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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】虚血病変部位特異的な遺伝子治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20231004BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20231004BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231004BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20231004BHJP
【FI】
A61K31/713 ZNA
A61K47/54
A61K48/00
A61P9/10
C12N15/113 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020503551
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007458
(87)【国際公開番号】W WO2019167995
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2018035538
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018136625
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】石橋 哲
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0220038(US,A1)
【文献】特表2011-500858(JP,A)
【文献】特表2008-519596(JP,A)
【文献】Drug Discoveries and Therapeutics,2016年,Vol.10,pp.256-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節するための組成物であって、
標的転写産物の少なくとも一部に対して相補的な塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド領域を含む第1核酸鎖と、第1核酸鎖の少なくとも一部に相補的な相補的領域を含み、脂質が結合している第2核酸鎖とが互いにアニールしてなる核酸複合体を含
前記脂質は、トコフェロールもしくはその類縁体、またはコレステロールもしくはその類縁体であり、
トコフェロールの前記類縁体は、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、およびδ-トコトリエノールからなる群から選択され、
コレステロールの前記類縁体は、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロール、およびコプロスタノールからなる群から選択され、
前記標的転写産物の発現調節が、標的転写産物量の低下、標的転写産物の翻訳の阻害、またはスプライシング機能改変である、前記組成物。
【請求項2】
第1核酸鎖が、9~50塩基長である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
第1核酸鎖中の前記アンチセンスオリゴヌクレオチド領域が、9~20塩基長である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
第2核酸鎖が、9~50塩基長である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
第2核酸鎖中の前記相補的領域が、第1核酸鎖中の前記アンチセンスオリゴヌクレオチド領域の少なくとも一部に相補的である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
アンチセンスオリゴヌクレオチド領域が、ギャップマー型またはミックスマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド領域である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
虚血部位が、脳、心筋、または下肢骨格筋に存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
静脈内投与するための、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
虚血急性期に投与するための、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
虚血性疾患を治療するための、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
虚血性疾患が、脳梗塞、心筋梗塞または下肢閉塞性動脈硬化症である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記スプライシング機能改変が、エクソンスキッピングまたは標的転写産物の分解である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節することができるアンチセンス核酸医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の死因の1/4が心疾患および脳血管障害を含む血管障害によるものである。特に、脳梗塞は、日本に約150万人の患者が存在し、毎年約50万人が発症するとされ、日本人の死亡原因の中で高い順位にある高頻度な疾患である。また日本人の死亡原因の第2位は心臓の病気であり、その多くが心筋梗塞と、心筋梗塞から起きる心臓の病気である。このような血管障害を伴う虚血性疾患の治療方法の開発が必要とされている。
【0003】
近年、核酸医薬と呼ばれる医薬品の現在進行中の開発において、オリゴヌクレオチドが関心を集めており、また特に、標的遺伝子の高い選択性および低毒性の点から考えて、アンチセンス法を利用する核酸医薬の開発が積極的に進められている。アンチセンス法は、標的遺伝子のmRNA(センス鎖)の部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわちASO)を細胞に導入することにより、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を選択的に改変または阻害する方法を含む。同様に、アンチセンス法はまた、miRNAを標的とし、またこのようなmiRNAの活性を改変する働きをする。しかし、現状のアンチセンス核酸またはsiRNAの核酸医薬では、虚血部位の遺伝子制御は十分でない。
【0004】
アンチセンス法を利用した核酸として、本発明者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドとそれに対する相補鎖とをアニーリングさせた二本鎖核酸複合体(ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(heteroduplex oligonucleotide、HDO))を開発した(特許文献1、非特許文献1および2)。本発明者らはまた、エクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸(特許文献2)、付加ヌクレオチドがギャップマー(アンチセンスオリゴヌクレオチド)の5'末端、3'末端、もしくは5'末端と3'末端の両方に付加されている短いギャップマーアンチセンスオリゴヌクレオチド(特許文献3)、および治療用オリゴヌクレオチドを送達するための二本鎖剤(ヘテロキメラ二本鎖オリゴヌクレオチド(hetero-chimera-duplex oligonucleotide、HCDO)を開発した(特許文献4)。しかし、これらの先行技術文献は、虚血部位において標的遺伝子発現を調節できることを全く開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/089283号
【文献】国際公開第2014/203518号
【文献】国際公開第2014/132671号
【文献】国際公開第2014/192310号
【文献】国際公開第2018/062510号
【文献】国際公開第2018/056442号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nishina K, et. al., "DNA/RNA heteroduplex oligonucleotide for highly efficient gene silencing", Nature Communication, 2015, 6:7969.
【文献】Asami Y, et al., "Drug delivery system of therapeutic oligonucleotides", Drug Discoveries & Therapeutics. 2016; 10(5):256-262.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節することができるアンチセンス核酸医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、脂質が結合した相補鎖との核酸複合体として被験体へ投与すると、核酸複合体が被験体の非虚血部位と比較して虚血部位により効率的に送達され、非虚血部位と比較して虚血部位で標的転写産物の発現をより有効に調節できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1]標的転写産物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド領域を含む第1核酸鎖と、第1核酸鎖の少なくとも一部に相補的な相補的領域を含み、脂質が結合している第2核酸鎖とが互いにアニールしてなる核酸複合体を含む、被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節するための組成物。
[2]第1核酸鎖が、9~50塩基長である、[1]に記載の組成物。
[3]第1核酸鎖中の前記アンチセンスオリゴヌクレオチド領域が、9~20塩基長である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]第2核酸鎖が、9~50塩基長である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]第2核酸鎖中の前記相補的領域が、第1核酸鎖中の前記アンチセンスオリゴヌクレオチド領域の少なくとも一部に相補的である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]アンチセンスオリゴヌクレオチド領域が、ギャップマー型またはミックスマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド領域である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]脂質が、トコフェロールもしくはその類縁体、またはコレステロールもしくはその類縁体である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]脂質が、コレステロールもしくはその類縁体である、[7]に記載の組成物。
[9]虚血部位が、脳、脊髄、心筋、骨格筋(上肢骨格筋および下肢骨格筋を含む)、血管、肺、腎臓、肝臓、腸管、脾臓、眼、網膜、皮膚、末梢神経、または四肢に存在する、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]虚血部位が、脳、心筋、または下肢骨格筋に存在する、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[11]静脈内投与するための、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]標的転写産物の発現調節が、標的転写産物量の低下である、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]虚血急性期に投与するための、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14]虚血性疾患を治療するための、[1]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]虚血性疾患が、脳梗塞、心筋梗塞または下肢閉塞性動脈硬化症である、[14]に記載の組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-035538号、2018-136625号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節することができるアンチセンス核酸医薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1AおよびBは、いずれも本発明に係る核酸複合体の特定の実施形態を示す模式図である。
図2図2A~Cは、いずれも本発明に係る核酸複合体の特定の実施形態で、第2核酸鎖が相補的領域とオーバーハング領域を含む例を示す模式図である。
図3図3AおよびBは、いずれも本発明に係る核酸複合体の特定の実施形態で、第1核酸鎖がアンチセンスオリゴヌクレオチド領域と相補的RNA領域を含む例を示す模式図である。
図4図4は、アンチセンス法の一般的な機構の一例を示す図である。
図5図5は、様々な天然ヌクレオチドまたは非天然ヌクレオチドの構造を示す図である。
図6図6は、実施例1で用いた核酸の構造の模式図である。AlexaはAlexaFluor568を示す。Tocはトコフェロールを示す。
図7図7は、脳梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達を調べた実施例1の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。Aは、Alexaで標識された脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチド(Alexa-Toc-HDO)を投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞大脳半球の画像である。Bは、Alexa-Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスの非虚血大脳半球の画像である。Cは、Alexaで標識されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(Alexa-ASO)を投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞大脳半球の画像である。
図8図8は、脳梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達を調べた実施例1の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、Alexa-Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞大脳半球におけるAlexaシグナル、DAPIシグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、Alexa-ASOを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞大脳半球におけるAlexaシグナル、DAPIシグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
図9図9は、Alexa-ASOまたはAlexa-Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスから摘出した臓器におけるオリゴヌクレオチド量を示す、実施例1の結果を示すグラフである。Aは、脳梗塞大脳半球および非虚血大脳半球におけるオリゴヌクレオチド量を示す。Bは、肝臓におけるオリゴヌクレオチド量を示す。
図10図10は、脳梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達をさらに解析した実施例2の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、Alexa-Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞大脳半球におけるAlexaシグナル、CD31シグナル(血管内皮細胞マーカー)および重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、Alexa-Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞大脳半球におけるAlexaシグナル、NeuNシグナル(神経細胞マーカー)および重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
図11図11は、脳梗塞モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制を定量RT-PCR法によって調べた実施例3の結果を示すグラフである。
図12図12は、脳梗塞モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制をin situ hybridization法によって調べた実施例3の結果を示す写真である。Aは、PBSを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞部位を示す。Bは、Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞部位を示す。
図13図13は、脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる脳梗塞の病態の変化を調べた実施例4の結果を示すグラフである。Aは、脳梗塞体積を示す。Bは、脳血流を示す。Cは、運動機能を示す。
図14図14は、心筋梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達を調べた実施例5の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。Aは、Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの心筋梗塞部位の画像である。Bは、Alexa-ASOを投与した心筋梗塞モデルマウスの心筋梗塞部位の画像である。Cは、Alexa-Toc-HDOを投与したマウスの正常心筋の画像である。
図15図15は、心筋梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達をさらに解析した実施例6の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの非梗塞部位におけるAlexaシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの心筋梗塞部位におけるAlexaシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
図16図16は、心筋梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達をさらに解析した実施例6の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの心筋梗塞部位におけるAlexaシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fも、同様の部位におけるAlexaシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
図17図17は、実施例7で作製した下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスの下肢骨格筋のヘマトキシリン・エオシン(HE)標本の写真である。Aは、健常下肢骨格筋を示す。Bは、虚血下肢骨格筋を示す。
図18図18は、下肢閉塞性動脈硬化症モデルの下肢虚血部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達を調べた実施例7の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。Aは、Alexa-Toc-HDOを投与した下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスの下肢虚血部位の画像である。Bは、Alexa-Toc-HDOを投与した下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスの下肢非虚血部位の画像である。Cは、Alexa-ASOを投与した下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスの下肢虚血部位の画像である。
図19図19は、下肢虚血部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達をさらに解析した実施例8の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Dは、Alexa-Toc-HDOを投与した下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスの下肢虚血部位におけるAlexaシグナル、CD31シグナル、DAPIシグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
図20図20は、下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制を定量RT-PCR法によって調べた実施例9の結果を示すグラフである。
図21図21は、脳梗塞急性期における脂質受容体発現のmRNAレベルでの増加を調べた実施例10の結果を示すグラフである。Aは、LDLR(LDL受容体)を示す。Bは、SRBIを示す。Cは、LRP1を示す。
図22図22は、脳梗塞急性期における脂質受容体発現のタンパク質レベルでの増加を調べた実施例10の結果を示す写真である。
図23図23は、脳梗塞急性期において脂質受容体LDLRの発現が増加する細胞種を血管内皮細胞マーカーを用いて同定した実施例11の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、偽手術マウスにおけるLDLRシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、動脈閉塞6時間後におけるLDLRシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。白棒は50μmを示す。
図24図24は、脳梗塞急性期において脂質受容体SRBIの発現が増加する細胞種を血管内皮細胞マーカーを用いて同定した実施例11の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、偽手術マウスにおけるSRBIシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、動脈閉塞6時間後におけるSRBIシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。白棒は50μmを示す。
図25図25は、脳梗塞急性期において脂質受容体LRP1の発現が増加する細胞種を神経細胞マーカーを用いて同定した実施例11の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、偽手術マウスにおけるLRP1シグナル、NeuNシグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、動脈閉塞6時間後におけるLRP1シグナル、NeuNシグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。白棒は50μmを示す。
図26図26は、LDL受容体(LDLR)ノックアウトマウスを用いて脳梗塞超急性期の血管透過性を検討した実施例12の結果を示す図である。Aは、エバンスブルーを静脈内投与した脳梗塞モデルマウス(野生型およびLDLRノックアウト)の脳の写真である。Bは、Aに示す脳のエバンスブルー陽性面積を示すグラフである。
図27図27は、下肢閉塞性動脈硬化症モデルにおける脂質受容体の増加を調べた実施例13の結果を示すグラフである。
図28図28は、脳梗塞モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制を定量RT-PCR法によって調べた実施例14の結果を示すグラフである。
図29図29は、LDL受容体ノックアウト脳梗塞モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制を定量RT-PCR法によって調べた実施例15の結果を示すグラフである。
図30図30は、Alexa-ASOまたはAlexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスから摘出した臓器におけるオリゴヌクレオチド量を示す、実施例16の結果を示すグラフである。Aは、心筋の虚血部位および非虚血部位におけるオリゴヌクレオチド量を示す。Bは、肝臓におけるオリゴヌクレオチド量を示す。
図31図31は、心筋梗塞モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制を定量RT-PCR法によって調べた実施例17の結果を示すグラフである。
図32図32は、心筋梗塞における脂質受容体発現のmRNAレベルでの増加を調べた実施例18の結果を示すグラフである。Aは、LDLR(LDL受容体)を示す。Bは、LRP1を示す。Cは、SRBIを示す。
図33図33は、下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスにおける脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドによる標的遺伝子発現の抑制を定量RT-PCR法によって調べた実施例19の結果を示すグラフである。
図34-1】図34-1は、下肢閉塞性動脈硬化症における脂質受容体LDLRの発現増加を免疫蛍光染色によって確認した実施例20の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、虚血6時間後の下肢腓腹筋(虚血部位)におけるLDLRシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、下肢腓腹筋(正常部位)におけるLDLRシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
図34-2】図34-2は、下肢閉塞性動脈硬化症における脂質受容体SRBIの発現増加を免疫蛍光染色によって確認した実施例20の結果を示す蛍光顕微鏡画像である。A~Cは、虚血6時間後の下肢腓腹筋(虚血部位)におけるSRBIシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。D~Fは、下肢腓腹筋(正常部位)におけるSRBIシグナル、CD31シグナルおよび重ね合わせ画像をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<核酸複合体>
本発明は、第1核酸鎖と、第1核酸鎖の少なくとも一部に相補的な相補的領域を含む(またはそれからなる)第2核酸鎖が、相補的塩基対の水素結合を介してアニールしている核酸複合体を用いる。核酸複合体は、第1核酸鎖と第2核酸鎖のアニーリングにより生じた二本鎖構造を有する。第1核酸鎖の全部と第2核酸鎖の全部とがアニールしていることは必要ではなく、第1核酸鎖の一部と第2核酸鎖の全部がアニールしていてもよいし、第1核酸鎖の全部と第2核酸鎖の一部がアニールしていてもよい。または第1核酸鎖の一部と第2核酸鎖の一部がアニールしていてもよい。
【0014】
第1核酸鎖は、標的転写産物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド領域を含むまたはそれからなる、ヌクレオチド鎖である。「アンチセンスオリゴヌクレオチド」または「アンチセンス核酸」とは、標的転写産物(主として標的遺伝子の転写産物)の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、標的転写産物にアンチセンス効果をもたらすことができる、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。本発明では、第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域により、標的転写産物にアンチセンス効果をもたらすことができる。
【0015】
「アンチセンス効果」とは、標的転写産物(RNAセンス鎖)と、転写産物等の部分配列に相補的で、かつアンチセンス効果を引き起こすように設計された鎖(例えばDNA鎖)との、ハイブリダイゼーションの結果として生じる、標的転写産物の発現調節を意味する。標的転写産物の発現調節は、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベル(発現量)を抑制するまたは低下させること、または、特定の例においては、翻訳の阻害またはスプライシング機能改変効果、例えばエクソンスキッピング、あるいは、転写産物の分解を含む(図4参照)。例えば、翻訳の阻害では、RNAを含むオリゴヌクレオチドがアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)として細胞に導入されると、ASOは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)に結合し、部分的二本鎖が形成される。この部分的二本鎖は、リボソームによる翻訳を妨げるためのカバーとしての役割を果たし、このため標的遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が翻訳レベルで阻害される(図4破線外×印)。一方、DNAを含むオリゴヌクレオチドがASOとして細胞に導入されると、部分的DNA-RNAヘテロ二本鎖が形成される。このヘテロ二本鎖構造がRNase Hによって認識され、その結果、標的遺伝子のmRNAが分解されるため、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現が発現レベルで阻害される(図4破線内)。これは、「RNase H依存性経路」と称される。さらに、特定の例において、アンチセンス効果は、mRNA前駆体のイントロンを標的化することによってもたらされ得る。アンチセンス効果はまた、miRNAを標的化することによってもたらされてもよく、この場合、当該miRNAの機能は阻害され、当該miRNAが通常発現を制御している遺伝子の発現は増加し得る。一実施形態では、標的転写産物の発現調節は、標的転写産物量の低下であり得る。
【0016】
アンチセンス効果によってその発現が調節(例えば、抑制、変更、または改変)される「標的遺伝子」としては特に限定されないが、例えば、本発明に係る核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、虚血性疾患においてその発現が増加する遺伝子、発現抑制により虚血性疾患の改善をもたらす遺伝子が挙げられ、より具体的には、AIF(apoptosis inducing factor)、カスパーゼ(Caspase)、TNF-α、RIPK1(receptor-interacting serine/threonine kinase 1)、Eセレクチン、ICAM-1、MCP-1、IL-1、およびIL-6などが挙げられる。また、「標的遺伝子の転写産物」とは、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。「標的転写産物」とは、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、転写産物は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。
【0017】
一実施形態では、「標的転写産物」は、例えば、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lung adenocarcinoma transcript 1、Malat-1)ノンコーディングRNAであってもよい。マウスおよびヒトMalat-1ノンコーディングRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号1および2に示す(但し、RNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。遺伝子および転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公のデータベースから入手できる。
【0018】
第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、標的転写産物の少なくとも一部(例えば、任意の標的領域)にハイブリダイズし得る塩基配列を含む。標的領域は、3'UTR、5'UTR、エクソン、イントロン、コード領域、翻訳開始領域、翻訳終結領域または他の核酸領域を含んでよい。標的転写産物の標的領域は、例えば、マウスMalat-1ノンコーディングRNAの場合は配列番号1の1317~1332位の塩基配列を含んでもよい。
【0019】
本明細書中で使用される用語「核酸」または「核酸分子」は、モノマーのヌクレオチドまたはヌクレオシドを指してもよいし、複数のモノマーからなるオリゴヌクレオチドを意味してもよい。用語「核酸鎖」または「鎖」もまた、本明細書中ではオリゴヌクレオチドを指すために使用される。核酸鎖は、化学的合成法により(例えば自動合成装置を使用して)、または酵素的工程(例えば、限定するものではないが、ポリメラーゼ、リガーゼ、または制限反応)により、全長鎖または部分鎖を作製することができる。
【0020】
本明細書中で使用される用語「核酸塩基」または「塩基」とは、核酸を構成する塩基成分(複素環部分)であって、主としてアデニン、グアニン、シトシン、チミン、およびウラシルが知られる。
【0021】
本明細書中で使用される用語「相補的」とは、核酸塩基が水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)または非ワトソン-クリック塩基対(フーグスティーン型塩基対など)を形成し得る関係を意味する。本発明において、第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、標的転写産物(例えば、標的遺伝子の転写産物)の少なくとも一部と完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、塩基配列が相補的である場合に(典型的には、塩基配列が標的転写産物の少なくとも一部の塩基配列に相補的である場合に)、標的転写産物にハイブリダイズすることができる。同様に、第2核酸鎖中の相補的領域は、第1核酸鎖の少なくとも一部と完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。第2核酸鎖中の相補的領域は、第1核酸鎖の少なくとも一部と塩基配列が相補的である場合に、アニールすることができる。塩基配列の相補性は、BLASTプログラムなどを使用することによって決定することができる。当業者であれば、鎖間の相補度を考慮して、2本の鎖がアニールまたはハイブリダイズし得る条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。またさらに、当業者であれば、例えば標的遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸を容易に設計することができる。
【0022】
ハイブリダイゼーション条件は、例えば、低ストリンジェントな条件および高ストリンジェントな条件などの様々なストリンジェントな条件であってもよい。低ストリンジェントな条件は、比較的低温で、かつ高塩濃度の条件、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、比較的高温で、かつ低塩濃度の条件、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度および塩濃度などの条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウムおよび15mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0023】
第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、通常、少なくとも8塩基長、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長、または少なくとも13塩基長であってよいが、特に限定されない。第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、35塩基長以下、30塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下または16塩基長以下であってよい。第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、例えば、8~35塩基長、9~30塩基長、10~25塩基長、10~20塩基長、11~18塩基長もしくは12~16塩基長であってもよい。
【0024】
第1核酸鎖は、特に限定されないが、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長または少なくとも13塩基長であってよい。第1核酸鎖は、50塩基長以下、45塩基長以下、40塩基長以下、35塩基長以下、30塩基長以下、28塩基長以下、26塩基長以下、24塩基長以下、22塩基長以下、20塩基長以下、18塩基長以下、または16塩基長以下であってよい。第1核酸鎖は、例えば、9~50塩基長、10~40塩基長、11~35塩基長、または12~30塩基長であってもよい。
【0025】
第2核酸鎖中の相補的領域は、通常、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長、または少なくとも13塩基長であってよいが、特に限定されない。第2核酸鎖中の相補的領域は、35塩基長以下、30塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下または16塩基長以下であってよい。第2核酸鎖中の相補的領域は、例えば、9~35塩基長、9~30塩基長、10~25塩基長、10~20塩基長、11~18塩基長もしくは12~16塩基長であってもよい。
【0026】
第2核酸鎖は、特に限定されないが、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長または少なくとも13塩基長であってよい。第2核酸鎖は、50塩基長以下、45塩基長以下、40塩基長以下、35塩基長以下、30塩基長以下、28塩基長以下、26塩基長以下、24塩基長以下、22塩基長以下、20塩基長以下、18塩基長以下、または16塩基長以下であってよい。第2核酸鎖は、例えば、9~50塩基長、10~40塩基長、11~35塩基長、または12~30塩基長であってもよい。長さの選択は、一般的に、例えば費用、合成収率などの他の因子の中でも特に、アンチセンス効果の強度と標的に対する核酸鎖の特異性とのバランスによって決まる。
【0027】
第2核酸鎖は、第1核酸鎖の少なくとも一部に相補的な相補的領域を含む、またはそれからなる。
【0028】
一実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域は、第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域の少なくとも一部に相補的であり得る。第2核酸鎖中の相補的領域は、第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域全部に相補的であってもよい。第2核酸鎖中の相補的領域は、第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域に加えて、それ以外の部分に相補的であってもよい。本実施形態の一例としては、国際公開第2013/089283号、Nishina K, et. al., Nature Communication, 2015, 6:7969、およびAsami Y, et al., Drug Discoveries & Therapeutics. 2016; 10(5):256-262に開示されるヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(heteroduplex oligonucleotide、HDO)がある(図1AおよびB)。
【0029】
さらなる実施形態では、第2核酸鎖は、相補的領域の5'末端側および3'末端側の一方または両方に位置する少なくとも1つのオーバーハング領域をさらに含み得る。本実施形態の一例は、PCT/JP2017/035553に記載される。「オーバーハング領域」とは、相補的領域に隣接する領域で、第1核酸鎖と第2核酸鎖がアニールして二本鎖構造を形成した場合、第2核酸鎖の5'末端が第1核酸鎖の3'末端を超えて伸長する、および/または第2核酸鎖の3'末端が第1核酸鎖の5'末端を超えて伸長する、つまり、二本鎖構造から突出した第2核酸鎖中のヌクレオチド領域を指す。第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、相補的領域の5'末端側に位置してもよく(図2A)、3'末端側に位置してもよい(図2B)。第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、相補的領域の5'末端側および3'末端側に位置してもよい(図2C)。
【0030】
一般に、「ヌクレオシド」は、塩基および糖の組み合わせである。ヌクレオシドの核酸塩基(塩基としても知られる)部分は、通常は、複素環式塩基部分である。「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに含む。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドでは、リン酸基は、糖の2'、3'、または5'ヒドロキシル部分に連結可能である。オリゴヌクレオチドは、互いに隣接するヌクレオシドの共有結合によって形成され、直鎖ポリマーオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチド構造の内部で、リン酸基は、一般に、オリゴヌクレオチドのヌクレオシド間結合を形成するとみなされている。
【0031】
核酸鎖は、天然ヌクレオチドおよび/または非天然ヌクレオチドを含み得る。「天然ヌクレオチド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオチドおよびRNA中に見られるリボヌクレオチドを含む。「デオキシリボヌクレオチド」および「リボヌクレオチド」は、それぞれ、「DNAヌクレオチド」および「RNAヌクレオチド」と称することもある。
【0032】
同様に、「天然ヌクレオシド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオシドおよびRNA中に見られるリボヌクレオシドを含む。「デオキシリボヌクレオシド」および「リボヌクレオシド」は、それぞれ、「DNAヌクレオシド」および「RNAヌクレオシド」と称することもある。
【0033】
「非天然ヌクレオチド」は、天然ヌクレオチド以外の任意のヌクレオチドを指し、修飾ヌクレオチドおよびヌクレオチド模倣体を含む。同様に、「非天然ヌクレオシド」は、天然ヌクレオシド以外の任意のヌクレオシドを指し、修飾ヌクレオシドおよびヌクレオシド模倣体を含む。「修飾ヌクレオチド」とは、修飾糖部分、修飾ヌクレオシド間結合、および修飾核酸塩基のいずれか1つ以上を有するヌクレオチドを意味する。「修飾ヌクレオシド」とは、修飾糖部分および/または修飾核酸塩基を有するヌクレオシドを意味する。非天然オリゴヌクレオチドを含む核酸鎖は、多くの場合、例えば、細胞取り込みの強化、核酸標的への親和性の強化、ヌクレアーゼ存在下での安定性の増加、または阻害活性の増加等の望ましい特性により、天然型よりも好ましい。
【0034】
「修飾ヌクレオシド間結合」とは、天然に存在するヌクレオシド間結合(すなわち、ホスホジエステル結合)からの置換または任意の変化を有するヌクレオシド間結合を指す。修飾ヌクレオシド間結合には、リン原子を含むヌクレオシド間結合、およびリン原子を含まないヌクレオシド間結合が含まれる。代表的なリン含有ヌクレオシド間結合としては、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホトリエステル結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ボラノホスフェート結合、およびホスホロアミデート結合が挙げられるが、これらに限定されない。ホスホロチオエート結合は、ホスホジエステル結合の非架橋酸素原子を硫黄原子に置換したヌクレオシド間結合を指す。リン含有および非リン含有結合の調製方法は周知である。修飾ヌクレオシド間結合は、ヌクレアーゼ耐性が天然に存在するヌクレオシド間結合よりも高い結合であることが好ましい。
【0035】
「修飾核酸塩基」または「修飾塩基」とは、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、またはウラシル以外のあらゆる核酸塩基を意味する。「非修飾核酸塩基」または「非修飾塩基」(天然核酸塩基)とは、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を意味する。修飾核酸塩基の例としては、5-メチルシトシン、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシンまたはN4-メチルシトシン; N6-メチルアデニンまたは8-ブロモアデニン;ならびにN2-メチルグアニンまたは8-ブロモグアニンが挙げられるが、これらに限定されない。修飾核酸塩基は、好ましくは、5-メチルシトシンである。
【0036】
「修飾糖」とは、天然糖部分(すなわち、DNA(2'-H)またはRNA(2'-OH)中に認められる糖部分)からの置換および/または任意の変化を有する糖を指す。核酸鎖は、場合により、修飾糖を含む1つ以上の修飾ヌクレオシドを含んでもよい。かかる糖修飾ヌクレオシドは、ヌクレアーゼ安定性の強化、結合親和性の増加、または他の何らかの有益な生物学的特性を核酸鎖に付与し得る。特定の実施形態では、ヌクレオシドは、化学修飾リボフラノース環部分を含む。化学修飾リボフラノース環の例としては、限定するものではないが、置換基(5'および2'置換基を含む)の付加、非ジェミナル環原子の架橋形成による二環式核酸(架橋核酸、BNA)の形成、リボシル環酸素原子のS、N(R)、またはC(R1)(R2)(R、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、C1-C12アルキル、または保護基を表す)での置換、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
修飾糖部分を有するヌクレオシドの例としては、限定するものではないが、5'-ビニル、5'-メチル(RまたはS)、4'-S、2'-F(2'-フルオロ基)、2'-OCH3(2'-OMe基もしくは2'-O-メチル基)、および2'-O(CH2)2OCH3置換基を含むヌクレオシドが挙げられる。2'位の置換基はまた、アリル、アミノ、アジド、チオ、-O-アリル、-O-C1-C10アルキル、-OCF3、-O(CH2)2SCH3、-O(CH2)2-O-N(Rm)(Rn)、および-O-CH2-C(=O)-N(Rm)(Rn)から選択することができ、各RmおよびRnは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換C1-C10アルキルである。「2'-修飾糖」は、2'位で修飾されたフラノシル糖を意味する。
【0038】
「二環式ヌクレオシド」は、二環式糖部分を含む修飾ヌクレオシドを指す。二環式糖部分を含む核酸は、一般に架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)と称される。二環式糖部分を含むヌクレオシドは、「架橋ヌクレオシド」と称することもある。
【0039】
二環式糖は、2'位の炭素原子および4'位の炭素原子が2つ以上の原子によって架橋されている糖であってよい。二環式糖の例は当業者に公知である。二環式糖を含む核酸(BNA)の1つのサブグループは、4'-(CH2)p-O-2'、4'-(CH2)p-CH2-2'、4'-(CH2)p-S-2'、4'-(CH2)p-OCO-2'、4'-(CH2)n-N(R3)-O-(CH2)m-2'[式中、p、mおよびnは、それぞれ1~4の整数、0~2の整数、および1~3の整数を表し;またR3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、およびユニット置換基(蛍光もしくは化学発光標識分子、核酸切断活性を有する機能性基、細胞内または核内局在化シグナルペプチド等)を表す]により架橋された2'位の炭素原子と4'位の炭素原子を有すると説明することができる。さらに、特定の実施形態によるBNAに関し、3'位の炭素原子上のOR2置換基および5'位の炭素原子上のOR1置換基において、R1およびR2は、典型的には水素原子であるが、互いに同一であっても異なっていてもよく、さらにまた、核酸合成のためのヒドロキシル基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成のための保護基によって保護されているリン酸基、または-P(R4)R5[ここで、R4およびR5は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれヒドロキシル基、核酸合成のための保護基によって保護されているヒドロキシル基、メルカプト基、核酸合成のための保護基によって保護されているメルカプト基、アミノ基、1~5個の炭素原子を有するアルコキシ基、1~5個の炭素原子を有するアルキルチオ基、1~6個の炭素原子を有するシアノアルコキシ基、または1~5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されているアミノ基を表す]であってもよい。このようなBNAの非限定的な例としては、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA(LNA(Locked Nucleic Acid(登録商標)、2',4'-BNAとしても知られている)、例えば、α-L-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNAもしくはβ-D-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA、エチレンオキシ(4'-(CH2)2-O-2')BNA(ENAとしても知られている)、β-D-チオ(4'-CH2-S-2')BNA、アミノオキシ(4'-CH2-O-N(R3)-2')BNA、オキシアミノ(4'-CH2-N(R3)-O-2')BNA(2',4'-BNANCとしても知られている)、2',4'-BNAcoc、3'-アミノ-2',4'-BNA、5'-メチルBNA、(4'-CH(CH3)-O-2')BNA(cEt BNAとしても知られている)、(4'-CH(CH2OCH3)-O-2')BNA(cMOE BNAとしても知られている)、アミドBNA(4'-C(O)-N(R)-2')BNA(R=H、Me)(AmNAとしても知られている)、2'-O,4'-C-スピロシクロプロピレン架橋型核酸(scpBNAとしても知られている)および当業者に公知の他のBNAが挙げられる。
【0040】
メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')架橋を有する二環式ヌクレオシドを、LNAヌクレオシドと称することもある。
【0041】
修飾糖の調製方法は、当業者に周知である。修飾糖部分を有するヌクレオチドにおいて、核酸塩基部分(天然、修飾、またはそれらの組み合わせ)は、適切な核酸標的とのハイブリダイゼーションのために維持されてよい。
【0042】
「ヌクレオシド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において糖または糖および塩基、ならびに必ずではないが結合を置換するために使用される構造体を含む。「オリゴマー化合物」とは、核酸分子の少なくともある領域にハイブリダイズ可能な連結したモノマーサブユニットのポリマーを意味する。ヌクレオシド模倣体としては、例えば、モルホリノ、シクロヘキセニル、シクロヘキシル、テトラヒドロピラニル、二環式または三環式糖模倣体、例えば、非フラノース糖単位を有するヌクレオシド模倣体が挙げられる。「ヌクレオチド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において、ヌクレオシドおよび結合を置換するために使用される構造体を含む。ヌクレオチド模倣体としては、例えば、ペプチド核酸またはモルホリノ核酸(-N(H)-C(=O)-O-または他の非ホスホジエステル結合によって結合されるモルホリノ)が挙げられる。ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid、PNA)は、糖の代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合で結合した主鎖を有するヌクレオチド模倣体である。モルホリノ核酸の構造の一例は、図5に示される。「模倣体」とは、糖、核酸塩基、およびヌクレオシド間結合の1つ以上を置換する基を指す。一般に、模倣体は、糖、または糖およびヌクレオシド間結合の組み合わせの代わりに使用され、核酸塩基は、選択される標的に対するハイブリダイゼーションのために維持される。
【0043】
一般的には、修飾は、同一鎖中のヌクレオチドが独立して異なる修飾を受けることができるように実施することができる。また、酵素的切断に対する抵抗性を与えるため、同一のヌクレオチドが、修飾ヌクレオシド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。同一のヌクレオチドはまた、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。
【0044】
核酸鎖における非天然ヌクレオチドの数、種類および位置は、核酸複合体によって提供されるアンチセンス効果などに影響を及ぼし得る。修飾の選択は、標的遺伝子などの配列によって異なり得るが、当業者であれば、アンチセンス法に関連する文献(例えば、WO 2007/143315、WO 2008/043753、およびWO 2008/049085)の説明を参照することによって好適な実施形態を決定することができる。さらに、修飾後の核酸複合体が有するアンチセンス効果が測定される場合、このようにして得られた測定値が修飾前の核酸複合体の測定値と比較して有意に低くない場合(例えば、修飾後に得られた測定値が、修飾前の核酸複合体の測定値の70%以上、80%以上または90%以上である場合)、関連修飾を評価することができる。
【0045】
アンチセンス効果の測定は、例えば、被験核酸化合物を被験体(例えばマウス)に投与し、例えば数日後(例えば2~7日後)に、被験核酸化合物によって提供されるアンチセンス効果により発現が調節される標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベル(量)(例えば、mRNA量もしくはマイクロRNAなどのRNA量、cDNA量、タンパク質量など)を測定することによって、実施することができる。
【0046】
例えば、測定された標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベルが、陰性対照(例えばビヒクル投与)と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、または少なくとも40%減少している場合に、被験核酸化合物がアンチセンス効果(例えば、標的転写産物量の低下)をもたらし得ることが示される。
【0047】
第1核酸鎖におけるヌクレオシド間結合は、天然に存在するヌクレオシド間結合および/または修飾ヌクレオシド間結合であってよい。
【0048】
第1核酸鎖の5'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。第1核酸鎖の3'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。例えば、核酸鎖の末端から2つのヌクレオシド間結合とは、核酸鎖の末端に最も近接するヌクレオシド間結合と、これに隣接し、かつ核酸鎖の末端とは反対方向に位置するヌクレオシド間結合とを指す。核酸鎖の末端領域における修飾ヌクレオシド間結合は、核酸鎖の望ましくない分解を抑制または阻害できるために、好ましい。
【0049】
修飾ヌクレオシド間結合は、第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域のヌクレオシド間結合の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも98%、または100%であってよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0050】
第1核酸鎖におけるヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはその両者を含む)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0051】
第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、ギャップマー型のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域(ギャップマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド領域)であってもよい。「ギャップマー(gapmer)型」とは、少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドを含む中央領域(DNAギャップ領域)と、その5'末端側および3'末端側に配置された非天然ヌクレオシドを含む領域(5'ウイング領域および3'ウイング領域)からなる、ヌクレオシド組成を指す。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドで構成されるギャップマーを、特に「BNA/DNAギャップマー」と称する。DNAギャップ領域の長さは、4~20塩基長、5~18塩基長、6~16塩基長、7~14塩基長または8~12塩基長であってもよい。5'ウイング領域および3'ウイング領域の長さは、独立して、通常、1~10塩基長、1~7塩基長、2~5塩基長または2~3塩基長であってよい。5'ウイング領域および3'ウイング領域は、非天然ヌクレオシドを少なくとも1種含んでいればよく、天然ヌクレオシドをさらに含んでいてもよい。ギャップマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、2もしくは3個の架橋ヌクレオシドを含む5'ウイング領域、2もしくは3個の架橋ヌクレオシドを含む3'ウイング領域、およびそれらの間のDNAギャップ領域を含むBNA/DNAギャップマー型のヌクレオシド組成を有してもよい。架橋ヌクレオシドは、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を含んでもよい。また、ギャップマーは、架橋ヌクレオシドがLNAヌクレオシドで構成される「LNA/DNAギャップマー」であってもよい。
【0052】
第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、ミックスマー型のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域(ミックスマー型アンチセンスオリゴヌクレオチド領域)であってもよい。「ミックスマー(mixmer)型」とは、周期的または無作為セグメント長の交互型の天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシドおよび/またはリボヌクレオシド)および非天然ヌクレオシドを含み、かつ、4個以上の連続デオキシリボヌクレオシドおよび4個以上の連続リボヌクレオシドを有さないヌクレオシド組成を指す。ミックスマーは、必ずしも2種のヌクレオシドだけを含むように制限される必要はない。ミックスマーは、天然もしくは修飾のヌクレオシドまたはヌクレオシド模倣体であるか否かに関わらず、任意の数の種のヌクレオシドを含み得る。例えば、ミックスマーは、架橋ヌクレオシド(例えば、LNAヌクレオシド)により分離された1または2個の連続デオキシリボヌクレオシドを有してもよい。
【0053】
第1核酸鎖は、全部又は一部にヌクレオシド模倣体またはヌクレオチド模倣体を含んでもよい。ヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸および/またはモルホリノ核酸であってもよい。第1核酸鎖は、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含んでもよい。修飾ヌクレオシドは、2'-修飾糖を含んでよい。2'-修飾糖は、2'-O-メチル基を含む糖であってもよい。
【0054】
第2核酸鎖におけるヌクレオシド間結合は、天然に存在するヌクレオシド間結合および/または修飾ヌクレオシド間結合であってよい。
【0055】
第2核酸鎖の全てのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。あるいは、第2核酸鎖の全てのヌクレオシド間結合は、天然ヌクレオシド間結合であってもよい。
【0056】
第2核酸鎖の5'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。第2核酸鎖の3'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。
【0057】
第2核酸鎖におけるヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはその両者を含む)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0058】
第2核酸鎖中の相補的領域は、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはその両者を含む)および/または非天然ヌクレオシドを含み得る。
【0059】
一実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域は、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個または少なくとも5個の連続したリボヌクレオシドを含み得る。このような連続したリボヌクレオシドは、第1核酸鎖中のギャップマー型オリゴヌクレオチド領域のDNAギャップ領域と二本鎖を形成し得る。該二本鎖は、RNase Hによって認識され、RNase Hによる第2核酸鎖の切断を促進し得る。連続したリボヌクレオシドは、ホスホジエステル結合で連結されてもよい。第2核酸鎖中の相補的領域のヌクレオシドは、リボヌクレオシドからなってもよい。
【0060】
別の実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域は、少なくとも2個の連続したリボヌクレオシドを含まないものであってよい。第2核酸鎖中の相補的領域のヌクレオシドは、デオキシリボヌクレオシドからなってもよい。
【0061】
第2核酸鎖中の相補的領域は、5'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの修飾ヌクレオシドを含んでもよい。第2核酸鎖中の相補的領域は、3'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの修飾ヌクレオシドを含んでもよい。第2核酸鎖中の相補的領域は、5'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの修飾ヌクレオシドを含み、かつ、3'末端から少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの修飾ヌクレオシドを含んでもよい。修飾ヌクレオシドは、修飾糖および/または修飾核酸塩基を含んでよい。修飾糖は、二環式糖または2'-修飾糖(例えば、2'-O-メチル基を含む糖)であってよい。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシンであってよい。
【0062】
第1核酸鎖および第2核酸鎖は、上記の修飾ヌクレオシド間結合および修飾ヌクレオシドの任意の組み合わせを含んでよい。
【0063】
別の特定の実施形態では、第1核酸鎖が相補的RNA領域をさらに含み、該相補的RNA領域は、第1核酸鎖が第2核酸鎖にハイブリダイズしている場合にRNase Hにより認識され得る少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドを有し、第2核酸鎖中の相補的領域が相補的DNA領域であり、該相補的DNA領域は、第1核酸鎖の相補的RNA領域にハイブリダイズして、RNase Hによる第1核酸鎖中の少なくとも2個の連続RNAヌクレオチドの認識を促進することができ、さらに第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、第2核酸鎖とハイブリダイズすることができない。本実施形態の一例としては、国際公開第2014/192310号に開示されるヘテロキメラ二本鎖オリゴヌクレオチド(hetero-chimera-duplex oligonucleotide、HCDO)がある。第1核酸鎖中のアンチセンスオリゴヌクレオチド領域は、相補的RNA領域の5'末端側に位置していてもよいし(図3A)、相補的RNA領域の3'末端側に位置していてもよい(図3B)。本実施形態の核酸複合体は、細胞内に導入されると、相補的RNA領域がRNase Hによって切断され、アンチセンスオリゴヌクレオチドを放出し、その後、このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、転写産物の活性または機能を改変するように作用することができる(国際公開第2014/192310号を参照のこと)。
【0064】
相補的DNA領域は、相補的RNA領域の一部または全部に対して相補的であり、さらに場合によりアンチセンスオリゴヌクレオチド領域の一部に対して相補的であってもよい。しかし、相補的RNA領域が、相補的DNA領域に対して完全に相補的であるか、または相補的DNA領域と同数の塩基を有することは必要とされない。
【0065】
相補的RNA領域は、場合により片側または両側が修飾RNAヌクレオチドにより隣接されていてよい2、3、4もしくは5個またはそれ以上、例えば、5~20個、5~16個、または5~12個の連続したRNAヌクレオチド(天然RNA)を含んでもよい。
【0066】
相補的DNA領域は、本明細書中他の箇所に記載したような、ギャップマー型のヌクレオシド組成を有してもよい。
【0067】
相補的RNA領域または相補的DNA領域の長さは特に限定されないが、通常、少なくとも8塩基、少なくとも10塩基、少なくとも12塩基、または少なくとも13塩基である。相補的RNA領域または相補的DNA領域の長さは、20塩基以下、25塩基以下もしくは35塩基以下であってよい。
【0068】
第2核酸鎖は、脂質と結合している。脂質としては、トコフェロール、コレステロール、脂肪酸、リン脂質およびそれらの類縁体;葉酸、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2;エストラジオール、アンドロスタンおよびそれらの類縁体;ステロイドおよびその類縁体;LDLR、SRBIまたはLRP1/2のリガンド;FK-506、およびシクロスポリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。トコフェロールまたはコレステロール等の脂質を核酸鎖に結合させることにより肝臓等への送達性が増大することが従来知られていた。本発明は、脂質(トコフェロール)が結合した相補鎖とアンチセンスオリゴヌクレオチドとがアニールしてなる二本鎖核酸複合体(脂質結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド)が、予想外にも被験体の虚血部位へ効率的に送達され、虚血部位で標的転写産物の発現を調節できるという本発明者らの知見に基づいている(後述の実施例1~9参照)。これは、脂質結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドが、虚血後に増加した脂質受容体を介して経細胞経路(transcellular pathway)で虚血部位の血管内皮細胞、および血管を超えた内部の細胞(例えば、神経細胞などの脳実質内、心筋細胞および骨格筋細胞など)に送達されることに起因することが示唆された(後述の実施例10~13)。
【0069】
本明細書において「類縁体(analog)」とは、同一または類似の基本骨格を有する類似した構造および性質を有する化合物を指す。類縁体は、例えば、生合成中間体、代謝産物、置換基を有する化合物などを含む。ある化合物が別の化合物の類縁体であるかどうかは、当業者であれば判定できる。
【0070】
トコフェロールは、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、およびδ-トコフェロールからなる群から選択され得る。トコフェロールの類縁体としては、トコフェロールの種々の不飽和類縁体、例えば、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールなどが挙げられる。好ましくは、トコフェロールは、α-トコフェロールである。
【0071】
コレステロールの類縁体は、ステロール骨格を有するアルコールである、種々のコレステロール代謝産物および類縁体などを指し、限定されるものではないが、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロール、およびコプロスタノールなどを含む。
【0072】
脂質は、第2核酸鎖の5'末端、または3'末端、あるいは両端に連結されていてもよい。あるいは、脂質は、第2核酸鎖の内部のヌクレオチドに連結されていてもよい。第2核酸鎖は、脂質を2つ以上含み、これらは第2核酸鎖の複数の位置に連結されていてもよく、および/または第2核酸鎖の1つの位置に一群として連結されていてもよい。脂質は、第2核酸鎖の5'末端と3'末端にそれぞれ1つずつ連結されていてもよい。
【0073】
第2核酸鎖と脂質との間の結合は、直接結合であってもよいし、別の物質によって介在される間接結合であってもよい。しかし、特定の実施形態においては、脂質は、共有結合、イオン性結合、水素結合などを介して第2核酸鎖に直接結合されていることが好ましく、またより安定した結合を得ることができるという点から考えると、共有結合がより好ましい。
【0074】
脂質はまた、切断可能な連結基(リンカー)を介して第2核酸鎖に結合されていてもよい。「切断可能な連結基(リンカー)」とは、生理学的条件下で、例えば細胞内または動物体内(例えば、ヒト体内)で、切断される連結基を意味する。特定の実施形態では、切断可能なリンカーは、ヌクレアーゼなどの内在性酵素によって選択的に切断される。切断可能なリンカーとしては、アミド、エステル、ホスホジエステルの一方もしくは両方のエステル、リン酸エステル、カルバメート、およびジスルフィド結合、ならびに天然DNAリンカーが挙げられる。
【0075】
脂質は、非切断性(uncleavable)リンカーを介して第2核酸鎖に結合していてもよい。「非切断性リンカー」は、生理学的条件下で、例えば細胞内または動物体内(例えば、ヒト体内)で、切断されない連結基を意味する。非切断性リンカーとしては、ホスホロチオエート結合、およびホスホロチオエート結合で連結された修飾もしくは非修飾のデオキシリボヌクレオシドまたは修飾もしくは非修飾のリボヌクレオシドからなるリンカーなどが挙げられる。リンカーがDNAなどの核酸またはオリゴヌクレオチドの場合、鎖長は、限定されないが、2~20塩基長、3~10塩基長または4~6塩基長であってもよい。
【0076】
第2核酸鎖は、ポリヌクレオチドに結合された少なくとも1つの機能性部分をさらに含んでいてもよい。機能性部分が、核酸複合体および/または機能性部分が結合している鎖に所望の機能を与える限り、特定の実施形態による「機能性部分」の構造について特定の限定はない。所望の機能としては、標識機能および精製機能が挙げられる。標識機能を与える部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどの化合物が挙げられる。精製機能を与える部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチドなどの化合物が挙げられる。機能性部分の第2核酸鎖における結合位置および結合の種類は、脂質と第2核酸鎖との結合について上に記載されるとおりである。
【0077】
当業者であれば、公知の方法を適切に選択することによって、核酸複合体を構成する第1核酸鎖および第2核酸鎖を製造することができる。例えば、核酸は、標的転写産物の塩基配列(または、一部の例においては、標的遺伝子の塩基配列)の情報に基づいて核酸のそれぞれの塩基配列を設計し、市販の自動核酸合成装置(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems, Inc.)の製品、ベックマン・コールター社(Beckman Coulter, Inc.)の製品など)を使用することによって核酸を合成し、その後、結果として得られたオリゴヌクレオチドを逆相カラムなどを使用して精製することにより製造することができる。この方法で製造した核酸を適切な緩衝溶液中で混合し、約90℃~98℃で数分間(例えば5分間)変性させ、その後核酸を約30℃~70℃で約1~8時間アニールし、このようにして核酸複合体を製造することができる。アニールした核酸複合体の作製は、このような時間および温度プロトコールに限定されない。鎖のアニーリングを促進するのに適した条件は、当技術分野において周知である。脂質または機能性部分が結合している核酸複合体は、脂質または機能性部分が予め結合された核酸種を使用し、上記の合成、精製およびアニーリングを実施することによって製造してもよいし、脂質または機能性部分を核酸にあとから結合させてもよい。脂質または機能性部分を核酸に連結するための多数の方法が、当技術分野において周知である。あるいは、核酸鎖は、塩基配列ならびに修飾部位もしくは種類を指定して、製造業者(例えば、株式会社ジーンデザイン)に注文し、入手することもできる。
【0078】
<組成物>
上記の核酸複合体を含む、虚血を有する被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節するための組成物が提供される。本組成物は医薬組成物であってもよい。
【0079】
また上記の核酸複合体を含む、虚血を有する被験体の虚血部位に核酸複合体を送達するための組成物が提供される。
【0080】
虚血とは、血液が供給されなくなった状態をいう。虚血の原因は問わないが、例えば、外部からの圧迫による動脈壁の狭窄または閉塞によって生じる圧迫性虚血、血管内または血管自体の変化による閉塞性虚血などがある。
【0081】
虚血部位は、身体のいずれの臓器または組織に存在してもよいが、例えば、脳、脊髄、心筋、骨格筋(上肢骨格筋および下肢骨格筋を含む)、血管、肺、腎臓、肝臓、腸管、脾臓、眼、網膜、皮膚、末梢神経または四肢に存在してもよい。
【0082】
本組成物により標的転写産物の発現が調節されるまたは核酸複合体が送達される虚血部位の細胞は、限定されないが、血管内皮細胞(動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、および静脈)、血管平滑筋、心筋細胞(特殊心筋含む)、骨格筋細胞、中枢神経の細胞(神経細胞、アストログリア、マイクログリア、およびオリゴデンドロサイト)、軟膜、末梢神経の細胞(神経細胞、シュワン細胞)、肝臓の細胞、および腎臓の細胞を含み得る。
【0083】
本組成物は、虚血性疾患を治療するためのものであってよい。虚血性疾患は、急性または慢性虚血性疾患のいずれでもよい。虚血性疾患は、虚血病態を伴う任意の疾患を包含する。
【0084】
急性虚血性疾患としては、以下に限定されないが、脳血管障害(脳梗塞、脊髄梗塞、脳静脈洞血栓症、脳血管攣縮症候群、脳血管炎、脳出血、くも膜下出血、もやもや病、脳動静脈瘻、脳動静脈奇形、脳動脈瘤、頸部/脳動脈解離、頭部外傷、脳挫傷、および脳腫瘍);心筋梗塞、狭心症、および心筋梗塞後不整脈;閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans、ASO)、例えば、下肢閉塞性動脈硬化症;その他の急性虚血性疾患、例えば、凝固異常症(播種性血管内凝固症候群、悪性腫瘍に伴う過凝固状態、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症など)、先天性結合織病(エーラス・ダンロス症候群、線維筋性異形成)、大動脈解離、肺梗塞、腎梗塞、肝梗塞、急性腸間膜動脈閉塞症、脾梗塞、急性(大腿)動脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、放射線性血管症、加齢性血管症、および薬剤性血管症などが挙げられる。
【0085】
慢性虚血性疾患としては、以下に限定されないが、脳血管性認知症(遺伝性脳血管障害[CADASIL、CARASILなど]、ファブリー病、Binswanger病)、脳血管性パーキンソン症候群、脳アミロイドアンギオパチー、外傷性疾患、バージャー病、虚血性腸炎、糖尿病性末梢神経障害、および虚血性視神経障害などが挙げられる。
【0086】
虚血病態を伴う他の疾患としては、以下に限定されないが、炎症性疾患、遺伝性/先天性疾患、外傷、腫瘍性疾患、感染性疾患、代謝性疾患、中毒性疾患、髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、敗血症、感染性心内膜炎、高安病、血管炎症候群(ANCA関連疾患、および膠原病に伴う二次性血管炎)、筋炎(多発筋炎、皮膚筋炎、封入体筋症、および壊死性筋症)、炎症性腸疾患、リベド血管症、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍、傍腫瘍症候群、遺伝性血管症、ミトコンドリア脳筋症、および虚血病態を伴う脊椎疾患(頸椎症、腰椎症、脊髄動静脈瘻、および脊髄動静脈奇形)などが挙げられる。
【0087】
虚血性疾患は、好ましくは、脳梗塞、心筋梗塞または下肢閉塞性動脈硬化症である。
【0088】
被験体は、ヒトを含む動物とすることができる。しかし、ヒトを除く動物には特定の限定はなく、様々な家畜、家禽、ペット、実験動物などが被験体となり得る。被験体は、虚血部位において標的転写産物の発現を調節することが必要な被験体であってもよい。また被験体は、虚血性疾患の治療が必要な被験体であってもよい。被験体は、虚血急性期の被験体であってもよい。
【0089】
本組成物は、公知の製薬法により製剤化することができる。例えば、本組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、微粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、解膠剤(peptizer)、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、コーティング剤、軟膏、硬膏剤(plaster)、パップ剤(cataplasm)、経皮剤、ローション剤、吸入剤、エアロゾル剤、点眼剤、注射剤および坐剤の形態で、経口的にまたは非経口的に使用することができる。
【0090】
本組成物には、薬学的に許容可能な担体、具体的には界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、緩衝剤、および他の添加剤や、薬学的に許容可能な溶媒、具体的には滅菌水、および生理食塩水、緩衝液(リン酸バッファーなどを含む)、および他の溶媒を適切に組み込むことができる。
【0091】
本組成物の投与量は、被験体の年齢、体重、症状および健康状態、剤形などに従って適切に選択することができる。しかし、本組成物の用量は、例えば、核酸複合体0.0000001mg/kg/日~1000000mg/kg/日、0.00001mg/kg/日~10000mg/kg/日または0.001mg/kg/日~500mg/kg/日であってもよい。
【0092】
本組成物の投与形態には特定の限定はなく、その例としては、経口投与または非経口投与、より具体的には、静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、皮下投与、動脈内投与(例えば、血管内カテーテルによる選択的動脈内投与)、腹腔内投与、皮内投与、気管/気管支投与、直腸投与、眼内投与、および筋肉内投与、ならびに輸血による投与が挙げられる。投与は、筋肉内注射投与、持続点滴投与、吸入、皮膚貼付、または埋め込み型持続皮下投与により行ってもよい。なお、皮下投与は、静脈内投与に比べて投与の簡便性等の観点から有利となり得る。皮下投与は、患者自身による自己注射が可能であり、好ましい。
【0093】
本組成物は、虚血急性期に投与することができる。虚血急性期は、虚血発生から15時間以内、12時間以内、9時間以内、6時間以内、3時間以内または1時間以内であってよい。虚血状態が長くなるほど臓器、組織および細胞の損傷が大きくなるため、虚血急性期の治療は重要である。しかし、脳梗塞などの脳血管障害の場合、虚血発生から約15時間以内の虚血急性期には、脳内への物質供給を制限する血液脳関門(BBB)の機能により脳への薬剤送達が困難である。本発明により、有利なことに、血液脳関門が破綻する前の虚血急性期においても、薬剤(アンチセンスオリゴヌクレオチド)を脳に送達することが可能となる。
【0094】
本組成物によって、虚血病変部位特異的に核酸複合体を送達し、標的転写産物発現を調節することができるため、より少ない投与量で遺伝子制御が可能となり、また、目的臓器以外への薬剤送達が低下し、副作用を回避することができる。
【0095】
一態様では、上記の核酸複合体または組成物を虚血を有する被験体に投与することを含む、虚血性疾患の治療方法が提供される。
【0096】
別の態様では、上記の核酸複合体または組成物を虚血を有する被験体に投与することを含む、被験体の虚血部位において標的転写産物の発現を調節する(例えば、転写産物の発現量を低下させる)方法が提供される。
【0097】
別の態様では、上記の核酸複合体または組成物を虚血を有する被験体に投与することを含む、被験体の虚血部位に核酸複合体を送達する方法が提供される。
【実施例
【0098】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]
(脳梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達)
脂質リガンドが結合したヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(heteroduplex oligonucleotide、HDO;ヘテロ核酸ともいう;国際公開第2013/089283号、Nishina K, et. al., Nature Communication, 2015, 6:7969、およびAsami Y, et al., Drug Discoveries & Therapeutics. 2016; 10(5):256-262を参照)の脳梗塞部位(虚血病変)への送達性を、従来のアンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較した。
【0100】
(方法)
蛍光色素であるAlexaFluor568が5'末端に共有結合したLNA/DNAギャップマーASO(Alexa-ASO)を用意した(図6A)。このASOはMalat-1ノンコーディングRNA(配列番号1)の1317~1332位に相補的な塩基配列を有し、Malat-1遺伝子を標的とする。このASOは、5'末端から3個のLNAヌクレオシド、3'末端から3個のLNAヌクレオシド、およびそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む、16塩基長のオリゴヌクレオチドである。
【0101】
このASOに相補的な塩基配列を有し、5'末端にトコフェロールが共有結合した相補的RNA鎖(Toc-cRNA)を用意した。Toc-cRNAは、5'末端から3個の2'-O-メチルRNAヌクレオシド、3'末端から3個の2'-O-メチルRNAヌクレオシド、およびそれらの間の10個のRNAヌクレオシドを含む、16塩基長のオリゴヌクレオチドである。
【0102】
Alexa-ASOをToc-cRNAにアニーリングさせることにより、Alexa標識された脂質リガンド(トコフェロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Alexa-Toc-HDO)を次のように作製した(図6B)。Alexa-ASOとToc-cRNA(粉末)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、得られた溶液を等モル量で混合し、混合液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、Alexa-ASOをToc-cRNAにアニールさせた。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0103】
実施例1で用いたオリゴヌクレオチドの配列、化学修飾および構造を、表1および図6に示す。全てのオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって製造された。
【0104】
【表1】
【0105】
8~12週齢のマウス(C57BL6、雄、三協ラボサービス株式会社)を用いて次のように脳梗塞モデルを作製した。マウスを2.5%イソフルレンの吸入により麻酔し、術中体温をヒートパッドにて36.5±0.5℃に保った。マウスの左頭部の皮膚を切開し、中大脳動脈直上の頭蓋骨にマイクロドリルで2mmの穴をあけ、中大脳動脈を露出させた。露出した中大脳動脈を電子焼却により閉塞させ、脳梗塞モデルマウスを作製した。
【0106】
動脈閉塞3時間後に、脳梗塞モデルマウスに、50mg/kgの用量のAlexa-ASOまたはAlexa-Toc-HDOを尾静脈から静脈内注射した。また、陰性対照群としてPBSのみを脳梗塞モデルマウスに投与した。
【0107】
注射3時間後(動脈閉塞6時間後)に、マウスを安楽死させ、PBSにて灌流し、その後、解剖して臓器(大脳および肝臓)を摘出した。摘出した臓器を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、20μmの薄切切片を作製した。切片をDAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で処理し、核を染色した。切片を蛍光顕微鏡にてAlexaシグナルおよび核について観察した。
【0108】
また、同様のプロトコールで別の脳梗塞モデルマウスを用意し、Alexa-ASOまたはAlexa-Toc-HDOを尾静脈投与した3時間後に、マウスを安楽死させ、PBSで灌流し、臓器(大脳半球と肝臓)を摘出した。大脳半球は脳梗塞大脳半球と非虚血大脳半球に分けた。臓器をPBSに入れホモジネートした。得られたサンプルのAlexaの蛍光強度をマイクロプレートリーダー(infinite(登録商標) M1000 PRO、TECAN group Ltd.、Mannedorf、Switzerland)で測定した。測定結果に基づき臓器1gあたりのオリゴヌクレオチド量(pmol)を算出した。
【0109】
(結果)
Alexa-Toc-HDO投与群では、脳梗塞部位に非常に強いAlexaシグナルが見られた(図7Aおよび8A~C)のに対し、非虚血部位には主に脳血管内皮細胞にわずかなAlexaシグナルを認めるのみであった(図7B)。また、Alexa-ASO投与群では、脳梗塞大脳半球であっても脳血管内皮細胞の一部に弱いAlexaシグナルを認めるのみであった(図7Cおよび8D~F)。PBSを投与した陰性対照群では、脳梗塞大脳半球および非虚血大脳半球ともに脳切片上に明らかなAlexaシグナルは検出されなかった。
【0110】
Alexa-Toc-HDO投与群の脳梗塞部位において、Alexaシグナルは形態学的に、動脈、細動脈、毛細血管、軟膜、ならびに中枢神経に属する神経細胞および一部のグリア細胞に見られた(図7A)。
【0111】
また、図9Aの脳におけるオリゴヌクレオチド量に示されるように、脳梗塞大脳半球におけるAlexa-Toc-HDOの量は、Alexa-ASOよりも多く、さらに、非虚血大脳半球におけるAlexa-Toc-HDOの量よりも多かった。なお、図9Bの肝臓におけるオリゴヌクレオチド量に示されるように、肝臓におけるAlexa-Toc-HDOは、Alexa-ASOよりも多く、この結果は以前の報告(国際公開第2013/089283号)と一致した。
【0112】
これらの結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、一本鎖アンセンスオリゴヌクレオチドと比べて、脳梗塞部位へ非常に効率的に送達されること、そして、脳梗塞部位の動脈、細動脈、毛細血管、軟膜、ならびに中枢神経に属する神経細胞および一部のグリア細胞などの様々な細胞種に送達されることが示された。
【0113】
[実施例2]
(脳梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達のさらなる解析)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドが送達される脳梗塞部位を、血管内皮細胞マーカーおよび神経細胞マーカーを用いてより詳細に観察した。
【0114】
(方法)
実施例1に記載したように脳梗塞モデルマウスを作製し、脂質リガンド(トコフェロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Alexa-Toc-HDO)を脳梗塞モデルマウスに投与し、脳を摘出し、薄切切片を作製した。血管内皮細胞マーカーとして抗CD31抗体(rat anti-mouse CD31 antibody (1:50希釈、BD Pharmingen(商標)、BD Biosciences)もしくはrat anti-mouse CD31 antibody(1:50希釈、Santa Cruz Biotechnology))、神経細胞マーカーとして抗NeuN抗体(mouse anti-NeuN antibody(1:100希釈、EMD Millipore))を用いて切片に免疫染色を行った。それぞれの一次抗体に対応する、蛍光標識二次抗体(FITCまたはローダミン標識ヤギ抗体)はEMD millipore社から入手した。また、切片をDAPIで処理し、核を染色した。切片を蛍光顕微鏡にてAlexaシグナル、CD31もしくはNeuNシグナル、ならびに核について観察した。
【0115】
(結果)
Alexa-Toc-HDOを投与した脳梗塞モデルマウスの脳梗塞部位において、AlexaシグナルはCD31陽性の脳血管内皮細胞に観察され(図10A~C)、さらに中枢神経細胞である神経細胞(NeuN陽性細胞)にも観察された(図10D~F)。
【0116】
実施例1と2の結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、血液脳関門の細胞間隙の破綻のない、動脈閉塞3時間後という脳梗塞超急性期に投与された場合でも、脳梗塞部位選択的に脳血管に送達され、さらに血液脳関門を越えた神経細胞およびグリア細胞(脳実質内)にも送達され、また、その送達効率は一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して非常に優れていることが示された。
【0117】
[実施例3]
(脳梗塞モデルマウスにおける標的遺伝子発現の抑制)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドによる脳梗塞モデルマウスにおける標的遺伝子発現抑制効果を、アンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較して調べた。
【0118】
(方法)
蛍光色素であるAlexaFluor568が結合していないことを除いて実施例1で用いたものと同じLNA/DNAギャップマーASOを用意した。このASOを、実施例1で用いたToc-cRNA(トコフェロールが共有結合した相補的RNA鎖)にアニーリングさせることにより、脂質リガンド(トコフェロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Toc-HDO)を作製した。
【0119】
実施例1と同様のプロトコールで脳梗塞モデルマウスを作製し、動脈閉塞3時間後に、50mg/kgの用量のASOまたはToc-HDOを尾静脈から静脈内注射した。また、陰性対照群としてPBSのみ、またはシャッフルToc-HDOを脳梗塞モデルマウスに投与した。
【0120】
シャッフルToc-HDOは、Toc-HDOと同じ塩基組成および化学修飾を有するが、塩基配列が異なる二本鎖オリゴヌクレオチドである。シャッフルToc-HDOを構成する2つのオリゴヌクレオチドの配列および化学修飾を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
注射72時間後(動脈閉塞75時間後)に、マウスを安楽死させ、PBSにて灌流し、その後、解剖して臓器(大脳および肝臓)を摘出した。大脳を脳梗塞大脳半球と非虚血大脳半球に分けた。摘出した臓器からIsogen(株式会社ニッポンジーン(Nippon Gene)、東京、日本)を用いてRNAを抽出し、Transcriptor Universal cDNA Master(Roche Diagnostics)を用いてcDNAを合成し、Malat-1プライマー(NR_002847、Applied Biosystems (TaqMan Gene Expression Assays))を用いて、Light Cycler 480 Real-Time PCR Instrument(Roche Diagnostics)にて定量的RT-PCRを行い、マウスMalat-1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。また定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGapdh(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)プライマー(Thermo Fisher Scientific社、製品番号4352932E)を使用した。相対的Malat1-レベルを、Malat-1発現量をGapdh mRNA発現量に対して正規化することによって得た。
【0123】
また、同様に投与を行った別の脳梗塞モデルマウスを用意して、注射72時間後(動脈閉塞75時間後)にマウスを安楽死させ、PBSにて灌流した後に大脳を摘出した。大脳を4%PFAにより固定し、12μmの薄切切片を作製した。凍結切片上のMalat-1遺伝子をQuantiGene ViewRNA tissue assay (Affymetrix社、カタログ番号QVT0011)およびMalat-1プローブ(Affymetrix社、カタログ番号VB-11110-01/mouse)を用いたin situ hybridization法にて同定した。
【0124】
(結果)
図11(相対的Malat-1レベル)の白棒に示すように、非虚血大脳半球では、PBS投与群と比較して、ASO投与群およびToc-HDO投与群においてともに、Malat-1遺伝子発現の有意な低下を認めなかった(それぞれの群は5匹で検討)。一方で、図11(相対的Malat-1レベル)の黒棒に示すように、脳梗塞大脳半球では、Toc-HDO投与群のみで、PBS投与群と比較してMalat-1遺伝子発現が有意に低下した(*p<0.01)。
【0125】
図12AおよびBに示す脳梗塞病変部のMalat-1 in situ hybridizationでは、Malat-1遺伝子シグナルは主には脳血管内皮細胞および神経細胞に見られた。PBS投与群(図12A)およびASO投与群と比較して、Toc-HDO投与群(図12B)では脳梗塞部位の脳血管内皮細胞および神経細胞でMalat-1遺伝子シグナルは大幅に低下した。
【0126】
これらの結果から、経静脈投与した脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドにより、脳梗塞部位選択的に強い遺伝子抑制効果が実現できることが示された。
【0127】
[実施例4]
(脳梗塞の病態の変化)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドによって、脳梗塞の病態を変化させることができるかどうかを検討した。
【0128】
(方法)
実施例3と同様に脳梗塞モデルマウスを作製し、動脈閉塞3時間後に、50mg/kgの用量のToc-HDOを尾静脈から静脈内注射した。また、陰性対照群としてPBSのみ、またはシャッフルToc-HDOを脳梗塞モデルマウスに投与した。
【0129】
動脈閉塞4日後まで経時的にマウスの運動機能を評価した。運動機能は、右側に偏ったボディスウィング率(right-biased body swing rate (%))によって評価した。具体的には、マウスの尾部を持ちながらマウスを持ち上げ、体幹をどちらに屈曲させたかを1分間カウントし、全屈曲数に対する右への屈曲回数の割合を、右側に偏ったボディスウィング率(%)とした(Borlongan CV, Sanberg PR. Elevated body swing test: a new behavioral parameter for rats with 6-hydroxydopamine-induced hemiparkinsonism. J Neurosci. 1995; 15: 5372-5378を参照)。左大脳の脳梗塞を有するマウスは、反対側である右への体幹屈曲回数が多くなる。この率は、高いほど麻痺側の運動機能が不良であることを示す。
【0130】
また、動脈閉塞4日後にマウスの脳血流を測定した。脳血流は、ベースライン(術前)に対する割合(%)として表した。
【0131】
その後、実施例3と同様の方法でマウス大脳から20μmの薄切切片を作製し、脳梗塞体積を定量し比較した。脳全体に対する脳梗塞体積の割合(%)を算出した。
【0132】
(結果)
脳梗塞体積はPBS投与群およびシャッフルToc-HDO投与群(陰性対照)と比較して、Toc-HDO投与群で有意に増加した(図13A、**p<0.01)。
【0133】
Toc-HDO投与群では脳血流が有意に低下し(図13B、*p<0.05)、運動機能が有意に悪化した(図13C、*p<0.05)。
【0134】
これらの脳梗塞の病態の悪化は、Malat-1遺伝子ノックアウトマウスに脳梗塞を生じさせた過去の報告(Zhang X, et al., Long Noncoding RNA Malat1 Regulates Cerebrovascular Pathologies in Ischemic Stroke. J Neurosci. 2017;37(7):1797-1806)と同様の変化であった。
【0135】
実施例1~4の結果から、脳梗塞超急性期に経静脈的に投与した脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、脳血管および脳実質内に送達され、標的遺伝子発現を強く抑制するとともに、脳梗塞の病態をも変化させることが可能であることが示された。Malat-1とは反対に、発現抑制により疾患改善効果をもたらす遺伝子を標的とすることにより、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、脳梗塞等の虚血性疾患を治療できることが示唆された。
【0136】
[実施例5]
(心筋梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドの心筋梗塞部位への送達性を、従来のアンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較した。
【0137】
(方法)
8~10週齢のマウス(C57BL/6、雄、三協ラボサービス株式会社)を用いて次のように心筋梗塞モデルを作製した。イソフルラン3~4%吸入により麻酔後、マウスの気管に経口挿管カニューレを挿入し、カニューレを小動物人工呼吸器に接続して呼吸管理を行った。マウスの前胸部を1cm程度切開し、肋間スペースから開創器により胸腔および心臓を露呈させた。冠動脈左前下行枝上の中枢部にシリコンチューブを留置し、同血管(冠動脈左前下行枝)およびシリコンチューブを縫合糸で結紮し、心電図でのST異常(ST部分の異常)を確認しながら左前下行枝の虚血状態を維持した。60分間の虚血後、シリコンチューブを抜去し再灌流を施行した。止血を確認し、皮膚縫合を行った後、自発呼吸を確認後に抜管した。
【0138】
再灌流直後のマウスに、10mg/kgの用量の、実施例1で用いたAlexa-ASOまたはAlexa-Toc-HDOを尾静脈から静脈内注射した。注射3時間後にマウスを安楽死させ、PBSにて灌流した後に、解剖して心臓を摘出した。摘出した心臓を液体窒素で冷却したイソペンタンに浸漬し、急速凍結固定した。心臓から20μmの薄切切片を作製した。切片をDAPIで処理し、核を染色した。切片を蛍光顕微鏡にてAlexaシグナルおよび核について観察した。
【0139】
(結果)
Alexa-Toc-HDO投与群の心筋梗塞部位では全域にわたって非常に強いAlexaシグナルが検出された(図14A)。一方、Alexa-ASO投与群の心筋梗塞部位では弱いAlexaシグナルが認められるのみであったが(図14B)。また、正常心筋では、Alexa-ASO投与群およびAlexa-Toc-HDO投与群(図14C)ともに弱い点状のAlexaシグナルが見られるのみであった。
【0140】
この結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、一本鎖アンセンスオリゴヌクレオチドと比べて、心筋梗塞部位へ効率的に送達され、その送達は虚血部位選択的であることが示された。
【0141】
[実施例6]
(心筋梗塞部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達のさらなる解析) 脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドが送達される心筋梗塞部位を、血管内皮細胞マーカーを用いてより詳細に観察した。
【0142】
(方法)
実施例5に記載したように心筋梗塞モデルマウスを作製し、Alexa標識した脂質リガンド(トコフェロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Alexa-Toc-HDO)を心筋梗塞モデルマウスに投与し、心臓を摘出し、薄切切片を作製した。
【0143】
実施例2と同様に血管内皮細胞マーカーとして抗CD31抗体を用いて切片に免疫染色を行った。切片をDAPIで処理し、核を染色した。切片を蛍光顕微鏡にてAlexaシグナル、CD31シグナルおよび核について観察した。
【0144】
(結果)
Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの非梗塞部位では、一部の血管内皮細胞のみにAlexaシグナルが見られた(図15A~C)。一方、Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの心筋梗塞部位では、血管内皮細胞だけでなく心筋内にも強いAlexaシグナルが見られた(図15D~F)。また、Alexa-Toc-HDOを投与した心筋梗塞モデルマウスの心筋梗塞部位では、心拍を司る特殊心筋(図16A~C)、ならびに、血管内皮細胞だけでなく冠動脈などの太い動脈の内皮細胞(冠動脈内皮細胞)および平滑筋細胞にも強いAlexaシグナルが見られた(図16D~F)。
【0145】
これらの結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、心筋梗塞部位の血管内皮細胞、さらに血管を超えた心筋、ならびに特殊心筋、冠動脈内皮細胞および平滑筋細胞へも効率的に送達されることが示された。
【0146】
[実施例7]
(下肢閉塞性動脈硬化症モデルの下肢虚血部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドが下肢閉塞性動脈硬化症モデルの下肢虚血部位へ送達されるかどうかを、従来のアンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較して調べた。
【0147】
(方法)
8~10週齢のマウス(BALB/c、雄、三協ラボサービス株式会社)を用いて、次のように下肢閉塞性動脈硬化症モデルを作製した。イソフルラン3~4%吸入により麻酔導入後、イソフルラン2~2.5%で麻酔を維持し、右大腿部を約1cm切開し、鼠経靭帯直下において大腿動脈を大腿静脈および大腿神経から分離し、大腿動脈の近位と遠位の2カ所ならびにその間の分枝を2カ所の合計4カ所を結紮し、大腿動脈を切除した。その後、止血を確認して皮膚縫合を行い、下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスを作製した。
【0148】
結紮術(虚血)3時間後に、下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスに、10mg/kgの用量のAlexa-ASOまたはAlexa-Toc-HDOを尾静脈から静脈内注射した。本実施例で用いたAlexa-ASOおよびAlexa-Toc-HDOは、蛍光色素AlexaFluor568の代わりにAlexaFluor647を用いたことを除いて、実施例1に記載したAlexa-ASOおよびAlexa-Toc-HDOとそれぞれ同じである。
【0149】
注射3時間後にマウスを安楽死させ、PBSにて灌流した後に、解剖して下肢骨格筋を摘出した。右側の下肢骨格筋を虚血下肢骨格筋とし、左側の下肢骨格筋を非虚血(健常)下肢骨格筋とした。摘出した下肢骨格筋を液体窒素で冷却したイソペンタンに浸漬し、急速凍結固定した。下肢骨格筋から20μmの薄切切片を作製した。切片をDAPIで処理し、核を染色し、蛍光顕微鏡にてAlexaシグナルおよび核について観察した。また、結紮術(虚血)3時間後のマウスの虚血下肢骨格筋および非虚血(健常)下肢骨格筋から20μmの薄切切片を作製し、切片をヘマトキシリン・エオシン(HE)で染色し、顕微鏡で観察した。
【0150】
(結果)
図17AおよびBのHE染色標本に示されるように、健常下肢骨格筋(図17A)と比べて、虚血下肢骨格筋(図17B)では、軽度の筋繊維の円形化や核成分の増加が見られ、大腿動脈の結紮術により下肢閉塞性動脈硬化症モデルが作製できたことが確認された。
【0151】
Alexa-Toc-HDO投与群の虚血下肢骨格筋では非常に強いAlexaシグナルが内皮細胞だけでなく骨格筋細胞および神経線維にも観察された(図18A)。一方、Alexa-Toc-HDO投与群の非虚血下肢骨格筋では、血管内皮細胞に弱いAlexaシグナルが見られるのみであった(図18B)。また、Alexa-ASO投与群では虚血下肢骨格筋であっても一部の内皮細胞に点状のAlexaシグナルが認められるのみであった(図18C)。
【0152】
これらの結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、一本鎖アンセンスオリゴヌクレオチドと比べて下肢虚血部位へ効率的に送達され、その送達は虚血部位選択的であることが示された。
【0153】
[実施例8]
(下肢虚血部位への脂質リガンド結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達のさらなる解析) 脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドが送達される下肢虚血部位を、血管内皮細胞マーカーを用いてより詳細に観察した。
【0154】
(方法)
実施例7に記載したように下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスを作製し、Alexa標識した脂質リガンド(トコフェロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Alexa-Toc-HDO)を下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスに投与し、虚血下肢骨格筋を摘出し、薄切切片を作製した。
【0155】
実施例2と同様に血管内皮細胞マーカーとして抗CD31抗体を用いて切片に免疫染色を行った。また、切片をDAPIで処理し、核を染色した。切片を蛍光顕微鏡にてAlexaシグナル、CD31シグナルおよび核について観察した。
【0156】
(結果)
Alexa-Toc-HDOを投与した下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスの虚血下肢骨格筋では、血管内皮細胞にAlexaシグナルが観察され、さらには骨格筋にもAlexaシグナルが観察された(図19A~D)。この結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、下肢虚血部位の血管内皮細胞、さらに血管を超えた骨格筋へも効率的に送達されることが示された。
【0157】
[実施例9]
(下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスにおける標的遺伝子発現の抑制)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドによる下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスにおける標的遺伝子発現抑制効果を、アンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較して調べた。
【0158】
(方法)
実施例3で用いた蛍光色素が結合していないLNA/DNAギャップマーASO、および脂質リガンド(トコフェロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Toc-HDO)を本実施例で用いた。
【0159】
実施例7と同様のプロトコールで下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスを作製し、動脈閉塞3時間後に、10mg/kgの用量のASOまたはToc-HDOを尾静脈から静脈内注射した。注射72時間後(動脈閉塞75時間後)に、マウスを安楽死させ、PBSにて灌流し、その後、虚血下肢骨格筋を摘出した。摘出した虚血下肢骨格筋からRNAを抽出し、実施例3と同様に定量的RT-PCRによってMalat-1遺伝子の発現量を定量した。相対的Malat-1レベルを、Malat-1発現量をGapdh mRNA発現量に対して正規化することによって得た。
【0160】
(結果)
虚血下肢骨格筋において、Toc-HDO投与群では、ASO投与群と比較してMalat-1遺伝子発現が大きく低下した(図20)。この結果から、脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドにより、一本鎖アンセンスオリゴヌクレオチドと比べて下肢虚血部位において強い遺伝子抑制効果が実現できることが示された。
【0161】
[実施例10]
(脂質受容体の脳梗塞急性期における増加)
脂質が結合する受容体が虚血病態(特に脳梗塞急性期)で増加するかどうかを調べた。
【0162】
(方法)
実施例1に記載したように脳梗塞モデルマウスを作製し、血管閉塞3、6、9および15時間後、ならびに1日後(各群n=4)に、マウスをPBSにて灌流した後に、解剖して虚血側(脳梗塞)大脳半球を摘出した。虚血側大脳半球において、生体内で主要な脂質受容体(LDLR(low density lipoprotein receptor)、SRBI(scavenger receptor class B type I)、およびLRP1(LDL receptor-related protein-1))のmRNA発現量およびタンパク質量を測定した。
【0163】
mRNA発現量は、実施例3と同様の定量的RT-PCRで測定し、非虚血群(偽手術群)と比較した。用いたPCRプライマーは、TaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems)のマウスLDLR(Mm00440169_m1)、SRB1(Mm00450234_m1)およびLRP1(Mm00464608_m1)とした。
【0164】
タンパク質量は、次のように測定した。摘出脳をホモジネートし、Pierce BCA Protein Assay kit (Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いてタンパク質濃度を測定し、精製したタンパク質を、SDSポリアクリルアミドゲル(アトー株式会社(ATTO Corporation)、東京、日本)で電気泳動し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。ウサギ抗LDLR抗体(ab30532、Abcam)、ウサギ抗SRB1抗体(ab217318、Abcam)、またはウサギ抗LRP1抗体(ab92544、Abcam)を一次抗体として用いてウエスタンブロッテイング法にてバンドを検出し、検出されたバンドをChemiDoc Touch Imaging System(Bio-Rad Laboratories)で定量した。また、抗β-アクチン抗体(1:2000希釈、和光純薬株式会社、大阪、日本)を内在性コントロールの一次抗体として使用した。
【0165】
(結果)
図21A~Cに示すように、LDLR、SRBIおよびLRP1はいずれも、虚血24時間以内の超急性期の脳において、正常脳(偽手術)と比較してmRNAレベルで顕著に増加した(図21、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。また、図22に示すように、LDLRおよびSRBIはいずれも、虚血6時間後の脳において、非虚血大脳半球(偽手術)と比較して、タンパク質レベルでも顕著に増加した。血液脳関門の物理的な破綻が見られないタイミングである脳梗塞超急性期(特に、発症から12時間以内)に脂質受容体発現が増加することは、これまでに報告がなく、初めての発見である。
【0166】
[実施例11]
(脂質受容体の発現が増加する細胞種の同定)
実施例10に示されたように脂質受容体の発現が増加する細胞種を、血管内皮細胞マーカーおよび神経細胞マーカーを用いて同定した。
【0167】
(方法)
実施例1に記載したように脳梗塞モデルマウスを作製し、6時間後にマウスをPBSにて灌流した後に、解剖して大脳を摘出した。非虚血マウス(偽手術マウス)からも同様に大脳を摘出した。摘出した大脳を4%PFAで固定し20μmの薄切切片を作製した。一次抗体として抗LDLR抗体、抗SRBI抗体または抗LRP1抗体と、抗CD31抗体(血管内皮細胞マーカー)または抗NeuN抗体(神経細胞マーカー)との組み合わせを用いて切片を免疫組織染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。抗LDLR抗体、抗SRBI抗体および抗LRP1抗体は実施例10に記載されている。抗CD31抗体および抗NeuN抗体は実施例2に記載されている。
【0168】
(結果)
LDL受容体(LDLR)の免疫染色の結果、非虚血脳(偽手術)ではLDL受容体の発現はほとんど見られないが(図23A)、脳梗塞6時間後(脳梗塞超急性期)の脳ではLDL受容体の発現が亢進していた(図23D)。LDL受容体の発現増加は、主にCD31陽性の血管内皮細胞(図23D~F)、および脳実質内の神経細胞で目立って見られた。
【0169】
SRBIの免疫染色では、非虚血脳(偽手術)ではSRBIの発現はほとんどみられないが(図24A)、脳梗塞6時間後(脳梗塞超急性期)の脳ではSRBIの発現が亢進していた(図24D)。SRBIの発現は主にCD31陽性の血管内皮細胞が中心であった(図24D~F)。
【0170】
LRP1の免疫染色の結果、非虚血脳(偽手術)ではLRP1は点状のシグナルを示すのみであった(図25A)。脳梗塞6時間後(脳梗塞超急性期)の脳ではLRP1の発現が亢進していた(図25D)。LRP1の発現は主にNeuN陽性の神経細胞が中心であった(図25D~F)。
【0171】
以上のことから、脳梗塞急性期において、脂質受容体の発現が脳血管内皮細胞および神経細胞で増加することが示された。
【0172】
[実施例12]
(LDL受容体ノックアウトマウスを用いた脳梗塞超急性期の血管透過性の検討)
LDL受容体(LDLR)ノックアウトマウスで脳梗塞を生じさせ、脳梗塞超急性期の血管透過性を検討した。
【0173】
(方法)
LDL受容体ノックアウトマウス(C57BL/6J; B6.129S7-Ldlr (tm1Her)/J (Ldlr-/-) mice (Jackson Laboratory, ME, USA); Ishibashi S, et al., Hypercholesterolemia in low density lipoprotein receptor knockout mice and its reversal by adenovirus-mediated gene delivery. J Clin Invest. 1993;92(2):883-93を参照)および正常C57BL6Jマウス(野生型)を用いて、実施例1に記載したように脳梗塞モデルを作製した。脳梗塞モデル作製3時間後に、エバンスブルー(和光純薬工業株式会社、054-04062)を生理的食塩水で希釈した2%エバンスブルー溶液を尾静脈よりマウスに注射(4ml/kg)した。注射後3時間(脳梗塞6時間後)に4%PFAでマウスを灌流固定し、脳を摘出した。脳の側面の写真を撮影した。その後、摘出脳を2mmの厚さで薄切し実体顕微鏡で撮像後にエバンスブルー陽性の領域を定量した。
【0174】
(結果)
脳のエバンスブルー陽性領域は、血管透過性が亢進している領域を示す。図26Aの写真およ図26Bのグラフに示すように、正常マウスでは、エバンスブルー陽性領域は閉塞した中大脳動脈領域全域に広く分布していたが、LDL受容体ノックアウトマウスでは、同領域は顕著に縮小していた(図26B、**p<0.01)。
【0175】
この結果から、脳梗塞超急性期の脳実質内へのデリバリー能力は脂質受容体をノックアウトしたマウスでは減少し、それゆえ、血液脳関門が破綻していない脳梗塞超急性期の血管透過性の亢進にはLDLRなどの脂質受容体が重要な働きを担っていることが示された。
【0176】
実施例10~12の結果から、脳梗塞超急性期において脂質受容体の発現が脳血管内皮細胞および脳実質の神経細胞で増加すること、ならびに脂質受容体が脳梗塞超急性期の血管透過性の亢進を担っていることが示された。このことから、脂質結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドは、脂質受容体を介して経細胞経路(transcellular pathway)で脳血管内皮細胞および脳実質内に効率的に送達されるメカニズムが示唆された。
【0177】
[実施例13]
(下肢閉塞性動脈硬化症モデルにおける脂質受容体の増加)
実施例10~12に示された脳梗塞以外の虚血病態での脂質受容体の発現変化を、下肢閉塞性動脈硬化症モデルで検討した。
【0178】
(方法)
実施例7に記載したように下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスを作製し、3時間後にマウスをPBSにて灌流した後に、解剖して虚血側骨格筋を摘出した。非虚血マウス(偽手術マウス)からも同様に骨格筋を摘出した。実施例10に記載したように、LDLR、SRBIおよびLRP1のmRNA発現量を定量的RT-PCRで測定し、非虚血群(偽手術群)と比較した。
【0179】
(結果)
LDL受容体(LDLR)、SRBI、およびLRP1のmRNA発現量は、下肢閉塞性動脈硬化症モデルでも実施例10の脳梗塞モデルと同様に顕著に増加した(図27、***p<0.001)。このことから、脂質受容体の増加は虚血病態に特徴的な変化であることが示された。よって、実施例12に記載した、脂質結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドの脂質受容体を介した虚血部位への送達メカニズムは、下肢閉塞性動脈硬化症モデルにも該当することが示唆された。
【0180】
[実施例14]
(脳梗塞部位へのコレステロール結合型二本鎖オリゴヌクレオチドの送達)
コレステロールが結合したヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドの脳梗塞部位(虚血病変)への送達性を、従来のアンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)等と比較した。
【0181】
(方法)
実施例1に記載したように脳梗塞モデルマウスを作製し、動脈閉塞3時間後に5つの群(各群n=4)に無作為に分けて、それぞれPBS、または50mg/kgのASO、HDO、Toc-HDO、またはCho-HDOを尾静脈より投与した。
【0182】
ASOおよびToc-HDOは実施例1に記載のものと同じものを調製し、HDOは、5'末端にトコフェロールが結合していないことを除いて実施例1に記載のToc-HDOと同じものを、実施例1に記載の方法に準じて調製した。
【0183】
Cho-HDOの作製方法は以下の通りである。まず、実施例1に記載のLNA/DNAギャップマーASOの5'末端にAlexaFluor568が共有結合したASO(Alexa-ASO)を作製した。続いて、実施例1に記載のToc-cRNAについて、cRNAの5'末端にトコフェロールの代わりにコレステロールを結合させた相補的RNA鎖(Cho-cRNA)を作製した。作製したAlexa-ASOとCho-cRNAを、実施例1に記載の方法に従ってアニーリングさせることにより、Alexa標識された脂質リガンド(コレステロール)結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチド(Cho-HDO)を作製した。動脈閉塞3日後に、Malat-1 RNAの発現量を実施例3に記載の方法に従って定量的RT-PCRで測定し、遺伝子抑制効果を比較した。
【0184】
(結果)
PBSの虚血側大脳半球を対象とした場合の遺伝子抑制効果を図28に示す(**p<0.01)。図28に示される通り、ASOおよび脂質リガンドのないHDOでは、優位な遺伝子抑制効果を示さなかった。これに対し、Toc-HDOおよびCho-HDOは優位な遺伝子抑制効果を示し、特にコレステロールを用いた場合に、最も高い効果が認められた。
この結果は、脂質リガンドのないHDOは、ASOと同様に中枢神経系での遺伝子抑制効果が乏しいが、TocやChoなどの脂質リガンドを結合させると、その抑制効果が著しく上昇することを示している。
【0185】
[実施例15]
(LDL受容体ノックアウトマウスを用いた脳梗塞超急性期の遺伝子抑制効果の検討)
脂質リガンド結合HDOの虚血側大脳半球へのデリバリーにLDL受容体が介しているか否かを、LDL受容体ノックアウトマウスを用いて調べた。
【0186】
(方法)
実施例12に従って、LDL受容体ノックアウトマウス(C57BL/6J)および正常C57BL6Jマウス(WT)を用いて、脳梗塞モデルを作製した。動脈閉塞3時間後に、実施例14で作製したToc-HDO 50mg/kg投与を尾静脈より投与し、動脈閉塞3日後に、Malat-1 RNAの発現量を実施例3に記載の方法に従って定量的RT-PCRで測定し、遺伝子抑制効果を比較した(各群n=4)。
【0187】
(結果)
図29に示す通り、虚血側大脳半球ではToc-HDOによるMalat-1遺伝子の抑制効果が認められるが、LDL受容体ノックアウト(LDLR KO)マウスでは、その遺伝子抑制効果が優位に減弱していた(*p<0.05)。
この結果は、脂質リガンド結合HDOの虚血側大脳半球へのデリバリーに、LDL受容体が関与していることを示唆している。
【0188】
[実施例16]
(心筋梗塞モデルにおけるトコフェロール結合HDOのデリバリー効果の検討)
トコフェロール結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドが心筋梗塞モデルの虚血部位へ送達されるかどうかを、従来のアンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較して調べた。
【0189】
(方法)
実施例5に記載したように心筋梗塞モデルを作製し、1時間後に実施例1に従って調製したAlexa-ASO 10mg/kg、またはAlexa-Toc-HDO 10mg/kgを尾静脈より投与し、その3時間後に組織へのデリバリー効率を、実施例1に記載の方法に従ってAlexaの蛍光強度で定量的に比較した(各群n=3)。
【0190】
(結果)
図30に示す通り、心筋梗塞モデルマウスの非梗塞部位では、ASOと比較してToc-HDOでデリバリー効率が若干の改善が認められた(*p<0.05、***p<0.001)。虚血部位では、ASOと比較してToc-HDOで5倍以上のデリバリー効率の改善を認められた。肝臓では、Toc-HDOのデリバリー効率は、ASOと比較して2倍程度改善していた。
この結果は、脂質リガンド結合型HDOでは、虚血部位選択的、特異的に送達されることを示している。これは、実施例6で示したAlexa-Toc-HDOの心筋梗塞への効率的な送達を示す組織学的な検討結果と一致する。
【0191】
[実施例17]
(心筋梗塞モデルマウスでのMalat-1 RNA発現抑制効果の比較)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドによる心筋梗塞モデルマウスにおける標的遺伝子発現抑制効果を、アンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較して調べた。
【0192】
(方法)
実施例5に記載したように心筋梗塞モデルを作成し、1時間後に5つの群(各群n=4)に無作為に分けて、それぞれPBS、または10mg/kgのASO、HDO、Toc-HDO、またはCho-HDOを尾静脈より投与した。ASO、HDO、Toc-HDO、およびCho-HDOの作製方法は実施例14に従った。心筋梗塞モデルマウス作製3日後に、Malat-1 RNAの発現量を実施例3に記載の方法に従って定量的RT-PCRで測定し、遺伝子抑制効果を比較した。
【0193】
(結果)
図31に示す通り、心筋梗塞モデルマウスにおいても、ASOと比較しToc-HDO、Cho-HDOで強い遺伝子抑制効果を認めたが、その抑制効果は特にCho-HDOで優れていた(*p<0.05、**p<0.01)。中枢神経と異なり、10mg/kgの投与量(脳は50mg/kg)で十分な抑制効果を示した。
【0194】
[実施例18]
(脂質受容体の心筋梗塞における増加)
脂質が結合する受容体が心筋梗塞で増加するかどうかを調べた。
【0195】
(方法)
実施例5に記載したように心筋梗塞モデルマウスを作製し、3日後にLDLR、LRP1、およびSRBIのmRNAを実施例10に記載の方法に従って定量的RT-PCRで解析した。虚血のない部位、梗塞周辺部位、梗塞部位の3箇所で解析した。
【0196】
(結果)
図32に示す通り、非虚血部位と比較して、梗塞周辺部位、梗塞部位ではそれぞれ有意にすべての脂質受容体の発現が増加していた(*p<0.05、**p<0.01)。
脳梗塞モデルと同様に、心筋梗塞モデルの虚血部位では脂質受容体の高い発現が認められ、これは脂質結合型HDOのデリバリー効率が虚血部位で増加することと関連している可能性がある。
【0197】
[実施例19]
(下肢閉塞性動脈硬化症モデルでのMalat-1 RNA発現抑制効果の比較)
脂質リガンド結合型ヘテロ二本鎖オリゴヌクレオチドによる下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスにおける標的遺伝子発現抑制効果を、アンセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と比較して調べた。
【0198】
(方法)
実施例7に記載したように下肢閉塞性動脈硬化症モデルを作製し、3時間後に5つの群(各群n=4)に無作為に分けて、それぞれPBS、または10mg/kgのASO、HDO、Toc-HDO、またはCho-HDOを尾静脈より投与した。ASO、HDO、Toc-HDO、およびCho-HDOの作製方法は実施例14に従った。下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウス作製3日後に、Malat-1 RNAの発現量を実施例3に記載の方法に従って定量的RT-PCRで測定し、遺伝子抑制効果を比較した。
【0199】
(結果)
図33に示す通り、下肢閉塞性動脈硬化症モデルマウスにおいても、ASOと比較しToc-HDO、Cho-HDOで強い遺伝子抑制効果を認めたが、その抑制効果は特にCho-HDOで優れていた(*p<0.05、**p<0.01)。中枢神経と異なり、10mg/kgの投与量(脳は50mg/kg)で十分な抑制効果を示した。
【0200】
[実施例20]
(脂質受容体の下肢閉塞性動脈硬化症モデルにおける発現)
下肢閉塞性動脈硬化症モデルにおける脂質受容体の発現増加を、免疫蛍光染色によって確認した。
【0201】
(方法)
実施例7に記載したように下肢閉塞性動脈硬化症モデルを作製し、本モデルにおけるLDLRSRBI発現を実施例11に記載の方法に従って免疫蛍光染色によって確認した。
【0202】
(結果)
図34に示す通り、虚血部位(A)では、正常部位(B)に対し、特にCD31陽性の血管内皮細胞でLDLRおよびSRBIの発現が上昇していた。これは脂質結合型HDOのデリバリー効率が虚血部位で増加することと関連している可能性がある。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図30
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図34-1】
図34-2】
【配列表】
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