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特許7360780プレスおよび焼結および積層造形のための冶金組成物
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  • 特許-プレスおよび焼結および積層造形のための冶金組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】プレスおよび焼結および積層造形のための冶金組成物
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231005BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20231005BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20231005BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231005BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231005BHJP
【FI】
C22C38/00 304
B22F1/14 200
B22F10/28
B22F9/08 A
B22F1/00 U
B22F1/14 400
B33Y70/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021542232
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 US2020021629
(87)【国際公開番号】W WO2020185641
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】62/818,193
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521320863
【氏名又は名称】ヘーゲナス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】シェイド、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ホーベイ、ケリー
(72)【発明者】
【氏名】ホーゲス、サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル、フィリップ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-142868(JP,A)
【文献】特開平08-049047(JP,A)
【文献】特開2007-100115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0255398(US,A1)
【文献】特開2012-122127(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102101174(CN,A)
【文献】特表2010-500471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
B22F 1/14
B22F 10/28
B22F 9/08
B22F 1/00
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形のための鉄ベースの冶金粉末組成物であって、前記組成物は、ベース要素としての鉄と、
前記組成物の重量に基づいて0.01~0.65重量%の炭素;
前記組成物の重量に基づいて1~2.0重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて0.25~2.0重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて0.25~2.0重量%のケイ素;および
前記組成物の重量に基づいて0.05~0.6重量%のバナジウム
の合金元素とを有し、
前記鉄ベースの冶金粉末組成物は、前記組成物の重量に基づいて、2重量%未満の残留元素またはその酸化物を有し、
前記ベース要素としての鉄と前記合金元素は完全に合金化されている、
鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項2】
積層造形のための鉄ベースの冶金粉末組成物であって、前記組成物は
(i)鉄と炭素の合金の粒子であって、前記鉄はベース要素であり、および、前記炭素は前記組成物の重量に基づいて0.01~0.65重量%の量で前記合金に存在するものである、鉄と炭素の合金の粒子と、
(ii)前記冶金粉末組成物が、
前記組成物の重量に基づいて1~2.0重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて0.25~2.0重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて0.25~2.0重量%のケイ素;および
前記組成物の重量に基づいて0.05~0.6重量%のバナジウム
を含むように、前記鉄と炭素の合金粒子に拡散結合した、モリブデン、マンガン、ケイ素およびバナジウムの合金化粒子と
を有し、
前記鉄ベースの冶金粉末組成物は、前記組成物の重量に基づいて、2重量%未満の残留元素またはその酸化物を有する、
鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項3】
積層造形のための鉄ベースの冶金粉末組成物であって、前記組成物は
(i)鉄、炭素、およびモリブデンの合金の粒子であって、前記鉄はベース要素であり、前記モリブデンは前記組成物の重量に基づいて1~2.0重量%の量で前記合金に存在するものであり、および、前記炭素は前記組成物の重量に基づいて0.01~0.65重量%の量で前記合金に存在するものである、鉄、炭素およびモリブデンの合金の粒子と、 (ii)前記冶金粉末組成物が、
前記組成物の重量に基づいて0.25~2.0重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて0.25~2.0重量%のケイ素;および
前記組成物の重量に基づいて0.05~0.6重量%のバナジウム
を含むように、前記鉄、炭素、およびモリブデンの合金粒子に拡散結合した、マンガン、ケイ素およびバナジウムの合金化粒子と
を有し、
前記鉄ベースの冶金粉末組成物は、前記組成物の重量に基づいて、2重量%未満の残留元素またはその酸化物を有する、
鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記組成物の重量に基づいて0.001~1重量%の残留元素またはその酸化物を有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記組成物の重量に基づいて0.05~0.6重量%炭素を有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記組成物の重量に基づいて1.1~1.5重量%のモリブデンを有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記組成物の重量に基づいて0.8~1.4重量%のマンガンを有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記組成物の重量に基づいて0.8~1.4重量%のケイ素を有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記組成物の重量に基づいて0.08~0.25重量%のバナジウムを有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物であって、前記組成物は、
前記組成物の重量に基づいて0.05~0.54重量%の炭素;
前記組成物の重量に基づいて1.26~1.4重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて0.93~1.25重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて0.93~1.15重量%のケイ素;および、
前記組成物の重量に基づいて0.12~0.2重量%のバナジウム
を有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金粉末組成物であって、前記組成物は、
前記組成物の重量に基づいて0.1~0.65重量%の炭素;
前記組成物の重量に基づいて1~1.6重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて0.75~1.5重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて0.75~1.5重量%のケイ素;および
前記組成物の重量に基づいて0.05~0.3重量%のバナジウム
を有する、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項12】
請求項1記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記ベース要素としての鉄は、前記組成物の重量に基づいて1.0重量%以下の通常の不純物を含む、鉄ベースの粉末冶金組成物。
【請求項13】
請求項2記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記合金化粒子は、前記組成物の重量に基づいて1.0重量%以下の通常の不純物を含む、モリブデン、マンガン、ケイ素、およびバナジウムの個々の元素粉末である、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【請求項14】
請求項3記載の鉄ベースの冶金粉末組成物において、前記合金化粒子は、前記組成物の重量に基づいて1.0重量%以下の通常の不純物を含む、マンガン、ケイ素、およびバナジウムの個々の元素粉末である、鉄ベースの冶金粉末組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2019年3月14日に出願された米国仮特許出願第62/818,193号の35 U.S.C.§119(e)に基づく利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
本開示は、鉄ベースの冶金組成物およびその調製および使用方法に関し、特に、プレスおよび焼結用途および積層造形法で使用できる鉄ベースの粉末組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
鉄ベースの粒子は、古くから圧縮金属部品の調製や最近では積層造形(AM)に使用される基材として使用されてきた。
【0004】
必要とされているのは、高強度、高延性の金属を提供するために、積層造形および/または従来のプレスおよび焼結用途の両方で使用できる鉄ベースの組成物である。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第2012/138527号
(特許文献2) 米国特許第10,351,938号明細書
(非特許文献)
(非特許文献1) (ZUBACK,JS et al.) The Hardness of Additively Manufactured Alloys,Materials.2018,11; 23 October 2018; page 1, first paragraph; page 2,fifth paragraph; page 10,first paragraph
【発明の概要】
【0005】
本開示は、鉄と、組成物の重量に基づいて約0.01~約0.65重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1~約2.0重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.05~約0.6重量%のバナジウムの合金元素を有する鉄ベースの冶金組成物を提供する。いくつかの実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、粉末冶金組成物である。
【0006】
より好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、合金元素として、組成物の重量に基づいて約0.05~約0.54重量%の炭素、組成物の重量に基づいて約1.26~約1.4重量%のモリブデン、組成物の重量に基づいて約0.93~約1.25重量%のマンガン、組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のケイ素、および組成物の重量に基づいて約0.12~約0.2重量%のバナジウムを有する。
【0007】
本開示はさらに、本明細書に記載された鉄ベースの冶金粉末組成物から作られたプレスおよび焼結された金属部品を提供する。
【0008】
また、本開示は、本明細書に記載されている鉄ベースの金属粉末組成物を用いて、積層造形により製造された金属部品を提供する。
【0009】
本開示はさらに、上述のような冶金粉末組成物、好ましくは冶金粉末組成物が上述の1つ以上の合金元素と拡散結合した鉄粒子からなる組成物から金属部品を積層造形する方法を提供する。
【0010】
また、本開示は、冶金粉末組成物から金属部品を積層造形する方法を提供し、前記冶金粉末組成物は、鉄と、組成物の重量に基づいて約0.1~約0.65重量%の炭素、組成物の重量に基づいて約1~約1.6重量%のモリブデン、約0.75~約1.5重量%のマンガン、約0.75~約1.5重量%のケイ素、および組成物の重量に基づいて約0.05~約0.3重量%のバナジウムの合金元素を有する。ここにおいて、前記組成物中に存在するモリブデンの少なくとも一部は、鉄/モリブデン粒子の形態で鉄とプレアロイ化されている。好ましくは、この粉末組成物は、合金元素の粒子が拡散結合された鉄/モリブデン粒子の形態である。
【0011】
本発明の他の態様および実施形態は、以下の発明の詳細な説明から容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本出願は、添付の図面と併せて読むことでさらに理解される。主題を説明する目的で、図面には主題の例示的な実施形態が示されているが、現在開示されている主題は、開示されている特定の組成物、方法、装置、およびシステムに限定されない。加えて、図面は必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。
【0013】
図1図1は、微細な組織を示す実施例1の合金の画像である。
図2図2は、実施例1の合金よりも粗い構造を示す20MnCr5合金の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示では、単数形の「a」、「an」および「the」は、複数形の参照を含み、特定の数値への参照は、文脈が明らかに他を示さない限り、少なくともその特定の数値を含む。したがって、例えば、「材料」("a material")への言及は、当業者に知られているそのような材料およびその同等物の少なくとも1つへの言及などである。
【0015】
ある値が「約」という記述を用いて近似値として表現されている場合、その特定の値が別の実施形態を形成していることが理解されるであろう。一般的に、「約」という言葉の使用は、開示された主題によって得られようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値を示し、その機能に基づいて、使用される特定の文脈で解釈されるべきである。存在する場合、すべての範囲は包括的で組み合わせ可能である。すなわち、範囲に記載された値への言及は、その範囲内のすべての値を含む。
【0016】
本明細書では、明確にするために個別の実施形態の文脈で説明している本発明の特定の特徴は、単一の実施形態で組み合わせて提供することもできることを理解していただきたい。すなわち、明らかに互換性がない、または除外されない限り、個々の実施形態は、他の実施形態(複数可)と組み合わせ可能であるとみなされ、そのような組み合わせは、別の実施形態であるとみなされる。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で説明されている本発明の様々な特徴は、別個に、または任意のサブコンビネーションで提供することもできる。さらに、特許請求の範囲は、任意の要素を除外するように起草することができることに留意されたい。したがって、この記載は、請求項の要素の列挙に関連して「単独」、「のみ」などの排他的な用語を使用する、または「否定的な」制限を使用するための先行する基礎として機能することを目的としている。最後に、ある実施形態が一連の工程の一部またはより一般的な構造の一部として記述されることがあるが、各前記工程はそれ自体が独立した実施形態であると考えることもできる。
【0017】
したがって、本開示は、鉄および1つ以上の合金元素を有する、鉄ベースの冶金組成物を提供する。いくつかの実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、微細に分割されたベース鉄粒子および個々の合金元素の粒子の形態である。いくつかの実施形態では、ベース鉄粒子は、1つ以上の合金元素でプレアロイ化された鉄から作られる。さらなる実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、完全に合金化されている。さらにさらなる実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、部分的に合金化されている。他の実施形態では、ベース鉄粒子は、元素の合金化粉末と拡散結合されている。さらなる実施形態では、ベース鉄粒子は、元素合金粉末の少なくともいくつかと拡散結合している。さらなる実施形態では、ベース鉄粒子の少なくとも一部は、元素合金化粉末と拡散結合している。さらに他の実施形態では、さらなる実施形態では、ベース鉄粒子の少なくともいくつかは、元素合金粉末の少なくともいくつかと拡散結合している。
【0018】
本明細書では、「鉄ベースの粉末組成物」という用語は、鉄が粉末のベース(「ベース鉄」)および主要成分を形成する鉄ベースの粉末を指す。いくつかの実施形態では、鉄がベース要素である。ベース鉄は、純粋または実質的に純粋な鉄、または少なくとも1つの合金元素とプレアロイ化された鉄の粉末または粒子の形態であり得る。本明細書で開示される鉄ベースの粉末組成物において、鉄またはプレアロイ化された鉄の粒子は、他の合金元素の粉末と組み合わされて、上記段落[0003]のような最終組成物を提供する。鉄またはプレアロイ鉄の粒子は、ガスアトマイズまたは水アトマイズによって調製することができる。
【0019】
本明細書で使用される「純鉄」(または「純鉄粒子」)とは、通常の不純物を約0.01重量%以下含む鉄のことである。
【0020】
本明細書で使用される「実質的に純粋な鉄」(または「実質的に純粋な鉄粒子」)とは、通常の不純物を約1.0重量%以下、好ましくは約0.5重量%以下含む鉄を指す。実質的に純粋な鉄の例は、圧縮性の高い冶金グレードの鉄粉を含む。実質的に純粋な鉄粉の具体例には、以下のような純鉄粉のANCORSTEEL(登録商標)1000シリーズが含まれ、そこに記されている重量%は組成物の総重量を基準としている:
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.14重量%未満の酸素、約0.002重量%の窒素、約0.018重量%の硫黄、約0.009重量%のリン、約0.01重量%未満のケイ素、約0.2重量%のマンガン、約0.07重量%のクロム、約0.10重量%の銅、および約0.08重量%のニッケルを有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)1000」としても知られる);
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.09重量%の酸素、約0.001重量%のニッケル、約0.009重量%の硫黄、約0.005重量%のリン、約0.01重量%未満のケイ素、約0.10重量%のマンガン、約0.03重量%のクロム、約0.05重量%の銅、および約0.05重量%のニッケルを有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)1000B」としても知られる);
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.07重量%の酸素、約0.001重量%の窒素、約0.007重量%の硫黄、約0.004重量%のリン、約0.01重量%未満のケイ素、約0.07重量%のマンガン、約0.02重量%のクロム、約0.03重量%の銅、約0.04重量%のニッケルを有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)1000C」としても知られる);
●鉄と、約0.01重量%の炭素、約0.02重量%のケイ素、約0.15重量%の酸素、約0.015重量%の硫黄を有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)AMH」としても知られる);
●鉄と、約0.01重量%の炭素、約0.02重量%のケイ素、約0.15重量%の酸素、および約0.015重量%の硫黄を有する組成物(「ANCOURSTEEL(登録商標)DWP200」としても知られる)、または、
【0021】
本明細書で使用できる他の実質的に純粋な鉄粉には、海綿状の鉄粉、例えば、鉄と約0.02重量%の二酸化ケイ素、約0.01重量%の炭素、約0.009重量%の硫黄、および約0.01重量%のリンを有する組成物(ANCOUR MH-100粉末としても知られる)がある。
【0022】
本明細書で使用される「合金」または「プレアロイ」という用語は、金属、典型的には本発明のように鉄を、1つ以上の合金元素と組み合わせて新しい金属物質を生成することを意味する。合金は、当技術分野で理解されているように調製することができる。合金を調製する典型的な方法は、鉄などの金属と合金元素を溶融するまで加熱することである。混合した後に凝固させると、合金が得られる。ANCORSTEEL(登録商標)の低合金鋼粉は、実質的に純鉄であり、低レベルの合金成分を含んでいる。このような低合金鋼粉には、限定されるものではないが、以下のようなもの含まれる;
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.35重量%のモリブデン、約0.15重量%のマンガン、および約0.13重量%の酸素を有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)30HP」としても知られる)、
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.18重量%のマンガン、約0.50重量%のモリブデン、約0.09重量%の酸素を有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)50HP」としても知られる)、
●鉄と約0.01重量%未満の炭素、約0.12重量%のマンガン、約0.86重量%のモリブデン、および約0.08重量%の酸素を有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)85HP」としても知られる)、
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.12重量%のマンガン、約1.5重量%のモリブデン、および約0.08重量%の酸素を有する組成物(「ANCORSTEEL(登録商標)150HP」としても知られる)、
●鉄と、約0.01重量%未満の炭素、約0.61重量%のモリブデン、約0.46重量%のニッケル、約0.25重量%のマンガン、および約0.13重量%の酸素を有する組成物(ANCORSTEEL(登録商標)2000としても知られる)、および、
●鉄と、約0.01重量%の炭素、約0.56重量%のモリブデン、約1.83重量%のニッケル、約0.15重量%のマンガン、約0.13重量%の酸素を有する組成物(ANCORSTEEL(登録商標)4600Vとしても知られる)。
【0023】
その他のプレアロイ鉄ベースの粉末は、以下のようなANCOUR AM(登録商標)粉末を含む:
●ANCOR AM(登録商標)17-4PH(鉄と、約15.4重量%のクロム、約0.3重量%のケイ素、約0.4重量%のマンガン、約4.5重量%のニッケル、約3.2重量%の銅、約0.2重量%のニオブ/タンタル、約0.15重量%の炭素、約0.02重量%の硫黄、約0.1重量%の酸素、および約0.5重量%の窒素を有する)、
●ANCOR AM(登録商標)316L(鉄と約16.5重量%のクロム、約0.45重量%のケイ素、約1.2重量%のマンガン、約11重量%のニッケル、約2.2重量%のモリブデン、約0.1重量%の炭素、約0.3重量%の硫黄、約0.07重量%の酸素、および約0.1重量%の窒素を有する)、
●ANCOR AM(登録商標)IN625(鉄と約60.4重量%のニッケル、約21.9重量%のクロム、約9.4重量%のモリブデン、約0.45重量%のアルミニウム、約3.9重量%のニオブ、約1.1重量%の酸素、約0.02重量%の炭素、および約0.06重量%の窒素を有する)、または、
●ANCOR AM(登録商標)IN718(鉄と約53.8重量%のニッケル、約18.5重量%のクロム、約0.5重量%のアルミニウム、約5重量%のニオブ、約1重量%のチタン、約3重量%のモリブデン、約170.03重量%の炭素、約0.001重量%の硫黄、約0.03重量%の酸素、および約0.04重量%の窒素を有する)粉末。
●ANCOR AM(登録商標)4605(鉄と約0.46重量%の炭素、約0.34重量%の酸素、約0.03重量%の硫黄、約0.01重量%の窒素、約1.9重量%のニッケル、約0.4重量%のモリブデン、および約0.1重量%のケイ素を有する)。
【0024】
また、鉄ベースの粉末には、粉末冶金法で作られた工具鋼も含まれる。
【0025】
本明細書で使用される「合金化粒子」という用語は、1つ以上の合金化元素を含む冶金粉末粒子を指す。いくつかの実施形態では、合金化粒子は、純粋な元素金属(例えば、フレークまたは粉末)からなる。他の実施形態では、粒子は、鉄とプレアロイ化された1つ以上の元素金属からなる。合金元素は、一般に、粉末または粉末から調製された製品の1つ以上の特性を高めるために選択される。本発明の組成物に組み込まれる合金元素は、粉末冶金法によって製造される物品の機械的特性、耐食性、強度、硬化性、または他の望ましい特性を高めるために、粉末冶金業界で知られているものである。鉄とプレアロイ化できる合金元素の例としては、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、グラファイトなどの炭素(C)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、リン(P)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)など、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。合金元素の配合量は、最終的な金属部品に求められる特性に応じて決定される。このような合金元素を組み込んだプレアロイ鉄粉は、ANCORSTEEL(登録商標)シリーズの粉体である。いくつかの実施形態では、鉄ベースの粉末は、モリブデン(Mo)とプレアロイ化された鉄、すなわちFe-Moプレアロイ、または銅(Cuとプレアロイ化された鉄)、すなわちFe-Cuプレアロイである。他の実施形態では、鉄ベースの粉末は、2つの異なるプレアロイの鉄ベースの粉末の混和物を含む。したがって、本発明の実施において、合金元素は、個々の合金元素の粒子もしくは粉末、または合金元素と鉄とのプレアロイの形態で、組成物に組み込むことができる。いくつかの実施形態では、拡散合金化粉末は、鉄と、約1.75重量%のニッケル、約0.5重量%のモリブデン、約1.5重量%の銅、約0.01重量%未満の炭素、および約0.13重量%の酸素を有する組成物(ANCORSTEEL FD-4800Aとしても知られる)、または鉄と約4重量%のニッケル、約0.5重量%のモリブデン、約1.5重量%の銅、約0.01重量%未満の炭素、および約0.13重量%の酸素を有する組成物、すなわちFe-1.5%Moプレアロイ(ANCORSTEEL FLD-49DHとしても知られる)である。
【0026】
プレアロイ粉末は、鉄と1つ以上の合金元素の融液を作り、その融液をアトマイズし、アトマイズされた液滴が固化して粉末を形成することで調製できる。いくつかの実施形態では、アトマイズは、不活性ガス噴射が粒子をアトマイズするガスアトマイズを用いて行われる。他の実施形態では、アトマイズは水アトマイズを用いて行われ、それによって溶融金属は水の噴射に衝突する。
【0027】
ある実施形態では、鉄ベースの粉末組成物は、選択された合金元素の別個の粒子と組み合わせたベース鉄粒子で形成されてもよい。このような組成物は、一般に、偏析を抑制し、発塵を低減するように冶金粉末組成物中に存在する異なる成分を結合するための1つ以上の結合剤を含む。本明細書で使用する「結合」とは、冶金粉末組成物の成分の接着を容易にする任意の物理的または化学的方法を意味する。結合剤は、当業者に知られている技術を用いて冶金粉末組成物に添加される。適切な結合剤は、Lindsleyらの米国特許第7,527,667号に開示されている。
【0028】
また、鉄ベースの粉末組成物は、実質的に純粋な鉄またはプレアロイの鉄のベース粒子が、少なくとも1つのさらなる合金元素を含む粒子と拡散結合したものであってもよく、この合金元素は、ベース粒子にプレアロイされた元素と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、ベース鉄粒子の少なくとも一部は、少なくとも1つのさらなる合金元素を含む粒子と拡散結合している。いくつかの実施形態では、ベース鉄粒子の少なくとも一部は、少なくとも1つのさらなる合金元素を含む粒子の一部と拡散接合されている。拡散接合により、ベース鉄粒子の外表面に拡散した合金元素の層またはコーティングが提供される。拡散接合技術は当技術分野で知られており、米国特許第4,238,221号およびASM Handbook, Volume 7, Powder Metallurgy, 2015に記載されているものを含み、これらはいずれも参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、拡散接合は、圧力および熱を用いて行われる。最終的な合金金属は、プレスおよび焼結法や積層造形プロセスなど、最終的な金属部品を作る際に使用する間にその場で生成される。好ましい拡散接合組成物は、鉄の粒子に上述の割合で合金元素C、V、Si、Mo、Mnを拡散接合させたものである。より好ましくは、組成物の合金元素、例えば、モリブデンの少なくとも一部は、鉄とプレアロイ化されて、鉄/モリブデン粒子を形成する。最も好ましい実施形態では、組成物の合金元素、例えばモリブデンの全てがプレアロイ化によって存在し、実質的に合金元素、例えばモリブデンが元素粒子の形で粉末組成物中に存在しないようにする。さらに他の好ましい実施形態では、マンガン、ケイ素、炭素、バナジウム、および鉄とプレアロイ化されていないモリブデンは、鉄/モリブデン粒子に拡散結合した元素粒子の形で存在する。
【0029】
本明細書で使用される「積層造形」という用語は、粉末冶金組成物を用いて金属部品を準備する方法を意味する。当業者であれば、積層造形で利用される技術を理解できるだろう。例えば、Milewski, "Additive Manufacturing of Metals," 1st Ed., XXVI, Springer, 2017;"Laser-Based Additive Manufacturing of Metal Parts:Modeling, Optimization, and Control of Mechanical Properties",Bianら,CRC Press, 2017; "Additive Manufacturing Technologies, 3D Printing, Rapid Prototyping, and Direct Digital Manufacturing",Gibsonら,Springer ,2015; および"Additive Manufacturing:3D Printing for Prototyping and Manufacturing" ,Gebhardt、Carl Hanser Verlag GmbH & Company KG ,2016を参照、これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、積層造形は、粉末金属の層がレーザーによって溶融される前にプレート上に順次広げられる粉末床融合を用いて行われる。溶融していない粉末は、任意に、順次の各層を広げる前に除去される。いくつかの実施形態では、このような方法は、1つのレーザー、複数のレーザー、または電子ビームを使用して、層を選択的に溶融する。そのようなシステムの例には、限定されないが、直接金属レーザー焼結、直接金属レーザー溶融、および電子ビーム溶融が含まれる。他の実施形態では、積層造形はバインダージェット積層造形である。当業者に知られているように、バインダージェット積層造形は、通常は液体の形態をした結合剤を使用して、粉末層間の接着剤として作用させることからなる。通常、プリントヘッドは水平方向に移動し、造形材料と結合材料を交互に積層する。
【0030】
本出願人は、拡散結合した粉末で構成された粉末組成物を用いた積層造形は、強い高密度部品を形成するのに特に効率的であることを見出した。好ましいのは、鉄ベースの粒子が少なくとも1つの合金元素で拡散結合された組成物である。より好ましいのは、2つ以上の合金元素を含む組成物であり、特に、少なくとも1つの他の合金元素が拡散接合されたプレアロイの鉄粒子からなる組成物である。最も好ましいのは、合金材料が炭素、ケイ素、バナジウム、マンガン、およびモリブデンからなり、モリブデンの少なくとも一部がベースの鉄粒子に予め合金化されている、本明細書に記載の組成物である。鉄/モリブデンプレアロイ粉の例は、ANCORSTEEL HP粉末などの0.35~1.5重量%のモリブデンを含むものである。この目的のために特に好ましいのは、ANCORSTEEL 150HPなどの約1.5重量%のモリブデンを含むプレアロイである。
【0031】
本発明の冶金粉末組成物は、1ミクロン以下、または最大で約200ミクロン、好ましくは約1~約150ミクロンの体積平均粒径を有することができる。さらなる実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、約1~約100ミクロンである。他の実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、約1~約75ミクロンである。さらに他の実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、約1~約50ミクロンである。さらに他の実施形態では、冶金粉体組成物の体積平均粒径は、約25~約150である。さらなる実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、約150ミクロン未満である。さらに他の実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、組成物がバインダージェットで使用される場合に好ましくは、約1~約30ミクロンである。さらに別の実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、組成物がレーザー粉末床融合に使用される場合に好ましくは、約15~約75ミクロンである。他の実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、組成物が電子ビーム溶融に使用される場合に好ましくは、約45~約150ミクロンである。他のさらなる実施形態では、冶金粉末組成物の体積平均粒径は、約25~約45ミクロンである。
【0032】
いくつかの実施形態では、本開示は、鉄と、組成物の重量に基づいて約0.01~約0.65重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1~約2.0重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.05~約0.6重量%のバナジウムを有する。いくつかの実施形態では、この鉄ベースの冶金組成物は、粉末冶金組成物である。他の実施形態では、この鉄ベースの粉末冶金組成物は、前記合金元素の粒子と拡散結合している鉄の粒子を含む。さらなる実施形態では、この鉄ベースの冶金組成物は、モリブデンを含む。他の実施形態では、この鉄ベースの冶金組成物は、モリブデンを含み、モリブデンの少なくとも一部は、鉄/モリブデン粒子の形態で鉄とプレアロイ化されている。さらに他の実施形態では、この鉄ベースの冶金組成物は、鉄/モリブデンプレアロイ粒子に拡散結合されたマンガン、ケイ素、炭素、およびバナジウムの合金粉末を含む。さらに他の実施形態では、合金粉末は、それ自体が合金元素と鉄のプレアロイで構成され得る。
【0033】
鉄ベースの冶金組成物は、鉄と共に微量に一般的に見られる元素、またはその酸化物などの非常に低い残留不純物を含むことができる。本明細書で使用される用語「残留元素」は、炭素、マンガン、モリブデン、バナジウム、およびケイ素以外の1つ以上の元素を指す。より一般的な残留元素は、クロム、ニッケル、または銅である。本明細書で使用される用語「酸化物」は、残留元素が酸化されるときに形成される固体化合物を意味する。当業者であれば、本明細書で指摘した「残留元素」からどのような酸化物が形成され得るかを容易に理解できるであろう。
【0034】
望ましくは、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約2重量%未満の残留元素またはその酸化物を含む。さらなる実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約1重量%未満の残留元素またはその酸化物を有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.001~約0.5重量%の残留元素またはその酸化物を有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、残留元素またはその酸化物の組成物の重量に基づいて約0.001~約0.25重量%を有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.001~約0.1重量%の残留元素またはその酸化物を有する。
【0035】
議論されているように、本明細書に記載されている鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.01~約0.65重量%の炭素を有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.05~約0.6重量%の炭素を有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.05~約0.55重量%の炭素を有する。さらなる実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.05~約0.5重量%の炭素を有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.1~約0.25重量%の炭素を有する。
【0036】
また、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約1~約2.0重量%のモリブデンを有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約1.1~約1.7重量%のモリブデンを有する。さらなる実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約1.2~約1.5重量%のモリブデンを有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約1.25~約1.4重量%のモリブデンを有する。
【0037】
鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のマンガンをさらに有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.8~約1.4重量%のマンガンを有する。さらなる実施形態では、鉄ベースの組成物は、組成物の重量に基づいて約0.9~約1.3重量%のマンガンを有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のマンガンを有する。
【0038】
また、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のケイ素を有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.8~約1.4重量%のケイ素を有する。さらなる実施形態では、鉄ベースの組成物は、組成物の重量に基づいて約0.8~約1.3重量%のケイ素を有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの組成物は、組成物の重量に基づいて約0.9~約1.2重量%のケイ素を有する。さらに他の実施形態では、鉄ベースの組成物は、組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のケイ素を有する。
【0039】
鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.05~約0.6重量%のバナジウムをさらに有する。他の実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.08~約0.4重量%のバナジウムを有する。さらなる実施形態では、鉄ベースの冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.1~約0.25重量%のバナジウムを有する。好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.05~約0.54重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1.26~約1.4重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約0.93~約1.25重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.1~約0.25重量%のバナジウムを有する。
【0040】
さらに好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.23~約0.54重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1.26~約1.4重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約0.93~約1.25重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.12~約0.2重量%のバナジウムを有する。
【0041】
他の好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.15~約0.65重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1~約1.6重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約0.75~約1.5重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.75~約1.5重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.05~約0.3重量%のバナジウムを有する。
【0042】
さらに好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.54重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1.34重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約0.94重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.93重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.12重量%のバナジウムを有する。
【0043】
さらに他の好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.23重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1.39重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約1重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約1.02重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.14重量%のバナジウムを有する。
【0044】
さらに好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.24重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1.4重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約1.09重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約1.15重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.17重量%のバナジウムを有する。
【0045】
他の好ましい実施形態では、鉄ベースの粉末冶金組成物は、組成物の重量に基づいて約0.23重量%の炭素;組成物の重量に基づいて約1.26重量%のモリブデン;組成物の重量に基づいて約1.25重量%のマンガン;組成物の重量に基づいて約0.96重量%のケイ素;および組成物の重量に基づいて約0.2重量%のバナジウムを有する。
【0046】
また、本発明は、鉄ベースの冶金粉末の使用方法を提供する。鉄ベースの冶金粉末は、一般に、金属部品を作るために使用される。そのような使用方法の1つは、金属粉末を、一般的には型の中で圧縮して、中間の圧縮された「グリーン」部品を形成し、これを焼結して最終部品を形成する工程を有する。
【0047】
本開示はまた、本発明の鉄ベースの粉末組成物を用いて金属部品を積層造形する方法にも関する。この使用のための粉末組成物の好ましい形態は、1つ以上の合金元素と拡散結合した鉄粒子を有する。
【0048】
いくつかの実施形態では、鉄粒子は、本明細書に記載されるような実質的に純粋な鉄である。他の実施形態では、鉄粒子は、本明細書に記載の鉄プレアロイである。好ましい実施形態では、鉄粒子は、本明細書に記載の鉄-モリブデンプレアロイである鉄プレアロイである。
【0049】
積層造形方法は、本明細書に記載された冶金粉末組成物の2つ以上の逐次適用される層を形成する工程を有する。いくつかの実施形態では、層は融合によって形成される。したがって、冶金組成物の2つ以上の順次適用される層を形成する工程により、冶金粉末組成物から金属部品を付加的に製造するこれらの方法において、冶金粉末組成物が、本明細書に記載されるような1つ以上の合金元素で拡散結合されたベース鉄粒子を有するという改良点がある。いくつかの実施形態では、層は融解によって形成される。
【0050】
態様
【0051】
態様1.鉄、および
組成物の重量に基づいて約0.01~約0.65重量%の炭素;
組成物の重量に基づいて約1~約2.0重量%のモリブデン;
組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のマンガン;
組成物の重量に基づいて約0.25~約2.0重量%のケイ素;および
組成物の重量に基づいて約0.05~約0.6重量%のバナジウム
の合金元素を有する、鉄ベースの冶金組成物。
【0052】
態様2.粉末冶金組成物である、態様1の鉄ベースの冶金組成物。
【0053】
態様3.態様2記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物は、前記合金元素のうちの少なくとも1つとプレアロイ化された鉄の粒子を含む、冶金組成物。
【0054】
態様4.態様2または3記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物は、前記合金元素の少なくとも1つの粒子と拡散結合した鉄の粒子を含む、冶金組成物。
【0055】
態様5.態様4記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記鉄の粒子が、前記合金元素のそれぞれの粒子と拡散結合している、冶金組成物。
【0056】
態様6.態様2または4記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物中に存在する前記モリブデンの少なくとも一部が、鉄/モリブデン粒子の形態で前記鉄とプレアロイ化されている、冶金組成物。
【0057】
態様7.態様6記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記マンガン、ケイ素、炭素、およびバナジウムが、前記鉄/モリブデンプレアロイ粒子に拡散結合された元素粉末の形態である、冶金組成物。
【0058】
態様8.態様4記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物中に存在する前記モリブデンの少なくとも一部が、鉄/モリブデンベース粒子の形態で前記鉄とプレアロイ化され、前記マンガン、ケイ素、炭素、およびバナジウムの少なくとも1つが、ベース鉄粒子とは別の合金化粒子を形成するために鉄とプレアロイ化されている、冶金組成物。
【0059】
態様9.先行する態様のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて、約2重量%未満の残留元素またはその酸化物を有する、冶金組成物。
【0060】
態様10.態様8記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて約0.001~約1重量%、好ましくは約0.001~約0.5重量%、約0.001~約0.25重量%、または約0.001~約0.1重量%の残留元素またはその酸化物を有する、冶金組成物。
【0061】
態様11.先行する態様のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて約0.05~約0.6重量%、好ましくは約0.05~約0.58重量%、好ましくは約0.05~約0.56重量%、または好ましくは約0.05~約0.25重量%の炭素を有する、冶金組成物。
【0062】
態様12.先行する態様のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて約1.1~約1.5重量%、好ましくは約1.2~約1.4重量%、または好ましくは約1.26~約1.4重量%のモリブデンを有する、冶金組成物。
【0063】
態様13.先行する態様のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて約0.8~約1.4重量%、好ましくは約0.9~約1.3重量%、または好ましくは約0.93~約1.15重量%のマンガンを有する、冶金組成物。
【0064】
態様14.先行する態様のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて約0.8~約1.4重量%、好ましくは約0.8~約1.3重量%、好ましくは約0.9~約1.2重量%、または好ましくは約0.93~約1.15重量%のケイ素を有する、冶金組成物。
【0065】
態様15.先行する態様のいずれか1つに記載の鉄ベースの冶金組成物において、前記組成物の重量に基づいて約0.08~約0.25重量%、好ましくは約0.1~約0.25重量%、または好ましくは約0.12~約0.23重量%のバナジウムを有する、冶金組成物。
【0066】
態様16.鉄ベースの粉末冶金組成物であって、前記組成物は、
ベース鉄粒子と、合金元素として炭素、モリブデン、マンガン、ケイ素、バナジウムのうちの1つ以上を含む粒子とを有し、前記組成物は、
前記組成物の重量に基づいて約0.05~約0.54重量%の炭素;
前記組成物の重量に基づいて約1.26~約1.4重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて約0.93~約1.25重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のケイ素;および、
前記組成物の重量に基づいて約0.12~約0.2重量%のバナジウム
を含む、粉末冶金組成物。
【0067】
態様17.態様2~16のいずれか1つに記載の鉄ベース冶金粉末組成物において、前記ベース鉄粒子が、ガスアトマイズまたは水アトマイズによって調製される、冶金粉末組成物。
【0068】
態様18.態様17記載の鉄ベースの冶金粉末組成物から作られたプレス焼結金属部品。
【0069】
態様19.態様17記載の鉄ベースの冶金粉末組成物を用いて、積層造形法により製造された金属部品。
【0070】
態様20.冶金粉末組成物から金属部品を積層造形する方法であって、前記冶金粉末組成物は、1つ以上の合金元素と拡散結合したベース鉄粒子を有し、前記方法は、前記冶金粉末組成物の2つ以上の順次適用される層を形成する工程を有する、方法。
【0071】
態様21.態様20記載の方法において、前記冶金粉末組成物の前記2つ以上の順次適用される層が、融合によって形成される、方法。
【0072】
態様22.態様20または21記載の方法において、前記鉄粒子が実質的に純粋な鉄である、方法。
【0073】
態様23.態様20または21記載の方法において、前記鉄粒子が鉄プレアロイである、方法。
【0074】
態様24.態様23記載の方法において、前記鉄プレアロイが、ガスアトマイズまたは水アトマイズを用いて調製される、方法。
【0075】
態様25.態様23または24記載の方法において、前記鉄プレアロイが、鉄-モリブデンプレアロイである、方法。
【0076】
態様26.冶金粉末組成物から金属部品を積層造形する方法であって、前記冶金粉末組成物は、鉄、および、
前記組成物の重量に基づいて約0.1~約0.65重量%の炭素;
前記組成物の重量に基づいて約1~約1.6重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて約0.75~約1.5重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて約0.75~約1.5重量%のケイ素;および
前記組成物の重量に基づいて約0.05~約0.3重量%のバナジウム
の合金元素を有し、
前記組成物中に存在する前記モリブデンの少なくとも一部が、鉄/モリブデン粒子の形態で鉄とプレアロイ化されている、方法。
【0077】
態様27.態様26記載の方法において、前記マンガン、ケイ素、炭素、バナジウム、および鉄とプレアロイ化されていないモリブデンが、鉄/モリブデン粒子に拡散結合された元素粒子の形態である、方法。
【0078】
態様28.鉄ベースの粉末冶金組成物であって、前記組成物は、
モリブデンでプレアロイ化された鉄のベース鉄粒子と、合金元素として炭素、マンガン、ケイ素、バナジウムのうち1つ以上を含む粒子とを有し、
前記組成物は、
前記組成物の重量に基づいて約0.05~約0.54重量%の炭素;
前記組成物の重量に基づいて約1.26~約1.4重量%のモリブデン;
前記組成物の重量に基づいて約0.93~約1.25重量%のマンガン;
前記組成物の重量に基づいて約0.93~約1.15重量%のケイ素;および
前記組成物の重量に基づいて約0.12~約0.2重量%のバナジウム
を含む、粉末冶金組成物。
【0079】
態様29.態様16または態様28記載の粉末組成物において、前記合金化粒子が、個々の合金元素の実質的に純粋な粉末である、粉末組成物。
【0080】
30.態様28または29記載の粉末組成物において、前記合金化粒子は、前記ベース鉄粒子に拡散結合している、粉末組成物。
【0081】
態様31.態様16または態様28記載の粉末組成物において、前記合金化元素の少なくとも一部の合金化粒子が、前記元素とプレアロイ化された鉄の形態である、粉末組成物。
【0082】
態様32.態様31記載の粉末組成物において、前記合金化粒子が、前記ベース鉄粒子に拡散結合している、粉末組成物。
【0083】
態様33.冶金組成物の2つ以上の順次適用される層を融合させる工程により、前記冶金粉末組成物から金属部品を積層造形する方法において、前記冶金粉末組成物が、1つ以上の合金元素で拡散結合されたベース鉄粒子を有する、改良。
【0084】
以下の実施例は、本開示内で説明される概念のいくつかを説明するために提供される。各実施例は、組成物、調製方法、および使用の具体的な個別の実施形態を提供すると考えられるが、いずれの実施例も、本明細書に記載されたより一般的な実施形態を限定するものではないと考えられるべきである。
【0085】
実施例
以下の実施例では、特に明記しない限り、温度は摂氏、圧力は大気圧またはその近傍である。
【0086】
実施例1
鉄ベースの冶金組成物は、約1.5%のプレアロイのモリブデンを含むベース鉄と、炭素、モリブデン、マンガン、ケイ素、およびバナジウム(元素または合金鉄粉末として添加)を表1に記載された量で結合する工程によって調製された。
【表1】
【0087】
次に、各組成物の粉末を、水アトマイズと拡散合金化またはガスアトマイズを使用して製造した。水アトマイズと拡散合金化による粉体は、鉄とモリブデンを結合して水アトマイズしたものである。水アトマイズされたベース粉末に、Mn、Si、Vを含む添加物を拡散合金化し、炭素を拡散合金化して添加した。ガスアトマイズは、すべての元素を溶融状態(プレアロイ)で組み合わせ、ガスアトマイズを行った。試験金属部品の試験片は、レーザー粉末床溶融技術とEOS M290装置を使用して組成物1~3により作成された。次に、印刷された試験片は、従来の焼戻し炉で、窒素雰囲気中、表2に示す温度で1時間焼戻した。その後、当技術分野で知られている技術を用いて、試料の引張特性と硬度を測定した。表2に示すように、非常に高い強度と延性の値が得られた。表2を参照。
【表2】
【0088】
実施例2
組成物5は、鉄ベースの粉末に、ケイ素、バナジウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、クロムを表3に記載の量で配合して調製した。比較組成物であるプレアロイ鋼粉末プレアロイ20MnCr5は、Hoeganaes社から入手可能なガスアトマイズ粉末である。
【表3】
【0089】
次に、組成物5および比較組成物を用いて、実施例1に記載したように金属部品を調製した。次いで、各金属部品を、その極限引張強度(UTS)、降伏強度(YS)、延性、および硬度について試験した。表4を参照。
【表4】
【0090】
これらの結果は、組成物5から調製された金属部品が、同じ処理条件で20MnCr5から調製された金属部品よりも有意に高い強度を有することを示している。組成物5の画像が得られた。結果として得られた製品の微細構造を示す図1を参照されたい。
【0091】
本出願中に引用されたすべての文献、特許出願、特許、公開された特許出願の内容、および図は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
当業者であれば、本明細書に記載された本開示の特定の実施形態と同等の多くの同等物を認識するか、または日常的な実験以上のものを用いずに確認することができるだろう。そのような同等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
図1
図2