(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】水性塗料組成物および複層塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20231004BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231004BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20231004BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231004BHJP
C09D 161/28 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D7/41
C09D7/61
C09D161/28
(21)【出願番号】P 2022033843
(22)【出願日】2022-03-04
(62)【分割の表示】P 2017030335の分割
【原出願日】2017-02-21
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 優壮
(72)【発明者】
【氏名】三木 麻里
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-091589(JP,A)
【文献】特開2015-214672(JP,A)
【文献】特開2017-014150(JP,A)
【文献】国際公開第2006/054611(WO,A1)
【文献】特開2007-056161(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119969(WO,A1)
【文献】特開2011-026543(JP,A)
【文献】特開2006-182966(JP,A)
【文献】特開2013-169507(JP,A)
【文献】特開2005-075919(JP,A)
【文献】特開2008-280518(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102395630(CN,A)
【文献】特開2012-061451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0237903(US,A1)
【文献】特表2013-535311(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099151(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/099150(WO,A1)
【文献】特開2011-131135(JP,A)
【文献】特開2001-314807(JP,A)
【文献】特開2001-038286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/00
C09D 5/02
C09D 7/41
C09D 7/61
C09D 161/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)を含む水性塗料組成物を製造する方法であって、
着色顔料(D)および顔料分散剤を、水性媒体中で分散媒体を用いて混合分散する工程と、
前記塗膜形成樹脂(i)と
、前記着色顔料分散体(ii)とを混合して、水性塗料組成物を製造する工程と、
を包含し、
前記塗膜形成樹脂(i)は、
平均粒子径が100nm以下であるアクリル樹脂エマルション(A)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として10~60質量%、
水溶性アクリル樹脂(B)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として5~40質量%、および、
メラミン樹脂(C)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として20~40質量%、含
み、
前記着色顔料分散体(ii)において、前記顔料分散剤の混合量は、前記着色顔料(D)100質量部に対して、固形分質量部として65質量部以上150質量部以下であり、
前記分散媒体の粒子径は、0.1mm以下である、
水性塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)は100nm以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記着色顔料(D)は、有機着色顔料および無機着色顔料からなる群から選択される1種またはそれ以上の着色顔料であり、
前記有機着色顔料は、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料からなる群から選択される1種またはそれ以上であり、
前記無機着色顔料は、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンからなる群から選択される1種またはそれ以上である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物および水性塗料組成物を塗装して得られる複層塗膜に関する。
【0002】
自動車塗装などの工業製品分野においては、利用者などの好みに応じた、多彩な色彩および意匠性が求められている。このような意匠の1例として、例えば、光輝材および/または着色顔料を含む塗膜の上に、着色顔料を含むカラークリヤー塗膜を積層した複層塗膜が挙げられる。この複層塗膜においては、上層に設けられたカラークリヤー塗膜を通して、下層の塗膜の色彩および/または反射光を視認することができるため、色の深み感が優れた複層塗膜となる。例えば、光輝材を含んだメタリックベース塗膜上に、着色顔料を含んだカラークリヤー塗膜を積層した塗膜は、いわゆる「キャンディーカラー」塗膜と呼ばれており、高彩度、高明度および色の深み感に優れた意匠性の高い複層塗膜として知られている。
【0003】
例えば特開2014-042891号公報(特許文献1)には、被塗物表面に対して、光輝材を含有するメタリックベース塗料を塗布してメタリックベース塗膜を形成し、次いで着色ベース塗料を塗布して着色ベース塗膜を形成し、その後着色ベース塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜を形成して、得られたメタリックベース塗膜、着色ベース塗膜およびクリヤー塗膜を、加熱硬化する複層塗膜形成方法であって、メタリックベース塗膜の光線反射率が、所定の範囲にあり、かつ、着色ベース塗膜を単独膜として加熱硬化して得られる単独着色ベース塗膜の光線透過率が、所定の範囲にある、高意匠複層塗膜形成方法が記載されている。この方法によって、塗装時の膜厚変動を厳格に抑制しなくても、塗膜に色ムラが発生しにくく、得られる意匠が均質であり、彩度と明度が高く、かつ、色に深み感がある高意匠複層塗膜が得られると記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、いわゆるカラークリヤー塗膜を有する複層塗膜の形成において、深み感に優れた意匠を提供することができる水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)を含む、水性塗料組成物であって、
上記塗膜形成樹脂(i)は、
平均粒子径が100nm以下であるアクリル樹脂エマルション(A)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として10~60質量%、
水溶性アクリル樹脂(B)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として5~40質量%、および、
メラミン樹脂(C)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として20~40質量%、
含み、
上記着色顔料分散体(ii)は、90%体積粒径(D90)が100nm以下である着色顔料(D)を含む、
水性塗料組成物。
[2]
上記水性塗料組成物に含まれる着色顔料(D)の量は、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分100質量部に対して0.1~25質量部の範囲内である、上記水性塗料組成物。
[3]
上記着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)が50nm以下である、上記水性塗料組成物。
[4]
上記着色顔料(D)は、有機着色顔料および無機着色顔料からなる群から選択される1種またはそれ以上の着色顔料であり、
上記有機着色顔料は、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料からなる群から選択される1種またはそれ以上であり、
上記無機着色顔料は、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンからなる群から選択される1種またはそれ以上である、
上記水性塗料組成物。
[5]
上記アクリル樹脂エマルション(A)は、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートおよびジビニルベンゼンからなる群から選択される1種またはそれ以上の架橋性モノマーを含むモノマー混合物のエマルション重合物である、
上記水性塗料組成物。
[6]
上記着色顔料分散体(ii)は、顔料分散剤を含み、
上記顔料分散剤の量は、着色顔料100質量部に対して固形分質量部として65~150質量部である、上記水性塗料組成物。
[7]
上記顔料分散剤は櫛形構造高分子顔料分散剤である、上記水性塗料組成物。
[8]
上記塗膜形成樹脂(i)は、さらにポリエステル樹脂を含む、上記水性塗料組成物。
[9]
上記水性塗料組成物に含まれる上記塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)において、上記塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)からなる組成物であって、上記組成物に含まれる着色顔料(D)の量が、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分100質量部に対して4質量%であるヘイズ測定用組成物の、膜厚25μmである硬化塗膜のヘイズ値が8以下である、
上記水性塗料組成物。
[10]
第1ベース塗膜および第2ベース塗膜を有する複層塗膜であって、
上記第1ベース塗膜は、光輝性顔料および着色顔料からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、
上記第2ベース塗膜は、上記水性塗料組成物の硬化塗膜である、
複層塗膜。
[11]
上記第1ベース塗膜の膜厚が3~20μmであり、上記第2ベース塗膜の膜厚が3~20μmである、上記複層塗膜。
[12]
上記水性塗料組成物の製造に用いられる着色顔料分散体(ii)の製造方法であって、
着色顔料(D)および顔料分散剤を、水性媒体中で混合分散する工程を包含し、
上記顔料分散剤が櫛形構造高分子顔料分散剤であり、
上記顔料分散剤の量は、着色顔料(D)100質量部に対して固形分質量部として65~150質量部であり、
得られた着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)が100nm以下である、
製造方法。
[13]
上記水性塗料組成物を製造する方法であって、
塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)を混合して、水性塗料組成物を製造する工程を包含し、
上記塗膜形成樹脂(i)は、
平均粒子径が100nm以下であるアクリル樹脂エマルション(A)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として10~60質量%、
水溶性アクリル樹脂(B)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として5~40質量%、および、
メラミン樹脂(C)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として20~40質量%、
含み、
上記着色顔料分散体(ii)は、上記製造方法によって得られた着色顔料分散体(ii)であり、
上記着色顔料分散体(ii)は、90%体積粒径(D90)が100nm以下である着色顔料(D)を含む、
水性塗料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性塗料組成物の塗装により得られる塗膜は、着色顔料を含むにも関わらず、ヘイズ値が低く透明性が高いという特徴がある。そのため、本発明の水性塗料組成物を塗装することによって、彩度が高く、かつ、明度が高いカラークリヤー塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例6で調製した着色顔料分散体(ii)の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】比較例4で調製した着色顔料分散体(ii)の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明に至った経緯を説明する。上記特許文献1は、複層塗膜の形成方法を開示する。この複層塗膜の形成方法によって、彩度と明度が高く、かつ、色に深み感がある、キャンディーカラー複層塗膜が得られることが記載される。本発明者らは、このようなキャンディーカラー複層塗膜において、カラークリヤー塗膜(第2ベース塗膜)の透明性を高めることによって、得られる複層塗膜の明度をより高めることができることを見いだした。カラークリヤー塗膜(第2ベース塗膜)の透明性を高める方法の1例として、着色顔料の量を減らす方法が挙げられる。しかしながら、カラークリヤー塗膜の透明性を高めるために着色顔料の量を減らすと、明度は高くなる一方で彩度が低くなり、色の深み感が低減することとなる。
【0010】
本発明者らは、彩度と明度が高く、かつ、色に深み感がある複層塗膜を得るために、カラークリヤー塗膜(第2ベース塗膜)の物理的性質について種々検討を行った。これらの検討の中で、カラークリヤー塗膜(第2ベース塗膜)の形成に用いられる水性塗料組成物として、塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)を含む水性塗料組成物を用いること、水性塗料組成物中に含まれる塗膜形成樹脂(i)として、アクリル樹脂エマルション(A)、水溶性アクリル樹脂(B)およびメラミン樹脂(C)を特定の割合で含む塗膜形成樹脂(i)を用いること、上記アクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径を100nm以下に制御すること、そして、水性塗料組成物中に含まれる着色顔料分散体(ii)中の着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)を100nm以下に制御することによって、着色顔料の含有量を低減することなく、得られる塗膜の透明度を大きく向上できること、そしてこれにより高彩度を維持しつつ明度を高めることができることを、実験により見いだし、本発明を完成するに至った。以下、本発明の構成について詳述する。
【0011】
水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)を含む。そして上記塗膜形成樹脂(i)は、
平均粒子径が100nm以下であるアクリル樹脂エマルション(A)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として10~60質量%、
水溶性アクリル樹脂(B)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として5~40質量%、および、
メラミン樹脂(C)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として20~40質量%、
含む。そして、上記着色顔料分散体(ii)は、90%体積粒径(D90)が100nm以下である着色顔料(D)を含む。以下、各成分について説明する。
【0012】
アクリル樹脂エマルション(A)
本発明の水性塗料組成物は、塗膜形成樹脂(i)を含む。そして上記塗膜形成樹脂(i)は、アクリル樹脂エマルション(A)を含む。アクリル樹脂エマルション(A)は、α,β-エチレン性不飽和モノマーの混合物(モノマー混合物)を、エマルション重合することによって得られる。上記モノマー混合物は、酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー、水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーなどを含むことにより、酸価および水酸基価を有することができる。アクリル樹脂エマルション(A)の酸価および水酸基価は、得られるエマルションの水溶性、架橋性能などに影響を及ぼす。
【0013】
酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーの具体例として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などを挙げることができる。酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体などを用いるのがより好ましい。
【0014】
水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーの具体例として、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物を挙げることができる。水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとして、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物などを用いるのがより好ましい。
【0015】
上記モノマー混合物は、さらに、その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。上記その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーの具体例として、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルなど)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N-モノブチル(メタ)アクリルアミド、N-モノオクチル(メタ)アクリルアミド2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノン、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなど)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレンなど)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレンなど)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、α-オレフィン、ビニルエステル、およびジエンを挙げることができる。これらのα,β-エチレン性不飽和モノマーは、塗膜の所望性能などに応じて適宜選択することができる。
【0016】
アクリル樹脂エマルション(A)の調製に用いられるモノマー混合物は、架橋性モノマーを含むのが好ましい。架橋性モノマーの量は、モノマー混合物の総量に基づいて0.2~20質量%であるのが好ましく、0.5~20質量%であるのがより好ましい。モノマー混合物が、架橋性モノマーを上記範囲で含むことによって、調製されるアクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径を100nm以下に好適に制御することができる利点がある。
【0017】
架橋性モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物である。架橋性モノマーの具体例として、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物、および、トリアリルシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能モノマー、などが挙げられる。架橋性モノマーは、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。好ましい架橋性モノマーとして、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの架橋性モノマーを用いることによって、得られるアクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径を100nm以下に好適に制御することができる利点がある。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルの両方を意味するものとする。
【0018】
アクリル樹脂エマルション(A)は、必要に応じて、酸価または水酸基価を有するのが好ましい。アクリル樹脂の酸価または水酸基価は、それが合成されるモノマー混合物の酸価または水酸基価と実質上同じである。上記モノマー混合物は、酸価が3~50mgKOH/gであるのが好ましく、7~40mgKOH/gであるのがさらに好ましい。また、上記モノマー混合物は、塗料組成物の硬化性能の点から、水酸基価が10~150mgKOH/gであるのが好ましく、20~100mgKOH/gであるのがより好ましい。また、上記モノマー混合物を共重合して得られるポリマーのガラス転移温度は、-20~80℃の間であることが、得られる塗膜の機械的物性の点から好ましい。
【0019】
上記アクリル樹脂エマルション(A)は、上記モノマー混合物をエマルション重合することによって調製される。エマルション重合方法として、当業者において一般的に行われる重合方法が挙げられる。具体的には、水、または必要に応じてアルコールなどのような有機溶媒を含む水性媒体中に、乳化剤を混合し、加熱撹拌下において、上記モノマー混合物および重合開始剤を滴下することにより行うことができる。また、モノマー混合物、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を滴下する方法によって、エマルション重合を行うこともできる。
【0020】
重合開始剤の例として、例えば、アゾ系の油性化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)など)、および水性化合物(例えば、アニオン系の4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジンおよびカチオン系の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン));並びにレドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt-ブチルパーベンゾエートなど)、および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリおよび過硫酸アンモニウムなど)などが挙げられる。
【0021】
乳化剤は、当業者において一般的に用いられている乳化剤を用いることができる。乳化剤として、反応性乳化剤を用いるのがより好ましい。反応性乳化剤の例として、例えば、アントックス(Antox)MS-60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS-2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE-20(旭電化社製)およびアクアロンHS-10(第一工業製薬社製)などが挙げられる。
【0022】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン化合物、そしてα-メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いることができる。
【0023】
反応温度は開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤では60~90℃であり、レドックス系では30~70℃で行うことが好ましい。一般に、反応時間は1~8時間である。モノマー混合物の総量に対する開始剤の量は、一般に0.1~5質量%であり、好ましくは0.2~2質量%である。
【0024】
上記エマルション重合は、一段階重合であってもよく、多段階であってもよい。多段階重合として、例えば、二段階で行うことができる。二段階重合は、まず上記α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物のうちの一部(モノマー混合物1)をエマルション重合し、ここに上記α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物の残り(モノマー混合物2)をさらに加えてエマルション重合を行う重合方法である。
【0025】
例えば二段階重合を行う場合においては、クリヤー塗膜とのなじみ防止などの点から、モノマー混合物1はアミド基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーを含有していることが好ましい。またこの時、モノマー混合物2は、アミド基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーを含有していないことがさらに好ましい。なお、モノマー混合物1および2を一緒にしたものが、上記モノマー混合物であるため、先に示した上記α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物の要件は、モノマー混合物1および2を一緒にしたものが満たすことになる。
【0026】
上記アクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和することにより、pH5~10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いからである。この中和は、エマルション重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンまたはトリエチルアミンのような3級アミンを系に添加することにより行うことが好ましい。
【0027】
本発明において、上記アクリル樹脂エマルション(A)は、平均粒子径が100nm以下であることを条件とする。アクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径は、20~100nmであるのが好ましく、30~100nmであるのがより好ましく、40~100nmであるのがさらに好ましい。アクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径が100nmを超える場合は、得られる塗膜の透明性・光透過性が劣ることとなる。
【0028】
アクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径を上記範囲とする方法として、エマルション重合条件を調整する方法、モノマー組成を選択する方法などが挙げられる。アクリル樹脂エマルション(A)の平均粒子径は、LB-500(堀場製作所社製)を使用し、動的光散乱法を用いて測定した平均分散粒径値である。
【0029】
塗膜形成樹脂(i)に含まれるアクリル樹脂エマルション(A)の量は、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として10~60質量%であるのが好ましく、15~50質量%であるのがさらに好ましい。アクリル樹脂エマルション(A)の量が10質量%未満である場合は、塗膜物性が低下するおそれがある。アクリル樹脂エマルション(A)の量が60質量%を超える場合は、得られる塗膜において色ムラが生じるおそれがある。
【0030】
水溶性アクリル樹脂(B)
上記塗膜形成樹脂(i)は、水溶性アクリル樹脂(B)を含む。水溶性アクリル樹脂(B)の量は、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として5~40質量%であるのが好ましく、10~30質量%であるのがより好ましい。水溶性アクリル樹脂(B)の量が5質量%未満である場合は、塗装時において、塗着時に粘度が大きく上昇し、得られる塗膜において色ムラが発生するおそれがある。水溶性アクリル樹脂(B)の量が40質量%を超える場合は、塗膜外観が劣ることとなるおそれがある。
【0031】
水溶性アクリル樹脂(B)は、数平均分子量が3000~50000であるのが好ましく、6000~30000であるのがより好ましい。水溶性アクリル樹脂(B)の数平均分子量が上記範囲であることによって、良好な塗装作業性および硬化性が得られる利点がある。本明細書において、樹脂成分の数平均分子量および重量平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し決定することができる。
【0032】
水溶性アクリル樹脂(B)は、酸価が10~100mgKOH/gであるのが好ましく、20~80mgKOH/gであるのがより好ましい。酸価が上記範囲であることによって、水溶性アクリル樹脂(B)の水分散性および塗膜の耐水性を確保することができる利点がある。また、水溶性アクリル樹脂(B)は、水酸基価が20~180mgKOH/gであるのが好ましく、30~160mgKOH/gであるのがより好ましい。水酸基価が上限範囲であることによって、塗膜硬化性および塗膜の耐水性を確保することができる利点がある。
【0033】
水溶性アクリル樹脂(B)は、アクリル樹脂エマルション(A)の調製に用いられるモノマー混合物において例示した、酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーを必須成分とし、必要に応じたその他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとともに溶液重合を行うことにより調製することができる。
【0034】
水溶性アクリル樹脂(B)は、塩基性化合物、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびジメチルエタノールアミンなど、のような有機アミンで中和し、水に溶解させることによって調製することができる。水溶性アクリル樹脂(B)の中和は、水溶性アクリル樹脂(B)単体に対して行ってもよく、水性塗料組成物の製造時に行ってもよい。
【0035】
メラミン樹脂(C)
上記塗膜形成樹脂(i)は、メラミン樹脂(C)を含む。メラミン樹脂(C)は、塗膜形成樹脂のうち硬化剤としての働きを有する。メラミン樹脂(C)は、水溶性であってもよく、非水溶性であってもよい。メラミン樹脂(C)として、水トレランスが3.0以上であるものを用いることによって、良好な塗料安定性を得られる利点がある。ここで水トレランスとは、親水性の度合を評価するためのものであり、その値が高いほど親水性が高いことを意味する。水トレランス値の測定方法は、25℃において、100mlビーカー内で、サンプル0.5gをアセトン10mlに混合して分散させ、ビュウレットを用いてイオン交換水を徐々に加え、混合物が白濁を生じるまでに要するイオン交換水の量(ml)を測定し、このイオン交換水の量(ml)を水トレランス値としたものである。
【0036】
メラミン樹脂(C)の量は、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として20~40質量%であるのが好ましい。メラミン樹脂(C)の量が20質量%未満である場合は、塗膜硬化性が低下するおそれがある。またメラミン樹脂(C)の量が40質量%を超える場合は、塗料安定性が低下するおそれがある。
【0037】
ポリエステル樹脂
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、ポリエステル樹脂を含んでもよい。ポリエステル樹脂は、例えば、酸成分およびアルコール成分を縮重合して調製することができる。上記酸成分としては特に限定されず、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、無水フタル酸などの多価カルボン酸化合物およびそれらの無水物を挙げることができる。さらに、酸成分として、ジメチロールプロピオン酸などの1分子中にカルボン酸基と水酸基とを有する化合物を用いることができる。上記アルコール成分としては特に限定されず、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールなどの多価アルコール化合物を挙げることができる。ポリエステル樹脂は、樹脂固形分酸価20~80mgKOH/g、および数平均分子量1000~15000を有するものがより好ましい。本発明の水性塗料組成物中にポリエステル樹脂が含まれることによって、得られる塗膜の色ムラを抑制することができる利点がある。水性塗料組成物中にポリエステル樹脂が含まれる場合におけるポリエステル樹脂の量は、樹脂固形分として5~30質量%であるのが好ましく、10~20質量%であるのがより好ましい。
【0038】
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、上記メラミン樹脂(C)に加えて、他の硬化剤を含んでもよい。他の硬化剤としては、塗料一般に用いられているものを用いることができる。他の硬化剤として、例えば、ブロックイソシアネート、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオンなどが挙げられる。
【0039】
他の硬化剤として、ブロックイソシアネート樹脂を含むのが好ましい。ブロックイソシアネート樹脂としては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができるものであって、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生するものが挙げられる。
【0040】
塗膜形成樹脂(i)は、上記アクリル樹脂エマルション(A)、水溶性アクリル樹脂(B)、メラミン樹脂(C)、および必要に応じたポリエステル樹脂そしてその他の樹脂などを混合することによって、調製することができる。
【0041】
着色顔料分散体(ii)
本発明の水性塗料組成物は、上記塗膜形成樹脂(i)そして着色顔料分散体(ii)を含む。上記着色顔料分散体(ii)は、着色顔料(D)を含む。そして、本発明において、着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)は、90%体積粒径(D90)が100nm以下であることを条件とする。本発明の水性塗料組成物においては、上記特定のアクリル樹脂エマルション(i)を用いると共に、着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)が100nm以下であることによって、高彩度および高明度であるカラークリヤー塗膜を形成することが可能となる。
【0042】
上記着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)は、55nm以下であるのが好ましく、35nm以下であるのがより好ましく、10nm以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
90%体積粒径(D90)とは、粒度分布を示す指標であって、体積累積粒子径D90とも言われる。具体的には、着色顔料(D)の粒度分布において、小粒子径側からある粒子径までの間で積算した粒子の合計体積を、粒子全体の体積に対する百分率で表したときに、その値が90%となるときの粒子径である。90%体積粒径(D90)は、動的光散乱法、特にUPA-150(マイクロトラック社製粒度分布測定装置)を用いて測定することができる。
【0044】
着色顔料(D)は、有機着色顔料であってもよく、無機着色顔料であってもよく、これらの併用であってもよい。有機着色顔料として、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などが挙げられる。無機着色顔料として、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどが挙げられる。これらの着色顔料は1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0045】
着色顔料(D)として、例えば、フタロシアニン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ベンガラなどを、特に好適に用いることができる。これらの着色顔料を用いることによって、高彩度、高明度および色の深み感に優れた塗膜を形成することができる利点がある。
【0046】
本発明の水性塗料組成物に含まれる着色顔料(D)の量は、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分100質量部に対して0.1~25質量部の範囲内であるのが好ましい。上記着色顔料の量は、0.5~20質量部の範囲内であるのがより好ましく、1~10質量部の範囲内であるのがさらに好ましい。着色顔料(D)が上記範囲で含まれることによって、得られるカラークリヤー塗膜の彩度を確保することができる。
【0047】
なお本発明の水性塗料組成物においては、上記着色顔料(D)以外の他の顔料も、必要に応じて含んでもよい。但し、このような他の顔料は、本発明の水性塗料組成物の透明性を大きく損なわないことを条件とする。他の顔料は、塗料分野において通常用いられる顔料から適宜選択して用いることができる。
【0048】
着色顔料分散体(ii)は、着色顔料(D)および顔料分散剤を、水性媒体中で混合分散することによって、調製することができる。顔料分散剤として、顔料親和部分および親水性部分を含む構造を有する樹脂を用いることができる。上記顔料親和部分および親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性およびアニオン性の官能基を挙げることができ、顔料分散剤1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。上記ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられ、上記カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基などが挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0049】
顔料分散剤の具体例として、例えば、ノニオン系顔料分散剤、高分子顔料分散剤が挙げられる。
ノニオン系顔料分散剤として、例えば、炭素数14以上、好ましくは14~30、より好ましくは16~25のアルキル鎖を有する分散剤が挙げられる。ノニオン系顔料分散剤は、親水性親油性バランス(HLB)が16以上であるのが好ましく、16~20であるのがより好ましく、17~19であるのがさらに好ましい。上記ノニオン系顔料分散剤の例として、例えば、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルおよびポリオキシエチレン2-オクチルドジデシルエーテル、およびこれらの変性物(硫酸エステル、リン酸エステル、マレイン酸エステル変性物など)などが挙げられる。
【0050】
上記高分子顔料分散剤としては特に限定されないが、以下に説明するものを好適に使用することができる。
(1)顔料親和性基を主鎖および/または複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造高分子顔料分散剤
(2)主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子顔料分散剤
(3)主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状高分子顔料分散剤
【0051】
ここで、上記顔料親和性基とは、顔料の表面に対して強い吸着力を有する官能基をいい、例えば、オルガノゾルにおいては、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基;ヒドロゾルにおいては、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等を挙げることができる。
【0052】
上記櫛形構造高分子顔料分散剤(1)は、上記顔料親和性基を有する主鎖および/または複数の側鎖とともに、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を主鎖に結合した構造のものであり、これらの側鎖があたかも櫛の歯のように主鎖に結合されているものである。本明細書中、上述の構造を櫛形構造と称する。上記櫛形構造高分子顔料分散剤(1)において、上記顔料親和性基は、側鎖末端に限らず、側鎖の途中や主鎖中に複数存在していてもよい。なお、上記溶媒和部分は、溶媒に親和性を有する構造をいう。上記溶媒和部分は、例えば、水溶性の重合鎖、親油性の重合鎖等から構成されている。
【0053】
上記櫛形構造高分子顔料分散剤(1)としては特に限定されず、例えば、特開平5-177123号公報に開示されている1個以上のポリ(カルボニル-C3~C6-アルキレンオキシ)鎖を有し、これらの各鎖が3~80個のカルボニル-C3~C6-アルキレンオキシ基を有しかつアミドまたは塩架橋基によってポリ(エチレンイミン)に結合されている構造のポリ(エチレンイミン)またはその酸塩からなるもの;特開昭54-37082号公報に開示されているポリ(低級アルキレン)イミンと、遊離のカルボン酸基を有するポリエステルとの反応生成物よりなり、各ポリ(低級アルキレン)イミン連鎖に少なくとも2つのポリエステル連鎖が結合されたもの;特公平7-24746号公報に開示されている末端にエポキシ基を有する高分子量のエポキシ化合物に、アミン化合物と数平均分子量300~7000のカルボキシル基含有プレポリマーとを同時にまたは任意順に反応させて得られる顔料分散剤等を挙げることができる。
【0054】
上記櫛形構造高分子顔料分散剤(1)は、顔料親和性基が1分子中に2~3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、25~1500個である。
【0055】
上記櫛形構造高分子顔料分散剤(1)は、溶媒和部分を構成する側鎖が1分子中に2~1000存在するものが好ましい。2未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、5~500である。
【0056】
上記櫛形構造高分子顔料分散剤(1)は、数平均分子量が2000~1000000であることが好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、4000~500000である。
【0057】
上記主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子顔料分散剤(2)は、複数の顔料親和性基が主鎖にそって配置されているものであり、上記顔料親和性基は、例えば、主鎖にペンダントしているものである。本明細書中、上記顔料親和部分は、上記顔料親和性基が1つまたは複数存在して、顔料表面に吸着するアンカーとして機能する部分をいう。
【0058】
上記高分子顔料分散剤(2)としては、例えば、特開平4-210220号公報に開示されているポリイソシアネートと、モノヒドロキシ化合物およびモノヒドロキシモノカルボン酸またはモノアミノモノカルボン酸化合物の混合物、並びに、少なくとも1つの塩基性環窒素とイソシアネート反応性基とを有する化合物との反応物;特開昭60-16631号公報、特開平2-612号公報、特開昭63-241018号公報に開示されているポリウレタン/ポリウレアよりなる主鎖に複数の第3級アミノ基または塩基性環式窒素原子を有する基がペンダントした高分子;特開平1-279919号公報に開示されている水溶性ポリ(オキシアルキレン)鎖を有する立体安定化単位、構造単位およびアミノ基含有単位からなる共重合体であって、アミン基含有単量単位が第3級アミノ基若しくはその酸付加塩の基または第4級アンモニウムの基を含有しており、共重合体1g当たり0.025~0.5ミリ当量のアミノ基を含有する共重合体;特開平6-100642号公報に開示されている付加重合体からなる主鎖と、少なくとも1個のC1~C4アルコキシポリエチレンまたはポリエチレン-コプロピレングリコール(メタ)アクリレートからなる安定化剤単位とからなり、かつ、2500~20000の質量平均分子量を有する両親媒性共重合体であって、主鎖は、30質量%までの非官能性構造単位と、合計で70質量%までの安定化剤単位および官能性単位とを含有しており、上記官能性単位は、置換されているかまたは置換されていないスチレン含有単位、ヒドロキシル基含有単位およびカルボキシル基含有単位であり、ヒドロキシル基とカルボキシル基、ヒドロキシル基とスチレン基およびヒドロキシル基とプロピレンオキシ基またはエチレンオキシ基との比率が、それぞれ、1:0.10~26.1;1:0.28~25.0;1:0.80~66.1である両親媒性高分子等を挙げることができる。
【0059】
上記高分子顔料分散剤(2)は、顔料親和性基が1分子中に2~3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、彩度が低下するおそれがある。より好ましくは、25~1500個である。
【0060】
上記高分子顔料分散剤(2)は、数平均分子量が2000~1000000であることが好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、4000~500000である。
【0061】
上記主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状高分子顔料分散剤(3)は、主鎖の片末端のみに1つまたは複数の顔料親和性基からなる顔料親和部分を有しているが、顔料表面に対して充分な親和性を有するものである。
【0062】
上記直鎖状高分子顔料分散剤(3)としては特に限定されず、例えば、特開昭46-7294号公報に開示されている一方が塩基性であるA-Bブロック型高分子;米国特許第4656226号明細書に開示されているAブロックに芳香族カルボン酸を導入したA-Bブロック型高分子;米国特許第4032698号明細書に開示されている片末端が塩基性官能基であるA-Bブロック型高分子;米国特許第4070388号明細書に開示されている片末端が酸性官能基であるA-Bブロック型高分子;特開平1-204914号公報に開示されている米国特許第4656226号明細書に記載のAブロックに芳香族カルボン酸を導入したA-Bブロック型高分子の耐候黄変性を改良したもの等を挙げることができる。
【0063】
上記直鎖状高分子顔料分散剤(3)は、顔料親和性基が1分子中に2~3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、5~1500個である。
【0064】
上記直鎖状高分子顔料分散剤(3)は、数平均分子量が1000~1000000であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となるおそれがある。より好ましくは、2000~500000である。
【0065】
本発明においては、顔料分散剤として櫛形構造高分子顔料分散剤(1)を用いるのが、塗料組成物から得られる塗膜の透明性などの点からより好ましい。
【0066】
上記顔料分散剤としては、種々のものが利用できるが、市販されているものを使用することもできる。市販品としては、例えば、以下のものを例示できる。
【0067】
Dispex Ultra FA4404、Dispex Ultra FA4416、Dispex Ultra FA4425、Dispex Ultra FA4431、Dispex Ultra FA4437、Dispex Ultra FA4480、Dispex Ultra FA4483、Dispex Ultra PA4550、Dispex Ultra PA4560、Dispex Ultra PX4575、Dispex Ultra PX4585(以上、BASF社製)。
TEGO Dispers 650、TEGO Dispers 651、TEGO Dispers 652、TEGO Dispers 655、TEGO Dispers 660C、TEGO Dispers 715W、TEGO Dispers 740W、TEGO Dispers 750W、TEGO Dispers 752W、TEGO Dispers 755W、TEGO Dispers 760W(以上、Evonik社製)。
Solsperse 12000S、Solsperse 20000、Solsperse 27000、Solsperse 40000、Solsperse 41090、Solsperse 43000、Solsperse 44000、Solsperse 45000、Solsperse 46000、Solsperse 47000、Solsperse 53095、Solsperse 64000、Solsperse 65000、Solsperse 66000、Solsperse 67000、Solsperse WV400(以上、Lubrizol社製)。
フローレンG-700AMP、フローレンG-700DMEA、フローレンGW-1500、フローレンGW-1640(以上、共栄社化学社製)。
ディスパロンDA-703-50、ディスパロンDA-7301、ディスパロンDN-900(以上、楠本化成社製)。
ANTI-TERRA-250、DISPERBYK、DISPERBYK-102、DISPERBYK-180、DISPERBYK-184、DISPERBYK-185、DISPERBYK-187、DISPERBYK-190、DISPERBYK-191、DISPERBYK-192、DISPERBYK-193、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-198、DISPERBYK-199、DISPERBYK-2010、DISPERBYK-2012、DISPERBYK-2013、DISPERBYK-2015、DISPERBYK-2096(以上、BYK社製)。
【0068】
上記の各顔料分散剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
着色顔料分散体(ii)は、着色顔料(D)および顔料分散剤を混合分散することによって調製することができる。上記着色顔料分散体(ii)中に含まれる顔料分散剤の量は、着色顔料100質量部に対して、顔料分散剤50~200質量部(固形分質量部)であるのが好ましく、65~150質量部(固形分質量部)であるのがより好ましい。顔料分散剤の量が上記範囲であることによって、着色顔料の良好な分散安定性、そして、得られる塗膜の良好な物性を得ることができる利点がある。特に上記顔料分散剤を上記範囲の量で用いることによって、着色顔料分散体の90%体積粒径を100nm以下に好適に調整することができる利点がある。
【0070】
顔料分散体(ii)の調製は、着色顔料(D)、顔料分散剤および水性媒体を混合することによって行うことができる。水性媒体として、水および必要に応じた有機溶媒(例えばアルコール系溶媒など)などが挙げられる。
【0071】
顔料分散体(ii)の調製における、着色顔料(D)、顔料分散剤および水性媒体の混合は、例えば媒体分散機などを用いて行うことができる。媒体分散機としては、特に限定されないが、例えば、ウルトラアペックスミル、デュアルアペックスミル(寿工業株式会社、商品名)、ペイントシェーカー、ピコグレンミル、エコミル(淺田鉄工株式会社、商品名)、スターミルZRS、スターミル、ナノゲッター、マックスナノゲッター(アシザワ・ファインテック株式会社、商品名)、マイクロメディア(ビューラー株式会社、商品名)、MSCミル(日本コークス工業株式会社、商品名)、NPM(株式会社シンマルエンタープライゼス)、サンドミルなどが挙げられる。
【0072】
媒体分散機を用いた混合分散において用いることができる分散媒体として、例えば粒子径が0.3mm以下、より好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは0.05mm以下である分散媒体を用いることができる。粒子径が0.05mm以下である分散媒体は、超微小媒体とも言われており、本発明における顔料分散体(ii)の調製において特に好適に用いることができる。なお、分散媒体の粒子径の下限は、混合分散の進行などの観点から、0.03mmであるのが好ましく、0.05mmであるのがより好ましい。
【0073】
媒体分散機を用いた混合分散において、分散機内の媒体充填量は、分散機容量に対して50体積%であるのが好ましく、60体積%以上であるのがより好ましく、70体積%以上であるのがさらに好ましい。
【0074】
分散媒体粒子の材質は、特に限定されないが、例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、スチール、ステンレス、陶磁器などが挙げられる。分散媒体粒子の材質はジルコニアであるのが、分散効率などの点から好ましい。
【0075】
媒体分散機のアジテーターの回転速度は、500rpm以上が好ましく、1000rpm以上がより好ましく、1500rpm以上がさらに好ましい。回転速度の上限は、5000rpm以下であるのが好ましい。
【0076】
媒体分散機は、必要に応じて、セパレーター部を有していてもよい。媒体分散機がセパレーター部を有することによって、分散媒体粒子を良好に分離することができる。セパレーター部は、例えば回転軸を有していてもよい。セパレーター部が回転軸を有することによって、回転(例えば遠心分離など)によって、分散媒体粒子を分離することができる。この場合、セパレーターの回転軸の回転速度は、内容物の粘度に応じて適宜選択することができる。回転速度として、例えば2000rpm以上であってよく、3000rpm以上であるのがより好ましく、4000rpm以上であるのがさらに好ましい。
【0077】
媒体分散機による混合分散時間は、スケールなどに依存して変化するものの、例えば、分散機内の滞留時間として30~200分であるのが好ましく、60~150分であるのがより好ましい。また混合分散温度は、例えば5~45℃の条件下で行うことができ、20~40℃の条件下であるのがより好ましい。
【0078】
着色顔料分散体(ii)の調製において、上記のような混合分散を行うことによって、着色顔料分散体(ii)中に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)を100nm以下に好適に調整することができる。
【0079】
水性塗料組成物の調製
本発明の水性塗料組成物は、平均粒子径が100nm以下であるアクリル樹脂エマルション(A)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として10~60質量%、水溶性アクリル樹脂(B)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として5~40質量%、および、メラミン樹脂(C)を、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分として20~40質量%含む塗膜形成樹脂(i)と、上記着色顔料分散体(ii)とを混合することによって、調製することができる。塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)の混合は、塗料分野において一般的に用いられる撹拌混合機(例えばディスパー、ディソルバーなど)を用いて行うことができる。撹拌時間は、混合スケールなどに依存して変化するものの、例えば0.1~10時間であるのが好ましく、0.5~5時間であるのがより好ましい。また撹拌温度は室温であってよく、例えば20~30℃の条件下で行うことができる。
【0080】
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、塗料分野において一般的に用いられる添加剤、例えば表面調整剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤など、を含んでもよい。
【0081】
本発明の水性塗料組成物はさらに、塗膜間のなじみ防止、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を含んでもよい。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを用いることができる。粘性制御剤として、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩などのポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体などのポリエチレン系などのもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイトなどの有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウムなどの無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料などを挙げることができる。
【0082】
本発明においては、上記塗膜形成樹脂(i)および着色顔料分散体(ii)からなる組成物であって、この組成物に含まれる着色顔料(D)の量が、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分100質量部に対して4質量%であるヘイズ測定用組成物の、膜厚25μmである硬化塗膜のヘイズ値が8以下であるのが好ましい。本明細書における「ヘイズ測定用組成物」とは、「着色顔料(D)の量が、塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分100質量部に対して4質量%である」というように、着色顔料(D)の量を特定した組成物であり、着色顔料(D)の量が一定量である組成物の硬化塗膜のヘイズ値を測定するための組成物である。組成物中に含まれる着色顔料(D)の量を特定値に設定することによって、塗膜形成樹脂(i)に含まれるアクリル樹脂エマルションの平均粒子径および着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)の影響を検討することができる。
【0083】
上記ヘイズ値は、ヘイズ測定用組成物を、ガラス板またはPETフィルム上に、6milアプリケーターを用いて塗装し、次いで硬化させて得られる、膜厚25μmである硬化塗膜のヘイズ値を測定することによって、測定することができる。
ヘイズ値は、硬化塗膜の全光線透過率(Tt)および散乱光線透過率(Td)を、市販のヘイズメーターを用いて測定し、下記式を用いて算出する。
ヘイズ値(Th)=散乱光線透過率(Td)/全光線透過率(Tt)×100
【0084】
複層塗膜
本発明は、複層塗膜および複層塗膜の形成方法も提供する。複層塗膜として、第1ベース塗膜および第2ベース塗膜を有する複層塗膜であって、第1ベース塗膜は、光輝性顔料および着色顔料からなる群から選択される少なくとも1種の顔料を含み、第2ベース塗膜は上記水性塗料組成物の硬化塗膜である、複層塗膜が挙げられる。
【0085】
複層塗膜の形成において用いられる被塗物としては、種々の基材、例えば金属成型品、プラスチック成型品、発泡体などに用いることができる。本発明の水性塗料組成物は、自動車車体、自動車部品などの、自動車外板塗装において好適に用いることができる。
【0086】
金属成型品として、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛など、およびこれらの金属を含む合金による板、成型物を挙げることができ、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体および部品を挙げることができる。
【0087】
上記金属成型品は、予めリン酸塩、ジルコニウム塩、クロム酸塩などで化成処理され、次いで電着塗膜が形成されていてもよい。電着塗膜の形成に用いることができる電着塗料組成物として、カチオン電着塗料組成物およびアニオン電着塗料組成物を挙げることができる。
【0088】
上記プラスチック成型品として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などの板および成型物などを挙げることができる。プラスチック成型品の具体例として、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブなどの自動車部品などを挙げることができる。これらのプラスチック成型品は、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0089】
上記被塗物上には更に必要に応じて、中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料組成物が用いられる。中塗り塗料組成物として、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機計および/または無機系の各種着色成分および体質顔料などを含む塗料組成物を用いることができる。塗膜形成性樹脂および硬化剤は、特に限定されるものではなく、具体的には、上記水性塗料組成物で挙げた塗膜形成性樹脂および硬化剤などを用いることができる。中塗り塗料組成物の塗膜形成樹脂として、得られる中塗り塗膜の諸性能などの観点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせが好適に用いられる。
【0090】
上記中塗り塗料に含まれる着色成分としては、例えば、カーボンブラックと二酸化チタンとを主とした着色成分(グレー系中塗り塗料組成物)、そして、上塗りベース塗膜の色相と類似する色相を呈する着色成分(いわゆるカラー中塗り塗料組成物)などが挙げられる。
【0091】
第1ベース塗膜の形成に用いられる第1ベース塗料組成物として、塗膜形成樹脂、そして、光輝性顔料および着色顔料からなる群から選択される少なくとも1種の顔料、を含む塗料組成物が挙げられる。塗膜形成樹脂として、上記水性塗料組成物において挙げた塗膜形成樹脂を用いることができる。着色顔料として、上記水性塗料組成物において挙げた着色顔料を用いることができる。
【0092】
光輝性顔料としては、形状は特に限定されず、また着色されていてもよいが、例えば、平均粒径(D50)が2~50μmであり、かつ厚さが0.1~5μmであるものが好ましい。また、平均粒径が10~35μmの範囲のものが光輝感に優れ、さらに好適に用いられる。具体的には、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムなどの金属または合金などの、無着色あるいは着色された金属製光輝顔料およびその混合物が挙げられる。光輝性顔料として、上記以外にも、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料などを用いることもできる。
【0093】
第1ベース塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられる体質顔料を、必要に応じて含んでもよい。
【0094】
第1ベース塗料組成物は、上記水性塗料組成物の調製手順および塗料分野において一般的に用いられる手法などにより調製することができる。
【0095】
第1ベース塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられている塗装方法により塗装することができる。このような塗装方法として、例えば、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージ塗装、または、エアー静電スプレー塗装と回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装などが挙げられる。第1ベース塗膜の膜厚は、3~20μmの範囲内であるのが好ましい。
【0096】
複層塗膜の形成において、第1ベース塗料組成物を塗装した後、硬化させることなく、第2ベース塗料組成物をウェット・オン・ウェット塗装することができる。ここで、第1ベース塗料組成物を塗装した後、第2ベース塗料組成物を塗装する前に、必要に応じて、乾燥またはプレヒートなどを行ってもよい。また、第1ベース塗料組成物を塗装した後、得られた塗膜を加熱硬化させ、その後、硬化した第1塗膜上に、第2ベース塗料組成物を塗装してもよい。
【0097】
ウェット・オン・ウェット塗装は、焼き付け乾燥炉を省略することができるため、経済性および環境負荷の観点における利点がある。
【0098】
複層塗膜の形成において、第2ベース塗料組成物として上記水性塗料組成物を用いることができる。上記水性塗料組成物を第2ベース塗料組成物として用いることによって、カラークリヤー塗膜といわれる第2ベース塗膜を形成することができる。
【0099】
第2ベース塗料組成物は、第1ベース塗料組成物と同様の方法によって塗装することができる。第2ベース塗膜の膜厚は、3~20μmの範囲内であるのが好ましい。
【0100】
上記複層塗膜の形成において、着色顔料および光輝性顔料を含む第1ベース塗料組成物を用いて第1ベース塗膜を形成し、次いで上記水性塗料組成物を第2ベース塗料組成物として用いてカラークリヤー塗膜を形成することによって、キャンディーカラー塗膜といわれる、高彩度、高明度および色の深み感に優れた、意匠性および誘目性の高い複層塗膜を得ることができる。
【0101】
第2塗料組成物の塗装により得られた未硬化の第2ベース塗膜を、加熱硬化させることによって、未硬化の塗膜を硬化させてもよい。または、未硬化の第2ベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜の上にクリヤー塗膜を形成してもよい。未硬化の第2ベース塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装する場合においては、必要に応じて、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、乾燥またはプレヒートなどを行ってもよい。
【0102】
クリヤー塗料組成物は、特に限定されず、溶剤型、水性型および粉体型のクリヤー塗料組成物を挙げることができる。
【0103】
上記溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などを挙げることができる。
【0104】
水性型クリヤー塗料組成物の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げた塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものが挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0105】
これらの溶剤型クリヤー塗料組成物そして水性型クリヤー塗料組成物は、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を含むのが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを用いることができる。粘性制御剤の例として、例えば、水性塗料組成物のところで挙げたものを用いることができる。併せて、塗料分野において一般的に用いられる添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0106】
粉体型クリヤー塗料組成物としては、例えば、熱可塑性粉体塗料組成物、熱硬化性粉体塗料組成物などの、塗料分野において一般的に用いられる粉体塗料組成物を用いることができる。これらの中でも、塗膜物性などの点から、熱硬化性粉体塗料組成物が好ましい。熱硬化性粉体塗料組成物の具体例として、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリヤー塗料組成物などが挙げられる。
【0107】
クリヤー塗料組成物の塗装は、クリヤー塗料組成物の塗装形態に従った、当業者に公知の塗装方法を用いて行うことができる。上記クリヤー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10~80μmが好ましく、20~60μmであることがより好ましい。
【0108】
クリヤー塗料組成物の塗装によって得られた未硬化のクリヤー塗膜を加熱硬化させることによって、硬化したクリヤー塗膜を形成することができる。クリヤー塗料組成物を、未硬化の第2ベース塗膜の上に塗装した場合は、加熱させることによって、これらの未硬化塗膜が加熱硬化することとなる。加熱硬化温度は、硬化性および得られる複層塗膜の物性の観点から、80~180℃に設定されていることが好ましく、120~160℃に設定されていることがさらに好ましい。加熱硬化時間は、上記温度に応じて任意に設定することができる。加熱硬化条件として、例えば、加熱硬化温度120℃~160℃で10分~30分間加熱する条件などが挙げられる。
【0109】
複層塗膜の形成において、第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、そして必要に応じたクリヤー塗膜の形成方法の具体例として、以下の方法が挙げられる。
(1)第1ベース塗料組成物を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜を形成し、次いで第2ベース塗料組成物を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜を形成し、次いでクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成し、得られた3層を一度に加熱硬化させる方法。
(2)第1ベース塗料組成物を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜を形成し、次いで第2ベース塗料組成物を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜を形成し、次いで、得られた2層を一度に加熱硬化させる方法。加熱硬化した後、必要に応じて、クリヤー塗膜を設けてもよい。
(3)第1ベース塗料組成物を塗装して、未硬化の第1ベース塗膜を形成し、次いでクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成し、得られた2層を一度に加熱硬化させた後、
第2ベース塗料組成物を塗装して、未硬化の第2ベース塗膜を形成し、次いでクリヤー塗料組成物を塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成し、得られた2層を一度に加熱硬化させる方法。
【実施例】
【0110】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0111】
製造例1 アクリル樹脂エマルション1の製造
反応容器に脱イオン水126.5部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、アクリル酸メチル27.61部、アクリル酸エチル53.04部、スチレン4.00部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル9.28部、メタクリル酸3.07部およびメタクリル酸アリル3.00部のモノマー混合物100部、アクアロンHS-10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)0.7部、アデカリアソープNE-20(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)0.5部、および脱イオン水80部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.3部、および脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水70部およびジメチルアミノエタノール0.32部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径88nm、不揮発分25%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gの単層のアクリル樹脂エマルション1を得た。
【0112】
比較製造例1 アクリル樹脂エマルション2の製造
製造例1において、アクアロンHS-10 0.7部を0.35部に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、平均粒子径312nm、不揮発分30%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gの単層のアクリル樹脂エマルション2を得た。
【0113】
比較製造例2 アクリル樹脂エマルション3の製造
製造例1において、アクアロンHS-10 0.7部を0.5部に変更したこと以外は製造例1と同様にして、平均粒子径138nm、不揮発分30%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gの単層のアクリル樹脂エマルション2を得た。
【0114】
上記アクリル樹脂エマルション1~3の平均粒子径は、LB-500(堀場製作所社製)を使用し、動的光散乱法により測定した。
具体的には、専用セルにイオン交換水を入れ、アクリル樹脂エマルションを添加してかき混ぜ、樹脂固形分濃度0.1質量%に調整して、動的光散乱式粒径測定装置LB-500(堀場製作所社製)によって、20℃で測定した。
【0115】
製造例2 水溶性アクリル樹脂の製造
反応容器にトリプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.6部およびメタクリル酸6.9部を含むモノマー混合物を作成し、そのモノマー混合物100部、トリプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液を3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0116】
さらに、トリプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびターシャルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0117】
脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、脱イオン水204部およびジメチルアミノエタノール7.1部を加えて水溶性アクリル樹脂溶液を得た。得られた水溶性アクリル樹脂溶液の不揮発分は30%であり、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g、粘度は140ポイズ(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
【0118】
製造例3 ポリエステル樹脂の製造
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器にジメチルテレフタル酸372部、ジメチルイソフタル酸380部、2-メチル-1,3-プロパンジオール576部、1,5-ペンタンジオール222部、テトラブチルチタネート0.41部を仕込み、160℃から230℃まで昇温しつつ4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下まで減圧して、260℃にて40分間重縮合反応を行った。窒素雰囲気下、220℃まで冷却し、無水トリメリット酸を23部投入し、220℃で30分間反応を行ってポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂は、NMRの組成分析の結果、カルボン酸成分がモル比でテレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸:48/49/3であり、ポリオール成分がモル比で2-メチル-1,3-プロパンジオール/1,5-ペンタンジオール:65/35であった。つまりポリカルボン酸成分、ポリオール成分のそれぞれの合計量を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸が97モル%、イソフタル酸が49モル%、所定のジオールの合計量が65モル%、エチレングリコールは0モル%であった。
【0119】
得られた樹脂について、以下の通り、特性値を測定した。
(1)数平均分子量:ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したところ、12000であった。
(2)酸価:試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した後、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定したところ、16.1mgKOH/gであった。
【0120】
このポリエステル樹脂100部に、ブチルセロソルブ40部、トリエチルアミン2.7部を投入した後、80℃で1時間攪拌を行って溶解させた。次いで、イオン交換水193部をゆるやかに添加し、不揮発分30%のポリエステル樹脂を含んだポリエステルの水分散体1を得た。平均粒子径を測定するために、専用セルにイオン交換水だけを入れ、この分散体を1滴添加しかき混ぜ、樹脂固形分濃度0.1質量%に調整して動的光散乱式粒径測定装置LB-500(堀場製作所社製)によって、20℃で測定したところ、35nmであった。
【0121】
製造例4 リン酸基含有アクリル樹脂の製造
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n-ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)20部を溶解した溶液40部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られた樹脂は、酸価105mgKOH/g、うちリン酸基による酸価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000のリン酸基含有アクリル樹脂ワニスであり、不揮発分が63%であった。
【0122】
実施例1
塗膜形成樹脂(i)の製造
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション1を160部、10質量%ジメチルアミノエタノール10部、製造例2の水溶性アクリル樹脂33部(樹脂固形分30%)、製造例3のポリエステル樹脂33部(樹脂固形分30%)、メラミン樹脂としてサイメル204(三井サイテック社製混合アルキル化型メラミン樹脂、固形分80%、水トレランス3.6ml)を38部、「プライムポールPX-1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール)10部を混合して均一分散することにより、塗膜形成樹脂(i)を得た。
【0123】
着色顔料分散体(ii)の製造
着色顔料(D)であるシアニンブルー(山陽色素社製:シアニンブルーG-314)15部、顔料分散剤であるDisperbyk 190 30部、イオン交換水54.5部、消泡剤であるBYK-011 0.5部をディスパーなどの撹拌機で混合したのち、体積充填率70%で0.05mmのジルコニアビーズを媒体として充填した分散機にて分散して、着色顔料分散体(ii)を得た。得られた着色顔料分散体(ii)中に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)は、98nmであった。
【0124】
着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)は、以下の手順で測定した。
ホウ酸塩PH標準液(PH=9.18/25℃)にて無限希釈し、動的光散乱にて、UPA-150(マイクロトラック社製粒度分布測定装置)を用いて、体積粒径(D90)を測定した。
【0125】
水性塗料組成物の製造
得られた塗膜形成樹脂(i)100部および着色顔料分散体(ii)10.16部を混合することにより、着色顔料(D)の量が塗膜形成樹脂(i)の樹脂固形分100質量部に対して4質量%である水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を製造した。
【0126】
実施例2
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 37.5部、イオン交換水 58.11部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0127】
実施例3
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 45部、イオン交換水 61.72部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0128】
実施例4
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 56.25部、イオン交換水 67.51部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0129】
実施例5
着色顔料分散体(ii)の製造において、着色顔料(D)を、シアニンブルー15部から、ペリレンレッド(PALIOGEN RED L-3875:BASF社製)15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0130】
実施例6
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 37.5部、イオン交換水 58.11部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0131】
実施例7
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 45部、イオン交換水 61.72部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0132】
実施例8
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 56.25部、イオン交換水 67.51部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0133】
実施例9
着色顔料分散体(ii)の製造において、着色顔料(D)を、シアニンブルー15部から、ジケトピロロピロールレッド(IRGAZIN RUBINE L 4052:BASF社製)15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0134】
実施例10
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 37.5部、イオン交換水 58.11部に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0135】
実施例11
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 56.25部、イオン交換水 67.51部に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0136】
実施例12
着色顔料分散体(ii)の製造において、着色顔料(D)を、シアニンブルー15部から、酸化鉄レッド(IPN-050H:戸田工業社製)15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0137】
比較例1
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 22.5部、イオン交換水 50.89部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0138】
比較例2
着色顔料分散体(ii)の製造において、顔料分散剤およびイオン交換水の量を、Disperbyk 190 18.75部、イオン交換水 49.08部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0139】
比較例3
着色顔料分散体(ii)の製造において、着色顔料(D)を、シアニンブルー15部から、ペリレンレッド(PALIOGEN RED L-3875:BASF社製)15部に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0140】
比較例4
着色顔料分散体(ii)の製造において、シアニンブルー15部から、ペリレンレッド(PALIOGEN RED L-3875:BASF社製)15部に変更したこと以外は、比較例2と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0141】
比較例5
塗膜形成樹脂(i)の製造において、アクリル樹脂エマルション1 160部の代わりに、アクリル樹脂エマルション2 160部を用いて、塗膜形成樹脂を調製したこと以外は、実施例2と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0142】
比較例6
塗膜形成樹脂(i)の製造において、アクリル樹脂エマルション1 160部の代わりに、アクリル樹脂エマルション2 160部を用いて、塗膜形成樹脂を調製したこと以外は、実施例6と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0143】
比較例7
塗膜形成樹脂(i)の製造において、アクリル樹脂エマルション1 160部の代わりに、アクリル樹脂エマルション3 160部を用いて、塗膜形成樹脂を調製したこと以外は、実施例2と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0144】
比較例8
塗膜形成樹脂(i)の製造において、アクリル樹脂エマルション1 160部の代わりに、アクリル樹脂エマルション3 160部を用いて、塗膜形成樹脂を調製したこと以外は、実施例6と同様にして、水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を調製した。
【0145】
上記実施例および比較例で得られた水性塗料組成物(ヘイズ測定用組成物)を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0146】
ヘイズ測定用組成物の硬化塗膜のヘイズ値測定
ヘイズ測定用組成物を、ガラス板またはPETフィルム上に、6milアプリケーターを用いて塗装し、次いで硬化させて、膜厚25μmである硬化塗膜を形成した。
得られた硬化塗膜の全光線透過率(Tt)および散乱光線透過率(Td)を、NDH-2000(日本電色工業社製ヘーズメーター)を用いて測定した。下記式を用いてヘイズ値を算出した。
ヘイズ値(Th)=散乱光線透過率(Td)/全光線透過率(Tt)×100
【0147】
塗膜透明性評価
上記より得られた、ヘイズ測定用組成物の硬化塗膜を、下記基準により目視評価した。
○:濁りなし
△:わずかに濁りあり
×:濁りあり
【0148】
シェード明度(第1ベース塗膜が黒色)の測定
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU-50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に、予め希釈されたグレー中塗り塗料「オルガOP-30」(日本ペイント社製ポリエステル・メラミン系塗料)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間、焼き付けた。
【0149】
冷却後、水性ベース塗料組成物(アクアレックスAR-3000(黒色)(商品名)、着色顔料として黒色顔料を含む水性塗料組成物、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、脱イオン交換水を用いて6000mPa・s(B型粘度計を使用し、6rpmの条件にて、20℃で測定)に希釈した。室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるように「カートリッジベル」で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分30秒間のインターバルセッティングを行った。2回目の塗布後、1分30秒間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行い、未硬化の第1ベース塗膜を形成した。
【0150】
得られた未硬化の第1ベース塗膜の上に、実施例および比較例で得られた水性塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるように「カートリッジベル」で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分30秒間のインターバルセッティングを行った。2回目の塗布後、1分30秒間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行い、未硬化の第2ベース塗膜を形成した。
【0151】
次いで、得られた塗装板を室温まで放冷し、クリヤー塗料組成物としてマックフロー-O-1820(日本ペイント社製溶剤型クリヤー塗料組成物)、乾燥膜厚35μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした。次いで、塗装板を乾燥機で140℃、30分間焼き付けを行うことにより、複層塗膜を得た。
【0152】
シェード明度の測定
得られた複層塗膜に対して、垂直位置から45度における角度から光源を照射し、その位置から110°の角度で受光したL*値を、X-Rite社製多角度分光光度計「MA-68 II」を用いて測定した。こうして得られた測定値の平均値を算出することにより、受光角110度における明度(L*)を求めた。下記表中において「110L」として示す。なおこの受光角110度の位置がシェード位置に相当する。
【0153】
上記L*は、L*C*h表色系におけるパラメータであり、JIS Z8729に準拠して求めることができる。このL*C*h表色系は、国際照明委員会により定められた表色系であり、Section 4.2 of CIE Publication 15.2(1986)に記載されている。L*C*h表色系において、L*は明度を表し、C*は彩度を表し、hは色相角度を表す。明度L*は、その数値が増加するにしたがい被測定物質の白色度が増し、その数値が小さくなるにしたがい黒色度が増すことを意味する。
【0154】
フリップフロップ(FF)性(第1ベース塗膜がシルバー塗膜)の測定
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU-50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に、予め希釈されたグレー中塗り塗料「オルガOP-30」(日本ペイント社製ポリエステル・メラミン系塗料)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間、焼き付けた。
【0155】
冷却後、水性メタリックベース塗料組成物(アクアレックスAR-3000(シルバー色)(商品名)、光輝性顔料を含む水性塗料組成物、日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、脱イオン交換水を用いて6000mPa・s(B型粘度計を使用し、6rpmの条件にて、20℃で測定)に希釈した。室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるように「カートリッジベル」で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分30秒間のインターバルセッティングを行った。2回目の塗布後、1分30秒間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行い、未硬化の第1ベース塗膜を形成した。
【0156】
得られた未硬化の第1ベース塗膜の上に、実施例および比較例で得られた水性塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるように「カートリッジベル」で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分30秒間のインターバルセッティングを行った。2回目の塗布後、1分30秒間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行い、未硬化の第2ベース塗膜を形成した。
【0157】
次いで、得られた塗装板を室温まで放冷し、クリヤー塗料組成物としてマックフロー-O-1820(日本ペイント社製溶剤型クリヤー塗料組成物)、乾燥膜厚35μmとなるように1ステージ塗装し、7分間セッティングした。次いで、塗装板を乾燥機で140℃、30分間焼き付けを行うことにより、複層塗膜を得た。
【0158】
フリップフロップ(FF)性
得られた複層塗膜に対して、垂直位置から45度における角度から光源を照射し、光源照射位置から25度の角度で受光したL*値(L25)を、上記と同様に測定した。同様にして、光源照射位置から75度の角度で受光したL*値(L75)を測定した。
得られた測定値を用いて、L25/L75を算出し、フリップフロップ性評価を行った。この数値(L25/L75)が高いほど、フリップフロップ性が強いことを示す。
【0159】
【0160】
上記実施例で得られたヘイズ測定用組成物は、全てヘイズ値が8以下であり、透明性が高いことが確認された。そして、得られた塗膜の透明性も高いものであった。さらに、シェード明度が低く、そしてFF性が高いことが確認された。
比較例1~4は、いずれも、着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)が100nmを超える例である。これらの場合はいずれも、組成物のヘイズ値が高く、組成物の濁度が高いことが確認された。また、得られた塗膜の透明性も低いことが確認された。さらに、シェード明度が高く、そしてFF性が低いことが確認された。
比較例5~8は、いずれも、塗膜形成樹脂(i)に含まれるアクリル樹脂エマルションの平均粒子径(D50)が100nmを超える例である。これらの場合はいずれも、組成物のヘイズ値が高く、組成物の濁度が高いことが確認された。また、得られた塗膜の透明性も低いことが確認された。さらに、シェード明度が高く、そしてFF性が低いことが確認された。
【0161】
図1は、実施例6で調製した着色顔料分散体(ii)の透過型電子顕微鏡写真である。また、
図2は、比較例4で調製した着色顔料分散体(ii)の透過型電子顕微鏡写真である。これらの透過型電子顕微鏡写真は、着色顔料分散体(ii)を、超純水を用いて約300倍に希釈した後、希釈物を、支持膜付きの銅製メッシュ上に2~3滴滴下し、常温で乾燥した後、透過型電子顕微鏡TEM JEM-2000(日本電子社製)を用いて観察および撮影した。
図1に示される通り、実施例6で調製した着色顔料分散体(ii)においては、着色顔料凝集はほとんど生じていない。これに対して、
図2に示される通り、比較例4で調製した着色顔料分散体(ii)においては、着色顔料の凝集物が存在することが分かる。この顔料凝集により、着色顔料分散体(ii)に含まれる着色顔料(D)の90%体積粒径(D90)が100nmを超えてしまい、これにより水性塗料組成物のヘイズ値が上記の通り上昇していうこととなり、塗膜の透明性も低くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の水性塗料組成物を用いることによって、彩度と明度が高く、かつ、色に深み感がある高意匠の複層塗膜を形成することができる。本発明の水性塗料組成物は、自動車外板などに高意匠塗膜を形成する場合において、好適に用いることができる。