IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東光学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-映画撮影用レンズ 図1
  • 特許-映画撮影用レンズ 図2
  • 特許-映画撮影用レンズ 図3
  • 特許-映画撮影用レンズ 図4
  • 特許-映画撮影用レンズ 図5
  • 特許-映画撮影用レンズ 図6
  • 特許-映画撮影用レンズ 図7
  • 特許-映画撮影用レンズ 図8
  • 特許-映画撮影用レンズ 図9
  • 特許-映画撮影用レンズ 図10
  • 特許-映画撮影用レンズ 図11
  • 特許-映画撮影用レンズ 図12
  • 特許-映画撮影用レンズ 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】映画撮影用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/02 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G02B13/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020563096
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049130
(87)【国際公開番号】W WO2020137650
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018240746
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227364
【氏名又は名称】株式会社nittoh
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】大江 和広
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-31831(JP,A)
【文献】特開2014-142601(JP,A)
【文献】特開2015-43016(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129170(WO,A1)
【文献】特開2017-129668(JP,A)
【文献】特開2016-118770(JP,A)
【文献】特開2017-173680(JP,A)
【文献】特開2020-16679(JP,A)
【文献】特開2019-74671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映画撮影用レンズであって、
互いに光軸方向に離間して被写体側から順に配置された、第1レンズ群、第2レンズ群、第3レンズ群、第4レンズ群および第5レンズ群から構成され、
前記第2レンズ群および第4レンズ群は、フォーカシングのために光軸方向に移動する移動レンズであり、
前記第1レンズ群、第3レンズ群および第5レンズ群は、フォーカシングのために移動することがない固定レンズであり、
最も被写体側に配置された移動レンズである第2レンズ群は、被写体側および結像側が凹面とされて負のパワーを有し、
前記第2レンズ群よりも結像側に配置された移動レンズである第4レンズ群は、被写体側および結像側のうち、少なくとも被写体側が凸面とされて正のパワーを有し、
前記第4レンズ群は、焦点距離faと、結像側の曲率半径Raとが、
-0.1≦fa/Ra≦0.1
の関係を満たしている、
ことを特徴とする映画撮影用レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の映画撮影用レンズにおいて、
該映画撮影用レンズの全系の焦点距離ftと、
前記第2レンズ群の焦点距離fm1と、
前記第4レンズ群の焦点距離fm2と、
前記第3レンズ群の焦点距離fSと、
が、
0.7≦ft/|fm1|≦1.5
0.7≦ft/|fm2|≦1.5
0.4≦ft/|fS|≦1.2
の関係を満たしていることを特徴とする映画撮影用レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の映画撮影用レンズにおいて、
前記焦点距離ftと、
前記焦点距離fm1と、
前記焦点距離fm2と、
前記焦点距離fSと、
が、
0.7≦ft/|fm1|≦1.1
0.8≦ft/|fm2|≦1.5
0.5≦ft/|fS|≦1.1
の関係を満たしていることを特徴とする映画撮影用レンズ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の映画撮影用レンズにおいて、
前記第3レンズ群は、負のパワーを有するレンズと正のパワーを有するレンズとの接合レンズである、
ことを特徴とする映画撮影用レンズ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の映画撮影用レンズにおいて、
前記第2レンズ群、第3レンズ群および第4レンズ群は、該映画撮影用レンズの絞り位置よりも被写体側に配置されている、
ことを特徴とする映画撮影用レンズ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の映画撮影用レンズにおいて、
該映画撮影用レンズを構成する各レンズの屈折率の温度係数は、20℃から40℃における温度係数NTaと、-20℃から0℃における温度係数NTbと、40℃から60℃における温度係数NTcとが、
|Σ(NTa-NTb)|≦2
|Σ(NTa-NTc)|≦2
の関係を満たしていることを特徴とする映画撮影用レンズ。
【請求項7】
映画撮影用レンズであって、
互いに光軸方向に離間して被写体側から順に配置された、第1レンズ群、第2レンズ群、第3レンズ群、第4レンズ群および第5レンズ群から構成され、
前記第2レンズ群および第4レンズ群は、フォーカシングのために光軸方向に移動する移動レンズであり、
前記第1レンズ群、第3レンズ群および第5レンズ群は、フォーカシングのために移動することがない固定レンズであり、
最も被写体側に配置された移動レンズである第2レンズ群は、負のパワーを有し、
前記第2レンズ群よりも結像側に配置された移動レンズである第4レンズ群は、正のパワーを有し、
前記第2レンズ群、第3レンズ群および第4レンズ群は、該映画撮影用レンズの絞り位置よりも被写体側に配置されている、
ことを特徴とする映画撮影用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映画撮影用レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されているように、映画の撮影に利用される映画撮影用レンズが知られている。なお本開示における「映画撮影」とは、映画用のフィルム撮影に限らず、ビデオ動画撮影やテレビ映像撮影など、いわゆる動画を撮影する概念を意味するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-215437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来の映画撮影用レンズは、フォーカシング(合焦操作)による画角変動、いわゆるフォーカスブリージングを抑える上で改良の余地が残されている。本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、フォーカスブリージングを抑制できる映画撮影用レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による一つの映画撮影用レンズは、
互いに光軸方向に離間して被写体側から順に配置された、第1レンズ群、第2レンズ群、第3レンズ群、第4レンズ群および第5レンズ群から構成され、
前記第2レンズ群および第4レンズ群は、フォーカシングのために光軸方向に移動する移動レンズであり、
前記第3レンズ群は、フォーカシングのために移動することがない固定レンズであり、
最も被写体側に配置された移動レンズである第2レンズ群は、被写体側および結像側が凹面とされて負のパワーを有し、
前記第2レンズ群よりも結像側に配置された移動レンズである第4レンズ群は、被写体側および結像側のうち、少なくとも被写体側が凸面とされて正のパワーを有し、
前記第4レンズ群は、焦点距離faと、結像側の曲率半径Raとが、
-0.1≦fa/Ra≦0.1
の関係を満たしている
ことを特徴とするものである。
【0006】
なお、上記の「移動レンズ」や「固定レンズ」における「レンズ」とは、1枚のレンズのみを指すものではなく、複数のレンズから構成されたレンズ群も含むものとする。
【0007】
本発明による別の映画撮影用レンズは
互いに光軸方向に離間して被写体側から順に配置された、第1レンズ群、第2レンズ群、第3レンズ群、第4レンズ群および第5レンズ群から構成され、
前記第2レンズ群および第4レンズ群は、フォーカシングのために光軸方向に移動する移動レンズであり、
前記第3レンズ群は、フォーカシングのために移動することがない固定レンズであり、
最も被写体側に配置された移動レンズである第2レンズ群は、負のパワーを有し、
前記第2レンズ群よりも結像側に配置された移動レンズである第4レンズ群は、正のパワーを有し、
前記第2レンズ群、第3レンズ群および第4レンズ群は、該映画撮影用レンズの絞り位置よりも被写体側に配置されている、
ことを特徴とするものである。
【0008】
この本発明による別の映画撮影用レンズにおいても、上記の「移動レンズ」や「固定レンズ」における「レンズ」とは、1枚のレンズのみを指すものではなく、複数のレンズから構成されたレンズ群も含むものとする。
【0009】
前述した通り本発明による一つの映画撮影用レンズは、下記の条件式(1)
-0.1≦fa/Ra≦0.1 ・・・(1)
を満たすものとされている
【0010】
上記の条件式(1)が満たされる場合は、さらに下記条件式(1-1)
-0.05≦fa/Ra≦0.05 ・・・(1-1)
を満たしていることが望ましい。そしてその場合はさらに下記条件式(1-2)あるいは(1-3)を満たしていることがより望ましい。
-0.03≦fa/Ra≦0 ・・・(1-2)
0≦fa/Ra≦0.03 ・・・(1-3)
【0011】
また本発明の映画撮影用レンズにおいては、
該映画撮影用レンズの全系の焦点距離ftと、複数の移動レンズのうち最も被写体側に配置される移動レンズである第2レンズ群の焦点距離fm1と、固定レンズの結像側に配置される移動レンズである第4レンズ群の焦点距離fm2と、固定レンズである第3レンズ群の焦点距離fSとが、下記の条件式(2)
0.7≦ft/|fm1|≦1.5
0.7≦ft/|fm2|≦1.5
0.4≦ft/|fS|≦1.2
を全て満たしていることが好ましい。なお以下では、これら3つの式をまとめて条件式(2)と称する。
【0012】
また上記条件式(2)が満たされる場合は、さらに下記条件式
0.7≦ft/|fm1|≦1.1
0.8≦ft/|fm2|≦1.5
0.5≦ft/|fS|≦1.1
を満たしていることが望ましい。なお以下では、これら3つの式をまとめて条件式(3)と称する。
【0013】
また上記条件式(3)が満たされる場合は、下記条件式
0.8≦ft/|fm1|≦1
1≦ft/|fm2|≦1.3
0.6≦ft/|fS|≦0.8
を満たしていることがさらに望ましい。なお以下では、これら3つの式をまとめて条件式(3-1)と称する。
【0014】
また本発明の映画撮影用レンズにおいて、上記固定レンズである第3レンズ群は、負のパワーを有するレンズと正のパワーを有するレンズとの接合レンズである、ことが望ましい。
【0015】
また本発明の映画撮影用レンズにおいて、上記移動レンズおよび固定レンズは、つまり第2レンズ群、第3レンズ群および第4レンズ群は、該映画撮影用レンズの絞り位置よりも被写体側に配置されている、ことが望ましい。
【0016】
さらに、本発明の映画撮影用レンズにおいて、
該映画撮影用レンズを構成する各レンズの屈折率の温度係数は、20℃から40℃における温度係数NTaと、-20℃から0℃における温度係数NTbと、40℃から60℃における温度係数NTcとが、下記条件式(4)
|Σ(NTa-NTb)|≦2 かつ |Σ(NTa-NTc)|≦2・・・(4)
を満たしていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による映画撮影用レンズは、上記のようにフォーカシングのために光軸方向に移動する複数の移動レンズを備え、それらの少なくとも2つの移動レンズのうち、少なくとも一対の相隣接するレンズの間に、移動しない固定レンズを備えたことにより、フォーカスブリージングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1の映画撮影用レンズを示す断面図
図2】実施例1の映画撮影用レンズを異なる3つの合焦状態毎に示す断面図
図3】実施例1の映画撮影用レンズを構成する光学要素の基本データを示す図
図4】実施例1における接合レンズの合成焦点距離を示す図
図5】実施例1における各レンズの屈折率の温度係数に係るデータを示す図
図6】実施例2の映画撮影用レンズを示す断面図
図7】実施例2の映画撮影用レンズを構成する光学要素の基本データを示す図
図8】実施例2における接合レンズの合成焦点距離を示す図
図9】実施例2における各レンズの屈折率の温度係数に係るデータを示す図
図10】実施例3の映画撮影用レンズを示す断面図
図11】実施例3の映画撮影用レンズを構成する光学要素の基本データを示す図
図12】実施例3における接合レンズの合成焦点距離を示す図
図13】実施例3における各レンズの屈折率の温度係数に係るデータを示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。以下では、各構成要素の詳しい数値例を示しながら実施例1~3について説明する。
【0020】
[実施例1]
図1は、本発明の一実施形態に係る映画撮影用レンズ(以下、これを実施例1の映画撮影用レンズという)のレンズ構成を示す断面図である。図1においては、左側が被写体側で右側が結像側であり、無限遠合焦状態にある映画撮影用レンズを示している。以上述べた表示の仕方は、後述する実施例2および3の映画撮影用レンズをそれぞれ示す図6および図10においても同様である。
【0021】
本実施例1の映画撮影用レンズは、光軸Zに沿って被写体側から順に配置された、正の屈折力を有する第1レンズ群G1、負の屈折力を有する第2レンズ群G2、正の屈折力を有する第3レンズ群G3、正の屈折力を有する第4レンズ群G4、および負の屈折力を有する第5レンズ群G5を有している。第2レンズ群G2および第4レンズ群G4は後に詳述するように、無限遠被写体と最至近被写体との間でフォーカシング(合焦)する際に、隣接するレンズ群との間隔が変化するように光軸Z方向に移動するフォーカス群である。それら以外の第1レンズ群G1、第3レンズ群G3および第5レンズ群G5は、フォーカシングの際に像面Simとの間の距離が変化することのない固定群とされている。
【0022】
なお、上記の「レンズ群」とは、複数のレンズから構成されたものだけでなく、1枚のレンズのみで構成されるものも含むものとする。また、「正の屈折力を有する」ことについては、以下、単に「正の」あるいは「正」と言うこともある。この点は、「負の屈折力を有する」ことについても同様である。
【0023】
第1レンズ群G1は、1枚の両凸レンズL1から構成されている。第2レンズ群G2は、光軸Zに沿って被写体側から順に配置された、両凹レンズL2、およびこのレンズL2に接合された正のメニスカスレンズL3から構成されている。第3レンズ群G3は、光軸Zに沿って被写体側から順に配置された、被写体側に凸面を向けた負のメニスカスレンズL4、およびこのレンズL4に接合された両凸レンズL5から構成されている。第4レンズ群G4は、1枚の正の両凸レンズL6から構成されている。第5レンズ群G5は、光軸Zに沿って被写体側から順に配置された、両凹レンズL7、両凸レンズL8、結像側に凸面を向けた負のメニスカスレンズL9、このレンズL9に接合された両凹レンズL10、結像側に凸面を向けた負のメニスカスレンズL11、このレンズL11に接合された結像側に凸面を向けた正のメニスカスレンズL12、および結像側に凸面を向けた正のメニスカスレンズL13から構成されている。
【0024】
第5レンズ群G5において、レンズL8とレンズL9との間には開口絞りStが配置されており、レンズL10とレンズL11との間にはフレアカッタSvが配置されている。なお、上記の開口絞りStおよびフレアカッタSvは必ずしも大きさや形状を表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。本実施形態の映画撮影用レンズを撮像装置に適用する際には、レンズを装着するカメラ側の構成に応じて、光学系と像面Simの間にカバーガラス、プリズム、赤外線カットフィルタ、およびローパスフィルタ等の各種フィルタを配置することが多い。図1は、このような場合を想定して、平行平面板状のカバーガラスCGがレンズ系と像面Simとの間に配置された例を示している。
【0025】
ここで図2の上段、中段、および下段にそれぞれ、上記構成の映画撮影用レンズが無限遠被写体に合焦している場合の状態、無限遠と最至近との間の中間位置にある被写体に合焦している場合の状態、および最至近被写体に合焦している場合の状態を、各々「INF」、「MID」、「MOD」の表記を付けて示す。ここに示される通り本実施例1では、合焦させる被写体が遠側から近側に移動するのにつれて、第2レンズ群G2および第4レンズ群G4は光軸Zに沿って被写体側に移動する。それに対して、第2レンズ群G2よりも被写体側に配置された第1レンズ群G1、第2レンズ群G2と第4レンズ群G4との間に配置された第3レンズ群G3、そして第4レンズ群G4よりも結像側に配置された第5レンズ群G5は、フォーカシングの際に移動することのない固定群とされている。
【0026】
以上のように、互いに光軸Z方向に離間して配置され、フォーカシングのために光軸Z方向に移動する第2レンズ群G2と第4レンズ群G4との間に、固定レンズすなわち第3レンズ群G3を配置しておくことにより、前述したフォーカスブリージングを抑制可能となる。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。
【0027】
また、上述のように移動する第2レンズ群G2および第4レンズ群G4の中で、最も被写体側に配置されたレンズつまり第2レンズ群G2は負のパワーを有しており、また、この負のパワーを有する第2レンズ群G2よりも結像側に配置されたレンズL6は正のパワーを有する両凸レンズとされている。このようなパワー配置とすることにより、フォーカスブリージングを抑制する効果はより顕著になる。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。なお、負のパワーを有するレンズL2よりも結像側において、両凸レンズL6に加えて、正のパワーを有するレンズがさらに配置されてもよい。
【0028】
なお、上述のように負のパワーを有する第2レンズ群G2は全体として、被写体側および結像側に凹面を有しており、そして上記正のパワーを有するレンズL6は、被写体側および結像側のうち少なくとも被写体側に凸面を有するものである。このようなレンズ面形状としておくことにより、フォーカスブリージングを抑制する効果はよりさらに顕著になる。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。
【0029】
なお上記レンズL6は、被写体側および結像側の双方に凸面を有する両凸レンズであるが、そのような両凸レンズに代えて、正のパワーを有して被写体側のみに凸面を有するレンズ、つまり正のメニスカスレンズが用いられてもよい。後述する実施例2および実施例3は、そのように構成されている。
【0030】
上述のように移動する第2レンズ群G2と第4レンズ群G4との間に配置された第3レンズ群G3は、負のパワーを有するレンズL4と、正のパワーを有するレンズL5とが接合されてなる接合レンズから構成されている。このような接合レンズを適用することにより、色収差を抑えることができる。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。
【0031】
また、上述のように移動する第2レンズ群G2および第4レンズ群G4、ならびにそれらの間に配置された第3レンズ群G3は、本映画撮影用レンズにおいて設けられた開口絞りStおよびフレアカッタSvよりも被写体側に配置されている。開口絞りStおよびフレアカッタSvは一般に有効径の大きなレンズの近くに配置されるが、そのような絞り位置よりも被写体側に配置されたレンズをフォーカシングのために移動させれば、フォーカスブリージングを抑え易くなる。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。
【0032】
次に、本実施例1における各部仕様の数値について、無限遠合焦時の値を図3図5を参照して説明する。なお、以下で説明する数値は好ましい例であって、本発明においてそれらの数値だけが適用され得るものではないことは勿論である。
【0033】
実施例1の映画撮影用レンズの基本レンズデータを図3に示す。また実施例1で用いられている接合レンズの合成焦点距離を図4に示す。各レンズの屈折率の温度係数に関するデータを図5に示す。以下、表中の記号の意味について、実施例1のものを例に挙げて説明するが、実施例2および実施例3についても基本的に同様である。
【0034】
図3の基本レンズデータにおいて、No.の欄には最も被写体側の構成要素の面を1番目として結像側に向かうにつれて順次増加するi番目(i=1、2、3、…)の面番号を示す。なおi=0の面は、「OBJ」として示す被写体の面である。Riの欄にはi番目の面の曲率半径を示し、diの欄にはi番目の面とi+1番目の面との光軸Z上の面間隔を示す。Diの欄にはi番目の面の有効径を示す。以上の長さを示すデータの単位はmmである。またndの欄には、最も被写体側の光学要素を1番目として結像側に向かうにつれて順次増加するj番目(j=1、2、3、…)の光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率を示し、νdの欄には同じくj番目の光学要素のd線に対するアッベ数を示し、焦点距離の欄には同じくj番目の光学要素のd線に対する焦点距離を示す。なお、レンズについてはL1やL2のようにLに数字を付けて特定しているが、その数字が上記のjである。
【0035】
曲率半径の符号は、面形状が被写体側に凸の場合を正、結像側に凸の場合を負としている。基本レンズデータには、開口絞りSt、フレアカッタSv、カバーガラスCG、像面Simも含めて示している。開口絞りStおよびフレアカッタSvに相当する面には、それぞれ面番号を記載している。また、diの下から2番目の欄の値は、カバーガラスCGの結像側の面と像面Simとの面間隔である。
【0036】
図3および図4に示す焦点距離の単位はmmであり、正のパワーを有するレンズの焦点距離は正値とし、負のパワーを有するレンズの焦点距離は負値としている。図4の「合成焦点距離」についは、左の欄に、互いに接合される2つのレンズを「/」を挟んで前後に示した上で、その右の欄に合成焦点距離を示している。この合成焦点距離の値も、d線に対するものである。
【0037】
図5に示す各レンズの屈折率の温度係数については、e線(波長546.07nm)に対する値を示しており、NTaとして20℃~40℃の範囲における値を、NTbとして-20℃~0℃の範囲における値を、NTcとして40℃~60℃の範囲における値を示している。また、この表の右2つの列には、NTaとNTbとの差、およびNTaとNTcとの差を示している。なお、以上述べた図3図5の各表では、所定の桁で適宜まるめた数値を記載している。
【0038】
以下、前述した条件式(1)が規定している各値について検討する。本実施例において、被写体側に凸面を有して正のパワーを有する移動レンズは両凸レンズL6である。図3より、この両凸レンズL6の結像側の曲率半径Ra=-9814.0mmであり、またその焦点距離fa=239.640mmである。よってfa/Ra=-0.024である。このように本実施例では条件式(1)が満たされており、両凸レンズL6の結像側のレンズ面が平面に近い程度の曲率半径を有していることが分かる。このような構成とすることにより本実施例の映画撮影用レンズによれば、フォーカスブリージングをより一層抑えることができる。なお、fa/Raの値が条件式(1)の上限値を超えたり、下限値を下回ると、フォーカスブリージングをより一層抑えることができるという効果を顕著に得ることはできない。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。
【0039】
なお、より詳細に検討すると、fa/Ra=-0.024の値は、前述した(1-1)式も、さらには(1-2)式も満たしており、そこで、フォーカスブリージングをより一層抑えることができるという効果がさらに顕著なものとなる。
【0040】
次に、前述した条件式(2)が規定している各値について検討する。本実施例において、映画撮影用レンズの全系の焦点距離ft=280mmである。また、複数の移動レンズのうち1のレンズである最も被写体側に配置されるレンズである第2レンズ群G2(レンズL2およびL3)の焦点距離fm1は=-310.890であり、他の一つのレンズである固定レンズであるレンズ群G3の結像側に配置される少なくとも1つの正のパワーを有する移動レンズである第4レンズ群G4(レンズL6)の焦点距離fm2=239.640である。そして、固定レンズである第3レンズ群G3(レンズL4およびL5)の焦点距離fS=406.420である。以上の値から、ft/|fm1|の値、ft/|fm2|の値ft/|fS|の値を求めると、それらは、
ft/|fm1|=0.90
ft/|fm2|=1.17
ft/|fS|=0.67
の値を取る。
【0041】
したがって本実施例では、条件式(2)が満たされている。また、ft/|fm1|=0.90、ft/|fm2|=1.17、ft/|fS|=0.67は、条件式(3)および条件式(3-1)についても満たしている。このような構成とすることにより本実施例の映画撮影用レンズによれば、フォーカスブリージングをより一層抑えることができる。なお、ft/|fm1|の値、ft/|fm2|の値、ft/|fS|の値が条件式(2)の上限値を超えたり、下限値を下回ると、フォーカスブリージングをより一層抑えることができるという効果を顕著に得ることはできない。この条件式(2)、(3)、(3-1)から導かれるように、固定レンズの焦点距離fSを移動レンズの焦点距離fmよりも大きく設定しておくことにより、この点からもフォーカスブリージングを抑制可能となる。以上述べた構成、および、それにより得られている効果は、後述する実施例2および実施例3においても当てはまるものである。
【0042】
次に、各レンズの屈折率の温度係数等を示す図5を参照して、前述した条件式(4)が規定している各値について検討する。Σ(NTa-NTb)は、レンズL1~L13の各々についてのNTa-NTbの値を全て加えたものである。またΣ(NTa-NTc)は、レンズL1~L13の各々についてのNTa-NTcの値を全て加えたものである。それらを図5に示す値から求めると、
Σ(NTa-NTb)=0.3
Σ(NTa-NTc)=-1.2
である。したがって、本実施例では条件式(4)が満たされている。それにより、映画撮影用レンズの焦点位置が、温度変化によって変動することを抑制できる。
【0043】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2による映画撮影用レンズについて説明する。なお以下では、実施例1との相違点を主に説明する。図6に断面図を示す本実施例2の映画撮影用レンズは、実施例1の映画撮影用レンズと対比すると、第5レンズ群G5においてレンズL10とフレアカッタSvとの間にレンズL11が配置されている点で異なる。なお、レンズL11は両凹レンズである。また実施例1ではレンズL6が両凸レンズであるの対し、本実施例2ではレンズL6として正のメニスカスレンズが適用されている。
【0044】
実施例2の映画撮影用レンズの基本レンズデータを図7に示す。また実施例2で用いられている接合レンズの合成焦点距離を図8に示す。各レンズの屈折率の温度係数に関するデータを図9に示す。
【0045】
以下、前述した条件式(1)が規定している各値について検討する。本実施例2において、被写体側に凸面を有して正のパワーを有する移動レンズは両凸レンズL6である。図7より、この両凸レンズL6の結像側の曲率半径Ra=18730.1mmであり、またその焦点距離fa=296.090mmである。よってfa/Ra=0.016である。このように本実施例2でも条件式(1)が満たされており、両凸レンズL6の結像側のレンズ面が平面に近い程度の曲率半径を有していることが分かる。このような構成とすることにより本実施例の映画撮影用レンズによれば、フォーカスブリージングをより一層抑えることができる。詳細に検討すると、fa/Ra=0.016の値は、前述した(1-1)式も、さらには(1-3)式も満たしており、そこで、フォーカスブリージングをより一層抑えることができるという効果がさらに顕著なものとなる。
【0046】
本実施例において、映画撮影用レンズの全系の焦点距離ft=280mmである。また、複数の移動レンズのうち1のレンズである第2レンズ群G2(レンズL2およびL3)の焦点距離fm1は=-307.130であり、他の一つのレンズである第4レンズ群G4(レンズL6)の焦点距離fm2=296.090である。そして、固定レンズである第3レンズ群G3(レンズL4およびL5)の焦点距離fS=319.700である。以上の値から、ft/|fm1|の値、ft/|fS|の値を求めると、それらは、
ft/|fm1|=0.91
ft/|fm2|=0.95
ft/|fS|=0.88
の値を取る。
【0047】
したがって本実施例では、条件式(2)、(3)が満たされている。このような構成とすることにより本実施例の映画撮影用レンズによれば、フォーカスブリージングをより一層抑えることができる。この条件式(2)、(3)から導かれるように、固定レンズの焦点距離fSを移動レンズの焦点距離fmよりも大きく設定しておくことにより、この点からもフォーカスブリージングを抑制可能となる。
【0048】
次に、各レンズの屈折率の温度係数等を示す図9を参照して、前述した条件式(4)が規定している各値について検討する。Σ(NTa-NTb)は、レンズL1~L14の各々についてのNTa-NTbの値を全て加えたものである。またΣ(NTa-NTc)は、レンズL1~L14の各々についてのNTa-NTcの値を全て加えたものである。それらを図9に示す値から求めると、
Σ(NTa-NTb)=0.9
Σ(NTa-NTc)=-1.3
である。したがって、本実施例では条件式(4)が満たされている。それにより、映画撮影用レンズの焦点位置が、温度変化によって変動することを抑制できる。
【0049】
[実施例3]
次に、本発明の実施例3による映画撮影用レンズについて説明する。図10に断面図を示す本実施例3の映画撮影用レンズは、実施例1の映画撮影用レンズと対比すると、第5レンズ群G5においてレンズL10とフレアカッタSvとの間にレンズL11が配置されている点で異なる。なお、レンズL11は被写体側に凸面を向ける負のメニスカスレンズである。また実施例1ではレンズL6が両凸レンズであるの対し、本実施例3ではレンズL6として正のメニスカスレンズが適用されている。
【0050】
実施例3の映画撮影用レンズの基本レンズデータを図11に示す。また実施例3で用いられている接合レンズの合成焦点距離を図12に示す。各レンズの屈折率の温度係数に関するデータを図13に示す。
【0051】
以下、前述した条件式(1)が規定している各値について検討する。本実施例3において、被写体側に凸面を有して正のパワーを有する移動レンズは両凸レンズL6である。図11より、この両凸レンズL6の結像側の曲率半径Ra=17285.5mmであり、またその焦点距離fa=270.640mmである。よってfa/Ra=0.016である。このように本実施例3でも条件式(1)が満たされており、両凸レンズL6の結像側のレンズ面が平面に近い程度の曲率半径を有していることが分かる。このような構成とすることにより本実施例の映画撮影用レンズによれば、フォーカスブリージングをより一層抑えることができる。詳細に検討すると、fa/Ra=0.016の値は、前述した(1-1)式も、さらには(1-3)式も満たしており、そこで、フォーカスブリージングをより一層抑えることができるという効果がさらに顕著なものとなる。
【0052】
本実施例において、映画撮影用レンズの全系の焦点距離ft=280mmである。また、複数の移動レンズのうち1のレンズである第2レンズ群G2(レンズL2およびL3)の焦点距離fm1は=-312.500であり、他の一つのレンズである第4レンズ群G4(レンズL6)の焦点距離fm2=270.640である。そして、固定レンズである第3レンズ群G3(レンズL4およびL5)の焦点距離fS=344.920である。以上の値から、ft/|fm1|の値、ft/|fS|の値を求めると、それらは、
ft/|fm1|=0.89
ft/|fm2|=1.03
ft/|fS|=0.81
の値を取る。
【0053】
したがって本実施例では、条件式(2)、(3-1)が満たされている。このような構成とすることにより本実施例の映画撮影用レンズによれば、フォーカスブリージングをより一層抑えることができる。この条件式(2)、(3-1)から導かれるように、固定レンズの焦点距離fSを移動レンズの焦点距離fmよりも大きく設定しておくことにより、この点からもフォーカスブリージングを抑制可能となる。
【0054】
次に、各レンズの屈折率の温度係数等を示す図13を参照して、前述した条件式(4)が規定している各値について検討する。Σ(NTa-NTb)は、レンズL1~L14の各々についてのNTa-NTbの値を全て加えたものである。またΣ(NTa-NTc)は、レンズL1~L14の各々についてのNTa-NTcの値を全て加えたものである。それらを図13に示す値から求めると、
Σ(NTa-NTb)=0.2
Σ(NTa-NTc)=-1.0
である。したがって、本実施例では条件式(4)が満たされている。それにより、映画撮影用レンズの焦点位置が、温度変化によって変動することを抑制できる。
【0055】
以上、複数の実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズ成分の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数等の値は、上記各実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得るものである。
【符号の説明】
【0056】
CG カバーガラス
G1 第1レンズ群
G2 第2レンズ群
G3 第3レンズ群
G4 第4レンズ群
G5 第5レンズ群
L1~L14 レンズ
St 開口絞り
Sv フレアカッタ
Sim 像面
Z 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13