Naを上記濃度で使用することにより含ホウ素率が1質量%をこえ、含リン率が4質量%を下回ることにより、ピール強度は2.9N/cnと低い値となった。
【0102】
比較例14~16より、DMABを単独で低濃度使用することにより含ホウ素率が下がり、ピール強度が増加したが、析出性も同時に低下した。析出性とピール強度を両立する条件は得られなかった。