(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】運動ユニット
(51)【国際特許分類】
H02K 33/04 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
H02K33/04 A
(21)【出願番号】P 2020558219
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2019042815
(87)【国際公開番号】W WO2020110592
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2018220694
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 元一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 千尋
(72)【発明者】
【氏名】古川 武志
(72)【発明者】
【氏名】中村 一也
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-121207(JP,U)
【文献】特開2002-254030(JP,A)
【文献】特表2016-536536(JP,A)
【文献】国際公開第2015/140959(WO,A1)
【文献】特開2001-173701(JP,A)
【文献】特開2011-97747(JP,A)
【文献】特開2017-221905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動部と、該移動部に所定の運動をさせる駆動手段と、磁力を発生させる磁力発生手段と、前記移動部と前記駆動手段と前記磁力発生手段とを収容する収容手段と、を備えた運動ユニットであって、
前記移動部は、所定の振動方向において振動可能な振動子であって、
前記振動子は、該振動子を挟み込むように配置された部材を摺動可能に保持することによって、前記振動方向に移動するように案内され、
前記駆動手段は、コイルと駆動用磁石とを有し、
前記磁力発生手段は、前記移動部に設けられる移動側磁石と、前記収容手段に対して固定される固定側磁石と、を有するとともに、前記移動側磁石と前記固定側磁石との間に反発力を生じさせ、
前記移動側磁石は、前記振動方向における前記振動子の両端部に配置され、
前記固定側磁石は、前記振動方向において前記振動子を挟み込む位置に配置されており、
前記移動側磁石および前記固定側磁石は、互いの対向方向と交差する方向において磁気的に区画された複数の区間をそれぞれ有するとともに、隣り合う前記区間において磁極が互いに逆向きとなっていることを特徴とする運動ユニット。
【請求項2】
移動部と、該移動部に所定の運動をさせる駆動手段と、磁力を発生させる磁力発生手段と、前記移動部と前記駆動手段と前記磁力発生手段とを収容する収容手段と、を備えた運動ユニットであって、
前記移動部は、所定の振動方向において振動可能な振動子であって、
前記振動子は、該振動子を挟み込むように配置された部材を摺動可能に保持することによって、前記振動方向に移動するように案内され、
前記駆動手段は、コイルと駆動用磁石とを有し、
前記磁力発生手段は、前記移動部に設けられる移動側磁石と、前記収容手段に対して固定される固定側磁石と、を有するとともに、前記移動側磁石と前記固定側磁石との間に反発力を生じさせ、
前記移動側磁石は、前記振動方向における前記振動子の両端部に配置され、
前記固定側磁石は、前記振動方向において前記振動子を挟み込む位置に配置されており、
前記移動側磁石および前記固定側磁石は、互いの対向方向と交差する所定方向において3以上の奇数区間に磁気的にそれぞれ区画されるとともに、磁極方向が前記対向方向に沿った区間が、磁極方向が前記交差する方向に沿った2つの区間によって挟まれることで、ハルバッハ配列とされていることを特徴とする運動ユニット。
【請求項3】
前記移動側磁石および前記固定側磁石がサマリウムコバルト磁石によって構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の運動ユニット。
【請求項4】
前記収容手段は、前記振動方向を長手方向とする直方体状に形成されており、
前記振動子を挟み込むように配置された前記部材は2本のシャフトであって、
2本の前記シャフトが前記振動子を前記直方体状の幅方向から挟み込むように配置されており、
前記振動子の枠体が前記シャフトを摺動可能に保持していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の運動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動部と駆動手段と磁力発生手段と収容手段とを備えた運動ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、移動部に所定の運動をさせる装置において、移動の向きを反転させたり、移動を停止させたりするために、移動部に力を付与する手段(例えばダンパ等)を設けることがある。このように移動部に力を付与する手段として、共振モータ用の磁気スプリング構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された磁気スプリング構造では、ハウジング(収容手段)の両端に磁石が固定されるとともに、ハウジングの内部に配置された磁石(移動部)がスライド運動し、磁石同士の間に反発力が生じるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたように移動部が収容手段に収容される構成では、収容スペースが限られているため、収容される磁石を小型化することが望まれていた。しかしながら、磁石を小型化(特に磁石同士の対向方向における寸法を小さく)すると、相手方磁石と対向する端面近傍における磁束密度が低下しやすく、大きな反発力を得ることが困難であった。即ち、磁力(反発力)を発生させる磁力発生手段の小型化と、反発力の確保と、を両立させることは困難であった。
【0005】
本発明の目的は、磁力発生手段を小型化しつつ反発力を確保することができる運動ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の運動ユニットは、移動部と、該移動部に所定の運動をさせる駆動手段と、磁力を発生させる磁力発生手段と、前記移動部と前記駆動手段と前記磁力発生手段とを収容する収容手段と、を備えた運動ユニットであって、前記磁力発生手段は、前記移動部に設けられる移動側磁石と、前記収容手段に対して固定される固定側磁石と、を有するとともに、前記移動側磁石と前記固定側磁石との間に反発力を生じさせ、前記移動側磁石および前記固定側磁石は、互いの対向方向と交差する方向において磁気的に区画された複数の区間をそれぞれ有するとともに、隣り合う前記区間において磁極が互いに逆向きとなっていることを特徴とする。
【0007】
以上のような本発明によれば、移動側磁石が、隣り合う区間において磁極が互いに逆向きとなっていることで、移動側磁石の端面において、一の区間から隣り合う区間に向かうように磁力線が延びる。固定側磁石においても移動側磁石と同様に磁力線が延びる。一方、磁気的に区画されていない磁石の場合、磁石の一方の端面から他方の端面に向かうように磁力線が延びる。即ち、本発明によれば、磁石の側面に沿うような磁力線の本数を減らし、磁石の端面に磁力線を集中させることができる。これにより、磁石を小型化した場合であっても、磁石の端面における磁束密度を上昇させ、移動側磁石と固定側磁石との間の反発力を確保することができる。尚、移動側磁石および固定側磁石における磁気的に区画された複数の区間は、それぞれ、物理的に分離した複数の磁石を組み合わせることにより形成されてもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって形成されてもよい。
【0008】
本発明の運動ユニットは、移動部と、該移動部に所定の運動をさせる駆動手段と、磁力を発生させる磁力発生手段と、前記移動部と前記駆動手段と前記磁力発生手段とを収容する収容手段と、を備えた運動ユニットであって、前記磁力発生手段は、前記移動部に設けられる移動側磁石と、前記収容手段に対して固定される固定側磁石と、を有するとともに、前記移動側磁石と前記固定側磁石との間に反発力を生じさせ、前記移動側磁石および前記固定側磁石は、互いの対向方向と交差する所定方向において3以上の奇数区間に磁気的にそれぞれ区画されるとともに、磁極方向が前記対向方向に沿った区間が、磁極方向が前記交差する方向に沿った2つの区間によって挟まれることで、ハルバッハ配列とされていることを特徴とする。
【0009】
以上のような本発明によれば、移動側磁石が磁気的に区画されるとともにハルバッハ配列とされていることで、固定側磁石と対向する端面のうち、磁極方向が対向方向に沿った区間において磁力線を集中させることができる。同様に、固定側磁石においても、移動側磁石と対向する端面のうち、磁極方向が対向方向に沿った区間において磁力線を集中させることができる。これにより、磁石を小型化した場合であっても、磁石の片側端面における磁束密度を上昇させ、移動側磁石と固定側磁石との間の反発力を確保することができる。一方で固定側磁石の移動側磁石と対向する端面と反対側の端面は、磁束密度が小さくなり、収容手段から漏洩する磁束を減らすことができる。尚、移動側磁石および固定側磁石における磁気的に区画された複数の区間は、それぞれ、物理的に分離した複数の磁石を組み合わせることにより形成されてもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって形成されてもよい。
【0010】
また、本発明の運動ユニットでは、前記移動側磁石および前記固定側磁石がサマリウムコバルト磁石によって構成されていることが好ましい。このような構成によれば、ネオジム磁石等と比較して磁力の弱いサマリウムコバルト磁石を用いた場合であっても、上記のように磁石同士の間の反発力を確保することができる。また、収容手段を小型化すると磁力発生手段が温度上昇しやすくなるとともに、磁極方向において磁石を小型化するとパーミアンス係数が低下するものの、キュリー温度が比較的高いサマリウムコバルト磁石を用いることにより、熱減磁されにくくなるため、反発力の熱による減少を抑えることができる。
【0011】
さらに、本発明の運動ユニットでは、前記移動部は、所定の振動方向において振動可能な振動子であって、前記駆動手段は、コイルと駆動用磁石とを有し、前記移動側磁石は、前記振動方向における前記振動子の両端部に配置され、前記固定側磁石は、前記振動方向において前記振動子を挟み込む位置に配置されていることが好ましい。このような構成によれば、振動子の移動の向きを反転させる際に反発力を生じさせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の運動ユニットによれば、移動側磁石および固定側磁石が磁気的に区画されていることで、磁力発生手段を小型化しつつ反発力を確保することができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る運動ユニットを示す分解斜視図である。
【
図3】前記運動ユニットの移動部を示す平面図である。
【
図4】前記運動ユニットの磁力発生手段を示す平面図である。
【
図5】前記運動ユニットにおける磁場ベクトルを模式的に示す平面図である。
【
図6】比較例1の運動ユニットにおける磁場ベクトルを模式的に示す平面図である。
【
図7】比較例2の運動ユニットにおける磁場ベクトルを模式的に示す平面図である。
【
図8】第1実施形態の運動ユニットにおける磁力発生手段のばね定数を示すグラフである。
【
図9】比較例1の運動ユニットにおける磁力発生手段のばね定数を示すグラフである。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る運動ユニットを示す平面図である。
【
図11】前記運動ユニットの磁力発生手段を示す平面図である。
【
図12】前記運動ユニットにおける磁場ベクトルを模式的に示す平面図である。
【
図13】本発明の変形例の運動ユニットにおける磁石を示す側面図である。
【
図14】本発明の他の変形例の運動ユニットにおける磁石を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。尚、第2実施形態においては、第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成部材及び同様な機能を有する構成部材には、第1実施形態と同じ符号を付すとともに説明を省略する。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態の運動ユニット1Aは、
図1に示すように、移動部としての振動子2と、2本のシャフト3A、3Bと、コイル4と、収容手段としてのケース5と、2つの固定側磁石6A、6Bと、フレキシブルプリント基板(FPC)7と、を備えたリニア振動アクチュエータであって、例えばスマートフォン等の携帯端末に搭載されて振動を発生する。運動ユニット1Aは、振動子2の振動方向を長手方向とする直方体状に形成され、以下では、振動方向をX方向とし、幅方向をY方向とし、高さ方向をZ方向とする。
【0016】
振動子2は、
図2にも示すように、枠体21と、駆動用磁石22A~22Cと、ヨーク23と、2つの移動側磁石24A、24Bと、を有する。
【0017】
枠体21は、X方向を長手方向とするとともにXY平面に沿った長方形板状に形成され、直方体状の収容部211を有している。枠体21は、その四隅に断面半円状の保持部212を有している。
【0018】
駆動用磁石22A~22Cは、X方向に並べられるとともに枠体21の収容部211に収容される。このとき、駆動用磁石22A~22Cは、
図3に示すようなハルバッハ配列の着磁方向を有して配置される。即ち、駆動用磁石22AのN極がZ方向上側(コイル4が置かれた側)に向けられ、駆動用磁石22BのN極がX方向における駆動用磁石22A側に向けられ、駆動用磁石22CのN極がZ方向下側に向けられる。
【0019】
このようなハルバッハ配列とすることにより、駆動用磁石22Aの上側においてZ方向上向きの磁束が集中し、駆動用磁石22Cの上側においてZ方向下向きの磁束が集中するようになっている。尚、駆動用磁石の個数および着磁方向は、上記のものに限定されず、コイルに電流を流した際にX方向のローレンツ力が生じるような構成であればよい。
【0020】
ヨーク23は、例えば鉄等の強磁性体によってXY平面に沿った長方形板状に形成され、枠体21のZ方向下側(コイル4とは反対側)に固定される。尚、ヨーク23の重量を調節することにより、振動子2全体の重量を調節してもよい(即ちヨーク23を錘として用いてもよい)し、ヨークは省略されてもよい。
【0021】
2つの移動側磁石24A、24Bは、サマリウムコバルト磁石によって構成され、X方向両端部それぞれに配置される。
【0022】
シャフト3A、3Bは、X方向に沿って延在する断面円形の棒状部材であって、ケース5とは別体に構成されている。2本のシャフト3A、3Bが振動子2をY方向から挟み込むように配置される。
【0023】
振動子2の4つの保持部212がシャフト3A、3Bを摺動可能に保持する。即ち、凹状に形成された保持部212の内側に、シャフト3A、3Bが位置づけられるようになっている。振動子2の保持部212がY方向両側のシャフト3A、3Bを摺動可能に保持することにより、振動子2は、シャフト3A、3BによってX方向に移動するように案内される。
【0024】
コイル4は、フレキシブルプリント基板(FPC)7に配置される。FPC7は、XY平面に沿った板状に形成され、ケース5に対して移動不能に固定されるとともに、ケース5の外部に突出して電力が供給される電力供給部71を有している。
【0025】
振動子2は、Z方向においてコイル4と対向するように配置される。コイル4は、X方向に沿って延在する一対の第1延在部41、42と、Y方向に沿って延在する一対の第2延在部43、44と、を有して略長方形状に形成されている。一対の第1延在部41、42は、Z方向から見て、駆動用磁石22A~22Cに対してY方向の両側に配置される。またZ方向から見て、第2延在部43は、駆動用磁石22Aに重なるように配置され、第2延在部44は、駆動用磁石22Cに重なるように配置される。
【0026】
コイル4に電力が供給されると、第2延在部43、44に流れる電流と、その近傍(駆動用磁石22A、22Cの周辺)の磁場と、の相互作用により、X方向に沿ったローレンツ力が生じる。これにより、X方向に沿った駆動力が振動子2に加わる。即ち、コイル4と駆動用磁石22A~22Cとが、振動子2を駆動する駆動手段として機能する。このとき、コイル4に、振動子2の共振周波数に対応した周波数の通電電流が流れるように、電圧が印加されれば、振動子2を高い効率で駆動することができる。
【0027】
尚、振動子2がX方向に移動する際、第2延在部43、44と駆動用磁石22A、22CとがZ方向から見て重なるような範囲で大きなローレンツ力が得られる。従って、第2延在部43、44と駆動用磁石22A、22Cとの位置関係によって振動子2のストローク長が変化する。
【0028】
ケース5は、枠状のケース本体51と、XY平面に沿って延びるとともにケース本体51の下側開口を塞ぐ下蓋52と、XY平面に沿って延びるとともにケース本体51の上側開口を塞ぐ上蓋53と、を有し、X方向を長手方向とする直方体状に形成される。ケース5には、振動子2と、シャフト3A、3Bと、コイル4と、固定側磁石6A、6Bと、FPC7と、が収容される。
【0029】
ケース本体51のうちX方向両側の壁511、512には、シャフト3A、3Bの端部が挿通される保持孔510が形成されている。これにより、シャフト3A、3BがX方向に沿って延びるように、ケース5によって支持される。
【0030】
固定側磁石6Aは、サマリウムコバルト磁石によって構成され、ケース本体51の壁511における2つの保持孔510の間且つ内面側に固定される。また、固定側磁石6Bは、ケース本体51の壁512における2つの保持孔510の間且つ内面側に固定される。
【0031】
次に、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bの詳細な構造について
図4を参照しつつ説明する。尚、移動側磁石24Aと移動側磁石24Bとは同様の構成を有しており、固定側磁石6Aと固定側磁石6Bとは同様の構成を有している。従って、以下では移動側磁石24Aおよび固定側磁石6Aの構成について説明し、移動側磁石24Bおよび固定側磁石6Bについての説明は省略する。
【0032】
移動側磁石24Aの全体は、各辺がX方向、Y方向およびZ方向に沿った直方体状に形成されており、Y方向において磁気的に区画された第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とを有する。即ち、第1磁気区間A1と第2磁気区間A2との間の区画面は、ZX平面に沿ったものとなる。
【0033】
第1磁気区間A1では、N極が内側(駆動用磁石22A~22C側)を向き、S極が外側(固定側磁石6A側)を向いている。一方、第2磁気区間A2では、N極が外側を向き、S極が内側を向いている。即ち、Y方向に隣り合う第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とにおいて磁極が互いに逆向きとなっている。尚、物理的に分離した2つの磁石を組み合わせることにより第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とを形成してもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって第1磁気区間A1と第2磁気区間A2とを形成してもよい。
【0034】
固定側磁石6Aの全体は、各辺がX方向、Y方向およびZ方向に沿った直方体状に形成されており、Y方向において磁気的に区画された第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とを有する。即ち、第1磁気区間B1と第2磁気区間B2との間の区画面は、ZX平面に沿ったものとなる。
【0035】
第1磁気区間B1では、N極が外側(壁511側)を向き、S極が内側(移動側磁石24A側)を向いている。一方、第2磁気区間B2では、N極が内側を向き、S極が外側を向いている。即ち、Y方向に隣り合う第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とにおいて磁極が互いに逆向きとなっている。尚、物理的に分離した2つの磁石を組み合わせることにより第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とを形成してもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって第1磁気区間B1と第2磁気区間B2とを形成してもよい。
【0036】
移動側磁石24Aの第1磁気区間A1と固定側磁石6Aの第1磁気区間B1とがX方向において対向し、移動側磁石24Aの第2磁気区間A2と固定側磁石6Aの第2磁気区間B2とがX方向において対向している。即ち、移動側磁石24Aと固定側磁石6Aとは同極同士が向き合い、反発力が生じるようになっている。このように、移動側磁石24Aと固定側磁石6Aとが磁力(反発力)を発生させる磁力発生手段として機能する。また、X方向両側に配置された磁力発生手段は、振動子2を振動中心に向けて移動させる付勢力を発生させることにより、磁気付勢手段としても機能する。
【0037】
ここで、移動側磁石24Aおよび固定側磁石6A周辺の磁力線(磁場ベクトル)について、
図5に基づいて説明する。移動側磁石24Aにおいて、第1磁気区間A1のS極と第2磁気区間A2のN極とがいずれも外側を向くとともにY方向において隣り合っていることから、第2磁気区間A2のN極から第1磁気区間A1のS極に向かうような磁力線が描かれる。即ち、移動側磁石24Aの外側端面において磁力線が集中し、磁束密度が高くなる。同様に、移動側磁石24Aの内側端面において磁力線が集中し、磁束密度が高くなる。
【0038】
一方、固定側磁石6Aにおいて、第1磁気区間B1のS極と第2磁気区間B2のN極とがいずれも内側を向くとともにY方向において隣り合っていることから、第2磁気区間B2のN極から第1磁気区間B1のS極に向かうような磁力線が描かれる。即ち、固定側磁石6Aの内側端面において磁力線が集中し、磁束密度が高くなる。同様に、固定側磁石6Aの外側端面において磁力線が集中し、磁束密度が高くなる。
【0039】
一方、比較例1として、磁気的に区画されていない移動側磁石100および固定側磁石101を用いた場合の磁力線(磁場ベクトル)について、
図6に基づいて説明する。移動側磁石100は、N極が外側を向くとともにS極が内側を向くように配置されている。固定側磁石101は、S極が外側を向くとともにN極が内側を向くように配置されている。移動側磁石100において、外側のN極から内側のS極に向かうような磁力線が描かれる。固定側磁石101において、内側のN極から外側のS極に向かうような磁力線が描かれる。
【0040】
即ち、比較例1においては、移動側磁石100の外側端面および固定側磁石101の内側端面から延びる磁力線が、各磁石の側面に沿うように進行して反対側の端面に向かう。このように、移動側磁石100の外側端面および固定側磁石101の内側端面において磁力線が集中しにくくなっている。
【0041】
また、比較例2として、磁気的に区画されていない移動側磁石102および固定側磁石103を用いた場合の磁力線(磁場ベクトル)について、
図7に基づいて説明する。移動側磁石102は、比較例1の移動側磁石100をX方向に厚く形成したものであり、固定側磁石103は、比較例1の固定側磁石101をX方向に厚く形成したものである。
【0042】
比較例2においても比較例1と同様に、移動側磁石102の外側端面および固定側磁石103の内側端面から延びる磁力線が、各磁石の側面に沿うように進行して反対側の端面に向かうため、移動側磁石102の外側端面および固定側磁石103の内側端面において磁力線が集中しにくくなっている。
【0043】
しかしながら、比較例2では各磁石がX方向において厚く形成されていることにより、比較例1よりも移動側磁石102の外側端面および固定側磁石103の内側端面における磁束密度が高くなっている。即ち、移動側磁石および固定側磁石をX方向において小型化するほど、対向する端面における磁束密度が低下し、反発力が得られにくくなる。
【0044】
本実施形態における磁力発生手段のばね定数を
図8のグラフに示し、比較例1における磁力発生手段のばね定数を
図9のグラフに示す。尚、ばね定数とは、磁石間に生じる反発力を単位長さで除したものである。また、
図8、9における振幅とは、振動子2の位置に対応したものであり、振動子2が振動中心に配置されている場合を0とし、移動側磁石が固定側磁石に近づくにしたがってその値が大きくなるものとする。
【0045】
移動側磁石24Aおよび固定側磁石6Aが磁気的に区画された本実施形態では、区画されていない比較例1よりも、ばね定数が大きくなっている(即ち反発力が大きくなっている)。特に、振幅が大きくなった際に、これらのばね定数の差が大きくなる。
【0046】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。即ち、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bが、それぞれ、磁気的に区画されるとともに隣り合う区間において磁極が互いに逆向きとなっていることで、磁石の端面に磁力線を集中させることができ、磁石を小型化した場合であっても、移動側磁石24A、24Bと固定側磁石6A、6Bとの間の反発力を確保することができる。
【0047】
また、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bが、それぞれ磁気的に区画されていることで、各区間を、磁極方向であるX方向を長手方向として細長い形状とすることができる。従って、パーミアンス係数を大きくし、熱減磁されにくくすることができる。
【0048】
また、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bがサマリウムコバルト磁石によって構成されていることで、ネオジム磁石等と比較して磁力の弱いサマリウムコバルト磁石を用いた場合であっても、上記のように移動側磁石24A、24Bと固定側磁石6A、6Bとの間の反発力を確保することができる。また、収容手段としてのケース5を小型化すると磁力発生手段が温度上昇しやすくなるとともに、磁極方向において磁石を小型化するとパーミアンス係数が低下するものの、キュリー温度が比較的高いサマリウムコバルト磁石を用いることにより、熱減磁されにくくすることができる。
【0049】
さらに、運動ユニット1Aが、振動子2を振動させるリニア振動アクチュエータであることで、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bによって、振動子2の移動の向きを反転させる際に反発力を生じさせることができる。
【0050】
[第2実施形態]
本実施形態の運動ユニット1Bは、
図10に示すように、前記第1実施形態の運動ユニット1Aの移動側磁石24A、24Bを移動側磁石24C、24Dに置き換え、固定側磁石6A、6Bを固定側磁石6C、6Dに置き換えたものである。
【0051】
以下に、移動側磁石24C、24Dおよび固定側磁石6C、6Dの詳細な構造について
図11を参照しつつ説明する。尚、移動側磁石24Cと移動側磁石24Dとは同様の構成を有しており、固定側磁石6Cと固定側磁石6Dとは同様の構成を有している。従って、以下では移動側磁石24Cおよび固定側磁石6Cの構成について説明し、移動側磁石24Dおよび固定側磁石6Dについての説明は省略する。
【0052】
移動側磁石24Cの全体は、各辺がX方向、Y方向およびZ方向に沿った直方体状に形成されており、Y方向において磁気的に区画された第1磁気区間C1と第2磁気区間とC2第3磁気区間C3とを有する。即ち、第1磁気区間C1と第2磁気区間C2との間の区画面、及び、第2磁気区間C2と第3磁気区間C3との間の区画面は、それぞれZX平面に沿ったものとなる。
【0053】
第1磁気区間C1では、N極がY方向における第2磁気区間C2側を向き、S極がその反対側を向いている。第2磁気区間C2では、N極がX方向における外側(固定側磁石6C側)を向き、S極が内側(駆動用磁石22A~22C)を向いている。第3磁気区間C3では、N極がY方向における第2磁気区間C2側を向き、S極がその反対側を向いている。
【0054】
即ち、磁極方向がX方向となる第2磁気区間C2が、磁極方向がY方向となる第1磁気区間C1と第3磁気区間C3とによって挟まれており、移動側磁石24Cがハルバッハ配列とされている。尚、物理的に分離した3つの磁石を組み合わせることにより第1磁気区間C1と第2磁気区間C2と第3磁気区間C3とを形成してもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって第1磁気区間C1と第2磁気区間C2と第3磁気区間C3とを形成してもよい。
【0055】
固定側磁石6Cの全体は、各辺がX方向、Y方向およびZ方向に沿った直方体状に形成されており、Y方向において磁気的に区画された第1磁気区間D1と第2磁気区間とD2第3磁気区間D3とを有する。即ち、第1磁気区間D1と第2磁気区間D2との間の区画面、及び、第2磁気区間D2と第3磁気区間D3との間の区画面は、それぞれZX平面に沿ったものとなる。
【0056】
第1磁気区間D1では、N極がY方向における第2磁気区間D2側を向き、S極がその反対側を向いている。第2磁気区間D2では、N極がX方向における内側(移動側磁石24C側)を向き、S極が外側(壁511側)を向いている。第3磁気区間D3では、N極がY方向における第2磁気区間D2側を向き、S極がその反対側を向いている。
【0057】
即ち、磁極方向がX方向となる第2磁気区間D2が、磁極方向がY方向となる第1磁気区間D1と第3磁気区間D3とによって挟まれており、固定側磁石6Cがハルバッハ配列とされている。尚、物理的に分離した3つの磁石を組み合わせることにより第1磁気区間D1と第2磁気区間D2と第3磁気区間D3とを形成してもよいし、1つの部材を着磁する際に着磁領域を区画することによって第1磁気区間D1と第2磁気区間D2と第3磁気区間D3とを形成してもよい。
【0058】
移動側磁石24Cの第2磁気区間C2と固定側磁石6Cの第2磁気区間D2とがX方向において対向しており、同極同士が向き合っていることで、反発力が生じるようになっている。このように、移動側磁石24Cと固定側磁石6Cとが磁力(反発力)を発生させる磁力発生手段として機能する。また、X方向両側に配置された磁力発生手段は、振動子2を振動中心に向けて移動させる付勢力を発生させることにより、磁気付勢手段としても機能する。
【0059】
ここで、移動側磁石24Cおよび固定側磁石6C周辺の磁力線(磁場ベクトル)について、
図12に基づいて説明する。移動側磁石24Cがハルバッハ配列とされていることで、移動側磁石24Cの第2磁気区間C2における外側端面に磁力線が集中し、磁束密度が高くなる。また、固定側磁石6Cがハルバッハ配列とされていることで、固定側磁石6Cの第2磁気区間D2における内側端面に磁力線が集中し、磁束密度が高くなる。
【0060】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。即ち、移動側磁石24C、24Dおよび固定側磁石6C、6Dが、それぞれ、磁気的に区画されるとともにハルバッハ配列とされていることで、磁石の片側端面に磁力線を集中させることができ、磁石を小型化した場合であっても、移動側磁石24C、24Dと固定側磁石6C、6Dとの間の反発力を確保することができる。
【0061】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記第1、第2実施形態では、各磁石がY方向において磁気的に区画されているものとしたが、区画される方向は、移動側磁石と固定側磁石とが対向する方向(X方向)と交差する方向であればよい。即ち、各磁石がZ方向において(XY平面に沿った区画面を有して)磁気的に区画されてもよいし、Y方向およびZ方向に傾斜する方向において磁気的に区画されてもよい。
【0063】
また、各磁石は複数方向において磁気的に区画されていてもよい。例えば、
図13に端面を示すように、磁石200がX方向およびY方向のいずれにおいても区画され、合計4つの区間を有してもよい。また、
図14に端面を示すように、磁石201がX方向およびY方向のいずれにおいても区画され、合計9つの区間を有してもよい。このとき、隣り合う区間の磁極の向きが互いに逆向きとなっていればよい。
【0064】
また、前記第2実施形態では、各磁石がそれぞれ3つの区間に区画されてハルバッハ配列とされているものとしたが、各磁石は5つ以上の奇数区間に区画されてハルバッハ配列とされていてもよい。
【0065】
また、前記第1実施形態では、移動側磁石24A、24Bおよび固定側磁石6A、6Bがサマリウムコバルト磁石によって構成されているものとしたが、各磁石の材質は、要求される寸法や特性(反発力の強さや耐熱性)等に応じて適宜に選択されればよい。また、移動側磁石と固定側磁石とで材質が異なっていてもよく、例えば熱源となるコイルに近い移動側磁石をサマリウムコバルト磁石によって構成するとともに、コイルから遠い固定側磁石をネオジム磁石によって構成してもよい。
【0066】
また、前記第1実施形態では、運動ユニット1Aが、振動子2を備えたリニア振動アクチュエータであるものとしたが、運動ユニットは、振動を発生させるものに限定されない。即ち、運動ユニットは、所定の運動をする移動部が収容手段に収容され、移動側磁石と固定側磁石との間に反発力を生じさせることにより、移動部に力を加えるものであればよい。
【0067】
また、前記第1、第2実施形態では、駆動手段が、振動子に設けられた磁石と、ケースに設けられたコイルと、によって構成されるものとしたが、振動子にコイルが設けられるとともにケースに磁石が設けられる構成としてもよい。
【0068】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
1A、1B 運動ユニット
2 振動子(移動部)
22A~22C 駆動用磁石
24A~24D 移動側磁石
4 コイル
5 ケース(収容手段)
6A~6D 固定側磁石