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特許7360159レーザー光の回折集光方法及び回折集光光学素子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】レーザー光の回折集光方法及び回折集光光学素子装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/00 20060101AFI20231004BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20231004BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20231004BHJP
   G02F 1/29 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G02B27/00 S
H01S3/10 Z
B23K26/04
G02F1/29
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019237955
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021105693
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「粒子加速器の革新的な小型化及び高エネルギー化につながるレーザープラズマ加速技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】米田 仁紀
(72)【発明者】
【氏名】道根 百合奈
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-125139(JP,A)
【文献】特開昭63-060091(JP,A)
【文献】特開平06-281804(JP,A)
【文献】特開平05-250694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0046263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00
G02F 1/00-1/125,1/21-1/39
H01S 3/10
B23K 26/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共鳴的に光を吸収する分子を含む気体を供給して一定の領域を形成し、
前記分子の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を前記領域内において交差するように照射して該気体を光励起するとともに、前記交差させる2つの励起用レーザー光の光路のうち少なくとも一方に集光光学系及び発散光学系の片方もしくは両方を有することで、前記領域内に曲率を持った干渉縞を生成し、
前記領域内における前記干渉縞を過渡的な回折及び集光素子として用いて、前記干渉縞に入射される前記気体の非吸収帯域の波長のレーザー光を回折及び集光させることを特徴とするレーザー光の回折集光方法。
【請求項2】
前記共鳴的に光を吸収する分子を含む気体は、オゾンを含むガスであり、
前記励起用レーザーは、波長230~270nmの紫外パルスレーザーであることを特徴とする請求項1に記載のレーザー光の回折集光方法。
【請求項3】
前記気体による前記一定の領域は層流状態となっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザー光の回折集光方法。
【請求項4】
前記集光光学系及び前記発散光学系の距離を調整することで、回折及び集光される前記レーザー光の焦点距離を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のレーザー光の回折集光方法。
【請求項5】
前記励起用レーザー光の射出角度を可変とすることで、回折及び集光される前記レーザー光の焦点位置を走査することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のレーザー光の回折集光方法。
【請求項6】
前記領域の近傍に、前記レーザー光が通過する開口を有する遮蔽板を設けることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のレーザー光の回折集光方法。
【請求項7】
共鳴的に光を吸収する分子を含む気体を供給して一定の領域を形成する気体発生手段と、
前記分子の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を前記領域内において交差するように照射して該気体を光励起するとともに、前記交差させる2つの励起用レーザー光の光路のうち少なくとも一方に集光光学系及び発散光学系の片方もしくは両方を有することで、前記領域内に曲率を持った干渉縞を生成する光励起手段とを備え、
前記領域内における前記干渉縞を過渡的な回折及び集光素子として用いて、前記干渉縞に入射される前記気体の非吸収帯域の波長のレーザー光を回折及び集光させることを特徴とする回折集光光学素子装置。
【請求項8】
前記共鳴的に光を吸収する分子を含む気体は、オゾンを含むガスであり、
前記励起用レーザーは、波長230~270nmの紫外パルスレーザーであることを特徴とする請求項7に記載の回折集光光学素子装置。
【請求項9】
前記気体発生手段は、前記気体による前記一定の領域が層流状態となるように制御することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の回折集光光学素子装置。
【請求項10】
前記光励起手段における前記集光光学系及び前記発散光学系は、距離の調整が可能であることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の回折集光光学素子装置。
【請求項11】
前記光励起手段における前記交差させる2つの励起用レーザー光のうち少なくとも一方の射出角度が可変であることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の回折集光光学素子装置。
【請求項12】
前記領域の近傍に前記レーザー光が通過する開口を有する遮蔽板が備えられていることを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれか1項に記載の回折集光光学素子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の回折集光方法及び回折集光光学素子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合、粒子加速、実験室天文学、高温高圧化の極限状態化の物質の研究など、高強度レーザーを利用した研究はレーザーのピーク強度の増大とともに発展してきた。これらのレーザーの集光強度の増大はチャープパルス増幅の発明、光学素子の大型化・高精度化や波面・位相補正技術などの進展により達成されてきた。しかしながら、これらレーザーシステムの更なる高強度・大出力化のためにシステム中の光学素子が解決すべき課題は多く、次世代の高強度レーザー実現には大きな問題を抱えている。
【0003】
パルスレーザーによる加工においては、レーザーを加工対象物の直前でレンズや集光鏡によって集光し、高強度の光場を作って材料の加工を行う。この時、加工時にレーザー照射部で融解した微粒子(デブリ)が、レーザーの集光レンズや、上流の光学素子などに付着し、レーザー光透過率の低下や素子の損傷が起こることが問題になっている。
【0004】
このような問題に対して、例えば、特許文献1では、レーザー光線を被加工物に集光する対物レンズと、該対物レンズと被加工物との間に配設され該被加工物から飛散するデブリを遮断して該対物レンズの汚染を防止するレンズ保護カバーを備えることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、集光レンズで集光されて被加工物に集光されるレーザービームが通過する通過孔が形成されるとともに該通過孔に対して対称に伸長する吸引路と、該吸引路の一端と他端とがそれぞれ選択的に接続される吸引源とを有し、該集光レンズで集光されたレーザービームが被加工物に照射されることで発生するデブリを集塵する集塵手段を備えることが記載されている。
【0006】
また、その他にも、低圧のガスを材料近くに流すことでデブリの付着を防ぐ手法(非特許文献1)や、液体をレンズと加工対象の間に入れてデブリを吸収させる方法(非特許文献2)、磁場を印加して電荷をもつデブリの軌跡を制御する方法(非特許文献3)などが考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-179642号公報
【文献】特開2014-205159号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】L. Malmqvist, L. Rymell, and H. M. Hertz, Appl. Phys. Lett. 68, 2627 (1996)
【文献】D.J. Hwang, T.Y. Choi, C.P. Grigoropoulos, Applied Physics A, Vol. 79, Issue 3, pp 605-612 (2004)
【文献】I. Prencipe, et al. High Power Laser Science and Engineering, Vol.5 e17, p.1-31 (2017)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの方法も、数百μmの大きさのデブリへは効果がない、液体など余計なものが入り加工物へのレーザー照射強度が低下する、電荷を帯びていない中性粒子は制御できないなど、完全なデブリの制御には至っていない。これらのデブリ保護の不完全性が、レーザー加工機におけるメンテナンス時間を決めることになり、定期的なクリーニングを必要するなど、現状より高い繰り返しや高出力化に向けたレーザー利用の大きな足かせになっているのが現状である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、高い強度のレーザー光でも回折及び集光することができ、デブリの影響を受けないレーザー光の回折集光方法及び回折集光光学素子装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の一態様は、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体を供給して一定の領域を形成し、その分子の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を前記領域内において交差するように照射して該気体を光励起するとともに、交差させる2つの励起用レーザー光の光路のうち少なくとも一方に集光光学系及び発散光学系の片方もしくは両方を有することで、領域内に曲率を持った干渉縞を生成し、領域内における干渉縞を過渡的な回折及び集光素子として用いて、干渉縞に入射される気体の非吸収帯域の波長のレーザー光を回折及び集光させることを特徴とするレーザー光の回折集光方法である。
【0012】
本発明の一態様によれば、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体に励起用レーザーの空間周期的な照射を行い、気体内部に大振幅の密度変調構造を生成することで、レーザー光を回折及び集光させる透過型体積回折集光素子とすることができる。また、この素子は媒質が気体であるため、通常の固体光学素子のようにデブリが付着して影響を受けることが無く、同時に回折により角度が偏向されるので、この素子より上流の光学素子を保護することもできる。
【0013】
このとき、本発明の一態様では、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体は、オゾンを含むガスであり、励起用レーザーは、波長230~270nmの紫外パルスレーザーであるとしてもよい。また、レーザー光のコヒーレンスは、十分高く明瞭なコントラストの干渉縞が生成できるレーザーが好ましく用いられる。交差させる2光線の強度は、そのガス内で同等になるように調整されることが望ましい。
【0014】
このように、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体としては、オゾンを含むガスが好ましく用いられる。
【0015】
また、本発明の一態様では、気体による一定の領域は層流状態となっていることが好ましい。
【0016】
このようにすることで、上記気体による一定の領域に励起用レーザーによる高いコントラスト比をもつ曲率を持った密度変調を生成することができる。
【0017】
また、本発明の一態様では、集光光学系及び発散光学系の距離を調整することで、回折及び集光される前記レーザー光の焦点距離を調整することとしてもよい。
【0018】
焦点距離は励起用レーザー光による干渉縞の曲率で決定されるため、干渉光学系内部の集光光学系及び発散光学系の距離を調整することにより、焦点距離を容易に変化させることができる。
【0019】
また、本発明の一態様では、励起用レーザー光の射出角度を可変とすることで、回折及び集光されるレーザー光の焦点位置を走査することとしてもよい。
【0020】
干渉光学系内部の反射鏡等を調整して励起用レーザー光の射出角度を可変とすることで、レーザー光の焦点位置を走査することができる。
【0021】
また、本発明の一態様では、気体による一定の領域の近傍に、レーザー光が通過する開口を有する遮蔽板を設けることとしてもよい。
【0022】
遮蔽板を設けることで、例えば、レーザー加工時の加工対象から生じたデブリが光励起や集光されるレーザーの光学系などに混入するのを防止することができる。
【0023】
本発明の他の態様は、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体を供給して一定の領域を形成する気体発生手段と、その分子の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を前記領域内において交差するように照射して該気体を光励起するとともに、交差させる2つの励起用レーザー光の光路のうち少なくとも一方に集光光学系及び発散光学系の片方もしくは両方を有することで、前記領域内に曲率を持った干渉縞を生成する光励起手段とを備え、前記領域内における干渉縞を過渡的な回折及び集光素子として用いて、干渉縞に入射される気体の非吸収帯域の波長のレーザー光を回折及び集光させることを特徴とする回折集光光学素子装置である。
【0024】
上述したレーザー光の回折集光方法は、このような構成の回折集光光学素子装置として実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、高い強度のレーザー光でも回折及び集光することができ、デブリの影響を受けないレーザー光の回折集光方法及び回折集光光学素子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る回折集光光学素子装置の構成の一例を示す概略図である。
図2】励起用レーザーによる干渉縞生成を説明した概念図である。
図3】(A)は、本発明の一実施形態に係るレーザー光の回折集光方法を実施した際の垂直方向の集光特性を示した図であり、(B)は、水平方向の集光特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実
施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本
実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る回折集光光学素子装置の構成の一例を示す概略図である。本発明の一実施形態に係る回折集光光学素子装置100は、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体を供給して一定の領域を形成する気体発生手段10と、その分子の吸収帯域の波長の励起用レーザー光を前記領域内において交差するように照射して該気体を光励起するとともに、交差させる2つの励起用レーザー光の光路のうち少なくとも一方に集光光学系及び発散光学系の片方もしくは両方を有することで、前記領域内に曲率を持った干渉縞を生成する光励起手段20を有する。
【0029】
本発明の一態様に係る回折集光光学素子装置100において、気体発生手段10は、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体を供給して一定の領域を形成する機能を有し、例えば、図1に示すように、ガス生成部11、ガス流路12、ガス排出部13などから構成される。
【0030】
供給する気体は、共鳴的に光を吸収する分子を含む気体であれば特に限定はされないが、オゾンを含むガスが好ましく用いられる。オゾンは、紫外レーザー(50mJ/cm)が3~10mmの厚みのガス層で吸収するのに十分な濃度(1~3%程度)を用意することが望ましい。オゾンの生成方法としては、例えば、酸素ガスを原料とした誘電バリア放電などが用いられる。
【0031】
ガス生成部11でオゾンを含むガスを生成する場合、一例として、誘電バリア放電を発生する空間ギャップ内に酸素Oを含む原料ガスを供給して放電によりオゾンOを含むガスを発生させる。より具体的には、平行平板状に配置された一対の金属電極と、金属電極間に設置された一対の誘電体を備え、酸素ボンベまたは空気タンクなどの原料ガス源から酸素Oを含む原料ガス(高濃度酸素や脱湿空気等)がダイヤフラムポンプにより一対の誘電体間の空間ギャップに送り込まれるとともに、高周波電源により高周波高電圧が一対の金属電極に印加されるようになっている。高周波電源には、例えば、13MHz・100Wの電源が用いられる。
【0032】
なお、オゾン含有ガスの生成は上記態様に限定されず、電解法や紫外線ランプ法によりオゾン含有ガスを生成してもよい。あるいは、オゾン含有ガスは、例えば、液体オゾンを気化させることにより得られる高濃度オゾンガスであっても良い。
【0033】
ガス流路12は、ガス生成部11で生成したガスを供給する流路で、励起用レーザーによって気体を励起するための一定の領域を形成する機能を有する。ガス流路12の形状は特に限定はされないが、例えば、矩形断面形状で十分な長さを確保し、その中央部に開口部14が設けられている。励起用のレーザー光や被制御レーザー光(加工用レーザー光)は開口部14からガス流路12の内部に入射され、反対側の開口部14を通って出射される。このような機能を有するものであれば、開口部14の数や形状は特に限定されず、励起用のレーザー光と被制御レーザー光(加工用レーザー光)が通る開口部14は同じであってもよいし、異なっていてもよい。一例として、ガス流路12は、長さ250mm、内径が奥行(レーザー光の進行方向)3mm×側面10mmのガスフローチューブ等であり、開口部14は縦6mm×横10mm等である。
【0034】
ガス排出部13は、ガス流路12からガスを排気する。ガス流路12のレーザー照射部分は上述のように開口となっているため、該開口部からガスが漏れないようにガス排出速度を調整する。一実施形態として、ガス排出部13から回収されたガスは、再循環ラインを介して再度ガス生成部11に戻されるようにしてもよい。
【0035】
本発明の一態様では、気体による一定の領域は層流状態となっていることが好ましい。層流状態とすることで、気体による一定の領域に励起用レーザーを照射した時に高いコントラスト比をもつ曲率を持った密度変調を生成することができる。したがって、ガス排出部13側のガス排出速度とガス生成部11側のガス供給速度は、開口部14においても層流が保たれるように制御することが望ましい。
【0036】
本発明の一態様に係る回折集光光学素子装置100において、光励起手段20は、レンズとなるガス流路12内の窓なし領域において、大振幅の密度変調構造を生成させるために、空間的に周期強度分布を作るために用いられる。より具体的には、気体発生手段10から供給される気体を励起するレーザー光を発生させる励起用レーザー光源21と、このレーザー光源21から出射されたレーザー光Lを2本のレーザー光L1、L2に分岐させるビームスプリッタ22と、2本に分岐したレーザー光L1、L2が気体発生手段10により形成された一定の領域において交差するように光路を反射させる反射鏡23A~23Fと、交差させる2つの励起用レーザー光L1、L2の光路のうち少なくとも一方(図1では、レーザー光L2側)に集光光学系24(例えば凸レンズ)及び発散光学系25(例えば凹レンズ)等を備える。ガス流路12の開口部14において励起用レーザー光の干渉による効果的な空間周期強度分布を得るために、ビームスプリッタ22からガス流路12の開口部14までの距離はレーザー光L1、L2においてほぼ一致させることが望ましい。このような球面波と平面波の組み合わせによる干渉縞の間隔は、徐々に変化するが、数千以上の高い次数の干渉縞を生成させることで、過渡的生成されるレンズ内で縞間隔の差が1%以下になるようにすることが望ましい。
【0037】
図2は、励起用レーザーによる干渉縞生成を説明した概念図である。このように、2本に分割された励起用レーザーの一方の光路(L1)は平面波のままとし、もう一方の光路(L2)においては凸レンズと凹レンズなどの集光-発散光学系の組み合わせ等を配置することで、所望する球面波が生成されるようになり、2つの励起用レーザー光は適当な入射角度でガス流路の窓無し領域に同強度となるように伝播され、高いコントラスト比をもつ曲率を持った干渉縞を生成することができる。この干渉縞により、被制御レーザー光源(例えば、加工用レーザー光源)40から照射された被制御レーザーLinを、回折及び集光されたレーザー光Loとすることができる。干渉縞の縞間隔は、例えば、数μmであるが、この間隔は後述する干渉光学系30によって可変とすることができる。
【0038】
共鳴的に光を吸収する分子を含む気体がオゾンを含むガスの場合、励起用レーザーは、波長230~270nmの紫外パルスレーザーとすることが好ましい。この時、パルス幅はオゾン混合ガスレンズの横方向の口径を決めるので、例えば、数ナノ秒以下とする。
【0039】
ガス内部の屈折率変調が最大となる紫外レーザー照射後数十ナノ秒後に、被制御レーザーを適当な入射角で入射させると、1次回折光でほぼ100%の回折効率で回折し、なおかつ集光される光を作ることができる。被制御レーザーは、例えば、加工対象50をレーザー加工するための加工用レーザーである。
【0040】
本発明の一実施形態に係る回折集光光学素子装置100の焦点距離は励起用レーザー干渉縞の曲率で決定され、曲率は干渉光学系30内部の2枚のレンズ(集光光学系24及び発散光学系25)の距離で容易に変化させることができる。また、集光点も縞の間隔を変えることで変化させることができる。
【0041】
すなわち、本発明の一態様では、集光光学系24及び発散光学系25の距離を調整することで、回折及び集光されるレーザー光Loの焦点距離を調整することとしてもよい。焦点距離は励起用レーザー光による干渉縞の曲率で決定されるため、干渉光学系内部の集光光学系24及び発散光学系25の距離を調整することにより、焦点距離を容易に変化させることができる。
【0042】
また、本発明の一態様では、励起用レーザー光の射出角度を可変とすることで、回折及び集光されるレーザー光の焦点位置を走査することとしてもよい。例えば、干渉光学系30内部の反射鏡(反射鏡23D,23Eなど)を調整して励起用レーザー光L1、L2の射出角度を可変とすることで、レーザー光Loの焦点位置を走査することができ、加工対象50に対するレーザー加工の自由度を高めることができる。
【0043】
さらに、本発明の一態様では、ガス流路12の気体による一定の領域の近傍に、レーザー光Lin、Loが通過する開口を有する遮蔽板60を設けることとしてもよい。遮蔽板60を設けることで、加工対象50へのレーザー加工時に生じるデブリ51が干渉光学系30などに混入するのを防止することができる。遮蔽板60は、一例として、開口が2mmのものを用いることができる。
【0044】
共鳴的に光を吸収する分子を含む気体としてオゾンを含むガスを採用した場合のガス媒質中の屈折率変調構造励起原理は以下のようになっていると考えられる。すなわち、まず誘電体バリア放電等によって原料酸素ガスからオゾンを生成し、この媒質にオゾンに対して共鳴吸収のある紫外レーザーを干渉させた状態で入射する。ここで紫外レーザーが照射された領域のオゾンは、紫外レーザーのエネルギーにより光分解(O+O)したのち再結合し、高エネルギー状態のオゾンとなる。その後、数ナノ秒~数十ナノ秒かけて高い運動エネルギーをもった励起オゾンはその周囲の酸素分子等と衝突し、膨張・圧縮されることで、非照射領域と照射領域との間で粗密を形成する。この密度差が回折に必要な屈折差率となる。
【0045】
この空間密度変調構造は、縞間隔の差が1%以下で円もしくは直線の干渉縞の場合、ほぼ紫外レーザーの干渉照射パターンによって決定される。よって、ガス中にわずかに曲率を持った紫外レーザー干渉パターンを作成すれば、原理的にはフレネルゾーンプレートのように、回折機能に加え集光光学素子としての機能を持たせることが可能になる。
【0046】
図3は、本発明の一実施形態に係るレーザー光の回折集光方法を実施した際の焦点距離260mmでの典型的な垂直・水平方向の集光特性を示している。横軸はガスレンズ領域からの距離、縦軸は集光径を示しており、垂直、水平方向ともにM=1.1の優れた集光特性を示している。
【0047】
このように、本発明の一実施形態では、オゾンを数%に含むガスに紫外レーザーの空間周期的な照射を行い、ガス内部に大振幅の密度変調構造を生成することで、レーザー光を回折させる透過型体積回折格子になっている。さらに、本発明の一実施形態では、ガス中に紫外レーザーをわずかに湾曲させた干渉条件で照射することで、回折させた光をレンズと同じように集光させることができる。
【0048】
また、本発明では、光励起された気体中に大振幅の密度変調構造を生成し、それをもと
に再生可能な過渡的な回折集光光学素子を作るので、例えレーザー光が通過後に回折集光光学素子を破壊しても、その都度再生が可能であり、高強度のレーザーに対応できる回折集光光学系を作ることができる。したがって、破壊強度以上の光が入射されても、毎回再生されるために、使用限界の強度で安全係数なしに使用が可能になる。
【0049】
本発明の一態様で使用しているオゾン分子を含むガス、例えば酸素ガスは、一般的なレーザー加工に使用されるレーザー波長に対しては吸収断面積が10-20~10-23cmと小さいので、ガスによるレーザーエネルギーの損失は無視でき、体積回折格子であるので少ない紫外レーザーによる粗密波の形成でほぼ100%の回折効率が得られる。
【0050】
さらに、本発明の一実施形態に係る回折集光光学素子装置は、媒質がガスであるため、通常の固体光学素子のようにデブリが付着しない。またこの素子は加工用レーザーのような高強度レーザーに対しても固体光学素子より3桁高い損傷閾値をもつため、素子自体がレーザーによる光学損傷に強く、また破壊されたとしても直ちに再生が可能な過渡的素子である。
【0051】
なお、上記のように本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0052】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、レーザー光の回折集光方法及び回折集光光学素子装置の構成、動作も本発明の一実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の一実施形態は、パルスレーザーによる材料加工のためのデブリフリーで半永久的なダメージ問題のない最終集光レンズとして使用できる。現在、レーザー加工においては高強度のレーザーを集光する光学素子や、その上流のレーザーシステムを構成する光学素子を保護するためのデブリシールド素子が必要になっているが、本発明の一実施形態では、その洗浄や交換自体が必要でなくなり、メンテンナンスフリーに近いシステムが実現できる。
【0054】
また、本発明の一実施形態で説明したオゾン混合ガスレンズは、ナノ秒のレーザーに対してkJ/cmの損傷耐力があるので、小さい断面積でも高強度レーザーで使用可能であり、レーザー加工のみならず、さらに高強度のレーザープラズマ技術などにも応用できる。
【0055】
本発明の一態様として、オゾン混合ガスレンズを生成するために必要な紫外レーザーのエネルギーは50mJ/cmであり、被制御レーザーの最大エネルギー1.6kJ/cmに対してわずかな光で制御が可能であり、効率的なレンズ生成とレーザー光の焦点位置、焦点距離制御が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 気体発生手段、11 ガス生成部、12 ガス流路、13 ガス排出部、14 開口部、20 光励起手段、21 励起用レーザー光源、22 ビームスプリッタ、23A~23F 反射鏡、24 集光光学系、25 発散光学系、30 干渉光学系、40 被制御レーザー光源、50 加工対象、51 デブリ、60 遮蔽板、100 回折集光光学素子装置、L,L1,L2 励起用レーザー光、Lin 被制御レーザー光、Lo 回折及び集光されたレーザー光
図1
図2
図3