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  • 特許-調味剤、温泉飲料および飲料収容体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】調味剤、温泉飲料および飲料収容体
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20231005BHJP
   B65D 51/22 20060101ALI20231005BHJP
   B65D 47/36 20060101ALI20231005BHJP
   B65D 81/32 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 2/60 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20231005BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A23L27/00 D
B65D51/22
B65D47/36 100
B65D81/32 H
A23L2/00 B
A23L2/60
A23L2/56
A23L2/68
A23L2/00 V
A23L2/00 X
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019093566
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020184968
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】517070291
【氏名又は名称】有限会社ユウアイ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】米堂 一征
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-034367(JP,A)
【文献】特開2006-103781(JP,A)
【文献】鹿児島綜合警備保障株式会社ウェブサイトに掲載された“スポゼロ”の商品紹介,2017年,[オンライン],[検索日:2023年 3月17日],URL,https://www.alsok-k.co.jp/common/pdf/171102_campaign.pdf
【文献】世界のウェブアーカイブ|読売新聞ウェブサイトに掲載された2017年11月15日付けの宮城県のニュース記事“湯あがり爽快 温泉サイダー…鳴子で開発、15日発売”(http://www.yomiuri.co.jp/local/miyagi/news/20171115-OYTNT50111.html)に対する同日付けアーカイブ,2017年,[オンライン],[検索日:2023年 3月17日],URL,http://web.archive.org/web/20171115085408/http://www.yomiuri.co.jp/local/miyagi/news/20171115-OYTNT50111.html
【文献】大阪府立公衆衛生研究所研究報告,2015年,53,pp.49-51
【文献】gooブログ上の“Piki-blog”に掲載された2018年 8月18日付け記事“スポーツドリンク(2)”,2018年,[オンライン],[検索日:2023年 3月17日],URL,https://blog.goo.ne.jp/piki-house/e/2ab7bb47748c6f5f9163393a36e11aa2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,B65D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温泉水に混合して用いられる調味剤であって、
非糖質甘味料と、酸またはその塩と、粉体香料とを含有し、
前記調味剤中に含まれる前記非糖質甘味料の量をX[質量%]とし、前記酸またはその塩の量をY[質量%]としたとき、0.05≦X/Y≦0.3の関係を満足することを特徴とする調味剤。
【請求項2】
前記非糖質甘味料の配合量は、前記温泉水100質量部に対して、0.01~0.1質量部である請求項1に記載の調味剤。
【請求項3】
前記酸またはその塩の配合量は、前記温泉水100質量部に対して、0.1~1質量部である請求項1または2に記載の調味剤。
【請求項4】
前記非糖質甘味料は、ステビア抽出物を含有する請求項1~のいずれか1項に記載の調味剤。
【請求項5】
前記温泉水は、単純温泉、塩化物泉水、炭酸水素塩泉水、硫黄塩泉水、二酸化炭素泉水、含鉄泉水、含よう素泉水、硫黄泉水のうちの少なくとも1種である請求項1~のいずれか1項に記載の調味剤。
【請求項6】
温泉水と、非糖質甘味料、酸またはその塩および粉体香料を含有する調味剤とを混合した温泉飲料であって、
前記調味剤中に含まれる前記非糖質甘味料の量をX[質量%]とし、前記酸またはその塩の量をY[質量%]としたとき、0.05≦X/Y≦0.3の関係を満足することを特徴とする温泉飲料。
【請求項7】
前記温泉水は、イオン交換物質により前記温泉水中に含まれるホウ素およびヒ素のうちの少なくとも一方が除去されている請求項に記載の温泉飲料。
【請求項8】
第1空間を有する容器本体と、
該容器本体の開口部に装着され、前記調味剤を収容する第2空間と、該第2空間と前記第1空間とを連通させる連通機構とを有する蓋部と、
前記第1空間に収容された温泉水と、
前記第2空間に収容され、非糖質甘味料、酸またはその塩および粉体香料を含有する調味剤とを備えることを特徴とする飲料収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調味剤、温泉飲料および飲料収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、温泉水を飲むこと(飲泉)が健康に良いことはよく知られており、ヨーロッパ等では、特定の病気を治療することを目的に飲泉が行われている。しかしながら、多くの温泉水には、比較的高濃度のヒ素やホウ素等の健康に悪影響を及ぼす物質が含まれており、短期間または少量の飲泉では問題がないものの、長期間かつ多量の飲泉は、公に勧められていない。
【0003】
近年、温泉水中のヒ素を除去する方法として、キレート高分子を温泉水に接触させる方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、温泉水からヒ素を除去できても、温泉水の多くは、塩気、えぐみ、苦み等の独特の味、風味があるため、長期間にわたって飲泉を継続することは苦痛を伴う。また、治療目的以外でも、温泉地等で観光客が温泉水を気軽に、かつ美味しく飲泉できるように、温泉水の独特の味、風味を改質することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-167638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、温泉水独特の味、風味が緩和され、温泉水を飲泉し易くする調味剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる調味剤と温泉水とを含む温泉飲料、及び温泉水と調味剤とを収容した飲料収容体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の(1)~(12)の本発明により達成される。
(1) 温泉水に混合して用いられる調味剤であって、
非糖質甘味料と、酸またはその塩と、粉体香料とを含有することを特徴とする調味剤。
(2) 前記調味剤中に含まれる前記非糖質甘味料の量をX[質量%]とし、前記酸またはその塩の量をY[質量%]としたとき、0.05≦X/Y≦0.3の関係を満足する上記(1)に記載の調味剤。
【0007】
(3) 前記非糖質甘味料の配合量は、前記温泉水100質量部に対して、0.01~0.1質量部である上記(1)または(2)に記載の調味剤。
(4) 前記酸またはその塩の配合量は、前記温泉水100質量部に対して、0.1~1質量部である上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の調味剤。
(5) 前記非糖質甘味料は、ステビア抽出物を含有する上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の調味剤。
【0008】
(6) 前記温泉水は、単純温泉、塩化物泉水、炭酸水素塩泉水、硫黄塩泉水、二酸化炭素泉水、含鉄泉水、含よう素泉水、硫黄泉水のうちの少なくとも1種である上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の調味剤。
(7) 温泉水と、非糖質甘味料、酸またはその塩および粉体香料を含有する調味剤とを混合してなることを特徴とする温泉飲料。
【0009】
(8) 前記温泉水は、イオン交換物質により前記温泉水中に含まれるホウ素およびヒ素のうちの少なくとも一方が除去されている上記(7)に記載の温泉飲料。
(9) 温泉水と、非糖質甘味料、酸またはその塩および粉体香料を含有する調味剤とを準備する工程と、
前記温泉水と前記調味剤とを混合して温泉飲料を得る工程とを有することを特徴とする温泉飲料の製造方法。
【0010】
(10) 前前記温泉水と前記調味剤とを準備する工程において、飲料容器をさらに準備し、
前記温泉飲料を得る工程において、前記調味剤が収容された前記飲料容器内に、前記温泉水を供給する上記(9)に記載の温泉飲料の製造方法。
(11) 前記温泉水と前記調味剤とを準備する工程において、前記温泉水を収容する第1空間を有する容器本体と、該容器本体の開口部に装着され、前記調味剤を収容する第2空間と、該第2空間と前記第1空間とを連通させる連通機構とを有する蓋部とを備える飲料容器をさらに準備し、
前記温泉飲料を得る工程において、前記温泉水が収容された前記第1空間と、前記調味剤が収容された前記第2空間とを前記連通機構により連通させ、前記温泉水と前記調味剤とを混合する上記(9)に記載の温泉飲料の製造方法。
【0011】
(12) 第1空間を有する容器本体と、
該容器本体の開口部に装着され、前記調味剤を収容する第2空間と、該第2空間と前記第1空間とを連通させる連通機構とを有する蓋部と、
前記第1空間に収容された温泉水と、
前記第2空間に収容され、非糖質甘味料、酸またはその塩および粉体香料を含有する調味剤とを備えることを特徴とする飲料収容体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の調味剤を温泉水と混合することにより、温泉水のえぐみ、苦みが緩和され、飲泉し易い温泉水(温泉飲料)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、温泉飲料の製造方法の第2実施形態で使用する飲料容器の一部の構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の調味剤、温泉飲料および飲料収容体の好適な実施形態について、詳細に説明する。
本発明の調味剤は、温泉水に混合して温泉飲料を調製するために用いられる。まず、本発明の調味剤の説明に先立って、かかる調味剤と混合される、飲泉可能な温泉水について説明する。
【0015】
(温泉水)
温泉(温泉水)は、その含有成分によって、単純温泉、塩化物泉、炭酸水素泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、含よう素泉、硫黄泉および放射能泉の10種類に分類される。これらの温泉水のうち、飲泉に適しているとされる、単純温泉、塩化物泉、炭酸水素泉、硫酸塩泉、二酸化炭素泉、含鉄泉、含よう素泉および硫黄泉を飲泉する温泉水として用いることができる。以下に各温泉水について概説する。
【0016】
((単純温泉))
単純温泉は、湧出時の泉温が25℃以上で、溶存物質(ガス性の物質を除く)の含有量が、温泉水1kg中1000mg未満の温泉である。特に、pH8.5以上の単純温泉は「アルカリ性単純温泉」と呼ばれる。単純温泉は、含まれる成分が少なく、一般には無色透明、無味無臭であることが多い。
単純温泉の飲泉による適応症としては、一般には自律神経不安定症、不眠症、うつ状態、神経痛、筋肉炎、関節炎、冷え症、病後回復期、疲労回復等がある。
【0017】
((塩化物泉))
塩化物泉は、溶存物質の含有量が、温泉水1kg中1000mg以上の温泉であり、含まれる陰イオンの主成分が塩化物イオンである。また、塩化物泉は、含まれる陽イオンの主成分により、ナトリウム-塩化物泉、カルシウム-塩化物泉、マグネシウム-塩化物泉に分類される。日本では、比較的多い泉質であり、塩分が主成分となっているため、そのまま飲用すると塩辛く、塩分濃度が濃い場合やマグネシウム濃度が高い場合、特に苦く感じられる。
塩化物泉の飲泉による適応症としては、萎縮性胃炎等の慢性の消化器系の病気、慢性便秘等がある。
【0018】
((炭酸水素泉))
炭酸水素泉は、溶存物質の含有量が、温泉水1kg中1000mg以上の温泉であり、含まれる陰イオンの主成分が炭酸水素イオンである。また、炭酸水素泉は、含まれる陽イオンの主成分により、ナトリウム-炭酸水素泉、カルシウム-炭酸水素泉、マグネシウム-炭酸水素泉に分類される。
炭酸水素泉の飲泉による適応症としては、胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風)等がある。
【0019】
((硫酸塩泉))
硫酸塩泉は、溶存物質の含有量が、温泉水1kg中1000mg以上の温泉であり、含まれる陰イオンの主成分が硫酸イオンである。また、硫酸塩泉は、含まれる陽イオンの主成分により、ナトリウム-硫酸塩泉、カルシウム-硫酸塩泉、マグネシウム-硫酸塩泉に分類される。
硫酸塩泉の飲泉による適応症としては、胆道系機能障害(慢性胆嚢炎、胆石症等)、高コレステロール血症、肥満、糖尿病、痛風、慢性便秘等がある。
【0020】
((二酸化炭素泉))
二酸化炭素泉は、遊離炭酸(二酸化炭素)の含有量が、温泉水1kg中1000mg以上の温泉である。飲泉すると、炭酸の爽やかな咽越しを楽しむことができる。
二酸化炭素泉の飲泉による適応症としては、胃腸機能低下等がある。
((含鉄泉))
含鉄泉は、総鉄イオン(鉄IIまたは鉄III)の含有量が、温泉水1kg中20mg以上の温泉である。含鉄泉は、含まれる陰イオンの主成分により、炭酸水素塩型と硫酸塩型に分類される。
含鉄泉の飲泉による適応症としては、鉄欠乏性貧血症等がある。
【0021】
((含よう素泉))
含よう素泉は、よう化物イオンの含有量が、温泉水1kg中10mg以上の温泉である。
含よう素泉の飲泉による適応症としては、高コレステロール血症等がある。
((硫黄泉))
硫黄泉は、硫黄の含有量が、温泉水1kg中2mg以上の温泉である。硫黄泉は、含まれる成分によって単純硫黄泉と単純硫化水素泉の2種類に分類され、日本では比較的多い泉質である。
硫黄泉の飲泉による適応症としては、糖尿病、高コレステロール血症等がある。
【0022】
本発明では、以上説明した8種類の温泉水の中から1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、いずれの温泉水も、除菌フィルターで濾過したり、濾過後に加熱殺菌して用いることが好ましい。
また、温泉水中に含まれるヒ素、ホウ素等の有害物質の濃度が比較的高い場合には、イオン交換物質を温泉水に接触させて、ヒ素およびホウ素の少なくとも一方を除去することが好ましく、双方を除去することがより好ましい。イオン交換物質としては、スルホン基、カルボキシル基等を有する強酸性陽イオン交換樹脂、ハイドロキシアパタイト、ゼオライト等が挙げられる。
【0023】
(調味剤)
次に、本発明の調味剤について説明する。
本発明の調味剤は、非糖質甘味料と、酸またはその塩と、粉体香料とを含有する。かかる調味剤は、前述した飲泉可能な温泉水と混合される。
非糖質甘味料は、ショ糖(糖質甘味料)に比べて強い甘味を有し、少量でも温泉水に甘味を付与し得る成分である。その一方で、非糖質甘味料は、苦みも有している。
本発明者は、温泉水のえぐみ、苦みを緩和すべく、鋭意検討を行った結果、上記3成分を組み合わせて使用することが有効であることを見出した。
【0024】
その理由は定かではないが、温泉水の塩味(主に、ナトリウムイオンに基づく塩味)と非糖質甘味料の苦みとの相互作用により、非糖質甘味料の甘味が引き立つようになることが1つの要因であると考えられる。また、酸またはその塩が加わることにより、温泉水のpHおよび塩濃度が微調整され、非糖質甘味料と酸またはその塩との相乗作用により、温泉水の苦み、えぐみが抑えられるようである。さらに、これらの成分に香料を加えることにより、温泉水独特の風味もマスクされる。
このため、上記3成分を混合することにより、飲泉可能な温泉水独特の味、風味が緩和され、飲泉し易い温泉飲料を得ることができる。
【0025】
非糖質甘味料としては、例えば、ステビア抽出物、羅漢果抽出物、甘草抽出物、アスパルテーム、スクラロース、サッカリンナトリウム等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ステビア抽出物、羅漢果抽出物、甘草抽出物のうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、特にステビア抽出物を含むことがより好ましい。
上記各抽出物は、いずれも甘味が強いため、少量の使用で温泉水の苦み、えぐみを好適に抑えることができる。特に、ステビア抽出物は、ショ糖の200~300倍の極めて強い甘味を有するため、極少量の使用でも、温泉水の苦み、えぐみを好適に抑えることができる。
【0026】
調味剤中の非糖質甘味料の含有量(配合量)は、温泉水100質量部に対して、0.01~0.1質量部程度であることが好ましく、0.02~0.09質量部程度であることがより好ましく、0.03~0.07質量部程度であることがさらに好ましい。非糖質甘味料の含有量が上記範囲内であれば、温泉水の苦み、えぐみをより好適に抑えることができる。換言すれば、非糖質甘味料の含有量が上記範囲内の極めて少量であっても、温泉水の苦み、えぐみを確実に抑えることができる。
【0027】
なお、温泉水にショ糖と同様の甘味を付与する場合には、ステビア抽出物と羅漢果抽出物とを組み合わせて用いることが好ましい。ステビア抽出物による甘味は、ショ糖の甘味と比較して、甘味曲線において甘味度の立ち上がりが遅く、かつ後に裾を引く。これに対して、羅漢果抽出物の甘味は、ショ糖の甘味と比較して、甘味曲線において甘味度の立ち上がりが同程度である。
このため、ステビア抽出物と羅漢果抽出物との組み合わせによる甘味は、甘味曲線において甘味度の立ち上がりがショ糖の甘味と同程度となる。また、羅漢果抽出物の作用によりステビア抽出物による後に裾を引く甘味をマスクすることもできる。その結果、ショ糖の甘味と近くすることができる。
【0028】
酸またはその塩は、温泉水のpHおよび塩濃度を微調整すること等を目的として使用される成分である。酸またはその塩には、無機酸またはその塩、あるいは有機酸またはその塩がある。
かかる酸または酸性塩の具体例としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸銅、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、フマル酸、フマル酸水素ナトリウム、フマル酸水素カリウム、コハク酸、コハク酸水素ナトリウム、コハク酸水素カリウム、α-ヒドロキシ酸、リンゴ酸、マレイン酸、マレイン酸水素ナトリウム、マレイン酸水素カリウム、酒石酸、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム、乳酸、α-オキシオクタン酸、グリコール酸、酢酸、プロパン酸、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、酸またはその塩としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸銅等のクエン酸系化合物が好ましく、クエン酸がより好ましい。かかる酸またはその塩であれば、少量の使用であっても、温泉水のpHおよび塩濃度をより調整し易くなる。また、温泉水に爽やかな風味を付与することができる。その結果、温泉水の苦み、えぐみをより好適に抑えることができる。
【0030】
調味剤中の酸またはその塩の含有量(配合量)は、温泉水100質量部に対して、0.1~1質量部程度であることが好ましく、0.2~0.9質量部程度であることがより好ましく、0.3~0.7質量部程度であることがさらに好ましい。酸またはその塩の含有量が上記範囲内であれば、温泉水の苦み、えぐみをより好適に抑えることができる。
【0031】
また、調味剤中に含まれる非糖質甘味料の量をX[質量%]とし、酸またはその塩の量をY[質量%]としたとき、0.05≦X/Y≦0.3の関係を満足することが好ましい。上記関係を満足することにより、非糖質甘味料の甘味がより引き立つとともに、適度なpHおよび塩濃度を有する温泉水となり、非糖質甘味料と酸またはその塩との相乗作用により、温泉水の苦み、えぐみがより好適に抑えられる。
なお、0.07≦X/Y≦0.2の関係を満足することがより好ましく、0.09≦X/Y≦0.18の関係を満足することがさらに好ましい。これにより、上記効果がより顕著に発揮される。
【0032】
粉体香料は、温泉水独特の風味を抑える(マスクする)こと等を目的として使用される成分である。粉体香料を使用することにより、飲み易い温泉飲料を提供することができる。
粉体香料は、油性香料、水性香料または乳化香料のような香料成分を、デキストリン、天然ガム、乳糖、デンプンのような賦形剤とともに乾燥することで得られる粉末である。
香料成分としては、例えば、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、セージ油、ローズマリー油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、シソ油、冬緑油、丁字油、ユーカリ油、ラベンダー油、ペパーミント油、スペアミント油、シナモン油、リモネン、リナロオール、ゲラニオール、メントール、オイゲノール、バニリン、コーヒーフレーバー、カカオフレーバー、バニラフレーバー、ストロベリーフレーバー、オレンジフレーバー、レモンフレーバー、リンゴフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー等が挙げられる。
粉体香料は、一般に、香料成分を10~12質量%程度、アラビアガムを14~16質量%程度、プロピレングリコールを0.8~1.2質量%程度、デキストリンを72~74質量%程度で含有する。
【0033】
調味剤中の粉体香料の含有量(配合量)は、温泉水100質量部に対して、0.01~1質量部程度であることが好ましく、0.02~0.8質量部程度であることがより好ましく、0.04~0.5質量部程度であることがさらに好ましい。粉体香料の含有量が上記範囲内であれば、温泉水独特の風味をより好適に抑えることができ、より飲み易い温泉飲料を提供することができる。
【0034】
また、調味剤は、上述した非糖質甘味料、酸またはその塩、および粉体香料以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、着色剤の他、ビタミン、食物繊維、コラーゲンのようなミネラル以外の健康成分等が挙げられる。
本発明の調味剤は、常温(25℃)において、固体状、液体状、ゲル状等のいずれの形態であってもよいが、固体状の形態であることが好ましい。固体状の形態であれば、調味剤の各成分が保存時に変質・劣化し難く、調味剤の取り扱いも容易である。
【0035】
この場合、調味剤は、粉末状、ペレット状(錠剤の形態)、液状(液剤の形態)等することができる。例えば、ペレット状の調味剤を温泉水が供給される供給口(蛇口)付近に配置しておけば、温泉水を飲用する者が、その都度、温泉飲料を自ら調製することができる。また、浴場内に調味剤を配置する場合には、湿気が多いため、調味剤を液状とするのが好ましい。この場合、液状の調味剤をプッシュ式ポンプボトルに収容しておき、1回のプッシュで1回分の調味剤を温泉水を注いだカップに入れて混ぜることで温泉飲料を調製するようにすることができる。なお、液状には、粘性を有さない状態、粘性を有する状態のいずれの状態も含まれる。
なお、含まれる粉体香料の種類が異なる複数種の調味剤を配置すれば、温泉水を飲用する者が、そのときの気分に応じて調味剤を選択して、飲泉を楽しむことができる。
【0036】
以上説明した各成分を含む調味剤と前述した飲泉可能な温泉水とを混合することにより、温泉水独特の味、風味が緩和され、飲泉し易い温泉飲料を提供することができる。
なお、飲泉可能な温泉水の適応症について上述した通りであるが、温泉水の飲泉により、一般的に期待される効果としては、1.胃腸の病気(例えば、慢性便秘)の改善、2、糖尿病の改善、3.高血圧の改善(高コレステロール血症等の改善)、4.肥満の改善が挙げられる。
いずれの効果も、温泉水のえぐみ、苦みを解消するためにショ糖を使用する場合に比べて、本願発明の調味剤のように、非糖質甘味料を用いることにより、不要なカロリー摂取を回避することができる。上記4つの症状について、本願発明の調味剤を使用する利点について、以下に説明する。
【0037】
<1.便秘の改善>
便秘(慢性便秘)の改善に有効な温泉水としては、塩化物泉、硫酸塩泉等が挙げられる。これらの温泉水に本発明の調味剤を混合して得られる温泉飲料では、糖分(ショ糖)の代わりに非糖質甘味料を用いているため、腸で吸収される水分が少ない。そのため、便からの脱水が抑えられることにより、便通がスムーズになる。
<2.糖尿病の改善>
糖尿病の改善に有効な温泉水としては、炭酸水素泉、硫酸塩泉、硫黄泉等が挙げられる。糖尿病の改善には、当然ながら、糖分の摂取を控える必要があるため、非糖質甘味料を含有する本発明の調味剤を使用することは合理的な利点がある。
【0038】
<3.高血圧の改善>
血圧の上昇に影響する高コレステロール血症の改善に有効な温泉水としては、硫酸塩泉、含よう素泉、硫黄泉等が挙げられる。ナトリウム成分の過度な摂取や、それに伴う水分の吸収が高血圧を誘発するため、腸での水分吸収が緩やかな非糖質甘味料を含有する本発明の調味剤の利用が適している。
<4.肥満の改善>
肥満の改善に有効な温泉水としては、硫酸塩泉等が挙げられる。その理由は定かではないが、マウスを使った臨床試験では、肥満の改善効果が認められており、体重が正常値に向かって減少する。当然ながら、高カロリーの糖分の代わりに、低カロリーの非糖質甘味料を含有する本発明の調味剤を使用することにより、効果的に肥満改善を行うことができる。
【0039】
なお、上述した調味剤を用いることにより、腸での水分吸収が抑えられるが、飲泉する人の体調等によっては、腸での水分吸収が抑えられない方が好ましい場合もある(例えば、軟便の症状等)。このような場合には、得られた温泉飲料に対して、超音波(高周波)振動を付与したり、電解槽内で電気分解を行うことが好ましい。これにより、温泉飲料中の水分子のクラスターサイズが小さくなり、腸での水分吸収を向上させることができる。
【0040】
(温泉飲料の製造方法)
次に、上述した温泉飲料の製造方法の好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
まず、温泉飲料の製造方法の第1実施形態について説明する。本実施形態の温泉飲料の製造方法は、温泉水と、調味剤と、飲料容器とを準備する工程(S1)と、飲料容器内に調味剤を収容する工程(S2)と、調味剤が収容された飲料容器内に、温泉水を供給する工程(S3)とを有する。
【0041】
[S1]準備工程
まず、温泉水と、調味剤と、飲料容器とを準備する。
温泉水および調味剤は、前述した温泉水および調味剤を用いることができる。なお、温泉水としては、予め、飲料容器とは異なる容器に貯留しておいてもよいし、温泉浴場等の源泉吐出口から流出する温泉水を直接用いてもよい。
また、前述したように、温泉水は、除菌フィルターによる濾過、イオン交換物質によるホウ素、ヒ素の除去が行われた後の温泉水でもよい。
飲料容器は、特に限定されないが、例えば、紙製コップ、プラスチック製コップ、ガラス製コップ等の各種コップを用いることができる。
【0042】
[S2]調味剤収容工程
次に、調味剤を飲料容器内に収容する。なお、温泉浴場等では、予め、調味剤入りの飲料容器を多数準備しておいてもよい。
[S3]温泉水供給工程
次に、調味剤が収容された飲料容器内に、温泉水を適量供給する。これにより、調味剤と温泉水とが混ざり合って、温泉水独特の味、風味が緩和され、飲泉し易い温泉飲料を得ることができる。なお、温泉浴場等では、源泉吐出口から吐出される温泉水を、調味剤入りの飲料容器内に直接供給することにより、多くの入浴者が手軽に温泉飲料を楽しむことができる。
【0043】
なお、温泉水に対する調味剤の各成分の配合量は、前述した通りだが、例えば、温泉水200質量部に対して、非糖質甘味料:0.125質量部、酸またはその塩:0.938質量部、粉体香料:0.5質量部で含有する調味剤を用いることができる。
また、上述した説明では、飲料容器に調味剤を収容した後に、飲料容器に温泉水を供給するが、この逆に、飲料容器に温泉水を収容した後に、準備した調味剤を飲料容器内に投入することによっても、温泉飲料を得ることができる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、温泉飲料の製造方法の第2実施形態について説明する。本実施形態の温泉飲料の製造方法は、前述した第1実施形態の飲料容器と異なる構成の飲料容器を用いる。図1は、本実施形態で使用する飲料容器の一部の構成を示す部分断面図である。
図1に示す飲料容器1は、温泉水を収容する第1空間20を有する容器本体2と、容器本体2の飲み口(開口部)21に装着されたキャップ(蓋部)3とを備えている。かかるキャップ3は、容器本体2の飲み口21と螺合することにより、容器本体2に装着される。
このキャップ3は、調味剤Pを収容する第2空間30と、この第2空間30と容器本体2の第1空間20とを連通させる連通機構とを有する。具体的な連通機構としては、キャップ3の第2空間30を画成する底部(隔壁部)32を、キャップ3を構成する他の部材(破断部31)で破断する構成等が挙げられる。
【0045】
本実施形態では、上記構成の飲料容器1を用いて、以下のようにして温泉飲料を得ることができる。
すなわち、まず、容器本体2の第1空間20に温泉水を収容するとともに、キャップ3の第2空間30に調味剤Pを収容する。かかる温泉水および調味剤Pを収容した状態の飲料容器1が、本発明の飲料収容体を構成する。また、この状態で、飲料収容体は流通される。
次に、連通機構により第1空間20と第2空間30とを連通させると、第2空間30に収容された調味剤Pが第1空間20に収容された温泉水に投入されて、温泉水と調味剤Pとが混合される。以上の手順で、容器本体2内に温泉飲料が得られる。
このようなキャップには、飲泉する前の状態では、第2空間30に調味剤Pを収容しており、飲泉する際に、調味剤Pを第1空間20に収容された温泉水と混合する構成を有する、いわゆるディステンキャップを採用することができる。
【0046】
温泉水は、ミネラル成分が豊富であり、pHがアルカリ性や酸性に大きく振れていることが多い、換言すれば、比較的強いアルカリ性または酸性の温泉水が多く存在する。このような温泉水に、上述したような酸またはその塩を添加して長期間保存すると、ミネラル成分が析出する場合がある。そのため、本実施形態では、上記構成のキャップ(蓋部)3を備えた飲料容器1を用いることにより、飲泉直前に調味剤Pを温泉水と混合するようにして、作りたての温泉飲料を飲泉できるようにした。
【0047】
なお、本実施形態の飲料容器1は、温泉水として炭酸水素泉を用いることにより、以下のような利点を有する。
炭酸水素泉中には、多量の炭酸水素ナトリウム(重曹)が含まれる。前述した第1実施形態のように、紙製コップ等で炭酸水素泉と調味剤とを混合すると、重曹と酸またはその塩とが反応して炭酸が発生する。かかる温泉飲料は、そのまま炭酸飲料として飲泉することができる。しかしながら、紙製コップ等では、発生した炭酸が時間の経過とともに抜けてしまう。
【0048】
一方、本実施形態の飲料容器1を用いた場合には、キャップ3から調味剤Pが容器本体2内の炭酸水素泉に投入され、上記と同様に炭酸が発生するが、キャップ3を閉めることにより、発生した炭酸を、効率良く温泉飲料内に留まらせることができる。
また、一般的に、炭酸水素泉をそのまま飲泉すると、胃酸と反応して、胃の中で炭酸が生じ、げっぷが出たり、膨満感を引き起こす。これに対して、本実施形態の飲料容器1内で得られた炭酸水素泉の温泉飲料は、既に重曹と酸またはその塩とが反応しているため、上記不具合は起こらず飲み易い。また、炭酸水素泉中の全ての重曹が酸またはその塩と反応することはないので、一部の重曹塩が体内に取り込まれ、炭酸水素泉を飲泉することにより得られる効果も得られる。
【0049】
なお、上記のようにして、飲料容器1内で炭酸水素泉と調味剤とを混合し、キャップ3を開けた際に温泉飲料が噴き出すことを防止すべく、容器本体2内に炭酸水素泉を充填する際に、窒素ガスを一緒に充填(収容)するとよい。
なお、本実施形態における温泉水に対する調味剤Pの各成分の配合量は、前述した通りだが、キャップ3内に調味剤Pを収容するため、調味剤は粉末状であることが好ましい。また、重曹と反応させるとともに、温泉飲料に酸味を付与するために酸またはその塩の配合量を多くすることが好ましい。例えば、温泉水200質量部に対して、非糖質甘味料:0.125質量部、酸またはその塩:1.25質量部、粉体香料:0.12質量部で含有する調味剤を用いることができる。
【0050】
以上、本発明の調味剤、温泉飲料および飲料収容体について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、調味剤の構成成分として、任意の目的の1または2以上の成分を追加してもよいし、温泉飲料の製造工程として、任意の目的の1または2以上の工程を追加してもよい。
【実施例
【0051】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
<温泉飲料の製造>
(実施例)
まず、ステビア抽出物(非糖質甘味料)0.125質量部、クエン酸(酸またはその塩)0.938質量部、およびレモン油を含む粉体香料0.5質量部とを紙製コップに収容して混合することにより調味剤を得た。
次に、紙製コップに塩化物泉200質量部を注入して混合することにより、温泉飲料を得た。
(比較例1)
ステビア抽出物を省略した以外は、実施例と同様にして、温泉飲料を得た。
(比較例2)
クエン酸を省略した以外は、実施例と同様にして、温泉飲料を得た。
【0052】
<温泉飲料の評価>
実施例および各比較例の温泉飲料の味、風味ついて、50人のパネラーに評価してもらった。
その結果、実施例の温泉飲料では、えぐみ、苦みを全く、または、ほとんど感じることはなく、飲み易いと評価したパネラーの数が48人以上であった。また、飲み易いと評価した全てのパネラーが、温泉水独特の風味を感じないと回答した。
これに対して、各比較例の温泉飲料に対して、同様に飲み易いと評価したパネラーは3人であった。
【符号の説明】
【0053】
1…飲料容器、2…容器本体、20…第1空間、3…キャップ、30…第2空間、31…破断部、32…底部、P…調味剤
図1