(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】増殖礁用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/30 20170101AFI20231004BHJP
A01K 61/70 20170101ALI20231004BHJP
【FI】
A01K61/30
A01K61/70
(21)【出願番号】P 2022002358
(22)【出願日】2022-01-11
【審査請求日】2022-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520149630
【氏名又は名称】矢口港湾建設ヤグチダイバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】矢口 政則
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰一
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆造
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-004700(JP,A)
【文献】特開2002-101785(JP,A)
【文献】特開2004-159610(JP,A)
【文献】特許第4616087(JP,B2)
【文献】特許第5004441(JP,B2)
【文献】特開平10-276609(JP,A)
【文献】特開2008-017740(JP,A)
【文献】特開2017-074041(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2083614(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00 - 33/02
A01K 61/00 - 61/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に設置され、海生生物の増殖礁を形成する増殖礁用部材の製造方法において、
上面が開口した筒状部を有する保持型枠に繊維材からなる網材によって袋状に形成された網状袋体の下半部を開口した状態で設置し、
前記保持型枠に保持された前記網状袋体の下半部に多数の重量部材を投入し、該多数の重量部材からなる重量物層を形成した後、
前記重量物層上に多数の貝殻を積み上げて貝殻層を形成し、
前記網状袋体の開口部を纏めて絞り上げた状態で閉じて積層された前記重量物層と前記貝殻層の外側を覆い、前記網状袋体によって前記重量物層及び前記貝殻層を緊縛し、
前記多数の重量部材を互いに圧接された状態に保持するとともに、前記多数の貝殻を互いに圧接された状態に保持し、前記重量物層及び前記貝殻層の形状を維持し、
しかる後、前記保持型枠から離脱させることを特徴とする増殖礁用部材の製造方法。
【請求項2】
前記貝殻層を形成する際、前記貝殻を前記重量物層上に一定の高さまで積み上げた後、該積み上げた貝殻上に透過性を有する袋体内に肥料が包含された肥料用袋体を設置し、
しかる後、残りの貝殻を積み上げ、前記貝殻層内に肥料用袋体を埋設する請求項1に記載の増殖礁用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にナマコの増殖に用いる増殖礁用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナマコは、我が国において高級食材として需要があり、また、近年では、中華人民共和国等においても高級食材としてのナマコの需要が高まっており、我が国からの輸出も増大している。
【0003】
しかしながら、上述のような状況からナマコが乱獲されると、ナマコ資源の枯渇や海洋生物の生態系に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0004】
そこで、近年では、上述のようなナマコ需要への対応や漁獲によって失われたナマコ資源の回復を目的としてナマコの増殖が行われている。
【0005】
ナマコの増殖は、一般に、近隣のナマコ養殖施設からナマコの稚魚(以下、稚ナマコという)を入手し、当該稚ナマコを漁業組合等が船上からナマコが生息している海域に放流する方法が一般的である。
【0006】
一方、天然の漁礁は、海底部の浅い隆起によって形成され、無機栄養塩類、海生生物の餌となるプランクトン、魚やウニの糞等の有機物、海生生物の住処や餌として有用な珪藻や海藻等が豊富に滞留しており、ナマコを含む海生生物の生育に有用であることが知られている。
【0007】
そこで、従来では、天然の漁礁を模した人工漁礁を海底部に設置し、海生生物の生育環境を整える取り組みが行われている。
【0008】
人工漁礁には、例えば、頑丈な金網製籠体内に、砕石などの重量部材と、魚類の隠れ場になる珪藻や海藻が付着・生息し易い貝殻が収納されたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の如き従来の一般的なナマコの増殖方法では、放流された稚ナマコの大半が天敵となる他の魚類による捕食や潮流の影響による他の海域への流出等によって大半が減耗するという問題があった。
【0011】
また、従来の人工漁礁では、海生生物の餌や隠れ場になる珪藻や海藻が付着・生息し易い貝殻が軽量であるため、潮流等によって流されないように頑丈な金網籠等に収容する必要があり、製作費用が嵩むという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、安価且つナマコ等の海生生物の生育に適した増殖礁用部材の製造方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、海底に設置され、海生生物の増殖礁を形成する増殖礁用部材の製造方法において、上面が開口した筒状部を有する保持型枠に繊維材からなる網材によって袋状に形成された網状袋体の下半部を開口した状態で設置し、前記保持型枠に保持された前記網状袋体の下半部に多数の重量部材を投入し、該多数の重量部材からなる重量物層を形成した後、前記重量物層上に多数の貝殻を積み上げて貝殻層を形成し、前記網状袋体の開口部を纏めて絞り上げた状態で閉じて積層された前記重量物層と前記貝殻層の外側を覆い、前記網状袋体によって前記重量物層及び前記貝殻層を緊縛し、前記多数の重量部材を互いに圧接された状態に保持するとともに、前記多数の貝殻を互いに圧接された状態に保持し、前記重量物層及び前記貝殻層の形状を維持し、しかる後、前記保持型枠から離脱させることにある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記貝殻層を形成する際、前記貝殻を前記重量物層上に一定の高さまで積み上げた後、該積み上げた貝殻上に透過性を有する袋体内に肥料が包含された肥料用袋体を設置し、しかる後、残りの貝殻を積み上げ、前記貝殻層内に肥料用袋体を埋設することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る増殖礁用部材の製造方法は、請求項1に記載の構成を具備することによって、保持型枠によって保持することで可撓性を有する網材からなる網状袋体内に栗石等の重量部材からなる重量物層及び貝殻からなる貝殻層を崩れないように形成し、その状態を維持できる。
【0016】
また、本発明において、請求項2の構成を具備することによって、貝殻層内にナマコ等の海生生物の餌となる珪藻や袋海苔等の生育に有用な肥料が包含された肥料用袋体を好適に埋設し、安定して肥料を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る増殖礁用部材を使用した増殖礁の一例を示す正面図である。
【
図2】
図1中の増殖礁用部材を示す拡大正面図である。
【
図3】(a)~(c)は本発明に係る増殖礁用部材の製造方法の前半の各工程を示す断面図であって、(a)は網状袋体の設置作業、(b)は重量物層の形成作業、(c)は貝殻層下半部及び肥料用袋体の設置作業の状態を示す図である。
【
図4】(d)~(f)は同上の後半の各工程を示す断面図であって、(d)は貝殻層の形成作業、(e)は網状袋体の緊縛作業、(c)は増殖礁用部材の取り出し作業の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る増殖礁用部材の実施態様を
図1~
図2に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は海底、符号2は海面、符号3は増殖礁用部材である。
【0019】
この増殖礁用部材3は、
図1に示すように、ナマコ等の海生生物の生育に適した海域の海底1に設置され、人工の増殖礁を形成する。
【0020】
増殖礁用部材3は、
図2に示すように、多数の重量部材4,4…が互いに圧接された状態で保持されてなる重量物層5と、重量物層5上に積層され、多数の貝殻6,6…が互いに圧接された状態で保持されてなる貝殻層7と、繊維材からなる網材によって袋状に形成された網状袋体8とを備え、網状袋体8内に積層された重量物層5と貝殻層7が保持されている。
【0021】
重量物層5は、栗石等の一定の大きさ(例えば、径10~15cm程度)及び比重(2.0~3・0を有する形状が不均一な多数の重量部材4,4…によって構成され、この重量部材4,4…を多層状に敷き詰めることにより、互いに隙間を有した状態で重量部材4,4…が互いに支持し合い、一定の厚みを有する層状に形成されている。
【0022】
尚、重量部材4,4…は、一定の比重と上述の栗石に限定されず、天然岩石からなる砕石、人工砕石、再生コンクリート砕石等であってもよい。
【0023】
貝殻層7は、牡蠣殻、ホタテ貝殻等の多数の貝殻6,6…によって構成され、この貝殻6,6…を多層状に敷き詰めることにより、互いに隙間を有した状態で貝殻6,6…が互いに支持し合い、一定の厚みを有する層状に形成されている。
【0024】
尚、貝殻6,6…は、牡蠣殻やホタテ貝殻のように表面の起伏に富むものが好ましいが、牡蠣殻やホタテ貝殻に限定されず、その他の貝類の貝殻6,6…を用いてもよい。
【0025】
また、貝殻6,6…は、同一種の貝殻に限定されず、牡蠣殻、ホタテ貝殻、その他の貝殻等、複数種の貝殻を併用してもよい。
【0026】
また、貝殻6,6…には、牡蠣殻やホタテ貝殻等の天然の貝殻のみならず、炭酸カルシウム等の成分を含有し、貝殻を模して人工的に生成された部材も含まれるものとする。
【0027】
さらに、貝殻6,6…には、食用等に供された後、廃棄された貝殻を用いることにより、安価に入手でき、且つ、廃棄物の再利用に貢献することができる。
【0028】
この貝殻層7には、麻袋や不織布袋などの透過性を有する袋体内に肥料が包含された肥料用袋体9が埋設され、この肥料用袋体9内から珪藻や袋海苔等の海藻の生育に有用な肥料が浸みだすようになっている。
【0029】
尚、肥料は、珪藻や袋海苔等の海藻の生育に有用なものであれば特に限定されないが、高炉スラグ、発酵腐植土、漁カスを混合した肥料を用いることにより、珪藻や袋海苔等の海藻の生育に有用な作用を奏し、且つ、肥料を構成する高炉スラグ、発酵腐植土、漁カスが入手し易く安価に製作できる。
【0030】
網状袋体8は、繊維材をシート状に編み込んでなる網材によって構成され、この網材によって開口部を有する袋状に形成されている。
【0031】
網材は、網目が重量部材4,4…及び貝殻6,6…よりも小さい網状に形成され、網状袋体8内に収容された重量部材4,4…及び貝殻6,6…が網状袋体8外に流出しないようになっている。尚、この網材には、一般に使用されている土木用ネット等を使用することができる。
【0032】
繊維材は、ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ガラス繊維等の化学繊維によって構成され、該繊維材で構成された網材は、一定の伸縮性及び柔軟性を有している。
【0033】
この網状袋体8は、積層された重量物層5及び貝殻層7を内包した状態で開口部を絞り上げることで、網状袋体8に外層部が押圧されて重量物層5及び貝殻層7が緊縛され、その状態で開口部を閉じることで重量物層5を構成する多数の重量部材4,4…が互いに圧接された状態に保持されるとともに、貝殻層7を構成する多数の貝殻6,6…が互いに圧接された状態に保持される。尚、図中符号10は、網状袋体8の開口部を閉じるための閉鎖具である。
【0034】
閉鎖具10は、特に限定されず、クリップ状、紐状等のように、絞り上げてまとめた袋体の開口胴部の根本部分を強固に把持し、網状袋体8の緊縛(緊張)状態を維持できるものを使用する。
【0035】
次に、このような増殖礁用部材の製造方法を
図3及び
図4に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
この増殖礁用部材3を製造するには、先ず、地上の安定した地盤上に上面が開口した筒状部12aを有する保持型枠12を設置する。
【0037】
保持型枠12は、鋼材等の十分な剛性を有する材料によって一体に構成され、平板状の底板12bと、底板12bの周縁より立ち上がった上面が開口した筒状部12aとを備え、全体で鉢状を成している。
【0038】
筒状部12aは、円筒状、上方側が大きい円錐台筒状、角筒状等の筒状に形成され、この筒状部12aが少なくとも重量物層5の厚みよりも高くなるような高さに形成されている。
【0039】
次に、保持型枠12が設置されたら、次に、
図3(a)に示すように、開口部を広げた網状袋体8の下半部を挿入して設置し、網状袋体8の上半部8aを保持型枠12の外側に捲り出しておく。
【0040】
次に、
図3(b)に示すように、栗石等の多数の重量部材4,4…を保持型枠12内に投入し、網状袋体8内に充填して重量物層5を形成し、必要に応じて重量物層5の上面から押圧して締め固める。
【0041】
その際、保持型枠12から重量物層5の底面及び周面が反力を受けるので、網状袋体8内で重量物層5を構成する各重量物材が互いに圧接され、互いに支持された状態となり、重量物層5が所定の形状に成形される。
【0042】
次に、
図3(c)に示すように、牡蠣殻やホタテ貝殻等の多数の貝殻6,6…を重量物層5上に投入し、一定の高さ、具体的には想定する貝殻層7の高さの半分の高さまで積み上げ、積み上げた多数の貝殻6,6…上に袋体内に肥料が包含された肥料用袋体9を設置する。
【0043】
そして、
図4(d)に示すように、一定の高さまで積み上げた多数の貝殻6,6…及びその上に設置した肥料用袋体9の上から残りの貝殻6,6…を積み上げ、内部に肥料用袋体9が埋設された状態の貝殻層7を形成する。
【0044】
次に、
図4(e)に示すように、保持型枠12の外側に捲り出しておいた網状袋体8の上半部8aを引き上げ、その引き上げた網状袋体8の上半部8aを貝殻層7の周面及び上面を覆うように被せ、その状態で開口部を貝殻層7上の中央部において纏めて絞り上げる。
【0045】
そして、網状袋体8の開口部を纏めて絞り上げることによって、網状袋体8全体を緊張させ、網状袋体8によって内部で積層された重量物層5及び貝殻層7を緊縛し、その状態で封鎖具によって重量物層5及び貝殻層7が緊縛された状態を維持しつつ開口部を閉鎖する。
【0046】
最後に、
図4(f)に示すように、増殖礁用部材3をクレーンや重機等で吊り上げて保持型枠12より離脱させ、増殖礁用部材3が完成する。
【0047】
このように構成された増殖礁用部材3は、上述の製造方法によって、一般に入手が容易な栗石等の重量部材4,4…、牡蠣殻等の貝殻6,6…、土木用ネット等の網材からなる網状袋体8を用いて構成することができ、安価に大量生産することができる。
【0048】
また、この増殖礁用部材3は、網状袋体8によってその内部で積層された重量物層5及び貝殻層7が緊縛されているので、重量物層5及び貝殻層7が常に網状袋体8によって圧縮方向に押圧された状態となり、多数の重量部材4,4…が互いに圧接された状態に保持されるとともに、多数の貝殻6,6…が互いに圧接された状態に保持されるので、重量物層5及び貝殻層7が形状を維持したままクレーン等による移動や仮置きが可能となる。
【0049】
さらに、この増殖礁用部材3は、重量物層5を備えたことによって、時化や潮流などの影響を受けず、所定の海域において安定して固定され、貝殻層7を成す貝殻6,6…及び繊維材からなる網状袋体8自体にナマコ等の海生生物の餌になる珪藻や袋海苔等の海藻が付着・生息し易く、ナマコ等の海生生物の生育に適している。
【0050】
この増殖礁用部材3を用いたナマコ等の海生生物の増殖方法では、増殖礁用部材3をナマコ等の海生生物の生育に適した海域の海底に設置しておき、そこに前浜の海水を採取した水槽で採卵・受精を行い、放流可能な体長になるまで飼育した稚ナマコを潜水士によって増殖礁用部材3に放流すると、稚ナマコは、この増殖礁用部材3にとどまり成長を続ける。
【0051】
また、ナマコがある程度の体長になるまで成長しても隣接する増殖礁用部材3間で移動するが、増殖礁用部材3からなる増殖礁からは離脱することがなく、さらに、天然のナマコも生育環境に適したこの増殖礁用部材3からなる増殖礁に集まること、つまり蝟集効果も期待できる。
【0052】
さらに、この増殖礁用部材3からなる増殖礁を育成域、採取域に分けて設置することにより計画的な漁獲が可能となる。
【0053】
さらにまた、近年では、全国の漁業協同組合でサーモン等の魚類の養殖に取り組んでおり、このサーモン等の魚類養殖用の生簀下の海底に、増殖礁用部材3,3…を設置するようにしてもよい。
【0054】
この場合、生簀で養殖されている魚類の糞や餌の残りが直下の増殖礁用部材3,3…に向けて沈降し、増殖礁用部材3,3…に生息するナマコ等の海洋生物の餌になり、特に餌を供給しなくともナマコ等の海洋生物へ安定して餌が供給される。また、生簀で養殖されている魚類の糞や餌の残りをナマコが吸収するので、生簀で養殖されている魚類の糞や餌の残りが海底面に堆積してヘドロになり有害な硫化水素を発生させることを抑制することができる。
【0055】
尚、上述の実施例では、保持型枠12を有底の鉢状に形成した場合について説明したが、保持型枠12を筒状部のみで構成し、筒状部を設置した地盤に重量物層の下面を支持させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 海底
2 水面
3 増殖礁用部材
4 重量部材
5 重量物層
6 貝殻
7 貝殻層
8 網状袋体
9 肥料用袋体
10 閉鎖具
11 地盤
12 保持型枠