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特許7360666ロタキサンポリウレア、ロタキサンポリウレア・ウレタン、およびこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ロタキサンポリウレア、ロタキサンポリウレア・ウレタン、およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/64 20060101AFI20231005BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20231005BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08G18/64
C08G18/32 028
C08G18/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019236370
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105101
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 俊之
(72)【発明者】
【氏名】田中 真実
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】赤江 要祐
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-019371(JP,A)
【文献】特開2018-030928(JP,A)
【文献】特開2019-099607(JP,A)
【文献】特開2008-184583(JP,A)
【文献】特開2010-159313(JP,A)
【文献】国際公開第2020/032056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有するロタキサンポリウレアであって、
前記ポリウレア鎖は、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通している炭素数が6~20の直鎖アルカンジアミンとを有するロタキサンジアミンとジイソシアネートとの反応により分子鎖にウレア結合が形成されたものであることを特徴とするロタキサンポリウレア。
【請求項2】
前記ジイソシアネートは、ジイソシアネートモノマーあるいはジイソシアネートマクロモノマーである請求項1に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項3】
前記ロタキサンジアミンは、2個の環状分子と、前記2個の環状分子を貫通している炭素数が6~20の直鎖アルカンジアミンとを有するものである請求項1または2に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項4】
前記ロタキサンジアミンは、環状分子が炭素数が6~20の直鎖アルカンジアミンから脱離するのを防止する封鎖基を有さないものである請求項1~3のいずれか一項に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項5】
前記ロタキサンジアミンが有する炭素数が6~20の直鎖アルカンジアミンは、ドデカンジアミンである請求項1~4のいずれか一項に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項6】
前記ポリウレア鎖は、前記環状分子がポリウレア鎖から脱離するのを封鎖する封鎖構造を主鎖中または主鎖末端に有する請求項1~5に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項7】
前記主鎖中の封鎖構造は、前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を二つ有する化合物であって、前記環状分子を立体障害により封鎖する封鎖化合物により形成されている請求項6に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項8】
前記封鎖化合物は、ジアミン、ジイソシアネート、ジオールよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物である請求項7に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項9】
前記主鎖末端の封鎖構造は、前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を一つ有する化合物であって、前記環状分子を立体障害により封鎖する封鎖化合物により形成されている請求項6に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項10】
前記封鎖化合物は、モノアミン、モノイソシアネート、モノアルコールよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物である請求項9に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項11】
前記環状分子は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、およびγ―シクロデキストリンよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~10のいずれか一項に記載のロタキサンポリウレア。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のロタキサンポリウレアのポリウレア鎖の分子鎖に、さらにウレタン結合を有することを特徴とするロタキサンポリウレア・ウレタン。
【請求項13】
環状分子と前記環状分子を貫通している炭素数が6~20の直鎖アルカンジアミンとを有するロタキサンジアミンと、前記環状分子を貫通することができるジイソシアネートとを反応させることを特徴とするロタキサンポリウレアの製造方法。
【請求項14】
環状分子と前記環状分子を貫通している炭素数が6~20の直鎖アルカンジアミンとを有するロタキサンジアミンと、
前記環状分子を貫通することができるジイソシアネートと、
前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を二つ有する化合物であって、前記環状分子を立体障害により封鎖する封鎖化合物とを反応させることにより、
前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖を形成することを特徴とするロタキサンポリウレアの製造方法。
【請求項15】
前記ジイソシアネートとして、ジイソシアネートマクロモノマーを使用する請求項13または14に記載のロタキサンポリウレアの製造方法。
【請求項16】
前記ジイソシアネートマクロモノマーとして、ジイソシアネートモノマーとポリエーテルジオールとを反応させてなるものを使用する請求項15に記載のロタキサンポリウレアの製造方法。
【請求項17】
前記封鎖化合物として、ジアミン、ジイソシアネート、ジオールよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用する請求項14に記載のロタキサンポリウレアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なロタキサンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロタキサンについて、種々の研究・開発がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、包接格子を構成するα-サイクロデキストリン分子にポリエチレングリコール分子が串刺し状に包接されており、且つ前記α-サイクロデキストリン分子が前記ポリエチレングリコール分子から脱離できなくするに充分嵩高い封鎖基で前記ポリエチレングリコール分子の両末端が化学修飾されていることを特徴とするゲスト高分子がエンドキャップされたα-サイクロデキストリンの包接化合物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数のシクロデキストリン分子の開口部にカルボキシル化ポリエチレングリコールが串刺し状に包接され、該カルボキシル化ポリエチレングリコールの両末端に前記複数のシクロデキストリン分子が遊離しないように封鎖する封鎖基を有するポリロタキサンであって、前記両末端は、カルボキシル基と反応する基を有する封鎖基とカルボキシル基とが反応して得られる構造を有するポリロタキサンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-25307号公報
【文献】特開2005-154675公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のポリロタキサンは、ポリエチレングリコール(PEG)を軸分子とするものである。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規なロタキサンおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロタキサンポリウレアは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有することを特徴とする。環状分子を貫通している軸分子がポリウレア鎖であるところに特徴がある。
【0008】
本発明のロタキサンポリウレアの製造方法は、環状分子と前記環状分子を貫通しているジアミンとを有するロタキサンジアミンと、前記環状分子を貫通することができるジイソシアネートと、前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を二つ有する化合物であって、前記環状分子を立体障害により封鎖する封鎖化合物とを反応させることにより、前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、新規なロタキサンおよびその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のロタキサンポリウレアの分子構造の一態様を模式的に説明する模式図である。
図2】本発明のロタキサンポリウレアの分子構造の一態様を模式的に説明する模式図である。
図3】本発明のロタキサンポリウレアの分子構造の一態様を模式的に説明する模式図である。
図4】本発明で使用するロタキサンジアミンの分子構造の一態様を模式的に説明する模式図である。
図5】本発明のロタキサンポリウレアを製造する反応スキームの一例を模式的に説明する模式図である。
図6】本発明のロタキサンポリウレアを製造する反応スキームの一例を示す説明図である。
図7】本発明のロタキサンポリウレアを製造する反応スキームの一例を示す説明図である。
図8】本発明のロタキサンポリウレアを製造する反応スキームの一例を示す説明図である。
図9】本発明のロタキサンポリウレアを製造する反応スキームの一例を示す説明図である。
図10】本発明のロタキサンポリウアの一例のH-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のロタキサンポリウレアは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有することを特徴とする。本発明のロタキサンポリウレアは、環状分子の空洞部を軸分子であるポリウレア鎖が貫通しているロタキサン構造を有する。
【0012】
本発明において、「ロタキサン」とは、少なくとも1個の環状分子と、前記環状分子の空洞部を貫通している軸分子とを有する構造を有する分子を意味する。軸分子に、前記環状分子が軸分子から脱離するのを封鎖する構造の有無を問わないものとする。軸分子が貫通している環状分子が2個以上の「ロタキサン」を「ポリロタキサン」と称する場合がある。軸分子が貫通している環状分子が2個以上である「ポリロタキサン」は、軸分子が貫通している環状分子が少なくとも1個以上である「ロタキサン」に含まれる。また、「ロタキサンポリウレア」および「ロタキサンジアミン」と称する場合、「ポリウレア」および「ジアミン」はそれぞれ、環状分子を貫通している軸分子を意味する。
【0013】
本発明のロタキサンポリウレア1分子が有する環状分子の数は、少なくとも1個であれば、特に限定されない。1分子のロタキサンポリウレアが有する環状分子の数は、3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、5個以上であることがさらに好ましく、100個以下であることが好ましい。
【0014】
図1は、本発明のロタキサンポリウレアを模式的に示す模式図である。ロタキサンポリウレア1は、環状分子3と、前記環状分子3を貫通しているポリウレア鎖5とを有する。図1に示した態様のロタキサンポリウレア1は、ポリウレア鎖5に環状分子3がポリウレア鎖5から脱離するのを封鎖する封鎖構造を有していない。従って、環状分子3は、ポリウレア鎖5の全域に渡って可動することができる。ポリウレア鎖5の分子量が大きくなると、ポリウレア鎖5同士が絡み合って、環状分子3がポリウレア鎖5から脱離するのが抑制される。
【0015】
本発明のロタキサンポリウレアは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有し、前記ポリウレア鎖は、前記環状分子がポリウレア鎖から脱離するのを封鎖する封鎖構造を主鎖中または主鎖末端に有することが好ましい。主鎖末端に設ける態様は、主鎖の両末端にのみ封鎖構造が設けられていることが好ましい。封鎖構造を有することにより、ポリウレア鎖から環状分子の脱離が抑止される。
【0016】
図2は、本発明のロタキサンポリウレアについて、環状分子の封鎖構造の一態様を示す模式図である。ロタキサンポリウレア1は、環状分子3と、前記環状分子3を貫通しているポリウレア鎖5とを有する。ポリウレア鎖5の主鎖中には前記環状分子3がポリウレア鎖5から脱離するのを封鎖する封鎖構造7が設けられている。環状分子3は、隣接する封鎖構造7の間で軸分子に沿って可動することができる。
【0017】
図3は、本発明のロタキサンポリウレアについて、環状分子の封鎖構造の別の態様を示す模式図である。ロタキサンポリウレア1は、環状分子3と、前記環状分子3を貫通しているポリウレア鎖5とを有する。ポリウレア鎖5の主鎖の両末端にのみ、前記環状分子3がポリウレア鎖5から脱離するのを封鎖する封鎖構造7が設けられている。環状分子3は、軸分子であるポリウレア鎖5の全域に渡って可動することができる。
【0018】
本発明のロタキサンポリウレアは、好ましくは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているジアミンとを有するロタキサンジアミンと、ジイソシアネートとの反応により得られる。
【0019】
本発明のロタキサンポリウレアの軸分子であるポリウレア鎖について説明する。前記ポリウレア鎖は、分子鎖に複数のウレア結合を有し、且つ、環状分子を貫通できるものであれば、特に限定されない。前記ポリウレア鎖は、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているジアミンとを有するロタキサンジアミンとジイソシアネートとの反応により分子鎖にウレア結合が形成されたものであることが好ましい。ロタキサンジアミンが有するジアミンとジイソシアネートとが反応して、複数のウレア結合を有するポリウレア鎖が形成される。形成されたポリウレア鎖は、ロタキサンジアミンが有している環状分子を貫通している状態を維持しているので、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有するロタキサン構造が形成される。
【0020】
本発明のロタキサンポリウレアを構成するロタキサンジアミンについて説明する。
【0021】
1.ロタキサンジアミン
前記ロタキサンジアミンは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているジアミンとを有するものである。すなわち、ロタキサンジアミンは、環状分子の空洞部を軸分子であるジアミンが貫通しているロタキサン構造を有している。
【0022】
図4は、本発明で使用するロタキサンジアミンを模式的に示す模式図である。ロタキサンジアミン9は、2個の環状分子11と前記環状分子を貫通しているジアミン13とを有する。
【0023】
1分子のロタキサンジアミンが有する環状分子の数は、少なくとも1個であれば、特に限定されない。1分子のロタキサンジアミンが有する環状分子の数は、2個以上であることが好ましく、8個以下であることが好ましく、4個以下であることがより好ましい。
【0024】
前記ロタキサンジアミンは、環状分子が、軸分子であるジアミンから脱離するのを防止する封鎖基を有していても、有していなくてもよい。本発明では、環状分子がジアミンから脱離するのを防止する封鎖基を有していないロタキサンジアミンを使用することが好ましい。封鎖基がなければ、ロタキサンジアミンが有する環状分子は、ジアミンに由来する分子鎖に拘束されず、ポリウレア鎖を構成する他の分子鎖部分へ移動することができる。なお、本発明では、封鎖基を有さないロタキサンジアミンを、「擬ロタキサンジアミン」と称することがある。
【0025】
前記環状分子とは、中央に空洞部を有する環状構造を持つ有機化合物である。前記環状分子としては、例えば、クラウンエーテル、シクロデキストリンなどが挙げられる。前記環状分子としては、シクロデキストリンが好ましい。
【0026】
前記シクロデキストリンは、環状構造を有するオリゴ糖の総称である。シクロデキストリンは、例えば、6~8個のD-グルコピラノース残基がα-1,4-グルコシド結合により環状に結合したものである。シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β-シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ-シクロデキストリン(グルコース数:8個)などが挙げられ、α-シクロデキストリンが好ましい。α-シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β-シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ-シクロデキストリン(グルコース数:8個)の空洞部の内径は、それぞれ、約0.57nm、約0.78nm、約0.95nmである。
【0027】
前記ジアミンとは、アミノ基を2つ有する有機化合物である。前記ジアミンとしては、前記環状分子を貫通できるように立体障害が小さいものであることが好ましい。このような観点から、前記ジアミンは、直鎖状ジアミンが好ましく、直鎖アルカンジアミンがより好ましい。なお、アミノ基は、ジイソシアネートとの反応性を高めるために、分子鎖の両末端にあることが好ましい。
【0028】
前記ジアミンの炭素数は、特に限定されないが、環状分子を貫通する数と、環状分子の貫通しやすさとのバランスなどの点から、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、12以上が特に好ましく、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
【0029】
前記ジアミンとしては、例えば、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,17-ヘプタデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン、1,19-ノナデカンジアミン、1,20-イコサンジアミンなどを挙げることができる。本発明で使用するジアミンは、1,12-ドデカンジアミンであることが好ましい。
【0030】
2.ジイソシアネート
前記ジイソシアネートとは、イソシアネート基を2つ有する有機化合物である。前記ジイソシアネートは、軸分子であるポリウレア鎖を構成する。また、ポリウレア鎖において、環状分子の可動領域を構成することから、立体障害が小さいジイソシアネートが好ましい。
【0031】
前記ジイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネートモノマー、および、ジイソシアネートマクロモノマーが挙げられる。
【0032】
前記ジイソシアネートモノマーとしては、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0033】
前記ジイソシアネートマクロモノマーとしては、例えば、イソシアネート基と反応する官能基を2つ有する化合物と、前記ジイソシアネートモノマーとを、イソシアネート基が過剰になるような条件で反応させてなる生成物である。生成物であるジイソシアネートマクロモノマーは、ジイソシアネートモノマーに比べて高分子量化されているマクロモノマー(プレポリマー)であり、イソシアネート基を末端に二つ有する。
【0034】
イソシアネート基と反応する官能基を2つ有する化合物としては、ジオール、ジアミン、アミノアルコールなどを挙げることができる。
【0035】
前記ジオールとしては、分子量が500未満の低分子量ジオールや数平均分子量が500以上の高分子量ジオールを挙げることができる。本発明では、ジイソシアネートマクロモノマーを構成するジオール成分として、数平均分子量が500~10000のジオールを使用することが好ましく、数平均分子量が1000~5000のジオールを使用することがより好ましい。
【0036】
前記低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオールを挙げることができる。
【0037】
前記高分子量のジオールとしては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0038】
前記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0039】
前記ジイソシアネートマクロモノマーの数平均分子量は、500以上が好ましく、800以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましく、10000以下が好ましく、8000以下がより好ましく、5000以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明の好ましい態様では、前記ジイソシアネートマクロモノマーは、例えば、ジイソシアネートモノマーとポリエーテルジオールとを、NCO/OH=2/1~3/2(モル比)で反応させてなるイソシアネート基末端のプレポリマーであることが好ましい。
【0041】
本発明のより好ましい態様では、前記ジイソシアネートマクロモノマーは、2,4-トルエンジイソシアネートとポリオキシプロピレングリコール(PPG)とが反応してなる下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
(1)
[式(1)中、nは、繰り返し単位の数を表し、7~180の数である。]
【0042】
3.ポリウレア鎖を構成し得るその他の成分
本発明のロタキサンポリウレアは、軸分子であるポリウレア鎖を構成する成分として、前述したロタキサンジアミンとジイソシアネートに加えて、ジアミンおよび/またはジオールなどを構成成分として有しても良い。
【0043】
前記ジアミンとしては、ロタキサンジアミンの軸成分であるジアミンとして列挙したものを使用することができる。また、前記ジオールとしては、ジイソシアネートマクロモノマーを構成するジオール成分として列挙したものを使用することができる。
【0044】
本発明のロタキサンポリウレアが、ポリウレア鎖を構成する成分として、ジオール成分を含有する場合、環状分子を貫通している軸分子であるポリウレア鎖には、ウレア結合に加えてウレタン結合が生成する。そのため、ポリウレア鎖は、ロタキサンポリウレア・ウレタン鎖になる。従って、本発明のロタキサンポリウレアは、ロタキサンポリウレア・ウレタンを含む。
【0045】
4.封鎖化合物
本発明のロタキサンポリウレアは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有し、前記ポリウレア鎖は、前記環状分子がポリウレア鎖から脱離するのを封鎖する封鎖構造を主鎖中または主鎖末端に有することが好ましい。
【0046】
封鎖構造を形成する分子の大きさは、環状分子の内径に応じて適宜選択すればよい。例えば、ベンゼン環の外接円の直径は、約0.278nmであり、ベンゼン環のC-H結合の長さは、0.110nmである。例えば、メタン分子におけるC-H結合距離は、0.110nmである。エタン分子におけるC-C結合距離は、約0.153nmであり、C-H結合距離は、0.110nmである。
【0047】
前記ポリウレア主鎖中の封鎖構造は、前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を二つ有する化合物であって、前記環状分子を立体障害により封鎖する封鎖化合物(以下、「二官能基封鎖化合物」という場合がある。)により形成されることが好ましい。
【0048】
前記二官能基封鎖化合物は、アミノ基またはイソシアネート基と反応可能な官能基を二つ有し、且つ、立体障害により前記環状分子を封鎖するものであれば特に限定されない。前記二官能基封鎖化合物としては、ジアミン、ジイソシアネート、ジオールなどが挙げられる。
【0049】
前記二官能基封鎖化合物の具体例としては、ビス(4-イソシアネート-3,5-ジエチルフェ二ル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジエチルフェ二ル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェ二ル)メタンなどが挙げられる。
【0050】
封鎖構造を主鎖中に有する場合、ポリウレア鎖を構成する二官能基封鎖化合物の割合は、1.0モル%以上が好ましく、1.5モル%以上がより好ましく、2.0モル%以上がさらに好ましく、10.0モル%以下が好ましく、8.0モル%以下がより好ましく、6.0モル%以下がさらに好ましい。二官能基封鎖化合物の割合が1.0モル%以上であれば、封鎖構造により、環状分子のポリウレア鎖からの脱離を抑止できる。また、二官能基封鎖化合物の割合が10.0モル%以下であれば、ポリウレア鎖における環状分子の可動領域が広くなる。その結果、得られるロタキサンポリウレアの物性が良好となる。なお、二官能基封鎖化合物の割合は、以下の式で算出される。
二官能基封鎖化合物の割合=100×[二官能基封鎖化合物のモル数/(二官能基封鎖化合物のモル数+ジイソシアネートのモル数+ロタキサンジアミンのモル数)
【0051】
前記ポリウレア主鎖末端の封鎖構造は、前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を一つ有する化合物であって、前記環状分子を立体障害により封鎖する封鎖化合物(以下、「単官能基封鎖化合物」という場合がある。)により形成されることが好ましい。
【0052】
前記単官能基封鎖化合物は、アミノ基またはイソシアネート基と反応可能な官能基を一つ有し、且つ、前記環状分子を立体障害により封鎖するものであれば特に限定されない。前記単官能基封鎖化合物としては、モノアミン、モノイソシアネート、モノアルコールなどが挙げられる。
【0053】
前記単官能基封鎖化合物の具体例としては、3,5-ジメチルフェニルイソシアナート、3,5-ジメチルベンジルアミン、3,5-ジメチルベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0054】
本発明のロタキサンポリウレアは、ブロック型、ランダム型のいずれもよい。製造方法を適宜選択することで、ブロック型、ランダム型のいずれかにすることができる。
【0055】
本発明のロタキサンポリウレアの分子全体の数平均分子量(Mn)は、15,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、25,000以上がさらに好ましい。その上限は、特に限定されないが、500,000が好ましい。
【0056】
本発明のロタキサンポリウレアの軸分子であるポリウレア鎖の数平均分子量(Mn)は、15,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、25,000以上がさらに好ましい。その上限は、特に限定されないが、500,000が好ましく、より好ましくは450,000、さらに好ましくは400,000である。
【0057】
本発明のロタキサンポリウレアの分子全体の分子量分布(PDI)(Mw/Mn)は、1.5以上が好ましく、1.7以上がより好ましく、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
【0058】
前記数平均分子量、分子量分布は、後述する方法により測定されるものである。
【0059】
本発明のロタキサンポリウレアのヤング率は、5MPa以上が好ましく、6MPa以上がより好ましく、7MPa以上がさらに好ましい。
【0060】
本発明のロタキサンポリウレアの破断伸度は、50%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、300%以上がさらに好ましく、500%以上が最も好ましい。
【0061】
本発明のロタキサンポリウレアの破断応力は、1.5MPa以上が好ましく、2.0MPa以上がより好ましく、3.0MPa以上がさらに好ましい。
【0062】
前記ヤング率、破断ひずみ、破断応力は、後述する方法により測定されるものである。
【0063】
本発明のロタキサンポリウレアにおいて、ポリウレア鎖を構成する、ロタキサンジアミンの軸分子であるジアミン成分を環状分子が包接している割合(カバー率θ1)は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。カバー率θ1が前記範囲内であれば、十分な伸びと強度を得られるからである。
【0064】
本発明のロタキサンポリウレアにおいて、ポリウレア鎖全体を環状分子が包接している割合(カバー率θ2)は、0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。カバー率θ2が前記範囲内であれば、十分な伸びと強度を得られるからである。
【0065】
なお、前記カバー率θ1およびθ2は、後述するように、ロタキサンポリウレアをH-NMR測定することにより算出される。
【0066】
次に、本発明のロタキサンポリウレアの製造方法について説明する。
【0067】
本発明のロタキサンポリウレアは、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているジアミンとを有するロタキサンジアミンと、ジイソシアネートとを反応させることにより得られる。ロタキサンジアミンが有するジアミンとジイソシアネートとが反応して、複数のウレア結合を有するポリウレア鎖が形成される。形成されたポリウレア鎖は、ロタキサンジアミンが有している環状分子を貫通している状態を維持しているので、少なくとも1個の環状分子と前記環状分子を貫通しているポリウレア鎖とを有するロタキサン構造が形成される。
【0068】
好ましい態様では、ジイソシアネート成分としては、上述したジイソシアネートマクロモノマーを使用する。ジイソシアネートマクロモノマーを使用することにより、ロタキサンポリウレアの高分子量化が容易になるからである。
【0069】
本発明のロタキサンポリウレアの製造には、前述したロタキサンジアミンとジイソシアネートに加えて、軸分子であるポリウレア鎖を構成する成分として、ジアミンおよび/またはジオールなどを構成成分として使用してよい。
【0070】
反応は、すべての原料を一括で反応させるワンショット法、一部の原料を先に反応させて中程度の分子量のプレポリマーを作製し、このプレポリマーを、鎖長延長剤成分を用いてさらに高分子量化するプレポリマー法などを挙げることができる。
【0071】
本発明の製造方法では、ロタキサンポリウレアが有するポリウレア鎖に、環状分子がポリウレア鎖から脱離するのを封鎖する封鎖構造を主鎖中または主鎖末端に設けることが好ましい。
【0072】
ポリウレア鎖の主鎖末端(好ましくは、主鎖の両末端にのみ)に封鎖構造を設ける場合、例えば、ロタキサンジアミンとジイソシアネートを反応させてポリウレア鎖を作製し、ポリウレア鎖の両末端に存在するアミノ基またはイソシアネート基と、アミノ基またはイソシアネート基と反応する官能基を1つ有する封鎖化合物とを反応させることにより封鎖構造を主鎖末端に設けることができる。
【0073】
ポリウレア鎖の主鎖中に封鎖構造を設ける場合、ロタキサンジアミンとジイソシアネートと、前記ロタキサンジアミンまたはジイソシアネートと反応する官能基を2つ有する封鎖化合物とを反応させることにより封鎖構造を主鎖中に設けることができる。
【0074】
前記製造方法において使用する封鎖化合物としては、前記した封鎖化合物が挙げられる。これらの封鎖化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
なお、前記製造方法は、ジイソシアネートとして、上記したジイソシアネートモノマーとポリエーテルジオールとを反応させてなるジイソシアネートマクロモノマー(分子内にウレタン結合を有するジイソシアネートマクロモノマー)を使用する場合、生成物が本発明のロタキサンポリウレア・ウレタンに該当する。よって、本発明のロタキサンポリウレア・ウレタンを製造する方法は、前記ロタキサンポリウレアの製造方法に含まれる。
【0076】
本発明の製造方法において、ジイソシアネートとロタキサンジアミンとの反応において、ジイソシアネートのイソシアネート基と、イソシアネート基と反応する官能基を有する化合物の官能基(例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基など)とのモル比は、0.8/1.0~1.2/1.0であることが好ましい。前記モル比が、上記範囲内であれば、分子量が好適になるからである。
【0077】
本発明の製造方法では、溶媒を使用することが好ましい。溶媒の具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが挙げられるが、原料の溶解性が高いDMFが好ましい。
【0078】
本発明の製造方法には、ポリウレタンの合成における公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒が好ましく、特に、ジブチルチンジラウリレートが好適に使用される。
【0079】
ジイソシアネートとロタキサンジアミンとの反応温度は、特に限定されないが、100℃未満が好ましく、50℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。イソシアネート基とアミノ基とは激しく反応するので、低温で反応させることが好ましい。
【0080】
ジイソシアネートとロタキサンジアミンとの反応時間は、特に限定されないが、6時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、18時間以上がさらに好ましい。また、生産効率の観点から、反応時間は、24時間以下とすることが好ましい。
【0081】
前記製造方法で得られる生成物は、通常の精製方法により精製すればよい。例えば、得られる生成物(溶媒などを含むもの)を水に注ぎ込み、得られる沈殿を真空加熱して乾燥させることにより精製する。
【0082】
図5は、本発明のロタキサンポリウレアを製造する反応スキームの一例を模式的に示す図である。図5では、ロタキサンジアミン9とジイソシアネートマクロモノマー15とロタキサンジアミンまたはジイソシアネートマクロモノマーと反応する官能基Xを2つ有する封鎖化合物17とを反応させることにより、ランダムロタキサンポリウレア19が得られる。
【実施例
【0083】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0084】
[評価方法]
(1)H-NMRスペクトルの測定
H-NMRスペクトルは、重水素化溶媒を用いてBruker Biospin AVANCE DPX-300およびBruker AVANCEIIIHD500により記録した。前記スペクトルは、非重水素化溶媒およびテトラメチルシランを内部標準物質として用いて較正した。
【0085】
(2)数平均分子量、重量平均分子量、分子量分布(分散度)
数平均分子量および重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてDMF(LiBr 5mM)、カラムとしてTOSOH TSKgel G2500HとG4000Hカラムセットを備えたJASCO PU-2080システムを用いて、30℃、流速0.85ml/分間の条件で測定した。分子量分布は、重量平均分子量/数平均分子量により算出した。
【0086】
(3)引張り試験
引張り試験は、50N荷重セルを備えたSHIMADZU AG-ISを用いて、伸長率167%/分間、25℃で測定した。この引張り試験の結果から、引張り物性(ヤング率、破壊ひずみ、破壊応力、破壊エネルギー)を算出した。ヤング率は、0%~10%間のひずみとその応力を用いて算出した。なお、ロタキサンポリウレアからなるシートを、パンチングブレードを用いてダンベル形(60mm)に打抜き、引張り試験用サンプルとした。
【0087】
(4)カバー率θ1(%)
H-NMRの測定結果から、以下のようにして算出した。図10は、下記に示したようにして作製したPU1のH NMRのデータ(400MHz、298K,DMF-d)である。ドデカン鎖の-(CH10-の積分値は20、PPG鎖中のメチル基aの積分値は3×33×0.9=89.1、嵩高いイソシアナート中のメチル基fの積分値は、3×4×0.1=1.2であり、これらの合計値は20+89.1+1.2=110.3である。この積分値を基準値とする。シクロデキストリンのC(1)Hの積分値は3.4である。ここで、ドデカン鎖を2つのシクロデキストリンが包接した場合、カバー率を100%と定義する。ドデカン鎖を2つのシクロデキストリンが包接した場合、シクロデキストリンのC(1)Hの積分値は12である。
従って、ドデカン鎖部分のカバー率θ1は、以下のようにして算出される。
θ1=(3.4/12)×100=28%(PU1)
【0088】
(5)カバー率θ2(%)
シクロデキストリンは、2つのPPGユニットを包接することができる。すなわち、カバー率θ2=100%の場合、16.5のシクロデキストリンユニットが、ジイソシアネートマクロマー(「NCO-PPG」)を包接する。これに、ドデカン鎖の2個のシクロデキストリンユニットを加えると18.5のシクロデキストリンユニットが存在する。ここで、前記で算出したように、PU1のドデカン鎖部分のシクロデキストリンユニット数は、0.57(=3.4/12×2)となる。
従って、ポリウレア鎖のカバー率θ2は、以下のようにして算出される。
θ2=(0.57/18.5)×100=3.0%(PU1)
【0089】
[ロタキサンポリウレア製造用原料]
(1)ロタキサンジアミン
ロタキサンジアミンは、Eur. J. Org. Chem. 2019, 3605-3613に記載した擬[3] ロタキサンP1の合成方法に従って合成した。具体的には、1,12-ジアミノドデカン(8.8g、44mmol)をα-シクロデキストリン(86g、89mmol)の水(600ml)溶液に添加し、混合液を1時間還流させた後、室温で一晩静置した。ろ過により沈殿を収集し、収集した沈殿を水で洗浄した後、真空乾燥し、白色結晶としてロタキサンジアミン(95g)を得た。
【0090】
なお、Eur. J. Org. Chem. 2019, 3605-3613に記載した確認方法によれば、このロタキサンジアミンは、図4に示したように、2個の環状分子(α-シクロデキストリン)と前記環状分子を貫通している末端アミノ基直鎖状ジアミン(1,12-ジアミノドデカン)とからなる封鎖基を有さないものであった。以下、このロタキサンジアミンを、擬[3] ロタキサンジアミンと略称する。
【0091】
(2)ジイソシアネート
ジイソシアネートマクロモノマーとして、下記式(2)の化合物(以下、「NCO-PPG」と略称する)(メルク社製、Mn=2300)を用いた。なお、この化合物は、オキシプロピレンユニットの平均重合度が33のポリプロピレングリコールの両末端に2,4-トルエンジイソシアネートが反応してなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(3量体)である
【0092】
【化2】
(2)
【0093】
また、ジイソシアネートモノマーとして、4,4’-ジフェ二ルメタンジイソシアネート(MDI)を用いた。
【0094】
(3)封鎖化合物
ビス(4-イソシアネート-3,5-ジエチルフェ二ル)メタンは、下記のように合成した。トリホスゲン(9.6g、32mmol)をトルエン(300ml)に溶かした溶液に、ビス(4-アミノ-3,5-ジエチルフェ二ル)メタン(4.5g、15mmol)のトルエン(60ml)溶液を添加し、12時間還流させた。この混合液を室温で冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過して得られたろ過液を蒸発させ、残留物を真空乾燥し、白色固体としてビス(4-イソシアネート-3,5-ジエチルフェ二ル)メタン(2.8g、7.8mmol)を得た。ビス(4-イソシアネート-3,5-ジエチルフェ二ル)メタンの構造は、下記式(3)に示される。なお、生成物は、精製せずにそのまま次の反応に用いた。
【0095】
【化5】
(3)
【0096】
また、ビス(4-アミノ-3,5-ジエチルフェ二ル)メタンは、市販品を用いた。その構造は、下記式(4)で示される。
【0097】
【化6】
(4)
【0098】
[ロタキサンポリウレアの製造]
(1)PU1の製造(ワンショット法)
NCO-PPG(9.6g、4.2mmol)とビス(4-イソシアネート-3,5-ジエチルフェ二ル)メタン(0.17g、0.47mmol)を0℃でDMF(60ml)に溶かした溶液に、擬[3]ロタキサンジアミン(10g、4.7mmol)を添加し、室温で24時間攪拌した。得られた混合液を水に注ぎ込み、沈殿を80℃で真空乾燥し、白色固体としてロタキサンポリウレアPU1(10.5g、収率:53%)を得た。PU1の反応スキームは、図6に示した。得られたロタキサンポリウレアは、ランダム構造を有する。PU1のH NMRのデータは、下記の通りである。
【0099】
1H NMR (300 MHz, 298 K, DMF-d7) δ 8.32-7.90 (m, 1.2H), 7.85-6.49 (m, 5.8H), 5.10-4.81 (m, C(1)H, 3.4H), 3.84-3.15 (m, 113.5H), 2.58 (s, 0.80H), 2.24-2.05 (m, 5.4H), 1.52-0.86 (m, 110.3H) ppm.
【0100】
(2)PU2の製造(プレポリマー法)
NCO-PPG(9.6g、4.2mmol)を0℃でDMF(60ml)に溶かした溶液に、擬[3]ロタキサンジアミン(10g、4.7mmol)を添加し1時間反応させた後、ビス(4-イソシアネート-3,5-ジエチルフェ二ル)メタン(0.17g、0.47mmol)を添加し、室温で24時間攪拌した。得られた混合液を水に注ぎ込み、沈殿を80℃で真空乾燥し、白色固体としてロタキサンポリウレアPU2(10.9g、収率:55%)を得た。得られたロタキサンポリウレアは、ランダム構造を有する。
【0101】
(3)PU3~PU7の製造
NCO-PPGをDMFに溶かした溶液に、擬[3]ロタキサンジアミンを添加し24時間攪拌した後、封鎖化合物としてビス(4-アミノ-3,5-ジエチルフェ二ル)メタンを使用し、また各原料の配合や使用溶媒を表1の通り変更した以外、PU2の製造と同様にして、各ロタキサンポリウレアPU3~PU7を製造した。PU3~PU7の反応スキームを図7に示した。
【0102】
(4)PU8~PU10の製造
封鎖化合物を使用せず、ジイソシアネートとしてさらにMDIを使用し、各原料の配合を表1の通り変更した以外、PU1の製造と同様にして、各ロタキサンポリウレアPU8~PU10を製造した。PU8~PU10の反応スキームを図8に示した。
【0103】
(5)PU11~PU13の製造
封鎖化合物を使用せず、擬[3]ロタキサンジアミンとNCO-PPGの当量比を1:0.9から1:1に変更し、またNCO-PPGをDMFに溶かした溶液に、擬[3] ロタキサンジアミンを添加し室温で24時間攪拌した後、反応温度を表1の通り変更しさらに24時間反応した以外、PU1の製造と同様にして、各ロタキサンポリウレアPU11~PU13を製造した。PU11~PU13の反応スキームを図9に示した。
【0104】
前記PU1~PU13について、使用原料・配合、製造方法、使用溶媒、反応温度、生成物の収率、Mn、Mw、PDI、カバー率は、表1、2にまとめた。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
また、前記PU1~PU13のうちPU2~PU5を用い、各引張り物性(ヤング率、破断ひずみ、破断応力)を測定した。結果は、表3にまとめた。
【0108】
【表3】
【0109】
本発明のロタキサンポリウレアは、新規な材料として有用である。
【符号の説明】
【0110】
1:ロタキサンポリウレア、3:環状分子、5:ポリウレア鎖、7:封鎖構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10