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  • 特許-口腔内崩壊錠及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】口腔内崩壊錠及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20231004BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61K31/167
A61P29/00
A61K9/20
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/22
A61K47/46
A61K47/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021524680
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014429
(87)【国際公開番号】W WO2020246120
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019106806
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515142891
【氏名又は名称】あゆみ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】瀧上 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山下 実己
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-106014(JP,A)
【文献】特許第3389205(JP,B2)
【文献】国際公開第2005/123040(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1271997(CN,A)
【文献】国際公開第2013/146917(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195796(WO,A1)
【文献】特許第6496084(JP,B2)
【文献】特開2017-002045(JP,A)
【文献】特開2011-157348(JP,A)
【文献】特許第4719899(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/167
A61P 29/00
A61K 9/20
A61K 47/38
A61K 47/36
A61K 47/32
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/46
A61K 47/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項11】
80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェンと高成形性の結晶セルロースと崩壊剤とを混合して粉体混合物を得る工程、及び
前記粉体混合物を直接打錠して錠剤を得る工程を含む、
請求項1~10の何れか一項に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアミノフェンを高濃度で含有する口腔内崩壊錠(以下、OD錠とも表記)に関する。より詳細には、アセトアミノフェンを高濃度で含みながら、錠剤硬度及び口腔内速崩壊性に優れた口腔内崩壊錠に関する。さらに、本発明は、前記口腔内崩壊錠の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医薬品の開発では、有効性や安全性だけではなく、その使用や服用の容易さも重要な要素とされている。医薬品の様々な剤形の中で、錠剤においては服用の容易さから、少量の唾液で速やかに崩壊する口腔内崩壊錠が有用な剤形として研究開発が行われている。
【0003】
口腔内崩壊錠は一般的に、口腔内で水を服用することなしに、唾液により短時間で崩壊し溶解する錠剤である。また、口腔内崩壊錠は、製造や流通過程で受け得る衝撃に十分に耐えられる錠剤硬度を有することが求められている。このような錠剤物性を満たすためには、錠剤成分に崩壊剤や賦形剤を配合することに加えて、錠剤の空隙率を上げることが一般的に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1は、超臨界もしくは亜臨界状態にある二酸化炭素又は液体もしくは気体二酸化炭素にて処理することにより「多孔性構造」を有する、速崩壊性錠剤(特に、口腔内崩壊錠)に関する。特許文献1は、「多孔性構造」を有する錠剤として、空隙率30%以上50%以下の錠剤を実施例で開示する。また、特許文献2は、特定成分を含み、空隙率が10~40%、好ましくは20~40%であることを特徴とする口腔内崩壊錠の製造方法を開示する。特許文献8は製造工程中において加湿と乾燥工程を経ることで20~40%の空隙率を有する口腔内崩壊錠を開示する。特許文献9は、処方成分にマンニトール、キシリトール及びエリスリトールから選択された少なくとも1種の水溶性糖類と、前記糖類の粒子表面が湿る程度の水分とを含む混合物を、圧力3~160Kg/cm2程度で打錠し、乾燥する工程により空隙率20~80%の錠剤をえる工程を開示する。
【0005】
アセトアミノフェンは古くから用いられている解熱鎮痛作用を持つ有用な生理活性薬物であり、副作用が少ない医薬成分として幅広い年代の患者に繁用されている。通常、成人にはアセトアミノフェンとして、1回300~1000mgが経口投与され、1日最大総量は4000mg/日である。現在販売されているアセトアミノフェン錠には、有効成分量の異なる、500mg錠、300mg錠及び200mg錠があり、アセトアミノフェン含有量が多いため、錠剤が大型化する傾向がある。そのため、嚥下力が弱い子供や高齢者でも容易に服用できるように、小型化された錠剤や口腔内崩壊錠が開発されている。小型の錠剤の例としては、特許文献3及び4に開示の錠剤がある。
【0006】
特許文献3は、アセトアミノフェンを70~85質量%、結晶セルロースを5~15質量%、及びヒドロキシプロピルセルロースを5~10質量%含有し、ナンテンジツエキスを含有しないことを特徴とするR型の凸面を有する錠径7~10mmの円形錠剤を開示する。また、特許文献4は、未粉砕のアセトアミノフェンに分散剤、滑沢剤及びその他の添加剤を配合する工程、並びに、添加剤の配合前又は各添加剤の配合後において少なくとも1回、解砕整粒してアセトアミノフェン粒子の表面に添加剤を分散・付着させる工程を含む、錠剤の製造のための未粉砕のアセトアミノフェンの使用を開示する。
【0007】
また、アセトアミノフェンを含有する口腔内崩壊錠を開示する文献には、以下の特許文献がある。特許文献5は、アセトアミノフェンに(a)グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群より選ばれる1種又は2種のアミノ酸及びスクラロースを含有してなる経口固形製剤を開示する。特許文献6は、結晶粒子径が約100~約500μmのアセトアミノフェンと、精油、精油及び高甘味度甘味剤、又は精油、高甘味度甘味剤及び酸性リン脂質もしくはそのリゾ体からなる苦味低減成分とを含有することを特徴とする口腔内速崩壊錠を開示する。
【0008】
特許文献7は、崩壊性粒子組成物及び薬効成分を含む口腔内崩壊錠剤の製造方法であって、酸型カルボキシメチルセルロースからなる第一の崩壊剤成分、クロスポビドンからなる第二の崩壊剤成分、及び、糖又は糖アルコールから成る賦形剤の三成分の中の任意の二成分を用いて水又は水を溶媒とする噴霧液を噴霧して行う第一湿式造粒工程、及び、第一湿式造粒工程で得られた造粒物と第一湿式造粒工程で用いられなかった残りの一成分を少なくとも用いて水又は水を溶媒とする噴霧液を噴霧して行う第二湿式造粒工程を含む、少なくとも二段階の造粒法で該崩壊性粒子組成物を製造し、該崩壊性粒子組成物及び薬効成分を含む混合物を打錠することを含み、該薬効成分の含有率が40重量%以上であって、且つ、該薬効成分単独の分配係数が-6.0~10.0である、前記製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6098634号公報
【文献】特許第5721093号公報
【文献】特許第5499599号公報
【文献】特開2018-90638号公報
【文献】特開2014-133728号公報
【文献】特許第3389205号公報
【文献】特許第6302921号公報
【文献】特開2000-95674号公報
【文献】特開2008-133294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アセトアミノフェンは幅広い年代の患者に解熱鎮痛薬として一般的に用いられており、容易に服用できる口腔内崩壊錠が求められている。加えて、アセトアミノフェンは薬価が非常に低いため、配合する添加剤の価格のほうが高いものも多い。そのため、アセトアミノフェンを高濃度で含有させ、添加剤の配合量を減量させることは製造コストを低減させるために重要である。また、服用コンプライアンス及びアドヒアランスの観点から錠剤を小型化するためにアセトアミノフェンを高濃度で含有させることが求められている。
【0011】
しかしながら、従来、高濃度のアセトアミノフェンを含有した口腔内崩壊錠は、提供困難であると考えられていた。製品として求められる錠剤硬度と崩壊時間を満たすため、崩壊剤等の副成分を多量に添加すると、アセトアミノフェン含有率が低下し、必然的に錠剤が大型化し、錠剤が大型化すると口腔内での崩壊時に多量な唾液が必要となるため、服用感の低下につながるという問題があるためである。
【0012】
加えて、製造コストを低減させるために、複雑な工程を有する製造方法よりも、より簡単な製造方法で製造できる口腔内崩壊錠が求められている。例えば、特許文献1、2、7及び8に開示されている空隙率を増加させるための工程を含む方法では製造コストが増大するという問題があった。
【0013】
特許文献3及び4に記載の錠剤はアセトアミノフェンを高濃度で含有するが、口腔内崩壊錠としては製造されていない。特許文献5の経口固形製剤は、口腔内崩壊錠であるが、アセトアミノフェンの濃度は60%である。特許文献6に記載の口腔内崩壊錠は、アセトアミノフェンを25%程度、1錠中約150mg含有しており、アセトアミノフェンの1錠中含有量が実用的に十分ではない。特許文献7に記載の方法により製造された口腔内崩壊錠剤はアセトアミノフェンを40~50%、1錠中100m~150mg含有しており、これはアセトアミノフェンの1錠中含有量が実用的に十分ではない。また、特許文献7に記載の口腔内崩壊錠剤の製造方法は、少なくとも2回の湿式造粒工程を含み、複雑である。
【0014】
上記のように、従来技術において、アセトアミノフェンを75質量%以上の高濃度で含み、十分な錠剤硬度を備え、且つ実用的な口腔内速崩壊性を有する口腔内崩壊錠は知られていない。よって、本発明は、アセトアミノフェンを75質量%以上の高濃度で含みながら、錠剤硬度50N以上を有し、且つ実用的な口腔内速崩壊性を有する口腔内崩壊錠を提供することを解決すべき課題とする。さらには、本発明は、服用感の良好な口腔内崩壊錠を提供することを解決すべき課題とする。本発明は、アセトアミノフェンの苦味が抑制された口腔内崩壊錠を提供することを解決すべき課題とする。加えて、本発明は、前記口腔内崩壊錠の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題の下、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、所定範囲の粒子径を有するアセトアミノフェン原薬と高成形性の結晶セルロースと崩壊剤を混合し、直接打錠して製造することにより、アセトアミノフェンを高濃度で含みながら、錠剤硬度50N以上を有し、且つ実用的な口腔内速崩壊性を有する口腔内崩壊錠が得られることを見出した。また、上記のように製造されたアセトアミノフェン含有口腔内崩壊錠の苦味は抑制されており、服用しやすい口腔内崩壊錠が得られることを見出した。本発明は、上記の知見に基づいて完成したものである。
【0016】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェンと、高成形性の結晶セルロースと、崩壊剤とを含む口腔内崩壊錠であって、上記アセトアミノフェンの1錠中含有率は75質量%以上及び1錠中含有量は190mg以上であり、錠剤硬度50N以上を有する口腔内崩壊錠。
[2]口腔内崩壊錠に、人工唾液水溶液を、送液速度6mL/分、滴下高さ80mm、及び荷重10gの条件にて、滴下して測定される崩壊時間が30秒以内である、[1]に記載の口腔内崩壊錠。
[3]空隙率が20%未満である、[1]又は[2]に記載の口腔内崩壊錠。
[4]錠剤の気孔率が25%未満である、[1]~[3]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠。
[5]甘味剤及び/又は香料をさらに含む、[1]~[4]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠。
[6]上記結晶セルロースを1錠中8.5質量%より多く含む、[1]~[5]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠。
[7]上記結晶セルロースが、0.10~0.15g/cm3の範囲のかさ密度を有する、[1]~[6]の何れか一に口腔内崩壊錠。
[8]上記崩壊剤が、部分アルファ化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される何れかである、[1]~[7]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠。
[9]上記甘味剤が、アスパルテーム、サッカリン、ステビア、アセスルファムカリウム及びスクラロースからなる群から選択される何れかである、[5]~[8]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠。
[10]上記香料が粉体香料であり、グレープフルーツフレーバー、メントールフレーバー、メントールパウダー、ペパーミントパウダー、グレープフルーツエキスパウダー、レモンパウダー、アップルパウダー、ストロベリーパウダー及び巨峰パウダーからなる群から選択される何れかである、[5]~[9]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠。
[11]80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェンと高成形性の結晶セルロースと崩壊剤とを混合して粉体混合物を得る工程、及び
上記粉体混合物を直接打錠して錠剤を得る工程を含む、
[1]~[10]の何れか一に記載の口腔内崩壊錠の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アセトアミノフェンを高濃度で含みながら、錠剤硬度50N以上を有し、且つ実用的な口腔内速崩壊性を有する口腔内崩壊錠を提供することができる。また、本発明によれば、苦味が抑制されたアセトアミノフェン含有口腔内崩壊錠を提供することができる。加えて、本発明によれば、直接打錠法を採用し、簡単で製造コストが低い口腔内崩壊錠の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例11の電子顕微鏡像を示す。上の電子顕微鏡像の倍率は100倍、下は300倍である。
図2図2は、比較例3の電子顕微鏡像を示す。上の電子顕微鏡像の倍率は100倍、下は300倍である。
図3図3は、比較例7の電子顕微鏡像を示す。上の電子顕微鏡像の倍率は100倍、下は300倍である。
図4図4は、実施例11のアセトアミノフェン錠剤のラマンイメージング像である。
図5図5は、比較例3のアセトアミノフェン錠剤のラマンイメージング像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
(口腔内崩壊錠)
本発明は、80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェンと、高成形性の結晶セルロースと、崩壊剤とを含む口腔内崩壊錠であって、前記アセトアミノフェンの1錠中含有率は75質量%以上及び1錠中含有量は190mg以上であり、錠剤硬度50N以上を有する口腔内崩壊錠に関する。
【0021】
本発明の口腔内崩壊錠における生理活性薬物はアセトアミノフェンである。アセトアミノフェンは、解熱鎮痛薬であり、発熱、寒気、頭痛などに対症療法として用いられる。本発明において、口腔内崩壊錠は、口腔内で水を服用することなしに、唾液により実用上十分な崩壊性又は溶解性(本明細書中、実用的な口腔内速崩壊性ともいう)を有する錠剤を意味する。一般に、口腔内崩壊錠は、OD錠ともいう。本発明の口腔内崩壊錠の製造方法については後述する。
【0022】
本発明の口腔内崩壊錠に用いられるアセトアミノフェン原薬(以下、本アセトアミノフェン原薬)のメジアン粒子径(D50)は80~350μmの範囲であり、好ましくは100~300μmの範囲であり、より好ましくは100~250μmの範囲であり、さらにより好ましくは100~200μmの範囲である。本アセトアミノフェン原薬が有する粒度分布は、D10が5~100μmの範囲、好ましくは10~100μmの範囲、より好ましくは20~100μmの範囲であり、かつ、D90が、200~500μmの範囲、好ましくは250~400μmの範囲、より好ましくは250~350μmの範囲である。製造ロット間により多少の差はあってもよい。また、本アセトアミノフェン原薬の体積平均粒子径(MV)は、80~300μmの範囲であることができ、100~250μmの範囲でもよい。なお、本発明における粒度分布はレーザー回折法による乾式粒子径測定(Laser Micron Sizer LMS-2000e(株式会社セイシン企業))を用いた体積分布評価により求められ、D10、D50、D90とは、粒度分布の小径側から各々体積の累積10%、50%、90%の粒子径をいう。特に、D50をメジアン粒子径という。
【0023】
本発明の一実施態様では、本アセトアミノフェン原薬は、晶析後に粉砕処理を受けていないものを用いることができる。本アセトアミノフェン原薬は、晶析後に特別な処理を受けていないものを用いてもよいし、晶析後に篩過処理されたものを用いてもよい。本発明の好ましい実施態様では、本アセトアミノフェン原薬は、晶析後に篩過処理されたものである。篩過処理により、本発明の口腔内崩壊錠の製造に適した粒子径の粒子をより多く含んだ粉体を得るためである。粗大なアセトアミノフェン結晶(例えば、600μm以上)が多く含まれる原薬を使用した場合、アセトアミノフェン高含有の錠剤を打錠成型することは困難であると考えられる。また、アセトアミノフェン微小物(例えば、30μm以下)が多く含まれる原薬を使用して打錠された錠剤は、崩壊性が悪いため口腔内崩壊錠として成り立たないと考えられる。篩過処理により、粗大なアセトアミノフェン結晶やアセトアミノフェン微小物を除去することができる。
【0024】
本発明の口腔内崩壊錠における、アセトアミノフェン含有率は75質量%以上である。アセトアミノフェンの含有率が75質量%以上であれば、1錠中にアセトアミノフェンを200~500mg含有させても錠剤が過度に大型化しないためである。口腔内崩壊錠については、錠剤が大型化すると、口腔内での崩壊時に多量な唾液が必要となり、服用感が低下するという弊害が生じる。アセトアミノフェンの1錠中含有率は、75から95質量%の範囲、75から94質量%の範囲、75から93質量%の範囲、75から92質量%の範囲、75から91質量%の範囲、75から90質量%の範囲又は75から89質量%の範囲であってもよいし、80から95質量%の範囲、80から94質量%の範囲、80から93質量%の範囲、80から92質量%の範囲、80から91質量%の範囲、80から90質量%の範囲又は80から89質量%の範囲であってもよい。なお、本明細書において、アセトアミノフェンを高濃度で含有するとは、1錠中のアセトアミノフェン含有率が高いこと(例えば含有率75質量%以上)を意味する。
【0025】
本発明の特定の実施態様では、口腔内崩壊錠における、アセトアミノフェン含有率は80質量%以上、又は85質量%以上であってもよい。アセトアミノフェン含有量が500mgの口腔内崩壊錠を製造する場合には、特に含有率が85%以上であることが好ましい場合がある。
【0026】
本発明の口腔内崩壊錠は、アセトアミノフェンの1錠中含有量が190mg以上である。成人には通常、アセトアミノフェンとして1回300~500mgが経口投与される場合が多いため、1錠中含有量が190mg以上であれば、1回1又は2錠を服用すればよく、実用的である。
【0027】
結晶セルロースには多様な種類があり、一般に、崩壊剤、賦形剤、結合剤などの様々な用途に応じて使い分けられている。本発明では、錠剤の成形性を高めるために添加される成分として高成形性の結晶セルロースを使用することができる。本発明の口腔内崩壊錠に含有される高成形性の結晶セルロースは、0.10~0.23g/cmの範囲のかさ密度を有する結晶セルロースである。かさ密度は、「第十六改正日本薬局方、3.粉体物性測定法、3.01 かさ密度およびタップ密度測定法」に記載のかさ密度の測定方法に準じて測定することができる。本発明の高成形性の結晶セルロースは20~100μmの範囲の平均粒子径を有するものでもよい。このような平均粒子径やかさ密度を有する結晶セルロース製品としては、セオラス(登録商標)KG-802、OD20-P及びKG-1000(旭化成株式会社)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の一実施態様では、0.10~0.23g/cmの範囲のかさ密度を有する結晶セルロースを用いることが好ましく、0.10~0.15g/cmの範囲のかさ密度を有する結晶セルロースを用いることがより好ましい。また、高アスペクト比の結晶セルロースを用いることが好ましい。長細い形状のため絡まりやすく、成形性が良いためである。より好ましいかさ密度を有する結晶セルロース製品としては、セオラス(登録商標)KG-1000(旭化成株式会社)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0029】
本発明の口腔内崩壊錠は、高成形性の結晶セルロースを1錠中8.5質量%より多く含むことができる。1錠中における高成形性の結晶セルロースの含有率を8.5質量%より高くすることにより、製造や流通過程で受け得る衝撃に十分に耐えられる錠剤硬度を有する錠剤を製造することができる。本発明者らは、後述する実施例において、高濃度でアセトアミノフェンを含む場合(85質量%)でも、高成形性の結晶セルロースを8.5質量%より多く含有させることにより、50N以上の硬度を有する口腔内崩壊錠が製造可能であることを示した。1錠中における高成形性の結晶セルロースの含有率は、8.6質量%以上、8.7質量%以上、8.8質量%以上、8.9質量%以上、9.0質量%以上、9.5質量%以上又は10.0質量%以上でもよい。また、1錠中における高成形性の結晶セルロースの含有率は、20質量%以下であってもよく、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下又は14.5質量%以下とすることができる。
【0030】
錠剤硬度について、一般的に、50N以上の硬度を有する錠剤であれば、例えば錠剤をPTPなどに包装する際の衝撃や、輸送時の衝撃、患者ハンドリング時の力に耐えられると考えられている。本発明の口腔内崩壊錠は、錠剤硬度50N以上を有し、51N以上、52N以上、53N以上、54N以上、55N以上、56N以上、57N以上、58N以上、59N以上、又は60N以上でもよい。本発明において、錠剤硬度の上限値について、特に制限はないが、150N以下、又は100N以下でもよい。錠剤硬度は、ロードセル式錠剤硬度計(PC-10、岡田精工株式会社)などを用いて測定することができる。
【0031】
崩壊剤としては、部分アルファ化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、ゼラチン、デンプン、トウモロコシデンプン、及びバレイショデンプンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の特定の実施態様において、崩壊剤は、部分アルファ化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、及びデンプングリコール酸ナトリウムからなる群から選択される何れかであることが好ましい。崩壊剤は、1種類又は2種類以上の任意の組合せにより使用することができる。本発明の口腔内崩壊錠は、崩壊剤を1錠中1.0~7.0質量%の範囲、好ましくは1錠中2.0~6.0質量%の範囲、より好ましくは1錠中2.5~5.5質量%の範囲で含むことができる。
【0032】
本発明の口腔内崩壊錠は、甘味剤をさらに含むことができる。甘味剤としては、アスパルテーム、サッカリン、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース、果糖、キシリトール、白糖、ブドウ糖又はマルチトール等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の特定の実施態様において、甘味剤は、アスパルテーム、サッカリン、ステビア、アセスルファムカリウム及びスクラロースからなる群から選択される何れかであることが好ましい。甘味剤は、1種類又は2種類以上の任意の組合せにより使用することができる。本発明の口腔内崩壊錠は、甘味剤を1錠中0.1~6.0質量%の範囲、好ましくは1錠中0.5~5.0質量%の範囲、より好ましくは1錠中0.7~4.0質量%の範囲で含むことができる。
【0033】
本発明の口腔内崩壊錠は、香料をさらに含むことができる。香料としては、粉体香料を用いることができる。粉体香料としては、グレープフルーツフレーバー、メントールフレーバー、メントールパウダー、ペパーミントパウダー、グレープフルーツエキスパウダー、レモンパウダー、アップルパウダー、ストロベリーパウダー、又は巨峰パウダー等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。粉体香料は、1種類又は2種類以上の任意の組合せにより使用することができる。本発明の口腔内崩壊錠は、粉体香料を1錠中0.1~4.0質量%の範囲、好ましくは1錠中0.2~3.0質量%の範囲、より好ましくは1錠中0.3~2.0質量%の範囲で含むことができる。
【0034】
本発明の口腔内崩壊錠は、上記高成形性の結晶セルロース、崩壊剤、甘味剤、香料及び矯味剤以外の添加剤(以下、その他の添加剤)をさらに含むことができる。その他の添加剤としては、D-マンニトール及び乳糖などの賦形剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸、無水二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、含水二酸化ケイ素及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の流動化剤、シクロデキストリン等の安定化剤、着色剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、医薬品製造に用いられている一般的な添加剤が使用できる。滑沢剤や流動化剤を含む場合は、それぞれ1錠中0.1~2.0質量%の範囲又は0.1~1.0質量%の範囲で含むことができる。
【0035】
本発明において、口腔内崩壊錠は、上記のとおり、口腔内で水を服用することなしに、唾液により実用上十分な崩壊性又は溶解性を有する錠剤である。実用上十分な崩壊性又は溶解性とは、通常、口腔内で1から300秒、1から150秒、1から90秒、1から60秒程度、1から30秒程度で崩壊もしくは溶解することである。トリコープテスタ(登録商標)で測定した崩壊時間が1から300秒、1から150秒、1から90秒、1から60秒、1から30秒程度である錠剤である。トリコープテスタ(登録商標)で測定した崩壊時間は、実際のヒト口腔内での崩壊時間を相関すると報告されている(帆足洋平著、乾式プロセスを用いた製剤技術と口腔内崩壊錠の開発に関する研究、平成25年学位論文、岐阜薬科大学)。本発明において、トリコープテスタ(登録商標)で測定した崩壊時間とは、2枚の金網で挟んだ錠剤の上から37±0.5℃の人工唾液水溶液を送液速度6mL/分で、高さ80mmから滴下し、錠剤が崩壊して2枚の金網が接するまでの時間(崩壊時間)であり、錠剤の上に置く金網の重さ(荷重)は10gである。人工唾液水溶液の成分は、実施例の表2に記載のとおりである。
【0036】
特定の実施態様では、本発明の口腔内崩壊錠について、トリコープテスタ(登録商標)を用いて測定した崩壊時間が、30秒以内、25秒以内、20秒以内、15秒以内、又は10秒以内でもよい。別の実施態様では、本発明の口腔内崩壊錠について、トリコープテスタ(登録商標)を用いて測定した崩壊時間が、1~30秒、1~25秒、1~20秒、1~15秒、又は1~10秒でもよい。
【0037】
本発明の口腔内崩壊錠は、錠剤の気孔率が25%未満であることができ、24%以下、23%以下、22%以下、21%以下、20%以下、19%以下でもよい。本発明の口腔内崩壊錠は、錠剤の気孔率が、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上又は5%以上でもよい。本発明の口腔内崩壊錠は、1%以上25%未満の範囲、1%以上24%以下の範囲、2%以上23%以下の範囲、2%以上22%以下の範囲、3%以上22%以下の範囲、4%以上21%以下の範囲、又は5%以上20%以下の範囲の気孔率を有するものでもよい。細孔の有無は錠剤の物性に非常に重要であり、錠が水や唾液と接触した場合に毛細管現象を発生させ、錠剤内部まで導水し、溶出性や崩壊性に大きく寄与する。
【0038】
錠剤の気孔率(%)は、水銀圧入法による細孔分布測定の結果に基づいて、以下の式により算出することができる。
気孔率(%)=(全細孔容量 (CC/g) / 錠剤の容量 (CC/g))×100
水銀圧入法による細孔分布は、PoreMaster60GT(Anton Paar Japan)を用いて測定することができる。
【0039】
本発明の口腔内崩壊錠は、空隙率が20%未満であることができ、19%以下、18%以下、17%以下、16%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下でもよい。本発明の口腔内崩壊錠は、空隙率が、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上又は5%以上でもよい。本発明の口腔内崩壊錠は、1%以上20%未満の範囲、1%以上19%以下の範囲、2%以上18%以下の範囲、2%以上17%以下の範囲、3%以上16%以下の範囲、4%以上16%以下の範囲、又は5%以上15%以下の範囲の空隙率を有するものでもよい。
【0040】
空隙率(%)は、ピクノメーター(UltraPyc 1200e、Anton Paar Japan)から錠の真比重を算出し、それを基に算出することができる。
空隙率(%)=(V-W/M)/V×100
(V:崩壊錠の体積(cm)、W:崩壊錠の質量(g)、M:崩壊錠の密度(g/cm))
水銀圧入法は水が流入しうる細孔を測定しているのに対し、ピクノメーターでは錠剤全体の空隙を全て測定しているという違いがある。従って、水銀圧入法に基づく気孔率は、錠剤に分布する細孔の割合を示し、ピクノメーターに基づく空隙率は、錠剤全体の空隙の割合を示す。
【0041】
口腔内崩壊錠の製造では、口腔内速崩壊性を満たすために錠剤の気孔率や空隙率を上げることが一般的に行われている。例えば、特許文献1、2、8及び9に開示の口腔内崩壊錠はいずれも空隙率20%以上を有することにより、所望の口腔内崩壊時間を達成している。一方、後述の実施例に示すように本発明の口腔内崩壊錠の空隙率は10%未満であり、従来の口腔内崩壊錠よりも低い。錠剤表面のラマンイメージング像による成分マッピングから、本発明の口腔内崩壊錠では崩壊剤の一部が錠剤表面に露出している様子が観察されたが、比較例の錠剤では崩壊剤は錠剤表面にはほとんど確認されなかった。本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、口腔内崩壊錠の原料に80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェン原薬を用いることにより、崩壊剤の錠剤内での局在化が生じ、従来知られていない口腔内崩壊錠の崩壊機序を発現している可能性が示唆された。
【0042】
本発明は別の局面では、苦味が抑制されたアセトアミノフェン含有口腔内崩壊錠を提供する。アセトアミノフェンは、特有の苦味を有する。苦味とは、口腔内や咽頭部で感じる苦味や渋みを含む不快な違和感を総称するものである。本明細書において「苦味の抑制」は、苦味物質が口腔内に存在する場合に感じる苦味が抑制、低減、隠ぺい又はマスキングされることを意味し、苦味とともに渋みを含む不快な違和感が抑制、低減、隠ぺい又はマスキングされることを含んでもよい。「抑制」は、例えば、甘味剤、香料、矯味剤や本発明の特定範囲のアセトアミノフェンを使用しない場合に比較して、使用した場合に口腔内で感じる「苦味」が、いくらか減少することを意味し、苦味を全く感じない場合や、ある程度感じるがヒトにとって許容可能である場合を含んでもよい。本発明の口腔内崩壊錠について、苦味の評価は、パネラーによる官能評価試験及び/又は機器測定(味認識装置、味覚センサー)により実施することができる。後記する実施例において本発明の口腔内崩壊錠の味に関して官能評価試験を行ったところ、「1点:非常に悪い、2点:悪い、3点:どちらでもない、4点:良い、5点:非常によい」の評価で平均3.5点(6人)が得られた。口腔内崩壊錠の原料に80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェン原薬を用いることにより、より細粒の原薬を用いた場合よりも、アセトアミノフェン特有の苦味が感じられにくいと考えられる。
【0043】
本発明の口腔内崩壊錠の大きさは、径6mm~18mmの範囲、アスペクト比1~3の範囲、及び厚さ2mm~10mmの範囲とすることができるが、この範囲に限定されない。本発明の口腔内崩壊錠の形状は通常錠でも異型錠でもよく、例えば円形、楕円形、カプレット形状とすることができるが、これらに限定されない。
【0044】
(口腔内崩壊錠の製造方法)
本発明の別の局面は、80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェンと高成形性の結晶セルロースと崩壊剤とを混合して粉体混合物を得る工程、及び前記粉体混合物を直接打錠して錠剤を得る工程を含む、上記口腔内崩壊錠の製造方法に関する。
【0045】
本発明の製造方法の「80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェンと高成形性の結晶セルロースと崩壊剤とを混合して粉体混合物を得る工程」(以下、混合工程という)は、口腔内崩壊錠を打錠する前に、口腔内崩壊錠の生理活性薬物のアセトアミノフェンと、その他の成分を混合する工程である。その他の成分とは、高成形性の結晶セルロースと崩壊剤のほか、甘味剤、矯味剤及び/又はその他の添加剤である。
【0046】
本発明の口腔内崩壊錠の製造方法に用いる80~350μmの範囲のメジアン粒子径を有するアセトアミノフェン、高成形性の結晶セルロース、崩壊剤、甘味剤、香料、矯味剤及びその他の添加剤は、上記(口腔内崩壊錠)に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0047】
本明細書において「混合」は、2種類以上の粉体を混ぜることを意味する。当該分野で用いられる用語に「粉砕」があるが、これは粒子を砕いて小さい粒子を得ることを意味する。一方、本明細書の「混合」は、粉体の粒子径を細かくする作用がない操作である。また、当該技術分野で用いられる「解砕整粒」は、凝集した粒子を引きはがすことを意味する。解砕整粒と粉砕では、粉体に「せん断力」が強くかかるが、混合は「せん断力」が弱い操作である。例えば、微粉領域のアセトアミノフェン粒子が多く凝集している粉体の場合、各粒子を引きはがすための強い「せん断力」が必要となり、この操作が解砕整粒である。さらに強い「せん断力」で粒子を壊す操作は粉砕である。
【0048】
例えば、特許文献4に記載の錠剤の製造は、未粉砕のアセトアミノフェン原薬を原料として使用するが、解砕整粒機を用いてアセトアミノフェンの粒子径が大きな結晶や凝集した塊を選択的に解砕整粒する工程を含むため、錠剤に含まれるアセトアミノフェンの粒子は、未粉砕のアセトアミノフェン原薬よりも細粒化していると考えられる。一方、本発明者らは、本製造方法においては、アセトアミノフェン原薬の粒子径(メジアン粒子径80~350μm)は、混合工程を経た後でも変化がないことを、粒子径分布測定及び電子顕微鏡像の観察により確認した。
【0049】
本製造方法の混合工程は、例えば、V型混合機やコンテナミキサー等を用いて実施することができる。V型混合機は、V形状の混合容器を回転させることで、容器内の粉粒体を全体に移動し、対流運動を与えることで、速やかで均一な混合を行う装置である。V型混合機を用いることで、通常、粉粒体に無理な力をかけない緩和な混合が可能である。混合条件は、スケールによって適宜変更することができるが、例えば回転速度5~50rpmで1~15分間程度実施することができる。
【0050】
本製造方法の混合工程は、1回の混合操作で実施してもよいし、あるいは2回以上の混合操作に分けて実施することができる。1回の混合操作で行う場合には、口腔内崩壊錠に含まれる全ての成分がV型混合機等に投入され、混合される。2回以上の混合操作に分けて行う場合には、口腔内崩壊錠に含まれる成分を種類の別に2回以上に分けてV型混合機等に投入・混合することができる。例えば1回目の混合の際には、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)以外の成分をV型混合機等に投入し混合し、滑沢剤は、1回目の混合後に添加し、再度、混合することができる。これにより、滑沢剤の展延を防ぐことができる。滑沢剤を加えた後の混合は、1~3分間程度とすることができる。本製造方法の混合工程により、粉体混合物を得ることができる。粉体混合物は、口腔内崩壊錠に含まれる成分の粉状の集合体である。
【0051】
本発明の製造方法の「前記粉体混合物を直接打錠して錠剤を得る工程」(以下、打錠工程という)は、上記混合工程で得られた粉体混合物を直接打錠し、成型する工程である。本明細書において、直接打錠とは、杵臼を用いて、粉体混合物を直接圧縮して錠剤を得る、乾式法による打錠を意味する。
【0052】
打錠は、具体的には、打錠機(例えば、回転式成型機)を用いて行うことができ、例えば、固定金型(臼穴)に充填された粉末を容積秤量し、上下金型(杵)によって圧縮成型し最終的に金型(臼穴)から放出することにより行うことができる。
【0053】
本発明の製造方法においては、打錠圧は、錠剤硬度や打錠用杵の耐圧許容度等を考慮して適宜設定することができるが、3~50kNの範囲、好ましくは5~40kNの範囲とすることができる。打錠圧は、錠剤に硬度等の物理的な強度を付与するものであり、打錠圧が低いと、錠剤硬度が低くなる可能性がある。しかし、打錠圧を高くすれば、それに伴って錠剤硬度が高くなるというものではなく、例えば成分により、打錠圧を高くしても錠剤硬度が高くならない場合もある。また、打錠圧が高いと、打錠用杵の損傷や打錠障害(キャッピング、スティッキング)が生じやすい。従って、打錠の際には、錠剤の特性に応じた圧力をかける必要がある。
【0054】
錠剤の製造方法では、流動層造粒法など湿式の方法がよく用いられている。しかし、湿式造粒は、工程数が多く、製造原価も割高となる。本発明によれば、乾式の粉体を直接打錠する方法により、簡単で製造コストが低い口腔内崩壊錠の製造方法を提供することができる。
【実施例
【0055】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、「%」は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0056】
(1)錠剤の製造法
以下の実施例及び比較例において、以下の試薬を使用して、アセトアミノフェンを含む錠剤を製造した。
アセトアミノフェン原薬
a) アセトアミノフェンS(山本化学工業株式会社)(以下、AA原薬aと記載する)
b) Dense Powder(SpecGx LLC)(以下、AA原薬bと記載する)
c) アセトアミノフェンSS(山本化学工業株式会社)(以下、AA原薬cと記載する)
クロスポビドン(CL-F、BASF)
クロスカルメロースナトリウム(キッコレート(登録商標)ND-200、旭化成株式会社)
デンプングリコール酸ナトリウム(Primojel、DEF pharma)
部分アルファ化デンプン(PCS PC-10、旭化成株式会社)
【0057】
結晶セルロース(セオラス(登録商標) KG-1000、旭化成株式会社)
結晶セルロース(セオラス(登録商標) KG-802、旭化成株式会社)
結晶セルロース(セオラス(登録商標) PH-101、旭化成株式会社)
結晶セルロース(セオラス(登録商標) UF-711、旭化成株式会社)
ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業)
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム(ノイシリン UFL2、富士化学工業株式会社)
アスパルテーム(味の素kkアスパルテーム、味の素ヘルシーサプライ株式会社)
アセスルファムカリウム(サネットD(登録商品)、三菱商事ライフサイエンス)
スクラロース(三栄源)
D-マンニトール(グラニュトール(登録商標)S、フロイント産業株式会社)
無水二酸化ケイ素(Aerosil 200、日本アエロジル株式会社)
シクロデキストリン(樋口商会)
含水二酸化ケイ素 (カープレックス♯80(登録商品)、エボニック ジャパン株式会社)粉体香料:グレープフルーツフレーバー(高田香料)
粉体香料:メントールフレーバー(高田香料)
粉体香料:アップル香料(高田香料)
【0058】
錠剤の製造工程において、打錠粉体の混合にはV型混合機(V-10、徳寿製作所)、打錠には打錠機(HT-AP15SS-II、畑鐵工所)及び平面スミ角の杵臼を使用した。打錠は、打錠成型が可能である場合は、打錠用杵の耐圧許容度等を考慮し、錠剤硬度が50N以上となるように、打錠圧を設定して実施した。
【0059】
(2)アセトアミノフェン原薬の粒子径測定
上記3種類のアセトアミノフェン原薬についてレーザー回折法による乾式粒子径測定を実施した。粒度分布の測定には、Laser Micron Sizer LMS-2000e(株式会社セイシン企業)を用いた。測定時の分散圧縮空気圧は0.5barで実施した。
【0060】
アセトアミノフェン(AA)原薬の粒子径の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0061】
(3)錠剤の硬度測定
後述する実施例及び比較例で製造した錠剤について、硬度測定試験を実施した。硬度測定は硬度計(PC-10、岡田精工)を用いて実施した。
【0062】
(4)錠剤の崩壊性試験
後述する実施例及び比較例で製造した錠剤について、崩壊性試験を実施した。崩壊性試験は、口腔内(速)崩壊錠測定装置 トリコープテスタ(登録商標)(岡田精工)を用いて、2枚の金網で挟んだ錠剤の上から人工唾液水溶液を滴下し、錠剤が崩壊して2枚の金網が接するまでの時間(崩壊時間)を測定した。錠剤の上に置く金網の重さは10gであった。測定は、37±0.5℃の人工唾液水溶液(表2を参照)を高さ80mmから、6mL/分の送液速度で滴下して実施した。5錠の平均値を測定した。
【表2】
【0063】
(5)粒子径が異なるAA原薬a~cを用いたOD錠剤の製造例
実施例1
AA原薬a 80.0g、クロスポビドン5.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)13.9gをV型混合機にて混合撹拌(回転速度42rpm、混合時間10分)し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体に、ステアリン酸マグネシウム0.1gを添加し、さらに追加の混合撹拌(回転速度42rpm、混合時間2分)をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧15kN)、錠剤重量379mg、錠厚5.29mm、錠剤硬度74Nの錠剤を得た。
【0064】
実施例2
AA原薬b 80.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)14.3g、無水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体に、ステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧23kN)、錠剤重量387mg、錠厚5.51mm、錠剤硬度60Nの錠剤を得た。
【0065】
比較例3
AA原薬c 80.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)14.30g、無水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧24KN)、錠剤重量387mg、錠厚5.20mm、錠剤硬度60Nの錠剤を得た。
【0066】
比較例4
AA原薬c 70.0g、D-マンニトール10.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)14.30g、無水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧8kN)、錠剤重量390mg、錠厚5.75mm、錠剤硬度51Nの錠剤を得た。打錠時間経過とともに錠剤のキャッピングが観察され、製造に適さないことがわかった。
【0067】
比較例5
AA原薬c 60.0g、D-マンニトール20.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)14.30g、無水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧9KN)、錠剤重量375mg、錠厚5.74mm、錠剤硬度55Nの錠剤を得た。
【0068】
比較例6
AA原薬c 50.0g、D-マンニトール30.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)14.30g、無水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧10kN)、錠剤重量387mg、錠厚5.73mm、錠剤硬度63Nの錠剤を得た。
【0069】
比較例7
AA原薬c 40.0g、D-マンニトール40.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)14.30g、無水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧7kN)、錠剤重量393mg、錠厚6.01mm、錠剤硬度57Nの錠剤を得た。錠剤の錠剤硬度としては問題ないが、実用上で望まれる含有量を満たしていない。
【0070】
表3に、上記の錠剤の組成及び性状をまとめて示す。
【表3】
【0071】
実施例1~2及び比較例3の錠剤は、アセトアミノフェンを80%含有するが、直接打錠可能であった。なお、比較例3~7の錠剤は、アセトアミノフェン原薬の粒子が細かいために、流動化剤の無水二酸化ケイ素を添加することにより打錠可能となったが、スティッキングなどの打錠障害が生じる場合があった。錠剤硬度50N未満の錠剤は、輸送や医薬品の分包機などで割れ欠けが生じやすくなり実用的な観点から問題があるが、実施例1~2及び比較例3~7の錠剤は、錠剤硬度50Nを有するように打錠することができた。
【0072】
メジアン粒子径185μmを有するAA原薬aを使用して作成した実施例1の錠剤の崩壊時間は9秒であり、OD錠として実用的であった。メジアン粒子径115μmを有するAA原薬bを使用して作成した実施例2の錠剤の崩壊時間24秒であり、OD錠として実用的であった。一方、メジアン粒子径26μmを有するAA原薬cを使用して作成した比較例3の錠剤の崩壊時間300秒以上であり、OD錠としては実用的ではなかった。
【0073】
メジアン粒子径26μmを有するAA原薬cを使用した製造例において、アセトアミノフェンの含量を70%~50%とし、賦形剤のD-マンニトールを添加した錠剤(比較例4~6)の崩壊時間は30秒以上であったため、OD錠としては実用的ではなかった。一方、アセトアミノフェンを40%及びD-マンニトールを40%含有する錠剤(比較例7)の崩壊時間は、19秒となったが、アセトアミノフェンの含有量が錠剤中157mgとなり、実用上で望まれる含有量を満たさなかった。
【0074】
(6)アセトアミノフェン高含有OD錠剤の製造例及びアセトアミノフェン含有率60~75質量%のOD錠剤の製造例
実施例8
AA原薬a 85.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)9.85gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体に、ステアリン酸マグネシウム0.15gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径8.5mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧26kN)、錠剤重量238mg、錠厚3.55mm、錠剤硬度52Nの錠剤を得た。
【0075】
実施例9
打錠粉体を、直径9.0mm杵臼を使用して、打錠圧18kNで打錠したほかは、実施例8と同様の組成及び方法で打錠粉体を調製した。錠剤重量353mg、錠厚4.85mm、錠剤硬度61Nの錠剤を得た。
【0076】
実施例10
長径15.0×短径8.0mmの杵臼を使用して、打錠圧18kNで打錠したほかは、実施例8と同様の組成及び方法で打錠粉体を調製した。錠剤重量595mg、錠厚5.79mm、錠剤硬度73Nの楕円形の錠剤を得た。
【0077】
比較例A―B、実施例C
AA原薬a60.0g、70.0g又は75.0g、クロスカルメロースナトリウム3.0g、含水二酸化ケイ素0.5g、甘味料、フレーバー、及び結晶セルロース(KG-1000)30.0、20.0又は15.0gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体に、ステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し錠剤を得た。
【0078】
表4に、上記の錠剤の組成及び性状をまとめて示す。
【表4】
【0079】
実施例8~10の錠剤は、メジアン粒子径185μmを有するAA原薬aを使用して作成した。実施例8~10の錠剤は、アセトアミノフェンを85%含有するが、直接打錠可能であった。錠剤硬度50N未満の錠剤は、輸送や医薬品の分包機などで割れ欠けが生じやすくなり実用的な観点から問題があるが、実施例8~10の錠剤は、錠剤硬度50N以上を有するように打錠可能であった。実施例8~10の錠剤の崩壊時間は30秒未満であり、実用的な口腔内速崩壊性を有していた。
比較例A及びB並びに実施例Cの錠剤は、メジアン粒子径185μmを有するAA原薬aを使用して作成した。比較例A及びB並びに実施例Cの錠剤はいずれも、直接打錠可能であった。アセトアミノフェンを75%含有する実施例Cの錠剤の崩壊時間は30秒未満であり、実用的な口腔内速崩壊性を有していた。一方、アセトアミノフェンを70%及び60%含有するそれぞれ比較例A及びBの錠剤の崩壊時間は30秒以上となり口腔内崩壊錠としては適当ではなかった。
【0080】
(7)甘味剤及び粉体香料を含有した製造例、崩壊剤を変更した製造例
実施例11
AA原薬a 80.0g、クロスポビドン4.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)13.40g、アスパルテーム1.0g及び粉体香料をV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧25kN)、錠剤重量373mg、錠厚5.20mm、錠剤硬度55Nの錠剤を得た。
【0081】
実施例12
実施例11のクロスポビドンをクロスカルメロースナトリウムに変更し、調製・打錠(打錠圧21kN)した。錠剤重量383mg、錠厚5.32mm、錠剤硬度52Nの錠剤を得た。
【0082】
実施例13
実施例11のクロスポビドンをデンプングリコール酸ナトリウムに変更し、調製・打錠(打錠圧23kN)した。錠剤重量383mg、錠厚5.25mm、錠剤硬度51Nの錠剤を得た。
【0083】
実施例14
AA原薬a 80.0g、クロスポビドン3.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)13.40g、アスパルテーム0.8g、スクラロース0.2g、粉体香料0.4g、シクロデキストリン3.4gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体に、ステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9.0mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧22kN)、錠剤重量387mg、錠厚5.31mm、錠剤硬度56Nの錠剤を得た。
【0084】
実施例15
実施例11のAA原薬aをAA原薬bに変更し、調製・打錠(打錠圧23kN)した。錠剤重量377mg、錠厚5.51mm、錠剤硬度50Nの錠剤を得た。
【0085】
表5に、上記の錠剤の組成及び性状をまとめて示す。
【表5】
【0086】
実施例11~15の錠剤は、実施例1と比較して、結晶セルロース(KG-1000)及び崩壊剤の含有量を減らし、甘味剤及び粉体香料を添加して製造された。実施例11~15の錠剤は、アセトアミノフェンを80%含有するが、直接打錠可能であり、錠剤硬度50Nを有するように打錠することができた。
【0087】
実施例11~15の錠剤の崩壊時間は、いずれも30秒以内であり、OD錠として実用的であった。崩壊剤をクロスポビドンに替えて、クロスカルメロースナトリウムやデンプングリコール酸ナトリウムを用いても、錠剤硬度と崩壊時間に大きな変化は観察されなかった。
【0088】
(8)結晶セルロース含量が異なる製造例
比較例16
AA原薬a 85.0g、クロスポビドン5.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、結晶セルロース(KG-1000)8.5gをV型混合機にて混合撹拌し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体へステアリン酸マグネシウム0.5gを添加し、さらに追加の撹拌混合をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径8.5mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧22kN)、錠剤重量360mg、錠厚4.91mm、錠剤硬度39Nの錠剤を得た。
【0089】
実施例17
比較例16の結晶セルロース(KG-1000)の含量を8.65gに、ステアリン酸マグネシウムの含量を0.35gに変更して、打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧21kN)、錠剤重量353mg、錠厚4.80mm、錠剤硬度52Nの錠剤を得た。
【0090】
実施例18
比較例16の結晶セルロース(KG-1000)の含量を8.8gに、ステアリン酸マグネシウムの含量を0.2gに変更して、打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧23kN)、錠剤重量352mg、錠厚4.79mm、錠剤硬度58Nの錠剤を得た。
【0091】
実施例19
比較例16の結晶セルロース(KG-1000)の含量を8.9gに、ステアリン酸マグネシウムの含量を0.1gに変更して、打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧15kN)、錠剤重量359mg、錠厚4.96mm、錠剤硬度71Nの錠剤を得た。
【0092】
実施例20
比較例16のクロスポビドンを4gに、結晶セルロース(KG-1000)の含量を9.8gに、ステアリン酸マグネシウムの含量を0.2gに変更して、打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠し(打錠圧24kN)、錠剤重量354mg、錠厚4.79mm、硬度64Nの錠剤を得た。
【0093】
表6に、上記の錠剤の組成及び性状をまとめて示す。
【表6】
【0094】
比較例16と実施例17~20に基づいて、結晶セルロースの含量が、錠剤硬度に影響を与えることが明らかになった。
【0095】
(9)結晶セルロースの種類が異なる製造例
以下の製造例では、4種類の結晶セルロースを使用した。
実施例21
AA原薬a 80.0g、部分アルファ化デンプン1.0g、クロスカルメロースナトリウム3.0g、結晶セルロース(KG-1000)10.0g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム1.0g、アスパルテーム3.0g、アセスルファムカリウム0.3g、グレープフルーツフレーバー0.3g、メントールフレーバー0.3g及び含水二酸化ケイ素0.5gをV型混合機にて混合撹拌(回転速度42rpm、混合時間10分)し、中間打錠粉体を得た。中間打錠粉体に、ステアリン酸マグネシウム0.2gを添加し、さらに追加の混合撹拌(回転速度42rpm、混合時間2分)をして打錠粉体を得た。打錠粉体を打錠機と直径9mm杵臼を使用して打錠を得た。結晶セルロースKG-1000のかさ密度は、0.10~0.15g/cmである。
【0096】
比較例22
結晶セルロースをPH-101に変更した以外は実施例21と同様の組成にて、錠剤を得た。結晶セルロースPH-101のかさ密度は、0.29g/cmである。
【0097】
比較例23
結晶セルロースをUF-711に変更した以外は実施例21と同様の組成にて、錠剤を得た。結晶セルロースUF-711のかさ密度は、0.22g/cmである。
【0098】
実施例24
結晶セルロースをKG-802に変更した以外は実施例21と同様の組成にて、錠剤を得た。結晶セルロースKG-802のかさ密度は、0.21g/cmである。
【0099】
表7に、上記の錠剤の組成及び性状をまとめて示す。
【表7】
【0100】
また、比較例23の錠剤(結晶セルロースUF-711を含む)を製造する際に、打錠圧を11kN、21kN、24kN、及び27kNに変化させて打錠を行い、それにより得られ錠剤の硬度は、順に32N、42N、47N、及び46Nであった。
同様に、実施例24の錠剤(結晶セルロースKG-802を含む)を製造する際に、打錠圧を20kN、23kN、及び25kNに変化させて打錠を行い、それにより得られ錠剤の硬度は、順に46N、54N、及び52Nであった。
【0101】
上記結果から、結晶セルロースKG-1000及びKG-802を各々使用した実施例21及び24では、50N以上の錠剤硬度を達成することができた。但し、KG-802を含む実施例24については、打錠圧を23kNよりも高くしても、錠剤硬度は上昇しなかった。そのため、打錠圧をより上げて打錠を行ったとしても更なる錠剤硬度の上昇は見込めないと考えられる。一方、KG-1000を含む実施例21では、打錠圧18kNで、実用的に十分な錠剤硬度が得られた。
【0102】
(10)錠剤の表面観察
打錠された錠剤の表面状態を観察するため、電子顕微鏡にて表面状態を観察した。画像倍率は100倍及び300倍にて観察した。図1から3に電子顕微鏡像を示す。
電子顕微鏡にて表面状態を観察した結果、実施例11の錠剤表面は滑らかで細孔がないことが確認され、比較例3及び比較例7においては、細孔や錠剤表面の凹凸が確認された。
【0103】
(11)錠剤の比表面積測定
打錠された錠剤の表面状態を定量的に観察するため、窒素吸着法による比表面積の測定を実施した。実験にはAutosorb-iQ2XR(Anton Paar Japan)を用いた。測定時に錠剤は破砕せずに錠剤の形状のまま測定した。測定時の吸着ガスは窒素ガスを用い、吸着温度は77ケルビンで実施した。一般的な(非OD錠、素錠)アセトアミノフェン含有錠剤(カロナール(登録商標)錠300、あゆみ製薬株式会社)の比表面積についても、同様に測定した。測定結果を表8に示す。
【0104】
【表8】
【0105】
カロナール(登録商標)錠300の比表面積と比較して、口腔内崩壊錠の比表面積がより広いことがわかった。比表面積が広いほど、より多孔性であるということができ、錠剤内部に導水されやすい。全細孔容量はいずれも小さいことから、サブミクロン領域における細孔はほぼ存在していないことがわかった。
【0106】
(12)錠剤の細孔分布測定
実施例2及び11、比較例3、7及び28の錠剤について、水銀圧入法による細孔分布の測定を実施した。測定にはPoreMaster60GT(Anton Paar Japan)を使用した。測定時には錠剤は粉砕せずに錠剤の形状のまま測定した。サンプルのセルには0.5ccのスモール標準セルを用いて実施した。カロナール(登録商標)錠300(あゆみ製薬株式会社)の細孔分布についても、同様に測定した。
【0107】
実施例2及び11、比較例3、7及び28の錠剤並びにカロナール(登録商標)錠300の気孔率を表9に示す。
【表9】
【0108】
錠剤が有する空孔を水銀圧入法において測定した結果、AA原薬cを用いた比較例3及び比較例28の気孔率はそれぞれ15%及び18%であった。AA原薬cを用いると含有量を40%まで下げD-マンニトールの含有量を増加させて気孔率を25%以上にしなければ口腔内崩壊時間が30秒以下とならなかった(比較例7)。
AA原薬bを用いた実施例2及びAA原薬aを用いた実施例11の気孔率はそれぞれ19%及び13%であり、AA原薬cを用いて製造した錠剤(比較例3及び28)と気孔率は同等程度であった。
【0109】
一般的に口腔内崩壊錠は速やかな崩壊を実現するため、水の通り道である細孔が多くなるようにデザインする。本発明の口腔内崩壊錠(実施例2及び11)は、気孔率が20%未満であるが口腔内崩壊錠としての物性を有している。
AA原薬a又はbを用いて製造した錠剤は、AA原薬cを用いた場合の錠剤と同程度の表面細孔を有しているが、AA原薬a又はbを用いた場合のみ口腔内崩壊時間30秒以下を達成できていることから、本発明の錠剤の崩壊メカニズムには気孔率のほかに、別の要因が関与していると考えられる。
【0110】
(13)錠剤の空隙率
実施例2及び11、比較例3、7及び28の錠剤並びにカロナール(登録商標)錠300(あゆみ製薬株式会社)について空隙率(%)を算出した。
錠剤の空隙率(%)は、ピクノメーター(UltraPyc 1200e、Anton Paar Japan)から錠の真比重を算出し、それを基に算出した。
空隙率(%)=(V-W/M)/V×100
(V:崩壊錠の体積(cm)、W:崩壊錠の質量(g)、M:崩壊錠の密度(g/cm))
【表10】
【0111】
AA原薬a及びAA原薬bをそれぞれ用いた実施例2及び11の口腔内崩壊錠の空隙率は10%以下であり、AA原薬cを用いた比較例3及び28並びにカロナール錠300(非OD錠)の空隙率と同程度であった。
AA原薬cを用いた比較例3及び28は、口腔内崩壊時間30秒以内を達成していない。AA原薬cを用いて口腔内崩壊時間30秒以下を達成する錠剤を製造しようとすると、AA原薬c含有率を40%にして空隙率を確保しなければならなかった(比較例7)。一方、AA原薬a又はbを用いると、AA原薬を高含有で含み、且つ口腔内崩壊時間30秒以内の条件を満たす口腔内崩壊錠を製造することが可能であった。
従来の口腔内崩壊錠では、空隙率20%以上となるように製造し、所望の口腔内崩壊時間を達成している場合がある(例えば、特許文献1、2、8及び9に開示されているOD錠)。本発明(実施例2及び11)。本発明の口腔内崩壊錠の空隙率は10%以下であるが口腔内崩壊時間30秒以内を達成しており、従来の口腔内崩壊錠とは異なるメカニズムにより崩壊を生じていると考えられる。
【0112】
(14)錠剤表面の成分マッピング
崩壊のメカニズムを明らかとするため、実施例11と比較例3の錠剤表面の成分マッピングを行った。装置はラマン顕微鏡(alpha300RSA、励起波長:532nm、測定波数範囲:約125~3800cm-1)を使用した。その結果、を図4(実施例11)、図5(比較例3)に示す。
図4においては崩壊剤の一部が錠剤表面に露出している様子が確認され、図5においては錠剤表面にはほとんど確認されなかった。アセトアミノフェン粒子(AA原薬a)を用いることで崩壊剤がアセトアミノフェンの粒子間に局在化し、結果として錠剤の崩壊を促進していると推察される。
【0113】
(15)官能評価試験
下記処方のアセトアミノフェン高含有口腔内崩壊錠に関して、官能評価試験を行った。
【表11】
【0114】
味及び口腔内崩壊速度に関して、以下の5段階で評価した。
1点:非常に悪い、2点:悪い、3点:どちらでもない、4点:良い、5点:非常によい
なお、評価は6名のパネラーで実施し、その平均点を以下の表にまとめた。味及び口腔内崩壊速度に関して、優れていた。
【表12】
図1
図2
図3
図4
図5