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  • 特許-複数の加熱コイルの同期運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】複数の加熱コイルの同期運転方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/06 20060101AFI20231005BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20231005BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H05B6/06 386
G03G15/20 505
H05B6/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019120603
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021007072
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-05-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月8日に、株式会社ウエストヒル工場内にて、木田伸雄が大亀勝久が発明した複数の加熱コイルの同期運転方法を実施及び加熱試験を実施平成31年3月21日に、宇部興産株式会社発電所6号ボイラにて、荒中智晴、田中良樹、及び津留央が、大亀勝久が発明した複数の加熱コイルの同期運転方法を継続的に実施
(73)【特許権者】
【識別番号】519235416
【氏名又は名称】株式会社ウエストヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(72)【発明者】
【氏名】大亀 勝久
【審査官】宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-171774(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03445135(EP,A1)
【文献】特開2000-077174(JP,A)
【文献】特開平10-173732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00-6/44
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘導加熱ユニットにそれぞれ接続され互いに近接配置された加熱コイルに前記誘導加熱ユニットから交流電流を通流させて被加熱物を加熱する複数の加熱コイルの同期運転方法であって、
前記複数の誘導加熱ユニットは、
マスター側となる第一誘導加熱ユニットと、
前記第一誘導加熱ユニットとの同期対象となるスレーブ側の第二誘導加熱ユニットと、
であり、
前記第一誘導加熱ユニットからシリアル通信で周波数データを送信して前記第二誘導加熱ユニットに受信させ、前記第一誘導加熱ユニットの交流電流の周波数と前記第二誘導加熱ユニットの交流電流の周波数を同期させ、
前記シリアル通信の完了から所定時間経過後に周波数書込タイミングパルスを前記第一誘導加熱ユニットから前記第二誘導加熱ユニットに出力させ、
前記第二誘導加熱ユニットにおいて、受信した前記周波数データを前記周波数書込タイミングパルスに同期させて前記第二誘導加熱ユニットの周波数設定を行うことを特徴とする複数の加熱コイルの同期運転方法。
【請求項2】
前記第一誘導加熱ユニットから前記周波数データと一致した同期クロックを前記周波数書込タイミングパルスと同時に出力させ、
前記第二誘導加熱ユニットにおいて、前記同期クロックの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて出力パルスを制御して、前記第一誘導加熱ユニットの交流電流の位相と前記第二誘導加熱ユニットの交流電流の位相を一致させ
前記出力パルスは、整流された直流電流がスイッチング回路によって一定周期でオンオフされて出力トランスに送られる高周波のパルスであることを特徴とする請求項1に記載の複数の加熱コイルの同期運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の誘導加熱ユニットにそれぞれ接続され互いに近接配置された加熱コイルに前記誘導加熱ユニットから交流電流を通流させて被加熱物を加熱する複数の加熱コイルの同期運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺の被加熱物を高周波誘導加熱によって加熱する場合、複数の加熱コイルを互いに近接配置してその加熱コイルそれぞれに交流電流を通流させる。
このとき、それぞれの加熱コイルの周波数及び位相が一致しない場合、近接配置した加熱コイル同士が電磁干渉してしまうという問題がある。
このような場合には、加熱効率が低下してしまうので所望の温度まで昇温させることができない。
【0003】
そこで、複数の加熱コイルの同期運転方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
この同期運転方法によると、マスター側の誘導加熱ユニットからスレーブ側の誘導加熱ユニットに同期ケーブルで変調波を送信している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-77174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来技術ではアナログ信号波形の微妙なタイミング等で構成されているので、同期運転時の周波数と位相が安定せず、運転効率の向上が難しかった。
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、周波数及び位相を同期させることができ、加熱コイル間の電磁干渉を防止可能な複数の加熱コイルの同期運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の複数の加熱コイル(1,2)の同期運転方法は、
複数の誘導加熱ユニット(10,20)にそれぞれ接続され互いに近接配置された加熱コイル(1,2)に前記誘導加熱ユニット(10,20)から交流電流を通流させて被加熱物(W)を加熱する複数の加熱コイル(1,2)の同期運転方法であって、
前記複数の誘導加熱ユニット(10,20)は、
マスター側となる第一誘導加熱ユニット(10)と、
前記第一誘導加熱ユニット(10)との同期対象となるスレーブ側の第二誘導加熱ユニット(20)と、であり、
前記第一誘導加熱ユニット(10)からシリアル通信で周波数データを送信して前記第二誘導加熱ユニット(20)に受信させ、前記第一誘導加熱ユニット(10)の交流電流の周波数と前記第二誘導加熱ユニット(20)の交流電流の周波数を同期させることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の複数の加熱コイル(1,2)の同期運転方法は、
前記シリアル通信の完了から所定時間経過後に周波数書込タイミングパルスを前記第一誘導加熱ユニット(10)から前記第二誘導加熱ユニット(20)に出力させ、
前記第二誘導加熱ユニット(20)において、受信した前記周波数データを前記周波数書込タイミングパルスに同期させて前記第二誘導加熱ユニット(20)の周波数設定を行うことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の複数の加熱コイル(1,2)の同期運転方法は、
前記第一誘導加熱ユニット(10)から前記周波数データと一致した同期クロックを前記周波数書込タイミングパルスと同時に出力させ、
前記第二誘導加熱ユニット(20)において、前記同期クロックの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて出力パルスを制御して、前記第一誘導加熱ユニット(10)の交流電流の位相と前記第二誘導加熱ユニット(20)の交流電流の位相を一致させることを特徴とする。
【0010】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マスター側となる第一誘導加熱ユニットと、第一誘導加熱ユニットとの同期対象となるスレーブ側の第二誘導加熱ユニットと、を備え、第一誘導加熱ユニットからシリアル通信で周波数データを送信して第二誘導加熱ユニットに受信させるので、第一誘導加熱ユニットの交流電流の周波数と第二誘導加熱ユニットの交流電流の周波数を同期させることができる。
【0012】
また、本発明によれば、シリアル通信の完了から所定時間経過後に周波数書込タイミングパルスを第一誘導加熱ユニットから第二誘導加熱ユニットに出力させ、第二誘導加熱ユニットにおいて、受信した周波数データを周波数書込タイミングパルスに同期させて第二誘導加熱ユニットの周波数設定を行うので、周波数を精度良く同期させることができる。
【0013】
また、本発明によれば、第一誘導加熱ユニットから周波数データと一致した同期クロックを周波数書込タイミングパルスと同時に出力させ、第二誘導加熱ユニットにおいて、同期クロックの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて出力パルスを制御して、第一誘導加熱ユニットの交流電流の位相と第二誘導加熱ユニットの交流電流の位相を一致させるので、位相を精度良く同期させることができる。
このように、加熱コイル間の電磁干渉を防止可能なので、加熱コイルの運転効率の低下を抑制できる。
【0014】
なお、本発明の複数の加熱コイルの同期運転方法のように、第一誘導加熱ユニットからシリアル通信で周波数データを送信して前記第二誘導加熱ユニットに受信させる点は、上述した特許文献1には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る複数の加熱コイルの同期運転方法を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る複数の加熱コイルの同期運転方法を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る複数の加熱コイル1,2の同期運転方法を説明する。
この複数の加熱コイル1,2の同期運転方法は、複数の誘導加熱ユニット10,20にそれぞれ接続され互いに近接配置された加熱コイル1,2に誘導加熱ユニット10,20から交流電流を通流させて被加熱物W(鋼管)を加熱する方法である。
【0017】
複数の誘導加熱ユニット10,20とは、マスター(親)側となる第一誘導加熱ユニット10と、第一誘導加熱ユニット10との同期対象となるスレーブ(子)側の第二誘導加熱ユニット20と、である。
つまり、マスター側の第一誘導加熱ユニット10に第一加熱コイル1が接続され、スレーブ側の第二誘導加熱ユニット20に第二加熱コイル2が接続されている。
また、負荷コイルである第一加熱コイル1と第二加熱コイル2とは一つの被加熱物Wに対して近接配置される。
【0018】
ここで、各誘導加熱ユニット10,20の構成は一部の例外を除いて同一であるから、ここでは一つの誘導加熱ユニット10について説明する。
【0019】
誘導加熱ユニット10は、CPUブロック11と、FPGAブロック12と、スイッチング回路13(IGBT)と、出力トランス14と、を備える。
【0020】
CPUブロック11は、設定された周波数設定を受け付ける。
ここで、第一CPUブロック11では周波数設定ダイヤルで周波数が設定され、第二CPUブロック21では第一CPUブロック11からの周波数データにより周波数が設定される。
また、CPUブロック11は周波数書込タイミングパルスを出力可能である。
【0021】
FPGAブロック12は、ここでは1~5kHzの同期クロックを出力可能である
また、IGBTの制御も行う。
【0022】
スイッチング回路13(IGBT)は、整流された直流電流を一定周期でオンオフし、高周波のパルスにして出力トランス14へ送る。
【0023】
次に、このように構成された誘導加熱ユニット10,20に直列共振コンデンサを介して接続された加熱コイル1,2の同期運転方法について説明する。
ここで、第一誘導加熱ユニット10と第二誘導加熱ユニット20との接続関係としては、第一CPUブロック11が第二CPUブロック21及び第二FPGAブロック22と接続されるとともに、第一FPGAブロック12が第二FPGAブロック22と接続されている。
【0024】
まず、出力パルスの周波数の同期方式から説明する。
最初に、周波数設定ダイヤルで設定された周波数設定を第一CPUブロック11で受け付ける。
その周波数データを第一CPUブロック11から第一FPGAブロック12に出力する。
【0025】
そして、第一誘導加熱ユニット10の第一CPUブロック11からシリアル通信(RS-232C)で周波数データを送信して第二誘導加熱ユニット20の第二CPUブロック21に受信させる。
つまり、第二誘導加熱ユニット20の第二CPUブロック21では周波数設定ダイヤルによって周波数の設定を行わない。
【0026】
ここで、第一誘導加熱ユニット10における第一CPUブロック11で周波数を変更すると、リアルタイム(1秒周期)で第二誘導加熱ユニット20のCPUブロックに反映される。
この通信速度は9600bps、データは8bit、パリティは無し、ストップは1bit、シリアルデータフォーマットはSTX+周波数データ値+ETX+周波数データのSUM値である。
【0027】
このとき、第一CPUブロック11から第二CPUブロック21へシリアル通信で周波数データを伝送する際には伝達時間に遅れが発生し、それに伴い第一CPUブロック11と第二CPUブロック21との間で周波数誤差が生じる。
【0028】
そこで、本実施形態ではこのシリアル通信による周波数データの伝達遅れを考慮して、シリアル通信の完了から所定時間(ここでは200mS)経過後に、周波数書込タイミングパルスを第一誘導加熱ユニット10の第一CPUブロック11から第二誘導加熱ユニット20の第二CPUブロック21に出力させ、第二誘導加熱ユニット20の第二FPGAブロック22において、受信した周波数データを周波数書込タイミングパルスに同期させることで第二誘導加熱ユニット20の周波数設定を行って、シリアル通信による伝達遅延による周波数誤差を無くしている。
【0029】
そして、周波数書込タイミングパルスの立ち下がりで、新たな周波数データ(1.2kHz)が読み込まれ、旧周波数のサイクル終了後に新たな周波数のサイクルを開始する。
【0030】
このようにして第一誘導加熱ユニット10の交流電流の周波数と第二誘導加熱ユニット20の交流電流の周波数を同期させる。
【0031】
次に、出力パルスの位相同期方法を説明する。
第一誘導加熱ユニット10の第一CPUブロック11が周波数書込タイミングパルスを第二誘導加熱ユニット20の第二FPGAブロック22に出力すると同時に、第一誘導加熱ユニット10の第一FPGAブロック12は周波数データと一致した(周波数が1kHzの場合、1000μS±1μS(デューティー比50%)の)同期クロックを第二誘導加熱ユニット20の第二FPGAブロック22に出力する。
【0032】
そして、第二誘導加熱ユニット20において、同期クロックの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて出力パルスを制御することで、第一誘導加熱ユニット10の交流電流の位相と第二誘導加熱ユニット20の交流電流の位相を一致させる。
【0033】
次に、出力パルスのパルス幅の制御方法を説明する。
第一CPUブロック11からの周波数情報と第二CPUブロック21の出力パルス幅(0%~100%)設定情報から出力パルス幅を算出(例えば、1kHz、出力50%時のパルス幅は250mS)し、第一FPGAブロック12からの同期クロックの立ち上がり、立ち下がり、の各タイミングに合わせて、第二FPGAブロック22で出力パルス幅を制御する事で、同期を確保しながら出力パルス幅を設定している。
【0034】
簡単に言うと、マスター側もスレーブ側もそれぞれがパルスを出力し、スレーブ側においてパルスの立ち上がりをマスター側のパルスの立ち上がりに対して一致させている。
【0035】
以上のように制御される複数の加熱コイル1,2の同期運転方法によれば、マスター側となる第一誘導加熱ユニット10と、第一誘導加熱ユニット10との同期対象となるスレーブ側の第二誘導加熱ユニット20と、を備え、第一誘導加熱ユニット10からシリアル通信で周波数データを送信して第二誘導加熱ユニット20に受信させるので、第一誘導加熱ユニット10の交流電流の周波数と第二誘導加熱ユニット20の交流電流の周波数を同期させることができる。
【0036】
また、シリアル通信の完了から所定時間経過後に周波数書込タイミングパルスを第一誘導加熱ユニット10から第二誘導加熱ユニット20に出力させ、第二誘導加熱ユニット20において、受信した周波数データを周波数書込タイミングパルスに同期させて第二誘導加熱ユニット20の周波数設定を行うので、周波数を精度良く同期させることができる。
【0037】
さらに、第一誘導加熱ユニット10から周波数データと一致した同期クロックを周波数書込タイミングパルスと同時に出力させ、第二誘導加熱ユニット20において、同期クロックの立ち上がり及び立ち下がりのタイミングに合わせて出力パルスを制御して、第一誘導加熱ユニット10の交流電流の位相と第二誘導加熱ユニット20の交流電流の位相を一致させるので、位相を精度良く同期させることができる。
このように、加熱コイル1,2間の電磁干渉を防止可能なので、加熱コイル1,2の運転効率の低下を抑制できる。
【0038】
なお、本実施形態において、誘導加熱ユニット10,20をCPUブロック11,21と、FPGAブロック12,22と、スイッチング回路13,23(IGBT)と、出力トランス14,24と、を備えるとしたが、これに限られるものではなく、同様の制御を行えれば他の構成であってもよい。
【0039】
また、本実施形態における各種数値は例示であり、これらに限定されるものではない。
【0040】
さらに、三組目の誘導加熱ユニットとそれに接続された加熱コイルを用意し、第一誘導加熱ユニット10又は第二誘導加熱ユニット20からその誘導加熱ユニットを制御することで三つの加熱コイルを同期運転することもできる。
これはさらに誘導加熱ユニットと加熱コイルが増えても同様に制御可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 第一加熱コイル(加熱コイル)
2 第二加熱コイル(加熱コイル)
10 第一誘導加熱ユニット(誘導加熱ユニット)
11 第一CPUブロック(CPUブロック)
12 第一FPGAブロック(FPGAブロック)
13 第一スイッチング回路(スイッチング回路)
14 第一出力トランス(出力トランス)
20 第二誘導加熱ユニット(誘導加熱ユニット)
21 第二CPUブロック(CPUブロック)
22 第二FPGAブロック(FPGAブロック)
23 第二スイッチング回路(スイッチング回路)
24 第二出力トランス(出力トランス)
W 被加熱物
図1
図2