(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】FGF21 Fc融合タンパク質、GLP-1 Fc融合タンパク質、それらの併用治療剤および使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/575 20060101AFI20231005BHJP
C07K 14/50 20060101ALI20231005BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231005BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231005BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20231005BHJP
A61K 38/27 20060101ALI20231005BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231005BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231005BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231005BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231005BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C07K14/575
C07K14/50
C07K19/00
C07K16/00
A61K38/22
A61K38/27
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P1/16
(21)【出願番号】P 2022505283
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 CN2020100774
(87)【国際公開番号】W WO2021012947
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】201910675288.5
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519228566
【氏名又は名称】アンプソース・バイオファーマ・シャンハイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AMPSOURCE BIOPHARMA SHANGHAI INC.
【住所又は居所原語表記】No. 3, Lane 908, Ziping Road, Pudong New Area, Shanghai 201318, China
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】薫▲ショウ▼
(72)【発明者】
【氏名】周▲チ▼
(72)【発明者】
【氏名】張吉余
(72)【発明者】
【氏名】李媛麗
(72)【発明者】
【氏名】李強
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107995914(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110028587(CN,A)
【文献】国際公開第2018/115901(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106117370(CN,A)
【文献】特表2012-529463(JP,A)
【文献】特表2010-535781(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106279430(CN,A)
【文献】国際公開第2018/115401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K38/00-51/12
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF21 Fc融合タンパク質を含む第1医薬組成物と
、GLP-1 Fc融合タンパク質を含む第2医薬組成物とで構成される、
高脂血症、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪性肝疾患、糖尿病性心筋症、または冠状アテローム性動脈硬化性心臓病を予防または治療するための併用治療剤であって、
前記FGF21 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、
(1)SEQ ID NO:4に示される配列であり、または
(2)SEQ ID NO:4に示される配列と少なくとも95%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性を有する配列であり、
かつ、
前記GLP-1 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、
(1)SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7に示される配列であり、または
(2)SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7に示される配列と少なくとも95%、97%、98%、99%またはそれ以上の同一性を有する配列である、ことを特徴とする併用治療剤。
【請求項2】
前記FGF21 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4に示される配列であり、かつ、前記GLP-1 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7に示される配列である、ことを特徴とする請求項1に記載の併用治療剤。
【請求項3】
前記FGF21 Fc融合タンパク質およびGLP-1 Fc融合タンパク質は、予防有効量または治療有効量で前記第1医薬組成物および第2医薬組成物に含まれ得る、ことを特徴とする請求項1または2に記載の併用治療剤。
【請求項4】
前記第1医薬組成物は、医薬的に許容される担体、および/または賦形剤、および/または安定剤を更に含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の併用治療剤。
【請求項5】
前記第2医薬組成物は、医薬的に許容される担体、および/または賦形剤、および/または安定剤を更に含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の併用治療剤。
【請求項6】
前記第1医薬組成物および第2医薬組成物は、経口投与または注射投与に適した剤形で製剤化される、請求項1~5のいずれか1項に記載の併用治療剤。
【請求項7】
前記第1医薬組成物および第2医薬組成物は、経口投与または注射投与に適した剤形で別々に製剤化される、請求項1~5のいずれか1項に記載の併用治療剤。
【請求項8】
FGF21 Fc融合タンパク質を含む第1医薬組成物と、GLP-1 Fc融合タンパク質を含む第2医薬組成物とで構成される併用治療剤であって、
前記FGF21 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4に示される配列であり、かつ、前記GLP-1 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7に示される配列である、併用治療剤。
【請求項9】
請求項
8に記載の
併用治療剤の、心血管および/または代謝系疾患を予防または治療するための薬
剤の調製における使用。
【請求項10】
前記心血管および/または代謝系疾患は、肥満、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪性肝疾患、糖尿病、糖尿病性心筋症、または冠状アテローム性動脈硬化性心臓病
である、ことを特徴とする請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質およびポリペプチドの技術分野に属し、より具体的には、FGF21 Fc融合タンパク質、GLP-1 Fc融合タンパク質、及びそれらを含む併用治療剤に関し、心血管および/または代謝系疾患を予防または治療することに用いられ、肥満、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪性肝疾患、糖尿病、糖尿病性心筋症、冠状アテローム性動脈硬化性心臓病、およびインスリン抵抗性に関連する他の疾患を含むが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞成長因子-21(fibroblast growth factor-21、FGF21)はFGFファミリーに属し、主に肝臓で合成され、内分泌の形で循環に入り、そのC末端は、効果器官β-klothoの膜貫通タンパク質と結合した後、N末端を介してFGFR1cと特異的に結合し、安定したFGF21/β-klotho/FGFR複合体を形成し、ひいては下流の関連する分子シグナルを活性化する。多くの基礎研究によると、FGF21は、グルコース利用を促進し、インスリン感受性を増加し、脂肪酸分解を促進し、脂質新生を低減し、コレステロールバランスを調節する等の複数種の生理学的活性を有し、心血管および代謝系疾患に適用される巨大な潜在力を示す。しかし、天然FGF21は、糸球体によって濾過・代謝されやすく、プロテアーゼによって加水分解・切断されやすいため、そのインビボ半減期が短くなり、その創薬可能性を大きく制約する。バイオテクノロジーの徹底的な発展に伴い、天然FGF21を構造修飾し、そのインビボ半減期を延長させ、バイオアベイラビリティを向上させることは、全世界範囲内の各製薬企業の研究開発のホットスポットとなっている。現在、複数種の長期間作用型FGF21タンパク質が既に臨床研究段階に入り、多くは、ポリエチレングリコール修飾、Fcタンパク質融合、またはCovX-Body共有結合等の方式でFGF21の半減期を延長させる。臨床研究によると、長期間作用型FGF21タンパク質は、非アルコール性脂肪性肝疾患の患者の肝臓脂肪変性の緩和、減量および血中脂質調節の面でいずれも積極的な治療効果を表すが、糖尿疾患者に対する血糖制御作用が市販されている血糖降下系薬剤と比べ、明らかな薬効学的優位性を表していないことが分かった。
【0003】
哺乳動物GLP-1またはExendin-4と比べ、長期間作用型GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1またはExendin-4類似体が構造修飾されて得られた、インビボ半減期およびバイオアベイラビリティが大幅に向上して注射頻度が低下したタンパク質製品である。現在、イーライリリーアンドカンパニーのデュラグルチドおよびnovo nordiskのセマグルチド等、様々な長期間作用型GLP-1受容体アゴニストが市場に出回っており、臨床応用において、従来の経口血糖降下薬、短期間作用型GLP-1受容体アゴニスト、またはインスリン製品と比べ、血糖制御または患者のコンプライアンスで著しい優位性を表している。しかし、メカニズムの限界性により、長期間作用型GLP-1受容体アゴニストは、主に、グルコースの刺激でインスリンを分泌して放出するように膵臓β細胞を促進することで効果作用を発揮し、糖代謝における生理学的機能は、主にインスリン活性に依存し、現在このような製品が減量とは独立した作用メカニズムにより、糖尿疾患者が普遍的に苦しんでいるインスリン抵抗性、肥満、非アルコール性脂肪性肝疾患、または高脂血症等の様々な病症に対して直接かつ明確な改善作用を有することを表す明確な臨床証拠はまだない。このような製品は、患者の摂食を抑制することで一定の減量作用を発揮することができるが、その作用は、製品自体による胃腸障害反応に依存することが多く、一部の積極的な治療結果は得られるが、治療過程中での患者の臨床不快感が増加する。
【0004】
臨床では、大部分の心血管および代謝性疾患の患者は、高脂血症、肥満、高血糖、脂肪肝、アテローム性動脈硬化症等の複数種の疾患を呈する。疫学的な結果に示されるように、2型糖尿病患者のうち、肥満患者が約60%占め、非アルコール性肝疾患の患者が約50%占め、70%以上の糖尿疾患者は脂質レベル異常を伴う。糖尿疾患者の心血管疾患に罹患する危険性は、非糖尿疾患者の2~4倍であり、且つ、心血管イベントは、既に糖尿疾患者の総死亡率の第1要素となり、心血管イベントは、非アルコール性脂肪性肝患者の死亡原因の第2位を占める。現在、臨床では、複数種の疾患の経過を同時に制御するように、多剤併用療法が推奨されているが、GLP-1 Fc融合タンパク質を含む市販が許可されている薬剤の治療作用の限界性に鑑みると、現在、非常に理想的な単剤療法または医薬組成物の治療案は得られていない。従って、このような患者に対し、臨床では、より効果的、より全面的な予防と治療を組み合わせた方案の提供が差し迫って必要となっている。心血管および代謝性疾患患者の総合的な管理治療において、FGF21 Fc融合タンパク質とGLP-1 Fc融合タンパク質の併用は、巨大な治療潜在力を発揮し、臨床治療効果のニーズを十分に満たすことができると我々は創造し想定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、FGF21 Fc融合タンパク質、GLP-1 Fc融合タンパク質、およびそれらをFGF21R/GLP-1R二重長期間作用型アゴニストとする併用治療剤を提供し、心血管および/または代謝系疾患を予防・治療することに使用され、特に、複数種の心血管または代謝系疾患を合併する患者に対して、総合的な管理および予防治療手段を提供することを目的とする。本発明は、FGF21 Fc融合タンパク質とGLP-1 Fc融合タンパク質との併用投与を更に提供し、肥満、糖尿病、高脂血症、非アルコール性脂肪性肝疾患、アテローム性動脈硬化症、および糖尿病性心筋症等の疾患の動物モデルにおいて、いずれも予想外に著しい相乗効果を示す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、FGF21 Fc融合タンパク質であって、
そのアミノ酸配列は、
(1)SEQ ID NO:4に示されるとおりであり、または
(2)上記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上の同一性を有するか、または1つ以上のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、欠失および/または付加を有する配列)である、
FGF21 Fc融合タンパク質を提供する。
【0007】
別の態様において、本発明は、GLP-1 Fc融合タンパク質であって、
そのアミノ酸配列は、
(1)SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7に示されるとおりであり、または
(2)上記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上の同一性を有するか、または1つ以上のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、欠失および/または付加を有する配列)である、
GLP-1 Fc融合タンパク質を提供する。
【0008】
更なる態様において、本発明は、併用治療剤を提供する。
前記併用治療剤は、長期間作用型FGF21 Fc融合タンパク質を含む第1医薬組成物と、長期間作用型GLP-1 Fc融合タンパク質を含む第2医薬組成物とで構成され、長期間作用型FGF21 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4に示される配列、または上記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上の同一性を有するか、または1つ以上のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、欠失および/または付加を有する配列)である配列から選ばれ、前記長期間作用型GLP-1 Fc融合タンパク質のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6もしくはSEQ ID NO:7に示される配列、または上記配列のいずれかと実質的に同一(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%以上の同一性を有するか、または1つ以上のアミノ酸の置換(例えば、保存的置換)、欠失および/または付加を有する配列)である配列から選ばれる。
【0009】
更に、前記第1医薬組成物および第2医薬組成物は、医薬的に許容される担体、および/または賦形剤および/または安定剤を更に含む。
【0010】
更に、前記FGF21 Fc融合タンパク質およびGLP-1 Fc融合タンパク質は、予防有効量または治療有効量で前記医薬組成物に含まれ得る。前記予防または治療有効量は、治療対象となる患者の状況、必要な投与ルート等のような治療目的または予防目的によって決定される。
【0011】
更に、前記第1医薬組成物および第2医薬組成物は、経口投与または注射投与に適した剤形で製剤化される。
【0012】
更に、前記第1医薬組成物および第2医薬組成物は、経口投与または注射投与に適した剤形で別々に製剤化される。
【0013】
更なる態様において、本発明は、前記併用治療剤の、心血管および/または代謝系疾患を予防または治療するための薬剤の調製における使用を更に提供する。
【0014】
更に、前記心血管および/または代謝系疾患は、肥満、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、非アルコール性脂肪性肝疾患、糖尿病、糖尿病性心筋症、冠状アテローム性動脈硬化性心臓病、およびインスリン抵抗性に関連する他の疾患を含むが、これらに限定されない。
【0015】
更なる態様において、本発明は、前記併用治療剤を上記疾患の予防・治療に使用する方法を更に提供する。
【0016】
更に、前記方法は、被験者または患者に、予防または治療有効量の第1医薬組成物および第2医薬組成物を併用投与することを含み、ここで、前記予防または治療有効量は、治療対象となる患者の状況、必要な投与ルート等のような治療目的または予防目的によって決定される。
【0017】
更に、第1医薬組成物と第2医薬組成物とを併用投与する場合、両者を、同時に一緒に投与するか、同時にしかし別々に投与するか、または非同時に投与する。前記非同時に投与することは、連続して投与するか、または間隔をあけて投与することである。
【0018】
更に、前記第1医薬組成物および第2医薬組成物は、本分野で知られている任意の方式で投与されてもよく、例えば、静脈内(i.v.)または皮下(s.c)注射のような注射で投与されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の利点は以下のとおりである。一方、臨床的な実際の治療効果および薬剤の作用メカニズムの観点から、FGF21R/GLP-1R二重アゴニストの併用は、疾患発生メカニズムの複雑性に対応し、治療ニーズの多様性を満たす。科学的な実験研究により、長期間作用型FGF21 Fc融合タンパク質と長期間作用型GLP-1 Fc融合タンパク質との併用の優位性および実現可能性を十分に説明する。本発明に係る治療方法は、現在の心血管および代謝系疾患の臨床治療手段を最適化し、特に、複数種の心血管または代謝系疾患を合併する患者に、より効果的、より全面的な併用治療案を提供する。他方、本発明で選択された併用治療剤の活性成分は、いずれも長期間作用型タンパク質薬剤であり、臨床で週に1回の投与頻度を実現でき、その患者受け入れ度合は、他のインスリンまたはGLP-1類似体製品よりも遥かに高い。
【0020】
「FGF21」という用語は、天然のヒトFGF21、およびFGF21活性を保持するその類似体と誘導体を意味する。
【0021】
天然のヒトFGF21タンパク質の配列は、UNIPROTデータベースから取得でき、登録番号がQ9NSA1である。前駆体タンパク質は、209個のアミノ酸で構成され、シグナルペプチド(アミノ酸1~28)および成熟タンパク質(アミノ酸29~209)を含む。
【0022】
特に、US2001012628A1から、成熟タンパク質において、Leu(本発明のSEQ ID NO:1の第174位にある)の代わりにProを有する天然のヒトFGF21のイソ型(isoform)または対立形式(allelicform)を知ることができる。別の天然のヒトFGF21のイソ型のGlyは、Serによって置換される(本発明のSEQ ID NO:1の第141位にある)。
【0023】
WO2003/011213から、短いシグナルペプチド(本発明において、SEQ ID NO:1の第23位のLeuが欠損した)を有する別のイソ型(WO2003/011213公報におけるSEQ ID NO:2を参照し、27個のアミノ酸残基を有するシグナルペプチド)を知ることができる。
【0024】
本発明において、天然のヒトFGF21は、SEQ ID NO:1及びL174PまたはG141S置換イソ型からリーダーペプチドを除去した後に得られる成熟タンパク質部分の配列(アミノ酸29~209)を含み、また、これらの配列の前に上記27または28個のアミノ酸のシグナルペプチドが付加された前駆体タンパク質の全長配列を更に含む。
【0025】
「GLP-1」という用語は、ヒトGLP-1(7-37)(SEQ ID NO:2の1~31個目のアミノ酸)、エキセンディン-4(7-45)(SEQ ID NO:3の1~39個目のアミノ酸)、GLP-1活性を保持するその類似体および誘導体を意味する。
【0026】
「FGF21類似体」および「GLP-1類似体」という用語は、アミノ酸配列を修飾することにより、それぞれSEQ ID NOs:1、2および3のそれぞれのFGF21、GLP-1およびエキセンディン-4(Exendin-4)配列から導出または誘導され得るポリペプチドを意味する。このような修飾は、1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失および/または付加を含んでもよい。例えば、アミノ酸は、アミノ酸配列のC末端、N末端、または内部で付加および/または欠失できる。アミノ酸は、好ましくはC末端および/またはN末端で、より好ましくはN末端で付加および/または欠失できる。本分野で知られているように、C末端またはN末端アミノ酸が欠失したアミノ酸配列は、トランケート配列と呼ばれてもよい。
【0027】
本発明のFGF21 Fc融合タンパク質およびGLP-1融合タンパク質を含む医薬組成物は、医薬的に許容される担体を更に含んでもよい。注射の場合、前記担体は、例えば、水または生理食塩水であってもよい。希釈剤や適当な緩衝液のような他の医薬的に許容される物質を使用してもよい。必要な場合、乳化剤、懸濁化剤、溶剤、充填剤、膨張剤、アジュバント、防腐剤、酸化防止剤、着色剤および/または調味剤のような他の医薬的に許容される物質を使用してもよい。前記FGF21 Fc融合タンパク質およびGLP-1 Fc融合タンパク質は、本分野で知られているように、精製されたポリペプチドの形式で使用され、または適当な医薬的に許容される賦形剤で製剤化される。前記医薬組成物は、本分野で知られている任意の方式で投与でき、例えば、静脈内(i.v.)または皮下(s.c)注射のような注射で投与できる。
【0028】
前記FGF21 Fc融合タンパク質およびGLP-1 Fc融合タンパク質は、治療有効量または予防有効量で医薬組成物に含まれてもよい。前記有効量は、治療対象となる患者の状況、必要な投与ルート等のような治療目的または予防目的によって決定される。
【0029】
「インスリン抵抗性」という用語は、正常用量のインスリンが正常の生物学的効果よりも低い生物学的効果を生み出し、脂肪および骨格筋のグルコースに対する摂取速度が遅くなるが、肝臓のグルコースの放出および脂肪組織の遊離脂肪酸の放出を増加させる状態を指す。インスリン抵抗性の第1反応は、インスリンの代償性産生および分泌であり、生体の低下した感受性を補い、高インスリン血症を引き起こす。このように、高いインスリンレベルおよび血流からグルコースを除去する組織の応答性が低下することは、インスリン抵抗性の特徴となる。インスリン抵抗性は、代償性高インスリン血症、脂質異常、膵臓β細胞の代償機能の減退および高血糖症を含む一連の代謝変化を引き起こす主なイベントである。
【0030】
インスリン抵抗性に関連する疾患は、具体的に、インスリン抵抗性症候群(IRS)、2型糖尿病、耐糖能障害、メタボリックシンドローム、高血糖症、高インスリン血症、動脈硬化、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高脂血症、脂質異常、肥満、中心性肥満、多嚢胞性卵巣症候群、血液凝固が速すぎ、高血圧、微量アルブミン尿から選ばれる。
【0031】
「糖尿病」という用語は、インスリン分泌が絶対的または相対的に不足することによる内分泌代謝疾患である。2型糖尿病の発症メカニズムは、肝臓および末梢組織におけるインスリン抵抗性が徐々に発展し、膵臓β細胞のインスリン分泌不全を伴い、明らかな高血糖症(血液中のグルコース含有量が異常に高い)を引き起こすことを含む。
【0032】
「糖尿病性合併症」という用語は、慢性高血糖に起因する体の他の部位の機能障害であり、例えば、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性足(足潰瘍および循環低下)および眼部障害(網膜症)である。糖尿病は、更に心臓病、骨および関節病のリスクを増加させる。糖尿病の他の長期合併症は、皮膚の問題、消化器の問題、性機能障害、および歯と歯肉の問題を含む。
【0033】
「糖尿病性心筋症」という用語は、糖尿疾患者に発生した、高血圧性心臓病、冠状アテローム性動脈硬化性心臓病および他の心臓病変で解釈できない心筋疾患を意味する。該疾患は、代謝の乱れおよび微小血管病変の基、多病巣性心筋壊死を引き起こし、無症候性心機能異常が現れ、最終的に心不全、不整脈および心原性ショックの重症患者に進展し、更に突然死に至る。
【0034】
「冠状アテローム性動脈硬化性心臓病」という用語は、冠状動脈血管にアテローム性動脈硬化症の病変が発生して血管腔の狭窄または閉塞を引き起こし、心筋虚血、酸欠、または壊死による心臓病を引き起こす。
【0035】
「脂質異常」という用語は、リポタンパク質代謝障害を指し、リポタンパク質の過剰生産または欠陥を含む。脂質異常は、血液中の総コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールおよびトリグリセリドの濃度が高くなり、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの濃度が減少すると表現することができる。
【0036】
「非アルコール性脂肪性肝疾患」または「NAFLD」という用語は、過度の飲酒ではなく脂肪変性に起因する肝臓の全ての疾患を意味する。NAFLDsは、単純な非アルコール性脂肪肝(「NAFL」)、非アルコール性脂肪性肝炎(「NASH」)、肝線維症を伴うNAFL、肝硬変を伴うNAFL、肝線維症を伴うNASH、肝硬変を伴うNASH、および肝炎、肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、高トリグリセリド血症、リポタンパク質血症、糖原貯蔵障害、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマン病、妊娠、または脂肪栄養不良による脂肪肝疾患を含むが、これらに限定されない。
【0037】
「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」という用語は、アルコール消費と関係がない肝疾患であり、その特徴は肝細胞脂肪変性であり、小葉内炎症および線維症を伴う。
【0038】
「アテローム性動脈硬化症(atherosclerosis、AS)」という用語は、脂質代謝障碍に関連する全身性疾患であり、病変の特徴は、血液中の脂質が動脈管壁に入って内膜に沈着してアテローム性プラークを形成し、動脈が厚くなって硬くなることである。ASは主に大中動脈に関し、基本的な病変は、動脈内膜の脂質が沈着し、内膜が病巣状に線維化し、アテローム性プラークを形成し、管壁が硬くなり、管腔が狭くなり、一連の続発性疾患を引き起こし、特に、心、脳、腎等の器官に発生し、虚血性変化を引き起こす。
【0039】
「医薬的に許容される担体および/または賦形剤および/または安定剤」という用語は、薬理学的および/または生理学的に、被験者および活性成分と適合性のある担体および/または賦形剤および/または安定剤を意味し、それらは、採用された用量および濃度でそれに曝露された細胞または哺乳動物に対して無毒である。pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、希釈剤、浸透圧を維持する試薬、吸収を遅延させる試薬、防腐剤を含むが、これらに限定されない。例えば、pH調整剤はリン酸塩緩衝液を含むが、これらに限定されない。界面活性剤は、陽イオン、陰イオン、または非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されず、例えば、Tween-80である。イオン強度増強剤は塩化ナトリウムを含むが、これに限定されない。防腐剤は、様々な抗細菌試薬および抗真菌試薬を含むが、これらに限定されず、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等である。浸透圧を維持する試薬は、糖、NaClおよびその類似体を含むが、これらに限定されない。吸収を遅延させる試薬は、モノステアリン酸塩およびゼラチンを含むが、これらに限定されない。希釈剤は、水、水性緩衝液(例えば、緩衝食塩水)、アルコールおよび多価アルコール(例えば、グリセリン)等を含むが、これらに限定されない。防腐剤は、チメロサール、2-フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等のような様々な抗細菌試薬および抗真菌試薬を含むが、これらに限定されない。安定剤は、当業者が一般的に理解する意義を持ち、薬剤中の活性成分の所望の活性を安定化することができ、グルタミン酸ナトリウム、ゼラチン、SPGA、糖類(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ショ糖、乳糖、グルカン、またはグルコース)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グリシン)、タンパク質(例えば、乾燥ホエー、アルブミン、またはカゼイン)、またはその分解生成物(例えば、ラクトアルブミン加水分解物)等を含むが、これらに限定されない。
【0040】
「患者」、「被験者」、「個体」および「対象」という用語は、予防性または治療性治療を受ける任意のヒト、または非ヒト動物を意味し、特に、ヒトを意味する。例えば、本明細書に係る併用治療剤および方法は、糖尿病、NASA、NAFLD、またはアテローム性動脈硬化症疾患に罹患した被験者を治療することに使用できる。「非ヒト動物」という用語は、全ての脊椎動物を含み、例えば、哺乳動物および非哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類動物、ヒツジ、犬、牛、鶏、両生類動物、爬虫類動物等を含む。
【0041】
「有効量」という用語は、所望の効果を十分に取得可能、または少なくとも部分的に取得可能な量を意味する。例えば、疾患(例えば、腫瘍または感染)予防有効量は、単独で使用する場合、または別の1種または複数種の治療剤と併用する場合、疾患(例えば、腫瘍または感染)の発生を予防、阻止、または遅延させるのに十分な量を意味する。疾患治療有効量は、単独で使用する場合、または別の1種または複数種の治療剤と併用する場合、疾患に罹患した患者の疾患およびその合併症を十分に治癒可能または少なくとも部分的に阻止可能な量を意味する。このような有効量の測定は、完全に当業者の能力範囲内にある。例えば、治療用途に有効な量は、治療される疾患の重症度、患者自体の免疫系の全体的な状態、年齢、体重および性別のような患者の一般的な状況、薬剤の投与方式、および併用投与のような他の治療等に依存する。治療に関する「有効」および「有効性」という用語は、薬理学的有効性と生理学的安全性との両者を含む。薬理学的有効性は、薬剤が患者の病症または症状の消退を促進する能力を意味する。生理学的安全性は、薬剤投与による細胞、器官および/または生体レベルでの毒性または他の不良な生理効果(不良作用)のレベルを意味する。
【0042】
被験者に対する「治療」または「療法」は、疾患に関連する症状、合併症、病症、または生化学指標の出現、進展、発展、重症度、または再発を逆転、軽減、改善、抑制、緩和、または防止することを目的として被験者に対して任意のタイプの介入または処理を行うか、または被験者に本発明に係る併用治療剤を投与することを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aのそれぞれとの併用の、肥満マウスの体重に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:溶媒対照グループと比べ、
##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、
**P<0.01であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、
△△P<0.01である)。
【
図2】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aのそれぞれとの併用の、肥満マウスの血清肝機能に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:溶媒対照グループと比べ、
##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、
**P<0.01であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、
△△P<0.01である)。
【
図3】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aとの併用の、肥満マウスの肝臓トリグリセリド含有量に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:溶媒対照グループと比べ、
##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、
**P<0.01であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、
△△P<0.01である)。
【
図4】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-B、またはFP-Aとをそれぞれ併用した後、肥満マウスの肝臓組織の病理学的写真である。
【
図5】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aのそれぞれとの併用の、肥満マウスの血清インスリン含有量に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:溶媒対照グループと比べ、
##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、
**P<0.01であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、
△△P<0.01である)。
【
図6】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aのそれぞれとの併用の、非アルコール性脂肪性肝炎マウスの血清肝機能に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:溶媒対照グループと比べ、
##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、
**P<0.01であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、
△△P<0.01である)。
【
図7】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aのそれぞれとの併用の、非アルコール性脂肪性肝炎マウスの肝臓トリグリセリド含有量に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:溶媒対照グループと比べ、
##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、
*P<0.05であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、
△P<0.05である)。
【
図8】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aとをそれぞれ併用した後、非アルコール性脂肪性肝炎マウスの肝臓組織の病理学的写真である。
【
図9】FP4Iと、GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-BおよびFP-Aのそれぞれとの併用の、db/dbマウスの心臓全体質量に対する影響(means±SEM)である(統計的差異マーカーの注釈:正常対照グループと比べ、
##P<0.01であり、溶媒対照グループと比べ、
**P<0.01である)。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、長期間作用型FGF21-Fc融合タンパク質(FP4Iと命名、中国特許CN107995914Aを参照)と、長期間作用型GLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド(商品名:トルリシティ)、またはEx(1-39)-L3-CTP1-vFcγ2-3(FP-Aと命名、中国特許CN106117370Bを参照)、またはEx-(1-45)-L-vFc(FP-Bと命名、中国特許CN106279430Bを参照)とそれぞれ併用し、肥満、高脂血症、非アルコール性脂肪肝疾患、または糖尿病の動物モデルを研究対象とし、2種の製品併用の治療優位性を十分に説明し、心血管および代謝疾患の総合的な管理および予防治療に、より有効的、より全面的な解決策を提供する。
【実施例】
【0045】
以下、具体的な実施例を参照しながら本発明について更に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0046】
実施例1、高脂肪飼料によるマウスの肥満、脂肪代謝障害および脂肪肝に対する併用療法の治療作用
【0047】
1.1薬品の由来
長期間作用型FGF21-Fc融合タンパク質は、FP4Iと命名され、調製方法はCN107995914Aを参照し、本発明において、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:4に示すとおりであり、デュラグルチド(アメリカのLily社)は、本発明において、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:5に示すとおりであり、Ex(1-39)-L3-CTP1-vFcγ2-3は、FP-Aと命名され、調製方法は中国特許CN106117370Bを参照し、本発明において、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:6に示すとおりであり、Ex-(1-45)-L-vFcは、FP-Bと命名され、調製方法は中国特許CN106279430Bを参照し、本発明において、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:7に示すとおりである。
【0048】
1.2グループ分けの投与およびサンプル収集
8週齢のC57BL/6J雄マウスは、上海SLAC実験動物有限責任公司から購入した。飼育環境22~24℃、相対湿度45%~65%、照明時間12h/日とした。D12492飼料(脂肪カロリー60%、アメリカResearch Diets社の製品)で20週間飼育した後、体質量によって、マウスを溶媒対照グループ、FP4I-5mg/kgグループ(FP4Iグループと略称する)、デュラグルチド-1.5mg/kgグループ(デュラグルチドグループと略称する)、FP-B-1.5mg/kgグループ(FP-Bグループと略称する)、FP-A-1.5mg/kgグループ(FP-Aグループと略称する)、FP4I-5mg+デュラグルチド-1.5mg/kgグループ(FP4I+デュラグルチドグループと略称する)、FP4I-5mg/kg+FP-B-1.5mg/kgグループ(FP4I+FP-Bグループと略称する)、およびFP4I-5mg+FP-A-1.5mg/kgグループ(FP4I+FP-Aグループと略称する)にランダムに分け、グループ毎に8匹のマウスとした。溶媒対照グループおよび単剤治療グループの頸背部皮下に、対応するタンパク質溶液または緩衝液を注射投与し、併用投与グループの頸背部皮下にFP4Iを注射投与し、腹部皮下にデュラグルチド、FP-A、またはFP-Bをそれぞれ注射投与した。6日に1回投与し、合計4回投与した。最終回の投与周期後に、各グループのマウスを16h断食させ、眼窩から全血を採取し、2000gで15分間遠心し、分離して血清サンプルを得た。肝臓組織を分離し、重量を秤量し、肝左外側葉を液体窒素で急凍結した後、-80℃の冷蔵庫に移して保存し、肝右葉を10%のホルマリン溶液に保存した。
【0049】
1.3実験の方法
全自動生化学分析装置(ALFRA XL-200全自動生化学分析装置、ドイツALFRA社の製品)およびセットとなる試薬キット(寧波美康バイオテクノロジー有限公司の製品)でマウス血清のALT、AST、TG、TC、LDL-c、HDL-cの含有量を検出した。ELISA法(マウス超高感度インスリンELISA検出試薬キット、アメリカALPCO社の製品)でマウスの空腹時の血清中のインスリン含有量を検出した。マウス肝左外側葉組織を約55mg取り、Floch法で単位肝質量あたりのトリグリセリド含有量を検出した。マウス肝右葉を取り、HE染色を行い、組織病理学的検査を行った。
【0050】
データを平均数±標準誤差(means±SEM)の形で表し、SPSS 18.0統計ソフトウェアでデータを分析した。正規分布の場合、複数グループ間の平均数の差が一元配置分散分析、分散均一性がLSD検定、分散不整がDunnet T3検定を採用した。非正規分布の場合、ノンパラメトリック検定を採用し、P<0.05は、統計学的有意差を有することを表す。
【0051】
1.4実験の結果
結果は、
図1に示すように、溶媒対照グループと比べ、デュラグルチドグループ、FP-Aグループ、FP-Bグループ、およびFP4Iグループのマウスの体質量は著しく低下した。FGF21 Fc融合タンパク質またはGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与と比べ、併用投与グループのマウスの体質量は更に著しく低下した。結果は、
図2および
図3に示すように、併用投与グループのマウスの肝機能の改善程度は、単独投与グループよりも著しく優れ、肝臓トリグリセリドの含有量は単独投与グループよりも著しく低かった。
【0052】
組織病理学的結果によると、溶媒対照グループのマウス肝臓変性は、大胞と小胞との混合型脂肪変性であり、且つ、脂肪がシート状に融合したことが分かった。デュラグルチド、FP-B、FP-A、またはFP4Iの単独投与は、マウス肝臓脂肪変性を改善する作用を有する。FGF21融合タンパク質またはGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与と比べ、併用投与グループのマウス肝臓脂肪病変の程度はより大幅に緩和され、結果は
図4に示すとおりである。
【0053】
結果は、表1および表2に示すように、FGF21融合タンパク質とGLP-1 Fc融合タンパク質との併用投与の、肥満マウスの高脂血症に対する治療作用は、単独投与グループよりも優れた。
【0054】
【0055】
備考:溶媒対照グループと比べ、#P<0.05、##P<0.01であり、対応するGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与グループと比べ、*P<0.05、**P<0.01であり、FP4Iの単独投与グループと比べ、△P<0.05、△△P<0.01であり、他の表統計学的注釈は、表1に記載されたものと同様であった。
【0056】
【0057】
図5の結果に示すように、FP4I、デュラグルチド、FP-BおよびFP-Aの単独使用は、いずれも肥満マウスの高インスリン血症症状を効果的に改善することができる。FP4Iと上記GLP-1 Fc融合タンパク質とを併用した後、インスリン抵抗性を改善する作用は著しく強くなった。
【0058】
本実施例の研究内容から分かるように、典型的なメタボリックシンドロームの特徴を持つ肥満マウスを研究対象とし、長期間作用型FGF21融合タンパク質と長期間作用型GLP-1 Fc融合タンパク質との併用は、単独投与と比べ、減量、脂肪肝およびそれによる肝損傷の逆転、血中脂質異常症の緩和と治療、インスリン抵抗性および低密度リポタンパク質の上昇による血管病変性疾患の面で、より優れた治療作用を表した。
【0059】
実施例2、高果糖高脂肪高コレステロール飼料による非アルコール性脂肪性肝炎マウスに対する併用療法の治療作用
【0060】
2.1グループ分けの投与およびサンプル収集
8週齢のC57BL/6J雄マウスは、北京華阜康バイオテクノロジー股フン有限公司から購入した。飼育環境22~24℃、相対湿度45%~65%、照明時間12h/日とした。D09100301飼料(脂肪カロリー40%、果糖カロリー40%、コレステロール質量2%、アメリカResearch Diets社の製品)で30週間飼育した後、12h断食し、眼角静脈叢から全血を約120μl採取し、血清を分離してALTレベルを検出した。体質量および血清のALTレベルによって、マウスを溶媒対照グループ、FP4I-5mg/kgグループ(FP4Iグループと略称する)、デュラグルチド-1.5mg/kgグループ(デュラグルチドグループと略称する)、FP-B-1.5mg/kgグループ(FP-Bグループと略称する)、FP-A-1.5mg/kgグループ(FP-Aグループと略称する)、FP4I-5mg+デュラグルチド-1.5mg/kgグループ(FP4I+デュラグルチドグループと略称する)、FP4I-5mg/kg+FP-B-1.5mg/kg(FP4I+FP-Bグループと略称する)、およびFP4I-5mg+FP-A-1.5mg/kgグループ(FP4I+FP-Aグループと略称する)にランダムに分け、グループ毎に8匹のマウスとした。溶媒対照グループおよび単剤治療グループの頸背部皮下に、対応するタンパク質溶液または緩衝液を注射投与し、併用投与グループの頸背部皮下にFP4Iを注射投与し、腹部皮下にデュラグルチド、FP-A、またはFP-Bをそれぞれ注射投与した。6日に1回投与し、合計8回投与した。最終回の投与周期後に、各グループのマウスを16h断食し、眼角静脈叢から全血を採取し、2000gで15分間遠心し、分離して血清サンプルを得た。肝臓組織を分離し、重量を秤量し、肝左外側葉を液体窒素で急凍結した後、-80℃の冷蔵庫に移して保存し、肝右葉を10%のホルマリン溶液に保存した。
【0061】
2.2実験の方法
非アルコール性脂肪性肝炎のスコア系(NASポイント)で治療効果を評価し、標準は、アメリカ国立衛生研究所の病理ワークグループマニュアルを参照し、具体的に、肝細胞脂肪変性は、0点(<5%)、1点(5%~33%)、2点(34%~66%)、3点(>66%)であり、20倍顕微鏡下の小葉内炎症は、0点(無し)、1点(<2つ)、2点(2~4つ)、3点(<4つ)であり、肝細胞の風船様変性は、0点(無し)、1点(少ない)、2点(多い)であった。血清生化学検査、肝臓トリグリセリド含有量の検出、組織病理学的検査、統計学的分析方法は、実施例1における対応する部分と同様であった。
【0062】
2.3実験の結果
図6および
図7に示すように、単独投与の治療の基、併用投与グループは、非アルコール性脂肪性肝炎マウスの肝機能を更に改善し、肝臓トリグリセリドの含有量を低減することができる。
【0063】
組織病理学的結果によると、溶媒対照グループのマウス肝臓は、深刻な脂肪変性、炎性細胞浸潤、且つ偶に肝細胞風船様変を表した。本実施例で設計された投与量および投与周期の条件で、FGF21 Fc融合タンパク質FP4IまたはGLP-1 Fc融合タンパク質のデュラグルチド、FP-AまたはFP-Bを単独投与することで、一定の程度で非アルコール性脂肪性肝炎のマウス肝臓病変を緩和することができる。単独治療グループと比べ、併用投与グループのマウスの肝臓病理組織形態の改善は明らかであり、NASポイントは著しく低下した。結果は
図8および表3に示すとおりである。
【0064】
本実施例の研究内容から分かるように、FGF21 Fc融合タンパク質とGLP-1 Fc融合タンパクとの併用は、非アルコール性脂肪性肝炎に対してより積極的な治療作用を表し、その効果は単独治療グループよりも明らかに優れた。
【0065】
【0066】
実施例3、db/dbマウスに対する併用療法の血糖降下および心臓保護作用に関する実験研究
【0067】
3.1グループ分けの投与およびサンプル収集
6週齢のdb/db雄マウスは、江蘇Gempharmatech有限公司から購入した。飼育環境22~24℃、相対湿度45%~65%、照明時間12h/日とした。D12450B飼料で14週齢まで飼育した後、眼角静脈叢から全血を約20μl採取し、糖化ヘモグロビンの含有量を検出した。体質量および糖化ヘモグロビンレベルによって、db/dbマウスを、溶媒対照グループ、FP4I-5mg/kgグループ(FP4Iグループと略称する)、デュラグルチド-1.5mg/kgグループ(デュラグルチドグループと略称する)、FP-B-1.5mg/kgグループ(FP-Bグループと略称する)、FP-A-1.5mg/kgグループ(FP-Aグループと略称する)、FP4I-5mg+デュラグルチド-1.5mg/kgグループ(FP4I+デュラグルチドグループと略称する)、FP4I-5mg/kg+FP-B-1.5mg/kg(FP4I+FP-Bグループと略称する)、およびFP4I-5mg+FP-A-1.5mg/kgグループ(FP4I+FP-Aグループと略称する)にランダムに分け、同じ週齢のdb/mマウスを正常対照グループとし、グループ毎に8匹のマウスとした。対照グループおよび単剤治療グループの頸背部皮下に、対応するタンパク質溶液または緩衝液を注射投与し、併用投与グループの頸背部皮下にFP4Iを注射投与し、腹部皮下にデュラグルチド、FP-A、またはFP-Bをそれぞれ注射投与した。3日に1回投与し、合計12回投与した。最終回の投与周期後に、各グループのマウスを一晩断食させ、眼角静脈叢から全血を採取し、糖化ヘモグロビンの含有量を検出し、採血後に頸椎を外してマウスを殺し、マウスの心臓組織を分離し、心臓全体の質量を秤量した。
【0068】
3.2実験方法
NycoCard Reader II特殊タンパク質ゴールドラベル検査機(ノルウェーAlere Technologies AS社の製品)を用い、微粒子クロマトグラフィでマウスの糖化ヘモグロビン含有量を検出した。統計学的分析方法は、実施例1の対応する部分と同様であった。
【0069】
3.3実験結果
結果は、表4に示すように、FGF21 Fc融合タンパク質またはGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与は、db/dbマウスに対して良好な血糖制御作用を表したが、正常血糖マウスのレベルよりも高かった。併用投与後のdb/dbマウスの糖化ヘモグロビン含有量は、単独治療グループよりも著しく低く、そのレベルはほぼ正常マウスの血糖レベルに回復した。
【0070】
db/dbマウスは、自発型糖尿病マウスであり、その特徴は臨床症状との類似度が高いため、血糖降下薬剤の治療効果を精確に反映することができる。本実施例の研究から分かるように、併用投与は、db/dbマウスの血糖を正常に回復させることができ、単独治療グループよりも優れた。
【0071】
糖尿病性心筋症は、糖尿病の主な合併症の1つであり、主な病理的特徴は、心臓肥大として表された。結果は
図9に示すように、20週齢のdb/dbマウスの心臓全体質量は、正常対照マウスよりも高く、糖尿病性心筋症の特徴を表した。FGF21 Fc融合タンパク質またはGLP-1 Fc融合タンパク質の単独投与は、db/dbマウスの心臓全体質量に対して明らかな影響がなかった。併用投与後に、db/dbマウスの心臓全体質量は著しく低下した。本実施例の研究から分かるように、併用投与は、糖尿病性心筋症の発生発展を予防・治療することができる。
【0072】
【0073】
本発明で言及された全ての文献はいずれも本出願に参照として引用され、それぞれの文献が単独で参照としてそのように引用される。また、本発明の上記説明した内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を行うことが可能であり、これらの等価な形式は、同様に本出願の添付の特許請求の範囲により限定される範囲に含まれることを理解すべきである。
【配列表】