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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20231004BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20231004BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20231004BHJP
   F02M 26/00 20160101ALI20231004BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D21/08 301C
F02D21/08 301E
F02D41/04
F02M26/00 301
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019124299
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021008876
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-061112(JP,A)
【文献】特開2007-120455(JP,A)
【文献】特開2017-002748(JP,A)
【文献】特開2004-011625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/14
F02D 21/08
F02D 41/04
F02M 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に吸気を導く吸気管と、
前記燃焼室から排出された排気ガスが導かれる排気管と、
前記排気管および前記吸気管に接続され、前記排気ガスをEGRガスとして前記吸気管に還流させるEGR管と、
前記排気管を通過する排気ガスの酸素濃度を検出する酸素センサと、
燃料の目標噴射量を導出する噴射量導出部と、
前記噴射量導出部によって導出された前記目標噴射量の燃料を前記燃焼室に噴射する燃料噴射部と、
を備え、
前記噴射量導出部は、
前記エンジンの運転領域を、リーン領域、リッチ領域、および、ストイキ領域のいずれかの領域に決定し、
決定した前記運転領域に基づいて目標空気過剰率を設定し、
前記運転領域を前記リーン領域に決定した場合に、前記酸素センサの検出値に基づいて前記排気ガスの空気過剰率を算出し、前記EGRガスの質量、および、前記排気ガスの空気過剰率に基づいて、前記EGRガスに含まれる空気の質量を導出し、前記EGRガスに含まれる燃料の質量を0に設定し、
前記運転領域を前記リッチ領域に決定した場合に、前記酸素センサの検出値に基づいて前記排気ガスの空気過剰率を算出し、前記EGRガスの質量、および、前記排気ガスの空気過剰率に基づいて、前記EGRガスに含まれる燃料の質量を導出し、前記EGRガスに含まれる空気の質量を0に設定し、
前記運転領域を前記ストイキ領域に決定した場合に、前記EGRガスに含まれる空気の質量を0に設定し、前記EGRガスに含まれる燃料の質量を0に設定し、
前記運転領域に拘わらず、
前記吸気管を通じて前記燃焼室に導かれる新気の質量をMair_thr、前記EGRガスに含まれる空気の質量をMair_egr、前記EGRガスに含まれる燃料の質量をMfuel_egr、理論空燃比をa、前記目標空気過剰率をλ_tgt、前記目標噴射量をMfuel_tgt とした場合、下記式(A)に基づいて、前記目標噴射量を導出する
Mfuel_tgt = {(Mair_thr + Mair_egr) ÷ (a × λ_tgt)} - Mfuel_egr …式(A)
エンジンシステム。
【請求項2】
前記EGR管を開閉するEGRバルブと、
前記EGRバルブの前後の圧力差を検出する差圧センサと、
前記EGRガスの温度を検出する温度センサと、
をさらに備え、
前記噴射量導出部は、前記EGRバルブの開度、前記差圧センサの検出値、前記温度センサの検出値、および、前記エンジンの回転数に基づいて、前記EGRガスの質量を導出する請求項1に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR機構を備えるエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、理論空燃比(ストイキ)よりもリーンな空燃比で燃料を燃焼させるリーン燃焼や、理論空燃比よりもリッチな空燃比で燃料を燃焼させるリッチ燃焼を実行可能なエンジンが開発されている。
【0003】
また、窒素酸化物(NOx)の低減やエンジンのノックの抑制を目的として、EGR(Exhaust Gas Recirculation)機構が設けられたエンジンが開発されている(例えば、特許文献1)。EGR機構は、排気路と吸気路とを接続するEGR流路と、EGR流路の開度を調整するEGRバルブとを備え、EGR流路を通じて、排気ガス(EGRガス)を吸気路に還流する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-332925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記リーン燃焼させる場合、排気ガスに含まれる空気(酸素)の量は、ストイキ燃焼よりも多い。したがって、リーン燃焼の実行中にEGRガスを還流させると、EGRガスに含まれる空気の分、エンジンの燃焼室に導入される空気の量が増加するため、燃焼室において着火性が低下するおそれがある。
【0006】
また、上記リッチ燃焼させる場合、排気ガスに含まれる未燃焼の燃料の量は、ストイキ燃焼よりも多い。したがって、リッチ燃焼の実行中にEGRガスを還流させると、EGRガスに含まれる燃料の分、エンジンの燃焼室に導入される燃料の量が増加するため、排気ガスに含まれる未燃焼の燃料(炭化水素)の量が増加するおそれがある。
【0007】
本発明は、燃焼室における着火性を向上しつつ、排気ガスに含まれる燃料の量を低減することが可能なエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のエンジンシステムは、エンジンの燃焼室に吸気を導く吸気管と、燃焼室から排出された排気ガスが導かれる排気管と、排気管および吸気管に接続され、排気ガスをEGRガスとして吸気管に還流させるEGR管と、排気管を通過する排気ガスの酸素濃度を検出する酸素センサと、燃料の目標噴射量を導出する噴射量導出部と、噴射量導出部によって導出された目標噴射量の燃料を燃焼室に噴射する燃料噴射部と、を備え、噴射量導出部は、エンジンの運転領域を、リーン領域、リッチ領域、および、ストイキ領域のいずれかの領域に決定し、決定した運転領域に基づいて目標空気過剰率を設定し、運転領域をリーン領域に決定した場合に、酸素センサの検出値に基づいて排気ガスの空気過剰率を算出し、EGRガスの質量、および、排気ガスの空気過剰率に基づいて、EGRガスに含まれる空気の質量を導出し、EGRガスに含まれる燃料の質量を0に設定し、運転領域をリッチ領域に決定した場合に、酸素センサの検出値に基づいて排気ガスの空気過剰率を算出し、EGRガスの質量、および、排気ガスの空気過剰率に基づいて、EGRガスに含まれる燃料の質量を導出し、EGRガスに含まれる空気の質量を0に設定し、運転領域をストイキ領域に決定した場合に、EGRガスに含まれる空気の質量を0に設定し、EGRガスに含まれる燃料の質量を0に設定し、運転領域に拘わらず、吸気管を通じて燃焼室に導かれる新気の質量をMair_thr、EGRガスに含まれる空気の質量をMair_egr、EGRガスに含まれる燃料の質量をMfuel_egr、理論空燃比をa、目標空気過剰率をλ_tgt、目標噴射量をMfuel_tgt とした場合、下記式(A)に基づいて、目標噴射量を導出する。
Mfuel_tgt = {(Mair_thr + Mair_egr) ÷ (a × λ_tgt)} - Mfuel_egr …式(A)
【0010】
また、上記エンジンシステムは、EGR管を開閉するEGRバルブと、EGRバルブの前後の圧力差を検出する差圧センサと、EGRガスの温度を検出する温度センサと、をさらに備え、噴射量導出部は、EGRバルブの開度、差圧センサの検出値、温度センサの検出値、および、エンジンの回転数に基づいて、EGRガスの質量を導出してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃焼室における着火性を向上しつつ、排気ガスに含まれる燃料の量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態にかかるエンジンシステムを説明する図である。
図2】実施形態にかかる目標噴射量導出方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
[エンジンシステム100]
図1は、本実施形態にかかるエンジンシステム100を説明する図である。なお、図1中、信号の流れを破線の矢印で示す。また、図1中、一方の差圧センサ188とECU10との間の信号の流れを示す破線、および、温度センサ190とECU10との間の信号の流れを示す破線は、図面の簡略化のため図示を省略する。
【0015】
図1に示すように、車両に搭載されるエンジンシステム100には、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータでなるECU(Engine Control Unit)10が設けられる。ECU10によりエンジンE全体が統括制御される。ただし、以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0016】
エンジンシステム100を構成するエンジンEは、シリンダブロック102と、クランクケース104と、シリンダヘッド106と、オイルパン110とを含む。クランクケース104は、シリンダブロック102と一体形成されている。シリンダヘッド106は、シリンダブロック102におけるクランクケース104とは反対側に接合される。オイルパン110は、クランクケース104におけるシリンダブロック102とは反対側に接合される。
【0017】
シリンダブロック102には、複数のシリンダボア112が形成されている。複数のシリンダボア112において、それぞれピストン114が摺動可能にコネクティングロッド116に支持されている。そして、エンジンEでは、シリンダボア112と、シリンダヘッド106と、ピストン114の冠面とによって囲まれた空間が燃焼室118として形成される。
【0018】
また、エンジンEでは、クランクケース104およびオイルパン110に囲まれた空間がクランク室120として形成される。クランク室120内には、クランクシャフト122が回転可能に支持されており、ピストン114がコネクティングロッド116を介してクランクシャフト122に連結される。
【0019】
シリンダヘッド106には、吸気ポート124および排気ポート126が燃焼室118に連通するように設けられる。吸気ポート124と燃焼室118との間には、吸気弁128の先端(傘部)が位置し、排気ポート126と燃焼室118との間には、排気弁130の先端(傘部)が位置している。
【0020】
また、シリンダヘッド106および不図示のヘッドカバーに囲まれた空間には、吸気用カム134a、ロッカーアーム134b、排気用カム136a、および、ロッカーアーム136bが設けられる。吸気弁128は、ロッカーアーム134bを介して、吸気用カムシャフトに固定された吸気用カム134aが当接されている。吸気弁128は、吸気用カムシャフトの回転に伴って、軸方向に移動し、吸気ポート124と燃焼室118との間を開閉する。排気弁130は、ロッカーアーム136bを介して、排気用カムシャフトに固定された排気用カム136aが当接されている。排気弁130は、排気用カムシャフトの回転に伴って、軸方向に移動し、排気ポート126と燃焼室118との間を開閉する。
なお、吸気用カムシャフトおよび排気用カムシャフトは、不図示のベルトを介してクランクシャフト122に接続されており、クランクシャフト122の回転に伴って回転する。
【0021】
吸気ポート124の上流側には、吸気マニホールドを含む吸気管140が連通される。吸気管140内には、スロットルバルブ142、および、スロットルバルブ142より上流側にエアクリーナ144が設けられる。スロットルバルブ142は、アクセル(図示せず)の開度に応じてアクチュエータにより開閉駆動される。エアクリーナ144にて浄化された空気は、吸気管140、吸気ポート124を通じて燃焼室118に吸入される。
【0022】
シリンダヘッド106には、燃料噴射口が燃焼室118に開口するようにインジェクタ150(燃料噴射部)が設けられるとともに、先端が燃焼室118内に位置するように点火プラグ152が設けられる。インジェクタ150から燃焼室118に噴射された燃料は、吸気ポート124から燃焼室118に供給された空気と混ざり混合気となる。そして、所定のタイミングで点火プラグ152が点火され、燃焼室118内で生成された混合気が燃焼される。かかる燃焼により、ピストン114が往復運動を行い、その往復運動が、コネクティングロッド116を通じてクランクシャフト122の回転運動に変換される。
【0023】
排気ポート126の下流側には、排気マニホールドを含む排気管160が連通される。排気管160内には、浄化触媒162が設けられる。浄化触媒162は、例えば、三元触媒(TWC:Three-Way Catalyst)、および、NOx吸蔵還元触媒(LNT:Lean NOx Trap)を含む。
【0024】
三元触媒は、例えば、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒成分を含む。三元触媒は、排気ポート126から排出された排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化(除去)する。NOx吸蔵還元触媒は、三元触媒で除去しきれなかったNOxを一旦吸蔵し、吸蔵したNOxを所定のタイミングで還元(浄化)する。浄化触媒162によって浄化された排気ガスは、マフラ164を通じて外部に排気される。
【0025】
EGR管170は、排気管160における、浄化触媒162の上流側と、吸気管140におけるスロットルバルブ142の下流側とに接続される。EGR管170は、排気管160を流通する排気ガスの一部を吸気管140に還流させる(以下、還流させた排気ガスを「EGRガス」と称する)。
【0026】
EGR管170には、EGRクーラ172が設けられており、EGRクーラ172で冷却されたEGRガスは、吸気管140、吸気ポート124を通じて燃焼室118に還流する。EGRバルブ174は、EGR管170におけるEGRクーラ172の下流側に設けられる。EGRバルブ174は、EGR管170を開閉して流路幅を調整することで、EGR管170を流れるEGRガスの流量を制御する。EGR管170を介して吸気管140に流入したEGRガスは、スロットルバルブ142を通過した新気とともに燃焼室118に供給される。
【0027】
また、エンジンシステム100には、吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、アクセル開度センサ186、差圧センサ188、温度センサ190、酸素センサ192が設けられる。
【0028】
吸入空気量センサ180は、吸気管140におけるエアクリーナ144とスロットルバルブ142との間に設けられており、エンジンEに流入する吸入空気量を検出する。スロットル開度センサ182は、スロットルバルブ142の開度を検出する。クランク角センサ184は、クランクシャフト122のクランク角を検出する。アクセル開度センサ186は、アクセル(図示せず)の開度を検出する。差圧センサ188は、吸気管140におけるEGR管170の接続箇所および吸気ポート124の間と、EGR管170におけるEGRバルブ174の上流側との圧力差を検出する。つまり、差圧センサ188は、EGRバルブ174前後の圧力差を検出する。温度センサ190は、EGR管170におけるEGRバルブ174の下流側を流れるEGRガスの温度を検出する。酸素センサ192は、排気管160を通過する排気ガスの酸素濃度を検出する。
【0029】
吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、アクセル開度センサ186、差圧センサ188、温度センサ190、および、酸素センサ192は、ECU10に接続されており、検出値を示す信号をECU10に出力する。
【0030】
ECU10は、吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、アクセル開度センサ186、差圧センサ188、温度センサ190、および、酸素センサ192から出力された信号を取得してエンジンEを制御する。ECU10は、エンジンEを制御する際、信号取得部12、目標値導出部14、空気量決定部16、スロットル開度決定部18、噴射量導出部20、点火時期決定部22、駆動制御部24、バルブ制御部26として機能する。
【0031】
信号取得部12は、吸入空気量センサ180、スロットル開度センサ182、クランク角センサ184、アクセル開度センサ186、差圧センサ188、温度センサ190、および、酸素センサ192が検出した値を示す信号を取得する。目標値導出部14は、クランク角センサ184から取得したクランク角を示す信号に基づいてエンジンEの回転数(クランクシャフト122の回転数)を導出する。また、目標値導出部14は、導出したエンジンEの回転数、および、アクセル開度センサ186から取得したアクセル開度を示す信号に基づき、不図示のメモリに予め記憶された目標値マップを参照して目標トルクおよび目標エンジン回転数を導出する。
【0032】
空気量決定部16は、目標値導出部14により導出された目標エンジン回転数および目標トルクに基づいて、各燃焼室118に供給する目標空気量を決定する。スロットル開度決定部18は、空気量決定部16により決定された各燃焼室118の目標空気量の合計量を導出し、合計量の空気を外部から吸気するための目標スロットル開度を決定する。
【0033】
噴射量導出部20は、空気量決定部16により決定された燃焼室118の目標空気量(エンジン負荷)と、目標エンジン回転数とに基づき、メモリに予め記憶された運転領域マップを参照して運転領域を決定する。なお、運転領域は、ストイキ領域、リーン領域、および、リッチ領域を少なくとも含む。ストイキ領域は、理論空燃比(ストイキ)でエンジンEを運転させる領域である。リーン領域は、ストイキよりも燃料が希薄な経済空燃比でエンジンEを運転させる領域である。リッチ領域は、ストイキよりも燃料が高濃度な出力空燃比でエンジンEを運転させる領域である。
【0034】
そして、噴射量導出部20は、決定した運転領域に基づいて、目標空気過剰率λ_tgtを決定する。例えば、噴射量導出部20は、運転領域をストイキ領域に決定した場合、目標空気過剰率λ_tgt = 1に決定する。また、噴射量導出部20は、運転領域をリーン領域に決定した場合、目標空気過剰率λ_tgt > 1に決定する。さらに、噴射量導出部20は、運転領域をリッチ領域に決定した場合、目標空気過剰率λ_tgt < 1に決定する。そして、噴射量導出部20は、決定した目標空気過剰率λ_tgtに基づいて、各燃焼室118に供給する燃料の目標噴射量を導出する。噴射量導出部20による目標噴射量の導出処理については後に詳述する。
【0035】
また、噴射量導出部20は、決定した目標噴射量の燃料をエンジンEの吸気行程あるいは圧縮行程でインジェクタ150から噴射させるために、クランク角センサ184により検出されるクランク角を示す信号に基づいて、各インジェクタ150の目標噴射時期および目標噴射期間を決定する。
【0036】
点火時期決定部22は、目標値導出部14により導出された目標エンジン回転数、および、クランク角センサ184により検出されるクランク角を示す信号に基づいて、各燃焼室118での点火プラグ152の目標点火時期を決定する。
【0037】
駆動制御部24は、スロットル開度決定部18により決定された目標スロットル開度でスロットルバルブ142が開口するように不図示のアクチュエータを駆動させる。また、駆動制御部24は、噴射量導出部20により決定された目標噴射時期および目標噴射期間でインジェクタ150を駆動することで、インジェクタ150から目標噴射量の燃料を噴射させる。また、駆動制御部24は、点火時期決定部22により決定された目標点火時期で点火プラグ152を点火させる。
【0038】
バルブ制御部26は、エンジンEの回転数およびエンジン負荷に応じて、不図示のアクチュエータを駆動させ、EGRバルブ174を開閉制御する。具体的に説明すると、不図示のメモリは、エンジンEの回転数およびエンジン負荷(注入空気量)と、EGRバルブ174の開度とが関連付けられたEGRマップを保持しており、バルブ制御部26は、EGRマップを参照して、EGRバルブ174の開度を決定する。そして、バルブ制御部26は、決定した開度となるように、EGRバルブ174を開閉制御する。
【0039】
このように、EGRガスを燃焼室118に還流させることにより、燃焼室118内の酸素濃度を低下させることができ、燃焼温度を低減することが可能となる。これにより、燃焼室118内における窒素酸化物の生成を抑制することができ、また、燃費を向上させることが可能となる。
【0040】
しかし、運転領域がリーン領域である場合、排気ガスに含まれる空気(酸素)の量は、ストイキ領域の場合よりも多くなる。したがって、リーン領域においてEGRガスを還流させると、燃焼室118に導入される空気の量は、EGRガスに含まれる空気の分、目標空気量より増加する。このため、燃焼室118において着火性が低下するおそれがある。また、運転領域がリッチ領域である場合、排気ガスに含まれる未燃焼の燃料の量は、ストイキ領域の場合よりも多くなる。したがって、リッチ領域において、EGRガスを還流させると、燃焼室118に導入される燃料の量は、EGRガスに含まれる燃料の分、増加する。このため、排気ガスに含まれる未燃焼の燃料(炭化水素)の量が増加して、浄化触媒162で浄化しきれず、外部に流出してしまうおそれがある。
【0041】
そこで、噴射量導出部20は、EGRガスに含まれる空気(窒素78体積%、酸素21体積%を含む混合ガス)の質量、および、EGRガスに含まれる燃料の質量を勘案して、目標噴射量を導出する。以下、本実施形態にかかる噴射量導出部20による目標噴射量導出方法について説明する。
【0042】
図2は、本実施形態にかかる目標噴射量導出方法の処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すように、目標噴射量導出方法は、ストイキ領域判定処理S110、EGRガス質量導出処理S120、リーン領域判定処理S130、空気質量導出処理S140、燃料質量導出処理S150、目標噴射量導出処理S160を含む。以下、各処理について詳述する。
【0043】
[ストイキ領域判定処理S110]
噴射量導出部20は、現在の運転領域がストイキ領域であるか否かを判定する。その結果、ストイキ領域であると判定した場合(S110におけるYES)、噴射量導出部20は、目標噴射量導出処理S160に処理を移す。一方、ストイキ領域ではないと判定した場合(S110におけるNO)、噴射量導出部20は、EGRガス質量導出処理S120に処理を移す。
【0044】
[EGRガス質量導出処理S120]
噴射量導出部20は、燃焼室118に還流されるEGRガスの質量を導出する。本実施形態において、噴射量導出部20は、EGRバルブ174の開度、差圧センサ188の検出値、温度センサ190の検出値、および、エンジンEの回転数に基づいて、燃焼室118に還流されるEGRガスの質量を導出する。
【0045】
具体的に説明すると、まず、噴射量導出部20は、EGRバルブ174の開度および差圧センサ188の検出値に基づいて、燃焼室118に還流されるEGRガスの体積流量を導出する。例えば、噴射量導出部20は、EGRバルブ174の開度に基づいて、EGR管170の流路断面積を導出する。そして、噴射量導出部20は、EGR管170の流路断面積と、差圧センサ188の検出値と、所定の流出係数とに基づいて、燃焼室118に還流されるEGRガスの体積流量を導出する。また、噴射量導出部20は、温度センサ190の検出値に基づいて、EGRガスの密度を導出する。そして、噴射量導出部20は、導出したEGRガスの体積流量と、EGRガスの密度とに基づいて、燃焼室118に還流されるEGRガスの質量流量を導出する。噴射量導出部20は、導出したEGRガスの質量流量と、エンジンEの回転数とに基づいて、1サイクル当たりに燃焼室118に還流されるEGRガスの質量を導出し、リーン領域判定処理S130に処理を移す。
【0046】
[リーン領域判定処理S130]
噴射量導出部20は、現在の運転領域がリーン領域であるか否かを判定する。その結果、リーン領域であると判定した場合(S130におけるYES)、噴射量導出部20は、空気質量導出処理S140に処理を移す。一方、リーン領域ではないと判定した場合(S130におけるNO)、つまり、リッチ領域であると判定した場合、噴射量導出部20は、燃料質量導出処理S150に処理を移す。
【0047】
[空気質量導出処理S140]
噴射量導出部20は、EGRガス質量導出処理S120で導出したEGRガスの質量と、理論空燃比と、酸素センサ192の検出値に基づいて、燃焼室118に還流されるEGRガスに含まれる空気の質量を導出する。
【0048】
具体的に説明すると、例えば、MAir_in[g]の空気と、MFuel_in[g]の燃料とを混合して燃焼させた結果、MExh_all[g]の排気ガスが生成された場合、質量保存の法則から下記式(1)が成立する。
MExh_all = MAir_in + MFuel_in …式(1)
ここで、排気ガスの空気過剰率をλ、理論空燃比をaとすると、下記式(2)が成立する。
MAir_in / MFuel_in = a × λ …式(2)
【0049】
一方、排気ガスに含まれる空気の質量をMAir_exとすると、下記式(3)となる。
MAir_ex = MAir_in - a×MFuel_in …式(3)
そして、式(3)に式(1)、式(2)を代入すると、式(4)となる。
MAir_ex = MExh_all × a × {λ-1 / (1+a×λ)} …式(4)
【0050】
また、排気ガスに含まれる燃料の質量をMFuel_exとすると、下記式(5)となる。
MFuel_ex = MFuel_in - MAir_in/a …式(5)
そして、式(5)に式(1)、式(2)を代入すると、式(6)となる。
MFuel_ex = MExh_all × {1-λ / (1+a×λ)} …式(6)
【0051】
したがって、まず、噴射量導出部20は、酸素センサ192の検出値に基づいて、排気管160を流れる排気ガスの空気過剰率λを導出する。そして、噴射量導出部20は、上記式(4)を用い、EGRガス質量導出処理S120で導出したEGRガスの質量Megr_allをMExh_allに代入し、酸素センサの検出値に基づいて導出した空気過剰率λを代入することで、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrを導出する。つまり、空気質量導出処理S140において噴射量導出部20は、下記式(7)を用いて、1サイクル当たりに燃焼室118に還流されるEGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrを導出する。
Mair_egr = Megr_all × a × {λ-1 / (1+a×λ)} …式(7)
【0052】
[燃料質量導出処理S150]
噴射量導出部20は、EGRガス質量導出処理S120で導出したEGRガスの質量Megr_allと、理論空燃比aと、酸素センサ192の検出値に基づいて、燃焼室118に還流されるEGRガスに含まれる燃料の質量を導出する。
【0053】
具体的に説明すると、まず、噴射量導出部20は、酸素センサ192の検出値に基づいて、排気管160を流れる排気ガスの空気過剰率λを導出する。そして、噴射量導出部20は、上記式(6)を用い、EGRガス質量導出処理S120で導出したEGRガスの質量Megr_allをMExh_allに代入し、酸素センサの検出値に基づいて導出した空気過剰率λを代入することで、EGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrを導出する。つまり、燃料質量導出処理S150において噴射量導出部20は、下記式(8)を用いて、1サイクル当たりに燃焼室118に還流されるEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrが導出される。
Mfuel_egr = Megr_all × {1-λ / (1+a×λ)} …式(8)
【0054】
[目標噴射量導出処理S160]
噴射量導出部20は、吸入空気量センサ180の検出値に基づき、スロットルバルブ142(吸気管140)を通じて燃焼室118に導かれる新気の質量Mair_thrを導出する。そして、噴射量導出部20は、導出した新気の質量Mair_thr、空気質量導出処理S140で導出したEGRガスに含まれる空気の質量Mair_egr、燃料質量導出処理S150で導出したEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egr、理論空燃比a、決定した目標空気過剰率λ_tgtに基づき、下記式(A)を用いて目標噴射量Mfuel_tgtを導出する。
Mfuel_tgt = {(Mair_thr + Mair_egr) ÷ (a × λ_tgt)} - Mfuel_egr …式(A)
【0055】
なお、運転領域がストイキ領域である場合、EGRガス(排気ガス)中に空気および燃料は含まれない。したがって、ストイキ領域である場合、噴射量導出部20は、上記式(A)において、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrおよびEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrに0(ゼロ)を代入して、目標噴射量Mfuel_tgtを導出する。
【0056】
一方、運転領域がリーン領域である場合、燃焼室118に導かれる空気は、ストイキ領域よりも多い。このため、リーン領域である場合、EGRガス(排気ガス)中に燃料は含まれない。したがって、リーン領域である場合、噴射量導出部20は、上記式(A)において、EGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrに0(ゼロ)を代入して、目標噴射量Mfuel_tgtを導出する。
【0057】
また、運転領域がリッチ領域である場合、燃焼室118に導かれる空気は、ストイキ領域よりも少ない。このため、リッチ領域である場合、EGRガス(排気ガス)中に空気は含まれない。したがって、リッチ領域である場合、噴射量導出部20は、上記式(A)において、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrに0(ゼロ)を代入して、目標噴射量Mfuel_tgtを導出する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のエンジンシステム100は、運転領域がリーン領域である場合、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrを勘案して、目標噴射量Mfuel_tgtを導出し、この目標噴射量Mfuel_tgtの燃料を燃焼室118に噴射する。つまり、エンジンシステム100は、運転領域がリーン領域である場合、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egr分を加えた燃料を燃焼室118に噴射する。これにより、エンジンシステム100は、燃焼室118における着火性を向上させることができる。したがって、エンジンシステム100は、燃焼室118において失火してしまう事態を回避することが可能となる。
【0059】
また、エンジンシステム100は、運転領域がリッチ領域である場合、EGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrを勘案して、目標噴射量Mfuel_tgtを導出し、この目標噴射量Mfuel_tgtの燃料を燃焼室118に噴射する。つまり、エンジンシステム100は、運転領域がリッチ領域である場合、EGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egr分を減じた燃料を燃焼室118に噴射する。これにより、エンジンシステム100は、燃焼室118に過剰に燃料が供給される事態を回避することができる。したがって、エンジンシステム100は、排気ガスに含まれる未燃焼の燃料(炭化水素)の増加を防止することが可能となる。したがって、エンジンシステム100は、マフラ164から燃料が外部に流出する事態を回避することができる。
【0060】
また、エンジンシステム100は、上記式(A)を用いるだけで、ストイキ領域、リーン領域、および、リッチ領域のいずれの運転領域であっても最適な目標噴射量Mfuel_tgtを導出することができる。したがって、エンジンシステム100は、運転領域ごとに固有の計算式を参照する構成と比較して、処理負荷を軽減することが可能となる。
【0061】
また、エンジンシステム100は、運転領域に応じて、噴射量導出部20が目標噴射量Mfuel_tgtを補正する。このため、エンジンシステム100は、スロットルバルブ142の開度を調整して目標空気量を補正する場合と比較して、燃焼室118の着火性の向上、および、排気ガス中の燃料の低減の応答性を向上させることが可能となる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
なお、上記実施形態において、噴射量導出部20が、上記式(A)を用いて目標噴射量Mfuel_tgtを導出する構成を例に挙げた。しかし、噴射量導出部20は、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrまたはEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrと、予め設定された目標空気過剰率λ_tgtとに基づいて、目標噴射量Mfuel_tgtを導出することができれば、導出方法に限定はない。例えば、エンジンシステム100は、運転領域と、EGRバルブ174の開度と、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrまたはEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrとを関連付けた補正マップをメモリに記憶しておき、補正マップを参照して、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrまたはEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrを導出してもよい。
【0064】
また、上記実施形態において、噴射量導出部20が、EGRガスの質量Megr_allおよびEGRガスの空気過剰率λに基づいて、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrおよびEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrを導出する構成を例に挙げた。しかし、噴射量導出部20による、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrまたはEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrの導出方法に限定はない。例えば、エンジンシステム100は、EGRガスに含まれる空気の質量Mair_egrまたはEGRガスに含まれる燃料の質量Mfuel_egrを検出可能なセンサを備え、噴射量導出部20は、センサの検出値に基づいて、目標噴射量Mfuel_tgtを導出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、EGR機構を備えるエンジンシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0066】
20 噴射量導出部
100 エンジンシステム
140 吸気管
150 インジェクタ(燃料噴射部)
160 排気管
170 EGR管
図1
図2