(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法、付加価値決定装置、およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H10N 60/81 20230101AFI20231004BHJP
F25B 9/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H10N60/81
F25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2021171628
(22)【出願日】2021-10-20
【審査請求日】2023-07-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】横谷 出
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/146215(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/147698(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/81
F25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法であって、
前記超伝導装置は、超伝導コイルを内部に収めた液体冷媒槽を備え、
前記循環冷却式初期冷却は、(i)冷却されたガスを前記液体冷媒槽に循環させる循環冷却装置を使用して、前記超伝導コイルを前記超伝導装置の周囲温度から所定の極低温まで冷却することと、(ii)前記超伝導コイルを前記液体冷媒槽で液体ヘリウムに浸漬させて前記所定の極低温から前記超伝導コイルを動作させる目標の極低温まで冷却することとを備えており、前記方法は、
液体ヘリウム、または液体ヘリウムと他の液体冷媒を使用する浸漬冷却によって前記超伝導コイルを前記周囲温度から前記目標の極低温まで冷却した場合の液体ヘリウム消費量を取得することと、
前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量を取得することと、
前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて、前記浸漬冷却に対する前記循環冷却式初期冷却の付加価値を提示することと、を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記付加価値を提示することは、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて前記付加価値を算出することを備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記付加価値を算出することは、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との差に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて付加価値額を算出することを備えることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用コストを取得することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記付加価値額から前記使用コストを控除することを備えることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記浸漬冷却における前記他の液体冷媒の消費量を取得することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記付加価値額に前記他の液体冷媒の消費量の相当額を加算することを備えることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記付加価値を提示することは、前記付加価値額に所定比率を乗じた額を前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用料として算出することを備えることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記付加価値を提示することは、
前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量および前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量を、コンピュータに入力することと、
前記コンピュータが、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて前記付加価値を算出し、前記付加価値を出力することと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記付加価値を算出することは、前記コンピュータが、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との差に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて付加価値額を算出することを備えることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用コストを、前記コンピュータに入力することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記コンピュータが、前記付加価値額から前記使用コストを控除することを備えることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記浸漬冷却における前記他の液体冷媒の消費量を、前記コンピュータに入力することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記コンピュータが、前記付加価値額に前記他の液体冷媒の消費量の相当額を加算することを備えることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記付加価値を提示することは、前記コンピュータが、前記付加価値額に所定比率を乗じた額を前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用料として算出することを備えることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定装置であって、
請求項1から11のいずれかに記載の方法を実行するように構成される演算処理装置を備えることを特徴とする付加価値決定装置。
【請求項13】
コンピュータに請求項1から11のいずれかに記載の方法を実行させる命令を備えることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導磁石は、超伝導臨界温度以下の極低温下で強い静磁場を発生させることができ、例えば磁気共鳴イメージング(MRI)など高磁場を利用する様々な用途に用いられている。製造出荷時、点検時、あるいは、クエンチなど異常からの復旧時など、超伝導磁石を起動するために、超伝導磁石は、周囲温度(例えば室温)から目標の極低温まで冷却される必要があり、これはしばしば初期冷却とも呼ばれる。
【0003】
初期冷却には典型的に、極低温の液体冷媒、例えば液体ヘリウムや液体窒素に超伝導磁石を浸漬させる浸漬冷却が使用されている。浸漬冷却による初期冷却は、きわめて多量(例えば少なくとも1000リットル)の極低温液体冷媒を消費する。そのため、近年の世界的なヘリウム生産量の減少とそれによるヘリウム価格の高騰のなか、液体ヘリウムの使用量を削減することが望まれている。
【0004】
そこで、極低温に冷却されたガスを超伝導磁石に循環させる循環冷却式の初期冷却が提案されている。この循環冷却装置を用いることで、初期冷却で消費される液体ヘリウムの量を浸漬冷却に比べて顕著に削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、超伝導装置の初期冷却について鋭意研究を重ねた結果、以下の課題を認識するに至った。循環冷却式初期冷却の普及はまだあまり進んでいない。その一つの理由は、超伝導磁石のライフタイムのなかで初期冷却が行われる頻度は多くない(最小の場合、製造出荷時のみである)のに対し、循環冷却装置が比較的高額であるためである。つまり、循環冷却装置を導入するにあたり投資に見合う価値を見出しにくいことが、循環冷却式初期冷却の普及を阻む理由であると考えられる。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超伝導装置の循環冷却式初期冷却の普及に役立つ技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法が提供される。超伝導装置は、超伝導コイルを内部に収めた液体冷媒槽を備える。循環冷却式初期冷却は、(i)冷却されたガスを液体冷媒槽に循環させる循環冷却装置を使用して、超伝導コイルを超伝導装置の周囲温度から所定の極低温まで冷却することと、(ii)超伝導コイルを液体冷媒槽で液体ヘリウムに浸漬させて所定の極低温から超伝導コイルを動作させる目標の極低温まで冷却することとを備える。この方法は、液体ヘリウム、または液体ヘリウムと他の液体冷媒を使用する浸漬冷却によって超伝導コイルを周囲温度から目標の極低温まで冷却した場合の液体ヘリウム消費量を取得することと、循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量を取得することと、浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて、浸漬冷却に対する循環冷却式初期冷却の付加価値を提示することと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システム、コンピュータプログラムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超伝導装置の循環冷却式初期冷却の普及に役立つ技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る超伝導装置を模式的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る循環冷却装置を超伝導装置とともに模式的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係る超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値を決定する装置を模式的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係る超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係る超伝導装置100を模式的に示す図である。この実施の形態では、超伝導装置100は、たとえば磁気共鳴イメージング(MRI)システムの一部を構成する。超伝導装置100は、超伝導コイル102と、液体冷媒槽104と、熱シールド106と、真空容器108と、極低温冷凍機110とを備える。
【0014】
超伝導コイル102は、使用時に、超伝導を発現する臨界温度以下の極低温に冷却される。超伝導コイル102には、真空容器108の外に配置された外部電源(図示せず)から励磁電流が供給され、それにより、強力な磁場を発生することができる。
【0015】
液体冷媒槽104は、液体冷媒112を超伝導コイル102とともに収容するように構成されている。超伝導装置100は、超伝導コイル102を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸漬する浸漬冷却式によって、超伝導コイル102を目標の極低温に冷却し当該温度に維持することができる。
【0016】
熱シールド106は、液体冷媒槽104の周囲に配置され、熱シールド106の外から侵入しうる輻射熱から液体冷媒槽104および超伝導コイル102を熱的に保護するように構成されている。熱シールド106は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0017】
真空容器108は、超伝導コイル102を超伝導状態とするのに適する極低温真空環境を提供する断熱真空容器であり、クライオスタットとも呼ばれる。真空容器108内には、超伝導コイル102とともに液体冷媒槽104および熱シールド106が収容される。真空容器108は、周囲圧力(たとえば大気圧)に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。真空容器108には、冷媒入口114と冷媒出口116が設けられている。液体冷媒112を冷媒入口114から液体冷媒槽104に供給し、液体冷媒112またはその気化物を冷媒出口116から回収することができる。
【0018】
極低温冷凍機110は、圧縮機110aと、膨張機とも呼ばれるコールドヘッド110bとを備える。圧縮機110aは真空容器108の外に配置され、コールドヘッド110bはその低温部が真空容器108内に配置されるようにして真空容器108に設置されている。圧縮機110aは、極低温冷凍機110の作動ガスをコールドヘッド110bから回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスをコールドヘッド110bに供給するよう構成されている。圧縮機110aとコールドヘッド110bにより極低温冷凍機110の冷凍サイクルが構成され、それによりコールドヘッド110bは極低温冷却を提供することができる。作動ガスは通例、ヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。極低温冷凍機110は、一例として、ギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかの極低温冷凍機であってもよい。
【0019】
超伝導装置100の運転中、極低温冷凍機110の一段冷却ステージは、第1冷却温度、例えば30K~50Kに冷却され、極低温冷凍機110の二段冷却ステージは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20K(例えば約4K)に冷却される。熱シールド106は、極低温冷凍機110の一段冷却ステージと熱的に結合され、第1冷却温度に冷却される。極低温冷凍機110の二段冷却ステージは、気化した液体冷媒112の再凝縮に利用されてもよい。あるいは、極低温冷凍機110の二段冷却ステージは、超伝導コイル102と熱的に結合され、超伝導コイル102を伝導冷却により第2冷却温度に冷却してもよい。
【0020】
超伝導装置100の運転に先立って、超伝導装置100を起動するために、超伝導装置100の初期冷却が行われる。初期冷却は、例えば、超伝導装置100の製造工程の最終段階として出荷前に行われる。あるいは、初期冷却は、超伝導装置100の定期的な点検後に、または、クエンチなど異常からの復旧のために、行われる場合もある。
【0021】
浸漬冷却による初期冷却は、超伝導コイル102を液体冷媒112に浸すことによって行われる。液体冷媒112として液体ヘリウムのみを使用して、超伝導コイル102は、超伝導装置100の周囲温度(例えば295K)から目標の極低温(例えば4K)まで冷却されてもよい。この場合、典型的には、例えば数千リットルもの多量の液体ヘリウムが必要とされうる。
【0022】
液体ヘリウムの消費量を削減するために、液体冷媒112として液体ヘリウムよりも高沸点の他の極低温液体冷媒、例えば液体窒素が予冷に利用されてもよい。超伝導コイル102は、液体窒素に浸されることによって周囲温度から所定の極低温(例えば77K)まで予冷され、その後、液体冷媒槽104内の液体冷媒112は液体窒素から液体ヘリウムに交換され、さらに超伝導コイル102は、液体ヘリウムに浸されることによってこの所定の極低温から目標の極低温まで冷却されてもよい。この場合、予冷のための液体窒素は依然として多量に必要となるが、液体ヘリウムの消費量は例えば1000リットル程度に抑えることができる。液体窒素の単価は液体ヘリウムに比べて大幅に安価であるため、初期冷却のコストを削減することができる。
【0023】
超伝導装置100の初期冷却コストをいっそう低減するために、極低温に冷却されたガスを超伝導装置100に循環させる循環冷却式の初期冷却が提案されている。循環冷却式初期冷却は、(i)冷却されたガスを液体冷媒槽104に循環させる循環冷却装置10を使用して、超伝導コイル102を超伝導装置100の周囲温度から所定の極低温まで冷却することと、(ii)超伝導コイル102を液体冷媒槽104で液体ヘリウムに浸漬させて所定の極低温から超伝導コイル102を動作させる目標の極低温まで冷却することとを備える。
【0024】
図2は、実施の形態に係る循環冷却装置10を超伝導装置100とともに模式的に示す図である。循環冷却装置10は、冷媒ガスを極低温に冷却し、超伝導装置100に循環させるように構成されている。冷媒ガスは、この実施の形態では、ヘリウムガスであるが、場合によっては例えば窒素ガスなど他のガスが用いられてもよい。循環冷却装置10は、循環装置12と、少なくとも一台(この実施の形態では複数台、例えば4台)の極低温冷凍機14と、真空容器16と、供給ライン18と、回収ライン20とを備える。
【0025】
循環装置12は、回収ライン20から回収される冷媒ガスを供給ライン18に送出するように構成され、それにより、冷媒ガスを循環冷却装置10と超伝導装置100との間で循環させることができる。循環装置12は、真空容器16に設置されている。循環装置12は、例えばファンであってもよい。
【0026】
複数の極低温冷凍機14は各々が冷媒ガスを冷却するための冷却ステージ14aを備え、冷却ステージ14aが真空容器16内に配置されるようにして真空容器16に設置されている。極低温冷凍機14は、超伝導装置100の極低温冷凍機110と同様に、例えばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であってもよく、または、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機などその他の極低温冷凍機であってもよい。極低温冷凍機14は、単段式であってもよく、例えば100Kから10Kの範囲から選択される冷却温度(例えば液体窒素温度)を冷却ステージ14aに提供することができる。
【0027】
真空容器16は、内部に極低温真空環境を提供する断熱真空容器であり、クライオスタットとも呼ばれる。真空容器16内には、極低温冷凍機14の冷却ステージ14aとともに供給ライン18および回収ライン20が収容される。真空容器16には、その壁面に冷媒ガス供給口22と冷媒ガス回収口24が設けられている。供給ライン18が循環装置12を冷媒ガス供給口22に接続し、回収ライン20が冷媒ガス回収口24を冷媒ガス供給口22に接続する。
【0028】
供給ライン18は、極低温冷凍機14の冷却ステージ14aとの熱交換により冷媒ガスを冷却する熱交換器18aを備える。熱交換器18aは冷却ステージ14aごとに設けられ、これら熱交換器18aは直列接続されている。
【0029】
循環冷却式の初期冷却が行われるとき、循環冷却装置10が供給側移送ライン26と回収側移送ライン28により超伝導装置100に接続される。供給側移送ライン26は、循環冷却装置10の冷媒ガス供給口22を超伝導装置100の冷媒入口114に接続し、回収側移送ライン28は、循環冷却装置10の冷媒ガス回収口24を超伝導装置100の冷媒出口116に接続する。供給側移送ライン26と回収側移送ライン28は、極低温に冷却された冷媒ガスに適合するフレキシブルチューブであってもよい。
【0030】
循環装置12が作動することにより、冷媒ガスは、供給ライン18上で直列接続された複数の熱交換器18aを順次通過し、各極低温冷凍機14の冷却ステージ14aによって冷却される。こうして冷却ステージ14aの冷却温度に冷却された冷媒ガスは、供給側移送ライン26を通じて超伝導装置100の液体冷媒槽104に供給され、超伝導コイル102を冷却する。冷媒ガスは、液体冷媒槽104から回収側移送ライン28を通じて循環冷却装置10の回収ライン20へと回収され、循環装置12によって供給ライン18に再び送出される。循環冷却装置10を用いた超伝導装置100の予冷では、液体窒素など液体冷媒は使用されない。
【0031】
このような冷媒ガスの循環を継続することにより、循環冷却装置10は、超伝導装置100の超伝導コイル102を循環冷却装置10の冷媒ガスの冷却温度まで冷却することができる。こうして超伝導コイル102が予冷されたら、循環冷却装置10の動作は停止され、循環冷却装置10が超伝導装置100から取り外される。
【0032】
続いて、超伝導装置100の液体冷媒槽104に液体ヘリウムが供給される。超伝導コイル102を液体ヘリウムに浸漬させることによって、超伝導コイル102は、目標の極低温(例えば約4K)まで最終的に冷却され、初期冷却は完了する。
【0033】
図3は、実施の形態に係る超伝導装置100の循環冷却式初期冷却の付加価値を決定する装置を模式的に示す図である。付加価値決定装置50は、演算処理装置52と、入力部54と、出力部56とを備える。
【0034】
付加価値決定装置50の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0035】
付加価値決定装置50は、パソコンなど汎用のコンピュータに実装されてもよい。入力部54は、循環冷却式初期冷却の付加価値を決定するために必要とされるユーザまたは他の装置からの入力データを受け付け、この入力データを演算処理装置52に提供するよう構成され、例えば、ユーザからの入力を受け付けるためのマウスやキーボード等の入力手段、及び/または、他の装置との通信をするための通信手段を含んでもよい。出力部56は、入力データ、及び/または演算処理装置52が生成したデータを出力するよう構成され、例えば、ディスプレイやプリンタ等の出力手段を含んでもよい。
【0036】
演算処理装置52は、後述する付加価値決定方法を実行するように構成され、第1冷却コスト演算部60と、第2冷却コスト演算部62と、付加価値演算部64とを備える。第1冷却コスト演算部60は、浸漬冷却による超伝導装置100の初期冷却における液体ヘリウムの消費量(および、使用される場合には、他の液体冷媒の消費量)を取得し、取得した情報に基づいて、浸漬冷却による超伝導装置100の初期冷却の冷却コストを算出する。第2冷却コスト演算部62は、循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量(および、適用可能な場合には、循環冷却装置10のそのほかの使用コスト)を取得し、取得した情報に基づいて、循環冷却式初期冷却の冷却コストを算出する。付加価値演算部64は、算出した浸漬冷却の冷却コストと循環冷却式初期冷却の冷却コストとの比較に基づいて、浸漬冷却に対する循環冷却式初期冷却の付加価値を算出する。
【0037】
図4は、実施の形態に係る超伝導装置100の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法を示すフローチャートである。例えば、
図3に例示される付加価値決定装置がこの方法を実行することができる。この方法では、浸漬冷却式初期冷却の冷却コストが取得され(S10)、循環冷却式初期冷却の冷却コストが取得され(S20)、浸漬冷却に対する循環冷却式初期冷却の付加価値が提示される(S30)。なお、S10とS20の順序は問わない。
【0038】
浸漬冷却式初期冷却の冷却コストの取得(S10)では、まず、浸漬冷却によって超伝導コイル102を周囲温度から目標の極低温まで冷却した場合の液体ヘリウム消費量が取得される。超伝導コイル102を周囲温度から目標の極低温まで冷却するために液体ヘリウムのみが使用される場合には、使用した液体ヘリウムの量が液体ヘリウム消費量として取得される。別の例として、まず液体ヘリウムとは別の液体冷媒(例えば液体窒素)により超伝導コイル102を周囲温度から所定の極低温(例えば77K)まで冷却し、続いて液体ヘリウムによりこの所定の極低温から目標の極低温まで冷却する場合には、液体ヘリウム消費量だけでなく、別の液体冷媒の消費量も取得される。
【0039】
これら液体冷媒の消費量は、超伝導装置100の浸漬冷却を実際に行うことにより記録され、記録された消費量が入力部54に入力され、演算処理装置52に伝達されてもよい。あるいは、液体冷媒の消費量は、超伝導装置100の浸漬冷却による初期冷却のシミュレーションを行うことにより、または経験的に見積もられてもよく、見積もられた消費量が入力部54に入力され、演算処理装置52に伝達されてもよい。
【0040】
浸漬冷却式初期冷却の冷却コストは、液体ヘリウムのみが使用される場合、浸漬冷却の液体ヘリウム消費量に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて算出される。液体ヘリウムと他の液体冷媒が使用される場合、浸漬冷却式初期冷却の冷却コストは、液体ヘリウム消費量に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて液体ヘリウムコストを算出し、他の液体冷媒の消費量に単位量あたりの当該液体冷媒の価格を乗じて液体冷媒コストを算出し、液体ヘリウムコストと液体冷媒コストの和として算出される。浸漬冷却式初期冷却の冷却コストの算出は、第1冷却コスト演算部60が実行してもよい。単位量(例えば1リットル)あたりのヘリウム価格を示すヘリウム価格データ、および単位量あたりの他の液体冷媒の価格を示す液体冷媒価格データは、入力部54に入力されて演算処理装置52に提供され、または演算処理装置52にあらかじめ格納されていてもよい。
【0041】
浸漬冷却式初期冷却の一例として、液体窒素により超伝導コイル102を300Kから77Kまで冷却し、液体ヘリウムにより超伝導コイル102を77Kから4Kまでさらに冷却するケースにおいて、2000Lの液体窒素と1500Lの液体ヘリウムが使用されたものとする。液体窒素と液体ヘリウムの単価がそれぞれ、1リットルあたりで30円、1800円であったとすると、浸漬冷却式初期冷却の冷却コストは、276万円(=2000L×30円/L+1500L×1800円/L)と計算される。
【0042】
循環冷却式初期冷却の冷却コストの取得(S20)では、循環冷却装置10の使用コストと、初期冷却の最終段階での液体ヘリウム消費量が取得される。そして、使用コストと液体ヘリウム価格が循環冷却式初期冷却の冷却コストとして合計される。循環冷却装置10の使用コストには、例えば、循環冷却装置10に使用されるヘリウムガスの価格、循環冷却装置10の使用による電気料金など、循環冷却装置10の使用に伴って発生するコストが含まれてもよい。液体ヘリウム価格は、浸漬冷却の場合と同様に、液体ヘリウム消費量に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて算出される。循環冷却装置10の使用コストと液体ヘリウム消費量は、循環冷却式初期冷却を超伝導装置100に実際に行うことにより、または循環冷却式初期冷却のシミュレーションを行うことにより、または経験的に見積もられてもよく、見積もられた使用コストおよび消費量が入力部54に入力され、演算処理装置52に伝達されてもよい。循環冷却式初期冷却の冷却コストの算出は、第2冷却コスト演算部62が実行してもよい。
【0043】
循環冷却式初期冷却の一例として、循環冷却装置10により超伝導コイル102を300Kから15Kまで冷却し、液体ヘリウムにより超伝導コイル102を15Kから4Kまでさらに冷却するケースを考える。400Lの液体ヘリウムが使用され、20万円の使用コスト(例えば、5万円の電気代と15万円のヘリウムガス代)がかかったとすると、循環冷却式初期冷却の冷却コストは、92万円(=400L×1800円/L+20万円)と計算される。
【0044】
浸漬冷却に対する循環冷却式初期冷却の付加価値の提示(S30)は、浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づく。より具体的には、浸漬冷却式初期冷却の冷却コストから循環冷却式初期冷却の冷却コストが控除され、その残額が循環冷却式初期冷却の付加価値額として計算されてもよい。付加価値演算部64がこの計算を実行し、得られた付加価値を示すデータを出力部56に出力してもよい。出力部56は、付加価値データに基づいて、取得された付加価値を提示することができる。
【0045】
別の見方をすれば、付加価値の算出は、浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との差に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて付加価値額を算出することにあたる。この付加価値額から循環冷却装置の使用コストは控除される。また、浸漬冷却で使用される液体ヘリウムとは別の液体冷媒の消費量の相当額は付加価値額に加算される。
【0046】
浸漬冷却に対する循環冷却式初期冷却の付加価値の提示(S30)は、付加価値額に所定比率を乗じた額を循環冷却式初期冷却における循環冷却装置10の使用料として算出することを備えてもよい。所定比率は、例えば、1/2であってもよく、あるいは、0より大きく1より小さい任意の値であってもよい。上述の例では、循環冷却装置10の使用料は、92万円(=(276万円-92万円)×1/2)と算出できる。循環冷却装置10の使用料の算出は、付加価値演算部64が実行してもよい。算出された使用料は、出力部56に出力されてもよい。
【0047】
実施の形態によれば、浸漬冷却に対する循環冷却式初期冷却の付加価値を具体的な金額として把握することができる。循環冷却装置10の利用によって得られる技術的な価値を金銭的に認識する助けとなるから、超伝導装置100の循環冷却式初期冷却の普及に役立つ。
【0048】
例えば、循環冷却装置10の所有者と超伝導装置100の所有者(または使用者)との間の取り決めにより、超伝導装置100の所有者が循環冷却装置10の所有者から循環冷却装置10の貸与を受け、貸与された循環冷却装置10を用いて循環冷却式初期冷却を行う場合の対価を定めることができる。この対価として、算出された循環冷却装置10の使用料を利用できる。つまり、超伝導装置100の所有者が循環冷却式初期冷却を行うたびに、超伝導装置100の所有者から循環冷却装置10の所有者に循環冷却装置10の使用料が対価として支払われることになる。
【0049】
このようにすれば、超伝導装置100の所有者が循環冷却式初期冷却のために循環冷却装置10を購入する高額な初期投資に比べて、低廉な使用料で循環冷却式初期冷却を実施することができる。上述の循環冷却式初期冷却の付加価値は従来の浸漬冷却に対して循環冷却式初期冷却で削減できる液体ヘリウム消費量に基づくものであり、循環冷却装置10の使用料はこの付加価値に基づくから、公平で合理的である。したがって、こうした循環冷却装置10の使用料の取り決めは、超伝導装置100の循環冷却式初期冷却の普及に役立つ。
【0050】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0051】
上述の実施の形態では、超伝導装置100がMRIシステムに搭載される場合を例として説明しているが、その限りでない。超伝導装置100は、例えば単結晶引き上げ装置、NMRシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器の一部を構成してもよい。
【0052】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【0053】
本発明の実施の形態は以下のように番号付けられた項により表現することもできる。
【0054】
1.超伝導装置の循環冷却式初期冷却の付加価値決定方法であって、
前記超伝導装置は、超伝導コイルを内部に収めた液体冷媒槽を備え、
前記循環冷却式初期冷却は、(i)冷却されたガスを前記液体冷媒槽に循環させる循環冷却装置を使用して、前記超伝導コイルを前記超伝導装置の周囲温度から所定の極低温まで冷却することと、(ii)前記超伝導コイルを前記液体冷媒槽で液体ヘリウムに浸漬させて前記所定の極低温から前記超伝導コイルを動作させる目標の極低温まで冷却することとを備えており、前記方法は、
液体ヘリウム、または液体ヘリウムと他の液体冷媒を使用する浸漬冷却によって前記超伝導コイルを前記周囲温度から前記目標の極低温まで冷却した場合の液体ヘリウム消費量を取得することと、
前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量を取得することと、
前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて、前記浸漬冷却に対する前記循環冷却式初期冷却の付加価値を提示することと、を備えることを特徴とする方法。
【0055】
2.前記付加価値を提示することは、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて前記付加価値を算出することを備えることを特徴とする項1に記載の方法。
【0056】
3.前記付加価値を算出することは、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との差に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて付加価値額を算出することを備えることを特徴とする項2に記載の方法。
【0057】
4.前記方法は、前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用コストを取得することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記付加価値額から前記使用コストを控除することを備えることを特徴とする項3に記載の方法。
【0058】
5.前記方法は、前記浸漬冷却における前記他の液体冷媒の消費量を取得することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記付加価値額に前記他の液体冷媒の消費量の相当額を加算することを備えることを特徴とする項3または4に記載の方法。
【0059】
6.前記付加価値を提示することは、前記付加価値額に所定比率を乗じた額を前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用料として算出することを備えることを特徴とする項3から5のいずれかに記載の方法。
【0060】
7.前記付加価値を提示することは、
前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量および前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量を、コンピュータに入力することと、
前記コンピュータが、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との比較に基づいて前記付加価値を算出し、前記付加価値を出力することと、を備えることを特徴とする項1に記載の方法。
【0061】
8.前記付加価値を算出することは、前記コンピュータが、前記浸漬冷却の液体ヘリウム消費量と前記循環冷却式初期冷却の液体ヘリウム消費量との差に単位量あたりのヘリウム価格を乗じて付加価値額を算出することを備えることを特徴とする項7に記載の方法。
【0062】
9.前記方法は、前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用コストを、前記コンピュータに入力することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記コンピュータが、前記付加価値額から前記使用コストを控除することを備えることを特徴とする項8に記載の方法。
【0063】
10.前記方法は、前記浸漬冷却における前記他の液体冷媒の消費量を、前記コンピュータに入力することをさらに備え、
前記付加価値額を算出することは、前記コンピュータが、前記付加価値額に前記他の液体冷媒の消費量の相当額を加算することを備えることを特徴とする項8または9に記載の方法。
【0064】
11.前記付加価値を提示することは、前記コンピュータが、前記付加価値額に所定比率を乗じた額を前記循環冷却式初期冷却における前記循環冷却装置の使用料として算出することを備えることを特徴とする項8から10のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0065】
10 循環冷却装置、 50 付加価値決定装置、 100 超伝導装置、 102 超伝導コイル、 104 液体冷媒槽、 112 液体冷媒。