(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】合成単一ドメイン抗体
(51)【国際特許分類】
C40B 40/10 20060101AFI20231004BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231004BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231004BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231004BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231004BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C40B40/10 ZNA
C07K16/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12P21/08
C40B40/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019127616
(22)【出願日】2019-07-09
(62)【分割の表示】P 2016551025の分割
【原出願日】2014-11-04
【審査請求日】2019-08-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-08
(32)【優先日】2013-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】500026533
【氏名又は名称】アンスティテュ・キュリ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
(73)【特許権者】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・トゥールーズ・トロワ-ポール・サバティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE TOULOUSE III-PAUL SABATIER
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】オリション,オーレリアン
(72)【発明者】
【氏名】ムーテル,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス,フランク
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】上條 肇
【審判官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/064382(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/020079(WO,A1)
【文献】Nature Structural & Molecular Biology,2011,Vol.19,No.1,p.117-121
【文献】Curr.Protoc.Protein Sci.,2013 Sep.,Supplement 73:Unit 30.2.1-30.2.13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00 - 16/46
C12N 15/00 - 15/90
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GENESEQ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成単一ドメイン抗体ライブラリーを作成する方法であって、該方法は、
i.CDR1、CDR2及びCDR3をコードする多様な核酸を、合成単一ドメイン抗体のそれぞれのフレームワークコード領域間に導入して、その同じ合成単一ドメイン抗体骨格のアミノ酸配列を有する多様な合成単一ドメイン抗体をコードする核酸を作製する工程を含み、
前記の合成単一ドメイン抗体骨格は、
フレームワーク領域の全体において1、2又は3つ以下の保存的アミノ酸置換を有する配列番号1のFR1、配列番号2のFR2、配列番号3のFR3、及び配列番号4のFR4からなるフレームワーク領域
の機能的な変異を含み、機能的な変異フレームワーク領域は、以下の
工程:
(i
) アッセイするために、変異フレームワーク領域に移植した配列番号9のクローンD10のCDR1(FTFSSYA)、CDR2(DSSGNHA)及びCDR3(RS
DAAGNPSG)を有する基準の単一ドメイン抗体を提供すること、
(ii
) そのような基準の単一ドメイン抗体が、以下
の特性:
a.
それは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ融合アッセイにおける還元性環境において安定であ
り、前記単一ドメイン抗体は、C末端タグとしてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ
と融合した細菌細胞において発現させた場合に培養
培地中300μg/mLより高いクロラムフェニコール濃度で耐性である、
を有するか否かをアッセイすること
を含むクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼアッセイで試験される還元性環境において安定である能力を維持し、ここで、保存的なアミノ酸の置換は、類似の側鎖を有するアミノ酸残基の間でのアミノ酸置換をいい、類似の側鎖のファミリーは、
リジン、アルギニン及びヒスチジンからなる塩基性側鎖を有するアミノ酸残基、
アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる酸性側鎖を有するアミノ酸残基、
グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファンからなる非荷電の極性側鎖を有するアミノ酸残基、
アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンからなる非極性側鎖を有するアミノ酸残基、
トレオニン、バリン、イソロイシンからなるβ分岐側鎖を有するアミノ酸残基、
チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン及びヒスチジンからなる芳香族側鎖を有するアミノ酸残基
からなる、方法。
【請求項2】
ライブラリーのクローンの少なくとも70%の合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基が、以下の原則:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV
によって決定され;
CDR3のアミノ酸配列が、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から無作為に選択された9~18個のアミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
合成単一ドメイン抗体ライブラリーであって、
同じ合成単一ドメイン抗体骨格のアミノ酸配列を有し、一方でCDRが異なる、多様な合成単一ドメイン抗体を含み、
前記の合成単一ドメイン抗体骨格は、フレームワーク領域の全体において1、2又は3つ以下の保存的アミノ酸置換を有する配列番号1のFR1、配列番号2のFR2、配列番号3のFR3、及び配列番号4のFR4からなるフレームワーク領域の機能的な変異を含み、機能的な変異フレームワーク領域は、以下の工程:
(iii) アッセイするために、変異フレームワーク領域に移植した配列番号9のクローンD10のCDR1(FTFSSYA)、CDR2(DSSGNHA)及びCDR3(RSDAAGNPSG)を有する基準の単一ドメイン抗体を提供すること、
(iv) そのような基準の単一ドメイン抗体が、以下の特性:
a.それは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ融合アッセイにおける還元性環境において安定であり、前記単一ドメイン抗体は、C末端タグとしてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼと融合した細菌細胞において発現させた場合に培養培地中300μg/mLより高いクロラムフェニコール濃度で耐性である、
を有するか否かをアッセイすること
を含むクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼアッセイで試験される還元性環境において安定である能力を維持し、
ここで、保存的なアミノ酸の置換は、類似の側鎖を有するアミノ酸残基の間でのアミノ酸置換をいい、類似の側鎖のファミリーは、
リジン、アルギニン及びヒスチジンからなる塩基性側鎖を有するアミノ酸残基、
アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる酸性側鎖を有するアミノ酸残基、
グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファンからなる非荷電の極性側鎖を有するアミノ酸残基、
アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニンからなる非極性側鎖を有するアミノ酸残基、
トレオニン、バリン、イソロイシンからなるβ分岐側鎖を有するアミノ酸残基、
チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン及びヒスチジンからなる芳香族側鎖を有するアミノ酸残基
からなる、合成単一ドメイン抗体ライブラリー。
【請求項4】
少なくとも3×10
9個の明確に異なる抗体クローニング配列を含む、請求項3の合成単一ドメイン抗体ライブラリー。
【請求項5】
対象の標的に結合する合成単一ドメイン抗体を同定するためのスクリーニング法における、請求項4の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの使用。
【請求項6】
前記のスクリーニング法が
、ファージディスプレイである、請求項5の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、非常に安定な合成単一ドメイン抗体骨格の同定、及び、合成単一ドメイン抗体ライブラリーの作成におけるその使用に関する。本発明はまた、前記の安定な単一ドメイン抗体骨格を含む抗原結合タンパク質、及び、特に治療薬としてのその使用に関する。
【0002】
発明の背景
過去十年間にわたって抗体は、特に腫瘍学の分野において最も有望な治療アプローチの1つとしてだけでなく、研究又は診断のツールの重要な入手源としての役目が課されてきた。
【0003】
免疫グロブリンG(IgG)は、ジスルフィド結合によって互いに結合した重鎖と軽鎖の2つのヘテロダイマーを含む、典型的な抗体の基本的な構造である。しかし、天然の一本鎖抗体が、ラクダ科(Hamers-Casterman et al, 1993, Nature, 363, pp446-448)及びサメ(Greenberg et al, Nature. 1995, Mar 9;374(6518):168-73)の少なくとも2つの動物群において発見されている。これらの一本鎖抗体は、軽鎖を欠失したさらに他のクラスのIgGを構成する。これらの一本鎖天然抗体の認識部分は、VHHと呼ばれる重鎖の可変ドメインのみを含む。VHHは、IgGドメインの骨格を形成する4つのフレームワーク(FR)、及び、抗原との結合に関与する3つの相補性決定領域(CDR)を含有する。
【0004】
VHH骨格の多くの利点が報告されている:鎖間のジスルフィド結合がないので、それらは一般的に、還元性環境においてより溶解度が高くかつより安定である(Wesolowski et al, 2009 Med Microbiol Immunol. Aug;198(3):157-74)。VHHはまた、そのサイズが小さいために(15kDa)、より高い溶解度、より高い発現収率、及びより高い熱安定性を有すると報告されている(Jobling SA et al, Nat Biotechnol. 2003 Jan; 21 (1): 77-80)。さらに、VHHのフレームワークはファミリーIIIのヒトVHドメインと高い配列相同性及び構造相同性を示し(Muyldermans et al, 2001. J Biotechnol. Jun; 74 (4): 277-302)、VHHはヒトVHと同等な免疫原性を有するので、治療適用のための非常に興味深い薬剤の構成要素となり、その中のいくつかは第II相臨床試験中である(Ablynx社のナノボディ(登録商標))。ヒトとは異なる10個のアミノ酸上で、VHHの4つの特徴的なアミノ酸がフレームワーク-2領域において同定された。
【0005】
VHH骨格の特性は、療法に使用する上で多くの利点を有し:それらは、組織へのより良好な浸透、腎臓におけるより迅速なクリアランス、高い特異性であるがしかしまた低減された免疫原性を有する。
【0006】
ラクダ科の動物の抗体ライブラリーは、例えば、米国特許第2006/0246058号(カナダ国立研究機関)に記載されている。記載されているファージディスプレイライブラリーは、ラマの抗体断片、特に可変重鎖の単一ドメイン断片(VHH及びVH)を含む。ライブラリーは、免疫化されていない動物のリンパ球ゲノムを使用して作成された(ナイーブライブラリー)。得られたファージディスプレイライブラリーはまた、従来のVH抗体断片の混入物も含有する。
【0007】
米国特許第7,371,849号(Institute For Antibodies Co., Ltd)はまた、ラクダ科の動物のVHH遺伝子からVHHライブラリーを作成する方法も報告する。このようなライブラリーの多様性は、ナイーブなレパートリーからVHH可変領域を単離する従来のプロセスを改良することによって得られた。しかし、これらの先行技術は、非ヒトに由来する抗体の免疫原性の問題に対処しない。それらの中のいくつかは対象の特定の標的に結合することが同定されているが、それらを、ヒト免疫系を賦活するリスクを伴うことなく、治療薬として使用するために患者に投与することはできない。
【0008】
ラクダ科の動物の単一ドメイン抗体をヒト化するための方法は、Vincke et al, 2008, JBC Vol 284(5) pp 3273-3284に記載されている。
【0009】
米国特許第8,367,586号は、合成抗体又はその断片のコレクションを開示している。これらの抗体は、可変重鎖と可変軽鎖の対を含み、そのフレームワーク領域には、最適な生殖系列上の遺伝子配列の一部を有する。このようなヒト配列の組込みは、治療用途の際の免疫原性のリスクを低減することを可能とする。
【0010】
Monegal et al(2012, Dev Comp Immunol. 36(1):150-6)は、VHの特徴を有する単一ドメイン抗体が、ラマのナイーブライブラリーのバイオパニングの間に繰り返し同定されることを報告する。事実、VHHの特徴よりもVHの特徴が、VHHナイーブライブラリーから選択された結合物質においてより頻繁に同定される。例えば、Monegal et alは、VHの特徴の5%がナイーブライブラリーに見られ、一方、これらのVHの特徴の20%が、抗原に対するバイオパニング後に選択された抗体の中に見られる。
【0011】
それ故、この知見にも関わらず、高度な多様性を有し、かつ、所望の標的に対して高い親和性を有する非常に安定なヒト化単一ドメイン抗体を生じることのできる、単一ドメイン抗体ライブラリーを提供する必要性が依然として存在する。
【0012】
したがって、本発明の1つの態様は、高度な多様性を有し、特定の抗原に対して高い親和性を有する非常に安定な単一ドメイン抗体ライブラリーを生じることのできる、非免疫原性の組換え単一ドメイン抗体ライブラリーを提供することである。別の態様は、細胞内環境において活性である単一ドメイン抗体の豊富なライブラリーを提供することである。さらに別の態様は、高い熱安定性を有する単一ドメイン抗体の豊富なライブラリーを提供することである。
【0013】
発明の概要
本発明の目的は、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを作成する方法によって成し遂げられ、該方法は、
i)CDR1、CDR2及びCDR3をコードする多様な核酸を、合成単一ドメイン抗体(これは本明細書において以後、「hs2dAb」と称され得る)のそれぞれのフレームワークコード領域間に導入して、合成単一ドメイン骨格のアミノ酸配列を有する同合成単一ドメイン抗体をコードする多様な核酸を作製する工程を含み、
前記の合成単一ドメイン骨格のアミノ酸配列は、少なくとも以下の元来のラクダ科の動物のVHHアミノ酸残基:F37、E44、R45、F47;及び少なくとも以下のヒト化アミノ酸残基:P14、S49、S74、R83、A84を含有し、場合によりさらに元来のラクダ科の動物のVHH残基であるQ5、Q108及びT89を含む。
【0014】
1つの具体的な実施態様では、合成単一ドメイン抗体(hs2dAb)はラマ種のVHHに由来し、かつ以下のヒト化アミノ酸残基:F11、P14、S49、S74、K75、V78、Y79、S82b、R83及びA84を含む。1つの関連した具体的な実施態様では、合成単一ドメイン抗体は、以下の全てのアミノ酸残基:Q5、A8、F11、P14、F37、K43、E44、R45、F47、S49、A50、S74、K75、V78、Y79、S82b、R83、A84、T89、Q108を含み得、ここでアミノ酸残基の位置は、VH及びVHHアミノ酸配列について用いたKabatの命名法により示される。
【0015】
1つの具体的な実施態様では、合成単一ドメイン抗体は、配列番号1のFR1、配列番号2のFR2、配列番号3のFR3、及び配列番号4のFR4からなる前記のフレームワーク領域、又は、各フレームワーク領域内に例えば1、2若しくは3つ以下の保存的アミノ酸置換を有する機能的な変異フレームワーク領域を含む。
【0016】
1つの好ましい実施態様では、合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は、以下の原則:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV
によって決定される。
【0017】
前の実施態様と合わせられ得る1つの関連した実施態様では、前記のCDR3のアミノ酸配列は、9~18個のアミノ酸を含む。前の実施態様と合わせられ得る1つの関連した実施態様では、前記のCDR3のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から選択されたアミノ酸残基を含む。
【0018】
本発明はまた、上記の方法によって得ることができ、かつ、少なくとも3×109個の明確に異なる単一ドメイン抗体コード配列を含む、合成単一ドメイン抗体ライブラリーに関する。
【0019】
本発明はさらに、対象の標的、例えばヒトタンパク質に結合する合成単一ドメイン抗体を同定するためのスクリーニング法、例えばファージディスプレイにおける、前記の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの使用に関する。
【0020】
最後に、本発明は、以下の式:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の合成単一ドメイン抗体を含む抗原結合タンパク質を扱い、該フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4は、少なくとも以下の元来のラクダ科の動物のVHHアミノ酸残基:F37、E44、R45、F47、及び少なくとも以下のヒト化アミノ酸残基:P14、S49、S74、R83、A84を含有する。該フレームワーク領域はさらに、少なくとも以下のアミノ酸残基:Q5、Q108及びT89を含有し得る。1つの好ましい実施態様では、抗原結合タンパク質は、少なくとも以下の特定のアミノ酸残基:Q5、A8、F11、P14、F37、K43、E44、R45、F47、S49、A50、S74、K75、V78、Y79、S82b、R83、A84、T89、Q108の組合せを有する、合成単一ドメイン抗体を含む。
【0021】
前の実施態様と合わせられ得る1つの具体的な実施態様では、抗原結合タンパク質は、以下の機能的特性の1つ以上を有する合成単一ドメイン抗体を含む:
a)それをE.coliペリプラズムにおいて可溶性の単一ドメイン抗体として発現させることができる、
b)それをE.coli、酵母又は他の真核生物の細胞質基質において可溶性の細胞内発現抗体として発現させることができる、
c)それは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ融合アッセイに示されているような還元性環境において安定である、
d)それは、例えば融合タンパク質(例えば蛍光タンパク質との融合物)として哺乳動物細胞株において発現させた場合に凝集しない。
【0022】
1つの好ましい実施態様では、抗原結合タンパク質のフレームワーク領域は、配列番号1のFR1、配列番号2のFR2、配列番号3のFR3、及び配列番号4のFR4からなるラマ種のVHHのフレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4、又は、FR1、FR2、FR3及びFR4の各々に例えば0、1、2若しくは3つ以下の保存的アミノ酸置換を有するその機能的な変異体に由来する。
【0023】
前の実施態様と合わせられ得る別の好ましい実施態様では、合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は、以下のように分配され:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、S、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV、
CDR3のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から選択された9~18個のアミノ酸を含む。
【0024】
発明の詳細な説明
本明細書では、合成単一ドメイン抗体又はその断片におけるアミノ酸残基の位置は、本明細書において以後に示されているようにKabatの番号付け命名法に従って示される。
【0025】
【0026】
本発明は、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを作成する方法を提供し、該方法は、
i.CDR1、CDR2及びCDR3をコードする多様な合成核酸を、合成単一ドメイン抗体のそれぞれのフレームワークコード領域間に導入して、合成単一ドメイン抗体骨格のアミノ酸配列を有する多様な同合成単一ドメイン抗体をコードする核酸を作製する工程を含み、
前記の合成単一ドメイン骨格のアミノ酸配列は、少なくとも以下の元来のラクダ科の動物のアミノ酸残基:F37、E44、R45、F47;及び、少なくとも以下のヒト化アミノ酸残基:P14、S49、S74、R83、A84を含有し、場合によりさらに、元来のラクダ科の動物のVHH残基のQ5、Q108、及びT89を含む。
【0027】
本発明の合成単一ドメイン抗体骨格
本発明は、非常に安定な単一ドメイン抗体骨格を得るための、単一ドメイン抗体のフレームワーク領域における独特な特色の同定、及び、合成単一ドメイン抗体ファージディスプレイライブラリーなどの合成単一ドメイン抗体ライブラリーを作成する際のその使用に関する。前記の独特な骨格を有する、結果として得られたhs2dAbは非常に安定で、かつ免疫原性のリスクが低い。
【0028】
ライブラリーを作成するための出発物質として、単一ドメイン抗体をコードする核酸が提供され得る。
【0029】
本明細書において使用される「単一ドメイン抗体」という用語は、重鎖に由来する単一のモノマーの可変抗体ドメインからなる、僅か12~15kDaの分子量を有する抗体断片を指す。該単一ドメイン抗体は、軽鎖を欠失した天然の抗体断片、例えば、ラクダ科の動物の抗体に由来するいわゆるVHH抗体、又はサメ種の抗体に由来するいわゆるVNAR断片から誘導され得る。該単一ドメイン抗体はまた、特定の以下の突然変異:F37、E44、R45及びF47を有するヒト抗体からも誘導され得る。したがって、単一ドメイン抗体は、3つの超可変CDR領域の間に配置された少なくとも4つのフレームワーク領域を含有し、結果として、以下の典型的な抗体可変ドメイン構造:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4が得られる。該単一ドメインは、抗体の軽鎖可変領域と相互作用しないで、重鎖と軽鎖の従来のヘテロダイマーの抗原に結合するVH構造を形成する。
【0030】
本明細書において使用される「合成」という用語は、このような抗体が天然の抗体断片から得られておらず、人工的なコード配列を含む組換え核酸から産生されたことを意味する。
【0031】
特に、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、人工的なフレームワーク及びCDRコード配列の合成によって作成された。免疫化されていないラマ動物のナイーブレパートリーの増幅によって得られたライブラリーとは異なり、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは従来のVH抗体を含有しない。
【0032】
有利には、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの1つの好ましい実施態様では、全ての単一ドメイン抗体クローンが同じフレームワーク領域を含有し、よって、独特な合成単一ドメイン抗体骨格が得られる。
【0033】
本明細書において使用される「骨格」という用語は、本発明のライブラリーの合成単一ドメイン抗体の4つのフレームワーク領域を指す。典型的には、本発明のライブラリーの全ての単一ドメイン抗体は同じ骨格アミノ酸配列を有するが、そのCDRは異なり得る(各ライブラリーの多様性はCDR領域にのみ存する)。
【0034】
本発明に記載の合成単一ドメイン抗体骨格は、少なくとも以下の元来のラクダ科の動物のVHHアミノ酸残基:F37、E44、R45、F47;及び、少なくとも以下のヒト化アミノ酸残基:P14、S49、S74、R83、A84を含有する。本発明の該合成単一ドメイン骨格は、場合によりさらに、元来のラクダ科の動物のVHH残基であるQ5、Q108及びT89を含み得る。このような独特な特色は、免疫原性のリスクの低い非常に安定な合成単一ドメイン抗体を与える。
【0035】
1つの具体的な実施態様では、合成単一ドメイン抗体骨格は、ラマ種の骨格の抗体のVHHのコード配列を突然変異させて、アミノ酸配列中に少なくとも以下のヒト化アミノ酸残基:P14、S49、S74、R83、A84、好ましくは以下のヒト化アミノ酸残基:F11、P14、S49、S74、K75、V78、Y79、S82b、R83及びA84を得ることによって得られる。
【0036】
前の実施態様と合わせられ得る1つの具体的な実施態様では、合成単一ドメイン抗体の骨格は、
(i)生殖系列上のラマFR2アミノ酸配列と同一なFR2アミノ酸配列;
(ii)生殖系列上のヒトFR3(VH3)アミノ酸配列と同一なFR3アミノ酸配列;及び
(iii)生殖系列上のラマFR4アミノ酸配列と同一なFR4アミノ酸配列
を含む。
【0037】
前の実施態様と合わせられ得る1つの具体的な実施態様では、よって、合成単一ドメイン抗体の骨格は、以下の特定のアミノ酸残基の組合せを含む:Q5、A8、F11、P14、F37、K43、E44、R45、F47、S49、A50、S74、K75、V78、Y79、S82b、R83、A84、T89、Q108。
【0038】
別の具体的な実施態様では、合成単一ドメイン抗体の骨格は、配列番号1のFR1、配列番号2のFR2、配列番号3のFR3、及び配列番号4のFR4からなる前記のフレームワーク領域、又は、各フレームワーク領域内に、より好ましくは唯1つのフレームワーク領域内に、例えば1、2若しくは3つ以下の保存的なアミノ酸置換を有する機能的な変異フレームワーク領域を含む。
【0039】
【0040】
保存的なアミノ酸の置換は、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されたものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電の極性側鎖を有するアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0041】
別の実施態様では、合成単一ドメイン抗体の骨格は、それぞれ配列番号1~4に対して少なくとも90%、好ましくは95%の同一率を有する、FR1、FR2、FR3及びFR4フレームワーク領域の機能的変異体を含む。
【0042】
本明細書において使用される2つの配列間の同一率は、2つの配列の最適なアラインメントのために導入される必要がある、ギャップの数、及び各ギャップの長さを考慮して、配列によって共有される同一位置の数の関数(すなわち、同一%=同一位置の数/位置の総数×100)である。2つの配列間の配列の比較及び同一率の決定は、下記されているような数学的アルゴリズムを使用して成し遂げられ得る。
【0043】
2つのアミノ酸配列間の同一率は、ALIGNプログラムに組み込まれたE. Myers及びW. Miller(Comput. Appl. Biosci. 4: 1 1-17, 1988)のアルゴリズムを使用して決定され得る。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一率は、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれたNeedleman及びWunsch(J. Mol. Biol. 48:443- 453, 1970)のアルゴリズムを使用して決定され得る。同一率を決定するためのさらに別のプログラムは、独立型プログラムとして又はウェブサーバー(http://www.clustal.org/を参照)を介して利用できるCLUSTAL(M. Larkin ef a/. , Bioinformatics 23:2947-2948, 2007;D. Higgins and P. Sharpによって初めて記載、Gene 73:237-244, 1988)である。
【0044】
機能的変異体を、本発明の該合成単一ドメイン骨格の有利な特性を保持するその能力について試験し得る。特に、それらを、以下の特性の少なくとも1つ以上を保持するその能力について試験し得る:
i.それをE.coliペリプラズムにおいて可溶性の単一ドメイン抗体として発現させることができる、
ii.それをE.coli、酵母又は他の真核生物の細胞質基質において可溶性の細胞内発現抗体として発現させることができる、
iii.それは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ融合アッセイの還元性環境において安定である、
iv.それは、例えば融合タンパク質(例えば蛍光タンパク質との融合物)として哺乳動物細胞株において発現させた場合に凝集しない。
【0045】
上記の特性を試験するためのアッセイを実施例に記載する。
【0046】
例えば、基準の合成単一ドメイン抗体のコード配列は、基準のCDRコード配列(例えば配列番号9のクローンD10のCDR)を、試験しようとする変異骨格コード配列(配列番号1~4に対して相同な配列を有する)に移植することによって構築される。この基準の合成単一ドメイン抗体のコード配列は、上記の特性についてアッセイされることのできる基準の合成単一ドメイン抗体を作製することを可能とする。
【0047】
選択された単一ドメイン抗体骨格へのCDRの多様性の導入
特にCDRコード配列の無作為な合成又は指向的な合成によって、抗体ライブラリーにおいてCDRの多様性を生じさせ、これを対応するフレームワーク配列にクローニングするための方法は、当技術分野において広く記載されている。
【0048】
本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは、例えば、Lindner, T., H. Kolmar, U. Haberkorn、及びW. Mier. 2011. Molecules. 16:1625-1641に記載のように、高度な多様性を有するCDRを独特な選択された骨格配列に導入することによって同じように作成される。
【0049】
本発明の1つの好ましい実施態様では、合成CDR1及びCDR2の各アミノ酸配列の位置は、ヒトレパートリーにおけるCDRの天然の多様性を模倣するように合理的に設計される。
【0050】
システインは、細胞内での発現及び機能を妨害する可能性があるそのチオール基のために、自発的に回避される。その上、アルギニン及び疎水性残基も、結果として生じる抗体の高い凝集リスクのために回避され得る。プロリンの割合も低いことが好ましい。なぜなら、それはCDRに、より多くの多様性を与えるからである。好ましくは、セリン、トレオニン及びチロシンは、エピトープとの結合に関与しているので、3つ全てのCDRにおいて最も頻繁に出現する残基である。アスパラギン酸及びグルタミン酸も、可溶性を高めるためにいくつかの位置において豊富であり得る。CDR3配列では、長さが、様々なエピトープの形状、特に空洞に結合する能力に影響を及ぼし得る。それ故、様々な長さのCDR3配列がライブラリーに導入され得る。
【0051】
1つの具体的な実施態様では、当業者は、以下の原則:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV
に従って合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基を選択し得る。
【0052】
さらに、別の具体的な実施態様では、CDR3アミノ酸配列は、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から選択された9~18個のアミノ酸を含む。
【0053】
上記の出現の原則は、本発明の好ましいライブラリーを作成するための指針として使用されるが、異なる出現の原則を有する他のライブラリーも、本発明の有利な合成単一ドメイン抗体骨格を含有している限り、本発明の一部である。
【0054】
具体的な実施態様では、ライブラリーのクローンの有意な割合のみが、上記の出現の原則に厳密に従い得る。例えば、統計学的には、ライブラリーのクローンの少なくとも50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%が、上記のCDR1、CDR2、及びCDR3の位置におけるアミノ酸残基の出現の原則に従う。
【0055】
これらのアミノ酸位置の出現頻度に配慮するために、及びフレーム内での終止又はシステインの出現を回避するために、又はフレームシフトを減らすために、進歩した遺伝子合成アプローチが好ましくは使用される。これらの方法は、Van den Brulle et al., 2008, Biotechniques 45(3): 340-3に記載のような二本鎖DNAトリプルブロック、トリヌクレオチド合成、又は他のコドンの制御された、より一般的には位置の制御された縮重合成アプローチを包含するがこれらに限定されない。
【0056】
具体的な実施態様では、コドンの偏りはさらに、例えば、周知の方法を使用して、宿主細胞種、例えば哺乳動物宿主細胞での発現のために最適化され得る。
【0057】
1つの具体的な実施態様では、コード配列は、望ましくない制限酵素部位、例えば、コード配列を適切なクローニングベクター又は発現ベクターにクローニングするために使用される制限酵素部位を含有しないように設計される。
【0058】
結果として得られた多様なコード配列を、抗体ライブラリーのための適切な発現ベクター又はクローニングベクターに導入する。具体的な実施態様では、発現ベクターはプラスミドである。別の好ましい実施態様では、発現ベクターは、ファージディスプレイライブラリーを作成するのに適している。2種類の異なるベクター(ファージミドベクター及びファージベクター)を、ファージディスプレイライブラリーの作成のために使用し得る。
【0059】
ファージミドは、プラスミドの複製起点を含有する線維状ファージ(Ff-ファージに由来)ベクターから得られる。ファージミドの基本成分は主に、プラスミドの複製起点、選択マーカー、遺伝子間領域(IG領域、通常、パッケージング配列とマイナス鎖及びプラス鎖の複製起点とを含有する)、ファージコートタンパク質の遺伝子、制限酵素の認識部位、プロモーター、及びシグナルペプチドをコードするDNAセグメントを含む。さらに、分子タグを含めて、ファージミドをベースとしたライブラリーのスクリーニングを容易にすることができる。ファージミドを、R408、M13KO7、及びVCSM13(Stratagene)などのヘルパーファージと同時感染させることによって、Ffファージと同じ形態を有する線維状ファージ粒子へと変換させることができる。ファージベクターの一例は、fdファージゲノムと、ファージゲノムの複製起点の近くに挿入されたTn10セグメントとからなる、Fd-tet(Zacher et al, gene, 1980, 9, 127-140)である。ファージミドベクターに使用するためのプロモーターの例としては、PlacZ又はPT7が挙げられるがこれらに限定されず、シグナルペプチドの例としては、pelBリーダー、gIII、CATリーダー、SRP又はOmpAシグナルペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
他のファージディスプレイ法は、T4又はT7のような溶菌ファージを使用する。ディスプレイライブラリーを作成するために、ファージ以外のベクター、例えば細菌細胞でのディスプレイ(Daugherty et al., 1999 Protein Eng. Jul;12(7):613-21., Georgiou et al., 1997 Nat Biotechnol. 1997 Jan;15(1):29-34)、酵母細胞でのディスプレイ(Boder and Wittrup, Nat Biotechnol. 1997 Jun;15(6):553-7)、又はリボソームでのディスプレイのためのベクター(Zahnd C, Amstutz P, Pluckthun A. Nat Methods. 2007 Mar;4(3):269-79)も使用され得る。哺乳動物細胞上でのDNAディスプレイ(Eldridge et al., Protein Engineering, Design & Selection vol. 22 no. 11 pp. 691-698, 2009)及び表面ディスプレイ(Rode HJ, et al. Biotechniques. 1996 Oct;21(4):650, 652-3, 655-6, 658)も報告されている。酵母ツーハイブリッド法などのディスプレイではない方法も、ライブラリーから関連した結合物質を選択するのに使用され得る(Visintin et al., 1999 Proc Natl Acad Sci U S A 96, 11723-11728)。
【0061】
1つの好ましい実施態様では、空ベクターの発生を回避するために、自殺遺伝子を有するクローニングベクターにおける組換えコード配列の正の選択が適用される(例えば、Philippe Bernard, 1996, BioTechniques, Vol 21, No 2 “Positive Selection of Recombinant DNA by CcdB”を参照)。
【0062】
好ましくは、抗体ライブラリーの作成のために設計されたCDRアミノ酸残基の全ての可能な組合せによって計算された理論的な多様性は、少なくとも1011個又は少なくとも1012個の独特な配列である。
【0063】
本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリー及びその使用
結果として、別の態様によると、本発明は、以前の方法によって得ることのできるか又は得られた合成単一ドメイン抗体ライブラリーに関する。
【0064】
したがって、本明細書において使用される「合成単一ドメイン抗体ライブラリー」という用語は、場合によりクローニングベクター又は発現ベクターに含まれた、高度な多様性を有する該合成単一ドメイン抗体コード配列を含む、核酸ライブラリーを包含する。「合成単一ドメイン抗体ライブラリー」という用語はさらに、該核酸ライブラリーで形質転換された任意の宿主細胞又は生物、より具体的には、該核酸ライブラリーで、又は該核酸ライブラリーを含有するバクテリオファージ若しくはウイルスで形質転換された細菌、酵母、又は線維状真菌、又は哺乳動物細胞を含む。「合成単一ドメイン抗体ライブラリー」という用語はさらに、該核酸ライブラリーによってコードされる多様な抗体の対応する混合物を含む。本明細書において使用される「クローン」という用語は、核酸、宿主細胞、又は単一ドメイン抗体のいずれであれ、該抗体ライブラリーの独特なそれぞれの個体を指す。
【0065】
本発明の1つの具体的な実施態様では、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーは少なくとも3×109個の多様なクローンを含む。
【0066】
このライブラリーは、対象の標的に特異的に結合する合成単一ドメイン抗体を同定するためのスクリーニング法に使用され得る。対象の標的に対する特異的な親和性を有する結合物質を同定するための任意の公知のスクリーニング法を、本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーに使用し得る。このような方法としては、ファージディスプレイ技術、細菌細胞でのディスプレイ、酵母細胞でのディスプレイ、哺乳動物細胞でのディスプレイ又はリボソームでのディスプレイが挙げられるがこれらに限定されない。
【0067】
好ましくは、スクリーニング法はファージディスプレイである。
【0068】
好ましくは、対象の標的は治療標的であり、合成単一ドメイン抗体ライブラリーを使用して、該治療標的に特異的に結合する合成単一ドメイン抗体を同定する。具体的な実施態様では、対象の標的は、少なくとも1つの抗原性決定基を含む。具体的な実施態様では、標的は糖類又は多糖類、タンパク質又は糖タンパク質、脂質である。1つの具体的な実施態様では、前記の対象の標的は、植物、酵母、真菌、昆虫、哺乳動物、又は他の真核細胞を起源とする。別の具体的な実施態様では、前記の対象の標的は、細菌、原虫、又はウイルスを起源とする。
【0069】
1つの具体的な実施態様では、「対象の標的に特異的に結合する単一ドメイン抗体」は、1mM以下、100μM以下、10μM以下のKDで対象の標的に結合する単一ドメイン抗体を指すことを意味する。これは、該単一ドメイン抗体が他の抗原にも結合することを除外しない。
【0070】
本明細書において使用される「KD」という用語は、KdとKaの比(すなわちKd/Ka)から得られた解離定数を指すことを意味し、モル濃度-1(M-1)として表現される。抗体のKD値は、当技術分野において十分に確立された方法を使用して決定され得る。抗体のKDを決定するための方法は、表面プラズモン共鳴を使用することによるか、又はBiacore(登録商標)システム若しくはProteon(登録商標)などのバイオセンサーシステムを使用することによる。
【0071】
本発明の抗原結合タンパク質
本発明の合成単一ドメイン抗体ライブラリーの高度な多様性を考慮して、当業者は、ファージディスプレイなどの従来のスクリーニング法によって、対象の標的に対して高い親和性及び高い特異性を有する合成単一ドメイン抗体を得ることができる。
【0072】
結果として得られた合成単一ドメイン抗体は次いで、適切な抗原結合タンパク質を生じるために修飾され得る。特に、CDR残基を、例えば対象の標的に対する抗体の親和性を高めるために、そのフォールディング又はその産生を高めるために、当技術分野において公知の技術(突然変異誘発、親和性成熟)を使用して修飾し得る。
【0073】
したがって、本発明の別の態様はさらに、以下の式:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の合成単一ドメイン抗体を含む抗原結合タンパク質に関し、該フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4は、少なくとも以下の元来のラクダ科の動物のVHHアミノ酸残基:F37、E44、R45、F47、及び;少なくとも以下のヒト化アミノ酸残基:P14、S49、S74、R83、A84を含有する。
【0074】
1つの実施態様では、フレームワーク領域はさらに、少なくとも以下のアミノ酸残基:Q5、Q108及びT89を含有する。別の実施態様では、合成単一ドメイン抗体は、少なくとも以下のアミノ酸残基の特定の組合せを含む:Q5、A8、F11、P14、F37、K43、E44、R45、F47、S49、A50、S74、K75、V78、Y79、S82b、R83、A84、T89、Q108。
【0075】
1つの好ましい実施態様では、フレームワーク領域は、ラマ種のVHHのフレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4から得られる。別の具体的な実施態様では、単一ドメイン抗体の骨格は、
(i)生殖系列上のラマFR2アミノ酸配列と同一なFR2アミノ酸配列;
(ii)生殖系列上のFR3(VH3)アミノ酸配列と同一なFR3アミノ酸配列;及び
(iii)生殖系列上のラマFR4アミノ酸配列と同一なFR4アミノ酸配列
を含む。
【0076】
1つの好ましい実施態様では、合成単一ドメイン抗体は、以下の特色のいずれかを含む:
(i)配列番号1のフレームワーク領域FR1、配列番号2のFR2、配列番号3のFR3、及び配列番号4のFR4、
(ii)1、2又は3個以下のアミノ酸保存的置換を有し、有利な合成単一ドメイン特性を保持した、機能的な変異フレームワーク領域、
(iii)それぞれ配列番号1~4に対して少なくとも60、70、80、90、95、96、97、98、又は99%の配列同一率を有し、有利な合成単一ドメイン特性を保持した、機能的な変異フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4。
【0077】
典型的には、フレームワーク領域内の1つ以上のアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーに由来する他のアミノ残基で置換してもよく、新規なポリペプチド変異体を、本明細書に記載の機能的アッセイを使用して、保持された有利な特性について試験することができる。
【0078】
このような有利な特性は、以下の特性の1つ以上である:
i.それをE.coliペリプラズムにおいて可溶性の単一ドメイン抗体として発現させることができる
典型的には、pelBリーダーペプチドを用いて5mg/Lを超える収率が好ましくはE.coli株において得られる。
ii.それをE.coliの細胞質基質において可溶性の細胞内発現抗体として発現させることができる
例えば、抗体は、T7プロモーターを用いて50mg/Lを超える収率でE.coliのBL21株(DE3)において発現させることができる。
iii.それは、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ融合アッセイにおいて示されるように還元性環境において安定である
上記の特性についての機能的アッセイが実施例に記載されている。C末端タグとしてクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼと融合した本発明の合成単一ドメイン抗体を含有する、該抗原結合タンパク質を発現している細菌細胞は、クロラムフェニコールに対して、特に培養培地中で300μg/mlより高いクロラムフェニコール濃度で耐性であろう。
iv.それは、蛍光タンパク質との融合物として哺乳動物細胞株において発現させた場合に凝集しない
好ましくは、合成単一ドメイン抗体を含有する抗原結合タンパク質が蛍光タンパク質との融合物として発現される場合に、凝集は全く検出されないだろう。
【0079】
好ましくは、合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、S、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV
であり得;
CDR3のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から選択された9~18個のアミノ酸を含む。
【0080】
したがって、1つの好ましい実施態様では、本発明の抗原結合タンパク質は特に、一般式FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の合成単一ドメイン抗体からなる。このような実施態様では、より好ましくは、FR1は、配列番号1、又は1、2若しくは3個のアミノ酸置換を有する配列番号1の機能的変異体であり、FR2は、配列番号2、又は1、2若しくは3個のアミノ酸置換を有する配列番号2の機能的変異体であり、FR3は、配列番号3、又は1、2若しくは3個のアミノ酸置換を有する配列番号3の機能的変異体であり、FR4は、配列番号4、又は1、2若しくは3個のアミノ酸置換を有する配列番号4の機能的変異体であり、CDR1、CDR2のアミノ酸配列は、以下のようなアミノ酸残基を有し:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、S、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV、
CDR3のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から選択された9~18個のアミノ酸を含む。
【0081】
本発明の別の態様は、本発明の抗原結合タンパク質をコードする核酸分子に関する。したがって、本発明は、抗原結合タンパク質の少なくとも該合成単一ドメイン抗体部分をコードする単離された核酸を提供する。
【0082】
核酸は、完全な細胞中、細胞溶解液中に存在しても、又は、部分的に精製された形若しくは実質的に純粋な形の核酸であってもよい。核酸は、アルカリ/SDSによる処理、CsCIのバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、及び当技術分野において周知のその他の技術をはじめとする標準的な技術によって、他の細胞性成分又は他の混入物、例えば他の細胞性核酸又はタンパク質から精製された場合に、「単離された」又は「実質的に純粋となる」。F. Ausubel, ef al., ed. 1987 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New Yorkを参照されたい。本発明の核酸は、例えばDNA又はRNAであり得、イントロン配列を含有していても含有していなくてもよい。
【0083】
1つの実施態様では、核酸はDNA分子である。核酸は、ファージディスプレイベクターなどのベクターに、又は組換えプラスミドベクターに存在し得る。したがって、1つの具体的な実施態様では、本発明は、単離された核酸、或いは、以下の核酸配列:配列番号1~4のそれぞれのフレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4をコードする配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、又は、配列番号1~4のFR1、FR2、FR3、及びFR4の機能的変異体をコードする前記の配列番号5~8に対して少なくとも90%の同一率を有する変異体の対応する配列、の少なくとも1つ以上を含む、クローニングベクター若しくは発現ベクターを提供する。
【0084】
上記及び実施例に記載のような抗原結合タンパク質をコードするDNA断片をさらに、標準的な組換えDNA技術によって操作して、例えば、発現系における適切な分泌のための任意のシグナル配列、さらなる精製工程のための任意の精製タグ及び切断可能なタグを含めることができる。これらの操作で、DNA断片は、別のDNA分子に、又は別のタンパク質、例えば精製/分泌タグ若しくは可動性リンカーなどをコードする断片に作動可能に連結される。この文脈において使用される「作動可能に連結」という用語は、2つのDNA断片が機能的に、例えば、2つのDNA断片によってコードされるアミノ酸配列がフレーム内に留まるように、又は、該タンパク質が所望のプロモーターの制御下で発現されるように接続されることを意味することを意図する。
【0085】
本発明の抗原結合タンパク質は、例えば、当技術分野において周知である組換えDNA技術と遺伝子トランスフェクション法の組合せを使用して、宿主細胞のトランスフェクトーマにおいて産生され得る。宿主細胞のトランスフェクトーマにおける本発明の組換え抗原結合タンパク質の発現及び産生のために、当業者は有利には、抗体分子又は単一ドメイン抗体分子の発現及び組換え産生に関連した彼ら自身の一般的な知識を使用することができる。
【0086】
したがって、本発明は、核酸及び場合により分泌シグナルを含む、本発明の該抗原結合タンパク質の産生に適した組換え宿主細胞を提供する。好ましい態様では、本発明の宿主細胞は、哺乳動物細胞株である。本発明はさらに、抗原結合タンパク質の産生のための適切な条件下で宿主細胞を培養し、該タンパク質を単離することを含む、前記したような抗原結合タンパク質の産生プロセスを提供する。
【0087】
本発明の抗原結合タンパク質を分泌するための哺乳動物宿主細胞としては、CHO細胞、例えばR.J. Kaufman and P.A. Sharp, 1982 Mol. Biol. 159:601-621に記載のようなDHFR選択マーカーと共に使用されるdhfr-CHO細胞(Urlaub and Chasin, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-4220によって記載される)、NSO骨髄腫細胞、又はMoutel, S., El Marjou, A., Vielemeyer, O., Nizak, C., Benaroch, P., Dubel, S., and Perez, F. (2009). A multi-Fc-species system for recombinant antibody production. BMC Biotechnol 9, 14に記載のようなInvivogen社のpFuse発現系、COS細胞及びSP2細胞又はヒト細胞株(例えばPER-C6細胞株、Crucell、又はHEK293細胞、Yves Durocher et al. , 2002, Nucleic acids research vol. 30, No 2 p9)が挙げられる。本発明の抗原結合タンパク質をコードする該核酸が哺乳動物の宿主細胞に導入されると、宿主細胞における組換えポリペプチドの発現又は宿主細胞が増殖している培養培地中への組換えポリペプチドの分泌及び適切なリフォールディングを可能とするに十分な時間をかけて宿主細胞を培養して、該抗原結合タンパク質を産生することによって抗原結合タンパク質は産生される。
【0088】
その後、抗原結合タンパク質を、標準的なタンパク質精製法を使用して培養培地から回収することができる。
【0089】
1つの具体的な実施態様では、本発明は、本発明の少なくとも2つの同一な又は異なる合成単一ドメイン抗体アミノ酸配列を含む、例えば複合体の形態での、本発明の多価抗原結合タンパク質を提供する。1つの実施態様では、多価タンパク質は、少なくとも2つ、3つ、又は4つの合成単一ドメイン抗体アミノ酸配列を含む。合成単一ドメインアミノ酸配列は、タンパク質の融合又は共有結合若しくは非共有結合を介して、互いに連結され得る。
【0090】
別の態様では、本発明は、1つ以上の薬学的に許容されるビヒクル又は担体と一緒に製剤化された、本発明の1つ又は組合せの抗原結合タンパク質を含有する、組成物、例えば医薬組成物を提供する。
【0091】
本発明の医薬製剤は、所望の純度を有するタンパク質を、任意選択の生理学的に許容される担体、賦形剤、又は安定化剤(Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th edition (2000))と混合することによって、水溶液、凍結乾燥製剤、又は他の乾燥製剤の形態で保存用に調製され得る。
【0092】
本発明の医薬組成物に使用され得る適切な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)及びその適切な混合物、植物油、例えばオリーブ油、並びに注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、コーティング材料、例えばレシチンなどの使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。
【0093】
これらの組成物はまた、補助剤、例えば保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤を含有し得る。微生物の存在の防御は、上記の滅菌手順によって、並びに様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの封入の両方によって確実となり得る。また、等張化剤、例えば糖、塩化ナトリウムなどを組成物に含めることが望ましくあり得る。さらに、注射剤形の延長吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤の封入によってもたらされ得る。
【0094】
薬学的に許容される担体は、無菌水溶液又は分散液、及び、無菌注射溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末を含む。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体及び薬剤の使用は当技術分野において公知である。どの従来の媒体又は薬剤も活性化合物と不適合性ではない限りにおいて、本発明の医薬組成物におけるその使用が考えられる。補助的な活性化合物も、組成物に取り込まれてもよい。
【0095】
治療用組成物は、典型的には、製造及び保存の条件下で無菌かつ安定でなければならない。
【0096】
以下において、本発明は、以下の実施例及び図面を用いて説明されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】(A)クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼのカルボキシ末端の融合物は、可溶性のアミノ末端のVHHの選択を可能とする折りたたみレポーターである。pAO-VHH-CATHaベクターから発現された構築物の図。(B)クロラムフェニコール選択培地(Cam)上で選択されたVHHの相対的なコロニーの増殖。(C)ラマ骨格lsdAbと、ライブラリーhs2dAbのヒト化合成骨格とのアミノ酸配列アラインメント。位置(IMGT番号付け)を、VHHの固有の可溶性特性についてD10細胞内発現抗体骨格に由来する保存されたアミノ酸(黒色)、及びヒトの従来のVH3と共に保存されたヒト化残基(灰色)に従って強調した。
【
図2】(A)両方の骨格を提示するファージをE.coliにおいて産生し、上清をウェスタンブロットで抗pIII抗体(Biolabs)を用いて検出した。2本のバンドが見られ、1本はpIIIについてであり、1本は単一ドメインを含む融合物についてである。(B)ドットブロットによって分析された、E.coli細胞又はCHO細胞における両方の骨格の産生。上清の連続希釈液を、抗Hisタグ抗体(Sigma)を用いて顕現させた。(C)核ラミナに特徴的な核の辺縁部の構造を標識する、両方の骨格に由来する組換え抗体を用いてのHeLa細胞の免疫蛍光。(D)HeLa細胞に、GFPに融合させた抗ラミン抗体発現プラスミドを一過性にトランスフェクトし、生細胞を24時間後に画像撮影した。これは、両方の合成抗体の骨格が、細胞内ラミン標的の認識を可能とすることを示した。
【
図3】(A)s2dAb D5は、HeLa細胞内の微小管を免疫蛍光により染色した。細胞を固定し、VHHで染色し、これを抗Hisタグ抗体(Sigma)及び抗マウスCy3二次抗体(Jackson)によって顕現させた。D5はまた、HRP二次抗体(Jackson)で顕現されるHeLa細胞抽出物を用いるウェスタンブロット実験においてもチューブリンを検出する。(B)ウサギFcに融合したHer2上、対、等モル濃度のウサギFcに結合しているHer2上での、抗Her2抗体を用いてのクローンD10のファージELISA。SKBR3 Her2陽性細胞対MCF10A Her2陰性細胞上での抗Her2抗体によるHD10のFACS分析。(C)H12は、GTPに結合した活性化状態のRhoA GTPアーゼにしか結合しない立体構造を認識する抗体である。CBDでタグ化されたH12は、インプットとして100μM GTPγS(GTP)又は1mM GDPのいずれかをローディングされたHeLa細胞抽出物から引き出す。ウェスタンブロット実験では、両方のインプットの5%においては同じようなレベルのRhoAが顕現するが、CBD-H12によるプルダウンではGTPのローディングされた抽出物上にしか顕現しない。D5抗チューブリン抗体は陰性対照であり、従来のGST-RBD(ロテキンのRho結合ドメイン)は、活発なRhoのプルダウンの陽性対照として示される。
【
図4】hs2dAbの細胞内発現。(A)HeLa細胞に、GFPでタグ化したRab6プラスミド及びmCherryでタグ化したhs2dAb抗GFP抗体プラスミドを同時トランスフェクトした。hs2dAb-mCherry抗GFP抗体はインビボにおいてその標的と相互作用し、mCherryシグナルはGFP-Rab6と完全に同じ場所に局在した。(B)HeLa細胞にMyr-palm-mCherryプラスミド及びhs2dAb-GFP抗mCherry抗体プラスミドを同時トランスフェクトした。hs2dAb-GFP抗mCherry抗体はインビボにおいてその標的と相互作用し、形質膜に局在するmCherryと完全に同じ場所に局在した。(C)Hela細胞(p53+/+)及びU2OS(p53-/-)細胞に、hs2dAb-mCherry抗p53抗体又はhs2dAb-mCherry抗ラミン抗体のいずれかをトランスフェクトした。抗ラミン細胞内発現抗体は両方の細胞型を標識したが、抗p53細胞内発現抗体はp53陽性細胞の核のみ標識した。
【
図5】固定された抗原へのhs2dAb抗GFP抗体、抗p53抗体、及び抗Her2抗体の結合についてのセンサーグラム。様々な濃度のhs2dAbを25℃でローディングし、1:1のラングミュア相互作用モデルに当てはめた。
【0098】
実施例
機能的アッセイ
E.coliペリプラズムにおける可溶性発現
単一ドメイン抗体断片を、pHEN6に由来する細菌ペリプラズム発現ベクターにサブクローニングし、pelB分泌配列の下流において発現させた。新たに形質転換されたコロニーを、1%グルコース及び30μg/mlの抗生物質カナマイシンの補充されたテリフィックブロス培地中で、A600=0.6~0.8に達するまで増殖させた。その後、6つのHisでタグ化された抗体断片の発現を、500μMのイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシドを用いて28℃で16時間かけて誘導し、その後、遠心沈殿した。遠心分離後、細胞ペレットをトリス-EDTA-スクロース浸透圧ショック緩衝液中でインキュベートし、再度遠心分離にかけた。細胞溶解液を清澄にし、ポリヒスチジンタグのためにIMAC樹脂親和性カラムにローディングした。溶出した画分を透析し、タンパク質の純度をSDS-PAGEによって分析した。
【0099】
E.coliの細胞質基質における細胞内発現抗体の可溶性発現
単一ドメイン抗体断片を、T7プロモーターの制御下で細菌発現ベクターにサブクローニングした。プラスミド構築物を、E.coli BL21(DE3)細胞に形質転換した。1つのコロニーを、1%グルコース及び30μg/mlの抗生物質カナマイシンの補充されたLB培地中で、A600=0.6~0.8に達するまで増殖させた。その後、抗体断片の発現を、500μMのイソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシドを用いて28℃で6時間から8時間かけて誘導し、その後、遠心沈殿した。遠心分離後、細胞ペレットを溶解し、再度遠心分離にかけた。細胞溶解液を清澄にし、ポリヒスチジンタグのためにIMAC樹脂親和性カラムにローディングした。溶出した画分を透析し、タンパク質の純度をSDS-PAGEによって分析した。
【0100】
クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ融合アッセイ
単一ドメイン抗体断片を、pAOCAT細菌ペリプラズム発現ベクターにサブクローニングした。クロラムフェニコール耐性アッセイを、pAOCAT-VHH融合構築物を用いて形質転換されたBL21(DE3)細胞を使用して行なった。細菌を、カナマイシン(35μg/mL)及びグルコース(0.2%)を含有するLB 500μLへの接種のために使用し、37℃で、OD600が0.8となるまで増殖させた。VHH-CAT-融合タンパク質の細胞質内発現を、0.2mMのIPTGの添加によって2時間かけて誘導した。誘導期間の終了時に、4μLの細菌アリコートを、IPTG(0.1mM)及び0~500μg/mlの範囲のクロラムフェニコール漸増濃度を含有するLB寒天プレート上に蒔いた。細菌を30℃で20時間インキュベートし、その後、コロニーの形成を定量した。耐性レベルを、様々なクロラムフェニコール濃度におけるコロニー増殖速度に従って評価した。500μg/ml以下のコロニーを与えるいくつかのVHHを、GFP(nb GFP4)又はラミン(Lam)に対して生じた以前に特徴付けられた細胞内発現抗体と、並びに、熱安定性VHH Re3及び細胞内発現抗体ではないC8と比較した。上記のように2時間の間に誘導された液体培養液を連続希釈によって希釈し、250μg/mlのクロラムフェニコール(Cam)を含有する寒天プレート上に10μlをスポットし、30℃で20時間インキュベートした。各希釈液についてコロニーを定量し、D10クローンで常に見られたより多くの量に対して標準化した。
【0101】
哺乳動物細胞発現系における凝集アッセイ
真核細胞における細胞内抗体としての機能的発現
単一ドメイン抗体断片を、蛍光タンパク質との融合物として、及びCMVプロモーターの制御下で発現させるために、哺乳動物発現ベクターにサブクローニングした。哺乳動物細胞株にトランスフェクトし、細胞内の蛍光を、トランスフェクトから24時間後又は48時間後に観察した。トランスフェクトされた細胞におけるこれらの蛍光タンパク質の1つと融合したVHHの蛍光分布は、GFP又はmCherryと融合していないものと比較して、均一に広がり、48時間の構成的発現後に明白な凝集物は示されなかった。
【0102】
Fc融合物としての機能的分泌
プラスミドは、インターロイキン-2(IL2)シグナル配列を含有するInvivogen社(サンディエゴ、米国)のpFUSE-Fc2(IL2ss)(商標)シリーズをベースとし、哺乳動物細胞によるFc-融合タンパク質の分泌を可能とする。hs2dAbをIgGのヒンジドメインに融合させたので、Fcドメインはジスルフィド結合を形成し、hs2dAb-Fcはダイマーとして発現される。それらは、原核細胞及び真核細胞の両方においてゼオシン(商標)(Zeo)を使用して選択可能である。これらのプラスミドは、部位特異的突然変異誘発及びアダプター挿入によって改変され(Moutel S, et al. BMC Biotechnol. 2009 Feb 26;9:14. doi: 10.1186/1472-6750-9-14)、一般的な組換え抗体の大規模な選別コレクション及び発現プラスミド(例えばpHEN、pSEX、pHAL、pCANTAB、pHOG、pOPE、pSTE)から抽出された組換え抗体の簡単な1工程のカセットクローニングが可能となった。s2dAbが、そのC末端でヒトIgG2(及びIgG1)(h)、マウスIgG2a(m)又はウサギIgG(r)Fcドメイン(Fc領域は、IgG重鎖のCH2ドメイン及びCH3ドメインとヒンジ領域とを含む)のいずれかと融合することができる4つのプラスミドを構築した。
【0103】
これらの発現プラスミドを用いてCHO細胞又はHEK細胞を一過性にトランスフェクトしてから4日後、分泌された抗体は、それぞれのFc種に対して指向される抗IgG抗体を使用して入手可能であり得る。これは、多様な多重化を可能とする。
【0104】
酵母ツーハイブリッドシステムにおける機能的発現
抗原コード配列を、酵母ツーハイブリッドのbaitプラスミドのlexA(Vojtek and Hollenberg (1995). Methods Enzymol. 255:331-42)又はgal4(Fromont-Racine, M., Rain, J.C.、及びLegrain, P. (1997). Nat. Genet. 16: 277-282)にクローニングした。試験しようとするDNA結合ドメインSDAB集団を、酵母ツーハイブリッドのpreyプラスミドのpGADGH(Bartel, P.L., et al (1993) in Cellular interactions in development: A practical approach. ed. Hartley, D.A.. (Oxford University Press, Oxford) pp. 153-179)にPCR及びギャップ修復(Orr-Weaver, T. L. and Szostak, J. W. (1983). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 4417-4421)によって導入した:pHEN2-3mycプラスミドプールのDNA調製物(1つのクローンから3×109個まで)を調製した。ミニプレップDNAを、マトリックスとしてDNA 10ngを使用してpFuポリメラーゼ(NEB)を使用して、オリゴヌクレオチド5p 8328 CCCACCAAACCCAAAAAAAGAGATCCTAGAACTAGCTATGGCCGGACGGGCCATGGCGGAAGTGCAGCTGCAGGCTTC(配列番号11)及びオリゴヌクレオチド3p 8329 ACCGGGCCTCTAGACACTAGCTACTCGAGGGGCCCCAGTGGCCCTATCTATGCGGCCGCGCTACTCACAGTTAC(配列番号12)を用いてPCRによって増幅した。チューブの数はDNA品質の必要性に依存し、必要とされる形質転換体の数に関連する。典型的には100万個の酵母形質転換体を得るために、本発明者らは50μlの8回のPCRを行なった。
【0105】
【0106】
PCRをアガロースゲル上で確認し、酢酸アンモニウム沈降法を使用して20倍濃縮し、水に再度懸濁する。
【0107】
NcoI及びXhoIによって消化されたプラスミドprey pGADGH 8μg及び濃縮されたPCR 2μlを、古典的なLiAc/PEG形質転換によって酵母において形質転換する。クローンを、トリプトファン、ロイシン及びヒスチジンの除去された選択培地に広げる。この方法によって同定されたbait特異的クローンは、酵母細胞内において機能的であるライブラリーからの細胞内発現抗体である。
【0108】
合成単一ドメイン抗体ライブラリーの作成、及び、該ライブラリーから得られた結合物質の特徴付け
本発明者らは、細胞内発現及び高い熱安定性について最適化された、高度に機能的な骨格ファミリーを選択した。この選択は、抗生物質耐性遺伝子とVHHのコレクションとの間の融合タンパク質を使用して行なわれた。
【0109】
機能的VHHドメイン(凝集しない、分解しない)を発現している細菌のみが増殖することができた。発現収率、哺乳動物細胞の細胞質におけるGFP融合物としての可溶性をさらに評価して[及び、選択されたクロモボディ(chromobody)と比較し]、一連の適切な抗体を選択した。これらの抗体の配列をアラインさせ、共通配列をクローンD10の共通sdAbフレームワーク配列によって定義した(配列番号9参照)。このラマsdAb(lsdAb)の他にも本発明者らは配列を改変して、それはヒトVHにより類似し、したがって進化した共通部分は、合成sdAb(本明細書において以後、「hs2dAb」と称される、配列番号10を参照)として定義した。本発明者らは、VLと疎水性界面を形成するために従来のVHに保存され、sdAbの固有な可溶性特性にとって重要であるようであった、FR2の4つの位置(37、44、45、47)におけるVHHの特異的な特徴を維持した(Kastelic D, et al. 2009 J Immunol Methods. Oct 31; 350(1-2):54-62)(
図1a)。その後、本発明者らは、骨格が頑丈であり、予想された通り、公知の抗体のCDRをlsdAb及びs2dAbフレームワークに移植することによって挙動することを確認した。これらの実験は、lsdAb及びhs2dAbの両方が、細菌細胞及びCHO細胞における効率的なディスプレイ、効率的な産生を可能とし、酸化条件及び還元条件において発現させたどちらの場合においても移植されたCDRの適切な反応性を維持することを可能としたことを示した。よって本発明者らは、本発明者らのライブラリーを構築するためのフレームワークとしてhs2dAbを選択することを決断した。
【0110】
その後、本発明者らは、クローンの機能に影響を及ぼすことなく、3つのCDRに合成による多様性を導入した。数百個のラマsdAb配列のアラインメントに基づいて、本発明者らは、CDR1及びCDR2の各々の位置について、天然の多様性を依然として模倣する一連のアミノ酸を合理的に設計した。本発明者らは自発的にシステイン残基を回避した。なぜなら、チオール基は後に、適切な細胞内での発現及び機能を妨害する可能性があるからである。本発明者らは、疎水性残基又はアルギニンの出現頻度を下げると、凝集が回避され(De Marco A. 2011, Microb Cell Fact. Jun 9;10:44の総説)、同様にプロリンの出現頻度を下げると、ループにおける大半の可動性は保持されるであろうと推論した。セリン、トレオニン及びチロシンはエピトープとの結合に関与するCDRループ内で最も頻繁に出現する残基であるので、アスパラギン酸及びグルタミン酸は可溶性を高めると提唱された(Lodish H, et al. Molecular Cell Biology. 4th edition. New York: W. H. Freeman, 2000)。本発明者らは、いくつかの位置におけるこれらの5つの残基を自発的に増やした。対照的に、本発明者らは、システインを除く全てのアミノ酸を導入することによって、CDR2のいくつかの位置、並びに、CDR3の各々の位置を完全に無作為化した。それにも関わらず、CDR3配列に長さの多様性も導入し、様々なエピトープの形状に対する結合能を高めた。なぜなら、ナノボディは、平坦な表面又は空洞の両方(De Genst, E., et al. Proc Natl Acad Sci, (2006) Mar 21;103(12):4586-91)又はさらにはハプテン(Harmsen MM, et al 2007, Appl Microbiol Biotechnol., Nov;77(1):13-22の総説)にさえ結合することが示されているからである。これらの統計に配慮するために、疎水性が高すぎる残基又はアミノ酸により促進される凝集の発生率を下げるために、対照的には極性アミノ酸を豊富にするために、及びさらにはフレーム内での終止又はシステインの発生を回避しフレームシフトを減少させるために、多様なライブラリーの合成を、各コドンに対応する二本鎖DNAトリプレットブロックを使用する独特な遺伝子合成技術によって達成した(Van den Brulle J, et al. 2008. Biotechniques. Sep;45(3):340-3)。全てのコドンを哺乳動物細胞での発現のために最適化し、さらなるCDR3ループの移植又は工学操作のためにSnabI制限酵素部位をFR3に加え、一方、任意の他の所望ではない制限酵素部位は骨格において回避された。
【0111】
高度な複雑さを生じさせ、空プラスミドの数を減少させるために、本発明者らは、非適合性クローニングサイト間に自殺遺伝子(ccdB)を有する新規クローニングベクターを構築した。毒性遺伝子を欠失したプラスミドのみが、細菌の増殖を可能とした。したがって、SDAB挿入断片を有するプラスミドのみが得られた。ccdB遺伝子は陽性選択マーカーとして使用される。結合活性を検出するために行なわれた大半の試験は、一価の選択された抗体を使用して行なわれ、その後、検出手段は、抗タグ抗体による免疫染色に基づく。しかし一価抗体上の一価のタグでは強力な検出ができないので、本発明者らは、検出力を高めるために、トリプルタグを、本発明者らが構築した新規ファージミドに付加することを決断した。
【0112】
クローニングされたhs2dAbの十分な多様性を確実にするために、合理的な設計による理論的多様性の数は、合成された分子のそれをはるかに超え、これはまた形質転換されたコロニー数のlogの4倍を上回った。最も重要なのは合成されたhs2dAbの非常に高度な分子の多様性であり、独特である十分な確率を有する配列は1012個超に達した。なぜなら、それは設計によって課される理論的な多様性を依然として上回っていたからであった。完全合成のhs2dAb-L1ライブラリーをpHEN2-3mycベクターにクローニングし、3×109個以下のコロニーを形質転換した。
【0113】
hs2dAb-L1ライブラリーの品質及び機能を、105個のランダムなクローンをシークエンスすることによって評価した。その後、本発明者らはいくつかの選択手順を用いて様々な種類のAgに対して指向されるスクリーニングを行なった。試験された様々な標的のために、本発明者らはEGFP、β-チューブリン、アクチン、構造的Rho、p53及びHer2に対して良好な親和性を有する結合物質を得た。選択されたhs2dAb結合物質の特異性、親和性及び生産性の特徴付けを記載する。
【0114】
材料及び方法
プラスミド及びクローニング
6His-タグ及びトリプルc-mycタグから構成される合成遺伝子(Mister Gene)をpHEN2ファージミドベクター(Griffin 1.ライブラリー)のNotI部位とBamHI部位の間に挿入した。pENTR(商標)4ベクター(Invitrogen)からのccdB遺伝子をpHEN2ベクターのNcoI部位とNotI部位との間に挿入した。哺乳動物発現ベクターについては、VHH又はhs2dAbをNcoIとNotIによって消化し、pAOINT又はpmCheryyベクター(Clontech)にライゲートした。
【0115】
Catアッセイフィルター
pAO-CATは、カルボキシ末端のHAでタグ化されたクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)をVHH配列に融合させることのできる細胞質内発現ベクターである。それは、VHH-CAT配列を、XbaI及びKpnIで消化されたpAOD-Tub1-mGFPベクター(Olichon A, et al. 2007. J Biol Chem. Dec 14;282(50):36314-20)にクローニングして、DsbC-Tub1-mGFPを除去することによって構築された。VHH-CAT配列は、多段階PCR戦略によって得られた。VHHを、5’CCTTGATTCTAGAAATAATTTTGTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACCATGCTGATGTCCAGCTGCAGGCGT3’(フォワード、配列番号13)及び5’CCACCGCTACCGCCGCTGCGG CCGCGTGAGGAGACGGTGACCTGG G3’(リバース、配列番号14)を使用して増幅した。CATの2つの配列を独立して、pRillプラスミドを鋳型として使用して増幅し、内部NcoI部位を除去した。N末端については以下のプライマーを使用した:5’ GCGGCCGCAGCGGCGGTAGCGGTGGCGAGAAAAAAATCACTGGATATACC 3’(フォワード、配列番号15)及び5’ GCCCATCGTGAAAACGGGGGCG 3’(リバース、配列番号16)。C末端を5’ CGCCCCCGTTTTCACGATGGGC 3’(フォーワード、配列番号17)及び5’AGAATAGGTACCAGCGTAATCTGGGACATCATAAGGGTAGCCACCCGCCCCGCCCTGCACTCATCG 3’(リバース、配列番号18)を使用して増幅した。3つの配列を最後のPCRで構築し、産物をXbaI及びKpnIで消化し、その後、ベクターにライゲートした。
【0116】
ナイーブライブラリーから以前に選択されたVHHを、NcoI及びNotI制限酵素部位を使用してpAOCATにサブクローニングした。クロラムフェニコール耐性アッセイを、pAOCAT-VHH融合構築物を用いて形質転換されたBL21(DE3)細胞を使用して行なった。細菌を、カナマイシン(35μg/mL)及びグルコース(0.2%)を含有するLB 500μLに接種するのに使用し、37℃でOD600が0.8となるまで増殖させた。VHH-CAT融合タンパク質の細胞質内発現を、0.2mMのIPTGの添加によって2時間かけて誘導した。誘導期間終了時に、細菌アリコート 4μLを、IPTG(0.1mM)及び0~500μg/mlの範囲のクロラムフェニコール漸増濃度を含有するLB寒天プレート上に蒔いた。細菌を30℃で20時間インキュベートし、その後、コロニーの形成を定量した。耐性レベルを、様々なクロラムフェニコール濃度でのコロニー増殖速度に従って評価した。500μg/ml以下のコロニーを与えるいくつかのVHHを、GFP(nb GFP4)又はラミン(Lam)に対して生じた以前に特徴付けられた細胞内発現抗体と、並びに、熱安定性VHH Re3及び細胞内発現抗体ではないC8と比較した。上記のように2時間の間に誘導された液体培養液を連続希釈によって希釈し、10μl以下を、250μg/mlのクロラムフェニコール(Cam)を含有する寒天プレート上にスポットし、30℃で20時間インキュベートした。各希釈率についてのコロニーを定量し、D10クローンで常に見られたより多い量に対して標準化した。
【0117】
D10クローンをさらに、pHEN6発現ベクターにサブクローニングし、E.coli X11blue株の培養液において5mg/Lよりも高いペリプラズムでの発現となった。
【0118】
それをpAOint-mGFPにサブクローニングし、MRC5、HEK293又はHeLa S3細胞にトランスフェクトした。CMVプロモーター制御下のD10-GFPの一過性発現により、24時間後及び48時間後においてLam1-GFP又はRe3-GFPと比較して、高いGFPの蛍光がもたらされ、検出可能な凝集はない。
【0119】
ライブラリーの構築
FR及びCDRの設計に対応する遺伝子コレクションをインビトロで合成した(Sloning, GeneArt)。多様な合成物 1μL(10ng)(1×1010個の分子に相当、したがって、標的ライブラリー多様性の10倍)をPCRによって総容量50μLでPhusion DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)1μLを以下のプライマーの等モル混合物と共に使用して増幅した:
5’-AACATGCCATCACTCAGATTCTCG-3’(配列番号19)
5’-GTTAGTCCATATTCAGTATTATCG-3’(配列番号20)。
【0120】
PCRプロトコールは、98℃で45秒間の初回の変性工程、続いて、98℃で10秒間、55℃で30秒間、及び72℃で30秒間を20サイクル、並びに、72℃で10分間の最終工程の伸張からなった。PCR 7×150μLを、PCRクリーンアップキット(Macherey-Nagel)の7つのカラムで精製した。得られた精製PCR断片 55μg及びpHEN2-ccdB-3mycファージミド 80μgを、37℃でNcoI及びNotI(NEB)を用いて総容量500μL中で2時間かけて消化した。仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(Sigma)を用いての脱リン酸化工程を37℃で30分間ファージミドに加えた。最終容量80及び120μL中の消化物を、それぞれゲル抽出キット(Macherey-Nagel)の4つ及び6つのカラムでゲル上で精製した。その後、精製されたPCR断片を、pelBリーダーシグナルとpIII遺伝子との間のpHEN2-ccdB-3mycにライゲートした。ファージミド 50μg及び挿入断片 19.2μgを、総容量400μL中の高濃度のT4 DNAリガーゼ(NEB)10μLを用いて16℃で一晩かけてライゲートした。総容量150μLのライゲート物を、6つのカラム(Macherey-Nagel)で精製した。ライゲートされたDNA材料を使用して、エレクトロコンピテントなE.coli TG1細胞(Lucigen)を形質転換した。1μlのライゲート液を用いて20回の電気穿孔を製造業者の説明書(1800V;10μF;600Ω)に従って行なった。各々の電気穿孔液を加温2×YT(1%グルコース)培地 1mLを用いて再懸濁し、振盪撹拌しながら37℃で1時間インキュベートした。2×YT(1%グルコース)380mLを懸濁液に加え、430個の2×YT-アンピシリン寒天皿(140mm)上で37℃で一晩培養した。ライブラリーのサイズを、連続希釈アリコート液を蒔くことによって計算した。コロニーを、液体2×YTを用いてプレートから剥がし、ライブラリーを30%グリセロールの存在下で-80℃で保存し、1mLのアリコートの吸光度は38.4であった。3×109個の個々の組換えクローンが得られた。
【0121】
ライブラリーのシークエンス:
ライブラリーからの個々のクローンの異質性を、ion Torrentチップ(Invitrogen)で6×105個の挿入断片をシークエンスすることによって確認した。
【0122】
Ion Torrentシークエンスライブラリーは、製造業者の説明書に従ってAB Library Builderシステム(Life Technologies)のためのIon Plus Fragment Libraryキットを用いて調製され、High Sensitivity DNAキット(Agilent Technologies)を用いてAgilent 2100バイオアナライザ(Agilent Technologies)で制御された。シークエンス用の鋳型は、Ion OneTouch 2システム及びIon PGM Template OT2 400キット(Life Technologies)を用いてのエマルジョンPCRによって調製された。シークエンスは、Ion PGM Sequencing 400キット及び314v2 Ionチップ(Life Technologies)を使用してIonTorrent Personal Genome Machineで行なった。
【0123】
抗原
ヒトβアクチンはSigmaから購入した。アミノ末端のキチン結合ドメイン又はストレプトアクチン結合ペプチドに融合したRhoA GTPアーゼを、HEK293細胞において産生した。ストレプトアビジン結合ペプチド(SBP)と融合したGFPをインビトロでの翻訳システム(Roche)を通して産生し、精製を必要することなくスクリーニングに直接使用された(Moutel S, et al. 2009. Biotechnol J. Jan;4(1):38-43)。ビオチニル化チューブリンはCytoskeletonから購入した。p53については、NP_000537.3アイソフォームの最初の72アミノ酸を、SNAPタグと共に細菌内で産生させ、インビトロでビオチニル化した。Her2については、天然受容体をSKBR3細胞上の膜タンパク質標的として使用した。
【0124】
ファージディスプレイの選択
βアクチン、H1ヒストン、又はFITCについてのスクリーニングが、Marks JD et al, 1991 J Mol Biol. Dec 5;222(3):581-97に記載のようにイムノチューブでのパニングによって行なわれた。GFP、チューブリン及びp53についてのスクリーニングが、Nizak et al. 2003 Science. May 9;300(5621):984-7に記載のようなナイーブな条件で行なわれた。Rhoに対するスクリーニングが、HEK293細胞において発現されたタグが恒常的に活性であるRhoAの突然変異体に対してナイーブな条件で行なわれた。Her2についてのスクリーニングが、Even-Desrumeaux K, Chames P. 2012 Methods Mol Biol.; 907:225-35に記載のような表面細胞上で行なわれた。
【0125】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
個々のクローンを、モノクローナルファージELISAによって何処にでも記載されているようにスクリーニングした(Lee. et al; 2007, Nat Protoc. 2(11): 3001-8)。
【0126】
ウェスタンブロット
SDS-PAGEローディング緩衝液中で煮沸した後、試料を12%SDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜(Whatman GmbH)上に転写した。膜を、室温で1時間又は4℃で一晩かけて、0.2%Tween20を含む3%無脂肪ミルク-PBS中で遮断した。SDABを1/100で使用し、1/3000の抗hisタグ抗体(Sigma)と共に膜に90分間かけて加えた。その後、ブロットを洗浄し、二次抗マウスHRPで標識された抗体(PBS0.1%Tween20中で1/10000に希釈)(Jakson ImmunoResearch Laboratories)と共に1時間インキュベートした。PBS 0.1%Tween20を用いて5回洗浄した後、次いで、二次抗体を、SuperSignal化学発光試薬(Pierce)及びHyperfilm ECL(GE HealthCare)を使用して顕現させた。
【0127】
免疫蛍光
免疫蛍光スクリーニングを、以前に記載されているように(Nizak et al. 2003. Science. May 9;300(5621):984-7)HeLa細胞に対して行なった。
【0128】
一過性トランスフェクション
カバーガラス上で培養したHela細胞を、1ウェルあたり1μgのDNA(24ウェルプレート)又は10μgのDNA(直径10cm2の皿)を用いてCaPO4手順に従ってトランスフェクトした。細胞をトランスフェクションから12時間後に観察することができる。
【0129】
フローサイトメトリー
細胞表面染色を、1%SFVの補充されたリン酸緩衝食塩水(PBS)中で行なった。100μlの上清(ファージ 80μl+PBS/ミルク1% 20μl)を、1×105個の細胞上で氷上で1時間インキュベートした。ファージの結合を、氷上で1時間かけて1:300の希釈率の抗M13抗体(GE healthcare)によって検出し、次いで、45分間かけてPEにコンジュゲートした1:1000の希釈率の抗マウス抗体(BD Pharmingen)によって検出した。試料を、CellQuest Proソフトウェア(BD Biosciences、サンノゼ、CA)を使用してFACSCaliburでのフローサイトメトリーによって分析した。
【0130】
親和性の測定
ライブラリーから選択されかつGFP及びErBB2に特異的である、hs2dAb抗体の結合親和性を、それぞれProteOn XPR36(BioRad)及びBiacore T200(GE Healthcare)を使用して25℃で行ない、1:1のラングミュア相互作用モデルに当てはめた。リガンドGFP(24kDa)を酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で1.6μMに希釈し、730RUでGLCチップ(BioRad)上にアミンカップリングによって固定した。一価単一ドメイン抗体(14kDa)100μLを分析物として使用し、1000~3μMの濃度で100μL/分で注入した(60秒間かけて注入、600秒間かけて解離)。完全な動態の設定が一回の実行(ワンショット)で収集され、それ故、表面を再生する必要がなかった。ErbB2細胞外ドメイン-Fc(96kDa)を酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で400μg/mLに希釈し、991RUでCM5チップ(GE Healthcare)上にアミンカップリングによって固定した。一価単一ドメイン抗体(14kDa)をHBS-EP+緩衝液で希釈し、300~3μMの濃度の分析物として30μL/分で1回サイクルの様式を使用して注入した(120秒間かけて注射、120秒間かけて中期の解離、600秒間かけて最後の解離)。独特な注射順序における動態を収集し、表面再生(10mM グリシンHCl、pH2.5、30μL/分で30秒間)は2回の連続したシリーズの間においてのみ行なわれた。
【0131】
結果
ライブラリーの設計
非常に安定しかつ機能的な抗体断片の豊富な大きな単一ドメイン抗体ライブラリーを作成する観点から、本発明者らは、単一のVHH骨格を同定することを目標とした。本発明者らは以前に、免疫性の又はナイーブなラマVHHライブラリーから数百個のクローンを選択した(Monegal A, et al. 2012 Dev Comp Immunol. Jan;36(1):150-6)。本発明者らは、細菌細胞質において凝集又はアンフォールディングしがちなクローンから非常に安定なクローンを区別するクロラムフェニコールフィルターアッセイ(Olichon)を使用して、一連の高度に発現されたクローンをスクリーニングした。本発明者らは、カルボキシ末端のHAでタグ化されたクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)をVHH配列に融合させることを可能とする、pAO-CAT細胞質内発現ベクターを使用した。公表されている熱安定性VHH(Olichon A, et al BMC Biotechnol. 2007 Jan 26;7:7)又は細胞内発現抗体(Rothbauer U, et al Nat Methods. 2006 Nov;3(11):887-9)と比較することにより、ある骨格であるクローンD10は、クロラムフェニコールに対するより高い耐性を示した(
図1a)。D10のVHHはさらに本発明者らの溶解度、熱安定性、及び、どのような公知の抗原も全く認識しない状況で哺乳動物細胞内で細胞内発現抗体として発現されても凝集しないという全ての基準に当てはまった。その後、本発明者らは、骨格の部分的なヒト化(Vincke C, et al. J Biol Chem. 2009 Jan 30;284(5):3273-84)が、ヒトVH3に見られる7個の残基に標的化することによって、その固有の特性に影響を及ぼすかどうかを評価した。固有の可溶性特性にとって重要であると思われたフレームワーク-2領域における4個のVHH特異的アミノ酸(42位、49位、50位及び52位)の特徴は(
図1c)はそのままとした。
【0132】
この骨格が抗原との結合に適切であり得、ライブラリー構築のための一般的な骨格として使用され得るかどうかを試験するために、本発明者らは、ラミンBタンパク質に特異的なラマ1VHHのループを移植した(Rothbauer U, et al. Nat Methods. 2006 Nov;3(11):887-9)。
図2aは、どちらの骨格も(lsdAbB及びhs2dAb)、ここで抗pIII抗体で標識されたファージ上への組換え抗体のディスプレイを妨害しないことを示す。E.coli細胞又は哺乳動物CHO細胞のいずれかの培養上清からの産生収率もまた(Moutel S, et al BMC Biotechnol. 2009 Feb 26;9:14. doi: 10.1186/1472-6750-9-14)、どちらの骨格についても高く同等であった(
図2b参照)。次いで、移植された合成抗体を使用して、間接的な免疫蛍光によりHeLa細胞を染色した。どちらの移植された単一ドメイン抗体も予想された染色を生じ、このことは、それらが内因性ラミンBを効率的に染色したことを示す(
図2c)。その後、2つの合成抗体をEGFPに融合させ、細胞内発現抗体として使用した。HeLa細胞の一過性トランスフェクションの後、元来のラマ1VHH抗体を使用した場合に観察されたように(Rothbauer U, et al 2006)、どちらの蛍光抗体も可溶性であり、その細胞内標的を標識した(
図2d)。ラマ1CDRループと共に移植されたラマ及びヒト化D10の両方の骨格が、親VHHの結合特性を保持していた。
【0133】
要するに、これらの実験は、ヒト化D10の合成骨格(本明細書では合成単一ドメイン抗体すなわちhs2dAbと呼ばれる)が、CDRループを提示するのに効率的かつ頑強なフレームワークであることを示した。
【0134】
ライブラリーの構築
本発明者らは、CDR1及びCDR2の各々の位置について(公表されているVHH結合物質に見られるCDRの統計学的分析に基づいて)、天然の多様性を依然として模倣している一連のアミノ酸を合理的に設計することによって3つのCDRに合成的な多様性を導入した。合成CDR1及びCDR2のアミノ酸残基は以下の原則:
CDR1の1位には:Y、R、S、T、F、G、A又はD;
CDR1の2位には:Y、S、T、F、G、T又はT;
CDR1の3位には:Y、S、S、S、F又はW;
CDR1の4位には:Y、R、S、T、F、G、A、W、D、E、K又はN;
CDR1の5位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、I、H、R、Q又はL;
CDR1の6位には:S、T、Y、D又はE;
CDR1の7位には:S、T、G、A、D、E、N、I又はV;
CDR2の1位には:R、S、F、G、A、W、D、E又はY;
CDR2の2位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、R、Q、L又はY;
CDR2の3位には:S、T、F、G、A、W、D、E、N、H、Q、P;
CDR2の4位には:G、S、T、N又はD;
CDR2の5位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K又はM;
CDR2の6位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W又はK;
CDR2の7位には:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、又はV
によって決定された。CDR3のアミノ酸配列は、以下のアミノ酸:S、T、F、G、A、Y、D、E、N、I、H、R、Q、L、P、V、W、K、Mの1つ以上の中から選択された9、12、15又は及び18個のアミノ酸を含む。
【0135】
PCRに基づいた突然変異の付加を防ぐために少数のPCRサイクルを使用して、合成DNAを増幅した。本発明者らは、2×1011個の異なる分子を用いて構築を開始した。本発明者らは、合成遺伝子(Proteogenix)と共に2つの補助的なmyc-タグを、組換え抗体とpIII遺伝子との間に付加することによって改変されたpHEN2ファージミドベクターの合成ライブラリーをクローニングした。これらの付加的なmyc-タグは、一価抗体のより良好な顕現を可能とする(データは示されていない)。クローニングのために、本発明者らはまた、ライブラリーに挿入したクローンの正の選択を可能とする自殺遺伝子(ccdB)をNcoIとNotIとの間に付加した。大量のファージミド及び挿入断片を使用して、大量の材料を得て、E.coli TG1細胞を電気穿孔した。20回の電気穿孔を行なって、hs2dAb-L1ライブラリーを作成した。形質転換された細菌を430個の大きな寒天プレート(140mm)上に蒔いた。連続希釈アリコート液を蒔くことによってライブラリーのサイズを計算し、3×109個の個々のクローンであると推定された。
【0136】
ライブラリーのシークエンス:
本発明者らはまず、315個のランダムなクローンをサンガーシークエンス法を用いてシークエンスすることによって機能的な多様性を評価した。9個の配列が終止コドンを有するか又は1塩基が欠失しているかのいずれかで見い出され、1つの配列が全てのCDR1を欠失し、もう1つはCDR1、FR1及びCDR2を欠失し、最後の2つの配列は空であることが認められた。したがって、ほんの非常に少数(4.1%)の欠陥クローンしか得られなかった。このことは、3×109個のクローンの大半が組換えhs2dAbを発現しているであろうことを示唆する。
【0137】
ライブラリーの個々のクローンの異質性をさらに、ion Torrentチップ(Life Technologies)上で5.6×105個の挿入断片をシークエンスすることによって確認した。CDR3について、4つのサイズの長さの配列の分布は均一であった。アミノ酸の多様性及び位置の出現頻度は、全てのCDRについて本発明者らの設計と一致した(データは示されていない)。3つの重複クローンが認められたが、この観察は、次世代シークエンス手順の最中に行なわれたPCR増幅に関連している可能性がある。
【0138】
ライブラリーのスクリーニング
hs2dAb-L1ライブラリーを、表1に報告された一連の異なる抗原に対して標準的な方法(Hoogenboom HR, et al. 1998 Jun;4(1):1-20)を使用してファージディスプレイによってスクリーニングした。様々なスクリーニングアプローチにおけるhs2dAb-L1の使用を検証するために、本発明者らはビーズ上での選択(これは大容量の抗原提示をもたらし、天然タンパク質に近い抗原のコンフォメーションを保つ)、イムノチューブ上でのパニング(標準的な方法として参照される)又は哺乳動物細胞の表面上に天然に提示される天然抗原上でのパニング(治療上関心のあるものに対してインビトロで選択をかける場合にしばしば行なわれるように)のいずれかを行なった。
【0139】
1回目のスクリーニングを、標的としてビオチニル化チューブリン(Cytoskeleton)を使用して天然の条件(Nizak、2005、上記参照)で行なった。2回の選択後、40個のクローンを、メタノールで固定されたHeLa細胞上での免疫蛍光によってランダムにスクリーニングした。3つの組換え抗体が内因性チューブリンを染色した(
図3A)。これらの3つのクローンはまた、ヒトタンパク質試料のウェスタンブロットにおいても使用可能であった(
図3A)。2回目のスクリーニングを、SKBR3細胞の表面で発現されている内因性Her2受容体に対して行なった。非SKBR3特異的抗体を対抗選択するために、ファージの事前吸着を、Her2陰性MC10A細胞上で3回のそれぞれにおいて行なった。FACSアッセイを使用して、分析された84個の中から17個の特異的な抗SKBR3結合物質が見い出され、これを、17個の非重複配列に分類することができた。標的としてHer2細胞外ドメイン-Fc(96kDa)を使用したELISAによる分析は、その中の12個がHER2に対して指向されたことを示した(
図3B)。免疫蛍光により、抗体がSKBR3形質膜を装飾したことを確認した(データは示されていない)。腫瘍サプレッサーp53タンパク質に対して指向された3回目のスクリーニングが行なわれた。細菌においてNP_000537.3アイソフォームの72個の最初のアミノ酸がSNAPタグと融合して産生され、インビトロでビオチニル化され、ビーズ上での標的として使用された。3回の選択後、80個の中の12個のクローンがファージELISAにおいて陽性と判明し(データは示されていない)、6個のクローンがA431細胞上での免疫蛍光で内因性p53を明瞭に標識し(データは示されていない)、一方、2個のクローンがHeLa細胞上での細胞内発現抗体として使用可能であった(
図4参照)。予想された通り、p53-/-であるU2OS細胞では全く染色が観察されなかった。4回目のスクリーニングを行なって、Rho-GTPタンパク質の構造認識的結合物質を得た。4回の競合的選択後(材料及び方法を参照)、80個の独特なクローンを、GDP又は加水分解不可能なGTPγSがローディングされた組換えGST-RhoAタンパク質を使用してELISAで試験した。24個の抗体が、GDP-Rhoに対するよりもGTPγS-RhoAに対してより強力なシグナルを生じ、このことは構造認識的な結合を示す。抗体の1つであるH12クローンがスクリーニングを支配し、これは追加の5回の選択時に得られた唯一のクローンであった。本発明者らは、RhoA陰性突然変異体N19(GDPに結合)又は恒常的に活性な突然変異体L63(GTPに結合)のSF-GFP(スーパーフォールダーGFP)融合体を発現しているHeLa細胞上での免疫蛍光でこれらの構造認識的結合物質を試験した。どのクローンもN19陰性突然変異体を発現している細胞を染色しなかったが、その中の8個のクローンは、活性形のRhoAを過剰発現している細胞を効率的に染色した。本発明者らはさらにクローンH12を特徴付け、GTPγS又はGDPと共にインキュベートされたHeLa細胞抽出物から内因性RhoAを引き出すその能力を試験した。本発明者らは、精製されたH12抗体が、ELISA、免疫蛍光、及びインビトロでのプルダウン実験において使用可能なRho活性の効果的な構造認識的なバイオセンサーであったことを示した。本発明者らはさらに、従来のRBD活性アッセイよりも効果的であることを観察したので、エフェクタータンパク質のRho結合ドメインをバイオセンサーとして使用する。(
図3C、IF及びELISA、データは示されていない)。天然条件での5回目のスクリーニングを、標的としてGFPタンパク質を使用して行なった。分析された80個の中の37個の重複していないクローンが、ファージELISAにおいて陽性であった(データは示されていない)。その中の10個がGFP-myr-palmを免疫蛍光によって検出した(データは示されていない)。重要なことには、本発明者らは、これらの中の4つの抗体が、Hela細胞内で発現された組換えGFPに対する細胞内発現抗体として利用できたことを観察した(
図4)。最後の選別は、天然の市販のβアクチン(Sigma)でコーティングされたイムノチューブを使用して行なわれた。この最後のスクリーニングは、ファージELISAによって観察されたように80個中16個の独特な結合物質の選択を可能とし(データは示されていない)、その中の7個が、HeLa細胞内の内因性アクチンストレス線維を明瞭に装飾し(データは示されていない)、4個がウェスタンブロット実験に使用できた(データは示されていない)。
【0140】
【0141】
親和性の測定
GFP、Her2及びp53に対する単一ドメイン抗体の親和性を、ProteOn XPR36(BioRad)又はBiacore T200(GE Healthcare)を使用して測定した。親和性はナノモル範囲であると推定され(抗GFP抗体については3.06×10
-8Mで、抗Her2抗体については1.94×10
-8Mで、抗p53抗体については3.25×10
-8M)、このことは、高親和性結合物質が、本発明者らの合成で非免疫原性の単一ドメイン抗体のhs2dAb-L1ライブラリーから得ることができたことを実証する(
図5)。
【0142】
阻害性の細胞内発現抗体
遮断性抗体の同定は困難な課題である。しかし、その標的機能を阻害するために、非遮断性の細胞内発現抗体を官能基化することが可能である。1つのアプローチは、Caussinus et al. 2011(Caussinus et al. 2011, Nat. Struct. Mol. Biol. 19, 117-121)に記載のような認識された標的のユビキチン化及び分解に依拠する。このアプローチは、タンパク質をプロテアソーム依存性細胞分解へと標的化させる、複合体E1/E2/E3ユビキチン化機序のE3ユビキチンリガーゼである、SCF複合体の一員である、Skip1との相互作用を可能とする、F-ボックスドメインへの細胞内発現抗体の融合に基づく。このアプローチは当初、免疫ライブラリーから初めて単離された頑強な高親和性のGFPラマ細胞内発現抗体である、GFP4と命名された、単一抗GFP細胞内発現抗体を使用してショウジョウバエにおけるいくつかのGFP融合タンパク質を標的化するために開発された(Rothbauer, U. et al.Nat. Methods 3, 887-889)。このようなタンパク質ノックダウンアプローチのためのhs2dAbの相対的機能に関する洞察を得るために、本発明者らは、本発明者らの抗GFP hs2dAbのいくつかをそのアミノ末端においてFボックスドメインに融合させ、その効力をFボックス-GFP4抗体の効力と比較した。Fボックス-細胞内発現抗体の融合タンパク質(F-Ib)を発現している細胞を検出するために、本発明者らは、ミトコンドリアに標的化されたmCherryと一緒に(Mito-mCherry)F-Ibの共発現を駆動するビシストロン性ベクターを構築した。本発明者らは、ヒストンH2Bに融合したGFPを安定に発現しているHeLaクローンにおいてF-Ib抗体を発現し(Sillje, H. H. W., Nagel, S., Korner, R. & Nigg, E. A., 2006, Curr. Biol. CB 16, 731-742)、GFP-H2Bの欠失を探した。予想された通り、degradFPとしても知られる、F-GFP4は、ウェスタンブロットによって分析されるようなH2B-GFP発現の強力な減少を誘導した(データは示されていない)。したがって、核における蛍光強度の強力な減少が、F-GFP4を発現している細胞において観察された。GFP4単独、又は、切断短縮された非機能的なFボックスドメインに融合したGFP4のいずれかを発現している場合には全く効果は観察されなかった。本発明者らが本発明者らの新規ライブラリーから選択された抗GFPクローンを試験した時に、本発明者らは、蛍光細胞内発現抗体として使用された場合に効果的であることが判明したいくつかのhs2dAbは、F-Ibとして発現された場合にH2B-GFPを分解することができなかったことを観察した。このことは、全ての細胞内発現抗体が、F-ボックスを用いて効果的に官能基化されることができるわけではないという事実を強調する。しかし、ある抗GFP hs2dAbは、F-Ibとして発現された場合に核におけるH2B-GFPシグナルの完全な消失を誘導した。FACS分析は、70%も減少した蛍光強度を示した。予想された通り、この効果は、プロテアソーム阻害剤による処理の存在下で逆転した。
【0143】
要するに、これらの実験は、hs2dAb骨格が、蛍光細胞内発現抗体又は阻害性細胞内発現抗体として使用するために哺乳動物細胞の細胞質内で発現させることができる抗体の頻繁な選択を可能とすることを示す。
【0144】
【配列表】