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  • 特許-金属試料採取装置とその使用方法 図1
  • 特許-金属試料採取装置とその使用方法 図2
  • 特許-金属試料採取装置とその使用方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】金属試料採取装置とその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20231005BHJP
   B24D 5/12 20060101ALI20231005BHJP
   B24B 27/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N1/04 X
B24D5/12 Z
B24B27/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019170819
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021047127
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000147729
【氏名又は名称】株式会社石井鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏治
(72)【発明者】
【氏名】磯部 永舟
(72)【発明者】
【氏名】三上 泰征
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-512018(JP,A)
【文献】特表平01-503171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/04
B24D 5/12
B24B 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断に用いる部分が一定の曲率半径を有する欠球状切断砥石と、該欠球状切断砥石の中央から接線方向に対して垂直な方向でかつ該欠球状切断砥石の曲率の中心に向かって延びるよう配設され、その先端が支点に押しつけられるものである軸であって、該先端が前記欠球状切断砥石の曲率中心に来る長さを有する軸とを備える金属試料採取装置。
【請求項2】
前記欠球状切断砥石を挟んで前記軸の反対側において前記欠球状切断砥石に脱着可能に固定され、前記欠球状切断砥石を回転させる回転駆動部を更に備える請求項1記載の金属試料採取装置。
【請求項3】
被検体の金属表面に固定することができ、前記軸の先端を押しつけるための支点を有する支点部材を更に備える請求項1記載の金属試料採取装置。
【請求項4】
欠球状切断砥石と、該欠球状切断砥石の中央から接線方向に対して垂直な方向でかつ該欠球状切断砥石の曲率の中心に向かって延びるよう配設された軸と、前記欠球状切断砥石を回転させる回転駆動部と、支点を含む支点部材とを備える金属試料採取装置の使用方法であって、前記支点部材を被研削部材である金属表面の第1位置に固定する工程と、前記支点に前記軸の先端を押し当てつつ、前記欠球状切断砥石を前記回転駆動部により回転させて、被研削部材である金属表面を研削する第1研削工程と、前記第1位置と異なる所定の第2位置に支点部材を固定する工程と、第2位置にある前記支点部材の前記支点を用いて前記第1研削工程と同様の手順を実施して、被研削部材の1つの表面と研削により作られた2つの部分球面からなる形状を有する試料を得る第2研削工程とを含む使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板や鋼材などの金属溶接部分の割れや破面等の検査を行うための試料を採取するために用いる欠球状切断砥石、それを利用した金属試料採取装置と、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンクや橋梁などの金属構造物の施工時或いは供用時の開放検査において、鋼板や鋼材などの溶接部分の検査は不可欠である。施工時の溶接が十分なものであっても、供用時の荷重の変化や気候の移り変わりにより、特に溶接部分には負担がかかりやすく、延性破壊、脆性破壊、疲労破壊、応力腐食割れといった問題が生じやすい。
【0003】
これに対して、いろいろな検査方法が知られているが、その一つとして、スンプ法ともいわれるレプリカ法がある。これは、検査対象の表面を現場で鏡面仕上げ及びエッチングを行い、金属表面組織の樹脂レプリカを採取して、それを検査所において顕微鏡等で検査するものである。この方法は、平坦表面に適用できるが、破断部の破面の採取が不可能であり、レプリカは写しでしかないのでどうしても実際の表面組織より精度が悪くなる。
また、溶接部分の内部を見るために、必要な部分を平面状切断砥石で採取しようとすると、試料採取後の鋼板や鋼材等に大きな傷を残し、試料採取後の表面研削傷を補修する際の溶接による肉盛補修の手間が大掛かりとなり、現実的ではない。
【0004】
また、特許文献1にあるようなトレパニング加工におけるように穴を開けて、中心の円柱状の試料を得る工具も知られているが、得られる試料の大きさに比べて、かなり大きな穴が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】公開実用平2-107414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術に鑑み、検査対象物の表面になるべく少ない傷跡しか残さないようにして金属試料を採取する金属試料採取装置及びその使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属試料採取用の欠球状切断砥石を提供する。本発明は更に、欠球状切断砥石と、該欠球状切断砥石の中央から接線方向に対して垂直な方向でかつ該欠球状切断砥石の曲率の中心に向かって延びるよう配設された軸とを備える金属試料採取装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、前記欠球状切断砥石に脱着可能に固定され、前記欠球状切断砥石を回転させる回転駆動部とを備える金属試料採取装置を提供する。
【0009】
本発明は、欠球状切断砥石と、該欠球状切断砥石の中央から接線方向に対して垂直な方向でかつ該欠球状切断砥石の曲率の中心に向かって延びるよう配設された軸と、前記欠球状切断砥石を回転させる回転駆動部と、支点を含む支点部材とを備える金属試料採取装置の使用方法であって、前記支点部材を金属表面の第1位置に固定する工程と、前記支点に前記軸の先端を押し当てつつ、前記欠球状切断砥石を前記回転駆動部により回転させて、被研削部材である金属表面を研削する第1研削工程と、前記第1位置と異なる所定の第2位置に支点部材を固定する工程と、第2位置にある前記支点部材の前記支点を用いて前記第1研削工程と同様または同じ手順を実施して、被研削部材の1つの表面と研削により作られた2つの部分球面からなる形状を有する試料を得る第2研削工程とを含む使用方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明にかかる金属試料採取装置の実施態様を示す斜視図である。
図2】本発明にかかる金属試料採取装置の試料採取動作の原理を示す模式図である。
図3】本発明にかかる金属試料採取装置の各部分の寸法と採取される試料の寸法を示す各方向から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金属試料採取装置1の実施態様を図1に示す。本実施態様では、金属試料採取装置1は、欠球形状をした切断砥石2と、切断砥石2を回転させる回転駆動部10の回転軸(図示せず)に固定されている軸3とからなる。欠球とは、ボール(中空の球体)の一部を平面で切り取った形状のことをいう。一般に球を平面で切り取った形状を「球欠」というが、本発明における欠球状切断砥石2は、平面板を概ね球面に沿うように曲げた形状をしている回転体であり、回転対称になっている。換言すれば、本発明にいう欠球状とは、切断砥石の切断に用いる部分が一定の曲率半径Rを有する欠球形状であればよいという意味であり、それ以外の部分は円形平面や、曲率半径がより大きな球面、段差(オフセット)付きの2段になった円形平面からなる形状などがある。また、切断砥石の中心には、下に説明する回転駆動部と接続するための穴などの必要に応じた接合部が必要であろう。つまり、欠球状切断砥石とは、切断に用いる部分が一定の曲率半径Rを有している欠球形状の切断砥石をいう。
【0012】
切断砥石は、一般に砥粒と結合剤とからなり(補強用にガラスクロスなどを用いる場合もある)、焼成して製造される。使用中には砥粒が磨耗して新しい切刃を生じ、それがだめになると脱落し、次の新しい砥粒が現れる自生作用が生じる。そのため、切断砥石の直径は使用することにより徐々に小さくなっていく。あまり直径が小さくなるとグラインダなどの回転駆動部10が作業面と干渉したり、作業効率が落ちて使い勝手が悪くなるので、自ずと使用に適した直径(外周径)の範囲というのが決まる。その範囲において切断砥石が球の一部の形状になっていれば良い。つまり、切断砥石の回転駆動部10との接合部分は平面であっても良く、また、必要に応じて一般的にある切断砥石のように接合部分をオフセットした形状でも良い。この切断砥石2の回転中心には穴があって、それにより回転駆動部10の回転軸と接合するようにすることが出来る。結合剤としては、長石や可溶性粘土、ベークライトなどを用いることができる。長石や可溶性粘土であれば、完全乾燥した後、1300℃の高温で焼成し、ベークライトなどであれば、200度程度で硬化させる。また、刃厚は、切断砥石の直径や結合剤にもよるが、0.3mmから7mm程度である。直径は、特に限定されないが、100mm程度が好ましい。切断砥石は、被研削部材の厚さや硬度、材質を考慮し、厚さや直径、材質を選定する。
【0013】
本発明に用いる軸3は、剛性のある金属または合成樹脂の棒である。真っ直ぐで先端が尖っている丸棒であってもよいが、以下に説明する適当な支点5にその先端が固定できればよく、その形状や材質については特に制限はない。この軸3と以下に説明する支点5の接合の仕方にも特に限定はない。軸3を根元部分を太くして、先端部分が細い2段、または3段の形状にすることも出来るし、あり合わせのネジや鋼棒、ナットなどを組み合わせて作ることも出来る。この軸3は、上述の回転駆動部10の切断砥石2との接合部において、脱着可能に回転駆動部10の回転軸と結合するようにしてもよいし、欠球状切断砥石2の中心に、砥石の接線方向に垂直な方向に固定されていても良いし、上述の回転駆動部10の切断砥石2との接合部において、脱着可能に結合するようにしても良い。軸3の長さ(切断砥石2に接する位置から軸3の先端までの長さ)は、切断砥石2の欠球形状の曲率半径Rに対応して決まる。つまり、軸3の長さは、もし切断砥石2が全体的に欠球形状であれば、その内側の曲率半径Rになるが、切断砥石2の回転駆動部10との接合部の形状に応じて若干その長さは変動し得る。軸3の先端が欠球状切断砥石2の曲率中心に来るように軸3の長さを決める。
【0014】
欠球状切断砥石2のための回転駆動部10としては、ベビーグラインダ、アングルグラインダ、ハンドグラインダなどとして一般に販売されている持ち運びが容易な装置を用いることができる。駆動方式としては、電気(バッテリ駆動を含む)、圧縮空気などが用いられる。回転駆動部10としては、金属表面を研削して試料を採取する作業に適した回転数の装置を選定する。
【0015】
なお、被研削部材となる金属部材は、一般的な鋼板、H形鋼、鋼製管、鋼製構造部材、鋳鉄部材、アルミ合金やステンレス合金の板や管、構造部材などを含み特に限定されない。
【0016】
図2(A)と図2(B)に本発明の原理を説明するための模式図を示す。図2において、は、欠球状切断砥石2が線で表現されているが、実際にはある程度の厚みがある。以下にその数値の例を示す曲率半径Rなどは欠球状切断砥石2の内側面を基準にしているものと考えて良いであろう。軸3の先端を固定する支点部材4が示されている。これは、軸3の先端をこの支点部材4にある支点5に押しつけて、軸3の回転中に軸3の先端を定位置に保つためのものである。支点部材4の材質はある程度の固さがあれば金属や合成樹脂等何でも良く、その大きさも特に限定されない。また支点5自体もその材質に応じて浅いドリル穴や、ボンチで叩いて付けた窪みなど、軸3の先端を押しつけて固定できるものであれば良い。つまり、支点5は、軸3の先端が回転可能で、安易に動かない程度の引っかかりを提供できるものであれば良い。また、一つの支点部材4に複数の異なる高さの支点5を作っておき汎用性を持たせることも出来る。この支持部材4は、「マグネットホルダ台」、「マグネットブロック」として一般に販売されている固定用具によって、あるいは、接着剤を用いるなど、任意のやり方で被検体の金属表面6に固定できる。
【0017】
また、このような支点部材4は、一例であり、他の態様も多く考えられる。要するに、軸3の先端を被研削部材の金属表面を研削する際にある位置に保持できればいいのであって、そのための手段としては、自在継手を利用することなどが考えられる。 なお、このような自在継手の接合部の角度を調整することにより、被研削部材の金属構造物の角部を欠球状切断砥石2で研削し、試料を採取することも可能となる。
【0018】
図2(A)に研削を始める前の本発明の実施態様の状態の模式図を側面から示す。支点部材4を金属表面6の第1位置に固定し、支点部材4の支点5に軸3の先端を押しつけて、切断砥石2を金属表面6に置いた様子を示す。回転駆動部10が必要であるが、原理を説明するためには必要ないのでここでは省略する。回転駆動部10を手に持って、軸3の先端を支点5に押しつけつつ、切断砥石2を金属表面6に押しつけていく。つまり、切断砥石2の球形状の中心を支点5に置いて研削を行う。
【0019】
図2(B)に切断が進んだ様子を示す。切断砥石2が金属内へと切り込んでいるのが分かる。次に、支点部材4を第1位置とは異なる所定の第2位置に固定し、支点部材4の支点5を右に持ってきて、切断砥石2と軸3の向きを反転させることにより、出来ている切り込みに対向する切り込みを入れる。これにより、船形というか被切削部材の1つの表面(平面あるいは曲面)と切削により得られた2つの部分球面とが合わさって出来た形状の試料を金属の表面から採取することが出来る。
【0020】
図3(A)と図3(B)に、得られる試料の大きさがどう決まるかを示す。図3(A)に本実施態様における各部の寸法を示す。支点5の高さhと切断砥石2の内側の曲率半径Rと平面直径Dの値、そして研削深さdsから採取できる試料のサイズが決定される。
【数1】
【0021】
そして、欠球状切断砥石2の寸法を、外周径Dが100mm、曲率半径Rが82mmであるとすると、曲面深さdは17mmとなる。最大研削深さdsを、それぞれ5mm、10mm、15mm、20mmとすると、支点5の高さhと、得られる試料の幅wと長さLは、次の表1に示すような結果となる。表1に示す通り、支点5の高さhを変更することにより、得られる試料のサイズ(幅w、長さL、深さds)を変更できる。
【表1】
【0022】
現場においては、支点部材4を置く左右の位置と、切り込みを入れていく方向を予め決定して、それらを示す線図を金属表面6に描いて、研削を開始することができる。まず、右か左の一方の切り込みを切ったあと、反対側の切り込みを入れれば、船形あるいは通常1平面(場合によっては曲面)と研削による2部分球面とからなる形状の金属試料を得ることが出来る。溶接部分の検査の場合には、一般的に、10mm程度の立方体等を切り出すことが出来る大きさの試料を採取すれば、溶接の割れなどの検査が出来る。検査終了後には、通常、試料を採取した部分を溶接などにより肉盛補修しておく。
【0023】
なお、本発明の金属試料採取装置及びその装置を使用することにより、平滑面だけでなく、角度を持って溶接されている部分にも適用して、金属試料を採取することが出来る。この角度を持って溶接されている部分の一例として、円筒形タンクの底板と側板の溶接部がある。例えば、自在継手等を利用して支点部材4を円筒形タンクの金属製側板、或いは金属製底板の表面に所定の角度を有するように固定し、各々の支点部材4の位置から欠球状切断砥石2で金属表面を研削することにより、底板と側板との溶接部(通称タライ廻り)から試料を採取することも可能となる。
【0024】
以上説明してきたように本発明の上記の実施態様によれば、研削やドリリングを多用することなく、被検体の金属に大きな傷を残さずに試料を得ることが出来る。その結果、試料採取の作業が容易かつ効率的になるだけではなく、採取あとの補修作業も容易になる。また、試料採取による傷跡が残す脆弱性も低減することが出来る。また、試料を検査所に持ち帰って必要な検査をストレスなく実行することが出来、検査の効率が向上する。
【符号の説明】
【0025】
1 金属試料採取装置
2 欠球状切断砥石
3 軸
4 支点部材
5 支点
6 金属表面
10 回転駆動部

図1
図2
図3