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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】腰サポートウェア
(51)【国際特許分類】
   B25J 11/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019169203
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021045818
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-04-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 稔
(72)【発明者】
【氏名】堀井 辰衛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩
(72)【発明者】
【氏名】正村 欣生
(72)【発明者】
【氏名】横沢 聡
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-282991(JP,A)
【文献】特開2015-211577(JP,A)
【文献】特開2014-195509(JP,A)
【文献】特開2013-75078(JP,A)
【文献】特開2013-173190(JP,A)
【文献】特開2011-277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
A61F 2/00 ~ 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者が重量物を持ち上げる際の挙上動作をアシストして当該装着者の腰部をサポートする腰サポートウェアであって、
前記挙上動作をアシストする際のアシスト力を出力するアクチュエータと、前記装着者の上体に装着されて前記アクチュエータを当該装着者の背部に取り付けるための第1装着部と、前記装着者の下半身に装着されて前記アシスト力の作用点とする第2装着部とを備え、
前記アクチュエータは、電圧の供給によって厚さ方向に変形するシート状のゲル状誘電体と当該ゲル状誘電体を挟み込むように配置したメッシュ状の陽極およびシート状の陰極とからなるアクチュエータ素子を当該ゲル状誘電体を挟んで複数積層した積層体を有し、当該各積層体の前記各陽極および前記各陰極を介して前記各ゲル状誘電体に電圧を供給している状態から当該電圧の供給を停止したときの当該各ゲル状誘電体の復元による前記厚さ方向の復元力を前記アシスト力として出力可能に構成され、前記厚さ方向が前記装着者の身長方向に沿うように前記第1装着部に取り付けられている腰サポートウェア。
【請求項2】
前記アクチュエータは、筒体と、前記筒体の底部側に固定された固定プレートと、当該筒体の長さ方向に積層方向が一致するように前記筒体内における前記固定プレートの上方に配置された前記積層体と、前記筒体の長さ方向にスライド可能に前記筒体内における前記積層体の上方に配置された上プレートと、前記筒体の長さ方向にスライド可能に前記筒体内における前記固定プレートの下方に配置された下プレートと、前記固定プレートに形成された挿通孔に挿通された状態で前記積層体の外周に配置されると共に両端部が前記上プレートおよび前記下プレートにそれぞれ係止されて当該上プレートおよび当該下プレートを連結する連結材とを備え、
前記積層体の前記各ゲル状誘電体に電圧を供給しているときに当該積層体の前記各ゲル状誘電体の変形によって当該積層体が縮長して前記上プレートおよび前記下プレートが下向きに移動し、前記各ゲル状誘電体に対する電圧の供給を停止したときに当該各ゲル状誘電体の復元による前記復元力を伴って当該積層体が伸張して前記上プレートおよび前記下プレートが上向きに移動するように構成されている請求項1記載の腰サポートウェア。
【請求項3】
前記積層体は、前記アクチュエータ素子を予め決められた層数毎にユニット化して当該各ユニットの上面および下面に樹脂シートをそれぞれ配置したアクチュエータ素子ユニットを複数積み重ねて構成されている請求項1または2記載の腰サポートウェア。
【請求項4】
前記装着者の上体の前傾角度を特定可能な物理量を検出する検出部と、前記アクチュエータの動作を制御する制御処理を実行する制御部とを備え、
前記制御部は、前記制御処理において、前記検出部によって検出された前記物理量に基づいて、前記装着者の上体が直立状態から前傾状態に移行する際に前記アクチュエータの前記アシスト力を非出力状態に制御すると共に、当該上体が前傾状態から直立状態に移行する際に前記アクチュエータの前記アシスト力を出力状態に制御する請求項1から3のいずれかに記載の腰サポートウェア。
【請求項5】
前記検出部は、加速度センサで構成され、
前記制御部は、前記制御処理において、前記加速度センサの出力に基づいて前記装着者の上体の前傾角度を特定すると共に、当該特定した前傾角度に基づいて、前記装着者の上体の前傾状態から直立状態への移行、および当該上体の前傾状態から直立状態への移行を特定する請求項4記載の腰サポートウェア。
【請求項6】
前記各ゲル状誘電体に供給する電圧を発生する電源部と、
前記電源部、前記検出部および前記制御部を収容すると共に前記アクチュエータに固定可能に構成された筐体とを備えている請求項4または5記載の腰サポートウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者が重量物を持ち上げる際の挙上動作をアシストして装着者の腰部をサポートする腰サポートウェアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の機器として、下記特許文献1~3に開示された機器が知られている。特許文献1に開示されている機器(腰部補助装置)は、圧縮空気で作動する空気圧式アクチュエータの発生力を用いて挙上動作をアシストする。また、特許文献2に開示されている機器(装着式腰部補助装置)は、電動式の駆動モータの発生力を用いて挙上動作をアシストする。また、特許文献3に開示されている機器(腰部筋力補助具)は、ゴム繊維等を織り込んだ伸縮性ベルトの弾性力を用いて挙上動作をアシストする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-75078号公報
【文献】特開2013-173190号公報
【文献】特開2011-277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来のアシストウェアには、解決すべき以下の課題がある。具体的には、上述した空気圧式アクチュエータの発生力を用いる機器では、比較的大きな駆動力を発生して比較的高いアシスト効果を得ることが可能となっているものの、圧縮空気を供給する空気圧縮装置が必要なことに加えて、空気圧縮装置から圧縮空気を供給するチューブを空気圧式アクチュエータに繋ぐ必要があり取り扱いが容易ではない上に行動範囲が限定されるという課題がある。また、上述した電動式の駆動モータの発生力を用いる機器では、比較的大きな駆動力を発生して比較的高いアシスト効果を得ることが可能となっているものの、大型のバッテリが必要なことから、駆動モータやバッテリの重量に起因して機器全体の重量が大きく、取り扱いが容易ではないという課題がある。一方、上述した伸縮性ベルトの弾性力を用いて挙上動作をアシストする機器では、軽量で取り扱いが容易でる反面、伸縮性ベルトの弾性力だけでは十分なアシスト効果を得ることができないという課題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、十分なアシスト効果を実現しつつ取り扱いが容易な腰サポートウェアを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載の腰サポートウェアは、装着者が重量物を持ち上げる際の挙上動作をアシストして当該装着者の腰部をサポートする腰サポートウェアであって、前記挙上動作をアシストする際のアシスト力を出力するアクチュエータと、前記装着者の上体に装着されて前記アクチュエータを当該装着者の背部に取り付けるための第1装着部と、前記装着者の下半身に装着されて前記アシスト力の作用点とする第2装着部とを備え、前記アクチュエータは、電圧の供給によって厚さ方向に変形するシート状のゲル状誘電体と当該ゲル状誘電体を挟み込むように配置したメッシュ状の陽極およびシート状の陰極とからなるアクチュエータ素子を当該ゲル状誘電体を挟んで複数積層した積層体を有し、当該各積層体の前記各陽極および前記各陰極を介して前記各ゲル状誘電体に電圧を供給している状態から当該電圧の供給を停止したときの当該各ゲル状誘電体の復元による前記厚さ方向の復元力を前記アシスト力として出力可能に構成され、前記厚さ方向が前記装着者の身長方向に沿うように前記第1装着部に取り付けられている。
【0007】
また、請求項2記載の腰サポートウェアは、請求項1記載の腰サポートウェアにおいて、前記アクチュエータは、筒体と、前記筒体の底部側に固定された固定プレートと、当該筒体の長さ方向に積層方向が一致するように前記筒体内における前記固定プレート部の上方に配置された前記積層体と、前記筒体の長さ方向にスライド可能に前記筒体内における前記積層体の上方に配置された上プレートと、前記筒体の長さ方向にスライド可能に前記筒体内における前記固定プレートの下方に配置された下プレートと、前記固定プレートに形成された挿通孔に挿通された状態で前記積層体の外周に配置されると共に両端部が前記上プレートおよび前記下プレートにそれぞれ係止されて当該上プレートおよび当該下プレートを連結する連結材とを備え、前記積層体の前記各ゲル状誘電体に電圧を供給しているときに当該積層体の前記各ゲル状誘電体の変形によって当該積層体が縮長して前記上プレートおよび前記下プレートが下向きに移動し、前記各ゲル状誘電体に対する電圧の供給を停止したときに当該各ゲル状誘電体の復元による前記復元力を伴って当該積層体が伸張して前記上プレートおよび前記下プレートが上向きに移動するように構成されている。
【0008】
また、請求項3記載の腰サポートウェアは、請求項1または2記載の腰サポートウェアにおいて、前記積層体は、前記アクチュエータ素子を予め決められた層数毎にユニット化して当該各ユニットの上面および下面に樹脂シートを配置したアクチュエータ素子ユニットを複数積み重ねて構成されている。
【0009】
また、請求項4記載の腰サポートウェアは、請求項1から3のいずれかに記載の腰サポートウェアにおいて、前記装着者の上体の前傾角度を特定可能な物理量を検出する検出部と、前記アクチュエータの動作を制御する制御処理を実行する制御部とを備え、前記制御部は、前記制御処理において、前記検出部によって検出された前記物理量に基づいて、前記装着者の上体が直立状態から前傾状態に移行する際に前記アクチュエータの前記アシスト力を非出力状態に制御すると共に、当該上体が前傾状態から直立状態に移行する際に前記アクチュエータの前記アシスト力を出力状態に制御する。
【0010】
また、請求項5記載の腰サポートウェアは、請求項4記載の腰サポートウェアにおいて、前記検出部は、加速度センサで構成され、前記制御部は、前記制御処理において、前記加速度センサの出力に基づいて前記装着者の上体の前傾角度を特定すると共に、当該特定した前傾角度に基づいて、前記装着者の上体の前傾状態から直立状態への移行、および当該上体の前傾状態から直立状態への移行を特定する。
【0011】
また、請求項6記載の腰サポートウェアは、請求項4または5記載の腰サポートウェアにおいて、前記各ゲル状誘電体に供給する電圧を発生する電源部と、前記電源部、前記検出部および前記制御部を収容すると共に前記アクチュエータに固定可能に構成された筐体とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の腰サポートウェアは、ゲル状誘電体、陽極および陰極からなるアクチュエータ素子を複数積層した積層体を有して、各ゲル状誘電体に対して供給している電圧の供給停止に伴う各ゲル状誘電体の復元力をアシスト力として出力可能なアクチュエータを備えている。この場合、ゲル状誘電体は、小電力で変形し、軽量でありながら比較的大きな復元力を発生する。このため、ゲル状誘電体を用いたアクチュエータを備えた本願の腰サポートウェアでは、重い電動モータや大型バッテリが不要なため、軽量化を実現しつつ十分なアシスト効果を発揮することができる。また、本願の腰サポートウェアでは、空気圧縮装置とアクチュエータとをチューブで繋ぐ必要もないため、容易な取り扱いを実現することができる。
【0013】
また、請求項2記載の腰サポートウェアによれば、筒体、固定プレート、積層体、上プレート、下プレートおよび連結材を備えてアクチュエータを構成したことにより、アクチュエータを簡易な構成とすることができるため、腰サポートウェアをさらに軽量化することができる。
【0014】
また、請求項3記載の腰サポートウェアによれば、アクチュエータ素子を予め決められた層数毎にユニット化して各ユニットの上面および下面に樹脂シートをそれぞれ配置したアクチュエータ素子ユニットを複数積み重ねて積層体を構成したことにより、アクチュエータ素子にショート等の故障が生じたときに、アクチュエータ素子ユニット単位での交換をすることで、アクチュエータの修理を迅速に行うことができる。
【0015】
また、請求項4記載の腰サポートウェアによれば、アクチュエータのアシスト力の非出力状態および出力状態を制御する制御処理を、検出部によって検出された物理量に基づいて実行する制御部を備えたことにより、装着者がスイッチ操作を行うことなく、アクチュエータのゲル状誘電体に対する電圧の供給および供給停止を装着者の上体の前傾角度に応じて自動的に行わせることができるため、挙上動作を伴う作業の効率を上げることができる。
【0016】
また、請求項5記載の腰サポートウェアによれば、制御部が検出部としての加速度センサの出力信号から特定した装着者の上体の前傾角度に基づいて、前傾状態から直立状態への移行および前傾状態から直立状態への移行を特定することにより、アクチュエータを正確に制御することができるため、アシスト効果をさらに高めることができる。
【0017】
また、請求項6記載の腰サポートウェアによれば、電源部、検出部および制御部を収容すると共にアクチュエータに固定可能な筐体を備えたことにより、アクチュエータとアクチュエータを駆動するための電源部、検出部および制御部を一体化することができ、これによって腰サポートウェアをコンパクトに構成することができるため、より容易な取り扱いを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】腰サポートウェア1の構成を示す構成図である。
図2】装着者200が腰サポートウェア1を装着した状態を示す第1の装着状態図である。
図3】装着者200が腰サポートウェア1を装着した状態を示す第2の装着状態図である。
図4】バッテリ30、センサ40およびコントローラ50を収容したケース60がアクチュエータ10に固定された状態を示す平面図である。
図5】アクチュエータ10の構成を示す第1の斜視図である。
図6】アクチュエータ10の構成を示す第2の斜視図である。
図7】制御処理80のフローチャートである。
図8】腰サポートウェア1の動作を説明する第1の説明図である。
図9】腰サポートウェア1の動作を説明する第2の説明図である。
図10】腰サポートウェア1の動作を説明する第3の説明図である。
図11】腰サポートウェア1の動作を説明する第4の説明図である。
図12】腰サポートウェア1の動作を説明する第5の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、腰サポートウェアの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
最初に、腰サポートウェアの一例としての図1,2に示す腰サポートウェア1の構成について説明する。腰サポートウェア1は、アシスト力Faを出力し、そのアシスト力Faで重量物を持ち上げる挙上動作をアシストして装着者200の腰部をサポート可能に構成されている。
【0021】
ここで、重量物を持ち上げる際の代表的な挙上動作には、Squat法とStoop法とがある。Squat法は、膝を曲げてしゃがみこむ姿勢で重量物を掴み、その姿勢から膝関節を伸展させて重量物を持ち上げる方法である。一方、Stoop法は、膝関節を伸展したまま上体を前方に傾斜させて重量物を掴み、その姿勢から股関節を伸展させて重量物を持ち上げる方法である。この場合、Squat法は、 Stoop法に比べて腰への負担が少ない反面、膝関節を伸展させる際に足に負担が掛かり、また、 動作に馴れが必要である。このため、 一般的には、Squat法での挙上動作が採用される。これを踏まえ、本願の腰サポートウェア1は、主としてStoop法による挙上動作において高いアシスト効果を発揮するように構成されている。
【0022】
具体的には、腰サポートウェア1は、図1,2に示すように、アクチュエータ10、ハーネス20、バッテリ30、センサ40、コントローラ(制御部)50、ケース(筐体)60を備えて構成されている。
【0023】
アクチュエータ10は、図5,6に示すように、筒体11、固定プレート12、積層体13、上プレート14a、下プレート14b、ロッド15(連結材)、上蓋16aおよび下蓋16bを備えて、全体として円柱状に構成されている。なお、図5,6では、アクチュエータ10の構成の理解を容易とするため、各構成要素の一部または全部を透過した状態で図示している。
【0024】
筒体11は、図5,6に示すように、一例として円筒状に形成されている。また、筒体11は、溶剤や可塑剤に対する耐性、および非導電性を有する材料(例えば、アクリル樹脂やPTFE)で形成されている。固定プレート12は、筒体11と同様の材料によって円板状に形成されて、図5,6に示すように、筒体11の底部側に固定されている。また、固定プレート12には、ロッド15の挿通が可能な挿通孔Hが形成されている。
【0025】
積層体13は、アクチュエータ10の主要構成要素であって、図5に示すように、アクチュエータ素子13aを複数積層して構成されて、筒体11の長さ方向に積層方向が一致するように筒体11内における固定プレート12の上方(固定プレート12と上プレート14aとの間)に配置されている。アクチュエータ素子13aは、図5に示すように、電圧の供給によって厚さ方向に変形するシート状のゲル状誘電体31とゲル状誘電体31を挟み込むように配置されたメッシュ状の陽極32およびシート状の陰極33とで構成されている。本実施例では、円筒状の筒体11を採用しているため、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成するゲル状誘電体31、陽極32および陰極33は、平面視円形に形成されている。
【0026】
また、積層体13は、各アクチュエータ素子13aの各陽極32および各陰極33を介して各ゲル状誘電体31に電圧を供給している状態から電圧の供給を停止したときの各ゲル状誘電体31の復元に伴うゲル状誘電体31の厚さ方向(積層方向)の復元力をアシスト力Faとして出力可能に構成されている。ここで、積層体13が出力するアシスト力Faは、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成するゲル状誘電体31、陽極32および陰極33の面積に比例(または、ほぼ比例)し、積層体13の変位量は、アクチュエータ素子13aの積層数に比例(または、ほぼ比例)する。本実施例では、ゲル状誘電体31、陽極32および陰極33の直径が約50mmに規定されている。また、本実施例では、アクチュエータ素子13aを約500層積層して積層体13が構成されている。この構成により、本実施例の積層体13では、50N~100N程度のアシスト力Faを発生し、60mm程度変異することが可能となっている。
【0027】
また、本実施例では、図5に示すように、アクチュエータ素子13aを10層(予め決められた層数)毎にユニット化して、各ユニットの上面および下面に樹脂シート34(一例として、PTFEシート)を配置したアクチュエータ素子ユニット13bを積み重ねて積層体13を構成している。このようにアクチュエータ素子13aをユニット化することで、各アクチュエータ素子13aにショート等の故障が生じたときに、アクチュエータ素子ユニット13b単位での交換をすることで、アクチュエータ10の修理を迅速に行うことが可能となっている。
【0028】
上プレート14aは、筒体11と同様の材料によって円板状に形成されて、図5,6に示すように、筒体11の長さ方向にスライド可能に筒体11内における積層体13の上方に配置されている。下プレート14bは、筒体11と同様の材料によって円板状に形成されて、図5,6に示すように、筒体11の長さ方向にスライド可能に筒体11内における固定プレート12の下方に配置されている。また、下プレート14bには、コード17の基端部が接続されている。この場合、コード17は、一例としてアラミド繊維で形成された高分子系のコード(ひも)で形成されており、図2に示すように、先端部に取り付けられたコード17の長さ調整可能な自在フック18を介して、アクチュエータ10と、アシスト力Faの作用点としての下ハーネス20bとを繋ぐ。
【0029】
ロッド15は、非導電性を有して形成され、図5,6に示すように、固定プレート12の挿通孔Hに挿通された状態で、上端部が上プレート14aに係止されると共に、下端部が下プレート14bに係止されて、上プレート14aおよび下プレート14bを連結する。
【0030】
上蓋16aおよび下蓋16bは、筒体11と同様の材料によって平面視円形に形成されて、図5,6に示すように、筒体11の両開口部をそれぞれ閉塞する。また、下蓋16bには、コード17を挿通させる図外の挿通孔が形成されている。
【0031】
このアクチュエータ10では、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成する各ゲル状誘電体31に電圧を供給しているときに各ゲル状誘電体31の変形によって積層体13が縮長して上プレート14aおよび下プレート14bが下向きに移動し、各ゲル状誘電体31に対する電圧の供給を停止したときに各ゲル状誘電体31の復元による復元力を伴って積層体が伸長することによって上プレート14aおよび下プレート14bが上向きに移動するように構成されている。
【0032】
ハーネス20は、図2,3に示すように、装着者200の上体に装着されてアクチュエータ10を装着者200の背部に取り付けるための上ハーネス20a(第1装着部)と、装着者200の下半身に装着されてアクチュエータ10が発生するアシスト力Faの作用点とする下ハーネス20bとで構成されている。この場合、ハーネス20(上ハーネス20aおよび下ハーネス20b)は、樹脂素材の平織ベルトで形成されている。また、上ハーネス20aは、図3に示すように、装着者200の背面における首の付け根部分に配置される背当て部の両端に取り付けられた2本のベルトを胸部における両腕の付け根部分を通して、バックル21によって背面で固定するように形成された簡易な構造となっている。また、下ハーネス20bは、図3に示すように、2本のベルトを装着者200の両大腿部の上部にそれぞれ巻き付けて、バックル22で固定するように形成された簡易な構造となっている。この腰サポートウェア1では、上ハーネス20aおよび下ハーネス20bを上述したように簡易な構成としたため、ハーネス20が十分に軽量化されると共に、ハーネス20を容易に装着することが可能となっている。
【0033】
バッテリ30は、アクチュエータ10における積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成する各ゲル状誘電体31に供給する電圧を出力する。センサ40は、一例として加速度センサで構成されて、腰サポートウェア1を装着した装着者200の上体の前傾角度θを特定可能な物理量を検出して検出信号を出力する。
【0034】
コントローラ50は、バッテリ30から出力される電圧を昇圧する昇圧回路、およびアクチュエータ10の動作を制御する制御処理(例えば、図7に示す制御処理80)を実行する制御部(CPU)を備えて構成されている。この場合、コントローラ50は、制御処理80において、センサ40から出力される検出信号に基づいて装着者200の上体の前傾角度θを特定すると共に、特定した前傾角度θに基づいてアクチュエータ10(各ゲル状誘電体31)に対する電圧の供給および供給停止を制御する。
【0035】
ケース60は、図2,4に示すようにバッテリ30、センサ40およびコントローラ50を収容可能に構成されている。また、ケース60は、アクチュエータ10に固定可能に構成されている。また、ケース60は、図3に示すように、上端部が上ハーネス20aの背当て部に取り付け可能に構成されている。つまり、アクチュエータ10は、ケース60を介して上ハーネス20aに取り付けられる。
【0036】
次に、腰サポートウェア1の使用方法、およびその際の腰サポートウェア1の動作について図面を参照して説明する。一例として、図8図12に示すように、腰サポートウェア1を装着した装着者200がStoop法で重量物300を持ち上げる(挙上動作を行う)際の腰サポートウェア1の動作について説明する。
【0037】
まず、バッテリ30の電源を投入する。この際に、コントローラ50に電源が供給されコントローラ50が作動する。次いで、コントローラ50は、図7示す制御処理80を開始する。この制御処理80では、コントローラ50は、センサ40に対して検出処理の開始を指示する(ステップ81)。センサ40は、コントローラ50の指示に従って検出処理を開始し、装着者200の上体の前傾角度θを特定可能な物理量を検出して検出信号を出力する。
【0038】
次いで、コントローラ50は、センサ40から出力された検出信号に基づいて装着者200の上体の前傾角度θを一定の時間間隔(例えば、10ms間隔)で算出する処理を開始する(ステップ82)。続いて、コントローラ50は、前傾角度θを算出する毎に、前傾角度θが予め規定された第1規定角度(例えば、45°)以上となったか否か判別する処理を繰り返して実行する(ステップ83)。
【0039】
一方、装着者200が重量物300を掴むために、図8に示す直立状態から図9に示すように上体を前掲させたときには、腰部の屈曲に伴ってアクチュエータ10と下ハーネス20bとの間の距離が拡大するため、アクチュエータ10の下プレート14bと下ハーネス20bとを繋ぐコード17によって下プレート14bが下向きに引っ張られ、これによって、図9に示すように、ロッド15によって連結された上プレート14aおよび上プレート14aが下向きに移動する。また、これによって固定プレート12と上プレート14aとの間に配置されている積層体13が圧縮されて、図5,8に示す初期状態から、図9に示すやや縮長した状態となる。また、この状態では、積層体13が圧縮されることにより、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成するゲル状誘電体31が厚み方向に弾性変形して弾性力を発生する。
【0040】
次いで、図9に示すように、装着者200の上体の前傾角度θが45°以上となったときには、コントローラ50は、上述したステップ83(図7参照)において、前傾角度θが第1規定角度以上となったと判別し、続いて、アクチュエータ10(積層体13)に対する電圧供給を開始する(ステップ84)。
【0041】
この際に、電圧の供給が開始されたアクチュエータ10では、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成するゲル状誘電体31が、陽極32のメッシュ状の編み目(隙間)に進入することにより、ゲル状誘電体31の厚さが薄くなるように変形する。これにより、図6,10に示すように、積層体13がさらに縮長する。また、積層体13の縮長に伴い、ロッド15によって連結されている上プレート14aおよび下プレート14bが下向きにさらに移動する。
【0042】
次いで、コントローラ50は、算出した前傾角度θに基づいて、前傾角度θが減少を開始したか否かを判別する処理を繰り返して実行する(ステップ85)。
【0043】
一方、図10に示すように、装着者200が重量物300を掴んで、挙上動作を開始したときには、前傾角度θが減少し始めるため、コントローラ50は、上述したステップ85において前傾角度θが減少を開始したと判別し、続いて前傾角度θが予め規定された第2規定角度(例えば、45°)以下となったか否か判別する処理を繰り返して実行する(ステップ86)。
【0044】
次いで、図11に示すように、装着者200の上体の前傾角度θが45°以下となったときには、コントローラ50は、上述したステップ86において、前傾角度θが第2規定角度以下となったと判別し、続いて、アクチュエータ10(積層体13)に対する電圧供給を停止する(ステップ87)。次いで、コントローラ50は、前傾角度θを算出する処理を終了し(ステップ88)、続いてセンサ40に対して検出処理の終了を指示し(ステップ89)、制御処理80を終了する。
【0045】
一方、アクチュエータ10に対する電圧供給の停止(上述したステップ87の実行)により、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成する各ゲル状誘電体31の復元に伴うゲル状誘電体31の厚さ方向(積層方向)の復元力が発生する。また、この状態では、上体の前傾による腰部の屈曲に起因するゲル状誘電体31の弾性変形に伴う弾性力も発生している。このため、この復元力および弾性力を伴って積層体13が伸長することで、図11に示すように、ロッド15によって連結されている上プレート14aおよび下プレート14bが上向きに移動する。そして、アクチュエータ10の下プレート14bと下ハーネス20bとを繋ぐコード17を介して、アクチュエータ10が接続されている上ハーネス20aと下ハーネス20bとの間に積層体13の復元力および弾性力がアシスト力Faとして作用し、これによって挙上動作がアシストされる。
【0046】
次いで、図12に示すように、装着者200が挙上動作を終了して直立状態となったときには、アクチュエータ10が初期状態に復帰する。
【0047】
このように、本願の腰サポートウェア1は、ゲル状誘電体31、陽極32および陰極33からなるアクチュエータ素子13aを複数積層した積層体13を有して、各ゲル状誘電体31に対して供給している電圧の供給停止に伴う各ゲル状誘電体31の復元力をアシスト力Faとして出力可能なアクチュエータ10を備えている。この場合、ゲル状誘電体31は、小電力で変形し、軽量でありながら、比較的大きな復元力を発生する。このため、ゲル状誘電体31を用いたアクチュエータ10を備えた本願の腰サポートウェア1では、重い電動モータや大型バッテリが不要なため、軽量化を実現しつつ十分なアシスト効果を発揮することができる。また、本願の腰サポートウェア1は、軽量であり、かつ空気圧縮装置とアクチュエータ10とをチューブで繋ぐ必要もないため、容易な取り扱いを実現することができる。
【0048】
また、この腰サポートウェア1によれば、筒体11、固定プレート12、積層体13、上プレート14a、下プレート14bおよびロッド15を備えてアクチュエータ10を構成したことにより、アクチュエータ10を簡易な構成とすることができるため、腰サポートウェア1をさらに軽量化することができる。
【0049】
また、この腰サポートウェア1によれば、アクチュエータ素子13aを予め決められた層数毎にユニット化して各ユニットの上面および下面に樹脂シート34を配置したアクチュエータ素子ユニット13bを複数積み重ねて積層体13を構成したことにより、アクチュエータ素子13aにショート等の故障が生じたときに、アクチュエータ素子ユニット13b単位での交換をすることで、アクチュエータ10の修理を迅速に行うことができる。
【0050】
また、この腰サポートウェア1によれば、センサ40によって検出された物理量に基づいて制御処理80を実行するコントローラ50を備えたことにより、装着者200がスイッチ操作を行うことなく、アクチュエータ10のゲル状誘電体31に対する電圧の供給および供給停止を、装着者200の上体の前傾角度θに応じて自動的に行わせることができるため、挙上動作を伴う作業の効率を上げることができる。
【0051】
また、この腰サポートウェア1によれば、コントローラ50がセンサ40としての加速度センサの出力信号から特定した装着者200の上体の前傾角度θに基づいて、前傾状態から直立状態への移行および前傾状態から直立状態への移行を特定することにより、アクチュエータ10を正確に制御することができるため、アシスト効果をさらに高めることができる。
【0052】
また、この腰サポートウェア1によれば、バッテリ30、センサ40、およびコントローラ50を収容すると共にアクチュエータ10に固定可能なケース60を備えたことにより、アクチュエータ10とアクチュエータ10を駆動するためのバッテリ30、センサ40およびコントローラ50を一体化することができ、これによって腰サポートウェア1をコンパクトに構成することができるため、より容易な取り扱いを実現することができる。
【0053】
なお、上述した腰サポートウェア1の構成は、本願の腰サポートウェアの一例であって、適宜変更した構成を採用することができる。例えば、上述した腰サポートウェア1の構成では、アクチュエータ10を1本だけ備えているが、アクチュエータ10を複数本備えた構成を採用することもできる。
【0054】
また、上述した腰サポートウェア1では、全体として円柱状のアクチュエータ10を採用した例について説明したが、他の形状(例えば、断面形状が楕円や多角形の柱状)のアクチュエータ10を採用し、そのアクチュエータ10に用いるアクチュエータ素子13aのゲル状誘電体31、陽極32および陰極33の形状をそのアクチュエータ10の断面形状に対応する形状に形成することもできる。
【0055】
この場合、上述したように、アクチュエータ10が出力するアシスト力Faは、積層体13の各アクチュエータ素子13aを構成するゲル状誘電体31、陽極32および陰極33の面積に比例(または、ほぼ比例)し、積層体13の変位量は、アクチュエータ素子13aの積層数に比例(または、ほぼ比例)する。このため、使用目的に応じてゲル状誘電体31、陽極32および陰極33の面積およびアクチュエータ素子13aの積層数を変更することで、その使用目的に適したアシスト力Faおよび変位量を得ることができる。
【0056】
また、上述したアクチュエータ10では、検出部として加速度センサを用いているが、磁気センサ、ロータリーエンコーダ、ジャイロセンサを検出部として用いることもできる。
【0057】
また、上述した腰サポートウェア1では、コントローラ50が積層体13に対する電圧の供給および供給停止を切り替えることでアクチュエータ10の動作を制御しているが、例えば、装着者200によるスイッチ操作(手動操作)によって積層体13に対する電圧の供給および供給停止を切り替えてアクチュエータ10の動作を制御する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 腰サポートウェア
10 アクチュエータ
11 筒体
12 固定ステージ
13 積層体
13a アクチュエータ素子
13b アクチュエータ素子ユニット
14a 上プレート
14b 下プレート
15 ロッド
20a 上ハーネス
20b 下ハーネス
30 バッテリ
31 ゲル状誘電体
32 陽極
33 陰極
34 樹脂シート
40 センサ
50 コントローラ
60 ケース
200 装着者
300 重量物
θ 前傾角度
Fa アシスト力
H 挿通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図12