(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】検体検査用粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20231005BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N33/543 581E
G01N33/543 581U
G01N33/545 Z
(21)【出願番号】P 2019153197
(22)【出願日】2019-08-23
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】山内 文生
(72)【発明者】
【氏名】須田 栄
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
(72)【発明者】
【氏名】名取 良
(72)【発明者】
【氏名】小林 本和
(72)【発明者】
【氏名】掛川 法重
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-026698(JP,A)
【文献】特表2008-544049(JP,A)
【文献】特開昭63-006463(JP,A)
【文献】A Kondo et al,Delopment and application of thermo-sensitive immunomicrospheres for antibody purification,Biotehcnology and Bioengineering,1994年06月05日,Vol.44, No.1,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含む凝集法用粒子であって、
前記共重合体が、下記式(1)で示す部分構造を有する粒子。
【化1】
(式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は有機アミンであり、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。)
【請求項2】
スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含む凝集法用粒子であって、
前記共重合体が、下記式(1)で示す部分構造、および
下記式(2)で示す部分構造を有する粒子。
【化2】
【化3】
(式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は水素イオン、または有機アミンであり、式(1)および式(2)中、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。)
【請求項3】
前記カウンターイオンR
+の有機アミンが、トリエチルアミンである請求項1または2に記載の凝集法用粒子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の凝集法用粒子に、リガンドが固定しているリガンド感作粒子。
【請求項5】
前記凝集法用粒子のカルボキシ基にリガンドが固定している請求項4に記載のリガンド感作粒子。
【請求項6】
請求項4または5に記載のリガンド感作粒子にポリエチレングリコール、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンが結合しているリガンド感作粒子。
【請求項7】
前記凝集法用粒子のカルボキシ基にポリエチレングリコール、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタンが結合している請求項6に記載のリガンド感作粒子。
【請求項8】
前記リガンドのリガンド固定化量が、前記凝集法用粒子1mgに対して、1μg~500μgである請求項4から7のいずれか1項に記載のリガンド感作粒子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の凝集法用粒子またはリガンド感作粒子が水溶液に分散している粒子分散液。
【請求項10】
前記粒子分散液に、さらに、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項9に記載の粒子分散液。
【請求項11】
請求項4から10のいずれか1項に記載のリガンド感作粒子あるいは粒子分散液を用いた凝集法による検体中の標的物質の検出方法。
【請求項12】
請求項4から10のいずれか1項に記載のリガンド感作粒子あるいは粒子分散液を用いた凝集法による検体中の標的物質の検出に用いるための試薬。
【請求項13】
請求項12に記載の試薬を少なくとも備えることを特徴とする凝集法による検体中の標的物質の検出に用いるためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集法のための検体検査用粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査領域における生体試料(以下、「検体」という。)中の測定対象物質の測定方法として、凝集法のなかでもラテックス免疫凝集法が用いられている。この方法では、リガンドとして抗体あるいは抗原を化学固定してなる粒子(以後、「リガンド感作粒子」、「抗体感作粒子」、あるいは「抗原感作粒子」という。)の分散液と、測定対象物質(抗原あるいは抗体)を含有する可能性のある検体とを混合する。その際、検体中に測定対象物質(抗体あるいは抗原)が含有されていれば、感作粒子が凝集反応を生じるため、この凝集反応を、散乱光強度、透過光強度、吸光度等の変化量として光学的に検出することで測定対象物質の有無を特定、あるいは定量することができる。
【0003】
ラテックス免疫凝集法に用いられる粒子について、検出感度向上と非特異反応抑制が課題となっている。検出感度の向上には、粒子のリガンド感作量を増やすことが提案されている(リガンド感作とは、粒子へのリガンドの固定化を意味する。よってリガンド感作粒子はリガンドを固定化した粒子を意味する)。例えば、特許文献1には、粒子の比表面積を増加させることで、抗体感作量を増やしている。抗体感作量が増えることで、検出できる抗原量が増加する。非特異反応の抑制には、検体中の夾雑物質の粒子への吸着を回避するために、アルブミンや親水性ポリマーで抗体感作粒子をポストコートする方法が、特許文献2に開示されている。特許文献1の抗体感作量を増大させた粒子についてもアルブミンでポストコートして、非特異反応を抑制している。
【0004】
ところで、近年、標的物質に対して親和性を有するリガンドと粒子が化学固定してなるアフィニティー粒子を使用して、標的物質を精製したり、定量したりする研究が広く行われている。このような目的に使用される粒子として、例えば、特許文献3では、スチレンとグリシジルメタクリレートの両モノマーを用い、乳化重合によって表面がポリグリシジルメタクリレートで被覆された樹脂粒子(以下、「SG粒子」という。)が開示されている。SG粒子は、ポリグリシジルメタクリレート由来のエポキシ基が一部開環してグリコールとなっており、このグリコールの親水性に起因して、タンパク質などの粒子への非特異吸着が抑制される。SG粒子表面にリガンドを化学固定する場合、ポリグリシジルメタクリレート由来のエポキシ基をそのまま利用することも可能である。しかし、通常は、エポキシ基をカルボキシ基、アミノ基、チオール基等の別の反応性官能基に変換する工程を経た後、この反応性官能基とリガンドとを化学反応させる方法が一般的である。中でもSG粒子のエポキシ基を適当なスペーサーを介してカルボキシ基に変換した粒子が、粒子表面にリガンドを化学固定する上で最も汎用性があり、好ましい形態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-266970号公報
【文献】国際公開第2017/138608号
【文献】特開2003-26698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの文献に記載された粒子では、検出感度の向上と非特異反応の抑制とを両立させることは困難であった。すなわち、粒子に対するリガンド感作量を増やすことで感度の向上は達成できるが、非特異反応を抑制する為に、ポストコートが必要である。しかしながら、ポストコートの領域を確保するために、粒子に対するリガンド感作量は制限を受ける。また、ポストコートは粒子表面の親水化に対しては有効であるが、物理吸着に基づく一時的な表面修飾であるため、ポストコートが不要な非特異反応が抑制された粒子が望まれる。
【0007】
一方で、特許文献3には、リガンドを粒子に固定させるための粒子表面のスペーサーが開示されている。しかし、特許文献3が、低分子化合物のリガンドを粒子に固定化して目的タンパク質を分離精製することを主な目的としたため、粒子表面のスペーサーは一定サイズの長さを必要とし、スペーサー自身も親水性であることが必須となっているため、ラテックス免疫凝集法に最適なスペーサー構造の具体的な記載はない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、凝集法用粒子の、検出感度の向上と非特異反応の抑制との両立である。具体的には、非特異吸着性が小さく、リガンドを固定化するための反応性官能基を有する粒子であり、リガンドの感作効率が高い粒子およびその製造方法を提供することである。また、本発明では、リガンドとして抗原またはリガンドが化学固定してなる凝集法用の感作粒子、及び標的物質の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、凝集法用粒子として、非特異吸着性が小さく、リガンドを固定化するための反応性官能基を有する粒子を探索した結果、カルボキシ基を含む短いスペーサーを有するSG粒子が、高いリガンド感作効率を示し、かつ非特異反応を抑制できることを明らかにした。
【0010】
即ち、本発明は、スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含む凝集法用粒子であって、前記共重合体が、下記式(1)で示す部分構造を有する粒子である。式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は有機アミンであり、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。
【化1】
【0011】
また本発明は、スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含む凝集法用粒子であって、前記共重合体が、下記式(1)で示す部分構造、および下記式(2)で示す部分構造を有する粒子である。
【化2】
【化3】
式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は水素イオン、または有機アミンであり、式(1)および式(2)中、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非特異吸着性が小さく、リガンドを固定化するための反応性官能基を有する粒子であって、リガンドの高い感作効率を示す、凝集法用に最適なリガンド固定化粒子を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の親水性鎖を有するリガンド感作粒子の模式図である。
【
図3】本発明のポリエチレングリコールを有するリガンド感作粒子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されない。
【0015】
本発明の粒子について説明する。
本発明の粒子は、スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含む凝集法用粒子であって、前記共重合体が、下記式(1)で示す部分構造を有する粒子である。式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は有機アミンであり、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。下記式(1)で示す部分構造は、粒子表面に存在することが好ましい。
【化4】
【0016】
本発明の粒子は凝集法用粒子であり、例えば、ラテックス免疫凝集法用粒子として用いることができる。粒子はリガンドを固定することが出来る。得られたリガンド感作粒子は、標的物質と結合するため、ラテックス免疫凝集法により標的物質を測定することが可能になる。
【0017】
本発明に係る凝集法用粒子は、リガンドとして抗体あるいは抗原を化学固定できるカルボキシ基を粒子表面に有している。
【0018】
本発明の粒子の母体(
図1中1)は、スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含むものである。なお、本発明において、「ユニット」とは、1つのモノマーに対応する単位構造のことを意味する。
【0019】
スチレン系モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはスチレン類に由来する群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。スチレン類とは、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、及び、p-フェニルスチレン等があげられる。
【0020】
グリシジル基含有モノマーに由来するユニットとは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはメタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0021】
スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体について、本発明の目的を達成可能な範囲において、ユニットの組成比率は限定されない。好ましくは「スチレン系モノマーに由来するユニット」/「グリシジル基含有モノマーに由来するユニット」が、0.1以上10以下(mоl分率)、好ましくは0.2以上5以下(mоl分率)、より好ましくは、0.5以上2以下(mоl分率)である。この好ましい範囲は、粒子が、「スチレン系モノマー」に由来する粒子強度と、「グリシジル基含有モノマー」に由来する非特異吸着の抑制能力ならびにカルボキシ基とリガンドとの反応効率との関係で決まる数値である。上記関係を満たす場合、粒子強度と非特異吸着抑制能力、リガンド反応効率のバランスが良い。
【0022】
本発明の粒子で、リガンド(
図1中3)を固定できるカルボキシ基を有するスペーサー(
図1中2)は、母体粒子の表面に存在し、下記式(1)で示すものである。式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は有機アミンであり、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。
【化5】
【0023】
リガンドを固定できるカルボキシ基を有するスペーサーは、グリシジル基含有モノマーの側鎖部分であり、グリシジル基含有モノマーに由来するユニットを有するポリマーに結合している。このスペーサー分子は、親水性のカルボキシ基を有するため、粒子表面の親水性を高め、粒子の分散安定性に寄与するのみならず、リガンド固定の足場として機能する。カルボキシ基の表面密度(カルボキシ基モル数/表面積cm2)は、0.01以上100以下(ナノモル/cm2)、好ましくは0.1以上10以下(ナノモル/cm2)である。この好ましい範囲は、粒子の非特異吸着の抑制能力ならびにカルボキシ基とリガンドとの反応効率との関係で決まる数値である。上記関係を満たす場合、粒子は安定に分散することが可能であり、非特異吸着抑制能力を維持しながらリガンドを効率的に固定化できるため、ラテックス免疫凝集測定法に用いると、標的物質を高感度で検出するのに有利である。0.01(ナノモル/cm2)未満の場合、粒子表面のカルボキシ基が少ないため、リガンド感作量が小さくなり、感度が低下する。また、粒子の分散安定性を損ねる可能性がある。また、100(ナノモル/cm2)を超えると、粒子表面のカルボキシ基が過剰になるため、リガンドを化学固定させた後の残る未反応のカルボキシ基が非特異反応に関わる可能性があり好ましくない。粒子径200nmの粒子のカルボキシ基の表面密度が0.01以上100以下(ナノモル/cm2)である場合、カルボキシ基のモル数は、粒子1mgあたり、2.9以上28571以下(ナノモル/mg)に相当する。
【0024】
式(1)中のカルボキシ基のカウンターイオンR+は有機アミンである。有機アミンとは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N-エチル-N-メチルブチルアミンなどがあげられるが、トリエチルアミンが好ましい。有機アミンがカルボキシ基のカウンターイオンとして存在することで、粒子の親水性が向上し、水中の分散安定性が良い。粒子の水中の分散安定性は、リガンドを固定化する感作効率にも影響する。つまり、分散安定性が悪い場合、リガンドの固定化が不均一になり、固定化量が低下する場合もある。本発明の粒子は、有機アミンをカウンターイオンとすることで、ラテックス免疫凝集測定法に用いる粒子として好適になる。
【0025】
よって、本発明の粒子として好ましい実施形態の一例は、スチレンとメタクリル酸グリシジルの共重合体を含む凝集法用粒子で、メタクリル酸グリシジルの側鎖の一部が、下記式(1)で示す、リガンドを固定できるカルボキシ基を有するスペーサーとなっている粒子である。式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+はトリエチルアミンである。*はメタクリル酸グリシジルに由来するユニットに結合する部分を示す。
【化6】
【0026】
また本発明の別の実施形態としては、スチレン系モノマーに由来するユニットとグリシジル基含有モノマーに由来するユニットとを有する共重合体を含む凝集法用粒子であって、前記共重合体が、下記式(1)で示す部分構造、および下記式(2)で示す部分構造を有する粒子である。式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は水素イオン、または有機アミンである。式(1)および式(2)中、*は前記共重合体のうち、前記グリシジル基含有モノマーに由来するユニットに結合する部分を示す。下記式(1)で示す部分構造、および下記式(2)で示す部分構造は、粒子表面に存在することが好ましい。
【化7】
【化8】
【0027】
親水性鎖(
図2中4)は、グリシジル基含有モノマーの側鎖部分であり、グリシジル基含有モノマーのポリマー骨格に結合している。ここで、親水性鎖は、水酸基を複数有する鎖のことである。グリシジル基にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を反応させることで得られる。式(2)に示すように、水酸基が複数存在することで、粒子表面を親水性化することが可能であり、粒子の分散安定性ならびにタンパク質の非特異吸着を抑制することができる。粒子表面のカルボキシ基のカウンターイオンが水素イオンの場合、水中における粒子の分散が不安定化することがあるが、親水性鎖を有する粒子では、粒子表面のカルボキシ基のカウンターイオンが水素イオンの場合でも、分散性は良好となり、ラテックス免疫凝集測定法に用いる粒子として好適になる。
【0028】
よって、本発明の粒子として好ましい実施形態の一例は、スチレンとメタクリル酸グリシジルの共重合体を含む凝集法用粒子で、メタクリル酸グリシジルの側鎖の一部が、下記式(1)で示すリガンドを固定できるカルボキシ基を有するスペーサー、ならびに下記式(2)で示す親水性鎖となっている粒子である。
式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+は水素イオン、または有機アミンであり、式(1)および式(2)中、*はメタクリル酸グリシジルのポリマー骨格に結合する部分を示す。
【化9】
【化10】
【0029】
本発明に係る粒子は、非特異吸着が抑制され、リガンドとの反応効率にも優れ、分散安定性も凝集法用に過不足のない形態となる。スチレンとメタクリル酸グリシジルとの共重合体は、物理的に強固になり、遠心操作を繰り返しても割れ・欠けすることがない。
【0030】
本発明の粒子は、架橋されていてもよい。粒子の架橋は、ジビニルベンゼンなどのモノマーを粒子合成時に用いることで、粒子の架橋が可能である。粒子の架橋により、粒子の物理的な強度が向上し、粒子の取扱い(製造やリガンド固定化時の遠心分離など)に有利である。ジビニルベンゼンを用いることで、粒子の溶媒耐性も向上する。
【0031】
本発明の粒子の粒径は、水中における個数平均粒径で0.05μm以上1μm以下、好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.15μm以上0.3μm以下である。0.15μm以上0.3μm以下である場合、遠心操作におけるハンドリング性に優れ、且つ、粒子の特徴である比表面積の大きさが際立つ。本発明の粒子の粒径は、動的光散乱法によって評価されたものである。
【0032】
また、本発明の粒子のカルボキシ基にリガンドが化学固定してなる凝集法用のリガンド感作粒子に関するものである。
【0033】
リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体、核酸などが例示されるが、リガンドはこれらに限定されない。リガンドとしては、例えば、抗原、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2、F(ab’)、Fv、scFvなど)、天然由来核酸、人工核酸、アプタマー、ペプチドアプタマー、オリゴペプチド、酵素、補酵素などが挙げられる。本発明における凝集法用の感作粒子とは、標的物質に対して選択的または特異的に高い親和性(アフィニティー)を有する凝集法用の感作粒子を意味する。
【0034】
本発明において、本発明の粒子が有するカルボキシ基とリガンドとを化学固定する化学反応の方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。例えば、カルボジイミド媒介性反応やNHSエステル活性化反応は、良く用いられる化学反応である。ただし、本発明における、カルボキシ基とリガンドとを化学固定する化学反応の方法はこれらに限定されない。
【0035】
本発明のリガンド感作粒子において、リガンドが固定していない残存したカルボキシ基(活性エステル化されたもの)に対して、親水性分子を結合させても良い。これは一般的に活性エステル不活化、あるいはカルボキシ基のブロッキング処理、あるいはマスキング処理などと言われており、カルボキシ基へのタンパクの非特異吸着抑制やリガンド感作粒子の分散安定性向上のために行われる。本発明のリガンド感作粒子において、結合させる親水性分子は、ポリエチレングリコール(PEG)、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)が好ましい。ポリエチレングリコールはタンパク質の吸着を大きく抑制させることが出来るため、特に好ましい。実施例で後述するように、ポリエチレングリコールを用いて活性エステル不活化を行う場合、ポリエチレングリコールの分子量は重要であり、分子量が大きいと抗原抗体反応を阻害する可能性がある。最適な分子量は350以上5000以下であり、特に1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエチレングリコールとしては、カルボキシ基や活性エステルへの反応性がある官能基を有するもの、例えば、アミノ基を有するポリエチレングリコールが好ましく、1級アミンを有するポリエチレングリコールが特に好ましい。ポリエチレングリコールは直鎖ポリマーであっても、分岐ポリマーであっても構わない。下記式(3)にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、下記式(4)~(5)にポリエチレングリコールの例を示す。式中nはオキシエチレンユニットの数を示す1以上の整数である。
【化11】
【化12】
【化13】
【0036】
リガンド固定化量も重要な因子であり、リガンド固定化量が少ない場合、抗原抗体の反応性が低下するため、好ましくない。反対にリガンド固定化量が多い場合も、リガンド感作粒子の分散性を悪化させる原因となる。粒子径に依存するが、平均粒径が200nm程度であれば、粒子1mgに対して1μg~500μgであることが好ましい。特に、10~200μgが好ましい。
【0037】
本発明の凝集法用のリガンド感作粒子は、リガンドとして抗体あるいは抗原が用いられ、臨床検査、生化学研究等の領域において広く活用されているラテックス免疫凝集測定法に好ましく適用できる。一般的な粒子をラテックス免疫凝集測定法に適用した場合、標的物質である抗原(抗体)や血清中の異物等が粒子表面に非特異吸着し、このことに起因して意図しない粒子凝集が検出されてしまい正確な測定の妨げになることが課題になっている。そのため、欺様性なノイズを低減することを目的として、通常、アルブミンなどの生物由来物質をブロッキング剤として粒子にコーティングし、粒子表面への非特異吸着を抑制して用いられている。しかし、このような生物由来物質は、ロットによってその特性が少しずつ異なるため、これらによってコーティングされた粒子は、コーティング処理ごとに非特異吸着の抑制能力が異なる。そのため、非特異吸着を抑制する能力が同水準の粒子を安定的に供給することに課題がある。また、粒子表面にコーティングされた生物由来物質は、変性によって疎水性を呈することがあり、必ずしも非特異吸着を抑制する能力に優れるわけではない。また、生物汚染も課題として挙げられる。特許文献2では、非特異反応を抑制する為に、ポストコートされたラテックス免疫凝集用のリガンド感作粒子を開示している。しかし、ポストコート剤は水溶性で、物理的吸着によって粒子表面をコーティングしていることから、本質的に、希釈によって遊離する懸念がある。本発明のリガンド感作粒子は高度に親水性化された粒子であって、上記の非特異吸着の抑制能力を高めた粒子である。アルブミンなどのポストコートを必要とせず、上記課題を解決することができる。
【0038】
凝集法用の試薬は、本発明の凝集法用のリガンド感作粒子を含有することを特徴とする。試薬中に含有される本発明の凝集法用のリガンド感作粒子の量は、0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、本発明の凝集法用のリガンド感作粒子の他に、溶剤やブロッキング剤などの第三物質を含んでも良い。溶剤やブロッキング剤などの第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。用いる溶剤の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液などの各種緩衝液が例示されるが、試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0039】
凝集法用による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットは、上記の試薬を少なくとも備えることを特徴とする。キットとしては、上記の試薬(以下、試薬1)に加えて、アルブミンを含有する反応緩衝液(以下、試薬2)を更にそなえるものが好ましい。前記アルブミンとしては血清アルブミン等が挙げられ、プロテアーゼ処理されたものでも良い。試薬2に含有されるアルブミンの量は、0.001質量%以上5質量%以下を目安とするが、キットはこれに限定されない。試薬1と試薬2の両方、或いは何れか一方に、ラテックス免疫凝集測定用増感剤を含有させても良い。ラテックス免疫凝集測定用増感剤として、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸等が挙げられるが、キットはこれらに限定されない。試薬1と試薬2の両方、或いは何れか一方に、界面活性剤を含有させても良い。界面活性剤は粒子やタンパク質を安定化させる効果があるため、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートやポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテルなどが好適に用いられる。また、キットは、試薬1、試薬2に加え、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液等を備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定しうる標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。
【0040】
本発明の凝集法による検体中の標的物質の検出方法は、本発明の凝集法用のリガンド感作粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合することを特徴とするものである。また、本発明の凝集法用のリガンド感作粒子と検体との混合は、pH3.0以上pH11.0以下で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃以上50℃以下であり、混合時間は10秒以上30分以下である。また、本発明の検出方法における本発明の凝集法用のリガンド感作粒子の濃度は、反応系中、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。本発明の検出方法は、本発明の凝集法用のリガンド感作粒子と検体との混合の結果として生じる凝集反応を光学的に検出することを特徴とし、前記凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、更に標的物質の濃度も測定することができる。前記凝集反応を光学的に検出する方法としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出可能な光学機器を用いて、これらの値の変化量を測定すれば良い。
【0041】
本発明の粒子の好ましい製造方法について説明する。
粒子の製造方法は、モノマーであるスチレン、モノマーであるメタクリル酸グリシジル、水、およびラジカル重合開始剤を混合して粒状共重合体を形成させ、前記粒状共重合体の水分散液を得る(工程1)。
前記粒状共重合体の水分散液とアンモニア水とを混合して加熱することで、前記粒状共重合体のメタクリル酸グリシジルに由来するエポキシ基と、アンモニアを反応させ、粒状共重合体のエポキシ基にアミノ基を導入する(工程2)。
前記粒状共重合体の水分散液と無水コハク酸を混合して反応させることで、前記粒状共重合体のアミノ基と、無水コハク酸とを反応させる(工程3)。
前記粒状共重合体の水分散液と有機アミンとを混合して反応させることで、前記粒状共重合体のカルボキシ基のプロトンを、有機アミンに置換する(工程4)。
【0042】
前記ラジカル重合開始剤が、少なくとも4,4’―アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒロドクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェート ジヒドレートの何れかである。
【0043】
ラジカル重合開始剤は2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェート ジヒドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]の何れかであることが好ましい。
【0044】
粒状共重合体を形成させる方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、ラジカル重合に限定されない。ラジカル重合の中でも、乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合を用いることが好ましく、乳化重合あるいはソープフリー乳化重合を用いることがより好ましい。さらに好ましくはソープフリー乳化重合を用いることである。一般に、懸濁重合と比較して乳化重合とソープフリー乳化重合は、粒径分布がシャープな粒状共重合体を得ることができる。また、粒子をリガンドと化学固定させる場合、乳化重合で一般的に用いるようなアニオン性界面活性剤が存在すると、リガンドを変性させてしまうことが懸念される。よって、粒状共重合体を形成させる方法は、ソープフリー乳化重合が最も好ましい。
【0045】
粒子の製造方法の工程1において、スチレンとメタクリル酸グリシジルに加え、さらに、架橋性ラジカル重合モノマーを含むことが好ましい。架橋性ラジカル重合性モノマーを含むことにより、得られる粒状共重合体が物理的に強固になり、精製時に遠心操作を繰り返しても粒子の割れや欠けが生じる懸念がなくなる。
【0046】
以下、本発明に用いることのできる架橋性ラジカル重合性モノマーの具体例を列挙するが、本発明はこれらに限定されない。また、2種類以上の油性ラジカル重合性モノマーを用いても良い。例示したラジカル重合性モノマーにおいて、ジビニルベンゼンを用いる場合には、ラジカル重合反応時のハンドリング性に優れるため好ましい。
【0047】
架橋性ラジカル重合性モノマー:ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’-ビス(4-(アクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、及び、ジビニルエーテル等。
【0048】
粒子の製造方法の工程1において、粒状共重合体を形成させる過程で、モノマーであるメタクリル酸グリシジルをさらに混合し、前記粒状共重合体の表面をポリメタクリル酸グリシジルで被覆する工程をさらに含むことが好ましい。
【0049】
前記ラジカル重合開始剤が、少なくとも4,4’―アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒロドクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェート ジヒドレートの何れかである理由は、粒状共重合体の水分散液を得る工程1において、メタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基を開環させないためである。例えば、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを用いる場合、開始剤残基の影響で、ラジカル重合反応場が酸性になり、メタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基が水と反応して開環し、グリコールを形成してしまう場合がある。また、ラジカル重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用いた場合、メタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基とアンモニアが反応してしまう場合がある。また、ラジカル重合開始剤としてカルボキシ基を有するアニオン性ラジカル重合開始剤を用いた場合、メタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基と重合開始剤由来のカルボキシ基が反応し、粒状共重合体が凝集してしまう。
【0050】
工程2は、粒状共重合体のメタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基に、アミノ基を導入する工程である。一般に、エポキシ基は、アンモニアと容易に反応し、アミノ基を導入することが可能である。アンモニアとの反応は強塩基条件となるため、エポキシ基と水との化学反応は抑制され、効率よく、エポキシ基にアミノ基を導入することができる。
【0051】
工程2において、親水性鎖を導入する工程を含んでも良い。一般に、粒状共重合体のメタクリル酸グリシジル由来のエポキシ基に、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を導入する工程である。エポキシ基とトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)との反応は強塩基条件となるため、エポキシ基と水との化学反応は抑制され、効率よく、エポキシ基にトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)を導入することができる。エポキシ基へのトリスヒドロキシメチルアミノメタンの導入は、アンモニアとの反応前でも反応後でも良く、あるいはアンモニアと同時に反応させても良い。
【0052】
工程3は、粒状共重合体のアミノ基に無水コハク酸を反応させ、カルボキシ基を導入する工程である。コハク酸無水物は、1級アミンと容易に反応し、アミド結合を形成してカルボキシ基を導入することが可能である。
【0053】
工程4は、粒状共重合体のカルボキシ基に有機アミンを反応させ、カルボキシ基のプロトンを、有機アミンに置換する工程である。有機アミンをカルボキシ基のカウンターイオンとすることで、粒状共重合体の水分散性が劇的に向上する。工程4において、有機アミンとしてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルプロピルアミン、N-エチル-N-メチルブチルアミンなどがあげられるが、トリエチルアミンが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
(SGNST粒子の合成)
300mLフラスコに1.2g(1.32mL)のスチレン(キシダ化学製)と1.8g(1.68mL)のメタクリル酸グリシジル(キシダ化学製)、0.04g(0.044mL)のジビニルベンゼン(キシダ化学製)、115g(115mL)のイオン交換水を秤とり、混合液を得た。
その後、この混合液を200rpmで撹拌しながら70℃に保持し、窒素バブリングを30分行った。次に、窒素バブリングを窒素フローに切り替えた。
重合開始剤として、0.06gのV-50(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、和光純薬製)を5g(5mL)の純水に溶解させ、V-50溶解液を得た。
このV-50溶解液を前記混合液に加えることで、ラジカル重合(ソープフリー乳化重合)を開始した(以下、「ラジカル重合溶液」という)。重合開始から2時間後、前記ラジカル重合溶液に0.3g(0.28mL)のメタクリル酸グリシジルを加え、7時間、200rpmで撹拌しながら70℃で保持した後、室温まで徐冷した。この時点で300mlフラスコ内容物をサンプリングし、プロトンNMR、ガスクロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてラジカル重合転化率を評価したところ、実質的に100%であることを確認した。
【0056】
次に、300mLフラスコ内容物(粒状共重合体の分散溶液)を遠心分離(15000rpm)した。固形分をイオン交換水で洗浄した。再び遠心分離を行い、この洗浄を2回行った。得られた粒子を、「SG粒子」とする。SG粒子の表面は、ポリメタクリル酸グリシジルで被覆されており、式(6)に示すように、エポキシ基が存在している。式中、*はポリメタクリル酸骨格に結合する部分を示す。
【化14】
SG粒子は、分散媒体をイオン交換水として保存した。SG粒子の水分散液をSG粒子分散液とする。SG粒子分散液の固形分濃度は、10.4wt%(104mg/mL)であった。動的光散乱(ゼータサイザー:マルバーン)を用いてSG粒子を評価したところ、平均粒径が220nmであった。
【0057】
次に、SG粒子分散液19g(固形分1.98g)を200mLフラスコに移した。塩を含む氷水中、SG粒子分散液に超音波照射しながら28%アンモニア水(55.4g)を滴下ロートで約15分かけて滴下した。得られたSG粒子分散液を、回転子を入れたオートクレーブベセルに移し、密栓した後、70℃のオイルバス中で、24時間撹拌した。粒子中のメタクリル酸グリシジルのモル量に対して、50倍モル量のアンモニアを反応させた。室温まで徐冷して、遠心分離(15000rpm)とイオン交換水による洗浄を3回繰り返した。得られた粒子は、SG粒子の表面にアミノ基を導入した粒子であり、「SGN粒子」とよぶ。SGN粒子の表面は、ポリメタクリル酸グリシジルで被覆されており、式(7)に示すように、アミノ基が存在している。式中、*はポリメタクリル酸骨格に結合する部分を示す。
【化15】
SGN粒子は、分散媒体をイオン交換水として保存した。SGN粒子の水分散液をSGN粒子分散液とする。SGN粒子分散液の固形分濃度は、7.54wt%(75.4mg/mL)であった。動的光散乱(ゼータサイザー:マルバーン)を用いてSGN粒子を評価したところ、平均粒径が226.3nmであった。ゼータ電位(ゼータサイザー:マルバーン)の測定より、SGN粒子のゼータ電位は55.0mVであった。
【0058】
次に、粒子表面のアミノ基にカルボキシ基を導入した。SGN粒子分散液の固形分濃度を0.75wt%(7.5mg/mL)にイオン交換水を用いて調整した。この溶液6mL(SGN粒子として0.045g)を、15mL遠沈管に移した。遠心分離を行い、メタノール(キシダ化学製)でSGN粒子を洗浄し、分散媒体もメタノール6mLとした。これに無水コハク酸(東京化成工業製)を0.186g加え、30℃で24時間撹拌した。得られた粒子は、SGN粒子の表面にカルボキシ基を導入した粒子であり、「SGNS粒子」とよぶ。SGNS粒子の表面は、ポリメタクリル酸グリシジルで被覆されており、式(8)に示すように、カルボキシ基が存在している。式中、*はポリメタクリル酸骨格に結合する部分を示す。
【化16】
動的光散乱(ゼータサイザー:マルバーン)を用いてSGNS粒子を評価したところ、平均粒径が221.2nmであった。ゼータ電位(ゼータサイザー:マルバーン)の測定より、SGNS粒子のゼータ電位は-41.1mVであった。
【0059】
次に、粒子表面のカルボキシ基のプロトンをトリエチルアミンに置換した。
無水コハク酸を反応させたメタノール溶液(SGNS粒子を含む)を、遠心分離した。粒子の沈殿物に対して、トリエチルアミン水溶液(3wt%)で再分散した。遠心分離とトリエチルアミン水溶液の再分散を2回繰り返した。次いで分散媒をイオン交換水に替えて、3回洗浄(遠心分離とイオン交換水を用いた再分散)を行った。得られた粒子は、SGNS粒子の表面のカルボキシ基のプロトンをトリエチルアミンに置換した粒子であり、「SGNST粒子」とよぶ。本実施例に係るSGNST粒子の表面は、ポリメタクリル酸グリシジルで被覆されており、式(1)で示されるスペーサー分子を有しており、式(1)中、カルボキシ基のカウンターイオンR
+はトリエチルアミンである。式中、*はポリメタクリル酸骨格に結合する部分を示す。
【化17】
動的光散乱(ゼータサイザー:マルバーン)を用いてSGNST粒子を評価したところ、平均粒径が222.6nmであった。ゼータ電位(ゼータサイザー:マルバーン)の測定より、SGNST粒子のゼータ電位は-43.6mVであった。
【0060】
(比較例1)
(ポリスチレン粒子)
比較例1として、ポリスチレン粒子であるイムテックス(JSR製、P0113,188nm)を用いた。イムテックスをイオン交換水で0.1wt溶液に希釈したものを用いた。
【0061】
(参考例1)
(ポストコートしたポリスチレン粒子)
参考例1として、イムテックスをアルブミンでコートした粒子を調製した。まず、イムテックス(JSR製、P0113,188nm)の0.1wt%水溶液を300μL、エッペンチューブに入れ、この溶液に1%BSA/PBS(10mg/mL)を80μL添加した。室温、30分間撹拌した。遠心分離を20分行い、上清を除去してPBSで粒子を2回洗浄した。
【0062】
(実施例2)
(粒子の非特異反応(非特異凝集)の評価)
粒子の非特異反応(非特異凝集)は免疫比濁法により評価した。
【0063】
ヒト血清と粒子を接触させ、非特異に起こる粒子凝集について濁度を指標として吸光度計で計測する方法である。非特異凝集が起きれば、吸光度が増加する。吸光度の測定には、紫外可視分光光度計(商品名:GeneQuant 1300、GEヘルスケア)を用い、試料はプラスチックセル(サンプル量 最少70μL)に注入し光路長10mmにて測定した。以下に、具体的な測定方法を示す。
【0064】
ヒト血清(キシダ化学、検体番号7)16μLとR1緩衝液60μLをプラスチックセル内で混和し、37℃で5分間加温した。粒子分散溶液(粒子濃度0.1wt%,イオン交換水)30μLをヒト血清を含むR1緩衝液(76μL)に添加し、気泡が入らないよう注意しながら素早くピペッティングし、サンプルとした。サンプルの572nmの吸光度を読み取り、Abs1とした。サンプルを37℃で5分間加温した後、サンプルの572nmの吸光度を読み取り、Abs2とした。Abs2からAbs1を引いた値を求め、10000倍したものを、ΔODx10000値とする。ΔODx10000値が1000以上であれば非特異反応が起きていると判断した。
【0065】
【0066】
結果を表1に示す。本実施例のSGNST粒子のΔODx10000は1000以下であり、非特異反応は認められなかった。一方、ポリスチレン粒子であるイムテックスは、1000以上のΔODx10000が認められた。分散液の吸光度上昇は、分散液中の粒子に非特異吸着が生じた結果、粒子間凝集が生じることに起因すると考察できることから、イムテックスは血清により非特異凝集したことがわかった。イムテックスをポストコートすると、非特異凝集は見られなくなった。本実施例のSGNST粒子は、市販のポリスチレン粒子と比較して非特異吸着を抑制する能力に優れることが確認された。
【0067】
(実施例3)
(抗体感作SGNST粒子の調製)
本実施例のSGNST粒子の分散液(濃度1.0wt%溶液、10mg/mL)の0.1mL(粒子1mg)をエッペンチューブ(容量1.5mL)に移し取り、0.12mLの活性化緩衝液(25mM MES,pH 6.0)を添加して、4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心した。遠心後、上清をピペッタで廃棄(デカント)した。活性化緩衝液(25mM MES,pH 6.0)0.12mLを添加して、超音波にて分散させた(アズワン3周波超音波洗浄器 MODEL VS-100III、28kHz)。次に、4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心した。上清をピペッタで廃棄し、活性化緩衝液(25mM MES,pH 6.0)0.12mLを添加して、超音波にて分散させた。4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心した。上清をピペッタで廃棄し、WSC溶液(WSC 50mgを活性化緩衝液1mLに溶解させたもの)およびSulfo NHS溶液(Sulfo NHS 50mgを活性化緩衝液1mLに溶解させたもの)をそれぞれ60μL添加し、超音波にて分散させた。室温、30分間撹拌することで、粒子のカルボキシ基を活性エステルに変換させた。4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心し、上清をピペッタで廃棄した。固定化緩衝液(25mM MES,pH 5.0)0.2mLを添加して、超音波にて分散させた。4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心し、上清をピペッタで廃棄した。固定化緩衝液50μL(粒子1mgあたり)を添加して、カルボキシ基が活性化された粒子を超音波にて分散させた。
【0068】
抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を100μg/50μLとなるように固定化緩衝液で希釈した(抗体溶液と記載する)。カルボキシ基が活性化された粒子の溶液50μL(粒子1mgを含む)に抗体溶液50μLを添加して、超音波にて粒子を分散させた。仕込みの抗体量は、粒子1mgあたり100μgとなる(100μg/mg)。室温、60分間、チューブを撹拌して、抗体を粒子のカルボキシ基に固定させた。次いで、4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心し、上清をピペッタで廃棄した。
Trisを含む活性エステル不活化緩衝液(1M Tris,pH 8.0に0.1% Tween20を含むもの)0.24mLを添加して、超音波にて分散させた。室温で2時間撹拌し、残存している活性化エステルにTrisを結合あるいは残存している活性化エステルを加水分解(カルボキシ基に戻る)させた後、4℃で一晩、静置した。
次に、4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心し、上清をピペッタで廃棄した。洗浄・保存緩衝液(10mM HEPES,pH7.9)0.2mLを添加して、超音波にて分散させた。洗浄・保存緩衝液(10mM HEPES,pH7.9)0.2mLによる洗浄操作を2回繰り返した後、洗浄・保存緩衝液0.5mLを添加して、超音波にて分散させた。感作工程で、粒子のロスがほとんど見られないので、最終的に抗体感作粒子濃度は0.2wt%(2mg/mL)となった。冷蔵庫で保存し、使用時には超音波にて再分散させた。得られた抗体感作粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子」とよぶ。
抗体感作SGNST粒子は、
図3に示すように、粒子表面にはスペーサーを介して抗体が固定されており、抗体を固定していない一部のスペーサーにはトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)が結合している抗体感作粒子である。
【0069】
(比較例3)
(ポリスチレン粒子への抗体感作)
比較例として、JSR製のポリスチレン粒子、イムテックスに抗体を感作した。
実施例3の粒子をイムテックスに変更し、抗体固定後にアルブミンのポストコート処理を行った以外は、実施例3と同様の実験操作によって比較例としての抗体感作ポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作ポリスチレン粒子」と呼ぶ。
【0070】
(実施例4)
(抗体感作効率の測定)
タンパク定量により、抗体が粒子に感作(固定)していることを確認した。具体的には、抗体感作粒子とBCA試薬を反応させる方法である。まず、抗体感作粒子の分散液(0.2%溶液)を12.5μL(粒子量25μg)分取し、これに12.5μLの10mM HEPES(pH7.9)を加える。プロテインアッセイBCAキット(和光純薬)のA液7mL、B液140μLを混合して、AB液とした。粒子溶液(25μL)に対して、AB液200μLを加え、60℃で30分間インキュベートした。溶液を4℃で15000rpm(20400g)、5分間遠心し、上清200μLをピペッタで回収した。標準サンプル(抗体を10mM HEPESで0~200μg/mLの範囲で数点)とともにマルチモードマイクロプレートリーダー(商品名:SynergyMX,BioTek)で562nmの吸光度を測定した。標準曲線から抗体量を算出した。粒子への抗体感作量(粒子重量あたりの抗体固定量(μg/mg))は、算出した抗体量を粒子重量(ここでは0.025mg)で割ることで求めた。感作効率は、仕込んだ抗体量から求めた。結果を表2に示す。本実施例の抗体感作粒子は、比較例に比べて、感作効率が高いことが分かった。
【0071】
本実施例の粒子の高い感作効率について説明する。本実施例の粒子は、カルボキシ基が表面近傍に位置しており、またカルボキシ基を導入する足場であるアミノ基がほとんど残存していない。つまり、表面電荷はマイナスで均一である。一方で、カルボキシ基以外の領域は、グリシジル基が開環して得られる水酸基であり、非常に親水性が高い。親水性表面は高い非特異吸着抑制能を示す。感作時、抗体はカチオニックな状態であり、マイナス表面である粒子のカルボキシ基の領域と静電的に引き合う。この結果、抗体は粒子表面に濃縮され、粒子表面での抗体とカルボキシ基との反応が大きく促進される。その結果、粒子への抗体感作率が向上すると考えられる。カルボキシ基のNHS活性化エステルは水中で速やかに加水分解するため、抗体の粒子表面への濃縮作用が重要なプロセスである。一方で、市販のポリスチレンでは粒子表面が疎水性であることから、カルボキシ基領域以外の疎水部への抗体の物理吸着が起こる。物理吸着は脱離と吸着を繰り返すことになる結果、市販のポリスチレン粒子では、感作効率は低くなると考えられる。
【0072】
【0073】
(実施例5)
(抗体感作粒子のヒトPSA抗原に対する感度と非特異反応評価)
抗体感作粒子の感度はラテックス免疫凝集法により評価した。具体的には、抗原に抗体感作粒子を反応させ、免疫複合体の凝集物を形成させ、その凝集物に光を照射して、散乱による照射光の減衰(吸光度)を吸光度計で計測する方法である。検体に含まれる抗原量に依存して凝集物の割合が増加して、吸光度が増加する。感度の評価では、既定のPSA濃度における吸光度の増加量(ΔODx10000で記載)が大きいことが望ましい。吸光度の測定には、紫外可視分光光度計(商品名:GeneQuant 1300、GEヘルスケア)を用い、試料はプラスチックセルに注入し光路長10mmにて測定した。以下に、具体的に測定方法を示す。
【0074】
PSA溶液(PSA濃度 91.7ng/mL)16μLをサンプルとして、このサンプルとR1緩衝液60μLをプラスチックセル内で混和し、37℃で5分間加温した。抗体感作粒子の分散溶液(粒子濃度0.2wt%、10mM HEPES、pH7.9)30μLをPSAを含むR1緩衝液(76μL)に添加し、気泡が入らないよう注意しながら素早くピペッティングし、サンプルとした。サンプルの572nmの吸光度を読み取り、Abs1とした。サンプルを37℃で5分間加温した後、サンプルの572nmの吸光度を読み取り、Abs2とした。Abs2からAbs1を引いた値を求め、10000倍したものを、ΔODx10000値とした。
結果を表3に示す。
【0075】
本実施例の抗体感作SGNST粒子は、PSAの存在下、ΔODx10000の増加が認められた。これは、抗原であるPSAに抗体感作粒子が結合し、粒子凝集体を形成した結果であり、ラテックス免疫凝集法に用いるための粒子として機能することがわかった。
【0076】
サンプルとしてPSAを含まない溶液(PSA濃度0ng/mL)を用いた場合、表3に示すように、感作粒子溶液のΔODx10000は変化しなかった。
【0077】
また、サンプルとしてPSAを含まないヒト血清(検体番号3-2と3-5)を用いた場合、表3に示すように、感作粒子溶液のΔODx10000は変化しなかった。
【0078】
以上の結果より、本実施例の抗体感作SGNST粒子の非特異反応性は認められなかった。本実施例の粒子はアルブミンによるポストコートが無くても非特異反応を抑制できることがわかった。
【0079】
【0080】
(実施例6)
(SGNST-2粒子の合成)
実施例1と同様にしてSG粒子分散液を調製した。次に、SG粒子分散液(固形分3.0g)を200mLフラスコに移した。氷水中、SG粒子分散液を撹拌と超音波照射を行いながら、28%アンモニア水(40.8g)を滴下ロートで添加した。添加後、撹拌と超音波を15分間継続した。得られたSG粒子分散液を、回転子を入れたオートクレーブベセルに移し、密栓した後、70℃のオイルバス中で、24時間撹拌した。粒子中のメタクリル酸グリシジルのモル量に対して、25倍モル量のアンモニアを反応させた。室温まで徐冷して、遠心分離(15000rpm)とイオン交換水による洗浄を3回繰り返した。得られた粒子は、SG粒子の表面にアミノ基を導入した粒子であり、「SGN-2粒子」とよぶ。実施例1と同様にして、SGN-2粒子にカルボキシ基を導入し、粒子表面のカルボキシ基のプロトンをトリエチルアミンに置換した。得られた粒子は、「SGNST-2粒子」とよぶ。
【0081】
動的光散乱(商品名:ゼータサイザー、マルバーン)を用いてSGNST-2粒子を評価したところ、平均粒径が222.4nmであった。ゼータ電位(ゼータサイザー:マルバーン)の測定より、SGNST-2粒子のゼータ電位は-52.3mVであった。
【0082】
(実施例7)
(抗体感作SGNST-2粒子の調製)
実施例3のSGNST粒子をSGNST-2粒子に変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって本実施例に係る抗体感作SGNST-2粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST-2粒子」と呼ぶ。
【0083】
(実施例8)
(抗体感作粒子のヒトPSA抗原に対する感度と非特異反応評価)
実施例5と同様にして抗体感作SGNST-2粒子の感度と非特異反応を評価した。結果を表4に示す。抗体感作SGNST-2粒子は、PSAの存在下、ΔODx10000の増加が認められた。これは、抗原であるPSAに抗体感作粒子が結合し、粒子凝集体を形成した結果であり、ラテックス免疫凝集法に用いるための粒子として機能することがわかった。サンプルとしてPSAを含まない溶液(PSA濃度0ng/mL)を用いた場合、ならびにサンプルとしてPSAを含まないヒト血清(検体番号3-2と3-5)を用いた場合、表4に示すように、ΔODx10000は変化しなかった。以上の結果より、本実施例の抗体感作SGNST-2粒子の非特異反応性は認められなかった。本実施例の粒子はアルブミンによるポストコートが無くても非特異反応を抑制できることがわかった。
【0084】
【0085】
(実施例9)
(分子量5000のPEGが修飾された抗体感作SGNST粒子の調製)
実施例3の抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を抗CRP抗体(モノクローナル抗体)に、活性エステル不活化緩衝液をPEG修飾用緩衝液(PEG分子量5000)に変更した以外は、実施例4と同様の実験操作によって本実施例に係るPEG修飾された抗体感作SGNST粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子(P5000)」と呼ぶ。抗体感作SGNST粒子(P5000)は、
図3に示すように、粒子1表面にはスペーサー2を介して抗体3が固定されており、抗体3を固定していない一部のスペーサーにはPEG5(PEG分子量5000)が結合している抗体感作粒子である。
【0086】
(実施例10)
(分子量2000のPEGが修飾された抗体感作SGNST粒子の調製)
実施例3の抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を抗CRP抗体(モノクローナル抗体)に、活性エステル不活化緩衝液をPEG修飾用緩衝液(PEG分子量2000)に変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって本実施例に係るPEG修飾された抗体感作SGNST粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子(P2000)」と呼ぶ。抗体感作SGNST粒子(P2000)は、
図3に示すように、粒子表面にはスペーサーを介して抗体が固定されており、抗体を固定していない一部のスペーサーにはPEG(PEG分子量2000)が結合している抗体感作粒子である。
【0087】
(実施例11)
(分子量1000のPEGが修飾された抗体感作SGNST粒子の調製)
実施例3の抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を抗CRP抗体(モノクローナル抗体)に、活性エステル不活化緩衝液をPEG修飾用緩衝液(PEG分子量1000)に変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって本実施例に係るPEG修飾された抗体感作SGNST粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子(P1000)」と呼ぶ。抗体感作SGNST粒子(P1000)は、
図3に示すように、粒子表面にはスペーサーを介して抗体が固定されており、抗体を固定していない一部のスペーサーにはPEG(PEG分子量1000)が結合している抗体感作粒子である。
【0088】
(実施例12)
(分子量550のPEGが修飾された抗体感作SGNST粒子の調製)
実施例3の抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を抗CRP抗体(モノクローナル抗体)に、活性エステル不活化緩衝液をPEG修飾用緩衝液(PEG分子量550)に変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって本実施例に係るPEG修飾された抗体感作SGNST粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子(P550)」と呼ぶ。抗体感作SGNST粒子(P550)は、
図3に示すように、粒子表面にはスペーサーを介して抗体が固定されており、抗体を固定していない一部のスペーサーにはPEG(PEG分子量550)が結合している抗体感作粒子である。
【0089】
(実施例13)
(分子量350のPEGが修飾された抗体感作SGNST粒子の調製)
実施例3の抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を抗CRP抗体(モノクローナル抗体)に、活性エステル不活化緩衝液をPEG修飾用緩衝液(PEG分子量350)に変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって本実施例に係るPEG修飾された抗体感作SGNST粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子(P350)」と呼ぶ。抗体感作SGNST粒子(P350)は、
図3に示すように、粒子表面にはスペーサーを介して抗体が固定されており、抗体を固定していない一部のスペーサーにはPEG(PEG分子量350)が結合している抗体感作粒子である。
【0090】
(実施例14)
(PEGが修飾されていない抗体感作SGNST粒子の調製)
実施例3の抗PSA抗体(モノクローナル抗体)を抗CRP抗体(モノクローナル抗体)に変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって本実施例に係る抗体感作SGNST粒子を得た。得られた粒子は、以後、「抗体感作SGNST粒子(N)」と呼ぶ。抗体感作SGNST粒子(N)は、
図1に示すように、粒子表面には親水性鎖が存在していない抗体感作粒子である。
【0091】
(実施例15)
実施例9~14で得られた抗体感作粒子について、感作効率、抗体固定化量、平均粒径、ならびに多分散度指数(PDI)を測定した。ここで多分散度指数(PDI)とは、動的光散乱(DLS)測定において、粒径分布の幅の指標であり、0から1の数値で表される。0.1以下のPDI値を有する分布は単分散と呼ばれる。小さい数値であればあるほど、粒径分布が狭いことを意味する。表5に測定結果を示す。抗体の感作効率と固定化量については、すべての実施例で同じロットの粒子のロットを用いているため、数値は同じである(実施例15の粒子のみ測定した)。抗体感作SGNST粒子(P1000)ならびに抗体感作SGNST粒子(P2000)において、多分散度指数(PDI)が小さくなり、粒径分布が狭いことがわかった。適度な大きさのPEGにより、感作粒子の分散性を向上させたと考えられる。
【0092】
【0093】
(実施例16)
実施例9~14で得られた抗体感作粒子の感度について、実施例5と同様にしてラテックス免疫凝集法により評価した。
実施例5と異なり、抗原をPSAの代わりにCRPを用いた。具体的には、CRP溶液(CRP濃度 4mg/dL)1μLをサンプルとして、このサンプルとR1緩衝液50μLをプラスチックセル内で混和し、37℃で5分間加温した。抗体感作粒子の分散溶液(粒子濃度0.05wt%,10mM HEPES、pH7.9)50μLをCRPを含むR1緩衝液(51μL)に添加し、気泡が入らないよう注意しながら素早くピペッティングし、サンプルとした。サンプルの572nmの吸光度を読み取り、Abs1とした。サンプルを37℃で5分間加温した後、サンプルの572nmの吸光度を読み取り、Abs2とした。Abs2からAbs1を引いた値を求め、10000倍したものを、ΔODx10000値とした。非特異反応を評価するため、サンプルとしてCRPを含まない血清溶液(CRP濃度0mg/dL)を用いた。
【0094】
結果を表6に示す。実施例9~14で得られた抗体感作粒子は、CRPの存在下(CRP濃度4mg/dL)、ΔODx10000の増加が認められた。これは、抗原であるCRPに抗体感作粒子が結合し、粒子凝集体を形成した結果であり、ラテックス免疫凝集法に用いるための粒子として機能することがわかった。
【0095】
抗体感作SGNST粒子(P1000)ならびに抗体感作SGNST粒子(P2000)において、他の抗体感作粒子に比べて、ΔODx10000が大きくなり、感度が高いことが分かった。一方、抗体感作SGNST粒子(P5000)では感度が低くなる傾向が見られた。PEG分子量が大きい場合、粒子表面のPEGによって、抗体と抗原の反応が阻害されている可能性がある。粒子へのPEGの導入により、抗体感作粒子の感度を制御することができる。サンプルとしてCRPを含まない溶液(CRP濃度0mg/dL)を用いた場合、ΔODx10000は変化しなかった。以上の結果より、実施例10~15で得られた抗体感作粒子はアルブミンによるポストコートが無くても非特異反応を抑制できることがわかった。
【0096】
【0097】
(実施例17)
(表面に親水性鎖を導入したSGNST-3粒子の合成)
実施例1と同様にして、SG粒子の表面にアミノ基を導入したSGN粒子を合成した。次に、SGN粒子の表面に存在するエポキシ基の未修飾残基(残エポキシ基)を、以下のとおりトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)で修飾し、親水性鎖を粒子表面に導入することが出来る。
【0098】
SGN粒子分散液を固形分5wt%になるように超純水で調整し、これにTris(SGN粒子合成時のGMA仕込み量の5倍等量)を添加後、撹拌することでTrisを溶解した。次にトリエチルアミン(TEA)によりpHが11になるように調整した。そして、70℃、24時間、撹拌した。その後、4℃、20,500Gで10分間遠心分離を行い、上清を廃棄し、超純水で沈殿物を再分散する精製を計5回行った。
【0099】
その後、実施例1と同様にして、粒子表面のアミノ基にカルボキシ基を導入し、最後に粒子表面のカルボキシ基のプロトンをトリエチルアミンに置換する。得られる粒子を「SGNST-3粒子」とする。SGNST-3粒子は表面に親水性鎖が導入されており、水中における分散安定性が高い。
【0100】
(実施例18)
(抗体感作SGNST-3粒子の合成)
実施例14と同様の実験操作によって本実施例に係る抗体感作SGNST-3粒子が得られる。抗体感作SGNST-3粒子は、
図2に示すように、粒子表面には親水性鎖が存在している抗体感作粒子である。抗体は粒子表面のすべてを占有することは無いため、夾雑タンパクの粒子表面への非特異吸着が問題となる場合がある。その場合、粒子表面へ親水性鎖を導入することで、タンパクの非特異吸着を抑制することが可能である。抗体感作SGNST-3粒子は、アルブミンによるポストコートが無くても非特異反応を抑制できる。
【符号の説明】
【0101】
1 粒子
2 スペーサー分子
3 リガンド
4 親水性鎖
5 ポリエチレングリコール