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特許7360418腫瘍内微小環境に影響を与えるベータ-グルカン方法と組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】腫瘍内微小環境に影響を与えるベータ-グルカン方法と組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/716 20060101AFI20231004BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61K31/716 ZMD
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P37/04
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021082569
(22)【出願日】2021-05-14
(62)【分割の表示】P 2017524481の分割
【原出願日】2015-11-05
(65)【公開番号】P2021138714
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】62/076,094
(32)【優先日】2014-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/115,895
(32)【優先日】2015-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/149,892
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/234,276
(32)【優先日】2015-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/239,005
(32)【優先日】2015-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517008537
【氏名又は名称】バイオセラ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】ボーズ,ナンディタ
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン,キース
(72)【発明者】
【氏名】チャン,アニッサ エスエイチ.
(72)【発明者】
【氏名】レオナルド,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】グラフ,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】チウ,シャオホン
(72)【発明者】
【氏名】カンガス,タカシ
(72)【発明者】
【氏名】フレイザー,キャスリン エー.
(72)【発明者】
【氏名】バイコウスキー ヨナス,アドリア
(72)【発明者】
【氏名】オットソン,ナディーン
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/165593(WO,A1)
【文献】特開2006-340714(JP,A)
【文献】Cancer Research, 2010, Vol. 70, No. 8 Supplement, pp. 1365-1366, Abstract 5627
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/716
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 37/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD-1抗体治療を受ける対象に投与される薬剤の製造における可溶性のβ-(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースの使用であって、ここで、前記薬剤は対象の癌を処置するための薬剤であり、及び、
前記対象はIL-2を投与されない、使用。
【請求項2】
抗PD-1抗体は非補体活性化の非腫瘍標的化抗体である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記対象はバビツキシマブ、イピリムマブ、もしくはトレメリムマブをさらに投与され、又は腫瘍標的化抗体をさらに投与される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
可溶性のβ-(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースは酵母由来である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記酵母はSaccharomyces cerevisiaeである、請求項に記載の使用。
【請求項6】
前記抗PD-1抗体はニボルマブ又はペムブロリズマブである、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記癌は黒色腫、腎細胞癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、結腸癌、もしくはB細胞リンパ腫である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤は対象の免疫系を刺激する、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記薬剤は対象に静脈内投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
抗VEGF抗体治療、又は抗VEGFR2抗体治療を受ける対象に投与される薬剤の製造における可溶性のβ-(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースの使用であって、ここで、対象はTGF-β阻害剤を投与されず、前記薬剤は対象の癌を処置するための薬剤である、使用。
【請求項11】
前記可溶性のβ-(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースは酵母由来である、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
抗PD-1抗体治療を受ける対象における癌の処置に使用される医薬組成物であって、前記組成物は、可溶性のβ(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースを含み、前記対象はIL-2を投与されない、医薬組成物。
【請求項13】
前記抗PD-1抗体はニボルマブ又はペムブロリズマブである、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2014年11月6日に出願された米国仮特許出願第62/076,094号と、2015年2月13日に出願された第62/115,895号と、2015年4月20日に出願された第62/149,892号と、2015年9月29日に出願された第62/234,276号と、2015年10月8日に出願された第62/239,005号に対する優先権を主張し、当該文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本開示は、可溶性のβ-グルカンと、免疫抑制緩和型の抗癌剤を含む腫瘍内微小環境に影響を与える抗癌剤との組み合わせに関する。β-グルカンは真菌のPAMPであり、好中球と単球を含む、先天性の免疫細胞上の3型補体受容体(CR3)であるパターン認識受容体と同様に、血清中のパターン認識分子C3によって認識される。酵母由来の多糖類β-グルカンである、β-グルカン(β-(1,6)-[ポリ-1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノース)は、複数の癌の処置のために抗腫瘍モノクローナル抗体と組み合わせた免疫療法薬として開発されている。β-グルカンにより、先天性の免疫エフェクター細胞は補体CR3依存型メカニズムによって補体でコーティングされた腫瘍細胞を殺すことができる。多くの動物腫瘍モデルは、補体を活性化する、腫瘍を標的とする抗体と組み合わせて可溶性のβ-グルカンを投与することにより、いずれか一方のみを投与した場合と比較して、腫瘍の増殖を有意に抑えるとともに、全体の生存を改善することを実証した。
【0003】
しかしながら、癌は単なる悪性細胞の塊というわけではなく複雑な「器官」であり、他の多くの非形質転換細胞を補充したり使用したりする。悪性細胞と非形質転換細胞の間の相互作用により、腫瘍内微小環境(TME)が作られる。TMEの非悪性細胞は発癌の様々な工程で動的な機能、しばしば腫瘍促進機能を有する。サイトカイン、ケモカイン、成長因子、および炎症性酵素とマトリックスリモデリング酵素の複雑かつ動的なネットワークは、罹患組織内で細胞間通信を行わせる。したがって、効果的に癌を克服するためには、TMEの腫瘍を促進する性質を抑える治療を開発せねばならない。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、1つの態様において、腫瘍内微小環境に影響を与える抗癌剤と組み合わせた可溶性のβ-グルカンの使用と組成物について記載している。1つの実施形態では、抗癌剤はチェックポイント阻害剤であってもよい。別の実施形態では、抗癌剤は抗血管新生薬であってもよい。併用療法はさらに腫瘍を標的とする抗体を含んでもよい。
【0005】
上記の要約は、本明細書に記載されるテクノロジーの開示された各実施形態またはすべての実施について記載することを意図したものではない。とりわけ、以下の記載は例示的な実施形態を例証している。本出願全体にわたって複数の場所では、ガイダンスは実施例の一覧によって与えられ、実施例は様々な組み合わせで使用可能である。それぞれの例では、詳述された一覧は代表的なグループとしての機能を果たすだけであり、排他的な一覧として解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】インビトロで培養されたヒトのM1とM2のマクロファージの形態的および機能的な特徴付け。
図1B】インビトロで培養されたヒトのM1とM2のマクロファージの形態的および機能的な特徴付け。
図1C】インビトロで培養されたヒトのM1とM2のマクロファージの形態的および機能的な特徴付け。
図1D】インビトロで培養されたヒトのM1とM2のマクロファージの形態的および機能的な特徴付け。
図2A】可溶性のβ-グルカンで処理されたM2マクロファージの形態的、表現型的、および機能的な特徴付け。
図2B】可溶性のβ-グルカンで処理されたM2マクロファージの形態的、表現型的、および機能的な特徴付け。
図2C】可溶性のβ-グルカンで処理されたM2マクロファージの形態的、表現型的、および機能的な特徴付け。
図2D】可溶性のβ-グルカンで処理されたM2マクロファージの形態的、表現型的、および機能的な特徴付け。
図3A】高バインダーおよび低バインダーからのβ-グルカンにより処置されたM1とM2のマクロファージにおける、CD4T細胞の増殖と、IFN-γおよびIL-4の産生の調節との評価。
図3B】高バインダーおよび低バインダーからのβ-グルカンにより処置されたM1とM2のマクロファージにおける、CD4T細胞の増殖と、IFN-γおよびIL-4の産生の調節との評価。
図3C】高バインダーおよび低バインダーからのβ-グルカンにより処置されたM1とM2のマクロファージにおける、CD4T細胞の増殖と、IFN-γおよびIL-4の産生の調節との評価。
図3D】高バインダーおよび低バインダーからのβ-グルカンにより処置されたM1とM2のマクロファージにおける、CD4T細胞の増殖と、IFN-γおよびIL-4の産生の調節との評価。
図4】免疫抑制性条件下でβ-グルカンにより処置されたM2とM2aマクロファージにおける、T細胞の増殖と、IFN-γの調節との評価。
図5A】Tregsの存在下でのCD4/CD8T細胞の増殖と活性化に対するβ-グルカンの評価。
図5B】Tregsの存在下でのCD4/CD8T細胞の増殖と活性化に対するβ-グルカンの評価。
図5C】Tregsの存在下でのCD4/CD8T細胞の増殖と活性化に対するβ-グルカンの評価。
図5D】Tregsの存在下でのCD4/CD8T細胞の増殖と活性化に対するβ-グルカンの評価。
図5E】Tregsの存在下でのCD4/CD8T細胞の増殖と活性化に対するβ-グルカンの評価。
図6A】インビトロで培養されたヒト未熟単球由来の樹状細胞(imMoDC)と成熟した単球由来の樹状細胞(mMoDC)の特徴付け。
図6B】インビトロで培養されたヒト未熟単球由来の樹状細胞(imMoDC)と成熟した単球由来の樹状細胞(mMoDC)の特徴付け。
図7A】MoDCsの成熟に対するβ-グルカンの効果の評価。
図7B】MoDCsの成熟に対するβ-グルカンの効果の評価。
図7C】MoDCsの成熟に対するβ-グルカンの効果の評価。
図7D】MoDCsの成熟に対するβ-グルカンの効果の評価。
図8A】細胞間接触によるM2-β-グルカンにより増加したCD4T細胞の増殖の結果。
図8B】細胞間接触によるM2-β-グルカンにより増加したCD4T細胞の増殖の結果。
図8C】細胞間接触によるM2-β-グルカンにより増加したCD4T細胞の増殖の結果。
図9】可溶性の因子によるM2-β-グルカンにより増加したCD4T細胞の増殖の結果。
図10】高バインダーVS低バインダーでのβ-グルカンで処置されたM2マクロファージの分析。
図11A】高バインダーからの血清の存在下で低バインダーの単球に由来するM2-β-グルカンの機能評価の結果。
図11B】高バインダーからの血清の存在下で低バインダーの単球に由来するM2-β-グルカンの機能評価の結果。
図12A】免疫抑制サイトカイン(TCM)の存在下で培養されたβ-グルカンにより処置されたM2マクロファージ上でのPD-L1アップレギュレーション。
図12B】免疫抑制サイトカイン(TCM)の存在下で培養されたβ-グルカンにより処置されたM2マクロファージ上でのPD-L1アップレギュレーション。
図13】MiaPaCaでのPD-L1アップレギュレーション。
図14A】骨髄由来のサプレッサー細胞(MDSC)に対する可溶性のβ-グルカンの効果。
図14B】骨髄由来のサプレッサー細胞(MDSC)に対する可溶性のβ-グルカンの効果。
図15】腫瘍細胞上でのβ-グルカンにより誘発されたPD-L1発現の評価。
図16A】DC101抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
図16B】DC101抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
図16C】DC101抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
図16D】DC101抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
図17A】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17B】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17C】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17D】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17E】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17F】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17G】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17H】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17I】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17J】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17K】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17L】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17M】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図17N】可溶性のβ-グルカンとベバシズマブの腫瘍内微小環境に対するインビボ効果。
図18A】可溶性のβ-グルカンと抗PD-1抗体の腫瘍内微小環境に対する効果。
図18B】可溶性のβ-グルカンと抗PD-1抗体の腫瘍内微小環境に対する効果。
図18C】可溶性のβ-グルカンと抗PD-1抗体の腫瘍内微小環境に対する効果。
図19A】抗PD-1抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
図19B】抗PD-1抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
図19C】抗PD-1抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを使用するマウス研究の結果。
【発明を実施するための形態】
【0007】
β-グルカンは、例えば、酵母、細菌、藻類、海草、マッシュルーム、カラスムギ、およびオオムギを含む、様々な微生物源や植物源に由来するグルコースのポリマーである。これらのなかで、酵母β-グルカンはその免疫調節特性について広範に評価されている。酵母β-グルカンは、例えば、無処置の酵母、チモサン、精製された全グルカン粒子、可溶化チモサン多糖類、または高度に精製された様々な分子量の可溶性のβ-グルカンなどの様々な形態で存在することができる。構造上、酵母β-グルカンは、β-(1,6)グリコシド結合によってその骨格に結合された周期的なβ-(1,3)グルコピラノースを含むβ-(1,3)結合グルコピラノース骨格として組織されたグルコース単量体からなる。酵母β-グルカンの様々な形態は、互いに異なるように機能することができる。酵母β-グルカンがその免疫調節効果を発揮するメカニズムは、例えば、β-グルカンの様々な形態間の構造的な違い、例えば、その微粒子特性または可溶性特性、三次立体構造、主鎖の長さ、側鎖の長さ、および側鎖の頻度などによって影響を受けることがある。酵母β-グルカンは免疫刺激機能は、様々な種の様々な細胞型に関与する受容体にも依存し、これもβ-グルカンの構造特性に依存することがある。
【0008】
一般に、(β)-グルカン免疫療法は、β-グルカンの任意の適切な形態、またはβ-グルカンの2つ以上の形態の任意の組み合わせを被験体に投与することを含み得る。適切なβ-グルカンと、その自然源からの適切なβ-グルカンの調製は、例えば、米国特許出願公開第US2008/0103112 A1号に記載されている。場合によっては、(β)-グルカンは例えば、Saccharomyces cerevisiaeなどの酵母に由来することもある。特定の場合には、(β)-グルカンは、可溶性の酵母に由来するβ-グルカンの高度に精製され、かつ十分に特徴付けられた形態である、PGG(IMPRIME PGG、Biothera、Eagan、MN)とも呼ばれる、β(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースであることもあれば、またはこれに由来することもある。さらに、β-グルカンベースの免疫療法は、例えば、国際特許出願第PCT/US12/36795号に記載されるような修飾されたおよび/または誘導されたβ-グルカンの使用を含み得る。他の場合には、(β)-グルカン免疫療法は、例えば、微粒子可溶性のβ-グルカン、または微粒子可溶性のβ-グルカン調製物を投与することを含むことがあり、これらは各々、例えば米国特許第7,981,447号に記載されている。
【0009】
抗癌性免疫療法薬は、複数のモダリティ:1)先天性の免疫細胞の直接的な活性化、2)適応的な免疫細胞の直接的な活性化、3)腫瘍細胞をより免疫原性にすることにより、または腫瘍により引き起こされる免疫抑制を妨害することにより、先天性かつ適応的な免疫細胞の間接的な活性化、によって癌細胞を殺す。
【0010】
M2マクロファージ、N2好中球、および骨髄由来のサプレッサー細胞(MDSC)を含む腫瘍内微小環境(TME)の骨髄性細胞は、細胞傷害性T細胞の機能的な消耗を直接引き起こすことにより、またはT-調節性細胞(Tregs)の抑制力を間接的に高めることにより、免疫抑制を促すことができる。これにより、TMEにおける免疫賦活性と免疫抑制性のバランスにひずみが生じる。TMEの免疫賦活性環境は、細胞傷害性T細胞とNK細胞、細胞溶解性および食作用誘発性のM1マクロファージ、細胞毒性のN1好中球、体液性応答誘発B細胞、および抗原提示免疫原性樹状細胞(DC)の存在によって大部分は形作られる。インターフェロンガンマ(IFN-γ)、インターロイキン12(IL-12)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)などのような免疫賦活性のサイトカインとケモカインは、免疫賦活性活性のコーディネーターである。TMEの免疫抑制性の性質を偏らせる免疫細胞は、抗炎症性のTh2細胞、N2好中球、M2マクロファージ、Tregs、および免疫寛容原性のDCである。形質転換増殖因子-ベータ(TGF -β)、インターロイキン10(IL-10)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、インターロイキン4(IL-4)などのような免疫抑制性のサイトカインとケモカインは、免疫抑制性の活性を調和させる。
【0011】
可溶性のβ-グルカンは、骨髄起原の細胞(すなわち、好中球と単球)上でCD11bに結合する病原体に関連する分子パターン(PAMP)であるため、N1好中球とM1マクロファージの免疫賦活性機能に結合してこれを増大させ、MDSC、N2好中球、およびM2マクロファージの免疫抑制機能を低下させる。この調節により、TME中で様々な先天性かつ適応性の細胞サブセット間のクロストークを誘発し、最終的にはバランスを免疫刺激の方へと傾ける。具体的には、いったん末梢血単核球と結合すると、可溶性のβ-グルカンは、M1/抗腫瘍形成性対M2/論腫瘍形成促進性の極性化条件で単球のマクロファージへの分化を調節し、その結果、M1極性化が増強され、これによりマクロファージ免疫賦活性機能が増大し、M2極性化が抑制され、それによりマクロファージ免疫抑制機能が低下する。可溶性のβ-グルカンは、M1表現型へのM2再分極化に直接影響を与え、Th1分極化を駆動し、可溶性のβ-グルカンで刺激された先天性の免疫細胞は、Tregsの存在下であってもサイトカインを生成して間接的にCD4とCD8のT細胞増殖に影響を与え、最終的にはTh1極性化を駆り立てる。したがって、可溶性のβ-グルカンは、先天性の免疫系の十分な機能性を得るために、抗原提示の増強によって適応的な免疫系とのクロストークを生成させ、腫瘍を標的とする抗体、抗血管新生治療、およびチェックポイント阻害剤の抗腫瘍有効性を増強するために、PAMPとして機能する。
【0012】
可溶性のβ-グルカンは、先天性および適応的な免疫反応、単球由来のマクロファージ、および樹状細胞を架橋することが知られている、2つの先天性の細胞サブセットを介して適応的な免疫反応を誘発し、単球由来のマクロファージと樹状細胞の両方でのPD-L1の発現をアップレギュレートする。PD-L1アップレギュレーションにもかかわらず、可溶性のβ-グルカンにより処置された単球由来のマクロファージと樹状細胞はT細胞の活性化と増殖を増強し、可溶性のβ-グルカンによって誘発された協調的な免疫反応は、適応的な免疫耐性と同種の腫瘍反応を誘発する(つまり、PD-L1の表面発現のアップレギュレーション)。
【0013】
可溶性のβ-グルカンは、非補体活性化の腫瘍標的化免疫抑制緩和型MAbsと組み合わせることが可能である。例えば、可溶性のβ-グルカンは、黒色腫、腎細胞癌、肺癌などの複数の癌の処置において、抗-PD-L1免疫チェックポイント阻害剤(Fc操作されたIgG1 MAb)と組み合わせ可能である。抗PD-1/PD-L1抗体の有効性は腫瘍上でのPD-L1の発現レベルに依存し得る。腫瘍でのPD-L1発現のメカニズムの1つは適応的な免疫耐性と呼ばれ、PD-L1発現は、腫瘍内微小環境(例えば、活性化T細胞によるインターフェロンガンマ産生)内での免疫反応の結果として適応的に誘発される。可溶性のβ-グルカンは、直接的または間接的にTh1極性化を引き起こす。この効果は、腫瘍細胞上のPD-L1の発現をアップレギュレートし、それによって抗PD-1/PD-L1抗体の抗腫瘍活性を増強する。こうしたチェックポイント阻害剤の例は、ニボルマブとペムブロリズマブである。
【0014】
可溶性のβ-グルカンは、免疫の同時刺激を増強する非補体活性化、非腫瘍標的化MAbsと組み合わせることが可能である。いくつかの例としては、a)抗CD40 MAb(IgG2 MAb)、標的化樹状細胞と、b)抗OX40、抗41BB、いくつかの癌の処置におけるT細胞同時刺激の促進剤が挙げられる。これらは例えばニボルマブのような抗PD-1抗体をさらに含む。
【0015】
可溶性のβ-グルカンは非補体活性化、非腫瘍標的化免疫抑制緩和型の小分子、および/または非補体活性化、腫瘍標的化免疫抑制緩和型の小分子と組み合わせることが可能である。これを癌ワクチン中でアジュバントとして使用することでTh1極性化を駆り立てることができる。これを治療的に使用して、感染の完全な排除を促すために慢性疾患(つまりTB)中の抑制メカニズムを低下させることができる。最後に、これを用いて、Th2優性の自己免疫疾患(アレルギー、喘息、アトピー性疾患)におけるTh2-Th1の平衡を、Th1極性化された環境に偏らせることができる。
【0016】
非補体活性化の免疫抑制緩和剤が好まれることもあるが、とりわけ、非腫瘍標的化薬剤については、本発明は補体活性化免疫抑制緩和剤とともに実施されることもある。こうした薬剤の例としては、バビツキシマブ、イピリムマブ、およびトレメリムマブが挙げられる。
【0017】
本発明は、別の医薬品とともにβ-グルカンを同時投与することを部分的に含み、該医薬品は、本明細書でしようされるように、抗体調製物、または小分子調製物、またはTMEに影響を与えるために投与される任意の調製物であってもよい。本明細書で使用されるように、「同時投与された」とは、ある組み合わせの2つ以上の成分が、その組み合わせの治療的または予防的な効果がいずれかの成分が単独で投与されたときの治療的または予防的な効果より大きくなるように投与されることを指す。2つの成分は同時にまたは連続的に同時投与されてもよい。同時に同時投与された成分は、1つ以上の医薬組成物中で提供されてもよい。2つ以上の成分の連続的な同時投与は、両方の成分が投与された後にその両方の成分が同時に生体利用可能となるように成分が投与される場合を含む。成分が同時にまたは連続して同時投与されるかどうかにかかわらず、成分は1つの部位または様々な部位で同時投与されることがある。
【0018】
別の態様では、該方法は、抗体、治療用抗体、抗腫瘍抗体、または抗体のFc部分などの抗体フラグメントに共役したβ-グルカン部分を含む組成物を被験体に投与する工程を含む。β-グルカン部分のβ-グルカン接合体と抗体を含む、修飾されたおよび/または誘導体化した可溶性のβ-グルカンは、国際特許出願第PCT/US12/36795号に記載されており、これは抗体フラグメントの接合体に適用されることがある。β-グルカン部分はβ-1,3/1,6グルカンであってもよく、またはβ-1,3/1,6グルカンに由来してもよい。本文脈における「由来の」とは、接合体がβ-グルカンの1つ以上の原子を置き換える共有結合を形成することにより必ず調製され得るということを認めるものである。本明細書で使用されるように、「β-1,3/1,6グルカンに由来の」とは、接合体の共有結合を形成するためにβ-グルカンの1つ以上の原子を交換した後に接合体の一部として残るβ-グルカンの一部を指す。
【0019】
β-グルカン、抗体、または小分子調製物、および/または両方の成分の組み合わせが、「担体」とともに組成物中に処方されてもよい。本明細書で使用されるように、「担体」とは、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤、および/または抗真菌薬、等張剤、吸収遅延薬、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。医薬品活性物質のためのこうした媒体および/または薬剤の使用は、当該技術分野では周知である。任意の従来の媒体または薬剤がβ-グルカンまたは抗体と互換性がない時を除いて、治療用組成物でのその使用が企図されている。補足の活性成分も組成物に組み入れることができる。
【0020】
「薬学的に許容可能な」とは、生物学的にまたはそれ以外の方法で望ましくないわけではない材料を意味し、つまり、材料は、いかなる望ましくない生物学的効果を引き起こすともなく、またはそれが含まれている医薬組成物の他の成分のいずれとも有害なやり方で相互作用することなく、β-グルカンおよび/または医薬品と共に個体に投与されてもよい。
【0021】
β-グルカン、医薬品、および/または、両方の成分の組み合わせは医薬組成物へとなるように処方されてもよい。いくつかの実施形態において、(β)-グルカンと医薬品は単一の製剤で提供されてもよい。他の実施形態において(β)-グルカンと医薬品は別々の製剤で提供されてもよい。医薬組成物は、1つ以上の好ましい投与経路に適した様々なおよび/または複数の形態で処方されてもよい。したがって、医薬組成物は、経口、非経口(例えば、皮内、経皮的、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)、または局所的(例えば、鼻腔内、肺内、乳腺内、膣内、子宮内、皮内、経皮的、直腸など)を含む、1つ以上の既知のルートに従って経由可能である。医薬組成物またはその一部は、例えば鼻粘膜または呼吸粘膜への投与(例えばスプレーまたはエアロゾルによる)によるなどの粘膜表面に投与可能である。医薬組成物またはその一部は、持続放出または遅延放出によっても投与可能である。
【0022】
製剤は、単位用量形態で都合よく提示されてもよく、薬学の技術で周知の方法によって調製されてもよい。薬学的に許容可能な担体を含む組成物を調製する方法は、β-グルカンおよび/または医薬品を、1つ以上の副成分を構成する担体と会合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性化合物を液体担体、微粉固体担体、またはその両方と均一におよび/または密接に会合させること、および、その後、必要に応じて、生成物を所望の製剤に成形することによって調製されてもよい。
【0023】
β-グルカン、医薬品、および/または、その両方の成分の組み合わせは、限定されないが、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル、または混合物の任意の形態を含む任意の適切な形態で提供されてもよい。組成物は、任意の薬学的に許容可能な賦形剤、担体、またはビヒクルを含む製剤で送達されてもよい。例えば、製剤は、例えばクリーム、軟膏、エアロゾル製剤、非エアロゾル噴霧剤、ゲル、ローションなどのような従来の局所的な剤形で送達されてもよい。製剤は、例えば、アジュバント、皮膚浸透促進剤、着色剤、香水、調味料、保湿剤、増粘剤などを含む1つ以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0024】
いくつかの実施形態において、(β)-グルカンは例えばSaccharomyces cerevisiaeなどの酵母に由来することがある。いくつかの実施形態において、(β)-グルカンはβ-1,3/1,6グルカン、例えば、β(1,6)-[ポリ-(1,3)-D-グルコピラノシル]-ポリ-β(1,3)-D-グルコピラノースを含み得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、方法は、例えば、約100ng/kgから約50mg/kgの投与量を被験体に提供するために十分なβ-グルカンを投与する工程を含み得るが、実施形態によっては、方法はこの範囲外の投与量のβ-グルカンを投与することにより行われることもある。いくつかの実施形態では、方法は、約10μg/kgから約5mg/kgまでの投与量、例えば約4mg/kgの投与量を被験体に提供するために、十分なβ-グルカンを投与する工程を含む。代替的に、投与量は、処置コースの開始直前に得られる実際の体重を使用して計算されてもよい。このように計算された投与量について、体表面積(m)は、デュボア方法(Dubois method):m=(体重kg0.425×身長cm0.725)x0.007184 を使用して処置コースの開始直前に計算される。いくつかの実施形態では、したがって、方法は、例えば、約0.01mg/mから約10mg/mまでの投与量を提供するために、十分なβ-グルカンを投与する工程を含み得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、方法は、例えば、約100ng/kgから約50mg/kgの投与量を被験体に提供するためにβ-グルカンに特異的に結合する十分な抗体を投与する工程を含み得るが、実施形態によっては、該方法はこの範囲外の投与量の抗体を投与することにより行われてもよい。いくつかの実施形態では、方法は、約10μg/kgから約5mg/kgまでの投与量、例えば、約100μg/kgから約1mg/kgまでの投与量を被験体に提供するために十分な抗体を投与する工程を含む。
【0027】
代替的に、投与量は、処置コースの開始直前に得られる実際の体重を使用して計算されてもよい。このように計算された投与量について、体表面積(m)は、デュボア方法(Dubois method):m=(体重kg0.425×身長cm0.725)x0.007184 を使用して処置コースの開始前に計算される。いくつかの実施形態では、したがって、方法は、例えば、約0.01mg/mから約10mg/mまでの投与量を提供するために十分な抗体を投与する工程を含み得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、β-グルカンと医薬品は、例えば、毎週一回投与量から複数回投与量までで同時投与されてもよいが、実施形態によっては、該方法はβ-グルカンと医薬品をこの範囲外の頻度で同時投与することにより行われてもよい。ある実施形態では、β-グルカンと医薬品は、毎年約一度から毎週一度まで投与されてもよい。
【0029】
用語「および/または」とは、列挙された要素の1つまたはすべて、あるいは列挙された要素のいずれか2つ以上の組み合わせを意味し、用語「含む」とその変化形態は、本記載と請求項に現われる場合には限定的な意味を有していない。別段の定めがない限り、「1つの(a)、(an)」、「その(the)」、および、「少なくとも1つ」は、交換可能に使用され、1つまたはそれ以上を意味し、ならびに、エンドポイントによる数値範囲の列挙は、その範囲内に入れられる数をすべて含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0030】
前の記載では、特定の実施形態は、明快さのために分離して記載されることがある。特定の実施形態の特徴が別の実施形態の特徴と矛盾するという別段の定めのない限り、特定の実施形態は、1つ以上の実施形態に関連して、本明細書に記載される矛盾のない特徴の組み合わせを含み得る。
【0031】
別々の工程を含む本明細書で開示された任意の方法について、工程は任意の実行可能な順序に行われてもよい。そして、必要に応じて、2つ以上の工程のいかなる組み合わせも同時に行われてもよい。
【0032】
本発明は以下の例によって例証される。特定の例、材料、量、および手順は、本明細書で説明される本発明の範囲と精神に合わせて広く解釈されるものであることが理解されよう。
【実施例
【0033】
<実施例1>
インビトロで培養されたヒトM1とM2のマクロファージの確立と特徴付け:ヒトの全血からのCD14+単球を、フィコール密度勾配と磁気ビーズ分離を使用して濃縮した。その後、濃縮した単球(1mL当たり5×105細胞)をその後、M1極性化(5%の自己血清と100ng/mLの組み換えのヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(rhGM-CSF)(R&D Systems)を追加されたXVivo 10媒体(Lonza Group))、または、M2極性化(10%の自己血清と50ng/mLの組み換えのヒトマクロファージコロニー刺激因子(rhM-CSF)(R&D Systems)を追加されたXVivo 10媒体)の条件下で6日間培養した。β-グルカンの効果を評価するために行われた実験では、全血はビヒクル(クエン酸ナトリウム緩衝剤)または25μg/mLの可溶性のグルカンを用いて37°Cで2時間最初に培養され、その後、単球を単離して分化させた。表現型の分析のためにマクロファージを収穫する前に、形態をチェックした。6日目のマクロファージ培養物(MCM)の培地を集め、遠心沈殿させて汚染された細胞ペレット剤を取り除き、ELISAによるその後のサイトカイン分析のために凍結させるか、または表面マーカーあるいはCD4 T細胞増殖を評価するべく、CD3とCD28で刺激されたCD4 T細胞(MCM-CD4 T)を含む共培養を設定するために用いた。表面マーカーの調節またはCD4 T細胞増殖に対する効果のいずれかを評価するべく、マクロファージを用いて、CD3とCD28により、またはCD3のみで刺激されたCD4 T細胞(MacCD4 T)を用いて共培養を6日目に設定した。Mac-CD4 T細胞増殖研究について、M1またはM2のマクロファージを、CD3とCD28で、またはCDのみで刺激した、CFSEで標識した自己由来のCD4 T細胞を1:10の比率で培養した。T細胞増殖はフローサイトメトリーによって実験の最後に(9日目-11日目)測定され、結果をCFSE希釈ピークとしてグラフで示す。CD3のみで刺激されたT細胞の評価は常に11日目に行われた。定量的な結果は、培養条件の各々において3通りのウェルの各々について計算された分裂指数(Division Index)(母集団の経験した細胞分裂の平均回数)として報告された。MacCD4 T細胞共培養の培養上清が、その後のサイトカイン分析のために集められた。
【0034】
MacCD4 T細胞表面マーカー調節の評価について、M2マクロファージは上に記載されているようにT細胞で共培養され、M2マクロファージとT細胞の両方で表面受容体染色を行うために、8日目、9日目、および10日目に細胞を収穫した。
【0035】
MCM-CD4 T細胞増殖研究について、CD3とCD28により刺激され、CFSE標識されたCD4 T細胞を50%のMCMで培養した。T細胞増殖を上に記載されているように11日目に測定した。MCM-CD4 T細胞共培養の培養上清を、その後のサイトカイン分析のために集めた。MCM-CD4 T細胞表面マーカーの評価を上に記載されるように行った。
【0036】
上に記載されたように、Mac-CD4 T細胞増殖のA)形態、B)表現型、およびC)機能の評価と、D)共培養におけるサイトカイン分析のために、M1とM2のマクロファージを調製して特徴付けした。図1A-1Cは、5つの様々な実験からの代表的結果を含んでいる。
【0037】
1つの文献毎に、M1の形態は、より丸くなったように見え、M2はより細長い繊維芽細胞のようであった(図1A)。M1/M2に特異的なマーカーの発現が、フローサイトメトリーによって評価された。アイソタイプ対照着色と表面抗原着色のために中央のMFIが計算され、その結果が表1に示される。
【0038】
【表1】
【0039】
表現型に関する文献と一致して、M1マクロファージは典型的にはより高次のHLA-DRとCD274(PD-L1)を発現したが、M2マクロファージはより高次のCD163とCD14を発現した。さらに、インビトロで分化したM2マクロファージと比較して、M1マクロファージは、図1Bで示されるように、CD4 T細胞を有意に増殖させた。増殖の増強と同時に、インターフェロンガンマ(IFN-γ)の産生の増加は、M1とCD4のT細胞共培養の上清中で観察された(図1C)。
【0040】
M1とM2のマクロファージ(指定されたM1aとM2aのマクロファージ)の活性化を含む、ヒトのマクロファージのインビトロでの培養と特徴付けのための代替的な方法の工程が以下に概説される。この方法は実験の次のシリーズで用いられた。
【0041】
【化1】
上に記載されたように調製され特徴付けられた活性化M1aとM2sのマクロファージは、形態と表現型について特徴付けられた。5つの様々な実験からの代表的な結果がここに示される。
【0042】
図1Dは、M1aとM2aのマクロファージの形態を示す。M1a/M2aに特異的なマーカーの発現がフローサイトメトリーによって評価された。中央のMFIはアイソタイプ対照着色と表面抗原着色について計算され、その結果が表2に示される。
【0043】
【表2】
【0044】
<実施例2>
M2からM1への再分極に対するβ-グルカンの効果:ビヒクルによりまたはβ-グルカンにより処置された全血からのM1とM2のマクロファージを、上に記載されたように調製した。M1/M2に特異的なマーカー(HLA-DR、CD163、CD206、CD209、CD80、CD86、およびPD-L1を含む)のパネルの発現は、フローサイトメトリーによって測定された。β-グルカンの前処置はM1マクロファージ表現型に影響を与えなかったが、M2マクロファージ表現型には影響を与えた。図2Aで示されるように、CD163の平均蛍光強度(MFI)は、β-グルカンにより処置されたM2マクロファージでダウンモジュレートされる。加えて、CD86の表面発現は、PD-L1のタンパク質とmRNAの両方のレベルと同様に増強された(図2B)。
【0045】
次に、ビヒクルによりまたはβ-グルカンにより処置されたM1またはM2マクロファージは、CD3とCD28により刺激されたカルボキシフルオセインジアセテートサクシニミジルエステル(CFSE)で標識された自己CD4 T細胞を用いて培養され、実験の最後にフローサイトメトリーによってT細胞増殖を測定した。その結果を分裂指数(母集団が経験した細胞分裂の平均回数)として定量的に報告した。図2Cは、β-グルカンにより処置されたM2マクロファージでT細胞を共培養することにより行われた代表的なCFSE希釈T細胞増殖アッセイであり、その結果は、CD4 T細胞増殖を増強するβ-グルカンにより処置されたM2マクロファージの能力を示している。
【0046】
CFSE希釈T細胞増殖アッセイ(図2B)からの培養上清も、ELISAによってIFNγレベルについて測定した。図2Dは、IFN-ガンマ産生の同時の増大を示す、IFN-ガンマレベルの代表的なグラフである。したがって、β-グルカンはM2からM1への再分極に影響を与え、抗腫瘍形成性のTh1極性化を駆り立てる。
【0047】
<実施例3>
高結合性の被験体対低結合性の被験体からの細胞におけるM2からM1への再分極に対するβ-グルカンの効果:好中球と単球への可溶性のβ-グルカンの結合を評価する初期の研究は、被験体が様々な結合能力を備えていることを明らかにした。さらなる研究では、可溶性のβ-グルカンが高結合性の被験体の免疫細胞の少なくともいくつかに結合しており、高結合性の被験体は高次の天然の抗β-グルカン抗体を有していることが分かった。機能的な研究は、結合レベルと抗体レベルの一般的なカットオフを特定し、これを用いて被験体を高バインダー(β-グルカンに対して高応答性)と低バインダー(β-グルカンに対して低応答性)であることを特定した。
【0048】
この目的のために、高バインダーと低バインダーからの可溶性のβ-グルカンにより処置された単球に由来するM1/M2マクロファージの評価が行われた。高バインダーと低バインダーからのM1とM2のマクロファージはその後、A)表現型、B)CD4 T細胞増殖の増強、およびC)IFN-γとIL-4産生の調節について評価された。図3A-3Cは、4つの様々な実験からの代表的結果である。
【0049】
マーカーのパネルの発現は、ビヒクルにより処置されたまたはβ-グルカンにより処理された高バインダー由来のM1とM2のマクロファージについて、フローサイトメトリーによって評価された(CD163を2回評価した)。中央のMFIはアイソタイプ対照着色と表面抗原着色について計算され、その結果が表3に示される。
【0050】
【表3】
CD163とCD86は、ビヒクルにより処置された、およびβ-グルカンにより処置された低バインダー由来のM1とM2のマクロファージについてフローサイトメトリーによって評価された。中央のMFIはアイソタイプ対照着色と表面抗原着色について計算され、その結果が表4に示される。
【0051】
【表4】
重要な結果は、β-グルカンにより処置されたM2マクロファージが、重要なM2マーカーの1つであるCD163を低く発現していたということである。興味深いことに、CD163の発現はビヒクルにより処理されたおよびβ-グルカンにより処置されたM2マクロファージ間で同じままであったため、この結果は高バインダーに特異的であった。
【0052】
次に、高バインダーと低バインダーからの可溶性のβ-グルカンにより処置された単球に由来するM1/M2マクロファージの、CD3とCD28により刺激されたCD4 T細胞増殖を増強する能力が評価された。図3Aは、高バインダー中のCD4 T細胞増殖アッセイの結果を示し、図3Bは低バインダー中の結果を示す。β-グルカンにより処置されたM2マクロファージは、高バインダー中のビヒクルにより処置されたM2マクロファージで観察されたものと比較して、CD3とCD28により刺激されたCD4 T細胞増殖を増強する著しく高い能力を有していたが、低バインダーでは増殖の増強はなかった。加えて、高バインダーまたは低バインダーのいずれかでのビヒクルにより処置されたM2マクロファージと比較して、β-グルカンにより処置されたM1マクロファージは、この機能的な能力においていかなる差も示さなかった。
【0053】
その後、ビヒクルにより、およびβ-グルカンにより処置されたM2マクロファージのIFN-γとIL-4の産生の調節が評価された。増殖の増強と同時に、IL-4ではなくIFN-γの産生の著しい増加が、低バインダー(図3D)ではなく高バインダー(図3C)においてβ-グルカンにより処置されたM2マクロファージとCD4 T細胞の共培養で観察された。したがって、β-グルカンにより処置された単球に由来するM2マクロファージは、高バインダー被験体におけるM1のようである。
【0054】
<実施例4>
免疫抑制条件におけるM2からM1への再分極に対するβ-グルカンの効果:免疫抑制サイトカインの存在下で、β-グルカンで処置したM2a及びβ-グルカン処置したM2のマクロファージの表現型評価と機能評価を行った。M2又はM2aのマクロファージを上述のように調製した。3日目に、腫瘍培養培地(TCM)をM2マクロファージ培養物に加えることで培養物の体積の70%を占め、次いで6日目にCD163発現及び機能活性を評価した。BxPC3、即ち膵癌細胞株からのTCMは、M-CSF、TGF-ベータ、IL-4などを含む様々な免疫抑制サイトカインを含むことが示された。M2aマクロファージを上述のようにIL-4において培養した。
【0055】
IL-4において培養されるβ-グルカンで処置したM2aマクロファージで、及びTCMにおいて培養されるM2マクロファージを先ず、CD163及びCD86の発現について評価した。CD163及びCD86をフローサイトメトリーにより評価し、中間のMFIをアイソタイプ対照染色及び表面抗原染色について計算し、その結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
以前のM-CSFを使用したM2分化実験に見られるように、TCMにおいて培養されるβ-グルカンで処置した単球も、CD163の著しいダウンレギュレーションを示した。加えて、β-グルカンで処置したM2マクロファージは、より高いHLA-DR発現(示されていないデータ)を有していた。
【0058】
その後、CD4 T細胞の増殖を調節する能力の機能評価を、CD4 T細胞の増殖アッセイ(各条件において3又は6回の繰返し)により行った。TCMにおいて培養されるβ-グルカンで処置したM2マクロファージ、及びIL-4において培養されるM2aのマクロファージは、ビヒクルで処置したM2及びM2aのマクロファージに観察されるものに比べて、CD4 T細胞の増殖を増強する能力を維持した。増殖の増強に付随して、IFN-γの産生の著しい増加を、マクロファージ及びCD4 T細胞の共培養物において観察した(図4)。
【0059】
上記実施例は、可溶性のβ-グルカンが、M2分極を阻害し、且つ、CD163の発現減少、CD86の発現増加、及びM2がCD4 T細胞の増殖を抑える能力の阻害により実証されるように、M1様の細胞を誘発する能力を有していることを実証している。免疫抑制条件下でさえ、M-CSFと組み合わせたIL-4又は腫瘍培養培地(TCM)の何れかの存在により刺激されると、可溶性のβ-グルカンは、M2分極を阻害し、且つCD4のT細胞増殖を支援する能力を増強することができた。M2-可溶性のβ-グルカンによるCD4 T細胞の増殖の増強を、炎症促進性のTh1極性化サイトカイン、IFN-γの増加により達成し、免疫抑制サイトカインIL-4の産生に変化は無かった。
【0060】
<実施例5>
Tregsの存在下でのCD4/CD8 T細胞の増殖及び活性化に対するβ-グルカンの効果:血漿を得るために、25μg/mLのβ-グルカン又はビヒクルで全血を6時間処理し、沈降させ、血漿を取り除いた。50,000の自己CFSE標識化PBMCを、CD3/28ビーズを活性化する50,000のT細胞(T細胞の拡張及び活性化のためのDYNABEADSヒトT-活性化因子CD3/CD28)の存在下で3日間、処置した血漿中で培養した。培養の終わりに、PBMCをCD4及びCD8で染色し、T細胞増殖をCFSE希釈により測定した。図5Aにおいて典型的なCFSE希釈プロットにより示されるように、β-グルカンで処置した全血からの血漿は、ビヒクルで処置した対照と比較して、CD4とCD8の両方の増殖を著しく増強させた。
【0061】
次に、CD4及びCD8の細胞活性化に対する可溶性のβ-グルカンの効果を示すために、上述のT細胞増殖アッセイを再び行なった。しかし3日目に、Granzyme Bの産生及びCD25のアップレギュレーションを含む活性化のマーカーのために、細胞を染色した。図5Bに示されるグラフは、β-グルカンで処置した血漿がCD4及びCD8の細胞活性化を増強することを実証している。
【0062】
血漿分離前に6時間のインキュベーション期間にわたって全血を処理した時に、増殖の増強は最大であり、このことは、T細胞増殖に対するこの効果が、間接的機構の結果(即ち、先天性の免疫細胞によるサイトカイン放出)であることを示している。β-グルカンによるT細胞増殖の増強が直接的又は間接的であるかを判定するために、後に未処置の(ビヒクル)全血からの血漿を、自己PBMCを加える前にβ-グルカン又はビヒクルで処置したことを除いて、上述のようにT細胞増殖アッセイを行った。FLOWJOソフトウェアを用いたDivision IndexによりCFSE希釈を定量化し、ビヒクル対照に対する倍率変化としてプロットした。図5Cに示される結果は、β-グルカンの増強された効果が間接的機構によるものであることを示している。
【0063】
このようなPBMC培養物がTregを含有しているため、Tregの抑制能力は、可溶性のβ-グルカンの存在下で変わるものと思われ、研究を行いβ-グルカンがTregの抑制に影響を及ぼしたかを判定した。(上述の)β-グルカンで処置又はビヒクルで処置した全血からの血漿を、25,000の分離されたCFSE標識化自己CD4 T細胞(CD4CD25)に加えて、それに伴い分離された自己Treg(CD4CD25)の数が増加し、その結果ウェルの比率が増加した。次に、細胞を3日間、50,000のT細胞活性化CD3/28ビーズで刺激した。その後、CFSE希釈により増殖を測定し、Division Indexにより定量化して、それを用いて共培養物におけるTregの%抑制を計算した。%抑制=100-(TregウェルのDivision Index/1:0のウェルのDivision Index)/100。結果を図5Dに示す。β-グルカンで処置した全血からの血漿は、ビヒクルで処置した全血からの血漿と比較して、Tregの抑制能力の著しい減少を示した。
【0064】
β-グルカンによるTregの抑制はまた、結果としてIFN-ガンマの産生の増強をもたらした。Treg抑制アッセイを上述のように行い、共培養の3日後、IFN-ガンマの産生のために上清を分析した。図5Eは、8:1であるT細胞対Tregの比率で培養されたウェルからのIFN-ガンマの産生の結果を示している。まとめると、これらの結果は、β-グルカンが、抗腫瘍の適応可能なエフェクター機能の増強を結果としてもたらすTreg機能と共に、CD4及びCD8の増殖に影響することを示している。
【0065】
<実施例6>
インビトロで培養されたヒト未成熟単球由来の樹状細胞(imMoDC)及び成熟単球由来の樹状細胞(mMoDC)の確立と特性付け:マクロファージ及び樹状細胞が、自然免疫と適応免疫を架橋する2つの重要な抗原提示細胞であると仮定して、ヒト単球由来の樹状細胞(MoDC)に対する、可溶性のβ-グルカンの表現型効果及び機能効果も評価した。可溶性のβ-グルカン又はビヒクルで処置した全血から濃縮された単球を、樹状細胞の分化のために、適切なサイトカイン、GM-CSF、加えてIL-4を含有する培地で培養した。インビトロでの培養、及びヒトMoDCの評価のための方法に含まれる工程を、以下に概説する。
【0066】
【化2】
【0067】
上述のように調製したimMoDCとmMoDCを図6Aに示す。mMoDCの形態は、長い突起又は樹状突起の存在を特徴とする。
【0068】
フローサイトメトリーにより、CD80、CD83、CD86、及びHLA-DRの発現のためにmMoDCを評価し、中間のMFIをアイソタイプ対照染色及び表面抗原染色のために計算して、その結果を表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
mMoDCは、成熟及び同時刺激のマーカーであるCD80、CD83、CD86、同様にHLA-DRの表面発現の増加を示した。更に、これらmMoDCはまた、同種の混合リンパ球反応(各条件において4回の繰返し)において免疫原性を示し、CD4及びCD8のT細胞拡張の増加を誘発した(図6B)。
【0071】
<実施例7>
MoDCの成熟に対するβ-グルカンの効果:高バインダーと低バインダーの、可溶性のβ-グルカンで処置した全血から調製したmMoDCの表現型評価及び機能評価を行った。高バインダーと低バインダーのmMoDCを上述のように調製した。フローサイトメトリーにより、CD80、CD83、CD86、及びHLA-DRの発現のためにmMoDCを評価し、中間のMFIをアイソタイプ対照染色及び表面抗原染色のために計算して、その結果を表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
高バインダーに由来するβ-グルカンで処置したmMoDC上での、CD80、CD86、CD83、及びHLA-DRの発現の増加は、これらmMoDCが低バインダー由来のものよりも成熟していることを示している。
【0074】
高バインダー由来のβ-グルカンで処置したmMoDCはまた、同種-MLRにおける免疫原生の増加(各条件において4回の繰返し)を示し、低バインダー由来の細胞(図7B)よりもCD4及びCD8のT細胞拡張(図7A)の増加を再度誘発した。
【0075】
加えて、高バインダー由来のβ-グルカンで処理したmMoDCは、低バインダー由来の細胞及びビヒクルで処理したmMoDCの上でのIFN-γの産生を調節することができた(図7C)。
【0076】
β-グルカンで処置した単球由来のMoDCは、免疫抑制条件においてさえも更に成熟している。MoDCを上述のように調製した。TCMを加えることで、0日目に培養物の体積の70%を占め、それは培養期間中に存在していた。その後、TCMの存在下で培養されたmMoDCを、表現型の変化について評価した。中間のMFIをアイソタイプ対照染色及び表面抗原染色のために計算し、その結果を表8に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
<実施例8>
細胞間接触及び可溶性因子が、β-グルカンで処置したM2マクロファージによりCD4 T細胞増殖を増加させる:読み取り情報としてCD4 T細胞増殖を用いて、β-グルカンで処置したM2マクロファージにより増殖を始める際の細胞間接触又は可溶性因子の要件を調べた。マクロファージとT細胞との間の細胞間接触を調べるために、CD28が存在しない状態でβ-グルカンで処置したM2マクロファージと共培養した時にCD4 T細胞増殖を測定し、表面活性化マーカーの同時刺激及び調節を、共培養物におけるβ-グルカンで処置したM2マクロファージとT細胞の両方に対して調べた。
【0079】
細胞間接触の評価を以下のように行った:ビヒクル及びβ-グルカンで処置したM2マクロファージ、及び、CD3&CD28で刺激したCD4 T細胞対CD3のみで刺激したCD4 T細胞の共培養物を、CD4 T細胞の増殖及びIFN-γ産生の測定のために利用した。
【0080】
図8Aに示されるように、外因性のCD28抗体が無い状態でCD4 T細胞と共に培養された、β-グルカンで処置したM2マクロファージは、CD4 T細胞の増殖を増強する能力が著しく高いことを実証した。増殖の増強に付随して、IFN-γの産生の著しい増加を、β-グルカンで処置したM2マクロファージとCD4のT細胞の共培養物において観察した(図8B)。
【0081】
マクロファージとCD3&CD28で刺激したT細胞の両方の上での表面マーカー発現の変化も、測定した。共培養物からの、ビヒクル及びβ-グルカンで処置したM2マクロファージ及びCD T細胞を、同時刺激又は同時抑制分子の調節のためにフローサイトメトリーによって評価した。図8Cと表9は、2つの異なる実験の典型的な結果である。
【0082】
【表9】
【0083】
試験した全ての表面マーカー全ての中で、ビヒクルで処置したM2マクロファージ上で観察されたものと比較して、CD86(8日目)とPD-L1(9日目)の表面発現の相対的な増加を、β-グルカンで処置したM2マクロファージの表面上で観察した。PD-1(9日目)の発現増加を、β-グルカンで処置したM2マクロファージと共培養したT細胞の表面上で観察した。
【0084】
β-グルカンで処置したM2マクロファージから分泌される可溶性因子が必要か否かを判定するために、β-グルカンで処置したM2マクロファージMCM(50%の体積)と共培養したCD4 T細胞増殖の測定を行い、MCMでインキュベートしたT細胞上で表面活性化マーカーの調節を観察した。図9は、2つの異なる実験の典型である。CD4 T細胞の増殖アッセイにより評価した時、CD4 T細胞と共培養された、β-グルカンで処置したM2マクロファージMCMは、β-グルカンで処置したM2マクロファージMCMと比較してCD4のT細胞の増殖を増強する能力が著しく高いことを実証した(図9)。加えて、ビヒクル及びβ-グルカンで処置したM2マクロファージMCMにおいて培養されたCD4 T細胞を、同時刺激又は同時抑制分子(CD80、CD28、CTLA-4、4-1BB、及びPD-1)の調節のために評価した。驚くことに、どのT細胞マーカーにも変化は観察されなかった(データは示されず)。
【0085】
<実施例9>
高バインダーvs低バインダーにおける、β-グルカンで処置したM2マクロファージの分析:前述で議論したように、被験体における抗β-グルカン抗体(ABA)の閾値は、β-グルカン免疫療法に重要であることが示された。それ故、β-グルカンがM1/M2の分極を調節する能力におけるABA閾値の重要性を調べた。β-グルカンが高バインダー対低バインダーにおけるM1/M2の分極を調節する能力を、表現型評価及び機能評価の両方により判定した。
【0086】
4つの高バインダー及び4つの低バインダーからのM2マクロファージを調製し、それらがCD4 T細胞増殖を調節する能力について評価した。様々なCD4 T細胞の増殖条件からの上清を、ELISAによりIFN-γについて測定した。図10に示す結果は、4つの異なる実験からの典型である。ビヒクルで処置したM2マクロファージとCD4 T細胞の共培養物において生成されたINF-γのレベルにわたる倍率変化を、4つのドナー各々についてプロットする。
【0087】
低バインダーにおいて、β-グルカンは、M1/M2極性化条件において単球由来のマクロファージ上で何れの表現型マーカーも調節せず(データは示されず)、CD4 T細胞の増殖アッセイによる低バインダーの機能評価において、β-グルカンで処置したM2マクロファージは、CD4 T細胞増殖を増強せず、IFN-γの産生を増加させなかった。
【0088】
<実施例10>
血清交差研究:β-グルカンが低バインダーにおいてM1/M2分極の調節を示さなかったので、より高レベルのABAを含有する血清の存在下で低バインダーの単球を用いたβ-グルカンによる調節(高バインダーからの血清交差)を、評価した。これを試験するために、M2マクロファージを、若干の改変と共に上述のように調製した。低バインダーの全血を沈降させて血漿を取り除き、次いで細胞を高バインダーから得た血清と共に再構築した。再構築された血液を、37℃で2時間、ビヒクル又はβ-グルカン(25μg/mL)で処置した。抗β-グルカン特異的モノクローナル抗体、及び後にフローサイトメトリーを使用することにより、結合について単球を評価した。その後、全血中のビヒクル又はβ-グルカンで処置した単球を分離し、M2マクロファージに分化し、M2細胞(データは示されず)又はMCMの何れかを使用して、それらがCD4 T細胞の増殖(各条件において6回の繰返し)を増強し、且つ上述の方法を用いてIFN-γ産生を増加させる能力について評価した。
【0089】
低バインダーの全血中の単球は、β-グルカンに結合しなかったが、より高レベルのABAを含有する高バインダーの血清を低バインダーの全血に加えた場合に著しく高い結合を示した(図11A)。加えて、高バインダーの血清とクロスオーバーした(crossed over)低バインダーのβ-グルカンで処置したM2マクロファージからのMCMは、ビヒクルで処置したM2マクロファージと共に観察されるものと比較して、CD4 T細胞の増殖を増強する能力が著しく高い。増殖の増強に付随して、IFN-γの産生の著しい増加を、β-グルカンで処置したM2マクロファージとCD4のT細胞の共培養において観察した(図11B)。
【0090】
<実施例11>
免疫抑制サイトカイン(TCM)の存在下で培養された、β-グルカンで処置したM2マクロファージ上でのPD-L1のアップレギュレーション:単球又はM2マクロファージを上述のように調製した。3日目に、TCMを加えて、培養物の体積の70%を占めて、その後、CD4 T細胞と再び共培養された場合にTCMによるPD-L1の発現を評価した。
【0091】
TCMにおいて培養される、β-グルカンで処置したM2マクロファージは、PD-L1のより高度の表面発現を有していた(図12A)。CD4 T細胞と共培養された時にも、発現は増加した(図12B)。
【0092】
上述のシステムを使用して、β-グルカンが、重要なM2マーカーであるCD163の発現の減少により、及び、CD4のT細胞増殖を抑えるM2の能力を阻害することにより実証されるように、M2極性化を阻害する能力を有していることを実証した。免疫抑制環境下でさえ、M-CSFと組み合わせたIL-4(データは示されず)又は腫瘍培養培地(TCM)の何れかの存在により刺激されると、β-グルカンは、M2分極を阻害し、CD4 T細胞の増殖を支援する能力を増強することができた。M2-β-グルカンによるCD4 T細胞増殖の増強を、炎症促進性のTh1極性化サイトカイン、IFN-γの増加により達成し、免疫抑制サイトカインのIL-4の産生に変化は無かった。T細胞活性化及びIFN-γ産生の増加により予測されるように、β-グルカンで処置したM2マクロファージ上のPD-L1及びT細胞上のPD-1の表面発現の増加を、観察した。
細胞により分泌された可溶性因子と同様に、β-グルカンで処置したM2マクロファージ自体も、CD4 T細胞の増殖の増強に重要である。最後に、β-グルカンは、より高レベルのABAを有している健康なドナーからの細胞のみにおいてM2分極を阻害した。
【0093】
<実施例12>
MiaPaCaにおけるPD-L1のアップレギュレーション:β-グルカン及びビヒクルで処置したM2マクロファージ、並びにβ-グルカンで処置したM2マクロファージ+ABAを、高バインダーの血清及び低バインダーの血清と共に培養し、腫瘍細胞上でのPD-L1の発現を評価した。図13は、β-グルカンで処置したM2マクロファージが、高バインダーにおいて腫瘍細胞上でPD-L1の発現を増加させ、及びABAの付加により、β-グルカンで処置したM2マクロファージが低バインダーにおいて腫瘍細胞上でPD-L1の発現も増加したことを示している。
【0094】
<実施例13>
骨髄性サプレッサー細胞(MDSC)に対する可溶性のβ-グルカンの効果:MDSCは、血液、リンパ節、及び骨髄中に、並びに癌を患う大半の患者と実験動物中の腫瘍部位にて蓄積され、適応免疫及び自然免疫の両方を阻害する。MDSCを、腫瘍により分泌され及び宿主により分泌された因子によって誘発し、その多くは炎症促進性分子である。炎症促進性メディエータによるMDSCの誘発は、免疫監視機構と抗腫瘍免疫をダウンレギュレートし、それにより腫瘍増殖を促進するMDSCの蓄積を、炎症が促進するという仮説を導いた。
【0095】
IMPRIME PGGによる処置を受けている症例研究の被験体から様々な時間において血液を採取し、それをMDSCの存在について分析した。サイクル8で1日目、注入前に第1の採血を行った。図14Aに示されるように、CD33、MDSCの大きな集合が末梢血に存在している。サイクル8で1日目、注入後に第2の採血を行った。図14Aの第2のパネルに示されるように、注入後数時間以内に、MDSCは一時的に消滅する。サイクル8で15日目、注入前に最後の血液サンプルを採取した。CD33+MDSCは、末梢血中に再び存在する。
【0096】
別の研究において、ヒト臍帯血をCD34細胞のために濃縮し、9日間培養して、CD33CD11b細胞(MDSC)を産生した。その後、可溶性のβ-グルカン又はクエン酸緩衝液(対照)でMDSCを処置し、それらがT細胞増殖を抑える能力を評価した。処置した又は未処置のMDSCに対するCD8 T細胞の比率を2:1として、T細胞増殖アッセイを行った。図14Bに示されるように、β-グルカンで処置したMDSCは、T細胞増殖に対してあまり抑制的ではなかった。
【0097】
これらの結果は、β-グルカンがMDSC集団を調節することで、それらに末梢血循環を一時的に残し、且つT細胞増殖にあまり抑制的ではなくしてしまうことを示している。故に、1以上の癌の免疫療法薬又は化学療法薬を、特に一時的にCD33細胞集団が無い期間中に、可溶性のβ-グルカンと組み合わせて投与する場合、治療は腫瘍に対してより有効なものとなる。
【0098】
<実施例14>
β-グルカンで処置したM2マクロファージ/MoDCとT細胞の共培養部からの上清は、腫瘍細胞上でPD-L1発現を誘発する:M2マクロファージとMoDCを上述のように調製した。その後、マクロファージとMoDCを、前述のようなT細胞増殖アッセイに使用した。これら増殖アッセイからの上清を集め、NSCLC、乳房、膵臓、結腸、及びB細胞リンパ腫を含む様々な腫瘍細胞株でインキュベートした。これら腫瘍細胞株上でのPD-L1の発現を、フローサイトメトリーにより48時間後に評価した。図15には、3つの異なる実験の典型的な結果が示されている。
【0099】
T細胞は、それらのエフェクター機構に3つのシグナルを必要とする。シグナル1は、抗原提示細胞(APC)上のMHC分子の文脈において提示された抗原であり、シグナル2は、APC上の膜共刺激分子により提供され、及びシグナル3は、エフェクター機能のための環境で産生されたサイトカインである。PD-L1などの共阻害分子は、T細胞のエフェクター機能を阻害することができる。
【0100】
インビトロでのβ-グルカンで処置した単球由来のマクロファージと樹状細胞は、より高い発現レベルのPD-L1を有しているが、この処置はまた、共刺激分子CD86(シグナル2)、及びサイトカイン(シグナル3)の発現を増大させ、T細胞エフェクター機能の増強を可能にする。
【0101】
β-グルカンにより誘発された、より広範囲の自然免疫反応及び適応的な免疫反応も、腫瘍細胞株上でPD-L1発現を増強する。これらの結果は、免疫細胞と腫瘍細胞の両方の上でβ-グルカンにより誘発されたPD-L1発現のアップレギュレーションが、チェックポイント阻害剤での癌免疫療法によりβ-グルカンを有望な組み合わせのパートナーにすることを実証する。
【0102】
β-グルカンが、共刺激分子の発現及び免疫刺激サイトカインの産生の増加といった、代償機構によるPD-L1のアップレギュレーションの阻害作用を相殺する能力も有していることに注目することも、等しく重要である。
【0103】
<実施例15>
TMEに対する、抗血管形成剤と組み合わせた可溶性のβ-グルカンの効果:腫瘍血管新生は、TMEにおける免疫機能を変え、その結果として免疫抑制環境をもたらす。抗VEGFR2抗体DC101(マウスラムシルマブ)などの抗血管形成剤は、癌治療に有用であると証明されてきた。可溶性のβ-グルカンは、より多くの抗腫瘍の環境に対してTMEを歪めることができるので、DC101と組み合わせて用いることで、マウスにおけるNCI-H441非小細胞肺癌(NSCLC)の皮下の異種移植片を処置し、DC101抗体の効果を増大させる。
【0104】
6~8週齢のメスの胸腺欠損ヌードマウスの側腹部に、0.2mlの体積で5×10のH441腫瘍細胞を皮下注射した。以下の薬剤により平均腫瘍体積が約150mmに到達した場合に、二週に一回マウスに投薬した:
・0.2ml/マウスのビヒクル
・1.2mg/マウスのIMPRIME PGG(Biothera, Inc.)
・10mg/kg又は20mg/kgのDC101(Clone:DC101 Catalog#:BE0060)
10日目と最後の投薬2時間後に血液サンプルを採取した。
【0105】
処置群は、ビヒクル(PBS対照)、IMPRIME PGGのみ、DC101のみ、及びDC101+IMPRIME PGGを含んでいた。一旦大きさが150mmの群平均に到達した場合に、腫瘍を処置群へと無作為化した。10mg/kgの処置群の腫瘍体積の結果を図16A図16Bに示す。
【0106】
グラフから明らかなように、IMPRIME PGG+DC101(補体活性化、非腫瘍標的抗体)は、腫瘍の増殖を最小限にするよう相乗的に作用した。図16Bに明確に示されるように、IMPRIME PGG+DC101で処置したマウスの70%は、DC101のみで処置したマウスのほんの30%と比較して、75%より多くの腫瘍増殖阻害(TGI)を有していた。故に、(補体活性化、非腫瘍標的抗体であるか、又はそうでない場合もある)抗血管形成剤と組み合わせた可溶性のβ-グルカンは、有効な癌治療薬である。
【0107】
免疫細胞がTMEにおいて活性化することを示すために、追加の分析を行った。37日目、注射後に、脾臓を採取して、単細胞浮遊液をFACSにより採取した。図16Cに示される細胞にゲート化した(gating)後に、頻度又はGMFIをFLOWJOにおいて計算した。図16Cの上のグラフに示されるように、IMPRIME PGG+DC101で処置した動物は脾臓のMDSCが減少した一方で、下のグラフは、組み合わせで処置した動物における脾臓マクロファージの増加を示している。
【0108】
注射後、37日目にマウスから除去した全腫瘍に対し、追加の実験を更に行った。Milteny Octodissociatorを利用するプロトコルに従い、H441腫瘍からの単細胞浮遊液を生成した。全RNAを、RNeasyのミニキット(QIAGEN, Venlo, Limburg)により腫瘍懸濁液から分離した。第1鎖のcDNAを、SuperScript III First-Strand Synthesis SuperMix(Life Technologies, Carlsbad, CA)により合成した。Step One Plus Real-Time PCR System(Life Technologies)により、TaqMan Gene Expression Master Mix、及び、TNFα、CD206、TGFβ、及び18s rRNAを含有するTaqman Gene Expressionアッセイミックス(Life Technologies)を使用して、実時間の定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を行った。相対的なΔ―ΔCt方法を使用してデータの定量化を行った。平均18sのrRNAレベルを使用して、各サンプル中のmRNAの量を標準化した。IMPRIME PGG+DC101で処置した群におけるTNF-α、CD206、及びTGF-βの倍率変化を、ビヒクル対照及びDC101のみで処置した群の倍率変化と比較した。図16Dに示されるように、TNF-αの発現が増大した一方で、CD206及びTGF-βの発現は、IMPRIME PGG+DC101で処置した動物において減少しており、このことは、TME内でのTh1様の表現型を持つ細胞の増加を示している。
【0109】
<実施例16>
抗PD-L1抗体と組み合わせた可溶性のβ-グルカンは腫瘍の無い生存を増強する:別の動物研究において、マウスにMC38腫瘍細胞を注入し、処置群へと無作為化した。8~12週齢のメスのC57BL/6マウスの側腹部に、0.1mlの体積で1×10のMC38腫瘍細胞、即ち低レベルのPD-L1を発現する結腸腺癌腫を皮下注射した。3日目に始めて二週に一回、マウスに以下の薬剤を投薬した:
・0.2ml/マウスのビヒクル
・1.2mg/マウスのIMPRIME PGG(Biothera, Inc.)
・100μg/マウスの抗PDL-1 Clone:10F.9G2 BioXcell Catalog#:BE0101
血液サンプルを、投薬1の1時間前、投薬3の2時間後、エンドポイント、及び最後の投薬(20日目)の2時間後に集めた。処置群は、ビヒクル(PBS対照)、IMPRIME PGGのみ、抗PD-L1抗体のみ、及び抗PD-L1+IMPRIME PGGを含んでいた。一旦大きさが150mmの群平均に到達した場合に、腫瘍を処置群へと無作為化した。結果を表10に示す。
【0110】
【表10】
【0111】
再び、抗PD-L1抗体+可溶性のβ-グルカンの組み合わせは、腫瘍の無い生存を効果的に増強するよう相乗的に作用した。
【0112】
腫瘍上でのPD-L1発現は、抗PD-1抗体の反応性のためのバイオマーカーであることも、注目されたい。それ故、可溶性のβ-グルカンが腫瘍上でのPD-L1発現を誘発するので、可溶性のβ-グルカンは、抗PD-1抗体の効果も増強する。このことは、上述の可溶性のβ-グルカンでの処理により誘発されたPD-1発現の増加により確認される。
【0113】
<実施例17>
可溶性のβ-グルカンと抗血管形成剤のTMEに対するインビボでの効果:H1299 NSCLC腫瘍を持つマウスに、ベバシズマブ(抗血管形成抗体)(4週間にわたり週に2回、5mg/kgをIPで)を単独で、又は、他のマウスの研究用の上述のようなIMPRIME PGG(4週間にわたり週に2回、1.2mg/マウスをIVで)と組み合わせて投与した。図17Aに示されるように、ベバシズマブとIMPRIME PGGの組み合わせを投与された処置群は、PD-L1発現の増加を示し、図17Bは、アルギナーゼ1の下方調節を示しており、図17Cは、ベバシズマブのみを投与された群のものと比較して、TMEのC11b陽性の自然免疫浸潤細胞中の誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現の増加を示す。iNOSの増加とアルギナーゼ1の減少は、M1、即ち免疫賦活性環境を示すマーカーである。
【0114】
加えて、20日目、腫瘍に注射後、脾臓を採取して、単細胞浮遊液をマウス抗体で染色し、FACSにより分析した。CD11b+F4/80+CD68+細胞上でゲート化した後、FlowjoにおいてGMFI又は頻度を計算した(図17D図17F)。図17D図17Eは、それぞれiNOSの増加とアルギナーゼ-1の減少を示している。脾臓細胞を更に、100ng/mlのリポポリサッカリド(LPS)で一晩刺激し、TNF-αの産生について分析した。図17FはTNF-αの増加を示す。このデータは、IMPRIME PGG処置による、M1様の表現型への脾臓マクロファージにおける推移を示す。アルギナーゼ-1、iNOS、及びCD86をCD11b+Gr1+細胞において分析し、データを図17G図17Iに示す。示されるように、アルギナーゼ-1は減少し、iNOSとCD86は増加しており、このことは、IMPRIME PGG処置によるM1/N1マクロファージ/好中球への脾臓MDSCの分化を示している。図17Jは、腫瘍の顆粒球性MDSC(CD11b+Lyg6+)上の同時刺激マーカーCD86の発現の増強を示し、更に脾臓のMDSCの分化を示している。
【0115】
図17K図17Mに関して、20日目に腫瘍を採取し、37℃で1時間、I型コラゲナーゼで消化した。単細胞浮遊液をマウス抗体で染色し、FACSにより分析した。CD11b+細胞上でゲート化した後、FlowjoにおいてGMFI又は頻度を計算した。示されるように、PD-L1とiNOSは増加し、一方でアルギナーゼ-1は減少しており、このことは、M1型の表現型への腫瘍浸潤性の骨髄細胞における推移を示している。
このデータは、可溶性のβ-グルカンが抗血管形成剤の効果を増加させ且つインビボでTMEを調節することを明確に示している。
【0116】
最後に、腫瘍細胞の単細胞浮遊液を一晩培養し、ELISAによって上清をTGF-βのために測定した。結果を図17Nに示す。50%より上の腫瘍増殖阻害(TGI)を示したマウスは、IMPRIME PGGとベバシズマブの組み合わせにより処置した場合、TGF-βの減少を明確に示した。
【0117】
前に議論されたように、可溶性のβ-グルカン処置に対してより良く反応する被験体の亜群が存在する。図17Nの結果は、併用療法により良く反応するこのような被験体が更に、TGF-β発現を付随的に減少させることを示している。現在、フレソリムマブ(fresolimumab)などのTGF-β-阻害薬が、癌治療薬として研究されている。そのため、可溶性のβ-グルカンに反応する被験体の亜群は、TGF-β阻害剤による付加的な処置を必要としない。加えて、可溶性のβ-グルカン免疫療法に反応しない被験体を、それに反応する被験体へと変える、様々な方法及び組成物が、国際特許出願PCT/US2013/031625に記載されている。可溶性のβ-グルカンとベバシズマブによる処置の組み合わせにおいてこのような方法を使用することにより、被験体は全てTGF-β発現を減少させ、これにより、TGF-β阻害剤による付加的な処置の必要性が排除される。
【0118】
<実施例18>
抗PD-1抗体と組み合わせた可溶性のβ-グルカンは、腫瘍及びTMEに影響を及ぼす:初めにインビトロでの研究を行い、抗ヒトPD-1Mab、ニボルマブ(Bristol Myers Squib)(非補体活性化抗体、非腫瘍標的抗体)、及びIMPRIME PGGの間の相乗効果を研究した。最初の研究は、IMPRIME PGGで処置した単球から分化されたMoDCを用いる同種の混合リンパ球反応(MLR)を利用した。健全なドナーからの全血を、37℃で2時間、IMPRIME PGG又はビヒクルで処置した。500U/mLのインターロイキン4(IL-4)及び250U/mLのGM-CSF(R&D Systems)と共に、7日間インビトロで、単球精製キット(Thermo Fisher Scientific)により、ネガティブ選択を使用してPBMCから分離された単球を培養することにより、樹状細胞(DC)を生成した。CFSE標識化CD4T細胞(1×105)及び同種のDC(1×10)を、ニボルマブ又はアッセイの開始時に加えられるアイソタイプ対照抗体IgGの用量滴定により、又は用量滴定無しで共培養した。5日後、T細胞の増殖をCFSE希釈アッセイにより測定し、結果を図18Aに示す。図に示されるように、特により高用量のニボルマブでは、IMPRIME PGG及びニボルマブによる処置は、抗体のみによる処置よりもT細胞の増殖を著しく増加させた。
【0119】
第2のインビトロの研究は、超抗原ブドウ状球菌エンテロトキシンB(SEB)によりPBMCの刺激を調べた。37℃で2時間、IMPRIME PGG又はビヒクルで全血を処置した。500U/mLのインターロイキン4(IL-4)及び250U/mLのGM-CSF(R&D Systems)と共に、7日間インビトロで、単球精製キット(Thermo Fisher Scientific)により、ネガティブ選択を使用してPBMCから分離された単球を培養することにより、DCを生成した。5日目に25ng/mlのTNFα及び50ng/mlのLPSを加えることにより、DCを完全に成熟させた。異なるドナーからのPBMCは、SEB(Toxin Technology)の連続希釈と共に、アッセイの開始時にニボルマブ又はアイソタイプ対照抗体IgG(20ug/mL)により3日間、10:1の比率でDCと共に培養した。培養物の上清におけるIL-2(BD Biosciences)とIFNγ(R&D Systems)のレベルをELISA分析により測定し、結果を図18B図18Cに示す。示されるように、ニボルマブとIMPRIME PGGの組み合わせは、IFNγとIL-2の産生を含むT細胞機能を増強させる。
【0120】
IL-2はT細胞上で作用し、黒色腫及び腎細胞癌などの癌の処置のために米国及び様々なヨーロッパ諸国で承認されている。しかし、IL-2の投与は重度の副作用を備えかねない。これらのデータは、付加的なIL-2処置が排除され得るように、抗PD-1抗体と組み合わせた可溶性のβ-グルカンによる処置がIL-2発現を増加させることを示している。
【0121】
IMPRIME PGG+抗PD-1抗体を使用して、インビボでの研究を行った。RMP1-14、即ち抗PD-1抗体と組み合わせたIMPRIME PGGを、C57Bl/6マウスを有するCT26結腸癌において試験した。3×10のマウスのCT26細胞を皮下投与した。腫瘍が40-100mmの大きさに到達した後、マウスに、IMPRIME PGG(4週間にわたり週に2回、1.2mg/マウスをI.V.で)を単独で、又は抗PD-1抗体(3週間にわたり週に2回、200μg/マウスをIPで)を単独で、或いはその両方の組み合わせを投与した。研究の結果を図19Aに要約する。
【0122】
結果は、IMPRIME PGGと抗PD-1抗体の組み合わせがインビボでの腫瘍増殖を相乗的に抑えることを示している。このことは、図19B(IMPRIME PGG+抗PD-1抗体)及び図19C(抗PD-1抗体のみ)に示される個々のマウスのデータから、より一層明白である。併用療法で処置されたマウスの70%が、腫瘍が500mm未満のままであった一方で、抗PD-1抗体のみで処置されたマウスは僅か40%しか、腫瘍が500mm未満のままであった。再度、上記で議論されたように、マウスの30%が可溶性のβ-グルカン免疫療法に反応しなかったと思われ、このことは、図19Aに示される全体的な結果を歪めることとなった。しかし、被験体を可溶性のβ-グルカン免疫療法に反応するようにすることで、その結果、ほぼ全ての被験体が、併用療法により腫瘍抑制の増加を示し得る。
【0123】
故に、総合すると、このデータは、インビボでの可溶性のβ-グルカン処置が、腫瘍と脾臓の両方の中で骨髄細胞を活性化させ、それにより、腫瘍認識及び腫瘍抑制を促進するTMEにおける充分な推移を編成することができることを、示している。本明細書に記載される併用療法の何れかも、腫瘍標的抗体の追加を含んでもよく、これはTMEにおける推移により更に有効なものとなり得る。
【0124】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物、並びに電子的に利用可能な資料(例えば、GenBankとRefSeqにおけるヌクレオチド配列登録、及び、例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBにおけるアミノ酸配列登録、及び、GenBankとRefSeqにおける注釈されたコーディング領域の翻訳を含む)が、それらの全体において参照により組み込まれる。本出願の開示と、及び参照により本明細書に組み込まれる任意の文献の開示との間に、何らかの矛盾が存在する場合には、本出願の開示が適用される(govern)。前述の詳細な説明と実施例は、明確な理解のためだけのために提供されるものである。そこからは不必要な制限が理解されるものではない。本発明は、請求項により定められる発明内に含まれる、当業者に明白な変更について示され且つ記載される、正確な詳細に制限されることはない。
【0125】
他に示されない限り、明細書と請求項において使用される、成分の量や分子量などを表わす数字は全て、用語「約」により全ての例において修飾されていると理解されたい。従って、他に反対に示されていない限り、本明細書及び請求項で述べられた数のパラメータは、獲得が求められる所望の特性に依存して変動し得る、およそのものである。最低でも、及び、均等論を請求項の範囲に制限されないように、各数的パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数に照らして、及び通常の四捨五入の技術の適用により、解釈されねばならない。
【0126】
本明細書で説明される数値域とパラメータがおよそのものであるにもかかわらず、特定の実施例で説明される数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、全ての数値は、それら各々の試験測定において見出される標準偏差から必ず結果として生じる範囲を、本質的に含有している。
【0127】
全ての見出しは読者の利便性のためのものであり、そのように特定されない限り、この見出しに従うテキストの意味を制限するために使用されるものではない。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
図17G
図17H
図17I
図17J
図17K
図17L
図17M
図17N
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
図19C