(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】水素分離方法および水素分離装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/50 20060101AFI20231005BHJP
F25J 3/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B3/50
F25J3/02 101
(21)【出願番号】P 2019207922
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 有美
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 洋志
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-302783(JP,A)
【文献】特表2007-507682(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195079(WO,A1)
【文献】特開平10-306976(JP,A)
【文献】特開平11-314910(JP,A)
【文献】国際公開第2018/219855(WO,A1)
【文献】特開2019-137597(JP,A)
【文献】特開2017-124394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/50
F25J 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧蒸留塔、低圧蒸留塔、および前記高圧蒸留塔のコンデンサーと前記低圧蒸留塔のリボイラーを兼ねる自己熱交換器より構成される蒸留塔設備により、所定濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を分離する水素分離方法であって、
前記低圧蒸留塔は1.2~2.0barに加圧され、
前記高圧蒸留塔は5~12barに加圧され、
前記高圧蒸留塔の塔頂部から得られる水素と窒素の混合気体の一部を前記自己熱交換器に供給し、残部と前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気とを、水素と窒素の加圧混合気体として取り出し、
前記自己熱交換器で得られる凝縮液体の一部を、前記高圧蒸留塔の塔頂部領域へ還流し、残部を水素と窒素の混合液体として取り出し、
前記自己熱交換器で得られる
凝縮液体の流量を基準としたときの、前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気の流量の割合を15~25mol%とし、
前記自己熱交換器において温度交差が生じないようにすることを特徴とする水素分離方法 。
【請求項2】
前記低圧蒸留塔が前記高圧蒸留塔の上にスタックされ、前記低圧蒸留塔の底部に前記自己熱交換器が設置された請求項1に記載の水素分離方法。
【請求項3】
前記高圧蒸留塔は9.5~11.0barに加圧されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水素分離方法。
【請求項4】
前記低圧蒸留塔は1.2~1.4barに加圧されることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の水素分離方法。
【請求項5】
前記自己熱交換器で得られる
凝縮液体の流量を基準としたときの、前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気の流量の割合を16~18mol%とすることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の水素分離方法。
【請求項6】
前記高圧蒸留塔の塔底から第1液体フラクションを取り出し、熱交換器にて放熱してから、前記低圧蒸留塔の中間領域に供給するとともに、
前記高圧蒸留塔の中間領域から第2液体フラクションを取り出し、熱交換器にて放熱してから、前記低圧蒸留塔における前記第1液体フラクションの供給領域よりも上方の領域に供給することを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の水素分離方法。
【請求項7】
前記水素と窒素の加圧混合気体の一部を加圧した後、前記自己熱交換器で得られた凝縮液体の一部とともに、前記高圧蒸留塔の塔頂部領域へ還流することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の水素分離方法。
【請求項8】
高圧蒸留塔、低圧蒸留塔、および前記高圧蒸留塔のコンデンサーと前記低圧蒸留塔のリボイラーを兼ねる自己熱交換器より構成される蒸留塔設備により、水素が所定濃度以上とされた水素と酸素と窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を分離する水素分離装置であって、
前記低圧蒸留塔は1.2~2.0barに加圧され、
前記高圧蒸留塔は5~12barに加圧され、
前記高圧蒸留塔の塔頂部から得られる水素と窒素の混合気体の一部を前記自己熱交換器に供給し、残部と前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気とを、水素と窒素の加圧混合気体として取り出し、前記自己熱交換器で得られる凝縮液体の一部を、前記高圧蒸留塔の塔頂部領域へ還流し、残部を水素と窒素の混合液体として取り出し、前記自己熱交換器で得られる
凝縮液体の流量を基準としたときの、前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気の流量の割合を15~25mol%とし、前記自己熱交換器において温度交差が生じないようにすることを特徴とする水素分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離方法および水素分離装置に関し、特に、所定濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を分離する水素分離方法および水素分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水素酸素混合ガスに窒素を添加し、低温冷媒で冷却して酸素を液化することにより水素から分離する方法を開示している。
また、光触媒と太陽エネルギーを用いて水を分解し、水素や酸素を製造する技術が注目されている。特許文献2は、光触媒を用いた光水分解反応を利用し、系内において水素と酸素とを同時に発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-137597号公報
【文献】特開2017-124394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示する技術によれば、水素と酸素と窒素の三成分混合気体から水素窒素の混合気体と酸素を分離することが可能ではあるが、工業上、少なくとも2つの問題点がある。1つめは、-200℃レベルの冷却に外部冷媒を要する点であり、2つめは、酸素留分に窒素が混在するため、そのままでは製品とすることができない点である。仮に酸素を製品として得ようとする場合にはさらに分離工程が必要となってしまう。
【0005】
特許文献2に開示する技術によれば、仕切られていない空間で水素と酸素が同時に生成するため、水と水素と酸素が共存する気液混相状態が生じる。分解反応で生じる気体中の水素と酸素の濃度はそれぞれ66mol%と33mol%であり、水素と酸素の比が、所定の温度及び圧力の下である閾値を超えるとわずかな着火エネルギーによって着火する可能性がある。その閾値は常温常圧では4mol%であり、分解後の気体は閾値を超えているため着火の可能性が高く、製品である水素を安全に分離できない。
【0006】
本発明は、水素が所定濃度以上であって上記閾値未満の組成比となる水素と酸素と窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物および終局的には水素を分離する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高圧蒸留塔、低圧蒸留塔、および前記高圧蒸留塔のコンデンサーと前記低圧蒸留塔のリボイラーを兼ねる自己熱交換器より構成される蒸留塔設備により、水素が所定濃度以上とされた水素と酸素と窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を分離する水素分離方法である。
前記低圧蒸留塔は1.2~2.0bar(絶対圧、以下同様)に加圧され、前記高圧蒸留塔は5~12barに加圧され、前記高圧蒸留塔の塔頂部から得られる水素と窒素の混合気体の一部を前記自己熱交換器に供給し、残部と前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気とを、水素と窒素の加圧混合気体として取り出し、前記自己熱交換器で得られる凝縮液体の一部を、前記高圧蒸留塔の塔頂部領域へ還流し、残部を水素と窒素の混合液体として取り出す。
このとき、前記自己熱交換器で得られる非凝縮蒸気と凝縮液体の割合を15~25mol%とし、前記自己熱交換器において温度交差が生じないようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素が所定濃度以上とされることで空気とは区別されることを前提とした上で、水素と酸素と窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物および終局的には水素を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例にかかる水素製造装置の概略の説明図である。
【
図2】気液分離器における空気流量の調整手法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明である水素分離方法および水素分離装置の一実施例を説明する。本明細書においては、以下の構成で説明する。
第1部:光触媒と太陽エネルギーを用いて水を分解するも、連鎖的な燃焼反応が生じないプロセス条件を維持しつつ系内において水素と酸素とを同時に発生させる方法および装置(水素製造装置)。
第2部:水素が所定濃度以上とされた水素と酸素と窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を分離する方法および装置(水素分離装置)。
【0011】
(第1部)
図1は、本発明の一実施例にかかる水素製造装置の概略の説明図である。
本水素製造装置10は、水分解反応を促進する光触媒21を使用して水を分解して水素を発生させる水循環経路20を備える。
この光触媒21は、入水口21aと出水口21bとを備える管路であり、内部には光を利用して水分解反応を起こす光触媒シート21cが配設されるとともに、外部の光を透過させて前記光触媒シート21cに到達させるための透明窓21dが備えられている。入水口21aから注入される水の一部は、光触媒シート21cの表面に沿って流れる間に外部光が照射されることで水素と酸素に分解され、残りの液相の水内で気泡となる。そして、水素と酸素の気泡が混じりあった気液二相流は、出水口21bから吐出される。
【0012】
水循環経路20は、気液分離器30を備えている。気液分離器30は、気液二相流が流入する第1の入口31と、気相の気体が排気される第1の出口32と、液相の液体が排液される第2の出口33とを備えている。気液分離器30は縦型の筒型容器であり、上部に前記第1の出口32が開口しており、下部に前記第2の出口33が開口している。気液二相流が内部に流入されると、液体が下部に集中し、気体が上部に集中することで気液が分離される。
【0013】
本実施例における気液分離器30の第1の入口31は、光触媒21の出水口21bに連結されている。気液分離器30には、さらに第2の入口34が開口しており、同第2の入口34には送風機41の吐出口41aと連結されている。送風機41は、吸入口41bから外部の空気を吸入して、気液分離器30に供給するものであり、流入させる空気量は後述するようにして制御される。送風機41が気液分離器30に外部の空気を供給する結果、気液分離器30の第1の入口31から吐出される気体には、外部の空気が混じり合い、光触媒21において水を分解して生成される水素と酸素は希釈される。希釈する目安として、この水循環経路20において発生する水素の比が、混合後の気相組成比として、4mol%以下となる量の空気を供給することを目標としている。一方、後述するように水素を抽出する前提として酸素や窒素を分離する処理が必要となるので、4mol%を超えて希釈させる場合は希釈しすぎると不要なプロセスが必要となってくる。
【0014】
送風機41と気液分離器30とこれらを連通させる管路とにより、生成される水素と酸素を空気で希釈する空気混合機50を構成する。この空気混合機は、前記水循環経路20における前記光触媒21の後段側に備えられていることになる。
気液分離器30の第2の出口33は、水ポンプ42を介して光触媒21の入水口21aに連結されている。水ポンプ42は気液分離器30の第2の出口33から吐出される液相の水を、そのまま光触媒21の入水口21aへと供給するものである。光触媒21においては、水分解反応によって水素と酸素の気泡が光触媒シート21cの表面から発生する。これらの気泡は水よりも密度が小さいために、気泡には水中を上昇する向きの浮力が働く。そのため、運転条件によっては光触媒21、および光触媒21から気液分離器30に至る経路において、装置上部に気泡が集まり気体の層が形成され得る。
【0015】
一方で、水の流入量が多い場合は、光触媒シート21cの表面から発生する気泡は水とともに流され、光触媒21内で上部に気体の層を形成する前に出水口21bから出て行く。光触媒21から気体分離器30においても同様に、十分大きい水流量の下では装置上部に気体の層が形成されることがなく、気泡流の状態を維持したまま気体分離器30に至る。本実施例においては、水ポンプ42は、光触媒21で分離される水素が水と混じり合った気泡流とさせる水量を供給する。光触媒シート21c表面で生成される水素や酸素の量は、温度、気圧、光量に応じて変化するが、水ポンプ42の選択にあたっては、光触媒21で分離生成される水素を確実に気泡流とさせることができる水量を供給できるものとすればよい。
さらに、水循環経路20には水供給路43が備えられている。水分解によって水素と酸素を得る分だけ水が減少する。この減少分を補う水を水供給路43が供給する。
【0016】
図2は、気液分離器における空気流量の調整手法を示す説明図である。
気液分離器30における第1の入口31の流量をF31、第1の出口32の流量をF32、第2の出口33の流量をF33、第2の入口34の流量をF34とし、水素の発生量をFhとする。
【0017】
分解反応で生じる気体中の水素と酸素の濃度は、それぞれ、66mol%と 33mol%であるから、水素の発生量がFhであるとき、酸素の発生量は1/2・Fhである。
第1の出口32の流量F32は、発生した水素と酸素の発生量と、送風機41で流入した空気の量F34である。従って、
F32=F34+Fh+1/2・Fh
=F34+3/2・Fh (1)式
【0018】
発生した水素の量が、概ね混合空気の4mol%となるようにするということは、
F32・(4/100)=Fh (2)式
発生する水素と酸素の量は、温度、気圧、入射光の強さの影響を受けて変動する。従って、(1)式と(2)式とから水素と酸素の量に対応するFhを削除する。
F32=(100/94)・F34 (3)式
【0019】
すなわち、第1の出口32の流量が、第2の入口34から送り込む空気量の(100/94)倍となっているときに、混合空気の中の約4mol%が水素となっている。他の関係式も導かれるが、第1の出口32の流量をフィードバックして送風機41で送り込む空気の量を調整すればよい。
【0020】
このように、水循環経路20では、気液分離器30からの排気量であるF32を入力して、気液分離器30に供給する空気量F34を調整している。空気流量の調整法としては、上述の方法の他、触媒最大性能から推定される最大量の水素・酸素が発生した時に、水素が4mol%以下となるような空気供給量にF34を固定しても良い。太陽の照射量によっては全く水素が発生しないこともあるが、空気量の負荷変動が大きいと、空気分離器が安定に運転できないこともあるので、空気流量の固定もしくは下限内で変動を許容することも可能である。
【0021】
本水素製造装置10は、前記水循環経路20に加えて、水素分離装置60を備えている。水素分離装置60は、所定の濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素の混合気体から、水素と窒素の混合物を分離する。水素と窒素の混合物を分離する装置および方法ではあるが、水素と窒素の分離については多くの公知技術がありこれらで対応できる。従い、本発明は実質上水素分離装置であり、水素分離方法でもある。
前記構成からなる本水素製造装置では、以下のようにして水素を製造する。
【0022】
本水素製造装置10における水循環経路20の水ポンプ42を稼働させ、水循環経路20内に水を循環させる。光触媒21の透明窓21dに外部から光が照射されると、同光は循環している水を透過して光触媒シート21cに到達する。光触媒シート21cの表面では、同光触媒シート21cに接している水を水分解する作用が促進され、水素と酸素の気泡が発生する。発生した気泡は光触媒シート21cを離れると重力によって上方へ移動しようとするものの、水が循環しているので水の流れに伴って入水口21aの側から出水口21bの側に移動し始める。水の流れが弱い場合は、上昇する気泡が周囲の気泡と接して合体し、大きな気泡となって最終的には装置上部に気体の層を形成する。しかし、本実施例の水ポンプ42の流量はこのような気泡の合体化を妨げ、気泡が合体するまもなく出水口21bへと押し流される。このようにして水素や酸素は気泡流として水循環経路20を流下する。
【0023】
発生した水素と酸素は気泡流の状態で水循環経路20を流下し、気液分離器30の第1の入口31から同気液分離器30内に入る。気液分離器30の内部は水循環経路20の管路よりも径が大きいので、水流の速度が低下し、気泡は上昇し、液体としての水は気液分離器30の下方側にたまる。気泡は気液分離器30の内部の上部空間に集まろうとするが、送風機41が第2の入口34から外部の空気を流入しており、発生した水素と酸素は流入される空気と混合されて希釈される。
【0024】
流入させる空気量F34は、(3)式に基づいて制御されるため、気液分離器30の第1の出口32から吐出される混合空気において、水素が占める割合は4mol%以下となる。
空気の主な組成を、酸素と窒素とその他とすると、混合空気の組成は、水素、酸素、窒素、その他となる。この水素の濃度は、空気中の濃度よりも多く、空気とは明らかに差別される濃度以上である。この混合空気は、水素分離装置60に供給される。
【0025】
(第2部)
図3は、水素分離装置における要部の概略構成を示す図である。
同図に示すように、本水素分離装置60は、高圧蒸留塔61と、低圧蒸留塔62と、および前記高圧蒸留塔61のコンデンサーと前記低圧蒸留塔62のリボイラーを兼ねる自己熱交換器63とにより構成される蒸留塔設備を備えている。
原料は、水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体S0であり、高圧蒸留塔61の下方領域に供給されている。ここにおいて水素は空気中の所定濃度と比して十分に高い所定濃度以上であり、4mol%以下が好適である。
【0026】
前記低圧蒸留塔62は1.2~2.0barに加圧され、前記高圧蒸留塔61は5~12barに加圧されている。
混合気体S0を前記高圧蒸留塔61の下方領域に供給することにより、当該高圧蒸留塔61の塔頂部からは水素と窒素の混合気体が得られる。この水素と窒素の混合気体の一部S14を前記自己熱交換器63に供給し、残部S15と前記自己熱交換器63で得られる非凝縮蒸気S4とを、水素と窒素の加圧混合気体(S7,S8,S15)として取り出している。
【0027】
また、前記自己熱交換器63で得られる凝縮液体S13の一部S21を、前記高圧蒸留塔61の塔頂部領域へ還流し、残部S3を水素と窒素の混合液体として取り出している。
なお、前記自己熱交換器63で得られる非凝縮蒸気S4と凝縮液体S13の割合は15~25mol%とする。
このようにすることで、前記自己熱交換器63において温度交差が生ずることがなく、所定濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を安全に分離することができる。
【0028】
自己熱交換器63において温度交差が生ずると、当然ながら自己熱交換はできなくなる。温度交差に影響を与える要素は多数にわたるため、多次元の条件設定を満遍なく試験することは当業者といえども現実的には不可能である。ある蒸留塔設備において別目的で実施されている諸条件の開示は、目的が異なる他の目的に適用できないのは当業者であれば常識である。このため、目的が異なる他の目的に使用されている諸条件の開示を組み合わせて本発明をなしえるとするはずもない。さらには、本発明は、所定濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体を原料として、水素と窒素からなる混合物を分離することも過去にはなかった目的といえる。
【0029】
なお、上述した諸条件において、さらに好適な条件設定も可能である。例えば、前記高圧蒸留塔61を、9.5~11.0barに加圧することが可能である。また、前記低圧蒸留塔62は1.2~1.4barに加圧することが可能である。さらに、前記自己熱交換器63で得られる非凝縮蒸気と凝縮液体の割合を16~18mol%とすることが可能である。これらの範囲を単独あるいは組み合わせて適用することにより、自己熱交換のための温度差をより十分にとることができ、工業的な生産に好適である。
【0030】
図4は、水素分離装置の概略構成を示す図である。
水素分離装置60は、高圧蒸留塔61と、低圧蒸留塔62と、前記高圧蒸留塔61のコンデンサーと前記低圧蒸留塔62のリボイラーを兼ねる自己熱交換器63を備えている。本実施例においては、前記低圧蒸留塔62が前記高圧蒸留塔61の上にスタックされ、前記低圧蒸留塔62の塔底部に前記自己熱交換器63が設置されている。
また、水素分離装置60は、その他の主要な構成要素として、対向式熱交換器64,65と、ポンプ66と、コンプレッサー67と、脱水装置68と、原料冷却器69とを備えている。
【0031】
図1の水素製造装置10は、予め水素濃度が上記閾値に達しないように水素濃度が1ppm~6mol%、より好ましくは3~4mol%となるよう空気で希釈した混合気体を生成する。この混合気体は、圧縮され更に水分と二酸化炭素を除去され、本水素分離装置60に原料として供給される。
【0032】
混合気体は、まず原料冷却器69に供給される。原料冷却器69には、この混合気体とともに後述する生成流S6,S7が供給されており、向流熱交換によって生成流S6,S7よりも温度の高い原料空気が冷却される。冷却された混合気体S0は、導管を介して高圧蒸留塔61の塔底部に供給される。高圧蒸留塔61は、5~12barに加圧され、より好ましくは9.5~11.0barに加圧されている。
【0033】
高圧蒸留塔61の塔頂部からは水素と窒素の混合蒸気が取り出され、その一部である生成流S14は、高圧蒸留塔61のコンデンサーとしての機能を持つ熱交換器(自己熱交換器)63で一部凝縮される。凝縮された液体は生成流S13となり、凝縮されない水素と窒素の非凝縮蒸気は生成流S4となる。本実施例においては、前記自己熱交換器63で得られる非凝縮蒸気の生成流S4と凝縮液体である生成流S13との割合を15~25mol%としている。
【0034】
なお、本熱交換器63は高圧蒸留塔61の上部(蒸留塔鏡板より上方)にスタックされた低圧蒸留塔62の内部の塔底部に配置され、低圧蒸留塔62におけるリボイラーの機能も兼ね備える自己熱交換器である。また、低圧蒸留塔62は、1.2~2.0barに加圧され、より好ましくは1.2~1.4barに加圧されている。
高圧蒸留塔61の塔頂部から取り出される水素と窒素の混合蒸気は、分岐Aにおいて、前記生成流S14と、生成流S15とに分岐される。生成流S14として自己熱交換器63に送る水素と窒素の混合気体の量は、自己熱交換器63での熱交換に影響を与える。すなわち、多ければ多くの熱量が交換され、少なければより少ない熱量が交換される。従って、自己熱交換器63で温度交差が生じない量となるように、分岐Aにおいて、生成流S14となる量を決めている。
【0035】
生成流S14に対して、高圧蒸留塔61の塔頂部から得られる混合気体の残りの生成流S15は、自己熱交換器63での非凝縮蒸気の生成流S4と合流される。合流した生成流は分岐Bを経て、そのうちの一部の生成流S7が前述したように導管を経て原料冷却器69に導かれ、加圧気体水素窒素生成流S17として導出される。分岐Bで分岐される加圧気体水素窒素生成流S17となる水素と窒素の量は原料冷却器69で必要となる熱交換量で定まることになる。分岐Bで分岐される残りは導管を経て熱交換器65に導かれ、当該熱交換器65で昇温されてから導管を介して生成流S8となり、さらに分岐Gを経て一部が生成流S18として外部に導出される。
【0036】
生成流S8の残りはコンプレッサー67が加圧し、生成流S10とする。加圧された生成流S10は分岐Cを経て、一部が高圧の水素窒素生成流S25として払い出され、残りの生成流S26は本系内に循環する。
ここで、分岐Gで決まる生成流S10および分岐Cで決まる生成流S26の流量は膨張タービン71での動力回収と、低圧蒸留塔62への還流S5および後述の高圧蒸留塔61へフィードさせるのに必要な生成流S12の流量により決定する。生成流S26は分岐Dを介してその一部の生成流S19が熱交換器65に供給されて冷却され、膨張タービン71による膨張減圧によって高圧蒸留塔61の動作圧力付近にまで降圧される。
【0037】
降圧された混合気体は気液分離器(図示せず)により気液分離した後、液相分の生成流S5は低圧蒸留塔62の塔頂部に導入される。また、気相分の生成流S11は自己熱交換器63での非凝縮蒸気の生成流S4の一部と混合され、熱交換器65に循環導入される。
分岐Dで分離された生成流S26の残りは熱交換器65を経て加圧混合気体S12となり、高圧蒸留塔61塔頂へ導入される。この加圧混合気体S12の流量は、高圧蒸留塔61塔頂の自己熱交換器63において温度交差しないような水素濃度となるように分岐Dで決定している。すなわち、加圧混合気体S12の流量が多すぎると高圧蒸留塔61の塔頂付近の温度低下を招くためである。
【0038】
自己熱交換器63で得られる凝縮された生成流S13は分岐Fを経て、その一部の生成流S21は高圧蒸留塔61の塔頂部へ還流され、残りは液体水素窒素生成流S3として熱交換器64で冷熱回収した後、系外へ取り出される。
高圧蒸留塔61の塔底からは、酸素富化サンプ液が導管を介して第1液体フラクションS1として取り出され、熱交換器64を経由して放熱してから低圧蒸留塔62の中間領域に導入されている。
【0039】
また高圧蒸留塔61の原料S0供給位置より上方から第2液体フラクションS2が取り出されており、同様に熱交換器64を経由して低圧蒸留塔62内に導入される。この場合、低圧蒸留塔62への導入位置は第1液体フラクションS1の導入位置(供給領域)よりも上方位置、より好適には低圧蒸留塔62の頭頂部である。
低圧蒸留塔62の塔底サンプ液の一部は所望の酸素製品純度となるよう自己熱交換器63に導かれて気化する。また、気化させない塔底サンプ液の一部S16はポンプ66にて熱交換器65に導かれ、冷熱回収した後、酸素製品S9として系外へ払い出す。
【0040】
低圧蒸留塔62の塔頂部からは窒素含有ガスS6が引き出され、熱交換器64において高圧蒸留塔61からの液体フラクションS1,S2,S3との向流熱交換によって昇温された後、さらに原料冷却器69に導かれて昇温され、残ガスとして大気放出される。
なお、以上において、高圧蒸留塔61および低圧蒸留塔62の物質交換要素は蒸留トレイあるいは充填物表面の気液接触によって形成される。
図5は、各生成流の圧力などを示す図である。本実施例においては、同図に示す圧力、温度、流量、組成であった。
【0041】
従来より、高圧蒸留塔61と、低圧蒸留塔62と、および前記高圧蒸留塔61のコンデンサーと前記低圧蒸留塔62のリボイラーを兼ねる自己熱交換器63とにより構成される蒸留塔設備は知られている。
しかし、一般の空気と比して所定濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体を原料としてこのような蒸留塔設備に供給する例はない。特に、水素の濃度が空気の濃度と比して十分に高い濃度、例えば4mol%前後の濃度である場合、高圧蒸留塔61の塔頂部領域の温度はより大きく温度低下する傾向を示すし、さらに上述の諸分岐点での流量比の新しい設定指針は水素が原料気体中に含まれている場合に特有のものであり、この新しい設定指針なしには、望ましい操作温度条件を実現することはできず、自己熱交換にて所定の熱交換量を確保することは到底できない。すなわち、所定濃度以上とされた水素と、酸素と、窒素とを主成分とする混合気体から、水素と窒素からなる混合物を工業的に分離することはできない。
【0042】
なお、本発明は前記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。当業者であれば言うまでもないことであるが、
・前記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって前記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が前記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0043】
60…水素分離装置、61…高圧蒸留塔、62…低圧蒸留塔、63…自己熱交換器、64,65…対向式熱交換器、66…ポンプ、67…コンプレッサー、68…脱水装置、69…原料冷却器、71…膨張タービン、72…気液分離器。