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特許7360498オープン外部単位とクローズド外部単位とを有するビスホスファイトの混合物、およびヒドロホルミル化における触媒混合物としてのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】オープン外部単位とクローズド外部単位とを有するビスホスファイトの混合物、およびヒドロホルミル化における触媒混合物としてのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6574 20060101AFI20231004BHJP
   C07C 45/50 20060101ALI20231004BHJP
   C07C 47/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C07F9/6574 Z CSP
C07C45/50
C07C47/02
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022063710
(22)【出願日】2022-04-07
(65)【公開番号】P2022164595
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】21168814.8
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンナ キアラ サレー
(72)【発明者】
【氏名】ロバート フランケ
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー ブレヒャー
(72)【発明者】
【氏名】ディルク フリダッグ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス クノサラ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クマイヤーチク
(72)【発明者】
【氏名】アナ マルコビッチ
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-116587(JP,A)
【文献】特表2010-522187(JP,A)
【文献】特開平08-165266(JP,A)
【文献】特表2016-500676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0185685(US,A1)
【文献】Organometallics,1996年,15(2),p.835-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/145
C07C 47/02
C07C 45/50
C07F 9/6574
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(1A):
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記化合物(1A)の含有量は、99.5質量%~0.5質量%の範囲であり、前記化合物(1B)の含有量は、0.5質量%~99.5質量%の範囲である、請求項1記載の混合物。
【請求項3】
前記化合物(1A)の含有量は、75質量%~25質量%の範囲であり、前記化合物(1B)の含有量は、25質量%~75質量%の範囲である、請求項1または請求項2記載の混合物。
【請求項4】
質量%換算の前記化合物(1A)の含有量が、前記化合物(1B)の含有量よりも多い、請求項1または請求項2記載の混合物。
【請求項5】
ヒドロホルミル化反応の触媒作用のための請求項1または請求項2記載の混合物の使用。
【請求項6】
a)最初にオレフィンを投入し、
b)請求項1または請求項2記載の混合物と、Rh、Ru、Co、及びIrから選択される金属からなる物質と、を加え、
c)HとCOを投入し、
d)前記工程a)~前記工程c)からの反応混合物を加熱し、前記オレフィンをアルデヒドに転化する工程
を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープン外部単位とクローズド外部単位とを有するビスホスファイトの混合物、およびヒドロホルミル化における触媒混合物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒存在下で、オレフィン化合物、一酸化炭素、および水素を反応させ、1個以上の炭素原子を有するアルデヒドを得る反応は、ヒドロホルミル化またはオキソプロセスとして知られている。これらの反応では、元素周期表の第VIII族の遷移金属の化合物が触媒として使用されることが多い。既知のリガンドの例は、ホスフィン、ホスファイト、およびホスホナイト群の化合物であり、それぞれが3価のリンPIIIを含んでいる。オレフィンのヒドロホルミル化の最新技術の概要は、非特許文献1から知ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】R.フランケ、D.ゼレント、A.ベルナー、「Applied Hydroformylation」、Chem.Rev.、2012年、DOI:10.1021/cr3001803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする技術的課題は、オレフィンのヒドロホルミル化において、良好なn/iso選択性を示し、かつ良好な収率を提供するリガンド混合物を提供することである。
【0005】
この課題は、請求項1記載の混合によって解決される。
化合物(1A):
【0006】
【化1】
【0007】
および化合物(1B):
【0008】
【化2】
【0009】
からなる混合物。
【0010】
一実施形態では、化合物(1A)の含有量は、99.5質量%~0.5質量%の範囲であり、化合物(1B)の含有量は、0.5質量%~99.5質量%の範囲である。
【0011】
一実施形態では、化合物(1A)の含有量は、75質量%~25質量%の範囲であり、化合物(1B)の含有量は、25質量%~75質量%の範囲である。
【0012】
一実施形態では、質量%換算の化合物(1A)の含有量は、化合物(1B)の含有量よりも多い。
【0013】
混合物それ自体と同様に、ヒドロホルミル化反応の触媒作用のためのその使用も特許請求されている。
ヒドロホルミル化反応の触媒作用のための上記の混合物の使用。
【0014】
上記の混合物がリガンド混合物として使用される方法も主張請求されている。
【0015】
a)最初にオレフィンを投入し、
b)上記の混合物と、Rh、Ru、Co、Irから選択される金属からなる物質と、を加え、
c)HとCOを投入し、
d)工程a)~工程c)からの反応混合物を加熱し、オレフィンをアルデヒドに転化する工程
を有する方法。
【0016】
好ましい実施形態では、金属はRhである。
【0017】
方法の変形例では、工程b)の物質は、Rh(acac)(CO)、[(acac)Rh(COD)](Umicore、acac=アセチルアセトナートアニオン;COD=1,5-シクロオクタジエン)、RhCO12から選択される。
【0018】
リガンドは、過剰で使用することもできる。各リガンドがリガンド-金属錯体として結合した形で自然に存在することはない。代わりに、遊離リガンドとして反応混合物中に存在する場合がある。
【0019】
反応は、通常の条件下で行われる。
【0020】
温度:80℃~160℃かつ圧力:10~60バールが好ましい。温度:100℃~140℃かつ圧力:20~50バールが特に好ましい。
【0021】
本発明の方法におけるヒドロホルミル化用反応物は、オレフィンまたはオレフィン混合物であり、特に、2~24個、好ましくは3~16個、より好ましくは3~12個の炭素原子を有し、かつ末端または内部C-C二重結合を有するモノオレフィンであり、例えば、1-プロペン、1-ブテン、2-ブテン、1-または2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-、2-または3-ヘキセン、プロペンの二量化で生じるCオレフィン混合物(ジプロペン)、ヘプテン、2-または3-メチル-1-ヘキセン、オクテン、2-メチルヘプテン、3-メチルヘプテン、5-メチル-2-ヘプテン、6-メチル-2-ヘプテン、2-エチル-1-ヘキセン、ブテンの二量化で生じるCオレフィン混合物(ジ-n-ブテン、ジイソブテン)、ノネン、2-または3-メチルオクテン、プロペンの三量化で生じるCオレフィン混合物(トリプロペン)、デセン、2-エチル-1-オクテン、ドデセン、プロペンの四量化またはブテンの三量化で生じるC12オレフィン混合物(テトラプロペンまたはトリブテン)、テトラデセン、ヘキサデセン、ブテンの四量化で生じるC16オレフィン混合物(テトラブテン)、およびオレフィンのコオリゴマー化によって生成されるさまざまな数(好ましくは2~4個)の炭素原子を有するオレフィン混合物である。
【0022】
本発明のリガンドを使用する本発明の方法は、α-オレフィン、末端分岐、内部および内部分岐オレフィンのヒドロホルミル化に使用することができる。
【0023】
本発明は、以下、実施例によって詳細に説明される。
【実施例
【0024】
操作手順
一般的分析
以下の調製はすべて、標準的なシュレンク技術を用いて不活性ガス下で行った。溶媒は、使用前に適切な乾燥剤を用いて乾燥させた。
生成物をNMR法で特徴づけた。化学シフト(δ)はppmで報告する。31P NMRシグナルは以下のように表す:SR31P=SRH*(BF31P/BFH)=SRH*0.4048。
【0025】
合成手順
前駆体(3A)および前駆体(3B):
【0026】
【化3】
【0027】
500Lシュレンクフラスコに3,3’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジヒドロキシ-5,5’-ジメトキシビフェニル10.7g(0.03モル)を最初に投入し、攪拌しながらトルエン125mLと混合した。懸濁液を生成した。グローブボックス内で、クロロホスファイト10gを250mLシュレンクフラスコに量り入れ、排気した。同様に、クロロホスファイトを撹拌しながらトルエン125mLに溶解し、EtN(0.035mol)と混合した。続いて、3,3’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジヒドロキシ-5,5’-ジメトキシビフェニル懸濁液に、調製したクロロホスファイト-塩基-トルエン溶液を、室温で激しく撹拌しながら1時間かけて滴下した。続いて、この反応混合物を24時間撹拌した。次に、塩酸塩をフリットを用いて濾別し、オイルポンプ真空を使用して濾液を濃縮乾固させた。次に、固体をグローブボックスに導入した。
総収率:92%。異性体A:64.3質量%、異性体B:35.7質量%。
前駆体(4A)および前駆体(4B):
【0028】
【化4】
【0029】
先に入手した(3A)および(3B)の異性体混合物19g(0.027モル)を、グローブボックス内のパージ済み250mLシュレンクフラスコに量り入れた。グローブボックスから取り出した後、アルゴンでパージしたシリンジを用いて、乾燥トルエン160mLと、脱気トリエチルアミン12mL=8.8g(0.086モル)とを撹拌しながらこの固体に添加した。別の500mLシュレンクフラスコに、乾燥トルエン100mLを最初に投入し、その後、アルゴンでパージしたシリンジを用いて三塩化リン7.7mL=12 g(0.086モル)を攪拌しながら添加した。続いて、激しく攪拌しながら、先に調製した亜リン酸塩/アミン/トルエン溶液を、室温で25分かけて三塩化リン/トルエン溶液に滴下した。添加が完了したら、反応混合物を60℃に加熱し、この温度で一晩撹拌した。室温に冷却した後、得られたアミン塩酸塩をフリットで濾別した。オイルポンプ真空を使用して濾液を55℃で濃縮乾固し、得られた固体をさらに一晩乾燥させた。
総収率:90%。異性体A:64.7質量%、異性体B:35.3質量%。
(1A)および(1B)の混合物:
【0030】
【化5】
【0031】
グローブボックス内で、先に入手した(4A)および(4B)のジオルガノホスファイトジクロロホスファイト混合物8g(0.01モル)を、パージ済み250mLシュレンクフラスコに量り入れ、排気し、乾燥トルエン75mLに溶解した。別のパージ済み250mLシュレンクフラスコに、フェノール1.9g(0.02モル)を量り取り、オイルポンプ真空を使用して室温で一晩さらに乾燥させた。翌朝、乾燥トルエン50mLと、脱気トリエチルアミン6mL=4.4g(0.044モル)とを撹拌しながら加え、この固体を撹拌しながら溶解した。次に、先に調製したクロロホスファイト溶液を、フェノール-トリエチルアミン溶液に一度に加えた。次に、反応混合物を直ちに80℃に加熱し、この反応温度で一晩撹拌した。室温に冷却した後、フリットを用いて得られたアミン塩酸塩を室温で濾別した。アミン塩酸塩をより良好に濾過するために、まず攪拌機のスイッチを切り、反応混合物を1.5時間放置した。得られた濾液を濃縮乾固し、オイルポンプ真空を使用して週末にかけて室温でさらに乾燥させた。得られた固体を脱気ヘプタン100mLと攪拌しながら混合し、70℃に加熱した。この混合物を70℃で1.5時間撹拌し、撹拌しながら室温に戻した。濁った溶液をフリットで濾過した。透明な濾液を濃縮乾固させた。
【0032】
精製
塩素を還元するために、生成物を乾燥トルエン約20mLに溶解した。続いて、この物質を、アルゴン雰囲気下、シリカゲルを充填したフリットを用いて濾過した。まず、乾燥トルエンを用いて600mLビーカー内でシリカゲルをスラリー化し、フリットに移した。移動相として乾燥トルエンを使用した。この操作のための移動相として、乾燥トルエン約500mLを使用した。次に、得られた濾液を濃縮乾固させた。
塩素の測定:20ppm未満
総収率:35%。異性体A:54.3質量%、異性体B:45.7質量%。
(2A)および(2B)の混合物(比較混合物):
【0033】
【化6】
【0034】
合成および精製は、2,4-ジメチルフェノール2.45g(0.02モル)を秤量したことを除いて、(1A)および(1B)と同様に実施した。
総収率:26%。異性体A:59.3質量%、異性体B:40.7質量%。
【0035】
触媒実験
定圧装置、ガス流量計およびスパージングスターラーを備えた、HEL Group社英(英国 ハートフォードシャー)の16mLオートクレーブ内でヒドロホルミル化を行った。基質として使用するn-オクテン(Oxeno GmbH社、1-オクテンのオクテン異性体の混合物(3%)、シス+トランス-2-オクテン(49%)、シス+トランス-3-オクテン(29%)、シス+トランス-4-オクテン(16%)、構造異性体オクテン(3%))を、ナトリウムを用いて還流下で数時間加熱し、アルゴン下で蒸留した。
【0036】
実験用の反応溶液を、アルゴン雰囲気下で事前に調製した。この目的のために、Rh(acac)(CO)0.0021gと、対応する量のホスファイト化合物とを秤量し、トルエン8mLと混合した。いずれの場合も、導入したトルエンの質量をGC分析のために測定した。次に、n-オクテン1.80g(16ミリモル)を加えた。次に、調製溶液をオートクレーブに導入し、オートクレーブをアルゴンで3回、合成ガスで3回パージした(Linde社、H(99.999%):CO(99.997%)=1:1)。次に、オートクレーブを、撹拌しながら(900rpm)10バールの全体的な圧力で所望温度に加熱した。反応温度に達したら、合成ガスの圧力を20バールに上げ、反応を定圧で4時間行った。反応時間が経過したら、オートクレーブを室温に冷却し、撹拌しながら減圧し、アルゴンでパージした。反応終了後に各反応混合物0.5mLを取り出し、ペンタン4mLで希釈し、ガスクロマトグラフィーで分析した:HP5890シリーズIIプラス、PONA、50m×0.2mm×0.5μm。内部標準としての溶媒トルエンに対し、残留オレフィンとアルデヒドを定量的に測定した。
【0037】
触媒実験の結果
[Rh]:120ppm、L:Rh=1:2、圧力(p):20バール、温度(T):120℃、時間(t):4時間
【0038】
【表1】
【0039】
選択性の定義
ヒドロホルミル化において、n/iso選択性は、分岐鎖アルデヒド(=iso)に対する直鎖アルデヒド(=n)の比率である。n-アルデヒドの選択性は、この量の直鎖生成物が生成されたことを示す。そして、残りのパーセンテージは、分岐鎖異性体に対応する。したがって、50%の位置選択性では、n-アルデヒドとiso-アルデヒドが同じ比率で生成されている。
【0040】
本発明に係る(1A)および(1B)の混合物は、(2A)および(2B)の比較混合物と比較して、選択性と収率が向上している。
【0041】
実施した試験により、解決すべき問題が本発明に係る混合物によって解決されることが実証されている。