(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】排水ポンプ装置、及びこれを用いた排水機場
(51)【国際特許分類】
F04D 29/60 20060101AFI20231005BHJP
F04D 13/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F04D29/60 B
F04D13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022095636
(22)【出願日】2022-06-14
【審査請求日】2022-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522237564
【氏名又は名称】木下 竜介
(72)【発明者】
【氏名】木下 竜介
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-312578(JP,A)
【文献】特開2016-220287(JP,A)
【文献】特開2004-124902(JP,A)
【文献】国際公開第2005/040616(WO,A1)
【文献】特開2012-002142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/60
F04D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水機場の
主ポンプを定格回転速度で駆動して排水を行う排水ポンプ装置に設置可能な補助動力装置であって、
前記排水ポンプ装置の原動機から延出している出力軸に設置可能な二軸入力減速機と、
当該二軸入力減速機に出力軸を接続する原動機
とを備え、各原動機の同時運転時は前記定格回転速度に比べ、回転速度を増速し出力する、排水ポンプ装置用の補助動力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の補助動力装置を設けた排水ポンプ装置であって、
前記排水ポンプ装置の原動機を主原動機とし、前記補助動力装置の原動機を副原動機とし、両原動機の出力を
前記二軸入力減速機に
同時入力させると共に、
回転速度を増速した当該二軸入力減速機の出力軸に、送水の為の主ポンプの羽根車を設
け、主ポンプの前記定格回転速度における排水量を超える排水量に増量することを特徴とする、排水ポンプ装置。
【請求項3】
前記主原動機として内燃機関が使用され、前記副原動機として電動機が使用されており、
前記主原動機と
前記二軸入力減速機の間には逆転防止装置を設け、副原動機と二軸入力減速機の間、および主ポンプと二軸入力減速機の間の夫々には両者間の動力伝達をオン/オフする制動装置を設けている、請求項2に記載の排水ポンプ装置。
【請求項4】
前記二軸入力減速機は、太陽ギヤが遊星ギヤで連結された差動装置として構成することで各原動機
の回転速度とトルクを合成して主ポンプに
増速・増トルクで出力し、補助動力装置の副原動機から差動装置への入力1次側に調速ギヤを設けることで、二つの原動機の同時運転時にポンプの運転に有害なキャビテーションや吸水槽に空気吸込渦や水中渦を発生させないポンプ回転速度に調整する、請求項2又は3に記載の排水ポンプ装置。
【請求項5】
前記主原動機として内燃機関を使用し、副原動機として電動機を使用し、当該電動機は正転・逆転両方向に動作可能であり、
前記電動機の単独運転時と、内燃機関と電動機の同時運転時には、前記電動機を正転動作させ、
前記内燃機関の単独運転時において前記主ポンプの回転速度を制御する場合には、前記電動機を逆転動作させ、
前記内燃機関の定格回転速度と前記電動機の逆転回転速度を前記二軸入力減速機内の差動装置により合成させることで主ポンプの羽根車の回転速度を減じさせ、
前記電動機を発電機として使用する場合には、前記主ポンプを停止させ電動機を逆転させる、請請求項2又は3に記載の排水ポンプ装置。
【請求項6】
前記副原動機として電動機が使用されており、電動機の単独運転時に前記主ポンプの回転速度が過度に小さくならないように、極数変換形電動機、またはインバータ装置等による回転速度制御のできる電動機を使用する、請求項2又は3に記載の排水ポンプ装置。
【請求項7】
前記二つの原動機が電動機であり、出力の異なる原動機を組み合わせて構成した場合には、電力会社の送電線への始動電流の影響を抑えるために順次始動するように構成する、請求項2に記載の排水ポンプ装置。
【請求項8】
請求項2、3又は7に記載の排水ポンプ装置を設置した排水機場であって、
必要な排水能力に応じて、主原動機のみの出力、主原動機と副原動機の合成出力、または副原動機のみの出力によって動作可能であって、前記副原動機は回転方向及び回転速度、トルク、制動力を制御可能である排水機場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水ポンプ装置、及びこれを用いた排水機場に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、洪水対策に使われる排水機場(ポンプ場)の多くは排水ポンプ(以下、「主ポンプ」とも云う)を内燃機関により駆動している。当該従前における排水機場を
図1に示す。
この
図1に示す例では、内燃機関2の動力をクラッチ2aとカップリング7、減速機6、カップリング8を介して主ポンプ1の主軸1aに伝達し羽根車1bを回転させる。主ポンプ1は吸水槽14の雨水を吸込管11と吐出管12を通して吐水槽15へ排水する。クラッチ2aは内燃機関2のトルクが主ポンプ1を計画吐出量で運転するために必要十分な大きさになると自動的に接続される。減速機6は内燃機関2の定格回転速度を減速しトルクを増加して主ポンプ1に必要な回転速度とトルクに変換する。そして排水装置の制御システムは通常は商用電源を用い、制御盤16と水位計17等のセンサーにより行う。この制御盤16は水位計17が吸水槽14の運転開始水位HWLを検知すると始動の合図を出し、次に操作員が手動により内燃機関2を始動し主ポンプ1を運転する。また、停止は水位計17により吸水槽の停止水位LWLを検知すると自動停止する。
【0003】
かかる従来の排水機場(ポンプ場)の多くは、その計画排水量(主ポンプ計画吐出量)を1/10年確率雨量を計画降雨量として決めることが多い。また、主ポンプの計画全揚程は計画実揚程(吸水槽の水位と吐水槽の水位差)と吸込管11と吐出管12、吐出弁10、逆流防止弁13等の損失水頭の合計で決められる。そして主ポンプ1を駆動させる内燃機関2としてはディーゼル機関が多く用いられており、当該内燃機関2の出力は、ポンプの計画吐出量、計画全楊程と主ポンプ、減速機の機器効率から決められる。この減速機6の入力軸は一つで内燃機関2につながっており、減速比は内燃機関の定格回転速度/ポンプ定格回転速度で決められ、伝達容量は内燃機関の出力と使用条件で決められる。そして内燃機関2の回転速度は調速機が既設排水機場の多くで採用されている機械式ガバナである場合は増減できないが、電子式ガバナの場合には、軽負荷運転による機関内のカーボン付着による故障の懸念から、短時間であれば約70~100%の範囲で回転速度の増減ができる。
【0004】
以上のように従前においては計画降雨量に応じた排水機場(ポンプ場)が設けられているが、近年では温暖化による気象変動から想定外の降雨量と降雨パターンが多くなってきた。そのため、全国に数多くある既設排水機場においては、大降雨に対応するための排水量(主ポンプ吐出量)の増量と、様々な降雨パターンに対応するための柔軟な排水量調整等が課題となっている。特に既設排水機場においては土木・建築寸法を変えられないことから、主ポンプは口径の大きなものに交換せずに排水量を増量する設備の改修が強く求められている。
【0005】
そこで従前においては、吸水槽内に別途、副ポンプを増設して、ポンプ設備の能力を増設する方法も検討されている。しかしながら、主ポンプの上流側に副ポンプを設置した場合には、副ポンプが流れの妨げとなって下流の主ポンプの吸込みに悪影響を与えてしまい、また水路の隔壁を切欠いて、この中に増設するポンプを設置した場合には、改造工事期間の長期化や土木構造物の強度が低下する他、水路への流入量の増加に伴い主ポンプの運転に有害な空気吸込渦や水中渦が発生することから、この渦流の発生を防止する手段として渦流発生防止板を水路内に設置する必要がある。
【0006】
そこで特許文献1(特開2002-130193号公報)では、既存ポンプ設備の能力を増強する装置に関し、渦流防止板に増強ポンプを内蔵することにより、既存ポンプの排水量を増強する装置を提案している。即ち、立軸ポンプを吸水槽内に配設した既存のポンプ場において、流入量急増に伴う立軸ポンプ能力の増強を行なう際、増強ポンプの設置と渦流防止板の設置という2つの設備が必要となるが、この渦流防止板にコラム形の高速水中ポンプを内蔵することにより、上記2つの設備を複合化して、既存の立軸ポンプの能力を増強することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、排水機場(ポンプ場)の改修には、主ポンプを口径の大きなものに交換するには制約があり、主ポンプの羽根車の回転速度を増速する必要があるため、より出力の大きな内燃機関とその冷却機器、減速機、その他燃料タンクや補機等の交換が必要となるが、特に出力の大きな内燃機関は高価であり、またその交換は建屋寸法や土木に及ぼす荷重に制約が有るため難しい。加えて、大降雨前の初動対応として小降雨、中降雨時の小排水量による予備排水や、近年の操作員の高齢化や人口減による後継者不足、熟練者不足に対応するための容易な操作や自動運転、複数の排水機場を遠方の操作室一箇所から操作できる遠隔操作等による省力化が求められている。
【0009】
主ポンプの吐出量を増量した場合、特に計画降雨時、小中降雨時においては吸水槽への雨水流入量に対して主ポンプの吐出量が大きいことから、吸水槽水位が短時間で停止水位に達し停止する。次に水位が急上昇し、再び主ポンプを始動しなければならない。これは、主ポンプを駆動する内燃機関が短時間周期で始動・停止を繰り返すことになり、故障につながる。それに対し、吐出弁の開度を絞り主ポンプの吐出量を小さくする事でこの問題は解消されるが、吐出弁がキャビテーションを発生し弁体等に壊食を起こし、故障につながる場合がある。また、軸流ポンプにおいてはその特性上、吐出弁を絞ることができない。
【0010】
本発明は上記のような制約の多い内燃機関とその関係機器は既存のまま使用しながらも、想定外の降雨量と降雨パターンに対応できる排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場を提供することを課題の1つとする。
【0011】
排水量増量のために、渦流防止板にコラム形の高速水中ポンプを内蔵する場合、渦流防止板の上部に内燃機関や減速機があり、維持管理や交換時に高速水中ポンプを上部に引き抜くことのできない横軸ポンプに対応することも課題の1つとする。
【0012】
また、増設した副ポンプが流れの妨げとなることがなく、更に水路の隔壁を切欠いた中に増設ポンプを設置する必要がなく、改造工事期間の長期化や土木構造物の強度が低下のおそれを無くした排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場を提供することも課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明では排水ポンプ装置を駆動させる原動機として、既に設置されている原動機に、更に1又は2以上の原動機を設置する事により、各原動機の動力を合算できるようにした排水ポンプと、その為の補助動力装置と、当該排水ポンプ装置を用いた排水機場の稼働方法を提供する。
【0014】
即ち本発明では、排水機場の排水ポンプ装置に設置可能な補助動力装置であって、排水ポンプ装置の原動機から延出している出力軸に設置可能な二軸入力減速機と、当該二軸入力減速機に出力軸を接続する原動機とからなる、排水ポンプ装置用の補助動力装置を提供する。
【0015】
前記二軸入力減速機は差動歯車機構や遊星歯車機構を用いて形成することができる。特に、二軸入力減速機は、太陽ギヤが遊星ギヤで連結された差動装置を持つことで各原動機の異なる動力(回転速度、トルク)を合成して主ポンプに出力できる。
【0016】
上記原動機は、内燃機関又は電動機から選択することができる。かかる補助動力装置は、既存の排水ポンプ装置の排水量を増量するために、既設の内燃機関では足りない動力を、別の原動機の動力で補うという考え方であることから、当該補助動力装置に使用する原動機は、モータなどの電動機や油圧機器である他、エンジンなどの内燃機関であっても良い。但し、当該補助動力装置に使用する原動機は、モータなどの電動機を使用することで、モータ回生制動や逆相制動によるエンジンなどの内燃機関単独運転時のポンプの無段階回転速度制御(吐出量制御)や、発電機機能、モータなどの電動機のみの簡便な操作や制御がその他の機能として享受することができる。
【0017】
また本発明では、上記本発明に係る補助動力装置を設けた排水ポンプ装置として、前記排水ポンプ装置の原動機を主原動機とし、前記補助動力装置の原動機を副原動機とし、両原動機の出力を二軸入力減速機に入力させると共に、当該二軸入力減速機の出力軸に、送水の為の主ポンプの羽根車を設けた排水ポンプ装置を提供する。また、副原動機から差動装置への入力1次側に調速ギヤを設けることで、二つの原動機の同時運転時にポンプの運転に有害なキャビテーションや吸水槽に空気吸込渦や水中渦を発生させないポンプ回転速度に調整することができる。
【0018】
前記二つの原動機が電動機であり出力の異なる原動機を組み合わせて構成した場合には、電圧フリッカ等電力会社の送電線への始動電流の影響を抑えるために順次始動するように構成することができる。即ち、出力の小さい電動機を最初に始動させ、定格運転になるまで出力の大きい電動機は空転または停止させ、出力の小さい電動機の定格運転後に始動するように運転することができる。
【0019】
また前記副原動機は、多くの場合、主原動機よりも出力の小さいものが選択されるが、主原動機よりも大きい出力のものを使用することもできる。一般的に排水機場に使う主原動機は吐出量増量に伴う主ポンプのキャビテーションや吸水槽の空気吸込渦や水中渦の問題から主ポンプ吐出量(排水量)は30%~50%程度の増量が限度であることから、主原動機よりも大きな原動機を加えることが必要となる可能性は低い。しかし、排水ポンプ装置の主ポンプ吐出量(排水量)は変えずに、揚程(水を上げる高さ)だけを大きくする目的で農業用の揚水ポンプや水道用の送水ポンプに使う場合は、副原動機は、主原動機よりも高出力のものを使用することができる。
【0020】
かかる排水ポンプ装置において、前記主原動機として内燃機関が使用され、前記副原動機として電動機が使用されており、前記主原動機と二軸入力減速機の間には、カムロックなどの逆転防止装置を設け、前記副原動機と二軸入力減速機の間、および主ポンプと二軸入力減速機の間の夫々には両者間の動力伝達をオン・オフするための電磁ブレーキなどの制動装置を設けることができる。
【0021】
特に、主原動機として内燃機関を使用し、副原動機として電動機を使用する場合には、電動機は正転・逆転両方向に使用することができる。電動機単独運転時と内燃機関と電動機の同時運転時には、電動機は正転し動力を伝達することができ、内燃機関単独運転時にポンプを回転速度制御する場合には、電動機は逆転し制動をかけることができる。また電動機を発電機として使用する場合には、主ポンプを停止させ電動機を逆転し発電することができる。
【0022】
即ち、電動機を逆転させて使用することにより、様々な降雨(中降雨や小降雨)パターンに対柔するための柔軟な排水量調整を行うことができ、また大降雨が発生する前の中降雨、小降雨時に小水量排水(予備排水)を行い大降雨時対応の初動の遅れを防止することができる。
【0023】
また、電動機の回転方向や回転速度を制御することにより、主ポンプの回転速度を制御することができる。即ち、電動機の単独運転では、ポンプの回転速度が過度に小さくなる。何故ならば、電動機の回転速度は減速機内の差動装置1次側の調速ギヤにより減速される。また、内燃機関が停止しているため差動歯車装置を介することで、さらに減速する。これに加え、差動装置の2次側の調速ギヤでさらに電動機の回転速度は大幅に減速され、その結果、排水量が実用に供さないほどに小さくなる。
【0024】
そこで、これを解決するために、電動機を極数変換(回転速度切替)形としてモータ単独運転の時は高速に切り替えることが可能であるが、この場合でも、ポンプの回転速度は計画排水量時の60%程度と考えられる。すなわち、電動機だけでは0%~100%(計画排水量)までの全域における「柔軟な排水量調整」に対応することが困難となる。仮に、回転速度60%~100%(計画排水量)の範囲も電動機で動作させるとなると、電動機をさらに高速にするためにインバータ装置や極数変換を更に1段高速に切り替えること等が考えられるが、電動機の出力が大きくなり、副原動機により排水量増量分だけの動力を追加する基本的構想においては、過剰設備になる可能性もある。従って、主ポンプの回転速度を0%~100%(計画排水量)までの全域において無段階に制御する為に、副原動機となる電動機は、正転、逆転の回転方向の制御の他、それぞれの回転方向における回転速度の制御を行うことができる。
【0025】
そして本発明では、上記本発明に係る排水ポンプ装置を設置した排水機場であって、必要な排水能力に応じて、主原動機のみの出力、主原動機と副原動機の合成出力、または副原動機のみの出力によって動作可能であって、前記副原動機は回転方向及び回転速度、トルク、制動力を制御可能である排水機場を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場は、大降雨時には新規に排水量増量分に見合う小さな出力の電動機と、その動力を加えることのできる二軸入力減速機により、内燃機関と電動機を同時駆動することで既設排水ポンプの羽根車の回転速度を増速し、計画吐出量(排水量)を超える吐出量増量を可能とするための排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場を提供することができる。
【0027】
また、本発明に係る排水ポンプ装置用の補助動力装置は、排水ポンプ装置の原動機から延出している出力軸に設置可能な二軸入力減速機と、当該二軸入力減速機に出力軸を接続する原動機とで構成していることから、既設の排水機場の排水ポンプ装置に設置可能であり、大幅な設備の変更を無くすことができる。
【0028】
そして前記主原動機として内燃機関を使用し、前記副原動機として電動機を使用した排水ポンプ装置及びこれを用いた排水機場にあっては、計画降雨時には内燃機関単独駆動による計画排水量運転、中降雨、小降雨時には電動機単独駆動や内燃機関駆動と同時に電動機に逆相制動や回生制動をかけながら逆転させることによる主ポンプの無段階回転速度制御を行い柔軟な排水量調整(小,中排水量)に対応することができる。
【0029】
加えて、電動機単独駆動は内燃機関に比べ始動までの操作工程が少なく、かつ操作が容易であることから、本発明の排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場は、吸水槽水位による自動運転や複数の排水機場を遠方の一箇所から操作できる遠隔操作にも対応できる。
【0030】
更に本発明にかかる排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場の付加機能として、非洪水時に大規模停電等の災害が発生した際には内燃機関の動力で電動機を発電機として駆動することで発電装置とすることができる。これにより、排水機場を地域マイクログリッド等における非常時発電施設とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】既存の排水機場を示す(A)平面図、(B)縦断面図
【
図2】本実施の形態に係る排水ポンプ装置を用いて構成した排水機場を示す(A)平面図、(B)縦断面図
【
図3】第1の実施の形態に係る排水ポンプ装置を示す構成略図
【
図4】第2の実施の形態に係る排水ポンプ装置を示す構成略図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態にかかる排水ポンプ装置用の補助動力装置と、これを用いた排水ポンプ装置、並びに排水ポンプ装置を用いた排水機場を具体的に説明する。
【0033】
図3は第1の実施の形態に係る排水ポンプ装置を示す構成略図である。この図に示す排水ポンプ装置は、主原動機として既存の内燃機関2を使用し、副原動機としてモーターなどの電動機3を使用し、両原動機の出力軸を、二軸入力減速機4を構成する差動装置4aに入力させている。かかる差動装置4aは、太陽歯車や遊星歯車を用いて構成することができる。
【0034】
そして当該二軸入力減速機4の出力軸には、主ポンプ1に内挿されている羽根車1bを接続している。そして主原動機(内燃機関2)と二軸入力減速機(差動装置4a)との間には、副原動機(電動機3)の回転による主原動機(内燃機関2)の回転を阻止する逆転防止装置4dを設置し、副原動機(電動機3)と二軸入力減速機(差動装置4a)との間には、両者間の動力伝達をオン/オフする為の制動装置4bを設けている。また二軸入力減速機(差動装置4a)の出力軸と主ポンプ1の羽根車1bとの間にも、二軸入力減速機(差動装置4a)の出力軸の動力伝達をオン/オフする為の制動装置4cを設けている。
【0035】
図1は、既存の排水機場を示す(A)平面図、(B)縦断面図であり、
図2は本実施の形態に係る排水ポンプ装置を用いて構成した排水機場を示す(A)平面図、(B)縦断面図である。この図に示す様に、本実施の形態に係る排水ポンプ装置を用いて構成した排水機場では、計画降雨時には電動機3を停止し内燃機関2を単独運転して主ポンプを計画吐出量(排水量)で運転する。この時、制動装置4bには制動をかけ内燃機関2による電動機3の連れ回りを防ぐ。
【0036】
一方、大降雨時には内燃機関2の動力と電動機3の動力を二軸入力減速機4の差動装置4aにより合成し、内燃機関2の単独運転時に比べ主ポンプ1のトルクと回転速度を増加することで、計画吐出量(排水量)を超える吐出量(排水量)で運転する。
【0037】
そして小降雨時には内燃機関2を停止し、内燃機関2に対し動力の小さな電動機3を単独運転し、内燃機関2の単独運転時に比べ主ポンプ1のトルクと回転速度を小さくすることで、小排水量運転する。この時、逆転防止装置4dにより電動機の動力による内燃機関の連れ回り(逆転)を防ぐ。なお、電動機単独運転の場合は内燃機関に比べ始動までの操作工程が少なく、かつ操作が容易であることから、吸水槽水位による自動運転や遠方の操作室からの遠隔操作にも対応できる。
【0038】
また、小中降雨時には差動装置4aにより、内燃機関2の動力の一部で電動機3を逆転させ、主ポンプ1の回転速度を無段階調整することにより小中排水量の運転に対応する。ここで、主ポンプ1の回転速度の無段階調整は、電動機3の逆転の回転速度を電動機3の逆相制動や回生制動等による制動力の調整で行う。
【0039】
以上の様な各原動機による運転モードの使い分けと制御は、吸水槽などに設けた水位計や雨量計の測定結果、降雨予測等に基づいて行うことができ、当該水位計や雨量計の測定結果、降雨予測等に基づいて、内燃機関単独運転、電動機単独運転、内燃機関と電動機の同時運転の各運転モードの使い分けと制御を行うことができる。
【0040】
なお、本実施の形態に係る排水ポンプ装置は、発電装置として使用することもできる。この場合、制動装置4cにより主ポンプ1に制動をかけ完全に停止させ、内燃機関2で電動機3を駆動し発電する。
【0041】
図2は本実施の形態に係る排水ポンプ装置を用いて構成した排水機場を示す(A)平面図、(B)縦断面図である。
図2において、排水ポンプ装置は吸水槽14の上に設置された主ポンプ1の主軸1aに、二軸入力減速機4の出力軸4fを、カップリング8を介して連結している。内燃機関2はクラッチ2aとカップリング7を介して二軸入力減速機4の入力軸4gに接続されている。電動機3はカップリング9を介して二軸入力減速機4の入力軸4eに接続されている。この電動機は極数変換形電動機による回転速度の切替えが可能なものを想定しているが、インバータ装置等による回転速度制御のできる電動機であってもよい。インバータ装置等による回転速度制御のできる電動機を用いる場合は、内燃機関2と電動機3の同時運転時に主ポンプの無段階回転速度制御ができる。
【0042】
図3は第1の実施の形態に係る排水ポンプ装置を示す構成略図である。
この第1の実施の形態に係る排水ポンプ装置において、二軸入力減速機4は入力軸4gに接続するサイドギヤ(太陽ギヤ)4hと入力軸4eから調速ギヤ4jを介して接続するサイドギヤ(太陽ギヤ)4kに連結するピニオンギヤ(遊星ギヤ)4n,4mと外ギヤを持つリングギヤ4pから構成される差動装置4aを有し、内燃機関2と電動機3からの回転速度とトルクを合成し調速ギヤ4qで排水ポンプの排水量増量に必要な回転速度とトルクに変換してから出力軸4fへ出力し主ポンプ1を駆動する。
【0043】
図4は第2の実施の形態に係る排水ポンプ装置を示す構成略図である。この実施の形態において、二軸入力減速機5は入力軸5gに接続する太陽ギヤ5hと入力軸5eから調速ギヤ5jを介して接続する内外ギヤを持つリングギヤ5p、太陽ギヤ5hに連結する遊星ギヤ5n,5m、キャリア5qから構成される差動装置5aを有し、内燃機関2と電動機3からの回転速度とトルクを合成し、排水ポンプの排水量増量に必要な回転速度とトルクに変換してから出力軸5fへ出力し主ポンプ1を駆動する。両方式は減速機の入力軸4g,5gに設けたカムロック等の逆転防止装置4d,5d、入力軸4e,5eと出力軸4f,5fに設けた電磁ブレーキ等の制動装置4b,4c,5b,5cにより、内燃機関単独運転、電動機単独運転、内燃機関と電動機の同時運転、内燃機関の無段階回転速度制御運転、発電機装置の各運転モードを使い分ける。その運転モードにより電動機を正転・逆転両方向に動作させる。これらの使い分けは吸水槽の水位や降雨状況、停電の有無による判断により使い分ける。
【0044】
かかる構成の排水ポンプ装置は、計画降雨時においては、制動装置4b,5bにより入力軸4e,5eに制動をかけ内燃機関2の動力による電動機3の連れ回りを防止して内燃機関2を単独運転する。内燃機関2はクラッチ2aにより主ポンプ運転に必要十分なトルクになったときに二軸入力減速機4,5に連結される。二軸入力減速機4は差動装置4aと調速ギヤ4q、二軸入力減速機5は差動装置5aによりポンプ定格回転速度にして主ポンプを計画排水量で運転する。
【0045】
そして大降雨時においては、内燃機関2と電動機3を同時運転する。内燃機関2のトルクと回転速度、電動機3の調速ギヤ4j,5jを介したトルクと回転速度は差動装置4a,5aで合成され、主ポンプ1を計画排水量超で運転する。このとき、差動装置の入力1次側の調速ギヤ4j,5jは主ポンプ1の運転に有害なキャビテーションや吸水槽に空気吸込渦や水中渦を発生させない回転速度となるギヤ比とする。
【0046】
一方で、小降雨時においては、電動機3を単独運転する。このとき、内燃機関2は逆転防止装置4d,5dにより電動機3の動力による連れ回りによる逆転は起こらない。電動機単独運転の場合、電動機3の回転速度は調速ギヤ4j,5jにより減速されると、主ポンプ1の回転速度は著しく減速されることから、主ポンプ1は実用的な排水量を確保できない場合がある。この場合、電動機3は複数の回転速度を選べる極数変換形電動機を使用し、回転速度を増速できるものとすることが好ましいが、インバータ制御装置等による回転速度制御のできるものであってもよい。また、内燃機関に比べ始動までの操作工程が少なく、かつ操作が簡単な電動機単独運転であることから、水位計17等の吸水槽の水位信号から運転開始と停止を行う自動運転や機場外の遠方一箇所からの遠隔操作を行うこともできる。
【0047】
そして小中降雨時においては、内燃機関の無段階回転速度制御を行う。内燃機関2を単独運転するが、このとき二軸入力減速機4,5の制動装置4b,5bを開放することで電動機3は内燃機関2の動力により逆転が可能となる。電動機3の逆転回転速度は電動機3の逆相制動や回生制動等により制御する。これにより、二軸入力減速機4,5の差動装置4a,5aは内燃機関2の正転回転速度と電動機3の逆転回転速度を合成した回転速度となるため、主ポンプ1は計画降雨時に内燃機関単独で運転する計画排水量よりも少ない排水量を無段階に調整できる。また、内燃機関2の始動時に必要なクラッチ2aは主ポンプ1が必要とするトルクになるまで、電動機3を空転させることで不要とすることもできる。
【0048】
なお、発電機として使用するときは、二軸入力減速機4,5の制動装置4c,5cにより主ポンプ1に制動をかけ、主軸1aの回転を防止する。内燃機関2の動力は差動装置4a,5aを介して、全て電動機3に伝わり、電動機3を発電機として機能させ外部に電源を供給する。
【0049】
また、上記何れの実施の形態においても、必要に応じて内燃機関2のみの出力、内燃機関2と電動機3の合成出力、電動機3のみの出力、内燃機関2の出力に電動機3の回転方向(正転動作・逆転動作)及び回転速度、トルク、制動力の制御を加えた出力のいずれかで主ポンプを駆動することにより計画降雨時、大降雨時、小中降雨時においてきめ細かく排水能力の制御を行うことができる。
【0050】
加えて、上記何れの実施の形態においても、排水ポンプ装置は、横軸斜流ポンプを例としているが、ポンプ軸形式、ポンプ形式を制限するものではない。また、原動機1を内燃機関、原動機3を電動機としているが、原動機形式を制限するものではない。
ここで、主原動機2が電動機の場合、電圧フリッカ等電力会社の送電線への始動電流の影響を抑えるために出力の小さい電動機3を最初に始動させ、定格運転になるまで出力の大きい電動機2は停止させ、出力の小さい電動機の定格運転後に始動するように運転することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の排水ポンプ装置、及びこれを用いた排水機場は、洪水対策に使われる排水機場(ポンプ場)や、その排水ポンプとして利用することができる。また排水ポンプ装置は、横軸ポンプ、立軸ポンプであって良く、その用途も排水、揚水、送水の用途において使用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 主ポンプ
1a 主軸
1b 羽根車
2 主原動機(内燃機関)
2a クラッチ
3 副原動機(電動機)
4 二軸入力減速機
4a 差動装置
4b 制動装置
4c 制動装置
4d 逆転防止装置
4e 入力軸
4f 出力軸
4g 入力軸
4h サイドギヤ(太陽ギヤ)
4j 調速ギヤ
4k サイドギヤ(太陽ギヤ)
4n,4m ピニオンギヤ(遊星ギヤ)
4p 外ギヤを持つリングギヤ
4q 調速ギヤ
5 二軸入力減速機
5a 差動装置
5b 制動装置
5c 制動装置
5d 逆転防止装置
5e 入力軸
5f 出力軸
5g 入力軸
5h 太陽ギヤ
5j 調速ギヤ
5n,5m 遊星ギヤ
5p 内外ギヤを持つリングギヤ
5q キャリア
6 減速機
7,8,9 カップリング
10 吐出弁
11 吸込管
12 吐出管
13 逆流防止弁
14 吸水槽
15 吐水槽
16 制御盤
17 水位計
【要約】
【課題】 既存の排水機場に設けられている内燃機関とその関係機器をそのまま使用しながらも、想定外の降雨量と降雨パターンに対応できる排水ポンプ装置とこれを用いた排水機場を提供する。
【解決手段】 排水機場の排水ポンプ装置に設置可能な補助動力装置であって、排水ポンプ装置の原動機から延出している出力軸に設置可能な二軸入力減速機と、当該二軸入力減速機に出力軸を接続する原動機とからなる排水ポンプ装置用の補助動力装置と、当該補助動力装置を設けた排水ポンプ装置を提供する。
【選択図】
図3