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特許7360471レーザ破砕装置用出力調整装置およびレーザ破砕システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】レーザ破砕装置用出力調整装置およびレーザ破砕システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/26 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
A61B18/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021555784
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020408
(87)【国際公開番号】W WO2021095291
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】62/934,019
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高田 祐平
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0342678(US,A1)
【文献】特表2017-515561(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0298449(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0354464(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/20-18/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光をパルス化するパルス生成部と、
レーザ射出端に接続されて、パルス化された前記レーザ光の出力を調整する出力調整部と、を備え、
前記出力調整部が、液体中で第1期間として前記レーザ光の出力を2.5W/μsec以下の勾配で単調増加させて複数のバブルから成るバブル結合体を前記レーザ射出端から、前記バブル結合体が前記レーザ射出端と破砕対象との間を連結するように発生させ、
前記出力調整部が、前記第1期間に続く第2期間として前記レーザ光の出力を2.5W/μsec以上の勾配で単調減少させて、前記バブル結合体を消滅させることによって破砕対象を前記レーザ射出端に引き寄せるレーザ破砕装置用出力調整装置。
【請求項2】
前記出力調整部は、前記レーザ光の出力を単調増加させる前記第1期間中において、液温の上昇を行う請求項1に記載のレーザ破砕装置用出力調整装置。
【請求項3】
前記出力調整部は、前記第1期間の前に、第4期間として前記出力を単調増加させ、第3期間として前記第4期間に続いて前記出力を単調減少させることで液温の上昇を行う請求項1に記載のレーザ破砕装置用出力調整装置。
【請求項4】
尿管鏡と、
レーザ光源と、
前記レーザ光源から発振されるレーザ光をパルス化するパルス生成部と、
前記パルス生成部によりパルス化された前記レーザ光の出力を調整する出力調整部と、
前記出力調整部により調整された前記レーザ光を液体中の破砕対象に対して射出するレーザ射出端と、
前記レーザ射出端と前記破砕対象とを含む前記レーザ光の光路上の画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部に接続された表示部と、を備え、
前記出力調整部が、第1期間として前記レーザ光の出力を2.5W/μsec以下の勾配で単調増加させて複数のバブルから成るバブル結合体を前記レーザ射出端から、前記バブル結合体が前記レーザ射出端と破砕対象との間を連結するように発生させ、
前記出力調整部が、前記第1期間に続く第2期間として前記レーザ光の出力を2.5W/μsec以上の勾配で単調減少させて前記バブル結合体を消滅させることによって破砕対象を前記レーザ射出端に引き寄せるレーザ破砕システム。
【請求項5】
前記画像に基づいて、前記レーザ射出端と前記破砕対象との間の距離を算出する算出部を備える請求項4に記載のレーザ破砕システム。
【請求項6】
前記表示部が、前記距離に関する情報を表示する請求項5に記載のレーザ破砕システム。
【請求項7】
前記レーザ射出端は、ツリウムが添加された光ファイバを含む請求項4に記載のレーザ破砕システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年11月12日に出願された米国仮特許出願第62/934,019号の利益を主張し、該仮出願は引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、レーザ破砕装置、レーザ破砕システムおよびレーザ破砕方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、尿路結石症に対する治療として、結石にレーザ光を照射するとによって、結石を破砕するレーザ結石破砕治療が行われている。結石を破砕するためのレーザとして、Ho:YAGレーザおよびThulium fiber laserが使われている。結石のサイズが小さい場合は、レーザ照射によって生じるバブルおよび破砕の反力によって、結石が後方に大きく移動したり(レトロパルション)、結石がレーザの照射方向から外れる方向へ移動したり(マイグレーション)する。レトロパルションは、レーザ光を照射するための光ファイバを結石に接触させることによって結石を破砕する方法においても起こり易い。そのため、結石を狙い打ちすることが難しい。
【0004】
また、結石が動く状況において、結石を腎盂内または腎杯内で動き回らせながら破砕する、ポップコーン砕石と言われるテクニックが使われている。しかしながら、ポップコーン砕石は、光ファイバを結石に接触させることによって結石を破砕する方法に比べて破砕効率が低いとされている。
【0005】
近年、特にThulium fiber laserにおいて、“Suction Effect”と呼ばれる現象が注目されている。この吸引効果は、離れた位置にある結石を光ファイバに向けて斜め方向または前方方向に引き寄せるように働くことが確認されているが、これまで詳しいメカニズムは明らかにされてなかった。この吸引効果を適切に制御できたとしたら、動く結石を操作することによって破砕したり、ポップコーン砕石中の結石の舞い方をコントロールしたりすることが可能と考えられる。
【0006】
特許文献1は、図29に示されるように、出力のパルスの立ち上がりを、単調増加させるのではなく、短く増減させることで鈍らせることによって、光エネルギが結石に到達する前に水に吸収されてバブルを生成するのをできるだけ小さくする。そして、残りの光エネルギを結石の破砕のために当てることによって、結石レトロパルション(後方移動)の低減および破砕効率の向上を行っている。
【0007】
特許文献2は、本願が優先権を主張する2019年11月12日に出願の米国仮出願番号62/934,019よりも後に公開された国際出願である。特許文献2の技術は、低出力の第1パルスによって結石の後方移動の影響を低減している。そして、第1パルスから高出力の第2パルスまで上昇させた後、矩形状の第2パルスによって結石を破砕している。特許文献2では、低出力の第1パルスと高出力の第2パルスからなるレーザバルスを用い、これら第1、第2パルスの間に、第1パルスが生成したバブルが結石に到達して消失するためのインターバルを設ける。バブルが消失する際、結石がレーザの射出端へ向かう前方方向へ移動する吸引効果を生じることが記載されている。非特許文献1は、図30に示されるように、階段状のパルス形状において、光エネルギ照射後にファイバから1度離れた結石ファントムが、ファイバ先端に逆戻りする吸引効果現象が見られたと報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】欧州特許第2840999B1号明細書
【文献】国際公開第2020/033121号
【非特許文献】
【0009】
【文献】David A. Gonzalez,Nicholas C. Giglio, Layton A. Hall, Viktoriya Vinnichenko, and Nathaniel M.Fried "Comparison of single, dual, and staircase temporal pulse profilesfor reducing stone retropulsion during thulium fiber laser lithotripsy in an invitro stone phantom model", Proc. SPIE 10852, Therapeutics and Diagnosticsin Urology 2019, 108520E (26 February 2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術は、吸引効果を得るものではないため、結石の破砕によって生じる反力によって、小さな結石片の場合には大きなレトロパルションが生じる可能性がある。特許文献2の技術は、第2パルスが専ら破砕作用をもたらすように十分に高い出力からなる矩形状である。破砕作用が大きいほど、インターバルによってもたらされる吸引効果は小さくなるか無効になる場合があり得る。非特許文献1の技術は、段階的にパルスの出力を増加させることでレトロパルションを制限し、吸引効果現象が現れる場合があるとみられる。しかしながら、図30において拡大されたスケールで示されるように、階段状パルスでさえ、光エネルギ照射の開始から3段目に当たる最後の矩形状のパルスにおけるピークパワーの持続時間が全体の時間の40%を占めているため、階段状パルスの最後の期間においてレトロパルション作用が相対的に強まって吸引効果が効果的に現れない可能性がある。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、吸引効果を効果的に発揮し、レトロパルションが起こったとしても結石にレーザ光を効率よく照射することができるレーザ破砕装置、レーザ破砕システムおよびレーザ破砕方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1態様は、レーザ光源から発振されるレーザ光をパルス化するパルス生成部と、該パルス生成部によりパルス化された前記レーザ光の出力を調整する出力調整部と、該出力調整部により前記出力が調整された前記レーザ光を液体中の結石に対して射出するレーザ射出端とを備え、前記出力調整部が、前記レーザ光の出力を、該出力が単調増加する第1期間後に、所定の勾配よりも大きい勾配で前記出力が単調減少する第2期間に切り替えるレーザ破砕装置である。
【0013】
本態様によれば、パルス生成部によってパルス化されたレーザ光がレーザ射出端から射出され、そのレーザ光が液体中の結石に照射されることにより、結石が破砕される。レーザ光は、レーザ光によって液体中に生成されるバブルを透過することによって、結石に到達する。
【0014】
この場合において、出力調整部により、パルス状のレーザ光の出力が、第1期間によって単調増加された後に、第2期間によって所定の勾配よりも大きい勾配で単調減少される。第1期間に射出されるレーザ光によって、レーザ射出端から連続して複数のバブルが生成された後、これら複数のバブルが結合することによってバブル結合体が形成される。したがって、バブル結合体によってレーザ射出端と結石との間が気体で連結されることにより、結石に対し最も効果的にレーザ光を照射することができる。また、第2期間に射出されるレーザ光によって、一転してバブル生成力を急激に失うことで、バブル結合体がほぼ同時に消滅する。これにより、吸引力を生じさせ、レーザ射出端に向けて結石を前方方向へ引き寄せることができる。
【0015】
したがって、レーザ光の衝撃によって結石をファイバ射出端から離れる方向に移動させることなく、ファイバ射出端から一定の距離内において結石にレーザ光を照射することができる。よって、吸引効果を効果的に利用し、結石にレーザ光を効率よく照射することができる。
【0016】
上記態様に係るレーザ破砕装置は、前記レーザ射出端を有する光ファイバを備えることとしてもよい。
この構成によって、光ファイバを体内に挿入することによって、レーザ射出端を結石に対向させて配置することができる。
上記態様に係るレーザ破砕装置は、前記光ファイバがツリウムを添加されてなることとしてもよい。
【0017】
本発明の第2態様は、レーザ光源から発振されるレーザ光をパルス化するパルス生成部と、該パルス生成部によりパルス化された前記レーザ光の出力を調整する出力調整部と、該出力調整部により調整された前記レーザ光を液体中の結石に対して射出するレーザ射出端と、該レーザ射出端と前記結石とを含む前記レーザ光の光路上の画像を取得する画像取得部と、該画像取得部により取得された前記画像を表示する表示部とを備え、前記出力調整部が、前記レーザ光の出力を、該出力が単調増加する第1期間後に、所定の勾配よりも大きい勾配で前記出力が単調減少する第2期間に切り替え、前記表示部が、前記結石と、前記レーザ光により生成されるバブルの動態とを表す前記画像を表示するレーザ破砕システムである。
【0018】
本態様によれば、出力調整部により、パルス状のレーザ光の出力が、第1期間によって単調増加された後に、第2期間によって所定の勾配よりも大きい勾配で単調減少される。また、画像取得部によって取得されたレーザ射出端と結石とを含む光路上の画像が表示部によって表示される。表示部によって、結石と、レーザ光によって生成されるバブルの動態とを表す画像が表示されることにより、ユーザは、結石へのレーザ光の照射状況を容易に把握することができる。
【0019】
上記態様に係るレーザ破砕システムは、前記画像に基づいて、前記レーザ射出端と前記結石との間の距離を算出する算出部を備えることとしてもよい。
上記態様に係るレーザ破砕システムは、前記表示部が、前記距離に関する情報を表示することとしてもよい。
この構成によって、表示部により表示される画像情報と距離に関する情報とから、レーザ射出端と結石との間の距離をユーザが容易に把握することができる。
【0020】
本発明の第3態様は、液体中の結石にレーザ光を照射することによって、前記結石を破砕するレーザ破砕方法であって、前記結石に対向して配置されたレーザ射出端からパルス状のレーザ光を射出することによって、前記レーザ射出端から連続して複数のバブルを生成し、複数の前記バブルが結合することによって構成されるバブル結合体により、前記レーザ射出端と前記結石との間を連結し、前記バブル結合体を消滅させることによって生じる吸引力により、前記結石を前記レーザ射出端に引き寄せるレーザ破砕方法である。
【0021】
本態様によれば、液中でレーザ射出端からレーザ光が射出されることにより、レーザ射出端から連続して複数のバブルが生成される。そして、複数のバブルが結合したバブル結合体によってレーザ射出端と結石との間が連結される。これにより、レーザ光がバブル結合体を透過することによって結石に照射される。次いで、バブル結合体が消滅することによって吸引力が生じることにより、結石がレーザ射出端に引き寄せられる。
【0022】
したがって、レーザ光の衝撃によって結石がレーザ射出端から離れる方向に移動するのを防止し、レーザ射出端から一定の距離内において結石にレーザ光を照射することができる。よって、吸引効果を効果的に利用し、結石にレーザ光を効率よく照射することができる。
【0023】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記レーザ光の出力を、該出力が単調増加する第1期間後に、所定の勾配よりも大きい勾配で前記出力が単調減少する第2期間に切り替え、前記第1期間に射出される前記レーザ光によって前記バブル結合体を生成し、前記第2期間に射出される前記レーザ光によって前記バブル結合体を消滅させることとしてもよい。
【0024】
第1期間によってレーザ光の出力を単調増加させた後に、第2期間によってレーザ光の出力を所定の勾配よりも大きい勾配で単調減少させることで、レーザの照射方向に沿って連結した複数のバブルを強制的にほぼ同時に消失させて大きな吸引作用がもたらされるので、吸引効果を効果的に利用した結石破砕を実現することができる。
【0025】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記第1期間が、前記所定の勾配よりも小さい勾配で前記出力が単調増加する期間であってもよい。
この構成によって、レーザ射出端から複数のバブルが連続して生成され易くなる。
【0026】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記レーザ光の出力を、前記所定の勾配よりも小さい勾配で前記出力が単調減少する第3期間後に前記第1期間に切り替えることとしてもよい。
第3期間に射出されるレーザ光は、バブルが急激に消滅するがことなく、結石に到達し易い。また、第3期間に射出されるレーザ光によって、第1期間のレーザ光が射出される前にレーザ光の光路上の液体が温められるので、第1期間に射出されるレーザ光によってバブルが生成され易くなる。
【0027】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記レーザ光の出力を、前記所定の勾配よりも大きい勾配で前記出力が単調増加する第4期間後に前記第3期間に切り替えることとしてもよい。
第4期間に射出されるレーザ光は、バブルを速やかに生成することができる。
【0028】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記レーザ光の出力の勾配が、0.625から5.0W/μsの範囲内であってもよい。
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記第1期間の前記レーザ光の出力の勾配が2.5W/μsec以下であり、前記第2期間の前記レーザ光の出力の勾配が2.5W/μsec以上であってもよい。
【0029】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記第3期間の前記レーザ光の出力の勾配が、1.25W/μsec以上2.5W/μsec以下であってもよい。
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記第4期間の前記レーザ光の出力の勾配が、2.5W/μsec以上であってもよい。
【0030】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記レーザ光が、インターバルを有さずに繰り返し射出されることとしてもよい。
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記レーザ光の繰り返し周波数が、1.7kHz以上2.5kHz以下であってもよい。
【0031】
本発明の第4態様は、液体中の結石にレーザ光を照射することによって、前記結石を破砕するレーザ破砕方法であって、前記結石に向けてレーザ射出端を配置することと、該レーザ射出端からパルス状の前記レーザ光を前記結石に照射することとを有し、前記レーザ光の出力を、該出力が単調増加する第1期間後に、所定の勾配よりも大きい勾配で前記出力が単調減少する第2期間に切り替えるレーザ破砕方法である。
【0032】
本態様によれば、結石に向けてレーザ射出端が配置された状態で、パルス化されたレーザ光が射出される。第1期間に射出されるレーザ光によって、レーザ射出端から連続して複数のバブルが生成された後、複数のバブルが結合することによってバブル結合体が形成される。したがって、バブル結合体によってレーザ射出端と結石との間が連結されることにより、結石にレーザ光を照射することができる。また、第2期間に射出されるレーザ光によって、バブル結合体が急激に消滅する。これにより、吸引力を生じさせ、レーザ射出端に結石を引き寄せることができる。
【0033】
したがって、レーザ光の衝撃によって結石をファイバ射出端から離れる方向に移動させることなく、ファイバ射出端から一定の距離内において結石にレーザ光を照射することができる。よって、吸引効果を効果的に利用し、結石にレーザ光を効率よく照射することができる。
【0034】
上記態様に係るレーザ破砕方法は、前記結石に向けて前記レーザ光が射出される間、前記レーザ射出端の位置を維持することとしてもよい。
この構成によって、レーザ光を効率よく結石に照射することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、吸引効果を効果的に利用し、結石にレーザ光を効率よく照射することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ破砕システムの概略構成図である。
図2図1のレーザ破砕システムを説明する別の概略構成図である。
図3】レーザ光のパルス形状とバブルの形状との関係を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るレーザ破砕方法を説明するフローチャートである。
図5】パルス形状の一例を示す図である。
図6】バブルの形状と結石の動態とを説明する図である。
図7】本発明の一実施形態の一変形例に係るレーザ光のパルス形状とバブルの形状との関係を示す図である。
図8】一変形例のパルス形状の一例を示す図である。
図9】一変形例のバブルの形状と結石の動態とを説明する図である。
図10】4種類のパルス形状を示す図である。
図11】パルスエネルギを測定するシステムの一例を示す概略構成図である。
図12】各パルス形状とパルスエネルギの一例を示す図である。
図13】バブル形状解析システムの一例を示す図である。
図14】バブル長さとバブル幅を説明する図である。
図15】各パルスのバブル形成過程を説明する図である。
図16】パルス形状ごとのバブル幅、バブル長さおよびバブル幅とバブル長さの比率を説明する図である。
図17A】ファイバの前方方向の吸引効果を評価する実験システムの一例を示す図である。
図17B図17Aの結石ファントム周辺を側方から見た図である。
図18】結石レトロパルション距離を説明する図である
図19】各パルス形状における2mm角の結石ファントムの動態の解析結果の一例を説明する図である。
図20】各パルス形状における5mm角の結石ファントムの動態の解析結果の一例を説明する図である。
図21】ファイバ端と結石ファントムとの間の距離と吸引成功率との関係を説明する図である。
図22】結石ファントムのトラップ位置とバブル長さを説明する図である。
図23】結石とバブルに相互作用する力を説明する図である。
図24】ファイバ側方の吸引効果を評価する実験システムの一例を示す図である。
図25】ファイバと結石ファントムとの間の距離を説明する図である。
図26】パルス形状ごとのファイバ側方の吸引効果を説明する図である。
図27】吸引成功率と吸引速度の結果を示す図である。
図28】パルス形状の一例を示す図である。
図29】特許文献1を説明する図である。
図30】非特許文献1を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の一実施形態に係るレーザ破砕装置、レーザ破砕システムおよびレーザ破砕方法について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ破砕システム1は、図1および図2に示されるように、レーザ破砕装置3と、硬性鏡または軟性鏡の尿管鏡5と、表示部7と、画像情報抽出部9と、結石様態認識部11と、波形設定部13と、波形情報記憶部15とを備えている。
【0038】
レーザ破砕装置3は、レーザ光源21と、光ファイバ23と、光ファイバ接続部25と、波形制御部(パルス生成部、出力調整部)27とを備えている。図2において、符号29はユーザインタフェースを示している。
【0039】
レーザ光源21としては、例えば、Thulium Fiber Laser(TLR-50/500-QCW-AC-Y16,IPG Photonics)を使用することができる。これに代えて、レーザ光源21として、例えば、Holmium:YAG laser、Thulium:YAG laser、Erbium:YAG laser、Pulsed dye laser、または、Q-switched Nd:YAG laserを使用してもよい。
【0040】
光ファイバ23は、例えば、シングルモードファイバおよびマルチモードファイバのいずれでもよく、ダブルクラッド構造のファイバであってもよい。また、光ファイバ23は、ツリウム(Thulium)が添加されていてもよい。光ファイバ23は、尿管鏡5のチャネル5aを通って尿路P内へ導かれる。尿路P内は尿、水または生理食塩水等の溶液Wが充填されている。光ファイバ23は、導光したレーザ光を射出するファイバ先端(レーザ射出端)23aを備えている。
【0041】
光ファイバ接続部25は、接続された光ファイバ23の情報を読み取る。そして、光ファイバ接続部25は、光ファイバ23のコア径およびNA等の特性を含んだファイバ識別情報を波形制御部27に伝送する。
【0042】
尿管鏡5は、尿路結石(結石)Sの様態を観測する。尿管鏡5には、例えば、図2に示されるように、照明光を発生する照明光源17と、尿路結石Sを画像化した尿管鏡画像を生成する画像処理プロセッサ(画像取得部)19とが接続されている。画像処理プロセッサ19によって生成された画像は表示部7に表示される。
【0043】
表示部7に表示される尿管鏡画像により、ユーザは、レーザ光によって生成されるバブルB(図3参照)が尿路結石Sに到達したか否かを確認することができる。そして、ユーザは、尿管鏡画像を見て判断することにより、波形設定部13によってレーザ光の波形を設定することができる。
【0044】
画像情報抽出部9は、尿管鏡5によって生成された尿管鏡画像に基づいて、尿路結石Sの様態を抽出する。
結石様態認識部11は、画像情報抽出部9によって抽出された尿路結石Sの様態を認識することによって波形制御情報を生成し、生成した波形制御情報を波形制御部27に伝送する。
【0045】
波形設定部13は、ユーザによって選択されたレーザ光の波形を設定する。波形設定部13は、設定した波形を示す波形情報を波形制御部27に伝送する。
波形情報記憶部15には、レーザ光源21の波長情報と、波長情報に基づいて適切な波形を生成するための波形情報とが格納されている。
【0046】
波形制御部27は、光ファイバ接続部25から送られてくるファイバ識別情報、波形設定部13から送られてくる波形情報、および、結石様態認識部11から送られてくる波形制御情報の少なくとも1つに基づいて、波形情報記憶部15から所望の波形情報を取得する。そして、波形制御部27は、取得した波形情報に基づいてレーザ光源21の発振を制御する。
【0047】
波形制御部27は、例えば、レーザ光のパルス形状を上昇三角パルスに成形する。具体的には、波形制御部27は、図3に示されるように、まず、レーザ光源21から発振させるレーザ光の出力を単調増加させる。これにより、ファイバ先端23aから射出されるパルス状のレーザ光によって、ファイバ先端23aから連続して複数のバブルBを生成させる。さらに、複数のバブルBが結合することによって構成されるバブル結合体BBにより、ファイバ先端23aと尿路結石Sとの間を連結させる。レーザ光の出力を単調増加させるこの期間を第1期間とする。第1期間では、所定の勾配よりも小さい勾配で出力を単調増加させることとしてもよい。
【0048】
続いて、波形制御部27は、第1期間後に、レーザ光の出力を切り替え、所定の勾配よりも大きい勾配で出力を単調減少させる。これにより、バブル結合体BBが消滅することによって吸引力を生じさせる。そして、吸引力によって、尿路結石Sをファイバ先端23aに引き寄せる。レーザ光の出力を単調減少させるこの期間を第2期間とする。
【0049】
レーザ光の繰り返し周波数は、1.7kHz以上3.0kHz以下であることが好ましい。レーザ光の繰り返し周波数は、1.7kHz以上2.5kHz以下であってもよい。
また、レーザ光の繰り返し周波数は、2.5kHz以上3.0kHz以下であってもよい。また、レーザ光の出力の勾配は、0.625から5.0W/μsの範囲内であってもよい。例えば、レーザ光の出力が右上がりの波形となる第1期間では、2.5W/μsec以下の勾配で出力を緩やかに単調増加させる。また、それに続く右下がりの波形となる第2期間では、2.5W/μsec以上の勾配で出力を急激に単調減少、好ましくは出力を停止する。
【0050】
パルス形状の生成は、例えば、ファンクションジェネレータ(WF1974,NF)を用いることができる。画像情報抽出部9、結石様態認識部11および波形制御部27による上記処理は、ハードウェアを含む少なくとも1つのプロセッサによって実行されることとしてもよい。
【0051】
次に、本実施形態に係るレーザ破砕方法は、例えば、図4のフローチャートに示されるように、ファイバ先端23aからパルス状のレーザ光を射出することによって、ファイバ先端23aから連続して複数のバブルBを生成するステップS1と、複数のバブルBが結合することによって構成されるバブル結合体BBにより、ファイバ先端23aと尿路結石Sとの間を連結するステップS2と、バブル結合体BBを消滅させることによって生じる吸引力により、尿路結石Sをファイバ先端23aに引き寄せるステップS3とを含んでいる。
【0052】
次に、本実施形態に係るレーザ破砕システム1およびレーザ破砕方法の作用について説明する。
本実施形態に係るレーザ破砕システム1およびレーザ破砕方法によって、結石を破砕する場合、光ファイバ接続部25に光ファイバ23を接続した後、ファイバ先端23aを溶液W中の尿路結石Sに向けて配置する。そして、ファイバ先端23aから尿路結石Sまでの距離が所定の範囲内となる状態を維持する。光ファイバ接続部25から波形制御部27にファイバ識別情報が伝送される。
【0053】
次いで、照明光源17から、尿路結石Sに向けて照明光を照射する。また、レーザ光源21からレーザ光を発生させる。発振されたレーザ光は、光ファイバ接続部25を経由して光ファイバ23に入射する。光ファイバ23によって導光されたレーザ光は、ファイバ先端23aから尿路結石Sに向けて射出される。
【0054】
次いで、画像処理プロセッサ19によって尿路結石Sの画像が生成され、生成された画像が表示部7に表示される。ユーザは、表示部7により表示されている尿管鏡画像に基づいて、波形設定部13によってレーザ光の波形を設定する。設定された波形を示す波形情報は波形制御部27に伝送される。
【0055】
また、画像情報抽出部9により、生成された尿管鏡画像に基づいて、尿路結石Sの様態が抽出される。そして、結石様態認識部11により、抽出された尿路結石Sの様態に基づいて波形制御情報が生成される。生成された波形制御情報は波形制御部27に伝送される。
【0056】
波形制御部27により、光ファイバ接続部25からのファイバ識別情報、波形設定部13からの波形情報、および、結石様態認識部11からの波形制御情報の少なくとも1つに基づいて、波形情報記憶部15から所望の波形情報が取得され、取得された波形情報に基づいてレーザ光源21の発振が制御される。
【0057】
具体的には、レーザ光源21から射出されるレーザ光の出力が、図5に示されるように、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調増加する第1期間と、所定の勾配よりも大きい勾配で出力が単調減少する第2期間とに切り替えられるとともに、第1期間、第2期間の順に交互に繰り返される。
【0058】
これにより、例えば、図6に示されるように、まず、第1期間において、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調増加するレーザ光が射出されることによって、ファイバ先端23aからバブルBが生成される(図6の(a)の状態。)。そして、出力が単調増加しながらレーザ光が射出されることによってバブルBがある程度の大きさになると、バブルBの先端から2つ目のバブルBが生成される(図6の(b)の状態。)。
【0059】
次いで、バブルBが溶液Wによって冷却されることにより1つ目のバブルBが収縮すると、2つ目のバブルBが残る(図6の(c)の状態。)。さらに出力が単調増加しながらレーザ光が射出されることによって、ファイバ先端23aから新たなバブルBが生成される(図6の(d)の状態。)。その新たなバブルBが成長することによって、新たなバブルBが2つ目のバブルBに結合すると、2つのバブルBが結合したバブル結合体BBが形成される(図6の(e)の状態。)。
【0060】
バブル結合体BBによってファイバ先端23aと尿路結石Sとの間が連結されると、レーザ光がバブル結合体BBを透過することによって尿路結石Sに到達する。これにより、レーザ光が尿路結石Sに照射される。
【0061】
続いて、レーザ光の出力が第1期間から第2期間に切り替えられる。第2期間に切り替えられることによって、レーザ光の出力が所定の勾配よりも大きい勾配で単調減少すると、バブル結合体BBが消滅する(図6の(f)の状態。)。バブル結合体BBの消滅によって吸引力が生じることにより、尿路結石Sがファイバ先端23aに引き寄せられる(図6の(g)の状態。)。
【0062】
次いで、レーザ光の出力が第2期間から第1期間に切り替えられる。第1期間によって、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調増加するレーザ光が射出されると(図6の(h)の状態。)、ファイバ先端23aからバブルBが生成される(図6の(i)の状態。)。そして、出力が単調増加しながらレーザ光が射出されることによって、バブルBから生成される2つ目のバブルBが尿路結石Sに接触すると、レーザ光がバブルBを透過することによって、尿路結石Sにレーザ光が照射される(図6の(j)の状態。)。
【0063】
次いで、1つ目のバブルBが収縮すると、2つめのバブルBが残る(図6の(k)の状態。)。そして、尿路結石Sが所望の大きさに破砕されるまで、図6の(d)~(k)の状態と同様の工程が繰り返される。尿路結石Sは、照射されたレーザ光のエネルギが尿路結石S中の水に吸収されることによる温度上昇に伴う水蒸気爆発、または、尿路結石Sそのものによるレーザ光のエネルギの吸収による熱化学変化等によって破砕される。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ破砕装置3、レーザ破砕システム1およびレーザ破砕方法によれば、バブル結合体BBの消滅によって生じる引き寄せ作用を効率よく利用することができる。これにより、レーザ光の衝撃によって尿路結石Sがファイバ先端23aから離れる方向に移動するのを防止し、ファイバ先端23aから一定の距離内において尿路結石Sにレーザ光を照射することができる。よって、吸引効果を効果的に利用し、尿路結石Sにレーザ光を効率よく照射することができる。
【0065】
本実施形態では、上述したように、レーザ光の出力が右上がりの波形となる第1期間では2.5W/μsec以下の勾配で出力を緩やかに単調増加させ、右下がりの波形となる第2期間では2.5W/μsec以上の勾配で出力を急激に単調減少、好ましくは出力を停止する。
【0066】
これに対し、本実施形態の比較例として、第1期間では2.5W/μsecを上回る勾配で出力を急激に単調増加させ、それに続く第2期間では2.5W/μsecを下回る勾配で出力を緩やかに単調減少させた場合は、媒質(溶液W)の成分に応じて多少異なるものの、複数のバブルBが形成されなかったり、連結しない離散的なバブルBが複数生じたりするだけであり、吸引効果がほとんど認められなかった。
【0067】
また、第1期間では2.5W/μsecを上回る勾配で出力を急激に単調増加させ、その後、出力の勾配をプラトー(矩形パルスが持つ水平または平坦な頂部もこれに含まれる。)にした場合は、バブルBが壊れ易くなった。そして、複数のバブルBが同時に存在しなかったり、バブルB同士が連結することなく別々の順番で消失したりした。
【0068】
また、第1期間において2.5W/μsec以下の勾配で出力を緩やかに単調増加させても、それに続く第2期間において2.5W/μsec以下の勾配で出力を緩やかに単調減少させた場合は、連結したバブルBが断片的に消失または段階的に消失してしまい、十分な吸引効果が見られなかった。
【0069】
右上がりの波形のパルスを付与してからバブルBが連結するまでの時間は、媒質および波形以外のパラメータにより異なる。そのため、使用時と同等の媒質環境とパラメータを有するパルスをダミーまたは実際の尿路結石Sに照射することによって計測すれば、右上がりの波形のパルスを付与してからバブルBが連結するまでの時間を取得することができる。
【0070】
本実施形態は以下の構成に変形することができる。
本実施形態においては、第1期間および第2期間からなる上昇三角パルスを採用した。一変形例としては、例えば、図7に示すように、波形制御部27が、第1期間の前に、所定の勾配よりも小さい勾配でレーザ光の出力を単調減少させることとしてもよい。第1期間の前にレーザ光の出力を単調減少させるこの期間を第3期間とする。
【0071】
さらに、波形制御部27が、第3期間の前に、所定の勾配よりも大きい勾配でレーザ光の出力を単調増加させることとしてもよい。第3期間の前にレーザ光の出力を単調増加させるこの期間を第4期間とする。
【0072】
この場合、第4期間では、レーザ光の出力が所定の勾配よりも大きい勾配で単調増加することによって、ファイバ先端23aから1つ目のバブルBが速やかに生成される。次いで、第3期間では、レーザ光の出力が所定の勾配よりも小さい勾配で単調減少することによって、1つ目のバブルBからさらに2つ目のバブルBが生成された後、両方のバブルBが消滅する。
【0073】
パルス波形は、本実施形態で説明した上昇三角パルスと、上昇三角パルスを左右反転させた下降三角パルスとを、下降三角パルス、上昇三角パルスの順番で繋げたM字型を有する。M字形状パルスの左半分、すなわち下降三角パルスは、第4期間に相当する2.5W/μsec以上の勾配で出力が単調増加する上昇波形と、それに続く第3期間に相当する1.25W/μsec以上2.5W/μsec以下の勾配で出力が単調減少する右下がりの波形とから成る。M字形状パルスの右半分は、本実施形態で説明した上昇三角パルスの波形と同様である。
【0074】
上記構成のレーザ破砕システム1およびレーザ破砕方法の作用について説明する。
本変形例に係るレーザ破砕システム1およびレーザ破砕方法によって結石を破砕する場合、波形制御部27により、図8に示されるように、レーザ光の出力が第4期間と、第3期間と、第1期間と、第2期間とに切り替えられるとともに、第4期間、第3期間、第1期間、第2期間の順に繰り返される。
【0075】
これにより、例えば、図9に示されるように、まず、第4期間において、所定の勾配よりも大きい勾配で出力が単調増加するレーザ光が射出されることによって、ファイバ先端23aからバブルBが速やかに生成される(図9の(a)の状態。)。
【0076】
次いで、レーザ光の出力が第4期間から第3期間に切り替えられる。第3期間に切り替えられることによって、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調減少するレーザ光が射出されると、バブルBが次第に大きくなるとともに、バブルBの先端から2つめバブルBが生成される(図9の(b)の状態。)。そして、両方のバブルBが消滅すると、吸引力が生じることによって、尿路結石Sがファイバ先端23aに引き寄せられる(図9の(c)の状態。)。
【0077】
次いで、レーザ光の出力が第3期間から第1期間に切り替えられる。第1期間に切り替えられることによって、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調増加するレーザ光が射出されると、ファイバ先端23aからバブルBが生成される(図9の(d)の状態。)。
【0078】
この場合の第1期間では、第4期間および第3期間に生成されたバブルBによって、レーザ光が光束を保って伝搬する光路に対応する経路上の溶液Wが温められていることにより、ファイバ先端23aから連続する複数のバブルBが一塊となって生成される。そして、ファイバ先端23aと尿路結石Sとを連結するバブル結合体BBが速やかに形成される(図9の(e)の状態。)。これにより、レーザ光がバブル結合体BBを透過することによって、尿路結石Sにレーザ光が照射される。
【0079】
次いで、レーザ光の出力が第1期間から第2期間に切り替えられる。第2期間に切り替えられることによって、所定の勾配よりも大きい勾配で出力が単調減少するレーザ光が射出されると、バブル結合体BBが消滅する。これにより、吸引力が生じることによって、尿路結石Sがファイバ先端23aに引き付けられる(図9の(f),(g),(h)の状態。)
【0080】
次いで、レーザ光の出力が第2期間から第4期間に切り替えられる。第4期間に切り替えられることによって、出力が所定の勾配よりも大きい勾配で単調増加するレーザ光が射出されると、ファイバ先端23aにバブルBが速やかに生成される(図9の(i)の状態。)。
【0081】
次いで、レーザ光の出力が第4期間から第3期間に切り替えられる。第3期間に切り替えられることによって、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調減少するレーザ光が射出されると、バブルBが次第に大きくなるとともに、バブルBの先端から2つ目のバブルBが生成される(図9の(j)の状態。)。そして、両方のバブルBが消滅すると、吸引力が生じることによって、バブルBがファイバ先端23aに引き寄せられる(図の(k)の状態。)。
【0082】
次いで、レーザ光の出力が第3期間から第1期間に切り替えられる。第1期間に切り替えられることによって、所定の勾配よりも小さい勾配で出力が単調増加するレーザ光が射出されると、ファイバ先端23aからバブルBが生成される(図9の(l)の状態。)。
【0083】
この場合も、第4、第3期間に生成されたバブルBによってレーザ光の経路上の溶液Wが温められていることにより、ファイバ先端23aから連続する複数のバブルBが一塊となって生成される。そして、ファイバ先端23aと尿路結石Sとを連結するバブル結合体BBが速やかに形成される(図9の(m)の状態。)。これにより、レーザ光がバブル結合体BBを透過することによって、尿路結石Sにレーザ光が再び照射される。
【0084】
レーザ光の衝撃によって、ファイバ先端23aから離れる方向に尿路結石Sが移動すると(図9の(n),(o),(p)の状態。)、図9の(a)~(p)の状態と同様の工程が繰り返される。そして、レーザ光の照射が繰り返されることによって、尿路結石Sが所望の大きさに破砕される。
【0085】
以上、本変形例によれば、第1、第2期間の前に、第4期間によって、バブルBが速やかに生成されるとともに、第3期間によってレーザ光の経路上の溶液Wが温められることにより、その後の第1期間において、ファイバ先端23aと尿路結石Sとの間をバブル結合体BBによって速やかに連結することができる。
【0086】
本変形例では、M字形状パルスの左半分、すなわち下降三角パルスは、第4期間に相当する5W/μsec以上の勾配で出力が単調増加する上昇波形と、それに続く第3期間に相当する25W/μsec以上2.5W/μsec以下の勾配で出力が単調減少する右下がりの波形とから成る。
【0087】
第4期間の上昇波形は、バブルBが形成される余地が無い急峻な勾配である。また、上昇波形に続く右下がりの下降波形の第3期間では、先行する急峻な上昇波形から下降に転じる際に比較的大きなサイズのバブルBが生成される。そして、第3期間では緩やかな勾配で出力が単調減少することにより、下降波形の最後までバブルBが維持される。したがって、第3期間においてバブルBを通じて媒質が加温される。さらに、第3期間では、1.25W/μsec以上2.5W/μsec以下の勾配で出力が単調減少することにより、バブルBが破裂し難くなるので、尿路結石Sに対するレトロパルション作用が起こらないままバブルBが維持される。
【0088】
M字形状パルスの左半分の下降三角パルスから右半分の上昇三角パルスに切り替わることによって出力の上昇に転じる際、第4、第3期間の下降三角パルスの過程で生じたバブルBが一旦消失する。ところが、引き続き第1期間において出力が単調増加する過程で、立て続けに複数、典型的には2個または3個のバブルBが生じた後、これら複数のバブルBが消失することなく連結する。その後、上述したように、上昇三角パルスの上昇から第2期間の急激な下降に転じることにより、短時間で吸引効果が得られる。
【0089】
これに対し、本変形例の比較例として、M字形状パルスの左半分の最初の上昇波形となる第4期間において2.5W/μsec未満の勾配で出力を単調増加させた場合は、大なり小なり1以上のバブルBが瞬間的に生成される場合が有り、これによって尿路結石Sが遠位に遠ざかる可能性が示唆された。
【0090】
また、最初の上昇波形に続く右下がりの下降波形となる第3期間において2.5W/μsecを上回る勾配で出力を急激に単調減少させた場合は、下降波形の途中でバブルBが消失したり、連結しない離散的なバブルBが複数生じたりするだけであり、バブルBを通じた媒質の加温は不十分であった。
【0091】
また、第3期間において、プラトー(矩形パルスが持つ水平または平坦な頂部もこれに含まれる。)に近い勾配にした場合は、バブルBが壊れ易くなった。そして、複数のバブルBが同時に存在しなかったり、バブルB同士が連結することなく別々の順番で消失したりした。
【0092】
本実施形態においては、結石様態認識部11が、画像に基づいて、バブルBと尿路結石Sとの間の距離を算出する算出部として機能することとしてもよい。また、算出された距離に関する情報が、表示部7によって表示されることとしてもよい。表示部7により表示される画像情報と、結石様態認識部11によって算出される距離に関する情報とから、ファイバ先端23aと尿路結石Sとの間の距離をユーザが容易に把握することができる。
【0093】
また、本実施形態においては、レーザ光がインターバルを有しながら繰り返し射出されることとしたが、レーザ光がインターバルを有さずに繰り返し射出されることとしてもよい。
【0094】
また、本実施形態においては、尿管に適用する例を示したが、胆管や腎臓のように、体内で結石を生じ得る任意の臓器から画像を取得する内視鏡であってよい。各臓器に生成される結石の成分に応じたレーザ結石破砕を、画像を見ながら実施することが望ましい。内視鏡を用いるレーザ破砕装置の態様については、結石破砕装置および結石破砕システムと題される国際出願PCT/JP2019/007928を参照してもよい。
【実施例
【0095】
次に、上述した実施形態に係るレーザ破砕装置3、レーザ破砕システム1およびレーザ破砕方法の実施例について説明する。
(方法)
本実施例では、同じパルスエネルギを所有する4種類のパルス形状、すなわち、矩形パルス(Squre:Sq)、下降三角パルス(Descending Triangle:DT)、上昇三角パルス(Ascending Triangle:AT)、M字形状パルス(M-shaped Pulse:MP)を比較対象とした。270umコア径の光ファイバ(HLFDBX0270c、Dornier MedTech)を用いて光エネルギの伝送を行った。表1にパルス形状パラメータを示し、図10に各パルスのパルス形状を示す。
【表1】
なお、図10に示されるパルス形状以外のパラメータである、パルスエネルギ(J)、平均パワー(W)、パルス幅(μs)は、本実施例において選定したものであり、好適なパラメータの一例ということができる。すなわち、本実施例で採用しているレーザ光のパルスは、いずれも500Wの平均パワーと0.2Jのパルスエネルギとを有し、パルス幅は各パルス形状に関係して異なる。すなわち、従来技術としての矩形パルスは400μs、下降三角パルスおよび上昇三角パルスはいずれも800μs、M字形状パルスは728μsである。M字形状パルスは、パルス幅の半分に相当する中央部の最下点において、ゼロではなく、50Wの平均パワーを有する。これらパルス形状において、平均パワーとパルス幅とにより、バブルの生成および消失の動態に関連するパルス出力の勾配を規定することができる。図10に明示された各パラメータの値によらず、本発明は、本明細書で述べる発明の主旨に基づき適宜変更できるものとする。
【0096】
図11に示されるように、光ファイバ(272μm-core MMF(HLFDBX0270C、Dornier))41から照射される実際の平均パワーは、パワーセンサ(S322C、Thorlabs)43およびパワーメータ(PM100D、Thorlabs)45によって計測した。
【0097】
また、パルス形状は光検出器(DET10D/M、Thorlabs)47によって計測した。光検出器47の出力波形は、オシロスコープ49において16回のデジタル平均を行って取得した。パルスエネルギ(J)は、平均パワー(W)をパルスレート(Hz)で割ることにより算出した。図11において、符号55は光ファイバ(Single Mode Fiber)を示し、符号57はダイクロイックミラー(DMLP1800L、Thorlabs R=0.0225(@λ=1.94μs))を示し、符号59は集光レンズ(LA5763-D、Thorlabs f=50mm)を示している。
【0098】
図12に各パルスのパルス形状とパルスエネルギを示す。
レーザ装置51には、Thulium Fiber Laser(TLR-50/500-QCW-AC-Y16、IPG Photonics)を使用した。パルス形状の生成は、ファンクションジェネレータ(WF1974、NF)53より行った。
【0099】
(バブル観察)
図13に示されるように、高速度デジタルカメラ(Fastcam SA-Z、Photoron)63を用いて、各パルスのバブル形成過程を撮影および記録した。撮影速度は10万フレーム/秒とした。
【0100】
図13にバブル形状解析システム61のセットアップを示す。
光ファイバ65が設置されたアクリルケース67の背面から、ハロゲンランプを光源69としたケーラ照明により撮影領域を照明した。バブルはカメラ撮影画像の陰影として表れる。符号67aは灌流入口を示し、符号67bは灌流出口を示している。
【0101】
図14に示されるように、バブル長さ(L)をファイバ端65aから連続するバブルBの最大長として定義し、バブル幅(W)を光ファイバ65と直交する向きのバブル幅の最大値と定義した。
【0102】
図15に各パルスのバブル形成過程を示す。
矩形パルスの場合は、ファイバ端65aから連続して2つのバブルBが生成および消滅した。2つのバブル長さは同程度であった。下降三角パルスの場合は、ファイバ端65aから連続して3つのバブルBが生成および消滅した。3つのバブル長さは漸次短くなった。
【0103】
上昇三角パルスは、ファイバ端65aから連続して3つのバブルBが生成および消滅し、3つのバブル長さは漸次長くなった。M字形状パルスは、ファイバ端65aから連続して3つのバブルBが生成および消滅した。1つ目のバブルBと3つ目のバブルBの長さは同程度で、2つ目のバブルBの長さは1つ目および3つ目のバブルBよりも短かった。
【0104】
各パルス形状において連続して生成および消滅する複数個のバブルBのそれぞれの幅、長さおよび幅と長さの比率を図16に示す。
各パルス形状の複数個のバブル幅の大きさのシークエンスは、パルス形状によって異なる。いずれのパルス形状のバブルBも、光ファイバ65の長手軸方向に沿って長い楕円型を示したが、上昇三角パルスの3つ目のバブルBの形状は球形に近かった。
【0105】
(吸引効果および結石レトロパルション)
ファイバの前方方向の吸引効果を評価する実験システムを図17Aおよび図17Bに示す。
ポリスチレン(PS)セル71上に2mm角の結石ファントム(BegoStone plus、配合比5:1、Bego Canada)BSを配置する。光ファイバ65を水平方向にPSセル71の上面から1mmの高さに設置する。
【0106】
光ファイバ65と結石ファントムBSを側方からビデオカメラ(ARTCAM-130MI-BW、ARTRAY)73によって撮影する。結石ファントムBSの移動の大きさを評価するために、結石ファントムBSの上方にデジタルカメラ75を設置し、レーザ照射の前後の結石ファントムBSの位置(X、Y)を取得した。符号77はキセノンランプを示している。
【0107】
図18に示されるように、結石レトロパルション距離は、レーザ照射終了後の光ファイバ65の先端から結石ファントムBSの重心までの距離(d)から結石ファントムBSの半値幅(d0)をオフセットとして差し引いた数値(d’)とした。
【0108】
光ファイバ65の先端と結石ファントムBSとの間の距離を0mm、0.5mmとした場合の2mm角の結石ファントムBSに対する各パルス形状の照射と、同距離を0mmとした場合の5mm角の結石ファントムBSに対する各パルス形状の照射を行った。それぞれの条件においてN=3とした。Nは各実験の試行回数を示している。
【0109】
光ファイバ65の先端と2mm角の結石ファントムBSとの距離を0.5mmとした場合の各パルス形状における結石ファントムBSの動態を解析した結果の一例を図19に示す。
矩形パルスおよび下降三角パルスにおいては、レーザ照射開始直後に結石ファントムBSが一方向にスライドして停止した。上昇三角パルスおよびM字形状パルスにおいては、レーザ照射中に結石ファントムBSが1度光ファイバ65の先端から離れた後に近づいたり、その場で回転したりする現象(吸引効果)が見られた。
【0110】
上昇三角パルスにおいては、レーザ照射終了直前に光ファイバ65の先端に引き寄せられていた結石ファントムBSが大きく弧を描いて吹き飛ばされた。その結果、レーザ照射終了後の結石ファントムBSの位置は、矩形パルスと上昇三角パルスの場合とあまり変わっていない。M字形状パルスの場合は、レーザ照射終了後の結石ファントムBSの位置は他の例に比べて光ファイバ65の先端に近い。
【0111】
図20に光ファイバ65の先端と結石ファントムBSとの距離を0mmとした場合の5mm角の結石ファントムBSにおける結果の一例を示す。
矩形パルスにおいては、結石ファントムBSに対して吸引効果が弱く働くものの、結石ファントムBSは大きくスライドした。下降三角パルスにおいては、結石ファントムBSはレーザ照射後に一方向にスライドした後に停止した。上昇三角パルスとM字形状パルスは、レーザ照射中に吸引効果現象を示し、レーザ照射終了後に光ファイバ65の先端に近い位置で結石ファントムBSが停止した。
【0112】
上述の動画解析の結果、吸引効果現象が認められた場合を吸引成功とし、吸引効果現象が認められなかった場合を吸引失敗とし、各条件におけるN=3の試行のうち吸引成功の数を吸引成功率として表2にまとめた。
【表2】
【0113】
上昇三角パルスおよびM字形状パルスにおいて、2mm角の結石ファントムBS(光ファイバ-結石ファントム間距離:0.5mm)および5mm角の結石ファントムBSの場合の吸引成功率が高かった。ただし、2mm角の結石ファントムBS(光ファイバ-結石ファントム間距離:0mm)の場合は、吸引成功率は低かった。
【0114】
結石レトロパルション距離の測定結果を表3に示す。
【表3】
M字形状パルスはいずれの条件においてもその他のパルス形状よりも結石レトロパルション距離が小さかった。上昇三角パルスは5mm角の結石ファントムBSの条件において結石レトロパルション距離が小さく、他の条件においてはその他のパルス形状と同程度だった。
【0115】
図21に示されるように、光ファイバ65と結石ファントムBSとの間の距離と吸引成功率との関係を評価するために、光ファイバ65の先端と結石ファントムBSとの間の距離0mm、0.5mm、1mm、2mmの距離の条件において、結石ファントムBSの動態をN=3において動画解析した。この実験のパルス形状は上昇三角パルスを使用した。その結果、距離0.5mm、1mmの条件において吸引成功率が高かった。このように、吸引成功率が高くなる離間距離があることが確かめられた。
【0116】
図20図21の検討結果から分かるように、対象となる結石とレーザ射出端との間の距離や結石のサイズのような条件によって、吸引成功率が異なる場合があるため、これら条件を把握しながら結石破砕を実行するのが好ましい。そのための画像取得手段としては、光ファイバ65の先端(レーザ出射端)から結石ファントムBSまでの距離が0.5mm、1mm、2mmとなる範囲を画像化できる焦点距離を有するのが好ましい。
【0117】
高速度デジタルカメラ(Fastcam SA-Z、Photoron)63を用いて、5万フレーム/秒の撮影速度で、図22に示されるように、バブルBの観察と、光ファイバ65と結石ファントムBSとの相互作用を測定した。その結果、吸引効果が成功した例では、バブルBの最大長さの距離以下においてバブルBが結石ファントムBSを引き込みトラップすることがわかった。
【0118】
(吸引効果の詳しいメカニズム)
バブルBと相互作用する結石Sの動態には、図23に示されるように、バブルBの収縮に伴う瞬間的な引き寄せ力とバブルBの崩壊後に発生するジェット水流、照射されたレーザ光がバブルBの間を抜けて結石Sに当たることによって結石Sが破砕されるときに生じる反力、結石Sに働く地面との静止摩擦力の4つの力の関係が重要である。
【0119】
照射されたレーザ光の光エネルギが水に吸収されることによってバブルBが発生する。そして、膨張したバブルBが結石Sに接触すると、バブルBを通じて結石Sに到達した光エネルギによって結石Sが破砕される。膨張したバブルBが収縮に転じると、バブルBの内外の圧力差によってバブルBの収縮方向に吸引力が働く。バブルBが収縮により崩壊した反動によって、結石Sを押しのける方向に水流が発生する。
【0120】
仮に破砕反力と水流の力が吸引力と結石Sに働く静止摩擦力を上回る場合には、結石Sが後方移動する。このとき、バブルBが結石Sに到達した後、速やかに照射エネルギを減じることによって破砕反力を低くする。バブルBの収縮に伴う吸引力が結石Sに働く静止摩擦力または結石Sの慣性力を上回り、バブル崩壊後の水流が結石Sの慣性力よりも下回る場合に、吸引効果が起こる。
【0121】
(従来のバルス形状との対比)
従来のパルス形状は、矩形状または段階的パルスのように、パルス出力のピーク値が継続したり、専ら破砕効果を得るためにバブル生成期間が短いために、複数のバブルが連結されない。発明者のさらなる検討では、特許文献2に開示されるような第1および第2パルスを用いる場合であっても、光ファイバ先端に生成されるバブルがインターバルにより結石に到達したとしても、その後において光ファイバ側と結石側とにバブルが分断され、結石側に付着して残ったバブルが任意のタイミングで消失することで、レトロパルションが働いてしまうことが想定された。このように、従来のパルス形状による結石破砕の概念は、結石Sのアブレーションに多大なエネルギを注ぐことを優先しているため、たとえ吸引効果を生じる条件を持ったとしても、その吸引効果を上回るレトロパルションが働くことによって結石Sを後方に吹き飛ばしてしまうと考えられる。とくに、矩形状のパルスや、専ら破砕効果のみを生じるような十分に出力の高いパルスは、発生するバブルBが小さすぎたり、バブルの形状がレーザの照射方向に沿って長手状に連結しないために、たとえ吸引力が生じたとしてもレトロパルションの方が上回るので、吸引効果を発揮するのが困難であることが、発明者の検討により分かった。
【0122】
上昇三角およびM字形状パルスは、適切な距離の条件のもと結石Sを引き付ける効果を有する。さらに、M字形状パルスは結石のレトロパルションが小さい。
【0123】
(方法:ファイバ側方の吸引効果)
図24に示されるように、アクリルケース67内にPSセル71を敷き、PSセル71の上に2mm角の結石ファントム(ベゴストーン)BSを配置した。生理食塩水を灌流入口67aから約20ml/minの速度で注入し、その生理食塩水を灌流出口67bから排出した。結石ファントムBSの移動を高速度デジタルカメラ(Fastcam SA-Z、Photoron)63を使って撮影し、キセノン光源77で照明した。アクリルケース67内において、200umコア径の光ファイバ65をPSセル71の上面に対して垂直に配置した。
【0124】
図25に示されるように、光ファイバ65と結石ファントムBSとの間の距離をXとし、PSセル71の上面から光ファイバ65の先端までの距離をZとして調整した。
【0125】
(結果:ファイバ側方の吸引効果)
図26にZ=2.5mm、X=1.5mmの配置条件における矩形パルス、下降三角パルス、上昇三角パルスおよびM字形状パルスの吸引効果の評価結果を示す。パルスエネルギ0.2J、パルス周波数80Hz、レーザ照射時間1秒をレーザ光の照射条件とした。
【0126】
このうち、矩形パルスと上昇三角パルスにおいて、結石ファントムBSが光ファイバ65下へ引き寄せられることによってレーザ光が結石ファントムBSに照射され、その結果、粉塵が上がった。これを吸引成功と定義し、各取得動画データを解析することによって吸引成功の有無を判定した。
【0127】
吸引速度(Velocity)は、吸引成功した場合の光ファイバ65と結石ファントムBSとの間の距離(X)と、レーザ照射開始(laser start)からレーザ光が結石ファントムBSに最初にヒット(stone hit)するまでの時間、すなわちレーザ光が結石ファントムBSに最も早く到達するまでの時間との比として算出した。
Velocity(mm/sec)=X/(t[stone hit]-t[laser start])
【0128】
吸引成功率と吸引速度の結果を図27に示す。ファイバ側方の吸引効果は矩形パルスと上昇三角パルスの場合に多く現れた。吸引速度は距離が離れるに従い低下した。矩形パルスは上昇三角パルスよりも吸引力が強かった。
【0129】
ファイバ側方の吸引効果は、ポップコーン砕石の開始を早くしたり、周囲の近くに位置する1以上の結石Sをファイバ前方へ引き寄せたりするのに有用である。本実験結果より、矩形パルスと上昇三角パルスにファイバ側方の吸引効果が現れ、矩形パルスの方が上昇三角パルスよりも側方の吸引力が高かった。
【0130】
しかし、矩形パルスはファイバ前方へのエネルギ送達率が上昇三角パルスよりも高いため、臨床においてはファイバ前方が向いている生体粘膜に対して水に吸収されるエネルギの残りのエネルギが送達されるので、生体粘膜の温度が正常な状態よりも高くならないよう慎重に行わなければならない。この点では、段階的なパルスも同様に慎重に扱うべきと考えられる。これに対し、上昇三角パルスは、ピーク値のパルスが一瞬にすぎないので、ファイバ前方に送達させるエネルギが少ない一方、ファイバ側方における吸引効果が得られるため、生体粘膜へのダメージリスクを低減させながら、ファイバ側方の結石Sを光ファイバ65に引き込むことができる。この点では、M字形状パルスも同様に生体へのダメージが少ないと考えられるので、後述する変形例のようにM字形状パルスの形状を上昇三角の形状に近づけるように、パルスを構成する期間ごとの出力の勾配を変更するのが好ましい。このように、側方の吸引効果においても、生体で利用されるレーザ結石破砕においては、矩形パルスよりも本発明のパルス形状の方が適していると考えられる。
【0131】
(パルス形状の変形例)
パルス形状は図28の(a)~(f)に示すパルス形状であっても同様の効果を示す。図28の(a)は上昇三角パルスの変形例を示し、図28の(b)~(f)はM字形状パルスの変形例を示している。これら変形例は、いずれも上述したようなパルス波形の勾配を有するものとする。図28の(a)に示されるパルス形状によれば、上昇三角形状のパルスの変形例として、単調増加する第1期間と単調減少する第2期間とはほぼ同一の所定勾配であってもよい。また、図28の(b)~(d)に示されるパルス形状によれば、M字形状パルスの変形例として、パルス出力が単調増加するパルスに関する第1および第4期間に相当するパルスの第1の組と、パルス出力が単調減少するパルスに関する第2および第3期間に相当するパルスの第2の組との相対的な勾配の大小関係を任意に変更してもよい。また、本発明の実施例では、単調増加する第1期間と単調減少する第2期間においてパルス出力が増加から減少に転じる部分の形状が折れ線となっていることでバブルの消失作用を高めているが、バブルの消失が予定されない他の部分では折れ線の形状である必要はない。そこで、たとえば図28の(e)に示されるパルス形状のように、M字形状パルスの中央部に相当する第3期間から第1期間にかけてパルスの出力が減少から増加に転じる部分を変曲点を有する曲線に変更してもよい。さらに、本発明の実施例によれば、図10に示されるように、M字形状パルスの上記中央部のパルス出力をゼロよりも大きくすることで、第3期間において温められた溶液Wに対し速やかに次のバブル生成を進行させることが可能となっている。そこで、図28の(e)および(f)のように、曲線または矩形状の谷を形成するパルス形状であってもよい。さらに図28の(f)によれば、M字形状パルスの変形例に限り、2つのピーク値の部分をそれぞれ狭小な幅の矩形状に変更することが可能である。すなわち、M字形状パルスの中央部において十分に温められた液体において連結されたバブルは、図示されるように高々全体の30%未満の幅の矩形パルスで連結が解かれ難い場合が有り得る。
【0132】
以上のように、本実施例によれば、レーザ光のパルス形状を調整することにより、液中に生成されるバブルBの収縮が結石Sを引き寄せる力を有効化する。これにより、結石破砕による反力を小さくすることで、結石レトロパルションを低減させる、または、生体粘膜へのダメージを最小化する。特に、1以上の結石Sをレーザ光の照射領域に引き寄せることで、ユーザがレーザ照射装置を移動させることによって結石Sごとに正確に照準を合わせる手間を軽減し、短時間での治療に貢献することができる。
【0133】
また、2以上の結石Sの中間にレーザ光を照射することで、これら結石Sがレーザ光の照射領域に集まった後、各結石Sが同時に破砕され得る。同時に複数の結石Sを破砕する場合、体内の温度上昇を低減するとことも可能となる。さらに、レーザ照射領域に引き寄せられた1以上の結石Sは、体内から自然に排出できる大きさまで破砕されるまでの間、照射領域に留まり得る。
【0134】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0135】
1 レーザ破砕システム
3 レーザ破砕装置
7 表示部
11 結石様態認識部(算出部)
19 画像処理プロセッサ(画像取得部)
23 光ファイバ
23a ファイバ先端
27 波形制御部(パルス生成部、出力調整部)
S 尿路結石(結石)
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