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  • 特許-IH用調理容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】IH用調理容器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A47J27/00 107
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019212224
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021083468
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】512181053
【氏名又は名称】株式会社中村製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】511207903
【氏名又は名称】株式会社オーシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山添 卓也
(72)【発明者】
【氏名】石田 誠
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-106719(JP,A)
【文献】登録実用新案第3136615(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱陶器からなる容器本体と、前記容器本体と一体に形成され、前記容器本体の側壁外側面から分岐して下方に向かって拡径するように広がるスカート部と、前記容器本体の底壁下面に設けられて電磁誘導加熱される発熱板と、前記発熱板の外縁から上方へ広がる熱伝導壁とを備え、
前記熱伝導壁の下縁は、内向きフランジ形状であり、前記発熱板の外縁の上面に支持されており、
前記熱伝導壁は、前記スカート部および前記容器本体の側壁に区画される環状空間に配置され、前記スカート部と前記熱伝導壁の間、および前記熱伝導壁と前記側壁の間に空気層がそれぞれ介在する、IH用調理容器。
【請求項2】
前記熱伝導壁は、前記発熱板により下方移動を規制される、請求項1に記載のIH用調理容器。
【請求項3】
前記熱伝導壁の上縁はフランジ形状である、請求項2に記載のIH用調理容器。
【請求項4】
前記熱伝導壁の下縁は、前記容器本体の底壁と前記発熱板の間に係合する、請求項2または3に記載のIH用調理容器。
【請求項5】
前記発熱板はカーボンを主成分とする、請求項1~4のいずれかに記載のIH用調理容器。
【請求項6】
前記熱伝導壁はステンレス鋼である、請求項1~5のいずれかに記載のIH用調理容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導加熱(IH)装置に対応可能な調理用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
IH用調理容器として例えば特開2011-24810号公報(特許文献1)に記載の電磁調理用容器が知られている。特許文献1では、底壁下面が平らとなるように削られた陶磁器製の容器本体と、当該容器本体の底壁下面に設けられた円盤状のカーボン板とを備える。カーボン板は電磁誘導加熱され、容器本体の底壁を加熱する。特許文献1の電磁調理用容器は、IH装置の天板に載せられ、土鍋と同様に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-24810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のような電磁調理用容器では、容器本体の底壁のみ加熱され、その調理方法は主に、鍋物料理等の煮物に限定される。一方で、調理用容器のユーザーから、IH装置であっても、ガス火と対比して遜色ないよう、無水調理等によって食材をより美味しく調理したい、保温性を保ちたいという要望がある。本発明者は鋭意研究を重ね、保温性能に優れたIH用調理容器を開発するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるIH用調理容器は、耐熱陶器からなる容器本体と、容器本体の側壁外側面から下方へ広がるスカート部と、容器本体の底壁下面に設けられて電磁誘導加熱される発熱板と、発熱板の外縁から上方へ広がる熱伝導壁とを備え、熱伝導壁はスカート部および容器本体の側壁に区画される環状空間に配置され、スカート部と熱伝導壁の間、および熱伝導壁と側壁の間に空気層がそれぞれ介在する。
【0006】
かかる本発明によれば、発熱板により耐熱陶器の底壁が加熱され、熱伝導壁により耐熱陶器の側壁が加熱され、耐熱陶器の保温性も相俟ってIH装置による無水調理が可能となる。また熱伝導壁はスカート部および耐熱陶器の側壁に区画される環状空間に配置され、スカート部と熱伝導壁の間、および熱伝導壁と側壁の間に空気層がそれぞれ介在する。このように耐熱陶器は空気層と熱伝導壁とスカート部の多重構造によって包囲されることから、かかる多重構造が熱を保持して、IH装置をオフにした後も容器内の食材に熱が入り続け、調理が持続する。なおスカート部は、容器本体に一体形成されている陶器であってよいし、あるいは容器本体に取り付け固定される別部材であってもよい。空気層の厚みは特に限定されない。
【0007】
熱膨張差を吸収するため、熱伝導壁は寸法差を伴って発熱体および容器本体に取り付けられるとよい。この場合、熱伝導壁は若干の相対移動を許容される。本発明の一局面として熱伝導壁は、発熱板により下方移動を規制される。かかる局面によれば容器本体に対し、熱伝導壁を抜け止めすることができる。
【0008】
熱伝導壁の形状は特に限定されない。例えば熱伝導壁は筒状であり、耐熱陶器の側壁全周を包囲する。本発明の好ましい局面として、熱伝導壁の上縁はフランジ形状である。かかる局面によれば熱伝導壁の剛性が大きくなり、熱伝導壁が高温になっても、不所望な熱変形を抑制することができる。
【0009】
本発明のさらに好ましい局面として、熱伝導壁の下縁は内向きフランジ形状であり、容器本体の底壁と発熱板の間に係合する。かかる局面によれば、熱伝導壁が上下に移動してスカート部または容器本体の側壁に衝突することを防止できる。他の局面として熱伝導壁は、上方のスカート部と下方の発熱板の間で上下移動を規制されてもよいし、あるいは側壁の上側領域と下方の発熱板の間で上下移動を規制されてもよい。
【0010】
発熱板の材質は特に限定されない。本発明の好ましい局面として、発熱板はカーボンを主成分とする。かかる局面によれば、容器本体と発熱板の熱膨張差を少なくすることができる。また本発明の一局面として、熱伝導壁はステンレス鋼である。ステンレス鋼はある程度の熱伝導性を有し、強度が大きく錆に強いことから、熱伝導性能および耐久性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のIH用調理容器は、火気厳禁の場所およびオール電化住宅において、ガス火による無水調理と遜色のない、IH装置による無水調理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態になるIH用調理容器を示す縦断面図である。
図2】同実施形態を示す分解斜視図である。
図3図1中、熱伝導板と相手材の係合個所を拡大して示す断面図である。
図4】本発明の変形例になるIH用調理容器について、熱伝導板と相手材の係合個所を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になるIH用調理容器を示す縦断面図である。図2は、同実施形態を示す分解斜視図である。IH用調理容器10は、容器本体11と、発熱板21と、熱伝導壁31を備える。
【0014】
容器本体11は、略円筒状の側壁12と、平坦な円形の底壁13と、側壁12に設けられるスカート部14と、側壁12に設けられる1対の把持部15を有する耐熱陶器であり、容器本体11の内部に食材を入れて、無水調理等の加熱調理の用途に供される。側壁12の下縁は底壁13の外縁と一体に結合する。側壁12および底壁13は土鍋の基本構成になる。陶器は、保温性に優れ、ある程度の熱伝導性を有する。
【0015】
底壁13は、下面側を研削されており、側壁12の肉厚よりも薄くされ、下面を平坦にされる。
【0016】
側壁12は下縁から上縁に向かって徐々に大径となるよう広がっている。側壁12の上側部分には上向きの環状段差16が形成される。環状段差16には図示しない蓋体が載置される。蓋体はある程度の重量を有し、全周に亘って環状段差16と接触することで、容器本体11の内部空間を閉鎖する。これにより無水調理が可能になる。側壁12の上縁12cは、環状段差16よりも外径側で、拡径しながら上方へ立ち上がる。上縁12cには直径方向に離隔して、把持部15が対設される。把持部15は、上縁12cよりもさらに上方かつ外径側へ突出する。
【0017】
スカート部14は側壁12の上側寄りの外側面から分岐して下方へ広がるように延び、側壁12の下側領域の外側面を包囲する。側壁12の下側領域は下方へすぼまるように形成されている。上下方向に関し、側壁12の形状は下方へ縮径し、スカート部14の形状は下方へ拡径する。これにより外径側のスカート部14と内径側の側壁12間には三角形断面の環状空間が形成される。なお本実施形態の側壁12と、底壁13と、スカート部14と、把持部15は一体に形成されている。
【0018】
発熱板21は、その上面22が平坦な円板形状であり、電磁誘導加熱される材料を含む。本実施形態の発熱板21はカーボン製である。発熱板21の上面は耐熱性接着剤によって底壁13の下面に貼着される。耐熱性接着剤として例えば、230℃近くまでの加熱に耐えられるシリコーン系接着剤がある。具体的な耐熱性シリコーン接着剤としては、例えば、1成分加熱硬化型シリコーン接着剤であるモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製のTSE322、TSE322-B、TSE3250を挙げることができる。
【0019】
発熱板21の外縁下部には、下面中心領域23よりも外径側に凸部24が複数形成される。これにより発熱板21の下面中心領域23は、下面外縁の凸部24よりも高くされる。凸部24は、図示しないIH装置の天板に載置される。かかるIH装置によって発熱板21は電磁誘導加熱される。
【0020】
熱伝導壁31は側壁12の形状に対応する略円筒形状であり、発熱板21の外縁から上方へ広がるように延びる。熱伝導壁31は、熱伝導性に優れるよう、容器本体11および発熱板21とは異なる材料で形成される。発熱板21の熱を速やかに容器本体11の周囲に供給するよう、熱伝導壁31は容器本体11よりも熱伝導性に優れる材料で構成される。本実施形態の熱伝導壁31はステンレス製であり、ステンレス板を上方へ拡径するようにへら絞り加工して作成される。
【0021】
図1に示すように、熱伝導壁31の下縁には内向きフランジ32が一体形成される。内向きフランジ32は発熱板21の外縁と接触しており、熱伝導壁31は発熱板21に支持される。これにより発熱板21の熱が熱伝導壁31に伝達し、熱伝導壁31は加熱される。熱伝導壁31の上縁には外向きのフランジ33が一体形成される。これらのフランジにより熱伝導壁31は剛性を大きくされ、不所望な熱変形を抑制される。
【0022】
熱伝導壁31は、スカート部14と内径側の側壁12で区画される環状空間に配置され、側壁12を包囲する。熱伝導壁31の内側面と側壁12の外側面の間には径方向に開いた隙間(空気層)が介在する。熱伝導壁31の外側面とスカート部14の内側面にも径方向に開いた隙間(空気層)が介在する。これにより側壁12は、複数の空気層と、熱伝導壁31と、スカート部14で多重に包囲される。
【0023】
図3は、熱伝導板と相手材の係合個所を示す断面図であり、図1中の丸囲みを拡大して表す。発熱板21の外縁上側には周方向に延びる段差25が形成される。段差25よりも外径側には、上向きの環状平面26が、上面22よりも低く形成される。内向きフランジ32の下面は環状平面26と面接触しており、熱伝導壁31は発熱板21に支持される。
【0024】
内向きフランジ32で区画される開口は段差25の輪郭よりも大きく、発熱板21の輪郭よりも小さい。また内向きフランジ32の厚みは、段差25の高さおよび接着剤層27の厚みの合計よりも小さい。このように熱伝導壁31が発熱板21と係合する個所において寸法差を設けることにより、熱膨張の差を吸収することができる。この寸法差のため熱伝導壁31は、容器本体11および熱伝導壁31に対し若干の移動が可能である。発熱板21は、環状の段差25により、熱伝導壁31の側方移動を規制する。また発熱板21は、熱伝導壁31の下方移動を規制する。
【0025】
本実施形態では、底壁13の外縁と発熱板21の環状平面26の間に上下方向に開いた隙間が形成され、かかる隙間に熱伝導壁31の内向きフランジ32が配置される。つまり熱伝導壁31は、底壁13の外縁と発熱板21の環状平面26によって上下移動を規制される。
【0026】
ところで本実施形態のIH用調理容器10は、耐熱陶器からなる容器本体11と、容器本体の側壁12外側面から下方へ広がるスカート部14と、容器本体11の底壁13下面に設けられて電磁誘導加熱される発熱板21と、発熱板21の外縁から上方へ広がる熱伝導壁31とを備える。耐熱陶器により、無水調理が可能になり、保温性が向上する。発熱板21により容器本体11の底壁13が加熱され、熱伝導壁31により容器本体11の側壁12が加熱され、IH調理が可能となる。
【0027】
また熱伝導壁31はスカート部14および容器本体11の側壁12に区画される環状空間に配置され、スカート部14と熱伝導壁31の間、および熱伝導壁31と側壁12の間に空気層がそれぞれ介在する。このように容器本体11は空気層と熱伝導壁31とスカート部14の多重構造によって包囲されることから、かかる多重構造が熱を保持して、IH装置をオフにした後も、側壁12外側面から容器本体11内の食材へ内径方向に熱が入り続け、調理が持続する。
【0028】
IH用調理容器10は、水炊き等、従来の土鍋と同様に使用可能であるばかりでなく、従来の土鍋よりも保温性能に優れ、食材のみを容器本体11に投入して蓋体(図略)をし、加熱することで無水調理できる。本実施形態によれば、米飯が美味しく炊け、シチュー、カレー、スープ、魚、肉、野菜等を美味しく調理できる。
【0029】
また本実施形態の熱伝導壁31と発熱板21の係合個所には寸法差があり、容器本体11および発熱板21に対して若干の相対移動が可能とされる。そして熱伝導壁31は、発熱板21により下方移動および側方移動を規制される。この寸法差により熱伝導壁31と容器本体11と発熱板21の熱膨張差を吸収することができる。
【0030】
また本実施形態の熱伝導壁31の上縁にはフランジ33が形成されることから、熱伝導壁31の不所望な熱変形が抑制される。
【0031】
また本実施形態の熱伝導壁31の下縁には内向きフランジ32が形成され、容器本体11の底壁13と発熱板21の間に係合することから、熱伝導壁31が上下方向に移動する際に熱伝導壁31がスカート部12または側壁12に衝突することを防止することができる。
【0032】
また本実施形態の発熱板はカーボンを主成分とするカーボン板であることから、耐熱陶器に近い線膨張係数を有し、金属製発熱板よりも軽量にすることができる。
【0033】
また本実施形態の熱伝導壁31はステンレス鋼であることから、熱伝導性と耐久性の両立を図ることができる。
【0034】
次に本発明の変形例を説明する。図4は本発明の変形例を示す拡大縦断面図であり、図1の丸囲みを表す。この変形例につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この変形例では底壁が小さくされるとともに、側壁12の下部が図3の実施形態よりも大きな円弧断面に形成される。内向きフランジ32は、底壁と対面してなく、側壁12の下部円弧面と対面する。熱伝導壁31は、スカート部14または容器本体11の側壁12により上方移動を規制される。かかる変形例であっても、前述した実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0035】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、日用品において有利に利用される。
【符号の説明】
【0037】
10 IH用調理容器、 11 容器本体、 12 側壁、
13 底壁、 14 スカート部、 21 発熱板、
22 上面、 23 凸部、 25 段差、
26 環状平面、 27 接着剤層、 31 熱伝導壁、
32 内向きフランジ。
図1
図2
図3
図4