(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】帯域通過フィルタ及びそれを備える高周波装置
(51)【国際特許分類】
H01P 1/207 20060101AFI20231005BHJP
H01P 1/208 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01P1/207 Z
H01P1/208 Z
(21)【出願番号】P 2018144791
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 憲一
(72)【発明者】
【氏名】岸田 武紘
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-171040(JP,A)
【文献】特開2004-242303(JP,A)
【文献】国際公開第2017/085936(WO,A1)
【文献】特開2003-283203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/207
H01P 1/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口形状
がH字である開口部を有する第1凹部が形成されている第1金属ブロックと、
前記第1凹部と開口形状が同じ第2凹部が形成されている第2金属ブロックと、
前記第1凹部と前記第2凹部の前記開口部を対向させて前記第1金属ブロックと前記第2金属ブロックに挟み込まれる回路基板と、
を備え、前記第1凹部と前記第2凹部により、電磁波の共振空間が対をなして形成される
とともに、対をなす前記共振空間がトンネル部を介して接続される帯域通過フィルタであって、
前記回路基板は、前記共振空間内に挿入され、電力を供給する入力導体部及び出力導体部を有し、
前記トンネル部の長さが通過周波数の波長の1/4以下であることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の帯域通過フィルタであって、
前記第1凹部が有する第1の深さと前記第2凹部が有する第2の深さは同じであることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項3】
請求項1に記載の帯域通過フィルタであって、
前記第1凹部が有する第1の深さと前記第2凹部が有する第2の深さは互いに異なることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の帯域通過フィルタであって、
前記第1凹部及び第2凹部にそれぞれ対面する位置にある前記回路基板の導体の一部が除去されていることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項5】
請求項1から3までの何れか一項に記載の帯域通過フィルタであって、
前記第1凹部及び第2凹部にそれぞれ対面する位置にある前記回路基板の一部が厚み方向に貫通していることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項6】
請求項1から3までの何れか一項に記載の帯域通過フィルタであって、
前記第1凹部及び前記第2凹部は、メアンダ状の溝部を含んで構成されていることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項7】
請求項1から3までの何れか一項に記載の帯域通過フィルタであって、
前記第1凹部及び前記第2凹部のうち少なくとも一方について、その内部の全部又は一部に誘電体が充填されていることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項8】
請求項1から3までの何れか一項に記載の帯域通過フィルタであって、
互いに接続されるフィルタ段を複数有し、
それぞれの前記フィルタ段が、対をなす前記共振空間から構成されることを特徴とする帯域通過フィルタ。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の帯域通過フィルタを備えることを特徴とする高周波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、例えばマイクロ波乃至ミリ波帯で使用する帯域通過フィルタの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特に移動体通信や通信衛星などにおいては、高周波用フィルタに対して、大型化することなく、広帯域で低ロスかつ急峻な減衰特性を実現する要望が強まっている。そこで、小型のフィルタとして、マイクロストリップなどの伝送線路構造を用いるフィルタが提案されている。特許文献1は、この種のフィルタを開示する。
【0003】
特許文献1の帯域通過フィルタは、マイクロストリップ線路で形成した共振素子を所定間隔で並べて構成した基板を囲むための、第1空間部と当該第1空間部の上方に連なって形成された第2空間部とを備える特殊形状のシールドケースを用いて、通過帯域以外の高周波信号の導波管モードによる空間伝播を抑圧することで、これらの高周波信号の減衰特性の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-97393号公報
【文献】国際公開第2009/133713号
【文献】特開2002-135003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
知られているように、マイクロストリップ線路で構成された共振器においては、高周波で励振されているとき、電流がマイクロストリップ線路の端に集中して流れることによる導体損失、及び基板絶縁体の誘電特性による誘電損失が大きい。このため、特許文献1の構成は、低ロス及び急峻なフィルタ特性を得ることが困難である。
【0006】
ところで、共振器自体の損失の低減に関して、特許文献2では、誘電体基板の両面に形成された導体層と、当該導体層同士を短絡させるビアと、から構成される疑似誘電体導波管を用いるフィルタが提案されている。特許文献2の構成では、損失を好適に抑えるために、共振器を構成する基板が数mm程度の厚みを有することが望まれている。しかし、近年は、高周波対応、漏洩波対策等に有利な1mm以下の薄い基板の使用が主流となりつつあり、特許文献2の構成は必ずしも好適とはいえない。
【0007】
用いる基板を薄くすることが可能なフィルタとして、特許文献3は、基板上に実装する導波管型誘電体フィルタを提案している。しかし、特許文献3は、導波管型誘電体フィルタの入出力電極と、基板上の信号線のフィルタへの入出力電極と、に同じ形状の導体パターンを形成する必要がある。従って、特許文献3の構成は、基板の厚みや材質の変更によって、適用する周波数帯域に対する基板の導体パターンの形状が変わり、導波管型誘電体フィルタの入出力電極の導体パターンの形状も上記に伴って変更する必要があって、汎用性が十分であるとはいえなかった。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、低ロスかつ小型化を実現でき、汎用性が高い導波管型帯域通過フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の帯域通過フィルタが提供される。即ち、この帯域通過フィルタは、第1金属ブロックと、第2金属ブロックと、回路基板と、を備える。前記第1金属ブロックには、第1凹部が形成されている。前記第1凹部は、開口形状がH字である開口部を有する。前記第2金属ブロックには、前記第1凹部と開口形状が同じ第2凹部が形成されている。前記回路基板は、前記第1凹部と前記第2凹部の前記開口部を対向させて前記第1金属ブロックと前記第2金属ブロックに挟み込まれる。この帯域通過フィルタには、前記第1凹部と前記第2凹部により、電磁波の共振空間が対をなして形成されるとともに、対をなす前記共振空間がトンネル部を介して接続される。前記回路基板は、前記共振空間内に挿入され、電力を供給する入力導体部及び出力導体部を有する。前記トンネル部の長さが通過周波数の波長の1/4以下である。
【0011】
これにより、回路基板の厚み方向両側の空間を利用して、高いQ値の導波管型共振器を構成でき、小型かつ広帯域で低ロスのフィルタを実現することができる。また、第1凹部と第2凹部を合わせた全体が、対の方向性結合器同士を組み合わせた形状となる。この結果、通過帯域以外の周波数に対する急峻な減衰特性を容易に実現できる。
【0012】
前記の帯域通過フィルタにおいては、前記第1凹部及び第2凹部にそれぞれ対面する位置にある前記回路基板の導体の一部が除去されていることが好ましい。
前記の帯域通過フィルタにおいては、前記第1凹部及び第2凹部にそれぞれ対面する位置にある前記回路基板の一部が厚み方向に貫通していることが好ましい。
【0013】
これにより、構成された共振器の共振モードによる電界の影響を回避することができ、回路基板の誘電正接による損失を低減することができる。
【0014】
前記の帯域通過フィルタにおいては、前記第1凹部が有する第1の深さと前記第2凹部が有する第2の深さは同じであっても良い。
【0015】
この場合、回路基板の厚み方向の両側の凹部の対称性が向上するので、第1金属ブロック及び第2金属ブロックとの間に回路基板が位置している部分からの漏洩波を減らすことができ、損失の低減及び安定な特性を実現することができる。
前記の帯域通過フィルタにおいては、前記第1凹部が有する第1の深さと前記第2凹部が有する第2の深さは互いに異なっていても良い。
【0016】
前記の帯域通過フィルタにおいては、前記溝部は、メアンダ状に形成されていることが好ましい。
【0017】
これにより、フィルタの小型化を実現しつつ、所望の通過帯域に対応する溝部の長さを確保することができる。
【0018】
前記の帯域通過フィルタにおいては、前記第1凹部及び前記第2凹部のうち少なくとも一方について、その内部の全部又は一部に誘電体が充填されていることが好ましい。
【0019】
これにより、フィルタの一層の小型化を図ることができる。
【0020】
前記の帯域通過フィルタにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この帯域通過フィルタは、互いに接続されるフィルタ段を複数有する。それぞれの前記フィルタ段が、対をなす前記共振空間から構成される。
【0021】
これにより、フィルタの多段接続によって、一層急峻な減衰特性を実現することができる。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、前記の帯域通過フィルタを備える高周波装置が提供される。
【0023】
これにより、広帯域で低ロスのフィルタ特性を有する小型な高周波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る導波管型フィルタの構成を示す斜視図。
【
図2】導波管型フィルタを構成する各部を示す斜視図。
【
図5】溝部の長手方向に沿って切った断面形状を示す概略図。
【
図6】第2実施形態の導波管型フィルタの構成を示す分解斜視図。
【
図8】第2実施形態の導波管型フィルタの溝部の長手方向に沿って切った断面形状を示す概略図。
【
図9】第2実施形態の導波管型フィルタのシミュレーション結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る導波管型フィルタ(帯域通過フィルタ)100の構成を示す斜視図である。
図2は、導波管型フィルタ100を構成する各部を示す斜視図である。
図3は、TE01モードの共振器を示す模式図である。
図4は、導波管型フィルタ100の構成を示す分解斜視図である。
【0026】
図1に示す第1実施形態の導波管型フィルタ100は、レーダ装置又は無線通信装置等の高周波装置に設けられており、特定の周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter)として構成されている。導波管型フィルタ100は、主として、第1金属ブロック1と、第2金属ブロック2と、回路基板3と、から構成されている。第1金属ブロック1には第1凹部4が形成され、第2金属ブロック2には第2凹部5が形成されている。第1凹部4と第2凹部5とは開口同士が向かい合うように配置され、これにより、導波管型フィルタ100の内部に、2つの共振空間Sが形成されている。
【0027】
第1金属ブロック1は、金属を材料として、
図2に示すように直方体のブロック状に形成されている。第1金属ブロック1には、第1凹部4が形成されている。第1金属ブロック1において回路基板3と対向する面には、第1凹部4の開口部4aが形成されている。第1凹部4は、複数(本実施形態においては2つ)の溝部41,42と、接続部43と、から構成されている。
【0028】
それぞれの溝部41,42は、回路基板3の厚み方向で見たときに、細長い長方形の長辺の1つを省略したような形状となっている。第1金属ブロック1において回路基板3と対向する面にそれぞれの溝部41,42が形成する開口も、溝部41,42と同様の形状である。
【0029】
詳細に説明すると、それぞれの溝部41,42の形状は、1つの長い直線部分と、その両端にそれぞれ垂直に接続する2つの短い直線部分と、を有する。それぞれの溝部41,42は、全体として見たとき、上記の長い直線部分の方向に細長いということができるので、以下の説明では、この方向を溝部41,42の長手方向と呼ぶことがある。2つの溝部41,42は、その長手方向が互いに平行となるように配置される。
【0030】
それぞれの溝部41,42は、回路基板3の厚み方向で所定の深さH1を有するように形成されている。溝部41,42のそれぞれにおいては、
図2に示すように、一方の端部から他方の端部までの経路長が、所望の通過周波数に相当する波長λの2分の1に等しくなっている。
【0031】
溝部41,42は、
図2に示すように、第1金属ブロック1の中心を通り、溝部41,42の長手方向に平行、かつ、当該溝部41,42の深さ方向に平行な仮想平面(中心面P1)に関して互いに対称となるように配置されている。回路基板3の厚み方向で見たときに、1対の溝部41,42は、長辺を省略した側が互いに反対を向くように配置されている。従って、開口部4aは、2つのC字の開放側が中心面P1から遠い側を向くように互いに近接して配置されたような形状となっている。なお、当該2つの溝部41,42は、上記のように鏡像配置される代わりに、同じ向きで並べて配置されても良い。
【0032】
溝部41,42は、接続部43を介して互いに接続されている。接続部43は、溝部41,42の長い直線部分の中央から長手方向一側に偏った位置同士を繋いでいる。接続部43が2つの溝部41,42を接続する向きは、回路基板3の厚み方向と垂直であり、溝部41,42の長手方向と垂直である。接続部43は、溝部41,42と同様に、第1金属ブロック1が回路基板3と対向する面を開放させるように形成されている。
【0033】
接続部43の長さ(2つの溝部41,42の間の部分の長さ)は、所望の通過周波数の波長λの1/4以下に設定されている。本実施形態において接続部43の深さは、
図2に示すように溝部41,42の深さH1より小さくなっている。これにより、接続部43において、広帯域の伝搬特性を有するリッジ構造を構成することができる。ただし、接続部43の深さは、溝部41,42の深さH1と等しくても良い。
【0034】
第2金属ブロック2は、金属を材料として、
図2に示すように直方体のブロック状に形成されている。第2金属ブロック2には、第2凹部5と、第1切欠部21と、第2切欠部22と、が形成されている。なお、
図2では、開口の形状を分かり易く示すために、第2金属ブロック2は回路基板3と接合する側を上に向けた状態で描かれている。第2金属ブロック2において回路基板3と対向する面には、第2凹部5の開口部5aが形成されている。第2凹部5は、第1凹部4と同じように、複数(本実施形態においては2つ)の溝部51,52と、接続部53と、から構成されている。第2凹部5の開口部5aの輪郭形状は、第1凹部4の開口部4aの輪郭形状と同一となっている。
【0035】
それぞれの溝部51,52は、第1金属ブロック1の溝部41,42と同様に、回路基板3の厚み方向で見たときに、細長い長方形の長辺の1つを省略したような形状となっている。第2金属ブロック2において回路基板3と対向する面にそれぞれの溝部51,52が形成する開口も、溝部51,52と同様の形状である。
【0036】
それぞれの溝部51,52の形状は、1つの長い直線部分と、その両端にそれぞれ垂直に接続する2つの短い直線部分と、を有する。以下の説明では、長い直線部分の方向を、溝部51,52の長手方向と呼ぶことがある。2つの溝部51,52は、その長手方向が互いに平行となるように配置される。
【0037】
それぞれの溝部51,52は、回路基板3の厚み方向で第1凹部4の溝部41,42の深さH1より大きな深さH2を有するように形成されている。溝部51,52のそれぞれにおいては、溝部41,42と同じように、一方の端部から他方の端部までの経路長が、所望の通過周波数に相当する波長λの2分の1に等しくなっている。
【0038】
溝部51,52は、
図2に示すように、第2金属ブロック2の中心を通り、溝部51,52の長手方向に平行、かつ、当該溝部51,52の深さ方向に平行な仮想平面(中心面P2)に関して互いに対称となるように配置されている。回路基板3の厚み方向で見たときに、1対の溝部51,52は、長辺を省略した側が互いに反対を向くように配置されている。従って、開口部5aは、2つのC字の開放側が中心面P2から遠い側を向くように互いに近接して配置されたような形状となっている。なお、当該2つの溝部51,52は、上記のように鏡像配置される代わりに、同じ向きで並べて配置されても良い。
【0039】
溝部51,52は、接続部53を介して互いに接続されている。接続部53は、溝部51,52の長い直線部分の中央から長手方向一側に偏った位置同士を繋いでいる。接続部53が2つの溝部51,52を接続する向きは、回路基板3の厚み方向と垂直であり、溝部51,52の長手方向と垂直である。第1凹部4と第2凹部5とが対向するように第1金属ブロック1と第2金属ブロック2とを配置した状態において、この接続部53は、第1金属ブロック1の接続部43と対応するように配置される。接続部53は、溝部51,52と同様に、第2金属ブロック2が回路基板3と対向する面を開放させるように形成されている。
【0040】
接続部53の長さ(2つの溝部51,52の間の部分の長さ)は、接続部43の長さと等しくなっており、所望の通過周波数の波長の1/4以下に設定されている。本実施形態において接続部53の深さは、
図2に示すように、溝部51,52の深さH2より小さくなっている。これにより、接続部53において、広帯域の伝搬特性を有するリッジ構造を構成することができる。ただし、接続部53の深さは、溝部51,52の深さH2と等しくても良い。
【0041】
このように形成された第1金属ブロック1及び第2金属ブロック2が、第1凹部4と第2凹部5のそれぞれの開口部4a,5aが互いに向かい合うように配置される。これにより、回路基板3を挟んで対面する溝部41と溝部51とにより1つの共振空間Sが形成され、回路基板3を挟んで対面する溝部42と溝部52とによりもう1つの共振空間Sが形成される。また、回路基板3を挟んで対面する接続部43と接続部53とによりトンネル状の空間(トンネル部)が形成される。
【0042】
対をなす共振空間S(方向性結合器)は、トンネル部を介して互いに接続される。この結果、
図3に概念的に示すように、互いに接続している2つの共振空間Sから構成された無負荷Qが高い空洞共振器を構成することができる。また、接続部43,53から構成されたトンネル部の長さは所望の通過周波数の波長の1/4以下であるため、当該リッジ構造において互いの電磁波が干渉する。この結果、損失を低減し、小型かつ高性能な導波管型フィルタ100を得ることができる。
【0043】
第2金属ブロック2の第1切欠部21及び第2切欠部22は、回路基板3の厚み方向で見たときに、溝部51,52のそれぞれが有する2つの短い直線部分のうち接続部53から遠い側の短い直線部分と、第2金属ブロック2の外部と、を接続するように形成されている。第1切欠部21及び第2切欠部22は、第2金属ブロック2が回路基板3と対向する面を開放させるように形成されている。第1切欠部21及び第2切欠部22は、上記の短い直線部分のうち、長い直線部分から遠い側の端部に接続している。
【0044】
第1切欠部21及び第2切欠部22のそれぞれは、
図1に示す状態において、後述の入力導体部35及び出力導体部36のそれぞれに対応する位置に配置されている。これにより、入力導体部35及び出力導体部36を、当該第1切欠部21及び第2切欠部22を介して、第2金属ブロック2と接触せずに共振空間Sの内部に挿入することができる。
【0045】
このように、本実施形態では、入力導体部35及び出力導体部36を差し込むための第1切欠部21及び第2切欠部22が溝部51,52の一端側に設けられ、接続部53が溝部51,52の他端側に設けられている。これにより、入力導体部35から送信された電磁波は、共振空間S内で迂回して、出力導体部36で受信される。
【0046】
具体的には、入力導体部35に電気信号を入力すると、入力導体部35が電磁波を放射する。当該電磁波は、
図2の太線に示すように、溝部41,51から構成された共振空間Sに沿って伝搬され、接続部43,53から構成されたトンネル部を介して、溝部42,52から構成された共振空間Sの内部に伝搬される。その後、電磁波は、溝部42,52から構成された共振空間Sに沿って、トンネル部側から出力導体部36へ伝搬される。出力導体部36は、この電磁波を捕らえ、それに応じた電気信号を出力する。
【0047】
回路基板3は、厚みが1mm以下である両面基板から構成されている。回路基板3の厚み方向一方側の側面である第1面31(
図2の鎖線部分を参照)には、グランド部33と、第1導体除去部34と、が形成されている。回路基板3の厚み方向他方側の側面である第2面32(
図2の実線部分を参照)には、入力導体部35と、出力導体部36と、第2導体除去部37と、が形成されている。入力導体部35には、図示しない入力端子が電気的に接続され、出力導体部36には、図示しない出力端子が電気的に接続される。なお、
図2に鎖線で示す回路基板3は、
図2の実線に示す回路基板3を表裏反転させた状態である。
【0048】
グランド部33は、回路基板3を構成する金属導体を露出するように構成されている。グランド部33は、例えば金属導体箔からなり、回路基板3の4辺に沿って形成されている。当該グランド部33の中央部に、第1導体除去部34が形成されている。即ち、回路基板3の第1面31の全面の金属導体を露出させ、中央部において所定範囲の金属導体を除去することによって、グランド部33と、第1導体除去部34と、が形成される。
【0049】
第1導体除去部34は、回路基板3の金属導体を取り除くことによって形成されている。従って、第1導体除去部34の部分には、回路基板3の基材(ガラス、エポキシ等)のみが残されている。第1導体除去部34は、第1凹部4の開口部4aと同じ形状を有する。即ち、回路基板3の第1面31のうち、第1金属ブロック1の上に回路基板3を配置した状態(
図1を参照)で第1凹部4に対面する部分において、金属導体が除去されている。
【0050】
入力導体部35及び出力導体部36は、金属導体箔から構成され、回路基板3の互いに対向する両辺のそれぞれから、中央部に向かって延びるように細長く形成されている。入力導体部35及び出力導体部36のそれぞれにおいて、共振空間Sに入っている部分の先端部は、上記のトンネル部から遠ざかる向きに短く垂直に折り曲げられている。
【0051】
入力導体部35と出力導体部36とは、回路基板3の厚み方向で見た場合、
図2に示す回路基板3の中心線L1に関して線対称になっている。入力導体部35及び出力導体部36は、先端が開放され、後述の第2導体除去部37の内部に延びている。回路基板3の第2面32に形成された当該入力導体部35及び出力導体部36のそれぞれと、第1面31に形成されたグランド部33と、からマイクロストリップ線路構造が構成されている。
【0052】
入力導体部35及び出力導体部36が第2導体除去部37の内部に延びている部分(即ち、共振空間S内に挿入された部分)の長さは、所望の通過周波数帯域に基づいて設定されている。本実施形態では、入力導体部35及び出力導体部36が上記のとおり折り曲げられているが、先端が折り曲げられない直線状に形成されても良い。
【0053】
第2導体除去部37は、回路基板3の金属導体を取り除くことによって形成されている。従って、第2導体除去部37の部分には、回路基板3の基材(ガラス、エポキシ等)のみが残されている。第2導体除去部37は、第2凹部5の開口部5aと同じ形状を有する。即ち、回路基板3に対して第2金属ブロック2を配置した状態(
図1を参照)において、当該回路基板3の第2面32には、第2凹部5に対面する部分の金属導体が除去されている。なお、第1切欠部21及び第2切欠部22と対面する部分においても、第2面32の金属導体が除去されている。
【0054】
図4に示すように、第1金属ブロック1の第1凹部4が形成されている面と、第2金属ブロック2の第2凹部5が形成されている面と、で回路基板3が厚み方向で挟み込まれた状態で、図略のネジ止め構造によって固定することで、本実施形態の導波管型フィルタ100が構成される。
【0055】
溝部41,42,51,52の幅及び長さを、所望の通過帯域に基づいて適切に設定することで、共振モードがTE01モードである共振器を容易に構成することができる。この場合、本実施形態の導波管型フィルタ100は、
図3に示す、TE01モードの2つの共振器をトーナメント状に組み合せたフィルタに相当し、良好なフィルタ特性を実現することができる。
【0056】
また、第1凹部4の深さH1と第2凹部5の深さH2とを異ならせることで、
図5に示すように、磁界による電界の最大点Emaxを回路基板3から離すことができる。従って、電界による回路基板3への影響を回避することができ、損失の低減を実現できる。
【0057】
そして、回路基板3の厚みや基材等を変更しても、第1金属ブロック1及び第2金属ブロック2を流用することができるので、汎用性に優れている。
【0058】
本実施形態の回路基板3の第2面32には、
図2に示すようにシールド部30が形成されている。シールド部30は、回路基板3を構成する金属導体を露出するように形成されている。このシールド部30の形状は、第2金属ブロック2において回路基板3と対向する面の形状と同じである。シールド部30の内部には第2導体除去部37が形成されている。第2導体除去部37によって、入力導体部35及び出力導体部36がシールド部30と電気的に短絡しないようにすることができる。
【0059】
シールド部30は、
図1に示す状態において、第2金属ブロック2と回路基板3とが接触する部分に形成される。これにより、第2金属ブロック2と回路基板3との接続部からの漏洩波を低減することができる。
【0060】
本実施形態の導波管型フィルタ100は、回路基板3の厚み方向両側の空間を利用して対の共振器を構成することによって、低ロスかつ急峻なフィルタ特性を得ることができ、フィルタの小型化を実現できている。なお、本実施形態の構成についてはシミュレーション結果が得られていないが、概ね、後述の第2実施形態(
図9)と同等の結果が得られるものと考えられる。
【0061】
以上に説明したように、本実施形態の導波管型フィルタ100は、第1金属ブロック1と、第2金属ブロック2と、回路基板3と、を備える。第1金属ブロック1には、第1凹部4が形成されている。第2金属ブロック2には、第1金属ブロック1と開口形状が同じ第2凹部5が形成されている。回路基板3は、第1金属ブロック1の第1凹部4が形成されている面と、第2金属ブロック2の第2凹部5が形成されている面と、で挟み込まれる。第1凹部4及び第2凹部5はそれぞれ、回路基板3に平行な方向に接続される1対の溝部を含んでいる。第1凹部4と第2凹部5とから電磁波の共振空間Sを有する導波路を構成する。回路基板3には、共振空間S内に挿入される入力導体部35及び出力導体部36と、第1凹部4と対面する第1導体除去部と、第2凹部5と対面する第2導体除去部37と、が形成されている。
【0062】
これにより、回路基板3の厚み方向両側の空間を利用して、高いQ値の導波管型共振器を構成でき、小型かつ広帯域で低ロスのフィルタを実現することができる。
【0063】
次に、第2実施形態を説明する。
図6は、第2実施形態の導波管型フィルタ100xの構成を示す分解斜視図である。
図7は、第2実施形態の回路基板3xの貫通部38,39を示す図である。
図8は、第2実施形態の導波管型フィルタ100xの溝部41の長手方向に沿って切った断面形状を示す概略図である。
図9は、第2実施形態の導波管型フィルタ100xのシミュレーション結果を示すグラフである。なお、本実施形態の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0064】
図6に示す本実施形態の導波管型フィルタ100xにおいて、第1金属ブロック1x及び第2金属ブロック2xのそれぞれには、第1凹部4xと第2凹部5xが互いに等しい深さで形成されている。
【0065】
そして、本実施形態の回路基板3xには、
図6及び
図7に示すように、第1導体除去部34及び第2導体除去部37のうち一部に、回路基板3を厚み方向に貫通する貫通部38,39が形成されている。
【0066】
貫通部38は、溝部41,51の長手方向中央部に対応する部分に矩形状に形成されている。貫通部39は、溝部42,52の長手方向中央部に対応する部分に矩形状に形成されている。貫通部38は、溝部41,51と同じ幅を有し、当該2つの溝部41,51を接続している。貫通部39は、溝部42,52と同じ幅を有し、当該2つの溝部42,52を接続している。2つの貫通部38,39は、
図6に示す回路基板3の中心線L1に関して線対称になっている。そして、貫通部38,39はそれぞれ、
図7に示すように、所望の通過周波数の波長λの8分の1の長さを有するように形成されている。
【0067】
このように、貫通部38,39を形成することで、回路基板3が、
図8に示す磁界による電界の最大点Emax(即ち、電界の強い部分)による影響を受けることを回避できるので、回路基板3の誘電正接による損失を低減することができ、導波管型フィルタ100xの低ロスを図ることができる。
図9のグラフには、本実施形態の導波管型フィルタ100xについて本願発明者が行ったシミュレーション実験の結果が示されている。
図9に示す周波数特性から、導波管型フィルタ100xは、通過帯域以外の周波数に対する急峻な減衰特性と、通過帯域周波数でのロスが低い特性と、の両方を実現できていることがわかる。
【0068】
次に、
図10を参照して、上記実施形態の変形例を説明する。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0069】
図10(a)及び
図10(b)は、第1凹部4の開口形状の変形例をそれぞれ示している。なお、第2凹部5の開口形状は、第1凹部4の開口形状と同一であるので、説明を省略する。
【0070】
図10に示す2つの変形例の何れにおいても、第1凹部4y,4zの開口形状は、メアンダ状となっている。即ち、第1凹部4y,4zを構成する2つの溝部41,42が、メアンダ状に形成されている。これにより、溝部の長手方向における寸法を小さくすることができ、一層の小型化を図ることができる。
【0071】
なお、
図10(b)に示すように2つの溝部41,42の間にネジ孔9を配置し、それぞれの溝部41,42を互いに線対称なメアンダ形状とし、それぞれの溝部41,42のメアンダ形状がネジ孔9を迂回するように配置することで、コンパクトな共振空間Sを構成する一方、回路基板3を第1金属ブロック1(第2金属ブロック2)に固定するためのネジ孔9を設けるスペースを容易に確保することができる。
【0072】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0073】
第1凹部4及び第2凹部5をそれぞれ複数形成することで、2つの共振空間Sからなるフィルタ段を複数有する構成とし、当該フィルタ段同士を接続する構成とすることもできる。この場合、多段接続により、一層急峻な減衰特性を得ることができる。これを構成する一例としては、
図1等に示す第1金属ブロック1及び第2金属ブロック2をそれぞれ複数用意して、相互に接続することが考えられる。また、第1金属ブロック1及び第2金属ブロック2の1つずつからなる組合せの中に、複数のフィルタ段(複数対の共振空間S)を配置しても良い。
【0074】
第1凹部4及び第2凹部5の全部又は一部(例えば、電界が集中する中央部)に、適宜の誘電体を充填することができる。この場合、導波管型フィルタ100,100xの一層の小型化を実現することができる。
【0075】
溝部41,42又は溝部51,52が、その長手方向に並べて配置されても良い。この場合、構成するフィルタが細長くなる。フィルタの性能及び配置スペースに応じて、溝部41,42及び溝部51,52の配置を適宜変更することができる。
【0076】
貫通部38,39は、第1導体除去部34及び第2導体除去部37の全体にわたって形成されても良い。即ち、貫通部38,39は第1導体除去部34及び第2導体除去部37と同じ形状に形成されても良い。
【0077】
回路基板3は、1mm以上の厚さの基板を用いることもできる。しかし、漏洩波の低減を実現する観点からは、薄い基板を使用することが好ましい。
【符号の説明】
【0078】
1 第1金属ブロック
2 第2金属ブロック
3 回路基板
4 第1凹部
5 第2凹部
34 第1導体除去部
35 入力導体部
36 出力導体部
37 第2導体除去部
100 導波管型フィルタ(帯域通過フィルタ)
S 共振空間