(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】循環性腫瘍細胞の捕捉に適したマイクロ流体チップ
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20231004BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231004BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20231004BHJP
C12N 5/095 20100101ALI20231004BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20231004BHJP
C12N 5/09 20100101ALN20231004BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
C12M1/26
C12N5/095
C12N1/02
C12N5/09
(21)【出願番号】P 2022504216
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 CN2020102564
(87)【国際公開番号】W WO2021013066
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】201910666239.5
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100224616
【氏名又は名称】吉村 志聡
(72)【発明者】
【氏名】楊 根
(72)【発明者】
【氏名】羅 春雄
(72)【発明者】
【氏名】芦 春洋
(72)【発明者】
【氏名】許 健
(72)【発明者】
【氏名】王 宇鋼
(72)【発明者】
【氏名】欧陽 ▲チー▼
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-116428(JP,A)
【文献】特表2018-501083(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106190774(CN,A)
【文献】特表2017-510450(JP,A)
【文献】特開2009-128057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0087456(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
C12M 1/26
C12N 5/095
C12N 1/02
C12N 5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体チップであって、
入口(1)と、主チャネル(2)と、1つ又は複
数の収束・分流ユニット(3)と、
ターゲット粒子を捕捉するための捕捉ユニット(4)と、出口(5)と、を備え、
前記主チャネル(2)は、前記入口(1)から、出口(5)まで直線的に延び、
前記収束・分流ユニット(3)は、前記主チャネル(2)に接続され、前記主チャネル(2)の側方両側の分岐するチャネルのセットにより構成され、
前記収束・分流ユニット(3)は、
サンプル溶液を注入するための収集ポート(31)と、
前記収集ポート(31)の下流に配置され、断面の幅が前記収集ポート(31)の断面の最も広い位置よりも小さく、かつ、前記主チャネル(2)の幅よりも小さく構成された主チャネルくびれ部(32)と、
前記主チャネルくびれ部(32)の下流に配置され、直列に配置された1つ又は2つ以上の収束構造(33)及び分流チャネル(34)と、
を含み、
各々の前記収束構造(33)は、1つ以上の中央チャネル(331)と1つ以上の側方支流チャネル(332)とを備え、各々の前記中央チャネル(331)は、両端で主チャネル(2)に接続され、かつ同軸に配置され、各々の前記側方支流チャネル(332)は、両端で前記中央チャネル(331)と交差し、
各々の前記分流チャネル(34)は、それぞれの前記収束構造(33)の下流に配置され、両端が前記主チャネル(2)と交差し、そのうちの上流交差点は、前記収束構造(33)の最も下流側の前記中央チャネル(331)及び前記側方支流チャネル(332)の下流端に接続し、下流交差点は、前記マイクロ流体チップの前記出口(5)付近にあり、
前記捕捉ユニット(4)は、最も下流側の前記分流チャネル(34)の前記上流交差点と、最も上流側の前記下流交差点との間に配置され、両端が前記主チャネル(2)に連通している、
マイクロ流体チップ。
【請求項2】
前
記中央チャネル(331)の幅は主チャネル(2)の幅よりも小さ
い、
請求項
1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記側方支流チャネル(332)は、前記中央チャネル(331)の側方両側に配置された2つの側方支流チャネル(332)を含み、
請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
2つの前記側方支流チャネル(332)は、前記中央チャネル(331)の側方両側に対称的に配置され、同じサイズを有する、
請求項3に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
前記中央チャネル(331)の流動抵抗(flow resistance)と前記側方支流チャネル(332)の流動抵抗とは比例関係を満た
し、
前記流動抵抗の前記比例関係は、前記中央チャネル(331)と前記側方支流チャネル(332)とのそれぞれのチャネルのL(H+W)
2
/(HW)
3
の比(ここで、L、W、及びHは、それぞれのチャネルの長さ、幅、及び高さを表す)に基づいて求められ、
W
2
を主チャネルくびれ部(32)の幅とし、r
cell
をサンプル中のターゲット粒子の平均半径とし、d1を液体流れの主チャネルくびれ部(32)の一方側の境界に最も近いターゲット粒子の重心と前記一方側の境界との間の距離とし、R1を各収束・分流ユニット(3)の1番目の収束構造(33)の中央チャネル(331)の流動抵抗とし、R2を前記1番目の収束構造(33)の単一の側方支流チャネル(332)の流動抵抗とした場合、これらのパラメータは以下の式を満足し、
【数1】
ここで、d1の値はr
cell
に等しいか、又はr
cell
よりも小さい値である、
請求項
1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
n番目(ここで、nは、1以上かつ収束構造の総数未満の自然数である)の収束構造(33)の中央チャネル(331)の流動抵抗をR1
nとし、幅をW
s
nとし、単一の側方支流チャネル(332)の流動抵抗をR2
nとし、n+1番目の収束構造(33)の中央チャネル(331)の流動抵抗をR1
n+1とし、各側方支流チャネル(332)の流動抵抗をR2
n+1とした場合、以下の条件を満たし、
【数2】
ここで、d1の値はr
cellに等しいか、又はr
cellよりわずかに小さい値である、
請求項
1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項7】
前記分流チャネル(34)
は、主チャネル(2)の
側方両側に配置され
た2つの分流チャネル(34)を含む、
請求項
1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項8】
2つの前記分流チャネル(34)は、主チャネル(2)の両側に対称的に配置され、同じサイズを有する、
請求項7に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項9】
前記分流チャネル(34)と前記主チャネル(2)との交差点において、前記主チャネルの幅は、前記入口(1)における幅の1.5から5倍である、
請求項7に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項10】
前記分流チャネル(34)の流動抵抗と、
前記分流チャネル(34)と
前記主チャネル(2)との2つの交差点の間の領域の全体流動抵抗とは、比例関係を満た
し、
m番目(mは、1以上、且つ収束・分流ユニットの総数以下の自然数であ
る)の収束・分流ユニット(3)の分流チャネル(34)の流動抵抗は、
前記m番目の収束・分流ユニットの分流チャネル(34)と主チャネル(2)との2つの交差点の間の領域の全体流動抵抗
、すなわち、分流チャネル内部領域の全体流動抵
抗をR1
mとし、各分流チャネル(34)の流動抵抗をR2
mとした場合、下記の式を満たすように決定され、
【数3】
ここで、kは全体液体流れに占める分流チャネル(34)の液体流れの割合である、
請求項
7に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項11】
前記捕捉ユニットは、分岐パイプ(41)を介して主チャネル(2)に連通する、
請求項
1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項12】
前記捕捉ユニット(4)は、1層以
上のアレイを備え、
前記アレイ
は、複数の小ブロック(42)が配置されることによって構成され
る、
請求項11に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項13】
前記小ブロック(42)は、立方体、直方体、三角柱、円柱の形状であるか、又は、断面が正方形、長方形、三角形、円形の形状を有する、
請求項12に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項14】
隣接する前記小ブロック(42)の間に隙間dがあり、前記隙間dの大きさは隣接する2つの前記小ブロック(42)の表面上の最も近い2点間の距離として規定される、
請求項12に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項15】
各層の前記アレイの前記小ブロック(42)の間の前記隙間dは同じである、
請求項14に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項16】
異なる層の前記アレイの前記小ブロック(42)の間の前記隙間dは上から下に向かって徐々に減少する、
請求項14に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項17】
前記入口(1)において、ろ過構造(11)をさらに備える、請求項
1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項18】
請求項1乃至1
7のいずれか1項に記載の
前記マイクロ流体チップを備える、サンプル中のターゲット粒子を濃化及び/又は捕捉するための装置。
【請求項19】
請求項1乃至1
7のいずれか1項に記載の
前記マイクロ流体チップ、又は、請求項1
8に記載の
前記装置を使用することを含む、
サンプルの流量及び/又は流速を低減させるための方法。
【請求項20】
(1)ターゲット粒子を含むサンプル溶液を供給するステップと、
(2)前記サンプル溶液を請求項1乃至1
7のいずれか1項に記載の
前記マイクロ流体チップ又は請求項1
8に記載の
前記装置に注入するステップと、
を含む、
ターゲット粒子を濃化及び/又は捕捉するための方法。
【請求項21】
サンプル溶液中のターゲット粒子を除去するための方法であって、
(1)ターゲット粒子を含むサンプル溶液を供給するステップと、
(2)前記サンプル溶液を請求項1乃至1
7のいずれか1項に記載の
前記マイクロ流体チップ又は請求項1
8に記載の
前記装置に注入するステップと、
(3)前記マイクロ流体チップの
前記出口(5)から流出するサンプル溶液を収集するステップと、
を含
む、
サンプル溶液中のターゲット粒子を除去するための方法。
【請求項22】
前記ステップ(2)及び前記ステップ(3)は、1回、又は2回以上繰り返される、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記サンプル溶液の注入速度は、5~200mL/
hである、
請求項
20に記載の方法。
【請求項24】
前記サンプル
溶液は、全血、血漿、血清、灌流液、尿、組織液、脳脊髄液、細胞培養液、又は細胞混合
液である、
請求項
20に記載の方
法。
【請求項25】
前記サンプル溶液は、全血または灌流液である、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ターゲット粒子は腫瘍細胞であ
る、
請求項
20に記載の方法。
【請求項27】
前記腫瘍細胞は循環性腫瘍細胞(CTC)である、
請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本願は、2019年07月23日に、中国特許庁に出願された出願番号が201910666239.5である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容は援用により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、リキッドバイオプシーおよび腫瘍理学療法(Physical Therapy)の分野に属し、特に、腫瘍細胞(特に、例えば、CTC)を捕捉するために使用することができるマイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0003】
血液は、膨大な量の赤血球(約5×109個/mLのマグニチュード)及び白血球(約8×106個/mLのマグニチュード)および様々タンバク質を含むため、強い粒状性及び高い動的粘度係数を有する。最近の研究によると、がん患者、特にがん転移性癌病変のある患者は、一定の量の循環性腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells、CTCs)が存在すし、これらの循環性腫瘍細胞をうまく捕捉及び分離するのはがんの早期発見、診断及び治療に評価できないほどに役に立つが、その数が非常に少ない(約0から数十細胞/mL)ため、循環性腫瘍細胞を血液から効率的かつ特異的に分離することは技術的に非常に困難である。
【0004】
現在、CTCの捕捉の原理に基づいて、CTCの分離方法は、抗原および抗体に基づく捕捉、物理的特性に基づく捕捉、およびその2つの方法を組み合わせた捕捉の3つの種類に分類される。
【0005】
(抗原および抗体に基づく捕捉)
腫瘍細胞の表面には、例えば、EpCAM、CEA及びHER2などの幾つの腫瘍特異的抗原が発見することがある。腫瘍特異的抗原を認識する抗体を化学結合の連結又はほかのコーティング手段によって磁気ビーズやマイクロ流体チップの表面に固定し、抗原と抗体の組み合わせにより腫瘍細胞は捕捉される。
【0006】
CellSearchは、現在、FDAに承認された唯一のCTCの商業的分離のためのプラットフォームであるが、その検出率は高くない。その後の方法は、同様の原理、すなわち抗原-抗体特異的結合の原理とマイクロ流体チップとの組み合わせを採用し、検出率を大幅に向上させた。例えば、HB-chipは、非対称に配置されたヘリンボーン状チャネルを使用してレイノルズ数を増加させた。そして、がん患者の血液をチップへ注入した後、乱流が形成され、それによって細胞と管壁との間の相互作用が増加し、細胞が抗体に結合する確率が増加し、検出率がCellSearch法よりも大幅に向上した。また、CTC-chipは、CTCを捕捉するために、EpCAM抗体でコーティングされた千鳥状の円筒面を採用した。
【0007】
抗原および抗体に基づいたCTCの捕捉は利点が明らかであり、抗原に対する抗体の認識が高特異性を有するため、捕捉された細胞の純度は非常に高く、ほぼ100%に近い。しかしながら、この方法には、多くの欠点もあり、例えば、(1)現在、分子マーカーとして主にEpCAMが用いられているため、抗原の特異性及び抗原と抗体との親和性が捕捉効率を制限するが、CTCにおける多くの細胞はEMTを経て、EpCAMの発現が低い一部の細胞は漏れて検出されなく、CTCの量が低く評価される。(2)コストが高い。(3)抗原と抗体が十分に認識して結合する必要があるため、一般的には、流速が遅く、処理時間が長く、血液の特性とCTCの状態に影響を及ばすこともある。上記の欠点の存在は、その大規模な臨床への応用を制限する。
【0008】
(物理的特性に基づく捕捉)
研究によると、腫瘍細胞と正常細胞との間には、物理的特性に一定の違いがあり、その違いは主に細胞のサイズ、変形性、密度などの特性に反映される。そこで、上記の物理的特性の違いを活用すれば、CTCを分離して捕捉することができる。従来技術では、物理的特性に基づく捕捉は、しばしばスパイラル構造を伴う。該スパイラル構造は、マイクロチャネル内の特徴的なサイズ及び流速が非常に小さいため、レイノルズ数が1未満であり、通常には、その慣性効果を無視するが、圧力駆動下で流速は0.1~1m/sと高くなり、レイノルズ数は10~100に達する可能性があり、この時、慣性作用が現れ始める、という特性を利用する。このようなチップでは、希釈された血液が圧力によって湾曲したチャネルに押し込まれると、横方向の力及びディーンフォース(Dean force)の作用下で、細胞が断面で特定の平衡位置に達する。細胞の平衡位置が細胞のサイズに関連し、CTCのサイズと血球のサイズとはかなり異なるため、分離を達成するために、チャネル内の異なる平衡位置になる。さらに、例えば、適切なギャップを利用し、CTCと血球のサイズ及び変形能力との相違を基づいて分離を行う方法などの物理的特性に基づく他の多くの分離方法がある。
【0009】
物理的特性に基づくCTCの捕捉は、次の利点がある。(1)捕捉が抗原発現に依存せず、すべてのタイプのCTCを捕捉することができる。(2)CTCが抗体やナノ粒子に結合せず、最も原始的な状態を維持している。(3)血液サンプルは、前処理を必要とせず、直接ろ過することができる。(4)コストが低い。(5)流速が速く、必要な時間が短くなる。ただし、CTCと白血球のサイズがわずかに重なるため、この方法の分離効率は十分に高くないことが多く、ある程度の白血球汚染の問題がある。
【0010】
(2つの方法を組み合わせた捕捉)
抗原抗体に基づく方法と物理的特性に基づく方法との組み合わせを使用し、Sun Nらは、抗体でコーティングされた磁気ビーズをCTCに結合し、CTCのサイズを効果的に増加させ、多孔質膜を使用してろ過することで、捕捉効率を大幅に向上させることができ、同時に、CD45ネガティブセレクションで白血球を除去することで、純度を効果的に向上させる。CTC-ichipは、DLDを使用して大細胞と小細胞を分離し、その後、収束させ、最後に免疫磁気ビーズを使用してネガティブセレクションで白血球を除去する。ただし、組み合わせ方法は、チップ構造が複雑であり、過程が煩雑であり、コストが高く、臨床応用に適していないことが多い。
【0011】
そこで、当分野では、臨床応用におけるコスト、サンプルの処理スループット、及び精度に対する要求を満たすことができる、CTCを効果的に捕捉するための方法が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者らは、長年の研究を重ねた後、ターゲット粒子(例えば、循環性腫瘍細胞CTC)を捕捉するために使用できるマイクロ流体チップを設計した。該チップは、収束・分流ユニットを備え、前記収束・分流ユニットは液体のサンプル(例えば、血液、灌流液など)中のターゲット粒子を液体流れの中央に収束させる同時に、一定割合のターゲット粒子を含まない液体流れを分離することができ、これにより、チップに注入した液体サンプルの流量・流速を効果的に減少させることができ、その中のターゲット粒子を捕捉するのにより適している。チップがターゲット粒子を捕捉するために使用される場合、捕捉ユニットをさらに備える。前記捕捉ユニットによりターゲット粒子の捕捉を実現する。具体的には、本発明は以下の実施形態を含む。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様においては、本発明は、マイクロ流体チップであって、入口(1)と、主チャネル(2)と、1つ又は複数(例えば、1~20であり、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)の収束・分流ユニット(3)と、出口(5)と、を備え、前記入口(1)と、収束・分流ユニットと、出口(5)とが主チャネル(2)によって接続され、
サンプルは入口(1)から主チャネル(2)に入り、前記収束・分流ユニット(3)を通って流れ、前記収束・分流ユニット(3)は前記サンプル中のターゲット粒子を液体流れの中央に収束させると同時に、ターゲット粒子を含まない液体流れを出口(5)から排出するか又は部分的に排出することにより、ターゲット粒子を失うことなく、低減サンプルの流速及び/又は流量を低減させる、マイクロ流体チップを提供する。
【0014】
一実施形態においては、前記収束・分流ユニット(3)は、収集ポート(31)と、主チャネルくびれ部(32)と、直列に配置された1つ又は2つ以上(例えば、1~20、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)の収束構造(33)と、分流チャネル(34)とを備える。
【0015】
別の実施形態においては、前記収束構造(33)は中央チャネル(331)と側方支流チャネル(332)とを備える。中央チャネル(331)は、両端で主チャネル(2)に接続されかつ同軸に配置され、好ましくは、中央チャネル(331)の幅は主チャネル(2)の幅よりも小さく、さらに好ましくは、中央チャネル(331)の幅は主チャネル(2)の幅の30%~99%、例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、又は前記の任意の2つの値の間の任意の値である。前記側方支流チャネル(332)は、両端で主チャネル(2)及び中央チャネル(331)と交差し、さらに好ましくは、前記2つの側方支流チャネル(332)は中央チャネル(331)の両側に配置され、より好ましくは、前記2つの側方支流チャネル(332)は中央チャネル(331)の両側に対称的に配置され、かつ同じサイズパラメータを有する。
【0016】
別の実施形態においては、前記中央チャネル(331)の流動抵抗と前記側方支流チャネル(332)の流動抵抗とは比例関係を満たすことにより、サンプルは主チャネル(2)から収束構造(33)に入った後、ターゲット粒子を含む液体流れは中央チャネル(331)に入り、ターゲット粒子を含まない液体流れは側方支流チャネル(332)に流れ込んだ後、中央チャネル(331)から流出する液体流れと合流し、その後、再びに主チャネル(2)に流れ込む。
【0017】
前記「流動抵抗」(flow resistance)は、液体(粘性液体)が一定の空間(パイプなど)内を移動する際に生じた流れを妨げる反力を意味する。パイプを流れる液体は、流動抵抗R流動抵抗は、R流動抵抗=8ηL(H+W)2/(HW)3で表され、ここで、ηは液体の粘度係数を表し、L、W、及びHはそれぞれパイプの長さ、幅、及び高さを表す。本発明で言及される特定のチャネルの流動抵抗(例えば、中央チャネルの流動抵抗、側方直流チャネルの流動抵抗など)とは、液体が該チャネルを流れる際に生じた抵抗を指す。異なるチャネルに関しては、それらのチャネルを流れる液体が同じであり、同じ粘度係数を有するため、異なるチャネルで液体によって生じた流動抵抗の比例関係は、チャネルのサイズにのみ関係し、チャネルのL(H+W)2/(HW)3の比に基づいて求められる。なお、上記の流動抵抗の表現方法及び流動抵抗の比例関係の計算方法は、中央チャネル(331)と側方支流チャネル(332)に限定されず、マイクロ流体チップ内の全てのチャネルに適用できる。
【0018】
ポアズイユの式:Q=Δp/R(ただし、Qは液体流れの流量、Δpはパイプの両端の圧力差、Rはパイプの流動抵抗を表す)に従って、流量Qの分布は、流れ抵抗Rに反比例する。即ち、Q1/Q2=R2/R1である。
【0019】
別の実施形態においては、WZを主チャネル(2)の幅の半分とし、W2を主チャネルくびれ部(32)の幅とし、rcellをサンプル中のターゲット粒子の平均半径とし、d1を液体流れの主チャネルくびれ部(32)の一の側(例えば、右側であるが、同様に左側にも適用する)の境界に最も近いターゲット粒子の重心とこの側の境界との間の距離とし、R1を各収束・分流ユニット(3)における1番目の収束構造(33)の中央チャネル(331)の流動抵抗とし、R2を1番目の収束構造(33)における単一の側方支流チャネル(332)の流動抵抗とした場合、前記のパラメータは、以下の条件を満たしている。
【0020】
【0021】
ここで、d1の値はrcellに等しいか、又はrcellよりわずかに小さい値である。不等式の左側は、全体の液体流れに対する主チャネルに残っている液体流れの割合を表し、右側は、全体流動抵抗/収束構造中央チャネルの流動抵抗を表す。
【0022】
上記の式(不等式)を満たすことで、1番目の収束構造はターゲット粒子が分離されないと同時に、ターゲット粒子を含まない流体を可能な限り分離することができる。また、収束構造の中央チャネル(331)の流動抵抗と前記側方支流チャネル(332)の流動抵抗との間で満たされる必要がある比例関係を計算することができる。
【0023】
別の実施形態においては、n番目(ここで、nは、1以上かつ収束構造の総数未満の自然数)の収束構造(33)の中央チャネル(331)の流動抵抗をR1nとし、単一の側方支流チャネル(332)の流動抵抗をR2nとし、n+1番目の収束構造(33)の中央チャネル(331)の流動抵抗をR1n+1とし、各側方支流チャネル(332)の流動抵抗をR2n+1とした場合、以下の条件を満たしている。
【0024】
【0025】
ここで、d1の値はr
cellに等しいか、又はr
cellよりわずかに小さいである。不等式の左側は、n番目の収束構造を通過した後の全体の液体流れに占めるターゲット粒子が存在する液体流れの割合を表し、ここで、
は、全体流量に占めるn番目の収束構造の中央チャネルの流量の割合を表し、
は、中央チャネル流量に対する収束された後のターゲット粒子が占める領域の割合を表す。右側は、n+1番目の収束構造の全体の流動抵抗/収束構造中央チャネルの流動抵抗を表す。
【0026】
上記の式(不等式)を満たすことで、ターゲット粒子がn番目の収束構造を通過してn+1番目の収束構造に入る時に分離されないと同時に、ターゲット粒子を含まない流体が可能な限り分離されることができる。また、収束構造のn番目の組とn+1番目の組との流動抵抗が満たす必要がある比例関係を計算することができる。
【0027】
別の実施形態においては、前記分流チャネル(34)の両端は主チャネル(2)と交差し、そのうちの上流の交差点は収束・分流ユニットの最後の収束構造付近にあり、下流の交差点はマイクロ流体チップの出口(5)付近にある。好ましくは、分流チャネル(34)は、2つがあり、それぞれ主チャネル(2)の両側に配置され、より好ましくは、主チャネル(2)の両側に対称的に配置され、かつ同じサイズパラメータを有する。さらに好ましくは、分流チャネル(34)と主チャネル(2)との交差点で、主チャネルの幅は大きくなり、例えば、幅は元の1.5倍乃至5倍の間、例えば、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、又は5倍、又は前記の任意の2つの値の間の任意の倍数値である。さらに好ましくは、前記交差位置の管壁は丸め処理が施される。
【0028】
別の実施形態においては、分流チャネル(34)の流動抵抗と分流チャネル(34)と主チャネル(2)との2つの交差点の間の領域の全体流動抵抗とは比例関係を満たすことにより、ターゲット粒子は主チャネル(2)に流れ込み続け、ターゲット粒子を含まない液体流れは分流チャネル(34)に流れ込む。
【0029】
別の実施形態においては、m番目(mは、1以上、且つ収束・分流ユニットの総数以下の自然数、例えば、m=1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)の収束・分流ユニット(3)の分流チャネル(34)の流動抵抗は、以下のように決定される。サンプルが前記m番目の収束・分流ユニット(3)の最後の収束構造(33)を通過した後、ターゲット粒子が主チャネル(2)の中央から[-r,r](ここで、rの値は前記のm番目の収束・分流ユニットにおける各収束構造のチャネルの幅及び流動抵抗の比例に基づいて計算される。)の範囲に集束していることとし、また、主チャネルの幅の半分をW
Zとし、分流チャネル(34)により分離された液体の幅をW
Z-r以下とすると、全体の液体流れに対する分流チャネル(34)の液体流れの割合は
により計算される。前記m番目の収束・分流ユニットの分流チャネル(34)と主チャネル(2)との2つの交差点の間の領域の全体流動抵抗(分流チャネル内部領域の全体流動抵抗ともいう。)をR1
mとし、各分流チャネル(34)の流動抵抗をR2
mとすると、下記の式が得られる。
【0030】
【0031】
上記式から
を求めることにより、R2
mとR1
mの比例関係である
、即ち、前記のm番目の収束・分流ユニットの分流チャネルの流動抵抗と後の全ての構造の流動抵抗との関係を求める。後ろから前への最後の分流チャネルの内部領域の全体流動抵抗である捕捉ユニットの流動抵抗に基づいて、前のいずれか、例えば、m番目の収束・分流ユニット(3)の分流チャネル(34)の流動抵抗値が得られ、さらに、チャネルの具体的なサイズまたはサイズの範囲を得ることができる。
【0032】
別の実施形態においては、前記マイクロ流体チップはターゲット粒子を捕捉するための捕捉ユニット(4)をさらに備える。好ましくは、前記捕捉ユニット(4)は、収束・分流ユニット(3)の下流に配置され、両端は主チャネル(2)に連通している。さらに好ましくは、前記捕捉ユニットは、分岐パイプ(41)を介して主チャネル(2)に連通している。
【0033】
具体的な一実施形態においては、前記捕捉ユニット(4)は、1層又は1層以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10層)のアレイを備える。好ましくは、前記アレイは、任意の形状(例えば、立方体、直方体、三角柱、円筒などの形状、又は断面が正方形、長方形、三角形、円形などの形状)の小ブロック(42)で配置されることによって構成され、隣接する小ブロック(42)の間に隙間dがあり、前記隙間dの大きさが隣接する2つの小ブロック(42)の表面上の最も近い2点間の距離として定義される。さらに好ましくは、各層のアレイの小ブロック(42)の間の隙間dが同じである。またさらに好ましくは、異なる層のアレイの小ブロック(42)の間の隙間dが上から下に段階的に減少、例えば、アレイ層の数が4である場合、上から下に前記隙間dの大きさは順に14μm、12μm、10μm、及び8μmである。
【0034】
別の実施形態においては、入口(1)において、ろ過構造(11)をさらに備える。
【0035】
第2態様においては、本発明は、第1の態様に記載のマイクロ流体チップを備える、ターゲット粒子を濃化及び/又は捕捉するための装置を提供する。
【0036】
第3態様においては、本発明は、第1の態様に記載のマイクロ流体チップ又は第2態様に記載の装置の使用を含む、サンプルの流量及び/又は流速を低減させるための方法を提供する。
【0037】
第4態様においては、本発明は、
(1)ターゲット粒子を含むサンプル溶液を供給するステップと、
(2)前記サンプル溶液を第1の態様に記載のマイクロ流体チップ又は第2態様に記載の装置に注入するステップと、を含む、ターゲット粒子を濃化及び/又は捕捉するための方法を提供する。
【0038】
第5態様においては、本発明は、サンプル溶液中のターゲット粒子を除去するための方法であって、
(1)ターゲット粒子を含むサンプル溶液を供給するステップと、
(2)前記サンプル溶液を第1の態様に記載のマイクロ流体チップ又は第2態様に記載の装置に注入するステップと、
(3)前記マイクロ流体チップの出口(5)から流出するサンプル溶液を収集するステップと、を含み、
任意選択的に、任意選択的に、ステップ(2)及び(3)を繰り返し、前記繰り返し回数は1回、2回、またはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、又は10回)である、サンプル溶液中のターゲット粒子を除去するための方法を提供する。
【0039】
本発明に係る方法では、前記サンプル溶液の注入速度は、5~200mL/h、10~150mL/h、20~100mL/h、30~80mL/h、40~60mL/hであり、具体的には、注入速度は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200mL/h、又は前記の任意の2つの値の間の流速値であってもよい。
【0040】
本発明の全ての実施形態に使用されるサンプルは、全血、血漿、血清、灌流液、尿、組織液、脳脊髄液、細胞培養液、又は細胞混合液に由来し、好ましくは全血又は灌流液である。
【0041】
本発明の全ての実施形態に係るターゲット粒子は、腫瘍細胞であり、好ましくは循環性腫瘍細胞(CTC)である。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係るチップは、少なくとも40mL/hの高流速での血液中の腫瘍細胞を捕捉することを実現し、捕捉効率は90%を超え、白血球の平均残存速度はわずか0.008%であり、他の単一の物理的分離方法よりもはるかに低いである。本発明に係るチップは高流速サンプル中のターゲット粒子(細胞)の分離及び捕捉に適しているため、実用的な臨床応用が可能であり、また、健康なボランティア及び肺癌、乳がん、肝臓癌と診断された患者からの血液サンプルの二重盲検陰性陽性識別分離の達成にも成功している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】実施例1のチップの構造概略図(a)及び実物を示す図(b)
【
図2】一実施形態における1組の収束・分流ユニットの構造概略図を示し、5つの収束構造及び主チャネルの両側の分流チャネルを備えるものである図
【
図3】一実施形態における主チャネルくびれ部の概略図を示し、d1は、ターゲット粒子の重心から主チャネルくびれ部の境界までの距離を表し、d2は、ターゲット粒子の重心から主チャネルの境界までの距離を表す図
【
図4a】収束構造の流線概略図を示し、rは分離された液体の中央に近い境界から主チャネル中央までの距離を表し、W
Zは主チャネルの幅の半分である図
【
図4b】一実施形態における1番目の収束構造を通過した後の、主チャネルにおける蛍光標識された腫瘍細胞の位置の変化を示す図
【
図4c】一実施形態における1番目、3番目、5番目の収束構造を通過した後の、主チャネルにおける腫瘍細胞の位置分布を示す図
【
図5a】一実施形態における分流チャネルの全体設計を示す図
【
図5c】分流チャネルを流れる時の蛍光標識された腫瘍細胞を含む血液体流れの液体流れの形態を示し、左側は明視野と蛍光のオーバーレイであり、右側には蛍光画像である図
【
図6】様々な流速でのHeLa細胞をドープした血液の捕捉効率を示し図(a)、40mL/h流速での様々な細胞株の腫瘍細胞をドープした血液の捕捉効率を示し図(b)、及び40mL/h流速での様々な濃度のHeLa細胞をドープした血液の捕捉効率を示す図(c)
【
図7】様々な流速での捕捉領域における腫瘍細胞の分布(血液中のドーピング)を示し、腫瘍細胞は白い破線枠でマークされている図
【
図8】血液に腫瘍細胞を添加した後、チップを通過してPBSで洗浄し、ACK溶解液で赤血球を溶解した後の典型的な捕捉状況を示す図(ただし、染色後の腫瘍細胞は赤い蛍光を持ち、図面で黒い破線枠でマークされ、染色の白血球は青い蛍光を持ち、図で黒い破線枠でマークされている)
【
図9】臨床二重盲検試験により健康なボランティア及び腫瘍患者血液中のCTCの数を検出することを示す図
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、実施例を通じてさらに理解することができるが、これらの実施例は、本発明を限定するものではないことを理解されたい。現在知られているか又はさらに開発される本発明の変形は本明細書の説明及び保護請求しようとする本発明の範囲内にあると見なされる。
【0045】
(マイクロ流体チップ)
本発明に係るマイクロ流体チップの第1の機能は、ターゲット粒子をサンプル液体流れの中央部に収束させるとともに、分流によりサンプル液体流れの流量・流速の低減を実現することで、その後のターゲット粒子の捕捉又は分離を容易にする、ことにある。この機能を実現するために、本発明に係るチップは、入口1、主チャネル2、収束・分流ユニット3、及び出口5を備える。同時にターゲット粒子の捕捉を実現しようとする場合は、ターゲット粒子捕捉ユニット(捕捉ユニットと略記される。)4をさらに備えることが好ましい。
【0046】
収束・分流ユニット3の機能は、チップに注入したサンプル中のターゲット粒子(例えば、腫瘍細胞)を主流道2の中央線に収束させると同時に、非ターゲット粒子(例えば、赤血球、白血球など)を分流させることにある。これにより、ターゲット粒子の相対濃度を大幅に向上させることができ、さらに重要なことは、収束・分流ユニットから流出するサンプルが捕捉ユニット4に入ると、該サンプルの流速と流量が収束・分流ユニット3に入る前と比較して大幅に低減し、これもターゲット粒子の捕捉に有利な条件を提供する。この特点により、本発明に係るチップは高流速および高スループットのサンプル添加に適し、実際の臨床応用の効果を大幅に改善する。
【0047】
(入口)
入口1は、チップのサンプル入口であり、被験サンプルをマイクロ流体チップに注入するために使用される。一実施形態においては、入口は、サンプル中の不純物をろ過して除去し、チップの閉塞を防ぐために、ろ過構造11をさらに備える。
【0048】
(主チャネル)
主チャネル2は、チップ入口1と出口5を接続する主サンプルチャネルであり、その断面の幅は2WZ(WZは断面幅の半分である)である。異なる機能モジュール(例えば、収束・分流ユニット3)は主チャネルに接続され、サンプルに対する様々なタイプの操作を完了する。なお、主チャネル2は、物理的に連続したチャネルではなく、主チャネル2の延長方向においてほかの構造を備えることができ、例えば、主チャネル2の一セクションは後述の収束構造における中央チャネル331で置き換えられることが可能であり、該中央チャネル331は主チャネル2と同軸に配置され、その両端が主チャネル2に接続されている。この意味で、中央チャネル331は断面の幅が変更された主チャネル2と見なすこともできる。一実施形態においては、WZ=45μmである場合、主チャネル2の幅2WZは90μmである。
【0049】
(収束・分流ユニット)
収束・分流ユニット3の数は、1つであってもよく、より好ましくは2つ以上(例えば1~20個、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個)である。2つ以上の収束・分流ユニット3が備えられる場合、異なる収束・分流ユニット3は順に直列に配置され、主チャネル2を介して互いに接続されている。異なる収束・分流ユニットは、同じサイズパラメータを有してもよく、異なるサイズパラメータを有してもよく、同じサイズパラメータを有することが好ましい。収束・分流ユニット3は、少なくとも1つの、収集ポート31と、主チャネルくびれ部32と、直列に配置された1つ又は複数(例えば、1~20個、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個)の収束構造33と、分流チャネル34とを備える。ここで、収集ポート31は、サンプル、特に、高流量及び高流量のサンプルを注入するために用いられる。サンプルは主チャネル2を通って収束・分流ユニット3に流れ込む。サンプルは、収束・分流ユニット3から流出した後、次の収束・分流ユニット3に流れ込むことができ、最後の収束・分流ユニット3から流出した後、流量・流速が低下したサンプルが得られる。チップが捕捉ユニット4を備える場合、前記の流出したサンプルは捕捉ユニット4に入ることが好ましい。
【0050】
本発明における全てのチャネル(主チャネル2、中央チャネル331、側方支流チャネル332、又は分流チャネル34などを含む)の断面は、任意の適切な形状であり、例えば、‘円形、楕円形、正方形、長方形、又はその他の任意的な多角形などである。
【0051】
(収集ポート)
収集ポート31は、主チャネル2からのサンプルを主チャネルくびれ部32に導入するために使用され、漏斗状の構造を形成することが好ましい。ここで、収集ポートの最も広い部分の断面の幅をW1とすると、W1は主チャネル断面の幅2WZ(WZは主チャネル断面の幅の半分である)以上である。一実施形態においては、W1=2WZである。別の実施形態において、W1>2WZである。具体的な一実施形態においては、W1=200μmである。
【0052】
(主チャネルくびれ部)
主チャネルくびれ部32は、収集ポート31と主チャネル2との間に位置し、その断面の幅W2は収集ポート断面の最も広い位置(W1)よりも小さく、かつ、主チャネルの幅(2WZ)よりも小さい。それにより、両端が広く中央が狭い構造を局所的に形成する。
【0053】
図3は、一具体的実施において、サンプルが主チャネルくびれ部32を通って主チャネル2に流れ込む過程を示す。ここで、d1を液体流れのくびれ部の右側の境界(同様に、左側にも適用される)に直接隣接するターゲット粒子の中央(重心ともいう)と右側の境界との間の距離とし、d2を主チャネルに入った後の右側境界に最も近いターゲット粒子の重心と主チャネルの右側境界との間の距離とし、r
cellをターゲット粒子の半径とした場合、一定の剛性を持つターゲット粒子(例えば、細胞、特にがん細胞、例えばCTCなど)は、ターゲット粒子が圧縮されにくいため、d1はr
cellと等しいと見なすことができる。実際の計算では、設計されたチャネルがすべてのターゲット粒子が誤って排出されないことが確保されるために、d1はr
cellよりわずかに小さくすることができる。いわゆる「わずかに小さい」は、当業者には理解できる。つまり、d1の値がr
cel未満である限り、計算中でターゲット粒子がより多く中央チャネルに入ることが保証される。例えば、d1は、r
cellの90%以上であってもよく、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は前記の任意の2つの値の間にある範囲及び値である。
【0054】
液体流れがくびれ部32から通常の幅の主チャネル2に流れ込ると、流体力学の原理に従って、d2=2WZ/W2×d1が得られる。同様に、左側境界の細胞にも適用できる。続いて、液体流れは、さらに収束構造を流れる。
【0055】
(収束構造)
収束構造33は、側方支流チャネル332と中央チャネル331とを備える。好ましくは、側方支流チャネル332は2つがあり、それぞれ中央チャネル331の両側に配置され、対称的に分布し、また、好ましくは、同じの構造及びサイズパラメータを有する。各側方支流チャネル332は、上と下の両端(前と後の両端ともいう)で主チャネル2及び中央チャネル331と交差する。中央チャネル331の断面の幅は、主チャネル2の断面の幅よりも小さいことが好ましい。例えば、中央チャネル331の断面の幅は、主チャネル2の断面の幅の30%~99%であり、例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%及び前記の任意の2つの値の間の任意の値である。サンプル(例えば、血液)は、主チャネルに入った後、液体の一部(ターゲット粒子を含む)は中央チャネルに流れ込み続け、残りの液体流れ(それにターゲット粒子を含まない)は両側の側方支流チャネルに流れ込み、その後、側方支流チャネル中の液体が中央チャネルから流出する液体と合流し、再び主チャネルに流れ込み、その後、次の収束構造に入るか又は分流チャネル(最後の収束構造から出てきた場合)を流れる。また、一実施形態においては、各側方支流チャネル332自体は、分岐構造をさらに備えることができ、即ち、並列の複数のチャネルの形態、又は、直列と並列の組み合わせの複数のチャネルの形態をしている。
【0056】
図4に示すように、サンプルは主チャネルくびれ部32を通過した後、1番目の収束構造33に入ると、中央点から離れた主チャネル2中の液体流れの一部は分流されて側方支流チャネル332に流れ込み、その後、両側から中央チャネル331から流出する液体流れと合流する。従って、主チャネル2の液体流れの比較的無秩序に分布しているターゲット粒子を収束構造33によって収束させる(即ち、ターゲット粒子を中央部に向かって集める)ために、分離された液体はターゲット粒子を含まなく、全てのターゲット粒子は中央チャネル331を流れ、中央チャネル331の境界に近いターゲット粒子がチャネルの左/右側壁によってチャネル中央に向かって一定距離押し込まれ、その後、分離された液体は逆流し、ターゲット粒子を含む液体流れと合流する、ことを確保することが必要である。つまり、収束構造を流れた後、細胞の重心は集められる。
【0057】
上記の目的を達成するためには、その後側方支流チャネル332に流れ込む主チャネル2の液体流れを観測対象として、主チャネル2の中央側に最も近いこの液体流れの境界と中央との距離をrとし、境界での液体流れの速度をvとし、vmaxは主チャネル2の中央での速度であり、同時に液体流れの断面での最大速度でもあり、WZを主チャネルの幅の半分とした場合、流体力学の原理に従って、vとvmaxは次の式を満たす。
【0058】
【0059】
速度分布とrを積分すると、元の関数は次のように得られる。
【0060】
【0061】
-WZからWZの全体のチャネルを積分すると、下記の式で示すように全体の流量が得られる。
【0062】
【0063】
続いて、-rからrまで積分すると、下記の式で示すように、主チャネルを通過した後の主チャネルに残っている液体の流量を計算できる。
【0064】
【0065】
全体流量に対する側方支流チャネル332に入る流量の割合である、分流割合をkとした場合、下記の式に示すように、全体流量に対する主チャネルに残っている液体流量の割合が1-kであることが分かる。
【0066】
【0067】
上述から分かるように、主チャネルくびれ部を通じて流れ込んだ主チャネル右側(或いは、左側)の壁に最も近い細胞の重心から主チャネル右側(或いは、左側)の壁までの距離がd2であり、ここで、d2=2W
Z/W
2*d1(
図3)、W
2は主チャネルくびれ部の幅を表す。主チャネルくびれ部を流れ、1番目の収束構造に入る直前の液体流れは、この時、
であり、これを式(V)に入れて、
が得られる。
【0068】
R1を1番目の収束構造の中央チャネル331の流動抵抗とし、R2を1番目の収束構造の側方支流チャネル332の流動抵抗とした場合、パイプの流動抵抗はパイプのサイズ特性に関連し、本発明で流動抵抗の比例関係を計算する際に、計算式は次のようになる。流動抵抗R流動抵抗は、R流動抵抗=8ηL(H+W)2/(HW)3(ただし、ηは液体の粘度係数を表し、L、H及びWはそれぞれチャネル(例えば中央チャネル及び側方支流チャネル)の長さ、高さ、幅である)として表される。流動抵抗が流量の分布に反比例することに基づき、流量の分布割合は、流動抵抗を基として計算することができる。
【0069】
【0070】
ターゲット粒子が主チャネルに残され続け、ターゲット粒子を含まない液体流れができるだけ分離されることを保証するために、下記の式を満さすことが必要である。
【0071】
【0072】
ここで、不等式の左側は、全体液体流れに占める細胞重心が位置する領域範囲に対応するその部分の液体流れの割合を表し、右側は、全体液体流れに占める1番目の収束構造の流動抵抗に基づいて計算された、主チャネルに残り続ける液体流れの割合を表す。ターゲット粒子が分離されないようにするには、右側が左側と等しくするか、又は左側よりもわずかに大きくする必要がある。
【0073】
液体流れが全ての収束構造を流れる際にさらに収束できるようにするには、前と後の2つの収束構造が流動抵抗に関して一定の関係を満たすことが必要である。n番目(nは1以上、収束構造の総数から1を引いた数以下である)の収束構造中央チャネルの流動抵抗をR1nとし、側方支流チャネルの流動抵抗をR2nとし、n+1番目の収束構造中央チャネルの流動抵抗をR1n+1とし、側方支流チャネルの流動抵抗をR2n+1とした場合、n番目の収束構造を通過した後のターゲット粒子の中央から境界までの距離は、(WZ-r+p)である。ここで、pは、元に分流境界に位置していたターゲット粒子がn番目の収束構造を通過した後で中心に進んだ距離を表す。n+1番目の収束構造を通過する際に、ターゲット粒子が側方支流チャネルに入ることがなく、全てのターゲット粒子が依然としてさらに収束されることを保証するようにする。
【0074】
まず、中央チャネル流量に占める中央チャネルにおける左側に最も近い粒子状物質の重心から右側に最も近い粒子の重心までの領域範囲にあるその部分の流量の割合(
図4a)を求める。同様な原理により、式Vに従って、その割合は
であり、ここで、この場合は、rをWs
n/2-d1に置き換え、W
ZをWs
n/2に置き換える。ここで、Ws
nは、n番目の収束構造の中央チャネルの幅(nは1以上、収束構造の総数から1を引いた数以下である)を表す。さらに、上記の割合の具体的な表示式は
である。そして、主チャネル全体流量に占める中央チャネルの流量の割合が1-kであることに基づき、同様に、式(VII)に従って、
が得られ、主チャネル全体流量に占める中央チャネルにおける左側に最も近い粒子状物質の重心から右側に最も近い粒子状物質の重心までの領域範囲にあるその部分の流量の割合は
として求められる。さらに、式(VII)に従って、全体流量に占める液体流れがn+1番目の収束構造に入る直前である時の主チャネルに残っている流量の割合は
として計算される。ターゲット粒子は主チャネルに残り続け、ターゲット粒子を含まない液体流れは可能な限り分離されることを確保するためには、下記の式を満たす必要である。
【0075】
【0076】
ここで、不等式の左側は、全体液体流れに占める細胞重心が位置する領域範囲に対応するその部分の液体流れの割合を表し、右側は、全体液体流れに占めるn+1番目の収束構造の流動抵抗に従って計算された主チャネルに残り続ける液体流れの割合を表す。ターゲット粒子が分離されないようにするには、右側が左側と等しくするか、又は左側よりもわずかに大きくする必要がある。
【0077】
式(VIII)と式(IX)を組み合わせることで、異なるサイズのターゲット粒子(例えば、腫瘍細胞)については、ターゲット粒子を収束させ続けることができる収束構造の具体的なサイズと比例関係を決定することができ、特定のサイズと比例関係に限限定されない。
【0078】
(分流チャネル)
分流チャネル34の作用は、1つ又は複数の収束構造33の収束後、ターゲット粒子が液体流れの中央近くに集中し、分流チャネル34を主チャネル2に接続するように設けることで、ターゲット粒子を含まない液体流れの一部を排出することができ、それにより、サンプル液体流れの流速及び流量を低減させる、ことにある。その後、次の収束・分流ユニット3に入り、サンプルが最後の収束・分流ユニット3を流れた後、ターゲット粒子の捕捉が必要である場合は、主チャネル2を通して捕捉ユニット4に入る。
【0079】
分流チャネルの設計規則は、以下の通りである。収束構造33の収束後、主チャネル2における液体流れが分流チャネル34を流れる前に、ターゲット粒子が液体流れの中央に近い範囲内に収束されたので、流量・流速を減少させる目的を達成するためには、液体流れの縁に近い部分のターゲット粒子を含まない液体流れの部分を排出すればよい。
【0080】
分流チャネル34は、2つがあることが好ましく、主チャネル2の両側に対称的に配置されて、各分流チャネル34が上流と下流(或いは、前端と後端の両端)でそれぞれ主チャネルと交差し、分流チャネル34に入った液体が下流の交差点で主チャネル2に入って出口5から排出されることが好ましい。一実施形態においては、各分流チャネル34自身が分岐構造をさらに具備することができ、即ち、並列の複数のチャネルの形態、又は、直列と並列を組み合わせの複数のチャネルの形態をしている。
【0081】
一実施形態においては、
図5bに示すように、液体流れが1つ又は複数の収束構造を通過した後に主チャネル2に流れ込む時、液体流れの中央点からチャネルの境界(如右の境界)までの距離をW
Zとする同時に、全てのターゲット粒子が収束作用により液体流れの中央近くに集められ、ターゲット粒子を含む液体流れの境界から中央点までの距離をrとした場合、分流される必要のある液体流れの幅がW
Z-r以下であることが必要である。
【0082】
例示的な一実施形態においては、主チャネル2の全幅が90μmであり、即ちWZ=45μm。各収束・分流ユニット3が5つの収束構造33を備えている。収束後、ターゲット粒子は[-16μm、16μm]の範囲内に集束され、即ち、r=16μm(チャネルの中央点を座標原点とした)、そのため、WZ-r=29μmである。したがって、最適な設計は分流部が両側の幅が29μmの液体流れを分離し、非ターゲット粒子(例えば、白血球及び赤血球)を可能な限り多く除去できると同時に、ターゲット粒子(例えば、CTC)が分離されないことを保証する。
【0083】
WZ-rの液体流れが分離されることを保証するためには、どのぐらいの割合の液体流れが分流チャネルに入るべきであるかを決定する必要があるため、下記の計算を行う。以下の計算過程は、収束構造において側方支流チャネルによって分離される流量の計算過程と同様である。詳細は次のとおりである。
【0084】
主チャネル2に入ってチャネル中央から離れて続いて分流チャネル34に流れ込む液体流れを観察対象として、主チャネル中央側に近い該液体流れの境界と中央との間の距離をr(ターゲット粒子を含む部分の液体流れの境界と中央との間の距離rと同じである)とし、境界での液体流れの速度をvとし、vmaxは主チャネル中央での液体流れの流速であり、液体流れの断面での最大速度でもあり、WZを主チャネルの幅の半分とした場合、流体力学の原理によければ、vとvmaxは次の式を満たす。
【0085】
【0086】
速度分布とrを積分すると、元の関数が次のように得られる。
【0087】
【0088】
-WZからWZの全体のチャネルを積分すると、下記の式で示される全体の流量が得られる。
【0089】
【0090】
続いて、-WZから-r、及びrからWZまで積分すると、下記の式に示すように、主チャネルに流れ込んだ後の両側分流チャネルに分割される液体の流量を計算できる。
【0091】
【0092】
全液体流れに対する分流チャネルに入った流量の流量割合である分流割合をkとした場合、kの計算は下記の式に示される。
【0093】
【0094】
同様に、前記の示例的な実施形態においては、WZ=45μm、r=16μmである場合、WZ及びrを式(XI)に入れると、kの割合が約0.44であることが分かる。
【0095】
ここで、液体の分布は、下記の式に従う。
【0096】
【0097】
毎回の分流について、R1を分流チャネル(34)内部領域の流動抵抗(その意味は後述する)とし、R2を両側の分流チャネルの流動抵抗とした場合、分流チャネル流動抵抗の計算式は、以下の通りである。
【0098】
【0099】
ここで、ηは液体の粘度係数を表し、L、H、及びWはそれぞれチャネル(チャネルの長さ、高さ、幅)を表す。上記の方法に基づき、分流割合は
として得られる。
【0100】
本発明の幾つの実施形態においては、マイクロ流体チップは、上下に順に直列に配置されている複数組の収束・分流ユニットを備える。各所定の分流部については、分流チャネル34内部区域の流動抵抗は、分流チャネル(34)と主チャネル(2)の2つの交差点の間の領域にある全てのパイプ又は他の構造の全体流動抵抗を指す。簡潔のために、本発明では、それを「交差点の間の流動抵抗」又は「交差点の内部流動抵抗」と呼ばれ、単に「内部全体流動抵抗」又は「内部流動抵抗」とも呼ばれる。以下、最後の組、すなわち、捕捉ユニットに接続されている収束・分流ユニットから計算して始め、計算過程を示す。
【0101】
m番目の組(mは、1以上、収束・分流ユニットの総数以下の自然数である)の収束・分流ユニットの交差位置の内部流動抵抗をR1
mとし、最後の収束・分流ユニット(即ち、mは収束・分流ユニットの数と等しい場合)に関しては、その内部全体流動抵抗は捕捉領域と主チャネルとを接続する接続チャネル41の流動抵抗に捕捉ユニットの小ブロック42の流動抵抗を加えたものを含み、分流部における両側分流チャネルの流動抵抗をR2
mとした場合、満たす必要のある割合kが知られている(各収束・分流ユニットが同じkを満たしている)ので、
に従って、R1
mとR2
mとの関係、即ち、
を計算し、
が得られ、簡単にするために、
とする。
【0102】
m-1番目の組の分流部の両側分流チャネル内部の全体流動抵抗をR1
m-1とした場合、両側分流チャネルの流動抵抗がR2
m-1であり、式
に従って、R1
m-1とR2
m-1との関係を計算することができる。一方、R1
m-1は実にその後ろの組の分流部におけるR1
mと2組のR2
mとが並列して接続し、2組のR2
mが並列した後の流動抵抗が1/2×R2
mであり、さらに、R1
m-1=R1
m×1/2×R2
m/(R1
m+1/2R2
m)を計算し、ここで、R2
m=x×R1
mであり、上記の式に入れて、
R1
m-1=[x/(x+2)]×R1
m (XII)
を得ることができる。
【0103】
このように類推すれば、各組の収束・分流ユニットの分流部におけるR1とR2の具体的なパラメータを計算し、それにより、所定の分流目標を達成する必要がある場合、分流チャネル及び中央チャネルの長さ、幅、高さが満たす必要がある条件を決定する。
【0104】
一実施形態においては、k=0.5(即ち、半分の流量の液体流れが分流により分離される)である。
【0105】
具体的な一実施形態においては、前記チップは合わせて7組の収束・分流ユニット3を備え、各収束・分流ユニット3は1組の分流チャネル34(主チャネル2の左側と右側の両側でそれぞれ1つの分流チャネル34があり、両者が並列して配置される)を備え、合わせて7組の分流チャネル34を含む。
【0106】
最後の収束・分流ユニットの分流チャネル34に関しては、サンプルの液体流れが分流チャネル内部の流動抵抗と分流チャネルの並列流動抵抗に基づいて分布し、前記分流チャネル34内部の流動抵抗、即ち、捕捉ユニットの流動抵抗をR17とし、両側分流チャネル34の片側流動抵抗をR27とした場合、半分の流量を分流により分離できることを保証するためには、両側分流チャネルの総流動抵抗(並列)が捕捉ユニットの流動抵抗R17と等しくなることが必要がある。その計算は以下の通りである。
【0107】
両側分流チャネルの並列流動抵抗は、(R27×R27)/(R27+R27)=1/2×R27=R17であるから、R27=2R17が得られ、即ち、式XIIにおいてx=2である。従って、
後ろから2、3、4、5、6、7番目の組の分流部内部領域の総流動抵抗は、約1/2×R17、1/4×R17、1/8×R17、1/16×R17、1/32×R17及び1/64×R17であり、
後ろから2、3、4、5、6、7番目の組の分流部の分流チャネルの流動抵抗は約R17、1/2×R17、1/4×R17、1/8×R17、1/16×R17及び1/32×R17であることを容易に計算することができる。
【0108】
上記の計算に基づいて、分流チャネルの流動抵抗の関係及び具体的なサイズ割合の設計を簡単に取得できる。
【0109】
(捕捉ユニット)
従来技術における例えば腫瘍細胞などのターゲット粒子の様々な捕捉構造がある。理論的には、既存のすべての捕捉構造を本発明の捕捉ユニット4として使用することができる。好ましくは、本発明に係るチップは、複数層配置の隙間設計を採用する。ターゲット粒子を含む液体流れは流出捕捉ユニット4に入り、流出捕捉ユニット4は下端で出口5に接続され、その結果、捕捉された液体流れは出口5から排出され、また、液体流れが流れる隙間が徐々に小さくなることにより、特定のサイズのターゲット粒子を特異的に捕捉する。好ましくは、目粒子のサイズは液体流れ中の非ターゲット粒子よりも大きく、より好ましくは、前記ターゲット粒子は腫瘍細胞、例えば、循環性腫瘍細胞である。
【0110】
一実施形態においては、捕捉ユニット4は、複数層(例えば、3~10層、具体的には、3、4、5、6、7、8、9、10層)のアレイ構造である。好ましくは、各層のアレイは、任意の形状の(例えば、立方体、直方体、三角柱、円筒などの形状の、又は、断面が正方形、長方形、三角形、円形などであってもよい)小ブロックで配置される。2つの小ブロックの間には隙間がある。前記隙間の値は、隣接する2つの小ブロック上の最も近い2点の間の距離として定義される。また、好ましくは、各層のアレイ内の隙間は同じである。さらに好ましくは、異なる層のアレイの隙間は、上から下に段階的に減少する。例えば、アレイの層数が4である場合、上から下への隙間は順に14μm、12μm、10μm、および8μmである。
【0111】
一実施形態においては、捕捉ユニット4は、4層の三角形のアレイを備え、上から下への隙間が順に14μm、12μm、10μm、及び8μmであり、各層が均一に配置された3、3、3、5列の、辺の長さが80μmの正三角形である三角形を含むように設計される。
【0112】
具体的な一実施形態においては、前記捕捉ユニット4は、腫瘍細胞、特にCTC細胞を捕捉するために用いられる。これは、CTCは、サイズが比較的大きく、かつ、変形しにくく、隙間に引っかかるが、白血球などの他の血液細胞は、サイズが比較的小さく、かつ、変形能が強く、隙間を自由に通り抜けることができるためである。
【0113】
〈実施例〉
《実施例1 チップの設計》
図1に示すように、本実施例で製造したマイクロ流体チップは、収束・分流ユニット3と捕捉ユニット4とも含む。ここで、収束・分流ユニット3は、7つであり、順に直列に配置されている。各収束・分流ユニット3は、収集ポート31、主チャネルくびれ部32、5つの収束構造33、及び両側に配置された2つの分流チャネル34を含む。
【0114】
収集ポート31は、幅が最も広い部分の断面直径がW1=200μmであり、全体が漏斗状の構造をしている。主チャネルくびれ部32は断面直径がW2=30μmである。主チャネル2は、断面直径が90μmである。
【0115】
各収束・分流ユニット3について、前記5つの収束構造33の側分流チャネル332は、幅がそれぞれ30、40、40、40、40μmであり、長さがそれぞれ1180、900、600、440、440μm(片側の長さ)である。中央チャネル331は、幅Wsが30μmである。主チャネル2は、幅2WZが90μmである。
【0116】
前記7組の収束・分流ユニット3は、同じ数及びサイズの収束構造33を有し、分流チャネル34は、上から下への幅がそれぞれ220、200、180、160、140、110、及び85μmであり、長さがそれぞれ75131、70455、65809、61313、56917、52691、及び48570μm(片側の長さ)である。
【0117】
(製造プロセス)
(1)特定のターゲット粒子については、理論計算に基づいて、収束・分流ユニット及び捕捉ユニットのサイズを設計し、L-editを使用してチップ図を描画した。
(2)クロム板を使用してマスクを作成し、シリコンシート又はクロム板を基板として使用し、su-8光レジストによるスピン塗布、プリベーク、露光、ポストベーク、現像しモールドを作成した。
(3)PDMS Aゲル:Bゲル=8:1で均一に混合して金型に注ぎ、加熱して硬化させてチップを作成した。チップを打ち抜いた後、空気プラズマ処理によりスライドガラスに接着した。
【0118】
《実施例2 チップによる血液中の腫瘍細胞の捕捉》
PBSをチップに事前に通して、チャネルの空気を排出し、その後、1%BSAで0.5時間インキュベートし、細胞接着を防いた。
HeLa細胞を消化した後、CellTrackerで染色し、その後、10000細胞/mLの濃度まで希釈し、ウサギの血液を採取し、凝固を防ぐために等量のヘパリン(10mg/mL)を加えて1:1で希釈した。
1mlの希釈血液を採取し、濃度10000細胞/mLの染色後のHeLa細胞を100μL加え、シリンジポンプを使用して流速を制御しながらチップ注射器に押し込み、出口を24ウェルプレートに接続した。
【0119】
蛍光顕微鏡によりチップの各レベルの収束分流領域を観察し、HeLa細胞と血液中の他の細胞がフローラインに収束・分流される状況を統計してグラフを作成した(
図4b及びcを参照)。観察結果は、腫瘍細胞が収束構造を通過した後、徐々に中央に収束する過程を確認した。同時に、赤血球及び白血球は分流チャネルにより分離され、腫瘍細胞は分流チャネルにより分離されない(
図5cに示すように、赤蛍光は腫瘍細胞であり、蛍光が出ないのは赤血球及び白血球である)ことが観察された。
【0120】
その後、様々なヒト腫瘍細胞(HeLa、NCI-H226、MCF-7及びMB-MDA-231)を使用して実験を行った。前記腫瘍細胞は、同様のサイズであり、平均直径は約12~16μmの間である。実施例1のチップは、前記のサイズに基づいて作製し、理論的にはこれらのすべての細胞の分離に使用することができる。また、チップの信頼性を検証するために、低から高への流量勾配と細胞密度を設定して実験を行う。
【0121】
捕捉効率の計算式は、捕捉効率(%)=チップ上で捕捉された細胞/(チップで捕捉された細胞+チップから流出した細胞)×100%である。腫瘍細胞が蛍光標識されているため、蛍光顕微鏡で捕捉領域の全体の画像を撮った後、捕捉された腫瘍細胞の数として蛍光細胞の数を読み取った。チップから流出した液体を24ウェルプレートに収集し、ACK溶解液を加えて赤血球を溶解することで、視野をより明確にした後、蛍光顕微鏡で画像を撮って計数し、流出した腫瘍細胞の数を得た。
【0122】
結果は
図6に示し、HeLa細胞はさまざまな流量で高い捕捉効率を維持することができ、特に、流速が40mL/hに達した場合でも、90%を超えた捕捉効率を維持でき、流速が60mL/hであった場合でも、捕捉効率は依然として85%を超えた。
図6bには40mL/h流速での様々な大きさのヒト腫瘍細胞の捕捉効率を示した。チップは、様々な腫瘍細胞株に対して、同様の捕捉効率を有し、すべて90%以上に達したことがわかる。
図6cは、腫瘍細胞の密度が異なる場合、特に、腫瘍細胞の密度が非常に低い場合、チップは安定的かつ高い捕捉効率を維持することができることを示した。
【0123】
次に、様々な流速での捕捉領域における腫瘍細胞の分布を測定した。その結果は
図7に示し、流速が増加するにつれて、腫瘍細胞は、徐々に後方に分布し、流速が60mL/hに増加しても、腫瘍細胞が捕捉領域の隙間から漏れることがなく、これにより、本発明に係るチップが腫瘍細胞を効果的に捕捉することができることが分かった。
【0124】
《実施例3 白血球残留率測定》
白血球の残存は腫瘍細胞捕捉チップでよく発生する現象である。白血球の残留率が高すぎると、分離された腫瘍細胞の純度に影響を及ぼし、ひいてはその後の分析及び検出結果に影響を及ぼす。実施例1のチップでの白血球の残存状況を測定するために、幾つの異なる実験における白血球の残存数をサンプリングしてカウントした(
図8)。その結果は、実施例1のチップでは、白血球の残留率が10万分の8.1±6.6であり、即ち、残存白血球の割合が平均0.008%であり、他の純粋な物理的分離方法よりもはるかに低いことを示した。
【0125】
《実施例4 臨床サンプルの検出》
がん患者の血液中にはわずかな循環性腫瘍細胞(CTC)が存在することが知られている。血液CTCを有効的に捕捉することで、がんの早期発見と補助療法を実現することができる。がん患者の血液中の腫瘍細胞に対する本発明に係るチップの捕捉効率を確認するために、病院と協力して、3人の健康なボランティアの血液サンプル及び6人の確認されたがん患者の血液サンプルをそれぞれ2mL採取し、ランダムに番号を付き、実施例1のチップを使用して循環性腫瘍細胞(CTC)の捕捉をそれぞれ行った。捕捉後、チップ上でインサイチュCD45/EpCAM/Hoechst染色検証を行った。CellSearch基準により、染色結果はHoechst
+CD45
-EpCAM
+の細胞がCTCであることを示した。その結果は
図9に示し、本発明に係るチップでは、全ての健常血液サンプルから血液1ミリリットルあたり2つのCTCを検出した。健常者の血液からもCTCを検出される理由は、EpCAMがE型細胞を染色し、CTCがE型細胞である他に、血液中の皮膚細胞及びごくわずかな血液細胞もE型細胞であり、汚染が発生するためである。全てのがん患者の血液サンプルでは、有意に多くのCTCが血液中に捕捉され、特に2人の第IV期の乳がん患者では、血液1ミリリットルあたりそれぞれ117個と47個のCTCが検出された。第III期及び第IV期の肺癌の患者では、血液1ミリリットルあたりそれぞれ30~40個のCTCを検出することができた。初期の肺癌患者(IIB)では、血液1ミリリットルあたり17個のCTCを検出することができた。以上のデータは、本発明に係るチップが臨床サンプル中のCTCを高感度かつ効果的に捕捉することができ、計り知れない臨床応用価値を有することを示している。