(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】断熱容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47J 41/02 20060101AFI20231005BHJP
B65D 81/38 20060101ALI20231005BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20231005BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20231005BHJP
C30B 29/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A47J41/02 102D
B65D81/38 D
B65D25/14 Z
C23C16/27
C30B29/04 D
(21)【出願番号】P 2019107158
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591261602
【氏名又は名称】サーモス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古和 康弘
【審査官】永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第6517994(JP,B1)
【文献】特開2000-116541(JP,A)
【文献】特開2012-193303(JP,A)
【文献】特開平8-337874(JP,A)
【文献】特開2016-98422(JP,A)
【文献】特開2008-231560(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068776(WO,A1)
【文献】特開2007-261077(JP,A)
【文献】特開2013-194273(JP,A)
【文献】特開平10-203896(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101497994(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0203270(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0123736(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 41/00-41/02,
B65D 23/00-25/56,67/00-79/02,
81/18-81/38
C23C 14/06,16/26-16/27,
C30B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口した金属製の外容器及び内容器を有して、前記外容器の内側に前記内容器を収容した状態で互いに接合されると共に、前記外容器と前記内容器との間に真空断熱層が設けられた断熱容器であって、
前記内容器の内面に、中間層と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層とが、順次積層して設けら
れ、
前記中間層の厚みが前記DLC層の厚み以上であり、
前記中間層と前記DLC層とを合わせた厚みが均一となることで、前記内容器の内側が全面に亘って均等に着色されていることを特徴とする断熱容器。
【請求項2】
前記中間層と前記DLC層との厚みの合計が4~250nmであることを特徴とする請求項
1に記載の断熱容器。
【請求項3】
前記中間層の厚みをAとし、前記DLC層の厚みBとしたときに、A:B=(1~9):1
の関係を満足することを特徴とする請求項
1又は
2に記載の断熱容器。
【請求項4】
前記DLC層の表層がフッ素により改質されていることを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の断熱容器。
【請求項5】
前記DLC層の上にフッ素含有DLC層が積層されていることを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の断熱容器。
【請求項6】
前記中間層の厚みをAとし、前記DLC層の厚みをBとし、前記フッ素含有DLC層の厚みをCとしたときに、
A:B:C=(5~8):(1~2.5):(1~2.5)の関係を満足することを特徴とする請求項
5に記載の断熱容器。
【請求項7】
前記内容器の内側の最表層における水の接触角が80°以上であることを特徴とする請求項
4又は
5に記載の断熱容器。
【請求項8】
前記中間層は、炭素及び珪素と共に、窒素、水素、酸素のうち何れか1種以上の元素を含む非晶質の炭化珪素膜からなり、
前記DLC層は、炭素及び水素を含む非晶質の硬質炭素膜からなることを特徴とする請求項1~
7の何れか一項に記載の断熱容器。
【請求項9】
一端が開口した金属製の外容器及び内容器を有して、前記外容器の内側に前記内容器を収容した状態で互いに接合されると共に、前記外容器と前記内容器との間に真空断熱層が設けられた断熱容器の製造方法であって、
前記内容器の内面に、プラズマ化学気相成長(プラズマCVD)法を用いて、中間層と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層とを、順次積層して形成する工程を含
み、
前記中間層の厚みを前記DLC層の厚み以上とし、
前記中間層と前記DLC層とを合わせた厚みを均一にすることで、前記内容器の内側を全面に亘って均等に着色することを特徴とする断熱容器の製造方法。
【請求項10】
前記断熱容器を成膜室の内部に設置した後に、前記成膜室の内部を減圧し、カソード側の前記断熱容器とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態で、前記内容器の内側に順次導入される前記中間層と前記DLC層との原料ガスをプラズマ化することによって、前記中間層と、前記DLC層とを、順次積層して形成することを特徴とする請求項
9に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項11】
前記DLC層の表層をフッ素により改質することを特徴とする請求項
9又は10に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項12】
前記断熱容器を成膜室の内部に設置した後に、前記成膜室の内部を減圧し、カソード側の前記断熱容器とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態で、前記内容器の内側に順次導入される前記中間層と前記DLC層との原料ガスをプラズマ化することによって、前記中間層と、前記DLC層とを、順次積層して形成した後に、
前記内容器の内側に、フルオロカーボン系ガスを導入し、プラズマ化することによって、前記DLC層の表層をフッ素により改質することを特徴とする請求項
11に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項13】
前記DLC層の上にフッ素含有DLC層を形成することを特徴とする請求項
9又は10に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項14】
前記断熱容器を成膜室の内部に設置した後に、前記成膜室の内部を減圧し、カソード側の前記断熱容器とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態で、前記内容器の内側に順次導入される前記中間層と前記DLC層との原料ガスをプラズマ化することによって、前記中間層と、前記DLC層とを、順次積層して形成した後に、
前記内容器の内側に、前記DLC層の原料ガスと共にフルオロカーボン系ガスを導入し、プラズマ化することによって、前記DLC層の上にフッ素含有DLC層を形成することを特徴とする請求項
13に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項15】
前記中間層の原料ガスとして、有機珪素化合物ガスを用い、
前記DLC層の原料ガスとして、炭化系水素ガスを用いることを特徴とする請求項
9~
14の何れか一項に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項16】
前記中間層を形成する前に、前記内容器の内面を加熱する加熱工程を含むことを特徴とする請求項9~15の何れか一項に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項17】
前記加熱工程において、前記内容器の内面をプラズマエッチングすることにより加熱することを特徴とする請求項16に記載の断熱容器の製造方法。
【請求項18】
前記加熱工程において、前記内容器の内面の温度を80~250℃とすることを特徴とする請求項16又は17に記載の断熱容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一端が開口した金属製の外容器及び内容器を有して、外容器の内側に内容器を収容した状態で互いの開口端同士が接合されると共に、外容器と内容器との間に真空断熱層が設けられた断熱容器がある。このような真空断熱構造を有する断熱容器では、優れた保温・保冷機能を持たせることが可能である。
【0003】
ところで、従来の断熱容器では、内容器の内面にフッ素樹脂コーティングを施すことが行われている(例えば、下記特許文献1,2を参照。)。フッ素樹脂コーティングを施すことによって、内容器の基材である金属が覆われるため、基材の傷や錆の発生などを防止することが可能である。また、内容器の内側に撥水性を持たせて、内容器の内側を衛生的に保ち易くしたり、内容器の内側の清掃性を高めたりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3195209号公報
【文献】特許第3509472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的なフッ素樹脂被膜の引っ掻き硬度は、鉛筆硬度でHB~6H程度である。このため、上述したフッ素樹脂コーティングを施した断熱容器では、使い続けるうちに徐々にフッ素樹脂被膜に摩耗や傷などが生じてしまう。その結果、フッ素樹脂被膜の一部が剥離する、いわゆるピンホールの発生によって、このピンホールを起点にフッ素樹脂被膜が剥離し易くなってしまう。
【0006】
フッ素樹脂被膜が剥離した箇所は、防錆機能が失われるため、基材表面の金属に錆などの腐食が発生し易くなる。一方、ピンホールの発生を予防するため、フッ素樹脂被膜の膜厚を厚くし過ぎると、フッ素樹脂被膜の密着性が低下してしまい、フッ素樹脂被膜が逆に剥がれ易くなってしまう。このため、フッ素樹脂被膜を適切な膜厚に設定しておく必要がある。
【0007】
また、フッ素樹脂被膜には臭いなどが吸着し易く、フッ素樹脂自体の臭いもある。このため、使い続けるうちに内容器の内側に臭いが残ることがある。さらに、フッ素樹脂による撥水性が徐々に失われることによって、内容器の内側に汚れなどが残り易くなり、内容器の内側を衛生的に保つことが困難となってしまう。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、内容器の内面に、耐摩耗性や耐腐食性に優れ、なお且つ、汚れや臭いの付着を防止したコーティングを施すことを可能とした断熱容器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 一端が開口した金属製の外容器及び内容器を有して、前記外容器の内側に前記内容器を収容した状態で互いに接合されると共に、前記外容器と前記内容器との間に真空断熱層が設けられた断熱容器であって、
前記内容器の内面に、中間層と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層とが、順次積層して設けられ、
前記中間層の厚みが前記DLC層の厚み以上であり、
前記中間層と前記DLC層とを合わせた厚みが均一となることで、前記内容器の内側が全面に亘って均等に着色されていることを特徴とする断熱容器。
〔2〕 前記中間層と前記DLC層との厚みの合計が4~250nmであることを特徴とする前記〔1〕に記載の断熱容器。
〔3〕 前記中間層の厚みをAとし、前記DLC層の厚みBとしたときに、A:B=(1~9):1
の関係を満足することを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の断熱容器。
〔4〕 前記DLC層の表層がフッ素により改質されていることを特徴とする前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の断熱容器。
〔5〕 前記DLC層の上にフッ素含有DLC層が積層されていることを特徴とする前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の断熱容器。
〔6〕 前記中間層の厚みをAとし、前記DLC層の厚みをBとし、前記フッ素含有DLC層の厚みをCとしたときに、
A:B:C=(5~8):(1~2.5):(1~2.5)の関係を満足することを特徴とする前記〔5〕に記載の断熱容器。
〔7〕 前記フッ素含有DLC層における水の接触角が80°以上であることを特徴とする前記〔4〕又は〔5〕に記載の断熱容器。
〔8〕 前記中間層は、炭素及び珪素と共に、窒素、水素、酸素のうち何れか1種以上の元素を含む非晶質の炭化珪素膜からなり、
前記DLC層は、炭素及び水素を含む非晶質の硬質炭素膜からなることを特徴とする前記〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の断熱容器。
〔9〕 一端が開口した金属製の外容器及び内容器を有して、前記外容器の内側に前記内容器を収容した状態で互いにが接合されると共に、前記外容器と前記内容器との間に真空断熱層が設けられた断熱容器の製造方法であって、
前記内容器の内面に、プラズマ化学気相成長(プラズマCVD)法を用いて、中間層と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層とを、順次積層して形成する工程を含み、
前記中間層の厚みを前記DLC層の厚み以上とし、
前記中間層と前記DLC層とを合わせた厚みを均一にすることで、前記内容器の内側を全面に亘って均等に着色することを特徴とする断熱容器の製造方法。
〔10〕 前記断熱容器を成膜室の内部に設置した後に、前記成膜室の内部を減圧し、カソード側の前記断熱容器とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態で、前記内容器の内側に順次導入される前記中間層と前記DLC層との原料ガスをプラズマ化することによって、前記中間層と、前記DLC層とを、順次積層して形成することを特徴とする前記〔9〕に記載の断熱容器の製造方法。
〔11〕 前記DLC層の表層をフッ素により改質することを特徴とする前記〔9〕又は〔10〕に記載の断熱容器の製造方法。
〔12〕 前記断熱容器を成膜室の内部に設置した後に、前記成膜室の内部を減圧し、カソード側の前記断熱容器とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態で、前記内容器の内側に順次導入される前記中間層と前記DLC層との原料ガスをプラズマ化することによって、前記中間層と、前記DLC層とを、順次積層して形成した後に、
前記内容器の内側に、フルオロカーボン系ガスを導入し、プラズマ化することによって、前記DLC層の表層をフッ素により改質することを特徴とする前記〔11〕に記載の断熱容器の製造方法。
〔13〕 前記DLC層の上にフッ素含有DLC層を形成することを特徴とする前記〔9〕又は〔10〕に記載の断熱容器の製造方法。
〔14〕 前記断熱容器を成膜室の内部に設置した後に、前記成膜室の内部を減圧し、カソード側の前記断熱容器とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態で、前記内容器の内側に順次導入される前記中間層と前記DLC層との原料ガスをプラズマ化することによって、前記中間層と、前記DLC層とを、順次積層して形成した後に、
前記内容器の内側に、前記DLC層の原料ガスと共にフルオロカーボン系ガスを導入し、プラズマ化することによって、前記DLC層の上にフッ素含有DLC層を形成することを特徴とする前記〔13〕に記載の断熱容器の製造方法。
〔15〕 前記中間層の原料ガスとして、有機珪素化合物ガスを用い、
前記DLC層の原料ガスとして、炭化系水素ガスを用いることを特徴とする前記〔9〕~〔14〕の何れか一項に記載の断熱容器の製造方法。
〔16〕 前記中間層を形成する前に、前記内容器の内面を加熱する加熱工程を含むことを特徴とする前記〔9〕~〔15〕の何れか一項に記載の断熱容器の製造方法。
〔17〕 前記加熱工程において、前記内容器の内面をプラズマエッチングすることにより加熱することを特徴とする前記〔16〕に記載の断熱容器の製造方法。
〔18〕 前記加熱工程において、前記内容器の内面の温度を80~250℃とすることを特徴とする前記〔16〕又は〔17〕に記載の断熱容器の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、内容器の内面に、耐摩耗性や耐腐食性に優れ、なお且つ、汚れや臭いの付着を防止したコーティングを施すことを可能とした断熱容器及びその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る断熱容器の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す断熱容器が備える内容器の内側を一部拡大したものであり、(a)はその一例を示す断面図、(b)はその他例を示す断面図である。
【
図3】
図1に示す断熱容器の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らないものとする。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
(断熱容器)
先ず、本発明の一実施形態として、例えば
図1及び
図2(a),(b)に示す断熱容器1について説明する。
なお、
図1は、断熱容器1の構成を示す断面図である。
図2は、断熱容器1が備える内容器3の内側を一部拡大したものであり、(a)はその一例を示す断面図、(b)はその他例を示す断面図である。
【0014】
本実施形態の断熱容器1は、
図1に示すように、例えばステンレス等からなる金属製の外容器2及び内容器3を備えている。断熱容器1は、一端が開口した外容器2の内側に一端が開口した内容器3を収容した状態で、互いの開口端同士が接合されると共に、これら外容器2と内容器3との間に真空断熱層4が設けられた真空断熱構造を有している。
【0015】
真空断熱層4は、例えば、高真空に減圧(真空引き)されたチャンバー内で、外容器2の底面中央部に設けられた脱気孔をろう材により封止することによって形成することができる。
【0016】
断熱容器1では、このような真空断熱構造を有することで、保温や保冷といった機能を持たせることが可能である。
【0017】
また、本実施形態の断熱容器1は、蓋付き容器として、この断熱容器1に対して螺合により脱着される蓋体(図示せず。)によって、この断熱容器1の上部開口部を開閉することが可能となっている。
【0018】
なお、本実施形態の断熱容器1は、全体として略円筒状の外観形状を有しているが、断熱容器1の外観形状については、特に限定されるものではなく、サイズやデザイン等に合わせて、適宜変更を加えることが可能である。また、外容器2の外面には、塗装や印刷等が施されていてもよい。
【0019】
ところで、本実施形態の断熱容器1では、
図2(a)に示すように、内容器3の内面に、中間層11と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層12とが、順次積層して設けられている。また、DLC層12には、その表層をフッ素により改質したフッ素改質部12aが設けられている。
【0020】
又は、本実施形態の断熱容器1では、
図2(b)に示すように、内容器3の内面に、中間層11と、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層12と、フッ素含有DLC層13とが、順次積層して設けられている。
【0021】
中間層11は、炭素(C)及び珪素(Si)と共に、窒素(N)、水素(H)、酸素(O)のうち何れか1種以上の元素を含む非晶質(アモルファス)の炭化珪素膜からなる。中間層11は、DLC層12の密着性を向上させるため、内容器3の内面とDLC層12との間に設けられている。
【0022】
中間層11の厚みは、DLC層12の厚み以上となっている。中間層11の厚みがDLC層12の厚み未満になると、内容器3の内面とDLC層12との間における密着性が悪くなり、DLC層12が剥離し易くなる。
【0023】
DLC層12は、例えば、水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C:H)や水素化アモルファスカーボン(a-C:H)などの炭素(C)及び水素(H)を含む非晶質の硬質炭素膜からなる。DLC層12の水素含有量は、10~40原子%であることが好ましく、20~30原子%であることが特に好ましい。また、DLC層12としては、例えば、テトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C)やアモルファスカーボン(a-C)などの水素(H)を含まない非晶質の硬質炭素膜を用いてもよい。DLC層12は、ヌープ硬度(HK)で1500~3000であることが好ましい。
【0024】
DLC層12は、高硬度、低摩擦、化学的に不活性、高い離型性、非吸着性といった優れた特性を有している。これにより、内容器2の内側における耐摩耗性、耐腐食性、清掃性などを向上させることが可能である。また、汚れや臭いの付着を防止することが可能である。
【0025】
中間層11とDLC層12とを合わせた厚み合計、又は、中間層11とDLC層12とフッ素含有DLC層13とを合わせた厚みの合計は、4~250nmであることが好ましい。この厚みの合計が4nm未満になると、内容器3の内側において、均等に成膜することが困難となる。一方、この厚みの合計が250nmを超えると、内容器3の内側において、内容器3の変形や、外力による変形圧力に耐えられず、破壊や剥離が生じ易くなる。また、この厚みの合計が増加すると、成膜の原料コストが嵩むため不経済である。
【0026】
本実施形態の断熱容器1では、中間層11とDLC層12とを合わせた厚み合計、又は、中間層11とDLC層12とフッ素含有DLC層13とを合わせた全体の厚みを均一にすることによって、内容器3の内側を全面に亘って均等に着色することが可能である。また、これら全体の厚みを制御することによって、色味を変化させることも可能である。
【0027】
また、本実施形態の断熱容器1では、中間層11の厚みをAとし、DLC層12の厚みBとしたときに、下記式(1)の関係を満足することが好ましい。
A:B=1~9:1 …(1)
【0028】
上記式(1)の関係を満足することで、内容器3の内面とDLC層12との間における密着性を中間層11により安定的に保持することが可能である。
【0029】
フッ素改質部12aは、DLC層12の表層をフッ素により改質したものからなり、DLC層12の表面から深さ方向に向かうに従ってフッ素濃度が低くなっている。一方、フッ素含有DLC層13は、フッ素(F)を含有した非晶質の硬質炭素膜からなり、DLC層12の上に積層して設けられている。
【0030】
本実施形態の断熱容器1では、フッ素改質部12aを含むDLC層12の表面又はフッ素含有DLC層13の表面における水の接触角が80°以上であり、且つ、ヌープ硬度(HK)が1000以上であることが好ましい。これにより、撥水性に優れた高硬度のフッ素含有DLC層13とすることが可能である。
【0031】
また、本実施形態の断熱容器1では、中間層11の厚みをAとし、DLC層12の厚みをBとし、フッ素含有DLC層13の厚みをCとしたときに、下記式(2)の関係を満足することが好ましい。
A:B:C=(5~8):(1~2.5):(1~2.5) …(2)
【0032】
上記式(2)の関係を満足することで、内容器3の内面とDLC層12との間における密着性を中間層11により安定的に保持しながら、DLC層12の上に良好なフッ素含有DLC層13を設けることが可能である。
【0033】
以上のように、本実施形態の耐熱容器1では、上述した従来のフッ素樹脂コーティングよりも耐久性や耐摩耗性に優れ、なお且つ、汚れや臭いの付着を防止したコーティング(以下、「DLCコーティング」という。)を内容器3の内面に施すことが可能である。
【0034】
(断熱容器の製造方法)
次に、上記断熱容器1の製造方法について、
図3を参照しながら説明する。
なお、
図3は、断熱容器1の製造工程を示すフローチャートである。
【0035】
本実施形態の断熱容器1の製造方法では、内容器3の内面に、プラズマ化学気相成長(プラズマCVD)法を用いて、中間層11と、DLC層12とを、順次積層して形成する。また、DLC層12の表層をフッ素により改質したフッ素改質部12aを形成する。又は、DLC層12の上にフッ素含有DLC層13を形成する。
【0036】
具体的には、先ず、
図3に示すステップS1において、DLCコーティングを施す前(成膜前)の断熱容器1を準備する。
【0037】
次に、
図3に示すステップS2において、断熱容器1をプラズマCVD成膜装置の成膜室(チャンバー)の内側に設けられたホルダに設置した後、成膜室の内部を真空引きにより減圧状態とし、カソード側の断熱容器1とアノード側の補助電極との間で電圧を印加した状態とする。断熱容器1は、導電性材料(金属)からなるため、カソードとして機能する。
【0038】
このとき、高周波電源の周波数は、50kHz以上、13.56MHz以下であることが好ましく、500kHz以上、800kHz以下であることがより好ましい。また、成膜室内の圧力は、0.5Pa以上、100Pa以下であることが好ましい。
【0039】
この状態で、内容器3の内側に、導入管を通してアルゴン(Ar)ガスを導入し、プラズマを発生させることによって、内容器3の内面をプラズマエッチングする。これにより、内容器3の基材表面を清浄に処理(クリーニング)する。また、Arガスに替えて、他の不活性ガス(例えば、Xe、He、N2など。)を用いることができる。
【0040】
また、このプラズマエッチングによって、内容器3の基材表面を加熱することができる。このとき、基材の表面温度は、80~250℃とすることが好ましく、120~200°とすることがより好ましい。基材の表面温度が80℃未満であると、後述する内容器3の内面に中間層11及びDLC層12を形成する際の温度が不足し、DLC層12が剥離し易くなる。一方、基材の表面温度が250℃を超えると、プラズマエッチングにかかる時間が長くなり、製造コストが嵩むことになる。
【0041】
次に、
図3に示すステップS3において、内容器3の内側に、導入管を通して中間層11の原料ガスを導入し、プラズマ化することによって、内容器3の内面に中間層11を形成する。
【0042】
具体的に、中間層11の原料ガスとしては、例えば、テトラメチルシラン(Si(CH3)4)や、トリメトキシシラン(SiH(OCH3)3)テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)、ヘキサメチルジシラザン(C6H19NSi2)、ヘキサメチルジシロキサン(C6H18OSi2)、トリスジメチルアミノシラン(SiH[N(CH3)2]3)、などの有機珪素化合物ガスを用いることができる。
【0043】
中間層11の原料ガスは、内容器3の内側に導入される。このとき、中間層11の原料ガスをプラズマ状態とし、生成されるラジカルを内容器3の内面(基材表面)に堆積させながら、中間層11を成膜する。
【0044】
次に、
図3に示すステップS4において、内容器3の内側に、導入管を通してDLC層12の原料ガスを導入し、プラズマ化することによって、内容器3の内面に中間層11を介してDLC層12を形成する。
【0045】
具体的に、DLC層12の原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)や、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)、トルエン(C6H5CH3)などの炭化水素系ガスを用いることができる。DLC層12の原料ガスは、内容器3の内側に導入される。このとき、DLC層12の原料ガスをプラズマ状態とし、生成されるラジカルを中間層11の上に堆積させながら、DLC層12を成膜する。
【0046】
上述したように、中間層11の厚みをDLC層12の厚み以上とすることで、中間層11を介して内容器3の内面とDLC層12との間における密着性を良くすることが可能である。また、上記式(1)の関係を満足することが好ましい。これにより、内容器3の内面とDLC層12との間における密着性を中間層11により安定的に保持することが可能である。
【0047】
また、中間層11を形成する前に、上述したプラズマエッチングを含む加熱工程によって、内容器3の内面を加熱することが好ましい。この場合、熱膨張した内容器3の表面に中間層11が形成されるため、成膜後に常温となった中間層11及びDLC層12には、冷却に伴う内容器3の収縮によって圧縮応力が加わることになる。これにより、使用時に断熱容器1に温かい飲料等を入れた場合に、内容器3の熱膨張に対して中間層11及びDLC層12に引張応力が加わることを回避できる。その結果、これら中間層11及びDLC層12にヒビや割れ等が発生することを防ぐと共に、DLC層12の密着性を向上させることが可能である。
【0048】
次に、
図3に示すステップS5において、DLC層12の表層をフッ素により改質したフッ素改質部12aを形成する。又は、DLC層12の上にフッ素含有DLC層13を形成する。
【0049】
具体的に、内容器3の内側に、例えば、テトラフルオロメタン(CF4)や、ヘキサフルオロエタン(C2F6)、オクタフルオロプロパン(C3F8)、オクタフルオロシクロブタン(c-C4F8)、トリフルオロメタン(CHF3)、六フッ化硫黄(SF6)、トリフルオロアミン(NF3)などのフッ素系ガスを導入し、プラズマ化することによって、DLC12層の表層を改質する。これにより、DLC層12の表層にフッ素改質部12aを形成することができる。
【0050】
一方、内容器3の内側に、上述したフッ素系ガスをDLC層12の原料ガスと共に導入し、プラズマ化することによって、DLC層12の上にフッ素含有DLC層13を形成することができる。
【0051】
上述したように、フッ素含有DLC層13を形成する際は、上記式(2)の関係を満足することが好ましい。これにより、内容器3の内面とDLC層12との間における密着性を中間層11により安定的に保持しながら、DLC層12の上に良好なフッ素含有DLC層13を形成することが可能である。
【0052】
次に、
図3に示すステップS6において、成膜室12の内部に窒素(N
2)ガスを導入して、成膜室の内部圧力を常圧とする。これにより、成膜室を開放し、断熱容器1を取り出すことができる。
以上のような工程を経ることによって、内容器3の内面にDLCコーティングが施された断熱容器1を製造することが可能である。
【0053】
以上のように、本実施形態の断熱容器1の製造方法では、上述した従来のフッ素樹脂コーティングよりも耐摩耗性や耐腐食性に優れ、なお且つ、汚れや臭いの付着を防止したDLCコーティングを内容器3の内面に施した断熱容器1を製造することが可能である。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
具体的に、上記断熱容器1では、内容器3の内面の全面に亘ってDLCコーティングが施された構成となっているが、例えば、外容器2の外面に設けられた口頸部には、蓋体を螺合により脱着する雄ネジ部が設けられている。この雄ネジ部にDLCコーティングを施した構成としてもよい。さらに、内容器3の内面と共に、外容器2の外面にDLCコーティングを施した構成であってよい。
【0055】
また、上記断熱容器1では、上述したフッ素改質部12a又はフッ素含有DLC層13を省略し、内容器3の内面に、中間層11と、DLC層12とが、順次積層して設けられた構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…断熱容器 2…外容器 3…内容器 4…真空断熱層 11…中間層 12…DLC層 12a…フッ素改質部 13…フッ素含有DLC層