(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/537 20060101AFI20231004BHJP
A61F 13/472 20060101ALI20231004BHJP
A61F 13/471 20060101ALI20231004BHJP
A61F 13/494 20060101ALI20231004BHJP
A61F 13/534 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61F13/537 100
A61F13/472
A61F13/471
A61F13/494 100
A61F13/534 100
(21)【出願番号】P 2019180453
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 茜
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-028186(JP,A)
【文献】特開2012-130736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層吸収体と、
前記下層吸収体の上に設けられた上層吸収体と、
前記下層吸収体と前記上層吸収体の間であって、少なくとも着用者の仙骨部と当接する位置に設けられた疎水性シートと、を有し、
前記上層吸収体は、着用者の排尿口よりも背側かつ前記仙骨部よりも腹側であって、幅方向中間部の位置に、幅方向一方側から他方側へ向かって延在する上層孔部を有
し、
前記下層吸収体は、着用者の排尿口よりも背側かつ前記仙骨部よりも腹側であって、幅方向中間部の位置に、幅方向一方側から他方側へ向かって延在する下層孔部を有する、ことを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記上層孔部は、前記疎水性シートの腹側端縁の境界部分または前記疎水性シートと重なる部分に設けられている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記上層吸収体は、着用者の排尿口よりも背側かつ前記仙骨部よりも腹側であって、幅方向端部の位置に、前記上層孔部を有しない請求項1または2記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記上層吸収体は、前記上層孔部の幅方向の一方側端部および他方側端部の少なくとも一方から、背側へ向かって延在する背側上層孔部を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記背側上層孔部は、前記疎水性シートの幅方向端縁の境界部分または前記疎水性シートと重なる部分に設けられている請求項4記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記下層孔部は、前記疎水性シートの腹側端縁の境界部分または前記疎水性シートと重なる部分に設けられている
請求項1記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記吸収性物品は、
前記下層吸収体と前記上層吸収体の間であって、着用者の排尿部と当接する位置に親水性シートを有し、
前記親水性シートは、背側へ延在して、前記疎水性シートの腹側端部および幅方向端部と隣接している請求項1~
6のいずれか1項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつを含む吸収性物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下では、吸収性物品として使い捨ておむつを例に挙げて説明する。
寝たきりや体位を変えられない患者などが仰向けで長時間寝ていると、着用者の仙骨部(おしりの中央の骨が突出した部分)に継続的に体圧がかかって血流が圧迫され、発赤や皮内出血が生じたり水疱が生じたりして、最終的には周辺組織が壊死する(いわゆる褥瘡)。
【0003】
このような患者は自らトイレに行くことができないため、使い捨ておむつを着用することが多いが、患者が排尿した直後に介護者が使い捨ておむつを交換するとは限らない。なぜならば、介護者が患者の傍に片時も離れずに居ることは現実的にあり得ず、また、患者が介護者に知らせたり、介護者が使い捨ておむつの状態を確認したりしない限り、患者が排尿した事実を介護者が分からないからである。
【0004】
患者の排尿量が多いと、尿が背側へ拡散して着用者の仙骨部に到達する。そうすると、患者の仙骨部と尿が接触して、患者の仙骨部の皮膚が蒸れるとともに、皮膚が汚れて不潔な状態になるため、肌トラブルが生じやすい。この肌トラブルは、最終的に褥瘡の発生へと繋がる。
【0005】
従来の使い捨ておむつの中には、尿によって肌が蒸れること(湿潤状態になること)を防ぐために、高吸水性樹脂(SAP=Super Absorbent Polymer)を塗布した不織布シートを臀部に配置し、吸収体によって吸収された尿が着用者の肌へ逆戻りすることを防止したものがある。
【0006】
本発明に関連する発明として、下記の特許文献1および2に開示されたものがある。
特許文献1に開示された使い捨ておむつには、吸収体の肌側に難透水中間シートが設けられており、この難透水中間シートによって尿の逆戻りを防止している。また、難透水中間シートには尿透過孔が設けられており、排泄された尿がこの尿透過孔を通って吸収体に吸収される態様となっている。
【0007】
特許文献2に開示された吸収性物品には、排泄領域の吸収体に孔部が設けられるとともに、前記吸収体の裏面であって、前記排泄領域の孔部の開口部を覆うように拡散シートが設けられている。このような構成にすることで、吸収体の孔部を通って拡散シートに到達した排泄液が、拡散シートによって広い領域に拡散する構成となっている。また、特許文献2の吸収性物品には、排泄領域よりも着用時における後方の領域に撥水性シートが設けられている。この撥水性シートを設けることによって、着用時に体圧がかかった場合における排泄液の逆戻りを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-193210号公報
【文献】特開2009-028186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前述の従来の使い捨ておむつにおいては、前記不織布シートが尿を吸収すると、不織布シートに含まれているSAPが膨張して不織布シートの表面に凹凸が生じる。そして、そのような凹凸が患者の仙骨部に当たると、肌トラブルの生じるリスクが高くなるため、抜本的な解決に至っていない。
【0010】
また、特許文献1に開示された使い捨ておむつは、例えば排泄された尿の量が多いときに、難透水中間シートに設けられた尿透過孔から尿が逆戻りする可能性を否定できない。
【0011】
特許文献2に開示された吸収性物品は、撥水性シートの肌側に吸収体(第一の吸収体)が存在するため、この第一の吸収体によって吸収された尿が逆戻りする可能性を否定できない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、尿の逆戻りを防止して、肌トラブルが生じにくい吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決した吸収性物品は以下のとおりである。
<第1の態様>
下層吸収体と、
前記下層吸収体の上に設けられた上層吸収体と、
前記下層吸収体と前記上層吸収体の間であって、少なくとも着用者の仙骨部と当接する位置に設けられた疎水性シートと、を有し、
前記上層吸収体は、着用者の排尿口よりも背側かつ前記仙骨部よりも腹側であって、幅方向中間部の位置に、幅方向一方側から他方側へ向かって延在する上層孔部を有する、ことを特徴とする吸収性物品。
【0014】
(作用効果)
下層吸収体と上層吸収体の間であって、少なくとも着用者の仙骨部と当接する位置に疎水性シートを設けた。これによって、下層吸収体に吸収された尿が上層吸収体(少なくとも仙骨部と当接する位置の上層吸収体)に逆戻りすることを抑止できる。
【0015】
それとともに、上層吸収体のうち、着用者の排尿口よりも背側かつ仙骨部よりも腹側であって、幅方向中間部の位置に、幅方向一方側から他方側へ向かって延在する上層孔部を設けた。これによって、排泄した尿が背側へ移動したときに、上層吸収体(少なくとも仙骨部と当接する位置の上層吸収体)に移動することを抑止できる。
【0016】
以上のように、疎水性シートと上層孔部の両方を設けることによって、上層吸収体の仙骨部と当接する位置への尿の侵入を抑止する効果が高くなる。その結果、尿が着用者の仙骨部の肌に触れる可能性が低くなり、肌トラブルが生じにくくなる。
【0017】
<第2の態様>
前記上層孔部は、前記疎水性シートの腹側端縁の境界部分または前記疎水性シートと重なる部分に設けられている、第1の態様の吸収性物品。
【0018】
(作用効果)
疎水性シートの腹側端縁の境界部分よりも腹側の位置に上層孔部を設けると、排泄された尿が、下層吸収体を通って背側へ拡散した後、上層孔部と疎水性シートの腹側端縁の間の隙間部分を通って上層吸収体へ移行し、着用者の仙骨部と当接する位置の上層吸収体に尿が到達する可能性がある。
【0019】
したがって、おむつの前後方向において、上層孔部と疎水性シートの腹側端縁の間の隙間部分を無くす、またはその間の隙間を極めて小さくすることが重要となる。そこで、疎水性シートの腹側端縁の境界部分または疎水性シートと重なる部分に上層孔部を設けた。これによって、下層吸収体を通って背側へ拡散した尿が上層吸収体へ侵入することを抑止できる。
【0020】
なお、疎水性シートと重なる部分に上層孔部を設ける形態も好ましいが、疎水性シートの腹側端縁の境界部分に上層孔部を設ける形態はより好ましい。疎水性シートの腹側端縁の境界部分に上層孔部を設けると、上層吸収体の肌側表面を伝って背側へ移動した尿が、上層孔部の内部に侵入し、速やかに下層吸収体へ流れ落ちるからである。
【0021】
<第3の態様>
前記上層吸収体は、着用者の排尿口よりも背側かつ前記仙骨部よりも腹側であって、幅方向端部の位置に、前記上層孔部を有しない、第1または第2の態様の吸収性物品。
【0022】
(作用効果)
上層吸収体において、着用者の排尿口よりも背側かつ仙骨部よりも腹側であって、幅方向端部の位置に、上層孔部を設けないようにした。これによって、背側に拡散した尿が上層吸収体の背側の幅方向端部に流れやすくなる。すなわち、背側に拡散した尿の逃げ道が確保されるため、背側に拡散した尿が、幅方向中間部に設けた上層孔部を乗り越えて、着用者の仙骨部と当接する位置にある上層吸収体へ流れることが抑止される。
【0023】
<第4の態様>
前記上層吸収体は、前記上層孔部の幅方向の一方側端部および他方側端部の少なくとも一方から、背側へ向かって延在する背側上層孔部を有する、第1~第3のいずれか1つの態様の吸収性物品。
【0024】
(作用効果)
上層吸収体に、上層孔部の幅方向の一方側端部および他方側端部の少なくとも一方から、背側へ向かって延在する背側上層孔部を設けた。この背側上層孔部を設けることによって、上層吸収体の背側の幅方向端部に流れた尿が、上層吸収体の背側の幅方向中間部へ流れることを抑止できる。着用者の仙骨部と当接する位置にある上層吸収体に尿が流れにくくなる結果、尿が着用者の仙骨部の肌に触れる可能性が低くなり、肌トラブルが生じにくくなる。
【0025】
<第5の態様>
前記背側上層孔部は、前記疎水性シートの幅方向端縁の境界部分または前記疎水性シートと重なる部分に設けられている第4の態様の吸収性物品。
【0026】
(作用効果)
疎水性シートの幅方向端縁の境界部分よりも幅方向外側の位置に上層孔部を設けると、排泄された尿が、下層吸収体を通って背側へ拡散した後、背側上層孔部と疎水性シートの幅方向端縁の間の隙間部分を通って上層吸収体へ移行し、着用者の仙骨部と当接する位置の上層吸収体に尿が到達する可能性がある。
【0027】
したがって、おむつの幅方向において、背側上層孔部と疎水性シートの幅方向端縁の間の隙間部分を無くす、またはその間の隙間を極めて小さくすることが重要となる。そこで、疎水性シートの幅方向端縁の境界部分または疎水性シートと重なる部分に背側上層孔部を設けた。これによって、下層吸収体を通って背側へ拡散した尿が上層吸収体へ侵入することを抑止できる。
【0028】
<第6の態様>
前記下層吸収体は、着用者の排尿口よりも背側かつ前記仙骨部よりも腹側であって、幅方向中間部の位置に、幅方向一方側から他方側へ向かって延在する下層孔部を有する第1~第3のいずれか1つの態様の吸収性物品。
【0029】
(作用効果)
下層吸収体のうち、着用者の排尿口よりも背側かつ仙骨部よりも腹側であって、幅方向中間部の位置に、幅方向一方側から他方側へ向かって延在する下層孔部を設けた。これによって、排泄した尿が背側へ移動したときに、下層吸収体(少なくとも仙骨部と当接する位置の下層吸収体)に移動することを抑止できる。
【0030】
以上のように、仙骨部と当接する位置の下層吸収体に尿が入りづらくなるため、疎水性シートの存在と相俟って、仙骨部と当接する位置の上層吸収体に、尿がより逆戻りしづらくなる。その結果、下層孔部を設けない場合と比べて、尿が着用者の仙骨部の肌に触れる可能性がより低くなり、肌トラブルの発生をより抑えることができる。
【0031】
<第7の態様>
前記下層孔部は、前記疎水性シートの腹側端縁の境界部分または前記疎水性シートと重なる部分に設けられている第6の態様の吸収性物品。
【0032】
(作用効果)
疎水性シートの腹側端縁の境界部分よりも腹側の位置に下層孔部を設けると、排泄された尿が、上層吸収体を通って背側へ拡散した後、下層孔部と疎水性シートの腹側端縁の間の隙間部分を通って下層吸収体へ移行し、着用者の仙骨部と当接する位置の下層吸収体に尿が到達する可能性がある。
【0033】
したがって、おむつの前後方向において、下層孔部と疎水性シートの腹側端縁の間の隙間部分を無くす、またはその間の隙間を極めて小さくすることが重要となる。そこで、疎水性シートの腹側端縁の境界部分または疎水性シートと重なる部分に下層孔部を設けた。これによって、上層吸収体を通って背側へ拡散した尿が下層吸収体へ侵入することを抑止できる。
【0034】
<第8の態様>
前記吸収性物品は、
前記下層吸収体と前記上層吸収体の間であって、着用者の排尿部と当接する位置に親水性シートを有し、
前記親水性シートは、背側へ延在して、前記疎水性シートの腹側端部および幅方向端部と隣接している第1~第7のいずれか1つの態様の吸収性物品。
【0035】
(作用効果)
下層吸収体と上層吸収体の間であって、着用者の排尿部と当接する位置に親水性シートを配置した。これによって、排泄された尿は親水性シートを配置した範囲に速やか拡散し、前記の範囲の上層吸収体および下層吸収体に吸収される。前記の範囲の上層吸収体および下層吸収体に吸収されなかった尿は、前記の範囲外の上層吸収体および下層吸収体へ流れることになるが、親水性シートを設けることによって、前記の範囲外へ流れる尿の量を減らすことができる。親水性シートを配置していない範囲の上層吸収体(特に、着用者の仙骨部と当接する位置にある上層吸収体)に尿が侵入しにくくなる結果、尿が着用者の仙骨部の肌に触れる可能性がより低くなり、肌トラブルの発生をより抑えることができる。
【発明の効果】
【0036】
以上のとおり本発明によれば、尿の逆戻りを防止して、肌トラブルが生じにくい吸収性物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】パッドタイプ使い捨ておむつの展開状態の内面側を示す平面図である。
【
図5】吸収体、疎水性シート、孔部等の関係を説明するための概略平面図である。この
図5に示した形態を本発明に係る第1実施形態とする。
【
図9】
図5の形態において、上層吸収体と下層吸収体を省いて、疎水性シートと親水性シートの位置関係を表した平面図である。
【
図10】吸収体、疎水性シート、孔部等の関係を説明するための概略平面図である。この
図10に示した形態を本発明に係る第2実施形態とする。
【
図11】吸収体、疎水性シート、孔部等の関係を説明するための概略平面図である。この
図11に示した形態を本発明に係る第3実施形態とする。
【
図13】比較例1にかかる断面図である。尿の流れ方向については、説明に用いるもののみを表す。
【
図14】吸収体、疎水性シート、孔部等の関係を説明するための概略平面図である。この
図14に示した形態を本発明に係る第4実施形態とする。
【
図16】比較例2にかかる断面図である。尿の流れ方向については、説明に用いるもののみを表す。
【
図17】上層孔部と下層孔部の他の実施形態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照しながら吸収性物品の例について詳説する。なお、用語のうち「股間部」とは使用時に身体の股間と対応させる部分を意味し、製品によって、図示形態のように物品の前後方向LDの中央若しくはその近傍から前側の所定部位までの範囲であったり、物品の前後方向LDの中央の所定範囲であったりするものである。物品の前後方向LDの中間あるいは吸収体の前後方向LDの中間に幅の狭いくびれ部分を有する場合は、いずれか一方又は両方のくびれ部分の最小幅部位を前後方向中央とする所定の前後方向範囲を意味する。また、「前側部分(腹側部分)」は股間部よりも前側の部分を意味し、「後側部分(背側部分)」は股間部よりも後側の部分を意味する。また、各構成部材を接合する接合手段としては、接着剤を例示することができ、ホットメルト接着剤のベタ、ビード、カーテン、サミット若しくはスパイラル塗布、又はパターンコート(凸版方式でのホットメルト接着剤の転写)などにより、あるいは弾性部材の固定部分はこれに代えて又はこれとともにコームガンやシュアラップ塗布などの弾性部材の外周面への塗布により形成されるものである。ホットメルト接着剤としては、例えばEVA系、粘着ゴム系(エラストマー系)、オレフィン系、ポリエステル・ポリアミド系などの種類のものが存在するが、特に限定無く使用できる。各構成部材を接合する接合手段としてはヒートシールや超音波シール等の素材溶着による手段を用いることもできる。
【0039】
図1~
図4は、吸収性物品の一例としてのパッドタイプ使い捨ておむつ200を示している。このパッドタイプ使い捨ておむつ200は、股間部C2と、その前後両側に延在する前側部分F2及び後側部分B2とを有するものである。各部の寸法は適宜定めることができ、例えば、物品全長(前後方向長さ)Lは350~700mm程度、全幅W1は130~400mm程度(ただし、おむつの吸収面の幅より広い)とすることができ、この場合における股間部C2の前後方向長さは10~150mm程度、前側部分F2の前後方向長さは50~350mm程度、及び後側部分B2の前後方向長さは50~350mm程度とすることができる。また、股間部C2の幅W3は、大人用の場合、150mm以上、特に200~260mm程度とすることができる。
【0040】
パッドタイプ使い捨ておむつ200は、液不透過性シート21と、液透過性を有するトップシート22との間に、上層吸収体23Aと下層吸収体23Bが介在された基本構造を有している。
【0041】
上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの裏側には、液不透過性シート21が上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの周縁より若干はみ出すように設けられている。液不透過性シート21としては、ポリエチレンフィルム等の他、ムレ防止の点から遮水性を損なわずに透湿性を備えたシートも用いることができる。この遮水・透湿性シートは、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂中に無機充填材を溶融混練してシートを形成した後、一軸又は二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートを用いることができる。
【0042】
また、液不透過性シート21の外面は、不織布からなる外装シート27により覆われており、この外装シート27は、所定のはみ出し幅をもって液不透過性シート21の周縁より外側にはみ出している。外装シート27としては各種の不織布を用いることができる。不織布を構成する素材繊維としては、ポリエチレン又はポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維を用いることができる。外装シート27は省略することもできる。
【0043】
上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの表側は、液透過性を有するトップシート22により覆われている。図示形態ではトップシート22の側縁から上層吸収体23Aや下層吸収体23Bが一部はみ出しているが、上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの側縁がはみ出さないようにトップシート22の幅を広げることもできる。トップシート22としては各種の不織布を用いることができる。不織布の構成繊維は、短繊維であっても、長繊維(連続繊維)であってもよく、ポリエチレン又はポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、アミド系等の合成繊維(単成分繊維でも、複数の成分からなる芯鞘構造等の複合繊維でもよい)の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維等を用いることができる。また、不織布の繊維の結合方法は特に限定されず、接着剤や溶剤などの化学的手段によるほか、又は機械的交絡、熱的接着などの物理的手段を用いることができる。トップシートとして好ましい不織布の一つは、熱可塑性合成繊維を熱風接着してなるエアスルー不織布が好適である。トップシート22の詳細については後述する。
【0044】
トップシート22と上層吸収体23Aとの間(下層吸収体23Bの肌側に上層吸収体23Aがない範囲においては、トップシート22と下層吸収体23Bとの間)には、中間シート25を介在させるのが望ましい。この中間シート25は、上層吸収体23Aや下層吸収体23Bにより吸収した尿URの逆戻りを防止するために設けられるものであり、保水性が低く、かつ液透過性の高い素材、例えば各種の不織布やメッシュフィルム等を用いるのが望ましい。トップシート22の前端を0%としトップシート22の後端を100%としたとき、中間シート25の前端は0~11%の範囲に位置しているのが好ましく、中間シート25の後端は92~100%の範囲に位置しているのが好ましい。また、中間シート25の幅W4は後述する上層吸収体23Aや下層吸収体23Bのくびれ部分23nの最小幅W5の50~100%程度であるのが好ましい。中間シート25は省略することもできる。
【0045】
パッドタイプ使い捨ておむつ200の前後方向LDの両端部では、外装シート27及びトップシート22が上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの前後端よりも前後両側にそれぞれ延在されて貼り合わされ、上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの存在しないエンドフラップ部EFが形成されている。パッドタイプ使い捨ておむつ200の両側部では、外装シート27が上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの側縁よりも外側にそれぞれ延在され、この延在部からトップシート22の側部までの部分の内面には、立体ギャザー24を形成するギャザーシート24sの幅方向WDの外側の部分24xが前後方向LDの全体にわたり貼り付けられ、上層吸収体23Aや下層吸収体23Bの存在しないサイドフラップ部SFを構成している。これら貼り合わせ部分は、ホットメルト接着剤、ヒートシール、超音波シールにより形成できる。外装シート27を設けない場合、外装シート27に代えて液不透過性シート21をサイドフラップ部SFまで延在させ、サイドフラップ部SFの外面側を形成することができる。
【0046】
ギャザーシート24sの素材としては、プラスチックシートやメルトブローン不織布を使用することもできるが、肌への感触性の点で、不織布にシリコーンなどにより撥水処理をしたものが好適に使用される。
【0047】
ギャザーシート24sの幅方向中央側の部分24cはトップシート22上にまで延在しており、その幅方向中央側の端部には、細長状弾性部材24Gが前後方向に沿って伸張状態でホットメルト接着剤等により固定されている。この細長状弾性部材24Gとしては、糸状、紐状、帯状等に形成された、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム、ウレタン系ゴム、エステル系ゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリスチレン、スチレンブタジエン、シリコーン、ポリエステル等、通常使用される素材を用いることができる。
【0048】
また、両ギャザーシート24sは、幅方向外側の部分24xが前後方向全体にわたり物品内面(図示形態ではトップシート22表面及び外装シート27内面)に貼り合わされて固定されるとともに、幅方向中央側の部分24cが、前後方向の両端部では物品内面(図示形態ではトップシート22表面)に貼り合わされて固定され、かつ前後方向の両端部間では物品内面(図示形態ではトップシート22表面)に固定されていない。この非固定部分は、
図1に示されるように、物品内面(図示形態ではトップシート22表面)に対して弾力的に起立する漏れ防止壁となる部分であり、その起立基端24bはギャザーシート24sにおける幅方向外側の固定部分24xと内側の部分24cとの境に位置する。
【0049】
上層吸収体23Aや下層吸収体23Bとしては、パルプ繊維23fの積繊体、セルロースアセテート等のフィラメントの集合体、あるいは不織布を基本とし、必要に応じて粒子状等の高吸収性ポリマー粒子23pを混合、固着等してなるものを用いることができる。上層吸収体23Aや下層吸収体23Bは、下層吸収体23Bと、その肌側(表側)に設けられた上層吸収体23Aとからなる二層構造の他、三層以上の構造であってもよい。上層吸収体23Aと下層吸収体23Bからなる二層構造とする場合、下層吸収体23Bは、少なくともパルプ繊維23fの集積物であるのが好ましく、特にパルプ繊維23f及び高吸収性ポリマー粒子23pの混合集積物であるのが好ましい。一方、上層吸収体23Aはパルプ繊維23f及び高吸収性ポリマー粒子23pの混合集積物であるのが好ましい。
【0050】
上層吸収体23A及び下層吸収体23Bに含有される高吸収性ポリマー粒子23pとしては、この種の吸収性物品に使用されるものをそのまま使用でき、例えば上層吸収体23A及び下層吸収体23Bに同じ粒度分布の高吸収性ポリマー粒子を用いる場合等、通常の場合には、500μmの標準ふるい(JIS Z8801-1:2006)を用いたふるい分け(5分間の振とう)、及びこのふるい分けふるい下に落下する粒子について180μmの標準ふるい(JIS Z8801-1:2006)を用いたふるい分け(5分間の振とう)を行ったときに、500μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が30重量%以下で、180μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が60重量%以上のものが望ましい。また、上層吸収体23A及び下層吸収体23Bに異なる粒度分布の高吸収性ポリマー粒子を用いる場合には、上層吸収体23Aに用いる高吸収性ポリマー粒子の粒度分布は、上述の500μm及び180μmの標準ふるいを用いたふるい分けを行ったときに、500μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が50重量%以下で、180μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が50重量%以上のものが望ましく、下層吸収体23Bに用いる高吸収性ポリマー粒子の粒度分布は、上述の500μm及び180μmの標準ふるいを用いたふるい分けを行ったときに、500μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が25重量%以下で、180μmの標準ふるい上に残る粒子の割合が70重量%以上のものが望ましい。
【0051】
高吸収性ポリマー粒子23pとしては、特に限定されるものではないが、吸水速度が20~50秒で、吸水量50~80g/gのものを好適に用いることができる。高吸収性ポリマー粒子23pとしては、でんぷん系、セルロース系や合成ポリマー系などのものがあり、でんぷん-アクリル酸(塩)グラフト共重合体、でんぷん-アクリロニトリル共重合体のケン化物、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物やアクリル酸(塩)重合体などのものを用いることができる。
【0052】
上層吸収体23Aおよび下層吸収体23Bは、必要に応じて形状及び高吸収性ポリマー粒子23p保持等のため、一体的又は個別に、クレープ紙等の、液透過性及び液保持性を有する包装シート26により包むことができる。
【0053】
上層吸収体23Aおよび下層吸収体23Bは、前側部分F2から後側部分B2にかけて延在される。上層吸収体23Aは下層吸収体23Bと同じ寸法とすることもできるが、図示形態のように上層吸収体23Aの全長及び全幅は下層吸収体23Bのそれよりも短いことが望ましい。通常の場合、上層吸収体23Aの全長は下層吸収体23Bの全長の60~90%程度とすることができ、上層吸収体23Aの全幅は下層吸収体23Bの全幅の60~90%程度とすることができる。
【0054】
上層吸収体23A及び下層吸収体23Bの形状は適宜定めることができ、それぞれ長方形状とすることもできるが、上層吸収体23Aと下層吸収体23Bの少なくとも大きい方(図示例では下層吸収体23B)は、股間部C2を含む前後方向中間の所定部分が幅の狭いくびれ部分23nとして形成されていると好ましい。このくびれ部分23nの最小幅W5は、くびれ部分23nの前後に位置する非くびれ部分の幅W2の50~65%程度であるのが好ましい。また、物品前端を0%とし物品後端を100%としたとき、くびれ部分23nの前端は10~25%の範囲に位置しているのが好ましく、くびれ部分23nの後端は40~65%の範囲に位置しているのが好ましく、くびれ部分23nの最小幅W5となる部位(最小幅部位)は25~30%の範囲に位置しているのが好ましい。
【0055】
図1及び
図2に示すように、上層吸収体23Aにのみ少なくとも股間部C2と対応する前後方向領域に、所定幅のスリット40が前後方向に延在されていると好ましい。詳しくは、
図4に示すように、下層吸収体23Bには所定幅のスリット40を設けない形態(この場合、下層吸収体23Bには幅の無い切れ目を有していても良い)とすることができる。その他、図示しないが、上層吸収体23A及び下層吸収体23Bを厚み方向に貫通する一体的なスリット40を形成してもよい。
【0056】
スリット40の前後方向の長さ40Lは、図示形態のように前側部分F2の股間側端部から後側部分B2の股間側端部まで延在させることが望ましい。より具体的には、使い捨ておむつ200の前端を0%とし、使い捨ておむつ200の後端を100%としたとき、スリット40の前端は15~30%の範囲に位置しているのが好ましく、スリット40の後端は40~70%の範囲に位置しているのが好ましい。
【0057】
図示形態のように、スリット40は幅方向に間隔を空けて左右両側に各1本ずつ設けることができるが、幅方向WDの中央に一本のみ設けてもよい。スリット40を2本以上設ける場合、スリット40の幅方向WDの位置は左右対称となることが好ましい。パッドタイプ使い捨ておむつは、上層吸収体23Aと下層吸収体23Bの幅が装着者の股間幅よりも広く、股間部の幅方向両端部は装着者の内腿に対向する部分となり、幅方向中間部が股間と対向する部分となる形態が一般的であるため、これらの部分の境界に沿ってスリットを設けることが望ましい。このため、スリット40の間隔40Dは、通常の場合、上層吸収体23Aおよび下層吸収体23Bのくびれ部分23nの最小幅W5の10~30%程度であるのが好ましい。
【0058】
スリット40の幅40Wは、対向する側壁が離間している限り特に限定されないが、通常の場合、上層吸収体23Aおよび下層吸収体23Bのくびれ部分23nの最小幅W5の10~20%程度とすることが望ましく、具体的に大人用製品の場合5~32mm程度とすることができる。
【0059】
図5以降の各図面に、上層吸収体23A、下層吸収体23B、疎水性シート62、上層孔部60A等の関係について説明するための概略図を示す。平面図において、上層吸収体23Aと下層吸収体23Bの前後方向LDの長さ、幅方向WDの長さをそれぞれ同じにした形態を示している。
【0060】
また、着用者の仙骨と当接する部分を仙骨部64と示し、着用者の排尿口と当接する部分を排尿部65と示している。ちなみに、排尿口の位置は男性と女性で異なるため、男性の排尿部を65Mとし、女性の排尿部を65Wとしている。
図5以降の各図面に示した点線の矢印は、説明のために、尿URの流れを示したものである。この点線の矢印はあくまでも例示であって、実際の尿URの流れが必ずこのようになると示しているものではない。また、
図5以降の各図面においては、女性の排尿部65Wに排尿された際の尿URの流れを模式的に表している。
【0061】
図5~
図9に第1実施形態を示す。この第1実施形態では、下層吸収体23Bと上層吸収体23Aの間に疎水性シート62と親水性シート63が挟み込まれた形態である。疎水性シート62は、仙骨部64と、前記仙骨部64を取り囲む部分に設けられている。具体的には、疎水性シート62は、着用者の排尿口65(65M、65W)よりも背側であって、幅方向中間部に設けられている。このように、疎水性シート62を設けることによって、
図6に示すように、下層吸収体23B(23Bb)に吸収された尿URが上層吸収体23A(23Ab)に逆戻りすることを抑止できる。
【0062】
疎水性シート62としては、疎水性の公知の不織布を適宜使用することができる。不織布の構成繊維としては、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維(単成分繊維の他、芯鞘等の複合繊維も含む)の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維等、特に限定なく選択することができ、これらを混合して用いることもできる。不織布の柔軟性を高めるために、構成繊維を捲縮繊維とするのは好ましい。また、疎水性繊維として、撥水性繊維(撥水剤により撥水性となった撥水性繊維を含む)を用いてもよい。また、不織布は一般に繊維の長さや、シート形成方法、繊維結合方法、積層構造により、短繊維不織布、長繊維不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、サーマルボンド(エアスルー)不織布、ニードルパンチ不織布、ポイントボンド不織布、積層不織布(スパンボンド層間にメルトブローン層を挟んだSMS不織布、SMMS不織布等)等に分類されるが、これらのどの不織布も用いることができる。
【0063】
上層吸収体23Aには上層孔部60Aが設けられている。この上層孔部60Aは、前後方向LDにおいて、着用者の排尿口65(65M、65W)よりも背側かつ仙骨部64よりも腹側の位置であって、幅方向WDにおいて、幅方向中間部の位置に設けられている。第1実施形態では、前後方向LDにおいて、疎水性シート62の腹側端縁の境界部分に上層孔部60Aを設けている。
図6に示すように、上層孔部60Aよりも腹側に位置する上層吸収体23Aaから、上層孔部60Aよりも背側に位置する上層吸収体23Abへ、排泄した尿URが流れることを抑止することができる。前記上層吸収体23Abには仙骨部64が位置するため、上層吸収体23Abへの尿URの侵入を抑止することによって、着用者の仙骨部64の肌に尿URが付着する可能性を低下させ、肌トラブルの発生を抑えることが可能である。
【0064】
以上のように、第1実施形態では、上層孔部60Aと疎水性シート62の両方を設けることによって、仙骨部64が位置する上層吸収体23Abに尿URが侵入することを抑止する効果を高くすることができる。
【0065】
なお、第1実施形態では、上層孔部60Aの形状が、幅方向に一直線状に延在する形態であるが、このような形態に限られるものではない。例えば、上層孔部60Aの形状を腹側から背側に向かって末広がりに広がるV字状(例を
図17の17Aに示す)やU字状(例を
図17の17Bに示す)にしても良いし、波線上にするなど任意に変更することができる。ただし、上層孔部60Aは排尿口から背側へ拡散してきた尿を堰き止めて、幅方向端部へ流す(幅方向端部へ誘導する)という効果があるため、背側両端部に向かって末広がりに広がるU字状や半円状が好ましい。
【0066】
また、
図5に示す第1実施形態のように、上層吸収体23Aには、着用者の排尿部65(65M、65W)よりも背側かつ仙骨部64よりも腹側であって、幅方向端部の位置に、上層孔部60Aを設けないようにすることが好ましい。すなわち、
図5に示す上層孔部60Aのように、上層孔部60Aを上層吸収体23Aの幅方向の端の部分まで延在させないことが好ましい。このような構成にすることで、
図5に示すように、背側に拡散した尿URは上層孔部60Aと衝突した後、幅方向外側へ向かって流れる。その後、前述の尿URは、幅方向端部66の上層孔部60Aが存在しない部分を経由して、さらに背側にある上層吸収体23Aへ流れ、その上層吸収体23Aで吸収される。このように、背側に拡散した尿URの逃げ道を確保することにより、背側に拡散した尿URが、上層孔部60Aを乗り越えて、着用者の仙骨部64と当接する位置にある上層吸収体23Abへ流れることを抑止することができる。また、腹側部分および股間部の上層吸収体23Aに尿URを吸収させるだけでなく、背側部分の幅方向端部の上層吸収体23Aに積極的に尿URを吸収させることで、最終的に背側中央部の上層吸収体23Abに吸収される尿URの量を減らすことができる。その結果、着用者の仙骨部64の肌に尿URが付着する可能性を低下させ、肌トラブルの発生を抑えることが可能となる。
【0067】
なお、上層孔部60Aの前後方向LDの長さは5~25mmとすることが好ましく、10~15mmとすることがより好ましい。上層孔部60Aの前後方向LDの長さが5mmよりも短いと、尿URが上層吸収体23Abに到達しやすくなってしまう。また、上層孔部60Aの前後方向LDの長さが25mmよりも長いと、上層吸収体23Aのよれが発生しやすい。
【0068】
また、上層孔部60Aの幅方向WDの長さは60~180mmとすることが好ましく、80~160mmとすることがより好ましい。上層孔部60Aの幅方向WDの長さが60mmよりも短いと、尿URが上層吸収体23Abに到達しやすくなってしまう。また、上層孔部60Aの幅方向WDの長さが180mmよりも長いと、上層吸収体23Aの背側の幅方向端部が尿URを吸収しにくくなるため、上層吸収体23Aを十分に活用できない。
【0069】
なお、前記上層孔部60Aの前後方向LDの長さや幅方向WDの長さについては、下層孔部60Bについても同じである。重複になるため、説明を省略する。
【0070】
また、第1実施形態では、下層吸収体23Bに下層孔部60Bが設けられている。この下層孔部60Bも上層孔部60Aと同様に、前後方向LDにおいて、着用者の排尿口65(65M、65W)よりも背側かつ仙骨部64よりも腹側の位置であって、幅方向WDにおいて、幅方向中間部の位置に設けられている。第1実施形態では、前後方向LDにおいて、疎水性シート62の腹側端縁の境界部分に下層孔部60Bを設けている。
図6に示すように、下層孔部60Bよりも腹側に位置する下層吸収体23Baから、下層孔部60Bよりも背側に位置する下層吸収体23Bbへ、排泄した尿URが流れることを抑止することができる。前記下層吸収体23Bbには仙骨部64が位置するため、下層吸収体23Bbへの尿URの侵入を抑止することによって、下層吸収体23Bbで吸収される尿URの量が少なくなる。その結果、下層吸収体23Bbから上層吸収体23Abへ逆戻りする尿URの量が少なくなり、下層孔部60Bを設けない場合と比べて、着用者の仙骨部64の肌に尿URが付着する可能性をさらに低下させ、肌トラブルの発生をさらに抑えることが可能である。
【0071】
第1実施形態では、疎水性シート62が設けられていない全領域に親水性シート63を設けている。この親水性シート63としては、親水性の公知の不織布を適宜使用することができる。例えば、綿等の天然繊維を用いたものや、ポリエチレン又はポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維(単成分繊維の他、芯鞘等の複合繊維も含む)の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維等、に親水剤を塗布したものを用いることができる。また、綿等の天然繊維と、前記合成繊維や前記再生繊維を混合したものを用いることもできる。不織布の柔軟性を高めるために、構成繊維を捲縮繊維とするのは好ましい。また、不織布は一般に繊維の長さや、シート形成方法、繊維結合方法、積層構造により、短繊維不織布、長繊維不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、サーマルボンド(エアスルー)不織布、ニードルパンチ不織布、ポイントボンド不織布、積層不織布(スパンボンド層間にメルトブローン層を挟んだSMS不織布、SMMS不織布等)等に分類されるが、これらのどの不織布も用いることができる。
【0072】
前記親水剤としては、特に限定なく用いることができるが、例えば各種の界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性イオン性及びノニオン性)が典型的なものとして挙げられる。具体的には、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル-ポリエステルブロック共重合体、ポリエーテル変性シリコーン、エチレンオキサイド付加多価アルコールの脂肪酸エステル等を用いることができる。この親水剤は、繰り返し排尿したときに流れ落ちにくいようにするため、親水性シート63を構成する繊維に塗り込むことによって固定することが好適であるが、おむつ加工機で、おむつ製造時にインラインでスプレー塗布するなどの他の方法で固定しても良い。
【0073】
以上のように、親水性シート63を設けることによって、親水性シート63の上に位置する上層吸収体23Aaに尿URを積極的に吸収させることができる。その結果、着用者の仙骨部64が位置する上層吸収体23Abまで尿URが到達しにくくなり、着用者の仙骨部64の肌に尿URが付着する可能性を低下させ、肌トラブルの発生を抑えることができる。なお、親水性シート63は、必ず設けなければならないものではなく、省略することも可能である。
【0074】
また、
図6に示すように、第1実施形態では、厚み方向TWにおいて、親水性シート63と疎水性シート62を同じ高さに設けているが、異なる高さに設けてもよい。ただし、製造のしやすさを考えると、疎水性シート62を用意した後、その一部に親水剤を塗布して疎水性シート62の一部を親水性シート63に変えることが好ましい。そして、このような製造方法を採った場合は、親水性シート63と疎水性シート62は同じ高さになる。
【0075】
また、
図5~
図9に示す第1実施形態では、腹側部分から股間部分にかけて、親水性シート63のほかに、尿URを拡散させるためのスリット40を1本設けている。このスリット40は前後方向に延在するものである。排尿量が多いときに、尿URが上層吸収体23Aの上面を伝って背側へ拡散しやすくなる結果、着用者の仙骨部64が位置する上層吸収体23Abまで尿URが到達しやすくなるが、前記スリット40を設けることで、尿URを速やかに下層吸収体23Bへ流すことができるため、前記上層吸収体23Abに尿URが到達する可能性を低減することができる。
【0076】
図10に本発明に係る第2実施形態を示した。この第2実施形態では、上層吸収体23Aに対して第1実施形態と同様の上層孔部60Aを設けたほか、この上層孔部60Aの幅方向両端部から背側へ向かって延在する背側上層孔部61A、61Aを設けた。なお、
図10においては、上層孔部60Aの幅方向両端部に背側上層孔部61A、61Aをそれぞれ設けているが、幅方向両端部ではなく、いずれか一方の端部にのみ背側上層孔部61Aを設けても良い。また、第2実施形態では、上層孔部60Aと背側上層孔部61Aを繋げた形状にしているが、上層孔部60Aと背側上層孔部61Aを前後方向に離間させた形態にしてもよい。ただし、上層孔部60Aと背側上層孔部61Aを前後方向に離間させた場合、尿URがその離間部分を通って、着用者の仙骨部64が位置する上層吸収体23Abまで到達しやすくなるため、離間させないほうが好ましい。また、
図10に示す第2実施形態では、上層孔部60Aと背側上層孔部61Aをそれぞれ別々に設けているが、上層孔部60Aと背側上層孔部61Aを一体として設けても良い。
【0077】
以上のように、背側上層孔部61Aを設けることによって、上層吸収体23Aの背側の幅方向端部66に流れた尿URが、上層吸収体23の背側の幅方向中間部へ流れることを抑止できる。着用者の仙骨部64と当接する位置の上層吸収体23Aに尿URが流れにくくなる結果、尿URが着用者の仙骨部64の肌に触れる可能性が低くなり、肌トラブルが生じにくくなる。
【0078】
なお、背側上層孔部61Aの前後方向LDの長さは30~200mmとすることが好ましく、50~150mmとすることがより好ましい。背側上層孔部61Aの前後方向LDの長さが30mmよりも短いと、尿URが上層吸収体23Abに到達しやすくなってしまう。また、背側上層孔部61Aの前後方向LDの長さが200mmよりも長いと、上層吸収体23Aのよれが発生しやすい。
【0079】
また、背側上層孔部61Aの幅方向WDの長さは5~25mmとすることが好ましく、10~20mmとすることがより好ましい。背側上層孔部61Aの幅方向WDの長さが5mmよりも短いと、尿URが上層吸収体23Abに到達しやすくなってしまう。また、背側上層孔部61Aの幅方向WDの長さが25mmよりも長いと、上層吸収体23Aの背側の幅方向端部の面積が小さくなり、当該背側幅方向端部の上層吸収体23Aが尿URを吸収しにくくなるため、上層吸収体23Aを十分に活用できないという不利益がある。
【0080】
なお、前記背側上層孔部61Aの前後方向LDの長さや幅方向WDの長さについては、背側下層孔部61Bについても同じである。重複になるため、説明を省略する。
【0081】
図11と
図12に本発明に係る第3実施形態を示した。第3実施形態では、上層吸収体23Aに設ける上層孔部60Aを、疎水性シート62と重なる部分、すなわち第1実施形態よりも背側の位置であって仙骨部64よりも腹側の部分に設けている。上層孔部60Aを設ける位置は、このような位置に変更することも可能である。
図11に示すように、着用者の仙骨部64と当接する位置の上層吸収体23Aに尿URが流れにくくなる効果が失われないからである。
【0082】
ただし、
図13に示す第1比較例のように、疎水性シート62の腹側端縁の境界部分よりも腹側の位置に上層孔部60Aを設ける形態はあまり好ましくない。
図13の点線の矢印に示すように、上層孔部60Aが存在するにもかかわらず、尿URが親水性シート63や下層吸収体23Bを通って、着用者の仙骨部64と当接する位置の上層吸収体23Aに流れてしまうからである。これは、おむつの前後方向において、上層孔部60Aと疎水性シート62の間が離れていることが原因となっている。
【0083】
なお、前記第3実施形態では、下層孔部60Bを設けていない。このように、下層孔部60Bを設けない形態を採用してもよい。
【0084】
図14と
図15に本発明に係る第4実施形態を示した。第4実施形態では、上層孔部60Aの位置は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。第4実施形態で特徴的なことは、下層吸収体23Bに設ける下層孔部60Bを、疎水性シート62と重なる部分、すなわち第1実施形態よりも背側の位置であって仙骨部64よりも腹側の部分に設けている点である。下層孔部60Bを設ける位置は、このような位置に変更することも可能である。
図15に示すように、着用者の仙骨部64と当接する位置の上層吸収体23Aに尿URが流れにくくなる効果が失われないからである。
【0085】
なお、下層吸収体23Bのうち、疎水性シート62と重なる部分に下層孔部60Bを設ける形態も好ましいが、疎水性シート62の腹側端縁の境界部分に下層孔部60Bを設ける形態はより好ましい。疎水性シート62の腹側端縁の境界部分に下層孔部60Bを設けると、重力によって上層吸収体23Aから下層吸収体23Bに侵入した尿URを、速やかに下層吸収体23B内で拡散させることができるからである。
【0086】
ただし、
図16に示す第2比較例のように、疎水性シート62の腹側端縁の境界部分よりも腹側の位置に下層孔部60Bを設ける形態はあまり好ましくない。
図16の点線の矢印に示すように、下層孔部60Bが存在するにもかかわらず、尿URが上層吸収体23Aや親水性シート62を通って、着用者の仙骨部64と当接する位置の下層吸収体23Bbに流れてしまうからである。これは、おむつの前後方向において、下層孔部60Bと疎水性シート62の間が離れていることが原因となっている。着用者の仙骨部64と当接する位置の下層吸収体23Bbに尿URが流れたとしても、疎水性シート62が存在するため、上層吸収体23Abに尿URが逆戻りすることを防ぐことができる。しかし、疎水性シート62が完全に逆戻りを防ぐことができない場合、その上層吸収体23Abに尿URが逆戻りすることになる。したがって、前記上層吸収体23Abに逆戻りする可能性を低減するために、下層吸収体23Bbに侵入する尿URの量を少しでも少なくすることが好ましい。
【0087】
なお、各図面においては、上層孔部60Aおよび下層孔部60Bの例としてスリットを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、厚み方向の肌側から裏側へ向かって窪むエンボスなどの公知の窪み部に変更してもよい。このことは、スリット40についても同様のことをいうことができる。
【0088】
<明細書中の用語の説明>
明細書中で以下の用語が使用される場合、明細書中に特に記載が無い限り、以下の意味を有するものである。
・「前後(縦)方向」とは腹側(前側)と背側(後側)を結ぶ方向を意味し、「幅方向」とは前後方向と直交する方向(左右方向)を意味する。
・製法における「MD方向(マシンダイレクション又はライン流れ方向)」及び「CD方向(MD方向と直交する横方向)」とは、凸部31の加工設備の「MD方向」及び「CD方向」を意味し、いずれか一方が前後方向となるものであり、他方が幅方向となるものである。また、製品におけるMD方向は、不織布の繊維配向の方向である。繊維配向とは、不織布の繊維が沿う方向であり、例えば、TAPPI標準法T481の零距離引張強さによる繊維配向性試験法に準じた測定方法や、前後方向及び幅方向の引張強度比から繊維配向方向を決定する簡易的測定方法により判別することができる。図示形態は、殆ど多くの使い捨ておむつの製品と同様に、前後方向がMD方向となり、幅方向がCD方向となるものである。
・「展開状態」とは、収縮や弛み無く平坦に展開した状態を意味する。
・「伸長率」は、自然長を100%としたときの値を意味する。
・「目付け」は次のようにして測定されるものである。試料又は試験片を予備乾燥した後、標準状態(試験場所は、温度23±1℃、相対湿度50±2%)の試験室又は装置内に放置し、恒量になった状態にする。予備乾燥は、試料又は試験片を温度100℃の環境で恒量にすることをいう。なお、公定水分率が0.0%の繊維については、予備乾燥を行わなくてもよい。恒量になった状態の試験片から、試料採取用の型板(100mm×100mm)を使用し、100mm×100mmの寸法の試料を切り取る。試料の重量を測定し、10倍して1平米あたりの重さを算出し、目付けとする。
・トップシートの「厚み」は「見かけの厚み」を意味し、以下の方法により測定する。すなわち、測定に際しては、縦30mm×横30mmの測定片を切り出す。この際、測定部分を通る切断面を作る。例えば、トップシートにおける貫通孔の周縁部を除く部分について、見かけの厚みを測定する場合、MD方向に平行で、貫通孔及びその周縁部を通らない切断面を形成する。そして、この切断面の拡大写真をキーエンス社製のデジタルマイクロスコープVHX-1000等を用いて撮影し、この拡大写真に基づいてトップシートの目的部分の見かけの厚みを測定する。最大値及び最小値を求める場合には10点以上測定し、最大値及び最小値を決定する。
・吸収体の「厚み」は、株式会社尾崎製作所の厚み測定器(ピーコック、ダイヤルシックネスゲージ大型タイプ、型式J-B(測定範囲0~35mm)又は型式K-4(測定範囲0~50mm))を用い、試料と厚み測定器を水平にして、測定する。
・上記以外の「厚み」は、自動厚み測定器(KES-G5 ハンディ圧縮計測プログラム)を用い、荷重:0.098N/cm2、及び加圧面積:2cm2の条件下で自動測定する。
・吸水量は、JIS K7223-1996「高吸水性樹脂の吸水量試験方法」によって測定する。
・吸水速度は、2gの高吸収性ポリマー及び50gの生理食塩水を使用して、JIS K7224‐1996「高吸水性樹脂の吸水速度試験法」を行ったときの「終点までの時間」とする。
・「人工尿」は、尿素:2wt%、塩化ナトリウム:0.8wt%、塩化カルシウム二水和物:0.03wt%、硫酸マグネシウム七水和物:0.08wt%、及びイオン交換水:97.09wt%を混合したものであり、特に記載の無い限り、温度40度で使用される。
・試験や測定における環境条件についての記載が無い場合、その試験や測定は、標準状態(試験場所は、温度23±1℃、相対湿度50±2%)の試験室又は装置内で行うものとする。
・各部の寸法は、特に記載が無い限り、自然長状態ではなく展開状態における寸法を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、上記例のようなパッドタイプ使い捨ておむつの他、テープタイプ使い捨ておむつ、パンツタイプ使い捨ておむつ等、形態を問わず利用でき、また、生理用ナプキン等、使い捨ておむつ以外の吸収性物品にも利用できるものである。
【符号の説明】
【0090】
200…パッドタイプ使い捨ておむつ、21…液不透過性シート、22…トップシート、22t…厚み、23A,23B…吸収体、23A…上層吸収体、23B…下層吸収体、24…立体ギャザー、24s…ギャザーシート、25…中間シート、26…包装シート、27…外装シート、30…落ち込み部分、40…スリット、60A…上層孔部、60B…下層孔部、61A…背側上層孔部、61B…背側下層孔部、62…疎水性シート、63…親水性シート、64…仙骨部、65…排尿部、65M…男性の排尿部、65W…女性の排尿部、B2…後側部分、C2…股間部、F2…前側部分、LD…前後方向、TW…厚み方向、WD…幅方向、UR…尿