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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-03
(45)【発行日】2023-10-12
(54)【発明の名称】電子機器及びベーパーチャンバ
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/427 20060101AFI20231004BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20231004BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20231004BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01L23/46 B
F28D15/02 L
F28D15/02 101H
F28D15/04 H
F28D15/04 J
H05K7/20 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022131871
(22)【出願日】2022-08-22
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸山 水季
(72)【発明者】
【氏名】大山 敦史
(72)【発明者】
【氏名】陸 謙逸
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06899165(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D15/00 -15/06
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器であって、
筐体と、
前記筐体内に設けられた発熱体と、
前記筐体内に設けられ、前記発熱体が発生する熱を吸熱するベーパーチャンバと、
を備え、
前記ベーパーチャンバは、
第1金属プレートと、
前記第1金属プレートと接合され、前記第1金属プレートとの間に作動流体が封入される密閉空間を形成する第2金属プレートと、
前記密閉空間に収容されるウィックと、
を有し、
前記ウィックは、
前記第1金属プレートの内面と接続されると共に、前記ベーパーチャンバの厚み方向で前記発熱体とオーバーラップする位置に配置され、焼結金属によって形成された焼結金属ウィックと、
前記焼結金属ウィックと接続されると共に、前記焼結金属ウィックの外周縁部を囲むように配置され、細線によって形成されたメッシュウィックと、
を有し、
前記焼結金属ウィックの外周縁部には、フランジ状に形成された段差部が設けられ、
前記メッシュウィックは、前記焼結金属ウィックを囲む部分に薄肉部を有し、該薄肉部が前記段差部に接続されている
ことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
請求項1に記載の電子機器であって、
前記密閉空間内での占有容積は、前記焼結金属ウィックよりも前記メッシュウィックが大きい
ことを特徴とする電子機器。
【請求項3】
ベーパーチャンバであって、
第1金属プレートと、
前記第1金属プレートと接合され、前記第1金属プレートとの間に作動流体が封入される密閉空間を形成する第2金属プレートと、
前記密閉空間に収容されるウィックと、
を有し、
前記ウィックは、
前記第1金属プレートの内面と接続され、焼結金属によって形成された焼結金属ウィックと、
前記焼結金属ウィックと接続されると共に、前記焼結金属ウィックの外周縁部を囲むように配置され、細線によって形成されたメッシュウィックと、
を有し、
前記焼結金属ウィックの外周縁部には、フランジ状に形成された段差部が設けられ、
前記メッシュウィックは、前記焼結金属ウィックを囲む部分に薄肉部を有し、該薄肉部が前記段差部に接続されている
ことを特徴とするベーパーチャンバ。
【請求項4】
請求項に記載のベーパーチャンバであって、
前記密閉空間内での占有容積は、前記焼結金属ウィックよりも前記メッシュウィックが大きい
ことを特徴とするベーパーチャンバ。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のベーパーチャンバであって、
前記メッシュウィックは、
第1メッシュ部材と、
前記第1メッシュ部材と積層された第2メッシュ部材と、
を有し、
前記薄肉部は、前記第1メッシュ部材及び前記第2メッシュ部材のうちの一方のみで形成されている
ことを特徴とするベーパーチャンバ。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のベーパーチャンバであって、
前記メッシュウィックは、経線と緯線とを織り込んで形成され、
前記薄肉部は、前記経線及び前記緯線のうちの一方を除去して形成されている
ことを特徴とするベーパーチャンバ。
【請求項7】
請求項3又は4に記載のベーパーチャンバであって、
前記焼結金属ウィックは、前記外周縁部に沿って並ぶように複数設けられ、前記段差部に形成された切欠状の凹部を有し、
各凹部には、前記メッシュウィックが挿入されている
ことを特徴とするベーパーチャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器及びベーパーチャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型PCのような電子機器は、CPU(Central Processing Unit)等の発熱体を搭載している。このような電子機器は、筐体内に冷却モジュールを搭載し、発熱体が発生する熱を吸熱し、外部に放熱する。
【0003】
特許文献1には、発熱体に対してベーパーチャンバを接続した構成が開示されている。ベーパーチャンバは、2枚の金属プレートで形成した密閉空間にウィックを収容し、作動流体が相変化しながら移動することで高効率な熱輸送を可能としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-059833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電子機器は、筐体の薄型化に対する要望が強く、その内部に搭載されるベーパーチャンバについても薄型化する必要がある。薄型のベーパーチャンバは、通常、ウィックとしてメッシュウィックを使用している。メッシュウィックは、他の種類のウィックに比べて空孔率が高く、狭い密閉空間内でも気相の作動流体の拡散を妨げないためである。
【0006】
ところが、メッシュウィックは、ベーパーチャンバを構成する金属プレートに熱的に接続することが難しく、作動流体の沸騰促進効果がパウダーウィック等の他の種類のウィックより低い。このため、薄型のベーパーチャンバは、熱性能が低いという問題があり、その向上が望まれている。勿論、ある程度の厚みを持ったベーパーチャンバであっても、熱性能の向上は必須である。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、熱性能を向上することができる電子機器及びベーパーチャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様に係る電子機器は、筐体と、前記筐体内に設けられた発熱体と、前記筐体内に設けられ、前記発熱体が発生する熱を吸熱するベーパーチャンバと、を備え、前記ベーパーチャンバは、第1金属プレートと、前記第1金属プレートと接合され、前記第1金属プレートとの間に作動流体が封入される密閉空間を形成する第2金属プレートと、前記密閉空間に収容されるウィックと、を有し、前記ウィックは、前記第1金属プレートの内面と接続されると共に、前記ベーパーチャンバの厚み方向で前記発熱体とオーバーラップする位置に配置され、焼結金属によって形成された焼結金属ウィックと、前記焼結金属ウィックと接続されると共に、前記焼結金属ウィックの外周縁部を囲むように配置され、細線によって形成されたメッシュウィックと、を有する。
【0009】
本発明の第2態様に係るベーパーチャンバは、第1金属プレートと、前記第1金属プレートと接合され、前記第1金属プレートとの間に作動流体が封入される密閉空間を形成する第2金属プレートと、前記密閉空間に収容されるウィックと、を有し、前記ウィックは、前記第1金属プレートの内面と接続され、焼結金属によって形成された焼結金属ウィックと、前記焼結金属ウィックと接続されると共に、前記焼結金属ウィックの外周縁部を囲むように配置され、細線によって形成されたメッシュウィックと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、熱性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る電子機器を上から見下ろした模式的な平面図である。
図2図2は、筐体の内部構造を模式的に示す平面図である。
図3図3は、ベーパーチャンバの模式的な側面断面図である。
図4図4は、第1変形例に係るウィックを備えるベーパーチャンバの模式的な側面断面図である。
図5A図5Aは、第2変形例に係るウィックの一部を拡大した模式的な側面断面図である。
図5B図5Bは、図5Aに示すウィックの模式的な平面図である。
図6A図6Aは、第3変形例に係るウィックの一部を拡大した模式的な側面断面図である。
図6B図6Bは、図6Aに示すウィックの模式的な平面図である。
図7図7は、第4変形例に係るウィックを備えるベーパーチャンバの模式的な側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る電子機器及びベーパーチャンバについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る電子機器10を上から見下ろした模式的な平面図である。図1に示すように、電子機器10は、ディスプレイ筐体12と筐体14とをヒンジ16で相対的に回動可能に連結したクラムシェル型のノート型PCである。本発明に係る電子機器は、ノート型PC以外、例えばデスクトップ型PC、タブレット型PC、スマートフォン、又はゲーム機等でもよい。
【0014】
ディスプレイ筐体12は、薄い扁平な箱体である。ディスプレイ筐体12には、ディスプレイ18が搭載されている。ディスプレイ18は、例えば有機ELや液晶で構成される。
【0015】
以下、筐体14及びこれに搭載された各要素について、筐体12,14間を図1に示すように開いてキーボード20を操作する姿勢を基準として、左右の幅方向をX方向、前後の奥行方向をY方向、筐体14の厚み方向である高さ方向をZ方向、と呼んで説明する。
【0016】
筐体14は、薄い扁平な箱体である。筐体14は、上面及び四周側面を形成するカバー部材14Aと、下面を形成するカバー部材14Bとで構成されている。上側のカバー部材14Aは、下面が開口した略バスタブ形状を有する。下側のカバー部材14Bは、略平板形状を有し、カバー部材14Aの下面開口を閉じる蓋体となる。カバー部材14A,14Bは、厚み方向に重ね合わされて互いに着脱可能に連結される。筐体14の上面には、キーボード20及びタッチパッド21が設けられている。筐体14は、後端部がヒンジ16を用いてディスプレイ筐体12と連結されている。
【0017】
図2は、筐体14の内部構造を模式的に示す平面図であり、筐体14をキーボード20の少し下で切断した模式的な平面断面図である。
【0018】
図2に示すように、筐体14の内部には、冷却モジュール22と、マザーボード24と、バッテリ装置26とが設けられている。筐体14の内部には、さらに各種の電子部品や機械部品等が設けられる。
【0019】
マザーボード24は、電子機器10のメインボードである。マザーボード24は、筐体14の後方寄りに配置され、左右方向に沿って延在している。マザーボード24は、CPU30及びGPU31の他、パワーコンポーネント、通信モジュール、メモリ、及び接続端子等の各種電子部品が実装されたプリント基板である。マザーボード24は、キーボード20の下に配置され、キーボード20の裏面やカバー部材14Aの内面にねじ止めされている。本実施形態の場合、マザーボード24は、上面がカバー部材14Aに対する取付面となり、下面がCPU30等の実装面24aとなる(図3参照)。CPU30は、電子機器10の主たる制御や処理に関する演算を行う。GPU31は、3Dグラフィックス等の画像描写に必要な演算を行う。
【0020】
バッテリ装置26は、電子機器10の電源となる充電池である。バッテリ装置26は、マザーボード24の前方に配置され、筐体14の前端部に沿って左右に延在している。
【0021】
次に、冷却モジュール22の構成を説明する。
【0022】
CPU30及びGPU31は、筐体14内に搭載された電子部品中で最大級の発熱量の発熱体である。そこで、冷却モジュール22は、CPU30及びGPU31が発生する熱を吸熱及び拡散し、さらに筐体14外へと排出する。冷却モジュール22は、例えばマザーボード24の実装面24aの一部を覆うように積層される。冷却モジュール22の冷却対象は、CPU30及びGPU31の一方のみでもよいし、他の半導体チップ等でもよい。
【0023】
図2に示すように、冷却モジュール22は、ベーパーチャンバ36と、ヒートパイプ38と、左右一対のヒートシンク40,41と、左右一対のファン42,43と、を備える。
【0024】
ヒートパイプ38は、CPU30及びGPU31とZ方向にオーバーラップする位置でベーパーチャンバ36の第1面36aに接続されている。本実施形態では、2本のヒートパイプ38a,38bをY方向に2本1組で並列し、これらの両端部を左右のヒートシンク40,41に接続した構成を例示している。ヒートパイプ38は、1本や3本以上で用いてもよい。ヒートパイプ38a,38bは、金属パイプを薄く扁平に潰して断面楕円形状に形成し、金属パイプ内に形成された密閉空間に作動流体を封入した公知の構成である。
【0025】
ヒートシンク40,41は、複数のプレート状のフィンを左右方向に等間隔に並べた構造である。各フィンは、上下方向に起立し、前後方向に延在している。隣接するフィンの間には、ファン42,43から送られた空気が通過する隙間が形成されている。ヒートシンク40は、アルミニウムや銅のような高い熱伝導率を有する金属で形成されている。
【0026】
ファン42は、ヒートシンク40の直前に配置され、排気口42aがヒートシンク40に面している。ファン43は、ヒートシンク41の直前に配置され、排気口43aがヒートシンク40に面している。ファン42、43は、ファン筐体の内部に収容されたインペラをモータによって回転させる遠心ファンである。ファン42,43は、ファン筐体の上下面にそれぞれ開口した吸気口42b,43bから吸い込んだ筐体14内の空気を排気口42a,43aから排出する。
【0027】
図3中の参照符号44は、ベーパーチャンバ36の前縁部に連結され、前方に突出した熱伝導プレートである。熱伝導プレート44は、例えばアルミニウムや銅等の金属やグラファイト等で形成された薄いプレートである。
【0028】
次に、ベーパーチャンバ36の構成を説明する。
【0029】
図3は、ベーパーチャンバ36の模式的な側面断面図であり、ベーパーチャンバ36をマザーボード24に実装されたCPU30に接続した状態を示している。図3では、ベーパーチャンバ36をCPU30のみに接続した状態を例示しているが、GPU31もCPU30と同様にベーパーチャンバ36と接続される。
【0030】
図2に示すように、ベーパーチャンバ36は、プレート型の熱輸送デバイスである。ベーパーチャンバ36は、CPU30及びGPU31に接続され、これらの熱を吸熱及び拡散すると共に、その第1面36aに接続されたヒートパイプ38に伝達することができる。本実施形態のベーパーチャンバ36は、左右のファン42,43の間に配置され、CPU30及びGPU31を覆う。ベーパーチャンバ36は、薄く変形し易いため、例えば第2面36bの外周縁部や中央部に金属製のフレーム46を接合し、補強している(図2参照)。フレーム46は、省略されてもよい。
【0031】
図3に示すように、ベーパーチャンバ36は、第1金属プレート50と、第2金属プレート51と、密閉空間52と、ウィック54と、を有する。
【0032】
金属プレート50,51は、銅、アルミニウム又はステンレスのような熱伝導率が高い金属で形成された薄いプレートである。本実施形態の金属プレート50,51は、銅プレートを用いている。ベーパーチャンバ36は、金属プレート50,51の外縁部同士を接合して封止し、内側に作動流体が封入される密閉空間52を形成したものである。金属プレート50,51の外縁部は、例えば互いに溶接され、耳状の封止部36cを成している。図3では、ベーパーチャンバ36の第2面36b、つまり第1金属プレート50の外面50aがCPU30及びGPU31に対する接続面となる構成を例示している。
【0033】
密閉空間52は、作動流体が相変化を生じながら流通する流路となる。作動流体としては、例えば水、代替フロン、アセトン又はブタン等を例示できる。
【0034】
ウィック54は、密閉空間52に収容される。ウィック54は、CPU30やGPU31の熱を受けて作動流体の蒸発を促進し、また蒸発後に放熱して凝縮した作動流体を毛細管現象で送液するものである。ウィック54は、焼結金属ウィック55と、メッシュウィック56と、を有する。
【0035】
焼結金属ウィック55は、例えば銅若しくはニッケル等の金属の粉末、又はこのような金属の繊維を焼結した焼結金属で形成されたウィックである。焼結金属ウィック55は、第1金属プレート50の内面50bに接続される。焼結金属ウィック55は、微粉末等を焼結した際に内面50bに固着する。焼結金属ウィック55は、ベーパーチャンバ36の厚み方向(Z方向)でCPU30及びGPU31とオーバーラップする位置にそれぞれ配置される。
【0036】
メッシュウィック56は、例えば銅、アルミニウム、若しくはステンレス等の金属の細線、又は炭素繊維線等の非金属の細線を編み込みし又は束ねたものである。メッシュウィック56は、焼結金属ウィック55の外周縁部55aを囲むように配置され、外周縁部55aと接続されている。つまりメッシュウィック56は、焼結金属ウィック55が挿入される孔部56aが貫通形成されている。メッシュウィック56は、孔部56aを有する構成以外、例えば複数枚のメッシュウィックを焼結金属ウィック55の周囲に並べて配置した構成でもよい。従って、細線で形成されるメッシュウィック56の空隙率は、焼結金属によって形成された焼結金属ウィック55の空隙率よりも大きい。
【0037】
上記したように、焼結金属ウィック55は、CPU30やGPU31とオーバーラップする領域及びその周辺に配置される。一方、メッシュウィック56は、焼結金属ウィック55の周囲を囲みつつ、密閉空間52内に広がっている。このため、密閉空間52内での占有容積は、メッシュウィック56が焼結金属ウィック55よりも大きい。
【0038】
本実施形態のベーパーチャンバ36は薄型構造であり、例えば全体の厚みが0.3~1.5mm程度である。一方、焼結金属ウィック55の厚みは、例えば0.1~0.5mmである。また、メッシュウィック56の厚みは、例えば細線の線径が0.05~0.4mmであり、編み物構造では0.1~0.8mmとなり、繊維束のように編み込まない構造では0.05~0.4mmとなる。なお、後述する図4に示す2段のウィック54Aを構成するメッシュウィック61の場合は、編み物構造で0.2~1.6mmとなり、編み込まない構造で0.1~0.8mmとなる。
【0039】
次に、本実施形態のベーパーチャンバ36の動作を説明する。
【0040】
図3に示すように、CPU30(GPU31)が発生した熱は、受熱プレート58を介してベーパーチャンバ36に伝達される。受熱プレート58は、銅又はアルミニウム等の薄い金属プレートである。受熱プレート58は、CPU30又はGPU31の頂面と第1金属プレート50の外面50aとの間に介在し、CPU30又はGPU31とベーパーチャンバ36との密着性を高めるものである。受熱プレート58は、省略されてもよい。
【0041】
ベーパーチャンバ36に伝達された熱は、第1金属プレート50を通して焼結金属ウィック55に伝達される。焼結金属ウィック55は、第1金属プレート50の内面50bに密着しているため、ベーパーチャンバ36に伝達された熱は高効率で焼結金属ウィック55まで伝達される。
【0042】
ここで、焼結金属ウィック55は、焼結金属で形成されているため、作動流体の沸騰核となる多数の凹部及び凸部を有する。このため、液相の作動流体は、焼結金属ウィック55に伝達された熱で蒸発が促進されて効率よく蒸発し、その際に焼結金属ウィック55から熱を奪う。
【0043】
そして、焼結金属ウィック55で蒸発した気相の作動流体は、密閉空間52内に拡散する。この際、本実施形態のベーパーチャンバ36は、CPU30等の直上領域のみに焼結金属ウィック55を配置し、その周囲には焼結金属ウィック55よりも空隙率が高いメッシュウィック56を配置している。このため、作動流体は、焼結金属ウィック55で蒸発すると、メッシュウィック56の空隙を円滑に通過しつつ、密閉空間52内に効率よく拡散する。このように拡散した気相の作動流体は、金属プレート50,51を介して外部に放熱して凝縮し、再び液相となる。
【0044】
液相となった作動流体は、毛細管現象によってメッシュウィック56から焼結金属ウィック55へと輸送され、焼結金属ウィック55で再びCPU30等の熱で蒸発する。
【0045】
以上のように、本実施形態のベーパーチャンバ36は、第1金属プレート50の内面50bと接続され、焼結金属で形成された焼結金属ウィック55と、焼結金属ウィック55と接続されると共に、焼結金属ウィック55の外周縁部55aを囲むように配置され、細線で形成されたメッシュウィック56と、を有するウィック54を備える。
【0046】
従って、当該ベーパーチャンバ36は、焼結金属ウィック55での作動流体の沸騰促進効果と、メッシュウィック56での高い空隙率による熱拡散効果とを両立できる。このため、当該ベーパーチャンバ36は、例えば全体の厚みを0.3~1.5mm程度の薄型に構成した場合であっても、高い熱性能が得られ、高効率な熱輸送及び熱拡散を実現できる。
【0047】
すなわちベーパーチャンバ36において、仮にウィック54を全て焼結金属ウィック55で構成した場合は、空隙率の低い焼結金属ウィック55で密閉空間52が塞がれて気相の作動流体の拡散効率が低下し、結果として熱性能が低下する懸念がある。逆に、ベーパーチャンバ36において、仮にウィック54を全てメッシュウィック56で構成した場合は、メッシュウィック56は焼結金属ウィック55と比べて沸騰核となる凹凸形状が少なく沸騰促進効果が低いため、こちらも熱性能が低下する懸念がある。この点、本実施形態のベーパーチャンバ36は、焼結金属ウィック55の外周縁部55aを囲むようにメッシュウィック56を接続している。このため、当該ベーパーチャンバ36は、焼結金属ウィック55による高い沸騰促進効果とメッシュウィック56による高い熱拡散効果との両立が可能である。
【0048】
ベーパーチャンバ36は、1.5mmを超える厚みを持った構造であってもよい。すなわち、ある程度の厚みのあるベーパーチャンバは、例えばウィックが全て焼結金属ウィックで構成されたとしても、密閉空間の高さに余裕があるため、気相の作動流体による熱拡散効果はほとんど損なわれない。ところが、焼結金属ウィックはメッシュウィックに比べてコストが相当に高く、ベーパーチャンバ全体のコストが増大してしまう。この点、本実施形態のベーパーチャンバ36は、焼結金属ウィック55とメッシュウィック56とを組み合わせることで、薄型以外の構成であってもコストを低減しつつ、熱性能を担保できるという利点がある。
【0049】
本実施形態の電子機器10において、ベーパーチャンバ36は、作動流体の沸騰促進効果を有する焼結金属ウィック55がCPU30等の発熱体と上下にオーバーラップする位置に配置されている。このため、ベーパーチャンバ36は、発熱体の熱をその直上にある焼結金属ウィック55で効率よく受熱して作動流体を蒸発させることができる。その結果、当該電子機器10は、ベーパーチャンバ36の薄型化による筐体14の薄型化と、ベーパーチャンバの熱性能向上による冷却性能の向上とを両立でき、CPU30等のパフォーマンスも向上する。
【0050】
また、本実施形態のベーパーチャンバ36では、密閉空間52内での占有容積は、メッシュウィック56が焼結金属ウィック55よりも大きい。これにより当該ベーパーチャンバ36は、占有容積が大きいメッシュウィック56が高い空隙率を有するため、液相よりも体積が増大する気相の作動流体の拡散効率が一層向上する。なお、焼結金属ウィック55は、発熱体の熱を確実に受けて作動流体を沸騰させることができればよいため、発熱体と上下にオーバーラップする領域及びその付近のみの小さな範囲に設置されれば十分にその機能を果たす。
【0051】
ところで、上記したベーパーチャンバ36のウィック54は、焼結金属ウィック55の周囲にメッシュウィック56を配置した構成であるため、メッシュウィック56から焼結金属ウィック55への送液の効率が問題となる。すなわちベーパーチャンバ36は、メッシュウィック56と焼結金属ウィック55との密着が不十分であったり、衝撃等によってメッシュウィック56の位置がずれたりした場合に、ウィック56,55間で円滑に毛細管現象が発生せず、焼結金属ウィック55に液相の作動流体を十分に供給することができなくなる可能性もある。
【0052】
そこで、次に、メッシュウィックから焼結金属ウィックへの送液をより円滑にするための構成を説明する。
【0053】
図4は、第1変形例に係るウィック54Aを備えるベーパーチャンバ36の模式的な側面断面図である。図4において、図1図3に示される参照符号と同一の参照符号は同一又は同様な構成を示し、このため同一又は同様な機能及び効果を奏するものとして詳細な説明を省略し、以下の図5A図7についても同様とする。
【0054】
図4に示すウィック54Aは、焼結金属ウィック60と、メッシュウィック61とを有する。
【0055】
焼結金属ウィック60は、上記した焼結金属ウィック55と同一又は同様な材質でよい。本構成例の焼結金属ウィック60の外周縁部55aには、フランジ状に形成された段差部60aが設けられている。段差部60aは、焼結金属ウィック60の内面50bに対する接続面とは逆側の面を外周縁部55aに沿って一段下げたものである。
【0056】
メッシュウィック61は、焼結金属ウィック60の外周縁部55aを囲む部分に薄肉部61aを有する。薄肉部61aは、孔部56aの周縁部の厚みを他の部分よりも薄くしたものである。
【0057】
本構成例のメッシュウィック61は、第1メッシュ部材64と、第1メッシュ部材64と積層された第2メッシュ部材65とを有する。各メッシュ部材64,65は、それぞれ上記したメッシュウィック56と同一又は同様な材質及び構成でよい。つまりメッシュウィック61は、実質的に上記したメッシュウィック56を2段重ねで設置したものである。
【0058】
第1メッシュ部材64は、焼結金属ウィック60の外周縁部55aを囲むように配置され、外周縁部55aと接続されている。第2メッシュ部材65は、段差部60aに重ねて配置され、段差部60aを介して外周縁部55aと接続されている。つまりメッシュウィック61は、孔部56aの周縁部を2段のメッシュ部材64,65のうち一方の第2メッシュ部材65のみで構成し、これにより薄肉部61aを形成している。
【0059】
このように、本構成例のウィック54Aは、焼結金属ウィック60の外周縁部55aにフランジ状に形成された段差部60aにメッシュウィック61の薄肉部61aを接続されている。従って、ウィック54Aは、焼結金属ウィック60とメッシュウィック61の接触面積が増加し、ウィック61,60間での毛細管現象による液相の作動流体の輸送量及び輸送効率が向上する。
【0060】
特に、図3に示すようなメッシュウィック56は、通常、単に密閉空間52に置いているだけであるため、密閉空間52内で移動し、焼結金属ウィック55に常に密着させておくことが難しい。この点、図4に示すメッシュウィック61は、薄肉部61aを段差部60aに被せて接触させている。このため、ウィック60,61は、相互間の接触面積が増大するだけでなく、メッシュウィック61が多少移動してしまっても相互間の接触が保持され、毛細管現象による送液を確保することができる。
【0061】
本構成例のメッシュウィック61は、第1メッシュ部材64と第2メッシュ部材65とを積層し、薄肉部61aは一方のみで形成している。このため、メッシュウィック61は、薄肉部61aの形成も容易で、コストを低減できる。
【0062】
図5Aは、第2変形例に係るウィック54Bの一部を拡大した模式的な側面断面図である。図5Bは、図5Aに示すウィック54Bの模式的な平面図である。図5A及び図5Bでは、メッシュウィック68の一部のみを図示しているが、メッシュウィック68についても図3に示すメッシュウィック56等と同様に焼結金属ウィック60を囲むように設けられており、図6A及び図6Bに示すメッシュウィック61についても同様である。
【0063】
図4に示すウィック54Aのメッシュウィック61は、2段のメッシュ部材64,65の一部を1段として薄肉部61aを形成している。これに対して、図5A及び図5Bに示すウィック54Bのメッシュウィック68は、互いに織り込まれた経線68a及び緯線68bのうちの一方の線を孔部56aの周縁部で除去し、これにより薄肉部68cを形成している。
【0064】
図5Bにおいて、一方の薄肉部68cは、経線68aの一部を除去し、緯線68bのみで構成することで実質的な厚みを1/2に構成している。同様に、他方方の薄肉部68cは、緯線68bの一部を除去し、経線68aのみで構成することで実質的な厚みを1/2に構成している。
【0065】
このように、本構成例のメッシュウィック68は、織り物を構成する経線68a及び緯線68bのうちの一方を除去し、これにより実質的に厚みを半減した薄肉部68cを形成している。このため、メッシュウィック68でも、薄肉部68cの形成が容易で、コストを低減できる。
【0066】
図6Aは、第3変形例に係るウィック54Cの一部を拡大した模式的な側面断面図である。図6Bは、図6Aに示すウィック54Cの模式的な平面図である。
【0067】
図6A及び図6Bに示すウィック54Cは、図4に示すウィック54Aの焼結金属ウィック60と構成の異なる焼結金属ウィック70を有する。焼結金属ウィック70は、外周縁部55aに沿って並ぶように複数設けられた切欠状の凹部70aを有する。凹部70aは、段差部60aを外周端面側から切り欠いた形状の凹部である。これにより焼結金属ウィック70は、段差部60aの外周縁部55aが図6Bに示す平面視で歯車状の凹凸形状に形成されている。
【0068】
各凹部70aには、第1メッシュ部材64が挿入される。第1メッシュ部材64は、例えば互いに織り込まれた経線64a及び緯線64bを有する。そこで、各凹部70aには、焼結金属ウィック70の外周端面に突き当たる経線64a及び緯線64bのうちの一方の先端を挿入している。
【0069】
図6A及び図6Bでは、緯線64bの先端を凹部70aに挿入した構成を例示している。一方、例えば図6B中で緯線64bが挿入された凹部70Aと直交する辺に形成された凹部70aには、経線64aの先端を挿入するとよい。なお、図6Bでは、第2メッシュ部材65の図示を省略している。
【0070】
このように、本構成例のウィック54Cは、焼結金属ウィック70の段差部60aに設けた凹部70aにメッシュウィック61を挿入している。従って、ウィック54Cは、段差部60aによるウィック70,61間の接触面積が増加する効果に加えて、さらに凹部70aにメッシュウィック61が挿入されることで当該接触面積がさらに増加する。このため、ウィック54Cは、ウィック61,70間での毛細管現象による液相の作動流体の輸送量及び輸送効率が一層向上する。
【0071】
特に、当該ウィック54Cは、2層構造のメッシュウィック61のうち、下段の第1メッシュ部材64を流れる作動流体はそのまま凹部70aの内壁から焼結金属ウィック70に送液される。同時に、ウィック54Cでは、上段の第2メッシュ部材65を流れる作動流体はそのまま段差部60aの表面から焼結金属ウィック70に送液される。その結果、当該ウィック54Cは、メッシュウィック61から焼結金属ウィック70への送液効率が一層向上する。
【0072】
図7は、第4変形例に係るウィック54Dを備えるベーパーチャンバ36の模式的な側面断面図である。
【0073】
上記したウィック54,54A~54Cは、メッシュウィック56,61,68に孔部56aを設け、この孔部56aに焼結金属ウィック55,60,70を挿入する構成としていた。これに対して、図7に示すウィック54Dのメッシュウィック72は、孔部56aを有さず、焼結金属ウィック55を覆うように密閉空間52の全体に亘って設けられている。
【0074】
このように、本構成例のウィック54Dは、焼結金属ウィック55の全面を覆うようにメッシュウィック72を被せている。従って、ウィック54Dは、その厚みが上記したウィック54A等よりも厚くなるが、簡素な構成で焼結金属ウィック55とメッシュウィック72の接触面積が増加し、ウィック72,55間での毛細管現象による液相の作動流体の輸送量及び輸送効率を向上させることができる。
【0075】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0076】
10 電子機器
14 筐体
22 冷却モジュール
24 マザーボード
30 CPU
31 GPU
36 ベーパーチャンバ
50 第1金属プレート
51 第2金属プレート
52 密閉空間
54,54A~54D ウィック
55,60,70 焼結金属ウィック
56,61,68,72 メッシュウィック
60a 段差部
61a,68c 薄肉部
64 第1メッシュ部材
65 第2メッシュ部材
70a 凹部
【要約】
【課題】熱性能を向上することができる電子機器及びベーパーチャンバを提供する。
【解決手段】電子機器は、筐体と、筐体内に設けられた発熱体と、発熱体が発生する熱を吸熱するベーパーチャンバと、を備える。ベーパーチャンバは、密閉空間に収容されるウィックを有する。ウィックは、第1金属プレートの内面と接続されると共に、ベーパーチャンバの厚み方向で発熱体とオーバーラップする位置に配置され、焼結金属によって形成された焼結金属ウィックと、焼結金属ウィックと接続されると共に、焼結金属ウィックの外周縁部を囲むように配置され、細線によって形成されたメッシュウィックと、を有する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7