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▶ ナショナル・ユニバーシティ・オブ・アイルランド・ゴルウェイの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ターゲット材料を処理する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20231004BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231004BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L29/78 627G
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020515236
(86)(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074649
(87)【国際公開番号】W WO2019053082
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】1714802.4
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】506333923
【氏名又は名称】ナショナル・ユニバーシティ・オブ・アイルランド・ゴルウェイ
【氏名又は名称原語表記】National University of Ireland Galway
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オコナー、ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ファリッド、ナザール
(72)【発明者】
【氏名】ダス ガプタ、ピナキ
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-199368(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0025541(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0127560(US,A1)
【文献】特開2009-135501(JP,A)
【文献】特開2011-003666(JP,A)
【文献】特開2006-295097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット材料を処理する方法であって、
多層構造体を放射線ビームで照射するステップを含み、
前記多層構造体が、前記ターゲット材料を含むターゲット層、および前記ターゲット材料を含まない追加層を有し、
前記追加層が金属であり、
前記ターゲット層が、前記多層構造体の照射中に前記追加層を通して照射され、
前記放射線ビームは、前記多層構造体の照射中に、一部が前記追加層を通過して前記ターゲット層に到達して、前記ターゲット層および前記追加層にエネルギーを蓄積することにより、前記放射線ビームはエネルギーを前記ターゲット層および前記追加層に移転し、
前記放射線ビームから前記ターゲット層および前記追加層へのエネルギーの移転により、前記ターゲット層内に熱誘起変化が引き起こされ、前記熱誘起変化が前記ターゲット材料内の結晶成長を含み、
前記多層構造体の照射によって、前記ターゲット材料に前記熱誘起変化が発生した後に、少なくとも前記追加層の照射された部分の、前記ターゲット層からの剥離が引き起こされる、方法。
【請求項2】
前記放射線ビームによる照射中に前記ターゲット材料のいずれの部分も溶融相に入ることなく前記熱誘起変化が実現するように、前記放射線ビームのフルエンスが選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放射線ビームによる照射の少なくとも一部の期間に前記ターゲット材料の少なくとも一部が溶融状態に入るように、前記放射線ビームのフルエンスが選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記追加層の厚さが200nm未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記放射線ビームがパルス状レーザービームである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記放射線ビームの単一のパルスが、前記ターゲット材料内で結晶成長を引き起こす、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記放射線ビームのパルスの持続時間が1ns未満である、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記パルス状レーザービームがIRまたは可視放射線を含む、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
結晶成長が促進されるべき前記ターゲット材料の各領域に複数のパルスが加えられ、前記各領域において、前記複数のパルスの第1のパルスが結晶成長を引き起こし、前記複数のパルスの後のパルスがさらなる結晶成長を引き起こす、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ターゲット材料がアモルファスシリコンを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ターゲット材料が透明の導電性材料を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ターゲット材料が、インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ターゲット材料が誘電性材料を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ターゲット材料が金属または金属酸化物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記追加層がモリブデンまたはタングステンを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ターゲット材料がアモルファスシリコンを含み、前記追加層がモリブデンまたはタングステンを含み、前記放射線ビームの単一のパルスによって与えられるフルエンスが、50~125mJcm-2の範囲である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット材料を処理して、結晶成長または一様性改善などの熱誘起変化をターゲット材料に発生させることに関する。本発明は、具体的には、ディスプレイなどの電子装置の製造中に半導体材料を処理することに関するが、他の材料にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
金属または半導体の材料を処理して結晶成長を促進し、それによって電気特性を改善することが知られている。例えばクリスタリットのサイズを増大させると、材料が完全に規則的な単結晶に近づくので、通常、キャリア移動度が増大する(それによって電気抵抗率が減少する)。結晶成長を促す技法では、原子の拡散によって原子の再配置を促すため、および/または、以前は存在しなかったところに結晶相を核形成させるために、エネルギーを提供する必要がある。そのような技法ではまた、処理中に、透明度など(例えばディスプレイまたはPVの用途の場合)の他の属性を維持する必要もある。
【0003】
広範囲の電子装置で、薄膜トランジスタの活性層および/またはドープ層として、多結晶シリコン(ポリシリコン:poly-Si)が使用されている。poly-Siは、例えば、LCDまたはAMOLEDなどのディスプレイのTFTに使用されることがある。TFTは、ソース、ドレーン、およびゲートから成る。ディスプレイ装置に組み込む場合、poly-Siのゲート材料は高い導電性をもつ必要がある。別の用途として太陽電池(PVセル)があり、この場合は、光発電される電荷を効率的に抽出するために、結晶化度が高く、透明度の高い層が必要である。
【0004】
poly-Siは、処理に伴う比較的高い温度(300℃以上)に基板(例えば、ガラス)が対応できる場合には、アモルファスシリコン(a-Si)の固相結晶化によって形成することができる。可撓性スクリーン上のデジタルディスプレイの製造に必要なことのあるプラスチック基板などの他の基板の場合、または、結晶化されるa-Siの近傍に温度に敏感な他の構成要素が存在する場合には、別の技法が必要になる。
【0005】
最近開発されたひとつの手法はレーザー結晶化で、この手法では、短くて高強度なUVレーザーパルスを使用して、基板および/または温度に敏感な周囲の構成要素を溶解または破損させることなく、シリコンの融点より高い温度にまでa-Siを熱する。この処理には、スーパーラテラル成長(SLG)およびシーケンシャルラテラル固化(SLS)として知られる処理が組み込まれている。レーザーパルスが材料に吸収され、その結果、加熱によってアモルファス固体から溶融状態へと相に変化が起こり、続いて急速な冷却によって多結晶材料が形成される。レーザーパルスの期間および、熱に影響される区域のサイズは、慎重に制御しなければならない。結晶ドメインが核形成されるようにするためには、アモルファス材料の温度を有意に上昇させなければならない。例えば、a-Siの結晶化エンタルピーは、600~800℃の範囲の「バルク」結晶化温度の報告では、約11.95kJ/molである。SLGおよびSLSは、この局所的な温度を作り出すため、および、急速冷却時に方向性をもつ結晶を作るために最適化された処理である。溶融シリコンの冷却を制御することによって、クリスタリットのサイズの範囲を制御できるようにしながらpoly-Siを形成することが可能である。
【0006】
長年にわたり、poly-Si材料の結晶化度を改善するため(すなわち、a-Siをpoly-Siに変換するため)に、エキシマレーザー光源が使用されてきた。レーザーは、可視波長では透過性であるシリコンにエネルギーを結合するように、UV領域の308nmで動作する。ロングラインビーム(例えば、750mmx0.030mm)が使用される。ロングラインビームによって、第10世代(G10)シート(2880mmx3130mm)までの大面積デイスプレイ(TV、パブリックスクリーンなど)を、最高速で確実にカバーすることができる。エキシマレーザーは繰り返し周波数が低い(300~600Hz)ので、再結晶化を効果的に実施するには、各位置に、通常、おおよそ20個のレーザーパルスが必要である。これにより、処理の速度が制限される。また、各トランジスタを確実に同じ程度に焼鈍するために、ビームの一様性を高く維持する必要がある。一般的なG10パネル全体には、約10億個のTFTが分散配置される可能性がある。
【0007】
エキシマベースのレーザー誘起結晶化処理を支援するために、保温層が備わることがある。そのような保温層は、シリコンの酸化物および窒化物などの誘電性材料を含む。それらの材料は、結晶化されるアモルファス層に隣接して堆積される。保温層は通常、おおよそ1マイクロメートル以上の厚みを有する。保温層は、レーザー誘起結晶化処理の期間全体にわたって材料に取り付けられたままとなる。結晶化される層に誘電層が直接隣接するレーザー誘起結晶化処理を、保温層の役割をするパターン形成された誘電層を使用して、優先的に支援することもできる。誘電層を使用するのは、金属層は、この状況では結晶化処理を抑制すると考えられているからである。
【0008】
エキシマレーザーの安価な代替として、10kHzで動作するマルチモードのグリーンレーザーを使用する代替技法が提案されているが、こうした代替技法は産業界で広く採用されてはいない。
【0009】
ひとつの代替手法に金属誘起結晶化(MIC)があり、この手法では、結晶化処理の触媒の役割をするアルミニウム、金、または銀などの金属膜にa-Siを接触させながら焼鈍することによって、a-Si薄膜を140℃という低温で結晶化することができる。MIC処理に必要な焼鈍は一般に、肉眼的に適用され、レーザー結晶化に関連する加熱よりもかなり長い時間維持される。焼鈍を行う際に、レーザーは使用されない。
【0010】
MICは一般に、1)アモルファス材料の結合を金属との界面で弱化させ、これによって界面でのアモルファス原子の移動性を向上させることと、2)アモルファス原子の移動のための高速で短絡的な拡散経路を提供する界面効果と、3)界面での結晶成長をさらに促進する界面熱力学とを伴う。
【0011】
現在、a-Siのためには2種類のMIC処理が存在する。
【0012】
これらのMIC処理の1つは、例えば、a-Si上の触媒層として結晶アルミニウムが使用される場合に行われる。シリコン原子は、140℃を超える温度で、アルミニウムの高角度結晶粒界と優先的にウェットインタフェースを行う。ウェットa-Si層の臨界膜厚に到達すると、poly-Si結晶体が核形成される。アルミニウム層に圧縮応力が生じ、a-Si層に引張応力が生じる。伸張性の材料には、さらに多くの原子を収容する空間があるので、この応力の勾配によって拡散過程が促され、その結果、アルミニウム層からのアルミニウム粒がa-Si層の中に広がる。こうしたアルミニウム噴流は、a-Si内で発達するにつれて対流性の力を受け、それにより、確実に表面に向かって伝播する。この効果によって固体イオン交換が起こり、その結果、金属の下側に結晶シリコン相が形成される。この処理の全てのステップは、低温で行うことができる。
【0013】
2つ目のMIC処理では、周囲の領域に対する格子不整合を最小限に抑えた、金属と半導体の複合体が形成される。一例として、a-Si層上のニッケル層を加熱するとき、結晶ニッケルとa-Siの界面にNiSiが形成される。NiSi相から結晶シリコンが沈殿し、a-Si材料に移行する。その結果、結晶Siの針状結晶構造が形成される。この過程が結晶界面で多く起こるほど、より多くの結晶材料が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明のひとつの目的は、ターゲット材料内の結晶化度の増大などの、所望の熱誘起変化をもたらすようにターゲット材料を処理するための代替技法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、ターゲット材料を処理する方法が提供され、その方法は、放射線ビームで多層構造体を照射することを含み、多層構造体は、ターゲット材料を含む少なくとも1つのターゲット層と、ターゲット材料を含まない追加層とを含み、追加層は金属であり、ターゲット層は多層構造体の照射中に追加層を通して照射され、放射線ビームからターゲット層および追加層へのエネルギーの移転はターゲット層内に熱誘起変化を引き起こすものであり、熱誘起変化は、ターゲット材料内の結晶成長、ターゲット材料内のキャリア移動度の増大、ターゲット材料内の化学的安定性の増大、およびターゲット材料内の電気特性の一様性の増大のうちの1つまたは複数である。
【0016】
このように、ターゲット材料の他の領域および/または周囲の層もしくは近くのデバイス構造に与える影響を最小限にするか、影響を与えることなく、ターゲット材料の選択された領域に熱誘起変化を効率的に促すことのできる方法が提供される。ターゲット材料の全層が同時に処理される(例えば、エキシマレーザーを表面にわたって走査することによって)、いくつかの代替手法に比べて、時間とエネルギー費用が低減される。熱誘起変化は、結晶成長、キャリア移動度の増大、化学的安定性の増大、および電気特性の一様性の増大をどのような組み合わせで含んでもよい。発明者らは、追加層の金属の性質によって熱誘起変化(例えば結晶成長)が助長されることを発見した。エキシマベースのレーザー誘起結晶化において金属層は結晶化を抑制すると考えられていることを考慮すれば、これはいくぶん驚くべきことであった。
【0017】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、ターゲット層内の電子の分布は、照射に続く、金属追加層から環境への光電性および熱イオン性の放出を通した電子の放出によって変更されると考えられる。そのような放出に続いて起こる電荷不均衡によって、追加層とターゲット層の両方の中の電子密度が変化し、それによって、ターゲット層内の構成原子の結合強度が一時的な影響を受ける(例えば、強度が減少する)。結合強度への一時的な影響は、ターゲット材料内のキャリア移動度の増大、ターゲット材料内の化学的安定性の増大、およびターゲット材料内の電気特性の一様性の増大のうち、1つまたは複数を支援する。薄い多層構造体の電荷中性は、接地電気経路への構造体の接続を通して、また、周囲から多層構造体に影響を与える浮遊イオンおよび電子との相互作用により構造体の表面を通して、回復する。
【0018】
この方法は特に、PVベースのデバイスおよび、ディスプレイを製造するために使用される大面積の電子装置のTFTゲート領域で選択的に、a-Siからpoly-Siを形成することに適用可能である。この方法では、透明度に与える影響を最小限に抑えるか、影響を与えることなく、結晶化度を増大させることができる。この方法は、基板にかかる熱負荷が非常に低いため、可撓性基板を使用するロールツーロール方式またはシートツーシート方式の大量生産プラットフォームにも適する。プラスチック基板を、溶解や破損の虞なく使用することができる。
【0019】
この方法はまた、例えばディスプレイ用などの、他の透明な導電材料にも適用可能である。この状況では、熱誘起変化は局所的な結晶化を含んでもよく、これによりキャリア移動度を改善できる。
【0020】
この方法は特に、インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(IGZO)の結晶化の促進、キャリア移動度の改善、一様性の改善、および/または化学的安定性の改善に適用可能である。この方法は、薄膜バッテリー技術の金属酸化物などの、その他の誘電体の結晶化にも適用可能である。
【0021】
この方法は、ナノ粒子インクを使用して形成されるトラックなどの金属トラックの抵抗を減少させること、または、その他の単純な低温堆積処理にも適用可能である。堆積される金属の粒子径は、放射線ビームの周波数をナノ粒子インクのプラズモン共鳴周波数または堆積される金属の粒子径に一致させることによって、増大させることができる。粒子径分布を明確に定義することによって、効率を改善することができる。
【0022】
一実施形態では、多層構造体の照射によって、ターゲット材料に熱誘起変化(例えば結晶成長)が発生した後に、少なくとも追加層の照射された部分のターゲット層からの剥離が引き起こされる。このように、追加層は、ターゲット材料内の熱誘起変化を促進するという目的を果たした後で、余分の処理ステップを必要とすることなく、ターゲット材料から自然に剥離する。
【0023】
一実施形態では、放射線ビームのフルエンスは、放射線ビームによる照射中にターゲット材料のいずれかの部分が溶融相に入ることなくターゲット層内で熱誘起変化(例えば結晶成長)が実現するように選択される。溶融状態を避けることによって、ターゲット材料内の結晶成長の品質が改善し、小径粒子の一様な分布の発現が促進される。
【0024】
ある代替実施形態では、放射線ビームのフルエンスは、放射線ビームによる照射の少なくとも一部の期間にターゲット材料の少なくとも一部が溶融状態に入るように選択される。溶融状態に入ることによって、所望であれば、より大きなクリスタリットを形成することができる。
【0025】
一実施形態では、レーザー放射からのエネルギーが追加層の電子から追加層の格子へ移転するよりもずっと速く、レーザー放射からのエネルギーが追加層の電子からターゲット材料の格子へ移転するように、ターゲット層および追加層が構成される。この効果は、熱誘起変化(例えば結晶成長)の間の、追加層による効率的なターゲット層のインキュベーションを促進する。続いて、追加材料の電子系に蓄えられたエネルギーが追加材料の格子に対して熱化することによって、好都合なことに、熱誘起変化が発生した後に、ターゲット層からの追加層の剥離が引き起こされ得る。
【0026】
次に、例として添付図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態による、多層構造体の照射を概略的に示す図である。
図2】(a)はTFTパターンの光学顕微鏡画像を示す図である。(b)は照射による処理のある段階でのゲート領域の拡大ビューの光学顕微鏡画像を示す図である。(c)は照射による処理の別の段階でのゲート領域の拡大ビューの光学顕微鏡画像を示す図である。(d)は照射による処理の別の段階でのゲート領域の拡大ビューの光学顕微鏡画像を示す図である。(f)は照射による処理の別の段階でのゲート領域の拡大ビューの光学顕微鏡画像を示す図である。
図3】さまざまなフルエンスレジームの範囲を示す図である。
図4】(a)は処理前のシリコンの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。(b)は、フルエンスレジームでの照射による処理の後のシリコンのSEM画像を示す図である。(c)は別のフルエンスレジームでの照射による処理の後のシリコンのSEM画像を示す図である。
図5】a-Si、nc-Si、および、c-Siのラマンスペクトルを示す図である。
図6】4つのフルエンスレジームのそれぞれで処理した後のシリコン材料の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す図である。
図7】ターゲット材料としてアルミニウム(Al)を含み、追加層としてモリブデン(Mo)を含む多層構造体の処理を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示の実施形態は、ターゲット材料を処理して所望の熱誘起変化をターゲット材料に起こすことに関する。熱誘起変化は通常、ターゲット材料内の結晶成長を伴う。結晶成長によって、アモルファス材料から多結晶材料への変換が導かれ得る。あるいは、結晶成長によって、処理前にすでに多結晶であったターゲット材料内のクリスタリットの平均サイズの増大が導かれ得る。
【0029】
一実施形態では、結晶成長は、ターゲット材料内の、結晶粒界など、またはその他の完全な格子周期からの逸脱などの不規則性による散乱を減少させることによって、ターゲット材料内の電荷キャリアの抵抗率を減少させる、つまり移動度を増大させるものである。
【0030】
熱誘起変化は、ターゲット材料内のキャリア移動度の増大、ターゲット材料内の化学的安定性の増大、およびターゲット材料内の電気特性の一様性の増大のうち1つまたは複数を、どのような組み合わせで含んでもよい。
【0031】
図1に概略的に示すように、この方法は、多層構造体10を放射線ビーム5で照射することを含む。多層構造体10は、少なくとも、ターゲット層2および追加層1を含む。追加層1は金属である。ターゲット層2は、ターゲット材料を含むか、基本的にターゲット材料から成るか、または、ターゲット材料から成る。追加層1は、ターゲット材料を含まない。ターゲット層2は、多層構造体10の照射中、追加層1を通して照射される。よって、放射線ビーム5は部分的に追加層1を通過してターゲット層2に到達する。放射線ビーム5からのエネルギーは、追加層1およびターゲット層2に蓄積される。
【0032】
この実施形態には、多層構造体10が、ターゲット層2と追加層1を含む積層体を基板3上に含んでいる様子が示されている。一実施形態では、基板3は、例えばプラスチックまたはガラスまたはセラミックから形成された、可撓性基板である。基板3は、例えば、ロールツーロール方式またはシートツーシート方式の製造工程に適合するように構成されてもよい。追加層1の上、追加層1とターゲット層2の間、および/またはターゲット層2と基板3の間の1つまたは複数の層などの、1つまたは複数のさらなる層が、必要に応じて備わってもよい。
【0033】
放射線ビーム5および多層構造体10は、放射線ビーム5からターゲット層2および追加層1へのエネルギーの移転がターゲット材料内に所望の熱誘起変化(例えば結晶成長)を引き起こすようなものになるように(例えば、放射線ビームについてはフルエンスおよび/もしくはパルス長の適切な選択によって、ならびに/または、多層構造体10については材料および層の厚さの適切な選択によって)構成される。
【0034】
特定のフルエンスの範囲では、追加層1はターゲット層2をインキュベートし、また、ターゲット材料の温度が(加熱された格子内の原子の固相拡散を介した)結晶成長などの熱誘起変化を促進するために十分な高温でありながら、同時に、エネルギー移転のピーク速度が放射期間中のターゲット材料の溶解を防ぐために十分な低さに保たれる期間を延長する。通常(結晶化を促進することが目標である場合)、溶解は避けることが望ましい。その理由は、溶解はターゲット層2内で生成される結晶材料の品質に悪影響を与える可能性があるからである。例えば、溶解が発生すると、クリスタリットサイズの分布が最適より劣る多結晶構造が生成される可能性があり、これには、例えば、構造特性および/または電気特性に非一様性を引き起こす可能性のある過剰に大きなクリスタリットが含まれる。ただし、他の実施形態では、溶融相に入ることによって所望の熱誘起変化が得られることもあり、その場合は、放射線ビームのフルエンスは、放射線ビームによる照射の少なくとも一部の期間中にターゲット層の少なくとも一部が溶融相に入るように選択されてもよい。
【0035】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、放射線ビームは追加層1の材料内の電子によって部分的に吸収されると考えられる。この吸収によって、追加層1の中に弾道性電子が作出される。励起した電子は、散乱を受けるまでは弾道性を維持する。電子は、他の電子または格子イオンによって、弾性的または非弾性的に散乱する可能性がある。本開示のいくつかの実施形態では、追加層1の厚みは、弾道性電子が追加層1とターゲット層2の間の界面にまで伝播できるように選択される。一実施形態では、追加層1の厚みは200nm未満、任意選択で150nm未満、任意選択で100nm未満、任意選択で20~70nmの範囲である。
【0036】
励起した電子が追加層1の中で弾性散乱を受ける場合、電子の方向は変化するが、電子が担持するエネルギーは同じままである。励起した電子が追加層1の中で他の電子により非弾性散乱を受ける場合、弾道性電子は相手側の電子へエネルギーを移転させて、追加層1の中に、電子温度によって特徴付けられる高温電子ガスを形成する。
【0037】
作出された高温電子ガスは追加層1全体に拡散し、その後、追加層1の格子に結合する。追加層1の材料およびレーザーパラメータは、この時間枠が確実に比較的長く(例えば、3~50ピコ秒)なるように選択される。追加層1の格子に電子が結合すると、格子は発熱し、高い格子温度が発生する。
【0038】
追加層1内の加熱された電子はターゲット材料とエネルギーを交換する。電子エネルギーは、部分的には反射しながら追加層1とターゲット層2の間を通って伝達される波と考えることができる。追加層1内の、励起したか、加熱された電子は、2つの材料の間の界面で、さまざまな様式でターゲット材料とエネルギーを交換する。レーザー励起された弾道性電子は、ターゲット材料に貫入し、電子-電子散乱、衝突電離、および電子-格子結合を通してターゲット材料の電子および格子サブシステムとエネルギーを交換することができる。追加層1内の高温電子は、界面での電子バンド構造に応じて、電子-電子散乱および電子-フォノン結合によって、ターゲット材料の電子および格子サブシステムと相互作用することができる。そして、加熱された追加層1の格子は、界面のフォノンーフォノン結合を通してターゲット材料の格子にエネルギーを結合することもできる。
【0039】
放射線ビームは、追加層1を通ってターゲット層2へも部分的に伝達される。よって、放射線ビームもまた、ターゲット材料内の電子を直接的に加熱する。よって、熱せられた電子、または層間で交換された電子が、ターゲット層の格子にエネルギーを移転させる。
【0040】
界面またはターゲット材料内で発生する、この電子から格子へのエネルギーの移転は、理想的には、ターゲット材料内で発生してから、その後、追加層1内で発生する。よって、レーザー放射からのエネルギーは、追加層1の電子から追加層1の格子へ移転するよりも、追加層1の電子からターゲット材料の格子へ、より素早く移転する。熱が最終的に追加層1の格子に到達すると、追加層1は、望ましくは自発的に多層構造体10の他の部分から剥離する。
【0041】
追加層1は、追加層1が多層構造体10上に存在している間、ターゲット材料の加熱される格子を一時的にインキュベートする。レーザーパルスが多層構造体に入射した後1マイクロ秒から1ミリ秒の間に追加層1の剥離が起こることから、インキュベーションの時間は限られる。
【0042】
非常に低いフルエンス(本明細書では、フルエンスレジームIと称する)では、追加層1は最終的には、多層構造体10から剥離するためには十分に熱せられるが、前述したインキュベーション効果があっても、その間にターゲット材料の中に有意な結晶成長を起こすためには加熱は不十分である。
【0043】
より高いフルエンス(本明細書では、フルエンスレジームIIと称する)では、ターゲット材料による放射線ビームの直接吸収と、追加層1によるインキュベーションとの組み合わせによって、ターゲット材料を溶解させずに所望の熱誘起変化(例えば結晶成長)が発生するために適した経時的な温度プロファイルがターゲット材料の格子内に得られる。エネルギーを与えられたターゲット材料の格子は、この段階(追加層1の格子が、まだ比較的低温であるとき)では、追加層1を分離させるには不十分なので、追加層1は多層構造体10との接触を保ち、インキュベーションを続行する。この効果は、レーザー放射からのエネルギーが追加層1の電子から追加層1の格子へ移転するよりもずっと速く、レーザー放射からのエネルギーが追加層1の電子からターゲット材料の格子へ移転するように、ターゲット材料と追加層1の材料を選択することによって促進される。これは、例えば、ターゲット材料がa-Siを含み、追加層1の材料がMoなどの金属を含む場合にあてはまる。
【0044】
さらに高いフルエンス(本明細書では、フルエンスレジームIIIと称する)では、より短いタイムスケールで追加層1の格子への電子の結合が起こり、その結果、追加層1の格子の加熱が、低いフルエンスで観察されるよりも速くなる。これは、追加層1からターゲット層2への電子エネルギーの移転に悪影響を与え、それにより、所望の熱誘起変化(例えば結晶相)が、例えば、放射にガウシアンビームを使用する事例では、放射線ビームの外側円環に制限される。追加層1は時期尚早に多層構造体10から分離して、前述した電子拡散およびインキュベーションを低減させる。
【0045】
なおさらに高いフルエンス(本明細書では、フルエンスレジームIVと称する)では、追加層1はレジームIIIにおいてと同様にフォトメカニカル的に分離し、かつ、ターゲット材料を溶解させ、これにより、前述したように、ターゲット材料内の結晶化が最適ではなくなる可能性がある。
【0046】
結晶成長機構のフルエンスに対する依存性を、図2に示される実験結果に例示する。
【0047】
図2(a)は、複数のゲート領域を含むTFTパターンの光学顕微鏡画像を示す。図2(b)は、1つのゲート領域の上にa-Siを含むターゲット層が施された後の、そのゲート領域に対応する領域の拡大顕微鏡画像を示す。図2(c)~(f)は、追加層(Moを含む)がコーティングとしてターゲット層に施され、続いて、結果として得られた多層構造体が、さまざまなフルエンスのガウシアン放射線ビームスポットによって処理された後の、図2(b)の領域を示す。
【0048】
この例では、マグネトロンスパッタリングによって厚さ40nmのMoの層を追加層に堆積した。ガウシアン放射線ビームスポットは、波長1030nm、パルス幅500fsのパルスを送るパルス状フェムト秒レーザーを使用して生成した。走査システムの焦点距離100nmのレンズ(NA=0.014)を使用して、レーザーの焦点を試料に合わせた。リフレクターとミラーの組み合わせを通して走査システムをマシニングステージに結合した(試料の正確な位置決めのため)。検流計ベースの走査システムを使用し、ミラーを操舵する速度を調節することによってレーザービームスポットを走査した。レーザーは最大電力で動作させ、また、半波長板および偏光器の組み合わせを使用して減衰させて、最適なビーム形状を維持し、パルス間安定性を高めた。
【0049】
図2(c)は、45mJcm-2のフルエンス(ガウシアンビームスポットに関連するピークフルエンス)での放射の結果を示す。このフルエンスの高さは、ビームスポットの中心領域で追加層(Mo)の剥離を引き起こすために十分である。他の部分では、追加層は剥離せずに留まる。このフルエンスの高さでは、a-Siからpoly-Si変換はどこでも引き起こされない。このように、図2(c)は、追加層が剥離する領域で、フルエンスレジームIを示す。
【0050】
図2(d)は、82mJcm-2のフルエンス(ガウシアンビームスポットに関連するピークフルエンス)での放射の結果を示す。この場合のフルエンスは、より広い領域にわたって追加層(Mo)の剥離を引き起こす。さらに、中心領域(ビームスポット内でフルエンスが最も大きいところ)では、a-Si内で結晶成長が促進され、ナノ結晶の形のpoly-Si(ns-Si)の形成につながる。中心領域の外側の領域ではフルエンスが低すぎるため、nc-Siは形成されず、a-Siが観察される。ns-Siが観察される領域は、フルエンスがフルエンスレジームIIであり、追加層1によるインキュベーションがターゲット層内に結晶成長を引き起こすために有効であった領域に対応する。
【0051】
図2(e)は、145mJcm-2のフルエンス(ガウシアンビームスポットに関連するピークフルエンス)での放射の結果を示す。この場合、中心領域のフルエンス(フルエンスレジームIIIに対応)の高さは、電子エネルギーが追加層の格子に結合する速度を変更するために十分なので、エネルギー結合の速度が増大し、これは、追加層がターゲット層と同様の速度で加熱されることを意味する。この加熱によって追加層が歪み、追加層の光学特性および電子特性がビームの中心部分で変更される。ただし、フルエンスがフルエンスレジームIIであった領域に対応する、中心領域を取り巻く円環領域では、nc-Siが形成される。nc-Siからなる円環領域の外側では、フルエンスはnc-Siを形成するために必要なレベル(フルエンスレジームIに対応)より下まで低下し、外側の円環内では再びa-Siが観察される。
【0052】
図2(f)は、320mJcm-2のフルエンス(ガウシアンビームスポットに関連するピークフルエンス)での放射の結果を示す。この場合、フルエンスが非常に高いので、中央領域(フルエンスがフルエンスレジームIVであった領域)でa-Siの溶解が引き起こされ、微結晶シリコン相(c-Si)の形成につながる。
【0053】
図3は、ターゲット層2がa-Siを含み、追加層1がMoを含む実装例の、4つのフルエンスレジームに対応するフルエンスの範囲を示す。
【0054】
図4は、(a)ゲート様の領域内の未暴露のa-Si、(b)比較的低エネルギーのパルス(フルエンスレジームII内)を、Moを含む追加層を通して加えることにより生成したnc-Si、および(c)より高いエネルギーのパルスを(フルエンスレジームIV内)を加えることにより、Siを溶解してから再固化することによって生成したc-SiのSEM画像を示す。
【0055】
図5は、a-Si層、nc-Si領域、および、c-Si領域のラマンスペクトルを示す。nc-Si領域とc-Si領域は、それぞれフルエンスレジームIIとIV内の単一のパルスを使用して生成した。
【0056】
図6は、4つのフルエンスレジームのそれぞれの中で処理された後のシリコン材料のAFM画像を示す。フルエンスレジームIIでは、望ましい、粒径の小さいクリスタリットの一様分布が得られる。フルエンスレジームIVでは、大きなクリスタリットが得られるが、一様性は低い。
【0057】
前述した図2~6は、ターゲット材料としてa-Si、追加層としてMoを使用して得られた実験結果を示す。この方法は、材料の他の組み合わせにも適用可能である。他の材料は、透明な導電性材料、誘電性材料、金属、金属酸化物、IGZOのうち、1つまたは複数を含んでもよい。
【0058】
図7は、ターゲット材料としてAl、追加層としてMoを含む多層構造体にこの処理を適用した結果を示す。図7(a)は、下にあるAl薄膜への明らかな損傷のない、選択的なMoの除去を示す。図7(b)~(d)は、それぞれ0.4Jcm-2、0.8Jcm-2、1.4Jcm-2の、漸進的に増加するフルエンスにおける、下にあるAl内の結晶成長を示すAFM画像である。図7(b)~(c)は、Alの溶解を引き起こすことなく、フルエンスレジームIIのもとで発生する、粒径の小さい結晶成長を示す。図7(d)は、高いフルエンス(フルエンスレジームIV)でのAlの溶解の結果として得られる粗大粒を示す。
【0059】
本開示の実施形態では、多層構造体10の照射は、ターゲット層2内で熱誘起変化(例えば結晶成長)が発生した後に、追加層1の少なくとも照射されていない部分のターゲット層2からの剥離を引き起こす。剥離は、(例えば、追加層1とターゲット層2が異なる結晶構造を有し、混ざり合わないことが原因で)そもそも追加層1がターゲット層2に十分に付着していないことから起こることもある。あるいは、または、さらに、放射線ビームが追加層1内の電子を加熱して、これによって追加層の格子が加熱されると、追加層1の格子は膨張しようとするが、ターゲット層2によって抑制される(すなわち、熱膨張差が存在する)。そして圧縮応力が増強され、追加層2の材料が破砕される。剥離は、それによって、追加層1を除去する分離処理が不要になるため、好都合である。剥離は、追加層1の材料を適切に選択することによって助長される。剥離は、追加層1の材料を、ターゲット材料および/または、多層構造体10内のターゲット層の下のいずれかの層とは有意に異なる熱的特性、例えば、有意に異なる電子-フォノン結合(例えば、追加層のほうが電子-フォノン結合時間が長い)、溶解温度、膨張係数、および/または放射率を有するように選択することによって促進される。あるいは、または、さらに、剥離は、追加層1の材料を、ターゲット層とは有意に異なる機械特性を有するように(例えば、熱膨張係数、格子定数が有意に異なる)選択することによって促進されてもよい。あるいは、または、さらに、追加層1は、室温および室内気圧でターゲット材料が形成するものとは異なる対称性および/または有意に異なる格子パラメータをもつ結晶構造を形成する材料から成っていてもよい。例えば、ダイヤモンド様の構造(相互貫入する面心立方(fcc)構造を含む)を形成する、シリコンをターゲット材料が含む場合、追加層1は、室温および室内気圧で体心立方(bcc)構造をとる材料(Moなど)から形成されていてもよい。あるいは、または、さらに、追加層1は、例えば、蒸着またはスパッタリングなどを使用して、多層構造体10に緩く付着するように施されてもよい。あるいは、または、さらに、追加層1の材料は、ターゲット層2内のターゲット材料と、または、多層構造体10のターゲット層2の下のいずれかの層と混合しないように選択されてもよい。
【0060】
追加層1は剥離するが、それでも、処理の期間が伴うので、ターゲット材料内の熱誘起変化(例えば結晶成長)に寄与する。追加層1が剥離する前に、インキュベーションが行われる。
【0061】
放射線ビームはパルス状レーザービームであってもよい。一実施形態では、放射線ビームの単一のパルスが、ターゲット材料内で結晶成長を引き起こすことができる。ただし、所望であれば、ターゲット材料の所与の領域に放射線の複数のパルスを加えることもできる。複数のパルスによって、結晶化処理をさらに制御することが可能になり得る。特定の実施形態では、ターゲット材料の、結晶成長が促進されるべき各領域に複数のパルスが加えられ、その各領域において、第1のパルスが結晶成長を引き起こし、後のパルスがさらなる結晶成長を引き起こす。別の実施形態では、第2の時限レーザーパルスを使用して、電子が追加層から、例えば半導体または誘電体から成るターゲット材料へ移転するときに、さらに電子にエネルギーを与えてもよい。
【0062】
一実施形態では、レーザーパルスの持続時間は1ns未満、任意選択で100ps未満、任意選択で50ps未満、任意選択で10ps未満、任意選択で1ps未満、任意選択で100fs未満、任意選択で50fs未満である。通常、例えば、数十ピコ秒または数十フェムト秒のパルス持続時間が使用されてもよい。
【0063】
一実施形態では、放射線ビームは、IR、可視、またはUVスペクトル内のレーザー放射線を含む。
【0064】
この方法による処理の後にターゲット材料内に存在する粒子径の分布は、多層構造体を照射するために使用した放射線ビームの特性に依存する(特に、加えられた各パルスのフルエンスおよび時速時間、ならびに、パルスの数)。前述したように、一様な機械特性および/または電気特性を達成するには、比較的小さい粒径が望ましい。いくつかの実施形態では、粒径分布は、平均粒径(粒子体積の立方根として定められる)が100nm未満、任意選択で50nm未満、任意選択で20nm未満になるように制御される。
【0065】
一実施形態では、追加層1はモリブデンまたはタングステンを含む。特定の実施形態では、ターゲット材料はa-Siを含み、追加層はモリブデンまたはタングステンを含み、放射線ビームの単一のパルスによって与えられるフルエンスは、50~125mJcm-2(フルエンスレジームIIに相当)、任意選択で7~110mJcm-2の範囲である。この実施形態では、追加層を通して伝達される放射線によって加熱されるときにターゲット材料内でエネルギーを与えられた電子は、追加層内の電子が格子に結合するよりも短い時間で格子に結合する。他の材料では、そのような伝達される放射線は、多光子吸収または電子なだれ吸収によって吸収されて、金属酸化物などのセラミック材料の急速な加熱につながる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図7(d)】