(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】機能性衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/002 20060101AFI20231005BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231005BHJP
A41D 13/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A41D13/002 105
A61B5/00 102C
A61B5/00 102A
A41D13/12 181
(21)【出願番号】P 2019126214
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】井上 英治
(72)【発明者】
【氏名】土井 与之
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155773(JP,A)
【文献】特開2013-022217(JP,A)
【文献】特開2017-197900(JP,A)
【文献】特開2015-070917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/002
A41D1/00
A61B5/00-5/01
A61B5/256
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の生体情報を取得可能な生体センサを備えた
肌の上に直接着用する肌着タイプの下衣と、
前記下衣に重ねて着用される上衣とを有し、
前記上衣は、電源部と、該電源部からの電力供給によって動作し前記下衣の前記生体センサで取得された前記生体情報をインターネット経由で情報処理部へと送信するデータ送信部とを備えることを特徴とする、機能性衣服。
【請求項2】
前記上衣は、衣服内の環境を調節可能な環境調節部をさらに備える、請求項1に記載の機能性衣服。
【請求項3】
前記環境調節部は、外部の空気を服内に取り込むファンを有し、前記ファンを動作させる前記電源部が前記データ送信部と一体に構成されている、請求項2に記載の機能性衣服。
【請求項4】
前記生体センサは、前記下衣の胸部に配置され、前記着用者の心拍を検出するとともに、前記着用者の動作を検出可能な加速度センサと、服内の温度を検出可能な温度センサとを備える、請求項1~3のいずれかに記載の機能性衣服。
【請求項5】
前記環境調節部は、前記生体情報自体、および、前記生体情報に基づく前記情報処理部でのデータ処理結果の少なくともいずれか一方に基づいて服内の環境を調節する、請求項2に記載の機能性衣服。
【請求項6】
前記情報処理部は、前記生体情報を用いて前記着用者の熱中症発症リスク管理を行う請求項1~5のいずれかに記載の機能性衣服。
【請求項7】
前記上衣は、前記情報処理部でのデータ処理結果を前記着用者に報知する報知手段をさらに備える、請求項6に記載の機能性衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、着用者の身体状況を把握するとともに服内の環境を調節することができる機能性衣服に関し、特に、着用者の生体情報を取得する機能を有する下衣と、この下衣に重ねて着用する服内環境調節機能を備えた上衣とを含む、機能性衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に伴う平均気温の上昇によって、熱中症発症リスクの高まりが懸念されている。このような環境下で、夏の日中、工事現場や建設現場などで作業する作業者の熱中症の発症リスクを低減する手段として、外部の空気を服の内部に取り込んで着用者の体温上昇を押さえる空調機能のついた作業着(空調衣服)が一般化している。
【0003】
この空調衣服は、通気性の低い素材で構成された服本体と、着用時に着用者の左右両方の腰に位置する部分に設けられた2つのファンと、2つのファンを動作させる電源となる電池や制御回路を備えている。着用者が空調衣服を着用した状態でファンを動作させると、外部から服の内部に強制的に流れ込む空気によって服の内面と身体または下着との間に間隙が生じるとともに、ファンで取り込まれた空気が衿部分や袖口から外に放出される空気経路が形成される。このため、服の内部に熱が籠もってしまうことを防止するとともに、着用者の汗を乾かす作用が生じて体感的にも暑さを和らげることができる。
【0004】
このような空調衣服について、ファンを動作させる電源部や電源からの供給電力を調整してファンの回転数を変化させる制御部を前身頃に配置して、着用者による操作や動作状況の確認を容易にしたもの(特許文献1参照)や、着用者の体温を把握してファンの回転数を増減させる自動制御機能を有するもの(特許文献2参照)などが提案されている。
【0005】
また、所定の機能を備えた機能性衣服として、着用者の生体情報を取得する機能を有する衣服(インナー)も提案されている(特許文献3参照)。特許文献3に記載の衣服は、内側の表面が着用者の皮膚に触れるインナーであって、着用者の身体の動きや心拍、血圧、体温などの生体情報を取得するために、衣服の内面に配置された複数個の電極と、電極により捉えられた電気信号を生体信号として処理する信号処理手段と、無線LANを通じて信号処理手段で処理された生体信号データをパソコンなどに送信可能な送信手段と、これらの各種電気回路手段を動作させる動作電源(電池)とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-193622号公報
【文献】特開2017-166075号公報
【文献】特開2015- 70917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の機能性衣服は、ファンやセンサが衣服に取り付けられているため、着用者は通常の衣服を着用するのと同じような感覚で身にまとうことができ、それぞれ専用の機器を装着する場合と比較して、着用者の負担や違和感を低減しつつ、服内環境の調整や生体情報の取得などの機能を果たすことができる。
【0008】
しかし、従来の機能性衣服では、一つの衣服に多くの機能を搭載すると自然に近い着用感という最大のメリットを失うこととなり、複数の機能を同時に果たすことができないという制限が生じていた。また、例えば、特許文献3に示す従来技術では、電極に生じる電位の変化を所望する生体情報に変換するデータ処理部や得られた生体信号を送信するための送信部を、別途構成して腰部分にベルトで装着することが必要であり、着用者に一定以上の負担や違和感を与えてしまうという限界を有していた。
【0009】
本願は、上記従来技術の有する課題を解決することを目的とするものであり、発揮される機能の精度や効果を高めることができ、しかも、着用者に与える違和感や不便さを極力低減することができる、新たな機能性衣服を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願で開示する機能性衣服は、着用者の生体情報を取得可能な生体センサを備えた下衣と、前記下衣に重ねて着用される上衣とを有し、前記上衣は、電源部と、該電源部からの電力供給によって動作し前記下衣の前記生体センサで取得された前記生体データをインターネット経由で情報処理部へと送信するデータ送信部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成により、本願で開示する機能性衣服は、生体情報を取得する下衣を着用する上での着用者の違和感を大きく低減するとともに、衣服の着用者に別途専用機器を所持させることなく得られた生体情報を情報処理部に送信することができる。また、本願で開示する機能性衣服では、得られた生体情報に基づいて、着用者や着用者を含む集団についての体調に関する正確なデータの取得や詳細な解析を行うことができ、さらには、得られたデータに基づくより精度の高いフィードバックを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態として説明する熱中症発症リスク管理システムの全体構成を説明するイメージ図である。
【
図2】
図2は、実施形態として説明する熱中症発症リスク管理システムの各部の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態にかかる生体情報評価システムに用いられるアンダーシャツの構成を説明する図である。
図3(a)がアンダーシャツの表面を、
図3(b)がアンダーシャツの裏面を示す。
【
図4】
図4は、本実施形態にかかる生体情報評価システムに用いられる空調衣服の構成を説明する図である。
図4(a)が空調衣服の背面を、
図4(b)が空調衣服の前面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願で開示する機能性衣服は、着用者の生体情報を取得可能な生体センサを備えた下衣と、前記下衣に重ねて着用される上衣とを有し、前記上衣は、電源部と、該電源部からの電力供給によって動作し前記下衣の前記生体センサで取得された前記生体データをインターネット経由で情報処理部へと送信するデータ送信部とを備える。
【0014】
本願で開示する機能性衣服は、生体センサを備える生体情報取得専用の下衣であるため着用者に与える違和感を大幅に軽減できるとともに、得られた生体情報をインターネットを介して情報処理部へと送信するデータ送信部が上衣に備えられているため、着用者がデータ送信のための特別な部材を別途所持する必要が無い。このため、機能性衣服を着用する着用者への負担を軽減しつつ正確な生体情報を確実に取得し、情報処理部で詳細かつ幅広いデータ処理を行うことができる。
【0015】
なお、本願明細書において下衣とは、上衣よりも肌側に着用する衣服であって、一般にアンダーシャツやインナーと呼ばれるタイプの衣服を意味する。生体の電気信号を取得する生体センサは、肌とセンサ電極が接触している必要があるため、下衣は肌の上に直接着用する肌着タイプが好ましい。また、心拍や体動を検出する場合は、心臓に近い胸部や全身の動きを検出しやすい上半身にセンサを設けるため、上半身に着用するシャツやタンクトップといったトップスタイプの衣服が好ましいが、使用する環境によっては下半身に着用するズボンやパンツといったボトムスタイプや、ジャンプスーツ又はワンピース等の形態であってもよい。
【0016】
本願で開示する機能性衣服において、前記上衣は、衣服内の環境を調節可能な環境調節部をさらに備えることが好ましい。このようにすることで、取得された生体情報を送信する機能に加えて着用者を環境温度から守る機能を有した機能性衣服を実現できる。
【0017】
また、前記環境調節部は、外部の空気を服内に取り込むファンを有し、前記ファンを動作させる前記電源部が前記データ送信部と一体に構成されていることが好ましい。このようにすることで、暑熱負荷対策として一般的な空調衣服の機能を発揮させつつ、着用者に違和感を抱かせることなく、取得された生体情報を情報処理部に送信することができる。
【0018】
また、前記生体センサは、前記下衣の胸部に配置され、前記着用者の心拍を検出するとともに、前記着用者の動作を検出可能な加速度センサと、服内の温度を検出可能な温度センサとを備えることが好ましい。このようにすることで、着用者の生体情報として、着用者の心拍を正確に取得できるとともに、着用者の身体の動きや着用者が置かれている暑熱環境をも把握することができる。
【0019】
さらに、前記環境調節部は、前記生体情報自体、および、前記生体情報に基づく前記情報処理部でのデータ処理結果の少なくともいずれか一方に基づいて服内の環境を調節することが好ましい。このようにすることで、着用者の状態に応じたより適切な服内環境を実現することができる。
【0020】
また、前記情報処理部は、前記生体情報を用いて前記着用者の熱中症発症リスク管理を行うことができる。この場合において、前記上衣は、前記情報処理部でのデータ処理結果を前記着用者に報知する報知手段をさらに備えることが好ましい。
【0021】
以下、本願で開示する機能性衣服について図面を用いて説明する。
【0022】
(実施の形態)
以下の実施形態では、着用者の生体情報を取得し、インターネット経由で情報処理部へと送信することができる機能性衣服について、管理対象者についての熱中症の発症リスクを管理する体調評価システムに用いられる場合を例として説明する。以下で説明する体調評価システムは、環境面や作業内容から熱中症を発症するリスクが高くなることが想定される建設現場などでの作業者を管理対象者として、管理対象者の各人の生体情報を把握して随時体調の評価を行い、この体調評価結果から熱中症の発症リスクの高まりを把握して、必要な場合には涼しい場所での休息を促すなどして、熱中症の発症リスクを低減させるものである。
【0023】
図1は、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムの概略構成を説明するためのイメージ図である。
【0024】
また、
図2は、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムの各部の構成例を示すブロック図である。なお、
図2では、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムを構成する各構成部材について、その機能に応じてブロックにわけて記載し、物理的な一体性とは無関係に表されている。すなわち、
図2において、異なるブロックとして示されている2つ以上の部材が同一の回路基板上に構成されている場合がある一方で、
図2において1つのブロックとして表されている部材が、物理的には2つ以上の異なる部材として分割して配置されている場合がある。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に示す熱中症発症リスク管理システムは、管理対象者である作業者が着用することで当該作業者の生体情報を取得してインターネット上の機器に送信する機能を有する機能性衣服100と、インターネットを介して作業者の生体情報を取得して、当該作業者の熱中症発症リスクを評価する情報処理部であるクラウドサーバ31、さらに、管理対象の作業者を含む作業グループを監督する現場監督が使用する監督者情報端末40、システム全体の管理、全体データの収集や分析などを行うデータセンタの管理用端末50を含んでいる。
【0026】
なお、図示の都合上、
図1、および、
図2では、機能性衣服100と監督者情報端末40とを、それぞれ一つ(一組)のみ表しているが、本実施形態で示す熱中症発症リスク管理システムのように、建設現場における作業者を管理対象者とするシステムの場合には現場での作業の状態に対応させてシステムを構成するため、作業者が着用する機能性衣服100は、一つには限られない。一般的には、数名から十数名、多い場合には数十名程度の作業者が1つの作業グループを構成して一人の現場監督の監督下に置かれる場合が多く、この場合には、機能性衣服100は当然ながら管理対象者である作業者の人数分存在してその全てが熱中症発症リスク管理システムを構成する。また、大きな建設現場などでは、それぞれ複数人の作業者を監督する現場監督が複数配置される場合があり、この場合には、監督者情報端末40も現場監督の人数に応じて複数台が熱中症発症リスク管理システムに含まれることとなる。
【0027】
さらに、
図1、および、
図2では、作業者と現場監督との2つの階層に対応してシステムが構成された状態を示したが、大きな建設現場では、複数の一次監督者がより上位の二次管理者である統括監督者に統括管理される場合があり、この場合には、熱中症発症リスク管理システムにおいても、統括監督者が使用する統括者情報端末を設けて、複数の監督者や、さらに各監督者が監督する作業者全体の状況を把握することが可能なシステム構成とすることができる。
【0028】
図1に示すように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、作業者が直接肌の上に着用する下衣であるアンダーシャツ10と、アンダーシャツ10の上に重ねて着る上衣である空調衣服20とで機能性衣服100が構成されている。
【0029】
アンダーシャツ10は、着用者である作業者の心拍などの生体情報を取得する生体センサとしての生体情報取得部11と、取得された作業者の生体情報をブルートゥース(登録商標)などの無線通信手段を介して同じ着用者が着用する上衣である空調衣服20へと送信する無線通信部12とを有している。
【0030】
図3は、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおいて作業者が着用する下衣であるアンダーシャツの構成例を示す図である。
図3(a)が、着用時に外側となるアンダーシャツの表面を示し、
図3(b)がアンダーシャツの裏面、すなわち、作業者の体表面に対向して接触する側を示している。
【0031】
図3に示すように、作業者が着用するアンダーシャツ10の胸部には、生体情報取得部11が配置されている。より具体的には、生体情報取得部11は、アンダーシャツ10の表面10aの胸部中央部分に配置された、データ取得送信ユニット11aと、このデータ取得送信ユニット11aに接続され、アンダーシャツ10の裏面10b、つまり、作業者の皮膚に接する側の部分に左右方向に延在して配置された電極部11bとから構成されている。
【0032】
データ取得送信ユニット11aは、電極部11bに流れる微弱な電流に基づいて着用している作業者の心拍を検出する心拍検出部や、上衣の内側の服内温度を検出する温度センサ、作業者の身体の動きを検出する三次元加速度センサチップなどの各種の検出素子を備えている。また、データ取得送信ユニット11aは、検出素子により検出された作業者の生体情報を上衣である空調衣服に送信する無線通信部12、さらに、これら検出素子や無線通信部12の動作電源であるボタン型の一次電池、または、充電可能な二次電池を内部に備えている。
【0033】
データ取得送信ユニット11(a)は、電極部11bに対して着脱可能とすることで、データ取得送信ユニット11aを取り外してアンダーシャツの洗濯ができ好都合である。また、データ取得送信ユニット11aは、なるべく薄型・軽量化して、アンダーシャツ10を着用した作業者に違和感を与えないようにすることが好ましい。さらに、データ取得送信ユニット11aのパッケージを樹脂製とすることにより、作業者がかいた汗などに対する防水性能を備えるとともに、特にアンダーシャツ10から取り外された状態で、多少乱雑に扱われても破損しないようにすることができ好ましい。
【0034】
電極部11bは、
図3に示すように、中央部にデータ取得送信ユニット11aの装着部を挟んで左右方向に延在する2つの略長方形状の電極部材として構成することができる。電極部11bは、表面を金属材料でコーティングされた繊維でメッシュ状に構成し、アンダーシャツ10の素材に組み込んで縫製することができる。また、電極部11bを、箔状の金属部材をアンダーシャツの裏面に縫い付けることなどによって、アンダーシャツ10の所定部分に配置することができる。
【0035】
なお、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムに用いられるアンダーシャツ10では、生体情報取得部11が着用者の生体情報として、心拍データ、服内温度データ、身体の動きを示す加速度データの3つのデータを取得するものを例示した。しかし、生体情報取得部11で取得する着用者の生体情報は例示したものには限られず、機能性衣服100を含む評価システムにおけるデータ処理に必要な各種の情報、例えば、着用者の体温(体表温度)や発汗量などを検知できるような構成とすることができる。
【0036】
本実施形態で示す熱中症発症リスク管理システムにおける管理対象者である作業者は、上記したアンダーシャツ10の上に、上衣としての空調衣服20を重ねて着用する。空調衣服20は、外部の空気を服内に取り込む機能を発揮する環境調節部21として、左右の腰部分に配置された2つのファン22と、このファン22の回転を制御する制御部23と、環境調節部21の動作電源である電源部24とを有している。
【0037】
また、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、空調衣服20は服内に空気を取り込む機能に加えて、アンダーシャツ10に配置された生体情報取得部11で取得された作業者の生体情報を、インターネット30上に配置されたクラウドサーバ31へと送信する機能とを有している。このため、空調衣服20は、データ取得送信ユニット11aとの間の無線通信によって、取得された作業者の生体情報を受け取る無線通信部25と、受け取った生体情報をクラウドサーバ31へと送信するデータ送信部26を有している。
【0038】
さらに、本実施形態の熱中症発症リスク管理システムでは、取得された生体情報に基づいて当該作業者についての熱中症の発症リスク評価が行われ、熱中症を発症する可能性が高い作業者に対しては、適宜涼しい場所で休憩するなどの熱中症の発症リスクを低減する対策を採るように指示する。このため、空調衣服20は、インターネット30上のクラウドサーバ31や、後述する現場監督が使用する監督者情報端末40から送信される、警告情報を受信することができるデータ受信部27を備えている。また、警告情報を受信したことを、空調衣服20を着用している作業者に報知するための報知部28を有している。
【0039】
図4は、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおいて作業者が着用する上衣である空調衣服の構成例を示す図である。
図4(a)が、空調衣服の背面側の外観を示し、
図4(b)が空調衣服の前面側の外観を示している。
【0040】
図4に示すように、作業者が着用する空調衣服20は、左右の腰部分にファン22が配置されている。また、本実施形態にかかる空調衣服20では、ファン22のON/OFFや送風量などをコントロールする制御部23が、ファンの動作電源である電源部24内に組み込まれて、一つの部材(ユニット)として空調衣服20の胸ポケット内に収納されている。制御部23および電源部24と2つのファン22とは、電源ケーブル29で接続されている。
【0041】
本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムの空調衣服20は、比較的通風性が低いポリエステルや吸水性の高い綿などの材料で形成されているとともに、ファン22と電源部24、さらに、これらを接続する電源ケーブル29が着脱可能となっていて、空調衣服20を洗濯する際には容易に取り外すことができるようになっている。
【0042】
空調衣服20に対してファン22を着脱可能とする手段は、空調衣服20にちょうどファン22をはめ込むことができる大きさのスリットを形成し、ファン22の送風口近傍に設けられた環状の段差部をこのスリットに挟み込む形態など、従来用いられている空調衣服に着脱可能にファンを装着する周知の手段が採用できる。また、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムの空調衣服20は、ブルゾンタイプの作業着として形成されているため、胸ポケット内に電源部24を容易に収納し、必要に応じて取り出すことができる。電源ケーブル29については、ファン22と電源部24との接続部分を周知のコネクタとして容易に接続、または、取り外しができるようにするとともに、空調衣服20の裏側に数カ所の固定部を設けることで、空調衣服20、および、ファン22と電源部24とに対して容易に着脱可能とすることができる。
【0043】
本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、空調衣服20の胸ポケットに収納される電源部24に、生体情報取得部11から生体情報を受け取ってインターネット30上のクラウドサーバ31へと送信する機能を発揮する手段、さらに、着用者に対して熱中症を発症するリスクの高まりを報知可能とする機能を発揮する手段が、一体的に組み込まれている。
【0044】
具体的には、電源部24に、アンダーシャツ10に配置された無線接続部11との間でブルートゥースにより相互に接続されて生体情報を受け取る無線通信部25、携帯電話のキャリア波を利用して受け取った生体情報をインターネット30上のクラウドサーバ31へと送信するデータ送信部26、同様に携帯電話のキャリア波を用いて警告情報を受け取るデータ受信部27、さらに、音声、振動、ランプの点灯などによって、着用している作業者に熱中症発症リスクが高くなっていることを伝える報知部28が、それぞれの機能を果たす電気回路部品として、電源部24と同じ筐体内に組み込まれてユニット化されている。電源部24の電源としてはリチウムイオン二次電池等の充電可能なバッテリーが好ましい。また、キャリア波を利用するために電源部24にSIMカードを内蔵又は挿入可能としてもよい。
【0045】
なお、電源部24の筐体は、上述のように空調衣服20を洗濯する際などには容易に取り外すことができるが、作業者が着用している状態で雨や作業現場で使用する水がかったり、汗をかいたりして濡れてしまった場合でも電気回路の動作が損なわないように、一定基準の防水処置が施されることが好ましい。また、報知部28として、液晶パネルなどの表示素子によるデータ表示部を備えることで、作業者に対する警告の内容や、アンダーシャツ10に装着された部分を含めた機能性衣服の動作状況を着用者である作業者に伝えることができるようになる。ただし、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおける電源部24は、ブルゾンタイプの作業着の胸ポケットに収納されるものであるため、小型、薄型、軽量に構成されて作業時に邪魔にならないことが重要である。このため、電源部24がどのような機能を備え、具体的にどのような形状・構成とするかについては、胸ポケット内に保持する着用者の負担が大きくなりすぎないように配慮した設計を行うことが優先されるべきである。
【0046】
図示は省略するが、空調衣服20の電源部24は、着用する作業者の認識コードを読取り、または、受信する機能を備えることが好ましい。本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、上述のように、アンダーシャツ10の無線通信部12と電源部24の無線通信部25とがブルートゥースを用いて無線接続されるため、データ取得送信ユニット11aと電源部24との間で相互認証させることで、電源部24はアンダーシャツ10を着用している作業者の生体情報のみを取得することができる。そして、電源部24が、着用する作業者の認識コードを把握することで、それぞれの機能性衣服100のデータ送信部26が送信する生体情報をその機能性衣服100を着用する特定の作業者の情報であることが正確に紐つけられた状態でクラウドサーバ31へと送信される。上述のように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムの実際の運用では、複数の作業者が管理対象となり、それぞれの作業者の生体情報がクラウドサーバ31に送信されるため、送信される生体情報がどの作業者の生体情報であるかを紐付けることが重要である。
【0047】
なお、作業者の認識コードを電源部24が把握する手段としては、外部の送信部からデータ受信部27を介して電源部24に認識コードを送信する方法、電源部24に作業者の認識コードを入力するインターフェースを着脱可能とする方法など、所定のデータを読み込ませる既知の手段を利用することができる。その他の手法としては、電源部24にQRコード(登録商標)のような二次元コードを付加しておき、その二次元コード及び作業者個人を特定するIDカード等を監督者情報端末の読み取り手段で読み取ることで、管理システムに電源部と作業者の情報を紐付けて登録することができる。また、アンダーシャツ10の無線通信部12と空調衣服20の無線通信部25との間の無線通信は、ブルートゥースの規格に準じたものには限られず、相互間にカップリングされた状態で正確なデータの送信と受信とを行うことができる、既知の無線通信を用いることができる。
【0048】
なお、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおける空調衣服20は、作業者の生体情報を生体情報取得部11から受け取って、クラウドサーバ31へと送信する機能を有するために、結果として、着用者の生体情報を随時把握することができる。このことを利用して、空調衣服20が有する服内の環境を調節する機能において、制御部23が生体情報に基づいてその機能を調整することが可能となる。
【0049】
より具体的には、データ取得送信ユニット11aで把握する服内温度が所定の基準値よりも高くなると空調衣服20の制御部23は、ファン22の回転数をより高回転となるように制御することができる。また、制御部23は、服内温度が所定の基準値よりも低くなった場合には、ファン22の回転数を減少させたり、場合によっては停止させたりすることで、ファンが発する騒音を低減したり、電源部24の電源容量を無駄に使用しないように調整することができる。
【0050】
なお、本実施形態の熱中症発症リスク管理システムにおける空調衣服20は、上述のように、作業者が熱中症を発症するリスクが大きくなったことを伝える警告情報を受信して、作業者に報知する機能を有している。このため、熱中症発症リスク管理システムにおける評価結果において、当該作業者の熱中症発症リスクが高くなっていることを把握することができる。このことを利用して、制御部23において、前述した作業者から取得された生体情報に加えて、若しくは、生体情報に代えて、システムの情報処理部である評価・解析部33での解析結果に基づいて、ファンの回転数を高回転とするなどの制御を行うことができる。
【0051】
本実施形態で示す熱中症発症リスク管理システムでは、管理対象者である作業者から得られた生体情報に基づいて、当該作業者の熱中症発症リスクの評価をインターネット30上に配置された情報処理部であるクラウドサーバ31で行う。
【0052】
クラウドサーバ31は、内部に受信部32と熱中症発症リスクの評価を行う評価・解析部33を備えていて、インターネット30を介して空調衣服20のデータ送信部26から送信された各作業者の生体情報を受信して、それぞれの作業者の暑熱環境を評価する。
【0053】
また、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、評価・解析部33によって、熱中症の発症リスクが一定以上であると判断された作業者に対して、その情報を伝達して当該作業者が熱中症発症リスクを低減する対策を採ることを促すものである。このため、クラウドサーバ31の評価・解析部33は、熱中症発症リスクの評価結果が高い状態であることを当該作業者に警告する警告情報を作成し、インターネット30を介して当該作業者の空調衣服20、または、当該作業者が作業する現場を監督する監督者の監督者示用法端末40へと送信する送信部35を備えている。
【0054】
さらに、クラウドサーバ31は、記録部34を備えていて、作業者それぞれの生体情報データ、警告情報の作成履歴などを時系列に記録することができる。
【0055】
また、図示は省略するが、クラウドサーバ31は、インターネット30を介して気象情報を提供する情報サイトなどから気象情報を取得して、評価対象の作業者が作業している地域での気温や湿度、日照量などの現在時刻での気象条件や、今後数時間内における変化を見込んだ気象予報を取得する気象情報取得部を備えることができ、得られた気象情報を、適宜熱中症発症リスクの評価に反映させることができる。
【0056】
さらに、クラウドサーバ31は、記録部34に記憶されている当該作業者についての履歴データ、評価対処の作業者と同じような環境下に置かれている他の作業者に関する記録データ、その他、熱中症発症リスクの変化に関する過去の情報などを参照することで、評価・解析部33において行われる評価対象の作業者の熱中症発症リスク評価を、より多角的な視点から、かつ、高精度で行うことができる。
【0057】
クラウドサーバ31の評価・解析部33において行われるデータ処理の具体例は後に説明する。
【0058】
なお、本実施形態で例示する熱中症発症リスク管理システムにおいて、評価・解析部33や記録部34を備えるのはクラウドサーバ31に限られない。例えば、監督者が使用する監督者情報端末40や、システム全体を管理するデータセンタ50は、インターネット30を介して随時上衣20のデータ送信部26から送信される作業者の生体情報を受信できるため、監督者情報端末40やデータセンタ50に熱中症発症リスクを評価する各種機能を実装してもよく、インターネットを介して、随時作業者の熱中症発症リスクを評価することができるのであれば、熱中症発症リスクを評価・解析する機能部や、過去のデータを記録する機能部分が実装される場所や機器は問わない。
【0059】
作業者を作業現場で監督する現場監督が使用する監督者情報端末40は、インターネットを介して情報のやりとりを行う送受信部41を備えている。この結果、監督者はクラウドサーバ31からの情報によって、自身が監督する作業者個人、または、自身が監督する作業者のグループ全体についての熱中症発症リスクを随時把握することができる。また、クラウドサーバ31からの情報によって、熱中症発症リスクが高くなっている作業者に対して、警告情報を送信することができる。さらに、警告情報が正しく作業者に伝わったか否かを把握できるとともに、警告情報を受け取った作業者が所定の対策を採らなかった場合には、改めて注意喚起を行うことができる。また、作業者が警告情報にしたがって、所定の対策を採った場合には、その旨を監督者としてクラウドサーバ31に送信することができる。
【0060】
さらに、監督者情報端末40は、過去のデータを記録するデータ記録部43を備え、例えば、監督者が、熱中症の発症リスクが高くなりつつある作業者についての過去のデータを参照しながら、クラウドサーバ31からの警告情報を受け取る前に自己判断で当該作業者に対して警告することができる。このようにすることで、熱中症の発症リスクについてよりきめ細やかな管理を行うことができる。
【0061】
監督者情報端末41は、さらに、液晶パネルなどにより構成されたデータ表示部44を備えることで、管理対象の複数の作業者全体、または、個々の作業者についての生体情報をはじめとする各種の情報を視覚的により容易に理解可能なように表示して、監督作業を効率よく、かつ、正確に実行することができる。
【0062】
このような各種機能を備えた監督者情報端末は、
図1に示すようなデスクトップタイプのパーソナルコンピュータを始め、ノート型、タブレット型の各種形態のコンピュータ機器、タブレット端末、スマートフォンなどによって実現することができる。
【0063】
クラウドサーバ31は、インターネット30を通じてデータセンタ50に接続されている。このデータセンタ50は、作業者が所属する会社や事業所内の管理コンピュータとして設置されていて、インターネットを介してクラウドサーバ31や監督者情報端末40との間でデータ送受信を可能とする送受信部51を備え、各作業者の生体情報、各作業者の熱中症発症リスク評価結果、複数の作業者により構成される作業グループ全体の生体情報(平均値等)、作業グループ全体の熱中症発症リスク評価結果、などの各種情報を管理することができる。このため、例えば、現場監督による警告情報のフォローアップが正しく行われていない場合には、データセンタ50が直接介入して対象の作業者に警告情報を伝達することや、監督者情報端末40を通じて、監督者に注意喚起を行うことができる。
【0064】
また、データセンタ50は、より大容量のデータバンクである記録部53を備えることで、属する熱中症発症リスク管理システムにおける過去のデータ、類似する他の熱中症発症リスク管理システムのデータなどを記録することができる。
【0065】
さらに、データセンタ50は、インターネットを介してクラウドサーバ31や、監督者情報端末40と接続されているため、クラウドサーバ31や監督者情報端末40にアクセスして、クラウドサーバ31でのデータ処理内容を制御したり、評価・解析部33での評価プログラムを更新したりするなどのシステム全体のメンテナンスを行うことができる。また、データセンタ50は、クラウドサーバ31から熱中症予防管理に必要な最新の情報を適宜取り出したりすることができる。
【0066】
ここで、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおいて用いられる、熱中症発症リスク評価のアルゴリズムについて簡単に説明する。
【0067】
上述のように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、管理対象者である作業者の生体情報として、心拍データ、身体の動きを示す加速度データ、服内温度データを取得し、取得された作業者の心拍データと加速度データとに基づいて、作業者の行った作業の強度を示す作業負担指数を算出する。また、作業者の服内温度と、必要に応じて把握される作業者が作業している現場の環境温度とに基づいて、作業者の暑熱負荷指数を算出する。そして、これら算出された作業負担指数と暑熱負荷指数とに基づいて、熱中症を発症するリスクを示す熱中症発症リスク指数を算出する。
【0068】
なお、特に作業者の心拍データは、作業者の姿勢によって生体情報取得部11の電極部11bが胸部に密着していない状況となることがあるなど、全てのタイミングで正確なデータが取得できているとは限らないため、例えば1分間における拍動数、または、取得できた拍動の間隔を規定してフィルタリングを行い、正しく取得されていると判断できるデータのみを用いるようにすることができる。また、心拍データが正確に取得できない場合には、加速度データのみに基づいて作業負担指数を求めることも考えられる。
【0069】
同じ作業をした場合でも心拍の変化度合いは作業者毎に異なる値であるため、当該作業者の過去の測定データや、同じような環境で作業する大勢の作業者から取得された標準化データを用いるなどして、身体の動きの大きさと心拍数の変化との相関関係を求め、この相関関係が線形に変化する部分、すなわち、作業負担と心拍とが比例関係で変化する部分を用いて当該作業者の安静時の心拍を推定して、作業負担指数の基準値として用いることが好ましい。なお、作業者の作業状況や作業現場の環境などによって、作業負担指数と暑熱負荷指数に適宜の補正を加えることができる。
【0070】
このようにして、作業者に加わっている肉体的な負担と熱的な負担とを指標として、例えば、その合計値が1を超えた場合に熱中症の発症リスクが高くなっている状態となるように、正規化と線形化とを行うことで、それぞれの作業者における熱中症の発症リスクの大きさを同じ数値で表すことができるようにする。
【0071】
その上で、作業負担指数と暑熱負荷指数との合計値について、上述のように1を超えると熱中症の発症リスクが高まっている「注意」の状態、1.5を超えると熱中症の発症リスクが極めて高い「危険」な状態である、なとど、判定基準を設けることで、各作業者についての熱中症発症リスクを管理することができる。
【0072】
また、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、上記のように各作業者の熱中症発症リスクを2つの指標の線形和として把握できるようにしているため、各作業者の熱中症発症リスク数値を、作業負担指数と暑熱負荷指数とをそれぞれ軸とする2次元マップ上に表示することができる。特に、それぞれの指標が基準値である軸上の点(上記例示の場合は、「通常」状態から「注意」状態となる数値「1」と、「注意」状態から「危険」状態になる数値「1.5」)を結んで2次元マップを領域に区別して、評価対象の作業者の位置づけを示すことで、各作業者の熱中症発症リスクの大きさと、その主たる要因が作業負担(作業のきつさ)なのか熱的要素(温度条件)なのかを一目で把握することができる。
【0073】
このように、熱中症発症リスクの大きさとその要因を視覚的に表すマップを用いることで、特に、複数の作業者を監督する現場監督が使用する監督者情報端末40上に表示することで、全体状況を容易に把握することができる。
【0074】
以上のように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムに用いられる機能性衣服100では、管理対象者である作業者の生体情報を取得する機能を果たすことを重視した下衣と、服内環境を調節する機能としての空調機能を有する上衣が生体情報をインターネット上の情報処理部へと送信する機能をさらに備える。この結果、本実施形態で説明する機能性衣服100では、作業者が生体情報を送信するための手段として従来所持していたスマートフォン等の送信手段を別途所持する必要が無く、作業者が送信手段の所持を忘れたために熱中症発症リスク管理システムの管理下に置かれないという不測の事態や、別途所持する送信手段が作業の邪魔となってしまうという不都合を解消できる。
【0075】
なお、上記実施形態では、機能性衣服100の下衣として、長袖のアンダーシャツ10を用いる例を示したが、下衣は、長袖のアンダーシャツに限られないことは言うまでも無い。下衣を、ノースリーブのいわゆるランニングシャツの形状としたり、半袖、若しくは、7分袖のシャツの形状としたりするなど、基本的に被管理者である作業者の体表面になるべく密着して、生体情報を高い精度で取得できる各種の形状の下衣を採用することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、下衣10における生体情報取得部11の配置位置を胸部として、データ取得送信ユニット11aを身体の中心に配置するようにしたが、下衣における生体情報取得部、特に、取得された生体データを上衣に送信するデータ取得送信ユニットの配置位置は、例示したものには限られない。機能性衣服が組み込まれる体調評価システムにおいて、取得することが必要となる生体情報の種類や、機能性衣服の着用者の動作内容によって、生体情報取得部を適宜好ましい位置に配置すべきことは言うまでも無い。
【0077】
上記実施形態では、機能性衣服の上衣について、ブルゾンタイプの空調衣服を例示したが、例えば、袖の無いベストタイプの空調衣服を上衣とすることができ、空調衣服の形状に制限がないことは言うまでも無い。
【0078】
また、上衣が備える服内環境調節機能について、上記実施形態で例示したファンを備えて外部の空気を服内に取り込む空調衣服には限られず、例えば、上衣が服内温度を下げる機能を有する場合でも、ペルチェ機能を使用する冷却タイプの衣服を上衣として用いることができる。また反対に、服内温度を上昇させる機能として、服内にヒータを組み込んだ衣服を上衣とすることもでき、その他、服内環境を調節する機能を有し、この機能を発揮するために電源を備えた各種の衣服を機能性衣服の上衣として採用することができる。
【0079】
さらに、上衣が有する機能は環境調節機能に限られない。例えば、建築、介護、医療等で用いられるパワードスーツやパワーアシストスーツとよばれるような作業強化服を上衣として採用することができる。これらのスーツには、着用者の身体動作をアシストするための電動アクチュエーター用に電源が搭載されている。この電源にインターネット接続機能を付与し、下衣で取得した心拍等の生体情報を外部のクラウドサーバに送信してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、機能性衣服が採用される体調評価システムとして、建設現場などで働く作業者の熱中症発症リスクを評価するシステムを例示したが、本願で開示する機能性衣服を採用する体調評価システムは、建設現場での熱中症発症リスク管理システムには限られない。
【0081】
例えば、熱中症の発症リスクを管理するシステムであっても、運送業者や引っ越し業者の作業員を評価対象とするシステムや、高齢者施設内の高齢者を評価対象とするシステム、トレーニングを行うスポーツ選手を評価対象とするシステムなど、様々なシステムに評価対象者が着用する機能性衣服として採用することができる。特に、本願で開示する機能性衣服は、着用者から取得した生体情報を、インターネットを介して情報処理部へと送信するものであるため、評価対象者が長距離を移動する場合や、常に位置を変える場合でも容易に対応することができる。また、下衣と上衣との組み合わせによって、着用者に与える違和感や不便さを低減した機能性衣服であるため、着用者が高齢者や激しい動きをするスポーツ選手などの場合には、本願で開示する機能性衣服の特徴による作用効果が有効に発揮される。
【0082】
また、本願で開示する機能性衣服を着用する着用者を評価対象とする評価システムとしては、個々の熱中症発症リスクを評価するのではなく、所定の人数以上の評価者からのデータを利用して集団を解析して、比較的広い領域の一般的な熱中症発症リスクを評価することができる。さらに、熱中症発症リスク以外の体調評価、例えば、着座状態から立ち上がった際の心拍の変化に基づいて作業前の状態のいわゆる健康度評価に準ずる体調評価を行うことができる。また、健康を害している患者の体調を随時評価する場合など、着用者の生体情報に基づいて当該着用者のオンタイムの体調評価に用いることができる。
【0083】
なお、このように多岐にわたる各種の体調評価結果に基づいて、上衣の服内環境調節機能を動作させる制御を行うことが可能であることは、言うまでも無い。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願で開示する機能性衣服は、着用者に違和感や過度の負担を与えずに生体情報を取得して情報処理部へと送信でき、生体情報を用いて評価対象者の体調を評価する各種のシステムにおいて利用することができ、有用である。
【符号の説明】
【0085】
10 アンダーシャツ(下衣)
11 生体情報取得部(生体センサ)
20 空調衣服(上衣)
21 服内環境調節部
24 電源部
26 データ送信部
30 インターネット
31 クラウドサーバ(情報処理部)
100 機能性衣服