(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】撮像装置、及び撮像制御方法
(51)【国際特許分類】
H04N 25/40 20230101AFI20231005BHJP
【FI】
H04N25/40
(21)【出願番号】P 2019099338
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000209751
【氏名又は名称】池上通信機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩也
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-061125(JP,A)
【文献】国際公開第2010/101434(WO,A2)
【文献】特表2004-506285(JP,A)
【文献】特開平04-326267(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0339324(US,A1)
【文献】特開平06-141246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/222- 5/257
H04N 5/30 - 5/33
H04N 23/00 -23/76
H04N 23/90 -23/959
H04N 25/00 -25/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、前記第1の面に入射する光の光路を2つに分割して前記第2及び第3の面に導く光学部材と、
前記第2の面の側において、前記第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、
前記第3の面の側において、前記第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、
前記第1の撮像素子からの出力に基づく第1の映像と、前記第2の撮像素子からの出力に基づく第2の映像とを合成して第3の映像を生成する映像処理部と、
を備え、
前記第1の領域は、前記第2の領域と一部が重複するように配置され、
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子のそれぞれは、前記第1の領域と前記第2の領域とが重複しない非重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出し、
前記映像処理部は、前記第1の領域と前記第2の領域とが重なる重複領域に対応する前記第3の映像の映像要素を生成するとき、前記映像要素の画素値Pを式(1)に基づいて計算し、
P=K・P1+(1-K)・P2 …式(1)、
ここで、P1は、前記第1の映像の画素値であり、P2は、前記第2の映像の画素値であり、Kは、前記画素値Pに対応する画素と、前記第1の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L1との間の距離dの関数で表現されるパラメータであり、前記関数は、0から、前記境界L1と、前記第2の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L2との間の距離Dまで前記距離dが増加するにつれて滑らかに減少し、前記距離dが0のときに1となり、かつ前記距離dが前記距離Dに等しいときに0となる関数であ
り、
前記第3の映像は、N×N画素のスクエア映像であり、
前記映像処理部は、前記スクエア映像の中心部に位置する(N/2)×M画素(M<N)の領域を切り出して第4の映像を生成し、前記スクエア映像をM×M画素にダウンコンバートした後、ダウンコンバート後の映像の左端及び右端から、{(M-N/2)/2}×M画素の領域を取り除いて(N/2)×M画素の第5の映像を生成し、前記第4の映像と前記第5の映像とを左右に並べて合成したワイド映像を生成する、
撮像装置。
【請求項2】
光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、前記第1の面に入射する光の光路を2つに分割して前記第2及び第3の面に導く光学部材と、
前記第2の面の側において、前記第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、
前記第3の面の側において、前記第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、
前記第1の撮像素子からの出力に基づく第1の映像と、前記第2の撮像素子からの出力に基づく第2の映像とを合成して第3の映像を生成する映像処理部と、
を備え、
前記第1の領域は、前記第2の領域と一部が重複するように配置され、
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子のそれぞれは、前記第1の領域と前記第2の領域とが重複する重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出し、
前記映像処理部は、前記第1の領域と前記第2の領域とが重なる重複領域に対応する前記第3の映像の映像要素を生成するとき、前記映像要素の画素値Pを式(1)に基づいて計算し、
P=K・P1+(1-K)・P2 …式(1)、
ここで、P1は、前記第1の映像の画素値であり、P2は、前記第2の映像の画素値であり、Kは、前記画素値Pに対応する画素と、前記第1の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L1との間の距離dの関数で表現されるパラメータであり、前記関数は、0から、前記境界L1と、前記第2の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L2との間の距離Dまで前記距離dが増加するにつれて滑らかに減少し、前記距離dが0のときに1となり、かつ前記距離dが前記距離Dに等しいときに0となる関数であ
り、
前記第3の映像は、N×N画素のスクエア映像であり、
前記映像処理部は、前記スクエア映像の中心部に位置する(N/2)×M画素(M<N)の領域を切り出して第4の映像を生成し、前記スクエア映像をM×M画素にダウンコンバートした後、ダウンコンバート後の映像の左端及び右端から、{(M-N/2)/2}×M画素の領域を取り除いて(N/2)×M画素の第5の映像を生成し、前記第4の映像と前記第5の映像とを左右に並べて合成したワイド映像を生成する、
撮像装置。
【請求項3】
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子は同じ仕様の固体撮像素子であり、
前記第1の撮像素子における読み出し開始のタイミングを、前記第2の撮像素子における読み出し開始のタイミングと一致させる制御部をさらに備える
請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の撮像素子の読み出し速度が、前記第2の撮像素子の読み出し速度より遅い場合に、前記第2の撮像素子の読み出し速度を、前記第1の撮像素子の読み出し速度と一致させる
請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記Kは、式(2)で与えられる、
K={1+cos[π(d/D)]}/2 …式(2)、
請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項6】
光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、前記第1の面に入射する光の光路を2つに分割して前記第2及び第3の面に導く光学部材と、前記第2の面の側において、前記第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、前記第3の面の側において、前記第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、前記第1の撮像素子からの出力に基づく第1の映像と、前記第2の撮像素子からの出力に基づく第2の映像とを合成して第3の映像を生成する映像処理部と、を備えた撮像装置における撮像制御方法であって、
前記第1の領域は、前記第2の領域と一部が重複するように配置され、
前記撮像装置の制御部により、前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子のそれぞれが、前記第1の領域と前記第2の領域とが重複しない非重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出すように制御することと、
前記第1の領域と前記第2の領域とが重なる重複領域に対応する前記第3の映像の映像要素を生成することと、
を含み、
前記第3の映像の映像要素を生成するとき、前記映像要素の画素値Pを式(1)に基づいて計算し、
P=K・P1+(1-K)・P2 …式(1)、
ここで、P1は、前記第1の映像の画素値であり、P2は、前記第2の映像の画素値であり、Kは、前記画素値Pに対応する画素と、前記第1の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L1との間の距離dの関数で表現されるパラメータであり、前記関数は、0から、前記境界L1と、前記第2の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L2との間の距離Dまで前記距離dが増加するにつれて滑らかに減少し、前記距離dが0のときに1となり、かつ前記距離dが前記距離Dに等しいときに0となる関数であ
り、
前記第3の映像は、N×N画素のスクエア映像であり、
前記方法は、前記スクエア映像の中心部に位置する(N/2)×M画素(M<N)の領域を切り出して第4の映像を生成することと、前記スクエア映像をM×M画素にダウンコンバートした後、ダウンコンバート後の映像の左端及び右端から、{(M-N/2)/2}×M画素の領域を取り除いて(N/2)×M画素の第5の映像を生成することと、前記第4の映像と前記第5の映像とを左右に並べて合成したワイド映像を生成することと、をさらに含む、
撮像制御方法。
【請求項7】
光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、前記第1の面に入射する光の光路を2つに分割して前記第2及び第3の面に導く光学部材と、前記第2の面の側において、前記第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、前記第3の面の側において、前記第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、前記第1の撮像素子からの出力に基づく第1の映像と、前記第2の撮像素子からの出力に基づく第2の映像とを合成して第3の映像を生成する映像処理部と、を備えた撮像装置における撮像制御方法であって、
前記第1の領域は、前記第2の領域と一部が重複するように配置され、
前記撮像装置の制御部により、前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子のそれぞれが、前記第1の領域と前記第2の領域とが重複する重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出すように制御することと、
前記第1の領域と前記第2の領域とが重なる重複領域に対応する前記第3の映像の映像要素を生成することと、
を含み、
前記第3の映像の映像要素を生成するとき、前記映像要素の画素値Pを式(1)に基づいて計算し、
P=K・P1+(1-K)・P2 …式(1)、
ここで、P1は、前記第1の映像の画素値であり、P2は、前記第2の映像の画素値であり、Kは、前記画素値Pに対応する画素と、前記第1の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L1との間の距離dの関数で表現されるパラメータであり、前記関数は、0から、前記境界L1と、前記第2の領域における非重複領域と前記重複領域との境界L2との間の距離Dまで前記距離dが増加するにつれて滑らかに減少し、前記距離dが0のときに1となり、かつ前記距離dが前記距離Dに等しいときに0となる関数であ
り、
前記第3の映像は、N×N画素のスクエア映像であり、
前記方法は、前記スクエア映像の中心部に位置する(N/2)×M画素(M<N)の領域を切り出して第4の映像を生成することと、前記スクエア映像をM×M画素にダウンコンバートした後、ダウンコンバート後の映像の左端及び右端から、{(M-N/2)/2}×M画素の領域を取り除いて(N/2)×M画素の第5の映像を生成することと、前記第4の映像と前記第5の映像とを左右に並べて合成したワイド映像を生成することと、をさらに含む、
撮像制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撮像装置、及び撮像制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放送分野では、ハイビジョン(1920×1080画素)、4K(3840×2160画素)と呼ばれる高解像度の映像を提供する映像技術が既に確立されて実用化に至っている。最近では、8K(7680×4320画素)と呼ばれる超高解像度の映像(以下、8K映像)を提供する映像技術が実用レベルに達している。こうした映像の高解像度化へのニーズは、放送分野だけでなく医療分野などでも高まっている。
【0003】
近年、医療現場では、検査、治療及び診断のために様々な形で映像及び画像が利用されている。例えば、内視鏡に設置したカメラを利用して対象部位を撮影し、対象部位の病変を確認すること、及び病変部位に対して内視鏡手術を施すことなどは広く行われている。さらに、映像が高精細化したことで、脳外科顕微鏡手術や心臓血管外科手術などへの応用も期待されている。また、遠隔地の高度医療施設に対象部位の映像を送り、より専門的な診断や遠隔治療を可能にする遠隔医療への応用も期待されている。
【0004】
高解像度化を含めた映像品質の向上は、放送分野において視聴者にリアルな映像を届けることを可能にするだけでなく、医療分野において正確な診断、安全且つ高度な治療を実現するために欠かせない。一方で、高解像度の映像を得るには、所望する解像度に対応する画素数の撮像素子(例えば、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device))を用意する必要がある。
【0005】
ダイサイズを大きくし、画素密度を高めることで撮像素子の画素数は多くなる。しかし、画素数が多くなるほど撮像素子1枚当たりのコストは高くなる。例えば、8Kに対応する撮像素子1枚のコストは、4Kに対応する撮像素子1枚のコストを大きく上回る。また、撮像素子のサイズが大きくなると、その撮像素子を搭載するカメラのサイズも大きくなる。そのため、小型で軽量な高解像度カメラを実現することは容易でない。このことに関し、下記の特許文献1では、4Kに対応する撮像素子を2枚組み合わせて小型で軽量な高解像度カメラを実現する技術(以下、提案技術)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の提案技術は、入射光を分光し、入射光のG(緑色)成分を一方の撮像素子に入射させ、R(赤色)成分及びB(青色)成分を他方の撮像素子に入射させ、これら一対の撮像素子からの出力に基づく2つの映像を合成する方法が提案されている。特に、上記の提案技術では、これら2つの映像が縦・横それぞれ半画素ずれるように一対の撮像素子を配置する方法が採られている。この方法を適用することで、4Kの約2倍に相当する解像度を有する小型で軽量な高解像度カメラが実現されうる。
【0008】
上記の提案技術に係る高解像度カメラは、アスペクト比がほぼ16:9になる横長映像を出力する。そのため、放送分野では上記の提案技術による高解像度カメラが有用である。一方、医療分野では円形視野の映像が利用される。そのため、画像処理により、横長映像から円形の映像領域が切り出される。横長映像から切り出された映像領域の画素数(以下、有効画素数)は、横長映像の画素数の半分以下になる。有効画素数の割合を増やすには、切り出し元の映像のアスペクト比を1:1に近づければよい。
【0009】
2つの横長映像を上下に貼り付ければアスペクト比を1:1に近づけることができる。また、2つの横長映像を貼り付けることで画素数が2倍近くに増え、高解像度の映像出力が得られる。また、比較的安価な撮像素子を2つ利用すれば、低コストで高解像度カメラを実現することができる。しかしながら、撮像素子間で僅かに出力特性が異なること、及び画素ライン間での電荷の読み出しタイミングがずれることなどに起因して、2つの横長映像の境界部分又は重なり部分に映像品質の劣化が生じうる。
【0010】
上記の課題に鑑み、本開示の1つの観点によれば、本開示の目的は、より高品質の高解像度映像を得ることが可能な撮像装置、及び撮像制御方法を提供することにある。
【0011】
なお、上記の説明では、説明をわかりやすくするために医療分野における具体的な映像利用の事例を紹介して課題を説明したが、本開示に係る技術の適用範囲は医療分野に限定されない。例えば、自然科学分野では、望遠鏡や顕微鏡に高解像度カメラを接続して撮影する手法が広く利用されており、こうした分野においても本開示の技術を適用することができる。また、視野の形状は必ずしも円形でなくてもよく、少なくとも2つの横長映像を貼り付けることが有効画素数の割合を増やす上で有効な視野の形状に対して、本開示に係る技術を好適に用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の第1の態様によれば、光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、第1の面に入射する光の光路を2つに分割して第2及び第3の面に導く光学部材と、第2の面の側において、第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、第3の面の側において、第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、を備え、第1の領域は、第2の領域と一部が重複するように配置され、第1の撮像素子及び第2の撮像素子のそれぞれは、第1の領域と第2の領域とが重複しない非重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出す撮像装置が提供される。
【0013】
また、本開示の第2の態様によれば、光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、第1の面に入射する光の光路を2つに分割して第2及び第3の面に導く光学部材と、第2の面の側において、第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、第3の面の側において、第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、を備え、第1の領域は、第2の領域と一部が重複するように配置され、第1の撮像素子及び第2の撮像素子のそれぞれは、第1の領域と第2の領域とが重複する重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出す撮像装置が提供される。
【0014】
また、本開示の第3の態様によれば、光が入射する第1の面と、光が出射する第2及び第3の面とを有し、第1の面に入射する光の光路を2つに分割して第2及び第3の面に導く光学部材と、第2の面の側において、第1の面内の第1の領域を通った光が出射する位置に配置される第1の撮像素子と、第3の面の側において、第1の面内の第2の領域を通った光が出射する位置に配置される第2の撮像素子と、を備えた撮像装置における撮像制御方法が提供される。第1の領域は、第2の領域と一部が重複するように配置される。
【0015】
第3の態様の一側面によれば、上記の撮像制御方法は、撮像装置の制御部により、第1の撮像素子及び第2の撮像素子のそれぞれが、第1の領域と第2の領域とが重複しない非重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出すように制御すること、を含む。第3の態様の他の側面によれば、上記の撮像制御方法は、撮像装置の制御部により、第1の撮像素子及び第2の撮像素子のそれぞれが、第1の領域と第2の領域とが重複する重複領域の少なくとも一部を通った光の入射位置にある受光面端部の画素ラインから順に各画素ラインで生成される電気信号を順次読み出すように制御すること、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、より高品質の高解像度映像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る撮像装置の構造について説明するための模式図である。
【
図2】本実施形態に係る撮像素子の配置及び映像の合成方法について説明するための説明図である。
【
図3】CMOSイメージセンサの構造及び読み出し制御について説明するための模式図である。
【
図4】比較例に係る読み出し制御について説明するための説明図である。
【
図5】本実施形態に係る読み出し制御の一態様(実施例1)について説明するための説明図である。
【
図6】本実施形態に係る読み出し制御の一態様(実施例2)について説明するための説明図である。
【
図7】本実施形態に係る重なり部分の処理方法について説明するための説明図である。
【
図8】本実施形態に係る撮像処理の流れについて説明するためのフロー図である。
【
図9】本実施形態に係る制御部及び映像処理部の機能を実現可能なハードウェアについて説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。なお、本明細書及び図面において実質的に同一の機能を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0019】
[1.撮像装置]
図1を参照しながら、本実施形態に係る撮像装置の構造について説明する。
図1は、本実施形態に係る撮像装置の構造について説明するための模式図である。
図1に例示した撮像装置10は、本実施形態に係る撮像装置の一例である。
【0020】
図1に示すように、撮像装置10は、光学系11、光学部材12、撮像素子13、14、制御部15、及び映像処理部16を有する。
【0021】
光学系11は、少なくとも1枚のレンズを含む。
図1の例では、光学系11の物体側に絞りSTが配置されているが、光学系11の像側に絞りSTが配置されてもよいし、光学系11に含まれるレンズ間に絞りSTが配置されてもよい。以下では、絞りSTが光学系11の物体側に配置された構造を例に説明を進める。
図1には、光学系11へと入射する光のうち、光学系11の光軸に対して平行に入射する光の光路A、B、C、D、Eが鎖線で示されている。以下の説明では、説明の都合上、光学系11の光軸に平行な座標軸をX、光学系11の光軸に垂直な座標軸をYと表記する場合がある。
【0022】
光学部材12は、光の光路を分割する手段である。
図1には、光学部材12の一例として、光学系11を通った光の光路を分割面12aで分割し、一方の光路を直角に折り曲げ、他方の光路を直進させるプリズムが示されている。分割面12aでは、約50%の光が透過し、約50%の光が反射する。なお、本実施形態に係る光学部材12は、光路を直角に折り曲げるプリズムに限定されず、例えば、フィリップスタイプのガラスプリズムであってもよいし、ペリクルミラーなどのハーフミラーであってもよい。以下では、光路を直角に折り曲げるプリズムを例に説明を進める。
【0023】
光学部材12は、光学系11を通った光が入射する第1の面、撮像素子13に対向する第2の面、及び撮像素子14に対向する第3の面を有する。第1の面及び第2の面はY軸に平行な面であり、第3の面はX軸に平行な面である。例えば、光路Cを通る光は、光学系11を通過して第1の面から光学部材12へと入り、分割面12aを透過した光は第2の面へと導かれ、第2の面から出た光は撮像素子13により受光される。一方、分割面12aで反射された光は第3の面へと導かれ、第3の面から出た光は撮像素子14により受光される。
【0024】
図1には、説明を簡単にするため、撮像素子13、14の受光部のみが模式的に示されている。撮像素子13の受光部は、Y方向に並んだ複数の画素ラインを有する。また、1つの画素ラインは、Z方向(X軸及びY軸に直交するZ軸の方向)に並んだ複数の画素を含む。また、各画素は、受光量に応じた量の電荷を生成する光電変換素子を有する。撮像素子13は、一端に位置する画素ラインから順に受光部の画素ラインを順次選択し、選択した画素ラインの各画素で生成される電荷を一度に読み出して電気信号を出力する。撮像素子13から出力される電気信号は、制御部15に入力される。
【0025】
光路Aは、撮像素子13の受光部を形成する複数の画素ラインのうち、受光面の一端(
図1では最上端)に位置する画素ラインに入射する光の光路を示している。光路Dは、撮像素子13の受光部を形成する複数の画素ラインのうち、他端(
図1では最下端)に位置する画素ラインに入射する光の光路を示している。光路Cは、第1の面から分割面12aまでの区間、及び分割面12aから第2の面までの区間において光学系11の光軸に一致する。そして、光路A、C間の距離D
ACは、光路A、D間の距離D
ADを用いて、以下の関係式(1)で与えられる。
【0026】
DAD>DAC …(1)
【0027】
また、撮像素子14の受光部は、X方向に並んだ複数の画素ラインを有する。また、1つの画素ラインは、Z方向に並んだ複数の画素を含む。撮像素子14は、一端に位置する画素ラインから順に受光部の画素ラインを順次選択し、選択した画素ラインの各画素で生成される電荷を一度に読み出して電気信号を出力する。撮像素子14から出力される電気信号は、制御部15に入力される。
【0028】
光路Bは、撮像素子14の受光部を形成する複数の画素ラインのうち、一端(
図1では最左端)に位置する画素ラインに入射する光の光路を示している。光路Eは、撮像素子14の受光部を形成する複数の画素ラインのうち、他端(
図1では最右端)に位置する画素ラインに入射する光の光路を示している。光路Cは、分割面12aから第3の面までの区間において光学系11の光軸に直交する。そして、光路B、E間の距離D
BEは、光路A、E間の距離D
AE、及び距離D
ACを用いて、以下の関係式(2)で与えられる。
【0029】
DBE>DAE-DAC …(2)
【0030】
上記の関係式(1)、(2)から明らかなように、光路A、D間に光路Cが位置し、光路B、E間に光路Cが位置することから、光路B、Dに挟まれる領域(以下、重複領域)を通った光は、撮像素子13、14の両方に入射する。つまり、撮像素子13からの出力に基づく第1の映像13aと、撮像素子14からの出力に基づく第2の映像14aとは、その重複領域に対応する映像の一部(以下、重なり部分;
図2のハッチング部分)が原理的には同じ画になりうる。
図2は、本実施形態に係る撮像素子の配置及び映像の合成方法について説明するための説明図である。
【0031】
制御部15は、撮像素子13からの出力に基づく第1の映像13aと、撮像素子14からの出力に基づく第2の映像14aとを映像処理部16に入力する。映像処理部16は、
図2に示すように、第1の映像13aの重なり部分と、第2の映像14aの重なり部分とが合うように第1の映像13a及び第2の映像14aの向き及び位置を調整し、第1の映像13aと第2の映像14aとを合成して高解像度映像を生成する。高解像度映像は、表示装置20へと出力される。
【0032】
第1の映像13a及び第2の映像14aの幅WがN1画素、高さHがN2画素、重なり部分の幅がN3(N3≧1)画素の場合、高解像度映像は、幅がN1画素、高さが(2×N2-N3)画素の映像となる。例えば、撮像素子13、14として、4K対応の固体撮像素子を利用する場合、N1が3840画素、N2が2160画素であり、N3を480画素とすると、アスペクト比が1:1の高解像度映像が得られる。この例に限らず、N1、N2、N3の設定は任意に設定されてよいし、撮像素子13、14として、8K対応の固体撮像素子が利用されてもよい。
【0033】
上記のように、本実施形態に係る技術を適用すれば、比較的低コストで調達可能な固体撮像素子(例えば、4K対応の固体撮像素子)を利用して高解像度映像を得ることができる。また、2つの横長映像を合成してアスペクト比が1:1の形状又はそれに近い形状の高解像度映像を生成することができ、円形視野の映像を切り出すときに、1つの横長映像から切り出す場合に比べて多くの有効画素数を持つ切り出し映像が得られる。また、光学部材12により光路を折り曲げること、及び比較的ダイサイズが小さい固体撮像素子を利用することによって、映像処理部16の前段に位置する要素(ヘッド部分)の小型化及び軽量化を実現することができる。
【0034】
(読み出し制御について)
ここで、
図3を参照しながら、本実施形態に係る撮像素子として利用可能なCMOSイメージセンサの構造及び読み出し制御について説明する。
図3は、CMOSイメージセンサの構造及び読み出し制御について説明するための模式図である。
【0035】
図3に示すように、CMOSイメージセンサの各画素は、1つのフォトダイオード(PD)、及び1つの増幅器(AMP)により形成される。PDは、受光量に応じた量の電荷を生成して蓄積する。AMPは、PDに蓄積された電荷を電圧に変換して増幅させる。例えば、PD11及びAMP11を含む画素に注目すると、PD11で生成された電荷は、AMP11により電圧信号に変換されて増幅され、画素選択スイッチSW11がONのタイミングで垂直信号線を介して列回路CDS1に入力される。以下では、表記を簡単にするために、PDi及びAMPiを含む画素を画素#iと表記する。
【0036】
図3の例では、1つの列を成す画素#11、#21、#31…のAMP11、21、31…がSW11、SW21、SW31…及び垂直信号線を介してCDS1に接続されている。また、1つの列を成す画素#12、#22、#32…のAMP12、22、32…がSW12、SW22、SW32…及び垂直信号線を介してCDS2に接続されている。また、1つの列を成す画素#13、#23、#33…のAMP13、23、33…がSW13、SW23、SW33及び垂直信号線を介してCDS3に接続されている。
【0037】
図3の例では、画素#11、#12、#13…が1つの画素ライン(行)を成し、画素#21、#22、#23…が1つの画素ライン(行)を成し、画素#31、#32、#33…が1つの画素ライン(行)を成す。以下では、表記を簡単にするために、画素#j1、#j2、#j3…を含む画素ラインを画素ライン#jと表記する。
【0038】
電圧信号の読み出しは、画素ライン単位で実行される。例えば、画素ライン#1が選択されたとき、SW11、SW12、SW13…が同時にONに切り替わり、AMP11、AMP12、AMP13…に蓄積されている電圧信号の読み出しが開始され、CDS1、CDS2、CDS3…で電圧信号が一時的に保管される。次いで、列選択スイッチSW01、SW02、SW03…が同時にONに切り替わり、CDS1、CDS2、CDS3…に保管された電圧信号が水平信号線に伝送される。
【0039】
次いで、画素ライン#2が選択され、SW11、SW12、SW13…及びSW01、SW02、SW03…がOFFに切り替わると共に、SW21、SW22、SW23…が同時にONに切り替わる。そして、AMP21、AMP22、AMP23…に蓄積されている電圧信号の読み出しが開始され、CDS1、CDS2、CDS3…で電圧信号が一時的に保管される。次いで、列選択スイッチSW01、SW02、SW03…が同時にONに切り替わり、CDS1、CDS2、CDS3…に保管された電圧信号が水平信号線に伝送される。
【0040】
上記のように、CMOSイメージセンサでは、1行単位で順次読み出し処理が実行されるため、1行分の回路だけを動かせばよく、低電圧で駆動することができる。その結果、CMOSイメージセンサは、CCDイメージセンサなどに比べて消費電力を低く抑えることができる。一方で、ある画素ライン#iの露光タイミングと、他の画素ライン#jの露光タイミングとの間には僅かな時間ズレが生じる。この時間ズレは、受光面の一端にある画素ライン#1と、受光面の他端にある画素ライン#Jとの間で最も顕著になる。
【0041】
例えば、画素ライン#1から読み出しを開始するCMOSイメージセンサの場合、画素ライン#2で捉えた光は、画素ライン#1で捉えた光より遅い時刻に光学系11へ届いた光である。被写体が動いている場合、画素ライン#1で捉えた光を発した被写体の位置と、画素ライン#2で捉えた光を発した被写体の位置とは異なる。そのため、映像では、動いている被写体が歪んだ形になる。この現象は動体歪みと呼ばれる。被写体が動いていない場合でも、照明の明るさが時間的に変化する環境では、映像に明るさの不均一などが生じて映像品質が低下する要因となりうる。但し、このような動体歪みや映像品質の低下は、読み出し速度を高めることで無視できる程度にまで改善することができる。
【0042】
しかしながら、同時に撮像された2つの映像を貼り合わせる場合、上述した露光タイミングの時間ズレに起因して、その貼り合わせ部分(上述した重なり部分に対応する部分)で境界を目立たせる不自然な線や模様が現れることがある。この現象について、
図4に示した比較例を参照しながら、具体的に説明する。
図4は、比較例に係る読み出し制御について説明するための説明図である。
【0043】
比較例の説明では、説明を簡単にするため、各撮像素子の受光部を形成する画素ラインの数N2を5とし、一方の撮像素子(以下、撮像素子E1)からの出力に基づく映像(以下、映像V1)と、他方の撮像素子(以下、撮像素子E2)からの出力に基づく映像(以下、映像V2)との重なり部分の幅N3を1とする。
【0044】
撮像素子E1の画素ラインをLINE1Y、LINE2Y、LINE3Y、LINE4Y、LINE5Yと表記する。映像V1のうち、映像V2と重なる重なり部分はLINE5Yに対応する。また、撮像素子E2の画素ラインをLINE1X、LINE2X、LINE3X、LINE4X、LINE5Xと表記する。映像V2のうち、映像V1と重なる重なり部分はLINE1Xに対応する。また、撮像素子E1の画素ライン#iから出力される電圧信号をSIGikY(k=1,2…)、撮像素子E2の画素ライン#iから出力される電圧信号をSIGikXと表記する。
【0045】
図4に示すように、撮像素子E1は、LINE1Y、LINE2Y、LINE3Y、LINE4Y、LINE5Yの順に読み出し処理を実行する。また、撮像素子E2は、LINE1X、LINE2X、LINE3X、LINE4X、LINE5Xの順に読み出し処理を実行する。そのため、撮像素子E1ではLINE1YとLINE5Yとの間の露光タイミングの時間ズレが最も大きく、撮像素子E2ではLINE1XとLINE5Xとの間の露光タイミングの時間ズレが最も大きい。
【0046】
比較例では、撮像素子E1、E2が最初の画素ラインからの読み出しを開始するタイミングは同期される。そのため、LINE1Yの露光タイミングと、LINE1Xの露光タイミングとが一致する。つまり、映像V1、V2が重なる部分に対応するLINE5Y、LINE1Xにおいて露光タイミングの時間ズレ(dt)が最大となる。照明が時間的に変化する場合、時間ズレdtによりLINE5Y、LINE1X間で明るさに違いが生じ、映像V1、V2の境目に筋状の模様が現れることがある。また、被写体の動きなどにより、映像V1、V2の境目で映像の連続性が乱れることがあり、見る人に違和感を生じさせることがある。
【0047】
本実施形態では、以下に示す実施例のような読み出し制御を実施することで、上述した映像の乱れを抑制する。
【0048】
(実施例1)
図5を参照しながら、本実施形態に係る読み出し制御の一態様(実施例1)について説明する。
図5は、本実施形態に係る読み出し制御の一態様(実施例1)について説明するための説明図である。なお、実施例1の説明では、説明を簡単にするため、上述した比較例と同様の表記(LINE1Y…、LINE1X…、SIG11Y…など)を用い、N2=5、N3=1の場合を想定して説明を進める。もちろん、本実施形態に係る技術の適用範囲はこの設定例に限定されない。
【0049】
図5に示すように、実施例1に係る撮像素子13は、Y軸に沿って-Y方向に並んだ5つの画素ラインLINE1Y、…、LINE5Yのうち、LINE1Yから順に読み出し処理を実行する。つまり、撮像素子13は、光路Aを通った光が入射するLINE1Yから、光路Dに対応するLINE5Yまで、5つの画素ラインに対する読み出し処理を順次実行する。この場合、LINE1YとLINE5Yとの間で僅かに露光タイミングの時間ズレが生じうる。
【0050】
また、実施例1に係る撮像素子14は、X軸に沿って+X方向に並んだ5つの画素ラインLINE1X、…、LINE5Xのうち、LINE5Xから順に読み出し処理を実行する。つまり、撮像素子14は、光路Eを通った光が入射するLINE5Xから、光路Bに対応するLINE1Xまで、上記の比較例に係る撮像素子E2とは逆順で、5つの画素ラインに対する読み出し処理を順次実行する。この場合も、LINE1XとLINE5Xとの間で僅かに露光タイミングの時間ズレが生じうる。
【0051】
上記のように、実施例1の場合も、撮像素子13、14のそれぞれにおいて露光タイミングの時間ズレは生じている。しかし、撮像素子13はLINE1Yから読み出し処理を開始し、撮像素子14はLINE5Xから読み出し処理を開始する。また、撮像素子13、14における読み出し処理の開始タイミングは同期される。また、撮像素子13、14の画素ライン数N2が同じ、かつ読み出し速度が同じである場合、LINE5Y及びLINE1Xの読み出しタイミングは同じになる。その結果、LINE5Y、LINE1Xの間で露光タイミングの時間ズレは生じず、第1の映像13aと第2の映像14aとの重なり部分で、時間ズレに起因する映像の乱れが抑制される。
【0052】
図5から明らかなように、N3が0又は1の場合、原理的には、露光タイミングの時間ズレに起因する映像境界の乱れは生じない。しかし、N3が2以上の場合、一部の画素ラインに露光タイミングの時間ズレが生じる。例えば、N3が2の場合、LINE4YがLINE1Xと重なり、LINE5YがLINE2Xと重なる。LINE4YとLINE1Xとの間では1画素ライン分の時間ズレが生じる。LINE5YとLINE2Xとの間では1画素ライン分の時間ズレが生じる。しかしながら、5画素ライン分の時間ズレが生じていた上記の比較例に比べると時間ズレが大幅に低減されている。
【0053】
後述するように、第1の映像13aと第2の映像14aとの重なり部分には、映像の不自然さを抑制するための画像処理が施される。その際、画素ライン間のズレが大きいと十分に不自然さを抑制することが難しくなる。しかし、実施例1の方法を適用することで、画素ライン間のズレを抑制することができ、後段で実施される画像処理により、映像品質を効果的に改善することが可能になる。その結果、より高品質な高解像度映像を得ることができるようになる。
【0054】
(実施例2)
次に、
図6を参照しながら、本実施形態に係る読み出し制御の一態様(実施例2)について説明する。
図6は、本実施形態に係る読み出し制御の一態様(実施例2)について説明するための説明図である。なお、実施例2の説明では、説明を簡単にするため、上述した比較例と同様の表記(LINE1Y…、LINE1X…、SIG11Y…など)を用い、N2=5、N3=1の場合を想定して説明を進める。もちろん、本実施形態に係る技術の適用範囲はこの設定例に限定されない。
【0055】
図6に示すように、実施例2に係る撮像素子13は、Y軸に沿って-Y方向に並んだ5つの画素ラインLINE1Y、…、LINE5Yのうち、LINE5Yから順に読み出し処理を実行する。つまり、撮像素子13は、光路Dに対応するLINE5Yから、光路Aを通った光が入射するLINE1Yまで、上記の比較例に係る撮像素子E1とは逆順で、5つの画素ラインに対する読み出し処理を順次実行する。この場合も、LINE1YとLINE5Yとの間で僅かに露光タイミングの時間ズレが生じうる。
【0056】
また、実施例2に係る撮像素子14は、X軸に沿って+X方向に並んだ5つの画素ラインLINE1X、…、LINE5Xのうち、LINE1Xから順に読み出し処理を実行する。つまり、撮像素子14は、光路Bに対応するLINE1Xから、光路Eを通った光が入射するLINE5Xまで、5つの画素ラインに対する読み出し処理を順次実行する。この場合、LINE1XとLINE5Xとの間で僅かに露光タイミングの時間ズレが生じうる。
【0057】
上記のように、実施例2の場合も、撮像素子13、14のそれぞれにおいて露光タイミングの時間ズレは生じている。しかし、撮像素子13はLINE5Yから読み出し処理を開始し、撮像素子14はLINE1Xから読み出し処理を開始する。また、撮像素子13、14における読み出し処理の開始タイミングは同期される。また、撮像素子13、14の画素ライン数N2が同じ、かつ読み出し速度が同じである場合、LINE5Y及びLINE1Xの読み出しタイミングは同じになる。その結果、LINE5Y、LINE1Xの間で露光タイミングの時間ズレは生じず、第1の映像13aと第2の映像14aとの重なり部分で、時間ズレに起因する映像の乱れが抑制される。
【0058】
図6から明らかなように、N3が0又は1の場合、原理的には、露光タイミングの時間ズレに起因する映像境界の乱れは生じない。しかし、N3が2以上の場合、一部の画素ラインに露光タイミングの時間ズレが生じる。例えば、N3が2の場合、LINE4YがLINE1Xと重なり、LINE5YがLINE2Xと重なる。LINE4YとLINE1Xとの間では1画素ライン分の時間ズレが生じる。LINE5YとLINE2Xとの間では1画素ライン分の時間ズレが生じる。しかしながら、5画素ライン分の時間ズレが生じていた上記の比較例に比べると時間ズレが大幅に低減されている。
【0059】
上記の実施例1と同様に、実施例2の方法を適用することで、画素ライン間のズレを抑制することができ、後段で実施される画像処理により、映像品質を効果的に改善することが可能になる。その結果、より高品質な高解像度映像を得ることができるようになる。
【0060】
上記の実施例1、2では説明を簡単にするためにN2=5、N3=1の場合について説明したが、本実施形態に係る技術の適用範囲及びその技術適用により得られる作用効果は、N2及びN3を変更しても同じように得られうる。また、撮像素子13、14における読み出し処理の開始タイミング及び読み出し速度の少なくとも一方についての同期制御は、実装時に撮像素子13、14に予め組み込まれた制御機構により実行されてもよいし、制御部15からの制御信号により実行されてもよい。
【0061】
(重複領域の処理)
次に、
図7を参照しながら、本実施形態に係る重なり部分の処理方法について説明する。
図7は、本実施形態に係る重なり部分の処理方法について説明するための説明図である。
【0062】
第1の映像13aと第2の映像14aとの重なり部分においては、高解像度映像の同じ画素について、第1の映像13aの画素値(以下、画素値P1)と、第2の映像14aの画素値(以下、画素値P2)とが得られる。そのため、高解像度映像を生成する際、映像処理部16は、第1の映像13aの画素値及び第2の映像14aの画素値の一方を高解像度映像の画素値(以下、画素値P)として利用してもよい。しかし、上述した露光タイミングの時間ズレにより、隣接する画素ライン間で画素値に僅かなギャップが生じていることがあるため、映像処理部16は、画素値P1、P2の両方を利用して高解像度映像の画素値Pを計算する。
【0063】
例えば、映像処理部16は、下記の式(1)に基づいて画素値Pを計算する。つまり、映像処理部16は、画素値P1、P2の重み付き平均値を画素値Pとする。
【0064】
P=K・P1+(1-K)・P2 …式(1)
【0065】
ここで、Kは、下記の式(2)(コサイン重み関数CRF)で与えられるパラメータである。πは円周率であり、dは、光路Bに対応する画素ラインから画素値Pに対応する画素までの距離であり、Dは、重なり部分の幅N3である。なお、重なり部分の幅N3は、光路Bに対応する画素ラインから光路Dに対応する画素ラインまでの距離に対応する。
【0066】
K={1+cos[π(d/D)]}/2 …式(2)
【0067】
図7に示すように、CRFは、光路Bに対応する画素ラインから、光路Dに対応する画素ラインに近づくにつれて滑らかに減少する。つまり、重なり部分のうち、第1の映像13aの非重複領域に近い部分では画素値P1の影響が大きく、光路Dに対応する画素ラインに近づくにつれて徐々に画素値P1の影響が小さくなり、第2の映像14aの非重複領域に近い部分では画素値P2の影響が大きくなる。このように、滑らかにパラメータKを変化させることで、第1の映像13aと第2の映像14aとが滑らかに接続され、1枚の撮像素子で撮影された映像と遜色ない高品質な高解像度映像が得られる。
【0068】
なお、ここでは説明の都合上、パラメータKの計算方法として余弦関数を利用する例を示したが、対数関数、指数関数、高次多項式、特殊関数など、他の様々な非線形関数を利用してパラメータKを計算する方法に変形してもよい。このような変形例についても本実施形態の技術的範囲に属する。
【0069】
[2.撮像処理の流れ]
次に、
図8を参照しながら、本実施形態に係る撮像処理の流れについて説明する。
図8は、本実施形態に係る撮像処理の流れについて説明するためのフロー図である。
【0070】
(S101)制御部15は、撮像素子13、14を制御して撮像処理を開始する。このとき、制御部15は、撮像素子13、14による読み出し処理の開始タイミング及び読み出し速度を制御してもよい。撮像処理が開始されると、撮像素子13、14は、上述した実施例1のように重なり部分から最も遠い画素ラインから順に読み出し処理を実行するか、或いは、上述した実施例2のように重なり部分から最も近い画素ラインから順に読み出し処理を実行する。
【0071】
撮像素子13、14からの出力は、制御部15を介して映像処理部16に入力される。映像処理部16は、撮像素子13からの出力に基づいて第1の映像13aを生成する。また、映像処理部16は、撮像素子14からの出力に基づいて第2の映像14aを生成する。変形例として、撮像素子13、14からの出力に基づいて制御部15が第1の映像13a及び第2の映像14aを生成し、制御部15から映像処理部16へと第1の映像13a及び第2の映像14aが伝送されてもよい。
【0072】
(S102)映像処理部16は、第1の映像13aと第2の映像14aとを合成してスクエア形状の高解像度映像(以下、スクエア映像)を生成する。例えば、映像処理部16は、下記の式(3)に基づいて重なり部分の幅N3を設定し、上記の式(1)及び式(2)に基づいて重なり部分の映像成分を計算する。そして、映像処理部16は、第1の映像13a及び第2の映像14aにおける非重複領域の映像成分と、計算された重なり部分の映像成分とを用いて、
図2に示すように第1の映像13aと第2の映像14aとを合成する。なお、下記の式(3)に基づいて幅N3を設定することで、アスペクト比が1:1のスクエア映像が得られる。
【0073】
N3=2×N2-N1 …式(3)
【0074】
(S103)映像処理部16は、動作モードがワイド出力モードに設定されているか、スクエア出力モードに設定されているかを判定する。ワイド出力モードは、スクエア映像と、スクエア映像の一部を拡大した拡大映像とを並べて表示する動作モードである。スクエア出力モードは、スクエア映像をそのまま表示する動作モードである。動作モードは事前に設定される。変形例として、動作モードの切り替え機能を省略し、常にワイド出力モードに設定されていてもよいし、常にスクエア出力モードに設定されていてもよい。ワイド出力モードに設定されている場合、処理はS105へと進む。一方、スクエア出力モードに設定されている場合、処理はS104へと進む。
【0075】
(S104)映像処理部16は、スクエア映像を表示装置20へと出力する。そして、表示装置20は、スクエア映像を表示する。S104の処理が完了すると、処理はS107へと進む。
【0076】
(S105)映像処理部16は、スクエア映像から拡大映像を生成し、スクエア映像と拡大映像とを合成してワイド映像を生成する。
【0077】
例えば、3840×3840画素のスクエア映像が生成されている場合、映像処理部16は、スクエア映像の中心部に位置する1920×2160画素の映像を切り出して拡大映像を生成し、スクエア映像を2160×2160画素の映像にダウンコンバートした上で左右120画素ずつの領域を切り取る加工を実施し、加工後のスクエア映像と拡大映像とを左右に並べた3840×2160画素のワイド映像を生成してよい。
【0078】
(S106)映像処理部16は、ワイド映像を表示装置20へと出力する。そして、表示装置20は、ワイド映像を表示する。なお、スクエア映像の映像信号と拡大映像の映像信号とが別々に表示装置20に伝送され、表示装置20が2つの映像を画面上に並べて表示する構成にしてもよいし、ワイド映像の映像信号1本が表示装置20に伝送され、表示装置20がワイド映像を1つの映像として表示する構成にしてもよい。
【0079】
(S107)撮像装置10は、撮像処理を終了するか否かを判定する。ユーザが撮影終了の操作を行った場合、撮像装置10は撮像処理の終了と判定し、
図8に示した一連の処理は終了する。撮像処理が継続される場合、処理はS102へと進む。
【0080】
[3.ハードウェア]
次に、
図9を参照しながら、制御部15及び映像処理部16の機能を実現可能なコンピュータ100のハードウェアについて説明する。
図9は、本実施形態に係る制御部及び映像処理部の機能を実現可能なハードウェアについて説明するためのブロック図である。
【0081】
図9に示すように、コンピュータ100は、プロセッサ101、メモリ102、表示I/F(Interface)103、通信I/F104、及び接続I/F105を有する。
【0082】
プロセッサ101は、1つ以上のCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などであってよい。メモリ102は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどであってよい。
【0083】
表示I/F103は、LCD(Liquid Crystal Display)、ELD(Electro-Luminescence Display)などのディスプレイデバイス(例えば、表示装置20)に映像を出力するためのインターフェースであってよい。表示I/F103は、ディスプレイデバイスに映像を表示するためのGPU(Graphic Processing Unit)を有してもよい。
【0084】
通信I/F104は、有線及び/又は無線のネットワークに接続するためのインターフェースであってよい。通信I/F104は、例えば、有線LAN(Local Area Network)、無線LAN、光通信ネットワークなどに接続されてもよいし、他の映像機器との間で映像信号を直接的又は間接的にやりとりするための信号チャネルに接続されてもよい。信号チャネルは、同軸ケーブルで構成されてもよいし、光通信ケーブルで構成されてもよい。
【0085】
接続I/F105は、外部デバイスを接続するためのインターフェースである。接続I/F105は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)などであってよい。接続I/F105には、キーボード、マウス、タッチパネル、タッチパッドなどの入力インターフェースが接続されてもよい。また、接続I/F105には、可搬性の記録媒体106が接続されうる。記録媒体106は、磁気記録媒体、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリなどのコンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-transitory computer-readable storage medium)であってよい。
【0086】
上述したプロセッサ101は、記録媒体106に格納されたプログラムを読み出してメモリ102に格納し、メモリ102から読み出したプログラムに従ってコンピュータ100の動作を制御してもよい。なお、コンピュータ100の動作を制御するプログラムは、メモリ102に予め格納されていてもよいし、通信I/F104を介してネットワークからダウンロードされてもよい。また、制御部15及び映像処理部16の機能は、それぞれ異なるコンピュータで実現されてもよいし、同じコンピュータで実現されてもよい。また、
図9に示したハードウェア要素のうち一部のハードウェア要素は省略されてもよいし、
図9に例示されていない他のハードウェア要素が追加されてもよい。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について説明したが、本開示は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0088】
10 撮像装置
11 光学系
12 光学部材
12a 分割面
13、14 撮像素子
13a 第1の映像
14a 第2の映像
15 制御部
16 映像処理部
20 表示装置
ST 絞り
AMP11、AMP12、AMP13、AMP21、AMP22、AMP23、AMP31、AMP32、AMP33 増幅器
CDS1、CDS2、CDS3 列回路
PD11、PD12、PD13、PD21、PD22、PD23、PD31、PD32、PD33 フォトダイオード
SW01、SW02、SW03 列選択スイッチ
SW11、SW12、SW13、SW21、SW22、SW23、SW31、SW32、SW33 画素選択スイッチ
CRF コサイン重み関数
K 重みパラメータ
P1、P2、P3 画素値