(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ゴム組成物、複合体、ホース、コンベヤベルト、クローラおよびタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/02 20060101AFI20231005BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231005BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231005BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20231005BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20231005BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20231005BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20231005BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L9/02
C08L21/00
C08K3/22
C08K5/09
C08L7/00
C08L9/06
C08L9/00
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019180723
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 友紀
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039375(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/039376(WO,A1)
【文献】国際公開第97/049776(WO,A1)
【文献】特開2004-352870(JP,A)
【文献】特開2002-317084(JP,A)
【文献】特表2000-503711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
ゴム-金属間接着促進剤とを含み、
前記ゴム成分は、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを
10~90質量部含み、
前記ゴム-金属間接着促進剤は、脂肪族カルボン酸の金属塩(1)および一般式(A):[(RCOO)
xMO]
3Zで表される化合物(2)からなる群より選択される1種以上を含み、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の脂肪族カルボン酸は、炭素数が2~25であり、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属は、ビスマ
スであり、
前記一般式(A)中、(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基であり、Mは、ビスマ
スであり、xは、1以上かつ(Mの価数-1)の整数であり、Zは、下記式(z-1)~(z-4)から選択される構造であ
り、
前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムと、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上との組合せである、ゴム組成物。
【化1】
【請求項2】
ゴム成分と、
ゴム-金属間接着促進剤と、
フェノール樹脂とを含み、
前記ゴム成分は、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを少なくとも10質量部含み、
前記ゴム-金属間接着促進剤は、脂肪族カルボン酸の金属塩(1)および一般式(A):[(RCOO)
x
MO]
3
Zで表される化合物(2)からなる群より選択される1種以上を含み、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の脂肪族カルボン酸は、炭素数が2~25であり、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属は、亜鉛であり、
前記一般式(A)中、(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基であり、Mは、亜鉛であり、xは、1以上かつ(Mの価数-1)の整数であり、Zは、下記式(z-1)~(z-4)から選択される構造であり、
前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムと、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上との組合せである、ゴム組成物(ただし、以下の(i)の接着性ゴム組成物、(ii)の接着性ゴム組成物および(iii)の加硫ゴム組成物を除く。
(i)有機酸の亜鉛塩と、含水無機塩とを含む接着性ゴム組成物;
(ii)有機酸の亜鉛塩と、有機モリブデン化合物とを含む接着性ゴム組成物;
(iii)有機錫化合物を含む加硫ゴム組成物。)。
【化2】
【請求項3】
前記ゴム成分が、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを90質量部以下含む、請求項
2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分全体量に対して結合アクリロニトリル量が、10~45%である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、フェノール樹脂をさらに含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)を含み、前記脂肪族カルボン酸の脂肪族カルボン酸が、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸である、請求項1~5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記脂肪族カルボン酸の脂肪族カルボン酸が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸である、請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸である、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含
む、請求項1~8のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、Zが、前記式(z-1)で表される構造である、請求項1~9のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、(RCOO)が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸の残基である、請求項1~10のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸である、請求項11に記載のゴム組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のゴム組成物と金属部材との、複合体。
【請求項14】
請求項13に記載の複合体を用いた、ホース。
【請求項15】
請求項13に記載の複合体を用いた、コンベヤベルト。
【請求項16】
請求項13に記載の複合体を用いた、クローラ。
【請求項17】
請求項13に記載の複合体を用いた、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、複合体、ホース、コンベヤベルト、クローラおよびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料とスチールコードなどの金属部材との間(以下、単に「ゴム-金属間」という)の接着性を向上させるための手法として、ゴム材料を構成するゴム組成物に接着促進剤を配合することが一般的に行われている。このような接着促進剤としては、ゴム-金属間接着の促進効果が高いことから、ステアリン酸コバルトまたはバーサチック酸コバルトなどのコバルト系化合物が頻繁に使用されてきた。しかし、近年の環境規制の動向を踏まえると非コバルト系接着促進剤への代替が求められており、その開発が急がれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、コバルト塩を含有しなくとも、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等のゴム-金属間の接着性を有するゴム組成物が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、コバルトを含有せずとも、コバルトを含有する接着促進剤よりも、ゴム-金属間に高い接着力を奏することができる接着促進剤と、これを用いたゴム組成物及びタイヤを提供するために、特定の接着促進剤、およびその接着促進剤を用いたゴム組成物とタイヤを提案している。
【0006】
特許文献1では、ゴム成分の一例としてアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を挙げているが、実施例では天然ゴム(NR)を用いた検討のみで、NBRを含むゴム組成物についてコバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有するゴム組成物については具体的な検討がない。
【0007】
NBRは、例えば、ホースなどのゴム物品のゴム成分として使用される。そして、例えば、ホースなどのゴム物品では、金属ワイヤーなどの金属部材と接触しているゴム組成物、金属部材と複合体を形成しているゴム組成物などをその一部に含むことがある。
【0008】
そこで、本発明は、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を少なくとも含むゴム組成物であって、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、上記ゴム組成物と金属部材との、複合体を提供することを別の目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記複合体を用いたホースを提供することを別の目的とする。
【0011】
また、本発明は、上記複合体を用いたコンベヤベルトを提供することを別の目的とする。
【0012】
また、本発明は、上記複合体を用いたクローラを提供することを別の目的とする。
【0013】
また、本発明は、上記複合体を用いたタイヤを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ゴム成分と、
ゴム-金属間接着促進剤とを含み、
前記ゴム成分は、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを少なくとも10質量部含み、
前記ゴム-金属間接着促進剤は、脂肪族カルボン酸の金属塩(1)および一般式(A):[(RCOO)
xMO]
3Zで表される化合物(2)からなる群より選択される1種以上を含み、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の脂肪族カルボン酸は、炭素数が2~25であり、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属は、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムであり、
前記一般式(A)中、(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基であり、Mは、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムであり、xは、1以上かつ(Mの価数-1)の整数であり、Zは、下記式(z-1)~(z-4)から選択される構造である、ゴム組成物である。
【化1】
これにより、本発明に係るゴム組成物は、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0015】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム成分が、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを90質量部以下含むことが好ましい。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性に加えて、ゴム組成物の優れた耐久性も得られる。
【0016】
本発明に係るゴム組成物では、ゴム成分全体量に対して結合アクリロニトリル量が、10~45%であることが好ましい。これにより、良好な耐油性が得られる。
【0017】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムと、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上との組合せであることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0018】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)を含み、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属が、ビスマスまたは亜鉛であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0019】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)を含み、前記脂肪族カルボン酸の脂肪族カルボン酸が、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0020】
本発明に係るゴム組成物では、前記脂肪族カルボン酸の脂肪族カルボン酸が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0021】
本発明に係るゴム組成物では、前記飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0022】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、Mが、ビスマスまたは亜鉛であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0023】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、Zが、前記式(z-1)で表される構造であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0024】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、(RCOO)が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸の残基であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0025】
本発明に係るゴム組成物では、前記飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0026】
本発明に係る複合体は、上記いずれかのゴム組成物と金属部材との、複合体である。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0027】
本発明に係るホースは、上記複合体を用いた、ホースである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0028】
本発明に係るコンベヤベルトは、上記複合体を用いた、コンベヤベルトである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0029】
本発明に係るクローラは、上記複合体を用いた、クローラである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0030】
本発明に係るタイヤは、上記複合体を用いた、タイヤである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を少なくとも含むゴム組成物であって、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有するゴム組成物を提供することができる。また、本発明によれば、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する複合体、ホース、コンベヤベルト、クローラおよびタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0033】
本発明では、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0034】
本明細書において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の下限値および上限値を含むことを意図している。例えば、1,000~50,000は、1,000以上50,000以下を意味する。
【0035】
(ゴム組成物)
本発明に係るゴム組成物は、
ゴム成分と、
ゴム-金属間接着促進剤とを含み、
前記ゴム成分は、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを少なくとも10質量部含み、
前記ゴム-金属間接着促進剤は、脂肪族カルボン酸の金属塩(1)および一般式(A):[(RCOO)
xMO]
3Zで表される化合物(2)からなる群より選択される1種以上を含み、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の脂肪族カルボン酸は、炭素数が2~25であり、
前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属は、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムであり、
前記一般式(A)中、(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基であり、Mは、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムであり、xは、1以上かつ(Mの価数-1)の整数であり、Zは、下記式(z-1)~(z-4)から選択される構造である、ゴム組成物である。
【化2】
【0036】
以下、本発明のゴム組成物の必須成分である、ゴム成分およびゴム-金属間接着促進剤と、任意成分を例示説明する。
【0037】
<ゴム成分>
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を少なくとも10質量部含む。
【0038】
NBRとしては、公知のNBRを適宜選択して用いることができる。NBRとしては、例えば、結合アクリロニトリル量(以下、単に「AN」という)が36%以上の高ニトリルNBR、ANが30%以上36%未満の中高ニトリルNBR、ANが25%以上30%未満の中ニトリルNBR、ANが25%未満の低ニトリルNBRなどが挙げられる。
【0039】
NBRは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ホース用ゴム組成物の一実施形態では、1種または2種以上のNBRによって、ゴム成分全体量に対してANが、3%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、31%以上、35%以上または40%以上である。ホース用ゴム組成物の別の実施形態では、1種または2種以上のNBRによって、ゴム成分全体量に対してANが、45%以下、40%以下、35%以下、31%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下または5%以下である。ホース用ゴム組成物のさらに別の実施形態では、ゴム成分全体量に対してANが、3~45%である。耐油性の観点から、ホース用ゴム組成物では、1種または2種以上のNBRによって、ゴム成分全体量に対してANが、10~45%であることが好ましい。
【0041】
NBRの量は、ゴム成分100質量部当たり少なくとも10質量部である。10質量部未満では、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性が得られない。一実施形態では、NBRの量は、ゴム成分100質量部当たり、10質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上または90質量部以上である。別の実施形態では、NBRの量は、ゴム成分100質量部当たり、100質量部以下、95質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、70質量部以下、60質量部以下、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下または20質量部以下である。
【0042】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム成分が、ゴム成分100質量部当たり、アクリロニトリルブタジエンゴムを90質量部以下含むことが好ましい。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性に加えて、ゴム組成物の優れた耐久性も得られる。
【0043】
ゴム成分としては、NBR単独で用いてもよいし、NBRと他のゴムとを組み合わせて用いてもよい。
【0044】
NBR以外のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)およびブチルゴム(IIR)などが挙げられる。これらNBR以外のゴム成分は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
一実施形態では、NBR以外のゴム成分は、NR、SBRおよびBRからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、CRの量は、ゴム成分100質量部当たり、10質量部未満である。さらに別の実施形態では、NBR以外のゴム成分に、CRを含まない。
【0046】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム成分が、アクリロニトリルブタジエンゴムと、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムからなる群より選択される1種以上との組合せであることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0047】
<ゴム-金属間接着促進剤>
本発明に係るゴム組成物は、ゴム-金属間接着促進剤を含む。そして、当該ゴム-金属間接着促進剤は、脂肪族カルボン酸の金属塩(1)および一般式(A):[(RCOO)xMO]3Zで表される化合物(2)からなる群より選択される1種以上を含み、当該脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の脂肪族カルボン酸は、炭素数が2~25であり、当該脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属は、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムであり、一般式(A)中、(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基であり、Mは、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムであり、xは、1以上かつ(Mの価数-1)の整数であり、Zは、下記式(z-1)~(z-4)から選択される構造である。
【0048】
・脂肪族カルボン酸の金属塩(1)
脂肪族カルボン酸の金属塩(1)(以下、単に「金属塩(1)」ということがある)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸と金属との化学反応によって形成される金属塩である。金属塩(1)は、本発明のゴム組成物において、ゴム-金属間接着促進剤として働く。ここで、当業者には明らかなように、上記金属塩(1)は、脂肪族カルボン酸アニオンと、金属カチオンとから形成される金属塩であるが、本明細書では、説明の便宜上、金属塩(1)を形成している脂肪族カルボン酸アニオンおよび金属カチオンをそれぞれ、単に脂肪族カルボン酸および金属という。
【0049】
金属塩(1)の金属は、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムである。金属塩(1)の金属の中でも、湿熱条件下においてもスチールコードなどの金属材料とゴム組成物との接着性が良好なことから、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモンまたは銀が好まく、ビスマス、亜鉛または銅がより好ましい。
【0050】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)を含み、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)の金属が、ビスマスまたは亜鉛であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0051】
金属塩(1)の脂肪族カルボン酸は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸である。金属塩(1)とゴム成分との相溶性およびゴム組成物と金属材料との接着性の観点から、脂肪族カルボン酸の炭素数は、2以上である。また、金属塩(1)の合成の容易さおよびゴム組成物と金属材料との接着性の観点から、脂肪族カルボン酸の炭素数は、25以下である。ここで、本発明において、脂肪族カルボン酸の炭素数とは、脂肪族カルボン酸のカルボキシル基の炭素を含む数を言う。
【0052】
一実施形態では、金属塩(1)の脂肪族カルボン酸の炭素数は、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、20以上、21以上、22以上、23以上または24以上である。別の実施形態では、金属塩(1)の脂肪族カルボン酸の炭素数は、25以下、24以下、23以下、22以下、21以下、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下または3以下である。また、さらに別の実施形態では、金属塩(1)の脂肪族カルボン酸の炭素数は、8~18である。
【0053】
炭素数2~25の脂肪族カルボン酸としては、特に限定されず、例えば、脂肪族モノカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0054】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記脂肪族カルボン酸の金属塩(1)を含み、前記脂肪族カルボン酸の脂肪族カルボン酸が、脂肪族モノカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0055】
本発明に係るゴム組成物では、前記脂肪族カルボン酸の脂肪族カルボン酸が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0056】
炭素数2~25の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸などが挙げられる。
【0057】
飽和の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸およびナフテン酸などが挙げられる。
【0058】
不飽和の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、9-ヘキサデセン酸、cis-9-オクタデセン酸、11-オクタデセン酸、cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸、9,12,15-オクタデカトリエン酸、6,9,12-オクタデカトリエン酸、9,11,13-オクタデカトリエン酸、エイコサン酸、8,11-エイコサジエン酸、5,8,11-エイコサトリエン酸、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸、桐油酸、アマニ油酸、大豆油酸、樹脂酸、トール油脂肪酸、ロジン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸およびデヒドロアビエチン酸などが挙げられる。
【0059】
炭素数2~25の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0060】
飽和の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸およびアジピン酸などが挙げられる。
【0061】
不飽和の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸およびマレイン酸などが挙げられる。
【0062】
一実施形態では、脂肪族カルボン酸は、飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸および飽和または不飽和の脂肪族ジカルボン酸からなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、脂肪族カルボン酸は、飽和または不飽和の脂肪族モノカルボン酸からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、脂肪族カルボン酸は、飽和脂肪族モノカルボン酸からなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、脂肪族カルボン酸は、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、炭素数8~18の飽和脂肪族モノカルボン酸からなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、脂肪族カルボン酸は、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸およびオクタデカン酸からなる群より選択される1種以上である。
【0063】
本発明に係るゴム組成物では、前記飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0064】
一実施形態では、金属塩(1)は、2-エチルヘキサン酸ビスマス、2-エチルヘキサン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸銅、2-エチルヘキサン酸アンチモン、2-エチルヘキサン酸銀、2-エチルヘキサン酸ニオブ、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム、ネオデカン酸ビスマス、ネオデカン酸亜鉛、ネオデカン酸銅、ネオデカン酸アンチモン、ネオデカン酸銀、ネオデカン酸ニオブ、ネオデカン酸ジルコニウム、ヘキサデカン酸ビスマス、ヘキサデカン酸亜鉛、ヘキサデカン酸銅、ヘキサデカン酸アンチモン、ヘキサデカン酸銀、ヘキサデカン酸ニオブ、ヘキサデカン酸ジルコニウム、オクタデカン酸ビスマス、オクタデカン酸亜鉛、オクタデカン酸銅、オクタデカン酸アンチモン、オクタデカン酸銀、オクタデカン酸ニオブおよびオクタデカン酸ジルコニウムからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、金属塩(1)は、2-エチルヘキサン酸ビスマス、2-エチルヘキサン酸亜鉛、ネオデカン酸ビスマス、ネオデカン酸亜鉛、ヘキサデカン酸ビスマス、ヘキサデカン酸亜鉛、オクタデカン酸ビスマスおよびオクタデカン酸亜鉛からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、金属塩(1)は、2-エチルヘキサン酸ビスマス、2-エチルヘキサン酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸銅、2-エチルヘキサン酸アンチモン、2-エチルヘキサン酸銀、2-エチルヘキサン酸ニオブ、ネオデカン酸ビスマス、ネオデカン酸亜鉛、ネオデカン酸銅、ネオデカン酸アンチモン、ネオデカン酸銀、ネオデカン酸ニオブ、ヘキサデカン酸ビスマス、ヘキサデカン酸亜鉛、オクタデカン酸ビスマスおよびオクタデカン酸亜鉛からなる群より選択される1種以上である。
【0065】
金属塩(1)は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
金属塩(1)の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、特許文献1に記載の製法1または製法2などを用いることができる。
【0067】
・化合物(2)
化合物(2)は、一般式(A):[(RCOO)xMO]3Zで表される構造を有する。化合物(2)は、本発明のゴム組成物において、ゴム-金属間接着促進剤として働く。
【0068】
一般式(A)中の(RCOO)は、炭素数2~25の脂肪族カルボン酸の残基である。
化合物(2)とゴム成分との相溶性およびゴム組成物と金属材料との接着性の観点から、脂肪族カルボン酸の炭素数は、2以上である。また、化合物(2)の合成の容易さおよびゴム組成物と金属材料との接着性の観点から、脂肪族カルボン酸の炭素数は、25以下である。ここで、本発明において、脂肪族カルボン酸の炭素数とは、脂肪族カルボン酸のカルボキシル基の炭素を含む数を言う。
【0069】
アニオンである残基(RCOO)を形成する炭素数2~25の脂肪族カルボン酸については、上述した金属塩(1)の脂肪族カルボン酸と同様である。金属塩(1)の脂肪族カルボン酸について説明した各実施形態も、残基(RCOO)を形成する炭素数2~25の脂肪族カルボン酸に同様に適用し得る。
【0070】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、(RCOO)が、炭素数2~20の飽和脂肪族モノカルボン酸の残基であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0071】
本発明に係るゴム組成物では、前記飽和脂肪族モノカルボン酸が、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ヘキサデカン酸またはオクタデカン酸であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0072】
一般式(A)中のMは、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモン、銀、ニオブまたはジルコニウムである。この中でも、湿熱条件下においてもスチールコードなどの金属材料とゴム組成物との接着性が良好なことから、ビスマス、亜鉛、銅、アンチモンまたは銀が好ましく、ビスマス、亜鉛または銅がより好ましい。
【0073】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、Mが、ビスマスまたは亜鉛であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0074】
一般式(A)中のxは、1以上かつ(Mの価数-1)の整数である。すなわち、xは、(Mの価数-1)の正の整数である。
【0075】
一般式(A)中のZは、下記式(z-1)~式(z-4)から選択される構造である。
【化3】
【0076】
上記4つの構造の中でも、ゴム組成物と金属材料との高い接着性を得る観点から、式(z-1)で表される構造が好ましい。
【0077】
本発明に係るゴム組成物では、前記ゴム-金属間接着促進剤が、前記化合物(2)を含み、前記一般式(A)中、Zが、前記式(z-1)で表される構造であることが好ましい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。
【0078】
一実施形態では、化合物(2)は、ホウ素2-エチルヘキサン酸ビスマス、ホウ素2-エチルヘキサン酸亜鉛、ホウ素2-エチルヘキサン酸銅、ホウ素2-エチルヘキサン酸アンチモン、ホウ素2-エチルヘキサン酸銀、ホウ素2-エチルヘキサン酸ニオブ、ホウ素2-エチルヘキサン酸ジルコニウム、ホウ素ネオデカン酸ビスマス、ホウ素ネオデカン酸亜鉛、ホウ素ネオデカン酸銅、ホウ素ネオデカン酸アンチモン、ホウ素ネオデカン酸銀、ホウ素ネオデカン酸ニオブ、ホウ素ネオデカン酸ジルコニウム、ホウ素ヘキサデカン酸ビスマス、ホウ素ヘキサデカン酸亜鉛、ホウ素ヘキサデカン酸銅、ホウ素ヘキサデカン酸アンチモン、ホウ素ヘキサデカン酸銀、ホウ素ヘキサデカン酸ニオブ、ホウ素ヘキサデカン酸ジルコニウム、ホウ素オクタデカン酸ビスマス、ホウ素オクタデカン酸亜鉛、ホウ素オクタデカン酸銅、ホウ素オクタデカン酸アンチモン、ホウ素オクタデカン酸銀、ホウ素オクタデカン酸ニオブおよびホウ素オクタデカン酸ジルコニウムからなる群より選択される1種以上である。別の実施形態では、化合物(2)は、ホウ素2-エチルヘキサン酸ビスマス、ホウ素2-エチルヘキサン酸亜鉛、ホウ素ネオデカン酸ビスマス、ホウ素ネオデカン酸亜鉛、ホウ素ヘキサデカン酸ビスマス、ホウ素ヘキサデカン酸亜鉛、ホウ素オクタデカン酸ビスマスおよびホウ素オクタデカン酸亜鉛からなる群より選択される1種以上である。さらに別の実施形態では、化合物(2)は、ホウ素2-エチルヘキサン酸ビスマス、ホウ素2-エチルヘキサン酸亜鉛、ホウ素ネオデカン酸ビスマス、ホウ素ネオデカン酸亜鉛、ホウ素ネオデカン酸銅、ホウ素ネオデカン酸アンチモン、ホウ素ネオデカン酸銀、ホウ素ネオデカン酸ニオブ、ホウ素ヘキサデカン酸ビスマス、ホウ素ヘキサデカン酸亜鉛、ホウ素オクタデカン酸ビスマスおよびホウ素オクタデカン酸亜鉛からなる群より選択される1種以上である。
【0079】
化合物(2)は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
化合物(2)の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜選択して用いることができる。例えば、特許文献1に記載の製法などを用いることができる。
【0081】
一実施形態では、ゴム-金属間接着促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、0.01質量部以上、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上、2.5質量部以上、3.0質量部以上、3.5質量部以上、4.0質量部以上、4.5質量部以上、5.0質量部以上、5.5質量部以上、6.0質量部以上、6.5質量部以上、7.0質量部以上、7.5質量部以上、8.0質量部以上、8.5質量部以上、9.0質量部以上、9.5質量部以上または10質量部以上である。別の実施形態では、ゴム-金属間接着促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、9.5質量部以下、9.0質量部以下、8.5質量部以下、8.0質量部以下、7.5質量部以下、7.0質量部以下、6.5質量部以下、6.0質量部以下、5.5質量部以下、5.0質量部以下、4.5質量部以下、4.0質量部以下、3.5質量部以下、3.0質量部以下、2.5質量部以下、2.0質量部以下、1.5質量部以下、1.0質量部以下、0.5質量部以下または0.1質量部以下である。さらに別の実施形態では、ゴム-金属間接着促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、0.1~10質量部である。
【0082】
<シリカ>
本発明に係るゴム組成物は、シリカをさらに含んでいてもよい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。シリカは、特に限定されず、公知の未変性シリカまたは変性シリカから適宜選択すればよい。
【0083】
好ましいシリカは、例えば、東ソー・シリカ社製の商品名「Nipsil(登録商標)AQ」である。
【0084】
シリカは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
ゴム組成物におけるシリカの配合量は、適宜調節すればよい。一実施形態では、ゴム組成物におけるシリカの配合量は、ゴム成分100質量部当たり、1.0質量部以上、2.0質量部以上、5.0質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、30質量部以上、40質量部以上または45質量部以上である。別の実施形態では、ゴム組成物におけるシリカの配合量は、ゴム成分100質量部当たり、50質量部以下、45質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下または2質量部以下である。さらに別の実施形態では、ゴム組成物におけるシリカの配合量は、ゴム成分100質量部当たり、2~20質量部である。
【0086】
<フェノール樹脂>
本発明に係るゴム組成物は、フェノール樹脂をさらに含んでいてもよい。これにより、より良好なゴム-金属間の接着性が得られる。フェノール樹脂は、特に限定されず、公知のフェノール樹脂から適宜選択すればよい。
【0087】
好ましいフェノール樹脂は、例えば、住友ベークライト社製のスミライトレジン(登録商標)PR-12686、PR-NR-1、PR-13349、PR-50731、PR-217、PR-7031A、PR-12687およびPR-13355などのスミライトレジン(登録商標)PRシリーズである。
【0088】
フェノール樹脂は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
ゴム組成物におけるフェノール樹脂の配合量は、適宜調節すればよい。一実施形態では、ゴム組成物におけるフェノール樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、1.0質量部以上、2.0質量部以上、5.0質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上または30質量部以上である。別の実施形態では、ゴム組成物におけるフェノール樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、30質量部以下、25質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下または2質量部以下である。さらに別の実施形態では、ゴム組成物におけるフェノール樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部当たり、2~20質量部である。
【0090】
<その他の成分>
本発明に係るゴム組成物には、上記必須成分の他、ゴム組成物に配合される公知の添加剤を適宜配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、フィラー(例えば、カーボンブラック)、加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、加硫遅延剤、老化防止剤、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、着色防止剤およびオイルなどが挙げられる。これらは、それぞれ、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
一実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、コバルト化合物の含有量が、0.01質量部以下である。別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、コバルト化合物を実質的に含まない。さらに別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、コバルト化合物を含まない。別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、不可避不純物を除いて、コバルト化合物を含まない。さらに別の実施形態では、本発明に係るゴム組成物は、ゴム組成物を製造する際にコバルト化合物を配合しない。
【0092】
本発明に係るゴム組成物の調製方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、NBRを少なくとも10質量部含むゴム成分と、ゴム-金属間接着促進剤と、任意にシリカなどの任意成分とを、同時にまたは任意の順序で添加して、バンバリーミキサー、ロールおよびインターナルミキサーなどの混練り機を用いて混練りすることによって得られる。
【0093】
本発明に係るゴム組成物の用途は、特に限定されず、例えば、ホース、コンベヤベルト、クローラ、タイヤ、電線、防振材および靴底など任意のゴム物品に用いることができる。
【0094】
(複合体)
本発明に係る複合体は、上記いずれかのゴム組成物と金属部材との、複合体である。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0095】
本発明に係る複合体は、上記いずれかのゴム組成物と金属部材とが接していればよく、例えば、金属部材の一部または全部をゴム組成物が被覆していてもよいし、金属部材からなる層の少なくとも一面側にゴム組成物からなるゴム層が積層されていてもよい。
【0096】
金属部材は、特に限定されず、例えば、スチールワイヤーなどの公知の金属ワイヤーおよび鋼板などを用いることができる。
【0097】
金属部材は、メッキされていてもよいし、メッキされていなくてもよい。メッキの種類は特に限定されず、ブラスメッキ、亜鉛メッキ、クロムメッキおよびニッケルメッキなど公知のメッキを適宜採用することができる。一実施形態では、金属部材は、ブラスメッキおよび亜鉛メッキからなる群より選択される1種以上のメッキがされている。
【0098】
金属部材は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
複合体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、金属部材をゴム組成物が被覆している複合体では、金属部材をゴム組成物で被覆した状態でゴム組成物を加硫することで複合体を得ることができる。また、例えば、金属部材からなる層の少なくとも一面側にゴム組成物からなるゴム層が積層されている複合体では、例えば、国際公開第2017/056414号に記載の積層体の製造方法によって複合体を得ることができる。
【0100】
本発明に係る複合体の用途は、特に限定されず、例えば、ホース、コンベヤベルト、クローラ、電線、防振材およびタイヤなど任意のゴム物品に用いることができる。
【0101】
(ホース)
本発明に係るホースは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いた、ホースである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0102】
ホースの構成は特に限定されず、公知の構成を適宜採用することができる。例えば、上記いずれかのゴム組成物のみを用いた1層からなるホースでもよいし、国際公開第2017/056414号に記載の内面ゴム層、補強層(例えば金属ワイヤー層)および外面ゴム層からなる3層のホースでもよい。3層のホースの場合、内面ゴム層および外面ゴム層の少なくとも一方に上記いずれかのゴム組成物を用いればよく、両方に用いてもよい。また、内面ゴム層および外面ゴム層の両方に上記いずれかのゴム組成物を用いる場合、各層のゴム組成物は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0103】
(コンベヤベルト)
本発明に係るコンベヤベルトは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いた、コンベヤベルトである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0104】
コンベヤベルトは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いたこと以外は特に限定されず、公知のコンベヤベルトの構成と製造方法を採用し得る。
【0105】
(クローラ)
本発明に係るクローラは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いた、クローラである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0106】
クローラは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いたこと以外は特に限定されず、公知のクローラの構成と製造方法を採用し得る。
【0107】
(タイヤ)
本発明に係るタイヤは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いた、タイヤである。これにより、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する。
【0108】
タイヤは、上記いずれかのゴム組成物または複合体を用いたこと以外は特に限定されず、公知のタイヤの構成と製造方法を採用し得る。タイヤにおける部材としては、例えば、トレッド部、ショルダー部、サイドウォール部、ビード部、ベルト層およびカーカスなどが挙げられる。
【実施例】
【0109】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。実施例において、配合量は、特に断らない限り、質量部を意味する。
【0110】
実施例で用いた材料の詳細は以下のとおりである。
NBR1:JSR社製の商品名「N230S」、AN=35%
NBR2:JSR社製の商品名「N250S」、AN=19.5%
NR:RSS3号
SBR:JSR社製の商品名「JSR 1500」
BR:JSR社製の商品名「BR01」
ネオデカン酸ビスマス:脂肪族カルボン酸の金属塩(1)に相当
ネオデカン酸亜鉛:脂肪族カルボン酸の金属塩(1)に相当
ステアリン酸コバルト:DIC社製の商品名「ステアリン酸コバルト」
カーボンブラック:旭カーボン社製の商品名「旭#50」
シリカ:東ソー・シリカ社製の商品名「Nipsil(登録商標)AQ」
フェノール樹脂:住友ベークライト社製の商品名「スミライトレジン(登録商標)PR-12687」
硫黄:鶴見化学工業社製の商品名「SULFAX(登録商標)5」
加硫促進剤:大内新興化学工業社製の商品名「ノクセラーNS」、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
亜鉛華:東邦亜鉛社製の商品名「銀嶺(登録商標)SR」
金属ワイヤー:直径0.30mm、長さ100mmのブラスメッキ(Cu:質量63%、Zn:37質量%、メッキ付着量4g/kg)スチールワイヤー
【0111】
(実施例1)
表1および表2に示す配合(硫黄および加硫促進剤を除く)で、インターナルミキサーを用いて混錬物の温度が170℃になるまで混練りした後、その混合物を40℃以下まで冷却した。次いで、その混合物に硫黄および加硫促進剤を添加して、未加硫のゴム組成物を得た。
【0112】
・ゴム-金属間接着性試験用サンプルの作製
得られた未加硫のゴム組成物のうちの2つをそれぞれ縦150mm、横150mm、厚さ2mmのシートに圧延成型し、それぞれに金属ワイヤーを7本隙間なく並べて、167℃、15分の条件で加硫して、加硫ゴムを含むゴム-金属複合体の試験サンプルを得た。
【0113】
・ゴム-金属間接着性試験
上記の加硫ゴムを含むゴム-金属複合体の試験サンプルについて、金属ワイヤーのうち、両端の2本を除く5本をまとめて一定の力でペンチで引っ張った。同じ試験をもう1つの試験サンプルについても行った。そして、引っ張った後の金属ワイヤー表面の加硫ゴムの被覆率(%)を測定した。結果を表2に示す。被覆率の値が大きいほど、ゴム-金属間の接着性が良好であることを示し、2回とも80%以上の場合、接着性は合格である。表2中、記号「/」の左側が1回目の試験結果、記号「/」の右側が2回目の試験結果を表す。
【0114】
・耐久性評価
得られた未加硫のゴム組成物を167℃、15分の条件で加硫した後、JIS K 6251に準拠して、加硫ゴムの切断時引張強さ(Tb)と切断時伸び(Eb)を測定した。結果を表2に示す。TbとEbの値が大きいほど、ゴム組成物の耐久性が良好であることを示す。
【0115】
(実施例2~12および比較例1~4)
ゴム組成物の配合を表1および表2または表3に示す配合に変更したこと以外は、実施例1と同様に未加硫ゴム組成物を調製し、加硫ゴムを含むゴム-金属間接着性試験および耐久性評価を行った。結果を表2または表3に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
表2~3に示すように、本発明によれば、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有するゴム組成物と複合体を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、ゴム成分としてアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を少なくとも含むゴム組成物であって、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有するゴム組成物を提供することができる。また、本発明によれば、コバルト塩を含有するゴム組成物と同等以上のゴム-金属間の接着性を有する複合体、ホース、コンベヤベルト、クローラおよびタイヤを提供することができる。