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特許7360283特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する方法
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  • 特許-特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20231004BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231004BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
G01N33/48 P
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
G01N33/50 Q
C12Q1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019165711
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021043085
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】丸山 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】多田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】武重 史佳
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037501(JP,A)
【文献】特開2017-119665(JP,A)
【文献】特開2007-199053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0195515(US,A1)
【文献】Ueda Hiroshi,Newly devised glycerol-mounted permanent slide preparation for dissected specimens of micro-crustaceans,Plankton and Benthos Research,2018年,Vol.13 No.1 ,Page.28-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性封入剤を用い、カバーガラスとスライドガラスとの間に配置された角層を封入し、前記角層における特定のタンパク質の存在位置を、免疫染色(Immunostaning)により測定し、測定結果の画像を取得する第一測定工程と、
前記第一測定工程後に、前記第一測定工程で用いた角層と同一の角層に対し、組織染色処理により、角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置を測定し、前記第一測定工程で取得した画像と同一の部分についての測定結果の画像を取得する第二測定工程と、
前記第一測定工程の測定結果の画像及び前記第二測定工程の測定結果の画像に基づき、同一の角層における、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置と、を対比観察する対比観察工程と、
を有し、
前記第一測定工程と前記第二測定工程との間に、中間処理工程を有し、
前記中間処理工程は、前記第一測定工程後に25℃以上の温水に前記角層の配置されたスライドガラスを浸し、前記角層を崩さずに前記水溶性封入剤を除くことを含む、方法。
【請求項2】
前記角層は、テープストリッピング法により取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性封入剤がFluoromout-Gである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記角層を封入するときに、油溶性接着剤を用い、スライドガラスとカバーガラスとを固定する処理を前記第一測定工程が含み、
前記第一測定工程が、スライドガラスとカバーガラスとを有機溶剤に浸漬させ、前記角層を崩さずに前記油溶性接着剤を除くことを含む、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶剤がキシレンを含む液剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫染色(Immunostaining)が蛍光染色であり、
前記対比観察工程が、
特定のタンパク質の蛍光強度と、
特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置と、
を対比観察することを含む、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一測定工程が、前記角層における、デスモグレインの存在位置を測定する工程である、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌荒れ、日焼けや乾燥により生じる角層の落屑等の肌状態の悪化に関し、コルネオデスモゾームタンパク質の増加が原因の一つとして知られている(特許文献1)。
【0003】
ここで、コルネオデスモゾームタンパク質のうち、特に、デスモグレインが表皮細胞間及び角質細胞間の接着に関与していることが知られている(特許文献2-4)。
【0004】
そして、特許文献5には、蛍光抗体法により染色したデスモグレインの存在位置を指標とする表皮ターンオーバーの評価方法及び肌状態評価方法が開示されている。
【0005】
上記の通り、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置には、相関関係があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平7-505383号公報
【文献】特開2016-37501号公報
【文献】特許第4002635号
【文献】特許第4197194号
【文献】特開2007-199053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の先行技術のあるところ、本発明者らは、簡便に、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する手段を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、角層における特定のタンパク質の存在位置を、免疫染色(Immunostaining)により測定する第一測定工程と、
前記第一測定工程後に、前記第一測定工程で用いた角層と同一の角層に対し、組織染色処理により、角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置を測定する第二測定工程と、
前記第一測定工程及び前記第二測定工程の測定結果に基づき、同一の角層における、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置と、を対比観察する対比観察工程と、
を有する、方法である。
【0010】
角層は、多層構造を形成している。そして、角層は、熱、薬剤、物理的な衝撃によっても、その構造が崩れにくい。
以上の理由から、本発明においては、対比観察の対象として角層を用いることが好ましい。
【0011】
また、本発明の好ましい形態では、水溶性封入剤を用い、カバーガラスとスライドガラスとの間に配置された前記角層を封入する処理を前記第一測定工程が含み、
前記第一測定工程と前記第二測定工程との間に、中間処理工程を有し、
前記中間処理工程は、前記第一測定工程後に25℃以上の温水に前記角層の配置されたスライドガラスを浸し、前記角層を崩さずに前記水溶性封入剤を除くことを含む。
【0012】
また、本発明の好ましい形態では、前記水溶性封入剤がFluoromout-Gである。
【0013】
また、本発明の好ましい形態では、前記角層を封入するときに、油溶性接着剤を用い、スライドガラスとカバーガラスとを固定する処理を前記第一測定工程が含み、
前記第一測定工程が、スライドガラスとカバーガラスとを有機溶剤に浸漬させ、前記角層を崩さずに前記油溶性接着剤を除くことを含む。
【0014】
また、本発明の好ましい形態では、前記有機溶剤がキシレンを含む液剤である。
【0015】
また、本発明の好ましい形態では、前記免疫染色(Immunostaining)が蛍光染色であり、
前記対比観察工程が、
特定のタンパク質の蛍光強度と、
前記角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置と、
を対比観察することを含む。
【0016】
また、本発明の好ましい形態では、前記第一測定工程が、角層における、デスモグレインの存在位置を測定する工程である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験1の結果を示す図である。
図2】試験2における、角層をスライドガラスに添付した様子を示す参考模式図である。
図3】試験2の結果を示す図である。
図4】試験2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0020】
本発明は、角層における特定のタンパク質の存在位置を、免疫染色(Immunostaining)により測定する第一測定工程と、
第一測定工程後に、第一測定工程で用いた角層と同一の角層に対し、組織染色処理により、角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを測定する第二測定工程と、
第一測定工程及び第二測定工程の測定結果に基づき、同一の角層における、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置と、を対比観察する対比観察工程と、
を有する。
【0021】
上記形態とすることにより、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察することができる。
【0022】
以下、対比観察の対象とする角層に関し、より好ましい形態を説明する。
【0023】
対比観察の対象とする角層として、例えば、表皮における角層を挙げることができる。
【0024】
角層は多層構造を形成している。そして、角層は、熱、薬剤、物理的な衝撃によっても、その構造が崩れにくい。
以上の理由から、対比観察の対象として角層を用いることが好ましい。
【0025】
なお、対比観察の対象とする角層は、被験者の皮膚から取得することで用意することができる。
ここで、被験者の皮膚から角層を取得する方法としては、例えば、テープストリッピング法に依り角層を取得する方法を挙げることができる。
【0026】
次に、本発明における各工程の詳細を説明する。
【0027】
<1> 第一測定工程
第一測定工程は、角層における特定のタンパク質の存在位置を、免疫染色(Immunostaining)により測定する工程である。
【0028】
免疫染色は、蛍光染色、色素染色の何れであっても良い。本発明においては、蛍光染色であることが好ましい。
【0029】
本実施例において、免疫染色は、間接法である。
具体的には、本実施例における免疫染色は、標識していない一次抗体を用いて1度目の抗原抗体反応を行い、一次抗体自体を抗原とする別の標識された抗体(二次抗体)をさらに反応させ2回以上の抗原抗体反応を行う方法である。
【0030】
ただし、本発明における免疫染色は直接法であってもよい。
具体的には、本発明における免疫染色は、抗原に直接反応する一次抗体を標識し、抗原抗体反応を1度しか行わない方法とすることもできる。
【0031】
測定対象とするタンパク質としては、例えば、コルネオデスモゾームを好ましく挙げることができる。中でも、第一測定工程における測定対象は、デスモグレイン1であることが好ましい。
【0032】
ただし、本発明において、第一測定工程で測定対象とするタンパク質は、測定においてその局在が把握できるものであれば、その種類に特に制限はない。
【0033】
また、本実施例において、第一測定工程は、免疫染色後の角層の観察にあたり、水溶性封入剤を用い、カバーガラスとスライドガラスとの間に配置された角層を封入する処理を含む。
上記処理を行うことで、より簡便に、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察することができる。
【0034】
また、本実施例において、第一測定工程は、角層を封入するときに、油溶性接着剤を用い、スライドガラスとカバーガラスとを固定する処理を含む。
上記処理を行うことで、より簡便に、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察することができる。
【0035】
また、第一測定工程の測定結果は、画像として取得する形態であることが好ましい。
【0036】
また、本発明の好ましい実施の形態では、第一測定工程が、スライドガラスとカバーガラスとを有機溶剤に浸漬させ、角層を崩さずに油溶性接着剤を除くことを含む。
【0037】
特に、油溶性接着剤がマニキュアである場合に、有機溶剤に浸漬させ、角層を崩さずに油溶性接着剤を除くことが好ましい。
【0038】
また、有機溶剤としては、キシレンを含む液剤を好ましく挙げることができる。
【0039】
ここで、角層の配置されたスライドガラスへの有機溶剤の適用時間は、1分以上、より好ましくは2分以上である。
下限以上の時間とすることで、より確実に油溶性接着剤を除くことができる。
【0040】
また、角層の配置されたスライドガラスへの有機溶剤の適用時間は、30分以下、より好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下である。
上限以下の時間とすることで、角層を壊さずに、油溶性接着剤を除くことができる。
【0041】
ここで、有機溶剤の温度は、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下である。
【0042】
有機溶剤に浸漬させ、角層を崩さずに油溶性接着剤を除く処理は、温水に角層の配置されたスライドガラスを浸す前に行うことが好ましい。
【0043】
<2>中間処理工程
中間処理工程とは、第一測定工程後の角層を第二測定工程に供するための準備工程をいう。
【0044】
水溶性封入剤を用い、カバーガラスとスライドガラスとの間に配置された角層を封入する処理を第一測定工程が含む場合には、中間処理工程として、第一測定工程後に25℃以上の温水に角層の配置されたスライドガラスを浸し、角層を崩さずに水溶性封入剤を除くことを含むことが好ましい。
【0045】
特に、水溶性封入剤がFluoromout-Gである場合に、中間処理工程として、第一測定工程後に25℃以上の温水に角層の配置されたスライドガラスを浸す処理を行うことが好ましい。
【0046】
ここで、角層を崩さずに水溶性封入剤を除く処理における、温水の温度は、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上である。
下限以上の温度とすることで、水溶性封入剤を除くことができる。
【0047】
また角層を崩さずに水溶性封入剤を除く処理における、温水の温度は、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下である。
上限以下の温度とすることで、角層を壊さずに、水溶性封入剤を除くことができる。
【0048】
ここで、温水の温度が25℃~30℃の場合の浸漬時間は、好ましくは3日以上、より好ましくは4日以上である。
【0049】
また、温水の温度が30℃~35℃の場合の浸漬時間は、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上である。
【0050】
また、温水の温度が35℃~40℃の場合の浸漬時間は、好ましくは12時間以上、より好ましくは16時間以上である。
【0051】
また、温水の温度が40℃以上の場合の浸漬時間は、好ましくは12時間未満である。
【0052】
上記の条件とすることで、より確実に、角層を崩さずに水溶性封入剤を除くことができる。
【0053】
<3> 第二測定工程
第二測定工程は、第一測定工程後に、第一測定工程で用いた角層と同一の角層に対し、組織染色処理により、角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置を測定する工程である。
【0054】
本明細書において、組織染色処理とは、所望の形状的特徴の存在位置を組織学的に染色する処理をいう。
【0055】
本明細書において、角層自体の形状的特徴とは、角層そのもの形状、形状的特徴をいう。
【0056】
角層自体の染色処理は、角層の形状的特徴が観察できるものであれば、その手法に特に制限はない。
ここで、角層染色剤としては、例えば本出願人による特開2006-053117号公報などに記載された、ゲンチアナバイオレットといった角層染色剤を挙げることができる。
【0057】
また、本明細書において、角層内における特定組織の存在位置とは、生体組織、細胞の構造、機能特徴の存在する位置をいう。
【0058】
特定組織の染色処理としては、たとえば、フォンタナマッソン染色を挙げることができる。
【0059】
特定組織としては、染色により観察可能な組織であれば特に制限はなく、例えば、メラニンの局在を挙げることができる。
【0060】
また、第二測定工程の測定結果は、第一測定工程で取得した画像と同一の部分を画像として取得する形態であることが好ましい。
【0061】
<4>対比観察工程
対比観察工程は、第一測定工程及び第二測定工程の測定結果に基づき、同一の角層における特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置を対比観察する工程である。
【0062】
ここで、第一測定工程での免疫染色(Immunostaining)が蛍光染色である場合には、
対比観察工程は、特定のタンパク質の蛍光強度と、角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置と、を対比観察することを含む形態であることが好ましい。
【0063】
また、第一測定工程及び第二測定工程の測定結果を対比する方法としては、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを並列に配置し、本分野を専門とする評価者により、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する方法を挙げることができる。
【0064】
また、第一測定工程及び第二測定工程の測定結果を対比する他の方法として、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを重ね合わせた照合後画像を生成することを挙げることができる。
具体的には、照合後画像生成手段により、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを重ね合わせた照合後画像を生成し、端末に表示可能とすることもできる。
【0065】
ここで、照合後画像を生成する方法に特に制限はなく、例えば、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像の一致率が高くなるよう、画像の向き変更処理、画像の拡大縮小処理をおこなうことで、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを重ね合わせた照合後画像を生成する方法をとることができる。
【0066】
中でも、照合後映像を生成する方法は、各染色前の細胞の配置の一致率が高くなるよう、画像の拡大縮小処理をおこなうことで、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを重ね合わせた照合後映像を生成する方法とすることが好ましい。
【0067】
また、照合後映像における、第一測定工程及び第二測定工程の測定結果の差分を可視化することが好ましい。
具体的には、差分可視化手段により、差分の色付け、差分の透かし、差分の切り出し、差分の印付け、から選ばれる1又は2以上の方法により、照合後映像における、第一測定工程及び第二測定工程の測定結果の差分を可視化し、端末に表示可能とすることもできる。
【実施例
【0068】
以下、本発明の基礎となる知見を裏付ける各種試験結果を示す。
【0069】
<試験1> 角層の同一部位における、デスモグレイン1の免疫染色と、細胞形態染色(角層染色)による二重染色を試みた。
【0070】
(1)被検試料の採取
テープストリッピング法により、角層を51歳男性の腕から採取した。
採取した角層をスライドガラスに貼付した。
【0071】
(2)第一測定工程:デスモグレイン1の免疫染色
角層を添付したスライドガラスを、キシレン(Wako 製)に一晩浸漬した。
浸漬後の角層を洗浄、風乾し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako 製)中、室温条件下で15分間静置した。
【0072】
角層をPBS(Wako 製)で洗浄した。洗浄後の角層を、20%ブロックエース水溶液(DS バイオファーマメディカル株式会社 製)中、室温条件下、1時間静置した。
【0073】
角層を添付したスライドガラス(MAS コート MATSUNAMI 製)をスーパーパップペンリキッドブロッカー(大道産業株式会社 製)で枠付けし、角層に一次抗体(Anti-Desmoglein1,Mouse-Mono(Dsg1-P23)(Progen,651110)原液:IgG 濃度:10-15μg/mL)を加え、湿潤箱中、室温条件下で2時間静置した。
静置後、PBSを用い、角層を洗浄した。
【0074】
洗浄後、二次抗体(Allexa Fluor@488 Goat Anti-mouse IgG(Invitrogen,A-11001 PBS200倍希釈液)を加え、湿潤箱中で室温、遮光条件下で、1時間静置した。
静置後、PBS、蒸留水を用い、角層を洗浄した。
【0075】
洗浄後、Fluoromout-G(水溶性封入剤)を用い、角層をスライドガラスとカバーガラスとの間に封入した。封入後、マニキュア(有機接着剤)を用い、角層をスライドガラスとカバーガラスとを固定した。
固定後、乾燥させ、デスモグレイン1の蛍光を観察した。
ここで、観察終了まで、作業時以外は、遮光条件を維持していた。
観察後、キシレンに3分間浸漬させることにより、マニキュア(有機接着剤)を除去した。
【0076】
(3)中間処理工程(第一測定工程後、第二測定工程前の処理)
角層を、37℃蒸留水に一晩浸漬させることにより、Fluoromout-G(水溶性封入剤)を除去し、カバーガラスを外した。
ここで、上記中間処理を経ずにカバーガラスを外した角層は、後の第二測定工程において、角層細胞の形状が崩れてしまうものが散見された。
【0077】
(4)第二測定工程:細胞形態染色(角層染色)
【0078】
中間処理工程後の角層を、細胞形態染色液(角層染色液 下記表1)に、室温条件下、10分間浸漬させた。浸漬後、角層を水洗、風乾した。
風乾後の角層をNew M・X(ポリスチレン樹脂封入剤)でスライドガラスとカバーガラスとの間に封入し、角層の観察を行った。
【0079】
【表1】
【0080】
(5)結果、考察
測定結果を図1に示す。
ここで、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを並列に配置し、本分野を専門とする評価者により、デスモグレイン1の存在位置と、角層の重なりの多い位置とを対比観察した。
【0081】
図1に示す通り、蛍光免疫染色によりデスモグレイン1の存在位置を測定する第一測定工程を行った後、角層の重なりの多い位置を細胞形態染色液(角層染色液)を用い測定する第二測定工程を行うことで、同一の角層におけるデスモグレイン1の存在位置と角層における角層の重なりの多い位置を、効率よく対比観察できることがわかった。
【0082】
ここで、デスモグレイン1は、染色により、細胞膜の輪郭を示すことのできるタンパク質である。すなわち、デスモグレイン1は、第一測定工程によりそのタンパク質の存在位置が把握できるものである。
【0083】
以上の通り、免疫染色(Immunostaining)により特定のタンパク質の存在位置を測定する第一測定工程を行った後、角層自体の形状的特徴を染色処理により測定する第二測定工程を行うことで、同一の角層における特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴を測定することができることがわかった。
【0084】
<試験2> 角層の同一部位における、デスモグレイン1の免疫染色と、フォンタナマッソン染色の二重染色を試みた。
【0085】
(1)被検試料の採取
テープストリッピング法により、角層を51歳男性の両頬から採取した。
採取した角層をスライドガラスに貼付した(図2 参照)。
【0086】
(2)第一測定工程:デスモグレイン1の免疫染色
試験1と同様の方法により、第一測定工程を行った。
【0087】
(3)中間処理工程(第一測定工程後、第二測定工程前の処理)
試験1と同様の方法により、中間処理工程を行った。
【0088】
(4)第二測定工程:フォンタナマッソン染色法による組織染色
中間処理工程後の角層を、フォンタナ・アンモニア銀溶液(武藤化学株式会社 製)に、37℃、24時間浸漬させた。浸漬後、角層を水洗、風乾した。
風乾後の角層をNew M・X(ポリスチレン樹脂封入剤)でスライドガラスとカバーガラスとの間に封入し、角層の観察を行った。
【0089】
(5)結果、考察
染色結果を図3図4に示す。
なお、第一測定工程の測定結果の画像と、第二測定工程の測定結果の画像とを並列に配置し、本分野を専門とする評価者により、デスモグレイン1の存在位置と、角層におけるメラニン組織の存在位置とを対比観察した。
【0090】
図3図4に示す通り、蛍光免疫染色によりデスモグレイン1の存在位置を測定する第一測定工程を行った後、角層におけるメラニン組織をフォンタナマッソン染色処理により測定する第二測定工程を行うことで、同一の角層におけるデスモグレイン1の存在位置と角層におけるメラニン組織の存在位置を、効率よく測定することができることがわかった。
【0091】
すなわち、免疫染色(Immunostaining)により特定のタンパク質の存在位置を測定する第一測定工程を行った後、角層における特定の形状的特徴の存在位置を染色処理により測定する第二測定工程を行うことで、同一の角層における特定のタンパク質の存在位置と角層内における特定組織の存在位置を対比観察することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、特定のタンパク質の存在位置と角層自体の形状的特徴及び/又は角層内における特定組織の存在位置とを対比観察する技術に応用することができる。
図1
図2
図3
図4