(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】無段変速機および無段変速機の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/662 20060101AFI20231004BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20231004BHJP
F16H 61/12 20100101ALI20231004BHJP
F16H 59/48 20060101ALI20231004BHJP
F16H 59/58 20060101ALI20231004BHJP
F16H 59/66 20060101ALI20231004BHJP
F16G 5/16 20060101ALI20231004BHJP
F16H 9/12 20060101ALI20231004BHJP
B60W 10/107 20120101ALI20231004BHJP
【FI】
F16H61/662
F16H61/02
F16H61/12
F16H59/48
F16H59/58
F16H59/66
F16G5/16 C
F16H9/12 B
B60W10/107
(21)【出願番号】P 2021511091
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043125
(87)【国際公開番号】W WO2020202624
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2019070606
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正典
(72)【発明者】
【氏名】豊原 耕平
(72)【発明者】
【氏名】金山 義輝
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】平岡 忠明
(72)【発明者】
【氏名】大畑 智滋
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123838(JP,A)
【文献】特開2001-153607(JP,A)
【文献】特開2010-266048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/16
F16H 9/12-9/20
F16H 59/48
F16H 59/58
F16H 59/66
F16H 61/02
F16H 61/12
F16H 61/662
B60W 10/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される無段変速機であって、
プライマリプーリと、
セカンダリプーリと、
前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに掛け渡されたベルトであって、
リングと、
前記リングにより結束された複数のエレメントであって、前記ベルトの径方向に開口する受容部を夫々有し、前記受容部に前記リングを受けるエレメントと、
を有するベルトと、
コントローラと、を含んで構成され、
前記コントローラは、
前記ベルトの周方向および径方向に垂直な方向を横方向として、前記エレメントの、前記リングに対する前記横方向の相対移動を検知するか、前記エレメントに対する前記横方向の力の作用があることを検知し、
前記エレメントの相対移動を検知するか、前記エレメントに対する前記力の作用があることを検知した場合に、予め定められた前記エレメントの脱落対策制御を実行する、
ように構成される、無段変速機。
【請求項2】
前記コントローラは、加速度センサにより検出された加速度をもとに、前記力の作用があることを検知する、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記コントローラは、操舵角センサにより検出された操舵角をもとに、前記力の作用があることを検知する、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記コントローラは、ナビゲーション情報をもとに、前記力の作用があることを検知する、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記コントローラは、走行中の道路または路面の状態を判断し、前記道路または路面の状態から、前記力の作用があることを検知する、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項6】
前記コントローラは、カメラセンサからの信号をもとに、前記道路または路面の状態を判断する、
請求項5に記載の無段変速機。
【請求項7】
前記コントローラは、レーザセンサからの信号をもとに、前記エレメントの相対移動を検知する、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項8】
前記コントローラは、前記脱落対策制御として、前記プライマリプーリに入力されるトルクを低減させる、
請求項1~7のいずれか一項に記載の無段変速機。
【請求項9】
前記車両の駆動源として、
第1駆動源と、
前記無段変速機を介さずに駆動輪に動力を伝達可能に配設された、前記第1駆動源とは異なる第2駆動源と、
を備える前記車両に搭載される、請求項1~7のいずれか一項に記載の無段変速機であって、
前記コントローラは、前記脱落対策制御として、前記第1駆動源のトルクを減少させるとともに前記第2駆動源のトルクを増大させる、
無段変速機。
【請求項10】
前記コントローラは、前記脱落対策制御として、プーリ推力を生じさせる前記無段変速機の作動油の圧力を増大させる、
請求項1~7のいずれか一項に記載の無段変速機。
【請求項11】
前記コントローラは、前記脱落対策制御として、前記エレメントに対し、前記エレメントの位置ずれが生じる方向とは逆方向に前記無段変速機の潤滑油を吹き付ける、
請求項1~7のいずれか一項に記載の無段変速機。
【請求項12】
前記コントローラは、前記脱落対策制御として、前記エレメントに対し、前記エレメントの前記受容部が開口する方向とは逆方向に前記無段変速機の潤滑油を吹き付ける、
請求項1~7のいずれか一項に記載の無段変速機。
【請求項13】
ベルトの径方向に開口する受容部にリングを受け、前記リングにより結束される複数のエレメントを有する無段変速機を制御する、無段変速機の制御方法であって、
前記ベルトの周方向および径方向に垂直な方向を横方向として、前記エレメントの、前記リングに対する前記横方向の相対移動を検知するか、前記エレメントに対する前記横方向の力の作用があることを検知し、
前記エレメントの相対移動を検知するか、前記エレメントに対する前記力の作用があることを検知した場合に、予め定められた前記エレメントの脱落対策制御を実行する、
無段変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機およびその制御方法に関し、特に無段変速機のベルトに備わるエレメントの脱落を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の可変プーリに対するベルトの接触径を変化させることにより変速比を無段階に調整可能な無段変速機として、動力を伝達する媒体ないしエレメントである複数の横方向部材を、リングまたは環状のバンドにより結束して構成されたベルトを備えるものが知られている。JP2017-516966Aには、このような無段変速機に適用されるベルトとして、概略U字状に形成されたエレメントを備えるものが開示されている(段落0025~0027)。このエレメントは、ベース部分と、ベース部分の両端から同方向に延びる一対のピラー部分と、を有し、1つのリングに対し、ピラー部分の間の開口を通じて装着される。
【発明の概要】
【0003】
エレメントを介して動力を伝達する無段変速機では、隣り合うエレメントの隙間(「エンドプレー」と呼ばれる)が拡大し、ベルトの全周にわたるエンドプレーの総量が増大する場合がある。このような状態では、エンドプレーが局所的に集中し、さらに、エレメントに横方向の力が加わることで、エレメントがリングから脱落することが懸念される。JP2017-516966Aにおいては、エレメントのピラー部分にフックが設けられ、リングに対してこのフックによりエレメントを係止させているが、エレメントに横方向の力がかかり、エレメントがリングに対して横方向に移動することで、フックによる係止が解除されるためである。エンドプレーの拡大は、リングに伸びが生じることによるほか、エレメントが他のエレメントにより圧迫されたり、エレメント同士が擦れて摩耗したりすることにより発生する。
【0004】
本発明は、以上の問題を考慮し、リングを受ける受容部がベルトの径方向に開口するエレメントの、リングからの脱落を抑制可能な無段変速機およびその制御方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、一形態において、車両に搭載される無段変速機であって、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに掛け渡されたベルトと、コントローラと、を備える無段変速機を提供する。本形態において、ベルトは、リングと、リングにより結束された複数のエレメントであって、ベルトの径方向に開口する受容部を夫々有し、この受容部にリングを受けるエレメントと、を有する。コントローラは、ベルトの周方向および径方向に垂直な方向を横方向として、エレメントの、リングに対する横方向の相対移動を検知するか、エレメントに対する横方向の力の作用があることを検知し、エレメントの相対移動を検知するか、エレメントに対する力の作用があることを検知した場合に、予め定められたエレメントの脱落対策制御を実行するように構成される。
【0006】
本発明は、他の形態において、ベルトの径方向に開口する受容部にリングを受け、リングにより結束される複数のエレメントを有する無段変速機を制御する、無段変速機の制御方法を提供する。本形態では、ベルトの周方向および径方向に垂直な方向を横方向として、エレメントの、リングに対する横方向の相対移動を検知するか、エレメントに対する横方向の力の作用があることを検知し、エレメントの相対移動を検知するか、エレメントに対する力の作用があることを検知した場合に、予め定められたエレメントの脱落対策制御を実行する。
【0007】
これらの形態によれば、リングに対するエレメントの相対移動を検知するか、そのような相対移動を生じさせる力(エレメントに対する横方向の力)の作用があることを検知した場合に、所定の脱落対策制御を実行することで、エレメントのリングからの脱落を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る無段変速機を備える車両の動力伝達系の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、同上無段変速機に備わるベルトの構成を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、同上ベルトの組立方法(エレメントの装着手順)を示す説明図である。
【
図4B】
図4Bは、同上ベルトの組立方法(エレメントの装着手順)を示す説明図である。
【
図4C】
図4Cは、同上ベルトの組立方法(エレメントの装着手順)を示す説明図である。
【
図5】
図5は、エンドプレーが集中した状態を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る脱落対策制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、同上実施形態に係る脱落対策制御の変形例の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、同上実施形態に係る脱落対策制御の他の変形例の流れを示すフローチャートである。
【
図9A】
図9Aは、レーザセンサを用いたエレメントの位置ずれ検出方法を示す説明図である。
【
図9B】
図9Bは、レーザセンサを用いたエレメントの位置ずれ検出方法を示す説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の他の実施形態に係る車両の動力伝達系の構成を示す概略図である。
【
図11】
図11は、本発明の更に別の実施形態に係る車両の動力伝達系の構成を示す概略図である。
【
図12】
図12は、潤滑油の吹付けによるエレメントの脱落抑制方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(車両駆動系の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る無段変速機(CVT)2を備える車両の動力伝達系(以下「駆動系」という)P1の全体構成を概略的に示している。
【0011】
本実施形態に係る駆動系P1は、車両の駆動源として内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)1を備え、エンジン1と左右の駆動輪5、5とをつなぐ動力伝達経路上にCVT2を備える。エンジン1とCVT2とは、トルクコンバータを介して接続することが可能である。CVT2は、エンジン1から入力した回転動力を所定の変速比で変換し、ディファレンシャルギア3を介して駆動輪5に出力する。
【0012】
CVT2は、変速要素として入力側にプライマリプーリ21を備えるとともに、出力側にセカンダリプーリ22を備える。CVT2は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22に掛け渡された金属ベルト23を備え、これらのプーリ21、22における金属ベルト23の接触部半径の比を変化させることで、変速比を無段階に変更することが可能である。
【0013】
プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22は、固定シーブ211、221と、固定シーブに対して同軸に、固定シーブの回転中心軸Cp、Cs(
図2)に沿って軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ212、222と、を備える。CVT2の入力軸に対してプライマリプーリ21の固定シーブ211が接続され、出力軸に対してセカンダリプーリ22の固定シーブ221が接続されている。CVT2の変速比は、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の可動シーブ212、222に作用する作動油の圧力を調整し、固定シーブ211、221と可動シーブ212、222との間に形成されるV溝の幅を変化させることで制御される。
【0014】
本実施形態では、CVT2の作動圧の発生源として、エンジン1または図示しない電動モータを動力源とするオイルポンプ6を備える。オイルポンプ6は、変速機オイルパンに貯蔵されている作動油を昇圧させ、これを元圧として、所定の圧力の作動油を、油圧制御回路7を介して可動シーブ212、222の油圧室に供給する。
図1は、油圧制御回路7から油圧室への油圧供給経路を、矢印付きの点線により示している。
【0015】
CVT2から出力された回転動力は、所定の減速比に設定された最終ギア列または副変速機(いずれも図示せず)およびディファレンシャルギア3を介して駆動軸4に伝達され、駆動輪5を回転させる。
【0016】
(制御システムの構成および基本動作)
エンジン1およびCVT2の動作は、エンジンコントローラ101、変速機コントローラ201により夫々制御される。エンジンコントローラ101および変速機コントローラ201は、いずれも電子制御ユニットとして構成され、中央演算装置(CPU)、RAMおよびROM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータからなる。
【0017】
エンジンコントローラ101は、エンジン1の運転状態を検出する運転状態センサの検出信号を入力し、運転状態をもとに所定の演算を実行し、エンジン1の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期等を設定する。運転状態センサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)を検出するアクセルセンサ111、エンジン1の回転速度を検出する回転速度センサ112、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ113等が設けられるほか、図示しないエアフローメータ、スロットルセンサ、燃料圧力センサおよび空燃比センサ等が設けられている。エンジンコントローラ101は、これらのセンサの検出信号を入力する。
【0018】
変速機コントローラ201は、エンジンコントローラ101に対し、CAN規格のバスを介して互いに通信可能に接続されている。さらに、CVT2の制御に関連して、車両の走行速度を検出する車速センサ209、CVT2の入力軸の回転速度を検出する入力側回転速度センサ210、CVT2の出力軸の回転速度を検出する出力側回転速度センサ213、CVT2の作動油の温度を検出する油温センサ214、シフトレバーの位置を検出するシフト位置センサ215等が設けられている。本実施形態では、以上に加え、加速度センサ216、操舵角センサ217、サスペンションストロークセンサ218、カメラセンサ219、レーザセンサ220およびカーナビゲーション装置223等が設けられている。変速機コントローラ201は、エンジンコントローラ101から、アクセル開度等、エンジン1の運転状態に関する情報を入力するほか、これらのセンサの検出信号を入力する。
【0019】
加速度センサ216は、車体に対して横方向(つまり、水平であり、車両の直進方向に垂直な方向)に作用する加速度(以下「横方向加速度」という)を検出する。本実施形態では、金属ベルト23の延伸方向、換言すれば、プライマリプーリ21またはセカンダリプーリ22の回転中心軸Cp、Csに垂直な水平方向が車両の直進方向と一致し、金属ベルト23の周方向および径方向に垂直な方向が車両の横方向に一致する。よって、加速度センサ216により検出される横方向加速度は、金属ベルト23またはその動力伝達媒体であるエレメントに対して横方向に作用する加速度ないし力(つまり、慣性力)の大きさを示す。
【0020】
操舵角センサ217は、車両の操舵角を検出する。本実施形態では、ステアリングホイールの基準角位置に対する回転角(つまり、ステアリングホイールの切れ角)を検出する。
【0021】
サスペンションストロークセンサ218は、車両の姿勢を検出する手段として設けられ、本実施形態では、前輪または後輪の左右両側のサスペンション装置に取り付けられた一対のストロークセンサにより構成される。本実施形態では、左右一対のストロークセンサからなるサスペンションストロークセンサ218の検出信号をもとに、車両に生じている横方向の揺れ(以下「横揺れ」という場合がある)を判定するが、サスペンションストロークセンサ218として、前輪および後輪双方の左右サスペンション装置にストロークセンサが夫々取り付けられてもよく、これにより、横揺れの判定に対する前後方向の揺れないし傾きの影響を排除することが可能となる。サスペンションストロークセンサ218は、ショックアブソーバに備わるピストンロッドの変位を検出する変位センサにより具現可能であり、サスペンションアームの角度を検出する角度センサによっても可能である。
【0022】
カメラセンサ219は、車両が現在走行中の道路または路面の状態を検出する手段として設けられている。カメラセンサ219により撮影された画像または映像を解析することで、道路または路面の状態として、路面の凹凸の有無およびその大きさを判断することが可能である。
【0023】
レーザセンサ220は、金属ベルト23のエレメントの、リングに対する位置ずれを検出する手段として設けられている。本実施形態では、エレメントの位置ずれとして、リングに対する横方向の相対移動を検出する。レーザセンサ220は、金属ベルト23に対し、エレメントの位置ずれが生じる側に設けられ、本実施形態では、エレメントの装着方法に起因して、金属ベルト23の両側に夫々設けられている。
【0024】
カーナビゲーション装置223は、道路地図情報を有するとともに、GPSセンサを内蔵し、GPSセンサにより取得される車両の現在位置(例えば、緯度および経度により表示される絶対位置)を道路地図情報と照合することで、車両の道路地図上での位置を検出する。本実施形態において、カーナビゲーション装置223は、道路または路面の状態を検出する他の手段として、カメラセンサ219に代替するかまたはこれを補完する。
【0025】
変速機コントローラ201は、変速に関する基本的な制御として、シフト位置センサ215からの信号に基づき運転者により選択されたシフトレンジを判定するとともに、アクセル開度および車速等に基づき、CVT2の目標変速比を設定する。そして、変速機コントローラ201は、オイルポンプ6が生じさせる油圧を元圧として、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の可動シーブ212、222に対して目標変速比に応じた所定の油圧が作用するように、油圧制御回路7に制御信号を出力する。
【0026】
(CVT2の構成)
図2は、本実施形態に係るCVT2の構成を、
図1に示すII-II線断面により示している。
【0027】
本実施形態において、CVT2は、一対の可変プーリ、具体的には、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22と、これら一対のプーリ21、22に掛け渡された金属ベルト23と、を備える。
図2は、断面で示す都合上、プライマリプーリ21の可動シーブ212と、セカンダリプーリ22の固定シーブ221と、金属ベルト23と、を示している。CVT2は、プッシュベルト式であり、金属ベルト23は、動力伝達媒体である複数のエレメント231をその板厚方向に並べ、リング232(「フープ」または「バンド」と呼ばれる場合もある)により互いに結束することで構成される。
【0028】
図3は、本実施形態に係るエレメント231の構成を、金属ベルト23の周方向に垂直な断面により示している。
【0029】
本実施形態において、金属ベルト23のリング232は、複数のリング部材232a~232dを互いに積層して構成された1つのリング(「リングセット」と呼ばれる場合もある)であり、この1つのリングまたはリングセット232に複数のエレメント231が装着されて、金属ベルト23が構成される。リング232が1つであることから、本実施形態に係る金属ベルト23は、モノリング式の金属ベルトまたは単に「モノベルト」と呼ばれる場合がある。
図3は、リング部材が4つ(232a~232d)の場合を示すが、リング部材の数がこれに限定されるものでないことは、いうまでもない。
【0030】
エレメント231は、概して、基部231aと、基部231aの延伸方向に垂直に、互いに同方向に延びる一対の側部231b、231bと、から構成され、本実施形態では、全体として、概略U字状をなしている。基部231aは、サドル部分とも呼ばれ、リング232を横断するだけの長さを有し、その両端に、プライマリプーリ21およびセカンダリプーリ22の各シーブ211、212、221、222に対する接触面が形成されている。基部231aの延伸方向は、エレメント231の幅方向であり、金属ベルト23の横方向Lに一致する。側部231bは、ピラー部分とも呼ばれ、リング232を挟む各側で基部231aに接続し、その延伸方向は、エレメント231の高さ方向であり、金属ベルト23の径方向Rに一致する。これら一対の側部231b、231bの互いに向き合う内面と基部231aの上面とにより、横方向Lに垂直な方向、つまり、金属ベルト23の径方向Rに開口するエレメント231の受容部231rが形成される。本実施形態において、受容部231rが開口する方向は、金属ベルト23の径方向Rに関して外向きである。エレメント231は、受容部231rにリング232を受ける状態で、金属ベルト23の内周側からリング232に装着される。
【0031】
エレメント231は、受容部231rを形成する左右夫々の側部231bに、その内面から内向きに突出するフックないし挟持片fを有し、リング232に装着された状態で、基部231aとこれらのフックfとの間にリング232が保持される。エレメント231は、左右両方の側部231b、231bに一対の切欠きnを有し、一対の切欠きnは受容部231rの空間を部分的に横方向Lに拡張させる。切欠きnは、フックfに可撓性を持たせ、リング232を押さえ付ける力を付与するとともに、エレメント231の装着時にリング232の逃げとなる空間を形成するものである。
【0032】
図4A~4Cは、金属ベルト23の組立方法、具体的には、エレメント231のリング232に対する装着手順を時系列に示している。
図4A~4Cは、図示の便宜上、リング232の姿勢を変えて手順を示すが、実際の装着時では、エレメント231の向きが変えられることは、いうまでもない。
【0033】
初めに、エレメント231をリング232に対して傾けた状態として、リング232の内周側に配置し、エレメント231の受容部231rに、リング232の一方の側縁を挿入する。そして、エレメント231を、基部231aをリング232に近付けるように移動させ、
図4Aに示すように、基部231aと一方の側部231bに備わるフック(
図4Aに示す状態では、左側の側部231bに備わるフック)fとの間を通じて、リング232の側縁を切欠きnに到達させる。
【0034】
次いで、
図4Bに示すように、エレメント231を、基部231aとフックfとの間に位置するリング232の部分を中心として回転させ(
図4Bに示す状態では、時計回りとは反対に回転させ)、エレメント231のリング232に対する傾斜を解消させる。この状態で、エレメント231は、基部231aがリング232に平行となる。
【0035】
エレメント231の基部231aをリング232に平行な状態とした後、
図4Cに示すように、エレメント231を、リング232に対し、リング232の側縁を切欠きnから出す方向に相対的に移動させ(
図4Cに示す状態では、エレメント231を左側に移動させ)、リング232を基部231aの中心に配置させる。これにより、1つのエレメント231の装着が完了する。
【0036】
このような手順を金属ベルト23の全周にわたる全てのエレメント231に対して繰り返すことで、金属ベルト23が完成する。リング232の張力により、さらに、エレメント231の前面に設けられた凸部p(
図3)と隣り合うエレメント231の背面に設けられた凹部との係合により、前後のエレメント231が互いに結束される。
【0037】
ここで、エレメント231を動力伝達媒体とするCVT2では、隣り合うエレメント231の隙間であるエンドプレーが拡大し、金属ベルト23の全周にわたるエンドプレーの総量が増大する場合がある。具体的には、エレメント231を束ねるリング232に弾性的または塑性的な変形による伸びが生じた場合や、エレメント231が他のエレメント231により圧迫されて押し潰されたり、エレメント231同士が擦れて摩耗したりする場合である。
【0038】
このような状態でエンドプレーが局所的に集中し、さらに、エレメント231に対し、金属ベルト23の周方向および径方向に垂直な方向(つまり、横方向)の力が加わると、エレメント231がリング232に対して横方向に移動する。よって、
図4A~4Cを参照して先に説明した手順とは逆の手順により、エレメント231がリング232から脱落する懸念がある。
【0039】
図2は、エンドプレーが集中した状態(エンドプレーEP)を示し、
図5は、理解を容易にするため、エンドプレーEPが集中した金属ベルト23の部分を、拡大視により模式的に示している。
【0040】
本実施形態では、エレメント231、具体的には、エレメント231の受容部231rの開口する方向が、金属ベルト23の径方向Rに関して外向きであるため、金属ベルト23のうち、エレメント231の受容部231rが鉛直方向に関して下側に向く部分、換言すれば、プライマリプーリ21の回転中心軸Cpと、セカンダリプーリ22の回転中心軸Csと、を結ぶ直線Xよりも下側にある部分では、仮にエンドプレーEPが発生したとしてもエレメント231の脱落は抑制される。これに対し、受容部231rが上側に向く部分では、脱落の可能性がある。
【0041】
さらに、金属ベルト23の上側部分のうち、金属ベルト23に対してプーリ21、22から加わる力により
図2に示す範囲AおよびBでエンドプレーEPが発生する傾向がある。その際、範囲A、Bは、プーリ21、22が回転する方向に応じて、エレメント231がプーリ21、22の間に挟まる方向に進む場合、換言すれば、金属ベルト23がプーリ21、22の間の空間に進入する方向に進む場合と、金属ベルト23がプーリ21、22の間の空間から脱出する方向に進む場合と、で区別される。進入方向に進む場合(
図2に示す例では、範囲B)は、エンドプレーEPが生じてもエレメント231がプーリ21、22に挟まれることになるため、脱落は抑制される。他方で、脱出方向に進む場合(範囲A)は、プーリ21、22による支えがなくなるため、エンドプレーEPが生じるとエレメント231が脱落する可能性があり、対策の必要がある。
【0042】
本実施形態では、エレメント231に、リング232に対する横方向の位置ずれないし相対移動が生じていたり、エレメント231に対してそのような位置ずれを生じさせる力の作用があったりする場合に、エレメント231のリング232からの脱落を抑制するための所定の制御(以下「脱落抑制制御」という)を実行する。脱落抑制制御は、エンドプレーの拡大または集中が生じる条件での車両またはCVT2の運転を回避したり、エレメント231の位置ずれをより直接的な方法で抑制したりする制御として具現され、本実施形態では、エンジン1のトルクを通常制御による運転時よりも低減させ、プライマリプーリ21に入力されるトルクを低減させることによる。脱落抑制制御は、「脱落対策制御」に対応する制御である。
【0043】
図6は、本実施形態に係る脱落抑制制御の基本的な流れをフローチャートにより示している。
【0044】
本実施形態において、脱落抑制制御は、変速機コントローラ201により実行され、変速機コントローラ201は、
図6に示す制御ルーチンを所定の周期で実行するようにプログラムされている。脱落抑制制御を実行するのは、変速機コントローラ201に限らず、エンジンコントローラ101であってもよいし、これら以外の他のコントローラであってもよい。
【0045】
S101では、車両の運転状態を読み込む。本実施形態では、脱落抑制制御に関する運転状態として、操舵角Astrおよび車速VSPを読み込む。
【0046】
S102では、操舵角Astrおよび車速VSPをもとに、車両の横方向加速度ACClを算出する。横方向加速度ACClの計算は、操舵角Astrから車両の旋回半径φtrnを算出し、旋回半径φtrnおよび車速VSPを、次式(1)に代入することによる。先に述べたように、CVT2の配置により、横方向加速度ACClは、金属ベルト23およびエレメント231に対して横方向に作用する加速度であり、エレメント231に対して同方向に作用する力の大きさを規定する。
VSP/φtrn=ACCl …(1)
【0047】
S103では、横方向加速度ACClが所定値ACCthr以上であるか否かを判定する。横方向加速度ACClが所定値ACCthr以上である場合は、S104へ進み、所定値ACCthr未満である場合は、S105へ進む。
【0048】
S104では、エレメント231に対し、エンドプレーが拡大し、集中しているとしたならばリング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力の作用があるとして、脱落抑制制御を実行する(このような状況を、以下「エレメントに対する横方向の力の作用がある」と略して表す場合がある)。本実施形態では、エンドプレーが拡大し、金属ベルト23の全周にわたるエンドプレーの総量が増大する傾向にある条件でのCVT2の運転を回避すべく、CVT2の運転状態を変更する。具体的には、エンジン1のトルクを通常制御による運転時よりも低減させることで、プライマリプーリ21に入力されるトルクを低減させる。
【0049】
S105では、脱落抑制制御を行わず、通常制御を維持する。
【0050】
本実施形態では、変速機コントローラ201によりCVT2の「コントローラ」が構成される。
【0051】
(作用効果の説明)
本実施形態に係るCVT2およびこれを備える駆動系P1は、以上のように構成され、以下、本実施形態により得られる効果について述べる。
【0052】
第1に、金属ベルト23のエレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力(エレメント231に対する横方向の力)の作用があることを検知した場合に、脱落抑制制御を実行することで、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる。
【0053】
ここで、脱落抑制制御として、通常制御による運転時よりもエンジン1のトルクを低減させることで、比較的簡単な方法でエンドプレーの拡大を抑制し、エレメント231の脱落を抑制することができる。エンドプレーに拡大がなければ、例えエンドプレーが集中するような条件にあったとしてもエレメント231が脱落するほどの隙間は生じないからである。
【0054】
第2に、脱落抑制制御として、エンジン1のトルクを低減させることで、プライマリプーリ21に入力されるトルクを低減させ、これにより、エレメント231の圧迫による潰れを抑制することを可能として、エンドプレーの拡大を効果的に抑制することができる。
【0055】
第3に、脱落抑制制御に関する運転状態として、操舵角Astrおよび車速VSPを検出することで、車両に既に備わるセンサを用いてエレメント231に対する横方向の力の作用があることを判定し、脱落抑制制御を実行することができる。
【0056】
本実施形態では、操舵角Astrを検出し、これに基づく計算により、横方向加速度ACClを検出した。しかし、横方向加速度ACClの検出は、これに限定されるものではなく、加速度センサ216の出力値によることも可能である。これにより、横方向加速度ACClをより直接的に検出し、演算負荷の軽減を図ることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、操舵角Astrから車両の旋回半径φtrnを算出し、旋回半径φtrnと車速VSPとから、横方向加速度ACClを算出したが、車両の旋回半径φtrnに代えて道路の曲率半径を採用し、曲率半径と車速VSPとから、旋回半径φtrnによる場合と同様にして横方向加速度ACClを算出してもよい。これにより、エレメント231に対する横方向の力の作用があることを予測し、脱落抑制制御をより適切な時期に実行することが可能となる。例えば、車両が大きな曲率半径の道路に進入する前に、エンジン1のトルクを低減させ、エンドプレーの拡大を予め抑制しておくことができる。道路の曲率半径は、道路地図情報に付随するナビゲーション情報として、カーナビゲーション装置223から取得することが可能である。
【0058】
以上の説明では、横方向加速度ACClをもとに、エレメント231に対する横方向の力の作用があるか否かを判定した。しかし、この判定は、横方向加速度ACClによるばかりでなく、車体の横揺れの有無およびその大きさを判定することにより行うことも可能である。
【0059】
図7は、この場合の例として、本実施形態に係る脱落抑制制御の変形例の流れをフローチャートにより示している。
【0060】
S201では、脱落抑制制御に関する車両の運転状態として、前輪または後輪に備わるサスペンション装置のストローク量STRr、STRlを読み込む。具体的には、右前輪および左前輪のサスペンションストローク量か、右後輪および左後輪のサスペンションストローク量か、を検出する。サスペンションストローク量STRr、STRlの検出は、サスペンションストロークセンサ218による。既に述べたように、前輪および後輪双方の左右サスペンションストローク量STRfr、STRfl、STRrr、STRrlを検出してもよい。
【0061】
S202では、サスペンションストローク量STRr、STRlをもとに、横揺れ表示値Irllを算出する。横揺れ表示値Irllは、車体に生じている横方向の揺れの大きさを示す指標であり、これが大きいほど、横揺れが大きいことを示す。本実施形態では、右側のサスペンションストローク量STRrの単位時間当たりの変化量(以下「サスペンションストローク変化量」という)ΔSTRrと、左側のサスペンションストローク変化量ΔSTRlと、の差(=ΔSTRr-ΔSTRl)を算出し、このストローク変化量偏差Dstrを横揺れ表示値Irllに設定する。
【0062】
S203では、横揺れ表示値Irllが所定値Ithr以上であるか否かを判定する。横揺れ表示値Irllが所定値Ithr以上である場合は、S204へ進み、所定値Ithr未満である場合は、S205へ進む。
【0063】
S204では、横揺れが大きく、エレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力の作用があるとして、脱落抑制制御を実行する。先に述べたのと同様に、エンジン1のトルクを通常制御による運転時よりも低減させることで、プライマリプーリ21に入力されるトルクを低減させ、エンドプレーの拡大を抑制する。
【0064】
S205では、脱落抑制制御を行わず、通常制御を維持する。
【0065】
このように、車体に生じている横揺れの大きさを判定し、横揺れが大きく、エレメント231に対して横方向の位置ずれを生じさせる力の作用がある場合に、脱落抑制制御(例えば、エンジン1のトルクを低減させること)を実行することで、現在走行中の道路または路面の状態に起因した力の作用の有無を判定し、例えば、路面の凹凸により力の作用がある場合に、エレメント231のリング232からの脱落を抑制することが可能となる。
【0066】
そして、横揺れの大きさを示す横揺れ表示値Irllの算出に、サスペンションストローク量STRr、STRlを採用したことで、車体に生じている横揺れをより確実に検出し、エレメント231の脱落を抑制することができる。
【0067】
道路または路面の状態は、カメラセンサ219により撮影された画像または映像を解析することによっても判定することが可能である。これにより、横揺れを生じさせる道路または路面を実際に走行する前に、エレメント231に対する横方向の力の作用があることを予測し、脱落抑制制御をより適切な時期に実行することができる。
【0068】
さらに、道路または路面の状態は、カメラセンサ219によるばかりでなく、カーナビゲーション装置223から得られるナビゲーション情報によっても判断することが可能である。例えば、車両の進行方向に工事中の道路があったり、路面の凹凸または起伏が続く道路があったりする場合に、エレメント231に対する横方向の力の作用があることを予測するのである。
【0069】
以上の説明では、エレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力の作用があることを、横方向加速度ACClまたは横揺れ表示値Irllをもとに判定し、エレメント231に対してそのような力の作用がある場合に、脱落抑制制御を実行することとした。しかし、脱落抑制制御を実行するか否かの判定は、エレメント231に対する力の作用の有無を判定することに限らず、エレメント231に、リング232に対する横方向の位置ずれが生じているか否かを判定することによっても可能である。エレメント231にそのような位置ずれが現に生じている場合に、脱落抑制制御を実行するのである。
【0070】
図8は、この場合の例として、本実施形態に係る脱落対策制御の他の変形例の流れをフローチャートにより示している。
【0071】
S301では、レーザセンサ220の信号を入力する。レーザセンサ220は、エレメント231の位置ずれを検出する手段として設けられており、エレメント231の位置ずれを検出可能な他の手段により代替することも勿論可能である。
【0072】
S302では、エレメント231に、リング232に対する横方向の位置ずれが生じているか否かを判定する。エレメント231に位置ずれが生じている場合は、S303へ進み、生じていない場合は、S304へ進む。
【0073】
図9A、9Bは、レーザセンサ220の配置およびレーザセンサ220によりエレメント231の位置ずれを検出する動作を示している。
図9Aは、エレメント231に位置ずれが生じる前の状態を、
図9Bは、位置ずれが生じた後の状態を夫々示している。
【0074】
本実施形態では、金属ベルト23の両側にレーザセンサ220a、220bが配置されており、レーザセンサ220a、220bは、発光部220a1、220b1と受光部220a2、220b2とからなる。エレメント231に規定値以上の位置ずれが生じた場合は、発光部220a1、220b1により放射されたレーザがエレメント231により遮られ、位置ずれの発生が検出される。
【0075】
S303では、脱落抑制制御として、エンジン1のトルクを通常制御による運転時よりも低減させる。
【0076】
S304では、脱落抑制制御を行わず、通常制御を維持する。
【0077】
このように、エレメント231に位置ずれが生じているか否かを判定し、位置ずれが現に生じている場合に、脱落抑制制御を実行することで、脱落抑制制御の不要な実行を回避し、車両の運転性に及ぼす影響(例えば、加速応答性の低下)を軽減することが可能となる。
【0078】
ここで、エレメント231の位置ずれの検出にレーザセンサ220を用いることで、エレメント231の位置ずれを比較的簡易な方法により、確実に検出することができる。
【0079】
(他の実施形態の説明)
図10は、本発明の他の実施形態に係る車両の駆動系P2の全体構成を概略的に示している。
【0080】
本実施形態では、車両の駆動源として、第1駆動源であるエンジン1に加え、第2駆動源である電動モータ81を備える。電動モータ81は、発電機としても、発動機としても動作可能なモータジェネレータであり、駆動輪5、5に対し、CVT2を介さずに動力を伝達可能に配設されている。ここで、「CVT2を介さずに」とは、CVT2による変速を介さない、という意味であり、エンジン1と駆動輪5、5とをつなぐ動力伝達経路上で、CVT2と駆動輪5、5との間に配置される場合に限らず、セカンダリプーリ22の出力軸に接続されることで、実質的にCVT2よりも下流側の動力伝達経路上にある場合を包含する。
図10は、後者の例を示す。
【0081】
本実施形態に係る脱落抑制制御は、エレメント231に、リング232に対する横方向の位置ずれが生じていたり、エレメント231に対してそのような位置ずれを生じさせる力の作用があったりする場合に、電動モータ81のトルクを増大させる制御として具現される。
【0082】
このように、電動モータ81のトルクを増大させることで、車両の要求加速度の達成に必要なトルクのうち、エンジン1に分担させるトルク、換言すれば、プライマリプーリ21に入力されるトルクを減少させ、エンドプレーの拡大を抑制することができる。
【0083】
図11は、本発明の更に別の実施形態に係る車両の駆動系P3の全体構成を概略的に示している。
【0084】
本実施形態に係る駆動系P3は、第2駆動源である電動モータ82が、エンジン1からの動力の伝達を受ける第1駆動輪51、51ではなく、これとは異なる第2駆動輪52、52に対して動力を伝達可能に設けられている点で、先の実施形態に係る駆動系P2とは相違する。ここで、電動モータ82は、駆動系P2の電動モータ81と同様に、駆動輪(つまり、第1駆動輪)51、51に対し、CVT2を介さずに動力を伝達可能な状態にある。
【0085】
本実施形態に係る脱落抑制制御も、先の実施形態と同様である。具体的には、電動モータ82のトルクを増大させ、要求駆動トルクに対してエンジントルクが占める割合ないし配分を減少させ、プライマリプーリ21に入力されるトルクの減少を通じて、エンドプレーの拡大を抑制することが可能である。
【0086】
脱落抑制制御は、エンジン1のトルクを低減させること、換言すれば、プライマリプーリ21に対する入力トルクを低減させることに限らず、プーリ推力を生じさせるCVT2の作動油の圧力を、通常制御による運転時よりも増大させることであってもよい。
【0087】
これにより、リング232の張力を増大させ、ベルト23により伝達させるトルクのうち、エレメント231に分担させるトルクを減少させ、エレメント231の潰れを抑制し、エンドプレーの拡大を抑制することができる。張力の増大により、リング232の伸びが促進されるものの、エンドプレーの拡大に対する影響がより顕著に現れるエレメントの潰れを抑制することで、エンジントルクの低減によることなく、エンドプレーの拡大を抑制することが可能である。
【0088】
さらに、脱落抑制制御は、CVT2の運転状態の変更によるばかりでなく、金属ベルト23のうち、エンドプレーの集中が生じる部分(
図2に点線で示す範囲Aにある部分)に向けてCVT2の潤滑油を吹き付けることによっても具現可能である。
【0089】
図12は、潤滑油の吹付けによる場合の脱落抑制制御を模式的に示している。
【0090】
金属ベルト23に向けてCVT2の潤滑油を噴射可能に、複数のオイルインジェクタINJ1~INJ3が配置されている。本実施形態では、3つのオイルインジェクタINJ1~INJ3が設けられ、オイルインジェクタINJ1、INJ2は、エレメント231に対し、その位置ずれが生じる方向とは逆方向に潤滑油を吹き付ける位置に、オイルインジェクタINJ3は、受容部231rが開口する方向とは逆方向に潤滑油を吹き付ける位置に、夫々設けられている。エレメント231に対してオイルインジェクタINJ1、INJ2により側方から吹き付けられる潤滑油の圧力により、エレメント231の位置ずれ自体を抑制し、オイルインジェクタINJ3により下方から吹き付けられる潤滑油の圧力により、エレメント231を支持し、リング232からの脱落を抑制することができる。
【0091】
ここで、オイルインジェクタINJ1~INJ3のいずれかにより潤滑油が既に供給されている場合は、脱落抑制制御は、そのオイルインジェクタによる供給量を増大させることであってもよい。
【0092】
以上の説明では、エレメント231に対し、リング232に対する横方向の位置ずれを生じさせる力の作用がある場合に、常に脱落抑制制御を実行することとしたが、これに限らず、金属ベルト23のエンドプレーが拡大するか、集中する条件として予め定められた条件にあるか否かを判定し、そのような条件にある場合にのみ、脱落抑制制御を実行するようにしてもよい。これにより、脱落抑制制御の不要な実行を回避し、エンジントルクの低減等、脱落抑制制御が車両の運転性に及ぼす影響を軽減することが可能となる。
【0093】
エンドプレーが拡大する条件にあるか否かは、エンジン1のトルクから判定することができ、エンドプレーが集中する条件にあるか否かは、車両の走行条件から判定することができる。エンドプレーが集中する条件として、勾配路を走行している車両の走行条件が、アクセル開度および車速に対して予め定められたエンドプレー発生領域にあることを例示することができる。エンドプレー発生領域は、金属ベルト23に加わる力のつり合いに関する運動方程式を解き、対象とするエレメント231(具体的には、
図2に示す範囲Aにあるエレメント)に対し、エンドプレーEPを生じさせるほどの力が隣り合うエレメント231同士の間を開く方向に加わるか否かを判断することで、設定することが可能である。
【0094】
さらに、エンドプレーが集中する条件にあるか否かの判定によるばかりでなく、エンドプレーの集中を検出可能なエンドプレーセンサを設置し、エンドプレーの集中が現に生じている場合に、脱落抑制制御を実行することも可能である。エンドプレーセンサに適用可能なセンサとして、レーザセンサ等の光学的センサのほか、渦電流センサを例示することができる。エンドプレーセンサをエンドプレーが集中する箇所(例えば、
図2に点線で示す範囲Aの部分)に設置し、その信号波形から、エンドプレーの集中を検出する。
【0095】
以上に加え、エレメント231がリング232に装着された状態で受容部231rが開口する方向は、金属ベルト23の外周側(つまり、径方向外側)であってもよいし、内周側(径方向内側)であってもよい。受容部231rが金属ベルト23の径方向内側に開口する場合は、潤滑油の吹付けによりエレメント231の脱落を抑制する場合に、オイルインジェクタINJ3により潤滑油を吹き付ける方向が
図12に示す方向とは逆である。
【0096】
さらに、金属ベルト23について規定される「横方向」は、車両の直進方向、つまり、前後方向に垂直な方向に限らず、車両の直進方向であってもよい。この場合は、金属ベルト23の延伸方向が車両の直進方向と垂直な関係にあり、プーリ21、22の回転中心軸Cp、Csに平行な方向が車両の直進方向に一致する。
【0097】
以上の説明では、第1駆動源と、CVT2を介さずに駆動輪5、5に動力を伝達可能に配設された第2駆動源と、を設け、第1駆動源としてエンジン1を、第2駆動源として電動モータ81、82を採用した。しかし、第1駆動源は、内燃エンジンばかりでなく、電動モータ(例えば、モータジェネレータ)によっても、内燃エンジンと電動モータとの組合せによっても構成可能である。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において、様々な変更および修正を成し得ることはいうまでもない。
【0099】
本願は日本国特許庁に2019年4月2日に出願された特願2019-70606号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。