(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】細胞外小胞を用いた全身移植片対宿主病を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/34 20150101AFI20231005BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231005BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231005BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20231005BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K35/34
A61P37/06
A61P17/00
A61P1/00
A61P1/16
A61P11/00
A61P19/02
A61P21/00
A61P15/00
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2019558492
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(86)【国際出願番号】 US2018031257
(87)【国際公開番号】W WO2018204889
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-27
(32)【優先日】2017-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514309457
【氏名又は名称】カプリコール,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス‐ボーラード,ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンマティ,ホーマン
(72)【発明者】
【氏名】ペック,キール,エー.
(72)【発明者】
【氏名】マルバーン,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】モーズリー,ジェニファー,ジェイ.
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043654(WO,A1)
【文献】特表2015-524844(JP,A)
【文献】Kordelas, L. et al.,MSC-derived exosomes: a novel tool to treat therapy-refractory graft-versus-host disease,Leukemia,2014年,Vol. 28, No.4,p.970-973,doi:10.1038/leu.2014.41
【文献】Lener, T. et al.,Applying extracellular vesicles based therapeutics in clinical trials - an ISEV position paper,Journal of Extracellular Vesicles,2015年,Vol.4,30087,doi:10.3402/jev.v4.30087
【文献】Ilic, D., Trento, C.,Latest developments in the field of stem cell research and regenerative medicine compiled from publicly available information and press releases from nonacademic institutions, 1-30 September 2016,Regenerative Medicine,2016年11月30日,Vol.12, No.1,p.5-12,doi:10.2217/rme-2016-0149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における全身移植片対宿主病(GVHD)の治療のための医薬組成物であって
、カーディオスフェア由来細胞(CDC)に由来する細胞外小胞を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記全身GVHDが急性又は慢性である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記全身GVHDの治療が、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、及び肺からなる群から選択される少なくとも1つの器官を治療するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記全身GVHDの治療が、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、及び肺からなる群から選択される少なくとも2つの器官を治療するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記全身GVHDの治療が、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、肺、関節及び筋膜、及び生殖器からなる群から選択される少なくとも1つの器官を治療するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記全身GVHDの治療が、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、肺、関節及び筋膜、及び生殖器からなる群から選択される少なくとも2つの器官を治療するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記全身GVHDの治療が、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、肺、関節及び筋膜、及び生殖器、及び眼からなる群から選択される少なくとも1つの器官を治療するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記全身GVHDの治療が、眼を治療するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記対象は、造血幹細胞移植(HSCT)を受けている、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
HSCTから1、2、3、4、5、6、7、及び/又は8週間後に全身GVHDが治療される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
全身GVHDの治療が、連続治療の間に7日間あけて行われる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
血管内投与、脳室内投与、髄腔内投与、皮下投与、皮内投与又は腹腔内投与のために製剤化されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記血管内投与が、静脈内投与、動脈内投与、又は冠動脈内投与である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記細胞外小胞が、エクソソーム、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクソソーム様小胞、エクトソーム、エクトソーム様小胞、又はエクソ小胞である、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記対象が哺乳動物である、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記細胞外小胞がナチュラルキラー細胞(NK)活性化受容体リガンドを発現する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記ナチュラルキラー細胞(NK)活性化受容体リガンドが、ULBP-2,5,6またはMIC-A/Bである、請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
移植片対宿主病(GVHD)は、非同一ドナーから移植された細胞(典型的には、骨髄、T細胞、及び/又は造血幹細胞のドナー;移植片)が、移植レシピエント(宿主)に見られる抗原に対する有害な免疫応答を認識して、免疫応答を開始するときに生じる。例えば、Billingham,「移植片対宿主反応の生物学(The Biology of Graft-Versus-Host Reactions)」,Harvey Lect. 62:21-78(1966-1967)を参照されたい。この疾患は、複数の器官、最も一般的に、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓及び肺に関与する異種病態として存在する。同種造血幹細胞移植(HSCT)を受けた患者の場合、GVHDは、罹患率及び死亡率の重大な原因である。疾患リスクに影響を与える要因が多いため、急性GVHDと慢性GVHDの両方について報告された症例の範囲は広い。患者の最大80%が、HSCT(急性)後約14~21日でGVHDを発症し、100日を超えて生き残ったもののうち、30~70%が慢性GVHDを発症する。当然のことながら、慢性GVHDは、HSCTの生存者における死亡の単独主要原因を表す。例えば、Pasquiniら、「2010 国際血液骨髄移植研究センターからの報告書(2010 Report from the Center for International Blood and Marrow Transplant Research(CIBMTR)):血液及び骨髄障害の造血細胞移植片の現在の使用と結果(Current Uses and Outcomes of Hematopoietic Cell Transplants for Blood and Bone Marrow Disorders)」,Clin Transpl.,87-105 (2010)を参照されたい。
【0002】
GVHDの発症は、宿主組織を標的とする特異的免疫応答を開始することができる抗原特異的ドナーT細胞の活性化に依存する。この事象は、免疫系を抑制し、効果的な生着を保証するために、HSCT前の宿主のコンディショニングによって増強される。宿主組織の損傷は、直接細胞接触及び可溶性炎症促進性メディエーターの産生を含む様々なメカニズムを伴う細胞傷害性T細胞によって媒介される。例えば、Ferraraら、「移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease)」,Lancet,373:1550-1561(2009);Sakodaら、「ドナー由来の胸腺依存性T細胞は慢性移植片対宿主病を引き起こす(Donor-Derived Thymic-Dependent T Cells Cause Chronic Graft-Versus-Host Disease)」,Blood,109:1756-1764(2010)を参照されたい。Th1、Th2、及びTh17を含む複数のTヘルパー細胞のサブセットが関与することが示されている。例えば、Broadyら、「皮膚GVHDは、Th17細胞ではなく、組織局在化Th1の増大に関連している(Cutaneous GVHD is Associated with the Expansion of Tissue-Localized Th1 and not Th17 Cells)」,Blood,116:5749-5751(2010);Murphyら、「マウスの同種骨髄移植後の急性移植片対宿主病におけるインターフェロンガンマ及びIL-4の不在の差動効果(Differential Effects of the Absence of Interferon-Gamma and IL-4 in Acute Graft-Versus-Host Disease After Allogeneic Bone Marrow Transplantation in Mice)」,J Clin Invest.,102:1742-1748(1998);Nikolicら、「Th1及びTh2は、急性移植片対宿主病を媒介し、それぞれ別々の末端器官を標的化する(Th1 and Th2 Mediate Acute Graft-Versus-Host Disease, each with Distinct End-Organ Targets)」,J Clin Invest.,105:1289-1298(2000)を参照されたい。それらの特定の役割の現在の理解は複雑である。一部のモデルでは、Th17細胞は、GVHDの誘導に十分であることが示されているが、他のモデルでは、それらがないと、疾患が悪化することが示されている。例えば、Yiら、「ドナーTh17が存在しないと、Th1分化が増強し、急性移植片対宿主病が悪化する(Absence of Donor Th17 Leads to Augmented Th1 Differentiation and Exacerbated Acute-Graft-Versus-Host Disease)」,Blood,112:2101-2110(2008);Kappelら、「IL-17がCD4媒介性移植片対宿主病に寄与する(IL-17 Contributes to CD4-Mediated Graft-Versus-Host Disease)」,Blood,113:945-952(2009)を参照されたい。
【0003】
疾患及び関連危険因子の免疫病理学的基礎、並びにより効果的なMHCマッチングの開発及び免疫コンディショニングの理解における進歩にもかかわらず、最近の移植関連死亡率の減少はほとんど進展していない。現在の治療の焦点は、あいまいな効力を有するコルチコステロイドを用いた一般的な免疫抑制である。疾患症状の持続的な改善は、患者の約50%にのみ見られる。例えば、Billingham,「移植片対宿主反応の生物学(The Biology of Graft-Versus-Host Reactions)」,Harvey Lect.,62:21-78(1966-1967)を参照されたい。より有望な治療法は、GVHDの予防的防止に基づき、メトトレキサート及びタクロリムスなどのT細胞標的剤を使用する。成功しないのは、主に、慢性GVHDの発症率及び重症度の軽減に失敗しているからである。
【0004】
細胞は、それぞれ、エクソソーム及び微小胞と呼ばれるエンドソーム並びに細胞膜起源の多様な種類の膜小胞を細胞外環境に放出する。これらの細胞外小胞は、膜タンパク質及び細胞質タンパク質、脂質、及びRNAの細胞間移動のためのビヒクルとして作用することによって、細胞間コミュニケーションの重要な様式を表す。例えば、Grasa Raposo and Willem Stoorvogel,「細胞外小胞:エクソソーム、微小胞、及びフレンド(Extracellular Vesicle:Exosomes,Microvesicles,and Friends)」,The Journal of Cell Biology,VoL.200, No.4, 373-383 (2013)を参照されたい。国際公開2014/028493は、カーディオスフェア(Cardiosphere)由来細胞(CDC)に由来するエクソソーム及び損傷した若しくは疾患のある細胞又は組織、例えば、損傷した心臓組織の修復又は再生のためのそれらの治療的有用性について記載している。米国特許公開第2012/0315252号は、哺乳動物の損傷した又は疾患のある心臓の機能を増大させるためのCDC、カーディオスフェアからのそれらの派生物、及びそれらの治療的有用性について記載している。国際公開2005/012510は、カーディオスフェア、ヒト又は動物の心臓組織の生検試料からのそれらの派生物、心筋若しくは他の器官の細胞移植及び機能的修復におけるそれらの治療的有用性について記載している。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、全身GVHDの関連するマウスモデルで初めて実証されたように、細胞外小胞、特に、カーディオスフェア由来の細胞(CDC)に由来するエクソソームが、T細胞上で免疫調節能を有し、全身移植片対宿主病(GVHD)を治療するのに有効であるという本発明者らの驚くべき発見に基づいている。本明細書に記載されるように、本発明の方法の利点は、免疫応答を調節し、炎症及び線維症を減少させることにより、GVHDにおける生存と末端器官損傷(例えば、胃腸管及び眼)の両方を改善することができる安全な全身投与生物療法であることである。これは、とりわけ、眼のGVHD及び胃腸管における乏しい栄養吸収に起因する体重減少などの末端器官合併症を低下させ、生存の改善及びおそらく生活の質の向上につながる。
【0006】
本発明の目的のために、用語「全身GVHD」は、「GVHD」と同義的に使用され、細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞の全身投与による治療を必要とするか、若しくはその影響を受けやすい急性又は慢性のGVHDを指す。
【0007】
一般に、本発明は、それを必要とする対象において全身GVHDを安全に治療する方法であって、治療有効量の細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞を該対象に全身投与することを含む方法を提供し、全身GVHDは、複数の器官、最も一般的には、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、及び肺に関与する症候群であり、ドナー由来の細胞(典型的には、骨髄、T細胞、及び/又は造血幹細胞ドナー)は、免疫不全レシピエントに見られる抗原に対する有害な免疫応答を認識し、免疫応答を開始する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、治療有効量の細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞の全身投与は、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、及び肺からなる群から選択される少なくとも1つの器官に対する全身GVHDの治療をもたらす。あるいは、本発明によれば、治療有効量の細胞外小胞の前記投与は、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、及び肺からなる群から選択される少なくとも2つの器官に対する全身GVHDの治療をもたらす。
【0009】
本発明の別の態様によれば、治療有効量の細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞の全身投与は、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、肺、関節及び筋膜、及び生殖器からなる群から選択される少なくとも1つの器官に対する全身GVHDの治療をもたらす。あるいは、本発明によれば、治療有効量の細胞外小胞の前記投与は、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、肺、関節及び筋膜、及び生殖器からなる群から選択される少なくとも2つの器官に対する全身GVHDの治療をもたらす。
【0010】
本発明の別の態様によれば、治療有効量の細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞の全身投与は、皮膚、粘膜、胃腸管、肝臓、肺、関節及び筋膜、及び生殖器、及び眼からなる群から選択される少なくとも1つの器官に対する全身GVHDの治療をもたらす。
【0011】
本発明の別の態様によれば、治療有効量の細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞の全身投与は、眼に対する全身GVHDの治療をもたらす。
【0012】
本発明によれば、治療有効量の細胞外小胞、例えば、CDC由来のエクソソーム及び/又は微小胞は、対象がHSCTを受けた後に、一回以上全身に投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、HSCT後1時間以内に対象に全身投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、HSCT後1~24時間以内に対象に全身投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、HSCT後24~48時間以内に対象に全身投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、HSCT後1~2週の時点で対象に全身投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、HSCT後2~3週の時点で対象に全身投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、HSCT後4~8週の時点で対象に全身投与される。いくつかの実施形態において、治療有効量の細胞外小胞は、例えば、連続投与の間に7日あけて1回以上、例えば、HSCT後1、2、3、4、5、6、7、及び/又は8週の時点で対象に全身投与される。
【0013】
本発明によれば、前記対象は哺乳動物、例えば、ヒトである。前記全身投与は、例えば、血管内投与、脳室内投与、髄腔内投与、又は腹腔内投与を介するものであり、前記血管内投与は、例えば、静脈内、動脈内、若しくは冠動脈内注入又は注射である。
【0014】
本発明によれば、前記細胞外小胞は、エクソソーム、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクソソーム様小胞、エクトソーム、エクトソーム様小胞、エクソ小胞(exovesicles)、エピジモソーム(epididimosome)、アルゴソーム(argosome)、プロミニノソーム(promininosome)、プロスタソーム、デキソソーム、テキソソーム、アーケオソーム(archeosome)、又はオンコソーム(oncosome)などである。
【0015】
本発明の実施形態によれば、前記細胞外小胞は、無血清培地(例えば、IMDM)中で培養し、約15日間、約5%のO2でインキュベートしたCDCに由来し、前記細胞外小胞は、細胞外小胞を含有するCDC馴化培地を、1000kDaの細孔サイズフィルターを通して濾過した後に得られる。より一般的には、本発明によれば、前記細胞外小胞は、血清含有培地又は無血清培地中で培養し、1~15日間、2~20%のO2でインキュベートしたCDCに由来し、前記細胞外小胞は、細胞外小胞を含有するCDC順化培地を、3~1000kDa(例えば、10kDa)の細孔サイズフィルターを通して濾過した後に得られる。あるいは、細胞外小胞は、ポリエチレングリコール(例えば、25%PEG)を用いて沈殿させることにより得られる。
【0016】
本発明によれば、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、薬物送達デバイス、挿入物、又はパッチなどの一部として、晶質液(例えば、プラズマライト(Plasmalyte)、生理食塩水)、水溶液、ゲル、軟膏、クリーム、局所又は移植可能なヒドロゲル、粉末、徐放性ポリマー(例えば、PLGA及びPLA)、ポリエチレングリコール(PEG)含有溶液、懸濁液、乳濁液で製剤化される。いくつかの実施形態において、使用前に、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、ヒト血清アルブミンの有無にかかわらず、適切な緩衝液、例えば、無菌のPBSに再懸濁される。いくつかの実施形態において、エクソソームは、将来の使用のために保存する、例えば、-80℃で凍結することができる。
【0017】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、ヒト又は動物細胞に由来する。いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、カーディオスフェア又はCDCから調製される。いくつかの実施形態において、細胞外小胞は、例えば、エクソソームは、胚性幹細胞、多能性幹細胞、複能性幹細胞、人工多能性幹細胞、出生後の幹細胞、成体幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、上皮幹細胞、神経幹細胞、心臓前駆細胞を含む心臓幹細胞、骨髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、肝幹細胞、末梢血由来幹細胞、臍帯血由来の幹細胞、又は胎盤幹細胞などの再生幹細胞から調製される。
【0018】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、特定の標的部位にそれらを移動させるように(例えば、遺伝学的に又は別の方法で)改変される。例えば、改変は、いくつかの実施形態において、所望の標的組織上の受容体との特異的相互作用をもたらす、エクソソーム上の特異的細胞表面マーカーの発現誘導を含み得る。一実施形態において、エクソソームの天然含有物は除去され、所望の外因性タンパク質及び/又は核酸で置き換えられるか、又は補充される。
【0019】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、miR-146a、miR-148a、miR-22、miR-24、miR-210、miR-150、miR-140-3p、miR-19a、miR-27b、miR-19b、miR-27a、miR-376c、miR-128、miR-320a、miR-143、miR-21、miR-130a、miR-9、miR-185、及びmiR-23aから選択される1以上のマイクロRNAを含む。好ましい実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、miR-146a及びmiR-210を含む。いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、hsa-miR-23a-3p、hsa-miR-130a-3p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-4516、hsa-let-7a-5p、hsa-miR-125b-5p、hsa-miR-199a-3p、hsa-miR-199b-3p、hsa-miR-22-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-1290、hsa-miR-320e、hsa-miR-423-5p、hsa-miR-22-3p、hsa-miR-222-3p(miR-221-3pとしても知られる)、hsa-miR-100-5p、hsa-miR-337-5p、hsa-miR-27b-3p、hsa-miR-1915-3p、及びhsa-miR-29b-3p、hsa-miR-25-3p(miR-92a-3pとしても知られる)から選択される1以上のマイクロRNAを含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、生物タンパク質、例えば、転写因子、サイトカイン、成長因子、及び標的細胞内においてシグナル伝達経路を調節することができる類似のタンパク質を含有する。いくつかの実施形態において、生物タンパク質は、組織の再生及び/又は機能改善を促進することが可能である。いくつかの実施形態において、生物タンパク質は、Irak1、Traf6、Toll様受容体(TLR)シグナル伝達経路、NOX-4、SMAD-4、及び/又はTGF-βに関連する経路を調節することができる。いくつかの実施形態において、生物タンパク質は、エクソソーム形成又はHsp70、Hsp90、14-3-3イプシロン、PKM2、GW182及びAG02などのサイトゾルタンパク質のパッケージングに関連している。いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、シグナル伝達脂質、例えば、セラミド及び誘導体を含有する。
【0021】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、テトラスパニン、例えば、CD63、CD81、CD82、CD53、及び/又はCD37を発現する。いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、1以上の脂質ラフト関連タンパク質(例えば、グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型タンパク質及びフロチリン)、コレステロール、スフィンゴミエリン及び/又はヘキソシルセラミドを発現する。
【0022】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、例えば、約15~250nm、約15~205nm、約90~220nm、約30~200nm、約20~150nm、約70~150nm、又は約40~100nmの直径を有する。いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、微小胞は、例えば、約100~1000nmの直径を有する。
【0023】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、汚染物質又は望ましくない化合物がエクソソームから除去されるように精製される。いくつかの実施形態において、約50%~90%、又は最大100%の汚染物質がエクソソームから除去されるように実質的に精製されたエクソソームが患者に投与される。いくつかの実施形態において、エクソソームの調製は、非エクソソーム成分を本質的に含まない。
【0024】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームは、1以上の追加の薬剤と組み合わせて投与される。例えば、いくつかの実施形態において、エクソソームは、エクソソームに由来する1以上のタンパク質又は核酸と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態において、エクソソームが単離される細胞は、エクソソームと組み合わせて投与される。いくつかの実施形態において、そのようなアプローチは、有利に、エクソソーム送達の急性期間及びより長い期間を提供する(例えば、実際のエクソソーム送達に基づく急性期間及び細胞送達に基づく長い期間、細胞は送達後にエクソソームを分泌し続ける)。
【0025】
いくつかの実施形態において、細胞外小胞、例えば、エクソソームの用量は、約1.0×105~約1.0×1010エクソソームの範囲である。特定の実施形態において、エクソソームの用量は、キログラムあたり、例えば、約1.0×105エクソソーム/kg~約1.0×109エクソソーム/kgで投与される。さらなる実施形態において、エクソソームは、標的組織の塊に基づく量、例えば、約1.0×105エクソソーム/標的組織1グラム~約1.0×109エクソソーム/標的組織1グラムで送達される。いくつかの実施形態において、エクソソームは、特定の標的組織中の細胞の数に対するエクソソームの数の比に基づいて投与される。エクソソームが併用療法(例えば、除去されたエクソソームの動きを止めることができる細胞、薬物療法、及び核酸療法など)と組み合わせて投与される場合に、投与されるエクソソームの用量は、それに応じて、調節する(例えば、所望の治療効果を達成するのに必要に応じて増加又は減少させる)ことができる。
【0026】
本発明は、さらに、上述の方法に従って、全身GVHDの治療に使用するための細胞外小胞を含む製剤を提供する。
【0027】
本発明は、さらに、上述の方法に従って、全身GVHDを治療するための上述の製剤の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】全身GVHDがBALB/cマウスにおいて誘導される方法を示す図である。
【
図2A】GVHDスコアの姿勢基準のグレード0の一例を示す写真である。
【
図2B】GVHDスコアの姿勢基準のグレード1の一例を示す写真である。
【
図2C】GVHDスコアの姿勢基準のグレード2の一例を示す写真である
【
図3A】GVHDスコアの毛の質感基準のグレード0の一例を示す写真である。
【
図3B】GVHDスコアの毛の質感基準のグレード1の一例を示す写真である。
【
図3C】GVHDスコアの毛の質感基準のグレード2の一例を示す写真である。
【
図4A】GVHDスコアの皮膚完全性基準のグレード0の一例を示す写真である。
【
図4B】GVHDスコアの皮膚完全性基準のグレード1の一例を示す写真である。
【
図4C】GVHDスコアの皮膚完全性基準のグレード2の一例を示す写真である。
【
図5】全身GVHDを治療するための細胞外小胞の有効性を評価するための研究設計を模式的に示す。
【
図6A】全身GVHDのマウスモデルの重量に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図6B】統計的検定によるグループの効果的な比較を可能にするためのAUCと同じ
図6Aのデータを示す。
【
図7A】GVHDスコア全体に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図7B】統計的検定によるグループの効果的な比較を可能にするためのAUCと同じ
図7Aのデータを示す。
【
図8A】GVHDスコアの姿勢基準に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図8B】GVHDスコアの活性基準に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す
【
図8C】GVHDスコアの毛の活動基準に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図8D】GVHDスコアの皮膚完全性基準に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図9】全身GVHDのマウスモデルの生存に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図10】
図10A-
図10B。全身GVHDのマウスモデルの下痢の発生に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図11】
図11A-
図11C。全身GVHDのマウスモデルの眼の炎症に対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図12】全身GVHDのマウスモデルの大腸炎スコアに対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図13】合計大腸炎スコアとして
図12と同じデータをグラフで示す。
【
図14】全身GVHDのマウスモデルの大腸組織病理学的重症度スコアに対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図15】全身GVHDのマウスモデルの眼平均組織病理学的スコアに対する細胞外小胞の静脈内投与の効果をグラフで示す。
【
図16】認識されたエクソソームマーカーのCDC-EV内容物を示すウェスタンブロットである。
【
図17】CDC-EVに対するT免疫応答及びナチュラルキラー(NK)免疫応答に関与する免疫分子の発現をグラフで示す。
【
図18】Jurkat T細胞におけるCDC-EVのインビトロ最新情報を示す。
【
図19】CDC-EVによるPHA誘導性T細胞増殖の免疫調節を示す。
【
図20】CDC及びCDC-EVによるPHA誘導性CD69及び/又はHLA-DR発現の下方制御をグラフで示す。
【
図21】CDC-EVがPHA誘導性T細胞増殖を下方制御することをグラフで示す。
【
図22】CDC-EVによるPHA誘導性CD4
+及びCD8
+T細胞増殖の免疫調節をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
A)臨床症状
GVHDは、100日のカットオフを使用して開始時間に基づいて、急性バリアント及び慢性バリアントに古典的に分類される。慢性GVHDの臨床症状には、扁平苔癬に似た皮膚の合併症、又は強皮症の皮膚症状、胃腸管の潰瘍及び硬化を伴うドライ口腔粘膜、並びに血清ビリルビン濃度の上昇が含まれる。これとは対照的に、急性GVHDの患者は、一般的に、古典的な斑点状丘疹、下痢を伴う腹部疝痛、及び血清ビリルビン濃度の上昇を示す。しかしながら、この従来の分類は、急性及び慢性GVHDの兆候がこれらの指定された期間外で起こり得ることを認識することによって検証されてきた。この観察は、急性GVHDと慢性GVHDを区別するために、設定時間よりもむしろ、臨床所見の使用の増加につながった。GVHDの診断に広く受け入れられている米国立衛生研究所(NIH)のコンセンサス基準は、慢性GVHD及び急性GVHDの診断的又は典型的特徴が共に出現する重複症候群を含む。例えば、Filipovichら、「慢性移植片対宿主病における臨床試験のための基準についての米国立衛生研究所のコンセンサス開発プロジェクト:I.診断及びステージングの作業部会報告書(National Institutes of Health Consensus Development Project on Criteria for Clinical Trials in Chronic Graft-Versus-Host disease:I.Diagnosis and Staging Working Group Report)」、Biol Blood Marrow Transplant,11(12):945(2005)を参照されたい。
【0030】
慢性GVHDの徴候及び症状を識別するためのNIHコンセンサス基準を、表1にまとめる。例えば、Jagasiaら、「慢性移植片対宿主病における臨床試験のための基準についての米国立衛生研究所のコンセンサス開発プロジェクト:I.2014診断及びステージングの作業部会報告書(National Institutes of Health Consensus Development Project on Criteria for Clinical Trials in Chronic Graft-versus-Host Disease:I.The2014 Diagnosis and Staging Working Group Report)」、Biol Blood Marrow Transplant,21:389(2015)を参照されたい。
【0031】
【0032】
慢性GVHDと診断された患者は、その後、急性GVHDの特徴の存在又は非存在に基づいて、2つのカテゴリのうちの一方に細分類される:
・古典的慢性GVHD:慢性GVHDの特徴は、急性GVHDの兆候又は症状なく存在する。
・オーバーラップ症候群:慢性GVHDと急性GVHDの両方の特徴が存在する。
【0033】
オーバーラップ症候群に見られる急性GVHDの特徴には、皮膚の変化(皮膚紅斑、斑点状丘疹、掻痒)、口(歯肉炎、粘膜炎、口腔紅斑、口腔内痛)、消化器症状(食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、体重減少、成長障害)、肝機能障害(ビリルビン、アルカリホスファターゼ、ALT、又はASTの上昇)、及び器質化肺炎(器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎とも呼ばれる)が含まれる。
【0034】
本発明の目的のために、本明細書で使用する「治療する」及び「治療」などの用語は、診断された病的状態又は障害を治癒するか、その進行を遅くするか、その症状を軽減するか、かつ/又はその進行を停止させる治療措置を指す。例えば、対象が、慢性GVHDの徴候及び症状を特定するためのNIHコンセンサス基準に従って臨床的改善を示す場合に、対象は、本発明の方法に従ってうまく「治療」される。
【0035】
B)カーディオスフェア
カーディオスフェアは、国際公開2005/012510、及びMessinaら、「ヒト及びマウスの心臓からの成人心臓幹細胞の単離及び増殖(Isolation and Expansion of Adult Cardiac Stem Cells From Human and Murine Heart)」、Circulation Research,95:911-921(2004)に記載されているように、自己接着性クラスターとして成長する未分化心臓細胞であり、これらの開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
簡単に説明すると、心臓組織は、手術又は心臓の生検中に患者から摘出することができる。心臓組織は、左心室、右心室、中隔、左心房、右心房、分界稜、右心室心内膜、中隔壁又は心室壁、心耳、又はそれらの組み合わせから摘出することができる。生検は、例えば、米国特許出願公開第2009/012422号及び同第2012/0039857号に記載されているように、例えば、経皮的生検鉗子を使用することによって取得することができ、この開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。その後、該組織を直接培養することができるか、あるいは、心臓組織を凍結し、融解し、その後、培養することができる。該組織をコラゲナーゼ、及びトリプシンなどのプロテアーゼ酵素で消化することができる。心臓組織は、線維芽細胞様細胞及びカーディオスフェア形成細胞を含む細胞が外植片から成長するように、外植片として培養することができる。場合によって、外植片は、細胞外マトリックスの1以上の成分(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、又は他の細胞外マトリックスタンパク質)でコーティングされた培養容器で培養される。組織外植片は、カーディオスフェア形成細胞の収集前に約1、2、3、4週間、又はそれ以上の間培養することができる。線維芽細胞様細胞の層は、カーディオスフェア形成細胞が現れる外植片から成長することができる。カーディオスフェア形成細胞は、位相差顕微鏡下で小さく、丸い、位相差で明るい細胞として出現し得る。カーディオスフェア形成細胞を含む外植片の周囲の細胞は、手動の方法によって、又は酵素消化によって収集することができる。収集したカーディオスフェア形成細胞は、カーディオスフェアの形成を促進する条件下で培養することができる。いくつかの態様において、細胞は、緩衝培地、アミノ酸、栄養素、血清又は血清代替物、EGF及びbFGFを含むがこれらに限定されない成長因子、カーディオトロフィンを含むがこれに限定されないサイトカイン、限定されないがトロンビンなどの他のカーディオスフェア促進因子を含むカーディオスフェア成長培地中で培養される。カーディオスフェア形成細胞は、約20,000~100,000細胞/mLなどのカーディオスフェア形成に必要な適切な密度で播種することができる。細胞を、ポリ-D-リジン、又は細胞が皿の表面に付着するのを妨げる他の天然若しくは合成の分子でコーティングされた滅菌皿上で培養することができる。カーディオスフェアは、カーディオスフェア形成細胞が播種された約2~7日又はそれ以後に、自然に出現し得る。
【0037】
C)カーディオスフェア由来細胞(CDC)
CDCは、例えば、米国特許出願公開第2012/0315252号に記載されるような方法でカーディオスフェアを操作することによって作製された細胞の集団であり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。例えば、CDCは、培養容器の固体表面への細胞の付着を促進する物質、例えば、フィブロネクチン、ヒドロゲル、ポリマー、ラミニン、血清、コラーゲン、ゼラチン、又はポリ-D-リジンでコーティングされた固体表面上にカーディオスフェアを播種し、付着単層培養としてそれらを増殖させることによって作製することができる。CDCは、標準的な細胞培養方法に応じて、繰り返し継代、例えば、2回以上継代することができる。
【0038】
D)エクソソーム
エクソソームは、多胞体又は細胞の原形質膜のエンドソーム関連領域を含む特定の細胞内経路を介して形成される小胞である。エクソソームは、直径約20~150nmのサイズの範囲であり得る。場合によって、それらは、約1.1~1.2g/mLの特徴的浮遊密度、及び特徴的脂質組成を有する。それらの脂質膜は、典型的には、コレステロールに富み、スフィンゴミエリン、セラミド、脂質ラフト及び露出ホスファチジルセリンを含有する。エクソソームは、インテグリン及び細胞接着分子などの特定のマーカータンパク質を発現するが、一般的に、リソソーム、ミトコンドリア、又はカベオラのマーカーを欠いている。いくつかの実施形態において、エクソソームは、限定されないが、タンパク質、DNA及びRNA(例えば、マイクロRNA及び非コードRNA)などの細胞由来の成分を含有する。いくつかの実施形態において、エクソソームは、エクソソームのレシピエントに対して同種、自己、異種、又は同系である供給源から得られる細胞から得ることができる。
【0039】
特定の種類のRNA、例えば、マイクロRNA(miRNA)は、エクソソームによって運ばれることが知られている。miRNAは、多くの場合、標的メッセンジャーRNA転写物(mRNA)上の相補的な配列へ結合し、それによって、翻訳抑制、標的mRNAの分解及び/又は遺伝子サイレンシングをもたらすことにより転写後調節因子として機能する。例えば、国際公開2014/028493に記載されているように、miR146aは、CDCにおいて250倍を上回る発現増加を示し、miR210は、正常ヒト皮膚線維芽細胞から単離したエクソソームと比較して、約30倍上方制御される。
【0040】
カーディオスフェア及びCDCに由来するエクソソームは、例えば、国際公開2014/028493に記載されており、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。エクソソームを調製する方法は、馴化培地中でカーディオスフェア又はCDCを培養する工程、馴化培地から細胞を単離する工程、例えば、逐次遠心分離によってエクソソームを精製する工程、及び必要に応じて、密度勾配、例えば、スクロース密度勾配でエクソソームを清澄化する工程を含むことができる。場合によって、単離及び精製されたエクソソームは、カーディオスフェア又はCDCの成分などの非エクソソーム成分を本質的に含まない。エクソソームは、0.01~1%のヒト血清アルブミンを含有する無菌PBS緩衝液などの緩衝液に再懸濁することができる。エクソソームは、将来の使用のために凍結及び保存され得る。
【0041】
エクソソームは、限定されないが、ExoSpin(商標)エクソソーム精製キット、インビトロゲン(登録商標)トータルエクソソーム精製キット、PureExo(登録商標)エクソソーム単離キット、及びExoCap(商標)エクソソーム単離キットなどの市販のキットを用いて調製することができる。幹細胞からエクソソームを単離する方法は、例えば、Tanら、Journal of Extracellular Vesicles,2:22614(2013);Onoら、Sci Signal,7(332):ra63(2014)及び米国出願公開第2012/0093885号及び同第2014/0004601号の中で見られる。カーディオスフェア由来細胞からエクソソームを単離する方法は、例えば、Ibrahimら、Stem Cell Reports,2:606-619(2014)の中で見られる。収集されたエクソソームは、当技術分野で公知の方法を用いて濃縮及び/又は精製することができる。具体的な方法は、超遠心分離、密度勾配、HPLC、親和性に基づく基質への付着、又はサイズ排除に基づく濾過を含む。
【0042】
例えば、差動超遠心分離は、分泌されたエクソソームが培養細胞の上清から単離される主要技術となっている。このアプローチは、それらの比較的低い浮遊密度を利用することによって、非膜粒子からのエクソソームの分離を可能にする。サイズ排除は、生化学的に類似するが、生物物理学的に異なり、最大1000nmのより大きな直径を有する微小胞からのそれらの分離を可能にする。浮遊速度の違いは、さらに、異なるサイズのエクソソームの分離を可能にする。一般的に、エクソソームサイズは、40~100nmのサイズを含む、30~200nmの範囲の直径を有する。さらなる精製は、関心のある特定のエクソソームの特定の性質に依存し得る。これは、例えば、外細胞質方向又は外側の方向で特定の小胞を選択するために、目的のタンパク質との免疫吸着の使用を含む。
【0043】
現在の方法、例えば、分画遠心法、不連続密度勾配、免疫親和性、限外濾過及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のうち、差分超遠心分離は、エクソソームの単離に最も一般的に使用される。この技術は、100,000×gでエクソソームペレットから中サイズの粒子及び大サイズの粒子と細胞デブリを分離するために、2000×g~10,000×gへ遠心力を増加させることを利用する。一般的な夾雑物である様々なタンパク質凝集体、遺伝物質、培地からの微粒子及び細胞デブリを除去するには不十分であるが、遠心分離だけで、馴化培地からのエクソソームの顕著な分離/収集が可能になる。エクソソーム精製の強化された特異性は、限外濾過、又はショ糖密度勾配における平衡密度勾配遠心分離と組み合わせた逐次遠心分離を用いて、エクソソーム調製物のより高い純度(浮遊密度1.1~1.2g/mL)又は調製における別々の糖クッションの適用を提供し得る。
【0044】
重要なことには、限外濾過を用いて、生物学的活性を損なうことなくエクソソームを精製することができる。より小さな粒子を除去するために、100kDaの分子量カットオフ(MWCO)などの異なる孔径を有する膜及びゲル濾過は、非中性pH又は非生理学的塩濃度の使用を回避するために使用されてきた。現在利用可能なタンジェンシャル流濾過(TFF)システムは、スケーラブル(10,000L超)で、エクソソーム画分を精製するだけでなく、濃縮が可能であり、そのようなアプローチは、分画遠心法よりも時間がかからない。HPLCはまた、エクソソームを均質にサイズ分類された粒子に精製し、調製物が生理的なpH及び塩濃度で維持されるように、それらの生物学的活性を保つために使用することができる。
【0045】
他の化学的方法は、沈殿技術のためのエクソソームの異なる溶解性、体積排除ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))への添加、おそらく、遠心分離又は濾過の組み合わせた追加ラウンドを利用する。この技術により調製されたペレットの再懸濁は困難であるかもしれないが、例えば、沈殿試薬、ExoQuick(登録商標)を馴化細胞培地に添加し、エクソソームの集団を素早く、迅速に沈殿させることができる。フローフィールドフローフラクショネーション(FlFFF)は、巨大分子(例えば、タンパク質)とナノサイズからミクロサイズの粒子(例えば、細胞小器官及び細胞)を分離し、特徴づけるために使用され、培地からエクソソームを分画するためにうまく適用されてきた溶出ベースの技術である。
【0046】
一般的な生化学的及び生物物理学的な特徴に依存するこれらの技術を上回って注目される技術は、関心のある特異的エクソソームを単離するために適用され得る。これには、特定のエクソソーム関連抗原の認識に対する抗体免疫親和性への依存が含まれる。説明したように、エクソソームはさらに、膜の表面で膜結合型受容体の細胞外ドメインを発現する。これは、共有抗原プロファイルに基づいて、それらの親細胞起源と関連してエクソソームを単離及び分離するための熟した機会を提供する。磁気ビーズ、クロマトグラフィーマトリックス、プレート又はマイクロ流体デバイスへの結合は、関心のある親細胞からのそれらの生成又は関連する細胞の調節状態に関連し得るので、関心のある特異的エクソソーム集団の単離を可能にする。他の親和性捕捉法は、エクソソームの表面上の特異的糖残基に結合するレクチンを使用する。
【0047】
E)実施例
本発明を、さらに、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0048】
実施例1:CDC培養
CDCを、その開示が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2012/0315252号に記載されるように調製した。
【0049】
簡単に説明すると、心臓生検を小さな断片に切り刻み、コラゲナーゼで、短時間で消化した。次いで、外植片を20mg/mLのフィブロネクチンコーティングディッシュ上で培養した。間質様扁平細胞及び位相差で明るい細胞が、組織断片から自然に成長し、2~3週間でコンフルエントに達した。これらの細胞を、0.25%トリプシンを用いて回収し、自己凝集カーディオスフェアを形成するために、20mg/mLのポリ-d-リジンの懸濁液で培養した。CDCを、接着単層培養としてフィブロネクチンコーティングフラスコに播種し、カーディオスフェアを増殖させることによって得た。全ての培養物を、10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、及び0.1mLの2-メルカプトエタノールで補充したIMDM基本培地を用いて、5%O2、5%CO2で、37℃で維持した。CDCを、フィブロネクチンコーティングフラスコで100%コンフルエンシーまで5継代増殖させた。
【0050】
実施例2:CDCからのエクソソームの単離
CDCが所望のコンフルエンシーに達したとき、フラスコをPBSで3回洗浄した。CDCを、無血清培地(IMDM)で処理し、15日間、5%O2、5%CO2で、37℃でインキュベートした。15日後、225mLのBDファルコンポリプロピレンコニカルチューブ(BD 352075-ブルートップ)に馴化培地を収集し、細胞及びデブリを除去するために(ペレットを乱さないように注意して)、4℃で20分間、2,000rpmで遠心分離した。馴化培地を、0.45μmの膜フィルターに通した。馴化培地を、遠心フィルターを用いて濃縮した。3KDaのセントリコンプラス70遠心フィルターを、10~25mLの分子グレードの水で予備洗浄し、18℃で、5分間、3220gで遠心分離した。フィルターを洗浄した後、全ての残りの水を、フィルターに触れることなく注意深く除去した。15mLの馴化培地をフィルターに添加し、18℃で45分間、3220gで遠心分離した。最初のスピン後、残りの培地をピペッティングにより混合し、次いで、所望の濃度に達するまで再度遠心した。次いで、最終試料を0.22μmのシリンジフィルターに通した。Nanosightを用いた粒子計数のために、25μLの濃縮馴化培地を975μLのPBSで希釈した。濃縮馴化培地の別の100μLを用いて、タンパク質濃度を測定した。タンパク質を、DCタンパク質アッセイを用いて定量した。場合によって、履歴データを用いて、遠心分離(UFC)試料による限外濾過中のタンパク質の濃度を計算した。濃縮馴化培地を、直ちに用いるか、又は-80℃で保存した。
【0051】
実施例3:25%ポリエチレングリコール(PEG)でのエクソソーム沈殿
25%PEGの適切な量を、濾過した濃縮馴化培地に添加した。試料をオービタルシェーカー上で、12~16時間、4℃でインキュベートした。インキュベーションが完了したら、試料を4℃で30分間、1500gで遠心分離した。ペレットを乱すことなく、上清を慎重に除去した。ペレットを、所望の量の無血清培地に再懸濁し、粒子計数のために採取した。
【0052】
実施例4:CDC-EV:10kDa&1000KDaの方法;MSC-EV;Newt-EV
A)10kDa&1000KDaの方法
10kDa又は1000kDaの細孔サイズのフィルターを介して、EVを含有するCDC馴化培地(CM)を濾過した後に、CDC-EV(10kDa又は1000kDa)薬物物質を得る。分泌されたEV及び濃縮CMで構成される最終生成物をPlasmaLyte Aで製剤化し、凍結保存する。
【0053】
B)MSC-EV
ヒト骨髄間葉系幹細胞(MSC-EV)に由来する細胞外小胞を、CDC-EV生成のための同様のプロセスに従って、10kDaの細孔サイズのフィルターを通してEVを含有するMSC CMを濾過した後に得る。MSC-EVは、定義された無血清条件下で培養したヒトMSCから得られる細胞を含まない濾過滅菌生成物である。分泌EV及び濃縮CMで構成される最終生成物を、PlasmaLyte Aで製剤化し、凍結保存する。凍結された最終生成物は、解凍後に、直接結膜下注射に「すぐに使用できる」。
【0054】
C)Newt-EV
CDC-EV生成のための同様のプロセスに従って10kDaの細孔サイズのフィルターを通して、EVを含有するA1細胞株CMを濾過した後に、newt A1細胞株(Newt-EV)に由来する細胞外小胞を得る。Newt-EVは、定義された無血清条件下で培養したNewt A1細胞から得られる細胞を含まない濾過滅菌生成物である。分泌EV及び濃縮CMで構成される最終生成物を、PlasmaLyte Aで製剤化し、凍結保存する。凍結した最終生成物は、解凍後に、直接結膜下注射にすぐに使用できる。
【0055】
実施例5:試験品及び対照品
試験品は、定義された無血清条件下で培養し、実施例1~4に例示されるように調製したヒトCDCから得られる細胞を含まない濾過滅菌生成物である。試験品の一般的な特徴を表2にまとめる。
【0056】
【0057】
個々のエクソソームバイアルを4℃又は氷上で解凍した。各アリコートを完全に解凍した後、最初の投与前にマイクロピペット又は統合された針を有するインスリン/ハミルトン型注射器を用いて穏やかに(過剰な泡立ち/発泡を避け、6~8回)混合した。
【0058】
試験品及び対照品を、一晩又は投与日に投与のために解凍し、投与手順中、湿った氷上で維持した。
【0059】
実施例6:全身GVHD動物モデル;研究設計;GVHDの評価
レシピエントBALB/cマウス(n=45、雄、6~8週齢)及びドナーC57BL/6(n=30、雄、6~10週齢)を、Charles River Laboratories(Wilmington、MA)から入手した。動物を、研究開始前に順応させた。この期間中、不良な状態を示した全てのものを除去するために、動物を毎日観察した。
【0060】
研究を、70±5°Fの温度及び50%±20%の相対湿度で、HEPAフィルター済み空気を備えた動物室で行った。動物をケージ当たり15匹のグループで収容した。動物室を、最低毎時12~15回の空気交換を維持するように設定した。部屋に、12時間のオン及び薄明りのない12時間のオフの明/暗サイクルのための自動タイマーを設置した。無菌Alpha-dri(登録商標)寝床を使用した。動物にLabDiet 5053無菌齧歯類用の食事を与え、水を自由に摂取させた。
【0061】
図1及び
図5は、例えば、いくつかの変更を加えたSchroeder及びDiPersio,「移植片対宿主病のマウスモデル:進歩及び制限(Mouse Models of Graft-Versus-Host Disease:Advances and Limitations)」、Disease Models & Mechanisms,4:318-333(2011);van Leeuwenら、「マウスにおける移植片対宿主病の二相病因(Two-Phase Pathogenesis of Graft-Versus-Host Disease in Mice)」、Bone Marrow Transplantation 29:151-158(2002)に基づいて、全身GVHDの動物モデルを作製する方法を示している。1日目に、BALB/cマウスを、単一急性用量8グレイの全身照射(TBI)に供した。0日目に、BALB/cレシピエントに、30ゲージ針を有する注射器を用いて、滅菌1×PBS中2×10
6個の脾細胞と5×10
6個のT細胞除去(CD3
-)骨髄細胞の組み合わせの静脈注射を尾静脈に施した。骨髄(BM)及び脾臓細胞(SC)を、ドナー雄C57BL/6マウスから得た。骨髄細胞を、標準的なフラッシング法を使用して単離し、Miltenyi Biotec(130-093-021)のCD3-ビオチンキットと共に細胞表面のT細胞抗原CD3を用いてT細胞を除去した。レシピエント動物を、それぞれ15匹ずつの3つのグループに無作為化した。
【0062】
1日目から8日目までのTBIに続いて、全ての動物に、ケージの床上の皿の中に補足用の高カロリーで、非常に好ましい食べ物を与えた。0日目に移した後、次いで再び、必要に応じて、全ての動物に、皮下注射による補足流体(加温したリンゲル液)を1mL/動物/日で与えた。追加の1mLの流体を、必要に応じて、午後に与えてもよい。-15%を超えて体重が減少した全ての動物を、非常に好ましい、柔らかい食物及び皮下注射による1mLの補足流体(加温したリンゲル溶液)を与えた。
【0063】
表3に詳述され、かつ
図5に示すように、動物にビヒクル又は試験品を投与した。
【0064】
【0065】
試験期間中毎日、処置群間の可能性のある差異並びにGVHDの重症度及び/又は治療に起因する毒性の可能性の指標として評価するために、各動物を秤量し、その生存を毎日記録した。出発重量の30%超を失った全ての動物を安楽死させた。
【0066】
GVHDの臨床スコアを、表4に詳述した標準的なスコアリングシステムによって評価されるように、全研究期間中に週2回取得し、全体的なGVHDスコアは、5つの基準:最大指数=10の重量変化の割合、
図2A~Cに例示したような姿勢(ハンチング)、
図3A~Cに例示したような毛の質感、及び
図4A~Cに例示したような皮膚の完全性に基づいていた。
【0067】
【0068】
全ての動物を、少なくとも54日間経過観察した。研究の終わりに、全ての生存動物を、CO2の過剰投与により屠殺し、表4に詳述した器官を摘出した。屠殺時に、K2EDTAチューブへの後眼窩採血により採取した。血液を遠心分離し、血漿を収集し、瞬間凍結し、さらにその後の分析のために-80℃で保存した。屠殺時に、肝臓を摘出し、長期保存のために70%エタノールに移す前に、尾状葉を24時間ホルマリン中に直接入れた。屠殺時に、肺及び心臓を一括除去し、肺を心臓の右心室を通じてホルマリンで灌流した。左(非小葉)肺を除去し、長期保存のために70%エタノールに移す前に、24時間ホルマリン中に直接入れた。
【0069】
実施例7:結果の評価&生存中の監視
A)統計分析
パラメトリックデータ(体重変化、生着)を、ビヒクル対照群と全てのグループを比較するために、Holm-Sidak多重比較検定と共に一方向ANOVAを用いて評価した。ノンパラメトリックデータ(GVHDスコア)を、Dunnの事後検定と共にクラスカル・ウォリスで分析した。全ての統計分析を、グラフパッドプリズム6.01ソフトウェア(La Jolla、CA)を用いて行った。統計的有意性は、p<0.05の場合に達成された。
【0070】
B)GVHDスコア
表4及び
図7Aに示すマルチパラメータGVHDスコアリングシステムを使用して評価した場合、脾細胞及び骨髄細胞の静脈内注射は全ての動物においてGVHDを誘発した。
図7Aに示すように、全体的なGVHDスコアの減少が、CDC-EVを投与した両方のグループで観察され、個々のGVHDパラメータ(姿勢、活動、毛の質感、皮膚の完全性)を
図8A~Dにまとめる。
【0071】
あまりにも多くの体重(IACUCプロトコルあたり30%以上)を失っていたので、動物を安楽死させることを余儀なくされた場合は、死んだ動物のデータが含まれるように、最後の観察をその後のデータポイントへと進めた。
【0072】
図7Bを参照して、統計的検定によりグループの効果的な比較を可能にするために、AUCを計算した。
【0073】
C)体重変化
図6Aに示すように、脾細胞及び骨髄細胞の静脈内注射は、全ての動物において体重減少を誘導し、研究の終わりまで、増減の変化が観察された。21日目の投与の開始後、全ての動物は体重の減少を示し続け、33日目ごろにピークに達し、40日目くらいまでに部分的に回復した。CDC-EVの低用量又は高用量のいずれかを投与した動物は、54日目の研究終了時まで一般的な体重増加を経験し続けたが、ビヒクル単独で処置した動物は、体重を減らし続けた。実際、ビヒクル処置動物は、それらの多くが死亡すると予想された研究の終わりに向かって非常に多くの体重を失っていった。
【0074】
あまりにも多くの体重(IACUCプロトコルあたり30%以上)を失っていたので、動物を安楽死させることを余儀なくされた場合は、死んだ動物のデータが含まれるように、最後の観察をその後のデータポイントへと進めた。
【0075】
図6Bを参照して、統計的検定によりグループの効果的な比較を可能にするために、AUCを計算した。
【0076】
D)生存
図9に示すように、研究期間中、全ての動物について生存を追跡し、生存率をプロットし、低用量及び高用量の両方のCDC-EVで処置すると、生存に有益な効果をもたらすように思われた。
【0077】
E)血便&下痢の発症
血便及び下痢の発症を試験の全期間追跡した。研究中のいかなる時点でも、血便の発症はなかった(データは示さず)。
図10A~Bに示すように、高用量のCDC-EVでの処置は下痢の発症を減少させるように思われたが、CDC-EVでの処置の結果として、下痢の発症における劇的な効果は観察されなかった。
【0078】
F)眼の炎症
54日目に屠殺する直前に、眼の炎症を評価し、スコア化し、1%フルオレセインナトリウムの滴を各眼に適用し、次いで、眼を生理食塩水で洗い流し、拡大下で、コバルト青色光で角膜の蛍光を見た。マスクされた/盲検の観察者に、目に見られる角膜フルオレセイン染色の程度に基づいて、各動物の各眼に、次のような0~4のスコア:0=染色なし;0.5=微量の点状染色;1=点状染色;2=角膜表面積の25%までの染色;3=角膜表面積の50%までの染色;4=50%超の角膜表面染色を割り当てた。各眼のスコアを平均化して、各グループの「眼スコア」を得た。
図11A~Cは、CDC-EV処置群において眼のスコアがより低い傾向(したがって、より少ない角膜染色、眼の炎症が減少した兆候)があったが、高用量で処置した動物は、さらにより良好であったことを示す。
【0079】
実施例8:組織病理学的検査
表3に記載したグループ1~3の動物からの14種のマウス結腸試料及び14種のマウスの眼を、病理組織学的検査のために日常的な方法で処理した。ブロックごとに1つのスライドを切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色するか、又は組織構造及び炎症性浸潤の顕微鏡分析をした。ガラススライドを、委員会認定の獣医病理学者が光顕微鏡を用いて評価した。結腸を定性的に評価し、表5~8に列挙した組織病理学的基準に従って、炎症、浮腫、粘膜びらん、及び杯細胞枯渇についてスコア化した。所定のスライド上の長手方向セクションの各々をスコア化した。平均スコアを計算し、各パラメータについて報告した。また、平均合計スコアを、炎症、浮腫、粘膜壊死、及び杯細胞枯渇の合計として計算した。
【0080】
表5
【表5】
表6
【表6】
表7
【表7】
表8
【表8】
【0081】
各特徴のスコアを合計して、合計大腸炎スコア(範囲0~16)を得た。この採点方式で扱われていない結腸の組織学的病変及び眼部における病変を、0=存在しない、1=最小、2=軽度、3=中程度、4=顕著、5=重度の0~5に半定量的にスコア化した。例えば、Crissmanら、「最良の実施のガイドライン:毒性病理(Best Practices Guideline:Toxicologic Pathology)」、Toxicol Pathol,32:126-31(2004)を参照されたい。
【0082】
A)結腸
マウスにおけるGVHD性大腸炎の予想される組織学的病変には、主に大腸粘膜における単核炎症;浮腫による粘膜下層及びリンパ管の拡張;浸食及び好中球の浸潤の有無にかかわらず、上皮損傷又は粘膜壊死;並びに杯細胞の枯渇が含まれた。例えば、Eigenbrodtら、「ヒト大腸GVHD及び炎症性腸疾患とのマウス結腸移植片対宿主病(GVHD)の組織学的類似性(Histologic Similarity of Murine Colonic Graft-versus-host Disease (GVHD) to Human Colonic GVHD and Inflammatory Bowel Disease)」、Am J Pathol,137:1065-76(1990)を参照されたい。さらに予想される病変には、リンパ神経膠細胞集合、上皮細胞アポトーシスを有する結腸腺へのリンパ球の浸潤;腺伸長、好塩基球増加症及び有糸分裂指数の増加によって特徴付けられる上皮過形成;並びに亜急性炎症を伴う腸間膜脂肪壊死、結腸隣接腸間膜への好中球、マクロファージ及びより少ないリンパ球及び形質細胞の浸潤が含まれた。
【0083】
図12~13に示すように、試験品の低用量グループ(グループ2)における粘膜壊死及び杯細胞枯渇のスコアの減少は、未処置グループ(グループ1)と比較して減少した合計スコアをもたらした。
【0084】
B)眼
GVHDを有するマウスからの眼における予想される組織学的病変には、上皮細胞の空胞化及び/又はアポトーシスを同時に伴う角膜上皮への少数のリンパ球の浸潤によって特徴付けられるリンパ神経膠細胞集合が含まれ、潰瘍に進行する角膜上皮の壊死が1つの試料中に存在していた。例えば、Perezら、「眼の移植片対宿主病における角膜縁損傷(Limbus Damage in Ocular Graft-versus-Host-Disease)」、Biol Blood Marrow Transplant,17:270-273(2011)を参照されたい。角膜の亜急性炎症は、間質浮腫又は不定期の間質壊死病巣を伴う、角膜間質及び/又は上皮への好中球、リンパ球又は組織球の浸潤によって特徴付けられた。新生血管形成は、角膜間質への血管の内部成長によって特徴づけられた。亜急性炎症はまた、角膜縁、結膜(存在する場合)及び虹彩又は前房を含む前部ブドウ膜に観察された。石灰化は、角膜間質内又は角膜上皮(上皮下)のすぐそばのサブ基底ゾーンに見られた。レンズ上皮の後方移動及び崩壊並びに気泡細胞形成によって特徴付けられるレンズ繊維変性(白内障形成)が同様に観察された。
【0085】
図15に示すように、リンパ球神経膠細胞集合、角膜及び前ブドウ膜亜急性炎症及び血管新生スコアは、グループ1(未処理)において最も重篤であった。試験品処置動物(グループ2及び3)においてこれらの病変はより低いスコアか、又は全くなかった。
【0086】
実施例9:CDC由来細胞外小胞(CDC-EV)のT細胞との相互作用
本研究の目的は、T細胞の調節と関連するCDC-EVの免疫学的活性を決定することであった。
【0087】
CDC-EV&免疫表現型の特徴付け
図16については、有益なエクソソームマーカー発現を、ウェスタンブロット法を用いるCDC-EVによって分析した。CDC-EV(20μl=10μg)を、RIPA緩衝液を用いて溶解し、10%SDS-PAGEゲルにロードし、次いで、ニトロセルロース膜に移した。膜を5%のBSAでブロッキングし、次いで、HSP70、CD81、CD63、ALIX、HLA II及びβアクチンに特異的な抗体とハイブリダイズした。CDC及び樹状細胞(DC)溶解物並びにエクソソームを含まない上清(SN)を対照として使用した。CDC-EVは、予想されるエクソソームマーカーCD81、CD63及びALIXを発現したが、SNが完全に陰性であった。
【0088】
CDC-EVを、次に、免疫関連マーカーの表面発現について分析した。CDC-EV(30μl=15μg)を、5μLのラテックスビーズ(4μm)に連結した。抗体又はビーズとこれらのEV/ビーズの最終的な非特異的結合を阻止するために、CDC-EV/ビーズを100mMのグリシン及び2%BSA緩衝液で連続的に処理した。洗浄後、EV/ビーズを関連する免疫分子に対する特異的抗体で染色し、Canto II BD Facsにてデータ取得し、フロージョー(FlowJo)ソフトウェアによって分析した。同量のそれぞれの抗体とインキュベートしたビーズを対照として使用した。
【0089】
ビーズ-抗体対照と比較して、CDC-EVは、HLAクラスI分子及びCD86を発現するが、HLA II及びCD80分子について陰性であった。CDC-EVは、ICOS-Lではなく、共刺激PD-L1分子を発現するように思われる。NK活性化受容体リガンドは、CDC-EV上で著しく発現した。
図17については、EVマーカーのCD81とCD63の両方の有意な発現が検出された。
【0090】
同種EVに応答する間接的なT細胞の活性化及び増殖
単球を、2つの異なる健康なドナーから取得した血液試料から単離した。単離した単球をGM-CSF(20ng/ml)及びIL4(20ng/ml)の組み合わせで6日間刺激し、DCに分化させた。GM-CSF+IL4での単球の分化は、HLA II、CD80、及びCD86の分子の適度な発現、CD16(単球/マクロファージのマーカー)の欠如、及びTLR-2の低発現によって特徴付けられる未成熟DC(iDC)を生成する。次いで、これらの単球由来のiDCをHLAミスマッチCDC-EVと一晩インキュベートした。
【0091】
EVと培養したiDCは、成熟DC(mDC)の特徴を示した。それらは、それらのHLA II、CD80及びCD86分子を上方制御し、
図28に示すように、mDC特性として認識される。次いで、1×10
4個のiDC又はEVと接触したiDC(iDC-EV)を、さらに6日間、U底96ウェルプレート中で自己T細胞(1×10
5)と共培養した。自己T細胞をiDC又はiDC-EVと共培養し、CD69及びHLA-DRの発現について、並びにそれらの増殖について分析した。
図29に示すように、2つの異なるドナーからのT細胞の応答は様々であったが、全体として、iDC-EVは、iDC単独よりもT細胞を活性化し、その増殖を誘導するのにより強力であった。
【0092】
直接的なCDC-EV誘導性T細胞増殖と比較して、間接的なCDC-EV誘導性T細胞の増殖の程度はかなりより高い。
【0093】
成熟DC(mDC)によって提示されたときの、T細胞を刺激するCDC-EVの能力を評価した。mDCは非常に低い貪食活性を有することを考慮すると、EVの適切な摂取を保証するために、アポトーシス小体を貪食した以前の経験に基づいて、DCの成熟は、認められたDC成熟の誘導物質であるIFNγ(500IU/ml)でiDC及びiDC-EVを一晩処理することによって誘導された。iDCと比較して、これらのmDCは、HLA II、CD80及びCD86のより高い発現、並びにTLR-2のより高い発現を示し、これらはmDCの既知の特徴である。
図30に示すように、iDCがmDCに成熟する間、CDC-EVが存在すると、さらに、HLA II、CD86、CD80、及びTLR-2分子は上方制御された。
【0094】
次いで、mDC又はmDC-EVを、U底96ウェルプレート中、又は6日間、自己T細胞(1×105)と共培養し、それらの活性化(CD69及びHLA-DRの発現)並びに増殖を分析した。
【0095】
再び2つのドナーからの応答は様々であったが、全体として、mDC-EVは、mDC単独よりもT細胞を活性化し、その増殖を誘導するのにより強力であった。iDC-EV誘導性応答と比較して、同一のドナーについてのmDC-EV誘導性T細胞活性化及び増殖はより高かった。
【0096】
T細胞の活性化及び増殖の点で発明者らの結果をまとめると、弱い直接的な活性化が観察されたので、直接経路を展開することなく、主に間接的な経路を介して、CDC-EVはT細胞を活性化し、その増殖を誘導することができることが示唆される。
【0097】
T細胞によるCDC-EVのインビトロ取り込み
CDC-EVの取り込みについてのT細胞の能力をインビトロで評価した。ヒトCDC-EVを、膜色素DiDを用いて蛍光標識し、Jurkat T細胞(Jurkat、クローンE6-;ATTC(登録商標)TIN-152(商標))に添加した。取り込みを、EVを添加した1時間後、4時間後、又は一晩フローサイトメトリーによって測定した。試験したJurkatT細胞は、試験した異なる時点でDiD蛍光について陽性であり、それらがCDC-EVを取り込むことが示された(
図18)。
【0098】
CDC-EVによる免疫調節
次いで、同種設定で進行中の免疫応答を調節するCDC-EVの能力を調査した。この目的のために、
図19に示すように、U底96ウェルプレート中で、HLAミスマッチ非分画CFSE標識PBMC(1×10
5)を様々な用量のCDC-EVの非存在下又は存在下で、PHA(1μg/ml)で刺激し(上のパネル)、同種のT細胞増殖を、CFSEを監視することによって評価した。CDC-EVは、PHA誘導性CD4
+及びCD8
+T細胞の増殖を下方制御することができた。
図19に示すように、T細胞増殖のCDC-EV誘導性下方制御は用量依存的であり、使用した最高用量(20×10
9粒子)で、CDC-EVは、それらの親細胞よりも、進行中の応答を下方制御するのにより強力であった。
【0099】
同じ実験設定で、PBMCの代わりに、精製したCD3
+ T細胞を使用した場合に、同様の結果が得られたので、CDC-EV誘導性免疫調節は直接的な効果を介する可能性がある。
図20に示すように、実際に、CDC-EVは、2つの異なるドナーから得られたT細胞上でCDC69及び/又はHLA-DRのPHA誘導性発現を下方制御することができた。
【0100】
図21については、CDC-EVによるT細胞活性化マーカーの下方調節が、PHA誘導性CD4
+及びCD8
+T細胞増殖の顕著な下方制御をもたらした。
【0101】
図22については、ドナー間の変動にもかかわらず、2つだけのドナーを用いて得られた結果の範囲内で、CDC-EVは強力な免疫調節因子である。
【0102】
免疫調節を誘導するCDC-EVの能力のこれらの研究から、それらが強力な免疫調節因子であることが実証された。