(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】加熱処理竹材
(51)【国際特許分類】
B27K 9/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
B27K9/00 K
(21)【出願番号】P 2022207328
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022005548
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上條 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】荒船 博之
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108466343(CN,A)
【文献】登録実用新案第3086873(JP,U)
【文献】特開2004-231545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ酸の含有量が、30,000~40,000nmol/gであ
り、グリコール酸の含有量が、2,000~4,000nmol/gである加熱処理竹材。
【請求項2】
ベタインの含有量が、5,000~7,000nmol/gである請求項
1に記載の加熱処理竹材。
【請求項3】
窒素吸着法により測定されるBET比表面積が10m
2/gである請求項1または2に記載の加熱処理竹材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理竹材に係り、さらに詳しくは、消臭効果が高く、耐腐食性に優れた加熱処理竹材に関する。
【背景技術】
【0002】
竹は、常緑性の多年生植物であり、毎年地下茎の節にある芽子から新しい竹を発生させ、数ヶ月で成竹になるという高い成長力を有することから、山林への侵食が日々進んでおり、放置竹林や拡大竹林が問題となっている。そこで、伐採した竹を有効利用することが望まれている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、竹材を粉砕して竹チップにする竹チップ製造手段と、前記竹チップ製造手段により製造された竹チップから可燃性ガスを生成するガス化手段と、前記ガス化手段で生成された可燃性ガスを燃焼させて発電するガスエンジン発電手段と、前記ガスエンジン発電手段で排出した排熱を熱源として用いる農業設備(たとえば温室、農産物加工工場等)とを含む竹バイオマスを使用した農園システムが提案されている。
【0004】
上記特許文献1の技術のように、竹材の有効利用が促進されているものの、竹材のさらなる有効利用という観点から、幅広い用途への展開が望まれていた。
【0005】
一方で、竹材について、燻蒸処理する技術が提案されている(たとえば、特許文献2~4)。
たとえば、特許文献2では、乾燥させた原竹材を燻蒸精製して、竹炭を得ることができる点が開示されている。
また、特許文献3には、木質材料の不完全燃焼によって発生する高濃度の煙含有燃焼ガスに、竹材を100~140℃の温度範囲内で20~40時間接触させて加熱燻煙し、その後、上記ガスの導入を停止して、20時間以上常温で徐冷して煤竹を得、該煤竹を加工して所望の煤竹製品を製作する方法が開示されている。
さらに、特許文献4には、燻蒸竹を得る際に、初期は80℃~90℃で8時間消火後40時間で点火、中期は90℃~110℃で40時間消火後50℃で昇温、後期は190℃~210℃で5時間後鎮火冷却することで、表面にむらのない淡茶色の潤いと艶のある燻蒸竹を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-136259号公報
【文献】特開2006-43158号公報
【文献】特開2009-269223号公報
【文献】登録実用新案第3100348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、消臭効果が高く、耐腐食性に優れた加熱処理竹材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために鋭意研究したところ、上記特許文献2の技術においては、燻蒸処理の具体的な条件については記載も示唆もされておらず、また、上記特許文献2の開示によれば、燻蒸精製することで、竹炭を得る技術であることから、完全に炭化させる程度の高温、高時間の燻蒸処理を必要とするものであるといえ、そのため、消臭効果を高めた加熱処理竹材を得られないものであった。
【0009】
また、上記特許文献3の技術では、燻蒸処理の条件を、100~140℃の温度範囲内で20~40時間とするものであり、すなわち、燻蒸処理の条件を長時間とする技術であり、このような長時間の燻蒸処理では、消臭効果を高めた加熱処理竹材を得られないものであった。
【0010】
さらに、上記特許文献4の技術では、燻蒸処理の条件を、190℃~210℃で5時間とするものであり、すなわち、燻蒸処理の条件を高温とするものであり、この場合には、得られる加熱処理竹材は、炭化してしまい、消臭効果を高めた加熱処理竹材を得られないものであった。
【0011】
これに対し、本発明者等が検討を重ねたところ、竹材を加熱処理することにより、リンゴ酸の含有量を特定の範囲に制御することで、高い消臭効果を有し、しかも、耐腐食性にも優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、リンゴ酸の含有量が、30,000~40,000nmol/gである加熱処理竹材が提供される。
【0013】
本発明の加熱処理竹材は、グリコール酸の含有量が、2,000~4,000nmol/gであることが好ましい。
また、本発明の加熱処理竹材は、ベタインの含有量が、5,000~7,000nmol/gであることが好ましい。
さらに、本発明の加熱処理竹材は、窒素吸着法により測定されるBET比表面積が10m2/g以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、消臭効果が高く、耐腐食性に優れた加熱処理竹材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の加熱処理竹材を製造するために用いられる燻蒸窯の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の加熱処理竹材は、リンゴ酸(Malic acid)の含有量が、30,000~40,000nmol/gであるものである。
本発明者等が、竹材を加熱処理することにより得られる加熱処理竹材について、その消臭効果および耐腐食性について鋭意検討を行ったところ、リンゴ酸の含有量を上記範囲に制御することにより、加熱処理竹材を、消臭効果が高く、耐腐食性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。また、本発明の加熱処理竹材によれば、リンゴ酸の含有量を上記範囲に制御することにより、静菌効果や抗菌効果を奏することも期待できるものである。
【0017】
加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量は、30,000~40,000nmol/gであり、好ましくは31,000nmol/g以上であり、より好ましくは32,000nmol/g以上であり、さらに好ましくは33,000nmol/g以上である。また、加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量の上限は、好ましくは40,000nmol/g以下、より好ましくは38,000nmol/g以下、さらに好ましくは36,000nmol/g以下、さらにより好ましくは35,000nmol/g以下である。
【0018】
加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量は、たとえば、加熱処理竹材について、メタボローム解析による濃度測定を行うことにより測定することができる。具体的には、本発明の加熱処理竹材を、抽出溶剤としてのメタノール、メタノールの超純水(たとえば、超純水装置Milli-Qによる超純水)水溶液または、ギ酸-アセトニトリルの超純水(たとえば、超純水装置Milli-Qによる超純水)水溶液に浸漬させ、遠心分離(2,300×g、4℃、5分)後、分取した一部を採取し、限外ろ過処理を行った後、超純水(たとえば、超純水装置Milli-Qによる超純水)またはイソプロパノール水溶液にて溶出された成分について、CE-TOFMSまたはLC-TOFMSにより測定し、メタボローム解析を行い、加熱処理竹材に含まれる成分の濃度測定を行うことで、加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量を測定することができる。CE-TOFMSは、キャピラリー電気泳動/飛行時間型質量分析装置(Capillary Electrophoresis/Time-of-flight Mass Spectrometer)であり、LC-TOFMSは、液体クロマトグラフ/飛行時間型質量分析装置(Liquid Chromatograph/Time-of-flight Mass Spectrometer)である。
【0019】
なお、CE-TOFMSおよび/またはLC-TOFMSによる、メタボローム解析を行う際には、加熱処理竹材について、表皮を除去した状態とし(表皮側の表面から、1mm以上の厚みを除去した状態とし)、かつ、必用に応じて、破砕あるいは粉砕し、たとえば、平均粒子径が1mm以下の粉状とされた状態にて、測定を行うことが望ましい。
【0020】
すなわち、本発明の加熱処理竹材は、加熱処理された竹材であって、表皮が除去された(表皮側の表面から、1mm以上の厚みにて除去された)ものである。また、本発明の加熱処理竹材の形状は、特に限定されないが、表皮が除去される一方で、竹の形状をそのまま保持したものであってもよいし、所定のサイズに加工された板状のものや、チップ状のものであってもよいし、粉末化され、大きさは特に限定されないが、好ましくは0.01~1000μm、より好ましは0.1~500μmとして用いられる。さらに好ましくは1~100μm、最も好ましくは10~70μmである。この理由は、加熱乾燥破砕物の粒径が0.01μm未満であると消臭抗菌効果に劣るからであり、1000μmを超えると対象物に塗布した時に剥がれやすいためである。このようにして、この粒径を有する本発 明の竹の加熱乾燥破砕物は、好適に対象物に塗布して使用できる。この場合において、加熱処理竹材のサイズ(大きさ)は、たとえば、光学顕微鏡や電子顕微鏡にて直接観察する他、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器の方法により測定することができ、たとえば、平均粒子径として求めることができる。
【0021】
なお、加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量の測定に際しては、メタボローム解析による濃度測定による方法の他、高速液体クロマトグラフィにより測定を行い、高速液体クロマトグラフィによる測定結果から、所定の換算処理を行うことにより、測定してもよい。この際における抽出手法は、メタボローム解析における抽出方法と同様とすればよい。高速液体クロマトグラフィによる測定結果と、メタボローム解析による測定結果とは、所定の相関関係を有するため、これらの相関関係に基づく、換算処理を行うことで、加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量を適切に求めることができる。
【0022】
本発明の加熱処理竹材は、ベタイン(Betaine)の含有量が、5,000~7,000nmol/gであることが好ましい。加熱処理竹材のベタインの含有量は、より好ましくは5,100nmol/g以上であり、さらに好ましくは5,200nmol/g以上である。また、加熱処理竹材のベタインの含有量の上限は、好ましくは7,000nmol/g以下、より好ましくは6,500nmol/g以下、さらに好ましくは6,000nmol/g以下、さらにより好ましくは5,500nmol/g以下である。加熱処理竹材のベタインの含有量を上記範囲とすることにより、消臭効果をより高めることができる。なお、加熱処理竹材のベタインの含有量は、上述したリンゴ酸の含有量と同様に、加熱処理竹材について、メタボローム解析による濃度測定を行うことにより測定することができる。
【0023】
また、本発明の加熱処理竹材は、グリコール酸(Glycolic acid)の含有量が、2,000~4,000nmol/gであることが好ましい。加熱処理竹材のグリコール酸の含有量は、より好ましくは2,200nmol/g以上であり、さらに好ましくは2,400nmol/g以上である。また、加熱処理竹材のベタインの含有量の上限は、好ましくは4,000nmol/g以下、より好ましくは3,500nmol/g以下、さらに好ましくは3,000nmol/g以下、さらにより好ましくは2,800nmol/g以下である。加熱処理竹材のグリコール酸の含有量を上記範囲とすることにより、消臭効果をより高めることができる。なお、加熱処理竹材のグリコール酸の含有量は、上述したリンゴ酸の含有量と同様に、加熱処理竹材について、メタボローム解析による濃度測定を行うことにより測定することができる。
【0024】
さらに、本発明の加熱処理竹材は、耐腐食性をより高めることができるという観点より、グルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸の量が低く抑えられたものであることが好ましく、グルコース-1-リン酸の含有量は、好ましくは200nmol/g以下であり、より好ましくは10~100nmol/gである。また、グルコース-6-リン酸の含有量は、好ましくは150nmol/g以下であり、より好ましくは10~80nmol/gであり、フルクトース-6-リン酸の含有量は、好ましくは130nmol/g以下であり、より好ましくは10~60nmol/gである。加熱処理竹材のグルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸の含有量は、上述したリンゴ酸の含有量と同様に、加熱処理竹材について、メタボローム解析による濃度測定を行うことにより測定することができる。
【0025】
また、本発明の加熱処理竹材は、窒素吸着法により測定されるBET比表面積が10m2/g以下であることが好ましく、0.01~5m2/gであることがより好ましく、0.1~3m2/gであることがさらに好ましい。BET比表面積を上記範囲とすることにより、高い消臭効果を実現しながら、耐腐食性により一層優れたものとすることができる。
【0026】
本発明の加熱処理竹材は、平衡水分率が10~30重量%であることが好ましく、15~25重量%であることが好ましく、18~23重量%であることがより好ましい。平衡水分率が上記範囲にあることにより、優れた耐腐食性を実現しながら、高い消臭効果を長期間に亘り持続可能なものとすることができる。平衡水分率が低すぎると、加熱処理竹材の脆性が増加する傾向にあり、一方、平衡水分率が高すぎると、腐食が起こり易くなる傾向にある。なお、平衡水分率は、所定形状とされた加熱処理竹材を、25℃、60%RHの室内に24時間放置後、その重量(W1)を測定し、次いで、庫内温度150℃の対流式乾燥機内に静置し、240時間後の重量(W2)を測定し、下記式にしたがって、平衡水分率を求めることができる。なお、本測定条件によれば、加熱処理竹材の1時間当たりの重量変化率は1%以下となり、恒量とみなすことができる。
平衡水分率(重量%)=(W1-W2)/W1×100
【0027】
本発明の加熱処理竹材の製造方法は、リンゴ酸の含有量を上記範囲に好適に制御できるという観点より、生竹材の地上茎部を伐採し、伐採した生竹材の地上茎部を、地上茎の形状を保持した状態にて、炉あるいは窯の中において、木質系燃料(たとえば、木材や竹材など)を燃焼させ、これにより発生する燻煙および輻射熱により加熱する方法が好適に用いられる。すなわち、木質系燃料の燃焼により発生する燻煙を利用し、伐採した生竹材を、燻煙により燻しながら、輻射熱により加熱し、これにより、竹材の表面に煤が付着するような状態としながら、輻射熱により加熱する燻蒸熱処理が好適に用いられ、これにより、本発明の加熱処理竹材は、燻蒸熱処理竹材として得ることができる。
【0028】
図1は、本発明の加熱処理竹材の製造するために用いられる燻蒸窯の一例を示す図である。
図1に示す燻蒸窯(タンドリー窯)によれば、燻蒸窯中には、燻蒸熱処理対象とされる竹材と、木質系燃料とがそれぞれ配置され、燻蒸窯中に連続的に空気を送りこみながら、木質系燃料を燃焼させることで、燻煙および輻射熱を発生させ、発生させた燻煙および輻射熱より、竹材の燻蒸熱処理を好適に行うことができる。
【0029】
図1に示す燻蒸窯によれば、燻蒸熱処理対象とされる竹材が高温になり過ぎないように、かつ、燻蒸熱処理対象とされる竹材と木質系燃料の燃焼場所の距離を確保でき、燻煙と輻射熱とを、燻蒸熱処理対象とされる竹材表面に適切に到達させることができる。そして、これにより、竹材の燻蒸熱処理を適切に行うことができるものである。なお、本発明の加熱処理竹材の製造するために用いられる燻蒸窯としては、
図1に示す態様に特に限定されるものではなく、たとえば、二段式のピザ窯設計の窯等などを用いることもできる。
【0030】
本発明の加熱処理竹材の製造するために用いられる、竹材(生竹材)としては、特に限定されないが、イネ目イネ科タケ亜科マダケ属(Poales Poaceae Bambusoideae Phyllostachys)に属する竹を好適に用いることができる。マダケ属として、マダケ(Phyllostachys bambusoides Sieb.et Zucc.)、モウソウチク(Phyllostachys heterocycla Mitf. var.pubescens Ohwi)、クロチク(Phyllostachys nigra Munro)、ハチク(Phyllostachys nigra Munro var.henonis Stapf)、ホテイチク(Phyllostachys bambusoides Sieb.et Zucc.var. aurea Makino)、ケイチク(Phyllostachys makinoi Hayata)等が挙げられる。これらのマダケ属の中では、モウソウチクが好適であり、モウソウチクにはキッコウチク(Phyllostachys heterocycla Mitf. var. pubescens Ohwi cv.Heterocycla)、キンメイモウソウチク(Phyllostachys heterocycla Mitf. var.pubescens Ohwi cv.Nabeshimana)等の品種も含まれる。
【0031】
本発明の加熱処理竹材の製造において、燻蒸熱処理対象とされる竹材(生竹材)としては、生竹材の地上茎部を伐採し、伐採した生竹材の地上茎部を、地上茎の形状を保持した状態にて用い、これを、
図1に示す燻蒸窯に配置することで、燻蒸熱処理すればよいが、地上茎の形状を保持した状態としつつ、燻蒸窯の大きさに応じたサイズ(たとえば、20~70cm程度)に、適宜、裁断して用いてもよい。
【0032】
本発明の加熱処理竹材の製造において、燻煙および輻射熱による、燻蒸熱処理の条件は、リンゴ酸の含有量を上記した範囲とするという観点より、燻蒸熱処理対象とされる竹材の内壁面(中空部と、中空部を囲む壁部とを画定する面)の温度が、70~120℃となる条件にて、燻蒸熱処理を行えばよく、竹材の内壁面の温度が、75~110℃となる条件とすることが好ましく、竹材の内壁面の温度が、80~110℃となる条件とすることがより好ましい。また、燻蒸熱処理時間は、30~360分間とすればよく、好ましくは45~180分間、より好ましくは60~120分間である。本発明者等が検討を行ったところ、加熱処理竹材を得る際に、燻蒸熱処理により加熱を行い、かつ、燻蒸熱処理の条件を上記の通りとすることにより、得られる加熱処理竹材に含まれるリンゴ酸の含有量を、30,000~40,000nmol/gとすることができ、これにより、消臭効果が高く、耐腐食性に優れたものとすることができることを見出したものである。特に、本発明者等の知見によると、燻蒸熱処理を行う際における、竹材の内壁面の温度を特定の範囲に制御することが、重要であることを見出したものである。
【0033】
燻蒸熱処理の温度が高すぎると、竹材の炭化が進行してしまい、これにより、リンゴ酸の含有量が低くなりすぎてしまい、結果として、消臭効果を得ることができない。燻蒸熱処理の温度が低すぎても、熱処理が不十分となってしまい、リンゴ酸の含有量が低くなりすぎてしまい、結果として、消臭効果を得ることができない。また、燻蒸熱処理の時間が長すぎると、熱処理が進行し過ぎてしまい、これにより、リンゴ酸の含有量が低くなりすぎてしまい、結果として、消臭効果を得ることができない。燻蒸熱処理の時間が短すぎると、熱処理が不十分となってしまい、これにより、リンゴ酸の含有量が低くなりすぎてしまい、結果として、消臭効果を得ることができない。
【0034】
なお、燻蒸熱処理において、竹材の内壁面の温度は、たとえば、竹材の内壁面に、熱電対などの温度センサを取り付けることにより測定すればよい。たとえば、
図1に示す燻蒸窯を用いる場合には、燻蒸熱処理を行う際における、竹材の内壁面の温度は、燻蒸熱処理対象とされる竹材と、木質系燃料との距離、木質系燃料の燃焼力、空気の供給量等を適宜調整することにより制御すればよい。また、燻蒸熱処理時間としては、竹材の内壁面の温度が、上燻蒸熱処理温度に到達してから、燻蒸熱処理を終了するまでの時間を、上記範囲とすればよい。
【0035】
また、本発明の加熱処理竹材の製造においては、燻蒸熱処理において、燻煙により燻しながら、輻射熱により加熱し、これにより、竹材の表面に煤が付着するような状態としながら、加熱を行うことから、燻蒸熱処理後の竹材の外表面には、煤が付着していることが好ましく、煤の付着量(竹材の表面当たりの煤の付着量)は、好ましくは0.7~1.2mg/cm2であり、より好ましくは0.73~1.0mg/cm2であり、さらに好ましくは0.75~0.9mg/cm2である。煤の付着量が上記範囲となるように、燻蒸熱処理を行うことにより、得られる加熱処理竹材のリンゴ酸の含有量を上記した範囲に好適に制御することができる。
【0036】
また、本発明の加熱処理竹材の製造においては、燻蒸熱処理条件(燻蒸熱処理温度、燻蒸熱処理時間、および煤の付着量等)を適宜調整することにより、ベタインの含有量、グリコール酸の含有量、さらには、グルコース-1-リン酸、グルコース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸の含有量を上記した範囲に好適に制御することができ、さらには、BET比表面積および平衡水分率を上記した範囲に好適に制御することもできる。
【0037】
また、本発明の加熱処理竹材の製造において、燻蒸熱処理を行う前に、必要に応じて、竹材(生竹材)について、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、燻蒸熱処理を行う前の竹材(生竹材)を、好ましくは40~150℃、より好ましくは60~140℃にて、好ましくは1~240時間、より好ましくは1~24時間の条件にて行えばよい。乾燥処理は、燻蒸熱処理を行う前の竹材(生竹材)に含まれる含有水分率が、好ましくは20重量%以下、より好ましくは5~20重量%となるような条件で行うような態様としてもよい。
【0038】
そして、本発明の加熱処理竹材の製造においては、上記条件にて燻蒸熱処理を行った燻蒸熱処理後の竹材について、外表面に付着した煤を取り除き、必要に応じて表皮の除去や、所定形状への切り出し、あるいは、粉砕・粉末化を行うことで、本発明の加熱処理竹材を得ることができる。本発明の加熱処理竹材は、上述したように、竹の形状を保持したものであってもよいし、所定のサイズに加工された板状のものや、チップ状のものであってもよいし、大きさは特に限定されないが、好ましくは0.01~1000μm、より好ましは0.1~500μmとして用いられる。さらに好ましくは1~100μm、最も好ましくは10~70μmである。使用用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0039】
本発明の加熱処理竹材は、消臭効果が高く、耐腐食性に優れているため、その特性を活かし、種々の用途に好適に用いることができる。たとえば、本発明の加熱処理竹材は、衣料用品、動物用品、介護用品、医療用品、寝具用品、インテリア用品、日用品、食品において、好適に用いることができる。衣料用品としては、ユニホーム、運動着、帽子等が挙げられる。動物用品としては、動物用衣類、動物用敷物、動物用覆布、動物用飼育小屋等が挙げられる。医療用品としては、人工肛門被覆袋等が挙げられる。寝具用品としては、布団、枕等が挙げられる。インテリア用品としては、面材、膜材、カーテン、クッションフロアー、壁クロス、壁紙材、マット、カーペット、障子、襖等が挙げられる。日用品として、包装材料、鞄、カレンダー、色紙、文房具、プラスチック容器等が挙げられる。食品として、飲料、飴、ペットフード等が挙げられる。ただし、これらの用途に限定されるものではない。
【0040】
また、本発明の加熱処理竹材は、繊維素材に編み込んで用いることもできるし、また、粉末状である場合には、アクリル系バインダなどのバインダを含有する液状媒体に分散させることで、液状状態で用い、各種製品の表面に塗工したり、繊維素材に浸漬させて用いることもできる。さらに、本発明の加熱処理竹材は、通常、白色状であることから、白色状であることを活かすことで意匠性を付与するような使用方法としてもよいし、顔料等と混合して用いてもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0042】
<実施例1>
竹材(生竹材)として、山形県鶴岡市近辺で採集したモウソウチクを用いた。モウソウチクとしては、高さ10m、根元部直径10cmに成長したものを用いた。伐採後のモウソウチクを2mの長さに切断し、乾燥炉を用いて、温度130℃、1.5時間の条件で乾燥を行うことで、水分含有量が35重量%である乾燥後竹材を得た。
【0043】
次いで、乾燥後竹材を、
図1に示す燻蒸窯に入れ、燻蒸熱処理を行った。燻蒸熱処理は、乾燥後竹材の内壁面温度(内壁面に取り付けた熱電対の温度)が、110℃となる条件にて、90分間行った。すなわち、
図1に示す燻蒸窯内に、乾燥後竹材を配置した後、木質系燃料の燃焼および燻蒸窯中への空気の連続供給を開始し、乾燥後竹材の内壁面温度が110℃に到達してから、90分間経過するまで、木質系燃料の燃焼および燻蒸窯中への空気の連続供給を継続した後、木質系燃料の燃焼を停止することで、燻蒸熱処理を行った。なお、燻蒸熱処理を行う際には、木質系燃料の燃焼力および燻蒸窯中への空気の供給量を調整することで、乾燥後竹材の内壁面温度が110℃±8℃に保持されていることを、熱電対の出力より確認しながら、燻蒸熱処理を行った。
【0044】
そして、25℃、60%RHの室内において、燻蒸熱処理後の竹材の表面をカッターナイフの刃を用いて、竹表面に垂直に刃を立て、竹表面を削らないよう注意しながら、竹表面に付着した煤を剥がし、もはや煤が落ちなくなるまで、擦り取ることで、煤の除去を行った。なお、この際には、測定面積:3cm2の範囲について、煤の付着量を算出するための測定を行った。具体的には、上記方法にて、3cm2の範囲について、煤の除去を行い、除去された煤の重量を精密に測定し、このような測定を、3回実施することで、3回の測定の平均値を算出することで、煤の付着量を求めた。その結果、煤の付着量(竹材の表面当たりの煤の付着量)は0.8mg/cm2であった。
【0045】
次いで、煤を除去した燻蒸熱処理後の竹材について、表皮を除去し、所定の大きさに切断することで、輪切り状とし、次いでさらに切断することで、棒状の加熱処理竹材を得た。
【0046】
(比表面積)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材について、粉砕機を用いて、粉砕・粉末化を行うことで、光学顕微鏡で確認して粒子径が1μm以下の粉末にした。なお、得られた粉状の加熱処理竹材0.5gの窒素吸着法により測定されるBET比表面積は、1.8m2/gであった。
【0047】
(各成分量の測定)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材について、粉砕機を用いて、粉砕・粉末化を行うことで、光学顕微鏡で確認して粒子径が1μm以下である粉末状の加熱処理竹材を得た。そして、得られた粉末状の加熱処理竹材を、抽出溶剤としてのメタノールの超純水(超純水装置Milli-Qによる超純水)水溶液または、ギ酸-アセトニトリルの超純水(超純水装置Milli-Qによる超純水)水溶液に浸漬させ、遠心分離(2,300×g、4℃、5分)後,分取した一部を採取し、限外ろ過処理を行った後、超純水(超純水装置Milli-Qによる超純水)またはイソプロパノール水溶液にて溶出された成分について、CE-TOFMSまたはLC-TOFMSにより測定を行うことで、メタボローム解析を行った。その結果、粉末状の加熱処理竹材の各成分の含有量は以下の通りであった。
リンゴ酸の含有量:33,595nmol/g
ベタインの含有量:5,237nmol/g
グリコール酸の含有量:2,493nmol/g
グルコース-1-リン酸の含有量:73nmol/g
グルコース-6-リン酸の含有量:52nmol/g
フルクトース-6-リン酸の含有量:34nmol/g
なお、表1に、メタボローム解析の結果を示す。表1には、燻蒸熱処理を行っていない生竹材の結果も併せて示した。
【0048】
(平衡水分率)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材を、25℃、60%RHの室内に24時間放置後、その重量(W1)を測定し、次いで、庫内温度150℃の対流式乾燥機内に静置し、240時間後の重量(W2)を測定し、下記式にしたがって、平衡水分率を求めた。なお、この際において、加熱処理竹材の1時間当たりの重量変化率は1%以下となり、恒量とみなすことができる。
平衡水分率(重量%)=(W1-W2)/W1×100
測定の結果、棒状の加熱処理竹材の平衡水分率は、21重量%であった。また、比較のため、燻蒸熱処理を行っていない生竹材の平衡水分率についても測定を行ったところ、燻蒸熱処理を行っていない生竹材の平衡水分率は、46重量%であった。
【0049】
(消臭試験)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材について、粉砕機を用いて、粉砕・粉末化を行うことで、粉末状の加熱処理竹材を得た。そして、得られた粉末状の加熱処理竹材を、布上に、ウレタンバインダー(ウレタン分散液)を用いてコーティングすることで、加熱処理竹材コーティング布を作製した。そして、綿のガーゼマスク二枚重ねの中間に綿布に、加熱処理竹材コーティング布を挟むことで、試験用マスクを作製し、試験用マスクをモニターに使用してもらい、消臭機能についてモニタリングを行った。結果は、以下の通りであった。
試験用マスクの着用により、周囲の悪臭がしなくなったと感じた:161人/275人
試験用マスクの着用により、自分の口臭が和らぎ、他人に迷惑をかけなくなったと感じた:41人/275人
試験用マスクの着用により、花粉症が緩和した:24人/275人
上記の結果より、実施例1で得られた加熱処理竹材は、高い消臭効果を有するものと言える。
【0050】
(長期保存試験)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材を、25℃、60%RHの室内に1年間保管したところ、酢酸由来と考えられる酸性の刺激臭を含む、何らの刺激臭も発生せず、また、1年間保管した後において、上記消臭試験を行ったところ、同等の結果が得られ、消臭性能が十分に維持されたものであることが確認できた。また、1年間保管後においても、酢酸由来と考えられる酸性の刺激臭を含む、何らの刺激臭も発生しなかったことから、優れた耐腐食性を備え、かつ、静菌効果や抗菌効果を奏することも期待できるといえる。
【0051】
【表1】
表1中、「N.D.」は、検出限界未満であったことを示す。
【0052】
<比較例1>
燻蒸熱処理の条件を、乾燥後竹材の内壁面温度(内壁面に取り付けた熱電対の温度)が、200℃となる条件にて、5時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、燻蒸熱処理後の竹材を得た(すなわち、特許文献4に相当する条件にて、燻蒸熱処理を行った。)。得られた燻蒸熱処理後の竹材は、炭化が著しく進行してしまい、そのため、リンゴ酸等の有機成分が、ほとんど失われものであり(メタボローム解析において、検出限界未満となる水準であり)、消臭効果が得られないものであった。
【0053】
<比較例2>
燻蒸熱処理の条件を、乾燥後竹材の内壁面温度(内壁面に取り付けた熱電対の温度)が、110℃となる条件にて、40時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、燻蒸熱処理後の竹材を得た(すなわち、特許文献3に相当する条件にて、燻蒸熱処理を行った。)。次いで、実施例1と同様にして、燻蒸熱処理後の竹材から煤を除去し、煤を除去した燻蒸熱処理後の竹材について、表皮を除去し、所定の大きさに切断することで、輪切り状とし、次いでさらに切断することで、棒状の加熱処理竹材を得た。
【0054】
(各成分量の測定)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材について、粉砕機を用いて、粉砕・粉末化を行うことで、光学顕微鏡で確認して粒子径が1μm以下である粉末状の加熱処理竹材を得た。そして、得られた粉末状の加熱処理竹材を、抽出溶剤としてのメタノールの超純水(超純水装置Milli-Qによる超純水)水溶液または、ギ酸-アセトニトリルの超純水(超純水装置Milli-Qによる超純水)水溶液に浸漬させ、遠心分離(2,300×g、4℃、5分)後,分取した一部を採取し、限外ろ過処理を行った後、超純水(超純水装置Milli-Qによる超純水)またはイソプロパノール水溶液にて溶出された成分について、液体クロマトグラフィによる測定を行い、得られた測定結果について換算処理を行うことで、リンゴ酸の含有量およびグリコール酸の含有量を求めた。その結果、リンゴ酸の含有量およびグリコール酸の含有量は以下の通りであった。
リンゴ酸の含有量:19,286nmol/g
グリコール酸の含有量:1,870nmol/g
【0055】
(消臭試験)
上記にて得られた棒状の加熱処理竹材について、粉砕機を用いて、粉砕・粉末化を行うことで、粉末状の加熱処理竹材を得た。そして、得られた粉末状の加熱処理竹材を、布上に、ウレタンバインダー(ウレタン分散液)を用いてコーティングすることで、加熱処理竹材コーティング布を作製した。そして、綿のガーゼマスク二枚重ねの中間に綿布に、加熱処理竹材コーティング布を挟むことで、試験用マスクを作製し、試験用マスクをモニターに使用してもらい、消臭機能についてモニタリングを行った。結果は、以下の通りであった。
試験用マスクの着用により、周囲の悪臭がしなくなったと感じた:0人/22人
試験用マスクの着用により、自分の口臭が和らぎ、他人に迷惑をかけなくなったと感じた:0人/22人
なお、比較例2においては、22人の被験者について試験を行ったところ、22人全員が、周囲の悪臭がしなくなったと感じず、また、自分の口臭が和らぐことなく、他人に迷惑をかけなくなったと感じることはなかったので、被験者数22人の条件にて、試験を終了した。
【0056】
以上、実施例1、比較例1、比較例2の結果より、リンゴ酸の含有量が、30,000~40,000nmol/gである加熱処理竹材によれば、消臭効果が高く、耐腐食性に優れたものであることが確認できる。