(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】機関関連データ送信装置、これを備えた船陸間通信システムおよび機関関連データ送信方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
F02D45/00 364
F02D45/00 368S
F02D45/00 369
(21)【出願番号】P 2019175523
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久次米 泰典
(72)【発明者】
【氏名】野上 哲男
(72)【発明者】
【氏名】檜野 武憲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115409(WO,A1)
【文献】特開2004-234444(JP,A)
【文献】特開2003-118689(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103463(WO,A1)
【文献】特開平11-165696(JP,A)
【文献】特開2005-149310(JP,A)
【文献】登録実用新案第3094477(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0104112(US,A1)
【文献】特開平9-226688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G08G 3/00
B63B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶から陸上の管理装置に衛星通信を介してデータを送信する船陸間通信システムを用いて船舶に備えられた内燃機関に関連する機関関連データを送信するために、前記船舶に設けられる機関関連データ送信装置であって、
前記機関関連データを取得するデータ取得部と、
第1のタイミングと、前記第1のタイミングから所定時間経過後の第2のタイミングとの間
において所定時間間隔ごとに取得した
複数の前記機関関連データに対して統計処理を行い、前記所定時間における統計データを生成する統計処理部と、
各タイミングで取得した前記機関関連データを前記管理装置に送信するためのデータ送信信号を生成する信号生成部と、を備え、
前記信号生成部は、
前記第1のタイミングで取得した前記機関関連データを送信するための第1データ送信信号と、
前記第2のタイミングで取得した前記機関関連データと、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間において前記所定時間間隔ごとに取得した前記複数の機関関連データから生成された前記統計データとを含む第2データ送信信号とを生成する、機関関連データ送信装置。
【請求項2】
前記統計処理は、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間の前記機関関連データについて、前記所定時間における平均値を算出すること、前記所定時間における最大値を抽出すること、前記所定時間における最小値を抽出すること、前記所定時間における分散を算出すること、前記所定時間における標準偏差を算出すること、前記所定時間における変動係数を算出すること、および、前記所定時間に所定のしきい値を超えた回数を積算することのうちの少なくとも何れか1つを含む、請求項1に記載の機関関連データ送信装置。
【請求項3】
前記機関関連データは、前記内燃機関の負荷変化によって変化する負荷データおよび前記内燃機関からの排気温度を示す排気温度データのうちの少なくとも何れか1つを含み、
前記統計データは、前記内燃機関の負荷についての前記所定時間における平均値のデータおよび前記排気温度についての前記所定時間における平均値のデータのうちの少なくとも何れか1つを含む、請求項1または2に記載の機関関連データ送信装置。
【請求項4】
前記機関関連データは、前記内燃機関からの排気温度を示す排気温度データまたは前記内燃機関の筒内圧の最大値を示す筒内圧最大値データを含み、
前記統計データは、前記排気温度または前記筒内圧の最大値についての前記所定時間における最大値、最小値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータ、または、前記筒内圧の最大値について前記所定時間に所定のしきい値を超えた回数のデータを含む、請求項1から3の何れかに記載の機関関連データ送信装置。
【請求項5】
前記機関関連データは、前記内燃機関の筒内圧の圧縮圧力を示す圧縮圧力データを含み、
前記統計データは、前記圧縮圧力についての前記所定時間における最大値、最小値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータを含む、請求項1から4の何れかに記載の機関関連データ送信装置。
【請求項6】
前記機関関連データは、前記内燃機関に燃料を供給するための制御を行う燃料制御弁の作動油圧を示す燃料制御弁用作動油圧データまたは前記内燃機関の排気弁の動作制御を行う排気制御弁の作動油圧を示す排気制御弁用作動油圧データを含み、
前記統計データは、前記燃料制御弁の作動油圧または前記排気制御弁の作動油圧についての前記所定時間における最小値のデータを含む、請求項1から5の何れかに記載の機関関連データ送信装置。
【請求項7】
前記内燃機関は、2サイクルエンジンと、前記2サイクルエンジンに掃気を供給するために空気を圧縮する過給機と、を備えた、請求項1から6の何れかに記載の機関関連データ送信装置。
【請求項8】
前記機関関連データは、前記内燃機関の掃気経路内の温度を示す掃気温度データまたは前記内燃機関の掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データを含み、
前記統計データは、前記掃気経路内の温度または圧力についての前記所定時間における最大値のデータを含む、請求項7に記載の機関関連データ送信装置。
【請求項9】
前記機関関連データは、前記過給機の回転数を示す過給機回転数データを含み、
前記統計データは、前記過給機の回転数についての前記所定時間における最大値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータを含む、請求項7または8に記載の機関関連データ送信装置。
【請求項10】
前記機関関連データは、前記過給機の回転数を示す過給機回転数データ、前記内燃機関の掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データおよび前記内燃機関内への燃料噴射量を示す燃料噴射量データのうちの少なくとも1つのデータを含み、
前記統計データは、前記過給機の回転数、前記掃気経路内の圧力および前記燃料噴射量のうちの少なくとも1つについての前記所定時間における分散、標準偏差または変動係数のデータを含む、請求項7から9の何れかに記載の機関関連データ送信装置。
【請求項11】
請求項1から10の何れかに記載の機関関連データ送信装置と、
陸上に設けられ、前記機関関連データ送信装置との間で衛星通信を介してデータを送受信する管理装置と、を備えた、船陸間通信システム。
【請求項12】
船舶から陸上の管理装置に衛星通信を介してデータを送信する船陸間通信システムを用いて船舶に備えられた内燃機関に関連する機関関連データを送信する機関関連データ送信方法であって、
機関関連データを取得し、
第1のタイミングと、前記第1のタイミングから所定時間経過後の第2のタイミングとの間
において所定時間間隔ごとに取得した
複数の前記機関関連データに対して統計処理を行い、前記所定時間における統計データを生成し、
各タイミングで取得した前記機関関連データを前記管理装置に送信するためのデータ送信信号を生成し、
前記データ送信信号を生成することは、
前記第1のタイミングで取得した前記機関関連データを送信するための第1データ送信信号を生成すること、および
前記第2のタイミングで取得した前記機関関連データと、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間において前記所定時間間隔ごとに取得した前記複数の機関関連データから生成された前記統計データとを含む第2データ送信信号を生成することを含む、機関関連データ送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に設けられる機関関連データ送信装置、これを備えた船陸間通信システムおよび機関関連データ送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関の状態診断または劣化等の予兆検知を行うために内燃機関の状態に関連するデータ(以下、機関関連データという。例えば内燃機関の筒内圧のデータ、排ガス温度のデータ等)を取得することが知られている。さらに、取得した機関関連データを、内燃機関を備えた設備または移動体とは離れた場所に設けられた管理装置に送信し、管理装置においてデータを解析することも行われている。
【0003】
このような技術を船舶に設けられた内燃機関にも適用した場合、船舶内で取得した機関関連データを陸上の管理装置に送信することになる。陸上の設備または移動体においては、有線通信はもちろんのこと、無線通信であっても、多数のアクセスポイントからインターネットを経由した通信により安価かつ高速なデータ送信が可能である。
【0004】
一方、船舶は、陸上に設置されたアクセスポイントから離れた海上を航路とするため、船舶から陸上の管理装置にデータ送信するためには、衛星通信を利用する必要がある(例えば下記特許文献1参照)。データの送信に衛星通信を利用する場合、陸上でのインターネット等を介した通信に比べて通信料が高価になり、時々刻々変化するデータを常時送信するのは現実的ではない。
【0005】
通信量を低減するために、特定のデータを抽出して送信する場合、あるタイミングでデータを抽出した後、そのときから所定時間経過後に再度データを抽出し、各データをそれぞれ送信することが考えられる。しかし、このようにすると、陸上の管理装置において、データを抽出していない期間のデータの変動が分からない。このため、内燃機関の劣化、損傷等を知るための重要なデータ変動を見落とす恐れがある。
【0006】
通信量を低減するための他の方法として、下記特許文献2には、前回送信したデータと今回送信するデータとを比較し、前回と異なる部分のデータのみを送信することが開示されている。しかし、このような方法を、外乱の影響によりデータが変動し易い燃焼圧波形のデータに適用した場合、同じ横軸(例えば内燃機関のクランク角)に対する値(燃焼圧)が変動することにより、前回と同じ値を有するデータがほとんどなくなる結果、通信量が低減しない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-75654号公報
【文献】特開昭62-39941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、陸上の管理装置において船舶に備えられた内燃機関の状態を適切に監視可能なデータ内容としつつ船舶から陸上への衛星通信を介したデータ送信量を低減することができる、機関関連データ送信装置、これを備えた船陸間通信システムおよび機関関連データ送信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る機関関連データ送信装置は、船舶から陸上の管理装置に衛星通信を介してデータを送信する船陸間通信システムを用いて船舶に備えられた内燃機関に関連する機関関連データを送信するために、前記船舶に設けられる機関関連データ送信装置であって、前記機関関連データを取得するデータ取得部と、第1のタイミングと、前記第1のタイミングから所定時間経過後の第2のタイミングとの間に取得した前記機関関連データに対して統計処理を行い、前記所定時間における統計データを生成する統計処理部と、各タイミングで取得した前記機関関連データを前記管理装置に送信するためのデータ送信信号を生成する信号生成部と、を備え、前記信号生成部は、前記第2のタイミングで取得した前記機関関連データを送信するための前記データ送信信号に、前記統計データを含めるものである。
【0010】
上記構成によれば、第1のタイミング、および、第1のタイミングから所定時間経過後の第2のタイミングで取得された機関関連データに加えて、両タイミング間の所定時間における機関関連データについて統計処理された統計データが陸上の管理装置に送信される。したがって、その統計データによって、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の機関関連データの統計的な特徴(変化)を管理装置側で取得することができる。このため、第1のタイミングから第2のタイミングまでの間の機関関連データを連続的に取得することなく、第1のタイミングにおいて取得した機関関連データと、第2のタイミングにおいて取得した機関関連データとの間にどのような状況変化があったのか(あるいはなかったのか)を解析することが可能となる。以上より、陸上の管理装置において船舶に備えられた内燃機関の状態を適切に監視可能なデータ内容としつつ船舶から陸上への衛星通信を介したデータ送信量を低減することができる。
【0011】
前記統計処理は、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間の前記機関関連データについて、前記所定時間における平均値を算出すること、前記所定時間における最大値を抽出すること、前記所定時間における最小値を抽出すること、前記所定時間における分散を算出すること、前記所定時間における標準偏差を算出すること、前記所定時間における変動係数を算出すること、および、前記所定時間に所定のしきい値を超えた回数を積算することのうちの少なくとも何れか1つを含んでもよい。
【0012】
前記機関関連データは、前記内燃機関の負荷変化によって変化する負荷データおよび前記内燃機関からの排気温度を示す排気温度データのうちの少なくとも何れか1つを含み、前記統計データは、前記内燃機関の負荷についての前記所定時間における平均値のデータおよび前記排気温度についての前記所定時間における平均値のデータのうちの少なくとも何れか1つを含んでもよい。
【0013】
これらの機関関連データについての平均値のデータが得られることにより、第2のタイミングにおけるデータの第1のタイミングにおけるデータに対する変化量の大小によらず、内燃機関の負荷変化の有無を検出することができる。また、第2のタイミングにおけるデータが第1のタイミングにおけるデータに対して変化している場合に、平均値のデータと合わせて検証することにより、第2のタイミングにおけるデータの変化が内燃機関の負荷変化によるものかどうかを把握することができる。
【0014】
前記機関関連データは、前記内燃機関から排気温度を示す排気温度データまたは前記内燃機関の筒内圧の最大値を示す筒内圧最大値データを含み、前記統計データは、前記排気温度または前記筒内圧の最大値についての前記所定時間における最大値、最小値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータ、または、前記筒内圧の最大値について前記所定時間に所定のしきい値を超えた回数のデータを含んでもよい。
【0015】
これらの機関関連データについての最大値、最小値、分散、標準偏差、変動係数およびしきい値を超えた回数(頻度)のうちの少なくとも何れか1つのデータが得られることにより、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定時間における燃料噴射系の動作不良の有無を検出することができる。
【0016】
前記機関関連データは、前記内燃機関の筒内圧の圧縮圧力を示す圧縮圧力データを含み、前記統計データは、前記圧縮圧力についての前記所定時間における最大値、最小値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータを含んでもよい。
【0017】
圧縮圧力データについての最大値、最小値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータが得られることにより、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定時間における排気弁の不良の有無を検出することができる。
【0018】
前記機関関連データは、前記内燃機関に燃料を供給するための制御を行う燃料制御弁の作動油圧を示す燃料制御弁用作動油圧データまたは前記内燃機関の排気弁の動作制御を行う排気制御弁の作動油圧を示す排気制御弁用作動油圧データを含み、前記統計データは、前記燃料制御弁の作動油圧または前記排気制御弁の作動油圧についての前記所定時間における最小値のデータを含んでもよい。
【0019】
これらの機関関連データについての最小値のデータが得られることにより、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定時間における燃料噴射系統または排気弁制御系統の一時的な動作不良の有無を検出することができる。
【0020】
前記内燃機関は、2サイクルエンジンと、前記2サイクルエンジンに掃気を供給するために空気を圧縮する過給機と、を備えてもよい。
【0021】
前記機関関連データは、前記内燃機関の掃気経路内の温度を示す掃気温度データまたは前記内燃機関の掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データを含み、前記統計データは、前記掃気経路内の温度または圧力についての前記所定時間における最大値のデータを含んでもよい。
【0022】
これらの機関関連データについての最大値のデータが得られることにより、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定時間における掃気経路(掃気室または掃気管)内でのブローバックあるいはブローバイ(逆火)現象の有無を検出することができる。
【0023】
前記機関関連データは、前記過給機の回転数を示す過給機回転数データを含み、前記統計データは、前記過給機の回転数についての前記所定時間における最大値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータを含んでもよい。
【0024】
過給機回転数データについての最大値および分散のうちの少なくとも何れか1つのデータが得られることにより、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定時間における負荷変動の有無を検出することができる。
【0025】
前記機関関連データは、前記過給機の回転数を示す過給機回転数データ、前記内燃機関の掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データおよび前記内燃機関内への燃料噴射量を示す燃料噴射量データのうちの少なくとも1つのデータを含み、前記統計データは、前記過給機の回転数、前記掃気経路内の圧力および前記燃料噴射量のうちの少なくとも1つについての前記所定時間における分散、標準偏差または変動係数のデータを含んでもよい。
【0026】
これらの機関関連データについての分散、標準偏差または変動係数のデータが得られることにより、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定時間における負荷の整定の良否を判定することができる。
【0027】
本発明の他の態様に係る船陸間通信システムは、上記構成の機関関連データ送信装置と、陸上に設けられ、前記機関関連データ送信装置との間で衛星通信を介してデータを送受信する管理装置と、を備えている。
【0028】
本発明の他の態様に係る機関関連データ送信方法は、船舶から陸上の管理装置に衛星通信を介してデータを送信する船陸間通信システムを用いて船舶に備えられた内燃機関に関連する機関関連データを送信する機関関連データ送信方法であって、機関関連データを取得し、第1のタイミングと、前記第1のタイミングから所定時間経過後の第2のタイミングとの間に取得した前記機関関連データに対して統計処理を行い、前記所定時間における統計データを生成し、各タイミングで取得した前記機関関連データを前記管理装置に送信するためのデータ送信信号を生成し、前記第2のタイミングで取得した前記機関関連データを送信するための前記データ送信信号に、前記統計データを含めるものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、陸上の管理装置において船舶に備えられた内燃機関の状態を適切に監視可能なデータ内容としつつ船舶から陸上への衛星通信を介したデータ送信量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る機関関連データ送信装置が適用される船陸間通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すデータ送信装置における機能ブロックを示す図である。
【
図3】
図3は、機関負荷検知の一例における統計データの内容を説明するための図である。
【
図4】
図4は、機関負荷検知の他の例における統計データの内容を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態における2サイクルエンジンにおけるクランク角に対する筒内圧の変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、燃料噴射系統の動作不良検知における統計データの内容を説明するための図である。
【
図7】
図7は、燃料制御弁の動作不良検知における統計データの内容を説明するための図である。
【
図8】
図8は、ブローバックあるいはブローバイの発生検知における統計データの内容を説明するための図である。
【
図9】
図9は、負荷整定判定における統計データの内容を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0032】
図1は、本発明の一実施の形態に係る機関関連データ送信装置が適用される船陸間通信システムの概略構成を示すブロック図である。本実施の形態における船陸間通信システム1は、船舶4に設けられる船上システム2と、陸上に設けられる管理装置3とを含んでいる。
【0033】
船舶4は、内燃機関5と、内燃機関5を制御する機関制御装置6aと、内燃機関5の状態を計測する機関計測装置6bと、を備えている。機関制御装置6aは、内燃機関5等の制御を行う。また、機関計測装置6bは、内燃機関5に関連するデータを計測する。機関計測装置6bが計測するデータは、例えば、内燃機関5の燃焼圧データ(燃焼波形データ)、後述する負荷検出器51で検出される内燃機関5の機関負荷データ、排気温度データ、掃気温度データ、掃気圧力データ、および過給機回転数データ等を含む。なお、機関制御装置6aは、内燃機関5等の制御のために、後述する燃料制御弁用作動油圧データ、排気制御弁用作動油圧データ、および燃料噴射量データ等を取得する。
【0034】
内燃機関5は、例えば船舶4の推進用主機である大型の2サイクル(2ストローク)エンジン10(以下、単にエンジン)と、エンジン10に掃気を供給するために空気を圧縮する過給機20と、を備えている。なお、エンジン10は、船舶4の発電用のエンジンであってもよい。また、2サイクルエンジン10の代わりに、4サイクル(4ストローク)エンジンを備えていてもよい。この場合、以下における「掃気」は「給気」に読み替えられる。
【0035】
エンジン10は、複数の気筒11(
図1では1つのみ図示)を有している。特に、ユニフロー2サイクルエンジンにおいて、各気筒11には、下方部分に掃気口12が形成され、上方部分には排気口13が形成されている。各気筒11には、ピストン14、燃料噴射制御弁15、および排気弁16が設けられている。ピストン14は、掃気口12を横切るようにして気筒11内を摺動し、下端部分がコネクティングロッド17を介してクランク軸18に連結されている。
【0036】
燃料噴射弁15は、気筒11の上方部分に位置しており、燃料供給装置31から燃料が供給される。燃料供給装置31は、燃料噴射弁15に供給する燃料を昇圧するための燃料ポンプ34と、燃料ポンプ34を動作させる作動油を供給するアキュムレータ35と、アキュムレータ35から燃料ポンプ34に供給される作動油が流通する作動油経路36に設けられ、燃料ポンプ34の動作を制御する燃料制御弁37と、を備えている。燃料供給装置31は、燃料制御弁37を制御することにより、燃料噴射弁15における燃料噴射量、燃料噴射パターンおよび燃料噴射タイミングを変更することができる。
【0037】
排気弁16は、排気口13を開閉する弁であって、排気弁駆動装置32によって駆動される。排気弁駆動装置32は、排気弁16を開閉作動させるためのアクチュエータ61と、アクチュエータ61を動作させる作動油を供給するアキュムレータ62と、アキュムレータ62からアクチュエータ61に供給される作動油が流通する作動油経路63に設けられ、アクチュエータ61の動作を制御する排気制御弁64と、を備えている。排気弁駆動装置32は、排気制御弁64を制御することにより、排気弁16の開閉パターンおよび開閉タイミングを変更することができる。なお、燃料制御弁37と、排気制御弁64とは、個別の制御弁として構成されてもよいし、互いに独立して作動可能な複数の弁を備えた1つの制御弁ユニットとして(複数の弁のうちの1つの弁が燃料制御弁37として機能し、他の1つの弁が排気制御弁64として機能するように)構成されてもよい。
【0038】
過給機20は、エンジン10に供給される空気を断熱圧縮するように構成されている。過給機20は、複数の圧縮機翼(ブレード)を備え、回転軸23回りに回転することにより、外部から導入された空気を圧縮する圧縮機22と、圧縮機22の回転軸23に連結され、圧縮機22の回転動力を生成するタービン21と、を備えている。
【0039】
圧縮機22で圧縮された空気は、掃気管24および掃気室25を介してエンジン10に掃気として供給される。エンジン10での燃焼により排出された排ガスは、過給機20のタービン21に流入される。タービン21は、複数のタービン翼(ブレード)を備え、流入された排ガスによってタービン21が回転軸23回りに回転することにより、圧縮機22が回転する。
【0040】
船上システム2は、機関制御装置6aおよび/または機関計測装置6bが取得したデータを管理装置3に送信するためのデータ送信装置7を備えている。データ送信装置7は、機関制御装置6aおよび/または機関計測装置6bから所定のデータを取得し、管理装置3に送信するためのデータ送信信号を生成する。データ送信装置7は、公知のコンピュータ装置を含む。
【0041】
さらに、船上システム2は、データ送信装置7で生成されたデータ送信信号を、衛星通信を介して管理装置3に送信する船外通信部8を備えている。データ送信装置7と船外通信部8とは船内LAN9により信号を授受可能に接続されている。船外通信部8は、例えば電子メール等を送信可能なメールサーバを備えている。船内LAN9には、種々のデータサーバ、演算装置、入力装置または表示装置等が接続され得る。
【0042】
船外通信部8から送信されたデータ送信信号は、通信衛星40を介した衛星通信により伝送される。管理装置3には、衛星通信によるデータ送信信号を受信可能な衛星アンテナ41が設けられ得る。これに加えて、または、これに代えて、陸上に設けられた他の衛星アンテナ42でいったんデータ送信信号が受信され、当該衛星アンテナ42からインターネット等の通信ネットワーク43を介して管理装置3にデータ送信信号が送信されてもよい。
【0043】
以下、本実施の形態においてデータ送信装置7が内燃機関5に関連する機関関連データを送信する態様について説明する。すなわち、本実施の形態におけるデータ送信装置7は、機関関連データ送信装置として機能する。
【0044】
図2は、
図1に示すデータ送信装置における機能ブロックを示す図である。
図2に示すように、本実施の形態におけるデータ送信装置7は、データ取得部81と、統計処理部82と、信号生成部83と、を備えている。
【0045】
データ取得部81は、機関関連データを取得する。より詳しくは、データ取得部81は、所定時間間隔ごとに、機関関連データを取得する。以下では、第1のタイミングt1と、第1のタイミングt1から所定時間T経過後の第2のタイミングt2との間において機関関連データを取得することを主に説明する。所定時間Tは、例えば4時間以内の時間、好ましくは1時間以内の時間、例えば30分に設定される。所定時間Tは、船舶4または内燃機関5の特性、航路の環境(負荷変動が大きい環境か否か等)等に応じて好適な時間が設定される。
【0046】
さらに、データ取得部81は、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間において所定の時間間隔ごとに機関関連データを取得する。後述するように、第1のタイミングt1および第2のタイミングt2との間において取得した機器関連データは、第1のタイミングt1および第2のタイミングt2で取得した機器関連データを除き、陸上の管理装置3には送信されない。これらの機器関連データは、下記統計処理のために取得される。
【0047】
図2に例示されるように、機関関連データは、機関制御装置6aおよび/または機関計測装置6bを介してデータ送信装置7に入力される。なお、これに代えて、データ送信装置7は、機関関連データを後述する各検出器51~59から直接取得してもよい。
【0048】
統計処理部82は、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に取得した機関関連データに対して統計処理を行い、所定時間Tにおける統計データを生成する。例えば、統計処理は、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間の機関関連データについて、所定時間Tにおける平均値を算出すること、所定時間Tにおける最大値を抽出すること、所定時間Tにおける最小値を抽出すること、所定時間Tにおける分散を算出すること、所定時間Tにおける標準偏差を算出すること、所定時間Tにおける変動係数を算出すること、および、所定時間Tに所定のしきい値を超えた回数を積算することのうちの少なくとも何れか1つを含む。
【0049】
信号生成部83は、各タイミングt1,t2で取得した機関関連データを管理装置3に送信するためのデータ送信信号を生成する。さらに、信号生成部83は、第2のタイミングt2で取得した機関関連データを送信するためのデータ送信信号に、統計データを含める。データ送信信号には、機関関連データおよび統計データに加えて、それらに付随するデータが含まれ得る。付随するデータは、例えば、内燃機関5の識別信号、送信する機関関連データの抽出日時のデータ等が含まれ得る。
【0050】
以下、機関関連データと、それに対する統計処理(それによって生成される統計データ)との組み合わせについて、具体的に例示する。
【0051】
(機関負荷検知1)
内燃機関5の負荷変化の有無を検知するために、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の負荷変化によって変化する負荷データを取得する。
【0052】
内燃機関5の負荷変化によって変化するデータは、内燃機関5の可動部における負荷を直接的または間接的に検出した機関負荷データ、燃料噴射量検出器59から出力される燃料噴射量データ、機関制御装置6aから出力される機関回転数指令値を示す機関回転数指令値データ、機関制御装置6aから出力される燃料噴射量指令値を示す燃料噴射量指令値データ、過給機20の回転数を検出した過給機回転数データのうちの何れかであってもよい。また、内燃機関5が発電用の内燃機関である場合には、内燃機関5の回転数を一定とした負荷制御を行い得るため、その場合には機関関連データとして、機関負荷指令値データを用いてもよい。データ取得部81は、これらのデータのうちの何れか1つのデータを取得してもよい。あるいは、データ取得部81は、これらのデータのうちの複数種類のデータを取得してもよい。
【0053】
機関負荷データは、
図2に示されるように、負荷検出器51により検出されるデータを用いてもよい。例えば、負荷検出器51は、内燃機関5あるいはそこに接続される出力軸における変位を検出してもよい。機関計測装置6bまたはデータ取得部81は、検出された変位から負荷を算出してもよい。これに代えて、機関制御装置6aから燃料噴射量および機関回転数を取得し、それらから仮想負荷を算出してもよい。燃料噴射量は、燃料噴射量検出器59で検出され、機関制御装置6aに送られる。また、機関回転数は、内燃機関5に設けられた機関回転数検出器(図示せず)で検出され、機関制御装置6aに送られる。
【0054】
さらに、データ取得部81は、内燃機関5からの排気温度を示す排気温度データを取得する。排気温度データは、エンジン10の各気筒排気口の下流(気筒11と排気管26との間の経路)に設けられた排気温度検出器53で検出される温度のデータである。なお、これに代えて、排気温度検出器53は、排気管26の温度または過給機20のタービン21の出口温度を排気温度として検出してもよい。
【0055】
統計処理部82は、取得した負荷データに対して統計処理を行い、統計データとして内燃機関5の負荷についての所定時間Tにおける平均値のデータ(平均負荷データ)を生成する。さらに、統計処理部82は、取得した排気温度データに対して統計処理を行い、統計データとして排気温度についての所定時間Tにおける平均値のデータ(平均排気温度データ)を生成する。
【0056】
図3は、機関負荷検知の一例における統計データの内容を説明するための図である。
図3の例では、負荷の時間的変化を示す負荷の計測値のグラフG
Lが示すように、負荷が、第1のタイミングt
1以降に一度上昇し、その後下降して第2のタイミングt
2において第1のタイミングt
1における値(L1)よりも低い値(L2)となっている。また、排気温度は、応答速度が負荷より遅いため、負荷の変動に遅れて変化する。このため、
図3の例では、排気温度の時間的変化を示す排気温度の計測値のグラフG
Eに示すように、負荷の時間的変化と同様に、排気温度が、第1のタイミングt
1以降に一度上昇し、その後下降する。ただし、第2のタイミングt
2における排気温度(E2)は、第1のタイミングt
1より高い値(E1)となっている。これは、内燃機関5の負荷変動に遅れて追従するため、第2のタイミングt
2では、排気温度が高止まりしていると言える。
【0057】
第1のタイミングt
1から第2のタイミングt
2までの時間変化の情報(
図3に示すグラフ全体のデータ)があれば、上記現象(すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間での一時的な負荷上昇)は理解できる。一方で、陸上の管理装置3に送信するデータ量を低減するために、第1のタイミングt
1で取得した負荷データおよび排気温度データと、第2のタイミングt
2で取得した負荷データおよび排気温度データとを送信しただけでは、上記現象は理解できない。すなわち、第1のタイミングt
1に対して第2のタイミングt
2における負荷は低下しているのに、排気温度が上昇している理由を定めることができない。
【0058】
これに対して、本例においては、統計データとしてこの期間の平均値のデータが付加される。負荷についての所定時間Tにおける平均値(LA)は、両タイミングにおける値(瞬時値)L1,L2より高くなっている。この平均値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に負荷がいったん上昇し、下降していることが分かる。同様に、排気温度についての所定時間Tにおける平均値(EA)も、両タイミングにおける値(瞬時値)E1,E2より高くなっている。この平均値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に排気温度がいったん上昇し、下降していることが分かる。
【0059】
さらに、排気温度データおよび平均排気温度データを、負荷データおよび平均負荷データと、照らし合わせることにより、第2のタイミングt2における排気温度(E2)が第1のタイミングt1における排気温度(E1)より高い理由が第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間で一時的に負荷が上昇したことによるものであることが分かる。
【0060】
このように、これらの機関関連データについての平均値のデータが得られることにより、第2のタイミングt2におけるデータの第1のタイミングt1におけるデータに対する変化量の大小によらず、内燃機関5の負荷変化の有無を検出することができる。また、第2のタイミングt2におけるデータが第1のタイミングt1におけるデータに対して変化している場合に、平均値のデータと合わせて検証することにより、第2のタイミングt2におけるデータの変化が内燃機関5の負荷変化によるものかどうかを把握することができる。
【0061】
(機関負荷検知2)
内燃機関5の負荷変化の有無は、過給機20の回転数変化を検知することでも知ることができる。この場合、データ取得部81は、機関関連データとして、過給機20の回転数を示す過給機回転数データを取得する。過給機回転数データは、過給機20の回転軸23の回転数を検出する過給機回転数検出器58で検出される回転数のデータである。
【0062】
統計処理部82は、取得した過給機回転数データに対して統計処理を行い、統計データとして過給機20の回転数についての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大回転数データ)および分散のデータ(分散回転数データ)を生成する。分散は、複数のデータ要素のそれぞれの値の平均値からの差を二乗し、それらを足し合わせてデータ要素の数で割ったものである。
【0063】
図4は、機関負荷検知の他の例における統計データの内容を説明するための図である。
図4の例では、過給機20の回転数の時間的変化を示すグラフG
Rに示されるように、過給機20の回転数は、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで変化していない(R1=R2)。しかし、過給機20の回転数は、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間において一度上昇している。
【0064】
過給機20の回転数が上昇する(最大値が増大する)要因は、内燃機関5における負荷の増大(一時的な過負荷)が発生していることであると考えられる。第1のタイミングt
1から第2のタイミングt
2までの時間変化の情報(
図4に示すグラフ全体のデータ)があれば、このような回転数の上昇から一時的な負荷の増大が生じたことは理解できる。一方で、陸上の管理装置3に送信するデータ量を低減するために、第1のタイミングt
1で取得した過給機回転数データと、第2のタイミングt
2で取得した過給機回転数データとを送信しただけでは、上記現象は理解できない。すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで過給機20の回転数は変化していないので、その間の時間Tに負荷が一時的に増大したことは見落とされる結果となる。
【0065】
これに対して、本例においては、統計データとして、過給機20の回転数についての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大回転数データ)が付加される。この最大値(RX)は、両タイミングにおける値(瞬時値)R1,R2より高くなっている。この最大値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に過給機20の回転数が一時的に上昇していることが分かる。すなわち、過給機20の回転数の最大値のデータが付加されることにより、内燃機関5における負荷の増大(過負荷)が一時的に発生していたことを知ることができる。
【0066】
さらに、本例においては、統計データとして、過給機20の回転数についての所定時間Tにおける分散のデータ(分散回転数データ)が付加される。この分散値(RV)は、0より大きい値となっている。第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間において過給機20の回転数が変化していないまたは変化が小さい場合、分散値(RV)は、0または0に近い値となる。したがって、この分散のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に過給機20の回転数の変動が生じていることが分かる。すなわち、過給機20の回転数の分散のデータが付加されることにより、内燃機関5における負荷の変動が発生していたことを知ることができる。
【0067】
なお、本例では、最大回転数データおよび分散回転数データを統計データとして含む態様を説明しているが、過給機20の回転数を用いた機関負荷検知のためには、これらのデータのうちの何れか一方が統計データとして含まれていればよい。統計データとして含まれるデータの種類が多いほど管理装置3における解析はし易くなる(総合的な評価が可能となる)。
【0068】
また、統計処理部82は、分散回転数データを生成する代わりに、過給機20の回転数についての所定時間Tにおける標準偏差のデータ(標準偏差回転数データ)または変動係数のデータ(変動係数回転数データ)を生成してもよい。なお、標準偏差は、分散の平方根で与えられ、変動係数は、標準偏差を平均値で割ることにより与えられる。
【0069】
(燃料噴射系統の動作不良検知)
燃料噴射系統の動作不良の有無を検知するために、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の筒内圧の最大値Pmaxを示す筒内圧最大値データを取得する。筒内圧最大値データは、所定のクランク角において気筒11内に設けられた筒内圧検出器52で検出される圧力のデータである。機関計測装置6bは、燃焼圧検出器52から筒内圧を所定のサンプリング周期で計測し筒内圧データを生成する。さらに、機関計測装置6bは、筒内圧データから筒内圧の最大値Pmaxを抽出し、筒内圧最大値データを生成する。データ取得部81は、機関計測装置6bから筒内圧最大値データを取得する。
【0070】
統計処理部82は、取得した筒内圧最大値データに対して統計処理を行い、統計データとして内燃機関5の筒内圧の最大値Pmaxについての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大Pmaxデータ)、最小値のデータ(最小Pmaxデータ)および分散のデータ(分散Pmaxデータ)を生成する。
【0071】
図5は、本実施の形態における2サイクルエンジン10におけるクランク角に対する筒内圧の変化を示すグラフである。
図5のグラフにおいて、クランク角として、ピストン14が上死点の位置にあるときを0°にとり、それを基準に-180°から180°までの角度範囲における筒内圧の変化が示されている。筒内圧の最大値P
maxは、
図5のグラフにおける最大値を示すデータであり、ピストン14が圧縮工程により上死点に到達し、その後、ピストン14が上死点よりやや下がった位置で燃焼(爆発)が生じたときの筒内圧を示している。
【0072】
図6は、燃料噴射系統の動作不良検知における統計データの内容を説明するための図である。
図6の例では、筒内圧の最大値P
maxの時間的変化を示すP
maxの計測値のグラフG
Pmに示されるように、筒内圧の最大値P
maxは、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで変化していない(Pm1=Pm2)。しかし、筒内圧の最大値P
maxは、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間において振動的な変動が発生している。
【0073】
筒内圧の最大値Pmaxが上昇する(最大値が増大する)要因は、燃料噴射系統(燃料供給装置31および燃料噴射弁15を含む)において噴射タイミングの進みが一時的に発生していることであると考えられる。また、筒内圧の最小値Pmaxが下降する(最小値が減少する)要因は、燃料噴射系統において噴射タイミングの遅れが一時的に発生している、または、気筒11内で失火が発生していることであると考えられる。
【0074】
第1のタイミングt
1から第2のタイミングt
2までの時間変化の情報(
図6に示すグラフ全体のデータ)があれば、上記現象(すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間での燃料噴射系統における動作不良)は理解できる。一方で、陸上の管理装置3に送信するデータ量を低減するために、第1のタイミングt
1で取得した筒内圧最大値データと、第2のタイミングt
2で取得した筒内圧最大値データとを送信しただけでは、上記現象は理解できない。すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで筒内圧の最大値P
maxは変化していないので、その間の時間Tに燃料噴射系統における動作不良が生じたことは見落とされる結果となる。
【0075】
これに対して、本例においては、統計データとして、筒内圧の最大値Pmaxについての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大Pmaxデータ)が付加される。このPmax最大値(PmX)は、両タイミングにおける値(瞬時値)Pm1,Pm2より高くなっている。この最大値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に筒内圧の最大値Pmaxが一時的に上昇していることが分かる。すなわち、Pmax最大値のデータが付加されることにより、燃料噴射系統において噴射タイミングの進みが一時的に発生していたことを知ることができる。
【0076】
さらに、本例においては、統計データとして、筒内圧の最大値Pmaxについての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小Pmaxデータ)が付加される。このPmax最小値(PmN)は、両タイミングにおける値(瞬時値)Pm1,Pm2より低くなっている。この最小値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に筒内圧の最大値Pmaxが一時的に下降していることが分かる。すなわち、Pmax最小値のデータが付加されることにより、燃料噴射系統において噴射タイミングの遅れまたは気筒11内で失火が発生していたことを知ることができる。
【0077】
さらに、本例においては、統計データとして、筒内圧の最大値Pmaxについての所定時間Tにおける分散のデータ(分散Pmaxデータ)が付加される。このPmax分散値(PmV)は、0より大きい値となっている。第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間において筒内圧の最大値Pmaxが変化していないまたは変化が小さい場合、Pmax分散値(PmV)は、0または0に近い値となる。したがって、この分散のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に筒内圧の最大値Pmaxが振動していることが分かる。すなわち、Pmax分散値のデータが付加されることにより、燃料噴射系統において噴射タイミングの変動または燃料噴射量の変動が発生していたことを知ることができる。
【0078】
さらに、統計処理部82は、取得した筒内圧最大値データに対して統計処理を行い、統計データとして内燃機関5の筒内圧の最大値Pmaxについて所定時間Tに所定のしきい値PmRを超えた回数のデータ(頻度Pmaxデータ)を取得する。本例においては、統計データとして、この頻度Pmaxデータが付加される。所定時間Tにおいて生じた筒内圧の最大値Pmaxの変動が振動的ではあっても局所的な(短時間の)変動である場合には、分散の値が十分に増加しない(0に近い値になる)可能性がある。このような場合でも、しきい値PmRを超えた回数をカウントすることで振動の発生を検知可能となる。すなわち、Pmax最小値のデータが付加されることにより、燃料噴射系統において噴射タイミングの変動または燃料噴射量の変動が発生していたこと、および、噴射タイミングの動作不良の発生頻度または失火の発生頻度を知ることができる。
【0079】
本例では、最大Pmaxデータ、最小Pmaxデータ、分散Pmaxデータ、および頻度Pmaxデータを統計データとしてすべて含む態様を説明しているが、筒内圧の最大値Pmaxを用いて燃料噴射系統の動作不良の有無を検知するためには、これらのデータのうちの少なくとも1つが統計データとして含まれていればよい。統計データとして含まれるデータの種類が多いほど管理装置3における解析はし易くなる(総合的な評価が可能となる)。
【0080】
例えば、最大P
maxデータおよび/または最小P
maxデータは、
図6のような振動的な変化が継続する場合だけでなく突発的な変動(変動する回数が少ない場合)を知ることが可能である。例えば、所定時間Tの間に突発的な変動が生じた場合には、筒内圧の最大値P
maxの最大値または最小値と各タイミングにおける値Pm1,Pm2との差が大きいにもかかわらず、筒内圧の最大値P
maxの分散は0に近い値となる(ばらつきが少なくなる)。このため、最大P
maxデータまたは最小P
maxデータと分散P
maxデータとを組み合わせることで、振動的な変動が生じているか、突発的な変動が生じているかの判断も可能となる。
【0081】
なお、筒内圧の最大値Pmaxにおいて振動が発生している場合であっても、筒内圧の最大値Pmaxについての所定時間Tにおける平均値PmAは、各タイミングにおける値Pm1,Pm2とそれほど変わらない可能性がある。したがって、統計データとして平均値PmAのみを送信することは有効ではない場合がある。ただし、最大Pmaxデータ、最小Pmaxデータ、分散Pmaxデータ、頻度Pmaxデータの少なくとも何れか1つに加えて平均値PmAのデータが統計データ(補助的なデータ)として付加されてもよい。
【0082】
また、統計処理部82は、分散Pmaxデータを生成する代わりに、内燃機関5の筒内圧の最大値Pmaxについての所定時間Tにおける標準偏差のデータ(標準偏差Pmaxデータ)または変動係数のデータ(変動係数Pmaxデータ)を生成してもよい。
【0083】
さらに、燃料噴射系統の動作不良の有無を検知するために、データ取得部81は、筒内圧の最大値Pmaxのデータに加えて、または、これに代えて、機関関連データとして、内燃機関5からの排気温度を示す排気温度データを取得してもよい。上述のように、排気温度検出器53は、排気温度データとして、エンジン10の各気筒排気口の下流(気筒11と排気管26との間の経路)における排気温度を計測する。これに代えて、排気温度検出器53は、排気管26の温度または過給機20のタービン21の出口温度を計測してもよい。
【0084】
排気温度についても、
図6の例における「P
max」または「P
m」を「E」に置き換えることにより同様に例示される。排気温度が上昇する(最大値E
Xが増大する)要因は、燃料噴射系統(燃料供給装置31および燃料制御弁15)において燃料の一時的な過剰供給が発生していることであると考えられる。また、排気温度が下降する(最小値E
Nが減少する)要因は、燃料噴射系統において燃料の一時的な供給不足が発生していることであると考えられる。
【0085】
このため、統計データとして、排気温度についての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大排気温度データ)が付加されることにより、燃料噴射系統において燃料の一時的な過剰供給が発生していたことを知ることができる。また、統計データとして、排気温度についての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小排気温度データ)が付加されることにより、燃料噴射系統において燃料の一時的な供給不足が発生していたことを知ることができる。また、統計データとして、排気温度についての所定時間Tにおける分散のデータ(分散排気温度データ)が付加されることにより、燃料噴射系統において燃料噴射量の変動が発生していたことを知ることができる。なお、排気温度についても、統計データとして分散のデータの代わりに、標準偏差または変動係数のデータを用いることができる。
【0086】
以上のように、筒内圧の最大値Pmaxおよび/または排気温度のデータについての最大値、最小値、分散、標準偏差、変動係数および頻度のうちの少なくとも何れか1つのデータが得られることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間の所定時間Tにおける燃料噴射系の動作不良の有無を検出することができる。
【0087】
(排気弁の動作不良検知)
排気弁16の動作不良の有無を検知するために、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の筒内圧の圧縮圧力P
compを示す圧縮圧力データを取得する。前述したように、機関計測装置6bは、燃焼圧検出器52から筒内圧を所定のサンプリング周期で計測し筒内圧データを生成する。さらに、機関計測装置6bは、筒内圧データから所定のクランク角における筒内圧の圧縮圧力P
compを抽出し、圧縮圧力データを生成する。
図5のグラフにおいて、圧縮圧力P
compは、クランク角が0°のとき(ピストン14が上死点に到達したとき)の筒内圧を示している。データ取得部81は、機関計測装置6bから圧縮圧力データを取得する。
【0088】
統計処理部82は、取得した圧縮圧力データに対して統計処理を行い、統計データとして内燃機関5の筒内圧の圧縮圧力Pcompについての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大Pcompデータ)、最小値のデータ(最小Pcompデータ)および分散のデータ(分散Pcompデータ)を生成する。分散Pcompデータの代わりに、筒内圧の圧縮圧力Pcompについての所定時間Tにおける標準偏差のデータ(標準偏差Pcompデータ)または変動係数のデータ(変動係数Pcompデータ)を用いてもよい。
【0089】
圧縮圧力P
compについても、
図6の例における「P
max」または「P
m」を「P
comp」または「P
c」に置き換えることにより同様に例示される。すなわち、筒内圧の圧縮圧力P
compが、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで変化していない(Pc1=Pc2)場合であっても、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間において突発的な変動または振動的な変動が発生している可能性がある。
【0090】
圧縮圧力Pcompが上昇する(最大値PcXが増大する)要因は、排気弁16の閉タイミングの進みが一時的に発生していることであると考えられる。また、圧力Pcompが下降する(最小値PcNが減少する)要因は、排気弁16の閉タイミングの遅れが一時的に発生していること、排気弁16から筒内ガスが漏れ出ていること、またはピストン14と気筒11との間から筒内ガスが漏れ出ていること(ピストン14と気筒11との間をシールするためのピストンリングの劣化)であると考えられる。
【0091】
このため、統計データとして、圧縮圧力Pcompについての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大Pcompデータ)が付加されることにより、排気弁16の閉タイミングの進みが一時的に発生していたことを知ることができる。また、統計データとして、圧縮圧力Pcompについての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小Pcompデータ)が付加されることにより、排気弁16の閉タイミングの遅れが一時的に発生していたこと、排気弁16から筒内ガスが漏れ出ていたこと、または、ピストン14と気筒11との間から筒内ガスが漏れ出ていたことを知ることができる。また、統計データとして、圧縮圧力Pcompについての所定時間Tにおける分散のデータ(分散Pcompデータ)が付加されることにより、排気弁16の閉タイミングの変動が発生していたことを知ることができる。なお、圧縮圧力Pcompについても、統計データとして分散のデータの代わりに、標準偏差または変動係数のデータを用いることができる。
【0092】
このように、圧縮圧力データについての最大値、最小値、分散、標準偏差および変動係数のうちの少なくとも何れか1つのデータが得られることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間の所定時間Tにおける排気弁16の不良の有無を検出することができる。
【0093】
(燃料制御弁または排気制御弁の動作不良検知)
燃料制御弁37の動作不良の有無を検知するために、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の燃料制御弁37の作動油圧を示す燃料制御弁用作動油圧データを取得する。燃料制御弁用作動油圧データは、燃料供給装置31における作動油経路36に設けられた作動油圧検出器54で検出される圧力のデータである。
【0094】
統計処理部82は、取得した燃料制御弁用作動油圧データに対して統計処理を行い、統計データとして燃料制御弁37の作動油圧についての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小作動油圧データ)を生成する。
【0095】
図7は、燃料制御弁の動作不良検知における統計データの内容を説明するための図である。
図7の例では、燃料制御弁37の作動油圧P
FVの時間的変化を示すグラフG
PFVに示されるように、燃料制御弁15の作動油圧P
FVは、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで変化していない(P
FV1=P
FV2)。しかし、燃料制御弁37の作動油圧P
FVは、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間において突発的な圧力低下が発生している。
【0096】
燃料噴射弁15から燃料噴射を行う場合、燃料制御弁37を開弁することにより、アキュムレータ35から供給される作動油によって燃料ポンプ34が作動し、燃料ポンプ34と燃料噴射弁15との間において燃料が昇圧される。燃料圧力が燃料噴射弁15の開弁圧以上に昇圧されると燃料が気筒11内に噴射される。このため、燃料噴射時において燃料制御弁37の作動油圧P
FVは、燃料を適切に昇圧するために、所定の値に保持されることが望まれる。しかし、
図6に示すように、作動油圧が突発的に低減すると、燃料制御弁15が適切に動作せず、燃料噴射系統の動作不良の原因となる。
【0097】
第1のタイミングt
1から第2のタイミングt
2までの時間変化の情報(
図7に示すグラフ全体のデータ)があれば、上記現象(すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間での作動油圧P
FVの不良発生)は理解できる。一方で、陸上の管理装置3に送信するデータ量を低減するために、第1のタイミングt
1で取得した燃料制御弁15の作動油圧P
FV1のデータと、第2のタイミングt
2で取得した燃料制御弁15の作動油圧P
FV2のデータとを送信しただけでは、上記現象は理解できない。すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで作動油圧P
FVは変化していないので、その間の時間Tに作動油圧P
FVの不良が生じたことは見落とされる結果となる。
【0098】
これに対して、本例においては、統計データとして、燃料制御弁15の作動油圧PFVについての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小PFVデータ)が付加される。この作動油圧PFVの最小値(PFVN)は、両タイミングにおける値(瞬時値)PFV1,PFV2より低くなっている。この最小値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に燃料制御弁15の作動油圧PFVが一時的に下降していることが分かる。すなわち、作動油圧PFVの最小値のデータが付加されることにより、燃料制御弁15の作動油圧PFVの不良が発生していたこと(燃料噴射系統の一時的な動作不良の可能性)を知ることができる。
【0099】
排気制御弁64の作動油圧PEVについても同様の態様が適用される。この場合、排気制御弁64の動作不良の有無を検知するために、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の排気制御弁64の作動油圧を示す排気制御弁用作動油圧データを取得する。排気制御弁用作動油圧データは、排気弁駆動装置32における作動油経路63に設けられた作動油圧検出器55で検出される圧力のデータである。
【0100】
統計処理部82は、取得した排気制御弁用作動油圧データに対して統計処理を行い、統計データとして排気制御弁64の作動油圧についての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小作動油圧データ)を生成する。
【0101】
統計データとして、排気制御弁64の作動油圧PEVについての所定時間Tにおける最小値のデータ(最小PEVデータ)が付加されることにより、排気制御弁64の作動油圧PEVの不良が発生していたこと(排気弁制御系統の一時的な動作不良の可能性)を知ることができる。
【0102】
このように、燃料制御弁37および/または排気制御弁64の作動油圧のデータについての所定時間Tにおける最小値のデータが得られることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間の所定時間Tにおける燃料噴射系統または排気弁制御系統の一時的な動作不良の有無を検出することができる。
【0103】
(ブローバックあるいはブローバイの発生検知)
掃気管24および掃気室25を含む掃気経路においてブローバックあるいはブローバイ(逆火)の発生の有無を検知するために、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の掃気経路内の温度を示す掃気温度データを取得する。掃気温度データは、掃気経路内(
図1の例では掃気室25内)に設けられた掃気温度検出器56で検出される温度のデータである。
【0104】
統計処理部82は、取得した掃気温度データに対して統計処理を行い、統計データとして掃気温度についての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大掃気温度データ)を生成する。
【0105】
図8は、ブローバックの発生検知における統計データの内容を説明するための図である。
図8の例では、掃気温度の時間的変化を示すグラフG
Sに示されるように、掃気温度は、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで変化していない(S1=S2)。しかし、掃気温度は、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間において突発的な温度上昇が発生している。
【0106】
ブローバックあるいはブローバイは、気筒11内における燃焼(爆発)で生じた炎あるいは排ガスが掃気経路に逆流する現象である。このため、ブローバックあるいはブローバイが発生すると、掃気経路内の空気は掃気経路内に逆流した炎あるいは排ガスにより加熱され、掃気温度が上昇する。
【0107】
第1のタイミングt
1から第2のタイミングt
2までの時間変化の情報(
図8に示すグラフ全体のデータ)があれば、上記現象(すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間での掃気温度の突発的な上昇)は理解できる。一方で、陸上の管理装置3に送信するデータ量を低減するために、第1のタイミングt
1で取得した掃気温度S1のデータと、第2のタイミングt
2で取得した掃気温度S2のデータとを送信しただけでは、上記現象は理解できない。すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで掃気温度は変化していないので、その間の時間Tにブローバックあるいはブローバイが発生したことは見落とされる結果となる。
【0108】
これに対して、本例においては、統計データとして、掃気温度の最大値のデータ(最大掃気温度データ)が付加される。この掃気温度の最大値(SX)は、両タイミングにおける値(瞬時値)S1,S2より高くなっている。この最大値のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に掃気温度が一時的に上昇していることが分かる。すなわち、掃気温度の最大値のデータが付加されることにより、掃気経路内においてブローバックあるいはブローバイが発生していたことを知ることができる。
【0109】
ブローバックあるいはブローバイの発生の検知は、上記掃気温度に加えて、または、これに代えて、掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データを取得することでも行うことができる。この場合、データ取得部81は、機関関連データとして、内燃機関5の掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データを取得する。掃気圧力データは、掃気経路内(
図1の例では掃気室25内)に設けられた掃気圧力検出器57で検出される圧力のデータである。
【0110】
統計処理部82は、取得した掃気圧力データに対して統計処理を行い、統計データとして掃気圧力についての所定時間Tにおける最大値のデータ(最大掃気圧力データ)を生成する。ブローバックあるいはブローバイが発生した場合、掃気経路内で発生した爆発により、掃気圧力が上昇する。したがって、統計データとして、掃気圧力の最大値のデータ(最大掃気圧力データ)が付加されることにより、掃気経路内においてブローバックあるいはブローバイが発生していたことを知ることができる。
【0111】
(負荷整定判定)
内燃機関5の負荷が整定していることを判定するために、データ取得部81は、機関関連データとして、過給機20の回転数を示す過給機回転数データ、内燃機関5の掃気経路内の圧力を示す掃気圧力データおよび内燃機関5内への燃料噴射量を示す燃料噴射量データ、機関制御装置6aから出力される燃料噴射量指令値を示す燃料噴射量指令値データのうちの少なくとも1つのデータを取得する。過給機回転数データは、過給機20の回転軸23の回転数を検出する過給機回転数検出器58で検出される回転数のデータである。掃気圧力データは、掃気経路内(
図1の例では掃気室25内)に設けられた掃気圧力検出器57で検出される圧力のデータである。燃料噴射量データは、燃料供給装置31を通じて燃料噴射弁15から気筒11内に供給される燃料噴射量を検出する燃料噴射量検出器59で検出される燃料流量のデータである。例えば、燃料噴射量検出器59は、燃料ポンプ34の動作量(燃料ポンプ34によって駆動されるプランジャのストローク)を検出することによって、燃料噴射量を検出する。燃料噴射量指令値データは燃料噴射弁15を制御するデータの1つである。
【0112】
統計処理部82は、取得した過給機回転数データ、掃気圧力データ、燃料噴射量データおよび燃料噴射量指令値データのうちの少なくとも1つのデータに対して統計処理を行い、統計データとして各データについての所定時間Tにおける分散のデータ(分散回転数データ、分散掃気圧力データおよび分散燃料噴射量データ)を生成する。
【0113】
図9は、負荷整定判定における統計データの内容を説明するための図である。
図9の例では、過給機20の回転数の時間的変化を示すグラフG
Qに示されるように、過給機20の回転数は、第1のタイミングt
1、第2のタイミングt
2、および第2のタイミングt
2から所定時間T後の第3のタイミングt
3とで変化していない(Q1=Q2=Q3)。しかし、過給機20の回転数は、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間において振動的な変動が発生している。
【0114】
内燃機関5の負荷がある整定状態から別の整定状態に移行する(例えば定格負荷の50%の状態から30%の状態に移行する等)場合には負荷が過渡的に変化する期間が生じ得る。過給機20の回転数は、負荷の変動に従って変動する。したがって、
図9の例において、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間の期間は、負荷が整定状態にあるとは言えず、第2のタイミングt
2と第3のタイミングt
3との間の期間は、負荷が整定状態にあると言える。
【0115】
第1のタイミングt
1から第2のタイミングt
2までの時間変化の情報(
図9に示すグラフ全体のデータ)があれば、上記現象(すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2との間における負荷の過渡的変動)は理解できる。一方で、陸上の管理装置3に送信するデータ量を低減するために、第1のタイミングt
1で取得した過給機20の回転数Q1のデータと、第2のタイミングt
2で取得した過給機20の回転数Q2のデータとを送信しただけでは、上記現象は理解できない。すなわち、第1のタイミングt
1と第2のタイミングt
2とで過給機20の回転数は変化していないので、その間の時間Tにおいても負荷が整定状態にあると誤認される結果となる。
【0116】
これに対して、本例においては、統計データとして、過給機20の回転数の分散のデータ(分散回転数データ)が付加される。第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間において過給機20の回転数は、変化が大きいため、この期間における回転数の分散(QV12)は、0より大きい値となっている。一方、第2のタイミングt2と第3のタイミングt3との間において過給機20の回転数は、変化が小さいため、この期間における回転数の分散(QV23)は、0に近い値となっている。したがって、この分散のデータが付加されることにより、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間に過給機20の回転数の変動が生じていることが分かる。すなわち、過給機20の回転数の分散のデータが付加されることにより、内燃機関5における負荷の整定の良否を判定することができる。
【0117】
掃気圧力データ、燃料噴射量データおよび燃料噴射量指令値データについても、統計データとして、それぞれ掃気圧力の分散のデータ(分散掃気圧力データ)および燃料噴射量の分散のデータ(分散燃料噴射量データ)、燃料噴射量指令値データ(分散燃料噴射量指令値データ)が付加されることにより、過給機回転数データと同様の負荷整定の良否判定を行うことができる。
【0118】
なお、負荷整定判定には、統計データとして、分散回転数データ、分散掃気圧力データ、分散燃料噴射量データおよび燃料噴射量指令値データの少なくとも1つのデータが含まれていればよい。統計データとして含まれるデータの種類が多いほど管理装置3における負荷整定判定の精度は高くなる。
【0119】
また、統計処理部82は、統計データとして、各機関関連データについての分散のデータを生成する代わりに、各機関関連データについての所定時間Tにおける標準偏差のデータまたは変動係数のデータを生成してもよい。
【0120】
(効果)
以上のように、本実施の形態によれば、第1のタイミングt1、および、第1のタイミングt1から所定時間T経過後の第2のタイミングt2で取得された機関関連データに加えて、両タイミングt1,t2間の所定時間Tにおける機関関連データについて統計処理された統計データが陸上の管理装置3に送信される。したがって、その統計データによって、第1のタイミングt1と第2のタイミングt2との間の機関関連データの統計的な特徴(変化)を管理装置3側で取得することができる。このため、第1のタイミングt1から第2のタイミングt2までの間の機関関連データを連続的に取得することなく、第1のタイミングt1において取得した機関関連データと、第2のタイミングt2において取得した機関関連データとの間にどのような状況変化があったのか(あるいはなかったのか)を解析することが可能となる。以上より、陸上の管理装置3において船舶4に備えられた内燃機関5の状態を適切に監視可能なデータ内容としつつ船舶4から陸上への衛星通信を介したデータ送信量を低減することができる。
【0121】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0122】
例えば、上記実施の形態において、機関関連データ、統計処理の内容、およびそれによって解析可能となる内容の組み合わせを複数例示したが、データ送信装置7は、上記のすべての機関関連データを取得し、すべての統計処理を行う必要はない。また、データ送信装置7が実行可能な組み合わせは、上記した組み合わせに限定されず、それ以外の組み合わせについても実行可能である。
【0123】
また、上記実施の形態においては、データ送信装置7の信号生成部73で生成したデータ送信信号を船外通信部8に送信し、船外通信部8が衛星通信を介して陸上の管理装置3にデータ送信する態様を例示したが、データ送信装置7が直接衛星通信を介して陸上の管理装置3にデータ送信してもよい。すなわち、データ送信装置7が衛星通信を行う船外通信部を備えていてもよい。
【0124】
また、燃焼圧データが抽出可能な内燃機関5は、船舶4に設けられる燃焼機関である限り、特に限定されない。例えば、上記内燃機関5は、推進用主機、各種補機、船内発電用内燃機関等、種々の用途の内燃機関を含み得る。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、陸上の管理装置において船舶に備えられた内燃機関の状態を適切に監視可能なデータ内容としつつ船舶から陸上への衛星通信を介したデータ送信量を低減することができる、機関関連データ送信装置、これを備えた船陸間通信システムおよび機関関連データ送信方法を提供するために有用である。
【符号の説明】
【0126】
1 船陸間通信システム
3 管理装置
4 船舶
5 内燃機関
7 データ送信装置(機関関連データ送信装置)
81 データ取得部
82 統計処理部
83 信号生成部