(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】LiCB9H10の高温相を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231004BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231004BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20231004BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231004BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2020538349
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032094
(87)【国際公開番号】W WO2020040044
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2018156211
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】野上 玄器
(72)【発明者】
【氏名】野口 敬太
(72)【発明者】
【氏名】金 相侖
(72)【発明者】
【氏名】折茂 慎一
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116784(JP,A)
【文献】特開2012-209104(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030053(WO,A1)
【文献】TANG, Wan Si. et al.,Stabilizing superionic-conducting structures via mixed-anion solid solutions of monocarba-closo-bora,ACS Energy Lett.,2016年09月01日,Vol.1,p.659-664
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/38
H01B 13/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiCB
9H
10およびLiCB
11H
12を含むイオン伝導体の製造方法であって、
LiCB
9H
10とLiCB
11H
12とを、LiCB
9H
10/LiCB
11H
12=1.1~20のモル比で混合する工程を含む、前記イオン伝導体の製造方法。
【請求項2】
メカニカルミリング処理を施すことにより前記混合を行う、請求項1に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項3】
前記メカニカルミリング処理を施す時間が1~48時間である、請求項2に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項4】
得られたイオン伝導体が、25℃におけるX線回折測定において、少なくとも2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにX線回折ピークを有し、A=(16.4±0.3degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.1±0.5degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した強度比(B/A)が1.0~20である、請求項1~3のいずれかに記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項5】
リチウム(Li)と炭素(C)とホウ素(B)と水素(H)とを含むイオン伝導体であって、25℃におけるX線回折測定において、少なくとも2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにX線回折ピークを有し、A=(16.4±0.3degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.1±0.5degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した強度比(B/A)が1.0~20であ
り、25℃におけるイオン伝導度が1.0~10mScm
-1
である、前記イオン伝導体。
【請求項6】
前記イオン伝導体がLiCB
9H
10を含む、請求項5に記載のイオン伝導体。
【請求項7】
前記イオン伝導体が更にLiCB
11H
12を含む、請求項6に記載のイオン伝導体。
【請求項8】
ラマン分光測定において、749cm
-1(±5cm
-1)および763cm
-1(±5cm
-1)にそれぞれピークを有する、請求項5から7のいずれかに記載のイオン伝導体。
【請求項9】
前記イオン伝導体が、LiCB
9
H
10
とLiCB
11
H
12
とを、LiCB
9
H
10
/LiCB
11
H
12
=1.1~20のモル比で含む、請求項5から8のいずれかに記載のイオン伝導体。
【請求項10】
請求項5から9のいずれかに記載のイオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質。
【請求項11】
請求項10に記載の固体電解質と、金属リチウムとが接してなる電極。
【請求項12】
請求項11に記載の電極を備える全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiCB9H10の高温相を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物、錯体水素化物等を使用することが検討されている。
【0004】
全固体電池は大きくわけて薄膜型とバルク型に分類される。薄膜型については、気相成膜を利用することで界面接合が理想的に形成されるものの、電極層が数μmと薄く、電極面積も小さなものであり、1セルあたりの蓄えられるエネルギーが小さく、コストも高くなる。よって、多くのエネルギーを蓄える必要のある、大型蓄電装置や電気自動車向けの電池としては不適である。一方、バルク型の電極層の厚みは数十μm~100μmにすることができ、高いエネルギー密度を有する全固体電池が作製可能である。
【0005】
固体電解質の中で、硫化物や錯体水素化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかいことから固体-固体間の界面を形成しやすい特徴があり、バルク型全固体電池への適用検討が進んでいる(特許文献1および2)。
【0006】
しかしながら、従来の硫化物固体電解質は水と反応する性質を有しており、硫化物は硫化水素を発生し、水分と反応した後はイオン伝導度が低下する課題を有している。一方、錯体水素化物固体電解質は硫化物固体電解質と比較すると、イオン伝導度がやや低い傾向にあり、イオン伝導度の向上が望まれている。
【0007】
特許文献3には、カーボレン系と呼ばれる固体電解質が記載されているが、イオン伝導度については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許6246816
【文献】WO2017-126416
【文献】US2016/0372786A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、イオン伝導性等の種々の特性に優れたイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、LiCB9H10とLiCB11H12とを特定のモル比で混合して得られたイオン伝導体によって、上記課題を解決することができることを見出した。即ち、本発明は、以下の通りである。
<1> LiCB9H10およびLiCB11H12を含むイオン伝導体の製造方法であって、
LiCB9H10とLiCB11H12とを、LiCB9H10/LiCB11H12=1.1~20のモル比で混合する工程を含む、前記イオン伝導体の製造方法である。
<2> メカニカルミリング処理を施すことにより前記混合を行う、上記<1>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<3> 前記メカニカルミリング処理を施す時間が1~48時間である、上記<2>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<4> 得られたイオン伝導体が、25℃におけるX線回折測定において、少なくとも2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにX線回折ピークを有し、A=(16.4±0.3degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.1±0.5degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した強度比(B/A)が1.0~20である、上記<1>~<3>のいずれかに記載のイオン伝導体の製造方法である。
<5> リチウム(Li)と炭素(C)とホウ素(B)と水素(H)とを含むイオン伝導体であって、25℃におけるX線回折測定において、少なくとも2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにX線回折ピークを有し、A=(16.4±0.3degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.1±0.5degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した強度比(B/A)が1.0~20である、前記イオン伝導体である。
<6> 前記イオン伝導体がLiCB9H10を含む、上記<5>に記載のイオン伝導体である。
<7> 前記イオン伝導体が更にLiCB11H12を含む、上記<6>に記載のイオン伝導体である。
<8> ラマン分光測定において、749cm-1(±5cm-1)および763cm-1(±5cm-1)にそれぞれピークを有する、上記<5>から<7>のいずれかに記載のイオン伝導体である。
<9> 25℃におけるイオン伝導度が1.0~10mScm-1である、上記<5>から<8>のいずれかに記載のイオン伝導体である。
<10> 上記<5>から<9>のいずれかに記載のイオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質である。
<11> 上記<10>に記載の固体電解質と、金属リチウムとが接してなる電極である。
<12> 上記<11>に記載の電極を備える全固体電池である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イオン伝導性等の種々の特性に優れたイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体の粉末におけるX線回折ピークを示す。
【
図2A】
図2は、実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体のラマンスペクトルを示す。
【
図3】
図3は、実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体のイオン伝導度の測定結果を示す。
【
図4A】
図4Aは、実施例5において評価セルの電極間にかかる電圧を測定した結果を示す。
【
図5A】
図5Aは、実施例6における充放電試験の結果を示す。
【
図5B】
図5Bは、実施例6における充放電試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する材料、構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0014】
1.イオン伝導体
本発明の1つの実施形態によると、リチウム(Li)と炭素(C)とホウ素(B)と水素(H)とを含むイオン伝導体が提供される。上記実施形態は、好ましくは、結晶としてLiCB9H10の高温相(高イオン伝導相)を含み、より好ましくは、LiCB9H10およびLiCB11H12を含む。
【0015】
本発明のイオン伝導体は、ラマン分光測定において、LiCB9H10に基づく749cm-1(±5cm-1)およびLiCB11H12に基づく763cm-1(±5cm-1)にそれぞれピークを有することが好ましい。その他の領域にもピークを有してもよいが、それぞれの特徴を示すピークは上記のものとなる。
【0016】
本発明のイオン伝導体は、結晶としてLiCB9H10の高温相を含むことが好ましい。LiCB9H10は、その結晶状態から高温相と低温相とを有しており、高い温度(例えば、75~150℃程度)の高温相ではイオン伝導度が高いものの、室温付近(例えば、20~65℃程度)においては低温相となってしまい、イオン伝導度が低下してしまう。
本発明のイオン伝導体は、25℃におけるX線回折測定において、少なくとも2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにLiCB9H10の高温相に基づくX線回折ピークを有する。好ましくは、A=(16.4±0.3degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.1±0.5degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した強度比(B/A)が1.0~20の範囲であり、1.0~15の範囲がより好ましく、1.0~10の範囲が特に好ましい。強度比(B/A)が1.0~20の範囲となる場合は、LiCB9H10の高温相にLiCB11H12が固溶することで相転移温度が低下し、室温付近においてもイオン伝導度が高い状態を維持することができる。この固溶が成り立つのは、LiCB9H10/LiCB11H12=1.1以上のモル比の時である。好ましくはLiCB9H10/LiCB11H12=1.1~20であり、より好ましくはLiCB9H10/LiCB11H12=1.25~10であり、特に好ましくはLiCB9H10/LiCB11H12=1.5~9であり、この範囲においてはイオン伝導度が高い値を示す。
なお、本発明のイオン伝導体は、上記以外のX線回折ピークを含んでいたとしても、所望の効果が得られる。
また、本発明のイオン伝導体は、リチウム(Li)と炭素(C)とホウ素(B)と水素(H)以外の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。
【0017】
上記のイオン伝導体は、柔らかく、コールドプレスにて電極層および固体電解質層へと成形することができる。そして、このように成形された電極層および固体電解質層は、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質を多く含む場合と比較して強度に優れる。従って、本発明のイオン伝導体を使用することにより、成形性がよく、割れにくい(クラックが生じにくい)電極層および固体電解質層を作製することができる。また、本発明のイオン伝導体は密度が低いため、比較的軽い電極層および固体電解質層を作製することができる。それにより電池全体の重量を軽くすることができるため、好ましい。さらに、本発明のイオン伝導体を固体電解質層において使用した場合、電極層との間の界面抵抗を低くすることができる。
更に、上記のイオン伝導体は、水分や酸素に触れても分解することがなく、危険な毒性ガスを発生することがない。
【0018】
本発明のイオン伝導体は、25℃におけるイオン伝導度が1.0~10mScm-1であることが好ましく、2.0~10mScm-1であることがより好ましい。
【0019】
2.イオン伝導体の製造方法
本発明の別の実施形態によると、LiCB9H10およびLiCB11H12を含むイオン伝導体の製造方法であって、LiCB9H10とLiCB11H12とを、LiCB9H10/LiCB11H12=1.1~20のモル比で混合する工程を含む、前記イオン伝導体の製造方法が提供される。
【0020】
原料であるLiCB9H10およびLiCB11H12としては、通常に市販されているものを使用することができる。また、その純度は、95%以上であることが好ましく、98%以上であることがより好ましい。純度が上記範囲である化合物を使用することにより、所望の結晶が得られやすい。
【0021】
LiCB9H10とLiCB11H12との混合比は、LiCB9H10/LiCB11H12=1.1以上のモル比とする必要がある。好ましくはLiCB9H10/LiCB11H12=1.1~20であり、より好ましくはLiCB9H10/LiCB11H12=1.25~10であり、特に好ましくはLiCB9H10/LiCB11H12=1.5~9である。上述したように、この範囲においてはイオン伝導度が特に高い値を示す。
【0022】
LiCB9H10とLiCB11H12との混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、窒素、アルゴンなどを挙げることができるが、好ましくはアルゴンである。不活性ガス中の水分および酸素の濃度は低く管理されることが好ましく、より好ましくは、不活性ガス中の水分および酸素の濃度は1ppm未満である。
【0023】
混合の方法としては、特に限定されるものではないが、溶媒中での撹拌混合を用いることができる。機械混合も使用することができ、例えば、ライカイ機、ボールミル、遊星型ボールミル、ビーズミル、自公転ミキサー、高速攪拌型の混合装置、タンブラーミキサー等を使用した方法が挙げられる。これらの中でも、粉砕力および混合力に優れる遊星型ボールミルがより好ましく、遊星型ボールミルを用いてメカニカルミリング処理を施して混合することが特に好ましい。機械混合は乾式で行うことが好ましいが、溶媒下で実施することもできる。上記手法に問わず、溶媒としては特に制限されるわけではないが、アセトニトリルをはじめとしたニトリル系溶媒、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒等を挙げることができる。
【0024】
混合時間は、混合する方法によって異なるが、溶媒中での撹拌混合の場合には、例えば、1~48時間であり、5~24時間が好ましい。なお、溶媒を用いた場合には混合時間を短縮することができる。機械混合における混合時間としては、例えば遊星型ボールミルを用いた場合には、1~24時間であり、5~20時間が好ましい。
【0025】
反応圧力としては、通常は絶対圧として0.1Pa~2MPaの範囲である。好ましくは101kPa~1MPaである。
【0026】
本発明の上記製造方法によって得られたイオン伝導体は、ラマン分光測定において、LiCB9H10に基づく749cm-1(±5cm-1)およびLiCB11H12に基づく763cm-1(±5cm-1)にそれぞれピークを有することが好ましい。また、25℃におけるX線回折測定において、少なくとも2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにLiCB9H10の高温相に基づくX線回折ピークを有し、A=(16.4±0.3degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.1±0.5degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した強度比(B/A)が1~20の範囲となることが好ましく、1.0~15の範囲となることがより好ましく、1.0~10の範囲となることが特に好ましい。
【0027】
3.全固体電池
本発明のイオン伝導体は、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。よって、本発明の一実施形態によると、上述したイオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質が提供される。また、本発明のさらなる実施形態によると、上述した全固体電池用固体電解質を使用した全固体電池が提供される。
【0028】
本明細書において、全固体電池とは、リチウムイオンが電気伝導を担う全固体電池であり、特に全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池は、正極層と負極層との間に固体電解質層が配置された構造を有する。本発明のイオン伝導体は、正極層、負極層および固体電解質層のいずれか1層以上に、固体電解質として含まれてよい。電極層に使用する場合には、負極層よりも正極層に使用することが好ましい。正極層の方が、副反応が生じにくいためである。正極層または負極層に本発明のイオン伝導体が含まれる場合、イオン伝導体と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層としては、活物質と固体電解質が混じり合ったバルク型を用いると、単セルあたりの容量が大きくなることから好ましい。
【0029】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に限定されるものではない。例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレード、スピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて成膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していくプレス法等がある。本発明のイオン伝導体は比較的柔らかいことから、プレスによって成形および積層して電池を作製することが特に好ましい。また、予め活物質、導電助剤、バインダー類が入った電極層を形成させておき、そこに固体電解質を溶媒に溶かした溶液や、溶媒に固体電解質を分散させたスラリーを流し込むこみ、その後溶媒を除去させることによって電極層内に固体電解質を入れこむこともできる。
【0030】
全固体電池を作製する雰囲気としては、水分が管理された不活性ガスもしくはドライルーム内にて実施することが好ましい。水分管理としては、露点-10℃~-100℃の範囲であり、より好ましくは露点-20℃~-80℃の範囲であり、特に好ましくは露点-30℃~-75℃の範囲である。これは、本発明のイオン伝導体の加水分解速度は極めて遅いものの、水和物を形成することによりイオン伝導度が低下することを防ぐためである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
【0032】
<イオン伝導体の調製>
(実施例1)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiCB9H10(Katchem社製)とLiCB11H12(Katchem社製)とを、LiCB9H10:LiCB11H12=9:1のモル比になるように100mg量り取り、メノウ乳鉢にて予備混合した。次に、予備混合した原料を45mLのSUJ-2製ポットに投入し、さらにSUJ-2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで20時間、メカニカルミリング処理を施し、イオン伝導体を得た。X線回折の結果、得られたイオン伝導体はLiCB9H10の高温相を含んでいた。
【0033】
(実施例2)
LiCB9H10とLiCB11H12との混合モル比をLiCB9H10:LiCB11H12=8:2へと変更したことを除き、実施例1と同様にイオン伝導体を製造した。
【0034】
(実施例3)
LiCB9H10とLiCB11H12との混合モル比をLiCB9H10:LiCB11H12=7:3へと変更したことを除き、実施例1と同様にイオン伝導体を製造した。
【0035】
(実施例4)
LiCB9H10とLiCB11H12との混合モル比をLiCB9H10:LiCB11H12=6:4へと変更したことを除き、実施例1と同様にイオン伝導体を製造した。
【0036】
(比較例1)
LiCB9H10とLiCB11H12との混合モル比をLiCB9H10:LiCB11H12=5:5へと変更したことを除き、実施例1と同様にイオン伝導体を製造した。得られたイオン伝導体は、X線回折の結果より、LiCB9H10とLiCB11H12の混相であった。
【0037】
<X線回折測定>
実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体の粉末について、アルゴン雰囲気下、室温(25℃)下、リンデマンガラスキャピラリー(外径0.5mm、厚さ0.01mm)を用いて、X線回折測定(PANalytical社製X‘pert Pro、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。得られたX線回折ピークを
図1A及び
図1Bに示す。
図1Aには比較のため、原料であるLiCB
9H
10およびLiCB
11H
12のX線回折ピークも示す。
実施例1~4では、少なくとも、2θ=14.9±0.3deg、16.4±0.3deg、17.1±0.5degにX線回折ピークが観測された。また、LiCB
9H
10の高温相のピーク位置である16.44degおよび17.07degのピーク位置の強度をそれぞれAおよびBとしたとき、強度比(B/A)を、表1にまとめた。なお、それぞれの強度は、2θ=20degの値をベースラインとみなし、A=(16.44degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、B=(17.07degのX線回折強度)-(20degのX線回折強度)、にて算出した。
実施例1~4はLiCB
9H
10の高温相のピーク位置と一致することから固溶体となっていることがわかるが、比較例1はLiCB
9H
10の低温相およびLiCB
11H
12との混相であり、固溶領域を外れていることがわかる。
【0038】
【0039】
<ラマン分光測定>
(1)試料調製
上部に石英ガラス(Φ60mm、厚さ1mm)を光学窓として有する密閉容器を用いて測定試料の作製を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックスにて、試料を石英ガラスに接する状態で保液させた後、容器を密閉してグローブボックス外に取り出し、ラマン分光測定を行った。
(2)測定条件
レーザーラマン分光光度計NRS-5100(日本分光株式会社製)を使用し、励起波長532.15nm、露光時間5秒にて測定を行った。得られたラマンスペクトルを
図2に示す。
LiCB
9H
10は749cm
-1にピークを有し、LiCB
11H
12は763cm
-1にピークを有する。なお、ラマンシフト値は結合に由来するものであり、結晶状態にはほとんど左右されない。実施例1~2においては763cm
-1のピークが749cm
-1のショルダーピークとなり、実施例3~4および比較例1においては749cm
-1のピークが763cm
-1のショルダーピークとなるが、いずれにおいてもLiCB
9H
10およびLiCB
11H
12が存在していることがわかる。
【0040】
<イオン伝導度測定>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体、原料であるLiCB9H10およびLiCB11H12を一軸成型(240MPa)に供し、厚さ約1mm、φ8mmのディスクを製造した。室温から150℃もしくは80℃の温度範囲において10℃間隔で昇温・降温させ、リチウム電極を利用した二端子法による交流インピーダンス測定(HIOKI 3532-80、chemical impedance meter)を行い、イオン伝導度を算出した。測定周波数範囲は4Hz~1MHz、振幅は100mVとした。
【0041】
それぞれのイオン伝導度の測定結果を
図3に示す。また、室温(25℃)におけるイオン伝導度を表2に示した。なお、実施例1~4および比較例1は、いずれも原料のLiCB
9H
10およびLiCB
11H
12に見られる低温で急激にイオン伝導度が低下する現象が観測されなかった。しかし、比較例1と実施例1~4とはイオン伝導度の差が大きく、実施例1~4の中で最もイオン伝導度の低い実施例4でも、室温におけるイオン伝導度は比較例1より2倍向上していることがわかる。
【0042】
【0043】
(実施例5)
<リチウム対称セルによる溶解・析出試験>
実施例3で得られたイオン伝導体の粉末を直径8mmの粉末錠剤成形機に入れ、圧力143MPaにて円盤状にプレス成形し、固体電解質層(300μm)が積層された円盤状のペレットを得た。このペレットの両側に、厚さ200μm、φ8mmの金属リチウム箔(本城金属社製)を貼り付けて、SUS304製の全固体電池用拘束試験セル(宝泉製)に入れて密閉し、評価セルとした。上記の操作は全てアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。作製した評価セルについて、ポテンショスタット/ガルバノスタット(Bio-Logic製VMP3)を用い、測定温度25℃、電流密度0.2mA/cm
-2にて、0.5時間ずつ極性を反転させて電流を流すことを1サイクル(1時間で1サイクル)とし、評価セルの電極間にかかる電圧を測定した。結果を
図4に示す。過電圧は0.01V未満と小さくフラットであり、異常な電圧を示すこともない。100サイクル後も過電圧の増加はわずかにとどまり、良好にLiの溶解・析出が繰り返されることが示された。
【0044】
(実施例6)
<充放電試験>
(正極活物質の調製)
硫黄(S)(アルドリッチ社製、純度99.98%)、ケッチェンブラック(ライオン社製、EC600JD)およびMaxsorb(登録商標)(関西熱化学製、MSC30)を、S:ケッチェンブラック:Maxsorb(登録商標)=50:25:25の重量比になるように45mLのSUJ-2製ポットに投入した。さらにSUJ-2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで20時間メカニカルミリングを行い、S-カーボンコンポジット正極活物質を得た。
(正極層粉末の調製)
上記で調製したS-カーボンコンポジット正極活物質:実施例3で得られたイオン伝導体=1:1(重量比)となるように、粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。
【0045】
(全固体電池の作製)
実施例3で得られたイオン伝導体の粉末を直径10mmの粉末錠剤成形機に入れ、圧力143MPaにて円盤状にプレス成形した(固体電解質層の形成)。成形物を取り出すことなく、上記で調製した正極層粉末を錠剤成形機に入れ、圧力285MPaにて一体成型した。このようにして、正極層(75μm)および固体電解質層(300μm)が積層された円盤状のペレットを得た。このペレットの正極層の反対側に、厚さ200μm、φ8mmの金属リチウム箔(本城金属社製)を貼り付けてリチウム負極層とし、SUS304製の全固体電池用拘束試験セル(宝泉製)に入れて密閉し、全固体二次電池とした。
【0046】
(充放電試験)
上記のように作製した全固体二次電池について、ポテンショスタット/ガルバノスタット(Bio-Logic製VMP3)を用い、測定温度25℃、カットオフ電圧1.0~2.5V、0.1Cレートの定電流にて、放電から充放電試験を開始した。なお、放電容量は、試験した電池で得られた放電容量を硫黄系電極活物質1g当たりの値として表記した。また、クーロン効率=充電容量/放電容量 にて算出した。結果を
図5に示した。
初回の放電時には大きな不可逆容量が観測されたものの、2サイクル目以降は98%以上の高いクーロン効率を示した。サイクル特性としては、初回の放電容量が1900mAh/gであるのに対し、2サイクル目は1300mAh/gと落ちが大きいものの、3サイクル目以降は安定し、20サイクル目の放電容量は1100mAh/gであり、大きな発現容量を得ることができた。