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特許7360740金属イオン回収装置、金属回収システムおよび金属イオンの回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】金属イオン回収装置、金属回収システムおよび金属イオンの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20231005BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231005BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20231005BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/44 E
B01D39/20 D
B01D61/44 500
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021511361
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011039
(87)【国際公開番号】W WO2020203166
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019069257
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】星野 毅
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034315(JP,A)
【文献】特開平10-102270(JP,A)
【文献】特開2010-029797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/44、1/46-1/469
B01D39/00-39/20
B01D61/42-61/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含む金属イオン含有原液を収容する原液槽と、
前記金属イオン含有原液から回収された金属イオンを含む金属イオン回収液を収容する回収液槽と、
前記原液槽と前記回収液槽とを仕切る焼結体であり、前記金属イオンを選択的に透過させる金属イオン選択透過膜と、
前記金属イオン選択透過膜の前記原液槽側に配置される陽極と、
前記金属イオン選択透過膜の前記回収液槽側に配置される陰極と、
導電性材料で構成された多孔性集電体と、
前記金属イオン選択透過膜と陽極の間隙を保持する第1スペーサーと、
前記金属イオン選択透過膜と陰極の間隙を保持する第2スペーサーと、を有し、
前記陽極が、前記金属イオン選択透過膜に前記多孔性集電体を介して電気的に接続して配置され、且つ、前記陰極が、前記金属イオン選択透過膜に前記多孔性集電体を介して電気的に接続して配置され、前記第1スペーサーおよび前記第2スペーサーが、前記陽極、前記第1スペーサー、前記金属イオン選択透過膜、前記第2スペーサー、前記陰極をこの順で積層した積層体に積層方向に沿う方向に均等に荷重をかけるものであり、
前記原液槽および前記回収液槽のうち少なくとも一方を2個以上備える金属イオン回収装置。
【請求項2】
前記第1スペーサーおよび前記第2スペーサーが、枠状形状であり、前記積層体を前記積層方向に沿う方向に拘束するように荷重をかけるものであることを特徴とする請求項1に記載の金属イオン回収装置。
【請求項3】
前記原液槽と前記回収液槽が交互にそれぞれ前記金属イオン選択透過膜を介して並列されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属イオン回収装置。
【請求項4】
前記金属イオンがリチウムイオンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属イオン回収装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の金属イオン回収装置を複数備え、
それぞれの前記金属イオン回収装置が、前記原液槽を接続する配管と前記回収液槽を接続する配管とで接続されていることを特徴とする金属イオン回収装置ユニット。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の金属イオン回収装置または請求項5に記載の金属イオン回収装置ユニットと、
前記金属イオン回収装置または前記金属イオン回収装置ユニットの前記回収液槽に接続し、前記金属イオン回収液に含まれる金属イオンを、該金属を含む固形物として取り出す精製装置とを含むことを特徴とする金属回収システム。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の金属イオン回収装置または請求項5に記載の金属イオン回収装置ユニットを用いて、
前記金属イオン回収装置または前記金属イオン回収装置ユニットの前記原液槽に収容された前記金属イオン含有原液に含まれる金属イオンを、前記金属イオン選択透過膜に透過させ、前記回収液槽に収容された前記金属イオン回収液で回収することを特徴とする金属イオンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオン回収装置、金属回収システムおよび金属イオンの回収方法に関する。
本出願は、2019年3月29日に日本に出願された特願2019-069257に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、近年、広く利用されている。リチウムイオン電池は、例えば、電気自動車の電源、携帯機器の電源などに用いられている。
また、リチウムは、リチウムイオン電池の原料として使用されている。リチウムは、リチウムイオン電池の他に、核融合炉の燃料となる三重水素の製造においても使用されている。
これらのことから、近年、リチウムの需要が急速に拡大している。
【0003】
リチウムは、海水中に含まれている。このため、海水中に含まれるリチウムを回収する技術が検討されている。また、使用済みのリチウムイオン電池からリチウムを回収する技術が検討されている。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、リチウムイオンを含む原液からリチウムイオンを回収する回収装置が記載されている。この回収装置は、リチウムイオン伝導体で構成された選択透過膜と、選択透過膜の一方の主面側に固定された第1電極と、選択透過膜の他方の主面側に固定された第2電極とを有する。特許文献1および特許文献2に記載の回収装置では、選択透過膜と第1電極と第2電極とを有する構造によって、リチウムイオンを含む原液と回収液との間を仕切り、原液中のリチウムイオンを回収液中に移動させる。
特許文献1および特許文献2に記載の回収装置では、金属イオンを回収するためには、選択透過膜と電極とを電気的に接続する必要がある。特許文献1および特許文献2に記載の回収装置では、選択透過膜と電極とを密着させるための集電体を配置する構成について記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6233877号公報
【文献】国際公開第2017/131051号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
資源の有効利用の観点から、海水、廃電池処理液などのリチウムイオン含有原液から、リチウムイオンを回収することが望まれている。しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されている従来の金属イオン回収装置は、以下に示すように、金属イオンを大量に回収することが困難であった。従来の金属イオン回収装置は、1個の金属イオン伝導体(選択透過膜)を用いて金属イオン含有原液と金属イオン回収液との間を仕切った構造である。このため、装置1台あたりの金属イオンの回収効率を向上させることが難しいからである。
【0007】
金属イオンの回収効率を向上させる目的で、装置1台あたりに複数の選択透過膜を搭載することができる。この場合、上記選択透過膜と電極、具体的には選択透過膜と集電体または集電体と電極との間にズレが生じうる。かかるズレが生じると、選択透過膜と電極との電気的な接続の維持が困難となり、金属イオンの回収効率を向上することができない。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、金属イオンを効率よく回収できる金属イオン回収装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記金属イオン回収装置を用いた金属回収システムおよび金属イオンの回収方法を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 金属イオンを含む金属イオン含有原液を収容する原液槽と、
前記金属イオン含有原液から回収された金属イオンを含む金属イオン回収液を収容する回収液槽と、
前記原液槽と前記回収液槽とを仕切り、前記金属イオンを選択的に透過させる金属イオン選択透過膜と、
前記金属イオン選択透過膜の前記原液槽側に配置される陽極と、
前記金属イオン選択透過膜の前記回収液槽側に配置される陰極と、
導電性材料で構成された多孔性集電体と、
前記金属イオン選択透過膜と陽極の間隙を保持する第1スペーサーと、
前記金属イオン選択透過膜と陰極の間隙を保持する第2スペーサーと、を有し、
前記陽極が、前記金属イオン選択透過膜に前記多孔性集電体を介して電気的に接続して配置され、且つ、前記陰極が、前記金属イオン選択透過膜に前記多孔性集電体を介して電気的に接続して配置され、
前記原液槽および前記回収液槽のうち少なくとも一方を2個以上備える金属イオン回収装置。
【0010】
[2] 金属イオンを含む金属イオン含有原液を収容する原液槽と、
前記金属イオン含有原液から回収された金属イオンを含む金属イオン回収液を収容する回収液槽と、
前記原液槽と前記回収液槽とを仕切り、前記金属イオンを選択的に透過させる金属イオン選択透過膜と、
前記金属イオン選択透過膜の前記原液槽側の面に一体化して設けられた陽極と、
前記金属イオン選択透過膜の前記回収液槽側の面に一体化して設けられた陰極と、を有し、
前記原液槽および前記回収液槽のうち少なくとも一方を2個以上備える金属イオン回収装置。
[3]前記原液槽と前記回収液槽が交互にそれぞれ前記金属イオン選択透過膜を介して並列されていることを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属イオン回収装置。
[4]前記金属イオンがリチウムイオンである、[1]~[3]のいずれかに記載の金属イオン回収装置。
【0011】
[5][1]~[4]のいずれかに記載の金属イオン回収装置を複数備え、
それぞれの前記金属イオン回収装置が、前記原液槽を接続する配管と前記回収液槽を接続する配管とで接続されていることを特徴とする金属イオン回収装置ユニット。
【0012】
[6][1]~[4]のいずれか一項に記載の金属イオン回収装置または[5]に記載の金属イオン回収装置ユニットと、
前記金属イオン回収装置または前記金属イオン回収装置ユニットの前記回収液槽に接続し、前記金属イオン回収液に含まれる金属イオンを、該金属を含む固形物として取り出す精製装置とを含むことを特徴とする金属回収システム。
【0013】
[7][1]~[4]のいずれかに記載の金属イオン回収装置または[5]に記載の金属イオン回収装置ユニットを用いて、前記金属イオン回収装置または前記金属イオン回収装置ユニットの前記原液槽に収容された前記金属イオン含有原液に含まれる金属イオンを、前記金属イオン選択透過膜に透過させ、前記回収液槽に収容された前記金属イオン回収液で回収することを特徴とする金属イオンの回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属イオン(例えばリチウムイオン)の回収効率が向上し、大量の金属イオンを回収できる金属イオン回収装置を提供可能となる。
また、本発明によれば、上記金属イオン回収装置を用いた金属回収システムおよび金属イオンの回収方法を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の一例の断面斜視図である。
図2】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置に用いることができるスペーサーの一例の模式図である。
図3】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置に用いることができるスペーサーの別の一例の模式図である。
図4】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の電極と選択透過膜とスペーサーの配置の一例を示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の電極と選択透過膜とスペーサーの配置の別の一例を示す断面図である。
図6】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の電極と選択透過膜とスペーサーの配置の一例を示す分解斜視図である。
図7】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の電極と選択透過膜とスペーサーの配置の別の一例を示す分解斜視図である。
図8】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の別の一例の断面斜視図である。
図9】本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置を用いた金属回収システムの一例の構成図である。
図10】本発明の一実施形態である金属イオン回収装置ユニットの一例の構成図である。
図11】本発明の一実施形態である金属イオン回収装置ユニットで用いることができる金属イオン回収セルの一例の斜視図である。
図12図11に示す金属イオン回収セルの分解斜視図である。
図13】本発明の一実施形態である金属イオン回収装置ユニットで用いることができる金属イオン回収セルの別の一例の斜視図である。
図14図13に示す金属イオン回収セルの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の金属イオン回収装置は、金属イオンを含む金属イオン含有原液から金属イオンを回収する装置である。回収対象の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などのイオンが挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、セシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。遷移金属としては、コバルト、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。
【0017】
例えば、金属イオンとしてリチウムイオンを回収する実施形態では、上記金属イオン含有原液は、リチウムイオンを含むリチウムイオン含有原液である。
リチウムイオン含有原液としては、例えば、海水、塩湖灌水、にがり、廃電池処理液などを用いることができる。リチウムイオン含有原液中のリチウム濃度は、海水が0.17ppm程度、塩湖灌水が1000ppm程度、にがりが海水の50~1000倍程度、廃電池処理液が2000~3000ppm程度である。
リチウムイオン含有原液としては、リチウム濃度が0.1モル/L以上であるリチウムイオンを含む溶液を用いることが好ましい。塩湖灌水、廃電池処理液は、リチウム濃度が高いため、リチウムイオン含有原液として好適である。また、にがりは、海水から容易に製造できるため、リチウムイオン含有原液として有効である。
【0018】
金属イオン含有原液(例えば、リチウムイオン含有原液)としては、海水、塩湖灌水、にがり、廃電池処理液の他に、鉱物リチウムの溶解液、海水淡水化プラントにて得られる濃縮海水、温泉水などを用いてもよい。
金属イオン含有原液(例えばリチウムイオン含有原液)には、溶媒として、水、有機溶剤などが含まれていてもよい。金属イオン含有原液(例えばリチウムイオン含有原液)中に含まれる溶媒は、環境負荷の観点から水であることが好ましい。
【0019】
金属イオン回収液は、金属イオン選択透過膜を透過した金属イオンを回収する液体である。金属イオン回収液は、金属イオンが溶解し得る溶媒であれば特に限定されない。金属イオン回収液は、例えば、金属イオン含有原液の溶媒と同様のものとしうる。
金属イオン回収液としては、例えば、水(好ましくは純水、RO水(逆浸透膜透過水)などの金属イオンの混入が少ない水)が好ましい。あるいは、回収液中に回収した金属イオンを精製して回収する後工程に有効な溶媒を用いてもよい。
金属イオンとしてリチウムイオンを回収する場合のリチウムイオン回収液の好適例として、水(好ましくは純水、RO水などの金属イオンの混入が少ない水)が挙げられる。あるいは、回収液中に回収したリチウムイオンを固形状のリチウムとして回収する後工程に有効な溶媒として、例えば希塩酸が挙げられる。
【0020】
金属イオン回収装置は、原液槽と、回収液槽と、原液槽と回収液槽とを仕切る金属イオン選択透過膜(以下、単に「選択透過膜」ともいう)と、陽極と、陰極とを含む。原液槽は、金属イオン含有原液を収容する槽である。回収液槽は、金属イオン含有原液から回収された金属イオンを含む金属イオン回収液を収容する槽である。
【0021】
選択透過膜は、金属イオンの伝導体(以下、「金属イオン伝導体」ともいう)を主体とするものである。
本実施形態において「金属イオンの伝導体を主体とする」とは、選択透過膜の全質量の50質量%以上が金属イオンの伝導体であることを意味する。
選択透過膜の全質量中の金属イオンの伝導体の質量%は、イオン伝導率の高い選択透過膜となるため、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0022】
選択透過膜は、例えば、金属イオン伝導体であるセラミックス材料からなるものであってもよいし、金属イオン伝導体と支持体との複合材料であってもよいし、金属イオン伝導体と金属イオンの伝導性向上に寄与する吸着層との複合材料であってもよい。
【0023】
選択透過膜に含まれる金属イオンの伝導体は、金属イオンを伝導可能な材料であればよい。金属イオンの伝導体は、伝導可能な金属元素を含む結晶構造を有し、結晶中を金属イオンが流れることによって、イオン伝導性を示す材料であることが好ましい。
【0024】
選択透過膜に用いられる金属イオンの伝導体は、選択透過膜に透過させる金属イオン、即ち、回収する金属イオンの種類に応じて決定される。
金属イオン伝導体は、イオン伝導率が10-4Scm-1~10-1Scm-1であることが好ましく、より好ましくは10-3Scm-1~10-1Scm-1である。イオン伝導率が高いほど、金属イオンに対する透過性が高くなる。例えばイオン伝導率が10-4Scm-1以上であると、金属イオンに対する透過性が高い選択透過膜となる。このため、金属イオン含有原液中の金属イオンを効率よく回収でき、好ましい。イオン伝導率の上限は、特に限定されないが、例えば10-1Scm-1以下とすればよい。
【0025】
例えば、金属イオン選択透過膜に透過させる金属イオン(即ち回収対象の金属イオン)がリチウムイオンである場合、選択透過膜に用いられる金属イオンの伝導体としては、具体的には、窒化リチウム(LiN)、Li10GeP12、チタン酸リチウムランタン:(Li,La)TiO(ここで、x=3a-2b、y=2/3-a、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、x>0)(以下、「LLTO」という場合がある。)、Li置換型NASICON(Na Super Ionic Conductor)型結晶であるLi1+x+yAl(Ti,Ge)2-xSi3-y12(ここで、0≦x≦0.6、0≦y≦0.6)などのリチウムイオン伝導体を用いることができる。
これらのリチウムイオン伝導体は、いずれも10-4Scm-1以上の高いリチウムイオン伝導率を示し、リチウムイオンに対する高い選択性が得られる超リチウムイオン伝導体である。したがって、かかる超リチウムイオン伝導体を主体とする選択透過膜を備える金属イオン回収装置は、原液中のリチウムイオンを効率よく回収できる。
上記のリチウムイオン伝導体の中でも特に、チタン酸リチウムランタン(LLTO)が好ましい。チタン酸リチウムランタンは、耐水性が高く、リチウムイオン含有原液およびリチウムイオン回収液に長時間浸漬しても性能が低下し難いためである。チタン酸リチウムランタンとしては、具体的にはLi0.29La0.57TiOを用いることが好ましい。
【0026】
アルカリ金属であるナトリウムおよびセシウムは、リチウムと同様に、金属イオンの導電体を形成する元素でありうる。
回収対象の金属イオンがナトリウムイオンである場合、選択透過膜としてナトリウムイオンの伝導体を用いる。ナトリウムイオンの伝導体としては、例えば、βアルミナ、Na(BH)(NH)、NaSbS-NaSnSなどのナトリウムを含む化合物が挙げられる。
また、回収対象の金属イオンがセシウムイオンである場合、選択透過膜としてセシウムイオンの伝導体を用いる。セシウムイオン伝導体としては、例えば(Cs,La)TiO(ここで、xは0.29、yは0.57、zは3である)などのセシウムを含む化合物を用いることが考えられる。
回収対象の金属イオンが、アルカリ土類金属または遷移金属のイオンである場合も、上述したアルカリ金属のイオンである場合と同様に、回収対象の金属イオンの伝導体として、その金属元素を含む化合物を用いることができる。
【0027】
選択透過膜は、金属イオン伝導体からなる焼結体であることが好ましい。選択透過膜は、回収対象金属イオンがリチウムイオンである場合は特に、チタン酸リチウムランタン(LLTO)からなる焼結体であることが好ましい。
金属イオン伝導体の焼結体は、耐水圧性に優れる固い材料であるため耐久性に優れる点で好ましい。また、金属イオン伝導体の焼結体は、金属イオン伝導体からなる微細な粒子が結合(焼結)された多孔質のものであるため、表面に細かな凹凸が存在する。したがって、選択透過膜が金属イオン伝導体の焼結体であると、表面積の大きいものとなる。よって、金属イオン伝導体の焼結体で形成された選択透過膜を備える金属イオン回収装置は、金属イオン含有原液と金属イオン伝導体との接触面積が広く、金属イオン含有原液中の金属イオンを効率よく回収でき、好ましい。
【0028】
選択透過膜の形状は、特に限定されないが、例えば、板状(シート状を含む)とすることができる。
板状の選択透過膜は、平板状であってもよいし、波板状であってもよい。
【0029】
平板状の選択透過膜のサイズは、特に限定されない。
平板状の選択透過膜の平均厚みは、例えば、0.01~20mmとすることが好ましく、0.1~5mmとすることがより好ましい。平均厚みが20mm以下であると、金属イオンが効率よく伝導するものとなり、好ましい。一方、平均厚みが0.01mm以上であると、耐久性の良好なものとなり、好ましい。
また、平板状の選択透過膜の平面視での最大寸法は、10~2000mmであることが好ましく、250~1000mmであることがより好ましく、300~500mmであることがさらに好ましい。
選択透過膜の平面視での最大寸法とは、例えば、選択透過膜が平面視矩形である場合は対角線の長さであり、選択透過膜が平面視円形である場合は直径である。最大寸法が10mm以上であると、金属イオンを効率よく伝導できるものとなり、好ましい。一方、最大寸法が2000mm以下であると、割れ難く、耐久性に優れるものとなり、好ましい。
【0030】
特に、平板状の選択透過膜が金属イオン伝導体の焼結体である場合は、平均厚みが0.2~1.0mmであって、平面視での最大寸法が30~100mmであることが好ましい。このような平板状の選択透過膜は、容易に効率よく製造可能であり、かつ金属イオンが効率よく伝導するものであり、好ましい。具体的には例えば、選択透過膜は、平均厚みが0.5mm程度で一辺の長さが5cm程度である平面視正方形とすることができる。
また、選択透過膜が平板状である場合、必要に応じて、複数の選択透過膜をその面内方向に接合して使用してもよい。
【0031】
陽極は、選択透過膜の原液槽側の面に電気的に接続する。陽極と選択透過膜の原液槽側の面とは、多孔性集電体を介して電気的に接続していてもよい。あるいはまた、選択透過膜の原液槽側の面に陽極を密着して配置することで、電気的に接続していてもよい。即ち、選択透過膜の原液槽側の面に陽極を一体に形成してもよい。陽極用の導電性材料としては、従来公知の導電性材料を採用できる。
陽極用の導電性材料としては、例えば、Pt、Cu、Au、Ag、C、Fe、W、Mo、Ni、Co、Cr、Ti、Ir、Mn、La、Sr、Al、Pb、Zn、Rhから選ばれる1種または2種以上の元素を含むことが好ましく、Pt、Cu、Fe、C、Ag、Tiから選ばれる1種または2種以上の元素を含むことがより好ましい。かかる陽極材料は、合金であっても良く、TiIr、ステンレス鋼(SUS)等が例示される。特に、陽極は、Pt、CまたはTiを主成分とすることがさらに好ましい。これを主成分とする材料からなる陽極は、例えば、原液中の金属イオンを回収することによって塩素ガスおよび/またはフッ素ガスなどの腐食性ガスが発生する場合であっても、優れた耐食性が得られるためである。
陽極の形状としては、特に制限はない。陽極の形状は、例えば、板状、網目状(メッシュ状)、棒状、ストライプ状、ドット状、格子状、ハニカム状などの規則的なパターンであってもよいし、不規則的なパターンであってもよい。多孔性集電体を介して陽極と選択透過膜とを電気的に接続する場合には、陽極の形状は、例えば板状、網目状(メッシュ状)、棒状、格子状、ハニカム状などの連続形状とし得る。選択透過膜に陽極が密着して配置されて電気的に接続される場合(選択透過膜に陽極を一体に形成する場合)には、陽極の形状は特に限定されず、任意の形状とすればよい。
また、陽極と選択透過膜とを電気的に接続する多孔性集電体としては、例えば、フェルト状またはスポンジ状の導電性材料を用いることができる。多孔性集電体用の導電性材料としては、陽極用の導電性材料として例示したものを用いることができる。好ましくは、C、Ti、Pt、Cu、Fe、Agを含む導電性材料が挙げられる。
【0032】
陰極は、選択透過膜の回収液槽側の面に電気的に接続する。陰極と選択透過膜の回収液槽側の面とは、多孔性集電体を介して接続していてもよい。或いはまた、選択透過膜の回収液槽側の面に陰極を密着して配置することで、電気的に接続してもよい。即ち、選択透過膜の回収液槽側の面に陰極を一体に形成してもよい。
陰極用の導電性材料としては、陽極用の導電性材料として例示したものを用いることができる。ただし、陽極と陰極を形成する導電性材料は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
陰極の形状としては、特に制限はなく、陽極の形状として例示したものを採用できる。ただし、陽極と陰極の形状は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、陰極と選択透過膜とを電気的に接続する多孔性集電体としては、例えば、フェルト状またはスポンジ状の導電性材料を用いることができる。多孔性集電体用の導電性材料としては、陽極用の導電性材料として例示したものを用いることができる。
【0033】
ここで、陽極と選択透過膜および陰極と選択透過膜の一方または両方が、多孔性集電体を介して電気的に接続されていてもよい。
また、陽極と陰極の一方または両方が、選択透過膜の異なる主面に密着して配置されることでこれらが電気的に接続されていてもよい。
【0034】
陽極または陰極を選択透過膜に密着して配置することで、陽極または陰極と選択透過膜とを電気的に接続する場合(選択透過膜に電極を一体に形成する場合)陽極または陰極を導電性多孔質膜とすることが好ましい。陽極または陰極を介して、選択透過膜に金属イオン含有原液または金属イオン回収液を接触させることができるためである。
陽極または陰極として用いる導電性多孔質膜の平均孔径は、0.5~10μmとすることが好ましい。導電性多孔質膜の平均孔径が小さいほど、選択透過膜と導電性多孔質膜と金属イオン含有原液または金属イオン回収液の3点の接触面積が増加し、金属イオンの透過量が増加する効果が得られる。導電性多孔質膜の平均孔径が10μm以下であると、選択透過膜の表面と導電性多孔質膜と金属イオン含有原液または金属イオン回収液の3点の接触面積の増加効果が顕著となる。このため、金属イオン透過量の増加効果が高く、好ましい。導電性多孔質膜の平均孔径の下限値は、導電性多孔質膜を介して選択透過膜に金属イオン含有原液または金属イオン回収液を接触させることが可能であればよく、特に限定されない。例えば、導電性多孔質膜の平均孔径は、0.001μm以上とすることができ、典型的には0.5μm以上とすればよい。
【0035】
導電性多孔質膜は、例えば、選択透過膜の表面に、導電性材料を含むペーストを塗工して焼成することによって形成することができる。
【0036】
陽極は、選択透過膜の液接触面(金属イオン含有原液接触面)の少なくとも一部を覆うように配置されていればよい。陰極は、選択透過膜の液接触面(金属イオン回収液接触面)の少なくとも一部を覆うように配置されていればよい。即ち、陽極および陰極は、選択透過膜の液接触面の一部を覆う形状であればよい。選択透過膜の液接触面よりも小さい陽極および/または陰極を用いることで、金属イオン回収装置を小型化および/またはスリム化(薄型化)できるとともに、電極コストの削減を実現できる。
陽極および陰極は、選択透過膜の液接触面全体を覆うように配置されていてもよい。選択透過膜の液接触面の形状(外周形状)と一致する形状(外周形状)の陽極または陰極は、本実施形態の好適な一例である。このような形状の陽極または陰極は、例えば、多孔性集電体を介して陽極または陰極を選択透過膜と電気的に接続する場合において、選択透過膜の液接触面全体の電位を、略一定に保持し易いことから好適である。
ここで、陽極および陰極の形状は同一であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0037】
本実施形態の金属イオン回収装置は、原液槽および回収液槽のうち少なくとも一方を2個以上備える。本実施形態の金属イオン回収装置は、例えば、板状の選択透過膜を並列させた板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置とすることができる。
【0038】
「板状選択透過膜並列型金属イオン回収装置」
図1は、本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の一例の断面斜視図である。
図1に示す金属イオン回収装置10aは、原液槽12と、回収液槽13と、選択透過膜14と、陽極15と、陰極16と、多孔性集電体17と、第1スペーサー18と第2スペーサー19とを有する。ここでは、陽極15および陰極16が板状の電極(原液および回収液を通液しない)である場合を例として説明する。
【0039】
原液槽12の内部には陽極15が配置されている。回収液槽13の内部には陰極16が配置されている。陽極15は、多孔性集電体17(例えばカーボンフェルト)を介して、選択透過膜14の原液槽12側の面に電気的に接続している。陰極16は、多孔性集電体17(例えばカーボンフェルト)を介して、選択透過膜14の回収液槽13側の面に電気的に接続している。
【0040】
図1に示す金属イオン回収装置10aは、金属イオン選択透過膜14と陽極15の間に第1スペーサー18が配置され、金属イオン選択透過膜14と陽極15の間に所定の間隙が保持される。そして、第1スペーサー18の配置により形成される間隙内に多孔性集電体17が収容されている。
図1に示す金属イオン回収装置10aは、金属イオン選択透過膜14と陰極16の間に第2スペーサー19が配置され、金属イオン選択透過膜14と陽極16の間に所定の間隙が保持される。そして、第2スペーサー19により形成される間隙内に多孔性集電体17が収容されている。
【0041】
金属イオン選択透過膜14と陽極15との距離(間隔)は、多孔性集電体17の厚みと同じとするのが好ましい。即ち、第1スペーサー18の厚みは、多孔性集電体17の厚みと同じとするのが好ましい。金属イオン回収装置10aに設置する前の多孔性集電体17の厚みは、第1スペーサー18の厚み以上であることが好ましい。多孔性集電体17の厚みは、金属イオン回収装置10aに設置されることによって、厚み方向に圧縮されて拘束され、第1スペーサー18の厚みと同じとされることが好ましい。このような厚みの第1スペーサー18により形成される間隙内に、上記厚みの多孔性集電体17を収容することで、金属イオン選択透過膜14と陽極15と多孔性集電体17とを密着できる。換言すると、このような厚みの第1スペーサー18により形成される間隙内に、上記厚みの多孔性集電体17を収容することで、金属イオン選択透過膜14と陽極15との多孔性集電体17を介した電気的な接続を好適に維持できる。
【0042】
金属イオン選択透過膜14と陰極16との距離(間隔)も同様に、多孔性集電体17の厚みと同じとするのが好ましい。即ち、第2スペーサー19の厚みは、各多孔性集電体17の厚みと同じとするのが好ましい。金属イオン回収装置10aに設置する前の多孔性集電体17の厚みは、第2スペーサー19の厚み以上であることが好ましい。多孔性集電体17の厚みは、金属イオン回収装置10aに設置されることによって、厚み方向に圧縮されて拘束され、第2スペーサー19の厚みと同じとされることが好ましい。このような厚みの第2スペーサー19により形成される間隙内に、上記厚みの多孔性集電体17を収容することで、金属イオン選択透過膜14と陰極16と多孔性集電体17とを密着できる。換言すると、このような厚みの第2スペーサー19により形成される間隙内に、上記厚みの多孔性集電体17を収容することで、金属イオン選択透過膜14と陰極16との多孔性集電体17を介した電気的な接続を好適に維持できる。
【0043】
好適な実施形態では、陽極15、第1スペーサー18、選択透過膜14、第2スペーサー19、陰極16をこの順で積層し、当該積層体を積層方向に沿う方向に拘束するように荷重をかける。このように所定の荷重で拘束することにより、陽極15、陰極16、および選択透過膜14の配置のズレを防止しつつ、多孔性集電体17を介した金属イオン選択透過膜14と陽極15および陰極16との電気的な接続を高度に維持できる。また、多孔性集電体17の破損を抑制可能である。
【0044】
第1スペーサー18の形状は、特に限定されず、上記陽極15と選択透過膜14との間に所定の間隙を形成可能であればよい。第2スペーサー19の形状は、特に限定されず、上記陰極16と選択透過膜14との間に所定の間隙を形成可能であればよい。第1スペーサー18および第2スペーサー19の形状は、例えば、ブロック状(立方体状、円柱状)、棒状、枠状、コの字状、L字状であり得る。第1スペーサー18および第2スペーサー19としては、1つの形状のスペーサーを単独または複数用いても良いし、複数の異なる形状のスペーサーを組み合わせて用いてもよい。同一の形状の第1スペーサー18および第2スペーサー19を用いることで、金属イオン回収装置全体の構成をシンプルにすることができ、好ましい。
【0045】
第1スペーサー18および第2スペーサー19の好適な一実施形態は、枠状形状である。図2および図3に、枠状形状のスペーサーの一例を例示する。第1スペーサー18および/または第2スペーサー19が、図2または図3に示す枠状形状のスペーサーである場合、枠に囲まれた開口部20内に多孔性集電体17が収容される。かかる枠状のスペーサーには、図2および図3に示すように、金属イオン含有原液1または金属イオン回収液2を導入する導入口20aおよび金属イオン含有原液1又は金属イオン回収液2を取り出す取出口20bが設けられていることが好ましい。
本実施形態では、図2および図3に示すように、導入口20aが取出口20bよりも下部に設けられていることが好ましい。導入口20aおよび取出口20bの配置は、図2および図3に示す例に限定されない。
【0046】
第1スペーサー18および第2スペーサー19としては、図2に示す枠状のスペーサー(図2において符号18で示す)を用いることができる。このことにより、陽極15、第1スペーサー18、選択透過膜14、第2スペーサー19、陰極16をこの順で積層し、かかる積層体を積層方向に沿う方向に拘束するように荷重をかけた場合に、これらの積層体に均等に荷重を負荷できる。選択透過膜14が焼結体である場合、局所的に荷重が負荷されることにより、破損する可能性がある。このため、第1スペーサー18および第2スペーサー19として、枠状のスペーサーを用いることが好ましい。
【0047】
枠状形状のスペーサーのより好適な形態としては、図3に示すように、開口部20と、当該開口部20を囲む凹部22を備えるスペーサー(図3において符号18で示す)が挙げられる。図3に示す枠状のスペーサー18の開口部20には、多孔性集電体17が収容され、凹部22には、陽極15、選択透過膜14、または陰極16が嵌み込むように収容される。これにより、陽極15、陰極16、多孔性集電体17、選択透過膜14のズレを高レベルで防止できる。また、第1スペーサー18および第2スペーサー19として、図3に示す枠状のスペーサーを用いることにより、凹部22が形成されていない周辺部(凹部非形成部分)に荷重をかけて積層体を拘束できる。このことで、選択透過膜14にかかる荷重を低減できる。
【0048】
図4は、図2に示す枠状の第1スペーサー18および第2スペーサー19を備える場合の、陽極15、多孔性集電体17、選択透過膜14、陰極16、第1スペーサー18および第2スペーサー19の配置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0049】
図5は、図3に示す枠状の第1スペーサー18および第2スペーサー19を備える場合の、陽極15、多孔性集電体17、選択透過膜14、陰極16、第1スペーサー18および第2スペーサー19の配置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0050】
図6は、ブロック状の第1スペーサー18および第2スペーサー19を備える場合の、陽極15、多孔性集電体17、選択透過膜14、陰極16、第1スペーサー18および第2スペーサー19の配置の一実施形態を模式的に示す分解斜視図である。図6に示す第1スペーサー18および第2スペーサー19は、円柱状である。第1スペーサー18および第2スペーサー19を形成している円柱の長さ(高さ)は、多孔性集電体17の厚みと同じとなっている。ブロック状の第1スペーサー18および第2スペーサー19の形状は、円柱状に限定されるものではなく、例えば、六角柱状など、多角柱状であってもよい。
【0051】
図7は、棒状の第1スペーサー18および第2スペーサー19を備える場合の、陽極15、多孔性集電体17、選択透過膜14、陰極16、第1スペーサー18および第2スペーサー19の配置の一実施形態を模式的に示す分解斜視図である。図7では、図の水平方向が棒状スペーサーの長辺と一致する場合を例示したが、これに限定されず、垂直方向が棒状スペーサーの長辺と一致するように配置しても良い。図7に示す第1スペーサー18および第2スペーサー19は、直方体である。第1スペーサー18および第2スペーサー19の多孔性集電体17との接触面の形状は、多孔性集電体17の第1スペーサー18および第2スペーサー19との接触面の形状と同形とされている。
【0052】
第1スペーサー18および第2スペーサー19として用いるスペーサーの好適な一例では、スペーサーと他の部材(例えば、選択透過膜14、陽極15、陰極16)との位置ズレを防止するズレ防止機構を備える。例えば、スペーサーが他の部材と接触する接触面に摩擦係数の大きい材料を配置した形態、或いは上記接触面を摩擦係数の大きい材料でコーティングした形態が例示される。
かかるズレ防止機構は、弾力性のある材料を用いることがより好ましい。これにより、例えば、陽極15、第1スペーサー18、選択透過膜14、第2スペーサー19、陰極16を積層した積層体を拘束する際に、当該ズレ防止機構が変形することで、各部材の接触面に対してより均等に荷重を負荷できる。即ち、上記積層体により均等に荷重を負荷できる。
かかるズレ防止機構に用いる材料として、例えばエラストマー材料が例示される。エラストマー材料として、具体的には、シリコーンゴム、ラテックスゴム、ブチルゴム、塩ビゴム等が挙げられる。耐久性の観点から、シリコーンゴムが好ましい。
【0053】
金属イオン回収装置の一態様について、図1に戻り説明する。図1に示す金属イオン回収装置10aは、5個の選択透過膜14を有し、原液槽12と回収液槽13は、選択透過膜14を挟んで交互にそれぞれ並列されている。
図1に示すように、上記第1スペーサー18により陽極15と選択透過膜14との間に設けられた間隙に金属イオン含有原液1が供給される。即ち、上記第1スペーサー18により形成された陽極15と選択透過膜14との間隙は原液槽12の一部である。また、第2スペーサー19により陰極16と選択透過膜14との間に設けられた間隙に金属イオン回収液2が供給される。即ち、上記第2スペーサー19により形成された陰極16と選択透過膜14との間隙は回収液槽13の一部である。
図1に示す金属イオン回収装置10aでは、陽極15および陰極16が板状であって、金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2を通液しないものである。したがって、図1に示す金属イオン回収装置10aは、陽極15で仕切られた5個の原液槽12と、陰極16で仕切られた5個の回収液槽13を備えている。
【0054】
これら原液槽12と、回収液槽13と、選択透過膜14と、陽極15と、陰極16と、多孔性集電体17と、第1スペーサー18と、第2スペーサー19は、図1に示すように、ハウジング11内に格納して構成されてもよい。
【0055】
あるいはまた、第1スペーサー18または第2スペーサー19として、図2または図3に示す枠状のスペーサーを用いる場合には、当該枠状スペーサーの開口部20を原液槽12または回収液槽13として利用してもよい。枠状スペーサーの開口部20を原液槽12または回収液槽13として共有することで、金属イオン回収装置10aの省スペース化を実現できるため好ましい。
このように、開口部20を原液槽12または回収槽13として利用することもできる。この場合には、開口部20を取り囲むように、上記ズレ防止機構が液密に配置されていることがより好ましい。
【0056】
金属イオン回収装置10aを用いた金属イオン3の回収は、次のようにして行われる。
まず、原液槽12に金属イオン含有原液1を、回収液槽13に金属イオン回収液2をそれぞれ供給する。次いで、陽極15を正電位、陰極16を負電位とする。このとき、陽極15へ正電位を印加する方法および陰極16へ負電位を印加する方法は特に限定されない。各電極に効率よく電位を印加する観点からは、陽極15に正電位を印加し、且つ、陰極16を接地するのが好ましい。これにより、金属イオン含有原液1中の金属イオン3のうち、選択透過膜14の陽極15側に到達したものが、イオン伝導によって選択透過膜(典型的には金属イオン伝導体)14内を、陽極15側から陰極16側に向かって透過する。そして、選択透過膜14を透過した金属イオン3は、回収液槽13に収容された金属イオン回収液2に回収される。
【0057】
図1に示す金属イオン回収装置10aでは、配管を介して、原液槽12および回収液槽13の下部から金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2を供給する。また、図1に示す金属イオン回収装置10aでは、原液槽12および回収液槽13の上部から、配管を介して金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2を導出する。
金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2の供給および導出は、図1に示す金属イオン回収装置10aの例に限定されない。例えば、原液槽12の上部から金属イオン含有原液1を供給してもよいし、原液槽12の下部から金属イオン含有原液1を導出してもよい。また、回収液槽13の上部から金属イオン回収液2を供給してもよいし、回収液槽13の下部から金属イオン回収液2を導出してもよい。
【0058】
本実施形態の金属イオン回収装置10aでは、互いに向かう選択透過膜14の表面が同一の極性(正と正、負と負)となるように電極が配置されている。すなわち、原液槽12を挟んで互いに向かい合う選択透過膜14の表面が正の極性となるように陽極15が配置されている。また、回収液槽13を挟んで互いに向かい合う選択透過膜14の表面が負となるように陰極16が配置されている。
一方、1個の金属イオン伝導体(選択透過膜)を用いて金属イオン含有原液と金属イオン回収液との間を仕切った構造である従来の金属イオン回収装置では、1個の金属イオン伝導体の両端に陽極と陰極とを配置する。このため、従来の金属イオン回収装置では、選択透過膜が5個の場合は、10個の電極(陽極5個、陰極5個)を要した。
これに対し、本実施形態の金属イオン回収装置10aでは、5個の選択透過膜14に対して、電極の個数を合計6個(陽極3個、陰極3個)と、約半分の電極数で金属イオン3を回収できる。したがって、本実施形態の金属イオン回収装置10aは、従来の金属イオン回収装置と比較して、スリム化が可能となるという利点を有する。
【0059】
図8は、本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置の別の一例の断面斜視図である。なお、図8において、図1と同一の部材には図1と同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0060】
図8に示す金属イオン回収装置10bは、陽極15が選択透過膜14の原液槽12側の面に密着して配置される(選択透過膜に陽極を一体に形成する)ことで電気的に接続している。また、陰極16が選択透過膜14の回収液槽13側の面に密着して配置される(選択透過膜に陰極を一体に形成する)ことで電気的に接続している。これらの点で、図8に示す金属イオン回収装置10bは、図1に示す金属イオン回収装置10aと相違する。図8に示すように、選択透過膜14に陽極15および陰極16を密着して配置して電気的に接続することで、選択透過膜14と陽極15とのズレ、および、選択透過膜14と陰極16とのズレを抑制できる。
【0061】
即ち、図8に示す金属イオン回収装置10bは、選択透過膜14を5個備えるのに対して、陽極15を5個、陰極16を5個備える。また、図8に示す金属イオン回収装置10bは、金属イオン回収装置10aと同様に、選択透過膜14を5個備えている。しかし、3個の原液槽12と、3個の回収液槽13とを備えている点で、図8に示す金属イオン回収装置10bは、図1に示す金属イオン回収装置10aと相違する。
【0062】
図8に示す金属イオン回収装置10bは、図1に示す金属イオン回収装置10aと同様に、陰極16側に金属イオン3が回収される。原液槽12および回収液槽13内に、多孔性集電体を用いないため、原液槽12および回収液槽13のスリム化が可能となる。また、原液槽12内および回収液槽13内に多孔性集電体を備えないため、当該多孔性集電体が抵抗となることに起因する流速低下が生じない。このことから、原液槽12を流れる金属イオン含有原液1および回収液槽13を流れる金属イオン回収液2の流速を速くできる。単位時間当たりに選択透過膜14と触れる金属イオン3が多いほど、すなわち、原液槽12を流れる金属イオン含有原液1の流速が速いほど、金属イオン回収量が向上する傾向がある。したがって、本実施形態の金属イオン回収装置10bは、従来の金属イオン回収装置と比較して、スリム化でき、しかも金属イオンの大量回収が可能となるという利点を有する。
【0063】
以上に述べた図1に示す板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置10aは、第1スペーサー18および第2スペーサー19を用いる。このことにより、選択透過膜14と電極(陽極15および陰極16)との電気的な接続を高度に維持した状態で、金属イオン回収装置10a1台あたりに搭載可能な選択透過膜14の枚数を増大できる。
また、図8に示す板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置10bは、選択透過膜14に電極(陽極15および陰極16)を一体に形成している。このことにより、選択透過膜14と電極との電気的な接続を高度に維持した状態で、金属イオン回収装置10b1台あたりに搭載可能な選択透過膜14の枚数を増大できる。
これにより、本実施形態では、1台の金属イオン回収装置10a、10bに複数の選択透過膜14を搭載して、装置1台当たりで回収可能な金属イオン3の回収量を増大できる。また、本実施形態の金属イオン回収装置10a、10bは、従来の金属イオン回収装置と比較して、スリム化が可能となるという利点を有する。
【0064】
ただし、板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置は、上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、金属イオン回収装置10a、10bでは、選択透過膜14を5枚備える構成を例として説明したが、これに限定されない。すなわち、原液槽12および回収液槽13のうち少なくとも一方を2個以上備えるために、選択透過膜14の枚数は2枚以上であればよく、5枚以上が好ましく、10枚以上とすることがより好ましい。装置1台に搭載される選択透過膜14の枚数が多いほど、装置一台で回収可能な金属イオン3の量を増大し得る。このことから、選択透過膜14の枚数は、例えば、100枚以上とするのが好ましく、500枚以上がより好ましく、1000枚以上がさらに好ましい。換言すると、選択透過膜14を介して仕切られた原液槽12および回収液槽13の個数は、少なくとも一方が2個以上であれば特に制限されない。
【0065】
<金属回収システム>
図9は、本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置を用いた金属回収システムの一例の構成図である。以下、金属がリチウムである場合を例として説明する。
図9に示すリチウム回収システム100は、板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置(リチウムイオン回収装置)10と、金属イオン回収液(リチウムイオン回収液)2に含まれる金属イオン(リチウムイオン)3を、リチウムを含む固形物として取り出すリチウム精製装置101とを有する。金属イオン回収装置10としては、上述した金属イオン回収装置10a、10bを用いることができる。
なお、図9には、金属イオン回収装置を備える金属回収システムを例に挙げて説明するが、該金属イオン回収装置に代えて後述する金属イオン回収装置ユニットを備えていてもよい。
【0066】
リチウム精製装置101は、リチウムを含む固形物として取り出す機構を備えていれば特に制限されない。リチウムを含む固形物とは、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、金属リチウム等が挙げられる。
例えば、リチウムイオン回収液中には、リチウムイオンが水酸化リチウムの形態で存在する。このため、リチウムイオン回収液の溶媒を蒸発させる乾燥機構を備えることで水酸化リチウムを精製可能である。換言すると、リチウムイオン回収液の溶媒を蒸発させる水酸化リチウム乾燥器102は上記リチウム精製装置101の一例である。
また、リチウムイオン回収液に炭酸ガスを供給することで、リチウムイオン回収液中に炭酸リチウムを沈殿物として精製可能である。即ち、上記リチウムイオン回収液へ炭酸ガスを供給する炭酸ガスバブリング装置104は、上記リチウム精製装置101の一例である。ここで、炭酸リチウムを生成するリチウム精製装置101は、上記リチウム回収液中に沈殿した炭酸リチウムを乾燥させる炭酸リチウム乾燥器105を備えることが好ましい。
これらリチウム精製装置101は、1種の機構のみを採用してもよいし、複数の精製機構を組み合わせて搭載してもよい。以下、リチウム精製装置101として、図9に示すように、水酸化リチウム乾燥器102と、炭酸ガスバブリング装置104と、炭酸リチウム乾燥器105を備える構成を例として説明する。
【0067】
図9に示すリチウム回収システム100は、リチウムイオン含有原液を貯留する原液タンク107と、リチウムイオン回収液を貯留する回収液タンク108とを有する。また、図示するリチウム回収システム100は、さらに水酸化リチウム梱包機103と炭酸リチウム梱包機106を備えている。
【0068】
リチウム回収システム100を用いたリチウムの回収は、次のようにして行われる。
まず、金属イオン含有原液(リチウムイオン含有原液)1を原液タンク107に貯留する。次いで、原液タンク107に貯留されたリチウムイオン含有原液を金属イオン回収装置10に供給する。
また、リチウムイオン回収液を回収液タンク108に貯留する。次いで、回収液タンク108に貯留されたリチウムイオン回収液を金属イオン回収装置10に供給する。
金属イオン回収装置10は、上記の方法により、リチウムイオン含有原液中のリチウムイオンをリチウムイオン回収液で回収する。
金属イオン回収装置10でリチウムイオンが回収されたリチウムイオン含有原液は、原液タンク107に送られる。原液タンク107は、リチウムイオン含有原液のリチウムイオン濃度が所定値よりも低くなったときは、リチウムイオン含有原液を排出する。それと共に、外部からリチウムイオン含有原液が、原液タンク107に送られるようになっている。
一方、金属イオン回収装置10でリチウムイオンを回収したリチウムイオン回収液は、回収液タンク108に送られる。回収液タンク108は、リチウムイオン回収液が所望のリチウムイオン濃度以上になると、リチウムイオン回収液をリチウム精製装置101に送る。それと共に、外部から新たなリチウムイオン回収液が、回収液タンク108に送られるようになっている。
【0069】
図9に示すリチウム精製装置101では、リチウムイオン回収液中のリチウムイオンを水酸化リチウム(LiOH・HO)の粉末または炭酸リチウム(LiCO)の粉末として取り出す。
【0070】
リチウムイオン回収液中のリチウムイオンを水酸化リチウムの粉末として取り出す場合は、例えば、以下に示す方法を用いる。
リチウムイオン回収液を水酸化リチウム乾燥器102に送る。水酸化リチウム乾燥器102にて、リチウムイオン回収液の水分を蒸発させる。これにより、リチウムイオン回収液から容易に水酸化リチウムの結晶を得ることができる。
なお、リチウムイオン回収液中の水分を蒸発させる際には、リチウムイオン回収液が大気(典型的には大気中のCOガス)に触れない環境で行うことが好ましい。これにより、リチウムイオン回収液が大気に触れて、リチウムイオン回収液中のリチウムイオンと大気中のCOガスとが反応して、LiCOが生成することを防止できる。
【0071】
次いで、水酸化リチウム乾燥器102にて得られた水酸化リチウム粉末を、水酸化リチウム梱包機103に送る。水酸化リチウム梱包機103にて、水酸化リチウム粉末は梱包され、その後、使用場所に搬送される。
【0072】
リチウムイオン回収液中のリチウムイオンを炭酸リチウムの粉末として取り出す場合は、例えば、以下に示す方法を用いる。
リチウムイオン回収液を炭酸ガスバブリング装置104に送る。炭酸ガスバブリング装置104にて、リチウムイオン回収液に炭酸ガスを供給し、リチウムイオン回収液(水酸化リチウム溶液)中のリチウムイオンを炭酸リチウムに変化させる。これにより、リチウムイオン回収液から容易に炭酸リチウムの結晶を得ることができる。
【0073】
次いで、リチウムイオン回収液の沈殿物(炭酸リチウム)を、ろ過あるいはデカンテーションにより分離して回収する。得られた炭酸リチウムを炭酸リチウム乾燥器105に送る。そして炭酸リチウム乾燥器105にて、炭酸リチウムを乾燥して炭酸リチウム粉末を得る。
【0074】
次いで、炭酸リチウム乾燥器105にて得られた炭酸リチウム粉末を、炭酸リチウム梱包機106に送る。炭酸リチウム梱包機106にて、炭酸リチウム粉末は梱包され、その後、使用場所に搬送される。
【0075】
以上に述べた本実施形態のリチウム回収システム100は、リチウムイオン回収装置として、上述の板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置10を用いる。このため、従来のリチウムイオン回収装置を用いた場合と比較して、スリム化が可能となるという利点を有する。また、リチウムを効率よく回収できる。
なお、金属イオン回収装置10を備えるリチウム回収システム100において、金属イオン回収装置10に代えて後述する金属イオン回収装置ユニットを備えるものであっても、同様の効果が得られる。すなわち、従来のリチウムイオン回収装置を用いた場合と比較して、スリム化が可能であり、しかも金属イオン3として例えばリチウムイオンを効率よく回収できる。
【0076】
「金属イオン回収装置ユニット」
図10は、本発明の一実施形態である板状選択透過膜並列型金属イオン回収装置を複数接続した金属イオン回収装置ユニットの一例の構成図である。以下、図10中の板状選択透過膜並列型金属イオン回収装置が、図1に示す金属イオン回収装置10aである場合を例として説明する。
なお、図10に示す金属イオン回収装置10aの1つまたは全部の代わりに、図8に示す金属イオン回収装置10bを1つまたは複数備えていてもよい。
【0077】
図10に示す金属イオン回収装置ユニット30は、8個の金属イオン回収装置10aを有している。図10において、上下に配置された2個の金属イオン回収装置10aは、下方の金属イオン回収装置10aから取り出された金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2が、上方の金属イオン回収装置10aに導入されるように直列的に接続されている。直列的に上下に接続された2個の金属イオン回収装置10aは、金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2の配管に並列的に接続している。
ここで、便宜上、上方側(上流側)の金属イオン回収装置10a、下方(下流側)側の金属イオン回収装置10aと説明するが、実際の金属イオン回収装置10aが上下に配置されることを限定するものではない。金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2の導出入が、図10に示すように直列的または並列的となるように接続された構成は、図10と同様に理解することができる。
【0078】
金属イオン回収装置ユニット30を用いた金属イオン3の回収は、次のようにして行われる。
まず、上下に配置された2個の金属イオン回収装置10aのうちの下方側の金属イオン回収装置10aの金属イオン含有原液導入口に、金属イオン含有原液1を連続的に供給する。これにより、原液槽12に金属イオン含有原液1が収容される。また、上下に配置された2個の金属イオン回収装置10aのうちの下方側の金属イオン回収装置10aの金属イオン回収液導入口に、金属イオン回収液2を連続的に供給する。これにより、回収液槽13に金属イオン回収液2が収容される。
次いで、各金属イオン回収装置10aの陽極15を正電位とし、陰極16を負電位とする。これにより、原液槽12に収容された金属イオン含有原液1中の金属イオン3のうち、選択透過膜14の陽極15側に到達したものが、イオン伝導によって選択透過膜14内を、陽極15側から陰極16側に向かって透過する。そして、選択透過膜14を透過した金属イオン3は、回収液槽13に収容された金属イオン回収液2に回収される(図1参照)。
【0079】
次いで、下方側の金属イオン回収装置10aの原液槽12に収容された金属イオン含有原液1は、金属イオン含有原液取出口により取り出される。取り出された金属イオン含有原液1は、上方側の金属イオン回収装置10aの金属イオン含有原液導入口に供給され、原液槽12に収容される。また同様に、下方側の金属イオン回収装置10aの回収液槽13に収容された金属イオン回収液2は、金属イオン回収液取出口により取り出される。取り出された金属イオン回収液2は、上方側の金属イオン回収装置10aの金属イオン回収液導入口に供給され、回収液槽13に収容される。
【0080】
上方側の金属イオン回収装置10aの原液槽12に収容された金属イオン含有原液1中の金属イオン3のうち、選択透過膜14の陽極15側に到達したものが、イオン伝導によって選択透過膜14内を、陽極15側から陰極16側に向かって透過する。そして、選択透過膜14を透過した金属イオン3は、回収液槽13に収容された金属イオン回収液2で回収される。
このように、或る金属イオン回収装置10aから取り出された金属イオン回収液2が、他の金属イオン回収装置10aに導入されるように直列的に接続することで、単位容量当たりの金属イオン回収液2に回収される金属イオン3の量を多くできる(金属イオン回収液2の金属イオン濃度を増大することができる)。
【0081】
以上のような構成とされた本実施形態の金属イオン回収装置ユニット30は、複数の金属イオン回収装置10aが搭載された構成である。本実施形態では、1つの金属イオン回収装置10aに多数の選択透過膜14が搭載されている。このため、例えば、選択透過膜を1つのみ備えるリチウムイオン回収装置を用いた金属イオン回収装置ユニットと比較して、回収できる金属イオン3の量を増大できる。また、独立した金属イオン回収装置10aの原液槽12同士が配管で接続されているとともに、回収液槽13同士が配管で接続されているので、各金属イオン回収装置10aを容易に交換できる。
【0082】
金属イオン回収装置ユニットは、図10に示す構成に限定されない。
たとえば、全ての金属イオン回収装置10aが直列的に接続されていてもよいし、全ての金属イオン回収装置10aが金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2の配管に並列的に接続していてもよい。
また、金属イオン含有原液1および金属イオン回収液2が、複数の金属イオン回収装置10aに導出入する接続態様は、同一であってもよいし、それぞれ異なる接続態様であってもよい。例えば、金属イオン回収装置10aから導出された金属イオン含有原液1が、全て金属イオン含有原液1の配管に導入されるように、金属イオン含有原液1の送液配管が並列的に接続されていてもよい。また、金属イオン回収装置10aから導出された金属イオン回収液2が、他の金属イオン回収装置10aに導入されるように、金属イオン回収液2の送液配管が全て直列的に接続されていてもよい。
【0083】
図10に示す金属イオン回収装置ユニット30は、8個の金属イオン回収装置10aを有している場合を例に説明したが、1つの金属イオン回収装置ユニット30に搭載される金属イオン回収装置10aの個数は特に制限されない。金属イオン回収装置10aの個数は、2個以上であればよく、5個以上が好ましく、10個以上とすることがより好ましい。装置(金属イオン回収装置ユニット30)1台に搭載される金属イオン回収装置10aの個数が多いほど、装置一台で回収可能な金属イオン3の量を増大し得る。このことから、金属イオン回収装置10aの個数は、例えば、100個以上とするのが好ましく、500個以上がより好ましく、1000個以上がさらに好ましい。
【0084】
金属イオン回収装置ユニットの構成は、上述した板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置のみを複数配列するものに限定されない。例えば、複数個の本実施形態の金属イオン回収装置とともに、選択透過膜を1枚備える従来の単膜式の金属イオン回収セル(またはこれを備える金属イオン回収装置)を1個または複数個用いたものであっても良い。したがって、板状選択透過膜並列型の金属イオン回収装置と他の構成の金属イオン回収装置とを接続して適用しても良い。
【0085】
次に、上記単膜式の金属イオン回収装置(セル型金属イオン回収装置)に用いることができる金属イオン回収セルの一例を示す。
図11は、金属イオン回収セルの一例の斜視図である。図12は、図11に示す金属イオン回収セルの分解斜視図である。図11に示す金属イオン回収セルを1個または複数備えるセル型金属イオン回収装置は、本発明の金属回収装置ユニットを構成する金属イオン回収装置の好適な一例である。
【0086】
図11および図12に示す金属イオン回収セル31aは、セル蓋部38aとセル収容部38bに設けられた凹部との間に、セル収容部38b側から、陰極36、回収液槽形成用枠33、選択透過膜34、原液槽形成用枠32、陽極35が、この順で積層された積層体が収容された構成とされている。回収液槽形成用枠33には、陰極36と選択透過膜34とを電気的に接続するための多孔性集電体37が収容されている。また、原液槽形成用枠32には、陽極35と選択透過膜34とを電気的に接続するための多孔性集電体37が収容されている。
セル蓋部38aとセル収容部38bとは、セル蓋部38aを貫通するボルト39を、セル収容部38bのねじ穴40に締め込むことによって固定されている。セル蓋部38aの外側面には、中央の下部に金属イオン含有原液導入口41aが設けられ、中央の上部に金属イオン含有原液取出口41bが設けられている。セル収容部38bの外側面には、中央の下部に金属イオン回収液導入口42aが設けられ、中央の上部に金属イオン回収液取出口42bが設けられている。
【0087】
図11に示す金属イオン回収セル31aには、セル蓋部38aの下部に設けられた金属イオン含有原液導入口41aから、金属イオン含有原液1が導入される。また、セル収容部38bの下部に設けられた金属イオン回収液導入口42aから、金属イオン回収セル31aに金属イオン回収液2が導入される。そして、セル蓋部38aの上部に設けられた金属イオン含有液取出口41bから、金属イオン含有原液1が導出される。また、セル収容部38bの上部に設けられた金属イオン回収液取出口42bから、金属イオン回収液2が導出される。
このように、金属イオン含有原液取出口41bおよび金属イオン回収液取出口42b(以下、これらを合わせて「液取出口41b、42b」ともいう)より下部に、金属イオン含有原液導入口41aおよび金属イオン回収液導入口42a(以下、これらを合わせて「液導入口41a、42a」ともいう)が設けられている。このことにより、金属イオン回収セル31a内(典型的には原液槽12内および回収液槽13内)に発生した気泡がセル外へスムーズに排出される。このような構成によると、金属イオン回収セル31a内への気泡残留を低減できる。
なお、図11に示す金属イオン回収セル31aでは、セル蓋部38aおよびセル収容部38bの下部に液導入口41a、42aが設けられ、セル蓋部38aおよびセル収容部38bの上部に液取出口41b、42bが設けられた構成を例に説明したが、これに限定されない。例えば、セル蓋部38aの下部に、金属イオン含有原液取出口41bが設けられてもよい。また、例えば、セル収容部38bの下部に、金属イオン回収液取出口42bが設けられてもよい。
【0088】
図11に示す金属イオン回収セル31aは、セル蓋部38aおよびセル収容部38bの幅広面(積層方向の表面)に、液導入口41a、42aおよび液取出口41b、42bが設けられた構成を例に説明したが、これに限定されない。例えば、セル蓋部38aまたはセル収容部38bの幅狭面(側面)に液導入口41a、42aまたは液取出口41b、42bが設けられていてもよい。
【0089】
図13は、本発明の一実施形態である金属イオン回収装置ユニットで用いることができる金属イオン回収セルの別の一例の斜視図である。図14は、図13に示す金属イオン回収セルの分解斜視図である。なお、図13および図14において、図11および図12と同一の部材には、図11および図12と同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0090】
図13および図14に示す金属イオン回収セル31bは、陽極35が選択透過膜34の原液槽形成用枠32側の面に密着して配置される(選択透過膜に陽極を一体に形成する)ことによって、電気的に接続している。また、陰極36(図14には不図示)が選択透過膜34の回収液槽形成用枠33側の面に密着して配置される(選択透過膜に陰極を一体に形成する)ことによって、電気的に接続している。これらの点で、図13および図14に示す金属イオン回収セル31bは、図11および図12に示す金属イオン回収セル31aと相違する。
ここで、図13および図14に示す金属イオン回収セル31bは、陽極引出線43が金属イオン含有液取出口41bから引き出されている。また、陰極引出線44が金属イオン回収液取出口42bから引き出されている。
【0091】
図13および図14に示す金属イオン回収セル31bは、原液槽形成用枠32および回収液槽形成用枠33に多孔性集電体を収容しない。このため、原液槽形成用枠32および回収液槽形成用枠33のスリム化が可能となる。また、原液槽形成用枠32を流れる金属イオン含有原液1および回収液相形成用枠33を流れる金属イオン回収液2の流速を速くできる。単位時間当たりに選択透過膜34と触れる金属イオン3が多いほど、すなわち、原液槽形成用枠32を流れる金属イオン含有原液1の流速が速いほど、金属イオン回収量が向上する傾向がある。したがって、本実施形態の金属イオン回収セル31bは、スリム化と金属イオン3の大量回収が可能となる。
【符号の説明】
【0092】
1・・・金属イオン含有原液
2・・・金属イオン回収液
3・・・金属イオン(リチウムイオン)
10a、10b・・・金属イオン回収装置
11・・・ハウジング
12・・・原液槽
13・・・回収液槽
14・・・選択透過膜
15・・・陽極
16・・・陰極
17・・・多孔性集電体
18・・・第1スペーサー
19・・・第2スペーサー
20・・・開口部
22・・・凹部
31a、31b・・・金属イオン回収セル
32・・・原液槽形成用枠
33・・・回収液槽形成用枠
34・・・選択透過膜
35・・・陽極
36・・・陰極
37・・・多孔性集電体
38a・・・セル蓋部
38b・・・セル収容部
39・・・ボルト
40・・・ねじ穴
41a・・・金属イオン含有原液導入口
41b・・・金属イオン含有原液取出口
42a・・・金属イオン回収液導入口
42b・・・金属イオン回収液取出口
43・・・陽極引出線
44・・・陰極引出線
100・・・リチウム回収システム
101・・・リチウム精製装置
102・・・水酸化リチウム乾燥器
103・・・水酸化リチウム梱包機
104・・・炭酸ガスバブリング装置
105・・・炭酸リチウム乾燥器
106・・・炭酸リチウム梱包機
107・・・原液タンク
108・・・回収液タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14