(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】負極材料、当該材料を含む極片、電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20231004BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231004BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231004BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231004BHJP
C01B 33/113 20060101ALI20231004BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20231004BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/587
C01B33/113 A
H01G11/46
(21)【出願番号】P 2021533503
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 CN2020086616
(87)【国際公開番号】W WO2021212455
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】易▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】崔航
(72)【発明者】
【氏名】謝遠森
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/007013(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111029543(CN,A)
【文献】特開2016-164870(JP,A)
【文献】特開2011-003432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052533(US,A1)
【文献】Sunyoung,Characterizing local structure of SiOx using confocal μ-Ramanspectroscopy and its effects on electrochemical property,Electrochemica Acta,Elsevier Ltd.,2016年06月29日,Vol.212,pages 69-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/134
H01M 4/133
H01M 4/36
H01M 4/587
C01B 33/113
H01G 11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極材料であって、
酸素含有シリコン材料を含み、
前記酸素含有シリコン材料のラマンスペクトルにおいて、I
Aはラマンスペクトルにおけるピーク位置が140cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、I
Dはラマンスペクトルにおけるピーク位置が470cm
-1±10cm
-1であるピークに対応するピーク強度を表し、I
Eはラマンスペクトルにおけるピーク位置が510cm
-1±10cm
-1であるピークに対応するピーク強度を表し、
充放電サイクルを行っていない前記負極材料が0<I
A/I
D<0.78、且つ0≦I
E/I
A<5を満た
し、
充放電サイクルを行った後の前記負極材料が0<I
A
/I
D
<2、且つI
E
/I
A
=0を満たす、負極材料。
【請求項2】
前記酸素含有シリコン材料の化学式はSiO
xで表れ、0.5<x<1.6、前記酸素含有シリコン材料のDv50は5.5μm~10μmである、請求項1に記載の負極材料。
【請求項3】
前記酸素含有シリコン材料の表面に炭素が存在し、前記酸素含有シリコン材料のラマンスペクトルにおいて、I
1350とI
1580とは0<I
1350/I
1580<2.5を満たす、請求項1に記載の負極材料。
【請求項4】
バインダー及び請求項1~
3のいずれかに記載の負極材料を含む合剤層を含む、負極片。
【請求項5】
前記合剤層は、さらに、天然黒鉛或いは人造黒鉛の少なくとも一種を含む黒鉛を含む、請求項
4に記載の負極片。
【請求項6】
前記負極片において、前記合剤層に占める前記酸素含有シリコン材料の質量は、1%~99%である、請求項
4に記載の負極片。
【請求項7】
請求項
4~
6のいずれかに記載の負極片を含む、電極組立体。
【請求項8】
請求項
7に記載の電極組立体を含む、電気化学装置。
【請求項9】
前記電気化学装置の膨張率は5.9%~9.1%である、請求項
8に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項
8又は
9に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は電気化学分野に関し、具体的に負極材料、当該材料を含む極片、電気化学装置及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高作動電圧、低自己放電率、小型、軽量などの特徴を有するため、消費性電子製品領域に広く適用されている。電気自動車及びリムーバブル電子機器の急速な発展に伴い、リチウムイオン電池のエネルギー密度、安全性、サイクル性能等に対する要求はますます高くなる。その中で、シリコン系材料は4200 mAh/gと高い理論容量を有し、最も有望な次世代リチウムイオン負極材料であると考えられるが、シリコン系材料が充放電サイクル過程において、リチウムイオンの吸蔵と放出に伴い、顕著な体積変化が発生する。体積変化が通常300%より高いため、シリコン系材料が粉化されて集電体と脱離することにより、負極導電性が低下して、リチウムイオン電池のサイクル性能が低減される。
【発明の概要】
【0003】
本出願は、負極材料の体積変化が大きく、サイクル性能が低下することを改善するための、負極材料、当該材料を含む極片、電気化学装置及び電子装置を提供することを目的とする。詳細な実施形態は以下の通りである:
本出願の第1の形態は、酸素含有シリコン材料を含み、
前記酸素含有シリコン材料のラマンスペクトルにおいて、IAは、ラマンスペクトルにおけるピーク位置が140cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、IDは、ラマンスペクトルにおけるピーク位置が470cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、IEはラマンスペクトルにおけるピーク位置が510cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、
前記負極材料は0<IA/ID<2、且つ0≦IE /IA<5を満たす、負極材料を提供する。
【0004】
本出願の一実施形態において、前記負極材料は0<IA/ID<2、且つIE/IA=0を満たす。
【0005】
本出願の一実施形態において、前記酸素含有シリコン材料のラマンスペクトルにおいて、IBはラマンスペクトルにおけるピーク位置が290cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、ICはラマンスペクトルにおけるピーク位置が390cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表す。
【0006】
本出願の一実施形態において、前記酸素含有シリコン材料の化学式はSiOxで表され、0.5<x<1.6、前記酸素含有シリコン材料のDv50は5.5μm~10μmである。
【0007】
本出願の一実施形態において、前記酸素含有シリコン材料の表面に炭素が存在し、前記酸素含有シリコン材料のラマンスペクトルにおいて、I1350とI1580は0<I1350/I1580<2.5を満たす。
【0008】
本出願の第2の形態は、バインダー及び上記第1の形態に記載の負極材料を含む合剤層を含む、負極片を提供する。
【0009】
本出願の一実施形態において、前記合剤層は、さらに、天然黒鉛或いは人造黒鉛の少なくとも一種を含む黒鉛を含む。
【0010】
本出願の一実施形態において、前記負極片において、前記合剤層に占める前記酸素含有シリコン材料の質量は1%~99%である。
【0011】
本出願の一実施形態において、前記負極片において、好ましくは、前記合剤層に占める前記酸素含有シリコン材料の質量は10%~95%である。
【0012】
本出願の一実施形態において、前記バインダーは、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム或いはヒドロキシメチルセルロースカリウムの少なくとも一種を含む。
【0013】
本出願の第3の形態は、上記の第2の形態に記載の負極片を含む、電極組立体を提供する。
【0014】
本出願の第4の形態は、上記の第3の形態に記載の電極組立体を含む、電気化学装置を提供する。
【0015】
本出願の一実施形態において、前記電気化学装置の膨張率は5.9%~9.1%である。
【0016】
本出願の第5の形態は、上記の第4の形態に記載の電気化学装置を含む、電子装置を提供する。
【0017】
本出願は、負極材料、当該材料を含む極片、電気化学装置及び電子装置を提供する。負極材料が0<IA/ID<2、且つ0≦IE/IA<5を満たすように負極材料を制御することにより、当該負極材料を含む電気化学装置は、サイクルした後で、全ての結晶シリコンを非晶質シリコンに変換させ、これにより、電気化学装置における負極材料の体積変化を減らし、電気化学装置のサイクル性能及び膨張性能を改善させる、
【0018】
本出願と先行技術の実施形態をより明確に説明するために、以下は、実施例と先行技術に用いられる図面を簡単に紹介する。以下に説明されている図面が本出願の実施例の一部だけであることは、自明であり、当業者にとって、創造性に値する労働を必要とせずに、これらの図面により他の実施形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本出願の実施例2で製造された酸素含有シリコン材料はラマンスペクトルの測定を行って得られたラマンスペクトルである。
【
図2】
図2は、本出願の実施例2で製造された酸素含有シリコン材料は、充放電サイクルを行った後、ラマンスペクトルの測定を行って得られたラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願の目的、実施形態、及び利点をより明確にするために、以下は図面と実施例を参照して、本出願をより詳しく説明する。説明される実施例が本出願の実施例の一部だけであり、全ての実施例ではないことは、自明である。本出願における実施例に基づいて、当業者が創造性に値する労働を必要とせずに得られる全ての他の実施形態は、本出願の特許請求の範囲に含むものとする。
【0021】
なお、本出願の発明を実施するための形態において、リチウムイオン電池を電気化学装置の例として本出願を解釈したが、本出願の電気化学装置はリチウムイオン電池に限られない。
【0022】
本出願は、酸素含有シリコン材料を含み、前記酸素含有シリコン材料のラマンスペクトルにおいて、IAはラマンスペクトルにおけるピーク位置が140cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、IDはラマンスペクトルにおけるピーク位置が470cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、IEはラマンスペクトルにおけるピーク位置が510cm-1±10cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、
前記負極材料は0<IA/ID<2、且つ0≦IE/IA<5を満たす、負極材料を提供する。
【0023】
本出願の一実施形態において、前記負極材料は0<IA/ID<2、且つIE/IA=0を満たす。
【0024】
本出願には、
図1は本出願の実施例2で製造された酸素含有シリコン材料はラマンスペクトルの測定を行って得られたラマンスペクトルである。その中で、実線の曲線は実際のラマンスペクトルであり、破線の曲線は、当該ラマンスペクトルのピークを分離処理されて得られた特徴的なピークを特徴付けするための曲線である。その中で、50cm
-1~550cm
-1範囲内の特徴的なピークはシリコン元素の特徴的なピークに属し、各破線の曲線から5つの特徴的なピークが観察される:特徴的なピークAは140cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークBは290cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークCは390cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークDは470cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークEは510cm
-1±10cm
-1に位置する。その中で、特徴的なピークA~Dは上記酸素含有シリコン材料における非晶質シリコンの特徴的なピークであり、特徴的なピークEは上記酸素含有シリコン材料における結晶シリコンの特徴的なピークである。
【0025】
発明者は、IA/IDの値は負極材料の非結晶化程度を特徴付けるために使用でき、即ち、IA/IDの値が高いほど、負極材料の非結晶化程度が高いことを見出す。特徴的なピークAから特徴的なピークDにおいて、特徴的なピークAが結晶シリコンを表す特徴的なピークEから最も遠いことは、特徴的なピークAの非結晶化程度が最も高いことを表し、特徴的なピークDが特徴的なピークEから最も近いことは、特徴的なピークDにおけるシリコンが依然として非晶質シリコンであるが、すでに結晶化の傾向があることを表す。そのため、IA/IDの値を確定することにより、負極材料の非結晶化程度を確定でき、負極材料の非結晶化程度が高いほど、リチウムイオン電池サイクル過程の膨張の改善に有利になる、ことが理解できる。
【0026】
発明者は、さらに、IE/IAの値は負極材料の結晶化程度を特徴付けるために使用でき、即ち、IE/IAの値は高いほど、負極材料の結晶化程度が高いことを見出した。これは、特徴的なピークAが特徴付ける非結晶化程度は最も高く、特徴的なピークEが特徴付けるのは結晶シリコンであるため、IE/IAの値を確定するにより、負極材料の結晶化程度を確定できるからである。
【0027】
発明者は、本出願における充放電サイクルを行っていない負極材料に対して、ラマンスペクトルの測定を行った後、その特徴的なピークの強度は0<IA/ID<2、且つ0≦IE/IA<5を満たすことを見出した。それは、負極材料の非結晶化程度が比較的に高く、リチウムイオン電池サイクル過程の膨張の改善に有利になることを表す。そして、発明者は検討したところ、本出願における負極材料を含むリチウムイオン電池は、充放電サイクルを行った後、その特徴的なピークの強度は、0<IA/ID<2、且つIE/IA=0満たすことを見出した。それは、サイクルした後で負極材料に存在する結晶シリコンが非晶質シリコンに変換し、即ち非結晶化程度を高めることにより、リチウムイオン電池サイクル過程の膨張の改善に有利になることを表す。
【0028】
図2は本出願の実施例2で製造された酸素含有シリコン材料は、少なくとも1回の充放電サイクルを行った後、ラマンスペクトルの測定を行って得られたラマンスペクトルである。実線の曲線は実際のラマンスペクトルであり、破線の曲線は、当該ラマンスペクトルをピークフィッティング処理して得られた特徴的なピークを特徴付けするための曲線である。各破線の曲線から4つの特徴的なピークも観察される:特徴的なピークAは140cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークBは290cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークCは390cm
-1±10cm
-1に位置し、特徴的なピークDは470cm
-1±10cm
-1に位置し、結晶シリコンを特徴付けする特徴的なピークはない。これで分かるように、、本出願の負極の酸素含有シリコン材料は、充放電サイクルを行った後、その中の全てのシリコン元素は非晶質シリコンに変換する。
【0029】
本出願の一実施形態において、酸素含有シリコン材料の化学式はSiOxで表され、0.5<x<1.6、任意の理論に限られず、xが小さ過ぎると(例えば、0.5より小さい)、材料におけるバッファ相としてのSiO2が減少し、シリコンの割合が増加するため、サイクル膨張の増加を引き起こす。xが大き過ぎると(例えば、1.6より大きい)、リチウムを放出し得るSiの割合が減少し、材料のリチウムを吸蔵しうる容量が減少するため、エネルギー密度を高めることは達成できない。
【0030】
前記酸素含有シリコン材料のDv50即ち平均粒子径は、5.5μm~10μmであり、任意の理論に限られず、Dv50が小さ過ぎると(例えば、5.5μmより小さい)、小さい粒子の比表面積が大きく、電解液とより反応しやすく、より多い副生成物を生じる。Dv50が大き過ぎると(例えば、10μmより大きい)、大きい粒子がサイクル過程において体積変化が大きくて、より割れやすく、露出された新鮮な界面が電解液と反応し続け、サイクルの減衰を加速させ、負極の膨張を増加させてしまう。
【0031】
本文において、用語Dv50は、粒子が体積基準の粒度分布に、小粒子径側から、累積体積が50%となる粒子径を表す。前記粒子径はレーザー粒度分布測定装置によって測定される。
【0032】
本出願の一実施形態において、前記酸素含有シリコン材料の表面に炭素が存在する。即ち、酸素含有シリコン材料の表面の少なくとも一部に炭素が存在してもよい。それは、前記酸素含有シリコン材料の表面の少なくとも一部に炭素が存在してもよく、全ての表面は、炭素で包んでもよいこと、と理解できる。それにより、負極材料の導電性を高める。
【0033】
発明者は検討したところ、I1350は、ラマンスペクトルにおけるピーク位置が1350cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、炭素欠陥を特徴付けるために用い、I1580は、ラマンスペクトルにおけるピーク位置が1580cm-1であるピークに対応するピーク強度を表し、欠陥のない炭素を特徴付けるために用いて、そのため、I1350/I1580は、小さいほど、負極材料の炭素欠陥の程度は低いことを表す、ことを見出した。本出願の一実施形態において、表面に炭素が存在する前記酸素含有シリコン材料は、ラマンスペクトルにおいて、I1350とI1580との比の値が0<I1350/I1580<2.5を満たす。これで分かるように、当該酸素含有シリコン材料は、比較的低い炭素欠陥の程度を有するため、任意の理論に限られず、黒鉛化度をより高めさせ、炭素の内層が格子サイズ大きくて格子の欠陥が少なく、層間配列は平行する傾向にあり、且つ層間隔d002が小さいため、自由電子の流れを障害する要因が減少し、抵抗率が減少し、導電性が向上することにより、リチウムイオン電池の初回クーロン効率を向上させる。しかし、I1350/I1580>2.5であると、負極材料の表面の炭素層に自由電子が比較的多く、電解液とより反応しやすくてより多い副生成物を生じるため、初回クーロン効率が低下し、サイクル膨張を増加させることを引き起こす。
【0034】
本出願は、負極材料が0<IA/ID<2、且つ0≦IE/IA<5を満たすように負極材料におけるシリコン元素の結晶化程度を制御することにより、当該負極材料を含む電気化学装置は、サイクルした後で全ての結晶シリコンを非晶質シリコンに変換させ、これにより、電気化学装置における負極材料の体積変化を減らし、電気化学装置のサイクル性能及び膨張性能を改善させる、負極材料を提供する。
【0035】
本出願はさらに、バインダー及び本出願の実施形態に記載の負極材料を含む合剤層を含む、負極片を提供する。
【0036】
その中で、合剤層は集電体の片面或いは両面に塗布されてもよく、当業者は実際の必要に応じて具体的に選択でき、本出願に制限されない。
【0037】
本出願において、バインダーは、特に制限されず、当業者が公知の任意のバインダー或いはその組み合わせであってもよい。例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム或いはヒドロキシメチルセルロースカリウムの少なくとも一種を含むことができる。
【0038】
本出願の一実施形態において、合剤層は、さらに、導電性を高めるための、天然黒鉛或いは人造黒鉛の少なくとも一種を含む黒鉛を含んでもよい。
【0039】
本出願の一実施形態において、前記負極片では、前記合剤層に占める前記酸素含有シリコン材料の質量は、1%~99%であり、好ましくは、10%~95%である。酸素含有シリコン材料の比重を高めることにより、リチウムイオン電池の容量が高められること、と理解できる。
【0040】
本出願はさらに、本出願の上記の実施形態に記載の負極片を含む、電極組立体を提供する。
【0041】
本出願はさらに、本出願の実施形態に記載の電極組立体を含む、電気化学装置を提供する。
【0042】
本出願の一実施形態において、前記電気化学装置の膨張率は5.9%~9.1%である。
【0043】
本出願の電気化学装置は、全ての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池或いはコンデンサを含むが、これらに限定されない。典型的な電気化学装置はリチウムイオン電池であり、それは二次電池である。例えばリチウムイオン電池の電気化学装置は一般的に負極片、正極片、セパレータ及び電解液を含む。
【0044】
本出願は、本出願の実施例に記載された電気化学装置を含む、電子装置を提供する。
【0045】
さらに、電気化学装置は本出願に記載されたリチウムイオン電池であってもよい。
【0046】
本出願に記載された電気化学装置は、その負極片が本出願に記載された負極片を用いるが、正極片、セパレータ及電解液等を含むその他の組成部分は、特に制限されない。
【0047】
本出願における正極片は、特に制限されず、本分野で公知の任意の正極片を用いることができる。例えば、コバルト酸リチウムを含む正極片、マンガン酸リチウムを含む正極片、リン酸鉄リチウムを含む正極片、或いはニッケルコバルトマンガン酸リチウム又はニッケルコバルトアルミン酸リチウムを含む正極片を用いることができる。
【0048】
本出願において、前記電解液は、特に制限されず、本分野で公知の任意の電解液を使用することができる。例えば、ゲル、固体と液体のいずれかの1つを使用できる。例えば、液体電解液は、リチウム塩と非水溶媒を含んでもよい。
【0049】
リチウム塩は特に制限されず、本出願の目的を達成できる限り、本分野で公知の任意のリチウム塩を使用してもよい。リチウム塩は、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、ビストリフルオロメタンスルホンイミドリチウムLiN(CF3SO2)2(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(N(SO2F)2)(LiFSI)、リチウムビスオキサレ-トボレ-トLiB(C2O4)2(LiBOB)或いはリチウムジフルオロオキサレートボレートLiBF2(C2O4)(LiDFOB)の少なくとも一種を含んでもよい。例えば、リチウム塩は、LiPF6であってもよい。
【0050】
非水溶媒は、本出願の目的を達成できる限り、特に制限されない。例えば、非水溶媒は、カーボネート化合物、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、ニトリル化合物或いはその他の有機溶媒の少なくとも一種を含んでもよい。
【0051】
例えば、カーボネート化合物は、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1-ジフルオロエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロエチレンカーボネート、1,1,2,2-テトラフルオロエチレンカーボネート、1-フルオロ-2-メチルエチレンカーボネート、1-フルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,2-ジフルオロ-1-メチルエチレンカーボネート、1,1,2-トリフルオロ-2-メチルエチレンカーボネート或いはトリフルオロメチルエチレンカーボネートの少なくとも一種を含んでもよい。
【0052】
本出願の集電体の材料は特に制限されず、当業者が公知の材料を用いてもよい。例えば、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、アルミニウム、鉄、亜鉛またはステンレスの少なくとも一種を含む材料、或いは、例えば炭素またはグラフェンの少なくとも一種を含む導電性無機材料を使用する。
【0053】
電気化学装置の製造過程は当業者に対して公知のものであり、本出願において特に制限されない。例えば、二次電池は、正極と、負極とを、セパレータを介して積層し、これを必要に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。ここで使用される負極は本出願に記載された上記負極片である。また、必要に応じて電池容器に過電流防止素子、リード板等を入れ、電池内部の圧力の上昇、過充放電等を防止する。
【0054】
本出願はさらに、以下の工程を含む上記負極片の製造方法を提供する:
<負極材料の製造>
ステップA:原料であるアモルファス酸化ケイ素を破砕し、分級処理した後、酸化ケイ素粉末即ち酸素含有シリコン材料が得られる。その中で、原料であるアモルファス酸化ケイ素の平均粒子径は1mm~100mmで、酸化ケイ素の化学式はSiOxであり、0.5<x<1.6である。
【0055】
ステップB:酸化ケイ素粉末を化学気相成長(Chemical Vapor Deposition,CVD)炉に置き、炭素源ガスを通し、不活性ガス雰囲気で酸化ケイ素粉末をCVDにより成長させ、成長した酸化ケイ素粉末が得られる。
【0056】
ステップC:ステップBに得られた酸化ケイ素粉末を脱磁処理し、そして篩い分けて、負極材料が得られる。篩い分けに用いられる用具は400メッシュの篩である。
【0057】
<負極片の製造>
上記負極材料、黒鉛、導電剤を攪拌して混合し、混合物Aが得られる。その中で、攪拌時間は120min以上、攪拌機の公転速度は10~30r/minである。
【0058】
バインダーを上記混合物Aに加え、均一に攪拌した(即ち一回目の攪拌)後、更に、脱イオン水を加え、攪拌し続けて(即ち二回目の攪拌)、混合スラリーが得られ、そして170メッシュの二重層メッシュスクリーンで濾過し、負極スラリーが得られる。ここで、一回目の攪拌時間は60min以上、二回目の攪拌時間は120min以上であり、攪拌機は、公転速度が10~30r/minであり、自転速度が1000~1500r/minであり、攪拌機は、番号MSK-SFM-10の真空攪拌機である。
【0059】
負極スラリーを集電体である銅箔に塗布し、乾燥して、そして、両面の圧縮密度が1.3~2.0g/cm3となるように冷間プレスを行うことにより、負極片が得られる。極片を74mm×867mmの片材に切断して用いる。
【0060】
本出願の一実施形態において、具体的に、ステップAは、原料であるアモルファス酸化ケイ素を、まず機械破砕処理して、そして気流粉砕機で気流粉砕を行うことで、粒度の範囲が0.2μm~30μmの酸化ケイ素粉末が得られ、そして分級を行い、Dv50が4.5μm~10μmの酸化ケイ素粉末が得られる、ことである
【0061】
本出願の一実施形態において、具体的に、ステップBは、酸化ケイ素粉末をCVD炉に置き、800℃~1500℃まで昇温し、炭素源ガスを通し、炭素源ガスの流量が300mL/min以上、少なくとも60min保持した直後に、炭素源ガスを切断し、そして不活性ガス雰囲気で室温まで降温し、冷却した後で酸化ケイ素粉末を取り出す、ことである。
【0062】
本出願の一実施形態において、原料であるアモルファス酸化ケイ素の番号はSiOx@Cであってもよい。
【0063】
本出願の一実施形態において、炭素源ガスは、CH4、C2H4、C7H8、C2H2或いはC2H2の少なくとも一種を含んでもよく、不活性ガスは、Ar、N2或いはHeの少なくとも一種を含んでもよい。
【0064】
本出願の一実施形態において、導電剤は、さらに、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、導電黒鉛或いはグラフェンの少なくとも一種を含んでもよい。
【0065】
本出願の一実施形態において、前記混合スラリーの粘度は2500~4000mPa.Sであり、固形分の含有量は35%~50%である。
【0066】
本出願の一実施形態において、負極材料、黒鉛、導電剤、バインダーの質量比は1%~99%:0.5%~90%:0.2%~5%:0.2%~5%であり、好ましくは、10%~95%:2%~85%:0.5%~5%:0.5%~5%である。本出願において、本出願の発明の目的を達成できる限り、上記負極材料、黒鉛、導電剤、バインダーの具体的な使用量は特に制限されず、当業者は上記各組成の割合の範囲に応じて適切に各組成の使用量を選択できる。
【0067】
本出願の一実施形態において、両面に塗布してもよく、片面に塗布してもよいが、各面の塗布厚さは50~200μmである。
【0068】
本出願はさらに、以下の工程を含むリチウムイオン電池の製造方法を提供する:
<正極片の製造>
活物質LiCoO2、導電性カーボンブラック、バインダーを、質量比95~98:1.5~5:1.5~5で有機溶媒系に十分攪拌して均一に混合した後、Al箔上に塗布して乾燥し、冷間プレスを行い、正極片が得られ、極片を74mm×867mmの片材に切断して用いる。その中で、バインダーとして、ポリフッ化ビニリデンを用いて、有機溶媒として、N-メチルピロリドンを用いる。
【0069】
<電解液の製造>
溶媒EC、DMC、DECを、体積比1:1:1で混合し、混合液が得られ、そしてFECとLiPF6を加え、混合して電解液が得られる。ここで、電解液におけるFECの質量濃度は、15~20wt%であり、電解液におけるLiPF6のモル濃度は0.5~2mol/Lである。
【0070】
<リチウムイオン電池の製造>
セパレータとして、ポリエチレン(PE)多孔質ポリマーフィルムを用いて、セパレータを正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、上記製造した正極片、セパレータ、負極片をこの順に積層し、巻き取りして、電極組立体が得られた。電極組立体を包材外装に入れ、調製された電解液を注入して封止し、化成、脱ガス、トリミング等のプロセスを行うことで、リチウムイオン電池が得られる。
【0071】
以下、実施例と比較例を挙げて本出願の実施形態についてより詳しく説明する。各試験及び評価は以下の方法に従って行う。なお、特に説明がない限り、“部”、“%”は重量基準とする。
【0072】
実施例1
<表面に炭素が存在していない負極材料のリチウムイオン電池の製造>
<負極材料の製造>
原料であるアモルファス酸化ケイ素を、まず機械破砕処理して、そして気流粉砕機で気流粉砕を行うことで、酸化ケイ素粉末が得られ、そして分級を行い、Dv50が5.5μmの酸化ケイ素粉末即ち酸素含有シリコン材料が得られる。
【0073】
得られた酸化ケイ素粉末を脱磁処理し、そして400メッシュの篩で篩い分けることにより、負極材料が得られた。
【0074】
<負極片の製造>
上記負極材料、黒鉛、導電剤を真空攪拌機(番号:MSK-SFM-10)で攪拌して混合し、混合物Aが得られ、その中で、攪拌時間は120minであり、攪拌機の公転速度は20r/minである。
【0075】
バインダーを上記混合物Aに加え、均一に攪拌した後、更に脱イオン水を加え、攪拌し続けて、固形分の含有量が40wt%の混合スラリーが得られ、そして170メッシュの二重層メッシュスクリーンで濾過することにより、負極スラリーが得られる。ここで、一回目の攪拌時間は60minであり、二回目の攪拌時間は120minであり、攪拌機は、公転速度が20r/minであり、自転速度が1500r/minである。ここで、負極材料、黒鉛、導電剤、バインダーの重量比は14:81:1.2:3.8である。
【0076】
負極スラリーを集電体である銅箔に塗布し、乾燥して冷間プレスを行うことで、塗布の厚さが100μmの負極片が得られ、極片を74mm×867mmの片材に切断して用いる。
【0077】
<正極片の製造>
活物質LiCoO2、導電性カーボンブラック、バインダーを、質量比96.7:1.7:1.6で有機溶媒系NMPに十分攪拌して均一に混合した後、固形分の含有量が75wt%の正極スラリーが得られた。正極スラリーを、Al箔上に塗布して乾燥し、冷間プレスを行うことで、塗布の厚さが110μmの正極片が得られ、極片を74mm×867mmの片材に切断して用いる。
【0078】
<電解液の製造>
溶媒EC、DMC、DECを体積比1:1:1で混合し、混合液が得られた。そしてフルオロエチレンカーボネート(FEC)とLiPF6を加え、混合して電解液が得られた。ここで、電解液におけるFECの質量濃度は10wt%であり、電解液におけるLiPF6のモル濃度は1mol/Lである。
【0079】
<リチウムイオン電池の製造>
セパレータとして、厚さが15μmのPE多孔質ポリマーフィルムを用いて、セパレータを正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、上記製造した正極片、セパレータ、負極片をこの順に積層し、巻き取りして、電極組立体が得られた。電極組立体を包材外装に入れ、調製された電解液を注入して封止し、化成、脱ガス、トリミング等のプロセスを行うことで、リチウムイオン電池が得られる。
【0080】
実施例2
<表面に炭素が存在する負極材料のリチウムイオン電池の製造>
<負極材料の製造>
原料であるアモルファス酸化ケイ素を、まず機械破砕処理して、そして気流粉砕機で気流粉砕を行うことで、粒度の範囲が0.2μm~30μmの酸化ケイ素粉末が得られ、そして分級を行い、Dv50が5.5μmの酸化ケイ素粉末即ち酸素含有シリコン材料が得られる。
【0081】
得られた酸化ケイ素粉末500gをCVD炉に置き、800℃まで昇温し、炭素源ガスCH4を通し、炭素源ガスの流量が300mL/minであり、60min保持した直後に炭素源ガスを切断し、そして不活性ガス雰囲気Arで室温まで降温し、冷却した後で酸化ケイ素粉末を取り出す。
【0082】
得られた酸化ケイ素粉末を脱磁処理し、そして400メッシュの篩で篩い分けることにより、負極材料が得られた。
【0083】
負極片の製造工程、正極片の製造工程、電解液の製造工程、リチウムイオン電池の製造工程は、いずれも実施例1と同じにする。
【0084】
実施例3
CVD炉における酸化ケイ素粉末の昇温温度が1000℃であること以外は、実施例2と同じにする。
【0085】
実施例4
CVD炉における酸化ケイ素粉末の昇温温度が1300℃であること以外は、実施例2と同じにする。
【0086】
実施例5
CVD炉における酸化ケイ素粉末の昇温温度が1500℃であること以外は、実施例2と同じにする。
【0087】
実施例6
CVD炉における酸化ケイ素粉末に通す炭素源ガスがエチレンであること以外は、実施例2と同じにする。
【0088】
実施例7
CVD炉における酸化ケイ素粉末に通す炭素源ガスがトルエン(C7H8)であること以外は、実施例2と同じにする。
【0089】
実施例8
CVD炉における酸化ケイ素粉末に通す炭素源ガスがメタンとエチレンの混合ガスであること以外は、実施例2と同じにする。その中で、混合ガスにおけるメタンとエチレンの体積比は1:2である。
【0090】
実施例9
CVD炉における酸化ケイ素粉末に通す炭素源ガスがメタンとエチレンの混合ガスであること以外は、実施例2と同じにする。その中で、混合ガスにおけるメタンとエチレンの体積比は2:1である。
【0091】
比較例1
CVD炉における酸化ケイ素粉末の昇温温度が600℃であること以外は、実施例2と同じにする。
【0092】
比較例2
CVD炉における酸化ケイ素粉末の昇温温度が1800℃であること以外は、実施例2と同じにする。
【0093】
比較例3
酸化ケイ素粉末のDv50が2.0μmであること以外は、実施例2と同じにする。
【0094】
比較例4
酸化ケイ素粉末のDv50が15.0μmであること以外は、実施例2と同じにする。
【0095】
<性能測定>
以下の方法に従って各実施例及び各比較例で製造された負極材料、負極片、リチウムイオン電池を測定する:
負極材料及び負極片のラマン測定:
分光装置(Jobin Yvon LabRAM HR)で負極材料及びサイクルした後の負極片を測定した。光源は532nmであり、測定範囲は50cm-1~4000cm-1であり、充放電サイクルを行った後の負極片をDMCで洗浄して測定する。
【0096】
粒子径測定:
レーザー粒度分布測定装置(MasterSizer 2000)によって粒度分布を測定した。50mlの清浄なビーカーに0.02gの負極材料粉末サンプルを加え、20mlの脱イオン水を加えて、更に2~3滴の1%の界面活性剤を滴下し、粉末を完全に水に分散し、120Wの超音波洗浄機で5分間の超音波をした後、負極材料の粒子径を測定する。
【0097】
サイクル試験:
本出願の負極材料を含むリチウムイオン電池をサイクルして測定した。測定温度は25℃である。0.5Cにて定電流で4.45Vまで充電し、定電圧で0.025Cまで充電し、5分間静置した後、0.5Cにて3.0Vまで放電することにより得られた容量を初回容量とする。さらに0.5C充電/0.5C放電でサイクルして測定し、各サイクル後の容量と初回容量との比により、400回サイクルした後、容量減衰曲線が得られる。
【0098】
電池膨張率測定:
マイクロメーターで半分充電された時の(即ち50%充電した状態(SOC))リチウムイオン電池の厚さを測定した。400回サイクルまでサイクルすると、電池は満充電された(即ち100%SOC)状態になり、さらに、この時の電池の厚さをマイクロメーターで測定した。当該測定した電池の厚さを、初回半分充電された時の(50%SOC)電池の厚さと比較して、この時の満充電された(100%SOC)電池膨張率が得られる。各実施例と比較例の製造パラメーター及び測定結果は以下の表1に示す:
【表1】
【0099】
表1から分かるように、実施例1を比較例1~4と比較して説明すると、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率が著しく高められ、膨張率が著しく低下する。その理由は、負極材料におけるシリコン元素の非結晶化程度を特徴付けるためのIA/IDを制御することにより、実施例1の負極材料の非結晶化程度は比較例1~4より高く、並びに、負極シリコン材料におけるシリコン元素の結晶化程度を特徴付けるためのIE/IAを制御することにより、実施例1の負極材料の結晶化程度は0になるため、リチウムイオン電池を400回サイクルした後、IA/IDは比較例1~4より高く、それは、サイクルした後のリチウムイオン電池は依然として比較的に高い非結晶化程度を有すると表し、非結晶化程度の向上はリチウムイオン電池のサイクル容量維持率と膨張率の改善に有利になる、ためである。
【0100】
実施例2~5を比較例1、2と比較して説明すると、異なる気相成長温度を採用して、異なる黒鉛化度の炭素層が得られた。成長温度の向上に伴い、ラマンスペクトルにおけるI1350とI1580との比の値は徐々に減少する。それは、表面に炭素層が存在する黒鉛化度は温度の向上に伴って増加するため、炭素のSP2混成がより多く、炭素層間の距離が減少し、炭素層のコンパクトさが増加し、比表面積が低下し、初回クーロン効率が向上される、ことを証明する。
【0101】
これで分かるように、例えば比較例1における600℃という比較的低い成長温度は、リチウムイオン電池の初回クーロン効率の改善に不利であるが、温度の向上に伴って、例えば温度が比較例2における1800℃となる時、酸素含有シリコン材料におけるシリコンを非晶質状態から結晶状態に変換させることを引き起こす。ラマンスペクトルから分かるように、シリコン元素の特徴的なピークには、IA/IDの比の値が減少し、IE/IAの比の値が増加し、即ち結晶化程度が増加し、それにより、リチウムを放出する過程において非晶質化相への結晶化相の変換によるもたらす体積効果が増加することで、リチウムイオン電池は、サイクル過程における膨張率が高まる。
【0102】
実施例2を比較例3、4と比較して説明すると、酸素含有シリコン材料のDv50は小さ過ぎ、例えば比較例3の2.0μmである場合、リチウムイオン電池のサイクル膨張率が著しく高まる。その理由は、主に、小さい粒子の比表面積が大きく、電解液とより反応しやすく、より多い副生成物を生じる、ためである。
酸素含有シリコン材料のDv50が大き過ぎ、例えば比較例4の15.0μmである場合、リチウムイオン電池のサイクル膨張率も著しく高まる。その理由は主に、大きい粒子がサイクル過程においてより割れやすく、露出される新鮮な界面が電解液と反応し続け、サイクルの減衰を加速させ、膨張を増加させる、ためである。このため、酸素含有シリコン材料のDv50は5.5μm~10μmに制御されるのが好ましい。
【0103】
実施例2と実施例6~9から分かるように、炭素源における二重結合の割合が高いほど、負極材料の表面に炭素層におけるSP2混成炭素が多いほど(炭素源における二重結合の炭素はSP2混成の形態で存在し、単結合がSP3混成の形態で存在するため、SP2混成の形態が多いほど、欠陥が少ない)、黒鉛化度が高く、形成された炭素層のコンパクトさがより高く、比表面積がより小さく、そして、黒鉛化度が高いほど、炭素層における自由電子が少なく、抵抗が低下し、導電性が高まるため、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率と膨張率の改善に有利になる。
【0104】
比較例1から分かるように、I1350/I1580>2.5であると、負極材料の炭層に自由電子が比較的多く、電化液とより反応しやすくて副生成物を生じるので、初回クーロン効率が低下し、サイクル膨張が増加する。
【0105】
以上の説明は本出願の好ましい実施例に過ぎず、本出願を制限することを意図するものではなく、本出願の旨と原則以内の公知修正、等同替え、改善等は、いずれも、本出願の特許請求の範囲に含むすべきである。