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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ガスセンサのセンサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20231004BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019222909
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021092434
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-096792(JP,A)
【文献】特開2019-191071(JP,A)
【文献】特開2017-187482(JP,A)
【文献】特開2012-093330(JP,A)
【文献】特開2012-189579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサのセンサ素子であって、
被測定ガスが内部に導入される開口部であるガス導入口が設けられた端面を備えるとともに、測定対象ガス成分の検知部と、前記センサ素子を加熱するためのヒータとを内部に備えたセラミックス構造体である素子基体と、
前記素子基体のうち、少なくとも前記端面を含む所定範囲の外周部に設けられた、1または複数の単位層からなる多孔質層である先端保護層と、
を備え、
前記端面上における、前記先端保護層の前記素子基体の側からj番目の前記単位層(j=1~n:nは自然数)の厚みをTj(単位:μm)とし、当該単位層の気孔率をρj(単位:%)とし、素子長手方向における前記ヒータの前記端面に最も近い端部から前記端面までの距離をLe(単位:mm)とするとき、前記先端保護層は、前記端面上において、
【数1】
をみたすように設けられてなる、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
前記センサ素子が長尺板状をなしており、前記端面が前記センサ素子の長手方向の一先端部側の面である、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
n=2であり、
【数2】
をみたすように設けられてなる、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
300μm≦T1≦850μm、
40%≦ρ1≦80%、
150μm≦T2≦350μm、
15%≦ρ2≦40%、かつ、
0.35mm≦Le≦1.3mmである、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項5】
請求項4に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
【数3】
をみたすように設けられてなる、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
300μm≦T1≦850μm、
50%≦ρ1≦80%、
250μm≦T2≦350μm、
15%≦ρ2≦40%、かつ、
0.35mm≦Le≦1.3mmである、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサのセンサ素子に関し、特にその表面保護層に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関からの排ガスなどの被測定ガス中に含まれる所望ガス成分の濃度を知るためのガスセンサとして、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、表面や内部にいくつかの電極を備えるセンサ素子を有するものが、広く知られている。係るセンサ素子として、長尺板状の素子形状を有し、かつ、被測定ガスを導入する部分が備わる側の端部に、多孔質体からなる保護層(多孔質保護層)が設けられるものが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
センサ素子の表面に保護層を設けるのは、ガスセンサの使用時におけるセンサ素子の耐被水性を確保するためである。具体的には、内部に備わるヒータによって加熱された状態にあるセンサ素子の表面に水滴が付着した場合に、水滴からの熱(冷熱)に起因する熱衝撃がセンサ素子に作用して、センサ素子が割れてしまう、被水割れを防止するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-65852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているような板状のセンサ素子に保護層を設ける場合、該保護層においては、ヒータとの距離が遠い箇所の方が近い箇所よりも熱衝撃に弱い傾向があり、それゆえに、耐被水性には場所によるばらつきが生じ得る。
【0006】
保護層の厚みを増加させることで耐熱衝撃性を向上させる対応が考えられるが、係る厚みの増加は、センサ素子の応答性や昇温性能の低下につながる。特に、センサ素子内部への被測定ガスの導入を担うガス導入口が素子先端面に備わる場合において、当該ガス導入口を覆う保護層の厚みを過度に大きくすることは、応答性の顕著な低下をもたらすため、好ましくない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ガス導入口が備わる端面における保護層の厚みを、所望される耐被水性に応じたものとした、ガスセンサのセンサ素子を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、ガスセンサのセンサ素子であって、被測定ガスが内部に導入される開口部であるガス導入口が設けられた端面を備えるとともに、測定対象ガス成分の検知部と、前記センサ素子を加熱するためのヒータとを内部に備えたセラミックス構造体である素子基体と、前記素子基体のうち、少なくとも前記端面を含む所定範囲の外周部に設けられた、1または複数の単位層からなる多孔質層である先端保護層と、を備え、前記端面上における、前記先端保護層の前記素子基体の側からj番目の前記単位層(j=1~n:nは自然数)の厚みをTj(単位:μm)とし、当該単位層の気孔率をρj(単位:%)とし、素子長手方向における前記ヒータの前記端面に最も近い端部から前記端面までの距離をLe(単位:mm)とするとき、前記先端保護層は、前記端面上において、
【数1】
【0009】
をみたすように設けられてなる、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、前記センサ素子が長尺板状をなしており、前記端面が前記センサ素子の長手方向の一先端部側の面である、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、n=2であり、
【数2】
【0012】
をみたすように設けられてなる、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第4の態様は、第3の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、300μm≦T1≦850μm、40%≦ρ1≦80%、150μm≦T2≦350μm、15%≦ρ2≦40%、かつ、0.35mm≦Le≦1.3mmである、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第5の態様は、第4の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、
【数3】
【0015】
をみたすように設けられてなる、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第6の態様は、第5の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、300μm≦T1≦850μm、50%≦ρ1≦80%、250μm≦T2≦350μm、15%≦ρ2≦40%、かつ、0.35mm≦Le≦1.3mmである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1ないし第6の態様によれば、素子基体のうちガスセンサの使用時に高温となる部分を囲繞する先端保護層のうち、ガス導入口が備わる部分における厚みを、気孔率とヒータとの距離との間で所定の関係式をみたすように定めることにより、応答性の低下を招来することなく当該部分におけるセンサ素子の耐被水性を良好に確保することができる。
【0018】
本発明の第1ないし第6の態様によれば、素子基体のうちガスセンサの使用時に高温となる部分を囲繞する先端保護層のうち、ガス導入口が備わる部分における厚みを、気孔率とヒータとの距離との間で所定の関係式をみたすように定めることにより、応答性の低下を招来することなく当該部分におけるセンサ素子の耐被水性を良好に確保することができる。
【0019】
特に、第2の態様によれば、ガス導入口が素子基体の先端に備わる場合について、応答性の低下を招来することなく当該先端部分における耐被水性を良好に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】センサ素子10の概略的な外観斜視図である。
図2】センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。
図3】先端保護層2が内側先端保護層2aと外側先端保護層2bの2層構成を有する場合のガスセンサ100を示す図である。
図4】センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
図5】先端保護層2が2層構成を有し、かつ、厚みが一様ではない場合を例示する図である。
図6】表1に示した実施例1に係る耐被水性の評価結果を、先端厚み指標値に対してプロットした図である。
図7】表2に示した実施例2に係る耐被水性の評価結果を、実施例1の評価結果とともに、先端厚み指標値に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<センサ素子およびガスセンサの概要>
図1は、本発明の実施の形態に係るセンサ素子(ガスセンサ素子)10の概略的な外観斜視図である。また、図2は、センサ素子10の長手方向に沿った断面図を含むガスセンサ100の構成の概略図である。センサ素子10は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知しその濃度を測定するガスセンサ100の、主たる構成要素であるセラミックス構造体である。センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である
【0022】
ガスセンサ100は、センサ素子10のほか、ポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とを主として備える。
【0023】
図1に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体1の一方端部側が、多孔質の先端保護層2にて被覆された構成を有する。
【0024】
素子基体1は概略、図2に示すように、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170を備え、さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層2が設けられてなる。なお、以降においては、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の長手方向における両端面を除く4つの側面を単に、センサ素子10(もしくは素子基体1、セラミックス体101)の側面と称する。
【0025】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。また、係るセラミックス体101の外部および内部には、センサ素子10の種々の構成要素が設けられてなる。係る構成を有するセラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。なお、図2に示すセンサ素子10の構成はあくまで例示であって、センサ素子10の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0026】
図2に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の(素子基体1の)一方端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層2を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0027】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0028】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には、測定対象ガス成分の直接の検知部である測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の他方端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0029】
例えば、係るセンサ素子10の測定対象が被測定ガス中のNOxである場合であれば、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0030】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0031】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrOとのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0032】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0033】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0034】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0035】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0036】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の図2における図面視下方側において、一方端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。より詳細には、ヒータ150はその周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0037】
ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体である。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。
【0038】
本実施の形態に係るセンサ素子10はその使用時、ヒータ150によって、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。さらには、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでのガス流通部全体が500℃以上となるように、加熱される場合もある。これらは、各ポンプセルを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高め、各ポンプセルの能力が好適に発揮されるようにするためである。係る場合、最も高温となる第一の内部空室102付近の温度は、700℃~800℃程度となる。
【0039】
以降においては、素子基体1の(セラミックス体101の)2つの主面のうち、図2において図面視上方側に位置する、主に主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をポンプ面1pと称し、図2において図面視下方に位置する、ヒータ150が備わる側の主面(あるいは当該主面が備わるセンサ素子10の外面)をヒータ面1hと称する。換言すれば、ポンプ面1pは、ヒータ150よりもガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルに近接する側の主面であり、ヒータ面1hはガス導入口105、3つの内部空室、および各ポンプセルよりもヒータ150に近接する側の主面である。
【0040】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の他方端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しないリード線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用のリード線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。よって、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、電極端子160を通じてなされる。
【0041】
さらに、センサ素子10においては、セラミックス体101のポンプ面1pおよびヒータ面1hに、上述した主面保護層170(170a、170b)が備わっている。主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の主面(ポンプ面1pおよびヒータ面1h)や、ポンプ面1p側に備わる外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、ポンプ面1p側の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0042】
なお、本実施の形態において、気孔率は、評価対象物のSEM(走査電子顕微鏡)像に対し公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで求めるものとする。
【0043】
図2においては、電極端子160の一部を露出させるほかはポンプ面1pおよびヒータ面1hの略全面にわたって主面保護層170が設けられてなるが、これはあくまで例示であり、図2に示す場合よりも、主面保護層170は、一方端部E1側の外部ポンプ電極141近傍に偏在させて設けられてもよい。
【0044】
<先端保護層の詳細>
センサ素子10においては、上述のような構成を有する素子基体1の一方端部E1から所定範囲の最外周部に、先端保護層2が設けられてなる。
【0045】
先端保護層2を設けるのは、素子基体1のうちガスセンサ100の使用時に高温(最高で700℃~800℃程度)となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を確保し、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体1にクラック(被水割れ)が生じることを、抑制するためである。
なお、本実施の形態においては、先端保護層2に対する所定量の水滴の滴下を、係る滴下の前後におけるポンプ電流Ip0に異常が生じるまで繰り返した結果、ポンプ電流Ip0に異常が生じない範囲における最大滴下量を、限界被水量と定義する。そして、係る限界被水量の値の大小に基づいて、耐被水性の良否を判定する。係る場合においては、「耐被水性」なる語を、限界被水量の意で用いることがある。
【0046】
加えて、先端保護層2は、センサ素子10の内部にMgなどの被毒物質が入り込むことを防ぐ、耐被毒性の確保のためにも、設けられてなる。
【0047】
先端保護層2は、素子基体1の一方端部E1側の先端面101eと4つの側面とを覆うように(素子基体1の一方端部E1側の外周に)設けられてなる。先端保護層2のうち、先端面101e側の部分を特に先端部2eと称し、ポンプ面1p側の部分を特にポンプ面部2pと称し、ヒータ面1h側の部分を特にヒータ面部2hと称する。
【0048】
先端保護層2は、アルミナにて、10%~40%の気孔率を有するように、設けられてなる。先端保護層2は、気孔率が大きい低熱伝導率の層として設けられることで、外部から素子基体1への熱伝導を抑制する機能を有してなる。
【0049】
また、先端保護層2は、センサ素子10における耐被水性を確保しつつ、その主たる形成対象面である素子基体1の2つの主面(ポンプ面1pおよびヒータ面1h)、および、ガス導入口105が備わるセラミックス体101の先端面101eと、ヒータ150との配置関係を踏まえた厚みに形成される。この点についての詳細は後述する。
【0050】
先端保護層2は、素子基体1に対し、その構成材料を順次に溶射(プラズマ溶射)することで形成される。これは、素子基体1と先端保護層2の間にアンカー効果を発現させ、素子基体1に対する先端保護層2の接着性(密着性)を、確保するためである。
【0051】
<先端保護層が積層構造を有する場合>
図2においては、先端保護層2が単一層であるセンサ素子10を示していたが、先端保護層2は、2以上の層(単位層)が積層された積層構造を有していてもよい。
【0052】
図3は、先端保護層2が内側先端保護層2aと外側先端保護層2bの2層構成を有する場合のガスセンサ100を示す図である。ただし、図3に示す場合においては、内側先端保護層2aは図2に示したセンサ素子10における先端保護層2と同一の層であり、外側先端保護層2bは、係る内側先端保護層2aを囲繞する態様にて設けられてなるものとする。
【0053】
外側先端保護層2bは、アルミナにて、その内側に備わる他の層(図3に示す場合においては内側先端保護層2a)よりも小さい10%~40%の気孔率を有するように、設けられてなる。これにより、図3に示す先端保護層2においては、外側先端保護層2bよりも熱伝導率の小さい層が、当該層よりも気孔率の小さい外側先端保護層2bに、被覆された構成となっている。
【0054】
外側先端保護層2bも、内側先端保護層2aと同様、その構成材料を順次に溶射(プラズマ溶射)することで形成される。
【0055】
また、このように先端保護層2が積層構造を有する場合も、それぞれの単位層は、センサ素子10における耐被水性を確保しつつ、ポンプ面1p、ヒータ面1h、および先端面101eと、ヒータ150との配置関係を踏まえた厚みに形成される。結果として、先端保護層2の総厚は、当該配置関係を踏まえた値となる。
【0056】
なお、内側先端保護層2aの密着性をより高める目的で、素子基体1と内側先端保護層2aとの間に、図示しない下地層が形成される態様であってもよい。下地層は、素子基体1の完成後に溶射にて形成される内側先端保護層2aなどとは異なり、素子基体1と同時に形成される。
【0057】
<先端保護層の各部の厚み>
次に、本実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子10に備わる先端保護層2の各部の厚み(総厚)について説明する。本実施の形態においては、上述のように、先端保護層2は、ポンプ面1p、ヒータ面1h、および先端面101eと、ヒータ150との配置関係を踏まえた厚みに形成される。
【0058】
まず、ポンプ面1p側およびヒータ面1h側における先端保護層2の厚みとヒータ150の配置との関係について説明する。
【0059】
先端保護層2がn個(nは自然数)の単位層からなるとし、このうち、素子基体1の側からi番目の単位層(i=1~n)の厚みをTs,i(ただし、ポンプ面部2pの厚みを示す場合はs=p、ヒータ面部2hの厚みを示す場合はs=h、単位:μm)とし、当該単位層の気孔率をρi(単位:%)とし、ヒータ150から素子基体1の主面までの距離をLs(ただし、ポンプ面1p側の距離を示す場合はs=p、ヒータ面1h側の距離を示す場合はs=h、単位:mm)とするとき、先端保護層2は、ポンプ面部2p、ヒータ面部2hのそれぞれにおいて、
【数4】
【0060】
なる式(1)をみたすように設けられる。係る場合、ポンプ面部2p、ヒータ面部2hにおいて耐被水性が良好に確保される。より詳細には、6μLを上回る耐被水性が得られる。以降、当該関係式の左辺の値を主面厚み指標値と称する。
【0061】
なお、図2に示すセンサ素子10のように単位層が1層(i=1)の場合、式(1)の添字iは省略されてもよい。図2においては、Tp,i=Tp、Th,i=Thとしている。また、図3においては、Tp,1=Tp1、Th,1=Th1、Tp,2=Tp2、Th,2=Th2としている。
【0062】
主面厚み指標値は耐被水性と正の相関を有することがわかっている。すなわち、主面厚み指標値が大きいセンサ素子10ほど、センサ素子10のポンプ面1p側とヒータ面1h側において優れた耐被水性が得られる。より詳細には、主面厚み指標値を与えるTs,i・ρi/Lsなる項は、ヒータ150から素子基体1の主面までの距離Lsに反比例し、単位層の厚みTs,iに比例する。それゆえ式(1)は、ポンプ面1p側とヒータ面1h側の双方において、ヒータ150から素子基体1の主面までの距離Lsに見合った厚みにてポンプ面部2pおよびヒータ面部2hを構成する単位層を設けることで、ポンプ面部2pおよびヒータ面部2hにおいて優れた耐被水性が得られることを意味している。これは、ヒータ150と素子基体1の両主面との距離が大きいほど、センサ素子10内部における温度差が大きくなり、耐熱衝撃性が劣化することによるものと考えられる。図2図3に示すセンサ素子10の場合であれば、ヒータ面1hの方がポンプ面1pよりもヒータ150に近いので、ヒータ面部2hをポンプ面部2pよりも小さな厚みにて形成しつつ、両者の耐被水性を同等のものとすることができる。
【0063】
一方、ポンプ面部2pおよびヒータ面部2hにおいて内側先端保護層2aと外側先端保護層2bの厚みを過度に大きくしすぎると、昇温時にヒータ150に加わる熱的負荷が大きくなり、その結果として、センサ素子10が割れてしまうおそれが生じるため、好ましくない。係る観点からは、ポンプ面部2p、ヒータ面部2hにおいては、内側先端保護層2aの厚みは800μm以下とし、外側先端保護層2bの厚みは400μm以下とするのが好ましい。
【0064】
次に、ガス導入口105が備わる先端面101e側における先端保護層2の厚みとヒータ150の配置との関係について説明する。
【0065】
先端保護層2の先端部2eがn個(nは自然数)の単位層からなるとし、このうち、素子基体1の側からj番目の単位層(j=1~n)の厚み(素子長手方向におけるサイズ)をTjとし、当該単位層の気孔率をρj(単位:%)とし、ヒータ150から先端面101eまでの距離をLe(単位:mm)とするとき、先端保護層2は、先端面101eにおいて、
【数5】
【0066】
なる式(2)をみたすように設けられる。係る場合、先端保護層2の先端部2eにおいて耐被水性が良好に確保される。より詳細には、5μLを上回る耐被水性が得られる。以降、当該関係式の左辺の値を先端厚み指標値と称する。
【0067】
式(2)をみたす先端保護層2は、図2に示すような単一層の場合であれば、例えば、
300μm≦T1≦500μm;
20%≦ρ1≦30%;
0.35mm≦Le≦1.3mm;
である場合に実現される。
【0068】
また、図3に示すような2層構成の場合であれば、例えば、
300μm≦T1≦850μm;
40%≦ρ1≦80%;
150μm≦T2≦350μm;
15%≦ρ2≦40%;
0.35mm≦Le≦1.3mm;
である場合に実現される。
【0069】
先端厚み指標値についても、主面厚み指標値と同様、耐被水性と正の相関を有することがわかっている。すなわち、先端厚み指標値が大きいセンサ素子10ほど、一方端部E1側において優れた耐被水性が得られる。より詳細には、先端厚み指標値を与えるTj・ρj/Leなる項は、ヒータ150から先端面101eまでの距離Leに反比例し、一方端部E1側における単位層の厚みTjに比例する。それゆえ式(2)は、ヒータ150から先端面101eまでの距離Leに見合った厚みにて先端部2eを構成する単位層を設けることで、先端部2eにおいて優れた耐被水性が得られることを意味している。これも、ヒータ150と先端面101eとの距離が大きいほど、センサ素子10内部における温度差が大きくなり、耐熱衝撃性が劣化することによるものと考えられる。
【0070】
別の見方をすれば、ポンプ面部2p、ヒータ面部2hの双方において式(1)を充足し、先端部2eにおいて式(2)を充足する範囲にて、単位層の厚みを定めるようにすれば、センサ素子10における耐被水性は確保されることから、過度に大きな厚みにて先端保護層2を設ける必要性は小さいともいえる。そのような場合はむしろ、応答性や昇温性能の低下が懸念されることになるため、式(1)および式(2)はそれぞれ、応答性や昇温性能の低下を招来することなく、主面側または一方端部側における耐被水性を確保するための要件であるともいえる。
【0071】
好ましくは、先端保護層2は、図3に示すような内側先端保護層2aと外側先端保護層2bとの2層構成を有するとともに、
【数6】
【0072】
なる式(3)をみたすように設けられる。係る場合、先端部2eにおける耐被水性がさらに良好に確保される。より詳細には、10μLを上回る耐被水性が得られる。
【0073】
式(3)をみたす先端保護層2は、例えば、
300μm≦T1≦850μm;
40%≦ρ1≦80%;
150μm≦T2≦350μm;
15%≦ρ2≦40%;
0.35mm≦Le≦1.3mm;
である場合に実現される。
【0074】
より好ましくは、先端保護層2は、先端面101eにおいて、
【数7】
【0075】
なる式(4)をみたすように設けられる。係る場合、先端部2eにおける耐被水性が極めて良好に確保される。より詳細には、20μLを上回る耐被水性が得られる。
【0076】
式(4)をみたす先端保護層2は、例えば、
300μm≦T1≦850μm;
50%≦ρ1≦80%;
250μm≦T2≦350μm;
15%≦ρ2≦40%;
0.35mm≦Le≦1.3mm;
である場合に実現される。
【0077】
以上、説明したように、本実施の形態に係るセンサ素子においては、素子基体のうちガスセンサの使用時に高温となる部分を囲繞する先端保護層のうち、ガス導入口が備わる部分における厚みを、式(2)をみたすように定めることで、応答性の低下を招来することなく当該部分におけるセンサ素子の耐被水性を良好に確保することができる。
【0078】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子10を製造するプロセスの一例について説明する。図4は、先端保護層2が図3に示すように内側先端保護層2aと外側先端保護層2bとを備える場合を例として、センサ素子10を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0079】
素子基体1の作製に際しては、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含み、かつ、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を、複数枚用意する(ステップS1)。
【0080】
ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、セラミックス体101の対応する部分に内部空間が形成されることになるグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、それぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はなく、最終的に形成される素子基体1におけるそれぞれの対応部分に応じて、厚みが違えられていてもよい。
【0081】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータ150および絶縁層151のパターンや、電極端子160のパターンや、主面保護層170のパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。また、係るパターン印刷のタイミングで、第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140を形成するための昇華性材料(消失材)の塗布あるいは配置も併せてなされる。なお、下地層を形成する場合は、積層後に最上層および最下層となるブランクシートに対し、下地層を形成するためのパターンの印刷もなされる。
【0082】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0083】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、グリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0084】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。なお、係る態様にて得られた積層体に対し下地層を形成するためのパターンの形成がなされる態様であってもよい。
【0085】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断して、それぞれが最終的に個々の素子基体1となる単位体に切り出す(ステップS5)。
【0086】
続いて、得られた単位体を、1300℃~1500℃程度の焼成温度で焼成する(ステップS6)。これにより素子基体1が作製される。すなわち、素子基体1は、固体電解質からなるセラミックス体101と、各電極と、主面保護層170とが一体焼成されることによって、生成されるものである。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、素子基体1においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0087】
以上の態様にて素子基体1が作製されると、続いて、係る素子基体1に対し、内側先端保護層2aと外側先端保護層2bの形成が行われる。内側先端保護層2aの形成は、あらかじめ用意した内側先端保護層形成用の粉末(アルミナ粉末)を素子基体1における内側先端保護層2aの形成対象位置に対し狙いの形成厚みに応じて溶射(ステップS7)した後、係る態様にて塗布膜が形成された素子基体1を焼成する(ステップS8)ことによって行われる。内側先端保護層形成用のアルミナ粉末には、所定の粒度分布を有するアルミナ粉末と造孔材とが所望する気孔率に応じた割合にて含まれており、溶射後に素子基体1を焼成することによって係る造孔材を熱分解させることで、40%~80%という高い気孔率の内側先端保護層2aが好適に形成されるようになっている。なお、溶射および焼成には公知の技術を適用可能である。
【0088】
なお、ポンプ面1p側、ヒータ面1h側、および先端面101e側で、内側先端保護層2aの厚みを違えることは、厚みを大きくしたい側を形成する際に、溶射の速度を落とすことや、同一個所への溶射を繰り返すことなどによって、実現が可能である。
【0089】
内側先端保護層2aが形成されると、続いて、同じくあらかじめ用意した、所定の粒度分布を有するアルミナ粉末が含まれる外側先端保護層形成用の粉末(アルミナ粉末)を、素子基体1における外側先端保護層2bの形成対象位置に対し狙いの形成厚みに応じて溶射する(ステップS9)ことにより、所望の気孔率の外側先端保護層2bを形成する。外側先端保護層形成用のアルミナ粉末には造孔材は含まれない。係る溶射についても、公知の技術を適用可能である。また、ポンプ面1p側、ヒータ面1h側、および先端面101e側で、外側先端保護層2bの厚みを違える場合の対応は、内側先端保護層2aの形成時と同様である。
【0090】
なお、図2に示したように、先端保護層2が単一層として設けられる場合には、上述のステップS9は不要である。
【0091】
以上の手順によりセンサ素子10が得られる。得られたセンサ素子10は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0092】
<変形例>
上述の実施の形態においては、3つの内部空室を備えたセンサ素子を対象としているが、センサ素子が3室構造であることは必須ではない。すなわち、センサ素子が、内部空室を2つあるいは1つ備える態様であってもよい。
【0093】
上述の実施の形態においては、先端保護層2を構成する単位層が、先端部2eにおいて一様な厚みを有することを前提としているが、先端保護層2の形状によっては、先端部2eにおける厚みが一様ではないことがある。例えば、ポンプ面1p側における厚みTpまたはヒータ面1h側における厚みThと先端面101e側における厚みTeとを意図的に違える場合などがこれに該当する。
【0094】
図5は、先端保護層2が2層構成を有し、かつ、厚みが一様ではない場合を例示する図である。そのような場合には、上述の式(2)~式(4)におけるTjの値として、素子基体1のポンプ面1pに沿ったサイズと、同じくヒータ面1hに沿ったサイズと、ポンプ面1pとヒータ面1hから等距離の位置におけるサイズとをそれぞれ特定し、それらの平均値を、Tjの値としてもよい。図5に示す場合であれば、
T1=(T1p+T1h+T1c)/3;
T2=(T2p+T2h+T2c)/3;
となる。
【0095】
また、上述の実施の形態においては、ステップS7における内側先端保護層形成用の粉末の溶射後、ステップS8における焼成を行ったうえで、ステップS9における外側先端保護層形成用の粉末の溶射を行っているが、ステップS8の焼成と、ステップS9の溶射の順序は、入れ替わってもよい。
【0096】
また、上述の実施の形態においては、内側先端保護層2aおよび外側先端保護層2bをアルミナにて設けることとし、両層を形成する際の溶射材として、アルミナ粉末を用いているが、これは必須の態様ではない。アルミナに代えて、ジルコニア(ZrO)、スピネル(MgAl)、ムライト(AlO1Si)などの金属酸化物を用いて、内側先端保護層2aおよび外側先端保護層2bを設ける態様であってもよい。係る場合は、それらの金属酸化物の粉末を溶射材として採用すればよい。
【0097】
また、上述の実施の形態においては、長尺板状の素子基体1の(セラミックス体101の)一方端部E1にガス導入口105が備わるセンサ素子10を対象としているが、ガス導入口105が素子基体1の側部に位置する場合であっても、式(2)~式(4)を充足する場合には、上述の実施の形態と同様の作用効果が期待される。
【実施例
【0098】
(実施例1)
実施例1として、先端保護層2を単一層として備え、かつ先端部2eにおける先端保護層2の厚みT1が異なる10通りのセンサ素子10を作製し、それぞれのセンサ素子10の先端部2eにおける耐被水性を評価した。
【0099】
より詳細には、素子基体1として、Lp=0.91mm、Lh=0.41mm、Le=1.26mmであるもの(以下、基体サンプルa)と、Lp=1.03mm、Lh=0.20mm、Le=0.38mmであるもの(以下、基体サンプルb)の2種類を用意した。
【0100】
そして、基体サンプルaに設ける先端保護層2については、先端部2eにおける厚みT1を、50μm、100μm、150μm、200μm、300μm、400μm、500μmの7水準に違え、気孔率ρ1は、20%、25%、30%の3水準に違えた。
【0101】
また、基体サンプルbに設ける先端保護層2については、先端部2eにおける厚みT1は380μmとし、気孔率ρ1は22%とした。
【0102】
耐被水性の評価は、ヒータ150によってそれぞれのセンサ素子10をおよそ500℃~900℃に加熱した状態で、主ポンプセルP1におけるポンプ電流Ip0を測定しつつセンサ素子10の一方端部E1側に対し0.1μLずつ水滴を滴下し、測定出力に異常が生じない範囲における最大水量を特定することにより行った。
【0103】
表1に、それぞれのセンサ素子10における距離Leと、先端保護層2の先端部2eの厚みT1および気孔率ρ1と、それらに基づいて算出される先端厚み指標値と、耐被水性の評価結果とを、一覧にして示す。また、図6は、表1に示した実施例1に係る耐被水性の評価結果を、先端厚み指標値に対してプロットした図である。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、先端厚み指標値が式(2)を充足するセンサ素子10においては、5μL以上の耐被水性が得られた。
【0106】
図6からは、素子基体1のサイズが異なる場合も含め、先端厚み指標値は耐被水性と正の相関を有していることが把握され、かつ、先端厚み指標値が0.05を超える場合に、5μLを上回る耐被水性が得られていることも、確認される。
【0107】
このことは、先端厚み指標値が式(2)をみたすように先端保護層2を設けるようにすれば、ガス導入口105が備わるセンサ素子10の一方端部E1において、耐被水性が好適に確保されることを、示している。
【0108】
(実施例2)
実施例2として、先端保護層2が内側先端保護層2aと外側先端保護層2bの2層からなる12通りのセンサ素子10を作製し、それぞれのセンサ素子10の先端部2eにおける耐被水性を評価した。
【0109】
より詳細には、素子基体1として、実施例1と同様の基体サンプルaと、Lp=0.71mm、Lh=0.17mm、Le=0.39mmであるもの(以下、基体サンプルc)の2種類を用意した。
【0110】
そして、基体サンプルaに設ける内側先端保護層2aについては、先端部2eにおける厚みT1を、350μm、400μm、500μm、600μm、650μm、800μm、850μmの7水準に違え、気孔率ρ1は、35%、40%、50%、55%、60%、65%、80%の7水準に違えた。
【0111】
一方、外側先端保護層2bについては、先端部2eにおける厚みT2を、150μm、250μm、350μmの3水準に違え、気孔率ρ2は、15%、20%、25%の水準に違えた。
【0112】
また、基体サンプルcに設ける内側先端保護層2aについては、先端部2eにおける厚みT1は276μmとし、気孔率ρ1は16.2%とした。さらに、外側先端保護層2bについては、先端部2eにおける厚みT2は232μmとし、気孔率ρ2は40.7%とした。
【0113】
表2に、先端面101e側における距離Leと、内側先端保護層2a(表2においては「保護層1層目」)の厚みT1および気孔率ρ1と、外側先端保護層2b(表2においては「保護層2層目」)の厚みT2および気孔率ρ2と、それらに基づいて算出される先端厚み指標値と、耐被水性の評価結果とを、一覧にして示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示すように、いずれのセンサ素子10においても、先端厚み指標値が式(2)を充足するとともに、6μL以上の耐被水性が得られた。
【0116】
図7は、表2に示した実施例2に係る耐被水性の評価結果を、実施例1の評価結果とともに、先端厚み指標値に対してプロットした図である。図7においても、図6と同様、素子基体1のサイズが異なる場合も含め、先端厚み指標値は耐被水性と正の相関を有することが把握される。このことはすなわち、先端保護層2を複数の単位層の積層構造とする場合であっても、先端厚み指標値が式(2)を充足するように各層を設けるようにすれば、耐被水性が良好に確保されることを示している。
【0117】
加えて、表2および図7からは、実施例2のセンサ素子10のうち、先端厚み指標値が式(3)を充足するセンサ素子10については、10μLを上回る良好な耐被水性が得られていること、さらには、先端厚み指標値が式(4)を充足するセンサ素子10については、20μLを上回る極めて良好な耐被水性が得られていることも、確認される。
【符号の説明】
【0118】
1 素子基体
1h ヒータ面
1p ポンプ面
2 先端保護層
2a 内側先端保護層
2b 外側先端保護層
2e (先端保護層の)先端部
2h (先端保護層の)ヒータ面部
2p (先端保護層の)ポンプ面部
10 センサ素子
100 ガスセンサ
101 セラミックス体
101e (セラミックス体の(素子基体の))先端面
102 第一の内部空室
103 第二の内部空室
104 第三の内部空室
105 ガス導入口
106 基準ガス導入口
110 第一の拡散律速部
115 緩衝空間
120 第二の拡散律速部
130 第三の拡散律速部
140 第四の拡散律速部
141 外部ポンプ電極
142 内部ポンプ電極
143 補助ポンプ電極
145 測定電極
147 基準電極
150 ヒータ
151 絶縁層
170 主面保護層
E1 (セラミックス体の(素子基体の))一方端部
E2 (セラミックス体の(素子基体の))他方端部
P1 主ポンプセル
P2 補助ポンプセル
P3 測定用ポンプセル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7