(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-04
(45)【発行日】2023-10-13
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに、化粧料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20231005BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231005BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C01B21/064 M
A61K8/19
A61Q1/00
(21)【出願番号】P 2020010298
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-212217(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066277(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/049956(WO,A1)
【文献】特開2018-108970(JP,A)
【文献】特開2014-094878(JP,A)
【文献】特開2016-160134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含
む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径が8~20μmであり、比表面積が
1.5m
2/g
以下であり、全酸素量が0.30質量%以下であり、且つ吸油量が40mL/100g以上100mL/100g未満である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記一次粒子のアスペクト比が20以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
溶出ホウ素量が20質量ppm以下である、請求項1
又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
カーボンブラック及びアセチレンブラックの少なくとも一方と、ホウ酸及び酸化ホウ素の少なくとも一方と、を含む原料粉末を、
窒素及びアンモニアの少なくとも一方を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度
に維持し2~4時間加熱処理して第一の加熱処理物を得る第一工程と、
前記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度
に維持し1~15時間前記第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る第二工程と、
前記第二工程よりも高い温度
に維持し1~25時間、前記第二の加熱処理物を焼成して焼成体を得る第三工程と、
前記焼成体を水及び酸の少なくとも一方で処理する第四工程と、を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記第三工程における焼成温度が1850~2100℃である、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む、化粧料。
【請求項7】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を配合することを含む、化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに、化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性を有しており、固体潤滑材、離型材、樹脂及びゴムに対する充填材、化粧料の原料、並びに、耐熱性を有する絶縁性焼結体等の種々の用途に利用されている。
【0003】
六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の滑り性、伸び性、及び隠ぺい性等を向上させる機能、並びに化粧料に光沢性等を付与するといった機能を有する。タルク粉末及びマイカ粉末等も六方晶窒化ホウ素粉末と同様の機能を発揮し得る体質顔料として使用されるが、これらは天然鉱物であり、粒径や厚みのバラツキが大きい。特に六方晶窒化ホウ素粉末は、タルク粉末及びマイカ粉末に比べて滑り性に優れており、優れた滑り性が要求される化粧料によく使用されている。特許文献1では、滑り性を改善するために、せん断応力と加圧力の比を所定の数値範囲内とする六方晶窒化ホウ素粉末が提案されている。
【0004】
化粧料に対する要求特性も多岐にわたり、原料である六方晶窒化ホウ素粉末への要求特性も更に高まっている。例えば、薄膜での皮膜形成性に優れ、冷感や透明性(素肌感)を向上させた化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末として、特許文献2では、表面における親水性の官能基を低減し、吸油量を増大させた六方晶窒化ホウ素粉末が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-043792号公報
【文献】特開2014-094878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、化粧料用の原料に適する六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含み、比表面積が2.5m2/g未満であり、全酸素量が0.30質量%以下であり、且つ吸油量が40mL/100g以上100mL/100g未満である、六方晶窒化ホウ素粉末を提供する。
【0008】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、所定の比表面積を有する一次粒子を含み吸油量が所定の範囲となることから、優れた伸び性を発揮し得る。上記効果が奏される理由は、上記六方晶窒化ホウ素粉末において、全酸素量が少なく高純度であり、比表面積が小さく、更に吸油量も比較的に小さくなっており、水分吸着量又は表面に発生する静電気量を低減でき、一次粒子の凝集が抑制されているためと考えられる。また、上記六方晶窒化ホウ素粉末は、一次粒子の全酸素量が所定の範囲であることによって、有機溶剤等への分散性が向上しており、化粧料の製造を円滑に行うことができる。
【0009】
上記一次粒子のアスペクト比が20以下であってよい。アスペクト比が上記範囲内であることで、一次粒子は適度な厚みを有し、一次粒子の割れ等を抑制して、溶出ホウ素量の増加を十分に抑制することができる。
【0010】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、平均粒径が5~20μmであってよい。平均粒径が上記範囲内であると、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて得られる化粧料の伸び性を十分なものとすることができ、光沢感を適度なものとすることができる。
【0011】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、溶出ホウ素量が20質量ppm以下であってよい。溶出ホウ素量が上記範囲内であることで、皮膚への刺激をより低減することができる。
【0012】
本開示の一側面は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、窒素含有化合物を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度で加熱処理して第一の加熱処理物を得る第一工程と、上記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度で上記第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る第二工程と、上記第二工程よりも高い温度で、上記第二の加熱処理物を焼成して焼成体を得る第三工程と、上記焼成体を水及び酸の少なくとも一方で処理する第四工程と、を有する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0013】
上記六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、第一工程及び第二工程において原料粉末を加熱処理し、その後、より高温で焼成する工程を含むことによって、上述のような六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。また第四工程において水処理及び酸処理の少なくとも一方を行うことで溶出ホウ素量を低減することができる。さらに上記六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法によれば、従来の製造方法に比べて、粒径及び粒子形状等の点で均一性に優れる六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0014】
上記第三工程における焼成温度が1850~2100℃であってよい。第三工程における焼成温度を上記範囲内とすることによって、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長を促進して、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積をより小さなものとすることができる。
【0015】
本開示の一側面は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む、化粧料を提供する。
【0016】
上記化粧料は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含むことから、優れた伸び性を発揮し得る。
【0017】
本開示の一側面は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を配合することを含む、化粧料の製造方法を提供する。
【0018】
上記化粧料の製造方法は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を配合することから優れた伸び性を発揮し得る化粧料を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、化粧料用の原料に適する六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0021】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0022】
六方晶窒化ホウ素粉末の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含み、比表面積が2.5m2/g未満であり、全酸素量が0.30質量%以下であり、且つ吸油量が40mL/100g以上100mL/100g未満である。
【0023】
六方晶窒化ホウ素の比表面積の上限値は2.5m2/g未満であるが、例えば、2.3m2/g以下、2.0m2/g以下、1.8m2/g以下、1.5m2/g以下、又は1.0m2/g以下であってよい。比表面積の上限値が上記範囲内であることで、滑り性により優れる。比表面積の上限値が上記範囲内であることで、六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量をより低減することができる。さらに比表面積の上限値を上記範囲内であることで、六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料用の体質顔料として用いた場合、得られる化粧料は優れた隠蔽性(カバー力)を発揮し得る。上記比表面積の下限値は、例えば、0.20m2/g以上、0.30m2/g以上、0.40m2/g以上、又は0.50m2/g以上であってよい。比表面積の下限値が上記範囲内である場合、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を適度に小さなものであることから、密着性に優れる。六方晶窒化ホウ素の比表面積は上述の範囲内で調整することができ、例えば、0.01~2.5m2/g、又は0.50~1.0m2/gであってよい。六方晶窒化ホウ素の比表面積は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を製造時における加熱温度(例えば、後述する第三工程の温度)等の条件を調整することによって制御できる。
【0024】
本明細書における「比表面積」は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に記載の方法に準拠し、窒素ガスを使用してBET一点法により測定される値である。
【0025】
六方晶窒化ホウ素の全酸素量の上限値は0.30質量%以下であるが、例えば、0.25質量%以下、0.20質量%以下、0.15質量%以下、又は0.12質量%以下であってよい。全酸素量の上限値が上記範囲内であることで、粒子表面への水分の吸着を抑制することができる。全酸素量の下限値は、例えば、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上、又は0.05質量%以上であってよい。全酸素量の下限値が上記範囲内であることで、極性溶媒中への分散性等をより向上させることができる。このため、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を体質顔料として用い、化粧料を調製する場合に、他の顔料等との混合が容易でとなり、化粧料の製造を円滑に行うことができる。六方晶窒化ホウ素の全酸素量は上述の範囲内で調整することができ、例えば、0.01~0.30質量%、0.03~0.20質量%、又は0.05~0.15質量%であってよい。全酸素量は例えば、六方晶窒化ホウ素粉末の製造時における加熱温度等の条件を調整することで制御できる。
【0026】
本明細書における「全酸素量」とは、六方晶窒化ホウ素粉末の全酸素量を意味する。全酸素量は以下の手順で求めることができる。六方晶窒化ホウ素粉末の酸素量及び窒素量を、酸素・窒素分析装置を用いて分析する。測定用の試料を、ヘリウムガスの雰囲気中、20℃から2500℃程度まで、すなわち窒化ホウ素の反応分解温度以上まで昇温する。昇温に伴って脱離する酸素を検知する。昇温当初は、六方晶窒化ホウ素粉末の表面に結合している酸素が脱離する。脱離する酸素を定量することで表面酸素量が求められる。その後、温度が1400℃近傍に到達すると、六方晶窒化ホウ素が分解をし始める。六方晶窒化ホウ素の分解開始は、窒素が検出され始めることによって把握することができる。六方晶窒化ホウ素が分解をし始めると、六方晶窒化ホウ素の粒子の内部にある酸素が脱離する。この段階で脱離する酸を定量することで、内部酸素量が求められる。このようにして得られた表面酸素量と、内部酸素量との合計値が全酸素量である。
【0027】
六方晶窒化ホウ素粉末は、吸油量が40mL/100g以上100mL/100g未満である。上記吸油量の下限値は、例えば、50mL/100g以上、60mL/100g以上、65mL/100g以上、又は70mL/100g以上であってよい。吸油量の下限値が上記範囲内であることによって、化粧もちをより十分に確保できる。上記吸油量の上限値は、95mL/100g以下、95mL/100g未満、90mL/100g以下、85mL/100g以下、又は80mL/100g以下であってよい。吸油量の上限値が上記範囲内であることによって、凝集等の発生を抑制することができる。また吸油量の上限値が上記範囲内である六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料用の体質顔料として用いた場合、得られる化粧料は伸び性により優れ、またよりさらさらした触感(powdery)を呈する。吸油量は上述の範囲内で調整することができ、例えば、40~95mL/100g、50~90mL/100g、又は50~80mL/100gであってよい。六方晶窒化ホウ素粉末の吸油量は、例えば、一次粒子のBET比表面積を調整することで制御することができ、六方晶窒化ホウ素粉末の製造時における加熱温度(例えば、後述する第三工程の温度)等の条件を調整することによって制御できる。
【0028】
本明細書における「吸油量」は、JIS K 5101-13-1:2004「顔料試験方法-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法」に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0029】
六方晶窒化ホウ素粉末は比較的大きな粒子径を有する。六方晶窒化ホウ素粉末において、平均粒径の下限値は、例えば、5μm以上、7μm以上、又は8μm以上であってよい。平均粒径の下限値が上記範囲内であることで、十分なのび性を確保できる。上記50%累積径の上限値は、例えば、20μm以下、18μm以下、又は16μm以下であってよい。平均粒径の上限値が上記範囲内であることで、強すぎる光沢感を抑えることができる。平均粒径は上述の範囲内で調整することができ、例えば、5~20μm、又は8~16μmであってよい。平均粒径は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を製造時における加熱温度(例えば、後述する第三工程の温度)等の条件を調整することによって制御できる。
【0030】
本明細書における平均粒径は、体積基準の累積粒度分布における50%累積径(メディアン径)を意味する。本明細書における「体積基準の累積粒度分布における50%累積径」は、六方晶窒化ホウ素粉末に対するレーザー回折散乱法で粒度分布を測定したときの体積基準の累積粒度分布における累積値が50%となったときの粒子径(D50)を意味する。レーザー解析散乱法は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定できる。測定には、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:LS-13 320)等を使用することができる。
【0031】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の形状は、いわゆる鱗片形状である。上記一次粒子のアスペクト比の下限値は、例えば、5以上、又は7以上であってよい。アスペクト比の下限値が上記範囲内であることで、滑り性をより向上させることができる。またアスペクト比の下限値が上記範囲内であることで、六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料用の体質顔料として用いた場合、得られる化粧料は優れた隠蔽性(カバー力)を発揮し得る。上記一次粒子のアスペクト比の上限値は、例えば、20以下、15以下、13以下、又は10以下であってよい。アスペクト比の上限値が上記範囲内であることで、一次粒子は適度な厚みを有し、一次粒子の割れ等を抑制して、溶出ホウ素量の増加を十分に抑制することができる。
【0032】
一次粒子のアスペクト比は、粒子の最も長い箇所(長径)と短い箇所(短径)の比率((長径)/(短径))で表わされる。六方晶窒化ホウ素の場合、一次粒子が鱗片形状の粒子であるから、鱗片形状の粒子の厚みが、粒子の最も短い箇所(短径)となる。つまり、本明細書における「一次粒子のアスペクト比」は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の断面写真画像から粒子長径と粒子厚みとを実測し算出することで得られる値を意味する。すなわち、六方晶窒化ホウ素の一次粒子のアスペクト比は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の(長径)/(厚さ)比で表される値である。
【0033】
六方晶窒化ホウ素のような鱗片形状の粒子においてアスペクト比を測定する際、例えば、電子顕微短径比(長径/短径)を算出した。測定は、任意に選択した100個の一次粒子に対して行う。得られた長径短径比に基づいて累積分布を作成し、累積分布の平均値に相当する長径短径比を求め、これをアスペクト比とする。
【0034】
六方晶窒化ホウ素粉末は溶出ホウ素量が十分に低減されている。六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は、例えば、20質量ppm以下、15質量ppm以下、10質量ppm以下、8質量ppm以下、又は6質量ppm以下とすることができる。六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を低減することで、皮膚への刺激を低減することができることから、化粧料に用いる体質顔料としてより有用である。
【0035】
本明細書における「溶出ホウ素量」とは、医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される値を意味する。
【0036】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、以下のような方法で製造することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む原料粉末を、窒素含有化合物を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度で加熱処理して第一の加熱処理物を得る第一工程と、上記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度で第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る第二工程と、上記第二工程よりも高い温度で、上記第二の加熱処理物を焼成して焼成体を得る第三工程と、上記焼成体を水及び酸の少なくとも一方で処理する第四工程と、を有する。
【0037】
第一工程は、原料粉末を、構成元素として窒素原子を有する化合物の存在下で、加圧及び加熱することで窒化ホウ素を生成させる工程である。原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物を含む。
【0038】
炭素含有化合物は構成元素として炭素原子を有する化合物である。炭素含有化合物は、ホウ素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する。炭素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このような炭素含有化合物としては、例えば、カーボンブラック及びアセチレンブラック等が挙げられる。
【0039】
ホウ素含有化合物は構成元素としてホウ素を有する化合物である。ホウ素含有化合物は、炭素含有化合物及び構成元素として窒素原子を有する化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。ホウ素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このようなホウ素含有化合物としては、例えば、ホウ酸及び酸化ホウ素などが挙げられる。ホウ素含有化合物は、好ましくはホウ酸を含む。この場合、ホウ酸は加熱によって脱水し酸化ホウ素となり、原料粉末の加熱処理中に液相を形成すると共に粒成長を促す助剤としても働くことができる。
【0040】
上述の製造方法は、例えば、原料粉末の調製工程を備えてもよい。ホウ素含有化合物がホウ酸を含む場合、当該原料粉末の調製工程は、更にホウ素含有化合物を脱水する工程を含んでいてもよい。ホウ素含有化合物を脱水する工程を有することで、第一工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。
【0041】
原料粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物に加えて、その他の化合物を含有してもよい。その他の化合物としては、例えば、核剤としての窒化ホウ素等が挙げられる。原料粉末が核剤としての窒化ホウ素を含有することで、合成される六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径をより容易に制御することができる。原料粉末は、好ましくは核剤を含む。原料粉末が核剤を含む場合、比表面積の小さな六方晶窒化ホウ素粉末(例えば、比表面積が2.5m2/g未満である六方晶窒化ホウ素粉末)の製造がより容易となる。
【0042】
核剤としての窒化ホウ素の粉末を使用する場合には、上記核剤の含有量は、原料粉末100質量部を基準として、例えば、0.05~8質量部であってよい。上記核剤の含有量の下限値を0.05質量部以上とすることで、核剤を含むことの効果をより向上させることができる。上記核剤の含有量の上限値を8質量部以下とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の収量を向上させることができる。
【0043】
窒素含有化合物は構成元素として窒素原子を有する化合物であり、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。構成元素として窒素原子を有する化合物としては、例えば、窒素及びアンモニア等が挙げられる。構成元素として窒素原子を有する化合物は、ガス(窒素含有ガスともいう)の形で供給されてよい。窒素含有ガスは、窒化反応による窒化ホウ素の形成を促進する観点、及びコストを低減する観点から、好ましくは窒素ガスを含み、より好ましくは窒素ガスである。窒素含有ガスとして複数の気体の混合ガスを用いる場合、混合ガス中における窒素ガスの割合が、好ましくは95体積/体積%以上であってよい。
【0044】
第一工程は加圧下で行われる。第一工程における圧力の下限値は、0.25MPa以上であるが、例えば、0.30MPa以上、又は0.50MPa以上であってよい。第一工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、ホウ素含有化合物等の原料の揮発をより抑制し、副生成物である炭化ホウ素の生成を抑制することができる。また第一工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素粉末の比表面積の増加を抑制することができる。第一工程における圧力の上限値は、5.0MPa未満であるが、例えば、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.0MPa以下、又は1.0MPa未満であってよい。第一工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素の一次粒子の成長を促進することができる。第一工程における圧力は上記の範囲内で調整してよく、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~1.0MPa、又は0.25MPa以上1.0MPa未満であってよい。
【0045】
第一工程は加熱下で行われる。第一工程における加熱温度の下限値は、1600℃以上であるが、例えば、1650℃以上、又は1700℃以上であってよい。第一工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、反応を促進させ、第一工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。第一工程における加熱温度の上限値は、例えば、例えば、1800℃未満、又は1750℃以下であってよい。第一工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、副生成物の生成を十分に抑制することができる。第一工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1650℃以上1800℃未満、1650~1750℃であってよい。第一工程において、昇温速度は特に制限されるものでは無いが、例えば、0.5℃/分以上であってよい。
【0046】
第一工程における加熱時間は、例えば、1~10時間、1~5時間、又は2~4時間であってよい。窒化ホウ素を合成する反応の序盤である第一工程において、比較的低温で所定時間の間、維持することで、反応系をより均質化することができ、ひいては第一工程で形成される窒化ホウ素をより均質化できる。なお、本明細書において加熱時間とは、加熱対象物の周囲環境の温度が所定の温度に到達してから当該温度で維持する時間(保持時間)を意味する。
【0047】
第二工程は、第一工程で得られた第一の加熱処理物を、第一工程よりも高い温度で更に加熱処理して第二の加熱処理物を得る工程である。本工程において、結晶粒のより均一な成長を促すと共に、反応系における原料及び助剤をより十分に消費させることができる。
【0048】
第二工程における加熱温度は、上記第一工程よりも高く、1850℃未満の温度である。第二工程は、第一工程に連続して行ってもよく、第一工程における温度以外の条件は維持したままであってよい。すなわち、第二工程も窒素含有ガス等を含む加圧環境下で第一の加熱処理物を加熱する工程であってよい。
【0049】
第二工程における加熱時間は、例えば、1~15時間、3~10時間、又は6~9時間であってよい。
【0050】
第三工程は、第二工程で得られた第二の加熱処理物を、更に高温で焼成して焼成体を得る工程である。本工程において、窒化ホウ素の結晶性が向上し、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が形成される。得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は、鱗片状の形状を有する。さらに本工程における加熱温度を高く設定することによって、助剤等の残存量を低減し、純度をより向上させることで、得られる焼成物の溶出ホウ素量を低減することができ、化粧料用の体質顔料としてより好適なものとすることができる。
【0051】
第三工程における圧力は第一工程及び第二工程と同じであっても、異なってもよい。第三工程における圧力が第一工程及び第二工程と異なる場合、第三工程の圧力は、第一工程及び第二工程における圧力よりも低くてよい。
【0052】
第三工程の圧力の下限値は、例えば、0.25MPa以上、0.30MPa以上、又は0.50MPa以上であってよい。第三工程における圧力の下限値を上記範囲内とすることで、得られる焼成体における純度をより向上させることができる。第三工程における圧力の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、5.0MPa未満、4.0MPa以下、3.0MPa以下、2.0MPa以下、1.0MPa以下、又は1.0MPa未満であってよい。第三工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の製造コストをより低減することができ、工業的に優位である。第三工程における圧力は上記の範囲内で調整してよく、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~1.0MPa、又は0.25MPa以上1.0MPa未満であってよい。
【0053】
第三工程における焼成温度は第二工程における加熱温度よりも高い温度に設定する。第三工程における焼成温度の下限値は、例えば、1850℃以上、又は1900℃以上であってよい。第三工程における焼成温度の下限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長を促進して、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積をより小さなものとすることができる。焼成温度の下限値を上記範囲内とし、窒化ホウ素の結晶性をより向上させることで、化粧料原料に用いた場合の滑り性をより向上させることができる。第三工程における焼成温度の上限値は、例えば、2010℃以下、2050℃以下、又は2000℃以下であってよい。第三工程における焼成温度の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の黄変化を抑制することができる。第三工程における焼成温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1850~2100℃、1850~2050℃、又は1900~2025℃であってよい。
【0054】
第三工程における焼成時間(高温での加熱時間)は、例えば、0.5時間以上、1時間以上、3時間以上、又は5時間以上であってよい。第三工程における焼成時間を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長をより十分なものとすることができる。第三工程における焼成時間はまた、例えば、30時間以下、25時間以下、20時間以下、15時間以下、又は10時間以下であってよい。第三工程における焼成時間を上記範囲内とすることで、より安価に六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。第三工程における焼成時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、0.5~30時間、1~25時間、又は3~10時間であってよい。
【0055】
第四工程は、上記焼成体を水及び酸の少なくとも一方で処理し、所望の六方晶窒化ホウ素粉末を得る工程である。本工程において、六方晶窒化ホウ素の溶出ホウ素量を低減して、化粧料用の体質顔料に好適な六方晶窒化ホウ素粉末が製造される。第三工程で得られる六方晶窒化ホウ素粉末を含む焼成体は水処理又は酸処理前であっても、他の製法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末よりも溶出ホウ素量が小さいが、本工程によって溶出ホウ素量を更に低減することができる。第四工程における、水及び酸の少なくとも一方での処理は、水処理単独、酸処理単独、並びに、水処理及び酸処理の組合せであってよく、酸性溶液(例えば、酸性水溶液)による処理であってもよい。第四工程は、例えば、酸処理の後に水処理によって酸を除去する工程であってよい。
【0056】
上記焼成体の酸処理は、焼成体と酸性物質とを接触させて行う。焼成体と酸との接触の手段は、例えば、酸性物質を含む溶液中に焼成体を分散させる方法であってよい。酸性物質は、例えば、塩酸及び硝酸等の無機酸であってよい。酸性物質を含む溶液は、取扱いの容易性から、好ましくは水溶液である。酸性物質を含む溶液は、その他、例えば、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びアセトン等の水溶性の有機溶媒が挙げられる。
【0057】
水処理及び酸処理を行う際の温度は、例えば、20~80℃であってよい。酸処理に酸性物質を含む溶液を用いる場合、上記溶液の温度を40~80℃に調整してよい。酸処理工程における酸の温度の下限値は、例えば、45℃以上、50℃以上、又は60℃以上であってよい。第四工程における酸の温度の上限値は、75℃以下、又は70℃以下であってよい。第四工程における酸の温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、45~75℃、又は50~70℃であってよい。
【0058】
焼成体と酸性物質とを接触させる時間(酸処理時間)の下限値は、例えば、1.2時間以上、1.5時間以上、又は2.0時間以上であってよい。上記酸処理時間は、例えば、9.7時間以下、9.5時間以下、9.0時間以下、8.5時間以下、又は8.0時間以下であってよい。上記酸処理時間は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.2~9.7時間、又は2.0~8.0時間であってよい。
【0059】
酸処理後、六方晶窒化ホウ素粉末を水又は有機溶剤等で洗浄を行ってよい。洗浄終了後、例えば、デカンテーション、吸引ろ過機、加圧ろ過機、回転式ろ過機、沈降分離機又はこれらを組み合わせた装置を用いて洗浄液を固液分離してよい。分離した固形分を通常の乾燥機で乾燥して乾燥粉末を得てもよい。乾燥機は、例えば、棚式乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、回転型乾燥機、ベルト式乾燥機、及びこれらの組み合わせが挙げられる。乾燥後に、粗大粒子を除去するために、例えば篩による分級を行ってもよい。
【0060】
上述の製造方法は、第一工程、第二工程、第三工程及び第四工程の他に、その他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、例えば、上述の原料粉末の調製工程、原料粉末の脱水工程、原料粉末の加圧成型工程、第一及び第二の加熱処理物の粉砕工程、焼成体の粉砕工程、並びに、六方晶窒化ホウ素の粉砕工程等が挙げられる。上述の製造方法が原料粉末の加圧成型工程を有する場合、原料粉末が高密度に存在する環境で焼成を行うことができ、第一の工程及び第二の工程で得られる窒化ホウ素の収量をより向上させることができる。粉砕工程は、通常の粉砕装置を用いて行うことができる。なお、本明細書における粉砕工程には、粉砕の他、解砕も含まれるものとする。
【0061】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、いわゆる炭素還元法を応用した製造方法といえる。上述の製造方法によることで、一次粒子の平均粒径、粒子形状、及び比表面積が調製された、より均質な六方晶窒化ホウ素粉末を容易に得ることができる。得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は他の製法を用いた場合に比べて比表面積の調整が容易であるが、これは、上述の製法であれば肉厚な一次粒子が得られる傾向にあるためと推測する。
【0062】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料用の体質顔料として有用である。化粧料の一実施形態は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む。化粧料における六方晶窒化ホウ素粉末の含有量は、例えば、0.1~70質量%であってよい。化粧料は、六方晶窒化ホウ素粉末に加えて、顔料、その他の体質顔料を含んでもよい。その他の体質顔料は、例えば、タルク粉末及びマイカ粉末等が挙げられる。
【0063】
化粧料としては、例えば、ファンデーション(パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション)、フェイスパウダー、ポイントメイク、アイシャドー、アイライナー、マニュキュア、口紅、頬紅、及びマスカラ等が挙げられる。これらのうち、ファンデーション及びアイシャドーには、六方晶窒化ホウ素粉末が特に良く適合する。
【0064】
化粧料は公知の方法によって製造することができる。化粧料の製造方法の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素粉末と他の原料とを配合して混合する工程を有する。
【0065】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本開示について、実施例及び比較例を用いてより詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
ホウ酸(株式会社高純度化学研究所製)100質量部と、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS100)25質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合して混合粉末(原料粉末)を得た。得られた混合粉末を250℃の乾燥機に入れ、3時間保持することでホウ酸の脱水を行った。脱水後の混合粉末200gをプレス成型機の直径100Φの型に入れ、加熱温度:200℃及びプレス圧:30MPaの条件にて成型を行った。このようにして得られた原料粉末のペレットを以降の加熱処理に供した。
【0068】
まず、上記ペレットをカーボン雰囲気炉内に静置し、0.8MPaに加圧された窒素雰囲気において昇温速度:5℃/分で1730℃まで昇温し、1730℃にて3時間保持して上記ペレットの加熱処理を行い、第一の加熱処理物を得た(第一工程)。次に、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で1810℃まで更に昇温し、1810℃にて7時間保持して第一の加熱処理物を加熱処理し、第二の加熱処理物を得た(第二工程)。その後、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で2000℃まで更に昇温し、2000℃にて7時間保持して第二の加熱処理物を高温で焼成した(第三工程)。焼成後の緩く凝集した窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで解砕し、目開き:75μmの篩を通し、篩を通過した粉末を得た。
【0069】
次に、得られた粉末に対して、以下のように湿式処理を行った。上記粉末中に含まれる不純物を除くため、希硝酸(硝酸濃度:1質量%)500gに、上記粉末30gを投入し、室温で60分間攪拌した。攪拌後、吸引ろ過によって固液分離し、ろ液が中性になるまで水を入れ替えて、最終的に洗浄液の電気伝導度が1mS/m以下になるまで洗浄した。洗浄後、乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥して乾燥粉末を得た。当該乾燥粉末を実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末とした。
【0070】
<六方晶窒化ホウ素粉末の評価>
得られた六方晶窒化ホウ素粉末に対して、一次粒子の比表面積、全酸素量、アスペクト比、吸油量及び溶出ホウ素量を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
[一次粒子の比表面積]
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に記載の方法に準拠し、窒素ガスを使用してBET一点法により測定した。
【0072】
[全酸素量]
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の全酸素量は、酸素/窒素同時分析装置(堀場製作所社製、装置名:EMGA-920)を用いて測定した。具体的には、六方晶窒化ホウ素粉末を、ヘリウム雰囲気中、20℃から2500℃まで加熱しながら測定を行った。
【0073】
[アスペクト比]
3gの六方晶窒化ホウ素粉末をプレス成型機(例えば、株式会社リガク製、商品名:BRE-32)を用いて、5MPaの圧力で円盤状(直径:30mmφ)に成型し、得られた成型体を樹脂(例えば、GATAN社製、商品名:G2エポキシ)を用いて包埋した。次に、圧力をかけた方向と並行方向に断面ミリング加工を行うことで、六方晶窒化ホウ素粒子の断面が露出した試料を調製した。この断面を走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製、商品名:JSM-6010LA)によって撮影し、得られた粒子像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製、商品名:Mac-View)に取り込み、得られた写真から矩形粒子の短辺(粒子厚み、粒子短径に相当)を測定した。長径に関しては、成型物でなく、六方晶窒化ホウ素粉末を電子顕微鏡用試料台上カーボンテープの上にのせ、余分な粉末をエアスプレー等で除去したサンプルを走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製、商品名:JSM-6010LA)によって撮影し、得られた粒子像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製、商品名:Mac-View)に取り込み、得られた写真から長辺(粒子長径に相当)を算出し、先の短径と併せアスペクト比(長径/短径)を算出した。測定は、任意に選択した100個の一次粒子に対して行った。得られた長径短径比に基づいて累積分布を作成し、累積分布の平均値に相当する長径短径比を求め、これをアスペクト比とした。
【0074】
[吸油量]
六方晶窒化ホウ素粉末の吸油量は、JIS K 5101-13-1:2004「顔料試験方法-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法」に記載の方法に準拠して測定した。
【0075】
[溶出ホウ素量]
六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は、医薬部外品原料規格2006に準拠して測定した。
【0076】
<伸び性の評価>
人工皮膚(縦×横=10mm×50mm)の一端に、六方晶窒化ホウ素粉末0.2gを幅10mmに載せた。人工皮膚の表面に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り付けるように、ヘラを用いて六方晶窒化ホウ素粉末を縦方向に沿って伸ばした。市販の画像解析ソフトウェア(WinROOF)を用いて画像解析を行って、人工皮膚の全面積に対する、六方晶窒化ホウ素粉末の塗布面積の割合を求めた。この面積割合が大きいほど伸び性が優れている。伸び性の評価基準は、面積割合に応じて表1に示すとおりとした。伸び性の評価結果は表2に示すとおりであった。
【0077】
【0078】
(実施例2)
第二工程の焼成条件を、加熱温度1840℃、保持時間1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
(実施例3)
第三工程の焼成条件を、加熱温度1900℃、保持時間3時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(実施例4)
原料となる混合粉末に対して、当該混合粉末の全量を基準として、窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、商品名:窒化ホウ素粉MGP)を2質量%となるように更に追加したこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(比較例1)
ホウ酸粉末(純度99.8質量%以上、関東化学株式会社製)100.0g、及びメラミン粉末(純度99.0質量%以上、富士フイルム和光純薬社製)90.0gを、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合し混合粉末を得た。乾燥後の混合粉末を、六方晶窒化ホウ素製の容器に入れ、電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1000℃に昇温した。1000℃で2時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。このようにして、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得た。
【0082】
仮焼物100.0gに、助剤として炭酸ナトリウム(純度99.5質量%以上)3.0gを添加し、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合した。得られた混合物を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1700℃に昇温した。1700℃の焼成温度で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、六方晶窒化ホウ素を含む粗粉を得た。
【0083】
次に、上記粗粉中に含まれる不純物を除くため、希硝酸(硝酸濃度:5質量%)500gに、上記粗粉30gを投入し、室温で60分間攪拌した。攪拌後、吸引ろ過によって固液分離し、ろ液が中性になるまで水を入れ替えて、最終的に洗浄液の電気伝導度が1mS/m以下になるまで洗浄した。洗浄後、乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥して乾燥粉末を得た。当該乾燥粉末を比較例1の六方晶窒化ホウ素粉末とした。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例2)
第一工程及び第三工程の窒素雰囲気における圧力を0.05Maとし、第二工程を実施せず、第三工程の焼成温度を2020℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
(比較例3)
仮焼物の焼成条件を、加熱温度1550℃、保持時間20時間に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
(比較例4)
仮焼物の焼成条件を、加熱温度1660℃とし、助剤を炭酸カルシウム3.0gに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示によれば、化粧料用の原料に適する六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供できる。