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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ポリマー分散液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/08 20060101AFI20231005BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20231005BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20231005BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L33/08
C08K3/10
C08K3/20
C08K3/30
C08K3/01
C08K3/36
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020542201
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 FI2018050735
(87)【国際公開番号】W WO2019073122
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】20175895
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520127454
【氏名又は名称】ビルド ケア オイ
【氏名又は名称原語表記】BUILD CARE OY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ヴェサ コポネン
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー部分と、
該ポリマー部分と混合される固体粒子と
を含む、水性のポリマー分散液であって、
前記ポリマー部分が、粒子の形態でありかつマルチモーダル粒度分布を有するアクリレートポリマーを含み、
前記固体粒子が、金属化合物の粒子から形成され、
上記構成成分の混合物の凝固剤をさらに含み、
分散材料100重量部のうち、
70~90重量部がアクリレートポリマーであり、
5~15重量部が固体粒子であり、かつ
0.1~5重量部が、二酸化ケイ素、疎水性二酸化ケイ素またはそれらの混合物である凝固剤である、ポリマー分散液。
【請求項2】
前記ポリマー部分を分散させるために界面活性剤を含む、請求項1に記載のポリマー分散液。
【請求項3】
前記凝固剤が疎水性成分を含む、請求項1または2に記載のポリマー分散液。
【請求項4】
前記凝固剤は微細に分割された二酸化ケイ素、特に気化された二酸化ケイ素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項5】
少なくとも2つの異なるタイプのアクリレートモノマーからなる、少なくとも2つのアクリレートポリマーまたはコポリマーを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項6】
前記固体粒子は、鉄および/またはアルミニウム化合物、例えば酸化鉄、酸化アルミニウムもしくは水酸化アルミニウム、またはそれらの混合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項7】
乾燥物質含有量が、ポリマー分散液の重量から計算して少なくとも55%、最も適切には60~75%であり、機械的に塗布することによって、基材上にコーティングを形成するのに適している、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項8】
前記ポリマー部分は、少なくとも2つのポリマーで形成される混合物を含み、それらのポリマーの平均粒子径が異なる、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項9】
少なくとも本質的に有機溶媒を含まず、特に分散媒が水である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項10】
分散材料100重量部のうち、
70~90重量部が2つのアクリレートポリマーであり、
5~15重量部が、酸化鉄、酸化アルミニウム、またはそれらの混合物である固体粒子であり、
0.1~5重量部が、二酸化ケイ素、疎水性二酸化ケイ素またはそれらの混合物である凝固剤である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項11】
粒径の多分散性指数が2を上回っている、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリマー分散液。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマー分散液の製造方法であって、
界面活性剤を用いて水中に分散され、かつ、その粒子の粒径が異なる少なくとも2種のポリマー、固体粒子、および、凝固剤を含むポリマー分散液を生成し、
混合しながら、該ポリマー分散液に金属化合物粒子および凝固剤を添加する、方法。
【請求項13】
前記ポリマー分散液は、第1のポリマーからなる分散液と、第2のポリマーからなる分散液とを混合することにより生成され、
前記第1のポリマーと前記第2のポリマーの平均粒子サイズが異なる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマー分散液のpH値は、前記金属化合物粒子および凝固剤の添加のあいだ、分散液由来の金属化合物粒子およびポリマーの凝固が起こるpH範囲外のpH値に維持される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマー分散液のpH値は、前記金属化合物粒子および凝固剤の添加のあいだ、前記ポリマー分散液がアニオン的に安定化される7を超える値に維持される、請求項1214のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマー分散液のpH値は、前記金属化合物粒子および凝固剤の添加のあいだ、前記ポリマー分散液がカチオン的に安定化される6.5未満の値に維持される、請求項1214のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
100重量部の固形物のうちの1~75重量部である充填剤を、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマー分散液に添加する、請求項1216のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
生成された前記ポリマー分散液が安定な分散液を形成するために均質化される、請求項1217のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属化合物粒子が金属酸化物または金属硫酸塩である、請求項1218のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー分散液に関する。特に、本発明は、水中に分散されたポリマーとそれと混合された固体粒子とを含む、請求項1のプリアンブルに記載の水性ポリマー分散液に関する。
【0002】
本発明はまた、請求項16のプリアンブルによるポリマー分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
水性ポリマー分散液は周知である。それらは、例えば、接着剤として、塗料中で、および紙および厚紙製品のコーティング(塗装)のために使用される。
【0004】
さらに、水性ポリマー分散液は、水ベースのコーティングにおいて使用されてきた。これらは、例えば、出願公開EP 0 794 018 A2およびEP 1 544 268 A1に記載されている。しかしながら、水性コーティングの耐候性は不十分であることが証明されており、特徴的な特徴は、とりわけ、コーティングの脱離、剥離およびひび割れである。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、先行技術で遭遇する上述の問題を低減するか、または完全に排除することである。
【0006】
具体的には、本発明の目的は、例えば、コーティング及びフィルムの製造に適した新規なポリマー分散液を製造することである。
【0007】
また、本発明の別の目的は、新規なコーティングおよびフィルムを作製することである。
【0008】
本発明は、ポリマー粒子の形態である水分散ポリマーを含むポリマー分散液に固形物を添加することによって、ポリマー組成物を生成することができ、分散ポリマー粒子は、フィルムの制御された形成に有利であるような、それぞれからの適切な距離に留まるという知見に基づく。
【0009】
好ましくは、成膜に適した間隔は、特に、ポリマー粒子よりも大きい平均粒子径を有し、これらのポリマー粒子を少なくとも部分的に吸収することができる固形物を添加することによって達成される。これは、さもなければ互いに近づきすぎるポリマー粒子によって引き起こされる可能性のある、制御不能な分散液の固結を防止する。一方、あまり離れている粒子は、均一なコーティングを達成するためには必要である、均一な膜を作ることができない。
【0010】
ポリマー組成物の成分を互いに十分に接近させることによって、それらの間に二次結合が形成され、その場合、分散液からフィルムが形成される。
【0011】
本発明による分散液から、ポリマー粒子間の空間を減少させることによって、例えば、粒子間の水分、すなわち水を除去することによって、ポリマーフィルムを得ることができる。
【0012】
分散液は、固体表面、テキスタイルまたはメッシュ上に塗布または広げることができる。しかしながら、分散液の自立性ポリマーフィルムを製造することも可能である。このようにして、コーティング、特に、例えば接着剤,コーティングまたは防水材として適した弾性(可撓性)コーティングを形成することができる。
【0013】
より具体的には、本発明の組成物は、請求項1の特徴部分に記載されていることを特徴とする。
【0014】
本発明による方法は、請求項16の特徴部分に記載されていることを特徴とする。
【0015】
本発明により、かなりの利点を達成することができる。このように、ポリマー粒子と組み合わされた固体の、すなわち、潜在的に凝固する凝集体は、強化された三次元フィルム様構造を形成する。
【0016】
ポリマー分散液と凝集体との間の相互作用の結果として、例えば、成分間の化学結合および/または二次結合(例えば、イオン結合または配位結合)に基づく架橋構造が形成されて、例えば、イオノマー型構造を形成することができる。しかしながら、これは1つの可能性に過ぎず、本発明の保護範囲はこの説明に限定されない。
【0017】
本発明のポリマー分散液によれば、コーティング前に濡れていても、全ての表面に良好に付着するコーティングを生成するために使用することができる。したがって、防水を調製するのによく適している。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、分散液に有機溶媒を使用しない。この実施形態では、分散液は有機溶媒を含まず、より好ましくは水ベースである。分散液の液相として水を使用することにより、エコロジカルで毒性のない層、例えばフィルムを生成することが可能になる。
【0019】
また、イソシアネート、フッ素化化合物、スチレンなど、様々なコーティングで一般的に見られる問題のある化合物は、製品を製造する際に使用されないことからも、本発明に係る製品が、無毒性で環境に優しいことが裏付けられる。
【0020】
したがって、この方法の使用は安全であり、使用が容易である。分散液が、例えば、コーティングを生成させるために使用される場合、コーターを、例えば防毒マスクの着用などの有機溶剤の危険から保護する必要はない。また、処理された空間は、コーティングが乾燥された直後に、換気することなく使用することができ、小さな密閉空間がコーティングされている場合であっても、溶剤の気化中に、健康上の危険性および爆発の危険性がない。従って、無溶媒分散液の使用は非常に安全である。
【0021】
コーティングは、表面をウェットにする良好な密着性も有する。
【0022】
生成されるコーティングは、分散によって形成される強化架橋構造に基づいており、この構成は、分散成分間の化学相互作用に基づいている。
【0023】
生成されるポリマー膜は、薄膜の場合にはすでに防水性であるが、場合によっては数cmの厚さであってもよい。
【0024】
所望であれば、フィルムのガス不透過性は、析出およびフィルム形成段階の間に固化される水溶性の吸収性材料を最初に分散液に添加することによっても改善することができる。
【0025】
ポリマーフィルムは、優れた防水性とガス耐性を備えているが、優れた通気性と水蒸気透過性を備える。
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態をより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による分散液は、概して、
i)少なくとも主に固体形態の1つ以上の固体物質(以下、凝集体とも呼ばれる)、
ii)1つ以上のポリマー、および
iii)1つ以上の界面活性剤、および
iv)1つ以上の沈殿剤
を含む。
【0028】
さらに、分散液は、媒体、すなわち、記載された成分が分散される液体も含む。
【0029】
一実施形態では、本発明の水溶性ポリアクリレート分散液は、
a.様々なサイズの粒子を有するか、または広いマルチモーダルもしくは二峰性粒度分布を有するポリマー分散液、
b.金属塩類、金属酸化物もしくは金属硫酸塩、または金属イオンなどの分散金属化合物、および
c.酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、またはそれらの組み合わせなどのポリマーの架橋を促進する成分、
を含む。
【0030】
これらの成分a~cに加えて、分散液は、典型的には、界面活性剤などの分散剤を含む。
【0031】
混合物を均質化することにより、均質化された安定なポリマー分散液が得られる。
【0032】
コーティングまたはフィルムのようなポリマー層は、ポリマー分散液から生成される。特に、記載された分散液は、上述の実施形態において、架橋成分i、iiおよびivと、対応するa~cとの間の化学相互作用に基づいて、分子架橋構造に基づく強化フィルムを形成することができる。
【0033】
「ポリマー分散液」または「分散液」とは、それぞれ、本文脈において、ポリマーが存在し、媒体中に分散されている組成物を指す。ポリマー分散液は、他の分散された微細な成分も含み、最も適切には、すべての分散成分の粒径は、10マイクロメートル未満、とりわけ5マイクロメートル未満である。この文脈において、「分散液」とは、液状または固形の成分が連続相中に分散されている他の組成物も含む。
【0034】
好ましい一実施形態では、分散液は、粘弾性エラストマーである固形物含有ポリマー架橋構造を提供し、これは、例えば、時間‐破断試験(time-rupture test)によって実証することができる。組成物が弾性膜を形成する場合、架橋構造は、好ましくは、イオン結合、配位結合、双極子-双極子相互作用またはファンデルワールス結合などの弱い化学相互作用を介して、物質間の化学結合によって形成される。
【0035】
組成物は、本質的にイオノマーであってもよい。
【0036】
ポリマー
本発明の分散液は、1種以上のポリマーを含む。特に、分散液は、分散形態のポリマー(1以上)を含む。
【0037】
一実施形態では、分散液は、少なくとも2つの異なるポリマーを含む。
【0038】
一実施形態では、分散液は、少なくとも2つの異なったタイプのアクリル酸塩単量体からなるコポリマーを含む。
【0039】
分散液の液相、すなわち「分散媒」は、好ましくは水を含有する。より好ましくは、分散液は本質的に揮発性有機溶媒を含まない。したがって、水分の割合は、分散媒全体の液量の少なくとも95%、最も適切には少なくとも97%である。
【0040】
一実施形態では、異なるサイズのポリマー粒子を有する2つ以上のホモポリマーまたはコポリマーを含む分散液は、互いに2つ以上の異なる別個のポリマー分散液を混合することによって生成される。
【0041】
混合されるポリマー分散液は、それらが異なるポリマーを含むために、それらのモノマー成分が互いに異なるために、またはそれらの粒度分布が互いに異なるために、互いに異なっていてもよい。生成された分散液の粒度分布は、例えば、二峰性分布のようなマルチモーダル(多峰性)分布であってもよく、1つ以上、とりわけ2つ以上のポリマーを含んでもよい。
【0042】
本文脈において、「マルチモーダル」粒度分布という語は、1つの同じポリマーがいくつかのピークを示す粒度分布を有する場合、および2つのポリマーが粒度分布を有し、そのピークが互いに異なる場合の両方を含む。広い、1ピーク分布もこの概念に含まれる。
【0043】
一実施形態では、ポリマー分散液の粒径は、1.5より大きい、とりわけ2より大きい多分散指数を有する。
【0044】
分散液に使用されるポリマーは、最も適切には、生成されたコーティングが種々の基材表面に付着することを可能にする、カルボン酸基または一般にアクリル酸官能基またはビニルエステル類のようなビニル基のような反応性基を含む。適切なポリマーが選択される場合、コーティングの特性に影響を及ぼし、様々な用途に適合するようにコーティングを調整することができる。したがって、ポリマーの選択肢は、例えば、コーティングが乾燥または硬化される場合、または膜形成が起こる場合に、分散液中のポリマー間の相互作用、架橋構造の形成、および他の添加元素との結合の形成に影響を及ぼす。
【0045】
ポリマーの選択肢はまた、耐候性、不透過性、耐薬品性、および弾性など、生成されるコーティングの他の所望の特性を決定する。
【0046】
典型的には、本発明に係る組成物から生成されるコーティングまたはフィルムは、耐候性が高く、化学的に耐性があり、不活性である。
【0047】
一実施形態によれば、水相中に分散させることができるポリマーが使用される。別の実施形態では、分散液ポリマーの少なくとも1つは、アクリレートポリマー(非晶ポリアリレート)である。最も適切には、分散液は、アクリレートポリマーである、異なった平均粒子径の少なくとも2つのポリマーを含む。
【0048】
この文脈において、「アクリレートポリマー」とは、アクリル酸またはそのエステルから調製されるポリマーおよびコポリマーを指す。したがって、ここで「アクリレートポリマー」はまた、アクリレートコポリマーを含む。アクリレートポリマーは、典型的には最大+6℃、とりわけ約-36℃~±0℃の低ガラス転移点を有し、良好な密着特性を有する。
【0049】
一実施形態では、アクリレートポリマーまたはアクリレートコポリマーは、式Iによる単位の1つまたは、対応する、それ以上単位を含む。
【0050】
【化1】
【0051】
ここで、RおよびRは、互いに独立して、水素、低級、直鎖または分枝鎖アルキル、アリールおよび場合により置換されているアルカリールを表し、nは10~10,000、典型的には約100~2500の整数である。
【0052】
アクリレートポリマーの酸単量体は、典型的にはアクリル酸またはメタクリル酸であり、さらに、使用されるコモノマーは、アクリル酸ブチル、2-エチルヘキシルアクリレート,メタクリル酸メチルおよびスチレン、またはそれらの混合物であり得る。さらに、イタコン酸,マレイン酸,フマル酸、およびそれらの混合物を使用してもよい。
【0053】
式Iの代替置換基を使用することにより、他の成分、例えば金属化合物を添加する場合、ポリマー分散液の生成、親水性、またはそれに対応してポリマーの疎水性、ガラス転移点、および化学相互作用に影響を及ぼすことができる。
【0054】
アリール誘導体としては、例えば、フェニル基、アルカリールスチレン等が挙げられる。
【0055】
好適なアクリレートポリマーの例には、ポリメチルメタクリレートアクリル酸塩およびスチレン-アクリルコポリマーならびにそれらの混合物が含まれる。
【0056】
ポリマーは、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニルまたはポリビニルアルコールであってもよく、最も適切にはアクリレートポリマーと混合される。アクリルポリマーと1種以上の他のポリマーとの質量比は、最も適切には10:90~99:1、とりわけ20:80~95:5である。異なるコポリマーも可能である。
【0057】
分散ポリマーは、生成されたコーティングまたは膜の弾性マトリックスとして作用し、このマトリックスは、ポリマーが架橋されるときに生成され、これは、粒子間の液相が蒸発するか、または、そうでなければ、水が分散液から除去される(例えば、水が基材に吸収され得る)ときに達成される。この場合、分散液のポリマー成分は、フィルム形成イベントを通じて、層、最も適切には均一な層を形成する。
【0058】
分散液に含まれるポリマーは、分散されたポリマー粒子の粒径に関して互いに異なっていてもよい。より好ましい実施形態では、2つ以上のポリマーが分散液に使用され、その少なくとも1つのポリマーは、他のポリマー(1または複数)よりも実質的に大きい粒径を有する。
【0059】
一実施形態では、第1のポリマーは、他のポリマーの粒径よりも大きい粒径を有し、好ましくは、コーティングまたはフィルムなどのポリマー層のマトリックスとして作用し、コーティングの強度特性を強化する。第1のポリマーの粒径より小さい粒径を有する他方のポリマーのほうは、より大きい粒子間の空の空間を満たすことによって、ポリマー層の構造を緻密化する。それはまた、より大きな粒径を有するポリマーよりも速くフィルムを形成する。したがって、ポリマーの粒度分布は、コーティングの生成速度にも影響を及ぼすことができる。
【0060】
異なるポリマーは異なる密着性を有するので、ポリマーの選択肢は、該方法によって生成される生成物の適用範囲に影響を及ぼし得る。ポリマーの選択はまた、様々な用途のために製品の親水性および疎水性を調整することを可能にする。
【0061】
典型的には、第1のポリマーの粒子と、それに対応して、分散液に含まれる他のポリマー(1または複数)の粒子との平均粒子径の比率は、少なくとも1.25:1、とりわけ少なくとも1.5:1、最も適切には約2:1~100:1、典型的には約2.5:1~10:1である。
【0062】
一実施形態では、第1のより大きいサイズのポリマーは、約0.25~1μmの平均粒子径を有し、他のより小さいサイズのポリマーは、約0.01~0.2μmの平均粒子径を有する。
【0063】
一実施形態では、第1のポリマーは、アクリレートポリマー、特に約500±50nmのポリマー粒径を有するアクリレートコポリマーを含み、他のポリマーは、アクリレートポリマー、特に約100±10nmのポリマー粒径を有するアクリレートコポリマーを含む。
【0064】
第1のポリマーのモル分率と、それに対応する他のポリマー(1または複数)のモル分率との間の混合物中の重量比は、例えば1:100~100:1、最も適切には約1:20~20:1、例えば1:5~5:1であってもよい。
【0065】
「ポリマーの粒径」とは、例えば、光または電子顕微鏡によって、多角レーザー光散乱(MALLS)に基づくような光散乱に基づいて、またはコールター原理に従って機能する装置を使用することによって決定することができる平均粒子径を意味する。
【0066】
一実施形態では、分散液は、ポリマーが異なった平均粒子径を有する2つのポリマー分散液を互いに混合することによって形成される混合物を含む。
【0067】
一実施形態では、ポリマーは、アクリレートポリマーであり、これは、使用することができ、または分散液として使用され、その乾燥物質含有量は、少なくとも30重量%または少なくとも35重量%である。典型的には、使用されるアクリレートポリマー分散液は、最大限約85質量%の乾燥物質含有量を有する。
【0068】
一実施形態では、第1のポリマーは、乾燥物質含有量が約50~70重量%、例えば約55~65重量%である分散液として使用することができ、または使用される。
【0069】
一実施形態において、他のポリマーは、分散液として使用することができ、または分散液として使用され、その乾燥物質含有量は、約30~50重量%、例えば約35~45重量%である。
【0070】
一実施形態では、アルカリ性ポリマー分散液が使用される。このようなポリマー分散液は、典型的には、アニオン的に安定化される。この実施形態では、ポリマー分散液のpH値は、例えば約7より高く、特に約8より高く、最も適切には約9より高い。しかしながら、ポリマー分散液のpH値は、典型的には約14より低い。
【0071】
一実施形態では、酸性ポリマー分散液が使用される。このようなポリマー分散液は、典型的には、カチオン的に安定化されている。この実施形態では、ポリマー分散液のpH値は、例えば、約7未満、特に約6.5未満、最も適切には約6未満である。しかしながら、ポリマー分散液のpH値は、典型的には約1より高い。
【0072】
互いに混合される2つ以上の初期材料-ポリマー分散液がポリマー分散液を調製するために使用される1つの実施形態において、初期材料-ポリマー分散液の両方または全ては、アニオン的にまたはカチオン的に安定化される。
【0073】
表面活性剤
界面活性剤、すなわち分散剤は、配合物の調製および貯蔵の間、液相中に分散されたポリマーを保持することができる。
【0074】
このような分散剤は、典型的には、モノマーまたはポリマー界面活性剤である。ポリマー分散液は、一般に、アニオン的に安定化されるが、カチオン的に安定化されてもよい。
【0075】
界面活性剤の例には、ラウリル硫酸ナトリウムおよびアルキルベンゼンスルホン酸またはスルホネート、例えばドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウムが含まれる。
【0076】
界面活性剤の量は、一般に、ポリマーの量の約0.01~5%である。
【0077】
一実施形態では、界面活性剤は、ポリマー分散液に別々に添加されないが、1つ以上のポリマー分散液が、分散液調製のための最初の物質として使用され、ここで、1つ以上のポリマーは、乳化剤(すなわち、界面活性剤)を用いて、水などの媒体中に分散される。この際、この媒体は、調製すべき分散液の分散媒も形成する。
【0078】
凝集体
本文脈において、「凝集体(集合体)」は、固形の、好ましくは微細に分割された形態で、例えば、紛体、顆粒または粒子として、ポリマー溶液に添加される物質を意味する。凝集体は、液相、すなわち水相に部分的または完全に水溶性であってもよいが、凝集体の大部分は、分散液中で固体形態であってもよい。
【0079】
凝集体は、一般に、無機物質、最も適切には、金属もしくは半金属酸化物もしくは硫酸塩などの酸化物化合物もしくは硫酸塩化合物、またはそれらの混合物である。金属には、アルミニウム、ガリウムおよびスズ、ならびに鉄、銅、亜鉛、クロム、バナジウム、ニッケル、チタニウムおよびジルコニウムなどの遷移金属が含まれる。半金属には、シリコン、ゲルマニウムおよびアンチモンが含まれる。
【0080】
水に不溶性または難溶性のいずれかである対応する水酸化物化合物を使用することも可能である。
【0081】
一実施形態によれば、凝集体粒子の少なくともいくつかは、0.01~0.2μm、特に約0.02~0.15μmの平均サイズを有する。最も適切には、凝集体の少なくとも1重量%、特に約2.5~50重量%がこのような粒子からなる。
【0082】
一実施形態によれば、凝集体粒子の少なくともいくつかは、0.2~7.5μm、特に約0.5~5μm、例えば1~3μmの平均サイズを有する。最も適切には、凝集体の少なくとも1重量%、特に約2.5~50重量%がこのような粒子からなる。
【0083】
一実施形態によれば、凝集体は、粒子の百分率を含み、その平均粒子径は0.025~1μm、とりわけ約0.1~0.75μmである。凝集体のこのような粒子の割合は、一般に少なくとも50重量%、特に約60~99重量%である。
【0084】
一実施形態では、組成物に組み込まれる凝集体の量は、乾燥物質から計算して、約1~25重量%、特に約5~20重量%、例えば約7.5~16重量%である。
【0085】
粒径を選択することは、気体透過性、すなわち、分散液から形成されるポリマー層の通気性に影響を及ぼすことができる。材料が乾燥しているとき、より大きな粒子間に生成されるより多数の細孔は、層をより通気性にする。
【0086】
凝集体は、分散液の液相中に部分的に溶解し得るが、沈殿プロセスの間に、凝集体は、典型的には、固形の不溶性状態に戻る。凝集体の状態は、例えば、処理中にpH値または圧力を変化させることによって影響を受け得る。
【0087】
本発明によれば、分散液は、1つ以上の凝集体を含むことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、分散液に含まれる凝集体は、1種以上の鉄またはアルミニウム化合物またはそれらの組み合わせを含む。
【0088】
より好ましい実施形態によれば、凝集体は、鉄およびアルミニウム化合物の混合物を含む。好ましくは、鉄およびアルミニウム化合物の両方が酸化物であるか、または鉄化合物が鉄酸化物であり、アルミニウム化合物が水酸化アルミニウムである。
【0089】
一実施形態によれば、凝集体に含まれる鉄化合物粒子の平均粒子径は、0.025~1μmの範囲、好ましくは0.1~0.5μmの範囲、より好ましくは0.15~0.3μmの範囲、例えば0.2μmである。
【0090】
好ましくは、凝集体中の鉄化合物粒子の割合は、50~99重量%、より好ましくは75~98重量%である。
【0091】
一実施形態によれば、凝集体に含まれるアルミニウム化合物粒子の平均粒子径は、0.01~0.2μmの範囲、好ましくは0.02~0.1μmの範囲、例えば0.06μmである。
【0092】
別の実施形態によれば、凝集体に含まれるアルミニウム化合物粒子の平均粒子径は、0.2~7.5μmの範囲、好ましくは0.5~5μmの範囲、例えば1~3μmである。
【0093】
好ましくは、凝集体中のアルミニウム化合物粒子の割合は、1~50重量%、より好ましくは2~25重量%である。
【0094】
一実施形態によれば、凝集体中の粒状アルミニウムおよび鉄化合物の重量比は、1:99~1:1の範囲、例えば1:50~1:2、好ましくは1:9~1:3の範囲である。
【0095】
鉄化合物は、例えば、酸化第一鉄、酸化第二鉄または酸化鉄(II、III)であってもよい。これらは、特に最後に述べたように、分散液から沈殿させるべきポリマーに(めっきの)密着性を与える。
【0096】
アルミニウム化合物は、例えば、酸化アルミニウムまたは水酸化アルミニウム(例えば、沈降水酸化アルミニウム)であり得る。
【0097】
一実施形態では、凝固剤の目的は、凝固剤を加えた後、非水溶性状態で、そのままで、または溶解およびその後の再沈殿の後に、凝固して不溶性状態になったポリマー間の内接着剤表面として作用し、それによって最終生成物の強度および弾力性を増大させることである。
【0098】
一実施形態では、分散液中に含まれる固形凝集体粒子は、分散液の析出核として作用し、界面活性剤が効果を有するのを停止したとき、および/または粒子間の液相が蒸発したときに、その核にポリマー粒子が沈殿する。
【0099】
一実施形態では、固形凝集体は、ポリマー粒子間の「体積」を満たすことによって構造内で内部密着性面として作用し、それによって、完成したコーティングの体積の変化を低減する三次元内部保持体構造を形成するので、収縮に起因するあらゆる亀裂を抑制するように完成したコーティング内で作用する。このようにして、凝集体は、収縮に起因するひび割れのインヒビターとして作用することができる。同時に、本実施形態において、凝集体は、生成物の緻密化剤および強度増強剤として作用する。
【0100】
一実施形態では、分散液によって形成される膜の密度を増加させることによって、コーティングされるコンクリート表面の分解を遅くすることができることが見出された。特に、コーティングは、コンクリートの炭酸化を遅くすることができる。また、例えば、コンクリートの水溶性成分の洗い流しによって引き起こされる、コンクリートの気孔率の上昇によって引き起こされる、このようなコンクリートの強度の喪失を防止するか、または少なくとも減速させることができる。
【0101】
一実施形態では、分散液の液相に少なくとも部分的に溶解する凝集体が使用される。この場合、凝集体の溶解部分は、ポリマー粒子の沈殿反応における促進剤として、およびポリマー粒子の吸着剤として作用することができる。これは、ポリマー粒子と凝集体粒子との間の相互作用に関連する。
【0102】
凝集体は、一般に、例えば、コーティングまたはフィルムによって保護される構造および表面の腐食、およびコンクリート表面の分解を遅くすることによって、分散液から形成されるコーティングまたはフィルムの製品特性を改善する。
【0103】
一実施形態では、凝集体の溶解部分と界面活性剤との間の反応はまた、析出イベント後の、分散液の界面活性剤(1または複数)の再溶解を防止することができる。
【0104】
一実施形態では、凝集体は、鉄化合物またはアルミニウム化合物またはそれらの混合物を含み、典型的には、凝集体の溶解部分は、正に荷電した鉄またはアルミニウムイオンまたはそれらの混合物を含む。特に、溶解した部分は、Fe2+、Fe3+、またはAl3+イオン、またはそれらの混合物を含む。
【0105】
一実施形態では、鉄酸化物(Fe)が凝集体として使用される。これは、例えば、分散液から形成されるコーティングまたはフィルムによって保護されるべき鋼表面の腐食を遅くする。
【0106】
一実施形態では、凝集体の溶解部分は、静電力を使用することによって、ポリマー粒子の双極子の反対電荷を有する点と二次結合を形成することができる。
【0107】
凝集体または凝集体を選択することにより、分散液の特性、その析出速度、および生成されるコーティングの特性に適切に影響を及ぼすことができる。
【0108】
凝固剤
フィルムの形成を促進するために、凝固剤、すなわち、制御された方法で架橋された構造を提供する「沈殿剤」が使用される。本発明の一実施形態によれば、水分を除去することによって、すなわち、層を形成するように広げられた分散液を乾燥させることによって、分散液からフィルムが形成される。
【0109】
凝固剤および界面活性剤は、分散液の液相の蒸発が、コーティングが乾燥する間に、界面活性剤がもはや、電磁反発力によって分散液のポリマー粒子を離しておくことができず、ポリマー粒子が架橋される状況を導き、ポリマーマトリックスが凝集体粒子および凝固剤粒子を含む中実構造を形成するように相互作用する。
【0110】
本発明の一実施形態によれば、分散液の固化およびポリマーの架橋は、疎水性成分がもはや析出を防ぐことができない程度に、分散液の液相、好ましくは水が蒸発するか、またはそれに対応して、コーティングされる固体表面の輪郭を描く表面材料に吸収されるまで、凝固剤に含まれる疎水性成分を使用することによって防がれる。
【0111】
本発明の一実施形態では、分散液からの架橋構造の形成は、疎水性成分がもはや架橋を妨げることができないような圧力に分散液がもたらされるまで、凝固剤の疎水性成分によって妨げられる。これは、例えば、高圧噴霧で分散液を噴霧することによって達成することができる。
【0112】
より高い圧力を用いて噴霧する場合、噴霧の滴下サイズは減少し、大気接点が増加するため、水分の除去が促進される。
【0113】
本発明による方法では、1つの凝固剤またはいくつかの凝固剤の混合物を分散液中で使用することができる。特に、固形の細かく分割された凝固剤、または2つ以上の固形の細かく分割された凝固剤の混合物が使用される。
【0114】
一実施形態によれば、凝固剤は、気化二酸化ケイ素(フュームドシリカ)などの二酸化ケイ素を含む物質である。二酸化ケイ素は、親水性形態、疎水性形態およびそれらの混合物として使用することができる。
【0115】
一実施形態によれば、二酸化ケイ素などの凝固剤は、疎水性形態(以下、「疎水性部分」とも呼ばれる)である。このような形態では、二酸化ケイ素表面の水酸基は炭化水素基で置き換えられる。疎水性成分の例は、ジメチルジクロロシランで処理された気化二酸化ケイ素である。
【0116】
疎水性部分は、例えば、コロイド形態である。
【0117】
疎水性部分は、分散ポリマーの架橋を低減または完全に防止し、架橋中および架橋後の凝集体粒子と分散ポリマー粒子との間の密着性を改善するために使用することができる。
【0118】
凝固剤の疎水性の部分は、必要な量の分散液相が蒸発するか、または分散液の圧力が変化し、それによって架橋処理を誘発するまで、架橋反応に関与する成分を分離しておくために使用され得るので、疎水性の部分はまた、架橋の速度を調節するために使用され得る。
【0119】
疎水性二酸化ケイ素は、分散したままの凝集体に寄与する。
【0120】
親水性二酸化ケイ素は、気化二酸化ケイ素であってもよい。親水性二酸化ケイ素は、その表面に水酸基を含み、典型的には吸水性である。親水性二酸化ケイ素はまた、組成物のpH値に影響を及ぼす。
【0121】
疎水性と対応する親水性の二酸化ケイ素の重量比は、一般的に25:1-1:25、特に約10:1-1:10、例えば約1:8である。
【0122】
沈殿剤としての親水性および疎水性二酸化ケイ素の総量は、乾燥物質の約1~6重量%である。
【0123】
二酸化ケイ素のような凝固剤は、典型的には微細に分割される。一実施形態では、少なくとも1つの凝固剤は、約5~100nm、最も適切には10~25nmの平均粒子径を有する。
【0124】
凝固剤の量は、典型的には乾燥物質の約0.01~10重量%、例えば0.1~7.5重量%、通常1~5重量%である。
【0125】
凝固剤は、チキソトロピー架橋を使用することによって、生成されたコーティングまたは膜の滴下を低減する。この性質は、屋根の内表面のような鉛直又は下方に向いた表面を被覆するためにも、本発明に係る方法が使用されることを可能にする。さらに、凝固剤は、典型的には、生成されたコーティングまたは膜の湿潤強度を増加させる。
【0126】
凝固剤の疎水性はまた、生成されたコーティングまたは膜の乾燥速度を調整することができる。凝固剤がより疎水性の成分を含むほど、コーティングおよびメンブランはより速く乾燥する。凝固剤の疎水性はまた、コーティングおよび膜の気孔の大きさを制御することができる。コーティングおよびフィルムの気孔寸法は、コーティングの「通気性」を決定し、すなわち、疎水性の構成要素を含む物質は、湿気がコーティングまたはフィルムに浸透し、次にコーティングされる材料に浸透するのを防ぎ、同時に、湿気をはじくことによって、コーティングされる材料から、コーティングまたはフィルムの表面上に、起こり得る湿気を除去する傾向がある。
【0127】
一実施形態では、疎水性成分は、疎水性成分がもはやポリマーの架橋を妨げることができないような圧力に分散液がもたらされるまで、分散液の凝固を妨げる。
【0128】
分散液の凝固は、例えば、分散液中に含まれる疎水性成分によって、分散液の液相、好ましくは水が蒸発し、および/または疎水性成分がもはや架橋を防止できない程度までコーティングされる固体表面を画定する表面材料中に吸収されるまで、防止される。
【0129】
凝固の制御およびコーティングの非滴下特性はまた、種々の酸(例えば、シュウ酸、酢酸またはクエン酸、および種々の他のチクソトロピック剤)を用いて実施され得る。それらの量は、乾燥物質の約0.1~10重量%である。これらの材料は、二酸化ケイ素の代わりに、または二酸化ケイ素と組み合わせて使用することができる。
【0130】
その他の添加剤
本発明に係る方法で用いられる分散液もまた、別の添加剤を含むことができる。
【0131】
また、凝固の制御およびポリマー層の非滴下特性は、種々の酸、例えばシュウ酸、酢酸またはクエン酸、および種々の他のチクソトロピック剤を用いて行うことができる。
【0132】
有用な添加剤は、とりわけ、充填剤および/または剛性調整剤としての種々の微小球である。
【0133】
他の充填剤としては、例えば、ケイ酸アルミニウム、カオリン、タルクおよび他のマグネシウムおよびケイ酸アルミニウムベースの材料、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、粉砕コルクおよび種々の繊維状充てん物および強化繊維が挙げられる。最後に述べた例には、ポリプロピレン及びポリアミド繊維のようなポリマー繊維、並びにセルロース、リグノセルロース及びセルロースパルプ繊維のような天然繊維が含まれる。
【0134】
岩材から発生する砕石や紛体、天然砂なども充填剤として利用できる。
【0135】
分散液はまた、様々な着色剤を含んでもよい。着色剤としては、カーボンブラック,炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化アンチモンおよび硫化カドミウム、鉄酸化物、酸化クロム、チタン酸ニッケルおよび種々の有機顔料が挙げられる。
【0136】
添加剤の量は、一般に、分散液の固形物の約0.1~80%である。特に、電可能性のある充填剤の量は、分散液の固形物の約1~75%である。
【0137】
組成物の調製
上記の組成物は、撹拌しながら、凝集体をポリマー分散液に添加することによって調製され、ポリマー分散液中で、ポリマーは、水などの適切な媒体中に分散される。添加は室温で行うことができる。
【0138】
ポリマー分散液は、第1の分散ポリマーから形成される分散液と、第2の分散ポリマーから形成される分散液とを互いに混合することによって生成することができ、その際、第1の分散ポリマーと、それに対応して、第2の分散ポリマーとは、互いに異なる平均粒子径を有する。
【0139】
添加される凝集体は、最も適切には、1種以上の鉄もしくはアルミニウム化合物、または1種以上の鉄化合物と1種以上のアルミニウム化合物との混合物である。
【0140】
ポリマー分散液は、1つのポリマーから形成される分散液であってもよく、または2つ以上のポリマー分散液(そのポリマーは異なった平均粒子径を有する)を一緒に混合することによって形成されてもよい。
【0141】
最も適切には、界面活性剤は別個に添加されないが、使用される最初の材料は、ポリマー分散液であり、ここで、ポリマーは、界面活性剤と共に、特に水性相中に分散される。しかしながら、分散液中に追加の界面活性剤を導入することも可能である。
【0142】
一般に、界面活性剤の量は、分散液の乾燥物質の約0.1~5%である。
【0143】
凝集体の添加後、凝固剤(1または複数)もまた、激しく混合しながら、このようにして生成された分散液に添加される。
【0144】
生成された混合物を均質化することによって、安定な(沈降しない)分散液が達成される。
【0145】
組成物のpH値は、凝集体および凝固剤の添加の間、ポリマー-凝集体が分散液から凝固し始めるpHの限界値より上またはそれに対応して下に維持される。pH値は、ポリマーの乳化に従って決定され、この方法で使用されるポリマーは、上記のように、アニオン性またはカチオン性のいずれかで安定化される。
【0146】
一実施形態によれば、ポリマーがアニオン的に安定化される場合、金属酸化物粒子および凝固剤を添加しながら、分散液のpH値は7を超える値に維持される。
別の実施形態によれば、分散液のpH値は、金属酸化物粒子および沈殿剤を添加しながら、ポリマーがカチオン的に安定化される6.5未満の値に維持される。
【0147】
一実施形態では、本ポリマー分散液は、分散材料100重量部当たり(すなわち、分散液の乾燥物質100重量部):
70~90重量部のアクリレートポリマーと、
5~15重量部の凝集体と、
0.1~5重量部の凝固剤(1または複数)と、
を含む。
【0148】
加えて、分散液は、分散媒として水のような液を含み、その量は、乾燥物質含有量に従って決定される。
【0149】
本発明によるポリマー分散液は、非常に耐久性がある。典型的には、その保存時間は、少なくとも10時間、特に少なくとも24時間、最も適切には少なくとも7日、好ましくは少なくとも30日、例えば1.5~24ヶ月である。
【0150】
ポリマー生成物の形成
本発明のポリマー分散液は、以下により詳細に記載されるように、例えばフィルムまたはコーティングの形態のポリマー層などのポリマー生成物を提供する。
【0151】
一般に、ポリマー生成物を調製するために、ポリマー分散液中に分散されたポリマーは、分散液から固化され、この場合、例えば、フィルム形成に供されて、ポリマー層を生成する。
【0152】
ポリマーの架橋は、1つまたは複数の界面活性剤の分散効果を除去することによって達成することができる。
【0153】
ポリマーは、ポリマー分散液から水を除去することによって、またはポリマー分散液に圧力をかけることによって架橋することができる。例えば、水分の除去または圧力の方向付けは、圧力をかけずに、または基材に対して圧力をかけて分散液を噴霧するかのいずれかで、分散液を層状に適用することによって行われる。
【0154】
架橋はまた、分散液のpH値を能動的に変化させることによっても生じさせることができる。この例は、分散液のPH値を中性に変換した溶液である。
【0155】
コーティングの形成
上述のように、1つの好ましい実施形態において、コーティングは、本発明のポリマー分散液から、好適な基材上に形成される。
【0156】
ポリマー分散混合物が高圧スプレーを用いて適用される場合、本発明の方法は、好ましくは、少なくとも以下のステップ:
a)特に、異なる粒径を有する少なくとも2つのポリマー分散液の水性ポリマー分散混合物を形成し、
b)工程a)で形成されたポリマー分散混合物に固形物混合物を添加し、この混合物は、1つ以上の鉄またはアルミニウム化合物またはそれらの混合物、および1つ以上の沈殿物質(凝固剤)を含み、
c)攪拌によってポリマー分散液を均質化し、コーティング液を達成し、
d)工程b)で生成されたコーティング液を基材上に塗布する。
を含む。
【0157】
生成物は、高圧噴霧(スプレー)によって、中実基材、織物または網上に適用することができる。
【0158】
高圧噴霧によるコーティングの形成は多くの利点を提供する。噴霧は、大きな表面積を比較的迅速に処理することを容易にする。また、垂直または下向きに配向した表面を処理することは、比較的容易である。
【0159】
典型的には、コーティング液が噴霧されるとき、それは100~600バール、好ましくは200~500バールの圧力にされる。
【0160】
本発明の一実施形態によれば、分散液は、ブラッシングによって、コーティングされる表面、織物、またはメッシュに塗布される。この実施形態は、最も適切には、少なくとも以下のステップ:
a)-異なった粒径を有する少なくとも2つのポリマー分散液の水系ポリマー分散液混合物を形成する工程と、
b)工程a)で形成されたポリマー分散混合物に固形物混合物を添加する工程であって、この混合物は、1つ以上の鉄またはアルミニウム化合物またはそれらの混合物と、1つ以上の沈殿剤(凝固剤)とを含む工程と、
c)工程(b)で生成されたコーティング液をコーティング面にはけ塗り塗装することにより塗布する工程と、
を含む。
【0161】
この塗布方法は、より小さな表面積を処理し、コーティングするのに特に適している。
【0162】
下記の実施例のポリマー分散液はアニオン分散されるが、それらはカチオン分散されてもよく、その際、中和はそれぞれ塩基類によって行われる。
【0163】
塗布中または塗布後に、分散されたポリマーを分散液から析出させて、膜を形成することによりコーティングを形成する。分散液の架橋のために使用される凝固剤(凝集剤)は、分散液の制御された析出を生じる。この場合、膜形成は、例えば、水が出るとき、または特に高圧スプレーの場合、加圧下で行われる。
【0164】
本発明の方法によって生成されるコーティングは、弾力的で伸縮性がありかつフレキシブルがあり、剥離・クラックすることがない。
【0165】
コーティングの厚さは、一般に約0.1~50mm、とりわけ約0.5~25mmである。
実施例
【0166】
実施例1
4つの組成物を、上記の方法を用いて調製した。
本方法では、最初に、約500nmのポリマー粒径および約60重量%の乾燥物質含有量を有する第1のアルカリ性アクリレートコポリマー分散液(分散液I)を、約100nmのポリマー粒径および約40重量%の乾燥物質含有量を有する第2のアルカリ性アクリルコポリマー分散液(分散液II)と混合した。
【0167】
その後、激しく攪拌しながら、微粉砕した鉄(II)-ベアリング鉄酸化物および酸化アルミニウムを徐々に添加した。最後に、親水性気化二酸化ケイ素および疎水性の気化二酸化ケイ素を紛体の形態で添加し、場合により、所望の水準の乾燥物質を達成するのに必要な量の水も添加し、その後、このようにして得られた分散液を均質化した。
【0168】
表1~4は、4つの異なる組成の物質の割合を示す。実施例では、上述の分散液IおよびII、平均粒子径が約20nmの疎水性二酸化ケイ素、平均粒子径が約10nmの親水性二酸化ケイ素、および平均粒子径が約200nmの酸化鉄(II、III)、および平均粒子径が約1.7μmの水酸化アルミニウムに相当するアクリル酸塩の混合分散液を使用する。
【0169】
表1
ポリマー1 64.4%
ポリマー2 23.9%
鉄酸化物 10.6%
疎水性二酸化ケイ素 1.1%
乾燥物質含量 60.8%
【0170】
表2
ポリマー1 62.8%
ポリマー2 15.5%
鉄酸化物 19.2%
疎水性二酸化ケイ素 2.5%
乾燥物質含量 66.2%
【0171】
表3
ポリマー1 70.9%
ポリマー2 15.6%
鉄酸化物 11.2%
水酸化アルミニウム 0.4%
疎水性二酸化ケイ素 0.5%
親水性二酸化ケイ素 1.4%
乾燥物質含量 62.9%
【0172】
表4
ポリマー1 67.8%
ポリマー2 17.0%
鉄酸化物 10.2%
水酸化アルミニウム 2.1%
疎水性二酸化ケイ素 0.5%
親水性二酸化ケイ素 2.5%
乾燥物質含量 62.8%
【0173】
実施例2
実施例1による組成物3および4を、サイズが500mm×600mmである13mm厚さの石膏ボード上に、対応してサイズが300mm×300mmであるコンクリートスラブ上にはけ塗り塗装。試験に使用したコンクリートスラブの表面はサンドブラスト処理を行っていた。
【0174】
対応する適用をスプレーにより行った。
【0175】
試料から特性、定量法、計測結果、「Merketilojen vedeneristeiden ja pintajerjestelmien sertifiointiperusteet VTT SERT R003」(「湿室防水・表層系VTT SERT R003の認証基準」)を求めた。
【0176】
測定結果から、生成物は防水性であり、したがって防水剤として作用すると結論付けることができた。
【0177】
手で適用(アプライ・塗布)した生成物の耐水蒸気性Zは、0.6mmの平均層厚さを有する5.8×109(m sPa/kg)であり、0.3mmの層厚さを有する機械的に噴霧された5.3×109(m sPa/kg)であった。コンクリートに手で適用した組成物の割れの架橋を室温で測定したところ、10.3mmであった。
【0178】
生成したコーティングの弾力性、硬度および強度特性は、ポリマーの数、種々のポリマー間の比率、凝集体の組成物、および凝固剤の数の変化によって影響を及ぼすことができた。
【0179】
産業上の利用可能性
本発明のポリマー-固体物質の組み合わせは、非常に興味深い特性を有する。したがって、良好通気性および水蒸気透過性を有するフィルム(膜)およびコーティングを形成することができる。コーティング又はフィルムの良好密着性により、湿った又は湿った表面に接着させることもできる。コーティングまたはフィルムはまた、良好弾性を有する。クリープ試験は、この材料が粘弾性エラストマーであることを示した。したがって、コーティングとフィルムの両方が、例えば、凹凸基材の表面に適合する。
【0180】
上述のように、ポリマー-固体物質の組み合わせは、とりわけ、構造物の湿気バリア、防水、およびあらゆるタイプの構造物の漏れを修復するのに適している。様々な屋根、バルコニーの表面、アスファルトの表面;湯溜まり部および槽;フーティングおよび基礎;浴室、サウナおよび他の湿気の多い部屋に、工業および建設の両方において、ならびに土地、道路および橋梁構造において使用することができる。コーティングされるべき屋根は、例えば、フェルト、スズまたはセメントコーティング繊維板の表面を有することができる。
【0181】
分散液から沈殿するポリマー-固形物混合物は、良好接着特性を有し、このため、屋根の内表面でさえも、水平面および垂直面構造の両方のコーティングに使用することができる。
【0182】
分散液は、コーティング多孔質材料にも使用することができる。
【0183】
良好密着性上、前記混合物は、接着剤としても好適である。分散液は、ビルディング接着剤として使用することができる。例えば、物体または構造体の間に可撓性接着剤材接合部を提供することである。また、本発明に係る方法によって生み出されるコーティングは、異なった方法で異なる接合材料の熱膨張にも適している。このコーティングにより、例えば、金属と木材とを接合することができる。
【0184】
分散液から沈殿するポリマー-固形物混合物は、良好接着特性を有し、このため、屋根の内表面でさえも、水平面および垂直面構造の両方のコーティングに使用することができる。
【0185】
分散液は、多孔質材料のコーティングにも使用することができる。
その接着特性および可撓性のために、該混合物はまた、接合コンパウンドとしても適しており、目的物と構造体との間の間隙を充填するために使用することができる。これらの例には、セラミック製で岩石材料製のプレートの接合が含まれる。さらに、本発明による組成物は、膨張継手、割れまたはスリットの架橋、高密度化および充てんに適している。
【0186】
この分散液は、ポリマーフィルム、例えば自立型ポリマーフィルムの製造にも適している。
【0187】
一実施形態では、浸出液を案内するのに適した不織布またはフィルムが、本発明の分散液から製造される。この場合、織物または不織布製品は、水不透過性の布帛を生成するために、分散液から形成されたポリマー層でコーティングすることができる。あるいは、水不透過性フィルムは、ポリマーフィルム、特に自立型ポリマーフィルムを形成することによって生成される。
【0188】
沈殿によって分散液から生成されるポリマー-固形物混合物は優れた耐候性を有し、これが、屋内および屋外の両方の適用に適している理由である。
【0189】
本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されることを意図するものではなく、逆に、以下に記載される特許請求の範囲によって決定される保護の範囲内で広く解釈されることを意図する。
【0190】
以下の実施形態は、好ましい解決策を表す:
1.水性ポリマー分散液をベースとする弾性コーティングであって、
a)マルチモーダル粒度分布を有するポリマー分散液、
b)分散した金属化合物、
c)水酸化アルミニウムまたは二酸化ケイ素などの添加剤、
からなる強化分子架橋構造であることを特徴とする弾性コーティング。
【0191】
2.請求項1に記載の成分a)、b)、c)の化学相互作用と、これにより生成された架橋構造とに基づいて、架橋構造をベースとする強化フィルムを形成する、実施の形態1に記載の分散液。
【0192】
参照文献
EP 0 794 018 A2
EP 1 544 268 A1