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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ベーストレッド用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231004BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231004BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20231004BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L61/06
C08L91/00
C08L93/04
C08L101/00
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C11/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019225890
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021095464
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔子
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210191(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079703(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126633(WO,A1)
【文献】特開2017-052329(JP,A)
【文献】特開2017-209194(JP,A)
【文献】特開2009-242576(JP,A)
【文献】特開2018-095702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B60C 11/00
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド部のベーストレッドに用いられるベーストレッド用ゴム組成物であって、
天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分と、充填剤と、前記ゴム成分100質量部に対して20質量%以上の、石油系炭化水素樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ロジン樹脂、アルキルフェノール樹脂及びそれらの水添物のうちから選択される少なくとも一種の樹脂と、を含み、
30℃の貯蔵弾性率(30℃E’)に対する0℃の貯蔵弾性率(0℃E’)の比(0℃E’/30℃E’)が、1.3~2.0の範囲であり、
前記0℃E’が、15MPa以下であり、且つ、前記30℃E’が、10MPa以下であることを特徴とする、ベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記0℃E’/30℃E’が、1.3~1.8の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記0℃E’/30℃E’が、1.4~1.6の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ベーストレッド用ゴム組成物の0℃のtanδ(0℃tanδ)が、0.35以上であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ベーストレッド用ゴム組成物の、0℃のtanδ(0℃tanδ)が0.4以上であり、且つ、30℃のtanδ(30℃tanδ)が0.15以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のベーストレッド用ゴム組成物を、トレッド部のベーストレッドに用いたことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーストレッド用ゴム組成物及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費性を向上させる(低燃費化を図る)観点から、タイヤのトレッドのベース部を構成するゴム部材(ベーストレッド)について、適正化を図る技術が知られている。
例えば、特許文献1には、ゴム成分や充填剤の調整によって、低発熱性が改良された(tanδが低く抑えられた)ゴム組成物を、ベーストレッドへ適用する技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されたベーストレッドのように、ゴム組成物のtanδ(損失正接)を低く抑えた場合、転がり抵抗を改善し、燃費性の向上は可能となるものの、車両通過時にタイヤから発生する騒音(通過騒音)の悪化を招くという問題があった。また、ゴム組成物のtanδを低く抑えた場合には、ゴムの剛性が低下し、タイヤへ適用した際の操縦安定性を悪化させることも考えられた。
そのため、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音についても改善を図ることができるベーストレッドの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2016-6135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、本発明の目的は、タイヤへ適用した際に、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音の改善を図ることができるベーストレッド用ゴム組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音について改善が図られたタイヤを提供することにある。
【0006】
本発明者は、タイヤへ適用した際の、転がり抵抗の低減と通過騒音の改善との両立を図るべく検討を行った結果、通過騒音に影響するタイヤ振動とゴム因子の関係について着目した。そして、さらに鋭意研究を行った結果、30℃のE’に対する0℃のE’の比を一定範囲(具体的には、0℃E’/30℃E’を1.3~2.0に)設定することによって、タイヤ剛性を維持しつつ、通過騒音に影響する高周波数のtanδを上げることが可能となり、ゴム組成物をタイヤへ適用した際に、優れた操縦安定性及び転がり抵抗性を実現できるとともに、通過騒音についても改善できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
タイヤのトレッド部のベーストレッドに用いられるベーストレッド用ゴム組成物であって、30℃の貯蔵弾性率(30℃E’)に対する0℃の貯蔵弾性率(0℃E’)の比(0℃E’/30℃E’)が、1.3~2.0の範囲であることを特徴とする。
上記構成を具えることによって、タイヤへ適用した際の、操縦安定性、転がり抵抗性及び通過騒音の改善が可能となる。
【0008】
また、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、前記0℃E’/30℃E’が、1.3~1.8の範囲であることが好ましく、1.4~1.6の範囲であることがより好ましい。タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性と、通過騒音の改善とを、より高いレベルで両立できるためである。
【0009】
さらに、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、前記0℃E’が、15MPa以下であることが好ましい。タイヤへ適用した際の、通過騒音の改善を、より確実に実現できるためである。
【0010】
さらにまた、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、前記30℃E’が、10MPa以下であることが好ましい。タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性の改善を、より確実に実現できるためである。
【0011】
また、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、前記ベーストレッド用ゴム組成物の0℃のtanδ(0℃tanδ)が、0.35以上であることが好ましい。タイヤへ適用した際の、通過騒音の改善を、より確実に実現できるためである。
【0012】
さらに、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、前記ベーストレッド用ゴム組成物の30℃のtanδ(30℃tanδ)が、0.2以下であることが好ましい。タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性の改善を、より確実に実現できるためである。
【0013】
さらにまた、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分と、充填剤と、前記ゴム成分100質量部に対して20質量%以上の樹脂と、を含むことが好ましい。タイヤへ適用した際の、操縦安定性、転がり抵抗性及び通過騒音の改善を、より確実に実現できるためである。
【0014】
本発明のタイヤは、上述した本発明のベーストレッド用ゴム組成物を、トレッド部のベーストレッドに用いたことを特徴とする。
上記構成を具えることによって、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音についても改善が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音の改善を図ることができるベーストレッド用ゴム組成物を提供できる。また、本発明によれば、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音について改善が図られた、タイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のベーストレッド用ゴム組成物及びタイヤを、その実施形態に基づいて詳細に説明する。
<ベーストレッド用ゴム組成物>
本発明のベーストレッド用ゴム組成物は、タイヤのトレッド部のベーストレッドに用いられるベーストレッド用ゴム組成物である。
そして、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、30℃の貯蔵弾性率(30℃E’)に対する0℃の貯蔵弾性率(0℃E’)の比(0℃E’/30℃E’)が、1.3~2.0の範囲であることを特徴とする。
【0017】
タイヤの転がり抵抗について検討すると、tanδの低減を図った場合には、タイヤの転がり抵抗の改善を図れるものの、通過騒音レベルが悪化するという問題があり、一方、tanδを高くすると、通過騒音レベルを抑えることができるものの、転がり抵抗が悪化するという問題があった。
一方、貯蔵弾性率E’に関しては、高くすると転がり抵抗と操縦安定性は改善されるものの、剛性が高くなることにより通過騒音は悪化する傾向にあった。そのため、本発明では、剛性を上げ過ぎずに高周波のtanδのみを高くする技術を検討し、貯蔵弾性率E’の温度分散の非線形に着目した。
その結果、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、30℃の貯蔵弾性率(30℃E’)に対する0℃の貯蔵弾性率(0℃E’)の比(0℃E’/30℃E’)を、1.3~2.0と設定することによって、低周波のtanδを低くできるとともに、貯蔵弾性率E’の低下を抑えることができ、さらに、高周波のtanδを高くすることができるため、タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音の改善を図ることが可能となる。
【0018】
上述したように、本発明のベーストレッド用ゴム組成物では、前記0℃E’/30℃E’は、1.3~2.0以上であることを要するが、前記0℃E’/30℃E’が1.3未満の場合には、低温時のtanδを高めることができない(高周波数のtanδを高くすることができない)ため、タイヤへ適用した際の、通過騒音の低減を十分に図ることができない。一方、前記0℃E’/30℃E’が2.0を超える場合は、高温時のE’が小さくなるため、タイヤへ適用した際の、操縦安定性や補強性を十分に確保することができない。
同様の観点から、前記0℃E’/30℃E’は、1.3~1.8であることが好ましく、1.4~1.6であることがより好ましい。
【0019】
なお、本発明での、前記0℃E’及び前記30℃E’は、本発明のベーストレッド用ゴム組成物を加硫した後の、0℃の貯蔵弾性率及び30℃の貯蔵弾性率のことである。
また、前記0℃E’及び前記30℃E’の測定については、例えば、上島製作所株式会社製スペクトロメーターを用いて、0℃及び30℃のE’を測定できるが、それぞれのE’の値が正確に得られる方法であれば特に限定はされず、公知の測定器を用いて得ることができる。
さらに、前記0℃tanδ及び前記30℃tanδの測定の際の、初期入力、動歪、周波数の条件としては、例えば、初期入力150μm、周波数52Hz、動歪1%の条件が挙げられる。
【0020】
また、本発明のベーストレッド用ゴム組成物の0℃の貯蔵弾性率(0℃E’)の値については、上述した0℃E’/30℃E’の関係を満たすことができれば、特に限定はされないが、タイヤへ適用した際の、通過騒音の改善効果を、より向上できる観点からは、15MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましい。なお、タイヤへ適用した際の、操縦安定性や転がり抵抗を悪化させない観点からは、前記0℃E’を5MPa以上とすることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明のベーストレッド用ゴム組成物の30℃の貯蔵弾性率(30℃E’)の値については、上述した0℃E’/30℃E’の関係を満たすことができれば、特に限定はされないが、タイヤへ適用した際の、通過騒音の改善効果を、より向上できる観点からは、10MPa以下であることが好ましく、5MPa以下であることがより好ましい。なお、タイヤへ適用した際の、操縦安定性や転がり抵抗を悪化させない観点からは、前記30℃E’をMPa以上とすることが好ましい。
【0022】
なお、前記0℃E’/30℃E’の値を所定の範囲内に調整するための方法については、特に限定はされない。例えば、本発明のベーストレッド用ゴム組成物の構成成分について、適正化を図ることが挙げられる。後述するように、ゴム成分の種類及び含有量を限定したり、充填剤の種類及び含有量を調整することによって、前記0℃E’/30℃E’の値を本発明の範囲(1.3~2.0)に設定することが可能となる。
【0023】
また、本発明のベーストレッド用ゴム組成物は、タイヤへ適用した際の、通過騒音抑制効果を、より高めることができる観点から、0℃のtanδ(0℃tanδ)が、0.35以上であることが好ましい。同様の観点から、前記0℃tanδは、0.4以上であることがより好ましい。
【0024】
さらに、本発明のベーストレッド用ゴム組成物は、タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性を、より改善できる観点から、30℃のtanδ(30℃tanδ)が、0.2以下であることが好ましい。同様の観点から、前記0℃tanδは、0.15以下であることがより好ましい。
【0025】
なお、前記0℃tanδ及び前記30℃tanδは、本発明のベーストレッド用ゴム組成物を加硫した後の、0℃tanδ及び30℃tanδのことである。
また、前記0℃tanδ及び前記30℃tanδの測定については、例えば、上島製作所株式会社製スペクトロメーターを用いて、前記0℃tanδ及び前記30℃tanδを測定できるが、それぞれのtanδの値が正確に得られる方法であれば特に限定はされず、通常使用される測定器を用いて得ることができる。
さらに、前記0℃tanδ及び前記30℃tanδの測定の際の、初期入力、動歪、周波数の条件としては、例えば、初期入力150μm、周波数52Hz、動歪1%の条件が挙げられる。
【0026】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物を構成する成分については、上述した0℃E’/30℃E’の関係を満たすことができるものであれば、特に限定はされない。
ベーストレッドに要求される性能に応じて、ゴム成分、充填剤の種類や含有量を適宜調整することができる。
【0027】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物については、上述した0℃E’/30℃E’の関係を満たしやすく、タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性と、通過騒音の改善とを、より確実にレベルで両立できる点からは、天然ゴムを含有するゴム成分と、充填剤と、樹脂と、を含むことができる。
【0028】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物のゴム成分については、少なくとも天然ゴム(NR)を含有することが好ましい。上述した0℃E’/30℃E’の関係を満たしやすく、転がり抵抗性や操縦安定性を良好に保ちつつ、優れた通過騒音改善性能を得ることができるためである。
ここで、前記ゴム成分における前記天然ゴムの含有量については、特に限定はされないが、タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性と、通過騒音の改善とを、より高いレベルで両立できる点からは、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。
【0029】
また、前記ゴム成分は、前記天然ゴムに加えて、スチレンブタジエンゴム(SBR)及び/又はブタジエンゴム(BR)をさらに含むことができる。高周波領域のtanδを高くでき、タイヤへ適用した際の、通過騒音の改善効果を、より向上できる点で好ましい。
なお、前記ゴム成分における前記スチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴムの合計含有率は、特に限定はされないが、前記天然ゴムよりも少ないことが好ましく、具体的には、5~30質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。
【0030】
なお、前記ゴム成分は、未変性のものであっても、変性されたものであってもよい。
また、前記ゴム成分については、要求される性能に応じて、上述したNR、SBR及びBR以外のゴム(その他のゴム成分)についても含むことができる。前記その他のゴム成分としては、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムや、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)等の非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0031】
また、本発明のベーストレッド用ゴム組成物に含まれる無機充填剤の種類や、含有量等については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜変更することができる。
例えば、前記無機充填剤として、カーボンブラックや、シリカ、その他の無機充填剤等を含むことができる。これらの充填剤の中でも、より優れた補強性や耐摩耗性が得られる点からは、前記充填剤がカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0032】
また、前記カーボンブラックについては、窒素吸着比表面積(NSA)が20~80m/gであることが好ましく、が40~60m/gであることがより好ましい。カーボンブラックのストラクチャについてさらに適正化を図ることができるため、転がり抵抗の低減しつつ、補強性について、さらなる改善が可能となる。
なお、前記窒素吸着比表面積は、ISO4652-1に準拠して単点法にて測定することができ、例えば脱気したカーボンブラックを液体窒素に浸漬させた後、平衡時においてカーボンブラック表面に吸着した窒素量を測定し、測定値から比表面積(m/g)を算出できる。
【0033】
また、本発明のベーストレッド用ゴム組成物に含まれる前記カーボンブラックの含有量については、前記ゴム成分100質量部に対して、25~65質量部であることが好ましく、30~45質量部であることがより好ましい。前記カーボンブラックの含有量を、前記ゴム成分100質量部に対して、25質量部以上とすることで、より高い補強性や耐亀裂進展性を得ることができ、65質量部以下とすることで、タイヤへ適用した際の転がり抵抗の悪化を抑えることができる。
【0034】
さらに、前記無機充填剤として、シリカやその他の無機充填剤を含むこともできる。
前記シリカの種類については、例えば、湿式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0035】
本発明のゴム組成物は、通過騒音の改善効果をより向上させる観点から、樹脂を含むこともできる。
前記樹脂としては、石油系炭化水素樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ロジン樹脂、アルキルフェノール樹脂及びそれらの水添物である樹脂等が挙げられ、これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いることができる。また、これらの樹脂の中でも、C系樹脂、C-C系樹脂、C系樹脂及びそれらの水添物のうちの少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0036】
前記C系樹脂とは、C系合成石油系炭化水素樹脂を指し、該C系樹脂としては、例えば、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC留分を、AlCl、BF等のフリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる脂肪族系石油樹脂が挙げられる。前記C留分には、通常、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。なお、前記C系樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、エクソンモービルケミカル社製脂肪族系石油樹脂である「エスコレッツ(登録商標)1000シリーズ」、日本ゼオン株式会社製脂肪族系石油樹脂である「クイントン(登録商標)100シリーズ」の内「A100、B170、M100、R100」、東燃化学社製「T-REZ RA100」等が挙げられる。
【0037】
前記C-C系樹脂とは、C-C系合成石油系炭化水素樹脂を指し、該C-C系樹脂としては、例えば、石油由来のC留分とC留分とを、AlCl、BF等のフリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。該C-C系樹脂としては、C以上の成分の少ない樹脂が、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることをいうものとする。前記C-C系樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、商品名「クイントン(登録商標)G100B」(日本ゼオン株式会社製)、商品名「ECR213」(エクソンモービルケミカル社製)、商品名「T-REZ RD104」(東燃化学社製)等が挙げられる。
【0038】
前記C系樹脂は、合成石油系炭化水素樹脂であり、例えば、石油化学工業のナフサの熱分解により、エチレン、プロピレン等の石油化学基礎原料と共に副生するC留分である、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンを主要なモノマーとする炭素数9の芳香族を重合した樹脂である。ここで、ナフサの熱分解によって得られるC留分の具体例としては、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、γ-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、インデン等が挙げられる。該C系樹脂は、C留分と共に、C留分であるスチレン等、C10留分であるメチルインデン、1,3-ジメチルスチレン等、更にはナフタレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、p-tert-ブチルスチレン等をも原料として用い、これらのC~C10留分等を混合物のまま、例えばフリーデルクラフツ型触媒により共重合して得ることができる。また、前記C系樹脂は、水酸基を有する化合物、不飽和カルボン酸化合物等で変性された変性石油樹脂であってもよい。なお、前記C系樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、未変性C系石油樹脂としては、商品名「日石ネオポリマー(登録商標)L-90」、「日石ネオポリマー(登録商標)120」、「日石ネオポリマー(登録商標)130」、「日石ネオポリマー(登録商標)140」(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)等が挙げられる。
【0039】
前記ジシクロペンタジエン樹脂は、シクロペンタジエンを二量体化して得られるジシクロペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂である。前記ジシクロペンタジエン樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、日本ゼオン株式会社製脂環式系石油樹脂である商品名「クイントン(登録商標)1000シリーズ」の内「1105、1325、1340」等が挙げられる。
【0040】
前記テルペンフェノール樹脂は、例えば、テルペン類と種々のフェノール類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させたり、又はさらにホルマリンで縮合する方法で得ることができる。原料のテルペン類としては特に制限はなく、α-ピネンやリモネン等のモノテルペン炭化水素が好ましく、α-ピネンを含むものがより好ましく、特にα-ピネンであることが好ましい。該テルペンフェノール樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、商品名「タマノル803L」、「タマノル901」(荒川化学工業株式会社製)、商品名「YSポリスター(登録商標)U」シリーズ、「YSポリスター(登録商標)T」シリーズ、「YSポリスター(登録商標)S」シリーズ、「YSポリスター(登録商標)G」シリーズ、「YSポリスター(登録商標)N」シリーズ、「YSポリスター(登録商標)K」シリーズ、「YSポリスター(登録商標)TH」シリーズ(ヤスハラケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0041】
前記テルペン樹脂は、マツ属の木からロジンを得る際に同時に得られるテレピン油、或いは、これから分離した重合成分を配合し、フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる固体状の樹脂であり、β-ピネン樹脂、α-ピネン樹脂等が挙げられる。該テルペン樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、ヤスハラケミカル株式会社製の商品名「YSレジン」シリーズ(PX-1250、TR-105等)、ハーキュリーズ社製の商品名「ピコライト」シリーズ(A115、S115等)等が挙げられる。
【0042】
前記ロジン樹脂は、マツ科の植物の樹液である松脂(松ヤニ)等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂、及びそれらを変性、水素添加等で加工した変性樹脂、水添樹脂である。例えば、天然樹脂ロジン、その重合ロジンや部分水添ロジン;グリセリンエステルロジン、その部分水添ロジンや完全水添ロジンや重合ロジン;ペンタエリスリトールエステルロジン、その部分水添ロジンや重合ロジン等が挙げられる。天然樹脂ロジンとして、生松ヤニやトール油に含まれるガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等がある。前記ロジン樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、商品名「ネオトール105」(ハリマ化成株式会社製)、商品名「SNタック754」(サンノプコ株式会社製)、商品名「ライムレジンNo.1」、「ペンセルA」及び「ペンセルAD」(荒川化学工業株式会社製)、商品名「ポリペール」及び「ペンタリンC」(イーストマンケミカル株式会社製)、商品名「ハイロジン(登録商標)S」(大社松精油株式会社製)等が挙げられる。
【0043】
前記アルキルフェノール樹脂は、例えば、アルキルフェノールとホルムアルデヒドとの触媒下における縮合反応によって得られる。該アルキルフェノール樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、商品名「ヒタノール1502P」(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、日立化成株式会社製)、商品名「タッキロール201」(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業株式会社製)、商品名「タッキロール250-I」(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業株式会社製)、商品名「タッキロール250-III」(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業株式会社製)、商品名「R7521P」、「SP1068」、「R7510PJ」、「R7572P」及び「R7578P」(SI GROUP INC.製)等が挙げられる。
【0044】
また、前記C5系樹脂や、前記C9系樹脂等の樹脂の水添物については、分子内の不飽和結合が部分的に又は完全に水素添加された樹脂(以下、「水添樹脂」ともいう。)のことである。
【0045】
また、本発明のゴム組成物における前記樹脂の含有量は、高周波領域のtanδを高め、タイヤに適用した際の通過騒音の低減効果を高めるため、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。補強性の低下や低発熱性の悪化を抑え、タイヤに適用した際の耐亀裂性や転がり抵抗性を良好に維持できるためである。
【0046】
なお、本発明のベーストレッド用ゴム組成物は、上述したゴム成分及び充填剤の他にも、その他の成分を、発明の効果を損なわない程度に含むことができる。
その他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤、加硫促進助等の、ゴム工業界で通常使用されている添加剤を適宜含むことができる。
【0047】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物が、前記充填剤としてシリカを含有する場合には、シランカップリング剤をさらに含有することが好ましい。シリカによる補強性及び低発熱性の効果をさらに向上させることができるからである。なお、シランカップリング剤は、公知のものを適宜使用することができる。
【0048】
前記老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されない。例えば、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤等を挙げることができる。これら老化防止剤は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0049】
前記加硫促進剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン(1,3-ジフェニルグアニジン等)等のグアニジン系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラドデシルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0050】
前記加硫促進助剤については、例えば、亜鉛華(ZnO)や脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸としては、飽和若しくは不飽和、直鎖状若しくは分岐状のいずれの脂肪酸であってもよく、脂肪酸の炭素数も特に制限されないが、例えば炭素数1~30、好ましくは15~30の脂肪酸、より具体的にはシクロヘキサン酸(シクロヘキサンカルボン酸)、側鎖を有するアルキルシクロペンタン等のナフテン酸;ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸(ネオデカン酸等の分岐状カルボン酸を含む)、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の飽和脂肪酸;メタクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸;ロジン、トール油酸、アビエチン酸等の樹脂酸などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、亜鉛華及びステアリン酸を好適に用いることができる。
【0051】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述した本発明のベーストレッド用ゴム組成物を、トレッド部のベーストレッドに用いたことを特徴とする。
ベーストレッドとして、本発明のベーストレッド用ゴム組成物を用いることによって、操縦安定性及び転がり抵抗性の向上が可能になるとともに、通過騒音についても改善を図ることができる。
【0052】
なお、本発明のタイヤのトレッド部において、前記ベーストレッド上に形成されるキャップトレッドの構成については、特に限定されない。タイヤに要求される性能に応じて、適した条件のキャップトレッドを使用することができる。
前記キャップトレッドを構成するゴム組成物は、例えば、ゴム成分と、補強性充填剤と、軟化剤と、ゴム工業界で通常使用される添加剤とを含むことができる。
【0053】
また、本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫してもよく、予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して製造してもよい。
さらに、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、該空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0054】
なお、本発明のタイヤは、各種車両向けのタイヤとして利用できるが、乗用車用タイヤや、トラック・バス用タイヤとして用いられることが好ましい。転がり抵抗の低減と、通過騒音の改善との両立による利益を、より享受できるためである。
【実施例
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
<実施例1~3、比較例1~2>
表1に示す配合処方に従い、通常のバンバリーミキサーを用いて、サンプルとなるベーストレッド用ゴム組成物を作製した。なお、表1での各成分の配合量は、ゴム成分100質量部に対する量(質量部)を記載している。
また、得られたベーストレッド用ゴム組成物について、145℃、33分間の加硫処理を行い、得られた加硫ゴムに対して、上島製作所株式会社製スペクトロメーターを用いて、初期入力150μm、周波数52Hz、動歪1%で、0℃及び30℃における損失正接(tanδ)及び貯蔵弾性率(E’)を測定した。測定した0℃及び30℃におけるtanδ及びE’については、表1に示す。
【0057】
<評価>
得られたベーストレッド用ゴム組成物のサンプルについて、比較例1のサンプルをトレッド部のベーストレッドに用いて、サイズ205/60R16の乗用車用空気入りラジアルタイヤのサンプルを作製した。作製したサンプルのタイヤについて、以下の方法で評価を実施した。結果を表1に示す。
【0058】
(1)転がり抵抗
比較例1のタイヤについて、国際規格(ECE R117)に準拠し、転がり抵抗係数(RRC)の測定を行った。実施例1~3及び比較例2については、測定したゴム物性と比較例1のタイヤの測定結果に基づき推測した。
評価については、推測したRRCの逆数をとり、比較例1のサンプルを用いたタイヤのRRCの逆数を100としたときの、指数として表示した。指数値が大きい程、転がり抵抗性に優れる(転がり抵抗が低減されている)ことを示し、90以上であれば良と判断する。評価結果を表1に示す。
【0059】
(2)通過騒音レベル
比較例1のタイヤについて、国際規格(ECE R117)に準拠し、通過騒音(dB)の測定を行った。実施例1~3及び比較例2については、測定したゴム物性と比較例1のタイヤの測定結果に基づき推測した。
評価については、比較例1の通過騒音(dB)との、騒音レベルの差を算出し、通過騒音レベルとした。通過騒音レベルは小さい程、通過騒音が低減されていることを示し、110以下であれば良とする。評価結果を表1に示す。
(3)操縦安定性
比較例1のタイヤを試験車に装着し、乾燥路面での実車試験にて、操縦安定性をドライバーのフィーリング評点で表した。実施例1~3及び比較例2については、測定したゴム物性と比較例1のタイヤの測定結果に基づき推測した。
評価については、比較例1のゴム組成物をもいい他タイヤのフィーリング評点を100として表示した。評点の値が大きい程、操縦安定性に優れることを示す。
【0060】
【表1】
*1 RSS #3
*2 JSR株式会社製「BR01」
*3 JSR株式会社製「SL520」、スチレン量:35質量%
*4 JXTG株式会社製「スーパーオイル Y22」
*5 脂肪族系炭化水素樹脂、日本ゼオン株式会社製「Quintone G100」
*6 石油系炭化水素樹脂
*7 変性フェノール樹脂、住友ベークライト株式会社製「PR-13349」
*8 東海カーボン株式会社製「シーストF」
【0061】
表1の結果から、実施例1~3のサンプルについては、比較例の各サンプルに比べて、転がり抵抗、通過騒音レベル及び操縦安定性について、バランス良く優れた効果を示すことがわかった。
なお、比較例の各サンプルは、少なくとも1つの評価項目で、実施例よりも劣る値を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、タイヤへ適用した際の、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音の改善を図ることができるベーストレッド用ゴム組成物を提供できる。また、本発明によれば、操縦安定性及び転がり抵抗性に優れるとともに、通過騒音について改善が図られた、タイヤを提供できる。